(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】眼球押さえ器具
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
A61F9/007 200Z
(21)【出願番号】P 2021193962
(22)【出願日】2021-11-30
【審査請求日】2021-12-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】戸田 裕人
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-018839(JP,A)
【文献】特開平08-322795(JP,A)
【文献】米国特許第04579116(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108618891(CN,A)
【文献】米国特許第06436113(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端から先端に向かう方向を長手方向とした長手形状に形成され、使用者に把持される長手形状部と、
前記長手形状部の前記先端に設けられ、眼科手術の際に患者の眼球を押さえる眼球押さえ部とを備え、
前記眼球押さえ部は眼球に面接触するよう構成され、かつ、略円弧状に延びるように形成され
、
前記長手形状部は、一対設けられており、
一対の前記長手形状部は、互いの前記基端が繋がっており、前記長手方向に交差する方向に間隔をあけて設けられ、
前記眼球押さえ部は一対の前記長手形状部のそれぞれに設けられており、
一対の前記長手形状部に対する使用者の操作に基づいて、一対の前記眼球押さえ部の間隔が狭くなり、
前記基端から、前記間隔の中点を通って伸びる仮想の直線を中心線として、
前記眼球押さえ部は、前記長手形状部との先端から、前記中心線に直角な方向における前記間隔がある側の反対の外側に進むにしたがって徐々に前記中心線に平行な方向のうちの前記基端から離れる方向に変位する形状に形成され、
一対の前記眼球押さえ部は、前記中心線に対して対称な形状に形成される、
眼球押さえ器具。
【請求項2】
前記眼球押さえ部はスポンジで形成される請求項1に記載の眼球押さえ器具。
【請求項3】
前記眼球押さえ部は、シリコーン、ゴム、又は樹脂で形成される請求項1に記載の眼球押さえ器具。
【請求項4】
前記眼球押さえ部は吸水性を有する素材で形成される請求項1~3のいずれか1項に記載の眼球押さえ器具。
【請求項5】
前記長手形状部は、
使用者に把持される把持部と、
前記把持部の先端側に設けられ、前記把持部に対して角度が付けられた角度付部とを備え、
前記眼球押さえ部は前記角度付部の先端に設けられる請求項1~
4のいずれか1項に記載の眼球押さえ器具。
【請求項6】
側面視で見て前記把持部の軸線を外側に延長させた延長線に対する、前記角度付部の角度が30°以上90°未満である請求項
5に記載の眼球押さえ器具。
【請求項7】
前記眼球押さえ部における眼球への接触予定面は凹曲面として構成される請求項1~
6のいずれか1項に記載の眼球押さえ器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼科手術用器具に関し、詳しくは眼科手術の際に患者の眼球を動かないよう押さえるための眼球押さえ器具に関する。
【背景技術】
【0002】
眼内コンタクトレンズ(ICL:Implantable Contact Lens)又は眼内レンズ(IOL:Intraocular Lens)を患者の眼球に挿入する手術等の眼科手術においては、刃物(メス)で眼球を切開する操作、ICL又はIOLを眼球に挿入する操作などの手術中の各操作を正確に行うために、眼球を動かないようにする必要がある。手術中に眼球の動きを抑制するために、例えば、特許文献1等に記載の鑷子(ピンセット)の先端で眼球を押さえる処置が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、鑷子で眼球を押さえると、眼球が傷ついてしまう場合がある。
【0005】
そこで、本開示は、眼球の傷つきを抑制しつつ、眼球の動きを抑制できる眼科手術用器具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の眼科手術用器具は、
基端から先端に向かう方向を長手方向とした長手形状に形成され、使用者に把持される長手形状部と、
前記長手形状部の前記先端に設けられ、眼科手術の際に患者の眼球を押さえる眼球押さえ部とを備え、
前記眼球押さえ部は眼球に面接触するよう構成される、
眼球押さえ器具である。
【0007】
これによれば、眼球押さえ部が眼球に面接触するよう構成されるので、眼球の傷つきを抑制しつつ、眼科手術中の眼球の動きを抑制できる。なお、本開示において、「面接触」とは、1mm 2以上連続した面積での接触をいう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の平面図である。
【
図2】第1実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の側面図である。
【
図3】
図2のA部の拡大図の第1例であって、眼球押さえ面(接触予定面)の第1例を示す図である。
【
図4】
図2のA部の拡大図の第2例であって、眼球押さえ面(接触予定面)の第2例を示す図である。
【
図5】
図2のA部の拡大図の第3例であって、眼球押さえ面(接触予定面)の第3例を示す図である。
【
図6】眼球押さえ部が球状に形成された眼球押さえ器具の平面図である。
【
図7】眼球押さえ部が略円弧状に延びるように形成された眼球押さえ器具の平面図である。
【
図8】眼球の断面図であって、眼球押さえ器具で眼球を押さえている状態を示す図である。
【
図9】眼球の正面図であって、眼球押さえ器具で眼球を押さえている状態を示す図である。
【
図10】第2実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の平面図である。
【
図11】第2実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の側面図である。
【
図12】第3実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の側面図である。
【
図13】第4実施形態に係る眼科手術用器具(眼球押さえ器具)の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1、
図2に、第1実施形態に係る眼科手術用器具を示す。
図1、
図2の眼科手術用器具1は、眼内コンタクトレンズ挿入手術等の眼科手術の際に、患者の眼球を動かないよう押さえるための眼球押さえ器具である。器具1は、使用者に把持される一対の長手形状部2と、長手形状部2の先端6に設けられた眼球押さえ部7とを備えている。
【0010】
長手形状部2は、基部5から先端6に向かって線状(言い換えれば棒状、細長状)に延びた形状に形成される。換言すれば、長手形状部2は、基部5から先端6に向かう方向を長手方向とした長手形状に形成される。なお、本開示における「棒状」とは、軸線に直角な断面形状が円形だけでなく、円形以外の断面形状(例えば板状)も含む。長手形状部2は、
図1の平面視で見て、基部5から二股に分かれるように形成されている。一方の長手形状部2aと他方の長手形状部2bとは互いに同等の形状に形成される。なお、一方の長手形状部2a、2bの長手方向における長さと、他方の長手形状部2bの長手方向における長さは同じである。
【0011】
一方の長手形状部2aと他方の長手形状部2bとは、互いの基部5が接合されており(繋がっており)、該基部5から、
図1の平面視で見て長手方向に交差する方向(換言すれば略直角な方向)に間隔dをあけて、互いに同じ方向(
図1の紙面で左右方向)に延びている。
図1の平面視で見て、一方の長手形状部2aの先端6と、他方の長手形状部2aの先端6とは、使用者による操作が無い状態(無操作状態)において、長手方向に交差する方向に間隔dをあけて並んでいる。以下では、
図1の平面視で見て、基部5から、間隔dの中点を通って伸びる仮想の直線L1を、器具1の中心線という。中心線L1は、平面視で見て、一対の長手形状部2a、2bの各軸線L2の間の領域を2等分する直線である。中心線L1は、
図2の側面視で見ると、後述の把持部3の軸線L2と重なる(一致する)。
【0012】
長手形状部2a、2bは、間隔dを狭くする方向に力が加わったときに、間隔dを狭くする方向に弾性変形し、該力が解除されたときには元の状態に弾性復帰する。
【0013】
なお、長手形状部2a、2bは、
図2の側面視で見て、一方の長手形状部2aの全体が他方の長手形状部2bの全体に重なるように設けられる。すなわち、一対の長手形状部2a、2bは、側面視で見ると、互いに同一の形状を有する。なお、長手形状部2a、2bの間隔dが正面となるように器具1を見た図(つまり
図1)を平面図(平面視)という。また、一対の長手形状部2a、2bの全体が重なるように器具1を見た図(つまり
図2)を側面図(側面視)という。
【0014】
各長手形状部2a、2bは、使用者に把持される把持部3と、把持部3の先端(基端5の反対側)から延び出す延出部4とを備えている。把持部3は、
図2の側面視で見て、一直線状に延びるように形成される。把持部3は、基端5から延出部4への方向を長手方向とした形状(長手形状、棒状)に形成される。把持部3の長手方向における長さl(
図2参照)は、例えば5cm以上15cm以下に設定される。
図2の側面視で見て、把持部3の、長手方向に直角な方向の幅w1は、平面視で見たときの長手方向に直角な方向の幅w2(
図1参照)よりも大きいとしてよい。つまり、把持部3は板状に形成されてよい。一方の長手形状部2aにおける各幅l、w1、w2と、他方の長手形状部2bにおける各幅l、w1、w2とは同じである。
【0015】
延出部4は、眼球押さえ部7を支持する支持部である。また、延出部4は、把持部3に対して角度が付けられた角度付部である。具体的には、
図2の側面視で見て、延出部4は把持部3の軸線L2又は器具1の中心線L1に対して斜め方向に延びている。すなわち、延出部4は、
図2において、先端6に向かうにしたがって徐々に軸線L2(中心線L1)の方向と軸線L2(中心線L1)に直角な方向(幅w1の方向)の両方向において把持部3から離れていく。
【0016】
ここで、
図2の側面視で見て、把持部3の軸線L2を、把持部3の先端から外側に軸線L2に平行な方向に延長させた線L3を延長線と定義する。
図2の側面視で見て、延出部4の基端(把持部3との接続部)から先端6へと延びる軸線L4の、上記延長線L3に対する角度θは例えば30°以上90°未満に設定される。延出部4の、軸線L4の方向における長さは、把持部3の、軸線L2の方向における長さlよりも短い。
【0017】
なお、
図1の平面視で見ると、延出部4は、把持部3に対して、把持部3の長手方向と同一方向又はほぼ同一方向に延びており、言い換えれば、把持部3の長手方向に交差する方向には角度がほとんど付けられていない。すなわち、
図1の平面視で見て、把持部3の軸線L2の外側に延長させた延長線に対する、延出部4の軸線L4の角度は0°以上5°以下(例えば0°)である。
【0018】
延出部4の、軸線L4に直角な断面は、把持部3の、軸線L2に直角な断面よりも小さいとしてよい。すなわち、延出部4は、把持部3よりも縮径した形状に形成されてよい。
【0019】
把持部3及び延出部4は例えば互いに同一の素材で一体に形成されてもよいし、異なる素材で形成されてもよい。長手形状部2(把持部3及び延出部4)は、例えば後述の眼球押さえ部7よりも硬い素材(剛性が高い素材)で形成される。具体的には、長手形状部2(把持部3及び延出部4)は、眼球押さえ部7で眼球を押さえたときに、変形しない程度の硬さ(剛性)を有した素材で形成され、例えばステンレス鋼で形成されてもよいし、他の素材(例えば樹脂)で形成されてもよい。
【0020】
眼球押さえ部7は、眼科手術の際に患者の眼球を押さえるための部分である。眼球押さえ部7は、長手形状部2a、2bごとに設けられる。眼球押さえ部7は、接着剤、熱溶着などによって延出部4の先端6に着脱不可能に固定されている。なお、眼球押さえ部7は、延出部4の先端6に着脱可能に設けられてもよい。
【0021】
一方の長手形状部2aに設けられた眼球押さえ部7と、他方の長手形状部2bに設けられた眼球押さえ部7とは互いに同一の素材で同一の形状に形成される。一対の眼球押さえ部7は、
図2の側面視で見て、把持部3の軸線L2又は中心線L1に直角な方向(把持部3の幅w1の方向)における同一の位置に設けられる。また、一対の眼球押さえ部7は、
図1の平面視で見て、無操作状態において、中心線L1に直角な方向に間隔eをあけて並ぶように設けられる。さらに、一対の眼球押さえ部7は、
図1の平面視で見て、中心線L1が延びた方向における同一の位置に設けられる。また、一対の眼球押さえ部7は、長手形状部2の間隔dが変化するに伴い、間隔eが変化するように設けられる。間隔eがゼロになる場合もあり得る。すなわち、
図1の平面視で見て、中心線L1に直角な方向(間隔eの方向)に対向する一方の眼球押さえ部7の面7bと他方の眼球押さえ部7の面7bとが接触可能である。以下、面7bを内側面という。内側面7bは、1mm
2以上連続した面積の面(面接触が可能な面)で構成されてよい。
【0022】
また、間隔eは、初期状態(把持部3が操作されない状態)で、一対の眼球押さえ部7の両方が同時に眼球の表面に接触可能な値に設定される。具体的には、間隔eは、例えば20mm以下に設定され、好ましくは15mm以下に設定される。
【0023】
眼球押さえ部7は、眼球を押さえる方向に眼球に接触したときに、眼球に面接触する素材で形成され又は面接触する形状に形成される。具体的には、眼球押さえ部7は、眼球を押さえたときに、眼球に傷がつかない(眼球組織が挫滅しない)程度の柔らかい素材(可撓性を有する素材)で形成され、かつ、眼球の動きを抑えることができる程度に剛性(硬さ)を有した素材で形成される。また、眼球押さえ部7は、眼球を押さえたときに、眼球上で滑らない程度に摩擦係数が大きい素材で形成される。また、眼球押さえ部7は、眼球に接触したときに、眼球の球面に沿って球面状に変形可能な素材(弾性体又は可撓性を有する素材)で形成されてよい。なお、眼球押さえ部7は非繊維素材で形成されるのが好ましい。これによれば、眼球押さえ部7と眼球とが接触したときに、眼球に繊維が付着して残ってしまうのを抑制できる。
【0024】
眼球押さえ部7は、例えば長手形状部2よりも柔らかい(剛性が低い)素材で形成される。本実施形態では、眼球押さえ部7はスポンジで形成される。スポンジは、内部に細かな孔が無数に空いた多孔質の可撓性を有した素材をいう。眼球押さえ部7としてのスポンジは、眼球に有害でなければどのような素材で形成されてもよい。眼球押さえ部7に用いられるスポンジとして、例えばセルローススポンジ、ポリビニルアルコールスポンジ(PVAスポンジ)、ポリウレタンスポンジ等を挙げることができる。また、スポンジは吸水性を有するが、吸水性が高い吸水スポンジで眼球押さえ部7が形成されてもよい。
【0025】
また、眼球押さえ部7としてのスポンジは、液体を吸ったときに体積が膨張する圧縮スポンジであってもよいし、液体を吸っても体積が膨張しない又は膨張の程度が小さい非圧縮スポンジであってもよい。例えば圧縮スポンジを用いる場合、眼球を押さえたときに仮に眼球からの血液等の液体を吸って体積が膨張したときに、スポンジと眼球との接触面積が大きくなり、眼球に加わる圧力を小さくできる。また例えば非圧縮スポンジを用いる場合、眼球を押さえたときに仮に眼球からの血液等を吸ったとしても、スポンジの体積膨張を抑制でき、スポンジで使用者の視界が遮られるのを抑制でき、眼球を切開する等の処置がしやすい。圧縮スポンジは、例えばスポンジ素材を圧縮し、乾燥し、圧縮した状態で固形化する工程を経て得られる。非圧縮スポンジは、スポンジ素材を圧縮しないで乾燥する工程を経て得られる。
【0026】
また、スポンジが仮に膨張したとしても、眼球に対する処置がスポンジで妨げられるのを抑制するために、スポンジが最大に膨張したときの体積が、スポンジの初期の体積(液体を吸っていないときの体積)の10倍以下(好ましくは5倍以下、より好ましくは3倍以下)であるスポンジ素材で眼球押さえ部7が形成されるのが好ましい。
【0027】
なお、眼球押さえ部7のスポンジとしては、例えば市販の眼科用吸水スポンジ(株式会社イナミ製の「M.Q.A」など)が用いられてよい。
【0028】
眼球押さえ部7は、眼球に接触することが予定された接触予定面7a(
図2参照)を有する。接触予定面7aは、眼球に面接触可能に構成され、すなわち、1mm
2以上連続した面積を有する。また、接触予定面7aには尖った部位(1mm
2未満の面積の部位)は存在しない。接触予定面7aは、
図3に示すように平面7a1として構成されてもよいし、
図4に示すように凸曲面7a2として構成されてもよいし、
図5に示すように凹曲面7a3として構成されてもよい。なお、接触予定面7aが曲面7a2、7a3で構成される場合には、眼球に接触したときの接触面積が1mm
2以上となるように、曲面7a2、7a3の曲率が適宜設定される。
図3~
図5のいずれの場合であっても、接触予定面7aと眼球表面とが接触したときに、接触予定面7a又は眼球表面がたわみ変形することで面接触が可能となる。例えば、接触予定面7aが
図4の凸曲面7a2の場合には、眼球に対する接触予定面7a(凸曲面7a2)の向き(眼球表面に対する延出部4の軸線L4の向き)に関わらず、眼球と接触予定面7aとの接触状態を一様にしやすくできる。また、例えば、接触予定面7aが
図5の凹曲面7a3の場合には、凹曲面7a3の曲率を眼球表面の曲率と同様に定めることで、接触予定面7a(凹曲面7a3)と眼球表面との接触が良好となる。
【0029】
接触予定面7aは、眼球押さえ部7の内側面7b(
図1参照)以外の面に設定される。接触予定面7aは、例えば、眼球押さえ部7の表面のうち、延出部4の軸線L4の方向を向いた表面に設定されるが、軸線L4に交差する方向に向いた表面(内側面7b以外の面)に設定されてもよい。また、接触予定面7aは、把持部3の軸線L2又は器具1の中心線L1に平行な方向を向くように設定されてもよい。これによれば、使用者が軸線L2又は中心線L1の方向に器具1を押す操作をしたときに、その操作力が、接触予定面7aで眼球を押さえる力として伝達しやすくなり、すなわち、器具1の操作性が良好となる。
【0030】
眼球押さえ部7は、眼球に面接触可能な接触予定面7aを確保できるのであれば、どのような形状に形成されてよく、ブロック状(例えば直方体状)に形成されてもよいし、接触予定面7aに直角な方向の厚みが小さい板状又はシート状に形成されてもよい。なお、眼球押さえ部7は、延出部4の先端6に対して拡大した形状に形成される。
【0031】
また、眼球押さえ部7は、
図6に示すように球状に形成されてもよい。眼球押さえ部7が球状の場合であっても、接触予定面7aと眼球表面とが接触したときに、接触予定面7a又は眼球表面がたわみ変形することで面接触が可能となる。眼球押さえ部7が球状の場合には、接触予定面7aは必然的に凸曲面となる。眼球押さえ部7が球状の場合には、眼球に対する延出部4の軸線L4の向きに関わらず、眼球押さえ部7(接触予定面7a)と眼球との接触状態を一様にしやすくできる。なお、眼球押さえ部7が球状の場合には、眼球に接触したときの接触面積が1mm
2以上となるように、眼球押さえ部7の曲率(言い換えれば直径)が適宜設定される。
【0032】
また、眼球押さえ部7は、
図7に示すように略円弧状に延びるように形成されてもよい。
図7の例では、眼球押さえ部7(接触予定面7a)は、平面視で見て、長手形状部2との接続部(長手形状部2の先端6)から、中心線L1に直角な方向の外側(一対の長手形状部2の間隔dがある側(内側)の反対側)に突き出るように設けられる。より具体的には、眼球押さえ部7(接触予定面7a)は、長手形状部2との接続部(長手形状部2の先端6)から、中心線L1に直角な方向の外側に進むにしたがって徐々に中心線L1に平行な方向のうちの長手形状部2の基端5から離れる方向に変位する形状に形成される。一対の眼球押さえ部7は、中心線L1に対して対称な形状に形成される。
図7の接触予定面7aは凹曲面として構成される。このとき、接触予定面7a(凹曲面)の曲率は眼球の曲率と同等に設定されるが好ましい。これによれば、接触予定面7aと眼球との接触を良好にできる。
【0033】
器具1は、眼科手術の際に患者の眼球100(
図8、
図9参照)の表面を押さえることで眼球100を動かないようにするために用いられる。眼球100は、角膜101、強膜102、結膜103、虹彩104、及び水晶体105を含む。眼科手術としては、例えば、水晶体105の前側に眼内コンタクトレンズ(ICL)を挿入する手術を挙げることができる。器具1の把持部3は、例えば、使用者(施術者、医者)の利き手と反対側の手で把持される。このとき、例えば、一対の把持部3は、複数の指で挟まれるようにして、施術者に把持される。
【0034】
器具1は、例えば、
図8、
図9に示すように、一対の眼球押さえ部7で結膜103を押さえるように用いられる。このとき、
図8に示すように、把持部3の基端5が、眼球100よりも上方(施術者の顔に近い側)に位置されてよい。また、眼球100の動きを効果的に抑制するために、必要に応じて、一対の長手形状部2の間隔dが狭くなる方向に調整されることで、一対の眼球押さえ部7の間隔eが狭くなる方向に調整されてよい。
【0035】
器具1で眼球100が動かないようにされた状態で、施術者によって、眼球100に対する処置(切開など)が行われる。このとき、施術者は、器具1を把持した手と反対側の手(例えば利き手)で、刃物(メス)等の他の器具を把持して、眼球100に対する処置を行ってよい。眼球100が切開される場合には、例えば、
図9に示すように、眼球100の表面領域のうち、眼球100の瞳孔106(虹彩104間の領域)を間に挟んで、器具1(眼球押さえ部7)との接触領域107の反対側の領域108が切開されてよい。
【0036】
以下、第1実施形態の効果を説明する。眼球押さえ部7がスポンジで構成されるので、ステンレス鋼等の金属で構成された場合に比べて、眼球押さえ部7が眼球表面上で滑ってしまうのを抑制できるとともに、眼球に加わる圧力を小さく(言い換えれば圧力を分散)できる。また、眼球押さえ部7と眼球との接触を面接触にできる。これにより、眼球の動きを効果的に抑制できるとともに、眼球表面に傷がついてしまう(挫滅してしまう)のを抑制できる。また、眼球押さえ部7がスポンジで構成されることで、眼球押さえ部7との接触で仮に眼球表面が出血したとしても、眼球押さえ部7で血液を吸うことができ、眼球表面に血液が残ってしまうのを抑制できる。また、眼球に対する処置(切開など)で生じた出血を眼球押さえ部7で吸うことができ、眼球に対する処置をしやすくできる。
【0037】
また、眼球押さえ部7は一対設けられるので、眼球の動きをより一層抑制できる。さらに、一対の眼球押さえ部7は、間隔eをあけてならぶように設けられ、その間隔eを狭くする方向に調整できるので、例えば、一対の眼球押さえ部7が眼球に接触した状態で、使用者の操作によって間隔eが狭くされることで、一対の眼球押さえ部7の間で眼球表面を挟むようにして押さえることができる。これにより、より一層、眼球の動きを抑制できる。
【0038】
また、一対の長手形状部2は、長手形状部2の長手方向に交差する方向に間隔dをあけて並ぶように設けられるので、片手で一対の長手形状部2(把持部3)を操作できる。これにより、一対の眼球押さえ部7と眼球との接触位置を簡単に調整でき、眼球に対する処置(切開など)が容易となる。
【0039】
さらに、長手形状部2の先端6側の部分4(延出部)は把持部3に対して角度が付けられているので、眼球表面のうち角膜から離れた面(例えば結膜)を眼球押さえ部7で押さえたときに、把持部3が患者の顔と干渉してしまうのを抑制できる。また、把持部3が使用者の顔に近い側に位置するように器具1が操作されることで、器具1の操作が容易となる。
【0040】
また、眼球押さえ部7が例えば
図7のように略円弧状に延びるように形成される場合には、
図9のように眼球100を正面で見たときに、瞳孔106を中心した円周方向の広範囲に、眼球押さえ部7と眼球100とを接触させることができ、つまり、眼球押さえ部7と眼球100との接触面積を大きくできる。これにより、眼球100に加わる圧力をより一層小さくできるし、眼球100の動きをより一層抑制できる。
【0041】
また、延出部4が把持部3よりも縮径した形状に形成される場合には、使用者が器具1を操作する際に、延出部4の先端6に設けられた眼球押さえ部7を見やすくできる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態を第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図10、
図11は第2実施形態に係る眼科手術用器具を示す。
図10、
図11の眼科手術用器具15は、眼内コンタクトレンズ挿入手術等の眼科手術の際に、患者の眼球を動かないよう押さえるための眼球押さえ器具である。器具15は、使用者に把持される一対の長手形状部16と、各長手形状部16の先端に設けられた一対の眼球押さえ部19とを備えている。
【0043】
長手形状部16は、使用者に把持される把持部17と、把持部17の先端から延び出す延出部18とを備えている。
図11の側面視で見て、延出部18は、把持部17に対して角度が付けられていない。すなわち、
図11の側面視で見て、延出部18の軸線L6は、把持部17の軸線L5と同じ方向に延びている。このように、長手形状部16は、軸線方向が途中で30°以上変化する屈曲部を有しない。
【0044】
眼球押さえ部19は、第1実施形態の眼球押さえ部7と同様である。
【0045】
第2実施形態の器具15は、延出部18が把持部17に対して角度が付けられていない点で第1実施形態と異なっており、それ以外は第1実施形態と同じである。
【0046】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られることに加えて、長手形状部16の途中に屈曲部が存在しないので、長手形状部16の製造が容易である。
【0047】
(第3実施形態)
次に、本開示の第3実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図12は第3実施形態に係る眼科手術用器具を示す。
図12の眼科手術用器具20は、眼内コンタクトレンズ挿入手術等の眼科手術の際に、患者の眼球を動かないよう押さえるための眼球押さえ器具である。器具20は、使用者に把持される単一の長手形状部21と、長手形状部21の先端に設けられた単一の眼球押さえ部22とを備えている。
【0048】
長手形状部21は1つのみ設けられる点で第1実施形態の長手形状部2と異なっており、それ以外は第1実施形態の長手形状部2と同じである。また、眼球押さえ部22は1つのみ設けられる点で第1実施形態の眼球押さえ部7と異なっており、それ以外は第1実施形態の眼球押さえ部7と同じである。
【0049】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果が得られることに加えて、長手形状部21及び眼球押さえ部22がそれぞれ1つのみ設けられるので、器具20の構造を簡素化できる。
【0050】
(第4実施形態)
次に、本開示の第4実施形態を上記実施形態と異なる部分を中心に説明する。
図13は第4実施形態に係る眼科手術用器具を示す。
図13の眼科手術用器具23は、眼内コンタクトレンズ挿入手術等の眼科手術の際に、患者の眼球を動かないよう押さえるための眼球押さえ器具である。器具23は、使用者に把持される単一の長手形状部24と、長手形状部24の先端に設けられた単一の眼球押さえ部25とを備えている。
【0051】
本実施形態の器具23は、長手形状部24及び眼球押さえ部25がそれぞれ1つのみ設けられる点で、第2実施形態と異なっており、それ以外は第2実施形態と同じである。また、器具23は、長手形状部24及び眼球押さえ部25がそれぞれ1つのみ設けられ、かつ、長手形状部24の途中に屈曲部が存在しない点で第1実施形態と異なっており、それ以外は第1実施形態と同じである。
【0052】
第4実施形態では、第1、第2実施形態と同様の効果が得られることに加えて、長手形状部24及び眼球押さえ部25がそれぞれ1つのみ設けられ、さらに、長手形状部24の途中に屈曲部が存在しないので、器具23の構造をより一層簡素化できる。
【0053】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態では、眼球押さえ部がスポンジで形成された例を示したが、眼球を押さえたときに、眼球に傷がつくのを抑制でき、かつ、眼球の動きを抑制でき、かつ、眼球に有害でなければ、スポンジ以外の素材で眼球押さえ部が形成されてもよい。具体的には、眼球押さえ部は、シリコーン、ゴム又は樹脂で形成されてもよい。シリコーンは、シロキサン結合による主骨格を持つ合成高分子化合物である。ゴムとしては、イソブレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ポリイソブチレン、エチレンプロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、フッ素ゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどがある。樹脂には、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂がある。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂などがある。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどがある。
【0054】
また、眼球押さえ部は発泡スチロール、発泡ウレタン、発泡ポリエチレン等の発泡材で形成されてもよい。
【0055】
また、眼球押さえ部は、眼球に点接触(1mm 2より小さい面での接触)せずに、眼球に面接触可能な形状であれば、ステンレス鋼など金属で形成されてもよい。また、眼球押さえ部は、眼球に点接触しないで面接触可能な形状であれば、眼球押さえ部を支持する支持部(長手形状部、延出部)と同じ素材で形成されてもよい。これによっても、点接触で眼球を押さえる構成に比べて、眼球に傷がつくのを抑制できる。
【符号の説明】
【0056】
1、15、20、23 眼球押さえ器具(眼科手術用器具)
2、16、21、24 長手形状部
3、17 把持部
4、18 延出部
7、19、22、25 眼球押さえ部
【要約】
【課題】眼科手術の際に患者の眼球に傷がつくのを抑制しつつ、眼球の動きを抑制できる眼科手術用器具を提供する。
【解決手段】眼科手術用器具としての眼球押さえ器具1は、一対の長手形状部2と、各長手形状部2の先端6に設けられる一対の眼球押さえ部7とを備える。一対の長手形状部2は、互いの基端5が繋がっており、長手方向に交差する方向に間隔をあけて並ぶように設けられる。使用者の操作に基づいて、前記間隔を狭くする方向に調整可能である。各長手形状部2は、使用者に把持される把持部3と、把持部3の先端から延び出す延出部4とを備える。延出部4は把持部3に対して30°以上90°未満の角度がつけられている。眼球押さえ部7は延出部4の先端6に設けられる。眼球押さえ部7は、眼球に面接触するように構成され、例えば、スポンジ、シリコーン、ゴム、樹脂などの素材で形成される。
【選択図】
図1