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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】電動アシスト台車
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20220523BHJP
   B62B 3/02 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
B62B3/00 G
B62B3/02 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021005089
(22)【出願日】2021-01-15
【審査請求日】2021-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】591099773
【氏名又は名称】株式会社大阪タイユー
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田林 義一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 實雄
【審査官】林 政道
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188043(JP,A)
【文献】特開2005-289081(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2012-0001845(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 1/00- 5/08
A61B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
前記基台の左側に配置される左駆動輪と、前記左駆動輪を回転駆動する左駆動機構と、
前記基台の右側に配置される右駆動輪と、前記右駆動輪を回転駆動する右駆動機構と、
前記基台の後方左側に配置される左ハンドルと、
前記基台の後方右側に配置される右ハンドルと、
前記左ハンドルに配備され、前記左ハンドルに作用する押圧力を検知する左押圧力検出手段と、
前記右ハンドルに配備され、前記右ハンドルに作用する押圧力を検知する右押圧力検出手段と、
前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力に基づいて前記左駆動機構及び前記右駆動機構を制御する制御手段と、
を具える電動アシスト台車であって、
前記制御手段は、
初期状態から、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、前記左駆動機構及び前記右駆動機構を回転駆動させず
前記左駆動機構及び前記右駆動機構が回転駆動した後は、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合であっても、押圧力に応じた駆動電圧で駆動機構を駆動させる、
ことを特徴とする電動アシスト台車。
【請求項2】
前記制御手段は、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力をゼロと判定する、
請求項1に記載の電動アシスト台車。
【請求項3】
前記制御手段は、前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力を繰り返し測定しており、前記左駆動機構及び前記右駆動機構は、測定された1又は複数回の前記押圧力の平均又は移動平均に対応した出力となるよう制御する、
請求項1又は請求項2に記載の電動アシスト台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザーのハンドル操作による押圧力を電動駆動力で補助する電動アシスト台車に関するものであり、より具体的には、片手操作による意図しない方向への移動を阻止できる電動アシスト台車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
台車の左右の駆動輪に夫々独立した駆動モーターを連繋し、ユーザーがハンドルを操作したときの押力、引張力に、電動駆動力を付加する電動アシスト台車が知られている。たとえば、特許文献1では、左右のハンドルに夫々外力を検知するセンサーを具備し、センサーに入力された押力又は引張力に応じて左右の駆動モーターを駆動して、駆動輪の回転補助を行なうようにしている。
【0003】
上記電動アシスト台車10では、図7(a)に示すように、前進直進時には、左右のハンドル20L,20Rを均等な押力FL、FRを加えればよく、後進直進時は、図8(a)に示すように、均等な引張力BL、BRを加えればよい。一方で、前進しながら右曲がりする場合には、図7(b)に示すように、左ハンドル20Lへの押力FLを右ハンドル20Rの押力FRに比べて大きくすることで、左駆動モーター26Lの出力が右駆動モーター26Rの出力に比べて大きくなり、電動アシスト台車10は右曲がり前進する。左曲がり前進はその逆である(図7(c)参照)。後進しながら左曲がりするには、図8(b)に示すように、左ハンドル20Lへの引張力BLを右ハンドル20Rの引張力BRに比べて大きくする。右曲がり後進はその逆である(図8(c)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】登録実用新案第3220906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電動アシスト台車が近くにあって邪魔な場合、一方のハンドルを掴んで押しやることがある。また、電動アシスト台車をユーザー側に引き寄せたい場合、一方のハンドルを掴んで引っ張ることがある。アシスト機能のない通常の台車では、左ハンドル20Lのみに押力FLを加えたときに、台車は図10(a)に示すような軌跡を描き移動する。また、左ハンドル20Lのみに引張力BLを加えたときに、台車は図10(b)に示すような軌跡Tを描き移動する。このように、台車はその押し方向又は引っ張り方向に応じた方向に移動する。
【0006】
しかしながら、電動アシスト台車の場合、通常の台車と同じように操作すると、一方のハンドルに加わる押力又は引張力により、一方の駆動輪のみに駆動力が加わって、電動アシスト台車が旋回し、ユーザーの意図しない方向に移動してしまう。たとえば、前輪駆動の電動アシスト台車について、図11(a)は左ハンドル20Lのみに押力FLを加えたとき、図11(b)は左ハンドル20Lのみに引張力BLを加えた状態を示している。これらの場合、力を加えた方向FL,BL(図中白矢印)に拘わらず、左ハンドル20Lには黒矢印方向への押力又は引張力として作用する。左ハンドル20Lのみが押力又は引張力を受けた結果、電動アシスト台車10は、左駆動輪24Lのみが駆動して矢印Tの方向に旋回する。このような動作は、通常の台車とは異なるため、ユーザーが電動アシスト台車に引っ張られ、或いは、押されてしまい、人や物と電動アシスト台車が衝突等する可能性もある。
【0007】
本発明の目的は、一方のハンドルのみに押力又は引張力を加えたときに駆動輪が駆動しない電動アシスト台車を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電動アシスト台車は、
基台と、
前記基台の左側に配置される左駆動輪と、前記左駆動輪を回転駆動する左駆動機構と、
前記基台の右側に配置される右駆動輪と、前記右駆動輪を回転駆動する右駆動機構と、
前記基台の後方左側に配置される左ハンドルと、
前記基台の後方右側に配置される右ハンドルと、
前記左ハンドルに配備され、前記左ハンドルに作用する押圧力を検知する左押圧力検出手段と、
前記右ハンドルに配備され、前記右ハンドルに作用する押圧力を検知する右押圧力検出手段と、
前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力に基づいて前記左駆動機構及び前記右駆動機構を制御する制御手段と、
を具える電動アシスト台車であって、
前記制御手段は、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、前記左駆動機構及び前記右駆動機構を回転駆動しない。
【0009】
前記制御手段は、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力をゼロと判定する。
【0010】
前記制御手段は、前記左押圧力検出手段と前記右押圧力検出手段に作用する押圧力を繰り返し測定しており、前記左駆動機構及び前記右駆動機構は、前記判定された1又は複数回の前記押圧力の平均又は移動平均に対応した出力となるよう制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電動アシスト台車によれば、一方のハンドルに作用する押圧力が閾値を超えるが、他方のハンドルに作用する押圧力が閾値以下の場合、左右の駆動機構を作動させない。故に、ユーザーが通常の台車のように、一方のハンドルを押し、或いは、引っ張ってしまっても、駆動機構は作動しないから、意図しない電動アシスト台車の旋回を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電動アシスト台車の左側面図である。
図2図2は、電動アシスト台車の背面図である。
図3図3は、電動アシスト台車の要部平面図である。
図4図4は、図1の丸囲み部IVのハンドルの拡大図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る電動アシスト台車の制御ブロック図である。
図6図6は、各押圧力検出手段の出力の不感帯を示すグラフである。
図7図7は、電動アシスト台車の前進走行(a)~(c)を示している。
図8図8は、電動アシスト台車の後進走行(a)~(c)を示している。
図9図9は、電動アシスト台車の旋回走行(a)及び(b)を示している。
図10図10は、通常の台車の左ハンドルに押力を加えたときの台車の動き(a)、引張力を加えたときの台車の動き(b)を示している。
図11図11は、本発明の避けることのできる電動アシスト台車の旋回走行(a)及び(b)を示している。
図12図12は、本発明の一実施例に係るフローチャートである。
図13図13は、後輪が駆動輪の電動アシスト台車に対して、本発明で避けることのできる旋回走行を示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る電動アシスト台車10について、図面を参照しながら説明を行なう。なお、以下の実施形態では、本発明の電動アシスト台車10を、ドラム缶Dを把持し、運搬、反転等するドラム缶取扱機に適用した例について説明するが、ドラム缶Dの把持機構等については詳細を省略する。
【0014】
図1乃至図3に示すように、本発明の電動アシスト台車10は、一実施形態として、基台11の前方左右、後方左右に夫々車輪24L,24R,25L,25Rを配置している。図示の実施形態は、左右の前輪が駆動輪24L,24Rであり、夫々駆動機構となる駆動モーター26L,26Rとローラーチェーン28L,28Rを介して連繋されている。なお、駆動輪は後輪25L,25Rであってもよい。
【0015】
基台11の後方には支柱12L,12Rが立設されており、左ハンドル20Lが左側の支柱12L、右ハンドル20Rが右側の支柱12Rに配置されている。ハンドル20L,20Rは、ユーザーが掴んで押力、引張力(これらを含めて「押圧力」と称する)を加えて操作する操作部である。図示の実施形態では、ハンドル20L,20Rは、基台11に立設された左右2本の支柱12L,12Rから後方に向けて突設された概略コ字状の取付フレーム13L,13Rに取り付けられている。
【0016】
ハンドル20L,20Rには、ハンドル20L,20Rに作用する押圧力を検出する押圧力検出手段が配備される。本実施形態では、押圧力検出手段はロードセル22L,22Rとすることができる。左ハンドル20Lには左ロードセル22L、右ハンドル20Rには右ロードセル22Rが配備されている。ロードセル22L,22Rは、引張・圧縮型のものを採用することができ、ひずみゲージ式、磁歪式、静電容量式、ジャイロ式のものを例示できる。なお、押圧力検出手段は、力を電気信号に変換可能なセンサーであれば、ロードセルに限定されるものではなく、たとえば、バネを用いたセンサー、ピエゾ式センサー、変位センサーなどであってもよい。
【0017】
具体的実施形態として、ハンドル20L,20Rは、図4に拡大して示すように、ユーザーが掴むグリップ部21L,21Rとロードセル22L,22Rを含む。取付フレーム13L,13Rには、台座プレート14が装着されており、台座プレート14にロードセル22L,22Rが載置される。グリップ部21L,21Rは、支持プレート15に設けられており、支持プレート15と台座プレート14でロードセル22L,22Rを挟み込んでいる。然して、ユーザーがハンドル20L,20Rに押圧力を加えると、押力の場合はロードセル22L,22Rが圧縮され、引張力の場合はロードセル22L,22Rが引っ張られ、その出力は後述する変換器23L,23Rに送信される。
【0018】
図5は、本発明の電動アシスト台車10の制御ブロックを示す図である。図に示すように、電動アシスト台車10の制御は、制御手段30により実行される。たとえば、制御手段30は、図2に示す制御ボックス31に配置される。制御手段30にはメモリを含み、本発明の電動アシスト台車10の制御に必要なプログラムが予め格納されている。なお、図示しないが、これらの電源は、基台11に搭載されるバッテリー等から供給される。
【0019】
より詳細には、制御手段30には、上記した左駆動輪24Lを駆動する左駆動モーター26Lが、左モータードライバー27Lを介して接続される。また、右駆動輪24Rを駆動する右駆動モーター26Rが、右モータードライバー27Rを介して接続される。モータードライバー27L,27Rは、制御ボックス31(図2参照)に配置できる。
【0020】
また、上記したロードセル22L,22Rも、図5に示すように、変換器23L,23Rを介して制御手段30に接続される。変換器23L,23Rはロードセル22L,22Rに電源5Vを印加しており、図6に示すようにロードセルが無負荷の時には2.5Vを出力する。ハンドル20L,20Rに加えられる押力、引張力がP1~-P1の範囲内は不感帯域の設定がなされ、P1~-P1に達すると最小駆動電圧を出力する。押力又は引張力と駆動電圧は比例し、押力が最大の+FSのとき、駆動電圧4.9Vを出力し、引張力が最大の-FSの時、駆動電圧0.1Vを出力する。この駆動電圧はモータードライバー27L,27Rにより駆動モーターの回転方向を決定すると同時に駆動モーター26L,26Rに比例出力され、後述する図7乃至図9に示すように、電動アシスト台車10が走行する。
【0021】
なお、ハンドル20L,20Rに作用する押圧力と、駆動モーター26L,26Rに供給される電圧を単純比例させることもできる。しかしながら、押圧力が微小である場合には、駆動モーター26L,26Rの電圧も小さいから、電動アシスト台車10は走行せずにガタガタ揺れ動くのみとなる。また、外乱等により基準電圧からずれた微小な電圧信号が制御手段30に入力されて、電動アシスト台車10が自走してしまうこともある。そこで、図6に示すように、ロードセル22L,22Rからの押力又は引張力に対して変換器23L,23Rに不感帯を設けることが好適であり、不感帯域を超える押力又は引張力(P1~+FS、-P1~-FS)が加えられた場合のみ、モータードライバー27L,27Rに電圧印加できる。
【0022】
なお、モータードライバー27L,27Rから駆動モーター26L,26Rに印加される電圧は、押圧力に直接比例した電圧値とすると、押圧力の微小変動により、駆動モーター26L,26Rの回転ががたついてしまう。このため、実際に駆動モーター26L,26Rに印加する電圧は、制御手段30において1又は複数回検出された押圧力の平均、或いは、移動平均等とすることが望ましい。
【0023】
上記構成の電動アシスト台車10は、ユーザーUが左右のハンドル20L,20Rを掴んで、押圧力を加えることで、図7乃至図9に示すように走行する。
【0024】
図7は、電動アシスト台車10の前進走行、図8は、後進走行、図9は、旋回走行である。ユーザーUが左ハンドル20Lに作用させる押力をFL、引張力をBL、右ハンドル20Rに作用させる押力をFR、引張力をBRとして図中に矢印で示している。矢印の長さは、加えられる力の大きさを簡略的に示している。また、駆動モーター26L,26Rによる左駆動輪24L、右駆動輪24Rの前進方向の回転をLf、Rf、後進方向の回転をLb、Rbとし、図中に矢印で示している。矢印の長さは、回転トルクの大きさを簡略的に示している。また、電動アシスト台車10の走行方向を矢印F(前進側)、B(後進側)、T(旋回)で示す。
【0025】
図7を参照すると、図8(a)では、ユーザーUが左右のハンドル20L,20Rに略同じ大きさの押力FL、FRを作用させている。その結果、ロードセル22L,22Rから変換器23L,23Rを介して略同じ大きさの電気信号が入力され、当該電気信号に比例した電圧をモータードライバー27L,27Rは左右の駆動モーター26L,26Rに印加する。そして、駆動輪24L,24Rを前進回転させ(Lf、Rf)、電動アシスト台車10は前進Fする。左右のハンドル20L,20Rに作用する押力FL、FRに差があると、図7(b)、(c)に示すように、電動アシスト台車10は、右曲がり前進F、左曲がり前進Fする。
【0026】
後進についても同様であり、図8(a)では、ユーザーUが左右のハンドル20L,20Rに略同じ大きさの引張力BL、BRを作用させている結果、駆動輪24L,24Rを後進回転させ(Lb、Rb)、電動アシスト台車10は後進Bする。左右のハンドル20L,20Rに作用する引張力BL、BRに差があると、図8(b)、(c)に示すように、電動アシスト台車10は、夫々左曲がり後進B、右曲がり後進Bする。
【0027】
一方で、左右のハンドル20L,20Rに加えられる押圧力の向きが逆の場合、電動アシスト台車10は旋回Tする。具体的には、図9(a)に示すように、左ハンドル20Lに押力FL、右ハンドル20Rに引張力BRを加えると、左駆動輪24Lは前進回転Lfし、右駆動輪24Rは後進回転Rbするから、電動アシスト台車10は右旋回Tする。逆に、左ハンドル20Lに引張力BL、右ハンドルに押力FRを加えると、左駆動輪24Lは後進回転Lbし、右駆動輪24Rは前進回転Rfするから、電動アシスト台車10は左旋回Tする。
【0028】
上記のとおり、ユーザーUが左右のハンドル20L,20Rを正しく掴んで、操作する場合ではなく、たとえば、電動アシスト台車10が邪魔な位置にあり、これを引き寄せ、或いは、押しやるような操作では、ユーザーUは、通常の台車のように、一方のハンドル20L,20Rを押し或いは引っ張ってしまうことがあるが、アシスト機能のない通常の台車では押手に加えられた押力が図10(a)に示すように、或いは、引張力が図10(b)に示すように、夫々見合った軌跡Tで台車は移動するのに対して、電動アシスト台車10では、一方のハンドル20L又は20Rのみに押圧力が加わると、一方の駆動輪24L又は24Rのみが回転して、電動アシスト台車10がユーザーUの意図しない方向に旋回してしまうことがある。図11(a)は左ハンドル20Lのみに押力FLを加えた状態、図11(b)は左ハンドル20Lのみに引張力BLを加えた状態を示している。これらの場合、左駆動輪24Lのみが駆動して、電動アシスト台車10は矢印Tの方向に旋回するから、ユーザーUが電動アシスト台車10に引っ張られ、或いは、押されてしまい、人や物と電動アシスト台車が衝突等する可能性もある。
【0029】
本発明は、図11に示すような意図しない電動アシスト台車10の旋回を避けるものである。
【0030】
上記を達成するために、制御手段30は、一方のハンドル20L,20Rに作用し、ロードセル22L,22Rで検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、駆動モーター26L,26Rを回転駆動させないようにする。具体的には、一方のロードセル22L,22Rから変換器23L,23Rを介して出力される電気信号の絶対値(図6の場合、基準電圧との差分の絶対値)が所定の閾値を超えるが、他方から出力される電気信号の絶対値が所定の閾値の場合、駆動モーター26L,26Rを回転駆動させない。すなわち、これらの場合には、モータードライバー27L,27Rを介して駆動モーター26L,26Rに電圧を印加しない構成である。
【0031】
たとえば、制御手段30は、左右のロードセル22L,22Rから変換器23L,23Rを介して入力される電気信号を共にゼロと判定し、ハンドル20L,20Rには押圧力が作用していないものと見做せばよい。
【0032】
これにより、ユーザーUが誤って一方のハンドル20L又は20Rのみを押し或いは引っ張っても、駆動モーター26L,26Rは駆動しないから、ユーザーUの意図しない電動アシスト台車10の旋回T(図10参照)は阻止できる。
【0033】
図12は、上記一方のハンドル20L又は20Rのみに押圧力を加えても、駆動モーター26L,26Rを作動させない処理を実行するフローチャートの一例である。以下では、左右のハンドル20L,20Rに作用する押圧力が所定の閾値を超えるか、閾値以下であるかによって判定を行なうが、実際には、押圧力に比例した電気信号で制御手段30は判定を行なう。なお、図11のとおり、電動アシスト台車10が起動している間は、ステップS2~S14を繰り返し実行する。
【0034】
まず、初期状態では、ステップS1に示すように、左右のハンドル20L,20Rのロードセル22L,22Rからの押圧力をゼロに初期値設定する。
【0035】
続いて、所定のサイクルタイムが経過するまで待機し(ステップS2)、左右の押圧力を測定する(ステップS3)。押圧力は、各ハンドル20L,20Rのロードセル22L,22Rから出力される。実際には、制御手段30は、ロードセル22L,22Rから出力され、変換器23L,23Rを介して入力される押圧力に比例した電気信号から左右の押圧力を判定する。
【0036】
そして、まず、ユーザーUの操作が、右ハンドル20Rだけであるか否かを判定する(ステップS4~S7)。具体的には、メモリに記憶された前回の右押圧力(絶対値)が閾値以下(ステップS4のYES)であって、今回測定された右押圧力(絶対値)が閾値を超え(ステップS5のYES:すなわち右ハンドル20Rに閾値を超える押圧力あり)、他方、今回測定された左押圧力(絶対値)が閾値以下の場合(ステップS6のYES:すなわち左ハンドル20Lに閾値(絶対値)を超える押圧力なし)である。この場合、右ハンドル20Rへの押圧力の入力はあるが、左ハンドル20Lへの押圧力の入力はない(閾値以下)から、制御手段30は、左右のハンドル20L,20Rへの押圧力をゼロと判定する(ステップS7)。この後、ステップS12に移行する。
【0037】
上記ステップS4~S6の何れかがNOの場合、ステップS8に進む。ステップS8~S11は、ユーザーUの操作が、左ハンドル20Lだけであるか否かを判定するステップである。具体的には、メモリに記憶された前回の左押圧力(絶対値)が閾値以下(ステップS8のYES)であって、今回測定された左押圧力(絶対値)が閾値を超え(ステップS9のYES:すなわち左ハンドル20Lに閾値を超える押圧力あり)、他方、今回測定された右押圧力(絶対値)が閾値以下の場合(ステップS10のYES:すなわち右ハンドル20Rに閾値を超える押圧力なし)である。この場合、左ハンドル20Lへの押圧力の入力はあるが、右ハンドル20Rへの押圧力の入力はない(閾値以下)から、制御手段30は、左右のハンドル20L,20Rへの押圧力をゼロと判定する(ステップS11)。この後、ステップS12に移行する。
【0038】
一方、ステップS8~10の何れかがNOの場合、すなわち、左右のハンドル20L,20Rの今回又は前回の押圧力(絶対値)が左右共に閾値を超えている場合、言い換えると、前回測定の左右の押圧力(絶対値)が閾値を超えているか(ステップS4のNO、S8のNO)、今回の左右の押圧力(絶対値)の両方が閾値を超えている場合には(ステップS6、S8のNO)、左右の押圧力は、ステップS3で測定された値が保持されて、ステップS12に移行する。
【0039】
ステップS12では、制御手段30は、左右の押圧力を記憶する。具体的には、ステップS7、S11の場合は左右の押圧力はゼロ、すなわち、左右のハンドル20L,20Rへの押圧力の入力なしとして記憶される。また、前段落の場合は、左右の押圧力は、ステップS3で測定された値が記憶される。
【0040】
続いて、制御手段30は、記憶された押圧力、たとえば、前回と今回の押圧力から左右の駆動モーター26L,26Rに印加するモーター駆動電圧を計算する(ステップS13)。このステップは、左右の各押圧力の平均とすることができるが、たとえば、複数回の押圧力を記憶して、その平均や移動平均としても構わない。
【0041】
そして、ステップS13で算出された左右のモーター駆動電圧の信号を、制御手段30は左右の各モータードライバー27L,27Rに出力する(ステップS14)。これにより、各モータードライバー27L,27Rから駆動モーター26L,26Rに電圧が印加され、駆動モーター26L,26Rが駆動する。
【0042】
なお、ステップS7、S11で左右の押圧力がゼロと判定された場合、すなわち、前回及び今回測定された左右の一方又は両方のハンドル20L,20Rへの押圧力の入力が閾値以下である場合には、モータードライバー27L,27Rへの印加電圧はゼロとなる。従って、一方のハンドル20L又は20Rだけに押圧力が加えられても、駆動モーター26L,26Rは駆動せず、駆動輪24L,24Rは回転しないから、ユーザーUの意図しない電動アシスト台車10の旋回は阻止できる。
【0043】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0044】
たとえば、電動アシスト台車10の構成やハンドル20L,20Rの構成、制御ブロックの構成は一例であって、本発明を限定するものではない。また、図5の制御ブロックは、本発明を説明するための機能ブロックであって、当該機能は、1又は複数のブロックから形成することができ、また、プログラム等により実行することができることは勿論である。
【0045】
上記実施形態では、前輪駆動の電動アシスト台車10に本発明を適用し、図11に示すように、本発明により避けることのできる台車の旋回移動を説明した。同様に、従前の後輪駆動(駆動輪を符号24L,24Rで示す)の電動アシスト台車10に対して、一方のハンドルのみに押力又は引張力を加えた場合、前輪駆動とは進行方向が異なるが、図13に示すような軌跡Tで旋回移動する。なお、図13は、左ハンドル20Lに引張力BLを加えた例を示す。このような後輪駆動の電動アシスト台車10についても、本発明を適用することで、図13に示すような台車の旋回移動を阻止することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 電動アシスト台車
20L,20R ハンドル
22L,22R ロードセル(押圧力検出手段)
24L,24R 駆動輪
26L,26R 駆動モーター(駆動機構)
30 制御手段
【要約】
【課題】本発明は、一方のハンドルのみに押力又は引張力を加えたときに駆動輪が駆動しない電動アシスト台車を提供する。
【解決手段】本発明に係る電動アシスト台車10は、基台の左右に配置される駆動輪24L,24Rと、各駆動輪を回転駆動する駆動機構26L,26Rと、前記基台の後方に配置される左ハンドル20Lと、右ハンドル20Rと、を具え、前記左ハンドルに配備され、前記左ハンドルに作用する押圧力を検知する左押圧力検出手段23Lと、前記右ハンドルに配備され、前記右ハンドルに作用する押圧力を検知する右押圧力検出手段23Rと、制御手段30と、を具える電動アシスト台車であって、前記制御手段は、前記左押圧力検出手段又は前記右押圧力検出手段の一方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値を超えるが、他方で検出される押圧力の絶対値が所定の閾値以下の場合、前記左駆動機構及び前記右駆動機構を回転駆動しない。
【選択図】図10
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13