(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】物性値予測方法、物性値予測システム及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2251 20180101AFI20220523BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G01N23/2251
G01N21/17 A
(21)【出願番号】P 2021206969
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2021-12-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114488
【氏名又は名称】メック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤木 雅子
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-135199(JP,A)
【文献】特開2018-029568(JP,A)
【文献】特開2021-060457(JP,A)
【文献】特開2020-128900(JP,A)
【文献】特開2021-155984(JP,A)
【文献】特開2019-124539(JP,A)
【文献】国際公開第2020/262615(WO,A1)
【文献】特開2020-041290(JP,A)
【文献】特開2014-039504(JP,A)
【文献】特開2021-144402(JP,A)
【文献】特開2018-171039(JP,A)
【文献】特開2021-051380(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116085(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0347526(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 21/00-G01N 21/958
G01B 11/00-G01B 11/30
G02B 21/00-G02B 21/36
G01N 33/00-G01N 33/46
G01N 3/00-G01N 3/62
G06T 7/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材を撮像した画像から特徴量マップを出力する特徴量マップ出力部と、前記特徴量マップを前記素材に関する物性値に変換する変換部とを有し前記素材を撮像した画像を説明変数として
入力し前記物性値を出力するように機械学習された予測モデルに対して、前記物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、前記複数の予測対象画像それぞれの予測値及び特徴量マップを出力し、
前記複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、前記実測値と前記予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像と、前記実測値と前記予測値の誤差が前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像とを特定し、
前記予測不良画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、前記予測良好画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する、物性値予測方法。
【請求項2】
前記特徴量群の位置を、前記予測不良画像又は前記予測良好画像の少なくとも一方に重ねて表示する重合画像を出力する、請求項
1に記載の物性値予測方法。
【請求項3】
撮像される前記素材は、表面処理を施した金属の表面、塗料の塗装面、メッキ処理した金属の表面、フィルムの表面、紙表面、及び成形加工された素材表面のいずれかである、請求項1又は2に記載の物性値予測方法。
【請求項4】
素材を撮像した画像から特徴量マップを出力する特徴量マップ出力部と、前記特徴量マップを前記素材に関する物性値に変換する変換部とを有し前記素材を撮像した画像を説明変数として
入力し前記物性値を出力するように機械学習された予測モデルに対して、前記物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、前記複数の予測対象画像それぞれの予測値及び特徴量マップを出力する予測部と、
前記複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、前記実測値と前記予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像と、前記実測値と前記予測値の誤差が前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像とを特定する特定部と、
前記予測不良画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、前記予測良好画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する抽出部と、
を備える、物性値予測システム。
【請求項5】
前記特徴量群の位置を、前記予測不良画像又は前記予測良好画像の少なくとも一方に重ねて表示する重合画像を出力する重合画像出力部を備える、請求項4に記載の物性値予測システム。
【請求項6】
撮像される前記素材は、表面処理を施した金属の表面、塗料の塗装面、メッキ処理した金属の表面、フィルムの表面、紙表面、及び成形加工された素材表面のいずれかである、請求項4又は5に記載の物性値予測システム。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載の方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、機械学習を用いた物性値予測方法、物性値予測システム及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子基板は銅などの金属と樹脂の積層構造であり、電子基板の品質は、金属と樹脂界面の密着度に対応する。薬品で表面処理を施して粗面化した金属表面の形状を評価することで、電子基板の金属の密着度の評価が可能となる。評価項目の一つとして、例えば密着強度を計測することが挙げられるが、工数がかかるという問題がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、機械学習を用いてゴム材料の物性値を推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
機械学習による物性値の予測は、ニューラルネットワーク等のブラックボックス型の予測モデルを用いた場合に、どのような根拠でどのように予測しているのか、予測精度の良否の原因について不明という問題がある。
【0006】
本開示は、機械学習を用いて素材の物性値を予測する予測モデルについて、予測精度に関する説明の可能性を提供する物性値予測方法、物性値予測システム及びプログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の物性値予測方法は、素材を撮像した画像から特徴量マップを出力する特徴量マップ出力部と、前記特徴量マップを前記素材に関する物性値に変換する変換部とを有し前記素材を撮像した画像を説明変数として前記物性値を出力するように機械学習された予測モデルに対して、前記物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、前記複数の予測対象画像それぞれの予測値及び特徴量マップを出力し、前記複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、前記実測値と前記予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像と、前記実測値と前記予測値の誤差が前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像とを特定し、前記予測不良画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、前記予測良好画像の前記特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の予測システム及び学習システムを示すブロック図。
【
図2】薬品処理後の銅箔を電子顕微鏡で撮像したSEM画像の一例を示す図。
【
図3】実施例1の予測値と実測値の組み合わせのデータをプロットした図。
【
図4】第1実施形態の予測システムが実行する処理を示すフローチャート。
【
図5】第2実施形態の学習システム1及び予測システム2を示すブロック図。
【
図6】予測値と実測値の組み合わせのデータをプロットした図であり、予測不良画像及び予測良好画像を特定した例を示す図。
【
図9】予測不良画像(SEM画像)から得た特徴量マップを画像として示す図。
【
図10】予測良好画像(SEM画像)から得た特徴量マップを画像として示す図。
【
図11】予測不良画像の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(ヒストグラム)と、予測良好画像の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(ヒストグラム)とを示す図。
【
図12】予測不良画像の特徴量マップのうち、抽出した特徴量群のみを示す図。
【
図13】予測良好画像の特徴量マップのうち、抽出した特徴量群のみを示す図。
【
図14】予測不良画像に、抽出した特徴量群の位置を重ねて表示する重合画像の一例を示す図。
【
図15】予測良好画像に、抽出した特徴量群の位置を重ねて表示する重合画像の一例を示す図。
【
図16】第2実施形態の予測システムが実行する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
以下、本開示の第1実施形態を、図面を参照して説明する。
【0010】
[学習システム、予測システム]
第1実施形態の予測システム2(装置)は、予測モデル21を用いて、薬品で表面処理を施した金属(銅)の表面を撮像した画像に基づいて、金属の物性値(例えば密着強度)を予測する。学習システム1(装置)は、教師データを用いて予測モデル21を機械学習で構築する。
【0011】
図1に示すように、予測システム2は、画像取得部20と、予測部22と、を有する。学習システム1は、教師データD1と、予測モデル21を学習させる学習部10とを有する。教師データD1は、メモリ1bに記憶される。学習部10は、プロセッサ1aで実現される。画像取得部20及び予測部22は、プロセッサ2aで実現される。第1実施形態では、1つの装置におけるプロセッサ1a,2aが各部を実現しているが、これに限定されない。例えば、ネットワークを用いて各処理を分散させ、複数のプロセッサが各部の処理を実行するように構成してもよい。すなわち、1又は複数のプロセッサが処理を実行する。
【0012】
画像取得部20は、予測対象の素材を撮像した画像G1を取得する。第1実施形態では、画像取得部20は、表面処理した金属(銅)の表面を電子顕微鏡で撮像したSEM画像(グレースケール画像)を取得する。予測対象の素材を撮像した画像G1は、縦ピクセル数h×横ピクセル数wの画像データである。
【0013】
予測モデル21は、素材を撮像した画像(例えばSEM画像、カメラ画像)とその素材に関する物性値(例えば密着強度)とを関連付けた教師データD1を用いて、画像を説明変数として入力し素材に関する物性値を出力するように機械学習で構築されたモデルである。学習システム1の学習部10は、予測結果と教師データの実測値が一致するように、予測モデル21のパラメータを更新する。
図1において、教師データD1は、入力画像1~N(Nは学習用画像の数を示す)と、各々の入力画像1~Nに対応する実測値である物理量(X
1,X
2,…,X
N)とが対応付けられている。
【0014】
予測モデル21は、種々のモデルが利用可能であるが、第1実施形態では、予測モデル21は、入力画像から特徴量マップG2を出力する特徴量マップ出力部21aと、特徴量マップG2を物性値(Y)に変換する変換部21bとを有する。第1実施形態では、特徴量マップ出力部21aは、UNetを用いている。UNetは、U字型の畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)ベースの学習モデルである。変換部21bは、GAP(Global Average Pooling)を用いている。特徴量マップG2は、入力画像G1の縦ピクセルhに対応するピクセル数h’と、入力画像の横ピクセルwに対応するピクセル数w’とを乗算した数のピクセル数を有するデータであり、各々のピクセルが特徴量を有する。変換部21bは、特徴量マップG2を1つの数である物理量(Y)に変換する。
【実施例】
【0015】
[実施例1]
実施例1は、入力画像G1を、薬品処理後の銅箔を電子顕微鏡で撮像したSEM画像とした例である。
図2は、SEM画像の一例を示す。SEM画像の撮像条件は、倍率は3500倍、チルト角が45度である。物理量は、密着強度[N/mm]とした。薬品Aを用いて銅表面を処理した例である。90枚の画像に対して90個の密着強度を計測した。90個のデータのうちの半数を学習用データとして使用し、残り半数のデータを予測に用いた。実測密着強度と予測値の平均二乗誤差が0.0008であった。
図3は、横軸が実測密着強度であり、縦軸が予測した密着強度であり、予測値と実測値の組み合わせのデータをプロットした図である。
【0016】
[実施例2]
実施例2は、実施例1と同様にSEM画像を入力画像G1とした。薬品Bを用いて銅表面を処理した例である。72枚の画像に対して72個の密着強度を計測した。72個のうちの半数を学習用データとし、残り半数を予測用データとした。実測密着強度と予測値の平均二乗誤差が0.0012であった。SEM画像の撮像条件は実施例1と同じである。
【0017】
[実施例3]
実施例3は、実施例1と同様にSEM画像を入力画像G1とした。薬品Cを用いて銅表面を処理した例である。39枚の画像に対して39個の密着強度を計測した。39個のうちの半数を学習用データとし、残り半数を予測用データとした。実測密着強度と予測値の平均二乗誤差が0.0021であった。SEM画像の撮像条件は実施例1と同じである。
【0018】
[実施例4]
実施例4は、実施例3のSEM画像を用いて、1枚のSEM画像から複数の物性値を推測するようにした例である。具体的には、1つのUNetの出力を複数クラスに設定することで、同一のUNetから複数の物性値を出力(計算)可能となる。複数の物性値は、密着強度、粗さパラメータ(Sdr、Sdq)である。密着強度を予測するための第1のUNetと、Sdrを予測するための第2のUNetと、Sdqを予測するための第3のUNetとを並列化した構成である。密着強度の平均二乗誤差が0.001であり、Sdrの平均二乗誤差が0.0003であり、Sdqの平均二乗誤差が0.0868であった。
【0019】
[実施例5]
実施例5は、薬品Dを用いて銅表面を処理した例である。入力画像G1が、SEM画像ではなく、光学カメラで撮像したカメラ画像である。カメラ画像は、黒色の背景を分離する処理のみを行っている。カメラ画像に含まれるRGB成分ごとに3つの単色画像に分け、3つの単色画像を予測モデル21に入力する。物性値は、表面粗さRa(算術平均)とした。960組のデータを用い、半数を教師データとし、残り半数を予測データに用いている。平均二乗誤差は0.0153であった。
なお、RGB成分を有するカメラ画像をグレースケール画像に変換して、グレースケール画像の強度(明度)を予測モデル21に入力することも可能である。グレースケール画像を入力した場合と、RGB成分ごとに3つの単色画像を入力した場合に特筆すべき違いが見受けられなかったので、実施例5では、RGB成分の方を用いた。
【0020】
[実施例6]
実施例6は、実施例5と同様にカメラ画像を入力画像G1としている。薬品Dを用いて銅表面を処理した例である。物性値は、CIE1976 明度指数L*とした。320組のデータを用い、半数を教師データとし、残り半数を予測データに用いている。平均二乗誤差は11.05であった。L*は、JISZ 8781-4に準拠している。
【0021】
[実施例7]
実施例7は、実施例5と同様にカメラ画像を入力画像G1としている。薬品Dを用いて銅表面を処理した例である。物性値は、CIE1976 色空間における色座標a*とした。320組のデータを用い、半数を教師データとし、残り半数を予測データに用いている。平均二乗誤差は0.0062であった。a*は、JISZ 8781-4に準拠している。
【0022】
[実施例8]
実施例8は、実施例5と同様にカメラ画像を入力画像G1としている。薬品Dを用いて銅表面を処理した例である。物性値は、CIE1976 色空間における色座標b*とした。320組のデータを用い、半数を教師データとし、残り半数を予測データに用いている。平均二乗誤差は0.1294であった。b*は、JISZ 8781-4に準拠している。
【0023】
[素材の物性値の予測方法]
上記予測システム2が実行する、素材の物性値の予測方法を、
図4を用いて説明する。
【0024】
まず、ステップST1において、画像取得部20は、予測対象の素材を撮像した予測対象画像を取得する。第1実施形態では、SEM画像かカメラ画像を取得する。次のステップST2,3において、取得した予測対象画像を予測モデル21に入力して素材に関する物性値を出力する。具体的には、ステップST2において、特徴量マップ出力部21aは、予測対象画像が入力されて特徴量マップG2を出力する。ステップST3において、変換部21bは、特徴量マップG2を素材に関する物性値に変換する。
【0025】
<変形例>
(1-1)
図1に示す実施形態において、予測モデル21は、特徴量マップG2を出力する特徴量マップ出力部21aで構成されているが、特徴量マップを出力せずに、物性値を出力するモデルであってもよい。例えば、ニューラルネットワークの一種であるResNetを使用してもよい。もちろん、画像を処理可能な非線形モデルであれば利用可能である。
【0026】
(1-2)上記実施形態において、物性値を予測する予測対象の素材は、薬品(エッチング剤、研磨液(化学、電解))などによる化学的反応処理により表面処理を施した金属(銅)の表面であるが、均一で微細な表面形状を持つ素材であれば、これに限定されない。例えば、研磨や圧延、レーザーなどの外力を作用させる機械加工処理により表面処理を施した金属表面であってもよい。各種顔料を分散・混合した塗料の塗装面であってもよい。またこの場合の塗料の性状(液体、粉体等)は限定されない。電解メッキ、無電解メッキ等によりメッキ処理した金属の表面であってもよい。添加剤を添加・分散させて成形加工を行ったフィルムの表面であってもよい。インク受容のための塗工層やその他機能性を与える塗工層を有した紙表面であってもよい。素材は限定されないが、カレンダー成形やエンボス成形等を用いて成形加工された素材表面であってもよい。
【0027】
(1-3)上記実施形態において、素材に関する物性値として、密着強度を挙げているが、これに限定されない。例えば、密着性、接合性、気密性、撥水性、撥油性、防汚性、摺動性、表面性(光沢、粗度)、色調、感触、熱物性、抗菌性、伝送損失に関する物性値であってもよい。
【0028】
(1-4)上記実施形態において、素材画像の対象としてSEM及びカメラにより取得した金属表面の画像を挙げているが、これに限定されない。波形やスペクトル、マッピンク画像、数字等、画像として取り込めるデータも対象となりえる。例として、顕微分光法(赤外、ラマン、UV-Vis等)やエネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)、また、非破壊検査に使用するような超音波検査により得られるスペクトルやそれを用いたマッピング画像等が挙げられる。
【0029】
以上のように、第1実施形態の物性値予測方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、予測対象の素材を撮像した予測対象画像G1を取得し、素材を撮像した画像を説明変数として素材に関する物性値(Y)を出力するように機械学習された予測モデルに対して、予測対象画像G1を入力して予測対象画像G1に写る素材に関する物性値(Y)を予測値として出力する、としてもよい。
このように、機械学習された予測モデル21を用いて予測対象画像G1に写る素材(金属)に関する物性値を予測できるので、試験などで物性値を計測する場合に比べて、金銭コストや時間コストを削減可能となる。
【0030】
特に限定されないが、第1実施形態のように、予測モデル21は、入力される画像G1から特徴量マップG2を出力する特徴量マップ出力部21aと、特徴量マップG2を予測値に変換する変換部21bと、を有する、としてもよい。
これにより、特徴量マップG2から予測値が得られるので、予測モデル21が予測する根拠を特徴量マップG2で説明する試みが可能となる。
【0031】
特に限定されないが、第1実施形態のように、撮像される前記素材は、表面処理を施した金属の表面、塗料の塗装面、メッキ処理した金属の表面、フィルムの表面、紙表面、及び成形加工された素材表面のいずれかである、としてもよい。好適な一例である。
【0032】
第1実施形態に係るシステムは、上記方法を実行する1又は複数のプロセッサを備える。
第1実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0033】
以上、本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0034】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の学習システム1及び予測システム2を示すブロック図である。第2実施形態は、第1実施形態に比べて予測システム2の構成が異なっている。具体的には、第2実施形態の予測システム2は、第1実施形態の予測システム2に対して、特定部23、抽出部24及び重合画像出力部25を追加している。特定部23、抽出部24及び重合画像出力部25はプロセッサ2aにより実現される。
【0035】
図5に示すように、メモリ2bには、複数の予測対象画像と、各々の予測対象画像に写る素材の既知の実測値である物理量(X)とが関連付けられて記憶されている。画像取得部20は、メモリ2bに記憶されている複数の予測対象画像をそれぞれ予測モデル21(特徴量マップ出力部21a及び変換部21b)に入力する。予測モデル21が算出した予測物性値(Y)及び特徴量マップ出力部21aが出力した特徴量マップは、メモリ2bにおいて予測対象画像及び実測物性値(X)に関連付けて記憶される。
【0036】
図5に示す特定部23は、メモリ2bに記憶されている複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像についての予測結果から予測不良画像と予測良好画像とを特定する。予測不良画像は、実測値と予測値の誤差が第1閾値以上の画像である。
図6は、
図3に示す予測対象画像群とは異なる予測対象画像群の予測値と実測値の組み合わせのデータをプロットした図であり、横軸が実測密着強度[N/mm]であり、縦軸が予測した密着強度[N/mm]である。
図6に示すように、予測物性値(予測密着強度)と実測物性値(実測密着強度)とが一致する箇所が斜線で示されており、斜線に近いデータ(プロット点)が予測良好画像であり、斜線から遠いデータ(プロット点)が予測不良画像である。予測対象画像の予測精度は、プロット点から斜線に対する垂線の長さで表現できる。垂線の長さが長ければ、予測物性値と実測物性値の差が大きく、予測不良画像と判定でき、垂線の長さが短ければ、予測物性値と実測物性値の差が小さく、予測良好画像と判定できる。人の目でみて、斜線に相対的に近い予測良好画像と、斜線から相対的に遠い予測不要画像とを選択してもよいが、プログラムで自動選択も可能である。特定部23は、実測値と予測値の誤差(垂線の長さ)が第1閾値以上の画像を予測不良画像と特定し、実測値と予測値の誤差(垂線の長さ)が第2閾値以下の画像を予測良好画像と特定する処理を実行可能に構成されている。第2閾値は第1閾値よりも小さい。第1閾値及び第2閾値は、固定値でもよいし、可変であってもよい。例えば、実測値と予測値の誤差の最大値に応じて第1閾値及び第2閾値を設定してもよい。第1閾値を最大誤差の100%以下且つ90%以上とし、第2閾値を最大誤差の0%以上且つ10%以下に設定してもよい。また、実測値と予測値の誤差が最大である画像を予測不良画像と特定し、実測値と予測値の誤差が最小である画像を予測良好画像としてもよい。
【0037】
図6は、予測値と実測値の組み合わせのデータをプロットした図であり、予測不良画像G3及び予測良好画像G4を特定した例を示す図である。
図6に示すように、特定部23が、複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像について、実測値と予測値の誤差が最大となる画像を予測不良画像G3と特定し、実測値と予測値の誤差が最小とみなせる画像を予測良好画像G4と特定している。実測物性値が同程度とは、
図6においてグレーで塗りつぶして示すように、実測物性値が同一でなくても、所定範囲内にあればよいことを意味する。所定範囲は、データの分散具合を考慮して適宜設定可能である。
図7は、予測不良画像G3(SEM画像)を示す。
図8は、予測良好画像G4(SEM画像)を示す。
図9は、予測不良画像G3(SEM画像)から得た特徴量マップを画像として示す。
図10は、予測良好画像G4(SEM画像)から得た特徴量マップを画像として示す。
図7~
図10を人が見ても、予測精度に差が生じた理由を理解することが難しい。
【0038】
図11は、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(ヒストグラム)と、予測良好画像G4の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(ヒストグラム)とを示す図である。
図11の横軸は特徴量を示し、同図の縦軸はピクセル数(つまり頻度)を示している。
図11の実線が予測不良画像G3のヒストグラムであり、同図の破線が予測良好画像G4のヒストグラムである。
図11を見ると、双方の特徴量マップの特徴量の分布が似ており、銅表面のSEM画像の特徴を示していると考えられるが、若干の相違がある。本実施例では、特徴量が-1以上且つ1以下の範囲に大きな頻度分布の差がみられる。これらの特徴量群(特徴量が-1以上且つ1以下)を予測不良の要因を示す特徴量群として抽出した。なお、人の目でみて相違が大きい特徴量群を抽出してもよいし、プログラムで自動的に抽出してもよい。具体的には、2つのヒストグラムで形成される閉領域毎に、2つのヒストグラムの差の積分値を算出し、最も積分値が大きい範囲の特徴量群を抽出することが考えられる。
【0039】
すなわち、抽出部24は、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(
図11の実線)と、予測良好画像G4の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布(
図11の破線)との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出可能である。
図12は、予測不良画像G3の特徴量マップのうち、抽出した特徴量群のみを示す図である。
図13は、予測良好画像G4の特徴量マップのうち、抽出した特徴量群のみを示す図である。
図12及び
図13では、抽出した特徴量部分を黒で示し、それ以外を色で示している。特徴量マップはそれぞれ元の予測不良画像G3及び予測良好画像G4と同じサイズの画像であるか、アスペクト比が同じであることが多く、特徴量マップをそのまま又は拡大処理することで元の画像と位置関係を対応させることができ、抽出した特徴量群が存在する元の画像の部分が予測精度に影響を与えていると理解できる。よって、
図12,13と元のSEM画像を照らし合わせることで、予測不良の要因の追求に利用可能となり、予測精度に関する説明が可能になる場合がある。
【0040】
重合画像出力部25は、抽出部24が抽出した特徴量群の位置を、予測不良画像G3又は予測良好画像G4の少なくとも一方に重ねて表示する重合画像を出力する。
図14は、予測不良画像G3に、抽出した特徴量群の位置を重ねて表示する重合画像の一例を示す図である。
図15は、予測良好画像G4に、抽出した特徴量群の位置を重ねて表示する重合画像の一例を示す図である。特徴量群の位置は、色で示してもよいし、その他のマークで示してもよい。
これにより、予測対象画像と特徴量群の位置を一度に視認可能となり、有用である。
【0041】
第2実施形態の上記予測システム2が実行する、素材の物性値の予測方法を、
図16を用いて説明する。
【0042】
まず、ステップST101において、予測部22は、素材の物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、複数の予測対象画像それぞれの素材の物性値の予測値及び特徴量マップを出力する。
次のステップST102において、特定部23は、複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、実測値と予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像G3と、実測値と予測値の誤差が第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像G4とを特定する。
次のステップST103において、抽出部24は、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、予測良好画像G4の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する。
次のステップST104において、重合画像出力部25は、特徴量群の位置を、予測不良画像G3又は予測良好画像G4の少なくとも一方に重ねて表示する重合画像を出力する。
【0043】
以上のように、第2実施形態の物性値予測方法は、1又は複数のプロセッサが実行する方法であって、素材を撮像した画像から特徴量マップを出力する特徴量マップ出力部21aと、特徴量マップを素材に関する物性値に変換する変換部21bとを有し素材を撮像した画像を説明変数として物性値を出力するように機械学習された予測モデル21に対して、物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、複数の予測対象画像それぞれの予測値及び特徴量マップを出力し、複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、実測値と前記予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像G3と、実測値と予測値の誤差が第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像G4とを特定し、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、予測良好画像G4の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する、としてもよい。
このようにすれば、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、前記予測良好画像の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差が大きい特徴量群は、予測不良の要因を表す可能性が高いため、予測不良の要因の追求に利用可能となり、予測精度に関する説明を可能とする可能性を提供できる。
【0044】
特に限定されないが、第2実施形態のように、特徴量群の位置を、予測不良画像G3又は予測良好画像G4の少なくとも一方に重ねて表示する重合画像を出力する、としてもよい。
このようにすれば、特徴量群を、予測不良画像又は予測良好画像に重ねて視認可能であるので、有用である。
【0045】
特に限定されないが、第2実施形態のように、撮像される前記素材は、表面処理を施した金属の表面、塗装した塗料の表面、メッキした金属の表面、フィルム表面、及び紙表面のいずれかである、としてもよい。好適な一例である。
【0046】
第2実施形態に係るシステムは、上記方法を実行する1又は複数のプロセッサを備える。
第2実施形態に係るプログラムは、上記方法を1又は複数のプロセッサに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0047】
[変形例]
(2-1)第2実施形態では、重合画像出力部25が設けられているが、重合画像出力部25は省略可能である。
【0048】
(2-2)第2実施形態では、表面処理を施した銅表面を撮像したSEM画像と、密着強度を予測する例で説明しているが、撮像対象の素材は第1実施形態と同様に種々変更可能である。また、予測対象の物性値も第1実施形態と同様に種々変更可能である。
【0049】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0050】
例えば、特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現できる。特許請求の範囲、明細書、および図面中のフローに関して、便宜上「まず」、「次に」等を用いて説明したとしても、この順で実行することが必須であることを意味するものではない。
【0051】
図1に示す各部は、所定プログラムを1又は複数のプロセッサで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。上記実施形態のシステム1(2)は、一つのコンピュータのプロセッサ1a(2a)において各部が実装されているが、各部を分散させて、複数のコンピュータやクラウドで実装してもよい。すなわち、上記方法を1又は複数のプロセッサで実行してもよい。
【0052】
システム1(2)は、プロセッサ1a(2a)を含む。例えば、プロセッサ1a(2a)は、中央処理ユニット(CPU)、マイクロプロセッサ、またはコンピュータ実行可能命令の実行が可能なその他の処理ユニットとすることができる。また、システム1(2)は、システム1(2)のデータを格納するためのメモリ1b(2b)を含む。一例では、メモリ1b(2b)は、コンピュータ記憶媒体を含み、RAM、ROM、EEPROM、フラッシュメモリまたはその他のメモリ技術、CD-ROM、DVDまたはその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージまたはその他の磁気記憶デバイス、あるいは所望のデータを格納するために用いることができ、そしてシステム1がアクセスすることができる任意の他の媒体を含む。
【符号の説明】
【0053】
G1…予測対象画像
G2…特徴量マップ
2…予測システム
20…画像取得部
21…予測モデル
21a…特徴量マップ出力部
21b…変換部
22…予測部
23…特定部
24…抽出部
25…重合画像出力部
【要約】
【課題】機械学習を用いて素材の物性値を予測する予測モデルについて、予測精度に関する説明の可能性を提供する。
【解決手段】物性値予測方法は、機械学習された予測モデル21に対して、物性値の実測値が既知である複数の予測対象画像を入力して、複数の予測対象画像それぞれの予測値及び特徴量マップを出力し、複数の予測対象画像のうち、実測物性値が同程度の画像の予測結果から、実測値と前記予測値の誤差が第1閾値以上の予測不良画像G3と、実測値と予測値の誤差が第1閾値よりも小さい第2閾値以下の予測良好画像G4とを特定し、予測不良画像G3の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布と、予測良好画像G4の特徴量マップを構成する複数の特徴量の頻度分布との差に基づいて、予測不良の要因を表す特徴量群を抽出する。
【選択図】
図5