(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】交絡延伸糸用処理剤の希釈液、及び交絡延伸糸の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/188 20060101AFI20220523BHJP
D02J 1/00 20060101ALI20220523BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20220523BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20220523BHJP
D06M 13/292 20060101ALI20220523BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
D06M13/188
D02J1/00 K
D06M13/224
D06M13/256
D06M13/292
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2021007229
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2020117184
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻本 雄介
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-204164(JP,A)
【文献】国際公開第2008/056645(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/024647(WO,A1)
【文献】特開平03-213576(JP,A)
【文献】特開平05-148763(JP,A)
【文献】特開2000-080563(JP,A)
【文献】特開2009-185438(JP,A)
【文献】特開2004-211222(JP,A)
【文献】国際公開第2002/004332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00-15/715
D01F1/00-6/96
9/00-9/04
D01D1/00-13/02
D02G1/00-3/48
D02J1/00-1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
界面活性剤を含む交絡延伸糸用処理剤、及び揮発性希釈剤を含有する交絡延伸糸用処理剤の希釈液であって、
前記交絡延伸糸用処理剤中に、水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂が配合されていないものであって、
前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
前記希釈液中における前記交絡延伸糸用処理剤及び前記水の含有割合の合計を100質量%とすると、前記交絡延伸糸用処理剤を35質量%を超え且つ94質量%未満、及び前記水を6質量%を超え且つ65質量%未満の割合で含有しており、
前記界面活性剤がイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを含有し、
前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、
前記非イオン性界面活性剤が、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物、カルボン酸類とアルコール類とのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、及び天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、
前記交絡延伸糸用処理剤中に前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤を合計で70質量%以上100質量%以下含有し、
前記交絡延伸糸用処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記非イオン性界面活性剤を80質量%以上99.9質量%以下、及び前記イオン性界面活性剤を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有することを特徴とする交絡延伸糸用処理剤の希釈液。
(ただし、前記交絡延伸糸用処理剤が熱硬化性樹脂を含む態様を除く。)
【請求項2】
界面活性剤を含む交絡延伸糸用処理剤、及び揮発性希釈剤を含有する交絡延伸糸用処理剤の希釈液であって、
前記交絡延伸糸用処理剤中に、水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂が配合されていないものであって、
前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、
前記希釈液中における前記交絡延伸糸用処理剤及び前記水の含有割合の合計を100質量%とすると、前記交絡延伸糸用処理剤を35質量%を超え且つ94質量%未満、及び前記水を6質量%を超え且つ65質量%未満の割合で含有しており、
更に、平滑剤を含有し、前記界面活性剤がイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを含有し、
前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、
前記非イオン性界面活性剤が、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物、カルボン酸類とアルコール類とのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、及び天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、
前記平滑剤が、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、天然油脂、及び鉱物油(揮発性希釈剤として用いられるものを除く)から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、
前記交絡延伸糸用処理剤中に前記平滑剤を30質量%以上70質量%以下含有し、
前記交絡延伸糸用処理剤中における前記平滑剤、前記非イオン性界面活性剤、及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30質量%以上80質量%以下、前記非イオン性界面活性剤を5質量%以上69.9質量%以下、及び前記イオン性界面活性剤を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有することを特徴とする交絡延伸糸用処理剤の希釈液。
(ただし、前記交絡延伸糸用処理剤が熱硬化性樹脂を含む態様を除く。)
【請求項3】
30℃での動粘度が、10~1000mm
2/sである請求項1又は2に記載の交絡延伸糸用処理剤の希釈液。
【請求項4】
合成繊維を紡糸し、延伸する紡糸延伸工程、及び巻取する巻取工程を有する一連の紡糸延伸巻取工程において、
前記紡糸延伸工程で得た延伸糸に対して、前記紡糸延伸工程後と前記巻取工程前との間の位置に、
請求項1~3のいずれか一項に記載の交絡延伸糸用処理剤の希釈液を付与する付与工程と、交絡処理を行う交絡工程とを有することを特徴とする交絡延伸糸の製造方法。
【請求項5】
前記付与工程において、前記交絡延伸糸用処理剤の希釈液を、前記延伸糸に対し、交絡延伸糸用処理剤として0.1~3.0質量%の割合で付与する請求項4に記載の交絡延伸糸の製造方法。
【請求項6】
前記紡糸延伸工程における延伸前の糸に対する合成繊維用処理剤の付着量が、0.2質量%未満である請求項4又は5に記載の交絡延伸糸の製造方法。
【請求項7】
前記巻取工程における延伸糸の巻取速度が、3500m/分以上である請求項4~6のいずれか一項に記載の交絡延伸糸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交絡延伸糸用処理剤の希釈液、及び交絡延伸糸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、交絡延伸糸は、交絡延伸糸の原料樹脂を熱で溶融して紡糸し、延伸する紡糸延伸工程、延伸された繊維を交絡する交絡工程、交絡された繊維を巻き取る巻取工程を行なうことにより製造される。
【0003】
交絡延伸糸の製造工程において、繊維の集束性等を向上させるために、交絡延伸糸用処理剤の希釈液が用いられることがある。
特許文献1には、ポリエステル繊維の製造方法について、界面活性剤成分を12重量%含む延伸糸用処理剤の希釈液としてのエマルジョン型油剤を、加熱延伸後の繊維に付着させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紡糸延伸工程において、延伸の前に希釈液を付着させると、紡糸延伸工程において繊維が延伸される際に、加熱ローラーの熱が希釈液の気化に奪われるため、エネルギー効率が低下する虞があった。また、延伸の後に希釈液を付着させると、一般的に延伸後は糸速度が速いため、希釈液を効率良く付着させることが難しくなる虞がある。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、エネルギー効率の低下を抑制しながら効率良く延伸糸に付着させることを可能にした交絡延伸糸用処理剤の希釈液を提供することにある。また、この交絡延伸糸用処理剤の希釈液を用いた交絡延伸糸の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための交絡延伸糸用処理剤の希釈液は、界面活性剤を含む交絡延伸糸用処理剤、及び揮発性希釈剤を含有する交絡延伸糸用処理剤の希釈液であって、前記交絡延伸糸用処理剤中に、水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂が配合されていないものであって、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、前記希釈液中における前記交絡延伸糸用処理剤及び前記水の含有割合の合計を100質量%とすると、前記交絡延伸糸用処理剤を35質量%を超え且つ94質量%未満、及び前記水を6質量%を超え且つ65質量%未満の割合で含有しており、前記界面活性剤がイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを含有し、前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、前記非イオン性界面活性剤が、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物、カルボン酸類とアルコール類とのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、及び天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、前記交絡延伸糸用処理剤中に前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤を合計で70質量%以上100質量%以下含有し、前記交絡延伸糸用処理剤中における前記非イオン性界面活性剤及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記非イオン性界面活性剤を80質量%以上99.9質量%以下、及び前記イオン性界面活性剤を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有することを要旨とする。(ただし、前記交絡延伸糸用処理剤が熱硬化性樹脂を含む態様を除く。)
上記課題を解決するための交絡延伸糸用処理剤の希釈液は、界面活性剤を含む交絡延伸糸用処理剤、及び揮発性希釈剤を含有する交絡延伸糸用処理剤の希釈液であって、前記交絡延伸糸用処理剤中に、水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂が配合されていないものであって、前記揮発性希釈剤が、水を含むものであり、前記希釈液中における前記交絡延伸糸用処理剤及び前記水の含有割合の合計を100質量%とすると、前記交絡延伸糸用処理剤を35質量%を超え且つ94質量%未満、及び前記水を6質量%を超え且つ65質量%未満の割合で含有しており、更に、平滑剤を含有し、前記界面活性剤がイオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを含有し、前記イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、前記非イオン性界面活性剤が、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物、カルボン酸類とアルコール類とのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、及び天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、前記平滑剤が、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、天然油脂、及び鉱物油(揮発性希釈剤として用いられるものを除く)から選ばれる少なくとも1つを含むものであり、前記交絡延伸糸用処理剤中に前記平滑剤を30質量%以上70質量%以下含有し、前記交絡延伸糸用処理剤中における前記平滑剤、前記非イオン性界面活性剤、及び前記イオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、前記平滑剤を30質量%以上80質量%以下、前記非イオン性界面活性剤を5質量%以上69.9質量%以下、及び前記イオン性界面活性剤を0.1質量%以上20質量%以下の割合で含有することを要旨とする。(ただし、前記交絡延伸糸用処理剤が熱硬化性樹脂を含む態様を除く。)
上記交絡延伸糸用処理剤の希釈液は、30℃での動粘度が、10~1000mm2/sであることが好ましい。
【0008】
上記課題を解決するための交絡延伸糸の製造方法は、合成繊維を紡糸し、延伸する紡糸延伸工程、及び巻取する巻取工程を有する一連の紡糸延伸巻取工程において、前記紡糸延伸工程で得た延伸糸に対して、前記紡糸延伸工程後と前記巻取工程前との間の位置に、上記交絡延伸糸用処理剤の希釈液を付与する付与工程と、交絡処理を行う交絡工程とを有することを要旨とする。
【0009】
上記交絡延伸糸の製造方法は、前記付与工程において、前記交絡延伸糸用処理剤の希釈液を、前記延伸糸に対し、交絡延伸糸用処理剤として0.1~3.0質量%の割合で付与することが好ましい。
【0010】
上記交絡延伸糸の製造方法は、前記紡糸延伸工程における延伸前の糸に対する合成繊維用処理剤の付着量が、0.2質量%未満であることが好ましい。
上記交絡延伸糸の製造方法は、前記巻取工程における延伸糸の巻取速度が、3500m/分以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の交絡延伸糸用処理剤の希釈液、及び交絡延伸糸の製造方法によると、エネルギー効率の低下を抑制しながら効率良く延伸糸に希釈液を付着させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
本発明に係る交絡延伸糸用処理剤の希釈液(以下、単に希釈液ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の希釈液は、界面活性剤を含有する交絡延伸糸用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)が揮発性希釈剤によって希釈されており、紡糸延伸された合繊繊維(以下、単に延伸糸ともいう。)に対して適用される。希釈液は、処理剤中に水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂をそれぞれ5質量%以上含有しないものである。
【0014】
また、希釈液中における処理剤及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、処理剤を30質量%以上且つ94質量%未満、及び揮発性希釈剤を6質量%を超え且つ70質量%以下の割合で含有している。
【0015】
本発明では、揮発性希釈剤が、水を含むものであり、希釈液中における交絡延伸糸用処理剤及び水の含有割合の合計を100質量%とすると、交絡延伸糸用処理剤を35質量%を超え且つ94質量%未満、及び水を6質量%を超え且つ65質量%未満の割合で含有している。
【0016】
また、交絡延伸糸用処理剤が熱硬化性樹脂を含む態様を除く。
延伸糸に対して希釈液を適用することにより、エネルギー効率の低下を抑制することができる。また、希釈液が、処理剤中に水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂をそれぞれ5質量%以上含有しないものであることにより、希釈液の安定性が良好になる。また、後加工における毛羽を好適に抑制することができる。また、希釈液中における処理剤及び揮発性希釈剤が上記含有割合であることにより、希釈液中の処理剤の濃度が好適なものとなるため、処理剤を効率良く延伸糸に付着させることができる。
【0017】
本発明の希釈液は、処理剤中に、水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂が配合されていない。
希釈液中における処理剤及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、処理剤を35~70質量%、及び揮発性希釈剤を30~65質量%の割合で含有することが好ましい。
【0018】
上記希釈液は、30℃での動粘度が、10~1000mm2/sであることが好ましい。希釈液の動粘度が上記数値範囲であることにより、後述のように、希釈液のオイルドロップをより効果的に抑制することができる。そして、処理剤をより効率良く延伸糸に付着させることができる。上記希釈液は、30℃での動粘度が、20mm2/s以上であることがより好ましく、また500mm2/s以下であることがより好ましい。
【0019】
揮発性希釈剤の具体例としては、例えば水、有機溶剤、低粘度鉱物油等が挙げられる。有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルエーテル、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、クロロホルム等が挙げられる。低粘度鉱物油の具体例としては、30℃における動粘度が5mm2/s以下の鉱物油が挙げられ、より具体的には、炭素数11~13のパラフィン、炭素数12のパラフィン、炭素数13~15のパラフィン、炭素数14のパラフィン等が挙げられる。揮発性希釈剤は、取り扱い性に優れるため、水を含むものであることが好ましい。これらの揮発性希釈剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
ここで、揮発性希釈剤は、105℃で2時間熱処理した際に、完全に揮発する材料を意味するものとする。希釈液中の処理剤の割合は、例えば希釈液の試料をシャーレに10g採取し、105℃で2時間熱処理した際に、残存した試料の質量の割合から算出できる。
【0021】
界面活性剤の具体例としては、例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性化合物としての両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)酢酸塩、オクチル酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、(2)オクチルリン酸エステル塩、ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(4)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、ペンタデカンスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸(C13~15)塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩等の有機スルホン酸塩、(5)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(6)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(7)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(8)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(9)オクチル酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。
【0023】
上述したアニオン界面活性剤を構成する対イオンとしてはアルカリ金属塩、アミン塩等が挙げられる。アルカリ金属塩の具体例としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。アミン塩の具体例としては、例えば、(1)メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N-N-ジイソプロピルエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、2-メチルブチルアミン、トリブチルアミン、オクチルアミン、ジメチルラウリルアミン等の脂肪族アミン、(2)アニリン、N-メチルベンジルアミン、ピリジン、モルホリン、ピペラジン、これらの誘導体等の芳香族アミン類又は複素環アミン、(3)モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジブチルエタノールアミン、ブチルジエタノールアミン、オクチルジエタノールアミン、ラウリルジエタノールアミン等のアルカノールアミン、(4)N-メチルベンジルアミン等のアリールアミン、(5)ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンステリルアミノエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルアミノエーテル、(6)アンモニア等が挙げられる。
【0024】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0025】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤の種類は、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させた化合物、カルボン酸類とアルコール類とのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、天然油脂にアルキレンオキサイドを付加させた化合物等が挙げられる。
【0026】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0027】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0028】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1~60モル、より好ましくは1~40モル、さらに好ましくは2~30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0029】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0030】
非イオン性界面活性剤の原料として用いられる天然油脂の具体例としては、ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等が挙げられる。
他にも非イオン性界面活性剤として、(1)ステアリン酸ジエタノールアミド、ジエタノールアミンモノラウロアミド等のアルキルアミド型非イオン性界面活性剤、(2)ポリオキシエチレンジエタノールアミンモノオレイルアミド、ポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシエチレン牛脂アミン等のポリオキシアルキレン脂肪酸アミド型非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0031】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、例えばポリオキシエチレン(10モル)アルキル(炭素数12,13)エーテル、ポリオキシエチレン(20モル)硬化ひまし油エーテル、ポリオキシエチレン(9モル)アルキル(炭素数12~14)エーテル、ポリオキシエチレン(5モル)アルキル(炭素数12~14)エーテル、ポリオキシエチレン(13モル)ポリオキシプロピレン(9モル)ブチルエーテル、ポリオキシエチレン(55モル)ポリオキシプロピレン(43モル)トリメチロールプロパンエーテル、ポリオキシエチレン(15モル)ポリオキシプロピレン(10モル)アルキル(炭素数16,18)エーテル等が挙げられる。
【0032】
上記界面活性剤は、イオン性界面活性剤を含有し、イオン性界面活性剤が、脂肪酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、両性化合物、及び第4級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。
【0033】
上記界面活性剤が更に非イオン性界面活性剤を含有し、処理剤中における非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、非イオン性界面活性剤を80~99.9質量%、及びイオン性界面活性剤を0.1~20質量%の割合で含有することが好ましい。
【0034】
希釈液は、更に、平滑剤を含有し、界面活性剤が更に非イオン性界面活性剤を含有し、処理剤中における平滑剤、非イオン性界面活性剤、及びイオン性界面活性剤の含有割合の合計を100質量%とすると、平滑剤を30~80質量%、非イオン性界面活性剤を5~69.9質量%、及びイオン性界面活性剤を0.1~20質量%の割合で含有することが好ましい。
【0035】
上記平滑剤は、エステル及び鉱物油(揮発性希釈剤として用いられるものを除く)から選ばれる少なくとも一つを含むものであることが好ましい。
平滑剤として使用されるエステルとしては、特に制限はなく、例えば、(1)オクチルパルミタート、オレイルラウラート、ラウリルオレアート、オレイルオレアート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)1,6-ヘキサンジオールジデカノエート、グリセリントリオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、ペンタエリスリトールテトラオクタノエート、ソルビタンモノオレアート等の、脂肪族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(3)ジオレイルアゼラート、チオジプロピオン酸ジオレイル、チオジプロピオン酸ジイソセチル、チオジプロピオン酸ジイソステアリル等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族多価カルボン酸とのエステル化合物、(4)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート等の、芳香族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(5)ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族多価アルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(6)ビス2-エチルヘキシルフタラート、ジイソステアリルイソフタラート、トリオクチルトリメリタート等の、脂肪族モノアルコールと芳香族多価カルボン酸とのエステル化合物、(7)ヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、魚油及び牛脂等の天然油脂等が挙げられる。その他、交絡延伸糸用処理剤に採用されている公知の平滑剤等を使用してもよい。
【0036】
平滑剤の具体例としては、例えば、鉱物油(30℃での動粘度:47mm2/s)、ラウリルオレアート、オクチルパルミタート、グリセリントリオレアート、ソルビタンモノオレアート等が挙げられる。
【0037】
上記の平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
(第2実施形態)
本発明に係る交絡延伸糸の製造方法を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の交絡延伸糸の製造方法は、合成繊維を紡糸し、延伸する紡糸延伸工程、及び巻取する巻取工程を有する一連の紡糸延伸巻取工程において、紡糸延伸工程で得た延伸糸に対して、紡糸延伸工程後と巻取工程前との間の位置に、第1実施形態の交絡延伸糸用処理剤の希釈液を付与する付与工程と、交絡処理を行う交絡工程とを有する。
【0038】
第1実施形態の希釈液を、延伸糸に付与する方法としては、例えば計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
交絡延伸糸に用いられる合成繊維としては、特に限定されないが、例えばポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、セルロース系繊維、リグニン系繊維等が挙げられる。これらの繊維は、2種以上から成る複合合成繊維であってもよい。ポリエステル系繊維の具体例としては、例えばポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらポリエステル系樹脂を含有して成る複合ポリエステル系繊維等が挙げられる。さらにポリエステル系繊維としては、塩基性又は酸性可染性ポリエステル繊維、帯電防止性ポリエステル繊維、難燃性ポリエステル繊維等の改質ポリエステル繊維等が適用されてもよい。ポリオレフィン系繊維の具体例としては、例えばポリエチレン繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリブテン系繊維が挙げられる。さらにポリプロピレン系繊維としては、種々の単量体を共重合した改質ポリプロピレン繊維、ポリエチレンとポリプロピレンとの複合ポリプロピレン繊維等が適用されてもよい。なかでも、ポリエステル系繊維に用いられる場合に、本発明の希釈液の効果がより良く発揮される。
【0039】
交絡延伸糸の製造方法は、下記の工程1~5を経ることが好ましい。
工程1:交絡延伸糸の原料樹脂を加熱して溶融し、溶融紡糸する紡糸工程。
工程2:前記工程1で得られた繊維を紡糸延伸する延伸工程。
【0040】
工程3:紡糸延伸された延伸糸に対して、第1実施形態の希釈液を付与する付与工程。
工程4:前記工程3を経た延伸糸に対して交絡処理を行う交絡工程。
工程5:前記工程4を経た交絡延伸糸をワインダーに巻き取る巻取工程。
【0041】
なお、上記工程1と工程2を合わせて、紡糸延伸工程というものとする。また、上記工程1、工程2、及び工程5を合わせて、一連の紡糸延伸巻取工程というものとする。
上記延伸工程では、例えば加熱した引取ローラー(以下、第1ローラーともいう。)と、加熱した延伸ローラー(以下、第2ローラーともいう。)からなる2つのローラーを用いて、両ローラーの周速差によって延伸する方法を採用することができる。
【0042】
紡糸延伸工程における延伸前の糸に対する合成繊維用処理剤の付着量は、0.2質量%未満であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。すなわち、延伸前の糸には、第1実施形態の処理剤も含めて、合成繊維用処理剤が付着していないことが好ましい。
【0043】
延伸工程を経た延伸糸の糸速度は、特に限定されないが、糸速度3500m/分以上であることが好ましい。すなわち、巻取工程における延伸糸の巻取速度が、3500m/分以上であることが好ましい。かかる高速で走行する糸条に対しても付着性を低下させることがないため、効率的に希釈液を付与することができ、効率的に糸条の生産を行うことができる。
【0044】
上記付与工程では、交絡延伸糸用処理剤の希釈液を、延伸糸に対し、交絡延伸糸用処理剤として0.1~3.0質量%の割合で付与することが好ましい。
上記交絡工程では、工程3を経た延伸糸をワインダーに巻き取る前に、繊維の進行方向に対して垂直方向からエアを吹き付けて、フィラメント同士を交絡させるインターレース加工(以下、I/L工程ともいう。)を供することが好ましい。
【0045】
本実施形態の希釈液、及び交絡延伸糸によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の希釈液は、界面活性剤を含む交絡延伸糸用処理剤、及び揮発性希釈剤を含有する。希釈液中における交絡延伸糸用処理剤及び揮発性希釈剤の含有割合の合計を100質量%とすると、交絡延伸糸用処理剤を30質量%以上且つ94質量%未満、及び揮発性希釈剤を6質量%を超え且つ70質量%以下の割合で含有している。また、希釈液は、処理剤中に水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂をそれぞれ5質量%以上含有しないものである。
【0046】
延伸糸に対して希釈液を付着させることにより、エネルギー効率の低下を抑制することができる。さらに、加熱斑を抑制することができるため、延伸糸の染色性を良好にすることができ、糸品質の向上を図ることができる。また、希釈液が、処理剤中に水酸化アルミニウム、ポリエチレンイミン、及びポリウレタン樹脂をそれぞれ5質量%以上含有しないものであることにより、希釈液の安定性が良好になる。また、後加工における毛羽を好適に抑制することができる。
【0047】
(2)希釈液中の処理剤の濃度が低いと、I/L工程のエアで希釈液が飛散しやすくなる。また、希釈液中の処理剤の濃度が高いと、希釈液の塗布装置から希釈液が繊維に塗布されることなく落下する、所謂、オイルドロップが発生しやすくなる。本実施形態の希釈液は、希釈液中の処理剤の濃度が好適であるため、I/L工程での希釈液の飛散、及び希釈液の塗布装置におけるオイルドロップを抑制することができる。したがって、処理剤を効率良く延伸糸に付着させることができる。
【0048】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、延伸工程の後においてのみ、希釈液を延伸糸に付着させていたが、この態様に限定されない。本発明の効果を阻害しない範囲内において、延伸工程の後に希釈液を延伸糸に付着させることに加えて、延伸工程の前にも希釈液を付着させてもよい。
【0049】
・本実施形態では、延伸工程の後、巻取工程の前に希釈液を延伸糸に付着させていたが、この態様に限定されない。巻取工程の後に希釈液を延伸糸に付着させてもよい。
・本実施形態において、延伸工程は、第1ローラーと第2ローラーの2つのローラーを用いて行われていたが、この態様に限定されない。3つ以上のローラーを用いて延伸が行われてもよい。また、延伸用のローラーとは別に、移送用のローラーが用いられていてもよい。すなわち、延伸工程は、3つ以上のローラーを用いて行われていてもよい。3つ以上のローラーが用いられている態様では、最後尾のローラーを通過した延伸糸に対して本実施形態の希釈液を付着させることが好ましい。
【0050】
・交絡工程は、付与工程の前に行ってもよい。すなわち、紡糸延伸工程を経た延伸糸に対して交絡処理を行う交絡工程の後に、延伸後巻取前の間の位置で合成繊維用処理剤の希釈液を付与する付与工程を行なってもよい。
【0051】
・本実施形態において、交絡延伸糸用処理剤は平滑剤を含有していたが、この態様に限定されない。平滑剤は省略されていてもよい。
・本実施形態の希釈液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤又は希釈液の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)等の通常処理剤又は希釈液に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0053】
試験区分1(交絡延伸糸用処理剤の希釈液の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、平滑剤(A-1)が30質量%、平滑剤(A-2)が30質量%、平滑剤(A-5)が10質量%、非イオン性界面活性剤(B-1)が6質量%、非イオン性界面活性剤(B-2)が5質量%、非イオン性界面活性剤(B-4)が10質量%、イオン性界面活性剤(C-1)が4質量%、イオン性界面活性剤(C-2)が4質量%、イオン性界面活性剤(C-3)が1質量%となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合し、交絡延伸糸用処理剤(P-1)を調製した。
【0054】
交絡延伸糸用処理剤に使用する平滑剤の種類、比率、及び合計比率、非イオン性界面活性剤の種類、比率、及び合計比率、イオン性界面活性剤の種類、比率、及び合計比率は、表1の「平滑剤」欄、「非イオン性界面活性剤」欄、及び「イオン性界面活性剤」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0055】
【表1】
(平滑剤)
A-1:鉱物油(30℃での動粘度:47mm
2/s)
A-2:ラウリルオレアート
A-3:オクチルパルミタート
A-4:グリセリントリオレアート
A-5:ソルビタンモノオレアート
(非イオン性界面活性剤)
B-1:ポリオキシエチレン(10モル)アルキル(炭素数12,13)エーテル
B-2:ポリオキシエチレン(20モル)硬化ひまし油エーテル
B-3:ポリオキシエチレン(9モル)アルキル(炭素数12~14)エーテル
B-4:ポリオキシエチレン(5モル)アルキル(炭素数12~14)エーテル
B-5:ポリオキシエチレン(13モル)ポリオキシプロピレン(9モル)ブチルエーテル
B-6:ポリオキシエチレン(55モル)ポリオキシプロピレン(43モル)トリメチロールプロパンエーテル
B-7:ポリオキシエチレン(15モル)ポリオキシプロピレン(10モル)アルキル(炭素数16,18)エーテル
(イオン性界面活性剤)
C-1:酢酸カリウム塩
C-2:ポリオキシエチレン(3モル)ラウリルエーテルリン酸エステルカリウム塩
C-3:ペンタデカンスルホン酸ナトリウム塩
(その他成分)
R-1:水酸化アルミニウム
R-2:ポリエチレンイミン
R-3:ポリウレタン樹脂
(揮発性希釈剤)
D-1:イオン交換水
D-2:炭素数11~13のパラフィン
次に、交絡延伸糸用処理剤(P-1)を撹拌しながら、イオン交換水(D-1)を徐々に添加し、交絡延伸糸用処理剤(P-1)が45質量%、イオン交換水が55質量%となるように混合して実施例1の交絡延伸糸用処理剤の希釈液を調製した。
【0056】
(実施例2~4、6~11、13、15、参考例5、12、14、及び比較例1~7)
実施例2~4、6~11、13、15、参考例5、12、14、及び比較例1~7の希釈液は、表1、2に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0057】
なお、各例の希釈液中における交絡延伸糸用処理剤の種類と比率、揮発性希釈剤の種類と比率は、表2の「交絡延伸糸用処理剤」欄、及び「揮発性希釈剤」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0058】
【表2】
試験区分2(交絡延伸糸の製造)
試験区分1で調製した交絡延伸糸用処理剤の希釈液を用いて、交絡延伸糸を製造した。
【0059】
まず、工程1として、ポリエステル繊維を溶融紡糸した。具体的には、固有粘度0.64、酸化チタン含有量0.2%のポリエチレンテレフタラートのチップを常法により乾燥した後、溶融押出し機(エクストルーダー)を用いて295℃で溶融紡糸した。溶融紡糸した繊維を空気中で冷却して固化した。
【0060】
次に、工程2として、溶融紡糸した繊維をガイドで集束させて、80℃に加熱した第1ローラーに巻き掛けて、1500m/分の糸速度で引き取った。次いで、130℃に加熱した第2ローラーに巻き掛けて、4500m/分の糸速度となるように回転させることによって、第1ローラーと第2ローラーとの間で3倍に延伸した。
【0061】
次に、工程3として、試験区分1で作製した交絡延伸糸用処理剤の希釈液を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて、延伸糸に付与した。具体的には、希釈液の塗布装置として給油ガイドを用いた。給油ガイドは、走行中の繊維が接触するガイド本体を有しており、ガイド本体には吐出孔(給油ノズル)が設けられている。この吐出孔から本実施形態の希釈液が吐出されて繊維に付着するように構成されている。付与工程では、交絡延伸糸用処理剤の付着量が表2の目標処理剤付着量(質量%)となるように付与した。なお、上記給油ガイドは、紡糸された糸が延伸された後で、且つ巻き取られる前の位置で希釈液を付与する紡糸装置と言い換えることができる。
【0062】
なお、比較例3、4では、延伸工程の後に付与工程を行なうことに代えて、延伸工程の前に付与工程を行なった。
次に、工程4として、交絡延伸糸用処理剤の希釈液が付着した延伸糸に対して、インターレースノズル(以下、I/Lノズルともいう。)からエアを吹き位付けて、I/L工程を行った。工程5として、I/L工程を行った繊維をワインダーに巻き取った。得られた交絡延伸糸は、83.3デシテックス(75デニール)36フィラメントのポリエステル繊維であった。
【0063】
各例の給油条件における給油ノズルの位置、給油時糸速度、及び目標処理剤付着量は、表2の「給油ノズルの位置」欄、「給油時糸速度」欄、及び「目標処理剤付着量」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0064】
試験区分3(評価)
実施例1~4、6~11、13、15、参考例5、12、14、及び比較例1~7の交絡延伸糸用処理剤の希釈液について、希釈液安定性、I/Lノズル付近での飛散、給油ガイドにおけるオイルドロップ、交絡延伸糸に対する付着性、処理剤を付着させた交絡延伸糸の染色性、及び第1ローラーにおけるエネルギー効率、後加工における毛羽の有無を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表2の“希釈液安定性”、“I/Lでの飛散”、“オイルドロップ”、“付着性”、“染色性”、“エネルギー効率”、“後加工毛羽”欄に示す。また、希釈液の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて30℃の条件下で公知の方法によって測定した。
【0065】
(希釈液安定性)
試験区分1で作製した希釈液を、30℃の環境下で静置して、24時間後の外観を目視で観察した。以下の基準で希釈液の安定性を評価した。
【0066】
・希釈液安定性の評価基準
○(良好):調製時と同様に均一で、透明である場合
×(不良):濁り、粒子状物、又は、沈殿物が観察された場合
(I/Lでの飛散)
試験区分2の工程4において、I/Lノズル付近で認められる希釈液の飛散量を目視で観察し、以下の基準で評価した。
【0067】
・I/Lでの飛散の評価基準
◎(良好):飛散が認められない場合
〇(可):僅かに飛散が認められた場合
×(不良):かなりの飛散が認められた場合
(オイルドロップ)
試験区分2の工程3において、給油ガイドのガイド本体から供給された希釈液が、繊維に付着せずに滴下する頻度を目視で観察し、1分間あたりの滴下回数として以下の基準で評価した。
【0068】
・オイルドロップの評価基準
◎(良好):0回
〇(可):1~2回
×(不良):3回以上
(付着性)
試験区分2の工程5で得られたポリエステル繊維に対し、交絡延伸糸用処理剤の付着量を測定し、目標の付着量どおりに付着した場合を100%として以下の基準で評価した。
【0069】
・付着性の評価基準
◎(良好):95%以上
〇(可):85%以上、95%未満
×(不良):85%未満
なお、交絡延伸糸用処理剤の付着量は、付与工程の前後における延伸糸の単位長さ当たりの質量を測定するとともに、希釈液中の交絡延伸糸用処理剤の含有割合を元に算出した。
【0070】
(染色性)
試験区分2の工程5で得られたポリエステル繊維を用いて、筒編み機で直径70mm、長さ1.2mの編地を作製した。作製した編地を分散染料を用いて高圧染色法により染色した。染色した編地を常法(例えば特開2015-124443号公報)に従い水洗、還元洗浄、及び乾燥した。直径70mm、長さ1mの鉄製の筒に装着し、編地表面を目視で観察して、濃染部分の点数を数えた。同様の評価を5回行い、各回で数えた濃染部分の点数の平均値を以下の基準で評価した。平均値の小数点以下は四捨五入した。なお、濃染部分は、加熱ムラに起因して生じるため、染色性の評価によって熱履歴のムラを評価した。
【0071】
・染色性の評価基準
◎(良好):0点
〇(可):1~2点
×(不良):3点以上
(エネルギー効率)
試験区分2の工程2における第1ローラーの温度条件を変更し、上記染色性の評価における「◎」を満たすための最低温度を検証した。最低温度が低いほど、エネルギー効率が良好であるとして、以下の基準で評価した。
【0072】
・エネルギー効率の評価基準
◎(良好):78℃以下の場合
〇(可):78℃を超えて、84℃以下の場合
×(不良):84℃を超える場合
(後加工毛羽)
試験区分2で得られた交絡延伸糸のパッケージを、整経機を模したミニチュア整経機に10本仕立て、後加工として、25℃×65%RHの雰囲気下で、糸速度600m/分で24時間巻き取った。このときの巻き取り直前に、毛羽計数装置(東レエンジニアリング社製の商品名DT-105)にて毛羽数を4時間測定し、以下の評価基準で後加工毛羽を評価した。
【0073】
・後加工毛羽の標記基準
◎(良好):4時間での毛羽数が0~2個の場合
○(可):4時間での毛羽数が3~9個の場合
×(不良):4時間での毛羽数が10個以上の場合
表2の結果から、本発明によれば、I/Lでの飛散やオイルドロップを抑制して、付着性を向上させることができる。そのため、交絡延伸糸用処理剤を効率良く延伸糸に付着させることができる。また、加熱ムラを抑制することより、染色性を良好にすることができる。また、糸品質を良好にするためのエネルギー効率が良好なものとなる。また、希釈液安定性が良好であるとともに、後加工における毛羽を好適に抑制することができる。