(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】パラジウムを非成型の活性炭粒子表面に偏在担持した活性炭触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20220523BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20220523BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
B01J37/02 101E
B01J37/16
B01J23/44 Z
(21)【出願番号】P 2018120415
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北端 保義
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-231476(JP,A)
【文献】特開平3-81302(JP,A)
【文献】特開昭62-195340(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101204653(CN,A)
【文献】特開2008-183558(JP,A)
【文献】特開2008-293737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非成型の活性炭に、pH無調整の硝酸パラジウム水溶液を含侵させ、炭酸ナトリウムを用いてpHを9~11に調整したギ酸ナトリウム水溶液に浸漬し、
ギ酸ナトリウム水溶液への浸漬後、少なくとも12時間保持することを特徴とする、担持されたパラジウムの80質量%以上が活性炭粒子の表面から1μmまでに偏在担持されたパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法。
【請求項2】
活性炭粒子へのパラジウム塩を含有する水溶液の吸液が、活性炭粒子の吸水量以下である請求項1記載のパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法。
【請求項3】
活性炭粒子へのパラジウム塩を含有する水溶液の吸液が、活性炭粒子の吸水量相当である請求項1記載のパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法。
【請求項4】
非成型の活性炭粒子の粒子径が2~5mmである請求項1~3の何れかに記載のパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法。
【請求項5】
非成型の活性炭粒子の比表面積値が500~2000m
2/gである請求項1~4の何れかに記載のパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非成型の活性炭粒子表面側に活性種としてのパラジウムを偏在担持させた触媒を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機合成化学の分野において、その合成反応に触媒が使用されることは周知のとおりである。このような触媒には均一系と言われる触媒と、不均一系と言われる触媒があることが知られている。均一系触媒は、触媒としての機能を有する酸、塩基、金属錯体などを利用するものが知られており、反応物、生成物、並びに一般的には液体の触媒を均一層として混合して使用される。これに対して不均一系触媒は、活性炭や多孔質のシリカやアルミナなど無機酸化物を担体とし、反応物と接触する担体の表面側にパラジウムや白金などの触媒活性種が偏在担持されて使用される。
【0003】
均一系触媒反応は、反応物と触媒を分子レベルで混合して使用されることから、活性が高く、比較的温和な条件で反応が促進する。しかし、反応に使用した触媒の変質、反応系からの触媒の回収、生成物からの触媒の分離が困難であることから、特に触媒として高価な貴金属を使用した場合には、回収や再利用の点で濾過により簡単に分離できる不均一系触媒と比べると産業的に不利な触媒であるともいえる。
【0004】
これに対して不均一系触媒は、気相反応であれば固定床中に触媒を配置するか、液相反応であれば流動床反応装置中に触媒を混合し、所定の条件の下、反応物を流通させることで触媒反応を促進して生成物を得ることができる。
【0005】
不均一系触媒は担体に貴金属等の活性種を担持した触媒であり、このような触媒用の担体、特に流動床用触媒担体としては活性炭が知られているのは前述のとおりであり、広く普及している。
【0006】
活性炭粒子を担体とした触媒には活性種として主にパラジウム、白金、ロジウム等の貴金属が担持される。このような貴金属を活性炭粒子に担持する手法としては、種々の方法が知られているが、貴金属は高価であるため、その使用量を少なくするために、貴金属を表面付近に担持させる技術が発達してきている。
【0007】
そのような技術としては、貴金属を成型活性炭粒子の表面から深さ50μmまでの層に、担持された貴金属の70質量%を担持させるために、先ず貴金属の塩と酸化剤を含有する水溶液のpHを調整したものを、成型活性炭粒子に吸液させ、その後、吸液した貴金属塩を固定化するために還元処理を施す技術が知られている(特許文献1)。しかしながら、この技術では貴金属を成型活性炭粒子の表面から深さ50μmまでの層、つまり、貴金属があまり表面に偏在しておらず、精緻な反応制御が必要な産業用反応の触媒としては不向きであるといえる。また、この触媒を製造する際、成型(加圧)のため表面側における細孔の減少が顕著である成型活性炭粒子を用いるため、活性種原料である貴金属塩溶液が吸液し難くなったり、活性種の分散状態も悪くなるため、触媒としての活性が低下する。この場合も産業用触媒の製法として適切な手法とは言い難い。
【0008】
また、別の技術としては、担体にあらかじめ溶剤を吸液させ、その後に貴金属塩の溶液を吸液させる製法が知られている(特許文献2)。しかしながら、この技術では、貴金属塩溶液を担体に含浸させる際に、それに先んじて相当量の溶剤が吸液している影響で、貴金属塩溶液の吸液量の制御が難しく出来上がった触媒において所定の量の貴金属量の担持が困難であり、精緻な反応制御が必要な産業用反応の触媒としては不向きであるといえる。また、この触媒を製造する際、吸液しきれない貴金属塩溶液も生じ易く、高価な貴金属を無駄にしてしまい、この場合も産業用触媒の製法として適切な手法とは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-144921号公報
【文献】特開昭50-30828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、担体として非成型の活性炭粒子を用い、簡便な方法で確実に活性種としてのパラジウムを活性炭粒子表面に担持させる技術を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、pH無調整の硝酸パラジウム水溶液を含侵させ、炭酸ナトリウムを用いてpHを9~11に調整したギ酸ナトリウム水溶液に浸漬し、ギ酸ナトリウム水溶液への浸漬後、少なくとも12時間保持することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、非成型の活性炭粒子である多孔質担体に、pH無調整の硝酸パラジウム水溶液を含侵させ、炭酸ナトリウムを用いてpHを9~11に調整したギ酸ナトリウム水溶液に浸漬し、
ギ酸ナトリウム水溶液への浸漬後、少なくとも12時間保持することを特徴とする、担持されたパラジウムの80質量%以上が活性炭粒子の表面から1μmまでに偏在担持されたパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、簡便な方法で、活性種としてのパラジウムを非成型の活性炭粒子表面に偏在担持させることできる。また、通常、加圧され、成型されている活性炭粒子は、特段の工夫が無くても活性種原料水溶液は表面側に偏り、最終的に担持される活性種も表面側に多く担持させることが容易であるが、本発明製法では、非成型の活性炭粒子の表面側にもパラジウムを多く偏在担持させることができる。
【0014】
そのため、本発明の製造方法で得られるパラジウム偏在担持活性炭触媒の反応工学的な用法は特に限定されるものではないが、パラジウムが非成型の活性炭粒子表面に偏在して担持されているため、反応系における活性種と反応物との接触が容易であることから、生成物を得る為に必要な時間を短くすることが可能で、反応物を反応系に連続的に供給する連続式反応器に使用することが好適である。連続式反応器は反応物の投入、触媒反応、生成物の回収が同時に行われるもので、反応に要する操作に途切れが無く、触媒反応にかけられる時間が短いことから、本発明の様な活性種と反応物との接触が容易な触媒が産業上は有利である。なお、本発明の触媒はこのような連続式の反応器への利用に限られるものでは無く、回分式(バッチ式)の反応器に使用しても良いことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1および比較例1より得られたパラジウム担持活性炭触媒の断面におけるパラジウムの分布状態を表したSEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法:Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive X-ray Spectroscop)による分析結果を表した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のパラジウム偏在担持活性炭触媒の製造方法(以下、「本発明製法」という)は、非成型の活性炭に、pH無調整の硝酸パラジウム水溶液を含侵させ、炭酸ナトリウムを用いてpHを9~11に調整したギ酸ナトリウム水溶液に浸漬し、ギ酸ナトリウム水溶液への浸漬後、少なくとも12時間保持することにより、担持されたパラジウムの80質量%以上が活性炭粒子の表面から1μmまでに偏在担持されたパラジウム偏在担持活性炭触媒(以下、「本発明触媒」という)を製造できるものである。
【0017】
[活性炭粒子]
本発明製法に用いられる活性炭粒子は、一般に流通しているオガ屑、ピート、ヤシ殻等の原料を高温でガスや薬品と反応させて炭化した微細孔を持つ炭であれば特に限定されないが、好ましくは炭化の過程で原料由来の形状が保たれ易く、砕いて整粒しただけで使用されることが多いヤシ殻炭である。これらの活性炭粒子は、加圧され、成型されていない非成型のものである(以下、特に断わりのない限り、本発明における活性炭粒子はこのような非成型の活性炭粒子のことをいう)。また、活性炭粒子の粒子径は特に限定されないが、例えば、2~5mmのものが使用できる。なお、ここでいう粒子径は、選別に利用された複数のメッシュのサイズから算出されるものである。更に、活性炭粒子の比表面積値は特に限定されないが、例えば、500~2000m2/gのものが好ましい。なお、比表面積値は吸着前後のガス分子数の変化を、一定容積内の圧力変化として測定し、窒素ガスの吸着量を求める定容法で測定される値である。
【0018】
本発明製法に用いられる活性炭粒子は、後述する硝酸パラジウム水溶液の吸液処理前に洗浄処理や薬品処理や乾燥処理を施してもよい。
【0019】
洗浄処理は、本発明製法を実施するうえで不具合を生じる成分や本発明触媒の用途において不要な成分を除去する目的で、適宜適切な方法を採用すればよい。具体的にはイオン交換水による洗浄等が挙げられ、担体を流水中で一定時間洗浄したり、水槽に浸して一定時間静置するだけでもよく、弱く撹拌して洗浄してもよい。このような洗浄処理は活性炭粒子の製造過程で生じた微細化した活性炭を除去するために行うこともある。
【0020】
薬品処理は、使用する活性炭粒子の状態に応じて当業者によって通常採用される薬品処理技術の中から適宜選択して施すことができる。このような薬品処理技術としては、前記イオン交換水に替えて塩酸水溶液等の無機酸による洗浄や、後述する硝酸パラジウム水溶液の吸液において活性炭粒子内部の細孔へのパラジウム成分の固定を促進する目的で施される炭酸水素ナトリウム等の各種アルカリ成分による前処理や、後述する硝酸パラジウム水溶液の意図せぬ還元を防止する目的で施される過酸化水素による活性炭粒子表面の酸化処理等が挙げられる。このように薬品処理された活性炭粒子は、乾燥させてから後段のパラジウム塩を含有する水溶液の含侵処理を施すことが好ましいが、活性炭粒子へのパラジウム成分の担持に影響を与えない場合は活性炭粒子の薬品処理に続けてそのまま硝酸パラジウム水溶液に含侵処理を施してもよい。
【0021】
乾燥処理は、硝酸パラジウム水溶液が含侵し易くするために行われる。乾燥処理の方法としては、特に限定されず、例えば、乾燥機、オートクレーブ等が利用できる。また、乾燥処理の温度としては、特に限定されず、例えば、100℃前後である。
【0022】
[硝酸パラジウム水溶液]
本発明製法に用いられる硝酸パラジウム水溶液は、硝酸パラジウムを水に溶解させるだけでよい(つまり、pHは無調整)。この水溶液に含有される硝酸パラジウムの濃度は、活性炭粒子に担持しようとするパラジウムの量に応じて適宜調整されるものであり、特に限定されないが、例えば、金属換算のパラジウム量として0.1~5wt%であることが好ましく、0.3~2wt%であることがより好ましい。
【0023】
なお、硝酸パラジウム水溶液のpHを特許文献1のように調整してしまうと、パラジウムの析出が懸念される。そして、パラジウムが析出した塩溶液を使用して活性炭粒子等の担体への含浸担持を行うと、担体表面に、析出した大きなパラジウム粒子が担持される。析出したパラジウム成分による不具合は特許文献1にも記載がある。粒子径が大きなパラジウムは活性に有効な表面積が小さくなり、パラジウムの使用量に見合った活性が得られなくなる恐れがある。このようなパラジウム成分の析出による不具合は、pHの変更が大きな程その懸念も大きなものとなる。このような問題があるため、本発明製法においては、pH無調整の硝酸パラジウム水溶液を用いる。
【0024】
上記硝酸パラジウム水溶液には、活性炭粒子への含侵においてパラジウム成分の固定を促進する目的で、また後述する液相還元を促進する目的で、また本発明触媒に使用する具体的な製造装置や手順に対する最適化を目的に、副成分を添加してもよい。このような副成分としては、過酸化水素等が例示される。過酸化水素であれば硝酸パラジウム水溶液を活性炭粒子に含侵する際に意図しない還元を開始してしまうことを抑制する酸化剤としての働きを有し、後述の液相還元における還元制御を適切に管理することに役立てることができる。
【0025】
[吸液条件]
本発明製法においては、活性炭粒子に硝酸パラジウム水溶液を含侵させる。本発明において活性炭粒子における硝酸パラジウム水溶液の含侵量は、活性炭粒子の吸水率以下、または活性炭粒子の吸水率と同等であることが好ましい。本発明における活性炭粒子の吸水率は以下の手法により測定される値である。先ず、105℃で24時間乾燥させた活性炭粒子の質量(乾燥質量)を測定する。続いて、乾燥させた活性炭粒子をイオン交換水に浸漬し、気泡の発生が目視できなくなるのを待って濾別した後、乾燥したペーパータオル上で余剰の水分を取り除いた完全吸水済み活性炭粒子の質量(吸水質量)を測定する。これらの質量について下記式をもって導いた値を本発明における吸液率という。本発明における活性炭粒子の吸液率は40~60wt%であることが好ましく、50~55wt%であることがより好ましい。
【0026】
[数1]
吸液率(%)=[(吸水質量-乾燥質量)/乾燥質量]×100
【0027】
実際の硝酸パラジウム水溶液を活性炭粒子に給液する場合、その液量は吸液率以下であっても良いが、吸液率と同等の液量であっても良い。ただし、完全に吸水可能な量を表す前記吸液率を著しく超えるものでないことが好ましい。吸水時の吸液量を著しく超えると還元時にパラジウムが活性炭粒子表面に析出することがある。析出したパラジウムは活性炭粒子内部で分散担持しているパラジウムに比べてその粒子径が大きくなる傾向がある。粒子径の大きなパラジウムはその質量あたりの表面積が小さくなり、活性種表面で促進する触媒反応に不利になる。なお、パラジウムを活性炭粒子の所定の位置に満遍なく担持する為には、硝酸パラジウム水溶液の給液量は吸液率と同等であることが好ましい。硝酸パラジウム水溶液が完全吸水時の吸水量と同等であれば、活性炭粒子毎における硝酸パラジウム水溶液の含浸量に濃淡が生じ難く、活性炭粒子毎の担持位置やパラジウム担持量が均一にし易い。
【0028】
一方、給液量が吸液率以下である場合には、活性炭粒子が硝酸パラジウム水溶液を確実に含侵することが可能であり、触媒製造時に使用する硝酸パラジウムの無駄が無くなり安定して低コスト化が図れ、産業用触媒の製法として適している。また、活性炭は大気中の水分や、前処理工程の残渣を吸着してしまうことがあり、そのような場合は活性炭粒子の吸液率よりも若干低めの割合で給液することが好ましい場合もある。本発明における給液量は特に限定されるものではないが、上記のような理由で活性炭粒子の吸液率の0.8~1.1であることが好ましく、0.9~1.1であることがより好ましい。
【0029】
活性炭粒子に硝酸パラジウム水溶液を含侵させる方法は特に限定されず、例えば、容器に入れた硝酸パラジウム水溶液中に活性炭粒子を投入する方法や、担体に触媒成分含有溶液を含浸できる装置、例えば、ダブルコーン型の混合装置、転動造粒機、ロッキングミキサー、インプレグネーター等を利用して行うことができる。また、吸液させる時の条件は特に限定されず、例えば、大気中、常温下でよいが、前記のような吸液率になることが好ましい。また、吸液後は静置等して熟成させても良い。
【0030】
[ギ酸ナトリウム水溶液]
本発明製法に用いられる炭酸ナトリウムを用いてpHを9~11に調整したギ酸ナトリウム水溶液(以下、単に「ギ酸ナトリウム水溶液」ということもある)は還元剤として用いられるものである。このギ酸ナトリウム水溶液は、水にギ酸ナトリウムを溶解させた後、pHを炭酸ナトリウムを用いて調整することにより得ることができる。なお、ギ酸ナトリウムは比較的pHの高い酸であり、炭酸ナトリウムのようなマイルドなアルカリ性物質であるとpHの調整が容易である。
【0031】
[液相還元]
本発明製法において、活性炭に含浸された硝酸パラジウムをギ酸ナトリウム水溶液で液相還元する。液相還元する方法は特に限定されず、例えば、ギ酸ナトリウム水溶液と硝酸パラジウムが吸液された活性炭粒子を混合すればよい。液相還元の条件は特に限定されないが、例えば、液相還元を促進するためには温度が5~60℃であることが好ましく、10~50℃であることがより好ましい。また、ギ酸ナトリウムの使用量について含侵された硝酸パラジウムの全てを還元できる量であれば特に限定されるものではないが、担体に含侵された硝酸パラジウムの量に対してギ酸ナトリウムが3倍モル以上であることが好ましく、5倍モル以上であることがより好ましい。また、ギ酸ナトリウムの使用量の上限は特に限定されないが、10モル以下であることが好ましい。
【0032】
[保持]
本発明の液相還元では、少なくとも12時間、硝酸パラジウム含侵活性炭粒子がギ酸ナトリウム水溶液と共に保持されるものである。この保持は、静置等して行えば良い。このような保持は熟成と言い換えることもできる。少なくとも12時間保持させることにより、パラジウムが活性炭の表面側に偏在担持された触媒が得られる。保持時間は少なくとも12時間であれば良く、24時間以上であることが好ましい。なお、保持時間に関する上限については特に限定されるものではないが、水分の揮発による濃縮などによるギ酸ナトリウム水溶液の変質が懸念されることから、概ね72時間以内であれば良い。この保持後は温水等で適宜洗浄を行い、必要に応じて乾燥を行えばよい。
【0033】
[パラジウム偏在担持活性炭触媒]
本発明製法によれば、担持されたパラジウムの80質量%以上、好ましくは85質量%以上が活性炭粒子の表面から1μmまで、好ましくは0.5μmまで、より好ましくは0.3μmまでに偏在担持されたパラジウム偏在担持活性炭触媒が得られる。パラジウムの担持位置は、SEM-EDXによって検証することができる。SEM-EDXは走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法の略称であり、電子レンズを使って微小径に集束した電子線を試料の上射し、この入射電子ビームを試料上で走査させることで、試料から放出される反射電子像を検出することで、観察領域における組成元素をマッピングできる。
【0034】
[用途]
本発明製法で得られるパラジウム偏在担持活性炭触媒は、従来のパラジウム担持活性炭触媒と同様に水素化、脱ハロゲン等の用途に用いることができるが、特に水素化の用途に用いることが好ましい。また、活性炭は極めて高比表面積値の大きな担体であり、活性種であるパラジウムを高分散することが可能で、高活性な状態の触媒を得ることができる。そのため、転化率が低い反応での使用することで触媒反応の促進が期待できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施形態を記すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
実施例1、比較例1
パラジウム偏在担持活性炭触媒の製造:
[活性炭粒子]
材質:ヤシ殻炭
粒径:4メッシュ(目開き4.76[mm])、8メッシュ(目開き2.38[mm])で選別された活性炭粒子。
比表面積値:1200[m2/g]
吸液率:55wt%
【0037】
[硝酸パラジウム水溶液]
4wt%硝酸パラジウム水溶液(pH無調整)
【0038】
[還元剤水溶液]
2.7wt%ギ酸ナトリウム水溶液に対し、炭酸ナトリウムを加えてpHを10にした還元剤水溶液1を調製した。
【0039】
[触媒の製造]
110℃で24時間乾燥した活性炭粒子を転動造粒機に入れ、混合状態の活性炭粒子に硝酸パラジウム水溶液を噴霧し、吸液率に相当する55wt%の硝酸パラジウム水溶液を含侵させた。この硝酸パラジウム水溶液を含侵させた活性炭粒子を24時間室温で熟成させた。この熟成した活性炭粒子を還元剤水溶液に浸漬した状態で数回攪拌した後、表1に記載の所定の時間静置(保持)した。次に、このパラジウムを担持した活性炭粒子を、80℃のイオン交換水で数回攪拌した後30分静置洗浄した。洗浄は洗浄液のpHの低下が落ち着くまで繰り返した。洗浄が完了した後、24時間風乾し、パラジウム偏在担持活性炭触媒を得た。
【0040】
【0041】
これらの触媒について、SEM-EDX(0.033μm間隔での測定)によりパラジウムの分布状態を測定した。結果を
図1に示した。図中左側が活性炭粒子の表面側にあたる。なお、図において表面側におけるパラジウムの濃度がピーク値から低下しているように見えるのは走査する電子ビーム(幅:0.30μm)が活性炭粒子表面を越えてものパラジウムを強度として拾ってしまうことに起因するもので、測定時の条件等を踏まえると、
図1中[Pd担持深さ(μm)]で0.30が活性炭粒子の最表面にあたる。
【0042】
図1から実施例1の触媒ではパラジウムが活性炭粒子の表面から1μmまでに著しく偏在して担持されていることが分かった。これに対して比較例1の触媒ではパラジウムが実施例1の触媒に比べて担体の内側にパラジウムが濃く分布していた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の製造方法は、簡便な方法で、活性種としてのパラジウムを非成型の活性炭粒子表面に偏在担持させたパラジウム偏在担持活性炭触媒を製造することができる。このパラジウム偏在担持活性炭触媒は、従来のパラジウム担持活性炭触媒と同様の用途に用いることができる。