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特許7077211アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置
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  • 特許-アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置 図1
  • 特許-アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置 図2
  • 特許-アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置 図3
  • 特許-アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】アンカー埋め込み用孔の構造および溝形成装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/80 20060101AFI20220523BHJP
   B28D 1/14 20060101ALI20220523BHJP
   B28D 1/18 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
E02D5/80 Z
B28D1/14
B28D1/18
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018221207
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2020084601
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】596105208
【氏名又は名称】第一カッター興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 仁志
(72)【発明者】
【氏名】金木 洵太朗
(72)【発明者】
【氏名】土井 康平
(72)【発明者】
【氏名】内田 健
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-074741(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160805(JP,U)
【文献】特開2003-062827(JP,A)
【文献】特開2014-156698(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/80
B28D 1/14
B28D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔の内周面に対し、該内周面の下半部にのみ溝部を形成してあることを特徴とする、
アンカー埋め込み用孔の構造。
【請求項2】
前記下半部が、前記孔の下半周の一部または全部であることを特徴とする、請求項1に記載のアンカー埋め込み用孔の構造。
【請求項3】
前記溝部を、前記孔の長手方向に複数設けてあることを特徴とする、
請求項1または2に記載のアンカー埋め込み用孔の構造。
【請求項4】
水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔の内周面に対し、該内周面の下半部にのみ溝部を形成するための溝形成装置であって、
駆動源と、
駆動源によって回転可能な、ロッドと、
前記ロッドの先端に設けた、ブレードと、
前記ブレードを前記下半部にのみ接触可能とするように、前記孔内でのロッドの移動を規制する、案内部と、
を有することを特徴とする、
溝形成装置。
【請求項5】
前記案内部が、
前記孔と略同径を呈する、筒体と、
前記筒体の先端近傍に設け、前記ロッドの挿通孔を有する、基板と、からなり、
前記挿通孔が、前記ブレードを前記下半部にのみ接触可能とするように、前記ロッドの移動を規制する形状を有することを特徴とする、
請求項4に記載の溝形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に削孔したアンカー埋め込み用孔の構造および、当該孔構造を形成するための溝形性装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒ディッチ工法などにおいて、削孔対象物にアンカー埋め込み用の孔(以下、単に「孔」ともいう。)を形成する際に、コアドリルを用いる場合がある。
コアドリルで形成した孔は、孔の内周面が平滑となるため、アンカーの引き抜き抵抗を高める目的で内周面に凹凸を設けることがある。
例えば、以下の特許文献1では、孔の内周面の全周にわたって溝切りを行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3160805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、削孔対象物に対し、水平方向に孔を形成する際に、上記特許文献1に記載の形成装置を用いた場合、孔の内周面の上側にも溝が形成されうるため、その後に充填する充填材が、上側の溝に回りこめずに充填不良を起こす懸念があった。
【0005】
よって、本発明は、水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔において、充填不良の懸念を解消可能な手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔の内周面に対し、該内周面の下半部にのみ溝部を形成してあることを特徴とする、アンカー埋め込み用孔の構造を提供するものである。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記下半部が、前記孔の下半周の一部または全部であることを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、前記溝部を、前記孔の長手方向に複数設けてあることを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔の内周面に対し、該内周面の下半部にのみ溝部を形成するための溝形成装置であって、駆動源と、駆動源によって回転可能な、ロッドと、前記ロッドの先端に設けた、ブレードと、前記ブレードを前記下半部にのみ接触可能とするように、前記孔内でのロッドの移動を規制する、案内部と、を有することを特徴とするものである。
また、本願の第5発明は、前記第4発明において、前記案内部が、前記孔と略同径を呈する、筒体と、前記筒体の先端近傍に設け、前記ロッドの挿通孔を有する、基板と、からなり、前記挿通孔が、前記ブレードを前記下半部にのみ接触可能とするように、前記ロッドの移動を規制する形状を有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果を奏する。
(1)水平方向にアンカー埋め込み用の孔の内周面の上半部に溝部を形成することなく、下半部のみに溝部を形成するため、充填材の充填不良を起こすことなく、アンカーの引き抜き抵抗力の向上を実現することができる。
(2)溝部を孔の長手方向に複数設けることで、アンカーの引き抜き抵抗力をさらに向上させることができる。
(3)溝形成装置が、駆動源によって回転可能なロッドの孔内での移動を規制する案内部を有することで、ロッドの先端に設けたブレードが孔の下半部にのみ接触可能となり、下半部のみに溝部を形成する作業を、簡単かつ確実に実施することができる。
(4)案内部を、孔と略同径を呈する筒体と、筒体の先端近傍に設けて、前記ロッドの挿通孔を有する基板とで構成し、挿通孔の形状を調整することで、ロッドの移動を許容する位置を任意に調整することができ、その結果、孔の内周面に対するブレードの接触箇所も任意に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1に係る溝形成装置の全体構成を示す概略図。
図2】基板に設けた挿通孔を示す概略図。
図3】溝形成装置の使用手順を示す概略図
図4】溝部の断面形状を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0010】
<1>全体構成
図1に、本発明に係る溝形成装置の構成を示す。
本発明に係る溝形成装置は、ドリル部Aと、案内部Bとを有して構成する。
以下、各部の詳細について説明する。
【0011】
<2>ドリル部(図1
ドリル部Aは、アンカー埋め込み用の孔Yに挿入して、孔Yの内周面に溝部Zを形成するための装置である。
本実施例では、ドリル部Aを、ハンドル部分に内蔵した駆動源10と、駆動源10によって回転可能なロッド20と、前記ロッド20の先端に設けたブレード30と、を少なくとも有して構成している。
【0012】
<2.1>駆動源
駆動源10は、ロッド20に回転力を付与するための要素である。
駆動源10には、ロッド20を回転可能なモータ機構、油圧機構、エンジン機構などの公知の機構を採用することができる。
【0013】
<2.2>ロッド
ロッド20は、駆動源10からの回転力を先端に設けたブレード30に伝えるための要素である。
ロッド20は、アンカー埋め込み用の孔Yに挿入する長さに応じて適宜設定された長さを有する長尺部材である。
本実施例では、ロッド20の後端を、駆動源10を内蔵したハンドル部分に接続している。
ロッド20は、該ロッド20の長手方向に対して複数の分割体を連結した構成とすることができる。この分割体の連結数を変更することで、ロッド20の長さを溝形成装置の挿入長に応じて調整することができる。
【0014】
<2.3>ブレード
ブレード30は、ロッド20と共に回転することで、アンカー埋め込み用の孔Yの内周面を掘削するための部材である。
ブレード30は、ロッド20の先端に固定されている。
ブレードの径は、アンカー埋め込み用の孔Yに挿入可能な径を有していればよく、後述する筒体40と同径であっても良い。
ブレード30は、削孔対象物Xを切削可能な公知の部材を採用することができる。
【0015】
<3>案内部(図1
案内部Bは、ドリル部Aを構成するブレード30が孔Yの内周面の下半部にのみ接触可能となるように、孔内でのロッド20の移動を規制するための要素である。
本発明における「下半部」とは、孔Yの内周面の下半分の領域に厳密に限定するものではない。例えば、孔Yが奥に向かって下方に傾斜している場合には、「下半部」は孔Yの内周面の下半分よりも上方へと拡張した態様であってもよい。
本実施例では、案内部Bを、アンカー埋め込み用の孔Yと略同径を呈する筒体40と、前記筒体40の先端近傍に設けて前記ロッド20の挿通孔51を有する基板50と、で構成している。
【0016】
<4>筒体
筒体40は、ブレード30の近傍で、基板50を所定位置に設定するための部材である。
筒体40の外径は、アンカー埋め込み用の孔Yと略同径を呈しており、少なくともロッド20の一部または全部の周囲を覆う位置に配置される。
筒体40は、筒の軸方向に対して複数の分割体を連結した構成とすることができる。この分割体の連結数を変更することで、筒体40の長さを溝形成装置の挿入長に応じて調整することができる。
【0017】
<4.1>目印の付与(図2
図2に示すように、筒体40には、後述する基板50に設けた挿通孔51の向きや姿勢を把握可能な目印41を設けておくことも出来る。
この目印41を筒体40の少なくとも後端側に設けておけば、溝形成装置を孔内に挿入した後でも、ロッド20の移動の許容方向が所望の向きに設定されているかを、容易に確認することができる。
【0018】
<5>基板(図2
基板50は、該基板50に挿通した状態のロッド20の移動を所定の方向に規制するための部材である。
図2に示すように、基板50は、筒体40の前端をほぼ塞ぐ板状の部材に前後に貫通した挿通孔51を設けて構成する。挿通孔51は、該挿通孔51に挿通したロッド20の移動が可能となるようにロッド20の径よりも余裕を持たせた形状とすることで、ロッド20の移動を挿通孔51の孔内のみに規制する。
本発明において、挿通孔51の形状は本例に限定しないが、図2では挿通孔51を基盤の中央から外周側に伸ばした長穴の楕円形状としている。
【0019】
<6>その他の変形例
本発明に係る溝形成装置は、案内部Bによるロッド20の移動を許容する方向を変更自在に構成してもよい(図示せず)。
【0020】
例えば、案内部Bを構成する筒体40と基板50が一体化してある場合には、筒体40を回転させることで挿通孔51の向きを調整して、溝部Zの形成箇所を調整することができる。この場合、上述したように、筒体40の後端に挿通孔51の向きを示す目印を設けておくと、作業員の確認が容易である。
【0021】
また、削孔対象物Xに対し筒体40を固定する向きが限定されている場合には、基板50を、筒体40に対して回転可能な態様で取り付けておいてもよい。
この場合、筒形成装置を孔に挿入する前に、筒体40に対する基板50の回転角度を予め規定してから使用すればよい。
【0022】
<7>使用方法(図3
上記した溝形成装置の使用方法の一例について、図3を参照しながら説明する。
【0023】
(1)溝形成装置の位置決め(図3(a))
コアドリルなどの公知の削孔装置によって削孔対象物Xに形成した水平方向の孔Yの内部に、溝形成装置を挿入する。
この「水平方向」とは、水平だけでなく略水平も含まれる。
溝形成装置が、所定の位置(深さ)に到達し、筒体40に事前に付与あるいは都度マーキングした目印を利用して基盤に設けた挿通孔51が所定の向きに設定されていることを確認したのち、案内部Bを構成する筒体40を、孔外に設けたプレート61やボルト62などの公知の固定手段で削孔対象物Xと固定し、筒体40の安定化を図る。
【0024】
(2)溝切り作業の実施(図3(b))
ドリル部Aの回転動作を開始し、挿通孔51にあわせてロッド20の位置を移動することで、孔の内周面のうち下半部のみを切削して溝部Zを形成する。
ロッド20の移動は挿通孔51の孔内に制限されているため、ロッド20やブレード30が孔の上方に移動することはない。
また、挿通孔51は、溝切りを行うブレード30のブレの抑制にも寄与する。
溝切りが進むとロッド20の回転抵抗が低下するため、時間確認とともに、駆動源10を停止し、溝切り作業を終了する。
図4に示すように、孔の内周面の下半部には、ブレード30の外径に沿った軌跡の溝部Zが形成される。
【0025】
(3)溝形成装置の移動(図3(c))
溝部Zの形成後は、筒体40と削孔対象物Xとの固定を解き、筒体40の後端側の分割体を取り除きながら溝形成装置を所定距離後退させて、再度、上記(1)に係る溝形成装置の位置決め作業を行う。
【0026】
(4)孔構造の完成(図示せず)
前記(2)(3)の作業を適宜繰り替えて、水平方向に削孔したアンカー埋め込み用の孔の内周面に対し、所定の箇所および数の溝部Zを形成した孔構造を完成する。
【0027】
(5)充填材の注入およびアンカーの設置(図示せず)
孔構造の完成後は、孔Yの内部への充填材の注入作業とアンカーの設置作業を行う。充填作業とアンカーの設置作業の順番は特段限定しない。
注入した充填材は重力によって溝部Zに流れ込むため、孔内に充填材を密に充填することができる。
【0028】
(6)まとめ
このように、溝部Zに充填材が確実に充填された状態でアンカーを設置することができるため、水平方向の孔Yであっても、充填材の充填不良を起こすことなく、アンカーの引き抜き抵抗力を確実に向上させることができる。
【符号の説明】
【0029】
A ドリル部
10 駆動源
20 ロッド
30 ブレード
B 案内部
40 筒体
50 基板
51 挿通孔
61 プレート
62 ボルト
X 削孔対象物
Y 孔
Z 溝部
図1
図2
図3
図4