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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20220523BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220523BHJP
   C22C 38/40 20060101ALI20220523BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20220523BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
B23K20/00 310B
B23K20/00 310G
C22C38/00 302Z
C22C38/40
C22C38/44
C21D9/46 Q
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018017633
(22)【出願日】2018-02-02
(65)【公開番号】P2019130586
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
(72)【発明者】
【氏名】堀 芳明
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0157723(US,A1)
【文献】特開2000-303150(JP,A)
【文献】特開平8-271175(JP,A)
【文献】特開2006-317026(JP,A)
【文献】特開2005-207725(JP,A)
【文献】特開2014-190664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00
C22C 38/00
C22C 38/40
C22C 38/44
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cr:16.0質量%~20.0質量%、Ni:8.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:0.0質量%~3.0質量%、C:0.08質量%以下、を含むオーステナイト系ステンレス鋼板のセットを拡散接合することにより製造される接合体の製造方法であって、
0.5~3.5MPaの面圧を加えることにより、流路が形成されている前記鋼板としての第1鋼板と、板厚が0.3~0.7mmの前記鋼板としての第2鋼板とを拡散接合する第1拡散接合工程と、
前記第1拡散接合工程後の前記第2鋼板と、前記第1鋼板および前記第2鋼板とは別の前記鋼板としての第3鋼板であって接合面に垂直な方向から見たときに前記流路と交差する流路が形成されている鋼板とを2.5~9.0MPaで拡散接合する第2拡散接合工程とを含み、
前記第2鋼板は、前記第1鋼板に形成されている前記流路と前記第3鋼板に形成されている前記流路とを仕切る仕切り板であることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記鋼板は、Cr:16.0質量%~18.0質量%、Ni:10.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:2.0質量%~3.0質量%、C:0.08質量%以下、を含むことを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法
【請求項3】
前記鋼板は、Cr:16.0質量%~18.0質量%、Ni:12.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:2.0質量%~3.0質量%、C:0.030質量%以下、を含むことを特徴とする請求項1に記載の接合体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拡散接合するのに好適なオーステナイト系ステンレス鋼板などに関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼材同士を拡散接合する手法は、熱交換器、機械部品、燃料電池部品、家電製品部品、プラント部品、装飾品構成部材、建材など、種々の用途で利用されている。拡散接合にはインサート材挿入法と直接法がある。インサート材挿入法は、接合するステンレス鋼材と馴染みがよい異別の金属材料からなるインサート材を接合界面に挿入し、固相拡散または液相拡散により双方のステンレス鋼材を接合する手法である。インサート材挿入法では、インサート材を用いることによるコスト増や、接合箇所に異種金属が存在することによる耐食性の低下が問題となりやすい。
【0003】
直接法は、インサート材を用いずに双方のステンレス鋼材の表面同士と直接接触させ、固相拡散により接合する手法である。例えば、特許文献1には、特定の組成を有する直接拡散接合用のフェライト系ステンレス鋼を用いる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-303150号公報(2000年10月31日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ステンレス鋼材の中には、耐食性および耐熱性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼が存在する。特許文献1の技術は、フェライト系ステンレス鋼に対する技術であり、オーステナイト系ステンレス鋼には適用できない。
【0006】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、原子の拡散の進行が遅いため、拡散接合が起こりにくい。そのため、拡散接合時に印加する面圧を高くする必要がある。しかしながら、面圧を高くしてしまうと、オーステナイト系ステンレス鋼板が大きく変形してしまうという問題があった。
【0007】
本発明の一態様は、鋼板の変形を抑制しつつ拡散接合を行うことができるオーステナイト系ステンレス鋼板のセットを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼板のセットは、拡散接合に用いられる複数のオーステナイト系ステンレス鋼板を含むオーステナイト系ステンレス鋼板のセットであって、前記鋼板としての、流路が形成されている第1鋼板と、第2鋼板と、接合面に垂直な方向から見たときに前記流路と交差する流路が形成されている第3鋼板とを含み、前記第3鋼板は、前記第1鋼板と前記第2鋼板とを拡散接合した後に、2.5~9.0MPaの面圧を加えて前記第2鋼板と拡散接合される鋼板であり、前記第1鋼板と前記第2鋼板との拡散接合時に0.5~3.5MPaの面圧を加えた場合の前記第2鋼板のたわみ量が30μm以下の範囲に収まるように、前記第2鋼板の板厚が0.3~0.7mmの範囲に設定されている。
【0009】
上記の構成によれば、第2鋼板の板厚を0.3~0.7mmにすることにより、0.5~3.5MPaの面圧を加えた後の鋼板のたわみ量が30μm以下とすることができる。その結果、後の拡散接合において2.5~9.0MPaの面圧を加えることにより第2鋼板と第3鋼板とを接合させることができる。また、2.5~9.0MPaの面圧を加えた場合には、第3鋼板が大きく変形しない(座屈が起こらない)。すなわち、第3鋼板の変形を抑制しつつ拡散接合を行うことができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼板のセットにおいて、前記鋼板は、Cr:16.0質量%~20.0質量%、Ni:8.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、C:0.08質量%以下、を含む構成であってもよい。
【0011】
本発明の第3の態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼板において、前記鋼板は、Cr:16.0質量%~18.0質量%、Ni:10.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:2.0質量%~3.0質量%、C:0.08質量%以下、を含む構成であってもよい。
【0012】
本発明の第4の態様に係るオーステナイト系ステンレス鋼板において、前記鋼板は、Cr:16.0質量%~18.0質量%、Ni:12.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:2.0質量%~3.0質量%、C:0.030質量%以下、を含む構成であってもよい。
【0013】
本発明の第5の態様に係る接合体の製造方法は、Cr:16.0質量%~20.0質量%、Ni:8.0質量%~15.0質量%、Si:0.001質量%~1.0質量%、Mo:0.0質量%~3.0質量%、C:0.08質量%以下、を含むオーステナイト系ステンレス鋼板のセットを拡散接合することにより製造される接合体の製造方法であって、0.5~3.5MPaの面圧を加えることにより、流路が形成されている前記鋼板としての第1鋼板と、板厚が0.3~0.7mmの前記鋼板としての第2鋼板とを拡散接合する第1拡散接合工程と、前記第1拡散接合工程後の前記第2鋼板と、前記第1鋼板および前記第2鋼板とは別の前記鋼板としての第3鋼板であって接合面に垂直な方向から見たときに前記流路と交差する流路が形成されている鋼板とを2.5~9.0MPaで拡散接合する第2拡散接合工程とを含む。
【0014】
本発明の第6の態様に接合体は、態様1~4のいずれかに記載のオーステナイト系ステンレス鋼板のセットで構成された接合体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、鋼板の変形を抑制しつつ拡散接合を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態1に係る熱交換器の製造における拡散接合を説明するための図である。
図2】上記熱交換器の構造を示す図である。
図3】(a)は、上記熱交換器が備える下板、仕切り板および上板の構成を示す上面図であり、(b)は、上記熱交換器が備える流路板の構成を示す上面図であり、(c)は、上記流路板とは別の流路板の構成を示す上面図である。
図4】上記熱交換器の断面図である。
図5】本発明の実施例における実験条件および実験結果を示す図である。
図6】本発明の実施例における上板の構成を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中の「A~B」は「A以上、B以下」を意味し、例えば、明細書中で「1%~5%」または「1~5%」と記載されていれば「1%以上、5%以下」を示す。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特記しない限り、後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。また、本明細書では、特に明記しない限り、組成を示す際に用いる「%」は、「質量%」を意味するものとする。
【0018】
本実施形態では、本発明の一態様のオーステナイト系ステンレス鋼板のセットからなる複数のプレート材を積層し、上記プレート材を拡散接合させて接合体としての熱交換器を製造する方法について説明する。ただし、本発明のオーステナイト系ステンレス鋼板のセットは、熱交換器以外の製品(接合体)を製造するために用いることができる。
【0019】
図1は、本実施形態における熱交換器10(図2参照)の製造における拡散接合(後述する第1拡散接合または第2拡散接合)を説明するための図である。図1に示すように、熱交換器10の製造における拡散接合は、ホットプレス装置Hを用いて行われる。ホットプレス装置Hは、所定の雰囲気内で加圧および過熱を行うことができるようになっている。図1に示すように、本実施形態における拡散接合は、ホットプレス装置Hにおいて、(1)複数のプレート材(図1の例では、後述する下板11、流路板12~14、および仕切り板15)からなる積層体(図1の例では、第1積層体20)の両面(上下面)に離型部材2を配置し、(2)離型部材2を介して上記積層体を挟むように押え治具3を配置し、(3)押え治具3を介して上記積層体を加圧装置4で押圧することにより行われる。詳しくは、後述する。
【0020】
(オーステナイト系ステンレス鋼板の成分組成)
上記プレート材として用いられる本発明の一態様のオーステナイト系ステンレス鋼板は、以下の成分を有する。
【0021】
Crは、耐食性を確保する上で重要なステンレス鋼板の主要成分である。また、酸化皮膜中のCr酸化物の割合を増大させることは、還元されにくいSi酸化物、Ti酸化物、Al酸化物などの存在割合を減少させるためにも有効である。本実施形態におけるオーステナイト系ステンレス鋼板のCr含有量は、16.0質量%~20.0質量%である。
【0022】
Niは、オーステナイト単相組織を得るために有効な元素である。本実施形態におけるオーステナイトステンレス鋼板のNi含有量は、8.0質量%~15.0質量%である。
【0023】
Siは、脱酸剤やその他の目的でオーステナイト系ステンレス鋼板に添加される。本実施形態におけるオーステナイト系ステンレス鋼板のSi含有量は、0.001質量%~1.0質量%である。
【0024】
Moは、海水や各種媒質への耐食性を向上させるための成分である。本実施形態におけるオーステナイトステンレス鋼板のMo含有量は、2.0質量%~3.0質量%を含むことが好ましい。ただし、Moを必ずしも含まなくてもよい。
【0025】
Cは、Crと結合してクロム炭化物を析出し、粒界腐食を引き起こす元素である。そのため、Cの含有量は、低いほうがよい。本実施形態におけるオーステナイトステンレス鋼板のC含有量は、0.08質量%以下である。なお、ステンレス鋼板の粒界腐食性を向上させるためには、C含有量を0.03質量%以下にすることが好ましい。
【0026】
その他の成分元素については、拡散接合性の観点からは特にこだわる必要はなく、用途に応じて種々の成分組成を採用することができる。
【0027】
本発明の一態様のオーステナイト系ステンレス鋼板の具体的な成分組成範囲として以下のものを例示することができる。質量%で、Cr:16.0%~18.0%、Ni:10.0%~15.0%、Si:0.001%~1.0%、N:0.005%~0.50%、Mn:0.05%~2.0%、P:0.001%~0.045%、S:0.0005%~0.030%、V:0%~0.15%、Cu:0%~4.0%、W:0%~4.0%、Mo:0%~3.0%、Nb:0%~1.0%、B:0%~0.010%、残部Feおよび不可避的不純物。
【0028】
(熱交換器の構造)
図2は、熱交換器10の構造を示す正面図である。図2に示すように、熱交換器10は、下方から順に、下板11、流路板12、流路板13、流路板14(第1鋼板)、仕切り板15(第2鋼板)、流路板16(第3鋼板)、流路板17、流路板18、および上板19の各プレート材が積層されて構成されている。これらすべてのプレート材は、上記のオーステナイト系ステンレス鋼板によって形成されている。
【0029】
図3の(a)は、下板11の構成を示す上面図であり、(b)は、流路板12、流路板13および流路板14の構成を示す上面図であり、(c)は、仕切り板15の構成を示す上面図であり、(d)は、流路板16、流路板17および流路板18の構成を示す上面図であり、(e)は、上板19の構成を示す上面図である。
【0030】
流路板12、流路板13および流路板14は、図3の(b)に示すように、平板になっており、その内部に、長手方向に延びる流路幅W1の複数の流路が間隔W2で形成されている。流路板16、流路板17および流路板18は、図3の(d)に示すように、平板になっており、その内部に、短手方向に延びる流路幅W1の複数の流路が間隔W2で形成されている。また、流路板16~18には、上板19から導入された流体を流路板12~14へ導入する流体導入孔H1、および、導入された流体を流路板12~14から排出する流体排出孔H2が形成されている。下板11は、図3の(a)に示すように、平板になっており、内部には流路は形成されていない。仕切り板15は、図3の(c)に示すように、平板になっており、内部には流路は形成されていない。また、仕切り板15には、流路板12~14へ流体を導入する流体導入口H3、および、導入された流体を流路板12~14から排出する流体排出口H4が形成されている。上板19は、図3の(e)に示すように、平板になっており、内部には流路は形成されていない。また、上板19には、流路板12~14および流路板16~18へ流体をそれぞれ導入する流体導入口H5および流体導入口H6、および、流路板12~14および流路板16~18から流体をそれぞれ排出する流体排出口H7および流体排出口H8が形成されている。
【0031】
(熱交換器の製造方法)
本実施形態における熱交換器10の製造方法は、第1拡散接合工程および第2拡散接合工程を含む。
【0032】
<第1拡散接合工程>
第1拡散接合工程は、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15を重ねて積層された第1積層体20を、ホットプレス装置Hを用いた拡散接合により接合させる工程である。具体的には、まず、第1積層体20をホットプレス装置Hの内部に装填する。このとき、ホットプレス装置H内では、第1積層体20の外側に配置した2枚の離型部材2のそれぞれと接するように押え治具3が配置される。押え治具3は、加圧装置4の加圧軸に連結されている。次に、加圧機構(不図示)を作動することにより、加圧装置4を通じて押え治具3が第1積層体20を挟み込むように押圧する。これにより、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15に対して所定の圧力が印加される。より詳細には、加圧装置4による圧力の印加は、所定時間(具体的には、0.5~3時間)の間保持される。また、ホットプレス装置H内は、真空(好ましくは初期真空度10-1Pa以下)または不活性雰囲気に保持される。接合温度は、900~1250℃であることが好ましく、980~1200℃であることがより好ましい。上記の条件で加圧装置4による圧力の印加を行うことにより、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15が拡散接合される。
【0033】
離型部材2は、Siを1.5質量%以上含有する鋼材で構成された離型部材を使用することが好ましい。離型部材2は、拡散接合時の積層体と接して高温高圧下に置かれているから、高温での破損や腐食が少ないこと、積層体と反応しないことなどが求められる。本実施形態に係る離型部材2は、積層体との反応を抑制する観点から、Si含有量の多い鋼材を用いて構成することが好ましい。離型部材2の形状は、積層体の形状に応じて適宜選択される。プレート式熱交換器のプレート材は、一般に板状であるから、それに接して配置される離型部材2は、離型板として使用される。離型部材2の板厚は、2~10mmが好ましく、3~8mmがより好ましい。
【0034】
押え治具3は、加圧装置4の加圧機構に連結されて、積層体(図1の例では、第1積層体20)に対して押圧力を印加する部材である。拡散接合時の温度において耐熱性があり、かつ、破損しないことが求められるため、押え治具3は、カーボン材であることが好ましい。
【0035】
加圧装置4は、サーボ、バネ、錘などの加圧機構を備えたものであればよい。拡散接合後に積層体1と離型部材2とを容易に取り外すことができるように、拡散接合を行う前に離型部材2の表面に離型剤を塗布してもよい。離型剤は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末(h-BN)などのボロンナイト(窒化ホウ素)系スプレーを使用できる。離型剤の塗布厚みは、離型剤粉末の平均粒度(例えば約3μm程度)の3倍以上(約10μm程度)であればよい。
【0036】
複数のプレート材(すなわち、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、仕切り板15、流路板16、流路板17、流路板18、および上板19)が積層されてなる熱交換器10は、上記複数のプレート材によって形成された細い流路を流体が通過し、各プレート材を介して高温側流体と低温側流体との間で熱交換が行なわれる。そのため、プレート材には高温域における機械的強度(高温強度)と耐食性が良好であることが要求される。その観点から、本実施形態は、耐熱性と耐久性に優れるステンレス鋼をプレート材に使用している。また、熱交換性能を高めるためには、各プレートは、薄板形状であることが望ましい。
【0037】
図4は、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15を拡散接合して製造された第1積層体20の断面の形状を示す図である。上述したように流路板14には流路が形成されている。そのため、下板11および仕切り板15における、流路板12または流路板14の流路が形成されている箇所に対応する箇所が撓む。ここで、図4に示すように、下板11および仕切り板15の撓んでいる箇所における最大のたわみ量をそれぞれたわみ量δおよびたわみ量δと定義する。また、仕切り板15の板厚を板厚tと定義する。たわみ量δおよびたわみ量δは、例えば、レーザー変位計を用いた形状測定装置を用いて測定することができる。具体的には、たわみ量δは、仕切り板15の撓んでいない箇所の高さを基準として撓んでいる箇所の高さ(凹み量)を測定することにより特定される。
【0038】
第1拡散接合工程では、加圧装置4によって、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15に対して0.5~3.5MPaの面圧を印加する。面圧が0.5MPaよりも小さい場合、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、および仕切り板15の間の拡散接合が十分におこなわれないため不適である。また、面圧が3.5MPaよりも大きい場合、仕切り板15のたわみ量δが大きくなりすぎるため不適である。当該たわみ量δの詳細については後述する。
【0039】
<第2拡散接合工程>
第2拡散接合工程は、第1拡散接合工程により接合された第1積層体20、流路板16、流路板17、流路板18、および上板19を重ねて積層された第2積層体21(図2参照)を、ホットプレス装置Hを用いた拡散接合により接合させる工程である。第2拡散接合工程の条件は、第1拡散接合工程における条件と略同様のため、ここでは、第1拡散接合工程と異なる点についてのみ説明する。
【0040】
上述したように、仕切り板15は、第1拡散接合工程後には、流路板14の流路が形成されている箇所に対応する箇所が撓んでいる。そのため、流路板16は、第2拡散接合において仕切り板15と拡散接合する際に、仕切り板15の撓んでいる箇所と、流路板16の流路が形成されている箇所が交差する箇所(以降では、交差箇所と呼称する)において圧力が印加されにくい。したがって、仕切り板15と流路板16とを拡散接合させるためには、大きな圧力を印加することが必要となる。しかしながら、大きな圧力をかけすぎると、座屈が発生してしまい、製品として使用することができなくなってしまうという問題がある。
【0041】
そこで、本実施形態における仕切り板15は、第1拡散接合工程における0.5~3.5MPaの面圧の印加によるたわみ量δが30μm以下の範囲に収まるように、板厚tが0.3mm以上の範囲に設定されている。これにより、第2拡散接合工程において、座屈が発生しない圧力(具体的には、2.5~9.0MPa)の圧力を印加して、仕切り板15と流路板16とを拡散接合できるようになっている。
【0042】
また、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、仕切り板15、流路板16、流路板17、流路板18、および上板19は、伝熱効率を高めることが好ましいため、板厚が0.7mm以下となっている。
【0043】
なお、上記交差箇所は、接合面に垂直な方向(上下方向)からみたときに、流路板14の流路と、流路板16の流路とが交差する箇所とも言える。
【0044】
(変形例)
次に、熱交換器10の製造方法の変形例について説明する。本変形例における熱交換器10の製造方法は、第1拡散接合工程、第2拡散接合工程および第3拡散接合工程を含む。本変形例における第1拡散接合工程は、上述した第1拡散接合工程と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0045】
本変形例における第2拡散接合工程は、流路板16、流路板17、流路板18、および上板19を重ねて積層された積層体(以降では、第3積層体と称する)を、ホットプレス装置Hを用いた拡散接合により接合させる工程である。本変形例における第2拡散接合工程におけるその他の条件は、第1拡散接合工程と同様である。
【0046】
第3拡散接合工程は、第1拡散接合工程で接合された第1積層体と、第2拡散接合工程で接合された第3積層体とを拡散接合する工程である。具体的には、第3拡散接合工程では、座屈が発生しない圧力(具体的には、2.5~9.0MPa)の圧力を印加して、第1積層体の仕切り板15と、第3積層体の流路板16とを拡散接合する。
【0047】
本変形例においても、第1拡散接合工程における0.5~3.5MPaの面圧の印加によるたわみ量δが30μm以下の範囲に収まるように、仕切り板15の板厚tが0.3mm以上の範囲に設定されている。これにより、第3拡散接合工程において、座屈が発生しない圧力(具体的には、2.5~9.0MPa)の圧力を印加して、仕切り板15と流路板16とを拡散接合できるようになっている。
【0048】
また、本変形例においても、下板11、流路板12、流路板13、流路板14、仕切り板15、流路板16、流路板17、流路板18、および上板19は、伝熱効率を高めることが好ましいため、板厚が0.7mm以下となっている。
【0049】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0050】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更して実施できる。
【0051】
本実施例において使用する試験材としての鋼板を以下のようにして作製した。Cr:16.70%、Ni:10.10%、Si:0.60%、N:0.018%、Mn:1.00%、Mo:2.04%、P:0.020%、S:0.001%、Cu:0.30%、Al:0.022%、C:0.020%、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼材を、30kgの真空溶解で溶製し、得られた鋼塊を厚み30mmの板に鍛造した。次いで、1200℃の熱間圧延を行い、厚み6mmの熱延板とした後、1100℃で60秒の均熱焼鈍を施して熱延焼鈍板を得た。当該熱延焼鈍板を厚み3.0mmまで冷間圧延を行った後、1100℃で均熱30秒の最終焼鈍を施し、最終仕上板厚を3mmとし、表面仕上げ処理を2B仕上または2D仕上で行い、冷延焼鈍板を得た。さらに、当該冷延焼鈍板を冷間圧延、焼鈍を施し、最終仕上板厚を0.3~0.6mmとし、表面仕上げ処理を2Bまたは2D仕上げで行い、冷延焼鈍材を得た。当該冷延焼鈍板から、210mm×160mmの寸法で板を切り出して試験材を作製した。
【0052】
上記試験材を用いて、流路(流路幅5mm)が形成された第1鋼板、流路が形成されていない第2鋼板、および第1鋼板の流路が形成されている方向とは直交する方向に流路(流路幅5mm)が形成されている第3鋼板とを作製した。第1鋼板は実施形態1における流路板12~14に相当する鋼板であり、第2鋼板は実施形態1における下板11、仕切り板15および上板19に相当する鋼板であり、第3鋼板は実施形態における流路板16~18に相当する鋼板である。なお、仕切り板15には、下記の第1拡散工程で接合させた接合体の接合の良否を判定に用いる孔であり、流路板12~14に流体を導入するための孔を1つ形成した。また、図6に示すように、上板(実施形態における上板19、図6では上板19Aとして図示する)には、後述する第2拡散接合工程における接合性の良否を判定するために、流路板16~18に流体を導入するための孔を1つ形成するとともに、接合面に垂直な方向から見たときに第3鋼板に形成されている流路間の領域に直径0.1mmの孔Hを形成した。
【0053】
本実施例では、まず、1枚の第2鋼板、3枚の第1鋼板および1枚の第2鋼板をこの順で積層させた後、拡散接合した。以降では、本工程を第1拡散接合工程と称する。第1拡散接合工程は、以下の条件で行った。
初期真空度:10-2Pa
接合温度:1100℃
室温から接合温度までの昇温時間:約2h
均熱時間:2h
接合温度から400℃までの平均冷却速度:3.2℃/分
印加面圧:0.5~5MPa。
【0054】
次に、第1拡散接合工程で接合させた接合体の接合の良否の確認を行った。接合の良否については、流路内に0.5MPaの窒素ガスを充満させた接合体を水中に入れ、仕切り板15に形成された孔から気泡が発生するかどうかによって判定した。
【0055】
次に、第1拡散接合工程で接合させた接合体、3枚の第3鋼板および1枚の第2鋼板をこの順で積層させた後、拡散接合した。以降では、本工程を第2拡散接合工程と称する。
【0056】
第2拡散接合工程の条件は、第1拡散接合の条件とほぼ同様である。ただし、印加面圧は、0.5~10MPaとした。実験条件および実験結果を図5に示す。図5に示すたわみ量については、レーザー変位計であるコムス株式会社製の高速3次元形状測定システムを用いて測定した。また、第2拡散接合工程における接合の良否については、流路内に0.5MPaの窒素ガスを充満させた接合体を水中に入れ、上板19に形成された上記孔から気泡が発生するかどうかによって判定した。
【0057】
図5に示すように、実施例1~7では、板厚が0.3~0.6mmの第2鋼板に対して0.5~3.5MPaの面圧を印加した。これにより、第1拡散接合工程によるたわみ量が30μm以下であった。その結果、第2拡散接合工程において3~9MPaの面圧を印加したときに、第2鋼板と第3鋼板とが良好に接合し、さらに座屈が起こらなかった。なお、第1鋼板、第2鋼板および第3鋼板を接合した接合体の板厚方向の長さが、(第1鋼板、第2鋼板および第3鋼板の板厚)×3×0.95よりも大きい場合に座屈が発生しなかったと判定し、(第1鋼板、第2鋼板および第3鋼板の板厚)×3×0.95以下の場合には座屈が発生したと判定した。
【0058】
これに対して、比較例1では、第2鋼板のたわみ量が20μmであったが、第2拡散接合工程における面圧が0.5MPaと小さかったため、第2鋼板と第3鋼板とが接合しなかった。また、比較例2では、第2鋼板の板厚が0.2mmであったため、第1拡散接合工程において第2鋼板のたわみ量が35μmと大きくなった。そのため、第2拡散接合工程において、第2鋼板と第3鋼板とが拡散接合しなかった。また、比較例3では、第2拡散接合工程において10MPaという大きい面圧を印加したため、第3鋼板が変形した。また、比較例4および比較例5では、第1拡散接合における面圧が大きかったため、第2鋼板のたわみ量がそれぞれ75μm、50μmと大きくなった。そのため、第2拡散接合工程において5MPaの面圧を印加したときに第2鋼板と第3鋼板とが接合しなかった。
【符号の説明】
【0059】
14 流路板(オーステナイト系ステンレス鋼板、第1鋼板)
15 仕切り板(オーステナイト系ステンレス鋼板、第2鋼板)
16 流路板(オーステナイト系ステンレス鋼板、第3鋼板)
10 熱交換器(接合体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6