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  • 特許-表面保護フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】表面保護フィルム
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20220523BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20220523BHJP
   C09J 123/06 20060101ALI20220523BHJP
   C09J 131/04 20060101ALI20220523BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20220523BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20220523BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J123/08
C09J123/06
C09J131/04
B32B27/28 101
B32B27/00 M
B32B27/32 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018069375
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178273
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000106151
【氏名又は名称】株式会社サンエー化研
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】小野田 真 己
(72)【発明者】
【氏名】遠 藤 貴 士
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-275212(JP,A)
【文献】特開平09-132764(JP,A)
【文献】国際公開第2009/098976(WO,A1)
【文献】特開平10-095959(JP,A)
【文献】特開2000-186256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、前記基材層の一方の面に設けられた粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層が、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂とを含み、
JIS K7210コードDに準拠して測定した前記ポリエチレン樹脂のスウェル比が1.3~1.7の範囲内にある、表面保護フィルム。
【請求項2】
前記粘着剤層におけるエチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂との質量比が、1:1~7:3である、請求項1に記載の表面保護フィルム。
【請求項3】
前記粘着剤層におけるエチレン酢酸ビニル共重合体が、28~32質量%の酢酸ビニルを含む、請求項1または2に記載の表面保護フィルム。
【請求項4】
JIS K7112に準拠して測定した前記ポリエチレン樹脂の密度が、0.92~0.93g/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の表面保護フィルム。
【請求項5】
前記粘着剤層の、基材層が設けられた面とは反対側の面の、JIS Z8741に準拠して測定した光沢度が25以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の表面保護フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤層を備えた表面保護フィルムに関し、より詳細には、塗装鋼板等の塗膜表面を保護するために一時的に貼着される表面保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板や塗装鋼板、合成樹脂板等を加工したり運搬したりする際に、その表面を傷や汚れ等の損傷から保護するため、表面保護フィルムを貼着することが行われている。一般に、表面保護フィルムは、被着体に対して一定の期間一時的に貼着され、表面保護の役目を終えた後、被着体から剥離除去される。そのため、表面保護フィルムには、良好な粘着性(仮着性)を有すると共に、使用後に被着体の表面に糊残りがないことが要求される。このような要求を満足する表面保護フィルムが提案されている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
ところで、鋼材、特に塗装鋼板等の被着体にこのような表面保護フィルムを貼着する場合、熱を持った状態の被着体に表面保護フィルムが貼着されることがある。このような熱を持った状態の被着体に貼着される表面保護フィルムは、その粘着剤層の成分としてエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)を使用することが多い。粘着剤層を構成するEVAにおけるエチレンと酢酸ビニル(VA)の質量比は様々であるが、VAの含有量が低いEVAを使用した場合、被着体の粗面に対しての粘着性が十分に得られず、表面保護フィルムの一部が被着体から浮いてしまう、いわゆる「浮き」を生じてしまうという問題があった。一方で、VAの含有量が高いEVAを使用した場合、表面保護フィルムの被着体への過度の粘着性が生じ、被着体から表面保護フィルムを剥離した際にいわゆる糊残りが発生するという問題があった。また、表面保護フィルムをロール状にした場合には、表面保護フィルムの背面(自背面)への過度な粘着性が生じ、自背面からの剥離を容易に行うことができないという問題があった。このような状況下、特に熱を持った状態の被着体への貼り付け時や、高温環境下での過度な粘着性や糊残りを抑制することができる表面保護フィルムが求められていた。
【0004】
上記のような問題に対して、特定の含有量の酢酸ビニルを含むエチレン酢酸ビニル重合体と、ポリエチレン系樹脂とを粘着剤層とすることで、高温環境下での過度な粘着性を抑制するための表面保護フィルムが提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-238882号公報
【文献】特開2012-111793号公報
【文献】特開平9-132764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは今般、上記課題について鋭意検討を行った結果、表面保護フィルムにおいて、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂とを含み、JIS K7210コードDに準拠して測定した前記ポリエチレン樹脂のスウェル比が1.3~1.7の範囲内にあるような粘着剤層を使用することにより、被着体に対する優れた粘着性を表面保護フィルムに付与しつつ、高温環境下おける過度な粘着性や糊残りを効果的に抑制できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0007】
したがって、本発明の目的は、被着体に対する優れた粘着性を有し、かつ高温下おける過度な粘着性や糊残りを効果的に抑制できる表面保護フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による表面保護フィルムは、基材層と、前記基材層の一方の面に設けられた粘着剤層とを備え、
前記粘着剤層が、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂とを含み、
JIS K7210コードDに準拠して測定した前記ポリエチレン樹脂のスウェル比が1.3~1.7の範囲内にあることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の態様によれば、前記粘着剤層におけるエチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂との質量比が、1:1~7:3であってもよい。
【0010】
本発明の態様によれば、前記粘着剤層におけるエチレン酢酸ビニル共重合体が、28~32質量%の酢酸ビニルを含んでいてもよい。
【0011】
本発明の態様によれば、JIS K7112に準拠して測定したポリエチレン樹脂の密度が、0.92~0.93g/cmであってもよい。
【0012】
本発明の態様によれば、粘着剤層の、基材層が設けられた面とは反対側の面の、JIS Z8741に準拠して測定した光沢度が25以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エチレン酢酸ビニル共重合体と特定範囲のスウェル比を有するポリエチレン樹脂とを含む粘着剤層を使用することにより、被着体に対する優れた粘着性を有し、かつ高温環境下おける過度な粘着性や糊残りを効果的に抑制できる表面保護フィルムを実現することができる。かかる表面保護フィルムは、高温でもロール展開力が小さく維持されることから、高温環境下での保管、作業において特に有利に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による表面保護フィルムの一実施形態を示した断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による表面保護フィルムを図面を参照しながら説明する。図1は、本発明による表面保護フィルムの一実施形態を示した断面模式図である。表面保護フィルム10は、基材層1と、基材層1の一方の面に設けられた粘着剤層2とを備えている。塗装鋼板等の被着体(図示せず)の表面を保護するために表面保護フィルム10を使用する際は、塗装表面に粘着剤層2が接着するようにして表面保護フィルム10が貼着される。以下、本発明の表面保護フィルムを構成する各層について具体的に説明する。
【0016】
[基材層]
基材層は、被着体を傷や汚れ等の損傷から保護する役割を担うものであり、この目的が達成できるものであれば特に限定されることなく種々の材料を基材層として使用することができる。基材層としては、熱可塑性の材料からなるフィルムないしシートを好適に使用することができる。熱可塑性の材料としては、熱可塑性樹脂を好適に使用することができる。好適に使用できる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂およびポリウレタン系樹脂等が挙げられるが、使用後に焼却しても有毒ガスを発生せず、後処理面でも問題が少ないことから、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0017】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-nブチルアクリレート共重合体およびポリプロピレン等が挙げられる。基材層を形成するための熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、基材層は単層あっても複数層であってもよい。
【0018】
基材層には、必要に応じて、上記したような熱可塑性樹脂をマトリックスとして、その物性を阻害しない範囲において種々の添加剤を含有させてもよい。添加剤としては、例えば、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤および滑剤等が挙げられる。これら添加剤は、熱可塑性樹脂をフィルムないしシート状に製膜する際に、熱可塑性樹脂と混合して押出成形するか、あるいは予め添加剤を熱可塑性樹脂に練り込んだマスターバッチを、押出成形の際にさらに熱可塑性樹脂と混合して製膜することで基材層に含有させることができる。
【0019】
本発明における基材層の厚みは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではなく、表面保護フィルムの用途に応じて適宜設定することができるが、概ね20~100μm程度である。
【0020】
[粘着剤層]
粘着剤層は、上記した基材層の一方の面に設けられて、被着体に表面保護フィルムを接着させる機能を有するものである。本発明においては、粘着剤層がエチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂とを含み、JIS K7210コードDに準拠して測定した上記ポリエチレン樹脂のスウェル比が1.3~1.7の範囲内にあることを特徴とする。上記のように、粘着剤層がエチレン酢酸ビニル共重合体と、上述のような特定のスウェル比を有するポリエチレン樹脂とを含有させた粘着剤層を用いることは、被着体に対して優れた粘着性を示し、かつ高温環境下おける過度な粘着性や糊残りを顕著に抑制する上で有利である。理論に拘束されるものではないが、このような本発明の効果が奏される理由は以下のように考えられる。スウェル比は、溶融弾性(溶融張力)の尺度を示すものであり、ポリマーにおいてスウェル比の値が高いほど加熱・溶融時の弾性(張力)が高いといえる。したがって、スウェル比の値が高いポリエチレン樹脂を粘着剤層に配合した場合、高温環境下においても高い弾性(張力)が維持される。そのため、粘着剤層の表面が平滑になりにくく、高温下でも凹凸が多い状態が維持され、被着体に対する粘着剤層表面の接触面積が小さくなりやすいと考えられる。一方、スウェル比の値が低いポリエチレン樹脂を粘着剤層に配合した場合、高温環境下において高い弾性(張力)が維持されにくい。そのため、粘着剤層の表面が平滑になりやすく、凹凸が少ない状態になり、被着体に対する粘着剤層表面の接触面積が大きくなりやすいと考えられる。本発明の表面保護フィルムにおいては、粘着剤層において特定のスウェル比の値を有するポリエチレン樹脂を使用することにより、図1に示される通り、常温および高温環境下のいずれにおいても粘着剤層表面に適度な凹凸を生じさせることができる。その結果、表面保護フィルムを被着体に貼着した時に、表面保護フィルムの粘着剤層と被着体とが点接触し、表面保護フィルムと被着体との接触面積が適切に調整され、被着体に対する優れた粘着性が奏され、かつ高温環境下おける過度な粘着性や糊残りが顕著に抑制されるものと考えられる。
【0021】
粘着剤層を構成するポリエチレン樹脂の具体的なスウェル比は、好ましくは1.3~1.6であり、より好ましくは1.47~1.6である。スウェル比が上記範囲より高いポリエチレン樹脂を粘着剤層に配合した場合、粘着剤層の表面形状の凹凸が過度に大きくなり、粘着剤層が十分な粘着力を有さない場合がある。また、スウェル比が上記範囲より低いポリエチレン樹脂を粘着剤層に配合した場合、粘着剤層の表面に適切な凹凸が生じず、高温下おける過度な粘着性や糊残りが生じる場合がある。
【0022】
本発明におけるポリエチレン樹脂のスウェル比は、JIS K7210コードDに準拠した方法により測定される。具体的には、まず、メルトフローレートの測定方法に従って、メルトインデクサーを用いて、温度190℃および荷重21.18Nの条件下で、オリフィスから20~30mm程度のストランドを押出し、押し出されたストランドを常温で冷却する。次いで、押し出されたストランドの押出し上流側の先端から約5mmの位置でのストランド径を測定し、ストランド径をダイ径2.095mmで除した値をスウェル比とする。
【0023】
粘着剤層を構成するポリエチレン樹脂の密度は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、JIS K7112に準拠して23℃で測定する場合、好ましくは0.92~0.93g/cmであり、より好ましくは0.923~0.93g/cmである。
【0024】
粘着剤層を構成するポリエチレン樹脂は、公知の手法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。かかる製品の好適な例としては、いわゆる低密度ポリエチレン等が挙げられ、より具体的にはノバテックTMLC522、またはノバテックTMLF580(いずれも日本ポリエチレン株式会社製)、NUC8000(株式会社NUC製)等である。粘着剤層におけるポリエチレン樹脂は、本発明の効果を妨げない限り、単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、粘着剤層を構成するエチレン酢酸ビニル共重合体において、酢酸ビニルの含有量は、好ましくは25%~50%であり、より好ましくは25%~40%であり、特に好ましくは28%~32%である。
【0026】
エチレン酢酸ビニル共重合体は、公知の手法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ウルトラセン(登録商標)750(東ソー株式会社製)、エバフレックス(登録商標)EV260(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)等が挙げられる。粘着剤層におけるエチレン酢酸ビニル共重合体は、本発明の効果を妨げない限り、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明の粘着剤層において、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂との質量比は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、好適な範囲は1:1~7:3である。
【0028】
本発明における粘着剤層には、エチレン酢酸ビニル共重合体およびポリエチレン樹脂以外にも、必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、充填剤、滑剤等を添加することができる。
【0029】
また、本発明における粘着剤層の光沢度は、JIS Z8741に準拠して測定した場合の上限値は、好ましくは25以下であり、より好ましくは25未満であり、さらにより好ましくは20以下であり、下限値は、好ましくは15以上であり、より好ましくは18以上である。粘着剤層が上記光沢度を保持することは、優れた粘着性と、高温環境下おける過度な粘着性や糊残りの抑制とに適した、適切な表面構造を維持する上で有利である。
【0030】
本発明における粘着剤層の厚さは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、好ましくは2~50μmであり、より好ましくは5~35μmであり、特に好ましくは5~30μmである。
【0031】
また、本発明の表面保護フィルムは、基材層および粘着剤層に加えて、基材層と粘着剤層の間および/または基材層の粘着剤層とは反対側の一面の上に、任意にさらなる層を含んでいてもよい。任意に含まれるさらなる層を構成する樹脂は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、例えば、基材層を構成する樹脂と同じ熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、本発明の表面保護フィルムの厚みは、被着体の厚みおよび要求される品質レベルにより異なるが、一般的には成形性、使いやすさの観点から、好ましくは20~90μm、より好ましくは25~80μm、特に好ましくは25~75μmの範囲で適宜選択できる。
【0033】
また、本発明の表面保護フィルムにおいて、ステンレス製板に対する、測定温度23℃、引張速度0.3m/分、引張角度180°での初期粘着力は、好ましくは0.05~0.35N/25mmであり、より好ましくは0.1~0.3N/25mmである。かかる初期粘着力を表面保護フィルムが有することは、被着体に対する優れた粘着性を奏する上で好ましい。
【0034】
また、本発明の表面保護フィルムにおいて、65℃で1日保管した場合の、ステンレス製板に対する、測定温度23℃、引張速度0.3m/分、引張角度180°での粘着力は、好ましくは0.1~1.5N/25mmであり、より好ましくは0.2~1.0N/25mmである。65℃で1日保管した際に表面保護フィルムが上記粘着力を保持することは、高温環境下における過度な粘着性や糊残りを抑制する上で好ましい。
【0035】
また、本発明の表面保護フィルムにおいて、初期粘着力(A)に対する65℃で1日保管した後の粘着力(B)の比(B/A)は、好ましくは0.5~3.5であり、より好ましくは1~2である。表面保護フィルムが上記B/A比を有することは、常温および高温環境下のいずれにおいても同様の良好な作業性を維持する上で好ましい。
【0036】
また、本発明の表面保護フィルムを、後述する実施例に記載のように巻回された状態で65℃で1日保管した場合、自背面を構成する基材に対する、測定温度23℃、引張速度0.3m/分、引張角度180°での粘着力(自背面剥離性)は、好ましくは2.5~4.5N/25mmであり、より好ましくは2.5~4N/25mmであり、特に好ましくは2.5~3.5N/25mmである。表面保護フィルムが上記自背面剥離性を有することは、高温環境下におけるロールの展開力を小さくして、良好な作業性を実現する上で好ましい。
【0037】
[表面保護フィルムの製造方法]
本発明の表面保護フィルムは、従来公知の多層フィルム成型方法に従って製造することができる。かかる成型方法としては、例えば、各層を予め別々のフィルムまたはシートとして形成した後に各層をなすフィルムまたはシートを接着させて積層する方法、押出法によって各層の形成および積層を同一工程で行う方法等がある。前者の例としては、空冷インフレーション成形法、空冷二段冷却インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、水冷インフレーション成形法等が挙げられる。また、後者の例としては、押出ラミネート法、ドライラミネート法、サンドイッチラミネート法、共押出法(接着層を設けない共押出し、接着層を設ける共押出し、接着樹脂を配合する共押出しを含む)等が挙げられる。本発明のように、スウェル比の値が1.3~1.7の範囲であるポリエチレン樹脂と、エチレン酢酸ビニル共重合体とを含む樹脂組成物を例えば、190~220℃で成膜すると、粘着剤層表面において適度な凹凸を有するフィルムが得られる。したがって、本発明の別の態様によれば、JIS K7210コードDに準拠して測定したスウェル比の値が1.3~1.7の範囲であるポリエチレン樹脂と、エチレン酢酸ビニル共重合体とを含む樹脂組成物を成膜して粘着剤層を得る工程を少なくとも含む、基材層と基材層の一方の面に設けられた粘着剤層とを備えた表面保護フィルムの製造方法が提供される。かかる製造方法は、特段の表面加工工程なしで迅速に、表面保護フィルムに、被着体に対する優れた粘着性を付与し、かつ、高温下おける過度な粘着性や糊残りを抑制する上で有利である。
【0038】
本発明の表面保護フィルムが適用される被着体としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されるものではないが、鋼鈑、ガラス、化粧合板、樹脂板等の製品が挙げられる。本発明の表面保護フィルムは、塗装鋼板のような、表面保護フィルムを貼着する際に熱を持っている状態であることが多い被着体に対して有利に用いることができる。
【0039】
本発明の表面保護フィルムは、使用の便宜のため通常はロール状に巻回された状態とされる。本発明の表面保護フィルムは、このような巻回された状態で保管された場合であっても、表面保護フィルム背面(自背面)から容易に剥離・展開することが可能である。
【実施例
【0040】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。また、本明細書において、特段の記載がない限り、測定値の単位および測定方法はJIS(日本工業規格)による規定に従うものとする。
【0041】
表面保護フィルムの製造
基材層を構成する樹脂として、ノバテックHF560(日本ポリエチレン株式会社製)を用意した。
【0042】
粘着剤層を構成するエチレン酢酸ビニル共重合体として、下記表1に示す樹脂を用意した。
【表1】
【0043】
また、粘着剤層を構成するポリエチレン樹脂として、下記表2に示す樹脂を用意した。
【0044】
【表2】
【0045】
下記表3に示した質量比に従い、各成分を配合した粘着剤層用樹脂混合物を用意した。次に、2台の押出機を有するTダイ型複合製膜機を用いて、基材層を構成する樹脂、および粘着剤層用樹脂混合物をそれぞれの押出機に仕込み、基材層厚み比率80%、粘着剤層厚み比率20%となるように各押し出し機の吐出量を調整し(220℃)、フィルム厚み50μmの2層積層フィルム(実施例1~5、比較例1~3)を得た。
【0046】
【表3】
【0047】
初期粘着力の測定
各表面保護フィルムについて、被着体に対する貼り合せ直後の粘着力(初期粘着力)を以下の方法により測定した。まず、得られた各表面保護フィルムから25mm×200mmの矩形状に切り出し試験片とした。80℃に設定したエアバス内で30分間静置したステンレス製板(#280の研磨紙で表面を研磨したSUS304HL板)に、同温度のエアバス内で、各試験片を2kgのゴムローラーを1往復させて貼り付けた。各試験片を貼り付けた直後に、引張試験機RTG-1210(株式会社エーアンドディ製)を用いて、測定温度23℃、引張速度0.3m/分、引張角度180°の条件で各試験片を被着体から剥離して、初期粘着力(N/25mm)を測定した。測定によって得られた各試験片の初期粘着力は、下記の表4に示される通りであった。
【0048】
高温保管(65℃、1日)後の粘着力の測定
各表面保護フィルムについて、被着体に対する貼り合わせ後、高温で保管した後の粘着力(高温保管後の粘着力)を以下の方法により測定した。まず、上記した初期粘着力の測定時と同様の方法により各試験片をSUS板に貼り付けた。次いで、各試験片を貼り付けたSUS板を65℃に設定したエアバス内に静置し、1日後に室温に戻した。引張試験機を用いて、引張速度0.3m/分、引張角度180℃の条件で各試験片を被着体から剥離して、高温保管後の粘着力(N/25mm)を測定した。測定によって得られた各試験片の高温保管後の粘着力は、下記の表4に示される通りであった。
【0049】
対フィルム粘着力の測定(自背面剥離性)
各表面保護フィルムをロール状に積層した場合の同一フィルムに対する粘着力(対フィルム粘着力)を以下の方法により測定した。ロール状に積層した各表面保護フィルムから、積層した表面保護フィルムを採取し、採取した積層表面保護フィルムの背面(粘着剤層の反対側の面)上に20.8kg/cmの荷重をかけながら、65℃に設定したエアバス内に静置し、1日後に室温に戻した。引張試験機を用いて、剥離速度30m/分、剥離角度180°の条件で、2枚目の表面保護フィルムを1枚目の表面保護フィルムから剥離して、対フィルム粘着力(N/25mm)を測定した。測定によって得られた各試験片の対フィルム粘着力は、下記の表4に示される通りであった。
【0050】
光沢度の測定
各表面保護フィルムの光沢度(粘着剤層表面)を、JIS Z8741に準拠して測定した。測定により得られた各試験片の光沢度は、下記の表4に示される通りであった。
【0051】
【表4】
【0052】
各実施例および比較例の表面保護フィルムの初期粘着力および高温保管後の粘着力の測定値に基づいて、「粘着力比=高温保管後の粘着力(B)/初期粘着力(A)」を算出した。算出された粘着力比(B/A)は、上記表4に示される通りであった。実施例1~4の各表面保護フィルムはいずれも粘着力比の値が4.0未満であり、高温の被着体に貼り付け、さらに高温環境下で保管した場合においても優れた粘着力を有し、かつ被着体への過度な粘着性や糊残りは抑制されていた。一方、比較例1および4の表面保護フィルムの粘着力は4.0であり、また比較例2の表面保護フィルムの粘着力比の値は5.9であり、いずれも高温環境下で保管した場合に被着体表面への糊残りが発生した。また、比較例3の表面保護フィルムは被着体に対して十分な粘着力を有さず、部分的に被着体から浮いてしまい、粘着力の測定ができなかった。
【0053】
また、実施例1~4の各表面保護フィルムは、いずれも高温環境下で保管した後の対フィルム粘着力の値が4.5N/25mm以下であり、高温環境下で保管した場合においても優れた自背面剥離性を発揮した。一方、比較例1および2の表面保護フィルムにおいては、対フィルム粘着力の値が4.5N/25mmを超える結果となり、高温環境下で保管した場合の優れた自背面剥離性は確認されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、表面保護フィルムにおいて、エチレン酢酸ビニル共重合体とポリエチレン樹脂とを含み、JIS K7210コードDに準拠して測定した前記ポリエチレン樹脂のスウェル比が1.3~1.7の範囲内にあるような粘着剤層を使用することにより、被着体に対する優れた粘着性を表面保護フィルムに付与しつつ、かつ高温環境下おける過度な粘着性や糊残りを効果的に抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 基材層
2 粘着剤層
10 表面保護フィルム
図1