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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】外断熱壁構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 2/56 20060101AFI20220523BHJP
   E04B 1/80 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
E04B2/56 645B
E04B1/80 100H
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018177840
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2019065691
(43)【公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2017188817
(32)【優先日】2017-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390018717
【氏名又は名称】旭化成建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】秋田 金男
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-280576(JP,A)
【文献】特開2010-275693(JP,A)
【文献】特開平10-061040(JP,A)
【文献】特開2006-083553(JP,A)
【文献】特開2009-243251(JP,A)
【文献】特開2012-144962(JP,A)
【文献】特開平10-140678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56 - 2/70
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の下地壁の前面に断熱パネルを備え、該断熱パネルの外表面に湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造において、
前記下地壁は、縦壁ロッキング構法によって前記建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルで構成されており、
前記複数枚の外壁パネル間の縦目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材が設けられていることを特徴とする外断熱壁構造。
【請求項2】
前記縦目地部の全てが前記バッファ材で覆われている、請求項1に記載の外断熱壁構造。
【請求項3】
前記複数枚の外壁パネル間の横目地部に跨がってバッファ材がさらに設けられている、請求項1または2に記載の外断熱壁構造。
【請求項4】
建築物の下地壁の前面に断熱パネルを備え、該断熱パネルの外表面に湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造において、
前記下地壁は、横張り構法によって前記建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルで構成されており、
前記複数枚の外壁パネル間の横目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材が設けられていることを特徴とする外断熱壁構造。
【請求項5】
前記横目地部の全てが前記バッファ材で覆われている、請求項4に記載の外断熱壁構造。
【請求項6】
前記複数枚の外壁パネル間の縦目地部に跨がってバッファ材がさらに設けられている、請求項4または5に記載の外断熱壁構造。
【請求項7】
前記バッファ材の少なくとも一方の表面が粘着性を有しており、前記複数枚の外壁パネル間に貼り付けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載の外断熱壁構造。
【請求項8】
前記バッファ材はブチルテープである、請求項7に記載の外断熱壁構造。
【請求項9】
前記バッファ材の少なくとも一方の表面が接着性を有している、請求項1~6のいずれか一項に記載の外断熱壁構造。
【請求項10】
前記外壁パネルは、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル、プレキャストコンクリート(PCa)パネル、押出成形セメント板(ECP)のいずれかである、請求項1~9のいずれか1項に記載の外断熱壁構造。
【請求項11】
前記断熱パネルは、フェノール樹脂(PF)、ビーズ発泡ポリスチレン(EPS)、押出発泡ポリスチレン(XPS)、ロックウール(RW)のいずれかで構成されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の外断熱壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外断熱壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の断熱性能を高める手段の一つとして、建築物の下地壁の前面に断熱パネルを貼り付け、該断熱パネルの外表面側にモルタル等の湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
外断熱壁構造は、地震等によるゆれに対して変形が小さなRC構造の建築物に適用されてきたが、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル等の複数枚の外壁パネルで構成された下地壁を備え、ゆれに対して大きく変形する木造や鉄骨構造の建築物についても、外断熱構法の要望が高まっている。
【0004】
複数枚の外壁パネルを、その長手方向を垂直方向に向けて幅方向に並べた縦壁構造を有する建築物において、地震等によって建築物が変形した際に、外壁パネルの層間変位に対して追従させる構法の代表的なものとして、縦壁スウェイ構法(縦壁スライド構法)および縦壁ロッキング構法がある。
【0005】
縦壁スライド構法は、複数枚の外壁パネルの下部を建築物の躯体に固定し、パネル上部を面内方向に可動とした外壁パネルの取り付け構法であり、外壁パネルが面内水平方向にずれることによって、外壁パネルの層間変位に対して追従するように構成されている。
【0006】
一方、縦壁ロッキング構法は、外壁パネルの上部及び下部に内設したアンカーに固定した取り付け金物を、外壁パネルが回転可能なピン支持となるように下地鋼材に固定し、パネル重量を下中央部に位置する自重受け金物で支持する外壁パネルの取り付け構法である。縦壁ロッキング構法では、個々の外壁パネルが回転することによって、外壁パネルの層間変位に追従するように構成されており、縦壁構造の中で最も高い追従性能を有している。
【0007】
これら2つの構法のうち、縦壁スライド構法による下地壁については、外断熱壁構造が提案されている。例えば、非特許文献1及び2には、外壁パネル間の横目地(水平目地)部に対応する断熱パネルの位置に伸縮目地を設けることにより、外壁パネルの層間変位に対して追従するように構成された外断熱壁構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-146400号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】塚本忠、石垣泰樹、関口高正、河辺伸二、「湿式外断熱工法としたALC帳壁の変形性能試験 その1 試験概要および試験構法」、日本建築学会学術講演梗概集、2004年8月
【文献】塚本忠、石垣泰樹、関口高正、河辺伸二、「湿式外断熱工法としたALC帳壁の変形性能試験 その2 試験結果および考察」、日本建築学会学術講演梗概集、2004年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これに対して、縦壁ロッキング構法による下地壁への外断熱壁構造は、これまでのところ提案されていない。そこで、本発明の目的は、下地壁に対する外断熱壁構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は以下の通りである。
【0012】
[1]建築物の下地壁の前面に断熱パネルを備え、該断熱パネルの外表面に湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造において、
前記下地壁は、縦壁ロッキング構法によって前記建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルで構成されており、
前記複数枚の外壁パネル間の縦目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材が設けられていることを特徴とする外断熱壁構造。
【0013】
[2]前記縦目地部の全てが前記バッファ材で覆われている、前記[1]に記載の外断熱壁構造。
【0014】
[3]前記複数枚の外壁パネル間の横目地部に跨がってバッファ材がさらに設けられている、前記[1]または[2]に記載の外断熱壁構造。
【0015】
[4]建築物の下地壁の前面に断熱パネルを備え、該断熱パネルの外表面に湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造において、
前記下地壁は、横張り構法によって前記建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルで構成されており、
前記複数枚の外壁パネル間の横目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材が設けられていることを特徴とする外断熱壁構造。
【0016】
[5]前記横目地部の全てが前記バッファ材で覆われている、前記[4]に記載の外断熱壁構造。
【0017】
[6]前記複数枚の外壁パネル間の縦目地部に跨がってバッファ材がさらに設けられている、前記[4]または[5]に記載の外断熱壁構造。
【0018】
[7]前記バッファ材の少なくとも一方の表面が粘着性を有しており、前記複数枚の外壁パネル間に貼り付けられている、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の外断熱壁構造。
【0019】
[8]前記バッファ材はブチルテープである、前記[7]に記載の外断熱壁構造。
【0020】
[9]前記バッファ材の少なくとも一方の表面が接着性を有している、前記[1]~[6]のいずれか一項に記載の外断熱壁構造。
【0021】
[10]前記外壁パネルは、軽量気泡コンクリート(ALC)パネル、プレキャストコンクリート(PCa)パネル、押出成形セメント板(ECP)のいずれかである、前記[1]~[9]のいずれか1項に記載の外断熱壁構造。
【0022】
[11]前記断熱パネルは、フェノール樹脂(PF)、ビーズ発泡ポリスチレン(EPS)、押出発泡ポリスチレン(XPS)、ロックウール(RW)のいずれかで構成されている、前記[1]~[10]のいずれか1項に記載の外断熱壁構造。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、下地壁に対する外断熱壁構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る外断熱壁構造の一例の平面図である。
図2図1に示した外断熱壁構造における縦目地部の拡大図である。
図3】縦目地部の相対変位を説明する図である。
図4】建築物が変形した際の横張りスライド構法によって建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルの挙動を示す図である。
図5】本発明に係る横張りスライド構法による外断熱壁構造における横目地部の拡大図である。
図6】木造建築における横張り構法による壁構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。本発明に係る外断熱壁構造は、建築物の下地壁の前面に断熱パネルを備え、該断熱パネルの外表面に湿式塗り仕上げを施してなる外断熱壁構造である。ここで、下地壁は、縦壁ロッキング構法によって建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルで構成されており、外壁パネル間の縦目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材が設けられていることを特徴とする。
【0026】
図1は、本発明による外断熱壁構造の一例の平面図を示している。また、図2は、図1に示した外断熱壁構造における縦目地部の拡大図を示しており、図1と同じ構成には同じ符号が付されている。
【0027】
本発明者は、縦壁ロッキング構法による下地壁に対する外断熱壁構造を検討した。上述のように、非特許文献1及び2に記載された縦壁スライド構法による下地壁への外断熱壁構造では、外壁パネル間の横目地(水平目地)部に対応する断熱パネルの位置に伸縮目地を設けることにより、外壁パネルの層間変位に対して追従するように構成されている。
【0028】
しかし、縦壁ロッキング構法による下地壁においては、地震等のゆれによって、横目地部のみならず、縦目地(垂直目地)部も含めた全ての目地部が動く。そのため、全ての目地部を伸縮目地で構成しようとすると、目地部の総長さが長く、コストや手間等の点で現実的ではない。
【0029】
一般に、断熱パネルは柔軟性を有する断熱材で構成されている。そのため、断熱パネルに目地部を設けずに縦壁パネルに貼り付けた場合であっても、外壁パネルがロッキング(回転)に対して断熱パネル自体が変形することによって、外壁パネルの層間変位にある程度追従できると考えられる。しかしながら、断熱パネルが外壁パネルの層間変位に十分に追従できず、剥離する虞はある。
【0030】
本発明者は、これらの事項を考慮の上、縦壁ロッキング構法による下地壁に対する外断熱壁構造について鋭意検討した。その結果、外壁パネル間の縦目地部を跨ぐようにシート状のバッファ材を設けることが、全ての目地部に伸縮目地を設けることなく外壁パネル間の縦目地部に発生する相対変位を吸収して、断熱パネルの剥離を抑制する上で極めて有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、各構成について説明する。
【0031】
-下地壁-
本発明に係る外断熱壁構造1においては、下地壁11は、縦壁ロッキング構法によって建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネル11aで構成されている。外壁パネル11aとしては、軽量気泡コンクリート(ALC)パネルやプレキャストコンクリート(PCa)パネル、押出成形セメント板(ECP)等を用いることができる。
【0032】
なお、図1の外断熱壁構造1においては、外壁パネル11aはALCパネルで構成されており、図2に示すように、隣接する外壁パネル11a同士は、小口面の本実部11c、11dが凹凸状に嵌り合うように設置されている。本実部11c、11dに対して外壁パネル11aの外表面側の縦目地部11bの隙間には、シーリング材としてのウレタン系シール11eが充填されている。また、ウレタン系シール11eによる三面接着を防止するためのバックアップ材11fが内装されている。
【0033】
また、図1図2では、隣接する外壁パネル11aを、実目地構造として、押し付けるように施工する場合の形状を示しており、縦目地部11bの隙間寸法は通常1mm前後となるが、このような実目地の突きつけ目地構造に限るものではない。例えば、縦目地部11bの隙間寸法を20mm程度確保して、その間に耐火目地材を充填する構造などであってもよい。
【0034】
-断熱パネル-
断熱パネル12としては、任意の断熱材で構成された断熱パネルを用いることができる。例えば、工場などで樹脂を発泡させて成型された断熱パネルを用いることができる。あるいは、建設現場などで断熱材を吹付けて形成されたものを用いることもできる。発泡体のみからなる断熱パネルでも、発泡体の少なくとも一方の表面に面材が積層一体化されてなる断熱パネルでもよい。
【0035】
ここで、断熱パネル12は、フェノール樹脂フォーム(PF)、ビーズ発泡ポリスチレン(EPS)、押出発泡ポリスチレン(XPS)、ロックウール(RW)などの、断熱材として使用しうる既知の材料で構成することができる。中でも、難燃性に優れる点から、断熱パネル12の材料としては、フェノール樹脂フォームを用いることが好ましい。また、断熱パネル12として、フェノール樹脂フォームなどを用いる場合の面材としては、不織布、織布、紙類、金属箔などの既知の面材を用いることができる。
【0036】
-バッファ材-
バッファ材13は、シート状の部材であり、外壁パネル11a間の縦目地部11bを跨ぐように配置されており、外壁パネル11aがロッキングした際に生じる外壁パネル11aの層間変位を吸収して、外壁パネル11aに貼り付けられた断熱パネル12が剥離するのを抑制する。
【0037】
バッファ材13は、その少なくとも一方の表面に粘着性を有するように構成し、外壁パネル11a間の縦目地部11bに貼り付けることができる。これにより、後に行う断熱パネル12の貼り付け施工等を容易に行うことができるようになる。なお、「バッファ材13が粘着性を有する」とは、外壁パネル11aがロッキングした際に、バッファ材13の外壁パネル11aへの貼り付けが維持されつつ、バッファ材13の粘着性を有する部分に、粘着性の性質によって、変形や流動が生じる状態を意味している。
【0038】
バッファ材13の少なくとも一方の表面が粘着性を有するように構成する場合、バッファ材13は、外壁パネル11aのロッキングに追従できるよう、粘弾性を有する材料で構成することが好ましい。こうした一方の表面が粘着性を有するバッファ材13として、ブチルテープやアクリルテープなど、合成樹脂系粘着剤テープ等を用いることができる。中でも、縦目地部11b間の相対変位による力が作用するに伴い、粘性(レオロジー性)を示して流動変形しやすい点から、ブチルテープを用いることが好ましい。
【0039】
また、バッファ材13としては、ブチル系やゴム系等の適切な粘着性材料を縦目地部11bに塗布して乾燥させたものとしてもよい。例えば、縦目地部11bに溶融したブチル系材料を塗布して乾燥させ、得られた粘着層をバッファ材13とすることもできる。
【0040】
また、バッファ材13は、その少なくとも一方の表面を接着性を有するように構成することもできる。なお、「バッファ材13が接着性を有する」とは、外壁パネル11aがロッキングした際に、バッファ材13と外壁パネル11aとの接着、あるいは、バッファ材13と断熱パネル12との接着が切れて変位に追従することを意味している。バッファ材13と外壁パネル11aとの接着が切れるためには、断熱パネル12をバッファ材13に接着する接着剤14の接着力よりも、バッファ材13の一方の表面に設けた外壁パネル11a側の接着剤の接着力が弱いことが望ましい。また、バッファ材13と断熱パネル12との接着が切れるためには、断熱パネル12をバッファ材13に接着する接着剤14の接着力よりも、バッファ材13の一方の表面に設けた外壁パネル11a側の接着剤の接着力が強いことが望ましい。こうしたバッファ材13としては、マスキングテープ、ガムテープ、養生テープ、クラフトテープや、接着剤の付いていない紙テープ等をそのまま接着するか、必要に応じて接着剤を塗布するなどして用いることができる。バッファ材13の外壁パネル11a側の表面が非接着性であると、タッカーなどで仮止めしなくてはならないばかりでなく、工事途中で、飛散する虞もあるため、接着性を示すものを用いることが好ましい。
なお、建築現場で、バッファ材13側に接着剤等を塗って接着できるだけではなく、状況に応じて、外壁パネル11a側に接着剤等を塗って接着することもできる。
【0041】
上記バッファ材13の設置は、断熱パネル12、下地層15、塗仕上げ層17への損傷を抑制する効果の点から、縦目地部11bの総長さの50%以上行うことが好ましく、80%以上行うことがより好ましく、90%以上行うことがさらに好ましく、縦目地部11bの全てを覆うように行うことが最も好ましい。
【0042】
バッファ材13の幅Wは、60mm以上とすることが好ましい。これにより、外壁パネル11aの層間変位に対して十分な追従性能を得ることができる。より好ましくは75mm以上であり、さらに好ましくは80mm以上である。また、外壁パネル11aの層間変位に対して十分な追従性能の点では、バッファ材13の幅Wの上限は特に存在しないが、断熱パネル12の外壁パネル11aへの接着性の点から、200mm以下とすることが好ましい。バッファ材13の幅Wは、より好ましくは150mm以下であり、さらに好ましくは120mm以下である。なお、ここでは、軽量気泡コンクリート(ALC)パネルの標準幅寸法600mmを想定して記述したが、パネル幅が600mmと異なる場合には、バッファ材13の幅Wは、パネル幅に対する割合いで考えればよい。例えば、60mmなら10%(=60÷600×100)、120mmなら20%(=200÷600×100)である。
【0043】
粘着性のテープを使う場合、特に、片面ブチルテープの場合、バッファ材13の厚みは、0.45mm以上とすることが好ましい。これにより、外壁パネル11aの層間変位に対して十分な追従性能を得ることができる。より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1mm以上である。また、一般に、断熱パネル12を外壁パネル11aに接着する接着層の厚みは、3~4mm程度であることが多く、その寸法に収めるために、それより小さい寸法で、バッファ材13の厚みは、2mm以下とすることが好ましい。
【0044】
-接着剤-
外壁パネル(下地壁)11aに断熱パネル12を貼り付けるため(及び断熱パネル12とバッファ材13とを接着するため)の接着剤14としては、モルタル(樹脂モルタル)や既知の建築用接着剤を用いることができる。なお、接着剤14は、外壁パネル11aの全面に塗布する必要はなく、外壁パネル11aに断熱パネル12を貼り付け可能であれば、ビード状、点状に塗布するなど、外壁パネル11aの一部のみに塗布してもよい。
【0045】
-下地層-
また、下地層15としては、特に限定されることなく、モルタルなどの既知の下地材を用いて形成した層を用いることができ、補強材16としては、特に限定されることなく、耐アルカリ性ガラス繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等を用いて形成した補強メッシュ等を用いることができる。そして、下地層15および補強材16は、断熱パネル12の外表面に補強材16を介して下地材を塗りつけることにより、断熱パネル12の前面に設けることができる。
【0046】
-塗り仕上げ層-
塗り仕上げ層17は、本発明による外断熱壁構造1においては、モルタルや塗料などの既知の仕上げ材を湿式塗り仕上げしてなる層とする。
【0047】
上述のように、本発明による外断熱壁構造1では、バッファ材13によって、外壁パネル11aの縦目地部11bに発生する相対変位を吸収することができる。図3に示すように、縦目地部11bにおいて発生する相対変位は、パネル幅が600mmの場合で、層間変位が1/100の場合には、6mmになる。
【0048】
なお、本発明による外断熱壁構造1において、複数枚の外壁パネル11a間の横目地部に跨がってバッファ材をさらに設けることが好ましい。これにより、外壁パネル11aがロッキングした際の変形をより吸収して、断熱パネル12の剥離の抑制効果をより高めることができる。このバッファ材としては、縦目地部11bに設けたバッファ材13と同じ構成のものを使用することができる。
【0049】
このように、本発明による外断熱壁構造は、伸縮目地を用いることなく、外壁パネルの層間変位に追従することができ、外壁パネルに貼り付けられた断熱パネルの剥離を抑制することができる。
【0050】
また、本発明によれば、外装パネルの縦目地部に跨がってバッファ材を貼り付けることによって外断熱壁構造を構成することができるため、新築の建築物のみならず、縦壁ロッキング構法による下地材を備える既存の建築物に対しても、外断熱壁構造を容易に構成することができる。
【0051】
以上、本発明に係る縦壁ロッキング構法による外断熱壁構造について説明したが、本発明者が更に検討を進めた結果、横張りスウェイ(スライド)構法による外断熱壁構造についても、上述した本発明の特徴的な構成を用いて構成できることが分かった。
【0052】
すなわち、上述した本発明に係る縦壁ロッキング構法による外断熱壁構造1においては、外壁パネル11a間の縦目地部11bを跨ぐようにシート状のバッファ材13が設けられている。これにより、地震等によって建築物が変形した際に、外壁パネル11a間の縦目地部11bに発生する層間変位を吸収して、断熱パネル12の剥離を抑制することができる。
【0053】
上述のような外壁パネルの層間変位は、縦壁ロッキング構法による壁構造のみならず、横張りスライド構法による壁構造でも同様に生じる。図4は、建築物が変形した際の横張りスライド構法によって建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネルPの挙動を示している。横張りスライド構法による壁構造においては、複数枚の外壁パネルPはその長手方向が水平方向に向けらて並べられており、パネルPは躯体に固定され、パネルP相互がスライドするように構成されている。そして、壁構造が変形すると、複数枚の外壁パネルPが互いに水平方向にスライドし、外壁パネルP間の横目地(水平目地)部に層間変位が生じる。
【0054】
上記横目地部での層間変位は、上述した縦壁ロッキング構法による外断熱壁構造1において縦目地部で生じるものと同様である。従って、上述した本発明による縦壁ロッキング構法の外断熱壁構造1におけるバッファ材13を、横張りスライド構法によって建築物の躯体に取り付けられた外壁パネル間の横目地部を跨ぐように設けることによって、横張りスライド構法による湿式外断熱壁構造を実現することができる。
【0055】
図5は、本発明に従う横張りスライド構法による外断熱壁構造における横目地部の拡大図を示している。図5に示した外断熱壁構造2において、下地壁21は、横張りスライド構法によって建築物の躯体に取り付けられた複数枚の外壁パネル21aで構成されている。そして、該複数枚の外壁パネル21a間の横目地部21bを跨ぐようにシート状のバッファ材23が設けられている。
【0056】
外壁パネル21aはALCパネルで構成されており、図5に示すように、隣接する外壁パネル21a同士は、小口面の本実部21c、21dが凹凸状に嵌り合うように設置されている。本実部21c、21dに対して外壁パネル21aの外表面側の横目地部21bの隙間には、シーリング材としてのウレタン系シール21eが充填されている。また、ウレタン系シール21eによる三面接着を防止するためのバックアップ材21fが内装されている。
【0057】
断熱パネル22は、接着剤24によって外壁パネル(下地壁)21aに貼り付けられている。そして、断熱パネル22の表面には、下地層25、補強材26及び塗り仕上げ層27が順次設けられており、こうして本発明に従う横張りスライド構法による外断熱壁構造2が構成されている。
【0058】
上記外断熱壁構造2における各構成の詳細は、上述した縦壁ロッキング構法による外断熱壁構造1と同様とすることができる。外断熱壁構造2において、横目地部21bの全てがバッファ材23で覆われていることが好ましいこと、複数枚の外壁パネル21a間の横目地部21bのみならず、縦目地部に跨がってバッファ材23がさらに設けられていることが好ましいことは、縦壁ロッキング構法による外断熱壁構造1と同様である。
【0059】
図6は、木造建築において、外壁パネルが横張り構法で建築物の躯体に取り付けられた壁構造を示している。この図に示した壁構造においては、柱28および間柱29が所定の間隔で平行に設けられており、外壁パネル21aがその長手方向が水平方向に平行となるように、木ねじSによって柱28及び間柱29に固定されている。このような壁構造においては、外壁パネル21aの取り付け構法はスライド構法と呼称されているわけではなく、かつ、外壁パネル21aは明確なスライド機構で躯体(柱28及び間柱29)に固定されているわけではない。しかし、壁構造が変形した際の外壁パネル21aの挙動は、図4に示した横張りスライド構法の場合とほぼ同様である。よって、図6に示した壁構造に上述したバッファ材23を適用したものについても、本発明に係る横張り構法による外断熱壁構造に含まれる。図6に示した木造建築においては、各構成の詳細は木造建築に合わせて適切に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、下地壁に対する外断熱壁構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0061】
1,2 外断熱壁構造
11,21 下地壁
11a,21a,P 外壁パネル
11b 縦目地部
11c,11d,21c,21d 本実部
11e,21e ウレタン系シール
11f,21f バックアップ材
12,22 断熱パネル
13,23 バッファ材
14,24 接着剤
15,25 下地層
16,26 補強材
17,27 塗り仕上げ層
21b 横目地部
28 柱
29 間柱
S 木ねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6