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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】系統制御装置及び系統制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20220523BHJP
   H02J 3/12 20060101ALI20220523BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20220523BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20220523BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/12
H02J13/00 301B
H02J13/00 311B
H02J13/00 311T
G06Q50/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018149098
(22)【出願日】2018-08-08
(65)【公開番号】P2020025415
(43)【公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001678
【氏名又は名称】特許業務法人藤央特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 弘昭
(72)【発明者】
【氏名】新明 悟
(72)【発明者】
【氏名】福田 拓広
(72)【発明者】
【氏名】末永 晋也
(72)【発明者】
【氏名】多田 泰之
【審査官】佐藤 卓馬
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-022939(JP,A)
【文献】特開2016-039648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/12
H02J 13/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の状態を計測する計測機器から取得した計測値を用いて、前記電力系統の電力潮流を制御する系統制御装置であって、
前記電力系統を構成する少なくとも一つの電気機器に適用される設定状態と、当該設定状態が適用される期間の指定とを含む固定窓データを生成する固定窓生成部と、
前記固定窓データで指定された期間において、第1の電気機器には前記設定状態を適用し、他の第2の電気機器の動作状態を制御することによって、前記電力系統の電力潮流を制御する実行部と、を備え、
前記固定窓生成部は、予め指定された電力総需要の変動幅で定められる期間で前記固定窓データで指定される期間を定めることを特徴とする系統制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の系統制御装置であって、
前記電力系統の最適状態を演算する最適演算部を備え、
前記固定窓生成部は、前記固定窓データを生成するタイミングで、前記電力系統の最適状態を実現する前記第1の電気機器の設定状態を前記最適演算部から取得し、
前記実行部は、前記固定窓データを用いた制御中において、前記電力系統の最適状態を実現する前記第2の電気機器の設定状態を前記最適演算部から取得することを特徴とする系統制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の系統制御装置であって、
前記固定窓データで指定された期間における前記電気機器の各々の制御可否に関する情報を含む固定窓生成条件データを保持し、
前記固定窓生成部は、前記固定窓生成条件データから前記固定窓データを生成することを特徴とする系統制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の系統制御装置であって、
前記固定窓生成部は、前記固定窓データで指定された期間の開始前に前記固定窓データを生成することを特徴とする系統制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の系統制御装置であって、
前記電力系統の最適状態を演算する最適演算部を備え、
前記固定窓生成部は、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、前記第1の電気機器の設定状態を前記最適演算部から取得し、
前記実行部は、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、前記第2の電気機器の設定状態を前記最適演算部から取得することを特徴とする系統制御装置。
【請求項6】
電力系統の状態を計測する計測機器から取得した計測値を用いて前記電力系統の電力潮流を制御する系統制御装置が実行する系統制御方法であって、
前記系統制御装置は、所定の処理を実行する演算装置と、前記演算装置に接続された記憶装置とを有し、
前記方法は、
前記演算装置が、前記電力系統を構成する少なくとも一つの電気機器に適用される設定状態と、当該設定状態が適用される期間の指定とを含む固定窓データを生成する固定窓生成ステップと、
前記演算装置が、前記固定窓データで指定された期間において、第1の電気機器には前記設定状態を適用し、他の第2の電気機器の動作状態を制御することによって、前記電力系統の電力潮流を制御する実行ステップとを含み、
前記固定窓生成ステップでは、前記演算装置が、予め指定された電力総需要の変動幅で定められる期間で前記固定窓データで指定される期間を定めることを特徴とする系統制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の系統制御方法であって、
前記固定窓生成ステップでは、前記演算装置が、前記固定窓データを生成するタイミングで、前記電力系統の最適状態を実現する前記第1の電気機器の設定状態を取得し、
前記実行ステップでは、前記演算装置が、前記固定窓データを用いた制御中において、前記電力系統の最適状態を実現する前記第2の電気機器の設定状態を取得することを特徴とする系統制御方法。
【請求項8】
請求項6に記載の系統制御方法であって、
前記系統制御装置は、前記固定窓データで指定された期間における前記電気機器の各々の制御可否に関する情報を含む固定窓生成条件データを保持し、
前記固定窓生成ステップでは、前記演算装置が、前記固定窓生成条件データから前記固定窓データを生成することを特徴とする系統制御方法。
【請求項9】
請求項6に記載の系統制御方法であって、
前記固定窓生成ステップでは、前記演算装置が、前記固定窓データで指定された期間の開始前に前記固定窓データを生成することを特徴とする系統制御方法。
【請求項10】
請求項6に記載の系統制御方法であって、
前記固定窓生成ステップでは、前記演算装置が、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、前記第1の電気機器の設定状態を取得し、
前記実行ステップでは、前記演算装置が、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、前記第2の電気機器の設定状態を取得することを特徴とする系統制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統を制御するための系統制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、発電設備、送電設備、変電設備、配電設備、需要家設備などの電力の生産から消費までの設備を含む電力系統において高品質な電力供給を維持するために、電力系統制御システムがある。電力系統の運用者は、電力系統制御システムを利用して、電力系統における特定の計測点の電圧、周波数、電力などの計測結果を用いて、変動する需要家の電力消費に対して、電圧、周波数、潮流などが定められた適正値になるように、系統設備を監視し、各設備を制御する。さらに近年、最適潮流計算などの最適化計算によって、満足度の高い制御値を決定する試みが提案されている。
【0003】
この分野の先行技術として特開2016-111780号公報(特許文献1)がある。特許文献1には、電力系統が有する操作対象設備に対する操作量を算出する操作量算出装置であって、前記操作対象設備に対する操作に伴うコストを算出するための第1算出式、前記電力系統における電圧が不安定になる時の電力需要である安定限界電力までの電力増加量である負荷余裕を算出するための第2算出式、及び前記操作対象設備の運転時の制約条件を取得する取得部と、前記制約条件を満たしつつ、かつ、前記第1算出式及び前記第2算出式から算出される所定の指標値が所定値になるように、前記操作対象設備に対する操作量を算出する操作量算出部と、を備えることを特徴とする操作量算出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-111780号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】関根泰次、外6名,「電力系統の最適潮流計算≪OPF;Optimal Power Flow≫」,一般社団法人日本電気協会,平成14年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、操作の無駄が発生し、操作コストが大きくなるという問題がある。電力系統の制御では、需要などの変化に応じて計算された操作量に従って制御を繰り返す必要があるが、ある操作時間での操作を、次の操作時間では取り消すなど、無駄な操作となり、操作回数が増加する。操作対象の設備の中には、変圧器のタップ切替器や調相設備などの操作回数に応じて保守費用が増加する機器があり、このような機器では操作回数の増加が、保守費用の上昇につながり、操作コストが増加する。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、最適潮流計算に従って電力系統を操作する場合でも、無駄な操作を抑制し、操作コストを低減できる電力系統制御装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願において開示される発明の代表的な一例を示せば以下の通りである。すなわち、電力系統の状態を計測する計測機器から取得した計測値を用いて、前記電力系統の電力潮流を制御する系統制御装置であって、前記電力系統を構成する少なくとも一つの電気機器に適用される設定状態と、当該設定状態が適用される期間の指定とを含む固定窓データを生成する固定窓生成部と、前記固定窓データで指定された期間において、第1の電気機器には前記設定状態を適用し、他の第2の電気機器の動作状態を制御することによって、前記電力系統の電力潮流を制御する実行部と、を備え、前記固定窓生成部は、予め指定された電力総需要の変動幅で定められる期間で前記固定窓データで指定される期間を定めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、系統運用指標の改善と操作コストの低減を両立できる。前述した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の系統制御システムの全体を示す図である。
図2】実施例1の環境状態データの一例を示す図である。
図3】実施例1の機器設定データ一例を示す図である。
図4】実施例1の機器状態データの一例を示す図である。
図5】実施例1の系統構成データの一例を示す図である。
図6】実施例1の電力予測データの一例を示す図である。
図7】実施例1の最適な電力系統状態へ制御する処理のフローチャートの例である。
図8】実施例1の固定窓データを生成する処理のフローチャートの例である。
図9】実施例1の固定窓生成条件データの一例を示す図である。
図10】実施例1の総電力需要の変動と時間窓との関係を示す図である。
図11】実施例1の固定窓データの一例を示す図である。
図12】実施例1の系統制御データの一例を示す図である。
図13】実施例1の固定窓生成条件表示画面の例を示す図である。
図14】実施例1の固定窓データ表示画面の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0012】
<実施例1>
(系統制御システムの構成)
図1は、実施例1の系統制御システム1の全体を示す図である。
【0013】
系統制御システム1は、系統制御装置2及び電力系統3を有し、系統制御装置2と電力系統3とは通信ネットワーク4を介して通信可能に接続される。また、電力情報サーバ8とは第二通信ネットワーク7を介して通信可能に接続される。通信ネットワーク4と第二通信ネットワークは同一でもよい。
【0014】
系統制御装置2は、CPU(Central Processing Unit)やマイクロプロセッサ等のコントローラと、メモリやハードディスクドライブやSSD(Solid State Drive)等の記憶装置と、通信装置とを有した回路やプリント基板やサーバや情報処理装置などで構成される。なお、コントローラがプログラムを実行して行う処理の全部又は一部をハードウェア(例えば、FPGA)で行ってもよい。系統制御装置2は、各種の制御を行う制御部10と、各種の情報を記録(記憶)する記録部20と、所定の条件下で最適解を演算する最適演算部30と、通信ネットワーク4を介して各種の機器と通信する通信部40と、各種の情報が入力される入力部50と、各種の情報を出力する出力部60と、第二通信ネットワーク7を介して電力情報サーバ8と接続される第二通信部70とを有する。
【0015】
制御部10及び最適演算部30は、記憶装置に記憶された各種のプログラムに従ってコントローラが処理を行うソフトウェアによって実現されてもよいし、論理回路等のハードウェアによって実現されてもよい。また、制御部10及び最適演算部30の機能は、単一の装置で実現されるものに限られず、相互に通信可能に接続された複数の装置により実現されてもよい。
【0016】
記録部20は、記憶装置によって構成される。通信部40は、通信装置によって構成される。入力部50は、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、タッチパネル、音声指示装置などの入力デバイスを少なくとも一つを含んで構成される。出力部60は、ディスプレイ装置、プリンタ、音声出力装置などの出力デバイスを少なくとも一つを含んで構成される。
【0017】
コントローラが実行するプログラムは、リムーバブルメディア(CD-ROM、フラッシュメモリなど)又はネットワークを介して系統制御装置2に提供され、非一時的記憶媒体である不揮発性の記憶装置に格納される。このため、系統制御装置2は、リムーバブルメディアからデータを読み込むインターフェースを有するとよい。
【0018】
系統制御装置2は、物理的に一つの計算機上で、又は、論理的又は物理的に構成された複数の計算機上で構成される計算機システムであり、複数の物理的計算機資源上に構築された仮想計算機上で動作してもよい。
【0019】
系統制御装置2は、通信部40に接続された通信ネットワーク4を介して、電力系統3の計測機器5から電力系統3の計測データを取得できる。また、系統制御装置2は、電力系統3の電気機器6に制御指令を送信することによって、電気機器6の動作状態を制御できる。
【0020】
電力系統3は、発電装置によって発電する発電設備(例えば発電所)と、発電設備が発生した電力を消費する需要家設備と、発電設備から需要家設備まで電力を送る電力流通設備(送電設備、変電設備、配電設備等)と、これらの設備の状態を計測する計測機器5とを含む。
【0021】
発電装置は、火力発電、水力発電、原子力発電、地熱発電、太陽光発電、風力発電などを行う装置であるが、他の方法で発電する装置でもよい。電力流通設備は、架空送電線、地中送電線、変圧器、遮断器、調相設備などを含むが、他にも送配電に関わる様々な設備を含んでもよい。
【0022】
計測機器5は、電力系統3の特定の測定箇所における状態を計測する複数の計測装置を示す。計測機器5による計測項目は、電力系統3の電圧、位相、電力などの電力項目と、気温、風速、風向、降水量、日射量などの気象項目と、電気機器6の設定状態及び動作状態の項目と、電力流通設備や発電装置などの電力潮流状態を変化させる機器の動作状態の項目とを含み、他にも様々な項目が計測項目となり得る。測定箇所は、発電設備の母線、変電設備の母線、電力流通設備、需要家設備などを含み、一つの測定箇所に対する計測装置は単数でも複数でもよい。計測機器5は、計測値を通信ネットワーク4を介して、系統制御装置2に送信する。このとき、計測機器5は、計測日時などのメタ情報を計測値と共に送信してもよい。
【0023】
電気機器6は、電力系統3を構成する機器のうち、発電装置、変圧器、遮断器、調相設備などの電力系統3の電力潮流状態を変更するための装置であるが、他の装置を含んでもよい。また、電気機器6は、系統制御装置2が通信ネットワーク4を介して送信した制御指令を受信すると、制御指令に応じて動作状態を変更できる。
【0024】
電力情報サーバ8は、将来の電力情報を提供するサーバである。将来の電力情報には、系統の総需要が含まれる。また、発電機の発電量や、その他電力系統の将来の状態を示すデータが含まれていてもよい。
【0025】
なお、系統制御装置2は、電力情報サーバ8から電力予測データを取得するが、電力予測データの全部又は一部を系統制御装置2自身が生成してもよい。
【0026】
(系統制御システムにおける制御)
系統制御装置2の制御部10は、系統状態取得部101、系統制御生成部102、固定窓データ生成部103及び実行部104を有する。
【0027】
系統状態取得部101は、所定のタイミング(例えば、2秒間隔)で、又は制御部10からの指示時(例えば、ユーザが所望する時刻)に、計測機器5が送信した各種データを通信部40を介して取得し、記録部20の系統状態データ201として計測日時と共に記録する。
【0028】
図1に示すように、系統状態データ201には、環境状態データ211、機器設定データ212、及び機器状態データ213が含まれる。
【0029】
図2は、環境状態データ211の一例を示す図である。環境状態データ211は、電力系統3の特定の箇所において測定されたデータである。
【0030】
環境状態データ211は、負荷(電力系統3において電気を消費する機器)に流れる有効電力、無効電力、発電装置が発電する有効電力、電圧などの情報を含む。図示した例では、環境状態データ211は、通し番号D101、計測日時D102、有効電力D103、及び無効電力D104の情報を含み、特定の測定箇所の値(測定値)を時系列で格納する。なお、計測日時D102、有効電力D103、及び無効電力D104は、測定される項目の一例であり、測定対象の機器によっては、図示と異なる項目を含んでもよい。
【0031】
図3は、電力系統3に接続された電気機器6の機器設定データ212の一例を示す図である。
【0032】
機器設定データ212は、電気機器6の設定状態の情報を含む。図示した例では、機器設定データ212は、通し番号D201、計測日時D202、調相設備1Aの投入量D203、調相設備1Bの投入量D204、変圧器2Aのタップ位置D205、及び変圧器2Bのタップ位置D206の情報を含み、電気機器6の設定を示す情報(設定値)を時系列で格納する。なお、調相設備1Aの投入量D203、調相設備1Bの投入量D204、変圧器2Aのタップ位置D205、及び変圧器2Bのタップ位置D206は、電気機器6の設定に係る項目であり、計測機器5から取得可能な項目の組合せを適宜に採用できる。
【0033】
図4は、電力系統3に接続された電気機器6の機器状態データ213の一例を示す図である。
【0034】
機器状態データ213は、電気機器6、電力流通設備、発電装置等の電力潮流状態を変化させる機器の動作状態を示す情報(動作状態情報)を含む。図示した例では、機器状態データ213は、通し番号D301、計測日時D302、調相設備1Aの動作状態D303、調相設備1Bの動作状態D304、変圧器2Aの動作状態D305、及び変圧器2Bの動作状態D306の情報を含み、電気機器6の動作状態情報を時系列で格納する。調相設備1Aの動作状態D303、調相設備1Bの動作状態D304、変圧器2Aの動作状態D305、及び変圧器2Bの動作状態D306には、遮断器、開閉器などの開閉装置の開閉状態、送電線の送電ステータス等の項目が含まれてもよい。また、機器状態データ213は、電力流通設備、発電装置等の電力潮流状態を変化させる機器の動作状態の項目、計測機器5から取得したその他の機器の動作状態の項目を含んでもよい。
【0035】
図5は、電力系統3における送電線の系統構成データ202の一例を示す図である。
【0036】
系統構成データ202は、記録部20に予め記録され、電力系統3の構成に関わる情報が含まれる。図示した例では、系統構成データ202は、通し番号D401、名称D402、定格電圧D403、基準容量D404、線路長D405、抵抗D406、及びリアクタンスD407の情報を含み、送電線ごとに格納する。系統構成データ202には、電力系統3の解析に必要な情報のうち、電力系統3を構成する機器の項目(パラメータ項目)、機器の相互の電気的な接続形態などの短時間では変化しない項目等の情報が含まれる。図5は、送電線の系統構成データを図示しているが、他の機器については異なる項目を含んでもよい。
【0037】
図6は、電力情報サーバ8が提供する電力予測データ206の一例を示す図である。
【0038】
電力予測データ206は、将来の総需要予測などの将来の電力系統の状態を示す情報を含む。図示した例では、電力予測データ206は、通し番号D801、日時D802、総需要(有効電力)D803の情報を含み、系統の総需要を時系列で格納する。
【0039】
図7は、本実施例での制御部10が最適な電力系統状態へ制御する処理のフローチャートの例である。図7に示す最適電力系統状態制御処理は、入力部50を介した指示又は事前の設定によって最適な電力系統状態の演算及び適用の指示を受けると、制御部10が実行する。例えば、5分間隔など、固定窓の時間幅より短い時間間隔で繰り返し実行するとよい。
【0040】
まず、制御部10は、現在日時で有効な固定窓データ203が存在するかを判定する(S101)。その結果、有効な固定窓データ203が存在しなければ(S101でN)、固定窓データ生成部103が固定窓データを生成する(S102)。一方、有効な固定窓データが存在すれば(S101でY)、系統制御生成部102が該固定窓データを取得する(S103)。
【0041】
次に、制御部10は、固定窓データ203を最適演算部30へ提供し、該固定窓データに基づいて演算された最適な電力系統状態を達成するための系統制御データを取得する(S104)。
【0042】
最適演算部30は、電力損失低減、電圧安定性向上などの所定の目的に最適な電力系統3の状態を演算する。例えば、最適演算部30は、電力損失低減を表わす目的関数を与え、電力系統3の潮流方程式の制約条件や電圧範囲や機器制御可否など、他の等式制約条件及び不等式制約条件を満足する変数の組み合わせの中から、当該目的関数を最小又は最大とする変数の組み合わせを算出する。変数としては、各母線の電圧、調相設備の投入量、変圧器のタップ位置などが使用される。また、最適演算部30は、公知の最適潮流計算技術を用いて変数の組み合わせを算出してもよい(例えば、非特許文献1「電力系統の最適潮流計算」参照)。ただし、本実施例における変数の組み合わせの算出方法は、前述した文献に記載された方法に限定されず、所望の目的に対して、最適な電力系統3の状態を演算する方法であれば、他の方法を用いてもよい。
【0043】
特にステップS104では、最適演算部30は、固定窓データ生成部103によって作成された固定窓データ203の固定窓内で操作量を固定する設備を設定変更の対象とせずに、当該固定窓データで定められる操作量で固定するという条件の下で、電力系統3の最適な状態を達成するための系統制御データを生成する。最適演算部30は、系統制御データを生成する際、最新の系統状態データ201や系統構成データ202を参照してもよい。系統制御生成部102は、最適演算部30が生成した系統制御データを取得し、系統制御データ204として記録部20へ格納する。
【0044】
さらに、実行部104は、ステップS104にて取得した系統制御データに記載された設定値を実現する制御指令を生成し、電力系統3中の制御の対象となる電気機器6に送信する(S105)。
【0045】
また、制御部10は、指定された将来の時刻における最適な電力系統状態の演算及び適用の指示を受けてもよい。将来の時刻を指定された場合には、最適演算部30へ提供される系統状態データ201は、例えば電力予測データ206に含まれる将来の電力系統の状態を示す情報などを利用して生成された将来の電力系統のデータとなり、実行部104は、指定された時刻の系統制御データに記載された設定値を実現する制御指令を生成し、電力系統3中の制御対象となる電気機器6に送信する。
【0046】
図8は、固定窓データ生成部103が固定窓データを生成する処理のフローチャートの例である。
【0047】
固定窓データ生成部103は、制御部10からの要求によって固定窓データの生成を指示された場合、現在日時の固定窓生成条件データ205を取得する(S201)。次に、現在の系統状態に基づき演算された最適な電力系統状態を達成するための系統制御データを、最適演算部30から取得する(S202)。ステップS202では、最適演算部30は、ステップS103で取得した固定窓データ203を適用して固定窓データを生成するステップS104と異なり、固定窓データ203に基づいて操作量を固定する設備は無いという条件の下で、電力系統3の最適な状態を達成するための系統制御データを計算する。最適演算部30は、固定窓データ生成用の系統制御データを生成する際、最新の系統状態データ201や系統構成データ202を参照してもよい。
【0048】
続いて、固定窓生成条件データで設定の固定対象である機器のデータを、取得した系統制御データから抜き出し、抽出された機器のデータを固定窓データ203として登録する(S203)。
【0049】
本実施例では、最適演算部30は、ステップS104とステップS102(ステップS202)の2箇所で動作する。ステップS104では、最適演算部30は、固定窓データ203で定められる設備の操作量で固定するという条件の下で、電力系統3の最適な状態を達成するための系統制御データを生成する。一方、ステップS202では、最適演算部30は、操作量を固定する設備は無いという条件の下で、電力系統3の最適な状態を達成するための系統制御データを計算する。
【0050】
すなわち、操作コストが低い電気設備の最適化で系統運用指標が十分に改善する期間を固定窓として設定し、該固定窓では操作コストが高い設備の操作量を固定した条件で、電力系統3の最適化する演算結果によって、電力系統3を制御する。
【0051】
このため、最適演算部30は、固定窓のタイミングに合わせて固定窓データを生成するが(S102)、運用中の系統制御データは固定窓の時間幅より短い所定のタイミングで生成する(S104)。つまり、固定窓データ203で操作量が固定される機器は長い時間間隔で操作量が変更され、固定窓データ203で操作量が固定されない機器は短い時間間隔で操作量が変更されるように制御される。
【0052】
図9は、本実施例における固定窓生成条件データ205の一例を示す図である。
【0053】
固定窓生成条件データ205は、データを識別可能な識別情報D501、固定窓の開始時刻D502、固定窓の終了時刻D503、及び当該固定窓の期間内で設備の操作可否(操作せずに固定するか)D504~D507の情報を含む。操作可否D504~D507は、電気機器6の操作可否の条件であり、調相設備、発電機以外の機器(遮断器、開閉器など、)について記載してもよい。例えば、識別情報がC1のデータは、固定窓は毎日0時から1時で、この間において調相設備1A、1B…を固定して制御せず、発電機2A、2B…が制御されることを示す。固定窓生成条件データ205では、操作コストが高い設備は、固定窓の期間内で操作不可となり(操作量が固定され)、操作コストが低い設備は、固定窓の期間内でも操作量可能に設定される。
【0054】
固定窓生成条件データ205に含まれる固定窓の開始時刻D502及び固定窓の終了時刻D503は、電力予測データ206に示す将来の総需要が系統運用者により予め定められた一定の変動幅におさまる期間を算出して自動に設定するとよい。総需要が一定の変動幅におさまっていれば、操作コストが低い設備による最適化で十分な系統運用指標改善効果が見込まれるからである。
【0055】
系統運用者により予め定められた一定の変動幅におさまる期間とは、図10に示すように、定められた変動幅で区切った範囲内に電力総需要がおさまる時間範囲であり、電力総需要の変動の状態によって、この期間の長さが変わる。つまり、時間窓の開始時刻の総電力需要から所定の変動幅だけ総電力需要が変化した時刻で当該時間窓の期間が終了する。例えば、図10に示す例において、時間窓2では、総電力需要の変動が時間窓1や3より大きいので、時間窓2の期間は短くなる。一方、時間窓3では、総電力需要の変動が時間窓2や4より小さいので、時間窓3の期間は長くなる。
【0056】
図11は、本実施例における固定窓データ203の一例を示す図である。
【0057】
固定窓データ203は、データを識別可能な識別情報D601、対応する固定窓生成条件データの識別情報D602、この固定窓データが有効となる開始日時D603及び終了日時D604、及び固定窓内で固定する設備の操作量D605~D608の情報を含む。操作量D605~D608は、固定窓の時間内において電気機器6が固定的に操作される操作量であり、固定窓生成条件データ205で操作不可と設定された設備について設定される。操作量D605~D608は、遮断器、開閉器など他の機器について定めてもよい。
【0058】
図12は、電力系統3を所定の状態にするための系統制御データ204の一例を示す図である。
【0059】
系統制御データ204は、データを識別可能な識別情報D701、当該データの生成日時D702、及び制御対象の設備の設定値D703~D706の情報を含む。設定値D703~D706は、電気機器6が制御される設定値であり、調相設備、発電機以外の機器(遮断器、開閉器など、)について定めてもよい。
【0060】
図13は、固定窓生成条件表示画面の例を示す図である。
【0061】
固定窓生成条件表示画面は、メニュー画面から呼び出され、固定窓生成条件データ205の内容を表示する。固定窓生成条件表示画面で表示される固定窓生成条件データ205の内容は、図9で説明したものと同じであるため、詳細の説明は省略する。また、固定窓生成条件表示画面では、固定窓生成条件データ205の一部を表示しても、固定窓生成条件データ205に含まれないデータを併せて表示してもよい。
【0062】
固定窓生成条件表示画面は、固定窓生成条件(各設備毎の操作可否)を変更するための[変更]ボタンや、固定窓生成条件表示画面を閉じて、呼出元のメニュー画面に戻るための[戻る]ボタンを含んでもよい。
【0063】
固定窓生成条件表示画面は、系統制御装置2である情報処理装置(コンピュータ)や、系統制御装置2に接続される端末の表示画面に表示される。系統制御システム1の利用者は、固定窓生成条件表示画面を用いて、各設備毎の操作可否を固定窓(時間帯)ごとに設定できる。
【0064】
図14は、固定窓データ表示画面の例を示す図である。
【0065】
固定窓データ表示画面は、メニュー画面から呼び出され、固定窓データ203の内容を表示する。固定窓データ表示画面で表示される固定窓データ203の内容は、図11で説明したものと同じであるため、詳細の説明は省略する。また、固定窓データ表示画面では、固定窓データ203の一部を表示しても、固定窓データ203に含まれないデータを併せて表示してもよい。
【0066】
固定窓データ表示画面は、固定窓生成条件(操作不可の設備の設定値)を変更するための[変更]ボタンや、固定窓データ表示画面を閉じて、呼出元のメニュー画面に戻るための[戻る]ボタンを含んでもよい。
【0067】
固定窓データ表示画面は、系統制御装置2である情報処理装置(コンピュータ)や、系統制御装置2に接続される端末の表示画面に表示される。系統制御システム1の利用者は、固定窓生成条件表示画面を用いて、各設備毎の操作可否を固定窓(時間帯)ごとに設定できる。
【0068】
以上に説明したように、本発明の実施例の系統制御装置2は、電力系統3を構成する少なくとも一つの電気機器に適用される設定状態と、当該設定状態が適用される期間の指定とを含む固定窓データ203を生成する固定窓データ生成部103と、固定窓データ203で指定された期間において、第1の電気機器には前記設定状態を適用し、他の第2の電気機器の動作状態を制御することによって、電力系統3の電力潮流を制御する実行部104とを備え、固定窓データ生成部103は、電力需要の変動に応じて、固定窓データ203で指定される期間を定めるので、操作コストが低い設備のみの最適化で十分な系統運用指標改善効果が見込まれる期間である固定窓を設定し、固定窓では、操作コストが高い設備の操作量を固定した条件で最適化演算した結果により制御することで、操作コストが大きい設備の操作回数を抑制しつつ、最適化による系統運用指標(例えば、送電ロス)を改善し、系統運用指標の改善と操作コスト低減を両立できる。
【0069】
また、電力系統3の最適状態を演算する最適演算部30を備え、固定窓データ生成部103は、固定窓データ203を生成するタイミングで、電力系統3の最適状態を実現する第1の電気機器の設定状態を最適演算部30から取得し、実行部104は、固定窓データ203を用いた制御中において、電力系統3の最適状態を実現する第2の電気機器の設定状態を最適演算部30から取得するので、より現実に合致する最適化が可能となる。
【0070】
また、固定窓データ203で指定された期間における電気機器の各々の制御可否に関する情報を含む固定窓生成条件データ205を保持し、固定窓データ生成部103は、固定窓生成条件データから固定窓データ203を生成するので、様々な条件(例えば、時間幅)を変更可能となり、柔軟な制御が可能となる。
【0071】
また、固定窓データ生成部103は、固定窓データ203で指定された期間の開始前に固定窓データ203を生成するので、固定窓データ203が繰り返し生成されて、状況に適合した制御が可能となる。
【0072】
また、電力系統3の最適状態を演算する最適演算部30を備え、固定窓データ生成部103は、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、第1の電気機器の設定状態を最適演算部30から取得し、実行部104は、最新の電力系統の状態の計測結果を用いて演算された、第2の電気機器の設定状態を最適演算部30から取得するので、直近のデータを使って、状況に適合した制御が可能となる。
【0073】
なお、本発明は前述した実施例に限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲の趣旨内における様々な変形例及び同等の構成が含まれる。例えば、前述した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに本発明は限定されない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えてもよい。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えてもよい。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をしてもよい。
【0074】
また、前述した各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により、ハードウェアで実現してもよく、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し実行することにより、ソフトウェアで実現してもよい。
【0075】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリ、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に格納することができる。
【0076】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、実装上必要な全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0077】
1 系統制御システム
2 系統制御装置
3 電力系統
4 通信ネットワーク
5 計測機器
6 電気機器
10 制御部
20 記録部
30 最適演算部
40 通信部
50 入力部
60 出力部
101 系統状態取得部
102 系統制御生成部
103 固定窓データ生成部
104 実行部
201 系統状態データ
202 系統構成データ
203 固定窓データ
204 系統制御データ
205 固定窓生成条件データ
211 環境状態データ
212 機器設定データ
213 機器状態データ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14