(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】架空線下の吊り下げ物回収用非常制動装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20220523BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20220523BHJP
F16D 65/16 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
H02G1/02
F16D63/00 L
F16D65/16
(21)【出願番号】P 2018052064
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 良太
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-224724(JP,A)
【文献】特開2013-211992(JP,A)
【文献】特開平09-252514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
F16D 63/00
F16D 65/16
F16D 121/16
F16D 125/60
F16D 125/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空線下に吊り車によって移動自在に吊り下げられた吊り下げ物を当該架空線に沿って一方向へ牽引して回収する際に、当該吊り下げ物に所定の制動抵抗を付与するために前記架空線上に装着される主制動装置に付設され、当該主制動装置が制動不能となったときに制動機能を代替する非常制動装置であって、
それぞれ前記架空線を挟持して制動する挟持部を具備し、両挟持部間で前記架空線を挟持して制動抵抗を生じる動作位置と、当該架空線を解放する非動作位置との間を移動可能に、それぞれ前記主制動装置のフレームに支持される第1及び第2の2つの制動レバーと、
前記第1及び第2の制動レバーを動作位置に付勢し、前記2つの挟持部間の架空線挟持力を生じる制動ばねと、
前方の引き出し位置と後方の元位置との間を前後方向に移動自在に前記フレームに支持され、引き出し位置において前記制動ばねを圧縮して前記第1及び第2の2つの制動レバーを非動作位置に置き、元位置において前記制動ばねを解放して前記第1及び第2の2つの制動レバーを動作位置に置くように前記制動ばねに連繋する連結アームと、
前端側が前記吊り下げ物に連結され、後端側において前記連結アームに接続され、前記主制動装置の制動時の張力で前記連結アームを引き出し位置に引き出し、前記主制動装置の非制動時に緩んで前記連結アームの元位置復帰を許容する制動ロープとを具備することを特徴とする非常制動装置。
【請求項2】
前記連結アームは、後端側において前記主制動装置のフレームに水平に前後移動自在に支持される付勢軸に枢支され、前端側に前記ロープの後端が接続され、
前記第1の制動レバーは、後端側において前記付勢軸より後方で前記フレームに支持された枢軸に枢支され、前端部に前記架空線を挟持して制動する前記挟持部として
の制動ローラを具備すると共に、中間部に前記付勢軸を貫通させる前方上がりに傾斜した長孔を具備し、
前記第2の制動レバーは、後端側において前記枢軸に枢支され、前端部に前記第1の制動レバーの制動ローラとの間で前記架空線を挟持できるようにその下方に対向する制動ローラを具備すると共に、中間部に前記付勢軸を貫通させる前方下がりに傾斜した長孔を具備し、
後端側において前記枢軸に枢支され、前方へ延出して前端部に前記第1の制動レバーの制動ローラとの間で前記架空線を挟持できるようにその下方で対向する下部制動ローラを具備すると共に、中間部に前記付勢軸を貫通させる前方下がりに傾斜した長孔を具備する第2の制動レバ
ーを具備し、
前記第1の制動レバーの長孔と前記第1の制動レバーの長孔とが交差するように対面し、当該交差部に前記付勢軸が貫通するように配置され、
前記
制動ロープが緊張状態にあって前記制動ばねを圧縮しているとき前記2つの制動ローラが前記架空線を解放し、前記
制動ロープが弛緩すると前記2つの制動ローラ間で前記架空線を弾圧挟持して主制動装置の制動機能を代替することを特徴とする
請求項1に記載の非常制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電線張替工事の際に、隣接鉄塔間に張り渡されたガイドロープや電線の下に吊り下げられている撤去済み電線のような吊り下げ物を一方向へ牽引して回収する際に、当該吊り下げ物が暴走することがないように制動する主たる制動装置に付設される非常用の制動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電線に互いにローラで連結されて吊り下げられた多数の吊車連を回収する際に、各吊車が電線のたるみに従つて勢いよく走り出し、これにより相互の衝突、脱線現象が生じることを防止するために、吊車連の最後部に連結して電線に装着される制動装置として特許文献1に記載されたものが知られている。この制動装置は、電線を上下に挟むローラをばねにより付勢して、電線を適当な圧力をもつて挟持するようにしたものである。ローラとフレームとの間には、摩擦制動部材が介設され、押えナツトの締め付け量によりローラの回転に対する摩擦制動力を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の制動装置は、何らかの原因で制動機能を失ったときに、吊り下げ物の暴走を止めることができないという課題がある。
したがって、本発明は、主たる制動装置が正常な制動機能を果たしているときは動作せず、何らかの原因で主たる制動装置が制動機能を失ったときに、これに代替して吊り下げ物の走行を制動する非常用の制動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、添付図面の符号を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明の非常制動装置1は、ガイドロープや電線のような架空線W下に移動自在に吊り下げられた吊り下げ物を当該架空線Wに沿って一方向へ牽引して回収する際に、当該吊り下げ物に所定の制動抵抗を付与するために架空線W上に装着される主制動装置1に付設され、当該主制動装置1が制動不能となったときに制動機能を代替する非常制動装置である。非常制動装置23は、それぞれ制動ローラ29,30のような挟持部を有する第1及び第2の2つの制動レバー24,25を具備する。2つの挟持部29,30は、架空線Wに接して、両者間で架空線Wを挟持することによって制動抵抗を生じる。2つの制動レバー24,25は、主制動装置1のフレーム4に支持され、2つの挟持部29,30間で架空線Wを挟持する動作位置と、架空線Wを解放する非動作位置との間を移動可能である。2つの制動レバー24,25は、制動ばね27により動作位置に付勢され、これにより2つの挟持部29,30間の架空線挟持力を生じる。制動ばね27に連繋する連結アーム11が、前方の引き出し位置と後方の元位置との間を前後方向に移動自在に主制動装置1のフレーム4に支持される。連結アーム11は、引き出し位置において制動ばね27を圧縮して2つの制動レバー24,25を非動作位置に置き、元位置において制動ばね27を解放して2つの制動レバー24,25を動作位置に置く。制動ロープRの前端側が吊り下げ物の末端に連結され、後端側が連結アーム11に接続される。制動ロープRは、主制動装置1の制動時に生じる張力で連結アーム11を引き出し位置に引き出し、それにより、2つの制動レバー24,25を非動作位置に置き、主制動装置1の非制動時に生じる緩みで連結アーム11を元位置復帰させることにより、2つの制動レバー24,25を動作位置に置き、それによって主制動装置1の代替制動力を生じさせる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の非常制動装置は、主たる制動装置が正常な制動機能を果たしているときは動作せず、何らかの原因で主たる制動装置が制動機能を失ったときに、これに代替して吊り下げ物の走行を制動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係る非常制動装置を付設した制動装置の正面図である。
【
図8】
図1の制動装置における非常制動装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1ないし
図5に示すように、主制動装置1は、例えば隣接鉄塔間に張り渡されたガイドロープや送電線のような架空線W(
図7)下に移動自在に吊り下げられた図示しない吊り下げ物(例えば撤去された送電線)を当該架空線Wに沿って一方向へ牽引して回収する際に、当該吊り下げ物に所定の制動抵抗を付与するために、架空線W上に装着されるものである。
【0009】
主制動装置1は、主フレーム2と、主フレーム2に軸3aで支持される4つの固定ローラ3と、主フレーム2に昇降自在に支持される昇降フレーム4と、昇降フレーム4に軸5aで支持される2つの昇降ローラ5と、主フレーム2に支持される油圧装置6とを具備する。
【0010】
図7に示すように、固定ローラ3は、架空線Wの上に載せられ転動する。昇降ローラ5は、両側に隣接する2つの固定ローラ3間に位置し、油圧装置6の油圧で押し上げられ、架空線Wの下面に圧接されて転動する。固定ローラ3と昇降ローラ5とで架空線Wを挟み込むことで、ローラ3,5の回転に抵抗を与え、主制動装置1の制動力を生み出す。この制動力は、ローラ3,5による架空線Wの挟持圧力、すなわち油圧の大きさに比例する。
【0011】
主フレーム2は、ローラ3,5の回転軸方向に互いに平行に対向する第1及び第2の支持板部2a,2bと、第2の支持板部2bの上部から第1の支持板部2a側へ断面概略逆U字状に屈曲して形成されたローラ支持部2cとを具備する。支持板部2a,2bの下部間に油圧装置6のシリンダブロック7が固着され、ローラ支持部2cに固定ローラ3が軸支される。ローラ支持部2cの下縁と支持板部2aの上縁との間には、架空線Wをローラ3,5間へ取り込むための間隙Gが設けられる。この隙間Gは、支持板部2aに枢支された開閉板8と、これとローラ支持部2cとの間を係脱するファスナ9とにより開閉自在である。
【0012】
昇降フレーム4は、ローラ支持部2cと対向して上方へ開放した断面概略U字状の溝形の鋼材からなり(
図3)、これをローラ5の軸方向へ貫通して両端において支持板部2a,2bの上下方向の長孔2d(
図1)に支承された軸10により、主フレーム2に対して昇降自在である。
【0013】
昇降フレーム4は、連結アーム11を介して図示しない吊り下げ物につながる制動ロープRの一端に接続される。吊り下げ物は、ウィンチ等により
図1において左方(前方)へ牽引される。制動ロープRの他端は吊り下げ物の後端に接続される。
【0014】
図6,
図7に示すように、昇降フレーム4を昇降させる油圧装置6は、シリンダブロック7と、その内部に形成される上下方向のシリンダ室12と、これに摺動自在に嵌合されるラム13とを具備する。ラム13は、シリンダブロック7から上方へ突出し、昇降フレーム4内において軸10が貫通するばね受けコマ14に、圧縮ばね15を介して連結される。16は戻しばねであり、ラム13をシリンダ室12の下端側に付勢する。シリンダ室12内の油圧は、油圧計17により外部に表示される。
【0015】
油圧装置6に所望量の作動油を圧入するするための作動油圧送機構18がシリンダブロック7に設けられる。作動油圧送機構18は、シリンダブロック7内に設けられる横方向の貯留シリンダ室19と、これに摺動自在に嵌合するプランジャ20とを具備する。貯留シリンダ室19は、内方端が油通路19aを介してシリンダ室12に連通し、貫通孔19bを介してシリンダブロック7の側面に開口する。貫通孔19bにはねじ部19cが形成される。
【0016】
プランジャ20は、高速送りプランジャ21と高圧送りプランジャ22とからなり、シリンダブロック7の外側から進退調整自在である。
【0017】
高速送りプランジャ21は、貯留シリンダ室19に嵌合するプランジャヘッド21aと、シリンダブロック7の貫通孔19bを貫通して外方へ延出するプランジャロッド21bとを具備する。プランジャロッド21bは、貫通孔19bのねじ部19cに螺合するねじ部21cと、当該プランジャロッド21を回転操作するノブ21dとを具備する。
【0018】
高速送りプランジャ21は、それの中心軸線に沿って連続して貫通する小径シリンダ孔21eと、これより直径の大きい大径孔21fとを具備する。小径シリンダ孔21eは、一端がプランジャヘッド21aの先端に開口する。大径孔21fは、一端が段部を介して小径シリンダ孔21eに連続し、他端がシリンダブロック7の側面に開口する。大径孔21fには、ねじ部21gが形成される。
【0019】
高圧送りプランジャ22は、小径シリンダ孔21eに摺動自在に嵌合する小プランジャヘッド22aと、大径孔21fを貫通して外方へ延出するプランジャロッド22bとを具備する。プランジャロッド22bは、大径孔21fの雌ねじ部21gに螺合するねじ部22cと、当該プランジャロッド22bを回転操作するノブ22dとを具備する。
【0020】
主制動装置1の使用に当たっては、開閉板8を開いて、ローラ3,4間に架空線Wをと取り込んで、架空線W上に主制動装置1を装着する。次いで、開閉板8を閉じ、プランジャ20により、油圧による制動力を調整する。油圧の調整は、油圧計17を見ながら、適宜、高速送りプランジャ21、高圧送りプランジャ22のノブ21d、22dを回転させることにより行う。これにより貯留シリンダ室19内の作動油が油通路19aを通してシリンダ室12内に送られラム13が戻しばね16を圧縮しつつ上昇する。ラム13は、ばね15を介して昇降フレーム4を押し上げ、ローラ3,5間に所定の圧力で架空線Wを挟持する。これにより、所定の制動力を得る。
【0021】
昇降フレーム4の進行方向側(前方)の端部には、連結アーム11を含む非常制動装置23が設けられる。非常制動装置23は、油圧装置6が何らかの原因で機能を失うなどして、主制動装置1が制動機能を果たさなくなり、その結果、主制動装置1が吊り下げ物側に接近し、制動ロープRにたわみが生じたときに、これを感知して自動的に制動をかけるものである。
【0022】
図7,
図8に示すように、非常制動装置23は、いずれも昇降フレーム4に基端側が枢支される連結アーム11と、第1及び第2の2つの制動レバー24,25とを具備する。
【0023】
連結アーム11は、基端側において可動軸26で昇降フレーム4に枢支される。可動軸26は、両端において、昇降フレーム4に形成された前後方向の長孔4aに前後方向相対移動自在に支持され、制動ばね27で後方へ付勢される。したがって、
図8(B)に示すように、吊り下げ物につながる制動ロープRが緊張状態にあるとき、連結アーム11は、制動ばね27を圧縮して可動軸26と共に前方位置にある。
図8(A)に示すように、制動ロープRが緩むと、連結アーム11は、制動ばね27で後方へ押し戻される。
【0024】
制動レバー24,25は、基端側において共通の軸5a(一方の昇降ローラ5の回転軸)で昇降フレーム4に枢支される。レバー24は前端部に制動ローラ29を具備し、中間部に前方上がりの長孔24aを具備する。レバー25は前端部に制動ローラ30を具備し、中間部に前方下がりの長孔25aを具備する。両制動レバー24,25は、互いの長孔24a、25aを交差するように対向させた状態で可動軸26に枢支される。
【0025】
したがって、吊り下げ物を吊った吊り車がウインチに引かれ、架空線Wに沿って走行するとき、制動ロープRでこれにつながる制動装置1が油圧で制動をかけているから、
図8(B)に示すように、制動ロープRが緊張し、連結アーム11が、可動軸26と共に、制動ばね27を圧縮して前方へ引かれている。この状態では、レバー24が反時計方向へ、レバー25が時計方向へそれぞれ回転し、制動ローラ29,30間が開いて架空線Wを解放しているから、制動ローラ29,30による制動はかからない。
【0026】
ところが、例えば架空線Wの下り勾配箇所において油圧による制動が機能せず、制動装置1が自重により高速で走行を始めると、吊り下げ物に接近して、
図8(A)に示すように、制動ロープRが緩み、連結アーム11が、可動軸26と共に、制動ばね27で後方へ押し戻される。これにより、レバー24が時計方向へ、レバー25が反時計方向へそれぞれ回転し、制動ローラ29,30で架空線Wを挟持して主制動装置1を非常制動する。
【0027】
架空線Wを挟持して制動する挟持部材として、制動ローラ29,30に代えて、架空線Wに圧接されて制動抵抗を生じる他の摩擦制動部材を用いることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 主制動装置
2 主フレーム
2a 第1の支持板部
2b 第2の支持板部
2c ローラ支持部
2d 長孔
3 固定ローラ
4 昇降フレーム
5 昇降ローラ
6 油圧装置
7 シリンダブロック
8 開閉板
9 ファスナ
10 軸
11 連結アーム
12 シリンダ室
13 ラム
14 ばね受けコマ
15 圧縮ばね
16 戻しばね
17 油圧計
18 作動油圧送機構
19 貯留シリンダ室
19a 油通路
19b 貫通孔
19c ねじ部
20 プランジャ
21 高速送りプランジャ
21a プランジャヘッド
21b プランジャロッド
21c ねじ部
21d ノブ
21e 小径シリンダ孔
21f 大径貫通孔
21g ねじ部
22 高圧送りプランジャ
23 非常制動装置
24 第1の制動レバー
24a 長孔
25 第2の制動レバー
25a 長孔
26 軸
27 制動ばね
28 軸
29 制動ローラ
30 制動ローラ
G 間隙
R 制動ロープ
W 架空線