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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】光配向膜用ワニス及び液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20220523BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G02F1/1337 525
C08G73/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016141379
(22)【出願日】2016-07-19
(65)【公開番号】P2018013532
(43)【公開日】2018-01-25
【審査請求日】2019-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502356528
【氏名又は名称】株式会社ジャパンディスプレイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】園田 英博
(72)【発明者】
【氏名】廣田 武徳
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 安
(72)【発明者】
【氏名】國松 登
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/104514(WO,A1)
【文献】特開2015-148747(JP,A)
【文献】特開2016-066053(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035593(WO,A1)
【文献】特開平9-302225(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横電界方式の液晶表示装置を構成する基板に塗布され、イミド化と紫外線の照射により配向膜となる光配向膜用ワニスであって、
有機溶媒と、イミド化促進剤と、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物とを含み、
前記イミド化促進剤は、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含まない骨格を有し、かつ、130以上の分子量を有する、ピリジン系化合物又はキノリン系化合物であり、
前記第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有することを特徴とする光配向膜用ワニス。
【請求項2】
前記イミド化促進剤が、アミン反応性骨格を有することを特徴とする請求項1に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項3】
前記アミン反応性骨格は、ハロゲン基、ジアゾ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、又は酸無水物骨格のいずれかであることを特徴とする請求項2に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項4】
前記第1ポリアミド酸系化合物が、下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Xは、環式基であり、R及びRは、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)であり、Yは、有機基である)で表される構造単位を有することを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項5】
前記末端骨格が、イミド骨格、アミド骨格、ウレア骨格、第三級アミノ骨格、アゾ結合又はカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項6】
前記末端骨格は、封止材により化学修飾、又は、封止された後にイミド化されることを特徴とする請求項5に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項7】
ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第2ポリアミド酸系化合物をさらに含み、前記第1ポリアミド酸系化合物は、前記第2ポリアミド酸系化合物よりも高い極性を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項8】
前記第2ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有することを特徴とする請求項7に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項9】
前記第1ポリアミド酸系化合物は、下記式(2)
【化2】
(式(2)中、Arは、芳香族基であり、Ar及びArは、それぞれ独立に、芳香族基であり、Zは、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含有しない有機基である)のジアミンを用いて製造され、
前記第2ポリアミド酸系化合物は、下記式(3)
【化3】
(式(3)中、Arは、芳香族基であり、Ar及びArは、それぞれ独立に、芳香族基であり、Zは、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含有しない有機基である)のジアミンを用いて製造されることを特徴とする請求項7又は8に記載の光配向膜用ワニス。
【請求項10】
請求項1から請求項9までに記載の光配向膜用ワニスのイミド化物を含む配向膜を備える液晶表示装置。
【請求項11】
請求項1から請求項9までに記載の光配向膜用ワニスを用いて光配向膜を形成する工程と、前記光配向膜を有機溶媒又は酸化性溶媒を用いて洗浄をする工程とを有することを特徴とする光配向膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向膜用ワニス及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、画素電極及び薄膜トランジスタ(TFT)等がマトリクス状に形成されたアレイ基板と、アレイ基板と離間対向して配置された、カラーフィルタ等が形成された対向基板を備える。アレイ基板と対向基板の間には液晶が封入されている。
【0003】
液晶は、アレイ基板及び対向基板にそれぞれ設けられた配向膜により、配向される。配向膜として、ポリイミド膜が使用されることが多い。ポリイミド膜は、ポリアミド酸を230℃以上の高温で焼成して得られているが、高温焼成により得られたポリイミド膜は、膜の着色による透過率の低下が大きい。そこで、ポリアミド酸をアミン系イミド化促進剤の存在下にイミド化させることが行われている(例えば、特許文献1~4参照)。イミド化促進剤を用いたイミド化は比較的低温で行うことができ、したがって得られるポリイミドの着色もほとんどない。
【0004】
ところで、配向膜を配向処理する方法として、近時、ラビング処理に加えて、配向膜に非接触で配向制御能を付与する光配向法が採用されている。光配向法は、254nmから365nm領域の短波長紫外光を膜に照射して配向を行わせるものである。光配向処理では、偏光が照射されたポリイミド膜が、偏光方向と平行する方向で主鎖が切断され、偏光方向と直交する方向に一軸異方性が付与される。液晶分子は、切断されずに直線上に伸びて残った長い主鎖方向に沿って配向する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-56956号公報
【文献】特開平9-302225号公報
【文献】国際公開第2012/176822号
【文献】国際公開第2013/054858号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光配向処理したポリイミド配向膜(光配向ポリイミド膜)を組み込んだ液晶表示装置を点灯し、表示を行わせると、点灯時間の経過につれて光配向ポリイミド膜がバックライト光により励起されて光起電力を発生させるようになり、光配向ポリイミド膜に電荷が蓄積し、残像(DC残像)が生じてしまうということが本発明者らにより確認された。
【0007】
近年、画素電極の電圧保持率を高めるために、配向膜の高抵抗化が求められている。しかし、高抵抗配向膜に光配向プロセスを実施した場合に限り、特異的なDC残像現象が発生することが判明した。この現象は、液晶表示装置の連続点灯時に液晶セルに配向膜のフォトチャージ電荷によってDC電圧が発生することにより、画素電極への電圧の供給を止めても画像の残像が消失しないことが分かった。検討した結果、光配向プロセスでは短波長UVを照射して配向処理を行うが、このプロセスの前後で、配向膜の吸収波長の変化が確認された。具体的には、バックライト発光波長範囲の450nm以下の紫外線領域にわずかに吸収を持つようになった。詳細な原因を検討したところ、配向膜の化学構造の末端にある第一級アミンが原因物質であると推察している。原因となる作用は定かではないが、第一級アミンが光配向プロセスの過程で変位をし、これによって配向膜の吸収波長が変化していることと推察している。この現象は、第一級又は第二級アミン骨格を有するイミド化促進剤を用いたイミド化により得られたポリイミド膜においても生じることが確認された。
【0008】
本発明の課題は、液晶表示装置にDC残像を生じさせないか、DC残像を生じさせても短時間で消失させ得る光配向膜を形成するためのワニスを提供することである。
【0009】
本発明の他の課題は、上記光配向膜を備える液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の側面によれば、有機溶媒中に、イミド化促進剤と、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物とを含み、前記イミド化促進剤は、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含まない骨格を有し、前記第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有することを特徴とする光配向膜用ワニスが提供される。
【0011】
本発明の第2の側面によれば、有機溶媒中に、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物を含み、イミド化促進剤の含有量が、1.0質量%未満であり、第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有し、かつ下記式(7):
【化1】
【0012】
(式(7)中、Lは、芳香族化合物基であり、I)Yは、熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、及びYは、H、若しくは熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、又は、II)Y及びYは、互いに結合して窒素を含む環式基を形成している)で表されるジアミン骨格を有することを特徴とする光配向膜用ワニスが提供される。
【0013】
本発明の第3の側面によれば、本発明の光配向膜用ワニスのイミド化物を含む配向膜を備える液晶表示装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る液晶表示装置の表示パネルを部分的に示す概略断面図である。
図2図1の液晶表示装置における画素電極を部分的に示す平面図である。
図3】本発明の実施形態による二層構造の配向膜の構成を示す斜視図である。
図4】DC残像の検査パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、アミン系の促進剤を用いてイミド化したポリイミド膜のDC残像について鋭意検討した。その結果、1)用いるイミド化促進剤に第一級アミノ基及び第二級アミノ基以外の骨格を持たせる又はイミド化促進剤を使わないこと、及び2)ポリイミドの両末端に第一級アミノ基以外の基を持たせることによって、DC残像を生じさせないか、生じたとしても短時間で消失させることができることを見いだした。ポリイミドの両末端に第一級アミノ基以外の基を持たせることは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸又はポリアミド酸エステル(通常、ワニスの形態で提供される)の両末端に第一級アミノ基以外の基を持たせることによって達成することができる。
【0016】
[第1の側面に係る形態]
すなわち、本発明の第1の側面に係る光配向膜用ワニスは、有機溶媒中に、イミド化促進剤と、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物とを含む。第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有する。イミド化促進剤は、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含まない骨格を有する。
【0017】
いくつかの実施形態において、第1の側面に係る光配向膜用ワニスは、有機溶媒中に、イミド化促進剤と、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物とを含み、第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有し、イミド化促進剤は、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含まない骨格を有する。
【0018】
[イミド化促進剤]
イミド化促進剤は、第1ポリアミド酸系化合物に対する脱水閉環反応を促進する。
【0019】
いくつかの実施形態において、イミド化促進剤は、ピリジン系化合物、キノリン系化合物、イソキノリン系化合物、イミダゾ-ル系化合物、若しくはベンゾイミダゾ-ル系化合物、又は第三級アミンである。
【0020】
ピリジン系化合物は、ピリジン骨格を有する化合物であり、キノリン系化合物、イソキノリン系化合物、イミダゾ-ル系化合物及びベンゾイミダゾ-ル系化合物は、それぞれキノリン骨格、イソキノリン骨格、イミダゾ-ル骨格及びベンゾイミダゾ-ル骨格を有する化合物である。
【0021】
第三級アミンは、脂肪族系第三級アミン、芳香族系第三級アミン若しくは複素環式第三級アミン、又はアルキル置換体等の誘導体を含む。
【0022】
脂肪族系第三級アミンの例は、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリシクロペンチルアミン、トリヘキシルアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン等である。
【0023】
芳香族系第三級アミンの例は、N,N-ジメチルアニリンである。
【0024】
複素環式第三級アミンの例は、ピリジン、β-ピコリン、キノリン、イソキノリン、ジピリジン、ジキノリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、フタラジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、ナフチリジン、アクリジン、フェナントリジン、ベンゾキノリン、ベンゾイソキノリン、ベンゾシンノリン、ベンゾフタラジン、ベンゾキノキサリン、ベンゾキナゾリン、フェナントロリン、フェナジン、トリアジン、テトラジン、プテリジン、オキサゾール、ベンゾオキサゾール、イソオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、ベンゾイソキノリジン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ヒドロキシピリジン等である。
【0025】
いくつかの実施形態において、イミド化促進剤は、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、β-ピコリン、キノリン、イソキノリン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン等の第三級アミン、又はその誘導体であることが好ましい。また、誘導体としては、アルキル置換体であることが好ましい。
【0026】
いくつかの実施形態において、イミド化促進剤はアミン反応性骨格を有する。
【0027】
アミン反応性骨格は、例えば、ハロゲン基、ジアゾ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、又は酸無水物骨格のいずれかである。
【0028】
アミン反応性骨格を有するイミド化促進剤の例は、ジメチルグリシン、ピコリン酸、ニコチン酸、5-ブチルピコリン酸等である。
【0029】
アミン反応性骨格は、イミド化の際に、第1ポリアミド酸系化合物の両末端以外の部位に存在し得る第一級アミン部位及び第1ポリアミド酸系化合物に存在し得る第二級アミン部位と反応してアミドを生成する。それによって、第一級、第二級アミンに起因して発生するDC残像の実質的な消失をより一層確実なものとすることができる。
【0030】
いくつかの実施形態において、イミド化促進剤は、130以上の分子量を有する。
【0031】
光配向ポリイミド膜中に存在する130以上の分子量を有するイミド化促進剤は、そのイオン重量故に、一般的な液晶駆動(1Hz~120Hz)に対して応答しにくい。そのため、長時間駆動による表示装置中の特定部位へのイオンの集積速度を遅くすることが可能となり、表示むらが発生するまでの時間、及び表示装置としての寿命を延ばすことができる。
【0032】
また、光配向膜用ワニス中のイミド化促進剤の含有量は、5質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上である。
【0033】
[第1ポリアミド酸系化合物]
いくつかの実施形態において、第1ポリアミド酸系化合物は、下記式(1):
【化2】
【0034】
(式(1)中、Xは、環式基であり、R及びRは、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)であり、Yは、有機基である)で表される構造単位を有する。
【0035】
なお、-COOR構造を有するポリアミド酸エステルは、ポリアミド酸に、例えばN,N-ジメチルホルムアミドジアルキルアセタールを反応させることによって製造することができる。あるいは、ポリアミド酸エステルは、特開2000-273172号公報に記載された方法によっても製造することができる。
【0036】
一つの実施形態において、Xは、脂環式基、例えば置換又は無置換のシクロブタン基である。別の実施形態において、Xは、ベンゼン環又はベンゼン環を含む基であり、ベンゼン環は、アルキル基等によって置換されていてもよい。Xは、脂環式基であることが好ましい。
【0037】
いくつかの実施形態において、第1ポリアミド酸系化合物は、下記式(2)で示されるジアミン骨格を有する。
【化3】
【0038】
式(2)において、Mは、有機基であり、例えば環式基を含む基である。いくつかの実施形態において、Mは、Ar又はAr-Z-Arであり、ここで、Arは、芳香族基であり、Ar及びArは、それぞれ独立に、芳香族基であり、Zは、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含有しない有機基である。Ar、Ar又はArによって表される芳香族基の例は、ベンゼン環又はベンゼン環を含む基である。Zは、例えば、酸素、窒素、硫黄、炭素及び水素、又はそれら2つ以上の組合せから構成される。Zは、ヒドロキシル基、チオール基及び第三級を除くアミノ基(-NH又は>NH)を有しない。
【0039】
いくつかの実施形態において、第1ポリアミド酸系化合物の末端骨格は、イミド骨格、アミド骨格、ウレア骨格、第三級アミノ骨格、アゾ結合又はカルボキシル基を有する。
【0040】
いくつかの実施形態において、第1ポリアミド酸系化合物の両末端骨格は、それぞれ、下記式(3):
【化4】
【0041】
(式(3)中、Yは、H、S又は有機基であり、かつYは、脂肪族基又は芳香族基であり、又はY及びYは、互いに結合して環式基(例えばイミド)を形成している)で表されるか、下記式(4):
【化5】
【0042】
(式(4)中、Yは、有機基である)で表されるか、又は下記式(5):
【化6】
【0043】
(式(5)中、Xは、前記の通りであり、R及びRは、互いに独立に、水素又はアルキル基である)で表される。
【0044】
ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを常法により反応させることによって製造することができる。
【0045】
テトラカルボン酸二無水物は、下記式(A)で示すことができる。
【化7】
【0046】
式(A)において、Xは、前記式(1)に関して定義した通り、環式基である。
【0047】
Xとして置換又は無置換のシクロブタン基を有するテトラカルボン酸二無水物は、下記式(B)で示すことができる。
【化8】
【0048】
式(B)において、各Rは、それぞれ独立に、水素又はアルキル基である。アルキル基の例は、1個~6個の炭素原子を有するアルキル基である。アルキル基としては、メチル基が特に好ましい。
【0049】
Xとしてベンゼン環を有するテトラカルボン酸二無水物の例は、ピロメリット酸である。
【0050】
テトラカルボン酸二無水物としては、式(B)で示されるテトラカルボン酸二無水物が好ましい。
【0051】
[ジアミン]
上記テトラカルボン酸二無水物と反応させるジアミンは、2個の第一級アミノ基を有する有機化合物である。ジアミンは、下記式(C)で示すことができる。
【化9】
【0052】
式(C)において、Mは、上記式(2)に関して定義した通りである。
【0053】
式(C)で示されるジアミンには、脂環式ジアミン、複素環式ジアミン、脂肪族ジアミン及び芳香族ジアミンが含まれる。
【0054】
脂環式ジアミンの例は、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルアミン、イソホロンジアミン等である。
【0055】
複素環式ジアミンの例は、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノ-1,3,5-トリアジン、2,7-ジアミノジベンゾフラン、3,6-ジアミノカルバゾール、2,4-ジアミノ-6-イソプロピル-1,3,5-トリアジン、2,5-ビス(4-アミノフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール等である。
【0056】
脂肪族ジアミンの例は、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,3-ジアミノ-2,2-ジメチルプロパン、1,6-ジアミノ-2,5-ジメチルヘキサン、1,7-ジアミノ-2,5-ジメチルヘプタン、1,7-ジアミノ-4,4-ジメチルヘプタン、1,7-ジアミノ-3-メチルヘプタン、1,9-ジアミノ-5-メチルヘプタン、1,12-ジアミノドデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,2-ビス(3-アミノプロポキシ)エタン等である。
【0057】
芳香族ジアミンの例は、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン、3,5-ジアミノトルエン、1,4-ジアミノ-2-メトキシベンゼン、2,5-ジアミノ-p-キシレン、1,3-ジアミノ-4-クロロベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,4-ジアミノ-2,5-ジクロロベンゼン、4,4’-ジアミノ-1,2-ジフェニルエタン、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビベンジル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’―ジメチルジフェニルメタン、2,2’-ジアミノスチルベン、4,4’-ジアミノスチルベン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,5-ビス(4-アミノフェノキシ)安息香酸、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビベンジル、2,2-ビス[(4-アミノフェノキシ)メチル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフロロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、α、α’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフロロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフロロプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、2,4-ジアミノジフェニルアミン、1,8-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノアントラキノン、1,3-ジアミノピレン、1,6-ジアミノピレン、1,8―ジアミノピレン、2,7-ジアミノフルオレン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)テトラメチルジシロキサン、ベンジジン、2,2’-ジメチルベンジジン、1,2-ビス(4-アミノフェニル)エタン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェニル)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェニル)ヘプタン、1,8-ビス(4-アミノフェニル)オクタン、1,9-ビス(4-アミノフェニル)ノナン、1,10-ビス(4-アミノフェニル)デカン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,6-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘキサン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、1,8-ビス(4-アミノフェノキシ)オクタン、1,9-ビス(4-アミノフェノキシ)ノナン、1,10-ビス(4-アミノフェノキシ)デカン、ジ(4-アミノフェニル)プロパン-1,3-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)ブタン-1,4-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)ペンタン-1,5-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)ヘキサン-1,6-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)ヘプタン-1,7-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)オクタン-1,8-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)ノナン-1,9-ジオエート、ジ(4-アミノフェニル)デカン-1,10-ジオエート、1,3-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕プロパン、1,4-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕ブタン、1,5-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕ペンタン、1,6-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕ヘキサン、1,7-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕ヘプタン、1,8-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]オクタン、1,9-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ〕ノナン、1,10-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]デカン等である。さらに、芳香族ジアミンの例を以下に示す(以下の例において、nは、1~10の整数である)。
【化10】
【0058】
【化11】
【0059】
上記芳香族ジアミンは、下記式(D)又は式(E)で表すことができる。
【化12】
【0060】
【化13】
【0061】
式(D)及び(E)において、Ar、Ar及びAr、並びにZは、上記式(2)に関して定義した通りである。式(D)に示されるアミンによって生成された配向膜は光配向性が高く、第2ポリアミド酸系化合物の生成に用いると好ましい。また式(E)で示されるアミンによって生成された配向膜は、チオール基及びヒドロキシル基がないため水素結合の影響が小さく高抵抗になりやすい。また、このアミンは、Z内に第三級を除くアミノ基(-NH又は>NH)を有しておらず、DC残像も抑制できるため、第1ポリアミド酸系化合物の生成に用いると好ましい。なお、アミド結合は、第二級アミノ基とは化学性質が異なるため区別されている。つまり、Z内にアミド結合を有するアミンは除かれていない。
【0062】
[ポリアミド酸系化合物の末端骨格]
本発明の第1ポリアミド酸系化合物は、上述の通り、末端骨格が式(3)、(4)又は(5)の何れかであることが好ましい。
【0063】
テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応において、ジアミンをテトラカルボン酸二無水物よりもやや過剰に(例えば、テトラカルボン酸二無水物の1.1~1.5倍モル量)用いると、第一級アミノ基を両末端に有するポリアミド酸系化合物が、いいかえると末端骨格として第一級アミンを有するポリアミド酸系化合物が、生成する。
【0064】
両末端に第一級アミノ基を有するポリアミド酸又はポリアミド酸エステルの両末端第一級アミノ基を化学修飾することによって、第1ポリアミド酸系化合物を得ることができる。この化学修飾は、第一級アミノ基の封止である。
【0065】
末端第一級アミノ基を化学修飾する方法として、アミド化がある。このための封止剤(アミド化剤)として、1分子中に1個のハロゲン化カルボニル基を有する化合物、すなわち一官能酸ハライドを用いることができる。ハライドは、クロリド、ブロミド、フルオリドが含まれる。一官能酸ハライドの例は、ベンゾイルクロリド、アセチルクロリド、プロピオニルクロリド、アクリロイルクロリド、メタクリロイルクロリド、トシルクロリド等を含む。
【0066】
また、アミド化する別の封止材として、1分子中に1個の酸無水物を有する化合物、すなわち一官能酸無水物を用いてもよい。一官能酸無水物の例は、フタル酸無水物、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、トリメリット酸無水物、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物、シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物等である。これらの化合物で末端第一級アミノ基を化学修飾した場合、通常配向膜用ワニスとしては、末端部位はポリアミド酸系化合物の状態となる。その後にこの化合物を製膜して焼成する際にイミド化する。
【0067】
また、アミド化する別の方法として、アミド酸エステルにしてもよい。末端をアミド酸エステル化させるためには、カルボキシル基や酸ハライド(ハロゲン化したカルボキシル基)のようなアミン反応性基と、エステル骨格を有する公知の芳香族化合物を封止剤として用いればよい。また、末端を上述の方法でアミド酸の状態にした化合物を、例えばN,N-ジメチルホルムアミドジアルキルアセタールを反応させることによってもアミド酸エステルにすることができる。これらの化合物で末端第一級アミノ基を化学修飾させた場合、通常、配向膜用ワニスとしては、末端部位はポリアミド酸エステルの状態となる。そして、その後、末端部位は製膜して焼成する際にイミド化する。
【0068】
また、配向膜用ワニスとして末端がイミド化された状態であってもよい。イミド化された末端を得る場合は、アミド酸又はアミド酸エステルにして封止した化合物を、加熱して脱水縮合させればよい。
【0069】
なお、アミド化、イミド化以外の方法での化学修飾であってもよく、例えばアゾ化、ウレア化、第三級アミノ化でもよい。
【0070】
アゾ化には、封止剤(アゾ化剤)の例として、ジアゾニウム塩系のジアゾカップリング剤が挙げられる。ウレア化には、封止剤として、イソシアナート系の材料を用いることができる。イソシアナートの例は、フェニルイソシアナート、ナフチルイソシアナート等である。第三級アミノ化には、封止剤(第三級アミノ化剤)として、ハロゲン基(特に塩素)又はヒドロキシル基を有する化合物を用いることができる。なお、上記に記載をした封止剤以外の材料で、アゾ化、ウレア化、第三級アミノ化してもよい。
【0071】
他の実施形態において、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有するポリアミド酸系化合物は、上記テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応において、テトラカルボン酸二無水物をジアミンよりも多く(例えば、ジアミンの1.1~1.5倍モル量)用いることによって製造することができる。この反応によって、カルボキシル基を両末端に有するポリアミド酸系化合物が生成する。
【0072】
光配向膜用ワニスが複数のポリアミド酸系化合物を含有する場合、光配向膜用ワニスの全質量%のうち、カルボキシル基を両末端に有するポリアミド酸系化合物の割合は、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上である。
【0073】
[酸骨格]
以上の説明から明らかなように、両末端に第一級アミノ基以外の基を有する第1ポリアミド酸系化合物は、下記式(6)で示される酸骨格を有し得る。
【化14】
【0074】
式(6)において、Xは、式(1)に関して定義した通りである。
【0075】
式(6)で示される酸骨格は、下記式(6-1)及び下記式(6-2)で示される酸骨格を含む。
【化15】
【0076】
【化16】
【0077】
式(6-1)において、Rは、アルキル基(例えば、1~6個の炭素原子を有するアルキル基)であり、Rは、前記式(B)に関して定義した通り、水素又はアルキル基である。
【0078】
アミン骨格は、上に記載した通りである。
【0079】
また、上記記載から明らかなように、第1ポリアミド酸系化合物は、前記式(1)で示される構造単位(繰り返し単位)を有し得、その末端骨格は、イミド骨格、アミド骨格、ウレア骨格、第三級アミノ骨格、アゾ結合又はカルボキシル基を有し得る。式(1)で示される構造単位は、下記式(1-1)又は下記式(1-2)で示される構造単位を含む。
【化17】
【0080】
【化18】
【0081】
式(1-1)及び式(1-2)において、Arは、前記式(2)に関して定義したAr、又はAr-Z-Arである。式(1-1)において、R及びRは、前記式(6-1)に関して定義した通りである。Zは式(2)で定義した通りである。
【0082】
[第2の側面に係る形態]
上に述べたように、DC残像を実質的に生じさせないためのイミド化促進剤についての要件は、イミド化促進剤に第一級アミノ基及び第二級アミノ基以外の骨格を持たせないことであり、このことは究極的には、イミド化促進剤を実質的に用いないことにより達成することができる。しかし、イミド化促進剤を用いないと、イミド化を促進させることができないので、第1ポリアミド酸系化合物(第一級アミノ基を含まない末端骨格を有する)にイミド化を促進し得る骨格を導入する。
【0083】
すなわち、第2の側面に係る光配向膜用ワニスは、有機溶媒中に、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物を含み、イミド化促進剤の含有量が、1.0質量%未満であり、第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有し、かつ下記式(7):
【化19】
【0084】
(式(7)中、Lは、芳香族化合物基であり、I)Yは、熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、及びYは、H、若しくは熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、又は、II)Y及びYは、互いに結合して窒素を含む環式基を形成している)で表されるジアミン骨格を有する。
【0085】
式(7)で表されるジアミン骨格は、下記式(8):
【化20】
【0086】
(式(8)中、Yは、-N(H)A基(ここで、Aは、熱によって脱離し得る有機基である)であり、及びYは、H、又は-N(H)A基であり、アミノ基(-NH-基)同士は、互いにメタ位、又はパラ位に存在し、Y及びYは、一つのアミノ基(-NH-基)に対してオルト位に存在している)で表されるジアミン骨格を含む。
【0087】
式(7)で表されるジアミン骨格を有する第1ポリアミド酸系化合物は、下記式(9):
【化21】
【0088】
(式(9)中、Xは、前記式(1)に関して定義した通り、環式基であり、R及びRは、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)である)で表される酸骨格を有する。
【0089】
1.0質量%未満のイミド化促進剤は、例えば、第1ポリアミド酸系化合物の質量に対してイミド化促進剤が1.0%未満の質量であることを示し、この量は、イミド化を促進する機能を実質的に発揮しない量である。
【0090】
いくつかの実施形態において、有機溶媒中に含まれるイミド化促進剤の含有量は、1.0質量%未満であり、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0質量%である。
【0091】
第2の側面に係る光配向膜用ワニスに含まれる第1ポリアミド酸系化合物は、第1の側面に係る光配向膜用ワニスに含まれる第1ポリアミド酸系化合物の製造において、ジアミンとして、式(7)(式(8)を含む)で示されるジアミン骨格を誘導するジアミンを用いることによって製造することができる。そのようなジアミンは、下記式(F)及び式(G)の芳香族ジアミンを含む。
【化22】
【0092】
【化23】
【0093】
式(F)又は式(G)で表されるジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを常法により反応させることによって得られるポリアミド酸系化合物は、イミド化促進機能を有するアミン部位をそれ自身の骨格中に備える。
【0094】
式(F)のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを常法により反応させることによって得られるポリアミド酸系化合物は、イミド化焼成時の加熱によって保護基(tert-ブトキシカルボニル基)が脱離してイミダゾール骨格を形成し、イミド化が促進される。イミダゾール骨格形成の反応は、スキーム(I):
【化24】
【0095】
(スキーム(I)中、Xは、前記式(1)に関して定義した通り、環式基であり、R及びRは、前記式(1)に関して定義した通り、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)である)で表される。
【0096】
また、いくつかの実施形態において、第2の側面に係る光配向膜用ワニスは、有機溶媒中に、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物を含み、イミド化促進剤の含有量が、1.0質量%未満であり、第1ポリアミド酸系化合物は、カルボキシル基を含む末端骨格を有する。
【0097】
カルボキシル基を含む末端骨格を有する第1ポリアミド酸系化合物は、上に述べたように、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応において、テトラカルボン酸二無水物をジアミンよりも多く(例えば、ジアミンの1.1~1.5倍モル量)用いることによって製造することができる。
【0098】
カルボキシル基を含む末端骨格を有する第1ポリアミド酸系化合物は、イミド化焼成時に当該カルボキシル基が、イミド化を促進し得る。
【0099】
[第2ポリアミド酸系化合物]
別の実施形態において、光配向膜用ワニスは、第1ポリアミド酸系化合物に加えて、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第2ポリアミド酸系化合物をさらに含む。その場合、第1ポリアミド酸系化合物は、第2ポリアミド酸系化合物よりも高い極性(大きな表面エネルギー)を有する。したがって、第1ポリアミド酸系化合物と第2ポリアミド酸系化合物とを共存させた場合、両者は相分離する。この場合、第1ポリアミド酸系化合物の方が、液晶表示装置における画素電極を形成するITO又はSiOやSiNのような無機パッシベーション膜又は有機樹脂を用いた有機パッシベーション膜との親和性が高いので、第1ポリアミド酸系化合物が下層となる。通常、ポリアミド酸エステルとポリアミド酸が共存する場合、ポリアミド酸エステルが上層を形成し、ポリアミド酸が下層を形成する。また、2種のポリアミド酸が共存する場合であって、一方のポリアミド酸のジアミン骨格に酸素又はフッ素が存在し、他方のポリアミド酸のジアミン骨格に酸素及びフッ素のいずれも存在しない場合、上記一方のポリアミド酸が下層を形成し、上記他方のポリアミド酸が上層を形成する。また、上記他方のポリアミド酸に酸素又はフッ素が存在していてもその量が上記一方のポリアミド酸のジアミン骨格における酸素又はフッ素の量よりも少ない場合も、上記一方のポリアミド酸が下層を形成し、上記他方のポリアミド酸が上層を形成する。
【0100】
いうまでもなく、配向膜が単層である場合、ポリアミド酸系化合物として、上記第1ポリアミド酸系化合物を用いる。
【0101】
第2ポリアミド酸系化合物は、上記第1ポリアミド酸系化合物として掲げた化合物の中から選ぶことができる。また上記第1のポリアミド酸系化合物生成するための両末端第一級アミノ基の封止前のポリアミド酸系化合物、すなわち、両末端に第一級アミノ基を有するポリアミド酸又はポリアミド酸エステルの中から選ぶこともできる。しかしながら、第2ポリアミド酸系化合物も、第1ポリアミド酸系化合物と同様、両末端に第一級アミノ基を持たないことが好ましい。また、配向膜が単層であるか、二層構造であるかにかかわらず、第1ポリアミド酸系化合物も、第2ポリアミド酸系化合物も、第二級アミノ基(アミドを形成している第二級アミノ基を除く)を持たないことが好ましい。
【0102】
上の説明から明らかなように、二層構造の配向膜について、下層とは、適用対象(例えば、ITO膜や無機パッシベーション膜や有機パッシベーション膜)に直接接触する層をいい、上層とは、下層と接する層をいう。
【0103】
二層構造の配向膜の場合、極性が高い第1ポリアミド酸系化合物は、下層に含まれ画素電極と接する。つまり、DC残像を抑制するためには、下層膜のフォトチャージによる電荷の蓄積は避けなければならない。よって、少なくとも下層膜に含まれる第1ポリアミド酸系化合物は、両末端に第一級アミノ基を有しないことが好ましい。
【0104】
本発明のワニスは、これを塗布対象に塗布し、200℃程度の温度で加熱することによってイミド化する。より具体的には、ポリアミド酸系化合物として第1ポリアミド酸系化合物のみを含むワニスの場合には、第1ポリアミド酸系化合物が、イミド化する。ポリアミド酸系化合物として第1ポリアミド酸系化合物及び第2ポリアミド酸系化合物を含むワニスの場合には、塗布後二層に相分離し、加熱により第1ポリアミド酸系化合物及び第2ポリアミド酸系化合物の両方がイミド化する。
【0105】
[イミド化後の処理]
イミド化後の膜に、光配向処理を行って、配向膜を提供する。光配向処理は、波長254nm又は365nmの短波長紫外光を膜に照射することによって行うことができる。
【0106】
光配向処理後の配向膜(光配向膜)は、酸化性溶媒又は有機溶媒を用いて洗浄してもよい。光配向膜を洗浄することによって、当該膜中に残存したイミド化促進剤を除去し得る。
【0107】
酸化性溶媒の例は、過酸化水素水、次亜塩素酸水、オゾン水、次亜ヨウ素酸水、過マンガン酸水等である。
【0108】
有機溶媒の例は、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等である。
【0109】
ケトン系溶媒の例は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等である。
【0110】
エステル系溶媒の例は、酢酸エチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチル、酢酸セロソルブ、酢酸アミル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸イソプロピル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等である。
【0111】
エーテル系溶媒の例は、ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサン、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)、ブチルカルビトール等である。
【0112】
アルコール系溶媒の例は、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、ブタンジオール、エチルヘキサノール、ベンジルアルコール等である。
【0113】
炭化水素系溶媒の例は、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、石油エーテル、リグロイン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族又は脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素である。
【0114】
ハロゲン化炭化水素系溶媒の例は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化アルキル;トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化アルケニル;モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化アリールである。
【0115】
[第3の側面に係る形態]
本発明の第3の側面によると、本発明の光配向膜用ワニスのイミド化物を含む配向膜を備える液晶表示装置が提供される。
【0116】
図1は、横電界方式の液晶表示装置の表示パネルPNLを部分的に示す断面図である。
【0117】
図1に示すように、表示パネルPNLは、アレイ基板ARSと、アレイ基板ARSから間隔をあけて対向配置された対向基板OPSとを備える。アレイ基板ARSと対向基板OPSとの間には、液晶層300が配置されている。
【0118】
アレイ基板ARSは、第1ガラス基板100を備える。第1ガラス基板上には、ゲート電極101が設けられている。ゲート電極101は、第1ガラス基板上に設けられた走査線(図示せず)と同様の厚さを有する。ゲート電極101は、二層構造を有することができ、例えば、第1ガラス基板100に直接接する下側の層はAlNd合金で形成され、下側の層は、MoCr合金で形成されている。
【0119】
ゲート電極101を覆ってゲート絶縁膜102が設けられている。ゲート絶縁膜は、例えば、SiNで形成されている。ゲート絶縁膜102の上には、ゲート電極101と対向する位置に、半導体層103が設けられている。半導体層103は、例えばアモルファスシリコン(a-Si膜)によって形成されている。半導体層103は、TFT(薄膜トランジスタ、図示せず)のチャネル部を構成する。このチャネル部を挟んで半導体層103上には、ドレイン電極104とソース電極105が設けられている。なお、半導体層103とドレイン電極104又はソース電極105との間には、両者間にオーミックコンタクトを確立するために、n+Si層(図示せず)が設けられている。
【0120】
ドレイン電極104は、映像信号線が兼用し、ソース電極105は、画素電極110と接続されている。ドレイン電極104及びソース電極105は、例えばMoCr合金で形成されている。
【0121】
TFTを覆って無機パッシベーション膜106が設けられている。無機パッシベーション膜106は、例えばSiNで形成されている。無機パッシベーション膜106は、TFTの、特にチャネル部を保護する。無機パッシベーション膜106の上には、有機パッシベーション膜107が設けられている。有機パッシベーション膜107は、TFTを保護するとともに、表面を平坦化する役割も有するので、厚く、例えば1μmから4μmまでの厚さに形成されている。有機パッシベーション膜は、例えばJSR製「オプトマーPCシリーズ」で形成されている。
【0122】
有機パッシベーション膜107の上には、対向電極108が設けられている。対向電極108は、透明導電膜、例えばインジウムスズ酸化物(ITO)で形成されている。対向電極108は、表示領域全体に面状に形成される。
【0123】
対向電極108を覆って層間絶縁膜109が設けられている。層間絶縁膜109は、例えばSiNによって形成されている。
【0124】
層間絶縁膜109、対向電極108、有機パッシベーション膜107及び無機パッシベーション膜を貫通して、ソース電極105の表面を部分的に露出させるスルーホール111が設けられている。
【0125】
層間絶縁膜109を覆うとともに、スルーホール111の内側面及び底面を覆って、画素電極110が設けられている。画素電極110は、例えばITOで形成されている。画素電極は、スルーホール111によって部分的に露出されたソース電極105と接続する。こうして、スルーホール111において、TFTから延在しているソース電極105と画素電極110が導通し、映像信号が画素電極110に供給される。
【0126】
図2に、画素電極110の一例を部分的に示す。画素電極110は、櫛歯状の電極である。画素電極110の両側には、映像信号線1041が存在している。櫛歯と櫛歯の間には、スリット112が形成されている。画素電極110の下方には、平面状の対向電極108が形成されている。画素電極110に映像信号が印加されると、スリット112を通して対向電極108との間に生ずる電気力線によって液晶分子が回転する。これによって液晶層300を通過する光を制御して画像を形成する。
【0127】
図1に戻ると、画素電極110の上には、液晶分子を配向させるための配向膜113が形成されている。配向膜の113の構成については、後に説明する。
【0128】
対向基板OPSは、第2ガラス基板200を備える。第2ガラス基板の内側面には、赤色、緑色及び青色の各フィルタセグメントを含むカラーフィルタ201が設けられている。カラーフィルタ201とカラーフィルタ201の間にはブラックマトリクス202が形成され、画像のコントラストを向上させている。なお、ブラックマトリクス202はTFTの遮光膜としての役割も有し、TFTに光電流が流れることを防止している。
【0129】
カラーフィルタ201及びブラックマトリクス202を覆って、オーバーコート膜203が形成されている。オーバーコート膜203は、カラーフィルタ201及びブラックマトリクス202の表面を平坦化している。
【0130】
オーバーコート膜203の上には、液晶の初期配向させるための配向膜113が設けられている。
【0131】
第2ガラス基板200の外側表面には、液晶パネルPNL内部の電位を安定化させるために、外部導電膜210が形成され、この外部導電膜210には所定の電圧が印加される。
【0132】
一つの実施形態において、各配向膜113は、単層膜であって、第1のポリアミド酸系化合物のイミド化物を含む。別の実施形態において、各配向膜113は、二層構造の配向膜であって、第1ポリアミド酸系化合物のイミド化物を含む膜と第2ポリアミド酸系化合物のイミド化物を含む膜を備える。さらに別の実施形態において、一方の配向膜113は、単層膜であって、第1のポリアミド酸系化合物のイミド化物を含み、他方の配向膜113は、二層構造の配向膜であって、第1ポリアミド酸系化合物のイミド化物を含む膜を下層に備え、第2ポリアミド酸系化合物のイミド化物を含む膜を上層に備える。
【0133】
図3は、本発明による二層構造の配向膜113を示す模式図である。配向膜113は、画素電極110の上に形成されている。配向膜113は、上層膜1131と、下層膜1132から形成されている。ここで、配向膜113の上層膜1131と下層膜1132の境界は明確ではないので、図3では、それらの境界を点線で示している。
【0134】
二層構造の配向膜のうち、下層膜が占める割合は、二層構造の配向膜全体の30質量%以上で、60質量%以下であることが好ましい。
【0135】
また、液晶表示装置の駆動周波数(画素電極に対する1フレームごとの映像信号供給回数)は、40Hz以下が好ましく、1Hz以上が好ましい。これによって消費電力を低減出来る。また、低周波駆動の場合は画素電極が電圧保持している際の輝度の低下を抑制するため、配向膜の抵抗を高くすることが好ましい。配向膜の好ましい体積抵抗率は5×1013Ωcm以上であり、好ましくは1×1016Ωcm以下であり、さらに好ましくは5×1015Ωcm以下である。
【実施例
【0136】
以下、本発明を実施例により説明するが、初めに、ポリアミド酸系化合物の合成例を記載する。
【0137】
合成例1
1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物100モル部のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液と、p-フェニレンジアミン110モル部のNMP溶液を混合し、室温で8時間反応させて、第一級アミンを両末端に有するポリアミド酸を生成させた。この反応混合物に、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール100モル部を滴下し、50℃で2時間反応させて、各酸骨格中の2個のカルボキシル基をメチルエステル化させた。得られた反応混合物に、フタル酸無水物5モル部のNMP溶液を添加し、室温で8時間反応させて、ポリアミド酸の両末端第一級アミノ基をアミド酸として封止した。未反応のモノマー、低分子量成分を除去して、固形分濃度15質量%の所望の両末端封止ポリアミド酸エステル溶液を得た。
【0138】
合成例2
ピロメリット酸二無水物100モル部のNMP溶液と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル110モル部のNMP溶液を混合し、室温で8時間反応させて、第一級アミンを両末端に有するポリアミド酸を生成させた。この反応混合物に、フタル酸無水物5モル部のNMP溶液を添加し、室温で8時間反応させて、ポリアミド酸の両末端第一級アミノ基をアミド酸として封止した。未反応のモノマー、低分子量成分を除去して、固形分濃度15質量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0139】
合成例3
合成例1において、p-フェニレンジアミンの代わりに、4-[(4-アミノフェニル)メチル]アニリンを用いた以外は、合成例1と同様の手法により、両末端第一級アミノ基をアミド化したポリアミド酸溶液を得た。
【0140】
合成例4
1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物100モル部のNMP溶液と、p-フェニレンジアミン90モル部のNMP溶液を混合し、室温で8時間反応させて、カルボキシル基を両末端に有するポリアミド酸を生成させた。未反応のモノマー、低分子量成分を除去して、固形分濃度15質量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0141】
合成例5
ピロメリット酸二無水物100モル部のNMP溶液と、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル90モル部のNMP溶液を混合し、室温で8時間反応させて、カルボキシル基を両末端に有するポリアミド酸を生成させた。未反応のモノマー、低分子量成分を除去して、固形分濃度15質量%のポリアミド酸溶液を得た。
【0142】
合成例6
合成例1において、p-フェニレンジアミンの代わりに、上の式(G)で示されるジアミンを用いた以外は、合成例1と同様の手法により、両末端第一級アミノ基をアミド化したポリアミド酸溶液を得た。
【0143】
合成例7
合成例1において、p-フェニレンジアミンの代わりに、上の式(F)で示されるジアミンを用いた以外は、合成例1と同様の手法により、両末端第一級アミノ基をアミド化したポリアミド酸溶液を得た。
【0144】
合成例8
合成例1において、p-フェニレンジアミンの代わりに、下記式(H)で示されるジアミンを用いた以外は、合成例1と同様の手法により、両末端第一級アミノ基をアミド化したポリアミド酸溶液を得た。
【化25】
【0145】
以上述べた合成例1から合成例8までで合成したポリアミド酸系化合物の酸骨格、ジアミン骨格、各末端骨格を下記表1-1、表1-2及び表1-3に示す。表1-1、表1-2及び表1-3において、酸骨格に付されている「※」印は、アミン骨格との結合部位を示し、アミン骨格に付されている「※」印は、酸骨格との結合部位を示し、末端骨格における「※」印は、末端骨格がアミドを有する場合は、酸骨格との結合部位を示し、末端骨格がカルボキシル基を有する場合は、アミン骨格との結合部位を示す。
【表1-1】
【0146】
【表1-2】
【0147】
【表1-3】
【0148】
実施例1~10及び比較例1~4
下記表2-1、表2-2及び表2-3に示す実施例1~10及び比較例1~4の各ポリアミド酸系化合物には、当該表に示すようなイミド化促進剤をそれぞれ加え(加えない場合もある)、均一になるように撹拌し、上層成分及び下層成分を質量比1:1で混合して塗布液を調製した。図1に示す構造の液晶表示装置のアレイ基板及び対向基板の配向膜113を塗布すべき領域に各塗布液を塗布し、200℃に加熱してイミド化を行った。イミド化率は、いずれも80%であった。各イミド化膜に対し、短波長の紫外光を用いて光配向処理を行った。各配向膜を洗浄した後、こうして配向膜を形成したアレイ基板及び対向基板を用いて常法により図1に示す構造の表示パネルを備える液晶表示装置を作製した。液晶としては、誘電異方性がΔεが負でその値が-4.1(1kHz,20℃)であり、屈折率異方性Δnが0.0821(波長590nm,20℃)のネマチック液晶材料(メルク社製MLC-2039)を用いた。
【0149】
作製した各液晶表示装置に、図4に示す白と黒(図中斜線で示す)のチェッカーフラグパターンを100時間程表示させた。各チェッカーパターンは、一辺5mmの正方形であった。白は最大輝度(256/256階調)であり、黒は最少輝度(0/256階調)である。その後、画面全体に31/256階調のグレー表示をさせると、100時間表示時の白表示部と黒表示部で輝度が異なる現象が観察された。両表示部の輝度変化率:
{(a-b)/b}×100
(式中、aは、白表示部の輝度であり、bは、黒表示部の輝度である)を残像強度とした。この数値が1%以上あると、人間の目には残像として認識される。
【0150】
上記チェッカーフラグパターンを100時間連続点灯した後のグレー表示における残像強度の経時変化を測定し、以下の5段階で評価した。
A:グレー表示初期より残像は発生しなかった。
B:グレー表示初期で斜めから見たらかろうじて見える残像が発生し、1時間以内に消失した。
C:グレー表示初期で正面から目視可能な残像が発生し、1時間以内に消失した。
D:グレー表示初期で正面から目視可能な残像が発生し、1時間後には斜めから見たらかろうじて見える残像に低減した。
E:グレー表示初期で正面から目視可能な残像が発生し、1時間後も消失しなかった。
【0151】
また、作製した各液晶表示装置に、互いに異なる10種類のパターン表示を30秒おきに切り替えながら、70℃の恒温槽内にて1000時間まで表示させた。250時間おきに恒温槽から各液晶表示装置を取り出し、常温環境にてグレーパターン(64/256階調)を表示させ、画面全域に表示むらがないかを観察し、以下の5段階で評価した。
A:1000時間までに表示むらは発生しなかった。
B:750時間までに表示むらは発生せず、1000時間後に直径1mm以下の小さな輝度むら(表示むら)が基板外周の一部に発生した。
C:500時間までに表示むらは発生せず、1000時間後に直径1mm以上の、一目で視認可能な大きさの輝度むらが基板外周の一部に発生した。
D:500時間までに直径1mm以下の小さな輝度むらが基板外周の一部に発生した。
E:500時間までに直径1mm以上の、一目で視認可能な大きさの輝度むらが基板外周の一部に発生した。
【0152】
結果を表2-1、表2-2及び表2-3に併記する。なお表2-1、表2-2及び表2-3には、各合成例で調製したポリアミド酸系化合物における両末端骨格についても簡単に記載した。
【表2-1】
【0153】
【表2-2】
【0154】
【表2-3】
【0155】
以上詳述したように、本発明によれば、液晶表示装置にDC残像を生じさせないか、DC残像を生じさせても短時間で消失させる光配向膜を形成するためのワニスが提供されるとともに、DC残像が生じないか、DC残像が生じても短時間に消失する液晶表示装置が提供される。
【0156】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
有機溶媒中に、イミド化促進剤と、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物とを含み、
前記イミド化促進剤は、第一級アミノ基及び第二級アミノ基を含まない骨格を有し、
前記第1ポリアミド酸系化合物は、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有することを特徴とする光配向膜用ワニス。
[2]
前記イミド化促進剤は、ピリジン系化合物、キノリン系化合物、イソキノリン系化合物、イミダゾ-ル系化合物、若しくはベンゾイミダゾ-ル系化合物、又は第三級アミンであることを特徴とする[1]に記載の光配向膜用ワニス。
[3]
前記イミド化促進剤が、アミン反応性骨格を有することを特徴とする[1]又は[2]に記載の光配向膜用ワニス。
[4]
前記アミン反応性骨格は、ハロゲン基、ジアゾ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、又は酸無水物骨格のいずれかであることを特徴とする[3]に記載の光配向膜用ワニス。
[5]
前記イミド化促進剤は、130以上の分子量を有することを特徴とする[1]から[4]までのいずれか1つに記載の光配向膜用ワニス。
[6]
前記第1ポリアミド酸系化合物が、下記式(1):
【化26】
(式(1)中、Xは、環式基であり、R 及びR は、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)であり、Y は、有機基である)で表される構造単位を有することを特徴とする[1]から[5]までのいずれか1つに記載の光配向膜用ワニス。
[7]
有機溶媒中に、ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第1ポリアミド酸系化合物を含み、
イミド化促進剤の含有量が、1.0質量%未満であり、
前記第1ポリアミド酸系化合物が、第一級アミノ基を含まない末端骨格を有し、かつ下記式(2):
【化27】
(式(2)中、Lは、芳香族化合物基であり、I)Y は、熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、及びY は、H、若しくは熱によって脱離し得る有機基を有するアミノ基であり、又は、II)Y 及びY は、互いに結合して窒素を含む環式基を形成している)で示されるジアミン骨格を有することを特徴とする光配向膜用ワニス。
[8]
前記ジアミン骨格が、下記式(3):
【化28】
(式(3)中、Y は、-N(H)A基(ここで、Aは、熱によって脱離し得る有機基である)であり、及びY は、H、又は-N(H)A基であり、アミノ基(-NH-基)同士は、互いにメタ位、又はパラ位に存在し、Y 及びY は、一つのアミノ基(-NH-基)に対してオルト位に存在している)で示されることを特徴とする[7]に記載の光配向膜用ワニス。
[9]
前記第1ポリアミド酸系化合物が、下記式(4):
【化29】
(式(4)中、Xは、環式基であり、R 及びR は、それぞれ独立に、-COOH又は-COOR(ここで、Rは、アルキル基である)である)で表される酸骨格を有することを特徴とする[7]又は[8]に記載の光配向膜用ワニス。
[10]
前記末端骨格が、イミド骨格、アミド骨格、ウレア骨格、第三級アミノ骨格、アゾ結合又はカルボキシル基を有することを特徴とする[1]から[9]までのいずれか1つに記載の光配向膜用ワニス。
[11]
ポリアミド酸又はポリアミド酸エステルである第2ポリアミド酸系化合物をさらに含み、前記第1ポリアミド酸系化合物は、前記第2ポリアミド酸系化合物よりも高い極性を有することを特徴とする[1]から[10]までのいずれか1つに記載の光配向膜用ワニス。
[12]
[1]から[11]までに記載の光配向膜用ワニスのイミド化物を含む配向膜を備える液晶表示装置。
[13]
[1]から[11]までに記載の光配向膜用ワニスを用いて光配向膜を形成する工程と、前記光配向膜を有機溶媒又は酸化性溶媒を用いて洗浄をする工程とを有することを特徴とする光配向膜の製造方法。
【符号の説明】
【0157】
PNL…液晶パネル、ARS…アレイ基板、OPS…対向基板、100…第1ガラス基板、101…ゲート電極、102…ゲート絶縁膜、103…半導体層、104…ドレイン電極、105…ソース電極、106…無機パッシベーション膜、107…有機パッシベーション膜、108…対向電極、109…層間絶縁膜、110…画素電極、111…スルーホール、112…スリット、113…光配向膜、200…第2ガラス基板、201…カラーフィルタ、202…ブラックマトリクス、203…オーバーコート膜、210…表面導電膜、300…液晶層、1041…映像信号線、1131…上層膜、1132…下層膜
図1
図2
図3
図4