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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】茶類抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23F 3/16 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
A23F3/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018026799
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019140930
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 健二
【審査官】安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-503479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茶葉を原料とする茶類抽出物であって、
茶類抽出物全量に対して、茶類抽出物中の乾燥固形量をA質量%とし、総脂質量をB質量%とし、茶類由来のリン脂質量をC質量%とし、エタノール量をD質量%とした場合に下記式(1)~(4):
A<50 ・・・(1)
0.03<C/B ・・・(2)
0.10<B/A ・・・(3)
D/A<1.0 ・・・(4)
を満たし、
25℃のイオン交換水100質量部に対して、乾燥固形量として0.3質量部の茶類抽出物をイオン交換水に添加して、60rpmで10秒間撹拌することで得られた懸濁液を、4℃で24時間静置させて得られた上澄み液の上層の10mlの波長600nmにおける吸光度が0.3以上である、茶類抽出物。
【請求項2】
さらに、下記式(5):
[A×B]/[(A-B)×C]<40 ・・・(5)
を満たす、請求項1に記載の茶類抽出物。
【請求項3】
茶葉を原料とする茶類抽出物であって、
茶類抽出物全量に対して、茶類抽出物中の乾燥固形量をA質量%とし、総脂質量をB質量%とし、茶類由来のリン脂質量をC質量%とし、エタノール量をD質量%とした場合に下記式(1)~(5):
A<50 ・・・(1)
0.03<C/B ・・・(2)
0.10<B/A ・・・(3)
D/A<1.0 ・・・(4)
[A×B]/[(A-B)×C]<40 ・・・(5)
を満たす、茶類抽出物。
【請求項4】
茶類抽出物がCamellia sinensis由来である請求項1~3のいずれか1項に記載の茶類抽出物。
【請求項5】
茶類抽出物が緑茶由来である請求項1~4のいずれか1項に記載の茶類抽出物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の茶類抽出物を含有することを特徴とする飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品などに濁りを付与することができる茶類抽出物に関する。
【背景技術】
【0002】
茶類は古くから世界中で広く愛されている嗜好品である。急須もしくはティーポットに茶葉を入れ、熱湯もしくはお湯を注いで茶葉の成分を溶出させ、茶こしなどのフィルターを経て湯呑みもしくはティーカップに浸出液を注いでから喫するのが古くからの楽しみ方であった。しかしながら近年の生活様式の変化により、急須またはティーポットで茶類を楽しむ機会は減少し、手軽に茶類を楽しむ手段として茶類の浸出液を缶もしくはペットボトルに充填した容器詰め茶類飲料が人気を得ている。しかしながら、容器詰め茶類飲料の製造では、茶葉の浸出液は長期保存中に沈殿が生じて外観を害さないようにろ過等で清澄化され、腐敗を防止するために高温で殺菌される。これらの処理によって茶類の浸出液に本来備わっていた香りやボディ感が失われ、また茶の浸出液が本来備えている濁りも失われる。これらの製造工程中に失われるものを補填するため、様々な改良の努力がなされてきた。例えば、特許文献1では茶類原料をタンナーゼとプロテアーゼの存在下で抽出することによる茶類エキスの製造方法について記載されている。特許文献2には茶類原料の抽出時または抽出後にグルタミナーゼを作用させることによる茶類抽出物の製造方法について記載されている。
しかしながら、特許文献1、2記載の技術によって増強されるのはアミノ酸類であり、アミノ酸由来の旨味を増強することはできるものの、浸出液が本来有している香りやボディ感を付与することはできない。
【0003】
また、特許文献3にも記載されているように、近年では容器詰め茶飲料でも急須で入れた風味や外観に近づけるため、製造工程において抹茶もしくは微粉砕した茶葉を加える方法が知られている。しかし、抹茶や微粉砕された茶葉は水または水溶液に添加された場合、うまく分散せずにいわゆるダマを形成するため、撹拌を長時間行ったり、ホモジナイザー処理を行ったりする必要があった。また、茶葉そのものを加えているため、殺菌工程で熱交換器のプレートに茶葉が付着して焦げ付きやすいという問題もあった。
有機溶媒を用いて茶葉から抽出物を得る製法については特許文献4に記載されており、緑茶をエタノールで抽出して濃縮、乾燥させて得られるインスタント緑茶の製法が記載されている。しかしながらインスタント緑茶であるが故、熱水に溶解して飲用することを目的としており、熱水には容易に溶解して分散するものの、飲料の製造現場において安全性、品質の維持の観点から現実的に運用可能な温度帯である常温以下においては、分散性が著しく悪いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-337181号公報
【文献】特開2006-042625号公報
【文献】特開2017-127242号公報
【文献】特開昭62-186748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、茶類の浸出液本来の香り、ボディ感、及び濁りを付与することができ、かつ、常温の水もしくは茶類浸出液に添加した際の分散性が良好である茶類抽出物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、乾燥固形量、総脂質量、リン脂質量、及びエタノール濃度が特定の割合になるように調整した茶類抽出物が、水又は茶類浸出液に添加した際に良好に分散し、茶類の浸出液本来の香り、ボディ感、及び濁りを付与することを見出した。
すなわち、本発明は以下の〔1〕~〔6〕のように構成される。
〔1〕茶葉を原料とする茶類抽出物であって、
茶類抽出物全量に対して、茶類抽出物中の乾燥固形量をA質量%とし、総脂質量をB質量%とし、リン脂質量をC質量%とし、エタノール量をD質量%とした場合に下記式(1)~(4):
A<50 ・・・(1)
0.03<C/B ・・・(2)
0.10<B/A ・・・(3)
D/A<1.0 ・・・(4)
を満たし、
25℃のイオン交換水100質量部に対して、乾燥固形量として0.3質量部の茶類抽出物をイオン交換水に添加して、60rpmで10秒間撹拌することで得られた懸濁液を、4℃で24時間静置させて得られた上澄み液の上層の10mlの波長600nmにおける吸光度が0.3以上である、茶類抽出物。
〔2〕さらに、下記式(5):
[A×B]/[(A-B)×C]<40 ・・・(5)
を満たす、前記〔1〕に記載の茶類抽出物。
【0007】
〔3〕茶葉を原料とする茶類抽出物であって、
茶類抽出物全量に対して、茶類抽出物中の乾燥固形量をA質量%とし、総脂質量をB質量%とし、リン脂質量をC質量%とし、エタノール量をD質量%とした場合に下記式(1)~(5):
A<50 ・・・(1)
0.03<C/B ・・・(2)
0.10<B/A ・・・(3)
D/A<1.0 ・・・(4)
[A×B]/[(A-B)×C]<40 ・・・(5)
を満たす、茶類抽出物。
〔4〕茶類抽出物がCamellia sinensis由来である前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の茶類抽出物。
〔5〕茶類抽出物が緑茶由来である前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の茶類抽出物。
〔6〕前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の茶類抽出物を含有することを特徴とする飲食品。
なお、本明細書中では、質量%を「w/w%」とも表記する。また、g及びkg表記は、質量の単位を意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の茶類抽出物は、茶類の浸出液の本来の香り、ボディ感、及び濁りを付与することができ、かつ、常温の水もしくは茶類浸出液に添加した際の分散性が良好である茶類抽出物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<茶類抽出物>
本発明に係る、茶葉を原料とする茶類抽出物は、茶類抽出物全量に対して、茶類抽出物中の乾燥固形量をA質量%とし、総脂質量をB質量%とし、リン脂質量をC質量%とし、エタノール量をD質量%とした場合に下記式(1)~(4):
A<50 ・・・(1)
0.03<C/B ・・・(2)
0.10<B/A ・・・(3)
D/A<1.0 ・・・(4)
を満たす。
そして、当該茶類抽出物においては、25℃のイオン交換水100質量部に対して、乾燥固形量として0.3質量部の茶類抽出物をイオン交換水に添加して、60rpmで10秒間撹拌することで得られた懸濁液を、4℃で24時間静置させて得られた上澄み液の上層の10mlの波長600nmにおける吸光度が0.3以上であることが好ましい。
また、本発明の茶類抽出物においては、[(総脂質量)/(乾燥固形量-総脂質量)]/[(リン脂質量)/(乾燥固形量)]<40、すなわち、B/(A-B)×A/C<40を満たし、これをより単純に数式化した、下記式(5)を満たすことが好ましい:
[A×B]/[(A-B)×C]<40 ・・・(5)
本発明に係る茶類抽出物は、従来の茶類呈味改善剤等と比べて、より自然に茶類の浸出液本来の香り、ボディ感、及び濁りを、飲食品に付与することができる食品添加剤として使用でき、さらに、常温の水もしくは茶類浸出液に添加した際の分散性が良好であるとの利点を有する。
【0010】
茶類抽出物中の乾燥固形量(A)が50質量%以上である場合、分散性が極めて悪くなり、茶類抽出物を常温の水または液体状の飲食品に懸濁させた場合に、濁りを付与できず、結果的に沈殿が多くなる恐れがある。噴霧乾燥、凍結乾燥等で乾固を行った場合は分散性がさらに悪くなる。50質量%以上もしくは乾固を行った抽出物について、熱水もしくは100℃に加熱した液体状の飲食品に添加することによって分散性の改善は見られるものの、飲食品の製造現場においては安全上と品質の安定性の観点から困難であり、常温で容易に分散することが好ましい。したがって、本発明における乾燥固形量は、50質量%未満であり、40質量%以下であることがより好ましい。また、乾燥固形量の下限は特に限定されないが、乾燥固形量が低い場合は抽出物中での乳化粒子の経時安定性が悪くなり、粒子が凝集することにより液体状の飲食品に懸濁させた場合に分散されず、沈殿が少し増加する傾向にある。このような観点から、7質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0011】
リン脂質量/総脂質量(C/B)については、0.03以下である場合、当該茶類抽出物を液体状の飲食品に懸濁させた場合に、乳化が困難であり、濁度の付与、ボディ感の増強効果が得られず、一方で沈殿が多くなる恐れがある。したがって、リン脂質量/総脂質量は、0.03超過であり、0.04以上であることが好ましく、0.06以上であることが特に好ましい。
総脂質量/乾燥固形量(B/A)については、0.10以下である場合、当該茶類抽出物を液体状の飲食品に懸濁させた場合に、濁度の付与及びボディ感の向上効果が得られない。したがって、総脂質量/乾燥固形量は、0.10超過であり、0.15以上であることが特に好ましい。
エタノール量/乾燥固形量(D/A)については、1.0以上であると、エタノール残量が多すぎて、乳化作用が阻害され、沈殿が多くなり、所望する濁度の付与及びボディ感の向上効果が得られない。したがって、エタノール量/乾燥固形量は、1.0未満であり、0.9以下であることが特に好ましい。
また、本発明の茶類抽出物においては、25℃のイオン交換水100質量部に対して、乾燥固形量として0.3質量部の茶類抽出物をイオン交換水に添加して、60rpmで10秒間撹拌することで得られた懸濁液を、4℃で24時間静置させて得られた上澄み液の波長600nmにおける吸光度が0.3以上であり、より好ましくは0.5以上である。ここで、本発明において、上記上澄み液は、上層の10mlをスポイトで採取したものである。
また、当該式(5)は、非極性成分である総脂質と、極性成分である(乾燥固形量-総脂質量)の比をリン脂質量と乾燥固形量の比で除した値であり、リン脂質による乳化の程度のバロメータとして解釈でき、当該式(5)の値が、40以上の茶類組成物は乳化が困難なほど総脂質の割合が多く、沈殿が多くなるか、もしくは濁りやコクの付与が期待できないほど総脂質の量が少ない恐れがある。
なお、以上の各成分の含有値及び組成物の物性値については、本実施例に開示された方法で測定することができる。
【0012】
また、本発明の茶類抽出物は、Camellia sinensis由来であることが好ましい。具体的に、抽出に用いる原料茶葉としては、ツバキ科の常緑樹であるチャ(学術名Camellia sinensis)から得られる葉から製造された煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜入り茶などの不発酵茶である緑茶、前記茶葉から半発酵又は発酵工程を経て製茶された烏龍茶、紅茶、黒茶などが挙げられる。原料茶葉はそのままの状態で用いてもよいが、抽出効率の観点から切断機や総合仕上げ機で切断されている方が好ましく、石臼、高速粉砕機、ボールミル、ジェットミル等で粉砕して得られる粉末茶を用いるのがより好ましい。ただし、茶葉を焙煎等して使用するほうじ茶の場合には、所望の効果が得られない場合があるため、原料としての茶葉を抽出前に150℃を超える温度で処理することは回避することが望ましく、新鮮な茶葉を使用することが特に好ましい。また、緑茶由来であることが好ましい。
【0013】
<茶類抽出物の製造方法>
本発明の茶類抽出物の製造方法は特に限定されないが、製造工程において乾固させないことが必要である。
以下に本発明の茶類抽出物を得るための製造方法の一形態について説明する。
親水性の有機溶媒を含む溶液、好ましくはエタノールを60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有する水溶液、又は、好ましくは、エタノールを20質量%以上含有する親水性の有機溶液を抽出用溶媒として使用する。本発明の茶類抽出物は、抽出工程により粗抽出物を得た後、この粗抽出物を適宜、濃縮工程及び加水工程を繰り返すことで、得られうる。例えば、原料としての茶葉1質量部に対して、溶媒を4~20質量部添加し、10~80℃、好ましくは25~60℃で、5~600分間、好ましくは10~240分間保持することで、粗抽出物を得る。エタノールを含む溶液で抽出されるため、総脂質量割合およびリン脂質量割合が高くなり、また上記温度及び上記抽出時間に設定することで、香気の損失を抑える利点がある。この粗抽出物をろ過し、粗抽出物中の味に影響を与えうる微量成分等に影響しないような、高温加熱濃縮以外の濃縮法、例えば減圧濃縮法などの方法により、ろ液を濃縮する。濃縮後、濃縮液に適宜加水し、同様の方法で濃縮する。この加水及び濃縮工程を繰り返すことで、固形分濃度を上げつつ、エタノール等の有機溶媒の濃度を下げることができる。ここで上述したように重要なのは、製造工程において最終の乾燥固形量を50%以上にしないことである。乾燥固形量を50%以上に上げないことで常温の水または液体の飲食品への分散性が良好になり、その結果として濁りを付与でき、良い官能評価が得られる。その後、適宜、公知の濃度調整工程、及び殺菌工程を経て、本発明の茶類抽出物を得ることができる。
【0014】
本発明の茶類抽出物を得るために用いる抽出溶媒は、エタノール水溶液が好ましい。エタノール水溶液に加えて、親水性の有機溶媒を使用することもできる。具体的にはアセトン、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノールなどが挙げられる。また、アルカリ金属塩を加えてもよい。具体的には炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸一水素カリウム、リン酸三カリウムなどが挙げられる。アルカリ金属塩を加える目的は、抽出効率を向上させる目的と抽出物のpHを調節する目的が挙げられる。前者の場合は抽出溶媒に添加する。後者の場合は抽出溶媒に添加しても良いし、抽出後の工程で適宜添加して構わない。ここで上述したように重要なのは、エタノール量/乾燥固形量を1.0未満にすることである。抽出に使用したエタノールを加水と濃縮工程によって留去し、エタノール量/乾燥固形量 1.0未満にすることで抽出物中の非極性成分と極性成分の乳化状態が安定になり、常温の水または液体の飲食品にボディ感、及び濁りを付与することができる。
【0015】
本製造方法で得られる茶類抽出物は、上記の特徴に加えて、茶葉由来のおいしさ(ボディ感、香りを含む)に貢献する微量成分は残留しているという利点を有するが、この利点は、官能評価によってのみ確認できる。なぜならば、味覚は複雑な要素が絶妙に絡み合って作られる感覚であり、味覚に影響を及ぼす成分でありながらも微量のために現状の分析装置では検知できない成分が多く存在するためである。したがって、本製造方法で得られる茶類組成物は、各成分の含有値だけでなく、加えて製造工程によっても特定される組成物を含む。
【0016】
<飲食品>
本発明の方法により得られた茶類抽出物は、例えば、飲料、特に茶類飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳飲料、酒類などの飲料類;アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類などの冷菓類;和・洋菓子、チューインガム類、チョコレート類、パン類、コーヒーなどの嗜好品類;各種のスナック類などに使用することができる。
本発明の茶類抽出物を飲料に使用する場合、例えば、次のような製造方法が挙げられる。茶葉を冷水又は温水または熱水で抽出し、浸出液を得る。温水または熱水で抽出した浸出液は品質の劣化を防止するため速やかに常温以下にまで冷却する。浸出液に本発明の茶類抽出物を0.001~10%(w/w)配合する。その後、重曹水などでpHを調整して容器に充填する。充填前又は後に殺菌処理を行って製品とする。充填する容器としては、従来公知の缶、ペットボトル、紙パックなどが挙げられる。また、必要に応じて充填する前の調整段階にビタミンC、香料などを添加してもよい。殺菌は、アルミやスチール缶であれば121℃で10分間などの条件でレトルト殺菌を、容器がペットボトルや紙パックの場合には135℃で30秒間などの条件で行うことが一般的である。
【実施例
【0017】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本発明が何ら限定されるものでない。
まず、各成分の含有値及び組成物の物性値を測定するための方法について説明する。
【0018】
<乾燥固形量の測定>
本発明において乾燥固形量は抽出物を乾燥させて水分を除去し、残った固形物の質量から算出した。測定方法は次の通りである。
金属製またはガラス製の秤量皿に海砂10gとガラス棒を入れ、105℃に設定した乾燥器で1時間加熱した後、デシケーター内で冷却した。次に、秤量皿と海砂、及びガラス棒の質量を測定した(「W1」(g)とする。以下、W2~W7も同義である)。次に抽出物を約3g加え、総質量を測定した(W2)。ガラス棒で混和してから105℃に設定した乾燥器で3時間乾燥させた。デシケーター内で冷却したのち、総質量を測定した(W3)。次の式によって得られる値を乾燥固形量とした。
乾燥固形量(w/w%)=(W3-W1)÷(W2-W1)×100
【0019】
<総脂質の定量>
総脂質の定量は日本食品衛生検査指針理化学編記載の脂質の定量方法に従った。測定方法は次の通りである。
あらかじめ予め乳棒及び珪藻土(スーパーライト特号、(株)東京今野商店製)約10gを入れた乳鉢に抽出物を10~60gを加え、入れた抽出物の量を秤量した(W4)。珪藻土と抽出物を、乳鉢を用いてよく混ぜ合わせ、105℃に設定した乾燥器で3時間乾燥させた。同じく円筒ろ紙も105℃で3時間乾燥させた。乾燥後、デシケーター内で冷却してから乾燥した抽出物及び珪藻土の混合物を、乳棒を用いて粉砕し、全量を円筒ろ紙に入れた。乳鉢及び乳棒に付着した抽出物は、ジエチルエーテルで湿らせた脱脂綿で拭き取ったのち、同じ円筒ろ紙に入れた。次に、円筒ろ紙をソックスレー抽出器にセットし、円筒ろ紙内の抽出物が浸るまでジエチルエーテルを加えた。ジエチルエーテルが揮発しないように密閉した状態で、室温で一晩静置した。あらかじめ受器の質量を測定し(W5)、ジエチルエーテルを100ml入れ、冷却管をセットし、65℃の湯浴で受器を加熱して6時間ソックスレー抽出を行った。得られた抽出液をエバポレーターで濃縮、乾固した後、105℃で1時間乾燥させた。デシケーターで冷却後、質量を測定した(W6)。次の式によって得られる値を総脂質量とした。
総脂質量(w/w%)=(W6-W5)÷W4×100
なお、この測定方法で得られる総脂質とは乾燥試料からジエチルエーテルで抽出され得る成分であり、単純脂質や複合脂質のほか、クロロフィルやカロテンなどの色素も含まれる。
得られた総脂質はスパチュラで回収し、リン脂質の定量に用いた。
【0020】
<リン脂質の定量>
リン脂質の定量は基準油脂分析試験法2003年版に従って測定した。試料は総脂質の測定で得られた総脂質を用いて測定し、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリンとして求めた。測定方法は次の通りである。
(1)標準溶液の調製及び検量線の作成
リン酸一カリウム0.4389gを1Lの水に溶解させ、0.10mg/mlのリンを含有する標準リン酸溶液とした。モリブデン酸アンモニウム25gを水300mlに溶解させ、硫酸75mlを水200mlで希釈した溶液を加えたものをモリブデン酸アンモニウム溶液とした。ヒドロキノン0.5gを水100mlに溶解させ、1滴の硫酸を添加したものをヒドロキノン溶液とした。亜硫酸ナトリウム20gを水100mlに溶解させたものを亜硫酸ナトリウム溶液とした。次に、5つの50mlメスフラスコに標準リン酸溶液を0、1、2、3、5mlずつ加えた。各々のメスフラスコにモリブデン酸アンモニウム溶液を5ml加え、5分間静置したのち、ヒドロキノン溶液2mlと亜硫酸ナトリウム溶液2mlを順次加えた。水で50mlにメスアップし、15分間静置してから波長600nmの吸光度を測定した。標準リン酸溶液無添加をブランクとした。得られた値で検量線を作成した。
(2)試料溶液の作製及び吸光度の測定
硝酸マグネシウム6水和物50gをエタノールで500mlにメスアップして硝酸マグネシウムエタノール溶液を作製した。るつぼに試料(総脂質)0.2gを加え、試料の量を秤量した(W7)。試料に硝酸マグネシウムエタノール溶液5mlを加えた。次にろ紙コーンを立てて点火した。マッフル炉に入れて、800℃で5分間加熱し、灰化した。冷却後、灰を水5mlで懸濁し、希塩酸10mlを加えて溶解させた。次に100mlメスフラスコにろ紙濾過をして加え、水で100mlにメスアップしたものを試料溶液とした。試料溶液20mlを50mlメスフラスコに正確に測り入れ、モリブデン酸アンモニウム溶液を5ml加え、5分間静置した。ヒドロキノン溶液2mlと亜硫酸ナトリウム溶液2mlを加え、水で50mlにメスアップし、15分間静置してから波長600nmの吸光度を測定した。
【0021】
(3)リン脂質量の算出
標準溶液の測定値から得られる検量線を使用してリン量を求め、次の式から総脂質中のリン脂質量を、ステアロイルオレオイルホスファチジルコリンとして次の式を用いて算出した。
総脂質中のリン脂質量(w/w%)=検量線より求めたリン量(mg)÷(20×W7(g))×25.4×10
なお、式中の20は試料溶液の採取量(ml)であり、25.4はステアロイルオレオイルホスファチジルコリンの分子量である788をリンの分子量31で割って得られる値であり、10はgの単位の変換と%に変換するための数値である。
抽出物中のリン脂質量(w/w%)は上記によって求められた総脂質中のリン脂質量(w/w%)に抽出物中の総脂質量(w/w%)を乗じて求めた。
【0022】
<エタノールの定量>
エタノールの定量は以下に示す装置を用いて測定した。
装置:6890N ガスクロマトグラフ(アジレント社製)
検出器:FID
カラム:Ultra ALLOY-1 (MS/HT) 15m×0.25mm×0.25μm(ジーエルサイエンス社製)
注入量:0.2μl
スプリット比:50対1
オーブン温度:50~300℃
昇温速度:6℃/分
測定試料の調製方法は次の通りである。
マイヤーフラスコに抽出物0.1~1gを採取し、秤量した。内部標準としてブタノールを0.1g採取し、秤量した。イオン交換水を99g加えて秤量した。よく混ぜ合わせたのち、ガスクロマトグラフに供した。別途、抽出物の代わりに濃度既知のエタノールを用いて検量線を作成した。ガスクロマトグラフの結果から得られたエタノールの面積値と内部標準の面積値、添加した内部標準の濃度からエタノールの濃度を求めた。
【0023】
<抽出物の分散性、濁度、沈殿量の測定>
抽出物を液体状の飲食品に添加した際の濁度が高いこと、及び外観を損ねる沈殿が少ないことは抽出物の品質を判断する上で重要な判断指標である。また、飲料の製造現場において安全性、品質の維持の観点から現実的に運用可能な温度帯である常温以下の温度で容易に分散できることも品質の重要な判断基準である。そのため、抽出物の添加量と撹拌条件、静置条件を一定にして濁度と沈殿量を測定することで抽出物の分散性、及び濁りの付与効果を評価した。測定方法は次の通りである。
200mlガラスビーカー(AGCテクノグラス社製)に抽出物を乾燥固形量として0.3gに相当する量を入れた。次に、当該ガラスビーカーにイオン交換水100gを静かに注ぎ、スパチュラを用いて60rpmの速度で10秒間撹拌した。その後、4℃で24時間静置後、沈殿の量を目視で評価した。沈殿の評価は次の5段階で行った。+++:非常に多い、または沈殿の粒子が大きい、++:多い、+:確認できる、±:底にうっすらと確認できる、-:確認できない。
次に、4℃で24時間静置後の上澄みの上層10mlをスポイトで静かにを採取し、分光光度計で600nmの吸光度を測定し、濁度とした。
【0024】
<官能評価>
得られた抽出物をコントロールとしての緑茶の浸出液に添加して評価した。評価方法は次の通りである。
20gの静岡産の三番茶を400gの65℃に加温したイオン交換水に加え、時折撹拌しながら3分間保持した。200メッシュのフィルターで濾過した後、イオン交換水を加えて2000gに調整した。その後、流水で25℃に冷却したものをコントロールとしての緑茶の浸出液とした。200mlガラスビーカーに当該浸出液を100g入れ、次によく撹拌して均質にした抽出物を乾燥固形量として0.03gに相当する量を添加した。スパチュラを用いて60rpmの速度で10秒間撹拌した後、1時間静置したものを評価した。評価はよく訓練されたパネラー5名で行い、採点結果を平均した。採点は抽出物を添加していない浸出液を対照としてボディ感、香りの強さについて評価した。ボディ感の評価基準は次の通りである。5:非常に強くなっている、4:強くなっている、3:変わらない、2:弱くなっている、1:非常に弱くなっている。
香りの強さについては抽出物の原料に用いている原料茶葉の好ましい香りが付与されているかについて評価を行った。評価基準は次の通りである。5:好ましい香りが強く感じられる、4:好ましい香りが感じられる、3:変わらない、2:好ましくない香りが感じられる、1:好ましくない香りが強く感じられる。
【0025】
<総合評価>
沈殿量および官能評価の結果を合わせた評価を総合評価とした。まず、沈殿量および官能評価の結果を客観的に評価し、◎:非常に良い、○:良い、△:可、×:不可とした。沈殿量については、-または±を◎、+を○、++及び+++を×とした。官能評価については3.6以上を◎、3.1から3.5を○とし、3.0以下は風味に与える正の添加効果が無いことから×とした。得られた沈殿量および官能評価の評価について、低い方を総合評価とした。
【0026】
<実施例1及び2、比較例1>
異なる原料茶葉から抽出物を調製した。
[実施例1]
抽出溶媒として80w/w%エタノール-0.05w/w%重曹の水溶液2000gを調製した。次に、抽出溶媒に抽出原料として一番茶のかぶせ茶の粉末茶(静岡県産)200gを加え、加温した。40℃に達温後30分間撹拌抽出した後、流水で室温まで冷却した。ろ紙(No.2、ADVANTEC社製)を用いて吸引ろ過を行い、得られたろ液を減圧条件下で200gまで濃縮した。次にイオン交換水200gとアスコルビン酸ナトリウム1.2gを加えた。さらに減圧条件下で190gまで濃縮した後、イオン交換水で200gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
【0027】
[実施例2]
抽出原料に秋冬番茶(静岡県産)の粉末茶を使用する以外は実施例1と同様に処理して秋冬番茶抽出物を得た。
[比較例1]
抽出原料にほうじ茶(静岡県産)の粉末茶を使用する以外は実施例1と同様に処理してほうじ茶抽出物を得た。
表1-1に実施例1、2及び比較例1の結果を記す。また、本実施例において5名のパネラー間の評価にバラつきがないことを裏付けるために、実施例1及び比較例1に対する各パネラーの評点を表1-2に示す。
【0028】
【表1-1】
【0029】
【表1-2】

表1-1の結果から、原料である茶類が、焙煎等の工程を受けた場合(ほうじ茶など)には、濁度が低くなり、沈殿が多くなり、官能評価も低くなることが分かった。これは、焙煎工程により脂質、特にリン脂質が減少することが一因としてあげられ、これにより乳化作用が減少し、沈殿が増加したと考えられる。
また、沈殿が多く、分散性が低いと考えられる比較例1においては、本実施例1及び2とは、当該式(5)の値が有意に異なり、式(5)の値が分散性のバロメータとなることも示された。
【0030】
<実施例3~6、比較例2~4>
異なる抽出溶媒を用いて抽出物を調製した。
[実施例3]
抽出溶媒として92.4w/w%エタノール2000gを準備した。次に、抽出溶媒に一番茶のかぶせ茶(静岡県産)の粉末茶200gを加え、加温した。40℃に達温後30分間、撹拌抽出した後、流水で室温まで冷却した。ろ紙(No.2、ADVANTEC社製)を用いて吸引ろ過を行い、得られたろ液を減圧条件下で200gまで濃縮した。次にイオン交換水200g、アスコルビン酸ナトリウム1.2g、及び重曹1gを加えた。さらに減圧条件下で190gまで濃縮した後、イオン交換水で200gに調整した。65℃で30分間で殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[実施例4]
抽出溶媒として60w/w%エタノール-0.05w/w%重曹の水溶液2000gを使用する以外は実施例1と同様に処理してかぶせ茶抽出物を得た。
【0031】
[比較例2]
抽出溶媒として40w/w%エタノール-0.05w/w%重曹の水溶液2000gを使用する以外は実施例1と同様に処理してかぶせ茶抽出物を得た。
[比較例3]
抽出溶媒として0.05w/w%重曹水溶液2000gを調製した。次に、抽出溶媒に一番茶のかぶせ茶(静岡県産)の粉末茶200gを加え、加温した。40℃に達温後30分間、撹拌抽出した後、流水で室温まで冷却した。ろ過助剤として珪藻土(スーパーライト特号、(株)東京今野商店製)を400g加え、ろ紙(No.2、ADVANTEC社製)を用いて吸引ろ過を行い、得られたろ液を減圧条件下で190gまで濃縮した。次にアスコルビン酸ナトリウム1.2gを加え、イオン交換水で200gに調整した。65℃で30分間で殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[比較例4]
抽出溶媒として100%アセトン2000gを使用する以外は実施例3と同様に処理してかぶせ茶抽出物を得た。
【0032】
[実施例5]
抽出溶媒として75w/w%アセトン-23.1w/w%エタノール水溶液2000gを使用する以外は実施例3と同様に処理してかぶせ茶抽出物を得た。
[実施例6]
抽出溶媒として50w/w%アセトン-46.2w/w%エタノール水溶液2000gを使用する以外は実施例3と同様に処理してかぶせ茶抽出物を得た。
【0033】
表2に実施例3~6、比較例2~4に結果を記す。なお、比較例4で得られた抽出物はタール状の粘性の高い液体と流動性の高い液体の2層に完全に分離したため、濁度、沈殿、及び官能評価の試験を行うことは不可能であった。
【0034】
【表2】

表2の結果から、40質量%以下の含水エタノール、100%水、又は、100質量%のアセトンを溶媒として用いた場合には、リン脂質量及び総脂質量及び乾燥固形量の全ての抽出量が低くなり、官能評価等の総合評価も低くなることが分かった。一方で、抽出溶媒として60質量%以上の含水エタノール、又は、アセトンと混ぜてエタノール単独の時よりも極性を下げた場合、23.1質量%以上のエタノールを含有するアセトン溶液を抽出溶媒として使用した場合にはボディ感の増強が感じられ高い総合評価が得られた。
このことは、総脂質及びリン脂質が適度のバランスで抽出されることにより乳化状態となり、添加した際に容易に分散し、濁度が上昇する。乳化された総脂質は呈味に置いてボディ感を増強させる効果があると考えられ、濁度の付与能力とボディ感の増強能力は相関があると考えられる。また、茶葉に含まれる香気成分は多くが非極性成分である。茶葉の総脂質を高く含有する抽出物には香気成分を多く含んでいると考えられ、香りの付与能力も高いと考えられる。アセトン100%のように溶媒濃度が高すぎると茶葉内部に溶媒が浸透できずに抽出効率が低下し、総脂質/乾燥固形量の割合が極端に悪くなり乳化が成立しないと考えられる。
【0035】
<実施例7~14、比較例5~8>
実施例1で得られたかぶせ茶抽出物と異なる乾燥固形量、又は異なるエタノール濃度に調整した抽出物を作製した。
抽出溶媒として80w/w%エタノール-0.05w/w%重曹の水溶液20kgを調製した。次に、抽出溶媒に一番茶のかぶせ茶(静岡県産)の粉末茶1000gを加え、加温した。40℃に達温後30分間、撹拌抽出した後、流水で室温まで冷却した。ろ紙(No.2、ADVANTEC社製)を用いて吸引ろ過を行い、得られたろ液を減圧条件下で2000gまで濃縮した。得られた抽出物を抽出物Aとした。次に抽出物A1000gに対し、イオン交換水1000gとアスコルビン酸ナトリウム6gを加え、さらに減圧条件下で1000gまで濃縮した抽出物を抽出物Bとした。
[実施例7]
抽出物B100gにイオン交換水を加え、700gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[実施例8]
抽出物B100gにイオン交換水を加え、350gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[実施例9]
抽出物B100gにイオン交換水を加え、238gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[実施例10]
抽出物B100gを減圧条件下で63gにまで濃縮した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
【0036】
[比較例5]
抽出物B100gを減圧条件下で50gにまで濃縮した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[比較例6]
抽出物B100gを減圧条件下で34gにまで濃縮した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
【0037】
[実施例11]
抽出物A20gと抽出物B80gを混合した後、65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[実施例12]
抽出物A60gと抽出物B40gを混合した後、65℃で30分間で殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[比較例7]
抽出物A100gを65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
【0038】
[実施例13]
抽出物A30gと抽出物B70gを混合し、イオン交換水を加えて250gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
【0039】
[実施例14]
抽出物A60gと抽出物B40gを混合し、イオン交換水を加えて250gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
[比較例8]
抽出物A100gにイオン交換水を加えて250gに調整した。65℃で30分間殺菌し、かぶせ茶抽出物を得た。
表3、表4に結果を記す。
なお、表3における実施例及び比較例で得られたかぶせ茶抽出物中のリン脂質/総脂質、総脂質/乾燥固形量は実施例1と同一とみなせることから、これらの値は計算値とした。同じく、表4における実施例11、実施例12及び比較例7の乾燥固形量、総脂質量、及びリン脂質量は実施例1と同一とみなせることから、これらの値は推測値とした。同じく、実施例14、及び比較例8の乾燥固形量、総脂質量、リン脂質量は実施例15と同一になるとみなせることから、これらの値は推測値とした。
【0040】
【表3】
表3の結果から、乾燥固形量が50.0質量%以上の茶類抽出物は25℃の水に溶解させる本実験条件において、分散性が悪いため濁度が低く、沈殿量が多くなる。これらの抽出物を浸出液に添加しても分散性が悪い為ボディ感の改善効果が見られなかった。また、香りの強度においても50.0質量%以上の茶類抽出物は濃縮中の香気ロスにより浸出液に添加した際の香りの付与効果は得られなかったが、本発明に係る茶類抽出物は、乾固するまで濃縮させなかったことにより、有効香気成分の揮発が抑えられ、その結果として良い官能評価が得られたと考えらえる。
【0041】
【表4】

表4の結果から、残留エタノールの含量が高く、エタノール量/乾燥固形量が1.0を超えた場合、分散性が低くなり、沈殿が生じ、その結果、官能評価も悪くなった。これは、残留エタノールが乳化作用を阻害したためである。
【0042】
表1-1~表4の結果をまとめると、以下の事項が明らかになった。
総脂質量/乾燥固形量が0.10より高いことが浸出液に添加した際のボディ感と香りを評価した官能評価において好ましい結果を得るための必要条件であることがわかる。総脂質量/乾燥固形量が0.10以下の場合、沈殿は少ない傾向になるが、官能評価の結果が抽出物を添加していない場合と差がみられない傾向にある。
リン脂質量/総脂質量が0.03より大きいことは沈殿量が少ないこと、及び官能評価の結果が高いことの必要条件である。0.03以下である小さい場合、沈殿量が非常に多いかもしくは確認できなくなり、官能評価の結果も悪くなる傾向にある。
乾燥固形量の値が50質量%より低いことは沈殿が少ないために好ましい。
エタノール/乾燥固形の濃度が1より低いことは沈殿が少ないために好ましい。
濁度が0.3より高いことは官能評価が高い結果であるために好ましい。濁度が0.3より低い場合、官能評価の結果も悪くなる傾向にある。