(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】有機電子スイッチングデバイス、デバイスを動作させることを含む方法、および電子スイッチングデバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/786 20060101AFI20220523BHJP
H01L 51/05 20060101ALI20220523BHJP
H01L 51/30 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
H01L29/78 618G
H01L29/28 100A
H01L29/78 618B
H01L29/28 220A
(21)【出願番号】P 2017568066
(86)(22)【出願日】2016-06-29
(86)【国際出願番号】 EP2016065137
(87)【国際公開番号】W WO2017001473
(87)【国際公開日】2017-01-05
【審査請求日】2019-06-27
(32)【優先日】2015-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503430658
【氏名又は名称】フレックスエネーブル リミティッド
(73)【特許権者】
【識別番号】501484851
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング シリンガス
(72)【発明者】
【氏名】マーク ニコルカ
(72)【発明者】
【氏名】ヤド ナスララ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジョンマン
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/087601(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/183093(WO,A1)
【文献】特表2013-535112(JP,A)
【文献】国際公開第2012/033075(WO,A1)
【文献】MA LIANG,HIGH PERFORMANCE POLYTHIOPHENE THIN-FILM TRANSISTORS DOPED WITH VERY SMALL AMOUNTS OF 以下備考,APPLIED PHYSICS LETTERS,米国,A I P PUBLISHING LLC,2008年02月15日,VOL:92, NR:6,PAGE(S):63310-1 - 63310-3,http://dx.doi.org/10.1063/1.2883927,AN ELECTRON ACCEPTOR
【文献】EUNHEE LIM,DOPING EFFECT OF SOLUTION-PROCESSED THIN-FILM TRANSISTORS BASED ON POLYFLUORENE,JOURNAL OF MATERIALS CHEMISTRY,英国,2007年,VOL:17, NR:14,PAGE(S):1416 - 1420,http://dx.doi.org/10.1039/b615720c
【文献】YUJI YAMAGISHI,ORGANIC FIELD-EFFECT TRANSISTORS WITH MOLECULARLY DOPED POLYMER GATE BUFFER LAYER,SYNTHETIC METALS,スイス,2012年10月13日,VOL:162, NR:21 - 22,PAGE(S):1887 - 1893,http://dx.doi.org/10.1016/j.synthmet.2012.08.020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 51/05
H01L 51/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体層を含む電子スイッチングデバイスであって、前記半導体層は、ポリマーを含む少なくとも1つの半導体有機材料と、水種と、前記半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量の少なくとも1種の添加剤とを含み、前記添加剤は、前記半導体有機材料に対する水種により引き起こされる電荷キャリアトラップ効果を少なくとも部分的に打ち消し、
前記電子スイッチングデバイスは、p型半導体デバイスであり、かつ前記添加剤は、前記半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.3eV小さい電子親和力を有する材料を含む、電子スイッチングデバイス。
【請求項2】
前記少なくとも1つの添加剤は、前記電子スイッチングデバイスを飽和領域におい
て2.5μAのドレイン電流で25時間にわたり動作させることを含むストレス試験において、前記電子スイッチングデバイスのしきい値電圧変化を1V未
満にまで低減する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記添加剤は、5nm未
満のサイズを有する分子を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記添加剤は、前記半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.5eV小さい電子親和力を有する材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記添加剤は、前記電子スイッチングデバイスのしきい値電圧を2V以
下だけシフトさせる、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記添加剤は、有機半導体の移動度を20%以
下だけ減少させる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記添加剤は、トランジスタのオフ電流を10倍以
下だけ増加させる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項8】
前記添加剤は、前記半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.3eVより多
く大きいイオン化ポテンシャルを有する材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記添加剤は、前記半導体有機材料の数平均分子量の5%未
満の分子量を有する分子材料を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記添加剤は、室温で前記半導体有機材料において、水が前記半導体有機材料において有するものより高い溶解度を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記添加剤は、水中で少なくとも0.1%の溶解度を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記半導体層は、少なくとも0.1重量%の量の残留水分子を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
前記半導体層は、前記デバイスの1つまたは複数の他の層と共に、酸素の進入に対して封止される、請求項1~12の何れかに記載のデバイス。
【請求項14】
前記添加剤は、室温で液体であり、かつ前記半導体有機材料の溶媒であり、前記半導体有機材料の前記添加剤における溶解度は、少なくとも0.1重量%である、請求項1~13の何れかに記載のデバイス。
【請求項15】
前記添加剤の沸点は、150℃より
高い、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記添加剤は、室温で固体であり、かつ前記半導体有機材料において1重量%より高い固体溶解度を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
前記添加剤を混和することにより、ストレス試験における前記電子スイッチングデバイスのしきい値電圧シフトは、前記半導体有機材料に添加剤が混和されない参照デバイスのそれより50%減り、前記ストレス試験は、前記デバイスを飽和領域におい
て(0.25μA×W/L)のドレイン電流で25時間にわたり動作させることを含み、ここで、WおよびLは、前記電子スイッチングデバイスのチャネル幅およびチャネル長さである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記半導体有機材料における前記添加剤の混和は、前記電子スイッチングデバイスのオフ電流を増加させない、請求項1に記載のデバイス。
【請求項19】
前記添加剤の量は、前記半導体有機材料に対して少なくとも1重量%である、請求項1~18の何れかに記載のデバイス。
【請求項20】
前記添加剤は、TCNQ、F4-TCNQ、F6-TCNNQ、TCNNQ、TCAQおよびF8-TCAQのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項21】
前記添加剤は、前記デバイス内に前記添加剤を包含した後に前記デバイスが曝される最高温度より高い溶融温度を有する、請求項1~13、16~19の何れかに記載のデバイス。
【請求項22】
前記添加剤は
、120℃より高い溶融温度を有する、請求項1~13、16~19の何れかに記載のデバイス。
【請求項23】
前記添加剤は、前記デバイス内に前記添加剤を包含した後に前記デバイスが曝される最高温度より上の昇華/沸騰温度を有する、請求項1~13、16~19の何れかに記載のデバイス。
【請求項24】
前記添加剤は
、120℃より高い昇華/沸騰温度を有する、請求項1~13、16~19の何れかに記載のデバイス。
【請求項25】
請求項1~24の何れかに記載のデバイスを動作させることを含む方法であって、前記添加剤は、前記半導体層内に前記量で含まれ、前記デバイスを動作させることは、前記半導体層の一部の導電率を電気的に変えることを含む、方法。
【請求項26】
ポリマーを含む半導体有機材料を含む半導体層を含む層スタックを形成することを含む、電子スイッチングデバイスの製造方法であって、前記層スタックを形成することは、前記半導体有機材料に対する、水分子により引き起こされる電荷キャリアトラップ効果を少なくとも部分的に打ち消す少なくとも1つの分子添加剤を堆積させることと、前記スタック内に前記添加剤を、前記半導体層内に前記分子添加剤が前記半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量で存在する程度にまで保持することと、を含み、
前記電子スイッチングデバイスは、p型半導体デバイスであり、かつ前記添加剤は、前記半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.3eV小さい電子親和力を有する材料を含む方法。
【請求項27】
前記添加剤は、前記半導体有機材料を堆積させるために使用される溶媒である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記添加剤を、前記スタックの前記半導体層以外の層の混合物の一部として堆積させることを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記スタック内に添加剤を、前記半導体層内に前記添加剤が前記半導体有機材料に対して少なくとも1重量%の量で存在する程度にまで保持することを含む、請求項26~28の何れかに記載の方法。
【請求項30】
前記添加剤は、TCNQ、F4-TCNQ、F6-TCNNQ、TCNNQ、TCAQおよびF8-TCAQのうちの1つ以上を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記添加剤は、前記スタック内に前記添加剤を包含した後に前記スタックが曝される最高温度より高い溶融温度を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記添加剤は
、120℃より高い溶融温度を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記添加剤は、前記デバイス内に前記スタックを包含した後に前記スタックが曝される最高温度より高い昇華/沸騰温度を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記添加剤は
、120℃より高い昇華/沸騰温度を有する、請求項26に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
有機半導体をベースとする電子/光電子デバイス(以下、「有機デバイス」という)は、溶液から堆積される有機半導体膜において低温で高いオン電流および良好なオン/オフ比を達成する可能性が高まっていること、および柔軟なフォームファクタにおいて電子回路を可能にする有機半導体固有の柔軟な機械特性に起因して、ますます多くの用途で関心が高まっている。
【0002】
しかしながら、デバイスが様々な雰囲気に曝されかつ長期間にわたって動作される場合には、高いオン電流および高いオン/オフ比とは別に、経時的な優れた性能安定性が電子/光電子デバイスにとってますます重要な要件となる。
【発明の概要】
【0003】
本出願の発明者らは、有機デバイスの性能安定性(即ち、ストレスおよび環境安定性)が比較的低い可能性があることを見出しており、よって、本発明の目的は、有機デバイスの性能安定性を高めることができる技術を提供することにある。
【0004】
本明細書では、半導体層を含む電子デバイスまたは光電子デバイスを提供していて、前記半導体層は、少なくとも1つの半導体有機材料と、水種と、半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量の少なくとも1種の添加剤とを含み、前記添加剤は、半導体有機材料に対する水種により引き起こされる電荷キャリアトラップ効果を少なくとも部分的に打ち消す。
【0005】
また、本明細書では、半導体層を含む電子デバイスまたは光電子デバイスを提供していて、前記半導体層は、少なくとも1つの半導体有機材料と、半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量の少なくとも1種の添加剤とを含み、前記添加剤は、水分子による占有が可能な半導体有機材料内の少なくとも幾つかのボイドを占有し、かつ半導体有機材料に対して水より小さい電荷キャリアトラップ効果を有する。
【0006】
また、本明細書では、前記半導体層に前記添加剤が前記量で含まれる上述のデバイスを動作させることを含む方法も提供していて、前記デバイスを動作させることは、半導体層の一部の導電率を電気的に変えることを含む。
【0007】
また、本明細書では、半導体有機材料を含む半導体層を含む層スタックを形成することを含む、電子デバイスまたは光電子デバイスの製造方法も提供していて、前記層スタックを形成することは、半導体有機材料に対する、水分子により引き起こされる電荷キャリアトラップ効果を少なくとも部分的に打ち消す少なくとも1つの分子添加剤を堆積させることと、前記スタック内に前記添加剤を、半導体層内に分子添加剤が半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量で存在する程度にまで保持すること、を含む。
【0008】
また、本明細書では、半導体有機材料を含む半導体層を含む層スタックを形成することを含む、電子デバイスまたは光電子デバイスの製造方法も提供していて、前記層スタックを形成することは、水分子による占有が可能な半導体有機材料内の少なくとも幾つかのボイドを占有し、かつ半導体有機材料に対して水より小さい電荷キャリアトラップ効果を有する少なくとも1つの分子添加剤を堆積させることと、前記スタック内に前記添加剤を、半導体層内に分子添加剤が半導体有機材料に対して少なくとも0.1重量%の量で存在する程度にまで保持すること、を含む。
【0009】
ある実施形態によれば、前記デバイスは、電子スイッチングデバイスである。
【0010】
ある実施形態によれば、前記少なくとも1つの添加剤は、電子スイッチングデバイスを飽和領域において約2.5μAのドレイン電流で25時間にわたり動作させることを含むストレス試験において、電子スイッチングデバイスのしきい値電圧変化を1V未満(好ましくは、0.7V未満)にまで低減する。
【0011】
ある実施形態によれば、添加剤は、5nm未満、より好ましくは2nm未満、さらに好ましくは1nm未満のサイズを有する分子を含む。
【0012】
ある実施形態によれば、電子スイッチングデバイスは、p型半導体デバイスであり、かつ添加剤は、半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.1eV、より好ましくは少なくとも0.3eV、かつさらに好ましくは少なくとも0.5eV小さい電子親和力を有する材料を含む。
【0013】
ある実施形態によれば、添加剤は、しきい値電圧を2V以下、より好ましくは1V以下、最も好ましくは0.3V以下だけシフトさせる。
【0014】
ある実施形態によれば、添加剤は、有機半導体の移動度を20%以下、好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下だけ減少させる。
【0015】
ある実施形態によれば、添加剤は、トランジスタのオフ電流を10倍以下、好ましくは5倍以下、最も好ましくは1.2倍以下だけ増加させる。
【0016】
ある実施形態によれば、電子スイッチングデバイスは、p型半導体デバイスであり、かつ添加剤は、半導体有機材料のイオン化ポテンシャルより少なくとも0.3eVより多く、より好ましくは少なくとも0.5eVより多く、かつさらに好ましくは少なくとも1eVより多く大きいイオン化ポテンシャルを有する材料を含む。
【0017】
ある実施形態によれば、添加剤は、半導体有機材料の数平均分子量の5%未満、好ましくは3%未満、最も好ましくは1%未満の分子量を有する分子材料を含む。
【0018】
ある実施形態によれば、添加剤は、室温で有機半導体材料において、水が有機半導体材料において有するものより高い溶解度を有する。
【0019】
ある実施形態によれば、添加剤は、水中で少なくとも0.1%の溶解度を有する。
【0020】
ある実施形態によれば、半導体層は、少なくとも0.1重量%の量の残留水分子を含む。
【0021】
ある実施形態によれば、半導体層は、デバイスの1つまたは複数の他の層と共に、酸素の進入に対して封止される。
【0022】
ある実施形態によれば、前記分子添加剤は、室温で液体であり、半導体有機材料の溶媒であり、半導体有機材料の液体分子添加剤における溶解度は、少なくとも0.1重量%である。
【0023】
ある実施形態によれば、前記添加剤の沸点は、150℃より高く、好ましくは180℃より高く、最も好ましくは200℃より高い。
【0024】
ある実施形態によれば、前記分子添加剤は、室温で固体であり、半導体有機材料において1重量%より高い固体溶解度を有する。
【0025】
ある実施形態によれば、分子添加剤を混和することにより、ストレス試験における電子スイッチングデバイスのしきい値電圧シフトは、前記半導体有機材料に分子添加剤が混和されない参照デバイスのそれより50%減り、前記ストレス試験は、前記デバイスを飽和領域において約(0.25μA×W/L)のドレイン電流で25時間にわたり動作させることを含み、ここで、WおよびLは、電子スイッチングデバイスのチャネル幅およびチャネル長さである。
【0026】
ある実施形態によれば、前記半導体有機材料における前記添加剤の混和は、電子スイッチングデバイスのオフ電流をさほど増加させない。
【0027】
ある実施形態によれば、前記添加剤の量は、半導体有機材料に対して少なくとも1重量%である。
【0028】
ある実施形態によれば、前記半導体有機材料は、ポリマーを含む。
【0029】
ある実施形態によれば、前記添加剤は、半導体有機材料を堆積させるために使用される溶媒である。
【0030】
ある実施形態によれば、本方法は、前記添加剤を、前記スタックの半導体層以外の層の混合物の一部として堆積させることを含む。
【0031】
ある実施形態によれば、本方法は、前記スタック内に添加剤を、半導体層内に添加剤が半導体有機材料に対して少なくとも1重量%の量で存在する程度にまで保持することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を単に例示として詳細に説明する。
【
図2】有機トランジスタによって出力を制御される有機発光デバイスと共に集積された有機トランジスタの別の例を示す略図である。
【
図3A】pチャネル有機トランジスタの半導体膜に添加剤を混和したときの向上した環境安定性およびデバイス均一性を示す実験結果を示す。
【
図3B】pチャネル有機トランジスタの半導体膜に添加剤を混和したときの向上した環境安定性およびデバイス均一性を示す実験結果を示す。
【
図3C】pチャネル有機トランジスタの半導体膜に添加剤を混和したときの向上した環境安定性およびデバイス均一性を示す実験結果を示す。
【
図3D】pチャネル有機トランジスタの半導体膜に添加剤を混和したときの向上した環境安定性およびデバイス均一性を示す実験結果を示す。
【
図3E】pチャネル有機トランジスタの半導体膜に添加剤を混和したときの向上した環境安定性およびデバイス均一性を示す実験結果を示す。
【
図4A】本発明の一実施形態による別のトランジスタ例の高温保存(HTS)試験の間の異なる時間でトランジスタ特性を測定することを含む実験の結果を示す。
【
図4B】参照トランジスタの高温保存(HTS)試験の間の異なる時間でトランジスタ特性を測定することを含む実験の結果を示す。
【
図5】本発明の一実施形態によるトランジスタおよび参照トランジスタのストレス試験中およびこれに続く回復期間中の双方の異なる時間におけるしきい値電圧の抽出を含む実験の結果を示す。応力は、窒素環境において、半導体に様々な添加剤を混和したトランジスタに対して実行される。
【
図6】F4TCNQ(左)およびTCNQ(右)を0、1、2、5、10および20%のレベルで添加したIDTBT膜の紫外光電子分光法(UPS)のデータを比較したものである。上側のパネルは、抽出されたフェルミ準位におけるシフトを示し、下側のパネルは、全ての膜の実験的なUPSスペクトルを示す。
【
図7A】IDTBTに関する、アニーリングされたデバイスよりも向上した鋳放しデバイスの性能および安定性を示す実験結果を示す。広範なクラスのポリマーにわたって性能の向上が観察される。
【
図7B】IDTBTに関する、アニーリングされたデバイスよりも向上した鋳放しデバイスの性能および安定性を示す実験結果を示す。広範なクラスのポリマーにわたって性能の向上が観察される。
【
図7C】F8BTに関する、アニーリングされたデバイスよりも向上した鋳放しデバイスの性能および安定性を示す実験結果を示す。広範なクラスのポリマーにわたって性能の向上が観察される。
【
図7D】DPP-DTTに関する、アニーリングされたデバイスよりも向上した鋳放しデバイスの性能および安定性を示す実験結果を示す。広範なクラスのポリマーにわたって性能の向上が観察される。
【
図7E】DPP-DTTに関する、アニーリングされたデバイスよりも向上した鋳放しデバイスの性能および安定性を示す実験結果を示す。広範なクラスのポリマーにわたって性能の向上が観察される。
【
図8A】アニーリングされていないIDTBT膜のエリプソメトリ測定値を示し、ポリマー膜中に存在する液体添加剤(溶媒)の量を示す。
【
図8B】アニーリングされているIDTBT膜のエリプソメトリ測定値を示し、ポリマー膜中に存在する液体添加剤(溶媒)の量を示す。
【
図9A】水によってデバイス性能が低下するという結果を示す。デバイスから水を除去すると、デバイスの性能および安定性が著しく高まる。
【
図9B】水によってデバイス性能が低下するという結果を示す。デバイスから水を除去すると、デバイスの性能および安定性が著しく高まる。
【
図10】本発明による固体添加剤の幾つかの例の化学構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の詳細な説明は、トップゲート有機トランジスタの例に関連するが、同じ技術は、ボトムゲートトランジスタまたはデュアルゲートトランジスタ等の他のタイプのトランジスタおよび他のタイプの電子/光電子デバイスにも等しく適用可能である。
【0034】
図1を参照すると、トップゲート有機トランジスタの非限定的な例が、剛性または可撓性の支持基板2上に支持された層のスタックによって画定されている。層スタックは、ソースおよびドレイン電極4、6を画定する導体層と、ソース電極とドレイン電極との間の半導体チャネルを画定する半導体層8と、半導体チャネルへゲート誘電体層10を介して容量結合されるゲート電極12を画定するさらなる導体層と、ゲート電極を覆って形成される電気絶縁性のパッシベーション層14と、スタック内に形成されるビアホール18を介してドレイン電極へ接続される画素電極16を画定するさらなる導体層とを含む。スタックは、封止膜17によって酸素の進入を封止されてもよい。各層は、それぞれ副層によるスタックを備えてもよい。例えば、ソースおよびドレイン電極4、6を画定する導体層は、下にある支持基板の表面に対して優れた接着性を示す材料による下側の副層と、下側の副層の材料より良好な導電率を示す材料による上側の副層とを備えてもよい。また、有機トランジスタは、追加のエレメントも備えてもよく、例えば、有機トランジスタは、ソース/ドレイン電極4、6と半導体8との間の電荷キャリアの移動をより容易にするために、ソース/ドレイン電極4、6の上面に有機材料による自己組織化単分子層を含んでもよい。
【0035】
図1は、単に1つのトランジスタを示しているが、典型的なトランジスタデバイスは、トランジスタのアレイを備え、前記トランジスタアレイにおいて、(a)下側の導体層は、各々が個々のトランジスタラインのためのソース電極を提供しかつソース・ドライバ・チップの個々の端子へ接続されるソース導体のアレイと、各々が個々のトランジスタのためのドレイン電極を提供するドレイン導体のアレイとを画定し、(b)第2の導体層は、各々が個々のトランジスタカラムのためのゲート電極を提供しかつ各々がゲート・ドライバ・チップの個々の端子へ接続されるゲート線のアレイを画定し、かつ(c)第3の導体層は、各々が個々のトランジスタのドレイン導体へ接続される画素電極のアレイを画定する。各画素電極の電位は、各トランジスタがソース導体とゲート線との一意の組合せに関連づけられていることから、独立制御が可能である。
【0036】
有機トランジスタの用途の一例は、アクティブマトリクス有機発光ディスプレイデバイス(AMOLED)の製造にあり、この場合、有機発光材料の画素の光出力は、個々のトランジスタ(または、個々のトランジスタセット)によって制御される。
【0037】
完成したデバイスにおいて、半導体層は(反応性金属を含む酸素感受性エレメント等の他のデバイスエレメントと共に)、酸素の進入に対して封止されてもよく、
図1は、この封止を略示している。
【0038】
図2を参照すると、AMOLEDのアーキテクチャの非限定的な一例は、各画素が少なくとも2つの個々のトランジスタ、およびキャパシタ形態の個々のメモリエレメント(2T1Cと称する)に関連づけられるものである。このより複雑なアーキテクチャによる例において、ソース・ドライバ・チップは、スイッチトランジスタ(二次TFT)のソース導体26へ接続され、かつゲート・ドライバ・チップは、スイッチトランジスタ(二次TFT)のゲート導体22へ接続される。スイッチTFT(二次TFT)のドレイン導体28は、駆動TFT(一次TFT)のゲート導体24へ接続され、駆動TFT(一次TFT)のソース導体30は、電源Vddへ接続され、かつ駆動TFT(一次TFT)のドレイン導体32は、個々の画素電極16へ接続される。上述のキャパシタは、駆動TFTのゲート導体24と駆動TFT(一次TFT)のソース導体30との間に形成される。各画素の回路は、補償回路も含むことができる。4~7個のTFTと1つまたは複数のキャパシタとを有する多様な補償回路が存在する。これらの補償回路は、個々の画素の発光デバイス(例えば、有機発光デバイス(OLED))のしきい値電圧のシフト、および/または個々の画素の駆動TFTの電圧しきい値のシフトまたは移動度の低下を補償することができる。
図2は、さらに、発光材料層18を含む有機発光デバイス、および発光材料層を覆って形成される、画素電極16の対電極として作用する共通電極20の集積化も示している。例えば、画素電極は、発光デバイスのカソードを形成してもよく、かつ共通電極20は、発光デバイスのアノードを形成してもよい。この場合も、スタックの他の層が分子状酸素の進入に対して半導体および他の任意の酸素感受性エレメントをまだ封止していなければ、封止膜17が設けられてもよい。この場合もやはり、有機トランジスタは、追加エレメントも含んでもよく、1つまたは複数の層は、副層のスタックを含んでもよい。
【0039】
図2は、単に1つの画素を示しているが、AMOLEDは、典型的には、何千または何百万もの画素によるアレイを備え、これらのアレイにおいて(
図2に示すトップゲートトランジスタの特定例の場合)、(a)下側の導体層は、各々が個々の画素ラインのためのスイッチTFTのソース電極を提供しかつ各々がソース・ドライバ・チップの個々の端子へ接続されるソース導体のアレイと、各々が個々の画素のためのドレイン電極を提供するドレイン導体のアレイと、駆動TFTのためのソース電極を提供する1つまたは複数の導体とを画定し、(b)第2の導体層は、各々が個々の画素カラムのためのスイッチTFTのゲート電極を提供しかつ各々がゲート・ドライバ・チップの個々の端子へ接続されるゲート線のアレイと、各々が個々の画素の駆動TFTのゲート電極を提供するゲート導体のアレイとを画定し、かつ(c)第3の導体層は、各々が個々の画素の駆動TFTのドレイン導体へ接続される画素電極のアレイを画定する。この場合もやはり、各画素において発光材料を通る電流は、各スイッチTFTがソース導体とゲート線との一意の組合せに関連づけられていることから、独立制御が可能である。
【0040】
本出願の発明者らは、デバイスを保存しかつ測定する環境に依存して、デバイスの性能が大きく変わることを観察した。第1の実験は、トランジスタを異なる環境で保存した後にトランジスタの特性を測定することを行った。実験は、4つの異なるトップゲート有機トランジスタについて行った。第1のものは、ガラス支持基板と、下側のチタン層および上側の金層を含む導体層のスタックからフォトリソグラフィによってパターン化されたソース/ドレイン電極と、有機半導体としてのポリ-インダセノ-ジチオフェン-コ-ベンゾチアジアゾール(IDTBT)共役コポリマーと、ゲート誘電体用のCYTOP(登録商標)フルオロポリマーと、ゲート電極用の金とを備える、ボトムコンタクト型トップゲートトランジスタである。IDTBT共役ポリマー半導体は、溶液から堆積された。他のトランジスタのアーキテクチャは、溶液中に添加剤として(ポリマーに対し)2重量%の小さな有機分子が混和されたことを除いて、同一であった。以下、この添加剤を分子添加剤と称する。分子添加剤は、F4-TCNQ(2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)、TCNQ(7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)およびABN(4-アミノベンゾニトリル)である。
【0041】
図3は、トランジスタ特性の、窒素環境における製造直後(黒線-4線組の一番下)、大気に24時間暴露した後(青線-4線組の一番上)、再び窒素ガス環境において24時間保存した後(赤線-4線組の上から2番目)、および最後に窒素グローブボックス内で一晩連続してアニーリングした後(緑線-4線組の下から2番目)、の測定値を示す。
図3Aは、添加剤を含まない純粋なトランジスタに関するこれらの測定値を示す。デバイスの特性は、デバイスが保存されかつ測定される雰囲気に大きく依存し、具体的には、酸素が全く存在しないかほとんど存在しない状態において、デバイス特性は、緩慢なターンオン特性が証明しているように劣化される。
図3Bは、添加剤としてF4-TCNQを含むトランジスタに関するこれらの測定値を示し、
図3Cは、添加剤としてTCNQを含むトランジスタに関するこれらの測定値を示し、
図3Dは、添加剤としてABNを含むトランジスタに関するこれらの測定値を示す。分子添加剤を含む膜において、この特性は良好であり、かつデバイスが保存/測定される雰囲気とは無関係である。これらの実験の結果は、有機半導体薄膜に小分子添加剤を混和するだけで、性能および環境安定性の望ましい改善が達成され得ることを示している。
図3A~3Dの破線は、Vds=-5Vにおける線形領域の伝達特性を示し、実線は、Vds=-50Vにおける飽和領域の伝達特性を示し、
図3Eは、さらに、異なるチャネル長さ(4×20um、4×10umおよび4×5um)を有する12個のデバイスの測定を含む実験を示す。一般に伝達長測定(TLM)と称されるこの実験は、y軸切片からの接触抵抗の抽出、ならびにデバイス均一性の評価を見込んでいる。実験は、ホスト有機半導体に添加剤を混和すると、デバイス均一性が大幅に向上し、ならびに接触抵抗が低下することを明白に示している。
【0042】
使用される分子添加剤の中でも、F4-TCNQは、有機半導体IDTBTの電荷移動ドーパントであるが、これは、F4-TCNQの電子親和力がIDTBTのイオン化ポテンシャルに近く、またおそらくはそれより大きいことに起因する。これにより、有機半導体の占有分子軌道からドーパントF4-TCNQの空分子軌道への電子電荷移動が生じ、かつトランジスタのオフ電流の望ましくない増加が生じることになる。実際に、これは、
図3Bにおいて観察可能であり、F4-TCNQデバイスのオフ電流が約10
-7Aである、即ち、製造直後のIDTBT膜のそれ(
図3A)より1~2桁高い。これは予想通りであり、高い電子親和力を有し、よって有機半導体膜のp型ドーパントとして作用することができる(または、イオン化ポテンシャルが低くn型ドーパントとして作用する)小分子ドーパントの使用は、実際に、有機トランジスタにおける接触抵抗効果を低減するために広く研究されている(例えば、Cho、外のAPL 92063310 2008参照)。
【0043】
本発明の発明者らが行った驚くべき発見は、増加するオフ電流の不在によって立証されかつさらには後述する
図6の光電子放出結果によって実証されるように、IDTBTのイオン化ポテンシャルより遙かに高い電子親和力を有し、よってドーパントとして作用し得ない他の分子添加剤は、接触抵抗ならびに環境安定性に対してドーパント添加剤F4-TCNQと同様の有益な効果を有する、というものである。これは、ドーパントとして作用しない分子添加剤を、オフ電流が増加する欠点なしに、有益かつ効果的に用いることが可能であることを示唆している。
【0044】
酸素への曝露は、純粋なIDTBTトランジスタ(分子添加剤なし、
図3A参照)の性能および安定性に対して同様の有益な効果を有するが、この効果は、永久的ではなく、よってデバイスは、酸素欠乏雰囲気内で再び劣化する。さらに、ホスト半導体における分子状酸素の含有には、分子状酸素がトランジスタ半導体から酸素感受性エレメントへと移動してその性能を低下させ得るという理由で、最先端の電子発光デバイスの反応性金属カソード等の酸素感受性エレメントを含む集積デバイスにおける有機トランジスタの使用との適合性がない。添加剤の使用は、有機トランジスタと共に集積される酸素感受性エレメントを劣化させるという前述のリスクなしに、上述のトランジスタ性能安定性の向上を達成することができる。
【0045】
さらなる実験では、真空環境において有機トランジスタの高温保存試験を行なって、高温保存試験中の異なる時間でトランジスタ特性を測定した。高温保存試験では、トランジスタを温度70℃の真空環境(1.7×10
-2 mbar)で保存した。この場合も、実験は、2種類のトップゲート有機トランジスタについて行った。第1のものは、溶液から堆積された、5.3eVのイオン化ポテンシャルを有する共役半導体ポリマー(添加剤なし)と、ゲート電極およびゲート誘電体を覆う、添加剤として7重量%の分子添加剤2,5-ジクロロ-1,4-ベンゾキノンを含むSU-8エポキシ系ポリマー層と、を備えるトランジスタであった。第2のトランジスタは、第1のトランジスタと全く同じものであったが、ゲート電極およびゲート誘電体を覆うパッシベーション層は、SU-8エポキシ系ポリマー層に添加剤を含んでいなかった。
図4に示すように、第1のトランジスタ(2,5-ジクロロ-1,4-ベンゾキノン含有SU-8)は、第2のトランジスタ(SU-8パッシベーション層に添加剤なし)と比較して、高温保存試験が持続した45時間にわたって示したトランジスタ特性の変動が著しく小さかった。
図4Aおよび
図4Bにおける各線は、T=0時間(青線)からT=45時間(淡褐色線)までの高温保存試験中の個々の時間におけるトランジスタ特性を示す。これは、分子添加剤が、堆積の間は有機半導体層中に存在する必要はないかもしれないが、有機半導体層に近接するデバイススタック内の別の有機層へと導入される可能性があり、次にはここから有機半導体層内へと拡散し得ることを示している。ゲート誘電体およびゲート電極を覆って堆積される有機パッシベーション層から半導体内へ添加剤を導入することに加えて、またはその代わりに、分子添加剤を半導体へと導入する元になるデバイスエレメントの他の例は、(i)有機ゲート誘電体層、および/または(ii)上にソース/ドレイン導体が形成される有機平坦化層、である。
【0046】
トランジスタを画定する層スタック内には、有機半導体層からデバイスの1つまたは複数の他の部分への添加剤の拡散を減らすために、1つまたは複数のバリア層が設けられてもよい。OLEDデバイスの例では、これらの1つまたは複数のバリア層は、反応性金属カソード等の酸素感受性エレメントを大気酸素による劣化から保護する1つまたは複数のバリア層に加えるものであってもよい。
【0047】
本出願の発明者らは、特に不活性環境におけるトランジスタのストレス/保存試験の前後で、pチャネル有機トランジスタのしきい値電圧の高い変動を観察しているが、しきい値電圧の安定性は、ホスト有機半導体に固体、液体または気体の分子添加剤を導入することによって改善され得ることが実験により分かっている。しきい値電圧の高い安定性は、有機トランジスタのディスプレイ用途にとって、具体的には、画素駆動トランジスタの高いしきい値電圧安定性が所与の電気入力に対して一定の駆動電流(したがって一定のOLED輝度)を保持するために重要であるOLEDディスプレイの用途にとって、重要な要件であり得る。H.Sirringhaus著、Advanced Materials、DOl:10.1002/adma.201304346を参照されたい。この文献は、本参照によりその内容全体が開示に含まれる。
【0048】
実験では、有機トランジスタに対して不活性の窒素ガス環境ならびに大気中でのストレス試験を行なって、個々の環境におけるストレス試験の間、およびその後の回復期間中の異なる時間でしきい値電圧を抽出した。ストレス試験では、ドレイン電極とゲート電極とを短絡させてトランジスタを飽和領域内で動作させた。ストレス実験の25時間にわたって、-2.5μAのドレイン電流を印加した(H.Sirringhaus著、Advanced Materials、DOI:10.1002/adma.201304346に提示された試験レジームを適用)。このデバイスのチャネル長さLに対するチャネル幅Wの比は10であった。異なるW/L比が使用されれば、ストレス電流Iは、I=0.25μA×W/Lに従って調整すべきである。ストレス試験の間、5時間間隔で伝達特性を取得した。25時間のストレス期間の後、ドレインおよびゲート間の短絡ならびに電流を除去し、伝達特性を21時間にわたり、まずは5分間隔で、次には5時間間隔で監視し、トランジスタの回復を監視した。
【0049】
図5は、ソース電極とドレイン電極との間の25時間にわたる2.5uAでの定電流ストレス実験中のIDTBT系pチャネルトランジスタのしきい値電圧の変化を纏めたものである。これは、21時間にわたる、すべての電極を接地した状態でのその後のしきい値電圧の回復も示している。しきい値電圧は、飽和伝達曲線の平方根を求め、かつ十分に高い電圧における10Vの範囲にわたるグラフの線形回帰(および外挿)を求めることによって決定した。また、しきい値電圧を決定するための(H. Sirringhaus著、Advanced Materials、DOI:10.1002/adma.201304346で論じられているような)代替技術も使用されてもよい。図示されているトランジスタは、様々な添加剤を有していて、添加剤が混和されていないトランジスタと比較されている。ストレス印加および回復は、窒素環境において行った。2%の分子添加剤が添加されたIDTBTトランジスタが示したしきい値電圧の変動は、添加剤を含まないトランジスタ(純粋なIDTBT)と比較して、25持続時間のストレス試験にわたって非常に小さかった(ΔVt0.6-1.5V)。これは、F4-TCNQだけでなく、有機半導体の電荷移動ドーパントとして作用し得ない添加剤でも観察される。これは、明らかに、電荷移動ドーパントとして作用しない分子添加剤を有機半導体膜に混和すると、環境安定性および接触抵抗挙動だけでなく、動作ストレス安定性も改善し得ることを示している。
【0050】
図6は、F4TCNQ(左)およびTCNQ(右)を0、1、2、5、10および20%のレベルで添加したIDTBT膜の紫外光電子分光法(UPS)のデータを示す。実験によるUPSスペクトルから膜のフェルミ準位(即ち、電荷輸送のエネルギーレベル)を抽出し、
図6の上側のパネルに示している。このデータは、IDTBT膜にF4TCNQを添加した場合のフェルミ準位の顕著なシフトを明らかにしている。よって、このような膜には、F4-TCNQおよびIDTBTの分子エネルギー図に基づいて先に説明したような、明らかなドーピング効果が観察されている。しかしながら、重要なことに、一方で、IDTBT膜にTCNQを添加すると、フェルミ準位のシフトは観察されない。これは、TCNQがIDTBTをドーピングしておらず、よって、ポリマーからドーパントへの能動的な電荷移動がないことを示している。この発見は、約5.3eVであるIDTBTのピークイオン化ポテンシャルと比較した、ドーパントF4TCNQ(Ef=-5.3eV)およびTCNQ(Ef=-4.8eV)の電子親和力の差によって説明することができる。しかしながら、これらの添加剤は共に、デバイスの安定性および性能において比較可能な改善をもたらすことから、ドーピングは、実際には、OFET性能および安定性改善の源ではあり得ない。
【0051】
本発明の発明者らは、さらに、他の分子添加剤の使用を検討した。有機半導体膜に分子添加剤を導入する単純な方法は、有機半導体膜の溶液堆積後に残留溶媒を膜内に残すというものである。上述の発見とは対照的に、有機エレクトロニクスの学会および業界の双方に共通して、残留する溶媒は、発光ダイオードまたはトランジスタ等の有機半導体デバイスの性能、寿命および安定性に有害であることが信じられている(ポリマートランジスタにおける輸送に与える化学的不純物の影響、R.A.Street、外著、Phys Rev B76、045208)。
【0052】
トランジスタの場合、この通念は、残留溶媒が、高度に規則的かつ密にパックされた結晶ドメインを形成する有機半導体の能力に影響を与え得るという、高結晶性の半導体(PBTTT等)または小分子(tips-ペンタセン等)に関する初期の研究に由来する。その結果、膜から溶媒を除去するに足る持続時間の低温アニーリング工程によって膜から残留溶媒を除去する一般的処理条件が使用されている。本発明の発明者らは、膜堆積後に膜内に残る溶媒が、先に論じた分子添加剤と同様に作用し、トランジスタの性能および環境および動作安定性を著しく向上させ得る、という驚くべき発見をしている。
【0053】
図7は、ポリマー膜内に溶媒を故意に残すことによってデバイスの性能および安定性を向上させる実験を示す。
図7Aは、100℃で1時間アニールされたIDTBTデバイスに対して同じ温度で2分間アニールされたIDTBTトランジスタの性能をベンチマークしたものである(黒線-
図7Aの最下線)。使用される溶媒は全て180℃を超える、一部には200℃をも超える高い沸点を有することから、100℃という比較的低い温度で短時間アニールすると、膜内にかなりの濃度の溶媒が残留する。これらの条件下での共役ポリマー中の残留溶媒の量は、後に定量されるように、ポリマーに対して約数重量%である。Vds=-50Vにおける飽和伝達特性を比較すると、膜内に残留溶媒を有するIDTBTデバイスは、1時間のアニーリング後に溶媒が除去されたデバイスよりも遙かに良好に機能することが明らかである。これは、クロロベンゼン、1,2,ジクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、トルエン、o-キシレンおよびメシチレン(
図7Aに示された構造体)等の様々な芳香族溶媒、ならびにシクロアルカン(例えば、クロロシクロヘキサン)等の非芳香族溶媒からスピンされるIDTBT膜にも当てはまる。
【0054】
しかしながら、必ずしも全ての溶媒がこの性能上の利点を提供するわけではない。ポリマー膜内に比較的多量の溶媒テトラリンまたは1-メチルナフタレンを故意に残すことを目的とした実験は、デバイスの性能および安定性の向上を示さなかった。電子親和力の高いモリブデンジチオフェン錯体ならびに分子テトラチアフルバレン(TTF)についても、同じことが観察された。本件の発明者らは、これらの固体および液体添加剤は、サイズが大きいこと(少なくとも2つの5または6員環を含む)に起因して、または有機半導体における溶解度が比較的低く、ポリマー膜内に極めて低濃度でしか残らないことに起因して、デバイスの性能および安定性を向上させなかった、と結論している。
【0055】
添加剤は、好ましくは、しきい値シフトを誘発することによってトランジスタの性能を低下させ、半導体の移動度を減少させ、かつ/またはトランジスタのオフ電流を増加させてはならない。
【0056】
図7Bは、窒素環境において実行された定電流ストレスおよびこれに続く回復期間中のしきい値電圧の変化を示す。本図は、半導体膜内に溶媒が残っている場合の(2.5uAにおける)定電流ストレス安定性の向上を明示している。2桁増のソース-ドレイン電流(100uA)であっても、1時間のアニーリングで全ての溶媒が除去された半導体を有するトランジスタに比べて、定電流ストレス安定性の明確な向上を示している。
【0057】
分子添加剤を混和する有益な効果は、IDTBTだけでなく、広範囲の有機半導体でも観察されている。
図7Cは、膜内に溶媒を残すことが、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-オルト-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](F8BT)トランジスタに対して同じく有益な効果を有することを示している。図示されているトランジスタは、o-キシレンからスピンされ、各々2分間および1時間アニーリングされた。短時間アニーリングされたF8BTトランジスタは、
図7AにおけるポリマーIDTBTに関する実証と全く同様に、デバイス性能の何桁もの向上を示している。
図7Dは、半導体層としてのポリ-ジケトピロロピロール-コ-ジチエノチオフェン(DPP-DTT)から成る、各々2分および1時間アニーリングされた2つのトランジスタの線形(破線)および飽和(実線)領域伝達特性を示す。図示されているトランジスタは、1,2-ジクロロベンゼンからスピンされている。残留溶媒を含むトランジスタは、1時間アニーリングされたものを凌ぐ劇的な向上を示している。
図7Eは、DPP-DTT系トランジスタの定電流ストレスおよびこれに続く回復期間中のしきい値電圧の変化を示す。測定は、窒素環境において行った。半導体膜に残留溶媒が残っている事例は、共に2.5uAのストレスにおいて、アニーリングされたトランジスタを凌ぐ顕著な向上を示している。向上した安定性は、ソース-ドレイン電流が1桁増加される場合でも(50uA)保全される。
【0058】
また、本発明の発明者らは、ポリマー膜内に故意に残される溶媒分子の量の、2つの独立した技術、即ちエリプソメトリ測定および水晶振動子マイクロバランス測定を用いた定量化も行っている。
図8Aは、膜内に溶媒(ジクロロベンゼン)が故意に残されているIDTBT膜のエリプソメトリ測定を示す。このデータを有効媒質近似(EMA)モデルに当てはめることにより、ポリマー膜内のボイドの割合を定量化した。ここで、ボイドの割合は、溶媒添加剤によって占有され得るポリマー内の自由体積の量を略示している。全てのボイドが屈折率n=1.55(ジクロロベンゼンの屈折率)の溶媒添加剤で完全に充填されるものとすると、1.04%のボイド率を同定することも可能である。
図8Bは、100℃で1時間のアニーリングを追加して行った後の同じポリマー膜を示す。 ボイド内の充填材の屈折率をn=1.55であるものとすると、
図8Bのデータの当てはめは不可能であり、溶媒の大部分がポリマー膜から蒸発していることを示している。代わりに、屈折率n=1.33(水の屈折率)を想定すると、データの良好な当てはめが達成され、2.48%という僅かに高いボイド率がもたらされる。ボイドが水と空気との混合物(平均屈折率は、1~1.33の間)で充填されるものとすると、良好な当てはめが達成され、アニーリング前に達成された同じボイド率がもたらされる。この結果は、アニーリングによってボイドから溶媒を除去した後、ボイドが大気からの水で少なくとも部分的に満たされることを示唆している。
【0059】
IDTBTの結果は、水晶振動子マイクロバランス(QCM)測定を用いてさらに確認した。ここでは、IDTBT膜を水晶振動子上でスピンし、100℃で2分間アニーリングした。次いで、膜を100℃でさらに1時間アニーリングする前後で、結晶の共振周波数を決定した。水晶振動子の共振周波数は、重量に線形依存することから、アニーリング中のポリマー膜の質量損失(即ち、ポリマー膜を出る溶媒の量)は、0.6%であると同定することも可能である。これは、
図8AおよびBのエリプソメトリデータとよく一致する。異なる側鎖を有するIDTBT膜についても同じ測定を行った結果、質量損失は、0.6%~1.5%の間で変化した。これらの結果は、本出願において発明者らが特許請求するデバイスの性能および安定性の向上に必要な溶媒添加剤の量は、ポリマー内に存在する自由体積によって変わることを示している。この自由体積は、薄膜内のポリマー鎖の詳細な分子構造および分子充填に依存する。しかしながら、大部分のシステムでは、約1重量%またはこれを上回る溶剤添加剤が存在すれば、全体的なデバイスの性能および安定性を向上させるに足るであろう。
【0060】
分子添加剤が有益な効果をもたらすための分子メカニズムに関しては、私達は、分子の電荷移動ドーピングが先に論じたような性能向上の原因ではないことを明確に立証している。水は、デバイス製造が不活性雰囲気の状態下で行われる場合でも有機半導体膜内に常に存在し、かつ有機半導体における電荷トラップの原因であることが分かっていることから(例えば、Bobbert、外著、Adv.Mat.24、1146(2012年)参照)、分子メカニズムを同定するために、膜内に混和される水の役割を調査した。
図9Aは、1つの大気種の効果を他の大気種の不在において区別するために、a)乾燥空気(N
2+O
2)、およびb)湿った窒素(N
2+H
2O、24℃で80%RH)、の制御された環境に曝された添加剤を含まないトランジスタの(Vds=-50Vにおける)伝達特性を示す。この実験は、ポリマー膜内に存在する水ならびに周囲湿度が、性能の低下を引き起こす元凶であり、一方で酸素は、水の効果を緩和する働きをすることを確定している。
【0061】
図9Bは、有機ホスト材料内の水の存在が、ポリマートランジスタの低い性能および安定性の主たる理由であるというさらなる証拠を示している。
図9Bの左側のパネルには、ポリマートランジスタを高吸水性材料である塩化コバルト(II)の粉末と共に48時間保存した実験が示されている。保存は、窒素グローブボックス内部の密封箱において行い、トランジスタは、塩化コバルト(II)と非接触であった。同じ条件下(但し、塩化コバルト(II)粉末を含まない)で保存された参照試料との比較により、塩化コバルト(II)で処理されたデバイスは、F4TCNQ、TCNQ、ABNまたは溶媒等の添加剤を含むデバイスによく似て著しく良好に機能することが分かった。
図9Bの右側のパネルには、参照デバイスに比べて向上した塩化コバルト(II)で処理されたデバイスのストレス安定性が示されている。異なるアーキテクチャ(半導体上の任意の層によってポリマー膜からの水分子の外方拡散およびこれに続く塩化コバルト(II)による捕捉を妨げないように、CYTOPを含むトップゲートではなくSiO2を含むボトムゲート)が使用されていることから、これらのストレス測定値を
図3に示す値と直に比較することはできない。これらの実験から、結論として、ホスト有機材料から水を除去すれば、性能およびストレス安定性が著しく高まると推論することができる。
【0062】
理論に束縛されることを望むものではないが、観察された性能安定性向上の背後にあるメカニズムについての発明者の仮説は以下の通りである。私達が得た結果は、有機半導体への分子添加剤の添加が、水誘起のホールトラップによる悪影響を克服できることを強く示唆している。
【0063】
水は、これまでに、有機半導体におけるホールトラップの重要なソースとして同定されている。水は、例えばサブスレッショルドスロープ(参照)を低減することによって有機トランジスタの電気的特性を劣化させる浅いトラップ状態、ならびに、デバイスの長期的な動作ストレス劣化の間に自らをしきい値電圧シフトとして明らかにする深いトラップ状態、の双方を作り出し得る、ということが証明されている(Bobbert、外著、Adv.Mat.24、1146(2012年))。後者については、反応式4OSC++2H2O→4H++O2+4OSCによる水の電気化学的酸化を含む分子メカニズムが提案されている。有機半導体層内に水分子が存在すれば発生するこの反応は、HOMO準位の有機半導体内に誘起される移動性のホールキャリア、または電気化学用語でいうラジカルカチオン(OSC+)を、電子的に不動のプロトンH+に変換させる。よって、有機半導体は、中性状態に留まり、プロトンは、印加されるゲート電界に影響されてゲート誘電体へと移動し、トランジスタのしきい値電圧を上昇させる。このような反応が、終始、(上記反応によって含意されるように)多電子の電気化学的酸化として、様々な中間分子種を明確な分子幾何構造(光合成反応中心に存在するものに類似する)に結合するための触媒環境を必要とし得る分子状酸素の進化へと進行するか、元々移動可能な正電荷を水分子(または、水分子のクラスタ)へ強く結合させる単一の電子反応として進行するか、については、有機半導体上の元々移動可能な電荷キャリアは、もはや電子電流を運ぶことができない深くトラップされた電荷に変換されている、と結論される。
【0064】
また、本発明の発明者らは、水の存在下で生じる電荷トラッププロセスが、実際には中性水分子を関与させず、元来水中に存在するイオン種を関与させ得ることにも留意している。例えば、水のpHに依存して、水中には、低濃度の負帯電ヒドロキシルイオン、OH-、および正帯電ヒドロニウムイオン、H3O+、が存在する。ヒドロキシルイオンは、具体的には、p型動作モードにおいて有機半導体ポリマー上に誘発される正孔電荷キャリアと反応する可能性もあり、これにより、ヒドロキシルラジカル、・OHが形成されてポリマー上のホールがトラップされる可能性もある。このトラップは、有機半導体ポリマーステム内に混和される水分子の源である水源のpHが大きいほど、より顕著になる傾向がある。
【0065】
この専門集団では、この望ましくないトラップ反応を防止する唯一の方法は、膜から水を除去することである、というのが一般通念である。その達成は、デバイススタックの厳密な最終的カプセル化が行われている場合でも、極めて困難である。水は、典型的には空気中で行われる有機半導体の合成中にも存在する。デバイス処理が不活性雰囲気のグローブボックス内で実行されるとしても、グローブボックス内の水分濃度は、典型的には、約数ppmである。有機半導体膜が堆積させる間、およびデバイス処理の間、水分子は、膜内の小さいナノメートルサイズの孔内へ混和され、そこからの完全な排除はほぼ不可能である。したがって、膜内の水の存在をなくすことは、ほとんど不可能である。
【0066】
本開示で実証される結果は、有機半導体内に残存する水による有害な影響を、有機半導体膜内に、水分子と同様の分子サイズでありかつ水が混和される有機半導体内の同じナノメートルサイズの空隙に容易に混和されるように有機半導体との非共有結合を形成する親和力を有する小さい分子添加剤を混和することによって克服できることを明示している。混和されると、分子添加剤は、水と有機半導体上のラジカルカチオンとの間の電気化学反応に摂動を生じさせることができ、よって、この反応は、それ以上効率的に進行することができない。添加剤が水分子および有機半導体と相互作用する詳細な分子メカニズムは、関与する分子種の微量濃度に起因して、実験による、または分光学的特徴によって直ちに確立することが困難であり、また添加剤の種類に依存する傾向もある。列挙された溶媒分子の場合、これは、例えば、有機半導体と水分子との間の直接的な物理接触をなくする、有機半導体と溶媒分子との間のエネルギー的に起こりやすいπ-π相互作用を包含してもよく、即ち、溶媒分子は、有機半導体と水分子との間に自ら入り込む。分子添加剤のイオン化ポテンシャルは、有機半導体のそれより遙かに深くなるように選択されることから、有機半導体内に誘起される正孔は、水分子から空間的に分離されたたままである。あるいは、酸素または強い電気陰性基を有する分子のような添加剤は、繊細な分子幾何構造および水分子の周りの電荷分布を摂動させる、水分子との非共有水素結合を形成し、かつこうして、有機半導体上のラジカルカチオンと電気化学反応を起こす水分子の能力を抑制することが推定される場合もある。精密な分子メカニズムがどのようなものであれ、私達が得た結果は、水が混和される有機半導体内のナノスケール細孔に分子添加剤を充填することによって、残留水により誘起される望ましくないトラップ効果を抑制することが可能であることを明らかに示している。半導体材料に多結晶の低分子材料を使用する場合、水は、粒界に混和されてもよい。
【0067】
分子添加剤は、好ましくは、以下の特性を有する:
(i)添加剤の分子サイズは、水分子のそれに匹敵し、よって、添加剤は、小さいナノメートルサイズの細孔に混和されることが可能になる。したがって、分子添加剤は、好ましくは5nm未満、より好ましくは2nm未満、最も好ましくは1nm未満であるべきである。ここで言う分子サイズは、分子内で最も離れている2原子間の距離として定義される。
【0068】
(ii)p型モードで動作するデバイスの場合、分子添加剤の電子親和力は、有機半導体のイオン化ポテンシャルより小さく、よって、添加剤の混和は、有機半導体の分子p型ドーピング、およびOFF電流の望ましくない増加を引き起こさない。したがって、分子添加剤の電子親和力は、有機半導体のイオン化ポテンシャルより、好ましくは0.1eVだけ小さく、より好ましくは0.3eV未満だけ、最も好ましくは0.5eV未満だけ小さい。同様に、n型モードで動作するデバイスの場合、分子添加剤による有機半導体の望ましくないn型ドーピングを防止するために、分子添加剤のイオン化ポテンシャルは、有機半導体の電子親和力より高いものであるべきである。
【0069】
(iii)分子添加剤のイオン化ポテンシャルは、有機半導体のそれより大きいものであるべきであり、よって、有機半導体上に誘起されるホールに分子添加剤は注入され得ない。分子添加剤のイオン化ポテンシャルは、有機半導体のそれより、好ましくは0.3eVだけ、より好ましくは0.5eVだけ、最も好ましくは1eVだけ大きいものであるべきである。n型モードで動作するデバイスの場合、有機半導体の電子親和力に対する分子添加剤の電子親和力について、同様の基準が当てはまる。
【0070】
(iv)膜内の分子添加剤と有機半導体との重量比は、好ましくは、少なくとも約1%であり、よって、全てのナノスケール細孔/ボイドは、添加剤が有機半導体内の電荷輸送経路を遮断して有機半導体の輸送特性を低下させることなく、添加剤で充填されることが可能である。固体添加剤の場合は、添加剤が有機半導体において少なくとも1%の固体溶解度を有することが必要である。
【0071】
(v)分子添加剤は、好ましくは、有機半導体との間に、有機半導体と水との間のそれに強度が匹敵する、またはそれより大きい非共有の好ましい結合相互作用を有し、よって、分子添加剤は、ナノスケール細孔に容易に混和され、かつ有機半導体上の結合部位のための水と競合することができる。これは、概して、分子添加剤は、有機半導体内で、水が有機半導体内で有するそれより高い溶解度を有することを意味する。
【0072】
(vi)好ましくは、分子添加剤は、水との非共有水素結合相互作用を行なうこともでき、よって、これは、分子幾何構造および/またはナノスケール細孔内の水分子の周りの電子密度分布を摂動させ、かつこうして、有機半導体上のラジカルカチオンの存在下での水の電気化学的酸化を抑制することができる。これは、概して、分子添加剤が水中で、好ましくは0.1%より高い有限溶解度を示すことを意味する。
【0073】
(vii)分子添加剤は、しきい値電圧を2Vより多く、より好ましくは1V以下だけ、最も好ましくは0.3V以下だけシフトさせることによってTFT性能を低下させるべきではない。また、分子添加剤は、有機半導体の移動度を20%より多く、より好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下だけ低減するべきではない。最後に、分子添加剤は、トランジスタのオフ電流を10倍より多く、より好ましくは5倍以下、最も好ましくは1.2倍以下だけ増加させるべきではない。
【0074】
(viii)分子添加剤は、好ましくは、有機半導体の細孔内で高い熱安定性を有し、よって、デバイスの製造または動作において典型的である温度30~120℃でのデバイスの加熱中に細孔から蒸発または昇華しない。固体(液体)有機半導体の溶融/昇華(沸騰)温度は、好ましくは、デバイスの製造/動作中に到達される最高温度を超えるものであるように選択される。本発明の発明者らは、TCNQまたはF4-TCNQ等の添加剤の有益な効果は、デバイスが90~100℃を超えて加熱されると失われ得ることを発見している。しかしながら、2,2’-(ペルフルオロナフタレン-2,6-ジイリデン)ジマロノニトリル(F6-TCNNQ)または、好ましくは、その低い電子親和力に起因してp型ドーピングを引き起こさない非フッ素化誘導体TCNNQ(
図10参照)等の、有機半導体内ではなおも十分な溶解性を有するが熱安定性がより高い、僅かに大きい分子を用いると、熱安定性が著しく高まることが判明した。また、アントラセン誘導体TCAQ等のより大きい添加剤さえも、使用され得る。
【0075】
分子添加剤の添加による有機半導体内の水関連トラップの望ましい除去は、平面または垂直構造のトランジスタ、整流ダイオード、発光ダイオード(LED)および太陽電池を含む、但しこれらに限定されない様々な電子デバイスおよび光電子デバイスに適用することができる。垂直トランジスタ、LEDおよび太陽電池は、同じく電荷キャリアトラップの存在に対する感受性が高い界面に沿った輸送とは対照的に、有機半導体のバルクを通る電荷輸送に依存する。分子添加剤による接触抵抗の改善に関する
図3Eの結果は、分子添加剤が実際には、界面だけでなくバルク輸送特性をも改善できることを実証しているが、これは、ここで使用されているスタガード式ボトムコンタクト型トップ-ゲート・デバイス・アーキテクチャでは、接触抵抗が、主として、ソース/ドレイン電極と活性界面における蓄積層との間の有機半導体膜のバルクを通る電流輸送によって決定されるためである。
【0076】
ポリマー膜内の分子添加剤の存在は、従来技術において知られる様々な分析技術によって検出することができる。ポリマー膜内のボイドを充填するために典型的に必要とされる数%の濃度では、X線光電子分光法、赤外線またはラマン分光法または様々な形式の質量分析法等の広範な分析技術が十分な感受性を有する。小分子添加剤の存在を検出する特に敏感な方法は、典型的な分子添加剤がポリマーの分解温度より低い沸騰/昇華温度を有するという事実を利用する。この分析は、3つのステップで実行され、まず、電子デバイスに見られるようなポリマー膜の組成が、これらの技術の何れかによって分析される。次に、ポリマー膜が、分子添加剤の沸騰/昇華温度より高いが、ポリマーの劣化温度より低い温度でアニーリングされる。このアニーリングステップの間、分子添加剤は、典型的には膜から除去されるが、ポリマーホストの組成は不変のままである。次に、第3のステップでは、膜の化学組成が測定し直される。アニーリングステップの前後で化学組成に著しい差があれば、膜内に小分子添加剤が存在していたと結論づけることができる。