(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】歩行装置及びこれを用いた実験キット
(51)【国際特許分類】
A63H 11/18 20060101AFI20220523BHJP
A63H 11/00 20060101ALI20220523BHJP
A63H 15/02 20060101ALI20220523BHJP
B25J 5/00 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
A63H11/18 A
A63H11/00 Z
A63H15/02
B25J5/00 F
(21)【出願番号】P 2018004129
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】709006024
【氏名又は名称】株式会社ベネッセコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(72)【発明者】
【氏名】上原 直子
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 弘
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-084296(JP,U)
【文献】実開昭61-145969(JP,U)
【文献】特公昭47-017015(JP,B1)
【文献】特開2003-190653(JP,A)
【文献】登録実用新案第3051523(JP,U)
【文献】実公昭46-005785(JP,Y1)
【文献】実開昭54-016589(JP,U)
【文献】特開2014-036803(JP,A)
【文献】特開平04-071587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 11/00-11/20
A63H 15/00-15/08
B25J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互の回動動作により歩行を行う左右一対の脚部と、
左右に延出された一対の腕部とを備え、
前記一対の脚部は、いずれも、歩行面に対して当該脚部を前後左右に揺動可能とする曲面からなる接地面を底部に有し、
前記一対の腕部は、いずれも、左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘を備え
、
前記一対の脚部は、いずれも、前後方法における取り付け位置を調節可能とする第二の錘を備えることを特徴とする歩行装置。
【請求項2】
交互の回動動作により歩行を行う左右一対の脚部と、
左右に延出された一対の腕部とを備え、
前記一対の脚部は、いずれも、歩行面に対して当該脚部を前後左右に揺動可能とする曲面からなる接地面を底部に有し、
前記一対の腕部は、いずれも、左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘を備え、
前記一対の脚部は、前記回動動作の回動半径の長さを調節可能とすることを特徴とする歩行装置。
【請求項3】
前記一対の脚部は、前記回動動作の回動半径の長さを調節可能とすることを特徴とする請求項
1に記載の歩行装置。
【請求項4】
紐状体を介して前方への牽引力を生じる吊下錘を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の歩行装置
【請求項5】
前記一対の腕部と前記一対の脚部が設けられた胴体部を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の歩行装置。
【請求項6】
前記一対の腕部と前記一対の脚部が設けられた胴体部を備え、
前記胴体部から前方に延出された延出部の先端部に前記紐状体を介して前記吊下錘が連結されていることを特徴とする請求項4に記載の歩行装置。
【請求項7】
前記一対の腕部に取り付ける前記第一の錘の取り付け重量を調節可能とすることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の歩行装置。
【請求項8】
前記一対の脚部に取り付ける前記第二の錘の取り付け重量を調節可能とすることを特徴とする請求項1
又は3に記載の歩行装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の歩行装置と、
前記歩行装置の歩行距離を測定するゲージが表記された測定シートと、
を備えることを特徴とする実験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行動作(振り子運動を利用した重心の移動)の理解に適した歩行装置及びその実験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
人間の歩行動作を模した歩行装置として、人体を模した歩行玩具が挙げられる。
従来の歩行玩具は、胴体部と、胴体部下部において前後に揺動可能に設けられた左右一対の脚部と、胴体部の上部において前後に回動角度を調節可能に取り付けられた左右一対の腕部とを備えている(例えば、特許文献1参照)。
そして、胴体部の前面及び後面には錘の取付穴が随所に形成されており、任意の取付穴に錘を取り付けることが可能である。
さらに、一対の脚部は、底面が曲面状をなす足部を有し、傾斜面上に歩行玩具を配置して胴体を左右に揺動させると、左右の脚部が交互に前方に揺動して、一歩ずつ歩行動作を行うことが可能であった。
また、左右の腕部の回動角度を変更したり、いずれかの取付穴に錘を取り付けることで、歩行玩具の重心位置を変化させることができ、これにより、歩行速度や進行方向を変えることができるようになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記歩行玩具の場合、回動角度の調節が可能な腕部や取り付け位置が変更可能な錘は、歩行動作に変化を加えることで、その歩行動作を見る者を楽しませるという目的に特化されている。
つまり、上記腕部や錘は、外部から認識することができない重心位置を変化させる機能を有しているに過ぎないので、歩行動作に対してどのような影響を及ぼすか、なぜそのような影響が生じるのかを学習するには不適であった、
【0005】
本発明は、歩行動作について学習することに適した歩行装置及びこれを用いた実験キットを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、歩行装置において、
交互の回動動作により歩行を行う左右一対の脚部と、
左右に延出された一対の腕部とを備え、
前記一対の脚部は、いずれも、歩行面に対して当該脚部を前後左右に揺動可能とする曲面からなる接地面を底部に有し、
前記一対の腕部は、いずれも、左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘を備え、
前記一対の脚部は、いずれも、前後方法における取り付け位置を調節可能とする第二の錘を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、歩行装置において、
交互の回動動作により歩行を行う左右一対の脚部と、
左右に延出された一対の腕部とを備え、
前記一対の脚部は、いずれも、歩行面に対して当該脚部を前後左右に揺動可能とする曲面からなる接地面を底部に有し、
前記一対の腕部は、いずれも、左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘を備え、
前記一対の脚部は、前記回動動作の回動半径の長さを調節可能とすることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1に記載の歩行装置において、
前記一対の脚部は、前記回動動作の回動半径の長さを調節可能とすることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の歩行装置において、
紐状体を介して前方への牽引力を生じる吊下錘を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の歩行装置において、
左右方向の中央部に胴体部を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の発明は、請求項4記載の歩行装置において、
左右方向の中央部に胴体部を備え、
前記胴体部から前方に延出された延出部の先端部に前記紐状体を介して前記吊下錘が連結されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の歩行装置において、
前記一対の腕部に取り付ける前記第一の錘の取り付け重量を調節可能とすることを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の発明は、請求項1又は3に記載の歩行装置において、
前記一対の脚部に取り付ける前記第二の錘の取り付け重量を調節可能とすることを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の発明は、実験キットにおいて、
請求項1から8のいずれか一項に記載の歩行装置と、
前記歩行装置の歩行距離を測定するゲージが表記された測定シートとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の歩行装置は、前後左右に揺動可能とする曲面を底部に有する脚部を備えているので、一対の腕部はロール軸回り(
図1のロール方向r参照)に上下に揺動を行い、当該腕部の揺動によって交互に足部が地面から離れ、地面から離れた方の脚部はピッチ軸回り(
図1のピッチ方向p参照)に前方に揺動を行う。従って、左右の脚部は交互に前方に揺動して歩行動作が行われる。
そして、歩行装置では、上記のように、一対の腕部と一対の脚部の揺動動作は視覚的に容易に確認することができ、その内の一方である一対の腕部に対して、左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘を備えている。
このため、第一の錘の取り付け位置を調節することで、一対の腕部の揺動に対する影響、さらには、歩行装置の歩行動作に対する影響を視覚的に分かりやすく観察することができる。
そして、第一の錘の取り付け位置を変えるという実験を行った結果を容易に認識することができるので、歩行動作を通じて振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解を促すことができ、歩行動作や振り子運動、重心の移動について学習することに適した歩行装置を提供することが可能となる。
また、本発明の実験キットは、歩行装置の歩行距離を測定するゲージが表記された測定シートを備えているので、歩行動作の視覚的な変化を捉えられるだけでなく、歩幅や歩行速度等、第一の錘の位置変化に対する影響を数値化して測定することができ、より客観的な実験結果を得ることができる。このため、実験とその結果の関係をより明確に認識することができ、歩行動作を通じた振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解をさらに深めることができ、歩行動作の学習にさらに適した実験キットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】発明の実施形態である歩行装置の斜視図である。
【
図5】歩行動作を開始する直前の歩行装置の左側面図である。
【
図10】第一と第二の錘を増減する例を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[実施形態の概要]
発明の実施形態として、歩行装置10及びこれを用いた実験キットについて図面を参照して説明する。
図1は歩行装置10の斜視図、
図2は正面図、
図3は平面図、
図4は左側面図である。
なお、以下の記載において、歩行装置10の歩行方向前側を「前」、その逆方向を「後」、前側を向いた状態で左手側を「左」、前側を向いた状態で右手側を「右」、鉛直上方を「上」、その逆方向を「下」と定義し、また、前後方向と左右方向と上下方向はいずれも互いに直交する方向であるものとする。
さらに、前後方向をロール軸として当該ロール軸回りの回動方向をロール方向rとし、左右方向をピッチ軸として当該ピッチ軸回りの回動方向をピッチ方向pとし、上下方向をヨー軸として当該ヨー軸回りの回動方向をヨー方向yとする。
また、この歩行装置10は、例えば、凹凸のない面上で歩行を行う(以下、歩行面という)。この歩行面は、下降勾配を有する面であっても良いが、本実施形態では、歩行面が水平な平面である場合を例示する。
【0018】
歩行装置10は、左右方向に対して垂直となる板状の胴体部20と、胴体部20の下部に設けられた左右一対の脚部32,34と、胴体部20の左右に延出された一対の腕部42,44と、一対の腕部42,44に個別に取り付けられた第一の錘52と、一対の脚部32,34に個別に取り付けられた第二の錘54と、紐状体としての連結紐61を介して胴体部20に連結された吊下錘62とを主に備えている。
そして、歩行装置10は、連結紐61を除く全てのパーツがいずれもプラスチックから形成されている。
【0019】
[胴体部]
胴体部20は、
図1及び
図4に示すように、側面視略三角形状の平板部材である。そして、胴体部20の外縁部全体を取り囲むようにリブ21が形成されている。リブ21は、平板状の胴体部20の撓みを抑制する。
胴体部20の側面視中央部には、左右方向に沿って丸棒状の軸部材41を貫通させる挿入孔25(
図2及び
図3参照)が形成されている。胴体部20は、軸部材41を介して左右の脚部32,34が連結されている。歩行装置10を歩行面上に置いた状態で、胴体部20は歩行面に直接的に接地せず、左右の脚部32,34が歩行面に接地する。
【0020】
胴体部20は、前方に延出された前方延出部22と後方に延出された後方延出部23と上方に延出された上方延出部24を有している。
前方延出部22は、その前端部に紐通し孔221が穿設されている。この紐通し孔221には、一端部に吊下錘62が連結された連結紐61の他端部が結ばれる。例えば、一定の高さを有する台の上面を歩行面とした場合、吊下錘62は、台の上面の端部から下方に吊下され、連結紐61を介して吊下錘62にかかる重力とほぼ等しい張力で前方延出部22を前方に牽引する。この牽引力を動力として、歩行装置10は歩行を行うことができる。
後方延出部23は、前方延出部22との関係で、胴体部20の前後のバランスをとるためのカウンターウェイトとして機能する。この胴体部20は、軸部材41で軸支された状態で、上方延出部24が鉛直上方を向いた状態となるように、前方延出部22及び後方延出部23の重量バランスが図られている。
【0021】
[一対の腕部]
一対の腕部42,44は、前述したように、軸部材41により構成されている。即ち、軸部材41は、胴体部20に対する左右の延出長さが略等しくなるように胴体部20の挿入孔25に挿入されている。そして、軸部材41の左半分が左の腕部42、軸部材41の右半分が右の腕部44となっている。
そして、左右の腕部42,44には、それぞれ略円筒状の第一の錘52が装着される。この第一の錘52については後述する。
【0022】
なお、この軸部材41は、胴体部20に対して接着や溶着等によって固定された構造としても良いが、この歩行装置10では、胴体部20の挿入孔25に対して挿抜して分解可能な構造となっている。軸部材41は、位置ズレが生じない程度の締め付け力で胴体部20の挿入孔25に挿入可能な外径に設定されている。また、胴体部20の挿入孔25は、軸部材41の挿入時に、締め付け力が過大とならないように、側面視で真円状であって、その直径方向両端部に外側に向かってスリット状の切り欠きが形成されている。
また、軸部材41を挿抜可能とした場合には、左右の腕部42,44が均等な長さとなる位置にマーキングや刻印、位置決め突起のようなストッパー等を形成することが望ましい。
【0023】
[一対の脚部]
一対の脚部32,34は、前述した軸部材41によりピッチ方向pに回動可能に支持されると共に、胴体部20の左側面と右側面にそれぞれ近接対向するように連結されている。これらの脚部32,34は、同一寸法、同一形状の部材であり、左右方向について互いに逆向きに配置されている。
左右の脚部32,34は、いずれも、胴体部20との対向面321,341が平滑であって胴体部20と平行となるように配置されている。これら左右の脚部32,34は、側面視の形状が扇形をなしている。
【0024】
左右の脚部32,34は、当該扇形の円弧部分を下方に向け、扇形の中心側を上方に向けた状態で胴体部20に装備されている。
図4において、脚部32の扇形の中心を符号Cで示す。
左右の脚部32,34は、前後方向から見て、上部が胴体部20に平行な平板状であり、下部は上部よりも左右方向に厚さを有している。そして、左右の脚部32,34の下部(扇形の円弧側)には、曲面からなる接地面323,343が形成されており、歩行装置10は、接地面323,343を歩行面に接地させしながら歩行を行う。この接地面323,343は、歩行面に対して脚部32,34の上部を前後左右方向に揺動可能とする曲面、例えば、扇形と同じ半径の球面からなる。
また、
図2に示すように、左右の脚部32,34が軸部材41を中心とする同じ方向を向いた状態(脚部32,34が揃った状態)において、左側の脚部32の接地面323と右側の脚部34の接地面343とが共通する同一の球面に沿った状態となるように形成されている。
【0025】
左右の脚部32,34の上部には、扇形の中心角の二等分線に沿って並んだ三つの取付孔322,342が左右方向に貫通形成されている。左右の脚部32,34は、これら三つの取付孔322,342のいずれかに選択的に軸部材41が挿入された状態で軸支されることにより、回動動作の回動半径の長さ(回動中心から接地面323,343までの距離)を調節することができる。
これら三つの取付孔322,342は、その内径が、軸部材41に対して左右の脚部32,34が円滑に回動することができる大きさに設定されている。これにより、左右の脚部32,34は,接地面323,343を前後方向に移動させることができる。なお、三つの取付孔322,342は、いずれも、脚部32,34の扇形の中心Cよりも接地面323,343側に配置されている。
【0026】
また、前述したように、左右の脚部32,34は、上部が薄い平板状であり、下部は左右方向に厚み有している。このため、それぞれの脚部32,34は、いずれも、三つの取付孔322,342の下方(接地面323,343側)に重心が存在している。このため、左右の脚部32,34は、三つの取付孔322,342のいずれに軸部材41を挿入して軸支された状態であっても、軸部材41よりも下方に重心があるので、当該軸部材41によって左右の脚部32,34をそれぞれ垂下させると、前述した扇形の中心角の二等分線が鉛直上下方向を向いた状態となる。以下、左右の脚部32,34の扇形の中心角の二等分線が鉛直上下方向を向いた状態を「基準姿勢」という。
【0027】
左右の脚部32,34の各々における左右方向の外側には、軸部材41に対する左右の脚部32,34の抜け止め33が装着されている。この抜け止め33は、軸部材41に対して滑りが生じない程度の締結力をもって軸部材41を挿入可能である。これら抜け止め33を胴体部20の左右両側に配置された脚部32,34のさらに左右方向の外側に装着することで、軸部材41に対する左右の脚部32,34の配置を左右方向について一定に維持することができる。
【0028】
左側の脚部32の下部左側面には、円柱状のボス部324が左方に突出した状態で前後方向に三つ並んで形成されている。また、同様に、右側の脚部34の下部右側面には、円柱状のボス部344が右方に突出した状態で前後方向に三つ並んで形成されている。
三つのボス部324と三つのボス部344には、それぞれ第二の錘54を選択的に一つ装着することができる。
【0029】
[第一の錘]
第一の錘52は、前述したように、左右の腕部42,44の各々に個別に装備することができる。第一の錘52は、略円筒状であって中心部に軸部材41を通す保持孔521が形成されている。この第一の錘52の保持孔521(
図5参照)は、軸部材41の挿入時に、軸部材41に対して移動可能であって位置保持が可能となる適度な締め付け力が生じるように、側面視で真円状であって、その直径方向両端部に外側に向かってスリット状の切り欠きが形成されている。
これにより、第一の錘52は、左右の腕部42,44のそれぞれに対して、その先端部から装着され、軸部材41に沿って左右方向の任意の位置に取り付けることができる。
なお、左右の腕部42,44に対する各第一の錘52の取り付け位置は、各腕部42,44の先端部からの距離が等しくなるように取り付けることが望ましいが、左右の腕部42,44の取り付け位置をあえて異ならせて歩行への影響を観察することも可能である。
【0030】
[第二の錘]
第二の錘54は、前述したように、左側の脚部32の三つのボス部324のいずれか一つと右側の脚部34の三つのボス部344のいずれか一つに選択的に装備することができる。第二の錘54は、略円筒状であって中心部にボス部324,344を挿入する保持孔541(
図5参照)が形成されている。この第二の錘54の保持孔541は、ボス部324,344の挿入時に、自然に抜け落ちることがないように適度な締め付け力が生じる内径に設定されている。
第二の錘54は、左右の脚部32,34のそれぞれに対して、前後方向に異なる三位置に選択的に取り付けることができる。この第二の錘54の前後方向の位置調節により、左右の脚部32,34の重心位置を前後方向について変更することができる。
なお、左右の脚部32,34に対する各第二の錘54の取り付け位置は、各脚部32,34の前後方向の位置が等しいボス部324,344に取り付けることが望ましいが、左右の脚部32,34の取り付け位置をあえて異ならせて歩行への影響を観察することも可能である。
【0031】
[各パーツについて]
上記歩行装置10は、第一の錘52が軸部材41に対して着脱可能であり、第二の錘54が左右の脚部32,34から着脱可能である。さらに、軸部材41に対して抜け止め33が着脱可能であることから、左右の脚部32,34も軸部材41から着脱可能となっている。また、軸部材41は胴体部20から着脱可能である。吊下錘62も連結紐61を結び或いは解くことで胴体部20から着脱可能である。
従って、歩行装置10は、胴体部20、左側の脚部32、二つの抜け止め33、右側の脚部34、軸部材41(左右の腕部42,44)、二つの第一の錘52、二つの第二の錘54、連結紐61、吊下錘62の各パーツに分解し、再度組み立てることができるようになっている。
【0032】
[歩行動作]
図5は歩行動作を開始する直前の歩行装置10の左側面図、
図6は歩行動作中の歩行装置10の正面図、
図7は平面図、
図8は左側面図である。
これらに基づいて歩行装置10の歩行動作について説明する。
【0033】
まず、
図5に示すように、一定の高さを有する台の上面を歩行面として、吊下錘62を台の上面の端部から下方に吊下する。符号63は、台の上面の端部に設置した紐ガイドである。紐ガイド63は、滑りの良い樹脂製であり、連結紐61の摺接による摩擦抵抗を低減して、胴体部20側に良好に前方への牽引力を付与することができる。
【0034】
連結紐61を通じて吊下錘62からの前方への張力が胴体部20に付与されると、前方延出部22は連結紐61と同じ方向を向いた状態となる。
また、左右の脚部32,34は、軸部材41を介してその上部が前方に牽引され、各脚部32,34の上部が前方に傾斜した前傾姿勢となる。
この状態で、左右の腕部42,44に取り付けられた第一の錘52を上に持ち上げ又は下に押し込むと、左右の脚部32,34の接地面323,343が球面であることから、左右の腕部42,44は振り子運動を開始し、振り子の等時性に従って一定の周期で上下に揺動を行う。
【0035】
左右の腕部42,44の周期的な揺動動作に伴い、歩行装置10の全体がロール軸回りにロール方向rに揺動動作を行う。このとき、
図6のように、右側の腕部44が上昇すると、右側の脚部34も接地面343が歩行面から離間する。
すると、歩行面から離間した右側の脚部34は、
図7及び
図8に示すように、自重により基準姿勢に戻ろうとしてピッチ軸回りにピッチ方向pに回動し、その下端部が前方に回動して前進移動を行う。
【0036】
次に、振り子運動に従って、左側の腕部42が上昇すると、右側の脚部34の接地面343が歩行面に接地し、左側の脚部32の接地面323が歩行面から離間する。これにより、今度は、左側の脚部32が自重により基準姿勢に戻ろうとして下端部が前方に回動し、前進移動を行う。また、これに伴い、右側の脚部34は前傾状態となる。
以下、同様の動作を繰り返すことで、左右の脚部32,34が交互に前進移動して連続した歩行動作が行われる。
また、歩行装置10は、歩行面の前端部の紐ガイド63の手前に達すると、当該紐ガイド63の後端部に立設された制止板631に左右の脚部32,34が当接し、歩行動作が制止され、前進移動を停止する。
【0037】
[実験キット]
実験キットは、上述した歩行装置10と歩行装置10の歩行動作に関する測定を行うための測定シート100とからなる。
図9は測定シート100の平面図である。
図9に示すように、測定シート100は、長方形状の紙や樹脂からなるシート材である。
この測定シート100の表面における長手方向の一端部には、歩行装置10の歩行開始位置を示す開始位置表示101が記載されている。
また、測定シート100の開始位置表示101から測定シート100の長手方向の他端部の歩行終了位置にかけて、歩行装置10の歩行距離を測定する歩行距離ゲージ102が1cm単位の目盛りで標記されている。
【0038】
測定シート100には、歩行装置10の開始位置表示101として、歩行装置10の平面図が実物大で記載されており、左右の腕部42,44に装着する第一の錘52の取り付け位置を計測するための錘位置ゲージ103が1cm単位の目盛りで歩行装置10の平面図内の左右の腕部42,44の隣に併記されている。
【0039】
この実験キットを使用して歩行装置10の歩行実験を行う場合には、歩行装置10について次の(1)~(3)の条件変更を行って計測を実行する。
(1)左右の第一の錘52の左右方向における取り付け位置を錘位置ゲージ103で計りながら所定の距離単位(例えば1cmずつ)で変更し、その都度、歩行動作を実行する。
(2)左右の第二の錘54の前後の取り付け位置を三つのボス部324,344について変更し、その都度、歩行動作を実行する。
(3)左右の脚部32,34の軸部材41を挿入する三つの取付孔322,342について変更し、その都度、歩行動作を実行する。
【0040】
上記(1)~(3)の条件変更を行いながら、歩行装置10を測定シート100の開始位置表示101上に配置し、歩行終了位置まで歩行させ、歩行距離ゲージ102により計測可能な歩行距離(例えば40cm)の歩行所要時間をストップウォッチ等で計測する。そして、歩行距離を歩行所要時間で除算して、歩行速度を求める。
また、歩行距離ゲージ102を利用して歩行装置10の一歩の歩幅を計測する。歩幅の計測は、歩行時の腕部の揺動回数や脚部32,34の回動回数を数えて、歩行距離ゲージ102により計測した歩行距離を除算しても良い。
計測結果は、(1)~(3)の各種条件ごとに記録し、これらの各条件ごとの歩行速度や歩幅の比較を行い、各種の条件変更による影響を考察する。
【0041】
なお、実験キットとしては、歩行装置10と測定シートだけでなく、歩行装置10の歩行速度を測定する際に使用するストップウォッチのような計時装置、各種条件を変えて測定を行った場合の測定結果を記録する記録シート等を加えても良い。
【0042】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記歩行装置10は、一対の腕部42,44がいずれも左右方向における取り付け位置を調節可能とする第一の錘52を備えている。一対の腕部42,44は歩行の際に、規則的且つ顕著な揺動動作を行うので、第一の錘52の取り付け位置を調節することで、一対の腕部42,44の揺動に対する影響や歩行動作に対する影響を視覚的に分かりやすく観測することができる。そして、第一の錘52の取り付け位置の影響を速やかに認識することにより、歩行動作を通じて振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解を促すことができる。
【0043】
また、歩行装置10の一対の脚部32,34は、いずれも、前後方向における取り付け位置を調節可能とする第二の錘54を備えている。一対の脚部32,34は歩行の際に、規則的且つ顕著な回動動作を行うので、一対の脚部32,34の回動に対する影響や歩行動作に対する影響を視覚的に分かりやすく観測することができる。そして、第二の錘54の取り付け位置の影響を速やかに認識することにより、歩行動作を通じた振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解を促すことができる。
【0044】
また、歩行装置10の一対の脚部32,34は、三つの取付孔322,342により、回動動作の回動半径の長さを調節可能としている。前述したように、一対の脚部32,34は歩行の際に、規則的且つ顕著な回動動作を行うので、一対の脚部32,34に対する影響や歩行動作に対する影響を視覚的に分かりやすく観測することができる。そして、脚部32,34の回動半径の長さの影響を速やかに認識することにより、歩行動作を通じた振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解を促すことができる。
【0045】
また、歩行装置10は、連結紐61を介して一対の脚部32,34や胴体部20を前方に牽引する吊下錘62を備えているので、歩行装置10を連結紐61による牽引方向に向かって安定的に直進歩行させることができる。さらに、安定的に直進歩行が行われるので、各種の条件変更に対する脚部32,34や腕部42,44の動作変化や歩行動作の影響について容易且つ明確に比較観察することができ、実験と観察をより適格に行うことが可能となる。
【0046】
また、歩行装置10は胴体部20を備えているので、歩行装置10の重心を左右方向の中央に維持しやすく、安定的に直進歩行動作を行うことが可能となる。
さらに、胴体部20から前方に延出された前方延出部22の先端部に連結紐61を介して吊下錘62が連結されているので、前方延出部22の連結紐61による牽引方向に向けた状態を維持することができ、さらに安定的に直進歩行動作を行うことが可能となる。
【0047】
また、実験キットは、歩行装置10と当該歩行装置10の歩行距離ゲージ102等が表記された測定シート100とを備えているので、歩行距離や歩行速度、歩幅等の測定をより正確且つ容易に行うことが可能である。また、前述した各種の条件変更を行う実験の結果を数値的な結果で得ることができるので、歩行動作を通じた振り子運動を利用した重心の移動と運動の関係の理解をさらに深めることができ、歩行動作の学習に適した教材といえる。
【0048】
[その他]
その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、歩行装置10は、水平な歩行面上で吊下錘62からの牽引力を利用して歩行を行う場合を例示したが、連結紐61及び吊下錘62を取り除いた構成の歩行装置10によって、傾斜面からなる歩行面上を歩行させてもよい。
【0049】
また、一対の腕部42,44に取り付ける第一の錘52の取り付け重量は調節可能としても良い。この場合、
図10に示すように、各腕部42,44に取り付ける第一の錘52の数を増減させても良いし、重量の異なる複数種類の第一の錘52を用意し、これらを交換して取り付けてもよい。
同様に、一対の脚部32,34に取り付ける第二の錘54の取り付け重量も調節可能としても良い。この場合も、
図10に示すように、第二の錘54の数を増減させても良いし、重量の異なる複数種類の第二の錘54を用意し、交換してもよい。なお、第二の錘54の数を増やす場合には、
図10に示すように、連結軸542を介して第二の錘54同士を連結することが望ましい。
【0050】
また、第二の錘54は、複数のボス部324,344に対して選択的に取り付ける場合を例示したが、定位置への取付に限らず、例えば、前後方向に沿ってスライド移動可能に取り付けてもよい。
また、左右の脚部32,34の回動半径の長さ調節を複数の取付孔322,342を選択して軸部材41を挿入することで行っているが、これに限らず、例えば、左右の脚部32,34を伸縮可能としても良い。
【0051】
また、吊下錘62を胴体部20に連結する紐状体として、撚り合わせた繊維からなる連結紐61を例示したが、紐状体は紐状であれば良いので、例えば、チェーン等を利用しても良い。
【0052】
また、歩行装置10は、連結紐61を除くすべてのパーツがいずれもプラスチックから形成されているものとしたが、これに限らず、一部または全部のパーツを木、金属、セラミックス等の別素材で形成しても良い。
【符号の説明】
【0053】
10 歩行装置
20 胴体部
22 前方延出部
32,34 脚部
41 軸部材
42,44 腕部
52 第一の錘
54 第二の錘
61 連結紐(紐状体)
62 吊下錘
100 測定シート
101 開始位置表示
102 歩行距離ゲージ
103 錘位置ゲージ
322,342 取付孔
323,343 接地面
324,344 ボス部