(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
C01F11/18 D
(21)【出願番号】P 2021175456
(22)【出願日】2021-10-27
【審査請求日】2021-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391009187
【氏名又は名称】株式会社白石中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】毛塚 雄己
(72)【発明者】
【氏名】吉田 麻弥
(72)【発明者】
【氏名】江口 健一郎
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特表2021-507863(JP,A)
【文献】特開2005-281925(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0170178(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム水スラリーを原料として、炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させる炭酸カルシウム粒子成長工程を少なくとも含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、
該炭酸カルシウム粒子成長工程において、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を
、該炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が100ppm以上31000ppm以下となるように、該炭酸カルシウム水スラリー中に添加することを特徴とする、前記炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
該物質が、非晶質シリカ、水ガラス、石英、トリジマイト、クリストバライト、長石、珪藻土およびケイ酸エチルからなる群より選択される1種以上である、請求項
1に記載の製造方法。
【請求項3】
該炭酸カルシウム粒子成長工程が、50~210℃の温度で行われる、請求項
1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウム(CaCO3)は、各種工業製品の基材や填料として用いられるほか農業や食品の分野でも広く利用されている。炭酸カルシウムは、水酸化カルシウムの水溶液に二酸化炭素を吹き込むことや、塩化カルシウム等の可溶性カルシウム塩水溶液と炭酸ナトリウム等の可溶性炭酸塩水溶液を混合させることで製造される。一方、石灰石(CaCO3)を焼成し脱炭酸して得られた生石灰(CaO)を水と反応させて石灰乳(CaOH2の水懸濁液)を得、石灰乳に焼成時に得られた二酸化炭素を導入して、液中で炭酸カルシウムを製造する白石法が広く知られている。
【0003】
炭酸カルシウムは、主に無機充填材として、紙、ゴム、シーリング材料、プラスチック等に適用されている。炭酸カルシウムは、たとえば、紙に充填することで、紙の白色度や不透明度を向上させたり、ゴムに添加することで、ゴムの力学的強度や耐摩耗性を改善したりすることができる。また炭酸カルシウムをシーリング材料に添加することで、シーリング材料の粘度やチキソ性(チクソ性)を調整することができ、炭酸カルシウムをプラスチックに添加すると、プラスチックの力学的強度の向上や熱特性の調整を行うことができる。このように、炭酸カルシウムの各種用途に応じた所望の粒子径やBET比表面積、ならびに所望の結晶形を有するものを作り分ける試みが多数行われている。特許文献1は、塗工紙または水系歯科用填剤あるいは各種充填剤として使用すべく、水ガラスまたはシリカゾルの存在下水酸化カルシウム懸濁液に炭酸ガスを導入して紡錘型炭酸カルシウムを製造する方法を提案する。また非特許文献1には、シリカの存在下で炭酸カルシウムを結晶成長させることにより、粗大粒子の形成やカルサイト単結晶の結晶成長を阻害することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭58-115022号公報
【文献】Geochimica et Cosmochimica Acta 74(2010) 2655-2664
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法は、炭酸カルシウムの製造方法として従来から知られている、水酸化カルシウム水溶液に二酸化炭素を吹き込む方法において、炭酸カルシウムの表面を改質する方法である。一方、非特許文献1には、炭酸カルシウムの結晶成長において、シリカを存在させることにより巨大粒子の生成を抑制することができることが開示されているが、所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを意図的に得る方法については開示されていない。
【0006】
そこで本発明は、特に制御された形状を有し、かつ所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、炭酸カルシウム水スラリーを原料として、炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させる炭酸カルシウム粒子成長工程を少なくとも含む、炭酸カルシウムの製造方法にかかる。炭酸カルシウム粒子成長工程において、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を炭酸カルシウム水スラリー中に添加することを特徴とする。
【0008】
本発明における炭酸カルシウム粒子成長工程において、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が100ppm以上となるように添加することができる。
【0009】
また、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質は、非晶質シリカ、水ガラス、石英、トリジマイト、クリストバライト、長石、珪藻土およびケイ酸エチルからなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
本発明における炭酸カルシウム粒子成長工程は、50~210℃の温度で行われることができる。
さらに本発明における炭酸カルシウム粒子成長工程は、pH8~11で行われることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、菱面体等に制御された形状を有し、所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを、意図的かつ効率的に製造する新規の方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【
図2】
図2は、実施例2で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【
図3】
図3は、実施例3で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【
図4】
図4は、実施例4で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【
図5】
図5は、比較例1で製造された炭酸カルシウムの電子顕微鏡写真(倍率80000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではない。
【0013】
本発明の実施形態は、炭酸カルシウム水スラリーを原料として、炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させる炭酸カルシウム粒子成長工程を少なくとも含む、炭酸カルシウムの製造方法である。本実施形態の概略は、原料となる炭酸カルシウム水スラリーから粒子を成長させることにより、所望の形状やBET比表面積を有する炭酸カルシウムを得る方法、すなわちオストワルド熟成に関連した製造方法である。なお、本明細書において、粒子の成長あるいは結晶成長の過程を、「エージング」と表記することもある。
【0014】
本実施形態において、原料として使用する炭酸カルシウム水スラリーに分散している炭酸カルシウム、ならびに、製造される炭酸カルシウムとは、組成式CaCO3で表されるカルシウムの炭酸塩であり、貝殻、鶏卵の殻、石灰岩、白亜などの主成分である。炭酸カルシウムは、石灰石を粉砕、分級して得られる重質炭酸カルシウム(天然炭酸カルシウム)と化学反応により得られる軽質炭酸カルシウム(合成炭酸カルシウム)とに分類されるが、本実施形態で原料として使用する炭酸カルシウム水スラリーに分散している炭酸カルシウムは、それらのいずれであっても良い。また炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形のうち、いずれのものを使用しても良い。原料炭酸カルシウムの粒子径(電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径)は、いかなるのでも良いが、好ましくは20~500nm、さらに好ましくは30~100nmのものを使用することができる。また、原料炭酸カルシウムのBET比表面積(日本工業規格JIS Z 8830)はいかなるものでも良いが、本実施形態により所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを製造するためには、2~50m2/g程度のBET比表面積を有する炭酸カルシウムが水に分散した炭酸カルシウムを用いるのが好適である。
【0015】
実施形態において、炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させる炭酸カルシウム粒子成長工程は、好ましくは以下のように行う。まず、炭酸カルシウムが水に分散した、炭酸カルシウム水スラリーを用意する。本明細書で炭酸カルシウム水スラリーとは、炭酸カルシウムが水に懸濁または分散した水懸濁液(あるいは水分散体)のことである。炭酸カルシウム水スラリーを得るには、炭酸カルシウムと水とを混合し、撹拌機による撹拌や超音波を利用した撹拌など、従来から行われている方法を適宜行うことができる。また、従来から知られている白石法により製造した炭酸カルシウム水スラリーをそのまま用いることもできる。
実施形態において、炭酸カルシウムの再結晶を行うにあたり、用意した炭酸カルシウム水スラリーのpHをやや低下させて、炭酸カルシウムを溶解させる工程があっても良い。炭酸カルシウム水スラリーのpHを低下させるには、たとえば、気体の炭酸カルシウム水スラリーに気体の二酸化炭素を添加すること、あるいは各種酸性物質を添加することにより行うことができる。
【0016】
炭酸カルシウム水スラリーに気体の二酸化炭素を添加する方法は、特に制限されない。撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水スラリーを撹拌しながら気体の二酸化炭素を導通させ、炭酸カルシウム水スラリーのpHを5.5~11.0程度に調整することができる。
【0017】
一方、炭酸カルシウム水スラリーに添加する酸性物質として、炭酸水、塩酸、硫酸、リン酸、臭化水素酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸を挙げることができる。これらの酸性物質は、単独で用いても任意の2種以上を用いても良い。炭酸カルシウム水スラリーに添加する酸性物質は、気体、液体、固体のいずれの形状のものでも良いが、液体または固体の状態の酸性物質を添加することが特に好ましい。撹拌機等を用いて炭酸カルシウム水スラリーを撹拌しながら、これらの酸性物質を添加し、炭酸カルシウム水スラリーのpHを5.5~11.0に調整することができる。
【0018】
これらの酸性物質が水に溶解して炭酸カルシウム水スラリーが酸性側に傾くことにより、炭酸カルシウムが溶解する。すなわち、炭酸カルシウム水スラリー中に含まれている比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムの少なくとも一部は水に溶解する。一方、比較的粒子径の大きい炭酸カルシウムは、少なくともその周囲部が溶解して、粒子径が若干減少した炭酸カルシウムとなる。なお、この段階で、炭酸カルシウムのすべてが溶解してしまわないように、炭酸カルシウム水スラリーのpHを調整することが非常に好ましい。
【0019】
実施形態において、炭酸カルシウム水スラリーには、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を存在させることができる。ここでアルカリ環境下とは、pHが8.0~14.0の範囲の環境であることを意味する。アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質とは、アルカリ性の溶液中で、オルトケイ酸イオン、二ケイ酸イオン、イノケイ酸イオン等の縮合ケイ酸イオン、三員環ソロケイ酸イオン、六員環ソロケイ酸イオン等の環状ケイ酸イオン等を含むケイ酸イオンを生成する物質のことを云う。アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質として、たとえば、非晶質シリカ、水ガラス、石英、トリジマイト、クリストバライト、長石、珪藻土およびケイ酸エチルからなる群より選択される物質を挙げることができる。アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質は、これらの物質の中から1種以上を用いることができる。アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を炭酸カルシウム水スラリーに添加してから炭酸カルシウム水スラリーのpHを5.5~9.0に調整することができ、炭酸カルシウム水スラリーのpHを5.5~9.0に調整してからアルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を添加することもできる。
【0020】
アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を炭酸カルシウム水スラリーに添加すると、上記のような炭酸カルシウム水スラリー中に上記のようなケイ酸イオンが存在することになる。ケイ酸イオンは炭酸カルシウム粒子の表面付近に存在し、後述する炭酸カルシウムの粒子の成長を抑制する。炭酸カルシウムの粒子の成長を制御して、所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを得るためには、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が100ppm以上となるように添加することが非常に好ましい。一般に、炭酸カルシウムの粒子の成長時にケイ酸イオンの濃度が高いと、得られる炭酸カルシウムの粒子径が小さくなり、ケイ酸イオンの濃度が低いと、得られる炭酸カルシウムの粒子径が大きくなる傾向が見られる。そこで、本実施形態では、得られる炭酸カルシウムのBET比表面積を制御するために、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が100ppm以上となる範囲で、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を添加することが好ましい。炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度は、100ppm以上100000ppm以下、好ましくは200ppm以上50000ppm以下、さらに好ましくは400ppm以上30000ppm以下とすることができる。
【0021】
次いで、ケイ酸イオンを存在させた炭酸カルシウム水スラリーから炭酸カルシウムの粒子を成長させる。炭酸カルシウムの粒子を成長させるには、炭酸カルシウム水スラリーを静置することにより行う。炭酸カルシウム水スラリーを静置しておくと、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが徐々に結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水スラリー中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。
あるいは、炭酸カルシウム水スラリーのpHを徐々に上昇させることにより炭酸カルシウムの粒子を成長させても良い。炭酸カルシウム水スラリーのpHを上昇させるには、炭酸カルシウム水スラリーを静置する、炭酸カルシウム水スラリーを撹拌する、炭酸カルシウム水スラリーを減圧する、炭酸カルシウム水スラリーを昇温する、および炭酸カルシウム水スラリーに塩基性物質を添加する等の方法を採り得る。先の工程で添加した酸性物質が二酸化炭素のような気体の場合は、炭酸カルシウム水スラリーを静置しているだけでも徐々に酸性物質が水から蒸発していくため、炭酸カルシウム水スラリーのpHは上昇する。このような場合であっても、炭酸カルシウム水スラリーのpHをより効率的に上昇させるには、炭酸カルシウム水スラリーを撹拌したり、減圧したり、昇温したり、塩基性物質を添加したりするのが良い。一方、炭酸カルシウム水スラリーに添加した酸性物質が液体または固体の場合は、pHの上昇を促進すべく、炭酸カルシウム水スラリーを撹拌したり、減圧したり、昇温したり、炭酸カルシウム水スラリーに塩基性物質を添加するのが好ましい。炭酸カルシウム水スラリーを緩やかに撹拌しながら、減圧、昇温、塩基性物質の添加等の他の方法を追加で行うことが非常に好ましい。なお炭酸カルシウム水スラリーを昇温させる場合、室温(25℃)よりは高い温度、具体的には約50℃~210℃、好ましくは約70℃~150℃、さらに好ましくは80℃~130℃の範囲になるように昇温させるのが好ましい。すなわち、炭酸カルシウムの粒子の成長工程全般は、系が50℃~210℃の範囲の温度になるように行うことが好ましい。また炭酸カルシウム水スラリーを減圧する場合、大気圧未満~102Pa、好ましくは大気圧未満~1×105Pa程度の圧力にまで減圧することが好ましい。また、炭酸カルシウム水スラリーに添加することができる塩基性物質として、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の無機塩基、アミン類、ピリジン類等の有機塩基およびこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0022】
炭酸カルシウム水スラリーのpHを上昇させる場合、pHは11.0程度にまで上昇させれば良い。pHを上昇させる過程で、先の工程で溶解した炭酸カルシウムが徐々に結晶化していく。この際、炭酸カルシウム水スラリー中に残っていた粒子に集まるように凝集して再結晶していく現象が見られ、略立方体状、略直方体状あるいは略菱面体状の粒子が形成される。このように炭酸カルシウムの粒子の成長を、pH8.0~11.0の間で行うことが重要である。なお、実施形態の製造方法において、炭酸カルシウム水スラリーのpHを低下させる工程と、炭酸カルシウム水スラリーのpHを上昇させる工程とを繰り返して炭酸カルシウムの粒子を成長させることにより、所望のBET比表面積および所望の結晶形を有する炭酸カルシウムを製造することもできる。
【0023】
本実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムは、合成炭酸カルシウムである。上記の通り、炭酸カルシウムは、カルサイト結晶(三方晶系菱面体晶)、アラゴナイト結晶(直方晶系)、バテライト結晶(六方晶)等の結晶多形を有するが、本実施形態で製造される炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有することが好ましい。カルサイト結晶は、一般に方解石として産出される結晶の形状であり、他の結晶形と比較すると常温常圧で最も安定である。本実施形態で得られる炭酸カルシウムは、カルサイト構造を有し、BET比表面積は2~50m2/gであることが好ましい。BET比表面積は、物質に、吸着占有面積のわかった気体分子(窒素等)を吸着させ、その量を測定することにより求めることができる。炭酸カルシウムのBET比表面積は、日本工業規格JIS Z 8830「ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法」にしたがい測定することができる。実施形態で得られる炭酸カルシウムのBET比表面積は、2~60m2/gであることが好ましく、より好ましくは5~50m2/g、さらに好ましくは8~45m2/gである。また、実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムは、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径が25nm~500nmであることが好ましい。粒子径の測定方法にはいくつかの方法が知られているが、本明細書では、電子顕微鏡を用いて粒子を直接観察および計測し、個数基準による粒子径分布から算出した平均粒子径の値を用いる。平均粒子径が25~500nmの炭酸カルシウムとは、ナノオーダーサイズの粒子径の炭酸カルシウム粒子が大部分を占める炭酸カルシウムであることを意味する。実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムの平均粒子径は、好ましくは30~300nm、さらに好ましくは35~200nmであってよい。
【0024】
また、実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムは、その一部に、概ね環状の一次粒子を含んでいる場合がある。本明細書において、環状とは、単孔を有する形状全般(リング)および空洞を有する形状全般(ホロー)を指し、円環形状や輪形状のものだけでなく、三角形状や四角形状等、多角形状のものに単孔や空洞を有するもの、および筒状等も含むものとする。さらに本明細書において、概ね環状とは、完全につながった環形状のものだけでなく、一部が途切れてアルファベットのCの形状になったもの等のように、一部不完全な環形状も含むことを意図する。実施形態の炭酸カルシウムには、その一部に、概ね環状の粒子が含んでいても良い。なお、概ね環状の炭酸カルシウム一次粒子の大きさは、10~150nm程度である。実施形態で得られる炭酸カルシウムには、概ね環状の一次粒子のほか、球状、略立方体状、略直方体状、略菱面体状、紡錘状、針状等の形状の一次粒子が含まれていても良い。また実施形態の方法で製造される炭酸カルシウムには、球状や略直方体状等の形状の一次粒子の一部が凹んだ形、すなわち孔が完全には空いていないもの等も含まれていて良い。
【0025】
実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムは、脂肪酸およびその誘導体、樹脂酸およびその誘導体、シリカ、有機ケイ素化合物、縮合リン酸および縮合リン酸塩からなる群より選択される表面処理剤で表面処理しても良い。ここで脂肪酸として、たとえば、酢酸、酪酸等の低級脂肪酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。樹脂酸として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、ピマル酸、イソピマル酸、デヒドロアビエチン酸等、樹脂由来の酸を挙げることができる。シリカは、組成式SiO2で表される化合物(二酸化ケイ素)である。また有機ケイ素化合物として、たとえば、一分子内に有機材料に結合する官能基(ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基等)と、無機材料と結合する官能基(メトキシ基、エトキシ基等)とがケイ素原子(Si)を介して結合したシランカップリング剤を挙げることができる。縮合リン酸として、オルトリン酸を加熱脱水して得られた無機高分子化合物が挙げられる。これらの表面処理剤は、1つまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
実施形態の方法で製造された炭酸カルシウム、樹脂等と混合して樹脂組成物を製造することに用いられる。炭酸カルシウムは、無機フィラーとして従来用いられている硫酸バリウムや酸化チタン等と比較して比重が小さい。このため、無機フィラーとして炭酸カルシウムを用いることにより、樹脂組成物を軽量化することができる。樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂組成物、ポリアリレート樹脂組成物、各種ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物からなる群より選択されることが好ましい。ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂およびジエン系樹脂等のエラストマー樹脂は、それぞれ単独で、またはこれらを組み合わせて用いることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ジエン系樹脂等のエラストマー樹脂およびこれらの混合物以外の樹脂を必要に応じて含むこともできる。
【0027】
ポリオレフィン樹脂とは、オレフィン(アルケン)または環状オレフィン単量体を重合させた単独重合体、共重合体、およびこれらの混合物のことである。ポリオレフィン樹脂として、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4-メチルペンテン-1、ポリブテン-1、ポリ1-ヘキセン、エチレン-テトラシクロドデセン共重合体、ポリアセタールが挙げられる。また、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂は、塩化ビニルモノマーの単独重合体あるいは塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を用いることができる。ここで塩化ビニルモノマーと共重合体を形成しうる他のモノマーとしては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどのビニルエステル類;ジエチルマレエート、ジブチルマレエートなどのマレイン酸エステル類;ジエチルフマレート、ジブチルフマレートなどのフマル酸エステル類;アクリル酸エステル類;メタクリル酸エステル類;ビニルメチルエーテルなどのビニルエーテル類を挙げることができる。このようなPVC樹脂として、PVCゾル、硬質PVC、あるいは軟質PVCを用いることができる。ポリエステル樹脂とは、多価カルボン酸とポリオールとの重縮合物からなるポリエステル類およびこれらの混合物である。ポリエステル樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく用いられる。芳香族ポリエステル樹脂としては、たとえば、ポリメチレンテレフタレート樹脂(PTT)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN)、ポリ(シクロヘキサン-1,4-ジメチレン-テレフタレート)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。さらに、アルキレンテレフタレート構成単位を主構成単位とするアルキレンテレフタレートコポリマーや、ポリアルキレンテレフタレートを主成分とするポリアルキレンテレフタレート混合物を挙げることができる。さらに、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)等のエラストマー成分を含有又は共重合したものを用いてもよい。ポリアルキレンテレフタレートの混合物としては、たとえば、PBTとPBT以外のポリアルキレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT以外のアルキレンテレフタレートコポリエステルとの混合物が挙げられる。なかでも、PBTとPETとの混合物や、PBTとポリトリメチレンテレフタレートとの混合物、PBTとPBT/ポリアルキレンイソフタレートとの混合物などが好ましい。ジエン系のエラストマー樹脂として、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン等のジエン系モノマーを重合して得たゴム材料が挙げられる。またウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のエラストマー樹脂を用いても良い。その他、実施形態の製造方法で得られる炭酸カルシウムは、変性シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリサルファイド樹脂、アクリルゾル、ロジン変性アルキド樹脂、各種のアクリレート樹脂の他、前記の樹脂を含む樹脂混合物や塗料組成物、たとえば、アクリル樹脂塗料、ポリウレタン樹脂塗料、アクリルシリコーン樹脂塗料またはフッ素樹脂塗料に添加することができる。
【0028】
実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムを充填材として用いる場合、単独で用いることが最も好ましいが、必要に応じて、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク等の従来から用いられている無機フィラーを混合することもできる。なお、実施形態の炭酸カルシウムを含む樹脂組成物は、通常の添加剤、たとえば、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、繊維状強化剤、滑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、顔料を含有することができる。特に、可塑剤は、一般にPVCゾル組成物に使用されるものを用いることができ、ジ-n-オクチルフタレート(DOP)、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート(DINP)等のフタル酸系可塑剤;ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、トリメリット酸トリス-2-エチルヘキシル(TOTM)、アゼライン酸、セバシン酸等とのエステル化合物を含む脂肪族エステル系可塑剤;リン酸、トリクレジルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ系可塑剤を用いることができ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。そして可塑剤の使用量は、プラスチゾルの粘度、硬化性、硬化後の硬度、安定性などの物性により適宜選択され、一般に、PVC樹脂100質量部に対して30~300質量部の範囲で使用されることが好ましい。なお、可塑剤以外の添加剤の含量は、樹脂組成物の10質量%以下であることが好ましい。
【0029】
上記の通り、実施形態の方法で製造された炭酸カルシウムは、その一部に概ね環状の一次粒子が含まれていても良い。概ね環状の一次粒子が含まれた炭酸カルシウムを、そのまま用いることができるほか、概ね環状の一次粒子を選択的に分離することもまた可能である。概ね環状の一次粒子の分離は、たとえば、篩いにかけて特定の範囲の粒子径の炭酸カルシウム粒子を取り出し、ついで顕微鏡観察により概ね環状の一次粒子のみを分離することで行うことができる。
【0030】
上記の通り、実施形態の方法で製造される炭酸カルシウムは、各種樹脂と混合して樹脂組成物として使用できる。炭酸カルシウムは樹脂の無機フィラーとして使用するほか、紙、塗料、インキ等の填料として使用可能である。さらに食品、化粧品等の充填材としての使用もできる。分離操作を行い得られた概ね環状の炭酸カルシウムは、その特殊な形状を利用して、たとえば、ナノ材料の鋳型、薬剤担体、触媒担体、軽量フィラーとして用いることが期待できる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施形態を具体的に説明する。本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[実施例1:本発明による炭酸カルシウムの製造]
[ケイ酸イオンの存在する炭酸カルシウム水スラリーの調製]
水酸化カルシウムのスラリーに炭酸ガスを導入して炭酸カルシウム粒子を得た。得られた炭酸カルシウムのBET比表面積は、35.6m2/g(日本工業規格JIS Z 8830)、電子顕微鏡で測定した個数基準による平均粒子径は44nm(結晶子サイズは51nm)であった。得られた炭酸カルシウムの水スラリー(炭酸カルシウム水スラリー、固形分含量10重量%、pH6.8)に、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が460ppmとなるように非晶質シリカ(株式会社高純度化学研究所)を添加した。非晶質シリカを添加した炭酸カルシウム水スラリーを緩やかに撹拌しながら、ビーカーを加熱し、温度を95℃にした。炭酸カルシウム水スラリーの撹拌を続け、そのまま6時間エージングを行った。エージング後の炭酸カルシウム水スラリーのpHは10.1であった。この炭酸カルシウム水スラリーに脂肪酸石鹸(製品名:タンカルMH、会社名:ミヨシ油脂株式会社)を投入し、炭酸カルシウムの表面処理を行った。その後、脱水、乾燥および粉砕を行い、炭酸カルシウム粉末を得た。
【0033】
[炭酸カルシウム水スラリーの処理]
炭酸カルシウム水スラリーをエタノールで洗浄して、減圧濾過し、真空乾燥させて白色固体の状態の炭酸カルシウムを得た(日本工業規格JIS Z 8830に従い測定したBET比表面積:13.5m
2/g、結晶子サイズ:105nm)。得られた炭酸カルシウムをエタノールに分散させ、カーボン補強コロジオン支持膜付き銅グリッドに滴下し、エタノールを乾燥させ、真空乾燥を行い、透過型電子顕微鏡(TEM)用試料を作製した。試料を電子顕微鏡(装置名:日本電子株式会社 JEM-2100)で観察した(
図1)。
【0034】
[実施例2-6]
実施例1において、炭酸カルシウム水スラリーに添加する非晶質シリカの量を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が1900ppmとなるように加え、エージングをpH10.0になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(実施例2)。BET比表面積14.9m
2/g、結晶子サイズ97nmの炭酸カルシウムが得られた(
図2)。
実施例1において、炭酸カルシウム水スラリーに添加する非晶質シリカの量を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が7800ppmとなるように加え、エージングをpH8.9になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(実施例3)。BET比表面積19.1m
2/g、結晶子サイズ80nmの炭酸カルシウムが得られた(
図3)。
実施例1において、炭酸カルシウム水スラリーに添加する非晶質シリカの量を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が31000ppmとなるように加え、エージングをpH8.6になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(実施例4)。BET比表面積20.2m
2/g、結晶子サイズ77nmの炭酸カルシウムが得られた(
図4)。
実施例1において、炭酸カルシウム水スラリーに添加する物質を水ガラス(セントラル硝子株式会社)に変え、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が1900ppmとなるように加え、エージングをpH10.9になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(実施例5)。BET比表面積14.6m
2/g、結晶子サイズ98nmの炭酸カルシウムが得られた。
実施例1において、炭酸カルシウム水スラリーに添加する非晶質シリカの量を、炭酸カルシウムの質量に対するケイ素原子の濃度が1900ppmとなるように加え、エージング時の温度を60℃とし、エージングをpH10.7になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(実施例6)。BET比表面積13.6m
2/g、結晶子サイズ105nmの炭酸カルシウムが得られた。
【0035】
[比較例1-4]
実施例1において、非晶質シリカを添加しなかったこと以外は実施例1を繰り返した(比較例1)。BET比表面積12.4m
2/g、結晶子サイズ114nmの炭酸カルシウムが得られた(
図5)。
実施例1において、非晶質シリカを添加せず、エージング時間を2時間とし、エージングをpH12になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(比較例2)。BET比表面積19.5m
2/g、結晶子サイズ82nmの炭酸カルシウムが得られた。
実施例1において、非晶質シリカを添加せず、エージング時間を1時間とし、エージングをpH12になるまで行ったこと以外は実施例1を繰り返した(比較例3)。BET比表面積21.0m
2/g、結晶子サイズ80nmの炭酸カルシウムが得られた。
比較例1で得られた炭酸カルシウムと、比較例1において、エージングを行う前の炭酸カルシウムとを混合した(比較例4)。BET比表面積20.2m
2/g、結晶子サイズ85nmの炭酸カルシウムが得られた。
実施例1において、非晶質シリカを添加せず、エージング時間を0.5時間としたこと以外は実施例1を繰り返した(比較例5)。BET比表面積25.2m
2/g、結晶子サイズ71nmの炭酸カルシウムが得られた。
【0036】
[炭酸カルシウム充填ポリ塩化ビニルゾルの調製と粘性の測定]
実施例1-6および比較例1-5で得られた各表面処理炭酸カルシウムを用いて、ポリ塩化ビニル(PVC)ゾルを調製した。
PVCゾルは、各表面処理炭酸カルシウム200g、PVC樹脂(商品名「ZEST P21」、新第一塩ビ株式会社)300g、可塑剤としてフタル酸ジイソノニル(DINP)300g、重質炭酸カルシウム(商品名「ホワイトンP-30」、白石工業株式会社)150g、接着付与剤(商品名「バーサミド140」、ヘンケルジャパン)10g、および希釈剤(商品名「ミネラルターペン」、山桂産業株式会社)40gを十分に混練して調製した。各PVCゾルの粘度を測定した。
【0037】
[炭酸カルシウム充填ポリ塩化ビニル樹脂組成物の調製と粘性の測定]
実施例1-6および比較例1-5で得られた各表面処理炭酸カルシウムを用いて、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂組成物を調製した。各成分の組成は以下の通り:
・塩化ビニル樹脂(商品名「カネビニルS-1001」、株式会社カネカ):100質量部
・コアシェル重合体組成物(商品名「カネエースFM-40」、白色樹脂粉末、株式会社カネカ):3.5質量部
・実施例、比較例で得られた各表面処理炭酸カルシウム:10質量部
・有機錫系安定剤(商品名「TM-181FSJ」、メチル錫メルカプト系安定剤、勝田化工株式会社)1.5質量部
・パラフィンワックス(商品名「Rheolub165」、Rheochem社):1.0質量部
・ステアリン酸カルシウム(商品名「SC-100」、堺化学工業株式会社):1.2質量部
・酸化ポリエチレンワックス(商品名「ACPE-629A」、アライドシグナル社):0.1質量部
・酸化チタン(商品名「TITON R-62N」、堺化学工業株式会社):10質量部
・加工助剤(商品名「カネエースPA-20」、株式会社カネカ):1.5質量部
上記各原料を、ヘンシェルミキサーでブレンドして原料混合物を得た。得られた原料混合物を、20mm同方向二軸押出機を用いて、押出温度170℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量5kg/hrの条件にて混練し、塩化ビニル系樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを用いて、型締め力75トンの射出成形機で成形体を作製した。シャルピー衝撃強さを測定するための成形体は、ISO-Aの金型を用いて、厚み4mmの試験片を得た。耐候性試験に用いる成形体は、ISO-D2の金型を用いて、厚み2mm、縦50mm×横50mmのプレート状の成形体を得た。
【0038】
[シャルピー衝撃強さの測定]
上記で得られた炭酸カルシウム充填PVC樹脂組成物成形体のシャルピー衝撃強さは、ISO179-1および-2に準拠してノッチ付きで行った。強さの単位は、kJ/m2を採用した。
【0039】
一方カルシウム充填PVC樹脂組成物のB型回転粘度(2rpmおよび20rpm)を の方法で測定し、2つの回転粘度の比(チキソトロピックインデックス(TI))を求めた。
【表1】
【表2】
【0040】
アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質(非晶質シリカ)の存在下で炭酸カルシウムの結晶成長を行う本発明の方法で製造された炭酸カルシウムは、PVCに混合した際にチキソ性が高く、衝撃強さの大きいPVC樹脂組成物を提供することができる。実施例で得られた炭酸カルシウムと比較例で得られた炭酸カルシウムのBET比表面積を比較すると分かる通り、本発明の製造方法によると、エージング時間の割に比較的粒子径の小さい炭酸カルシウムを得ることができる。炭酸カルシウムの結晶成長環境下にケイ酸イオンが存在すると、炭酸カルシウムの結晶成長がやや抑制され、大きな粒子になりにくいと考えられる。
【要約】 (修正有)
【課題】制御された形状を有し、かつ所望のBET比表面積を有する炭酸カルシウムを製造する方法を提供すること。
【解決手段】炭酸カルシウム水スラリーを原料として、炭酸カルシウムの粒子の成長を促進させる炭酸カルシウム粒子成長工程を少なくとも含む、炭酸カルシウムの製造方法であって、該炭酸カルシウム粒子成長工程において、アルカリ環境下でケイ酸イオンを生じる物質を該炭酸カルシウム水スラリー中に添加することを特徴とする、前記炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【選択図】
図1