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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】透析膜およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/08 20060101AFI20220523BHJP
   B01D 71/20 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20220523BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20220523BHJP
   B01D 61/28 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
B01D71/08
B01D71/20
B01D71/68
B01D69/12
B01D69/08
B01D69/06
A61M1/18 500
A61M1/18 523
B01D67/00
B01D61/28
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017024087
(22)【出願日】2017-02-13
(65)【公開番号】P2017196613
(43)【公開日】2017-11-02
【審査請求日】2020-02-05
(31)【優先権主張番号】10 2016 102 782.0
(32)【優先日】2016-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515143739
【氏名又は名称】ビー.ブラウン アビタム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】B. BRAUN AVITUM AG
【住所又は居所原語表記】Schwarzenberger Weg 73-79, 34212 Melsungen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー フリーベ
(72)【発明者】
【氏名】ローラント ナピアララ
(72)【発明者】
【氏名】アンゲラ バイアー-ゴシュッツ
(72)【発明者】
【氏名】ユリアーネ ゲブラー
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス ウルブリヒト
(72)【発明者】
【氏名】クレリア ヤーデ エレオノーレ ヴィクトーリア エミン
【審査官】小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-78972(JP,A)
【文献】特公昭58-11883(JP,B2)
【文献】特開平6-254158(JP,A)
【文献】Journal of Materials Science:Materials in Medicine,米国,Springer US,2013年,24,p.533-546
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22,61/00-71/82
C02F 1/44
A61M 1/18
D01F 6/76
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの親水性孔形成剤を含む少なくとも1つのポリスルホンに由来する少なくとも1つのベース膜と、
前記ベース膜の上に配置された少なくとも1つの機能性層とから組み立てられたコンポジットから構成され、
前記機能性層が、ポリマー性ポリカチオン性結合剤の少なくとも1つの層およびポリマー性ポリアニオンの少なくとも他の1つの層から構成される、中空糸膜または平膜の透析膜であって、
前記ベース膜が、ポリスルホン[PSU]、スルホン化ポリスルホン[SPSU]、ポリエーテルスルホン[PES]、スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES]、ポリフェニルスルホン[PPSU]、スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]およびこれらの混合物から選択される材料から構成され
記ポリアニオンが、分子質量(Mw)が15kDa~1MDaの硫酸デキストラン、分子質量(Mw)が30kDa~750kDaの硫酸化キトサン、分子質量(Mw)が20kDa~1MDaの硫酸セルロース、またはこれらの混合物から選択されるカルボキシル化多糖または硫酸化多糖であり、
前記親水性孔形成剤が、ポリビニルピロリドン[PVP]、2~10個の炭素原子を含む短鎖グリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール[PEG]/ポリエチレンオキシド[PEO]、およびこれらの混合物から選択されることを特徴とする、中空糸膜または平らな膜の幾何形状の透析膜。
【請求項2】
前記ポリアニオンの前記硫酸セルロースが、100kDaの分子質量(Mw)を示す、請求項1に記載の透析膜。
【請求項3】
前記SPSUが、前記スルホン化されていないPSUの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度であり、および/または、
前記SPESが、前記スルホン化されていないPESの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度であり、および/または、
前記SPPSUが、前記スルホン化されていないPPSUの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度であることを特徴とする、請求項1に記載の透析膜。
【請求項4】
前記SPSUが、前記スルホン化されていないPSUの重量に対し、9.3または13.4重量%のスルホン化度であることを特徴とする、請求項3に記載の透析膜。
【請求項5】
前記SPESが、前記スルホン化されていないPESの重量に対し、1.1、3.6または14.1重量%のスルホン化度であることを特徴とする、請求項3に記載の透析膜。
【請求項6】
前記SPPSUが、前記スルホン化されていないPPSUの重量に対し、1.0、2.0、10.1または14.7重量%のスルホン化度であることを特徴とする、請求項3に記載の透析膜。
【請求項7】
透水性が10~2,000L/bar*h*m2、BSAのふるい分け係数(22±2°)が0.0001~0.5の範囲、分子質量カットオフ値が20~50kDaを示すことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のコンポジットから構成される透析膜。
【請求項8】
壁厚が20~200μmであることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の平膜または中空糸膜の透析膜。
【請求項9】
内径が100~400μmであることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の中空糸膜の透析膜。
【請求項10】
請求項1~9の少なくとも一項に記載の中空糸膜または平膜の透析膜を製造するための方法であって、
(a)透析膜のためのベース膜を製造するために、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1つの有機溶媒中の、ポリスルホン[PSU]、スルホン化ポリスルホン[SPSU]、ポリエーテルスルホン[PES]、スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES]、ポリフェニルスルホン[PPSU]、スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]およびこれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリスルホンと、少なくとも1つの親水性孔形成剤とからキャスト溶液または紡糸溶液を作製し、
(b)製造されたポリマー混合物溶液を、ベース膜を形成するために、沈殿剤と接触させて、平らなまたは中空糸状のポリマー混合物が沈殿した後に、有機溶媒を洗い流し、
(c)透析膜を保護するために、ベース膜の表面にレイヤーバイレイヤー堆積(layer-by-layer deposition)を少なくとも1回行うことによって、機能性表面を形成するために、工程(b)で製造されたベース膜を表面改質し、
ここで、少なくとも1つのポリマー性ポリカチオン性結合剤を、ベース膜表面に第1の層として塗布し、少なくとも1つのポリマー性ポリアニオンを、第2の層としてポリカチオン性層の上に塗布し、ここで
ルボキシル化多糖または硫酸化多糖が、ポリアニオンとして使用され、
カルボキシル化多糖または硫酸化多糖が、分子質量(Mw)が15kDa~1MDaの硫酸デキストラン、分子質量(Mw)が30kDa~750kDaの硫酸化キトサン、分子質量(Mw)が20kDa~1MDaの硫酸セルロース、またはこれらの混合物からなる群から選択され、
ここで、親水性孔形成剤が、ポリビニルピロリドン[PVP]、2~10個の炭素原子を含む短鎖グリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール[PEG]/ポリエチレンオキシド[PEO]およびこれらの混合物から選択される、方法。
【請求項11】
前記ポリアニオンの前記硫酸セルロースの分子質量(Mw)が、100kDaである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ベース膜表面の正味の電荷を、スルホン化ポリマーの量と、塗布される高分子電解質(ポリマー性ポリカチオン性結合剤およびポリマー性ポリアニオン)によって調整することができることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記ベース膜表面の正味の電荷を、前記スルホン化ポリマーのスルホン化度および塗布される前記高分子電解質の量によって調整することができることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシドが、600Da~500kDa(Mw)の分子質量であり、
および/または前記PVPが、1kDa~2.2MDaの分子質量(Mw)であることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
前記ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシドが、10kDa(Mw)または8kDa(Mn)の分子質量を示すことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記PVPが、1.1MDaの分子質量(Mw)を示すことを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記多糖が、分子質量(Mw)が500kDaの硫酸デキストランおよび/または分子質量(Mw)が30kDa~750kDaのスルホン化キトサンであることを特徴とする、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法
【請求項18】
請求項1~9の少なくとも一項に記載の透析膜を充填剤として含むことを特徴とする、透析膜モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載する透析膜、請求項10に記載の透析膜を製造するための方法、および請求項24に記載の透析膜モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の観点で、以下のポリマーの省略語を使用する。
省略語 ポリマー
DEXS 硫酸デキストラン
PA ポリアミド
PAA ポリアクリル酸
PAN ポリアクリロニトリル
PC ポリカーボネート
PEG ポリエチレングリコール
PEI ポリエチレンイミン
PEO ポリエチレンオキシド
PES ポリフェニルスルホン
PMMA ポリメタクリル酸メチル
PPSU ポリフェニルスルホン
PUR ポリウレタン
PSU ポリスルホン
PVP ポリビニルピロリドン
SPES スルホン化ポリエーテルスルホン
SPSU スルホン化ポリスルホン
SPPSU スルホン化ポリフェニルスルホン

*PEGおよびPEOは、本質的に同じ分子である。本発明の目的のために、PEGは、分子質量が100kDa未満のポリマーとみなされる。分子質量が100kDa以上のポリマーは、PEOと呼ばれる。
【0003】
腎不全発症後の患者を治療するための透析は、1940年代に最初に成功した。それ以来、透析膜は、すみやかに進化してきた。特に、回転ドラム型の腎臓から平板型の透析機まで、また、今日の近代的な中空糸透析器まで、小型化を達成することができた。
【0004】
近年、中空糸透析器のための膜は、工業スケールで大量に、再現性の高い品質で製造され、一般的に、透析膜モジュールの形態で使い捨て可能なシステムとして与えられる。特に、ナノ制御された紡糸技術によって、かなりの改良がみられた。現在、プラスチックから作られる透析膜が、低コスト治療の標準となっている。透析膜のさらなる改良は、さらに、手術または外傷の結果として腎臓を失ったことを補うために、腎臓の機能不全または完全な腎不全の事象において最適な治療を確保するように、ヒト腎臓の糸球体膜の天然の機能に近づくことを目的とする。
【0005】
透析に適した膜の進化において、治療に望ましい分離効果を達成しつつ、同時に、高いレベルの生体適合性と、高い透水性または設定可能な透水性に焦点があてられている。第1には、人類の高齢化の結果として、第2には、腎臓の機能不全治療の経済的な可能性および利用可能性に起因して、世界中で治療される患者数が常に増加し続けているため、臨床的な観点から、透析治療は重要性が高まりつつあり、同様に、発展途上国でも将来的に増加していくだろう。
【0006】
これに加え、透析器の小型化を達成することを目的としており、このことは、透析膜から、エネルギー消費が非常に少ない腎臓インプラントへの完全な小型化を達成するという長期間にわたる目標を意味している[Stefan Heinrich、H.Oliver Pfirrmann、Nanotechnologie fuer die Gesundheit、Gesundheitsvorsorge im Wandel、2、12(2010)を参照]。
【0007】
この技術は、広範囲の膜を記載しており、一部は限外濾過のためのものであり、一部は血液透析のためのものである。
【0008】
例えば、US 2013/0 277 878 A1号は、転相を伴う紡糸技術によって中空糸透析膜を製造するための方法を記載する。
【0009】
このような膜は、少なくとも1つの親水性ポリマーと、少なくとも1つの疎水性ポリマーとから構築される。US 2013/0 277 878 A1号は、適切な親水性ポリマーとして、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール、ポリグリコールモノエステル、水溶性セルロース誘導体、ポリソルベートおよびポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドコポリマーを開示する。
【0010】
疎水性ポリマーは、US 2013/0 277 878 A1号によれば、ポリアミド(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリールスルホン(PASU)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PUR)であってもよい。
【0011】
DE 10 2004 008 220 B4号文書は、血液透析のための親水性中空糸膜を開示する。この命名された材料は、第1の合成ポリマーであり、PSUおよび/またはPESを含め、疎水性ポリマーであってもよい。DE 10 2004 008 220 B4号のコンポジット膜は、第2の親水性ポリマーを含有し、第2の親水性ポリマーは、PVP、PEG、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリソルベート、カルボキシメチルセルロース、またはこれらのポリマーの混合物またはコポリマーの群から選択されてもよい。
【0012】
さらに、DE 10 2004 008 220 B4号のいわゆる高流量透析膜について、アルブミンのふるい分け係数が最大で0.005であることと合わせて、25~60ml/(h×m2×mmHg)のアルブミン溶液の限外濾過速度、少なくとも0.8のチトクロムcのふるい係数が開示されており、これにより、DE 10 2004 008 220 B4号の中空糸膜は、膜壁の孔を安定化させるグリセリンおよび他の添加剤を含まない。
【0013】
さらに、US 6 042 783 A号は、PSU樹脂から作られる中空糸膜を開示しており、透過率は、さらに詳細には記載されていないものの、全タンパク質について1%以下である。
【0014】
さらに、EP 1 634 611 B1号文書は、ポリスルホン型のポリマーとPVPから作られる中空糸膜を備える血液精製機を開示し、中でも、1グラムの中空糸膜から最大で10ppmのPVPが水溶出可能であることを特徴とする。記載されているポリスルホン型のポリマーは、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンである。
【0015】
さらに、CN 201 669 064 U号は、医療用途のための「ポリオース」膜を備える、ポリスルホンから作られるベース膜を開示し、さらなる特徴は記載されていない。
【0016】
さらに、WO 2013/156 598 A1号は、例えば、ポリマーとして部分的にスルホン化されたポリエーテルスルホンに由来する少なくとも1つの基材層を有する限外濾過膜を開示する。この技術に使用されるポリスルホンは、ポリエーテルスルホン単独であり、部分的にスルホン化されていてもよい。
【0017】
さらに、WO 2013/156 597 A1号は、基材層と、少なくとも部分的にスルホン化されたポリエーテルスルホンと、カチオン性ポリマーから作られる少なくともフィルム層のコンポジットから作られるナノ濾過膜を開示し、ここで、トリメチルアンモニウム塩を側鎖基として含むカチオン性ポリマーが開示される。
【0018】
上に列挙した特許文献に加え、膜、特に、血液透析に適した膜を取り扱う広範囲の科学文献が存在する。
【0019】
例えば、Blancoら(2002):J Appl Polymer Sci 84、2461は、限外濾過およびナノ濾過のための非対称の膜を製造するためのポリスルホンの広範囲にわたる使用を記載する。具体的な観点で、非対称の膜のための、媒体としてのポリスルホンの使用と、機能性層としてのポリアミドの使用が記載される。Blancoらは、スルホン化によって、それ自体が疎水性であるPSUポリマーの親水性を高めることができることも示している。
【0020】
さらに、Liら(2008):J Membrane Sci 309、45は、BSA/Hbの例を用いるタンパク質分離のための二重層中空糸膜を記載する。多孔性内部支持層のためにポリエーテルスルホンが用いられ、外側層は、スルホンから作られ、ここで、ポリエーテルスルホン層は、スルホン化ポリエーテルスルホン層を支えるのに十分なほど安定であり、その結果、この膜をタンパク質分離に首尾良く使用することができた。
【0021】
Mahlicliら(2013):J Mater Sci:Med 24、533は、ポリエチレンイミン/アルギネート-ヘパリン層の交互積層法(layer-by-layer(LbL)self-assembly)を用いた、ポリスルホンに由来する透析膜の表面改質を開示する。Mahlicliらによれば、ポリスルホンを最初にスルホン化し、次いで、ポリスルホンとスルホン化ポリスルホンのブレンドをガラスプレートに注ぎ、平らな支持膜を作製し、ここで、溶媒は、N-メチル-2-ピロリドンであると明記されている。
【0022】
LbLアセンブリは、Mahlicliらに従って、PSU/SPSU膜の上で行われ、導入されたSO3基によって負に帯電する。この目的のために、この膜をポリエチレンイミン[PEI]溶液に浸し、10分間インキュベートした。PEIのプロトン化した形態を作成するのに十分なレベルにpH値を設定した後、過剰なPEIを洗い流し、膜をアルギネート溶液に浸し、10分間インキュベートする。洗い流すことによって過剰なアルギネートを除去する。多層アセンブリを製造するために、交互にPEI/アルギネートに浸漬するのを数回繰り返す。最後の層として、純粋なヘパリン層またはアルギネートとヘパリンの混合層を最後の層として得るために、このようにしてPEI-アルギネート複合体でコーティングされた支持膜を、次いで、純粋なヘパリン溶液に浸すか、またはアルギネート/ヘパリン溶液に浸す。Mahlicliらによれば、この著者によって、尿素、ビタミンB12およびリゾチームのために製造される膜の浸透特性は、工業的なAN69透析膜の浸透特性に匹敵する。この膜の血漿タンパク質吸着は、顕著に低かった。同様に、抗凝血性コーティングの結果としての血小板の活性化は、かなり低かった。
【0023】
これに加え、Malaisamyら(2005):Langmuir 21、10587は、支持材としてポリエーテルスルホンを有し、ポリスチレンスルホネート[PSS]およびプロトン化ポリ(アリルアミン)[PAH]および/またはポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)[PDADMAC]を用いたLbLコーティングを有するナノ濾過膜を記載する。
【0024】
Kopecら(2011):J Membrane Sci 369、59は、ポリイミドから作られる支持膜と、スルホン化ポリ(エーテルケトン)[SPEEK]から作られるコーティングと、SPEEKコーティングを有するPSUから作られるコーティングの例とを採用した、LbL技術によって膜表面の電荷を設計するプロセスを記載する。この膜は、限外濾過のための中空糸膜として構成される。
【0025】
最後に、Kochanら(2010):Desalination 250、1008は、ポリエーテルスルホンから作られる中空糸膜を記載し、その表面は、高分子電解質、特に、ポリエチレンイミンおよびポリスチレンスルホネートを用いたLbL法によって改質されている。使用されるPEIは、分子質量が57kDaの商業的なPEIである。この技術の膜を排水処理に使用することができる。Kochanらによれば、分子量カットオフ値を、デキストランを用いて試験すると、このコーティングされた膜では、透過性が低くなると同時に、デキストランの保持がかなり増加することがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【文献】米国特許出願第2013/0 277 878 A1号公報
【文献】独国特許第DE 10 2004 008 220 B4号公報
【文献】米国特許出願第US 6 042 783 A号公報
【文献】欧州特許第EP 1 634 611 B1号公報
【文献】中国実用新案第CN 201 669 064 U号公報
【文献】国際出願公開第WO 2013/156 598 A1号パンフレット
【文献】国際出願公開第WO 2013/156 597 A1号パンフレット
【非特許文献】
【0027】
【文献】Stefan Heinrich、H.Oliver Pfirrmann、Nanotechnologie fuer die Gesundheit、Gesundheitsvorsorge im Wandel、2、12(2010)。
【文献】Blancoら(2002):J Appl Polymer Sci 84、2461。
【文献】Liら(2008):J Membrane Sci 309、45。
【文献】Mahlicliら(2013):J Mater Sci:Med 24、533。
【文献】Malaisamyら(2005):Langmuir 21、10587。
【文献】Kopecら(2011):J Membrane Sci 369、59。
【文献】Kochanら(2010):Desalination 250、1008。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
Mahlicliら(2013)の先の技術に基づき、本発明の目的は、改良された特性と、高いレベルの生体適合性を有する透析膜を入手可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0029】
この目的は、請求項1に記載の透析膜によって達成される。使用されるプロセスの観点で、上の目的は、請求項10に記載の特徴によって達成される。
【0030】
請求項24に記載の透析モジュールも、同様にこの目的を達成する。
【0031】
特に、本発明は、例えば、少なくとも1つの親水性孔形成剤を含む少なくとも1つのポリスルホンに由来する少なくとも1つのベース膜と、前記ベース膜の上に配置された少なくとも1つの機能性層とから組み立てられたコンポジットから構成された、中空糸膜または平膜の透析膜に関する。前記機能性層は、少なくとも1つのポリマー性ポリカチオン性結合剤および少なくとも1つのポリマー性ポリアニオンから構成される。前記ベース膜は、ポリスルホン[PSU]、スルホン化ポリスルホン[SPSU]、ポリエーテルスルホン[PES]、スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES]、ポリフェニルスルホン[PPSU]、スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]およびこれらの混合物、ならびにポリアミド[PA]、ポリアクリロニトリル[PAN]、ポリメタクリル酸メチル[PMMA]、ポリアクリル酸[PAA]、ポリカーボネート[PC]およびポリウレタン[PUR]との混合物から選択される材料から構成される。前記ポリカチオン性結合剤は、ポリエチレンイミン[PEI]、例えば、分子質量が1kDa~2MDa(Mw)であり、特に、約2.0kDa、約25kDaまたは約750kDa(Mw)のポリエチレンイミン[PEI]、キトサン、例えば、分子質量が30kDa~750kDa(Mw)のキトサン、ポリリジン、例えば、分子質量が15kDa~300kDa(Mw)のポリリジン(例えば、ポリ L-リジン シグマ社製)、ポリアルギニン、例えば、分子質量が1.9kDa~38.5kDa(Mw)(例えば、n-ブチル-ポリ-L-アルギニン塩酸塩)であるポリアルギニン、またはポリオルニチン、例えば、分子質量が1.5kDa~30.1kDa(Mw)のポリオルニチンである。前記ポリアニオンは、硫酸デキストラン[DEXS]、例えば、分子質量が15kDa~1MDa(Mw)、特に、約500kDa(Mw)の硫酸デキストラン[DEXS]、硫酸化キトサン、例えば、分子質量が30kDa~750kDa(Mw)の硫酸化キトサン、硫酸セルロース、例えば、分子質量が20kDa~1MDa(Mw)、好ましくは、約100kDa(Mw)の硫酸セルロース、またはこれらの混合物から選択される硫酸化多糖である。前記親水性孔形成剤は、ポリビニルピロリドン[PVP]、例えば、分子質量が1kDa~2.2MDa(Mw)、特に、約1.1MDa(Mw)のポリビニルピロリドン[PVP]、2~10個の炭素原子を含む短鎖グリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール[PEG]/ポリエチレンオキシド[PEO]、例えば、分子質量が600Da~500kDa(Mw)、特に、約8kDa(Mw)または約10kDa(Mn)のもの、およびこれらの混合物から選択される。
【0032】
典型的には、本発明に使用されるポリスルホンは、以下の数平均分子質量(Mn)および重量平均分子質量(Mw)の範囲を示す。
ポリスルホン[PSU]: Mn 16-22kDa、Mw 40-85kDa、
スルホン化ポリスルホン[SPSU]: Mn 27-32kDa、Mw 50-55kDa、
ポリエーテルスルホン[PES]: Mn 16-22kDa、Mw 30-75kDa、
スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES]:Mn 18-22kDa、Mw 30-35kDa、
ポリフェニルスルホン[PPSU]: Mn 22kDa、Mw 52-55kDa、および
スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]:Mn 17-21kDa、Mw 47-53kDa。
【0033】
本発明の好ましい実施形態は、前記SPSUが、スルホン化されていないPSUの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度であり;および/または前記SPESが、スルホン化されていないPESの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度であり;および/または前記SPPSUが、スルホン化されていないPPSUの重量に対し、0.1~20重量%のスルホン化度である透析膜である。
【0034】
スルホン化SPESおよびSPSUについての重量%は、NMR分析から計算される。この目的のためのサンプルを重水素化ジメチルスルホキシドまたは重水素化クロロホルムに溶解し、300MHzまたは500MHzのNMRデバイス(Bruker)を用いてNMRスペクトルを測定した。結果に基づき、非スルホン化繰り返し単位とスルホン化繰り返し単位のモル比(MPES=232g/mol;MSPES=312g/mol)、スルホン化度が、SPES3は1.1重量%SPES2は3.6重量%およびSPES4は14.1重量%と計算された(仕様は、0.1~20重量%の範囲)。
【0035】
SPSUA、SPSUBは、9.3重量%および13.4重量%(単位:MPSU=442g/mol;MSPSU=522g/mol)であり、仕様は、0.1~20重量%の範囲である。
【0036】
さらに、sPPSUの仕様は、スルホン化モノマー 4,4’ジクロロジフェニルスルホン[sDCDPS]の質量含有量に関連する。
【0037】
本発明は、有利な透析膜を製造する能力を含み、ここで、前記SPSUは、スルホン化されていないPSUの重量に対し、9.3重量%または13.4重量%のスルホン化度である。
【0038】
前記SPESは、スルホン化されていないPESの重量に対し、1.1、3.6または14.1重量%のスルホン化度である、このような透析膜は、同様に好ましい。
【0039】
SPPSUを含有する透析膜に関し、前記スルホン化されていないPPSUの重量に対し、1.0、2.0、10.1または14.7重量%のスルホン化度であるものが好ましい。
【0040】
好ましい添加剤は、分子質量が600Da~500kDa(Mw)、特に、約8kDa(Mw)または10kDa(Mn)のポリエチレングリコールおよび/または分子質量が1kDa~2.2MDa(Mw)、特に、約1.1MDa(Mw)のPVPであることが示されている。
【0041】
本発明において使用する好ましい結合剤は、分子質量が1kDa~2MDa(Mw)、特に、約2kDa、好ましくは約25kDa、好ましくは約750kDa(Mw)のPEI、またはC2~C8-ジアルカナール架橋した、特に、1,5-ペンタンジアール架橋した、高分子量PEIである。特に、モル質量が750kDaのPEIが市販されており、一方、特殊な合成により架橋したPEIポリマーは、その性質(特に、その分子の大きさ)の観点で、例えば、重合度および架橋剤の選択によって、調製されていてもよい。
【0042】
LbLコーティングの目的のために、本発明において使用する好ましい多糖は、分子質量(Mw)が15kDa~1MDa、特に、約500kDaの硫酸デキストランおよび/または分子質量が30kDa~750kDaの硫酸化キトサン、またはこれらの混合物である。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、前記孔形成剤が、分子質量が約1.1MDaのPVP、グリセリン、分子質量が600Da~500kDa(Mw)、特に、約10kDa(Mn)または8kDa(Mw)のPEG/ポリエチレンオキシド[PEO]、またはこれらの三成分混合物から選択される、透析膜が使用される。
【0044】
好ましい透析膜は、透水性が10~2,000L/bar*h*m2、ウシ血清アルブミン[BSA]のふるい分け係数(@22±2℃)が0.5~0.0001、分子質量カットオフ値が20~50kDaを示す。
【0045】
本発明の透析膜のさらに好ましい実施形態は、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシドが、600Da~500kDa(Mw)、特に、約8kDa(Mw)または約10kDa(Mn)の分子質量を示し、および/またはPVPは、1kDa~2.2MDa(Mw)、特に、約1.1MDa(Mw)の分子質量を示すことを特徴とする。
【0046】
本発明の透析膜の別の好ましい実施形態は、結合剤が、
分子質量(Mw)が1kDa~2MDaのポリエチレンイミン[PEI]、
分子質量(Mw)が40~220kDaのキトサン、
分子質量(Mw)が15~300kDaのポリリジン、
分子質量(Mw)が1.9~38.5kDaのポリアルギニン、
分子質量(Mw)が1.5kDa~30.1kDaのポリオルニチン、またはこれらの混合物であることを特徴とする。
【0047】
上述の透析膜は、さらに好ましくは、結合剤PEIが、約2kDa、特に、約25kDa、好ましくは約750kDaの分子質量(Mw)を有するか、またはC2~C8-ジアルカナール架橋した、特に、1.5-ペンタンジアール架橋した、高分子量PEIであることを特徴とする。
【0048】
本発明の透析膜の別の好ましい実施形態は、多糖が、分子質量(Mw)が約500kDaの硫酸デキストランおよび/または分子質量(Mw)が30kDa~750kDaの硫酸化キトサンであることを特徴とする。
【0049】
本発明の透析膜の別の好ましい実施形態は、前記孔形成剤が、分子質量(Mw)が1kDa~2.2MDa、特に、約1.1MDaのPVP、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、分子質量(Mw)が600Da~500kDa、特に、8~10kDaのPEG/PEO、またはこれらの多成分混合物から選択されることを特徴とする。
【0050】
本発明の透析膜の別の好ましい実施形態は、接触角が20~70°の値を示すことを特徴とし、これによって、膜の非常に良好な濡れ性(親水性)が確保される。
【0051】
本発明は、同様に、中空糸または平膜の透析膜を製造するための方法を開示し、ここで、
(a)透析膜を製造するために、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチル-2-ピロリドンまたはN-エチル-2-ピロリドンから選択される少なくとも1つの有機溶媒中の、ポリスルホン[PSU]、スルホン化ポリスルホン[SPSU]、ポリエーテルスルホン[PES]、スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES]、ポリフェニルスルホン[PPSU]、スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]およびこれらの混合物から選択される少なくとも1つのポリスルホンと、少なくとも1つの親水性孔形成剤とからキャスト溶液または紡糸溶液を作製し、
(b)製造されたポリマー混合物溶液を、ベース膜を形成するために、沈殿剤と接触させて平らなまたは中空糸状のポリマー混合物が沈殿した後に、有機溶媒を洗い流し、
(c)透析膜を保護するために、ベース膜の表面にレイヤーバイレイヤー堆積(layer-by-layer[LbL] deposition)を少なくとも1回行うことによって、て機能性表面を形成するために、工程(b)で製造されたベース膜を表面改質し、ここで、少なくとも1つのポリマー性ポリカチオン性結合剤を、ベース膜表面に第1の層として塗布し、少なくとも1つのポリマー性ポリアニオンを、第2の層としてポリカチオン性層の上に塗布し、ここで、
(d)ポリカチオン性結合剤が、ポリエチレンイミン[PEI]、キトサン、ポリリジン、ポリアルギニンおよびポリオルニチン、およびこれらの混合物からなる群から選択され、
カルボキシル化多糖または硫酸化多糖が、ポリアニオンとして使用され、分子質量(Mw)が15kDa~300MDaの硫酸デキストラン、分子質量(Mw)が30kDa~750kDaの硫酸化キトサン;分子質量(Mw)が20kDa~1MDa、好ましくは約100kDaの硫酸セルロース;またはこれらの混合物からなる群から選択され、
ここで、孔形成剤は、ポリビニルピロリドン[PVP]、2~10個の炭素原子を含む短鎖グリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール[PEG]/ポリエチレンオキシド[PEO]およびこれらの混合物から選択される。
【0052】
本発明の目的のために、「ベース膜の表面」という用語は、外側表面および内径表面の両方を含むと理解される。
【0053】
上の方法の工程(b)に適した沈殿剤は、溶媒含有量が5~85重量%の有機溶媒と水の混合物である。
【0054】
本発明の方法を用いた製造のために、ポリエチレングリコール/ポリエチレンオキシドは、600Da~500kDa、特に、約8~10kDaの分子質量(Mw)を示してもよく、および/または分子質量(Mw)が1kDa~2.2MDaのPVPであってもよい。
【0055】
一般的には、本発明の方法は、結合剤としてPEIを使用し、ここで、分子質量が1kDa~2MDa、特に、約750kDaのPEI、またはC2~C8-ジアルカナール架橋した、特に、1,5-ペンタンジアール架橋した、高分子量PEIが好ましく、好ましくは、分子質量が約1.8kDaのPEIから、1,5-ペンタンジアールとの架橋によって作られたものであってもよい。
【0056】
本発明の方法で使用される多糖は、好ましくは、分子質量(Mw)が15kDa~1MDa、特に、約500kDaの硫酸デキストランおよび/または分子質量(Mw)が30kDa~750kDaの硫酸化キトサン、またはこれらの混合物である。
【0057】
上述の方法において、前記孔形成剤は、分子質量が約1.1MDaのPVP、グリセリン、分子質量が600Da~500kDa、特に、8~10kDaのPEG/PEO、またはこれらの三成分混合物から選択される。
【0058】
ベース膜の表面に沈殿剤を噴霧または添加することによって、ポリマー性ポリカチオン性結合剤、特に、PEIが、最終的なベース膜に塗布されることがさらに好ましい。
【0059】
ポリカチオン性結合剤およびポリアニオン性機能性層が両方とも、特に好ましくは、フラッシングステーションでキャピラリー膜の内径に流すことによって塗布されてもよい。
【0060】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態は、キャスト溶液または紡糸溶液の成分が、20~70℃で2~18時間かけて完全に溶解し、均一なキャスト溶液または紡糸溶液は、気泡を除くために100~800mbarで5~45分かけて脱気されることを特徴とする。
【0061】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、キャスト溶液または紡糸溶液が、0.2~5.0Pa*s(@20℃)の粘度を示すことを特徴とする。
【0062】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、前記孔形成剤が、分子質量(Mw)が1.1kDa~2.2MDaのPVP、グリセリン、分子質量が600Da~500kDa(Mw)、特に、約8kDa(Mw)のPEG/PEO、またはこれらの三成分混合物から選択されることを特徴とする。
【0063】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリカチオン性結合剤、特に、PEIが、最終的なベース膜に噴霧することによって、またはベース膜の表面に沈殿剤を添加することによって、またはフラッシングステーションでベース膜の表面に流すことによって塗布されることを特徴とする。
【0064】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリカチオン性結合剤、特に、PEIが、膜表面の1~4000μg/cm2の比率に従って塗布されることを特徴とする。
【0065】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリアニオン性多糖、特に、DEXSが、膜表面の1~1500μg/cm2の比率に従って塗布されることを特徴とする。
【0066】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリアニオン性多糖、特に、DEXSが、0.01~1MのNaCl溶液で塗布されることを特徴とする。
【0067】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリアニオン性多糖、特に、DEXSが、フラッシングステーションでキャピラリー膜の内径に流すことによって塗布され、それによって、得られるコンポジット膜の分離特性を選択的に調製することを特徴とする。
【0068】
本発明の方法の別の好ましい実施形態は、ポリマー性ポリカチオン性結合剤、特に、PEIと、ポリマー性ポリアニオン性多糖、特に、DEXSが、それぞれ、10~250mbarの膜間圧(TMP)および2~900sのコーティング時間で塗布されることを特徴とする。
【0069】
他の利点および特徴は、実施形態の記載から誘導され、図面に基づく。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1】LbL改質の前の5種類の異なるベース膜のセットの透水性およびふるい分け係数
図2】5種類の異なるベース膜のセットのポリマーについて、LbL堆積が、22±2℃での透水性およびBSAのふるい分け係数に与える影響
図3】濡れ性の指標として、セット1の改質されていない膜の接触角
図4】LbLコーティングの前および後のセット1の膜のゼータ電位
図5】LbL改質の前および後のセット3(実施例P25)の分子の大きさのカットオフ値 対 市販の高流量xevonta B.Braun膜
図6】GPCによって計算されたポリマー性結合剤である2kDa~750kDa(Mw)のPEIおよび15kDa~500kDaの多糖DEXSのモル質量分布
【発明を実施するための形態】
【0071】
(I.異なるポリマーを用いたベース膜の製造の一般的な記載)
ベース膜ポリマー/添加剤/溶媒から作られるキャスト溶液または紡糸溶液を以下のように製造した。
第1に、選択した添加剤と望ましいポリマー/ポリマーブレンドをN,N-ジメチルアセトアミド[DMAc]と、適切な量の水にゆっくりと溶解する(溶液1)。
【0072】
以下の化合物を膜ポリマーとして使用した。ポリスルホン[PSU](Mn 16-22kDa、Mw 40-85kDa)、スルホン化ポリスルホン[SPSU](Mw 50-55kDa、Mn 27-32kDa)、ポリエーテルスルホン[PES](Mw 30-75kDa、Mn 16-22kDa)、スルホン化ポリエーテルスルホン[SPES](Mw 30-35kDa、Mn 18-22kDa)、ポリフェニルスルホン[PPSU](Mw 52-55kDa、Mn 22kDa)、スルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU](Mw 47-53kDa、Mn 17-21kDa)、およびこれらの混合物(ブレンド)。
【0073】
ポリマーPSUおよびPESの改質は、後スルホン化によって実現された。不活性気体雰囲気下、このポリマーをジクロロメタンに溶解した(濃度は3~10重量%)。クロロスルホン酸を試薬として用いた。3~10gのポリマー(PSUまたはPES)を用いた。クロロスルホン酸の量(0.1~20ml)と、反応時間(5~45分以内の添加、次いで、1~5時間の反応時間)を変更して、スルホン化度を調整した。この反応は室温で行った。この後、ポリマー溶液を、沈殿浴としての氷冷した水に移し、pH値が6~7に達するまで、固体ポリマーを洗浄した。最後に、改質されたポリマーを、減圧乾燥チャンバ中、40℃で乾燥させた。
【0074】
文献に従って、例えば、Wangら、Macromol.Symp.175、387-395(2001)および/またはJeffrey B.Mecham、Faculty of Chemistry at the Virginia Polytechnic Institute and State University、Blacksburg、Virginia、USA、23 April 2001による文献によって、共重合によってスルホン化ポリフェニルスルホン[SPPSU]は製造することができる。
【0075】
ここで、使用したモノマーは、市販の4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)、4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)および二ナトリウム-3,3’-ジスルホネート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(sDCDPS)であった。全ての反応はN-メチルピロリドン(NMP)中で行った。使用した塩基は、炭酸カリウムであった。
【0076】
以下の記載は、一例としてsPPSUを製造するための1つの態様を記載する。
【0077】
スターラー、Dean-Stark装置、窒素注入口および温度制御を備える2LのHWSフラスコ中、1000mlのNMP中、以下のものを窒素雰囲気下で懸濁させた。
258.37gの4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)、186.21gの4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)、49.12gの3,3’-二ナトリウムジサルフェート-4,4’-ジクロロジフェニルスルホンおよび146.5gの炭酸カリウム(平均粒径50μm)。
この混合物を攪拌し、190℃まで加熱した。この混合物に20L/hの窒素を供給し、190℃に6時間維持した。この後、混合物を冷却するために、500mlのNMPを加えた。混合物を窒素下で60℃未満まで冷却した。濾過後、混合物を、50mlの2m HClを含有する水中で沈殿させた。沈殿した生成物は、熱水を用いて85℃で20時間かけて抽出し、減圧下、120℃で24時間乾燥させた。
【0078】
分子量分布は、溶媒としてDMAc/LiBrを用い、この系を較正するための標準として近い分子量分布を有するPMMAサンプルを用い、GPCによって決定した。
【0079】
次いで、上述のように、所望のポリマー/ポリマーブレンドをN,N-ジメチルアセトアミド[DMAc]と、適切な量の水にゆっくりと溶解した(溶液1)。Mnが10,000Daのポリエチレングリコールを添加したとき、この溶液1を40℃で連続して攪拌した。PVPを使用した場合、攪拌は70℃で行い、重量平均モル質量Mwが約1.1MDaのポリ(ビニルピロリドン)を使用した。ポリマー成分の完全な溶解を達成するために、混合物を少なくとも3~12時間攪拌した。この時間までに完全な溶解が達成されなかったら、攪拌をさらに数時間続けた。
【0080】
気泡を除去するために、得られた均一なキャスト溶液または紡糸溶液を100mbarで15分間脱気した。
【0081】
特に明記しない限り、全てのパーセントは、重量%で示され、「モル質量」という用語は、特に明記しない限り、重量平均モル質量Mwまたは数平均モル質量Mnを指し、両方とも関連する分子質量標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィーによって測定することができる。この理由は、重量平均モル質量は、実際にプラスチックの性質の相関関係にとって、数および粘度の平均よりもかなり重要であるためである(Saechtling、Kunststofftaschenbuch、第31版、Carl Hanser Verlag、Munich 2013を参考)。
【0082】
表1:GPCによるモル質量の特性評価のためのパラメータ

【0083】
平膜を製造するために、非溶媒誘起型相分離法[NIPS]に従って製造する。ポリマー溶液をCoatmaster 509 MC(Erichsen GmbH & CO.KG、Hemer)でガラスプレートの上に、ギャップ高さが200μmのステンレス鋼スキージを用いて一定のスキージ速度25mm/sで押出成形し、相対空気湿度<30%、室温の制御された雰囲気でプロト膜を作製した。膜製造(キャスト溶液、ガラスプレート、ステンレス鋼スキージ、沈殿浴)の温度は、室温から60℃までさまざまであった。
【0084】
これによって得られたキャストフィルムを、その後、50体積%のDMAc/50体積%のH2Oの混合物500mlを沈殿剤として含む沈殿浴に5分間浸した。
【0085】
沈殿後、膜を水に移し、それぞれの場合に、20分後に水を3回替えた。いわゆる濡れた改変物(表2を参照)について、膜を最終的な大きさになるように切断し、特性評価またはLbL改質のために、サンプルを10mMのナトリウムアジド水溶液中、室温に維持した。乾燥した改変物の場合には、膜を洗浄した後に、さらなる段階の前に100℃で6分間乾燥させた。
【0086】
中空糸膜を製造するために、上述の得られたポリマー紡糸溶液を、約60℃の温度に維持された中空フィラメントノズルの環状ギャップに入れる。同時に、内径を生成し、沈殿プロセスを誘発するために、50体積%のDMAc/50体積%のH2Oの混合物を中空フィラメントノズルの吐出ニードルによって供給する。完全に生成した中空糸膜は、温度50℃、相対空気湿度90%のチャンネルを通って誘導され、温度約70℃の暖かい沈殿剤(50体積%のDMAc/50体積%のH2O)の中で沈殿し、固定され、その後、洗浄され、平膜の場合と同様にして、保存した。
【0087】
乾燥後、内径が200μm、壁厚が30μmの中空糸膜が生成した。
【0088】
(I.1.ベース膜の改質:レイヤーバイレイヤー堆積(layer-by-layer deposition))
上の記載に従って作られた平膜の表面改質は、Amicon(登録商標)限外濾過測定セルを用いることによって、または類似の形態および寸法に複製されたセルで行われた。第1に膜表面にポリマー性カチオン性結合剤の最初の層を塗布するために、市販のポリエチレンイミン(750kDa)溶液を、この膜を通し、膜表面に対して3.7mg/cm2の比率で、50mbarで5分間かけて濾過した。次いで、膜表面を水で洗浄し、その後、この膜を通し、水を50mbarで5分間かけて濾過した。この後、この膜を通し、1M NaCl溶液を50mbarで2分間かけて濾過した。次いで、硫酸デキストラン溶液(DEXS溶液、1M NaCl中、500kDa)を用い、1.5mg/膜表面cm2の比率で、50mbarで5分間かけて濾過することによって、この膜をコーティングし、ポリマー性ポリアニオンを含有する第2の層を作製した。次いで、過剰な硫酸デキストランを除去するために、膜を上述のように洗浄した。
【0089】
必要な場合、最終的に所望な特性を有する機能性層を得るために、上述のLbLコーティングを数回繰り返してもよい。
【0090】
本発明の一部として作られた中空糸膜のLbLコーティングのために、まず、中空糸を透析モジュールに入れ、次いで、ゆるく充填し、その後、平膜にて記載したように、LbLコーティングを行った。
【0091】
(I.2.透過性および保持試験)
(I.2.1 ベース膜の特性評価)
Amicon(登録商標)限外濾過測定セルまたは攪拌デバイスを備える自己構築されたセルを用い、いわゆるデッドエンド構造モデルで濾過実験を行った。全ての実験において、セルの床が膜を機械的に変えてしまうのを防ぐために、PPフリースを試験する膜の下に置いた。
【0092】
まず、膜を圧縮化した。これは、膜の構造を変える効果を有する交互に加えられる圧力であり、透水性が失われる。まず、準一定の流れが得られるまで、0.5barでの超純水の濾過によって、膜を少なくとも30分間圧縮した。次いで、圧力を10分間で緩和し、0.1~0.5barの圧力差について、透水性を測定した。存在する透水性Lpは、L h-1-2bar-1で表され、これは温度20℃で標準化された。
【0093】
圧縮の結果としての透過性の消失は、これらの実験から、以下の式1に基づいて決定された。
【0094】
【数1】
【0095】
製造した膜を、限外濾過によって、ウシ血清アルブミン(BSA、Probumin、Millipore)を用いて試験した。第1に、試験のための膜を、50mbarでのリン酸バッファー溶液(8g/L NaCl、1.182g/L Na2HPO4・2H2O、0.9g/L KH2PO4)の濾過によって、2分間かけてコンディショニングした。この後、この膜を通し、リン酸バッファー中の濃度30g/L BSAの供給物として、膜に対して比率2.4ml/cm2、30mbarで既知の体積のBSA溶液を濾過し、浸透物および保持物のサンプルを1:5の比率で集めた。供給溶液、保持物、浸透物中の濃度を278.5~279.5nmで測定した(関連する較正の後に)。BSAのふるい分け係数Sを式2に従って計算した。
【0096】
【数2】
浸透物、C供給物およびC保持物は、浸透物、供給物および保持物中の関連するBSA濃度である。
【0097】
この後、弱く結合した汚染防止層を除去するために、膜を注意深く洗浄し、Amicon(登録商標)セル中、超純水と共に15分間攪拌した。次いで、透過性をもう一度測定し、汚染耐性Rfを以下の様に計算した。
【0098】
【数3】

ここで、LpおよびLp*は、BSA濾過の前および後の透過性である。
【0099】
本出願の目的のために、「分子量カットオフ」(MWCO)という用語は、膜によって90%が保持される分子質量であるとされる。単位は、Daである。
【0100】
分子量カットオフの決定は、0.01%のナトリウムアジドを含む水中、濃度が1.1g/l(質量分布/リットル:0.20g 1kDa、0.25g 4kDa、0.15g 8kDa、0.07g 15kDa、0.10g 35kDa、0.15g 70kDa、0.05g 110kDa、0.13g 250kDa)のデキストランワイドバンド混合物(供給物)を用いて行われた。この供給物を、膜を通し、室温、30mbarで、2.4ml/膜cm2の比率で濾過し、浸透物および保持物のサンプルを1:5の比率で集めた。次いで、供給溶液、保持物、浸透物中の濃度をゲル浸透クロマトグラフィー(PL-GPC 50 Plus、Varian)によって分析した。使用したカラムは、PROTEEMA 300A(PSS)、PL aquagel-OH Mixed 8μm(Agilent)であり、0.01% NaN3のH2O溶液を流速1ml/minで溶出液として使用した。各サンプル100μlを注入した。多糖標準を用いた較正に基づいて分析を行った。
【0101】
それぞれのモル質量についてのふるい分け係数は、ソフトウェアによって、データから計算される。
【0102】
【数4】
【0103】
それぞれの膜について、モル質量に対してふるい分け係数を示すことによって、ふるい分け曲線を得る(対数適用)。次いで、このふるい分け曲線を使用し、ふるい分け係数0.1のカットオフを決定する。「分子量カットオフ」(MWCO)という用語は、膜によって90%が保持される分子質量であるとされる。単位は、ダルトン[Da]である。
【0104】
(I.2.2.LbL改質された膜の特性評価)
LbL改質された膜を特性決定するために、ベース膜について上に記載したのと同じ様式で測定を行った。第1に、改質されていない膜を圧縮し、透過性を測定した(0.1~0.5barの圧力差で)。次いで、LbLコーティングをI.2.章に記載したように行った。LbLコーティングの後、新しい透過性を測定し、LbL堆積に起因する透過性消失LpLbL消失を式4に従って計算した。
【0105】
【数5】
【0106】
新しい膜の能力も、ベース膜と同じ方法を用い、BSA保持に基づいて測定した。最後に、超純水を用いて膜を再び注意深く洗浄し、15分間洗浄し、次いで、圧力0.1barで5分間、再び洗浄した。この後、透過性を再び測定し、MWCOおよび汚染耐性Rf-LbLを計算した。
【0107】
(I.3.接触角の測定)
光学接触角測定デバイスを用い、接触角を「°」で決定した。静泡キャプティブバブル法を用い、測定を行った(気泡の容積:5μl)。各サンプルについて、異なる位置で少なくとも5回の測定を行い、その後、平均を計算した。
【0108】
(I.4.ゼータ電位の測定)
製造した膜の内径表面の表面電荷を決定するために、市販の界面動電分析器SurPASS(Anton Paar)を用いてゼータ電位を測定した。それぞれの実験の前に、測定される膜を、1mM KClの電解質溶液中で、1時間かけて平衡状態にした。次いで、室温で、HCl溶液によって設定したpH値3から、最終的なpH値11.5まで、KOH溶液を加えることによって徐々に上げつつ実験を行った。
【0109】
(I.5.レオロジー測定)
製造したキャスト溶液および紡糸溶液の粘度を、温度制御の目的のためにPeltier要素を取り付けたレオメーターを用いて測定した。コーンプレートを備える測定システム(CP25-2/TG)を用い、一定の剪断速度(125 1/s)および温度差(20~60℃)で実験を行った。
【0110】
(II.結果)
モデル膜として平膜を製造するためのキャスト溶液の組成と、製造温度を表2に示す。
【0111】
この表において、PSUはポリスルホンであり、一方、SPPSU1、SPPSU2、SPPSU10、SPPSU14は、それぞれ、使用した硫酸化ポリフェニルスルホンの具体的なスルホン化度を重量%で示し、これに従って、上に明記したスルホン化ポリフェニルスルホンに対し、SPPSU1は1.0重量%、SPPSU2は2.0重量%、SPPSU10は10.1重量%、SPPSU14は14.7重量%のスルホン化度を適用する。
【0112】
使用したスルホン化ポリスルホンエーテルについて、スルホン化ポリスルホン(すなわち、SPES3、SPES2およびSPES4)について上に設定した名称のものと同じ様式で、それぞれのスルホン化度の観点で適用する。従って、これらのスルホン化ポリエーテルスルホンは、SPES3が1.1重量%SPES2が3.6重量%およびSPES4が14.1重量%のスルホン化度である。
【0113】
この実験のために、5種類の異なるキャスト溶液のセットを選択した。
-セット1:添加剤として異なる割合のSPPSUおよびPVPを用い、キャスト溶液中、15%のポリマー含有量。
-セット2:添加剤として異なる割合のSPPSUおよびPVPを用い、キャスト溶液中、17%のポリマー含有量。
-セット3:添加剤として異なる割合のSPPSUおよびPEG/PEOを用い、キャスト溶液中、16%のポリマー含有量。
-セット4:添加剤として異なる割合のSPESおよびPVPを用い、キャスト溶液中、15%のポリマー含有量。
【0114】
試験した膜について得られた実験のまとめを表3に示す。
【0115】
【表2】

【0116】
【表3】





【0117】
本発明の膜の特性をもっと明確に示すために、図1は、改質前に測定した5種類の異なる膜の透水性およびふるい分け係数を示す(表2および表3を参照)。ベース膜の透水率は、10~5,000L/bar*h*m2であり、BSAのふるい分け係数(@22±2℃)が0.9~0.001の範囲、MWCOが3kDa~250kDaの範囲を示す。添加剤としてPVPを含む膜に対応する中程度の流量を有する膜の場合、この結果は、明らかに、スルホン化ポリマーを使用すると、透水性が顕著に増加することを示し、このことは、おそらく、このような膜の高い膜親水性に主に起因すると思われる。
【0118】
しかし、添加剤としてPEG/PEOを含む膜に対応する高流量膜について、この効果は低くなる。しかしながら、サイズ保持特性を犠牲にして、全ての場合に高い透過性が得られる。想定される孔径の増加は、おそらくこれらが理由である。高いスルホン化度を有するポリマーを用いて作られたキャスト溶液について、低い粘度が得られる。これにより、転相プロセス中の膜生成の変化を誘発する。
【0119】
図2は、4種類の異なる膜のセットについて、透水性およびBSAふるい分け係数に対するLbL堆積の効果と、LbL堆積に起因して誘発される透過性の減少を示す。
【0120】
高分子電解質を用いたLbLコーティングの後、84%までの透過性の低下が観察される。特に、添加剤としてPVPを含むセット1について、スルホン化度とポリマーとの間に直接的な相関関係が観察され、混合物溶液に高いスルホン化度を有するスルホン化ポリマーを使用すると、コーティングによって透過性が大幅に低下する。
【0121】
これに束縛されないが、一方で、膜表面に高い電荷密度が存在すると堆積中に高分子電解質が良好に結合することができる。他方で、同じ量の高分子電解質が堆積し、透過性の大幅な低下は、LbLプロセス開始時に大きな孔が存在することによって引き起こされ、改質の結果として、高分子電解質の堆積中に孔が狭くなるか、またはブロックされるだろう。
【0122】
さらに、図2は、添加剤としてPEG/PEOを用いて作られる膜について、改質後に高い透過性と低いふるい分け係数が得られることを示す。
【0123】
S2-PEG-A、S2-PEG-A25、S10-PEG-AおよびP25は、それぞれ、透水性が1102±144L*bar*h-1*m-2、974L*bar*h-1*m-2、793±26 L*bar*h-1*m-2、720±193L*bar*h-1*m-2、22±2℃でのBSAのふるい分け係数が0.012±0.004、0.007、0.006±0.003、0.0013±0.0005を示す。
【0124】
セット2から本発明に従って改質した膜は、17%のポリマーと、添加剤としてPVPを含むポリマー溶液からなり、この膜は、高い性能を示す。266±72L*bar*h-1*m-2および457L*bar*h-1*m-2の透水性が達成され、S2-PVP-DおよびS10-PVP-5Dについて、それぞれの場合に0.002のBSAふるい分け係数を得た。
【0125】
14.3%のポリマーと、添加剤としてPEGを含むポリマー溶液から製造した、セット4からのコンポジット膜は、コーティング品質と改質時の条件に依存して、透水性が65±22~456L*bar*h-1*m-2、BSAふるい分け係数が0.0083~0.01215を示す。
【0126】
得られた結果は、中レベルから高レベルまでの透水性を有する広範囲にわたる膜であった。さらに、この結果は、LbLコーティングが、透水性およびBSAのふるい分け係数に対し、支配的な影響を与え、実際に、LbLコーティングによって得られる膜は、透析用途に適している。
【0127】
特に、本発明の内容において、使用するポリマーの含有量とスルホン化度を調節することによって、膜表面の電荷の制御を達成することができた。
【0128】
従って、本発明を用い、透水性が10~2000L*bar*h-1*m-2の範囲、22±2℃でのふるい分け係数が0.0001~0.5の範囲である血液を精製する(または透析する)のに適した膜を製造することができる。
【0129】
膜(特にセット1)の親水性に関連する追加の分析を図3に示す。これは、PSU/PVPベース膜(S0-PVP-B)およびスルホン化ポリマーブレンド(混合物)から作られる膜に対する接触角の測定を示す。図3に示すように、ポリスルホンにスルホン化基を導入すると、接触角も小さくなり、そのため、膜の濡れ性が向上する。
【0130】
図4に示すように、ゼータ電位測定を用い、本発明の膜(特に、セット1)も、表面電荷の分析によって特性評価した。図4は、より高いスルホン化度を有するポリマーから作られる膜は、スルホン化ポリマーを含まないか、またはより低いスルホン化度を有するポリマーを含むリファレンス膜と比較して、ゼータ電位の絶対値も増加することを示す。より高いスルホン化度は、表面の正味の負電荷の増加を誘発する。このように、膜表面により高い電荷密度が存在すると、当然のことだが、より大量の高分子電解質も堆積する(図4に示されるように、少なくともPEIについて)。代わりに、より大きなスルホン酸密度を有する面積あたりに吸着するPEIの量がより多くなると、結合していないアミノ基の割合もより多く(ループがより多く)なりうる。
【0131】
図5は、さらに、セット4からの膜P25のLbL改質の前後のデキストランふるい分け曲線を示す。LbL改質の結果として、ふるい分け曲線は、明らかにより低モル質量範囲にシフトしている。この曲線は、明らかに、明確なカットオフ点までは急勾配である。このことは、孔径が、改質後にはもっと狭く分布していることを示唆している。MWCOが35±6kDaの場合、透水性(720±193L*bar*h-1*m-2 対 163±4L*bar*h-1*m-2)および22±2℃でのBSAのふるい分け係数(0.0013±0.0005 対 <0.006)の観点でも、従来技術のxevonta Hi膜よりも透析用途で良好な性能を示す。しかし、ベース膜は、透析用途には適していない(図5を参照)。
【0132】
さらに、図6は、LbL改質のために使用される、2.0kDaおよび750kDaのPEIと、15kDaおよび500kDaのDEXSのモル質量分布を示す。2.0kDaのPEIの場合、モル質量は、比較的狭く分布している。これとは対称的に、750kDaのPEIのモル質量は、広く分布しており、実際に全範囲にわたってフラクションが存在し、その結果、PEI 750kDaの分布曲線は、2.0kDaの分布曲線と重なり合っている。このことは、小さなフラクションが大量に存在することを意味している。DEXSについて、15kDaの場合の分布は、比較的狭い。500kDaについて同様の図が得られ、モル質量は、同様に比較的狭く分布している。しかし、全てにおいて、PEIと比較して、重なり合いの程度は低い。
【0133】
この結果は、コンポジット膜の透水性、MWCOおよびBSAのふるい分け係数を、LbLコーティングによって選択的に調整することができることも示す。従って、LbLコーティングによって得られる本発明の膜は、血液の精製または透析に適している。
【0134】
本発明の目的のために、ゲル浸透クロマトグラフィー[GPC]を用いた分子質量の測定は、0.1~1200kDaのモル質量範囲のPMMA標準を用いて較正したことを注記しておくべきである。使用したGPCカラムでは、0.5~1000kDaの範囲のモル質量でほぼ線形の較正関数が得られ、これもオリゴマーの分析にとって非常に良好である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6