IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 一般財団法人沖縄美ら島財団の特許一覧

<>
  • 特許-水耕栽培装置 図1
  • 特許-水耕栽培装置 図2
  • 特許-水耕栽培装置 図3
  • 特許-水耕栽培装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】水耕栽培装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 31/00 20180101AFI20220523BHJP
【FI】
A01G31/00 601B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018039265
(22)【出願日】2018-03-06
(65)【公開番号】P2019149993
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502028441
【氏名又は名称】一般財団法人沖縄美ら島財団
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】戸田 実
(72)【発明者】
【氏名】峯本 幸哉
(72)【発明者】
【氏名】花城 良廣
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-154473(JP,A)
【文献】特開2007-089489(JP,A)
【文献】特開2005-040056(JP,A)
【文献】特開2007-061002(JP,A)
【文献】特開2002-034364(JP,A)
【文献】特開平05-000032(JP,A)
【文献】特開平09-313057(JP,A)
【文献】特開昭63-222629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の注水口から溢水するように栽培槽内に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽。
【請求項2】
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が圧送源から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなっていることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽。
【請求項3】
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が圧送源から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなっていることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽。
【請求項4】
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
樋の注水口を覆う噴出防止シートと、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が圧送源から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなっていることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽。
【請求項5】
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
樋の注水口を覆う噴出防止シートと、
排水を貯水する貯水槽と、
排水を濾過する濾過槽と、
養液を冷却する冷却装置と、
養液を循環させるポンプと、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が圧送源から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなっていることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培用の栽培槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水耕栽培の栽培槽内を流れる養液の温度は、周囲の環境に影響を受け易いため、夏季は栽培槽内の養液の温度が高温になり、逆に冬季は低温になるなど、一年を通して養液の温度を一定に保つことは難しい。
例えば、養液の温度が低温になると、植物の根の活動が低下し、反対に高温になると、養液の溶存酸素が減少し、植物の生育不良の原因になったり、根が褐変するなどして、植物が死滅してしまうこともある。
そのため、水耕栽培においては、栽培槽内の養液の温度を、栽培植物にとっての適温に保つことが求められる。
【0003】
例えば、特許文献1には、培養液を溜める液溜め部を有し、内壁と外壁を備える複数の中空部が形成された多層壁構造体と、植物を保持する栽培棚を備えた水耕栽培用の栽培槽とからなる中空栽培槽が開示されている。
この中空栽培槽によれば、長さ方向に一定の間隔を開けて複数個穿孔された円筒状の供給孔が、内壁の長さ方向に沿って複数配置され、この供給孔から培養液が供給されることで、培養液の水質を常に一定に保つことができ、さらに必要最小限のエネルギーで培養液の温度を一定に保つことができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-154473公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の明細書段落番号0022には、供給孔は、内壁の長さ方向に沿って複数穿孔された孔と合致するように配置される旨が記載されており、同文献の図2には、内壁の長さ方向に沿って複数穿孔された孔が等間隔で穿孔されていることが示されている。
同文献の中空栽培槽は、培養液を供給するための培養液供給部が、栽培槽本体の長さ方向に沿って設けられていることから、供給源(圧送源)はその端部であると考えられるが、そうであるとすれば、栽培槽の大型化等により供給源からの距離が長くなればなるほど、末端側供給孔の水圧が低くなり、培養液の供給量が少なくなる。
また、同文献の中空栽培槽は、培養液の供給孔は多点であるが、排水孔(オーバーフロー)は単点(個数についての記述はない)であり、培養液中に伸びた根の抵抗等によって培養液の換水が悪くなり、死水が発生する。
特に、排水孔近くは、排水が集中し、流量が多くなることにから、根等が詰まりやすくなり、栽培槽から培養液があふれ出る危険性がある。
これら複合的な要因により、栽培槽内の培養液は水質的にばらつきが発生することになる。
この状態で栽培をすれば、培養液は、換水の悪さから、外気の影響を受けやすくなり、水温が一定に保たれず、水質的にも悪化することは明白である。
【0006】
そこで、本願発明は、上記課題に鑑み、栽培槽の大きさに関わらず、少ない水量でも、栽培槽のどの位置でも、養液の温度を一定に保ち、水質を良好な状態に保つことができる水耕栽培用の栽培槽を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の注水口から溢水するように栽培槽内に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽である。
【0008】
請求項2に係る発明は、
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
樋の開孔部が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が供給源(圧送源)から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなっていることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽である。
【0009】
請求項3に係る発明は、
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
からなり、
樋の注水口部が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が供給源(圧送源)から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽である。
【0010】
請求項4に係る発明は、
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
樋の注水口を覆う噴出防止シートと、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が供給源(圧送源)から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽である。
【0011】
請求項5に係る発明は、
栽培槽の長手方向に沿って配設され、複数の注水口が側面に設けられた樋と、
樋に沿って樋の中に配設され、複数の開孔部が底面に設けられた注水管と、
樋に並行して、等間隔に複数設けられた、栽培槽内を流れる養液を排水する排水口と、
樋の注水口を覆う噴出防止シートと、
排水を貯水する貯水槽と、
排水を濾過する濾過槽と、
養液を冷却する冷却装置と、
養液を循環させるポンプと、
からなり、
樋の注水口が等間隔に設けられているのに対し、
注水管の開孔部が供給源(圧送源)から遠くなるにつれ、開孔部同士の間隔が小さくなることで、
注水管の開孔部から排出された養液が、樋の中に貯められたあと、樋の全ての注水口から同じ量だけ溢水するようにして栽培槽内に均一に注水される
ことを特徴とする水耕栽培の栽培槽である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、次の効果を奏する。
浅い栽培槽全面の養液を、均―に高循環することで、水温や溶存酸素等を良好な状態にでき、高気温下でも、安定した高温障害対策が可能になる。
それにもかかわらず、総水量は少なく、装置の軽量化が可能であるため、特殊な機器を使用する必要がなく、装置の小型、小電力器化が可能である。
仮に停電等により養液の循環が停止しても、栽培槽の養液喪失がないため安全性が高く、また循環停止から復旧しても、一度に偏って注水されるところがなく、全ての注水口から養液が偏りなく均―に注水される。
浅い養液であるため、根域のみをコンパクトにでき、ピンポイントでの加温・冷却が可能であり、栽培槽の密閉、断熱や遮光性も高めることができる。
そのため、光による緑藻等の発生が少なく、物理濾過槽でも濾過できるため清浄性が保たれる。
また、養液の酸素補給のための曝気槽を備えることができる。
加温も容易にでき、冬季に付加価値のある水耕栽培を行うことができ、また周年活用も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】栽培槽の構成の概略を示した平面図
図2】栽培槽の構成の概略を断面で示した断面図
図3】注水管の開孔部を設ける位置を矢印で示した側面図
図4】樋の注水口の位置を示した側面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、栽培槽の構成の概略を示した平面図である。
栽培槽全体に、均一且つ多点的な注水を行うようにするため、注水管1を配設した樋2を、栽培槽の中心に、長手方向に配設している。
排水口3は、栽培槽の端に、等間隔で複数を配設している。
排水口3を、注水口から等距離に複数設けることで、多点から注水された養液が均―に排水されるようにしている。
これにより、総循環量(総注水量)は多くなるが、排水口3の1か所当たりの排水量は少ないため、目詰まりが起きにくい。
また、養液の流速を早くし、注水口から排水口3までの距離を短くすることで、養液は外気の影響を受けにくく、養液の水温変化を小さくすることができる。
さらに、広く水平な栽培槽に均―に養液を高換水することができ、栽培槽内に栽培植物の根が繁茂しても、根に養液の循環を妨げられにくく、良好な育成環境を実現できる。
【0016】
養液の流速は、概ね30cm/分である。
排水口3の高さは全て同じにする。
これにより、栽培槽内の全ての排水口3付近の養液の水深を同じにできる。
また、排水口3の高さを変えれば、栽培槽内の水深を変えることができる。
そのため、排水口3の高さによって水深調節が可能になる。
なお、図1には、樋2と注水管1、排水口3のみ示し、栽培用ポットは示していない。
図中の矢印は、栽培槽内を養液が流れる方向をイメージとして示したものである。
【0017】
図2は、栽培槽の構成の概略を断面で示した断面図である。
なお、図中の矢印は、養液が流れる方向をイメージとして示したものである。
注水管1は、樋2に沿って、樋2の中に配設されている。
注水管1の開孔部4は、注水管1の底面に設けられている。
そのため、注水管1の底面(開孔部4)から流れ出た養液は、波立ちを起こさずに樋2の中に水平に貯められることになる。
そして、樋2の両側面には注水口5が設けられており、樋2に貯められた養液は、注水口5から溢水するようにして、栽培槽内に注水される。
図2の実施例では、養液の水深が1cm程度になるように排水口3の高さを揃え、養液を栽培槽内に注水し、根域冷却や物理濾過を行って循環させている。
樋2の注水口5には、噴出防止シート6が被せられている。
この噴出防止シート6は、注水口5から養液が勢いよく噴出するように注水されてしまうと、注水口5近くの栽培ポットと排水口3近くの栽培ポットとの間で養液の温度変化が生じてしまうおそれがあるため、これを避けるためであり、必ずしも必要ではない。
【0018】
図3は、注水管の開孔部を設ける位置を矢印で示した側面図である。
注水管1の開孔部4は、養液の供給源(圧送源)から遠くなるにつれ、指数関数的に短くなる間隔で、注水管1の底面に設けられている。
注水管1の開孔部4が、指数関数的に短くなる間隔で設けられているのは、養液の供給源(圧送源)付近の水圧が高いのに対して、供給源から遠くなるにつれて水圧が低くなることを考慮したためであり、全ての開孔部4から同じ水圧の養液を、同じ量だけ排出させるようにしたものである。
【0019】
図4は、樋の注水口の位置を示した側面図である。
樋2の注水口5は、両側面に等間隔に設けられている。
樋2の注水口5が等間隔に設けられているのは、養液が樋2の全ての場所で同じ量だけ貯まっているためであり、全ての注水口5からの注水量や注水場所を等しくすることで、栽培槽内に供給される養液の量を一定にするためである。
養液は、樋2の注水口5から溢水するようにして、栽培槽内に注水される。
【0020】
このように本実施例に係る水耕栽培によれば、栽培槽の全面に養液を均―に注水できることから、高気温下でも水温が安定し、高温障害が起きにくく、養液の溶存酸素等を良好な状態にできる。
そして、総水量は少なく、装置の軽量化が可能であるため、特殊な機器を使用する必要がなく、装置の小型、小電力器化が可能である。
仮に停電等により養液の循環が停止しても、栽培槽の養液喪失がないため、安全性が高く、また循環停止から復旧しても、自動的に全ての注水口5から養液が偏りなく均―に注水され、一度に偏って注水されるところがない。
さらに、根域のみのピンポイントでの冷却が可能であり、栽培槽の密閉性や光を原因とする緑藻等の汚れの発生が少なく、物理濾過槽でも濾過できるため、清浄性が保たれる。
加温も容易にできるため、冬季に付加価値のある水耕栽培を行うことも可能で、周年で活用することも可能である。
【符号の説明】
【0021】
1 注水管
2 樋
3 排水口
4 注水管の開孔部
5 注水口
6 噴出防止シート
図1
図2
図3
図4