(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】非組み換えヒトインスリン様成長因子結合タンパク質の濃縮物
(51)【国際特許分類】
G01N 33/531 20060101AFI20220523BHJP
G01N 33/96 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G01N33/531 A
G01N33/96
(21)【出願番号】P 2018534676
(86)(22)【出願日】2016-12-28
(86)【国際出願番号】 US2016068901
(87)【国際公開番号】W WO2017117236
(87)【国際公開日】2017-07-06
【審査請求日】2019-12-16
(32)【優先日】2015-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507269175
【氏名又は名称】シーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】SIEMENS HEALTHCARE DIAGNOSTICS INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】特許業務法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】リン,スペンサー
(72)【発明者】
【氏名】オサエ-クワポン,クワシ
(72)【発明者】
【氏名】クライシ,オマー
(72)【発明者】
【氏名】シンハ,シーマ
(72)【発明者】
【氏名】スミス,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ディフランチェスコ,サンレイ
(72)【発明者】
【氏名】スピアーズ,ライアン
(72)【発明者】
【氏名】ラワル,ダーリニ
(72)【発明者】
【氏名】ホヴァネク-バーンズ,デブラ
(72)【発明者】
【氏名】オーウェンズ,ロバート
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-505235(JP,A)
【文献】米国特許第06248546(US,B1)
【文献】特表平06-501270(JP,A)
【文献】IGFBP-3 ELISA:Enzyme-Immunoassay for Quantitative Determination of Insulin-Like Growth-Factor Binding Protein-3,mediagnost,2006年05月04日,PP.1-25
【文献】J. Wen et al.,Automated Chemiluminescent Immunoassays of Insulin-Like Growth Factor I and Insulin-Like Growth Factor Binding Protein 3 of the IMMULITE Analyzer,American Associateion for Clinical Chemistry (AACC) 54th Annual Meeting and Clionical Lab Exposition,2002年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIGF結合タンパク質ストック溶液であって、非組み換えヒトIGF結合タンパク質-3(nr-IGFBP-3)を、1ミリリットル当たり16マイクログラム(μg/mL)~40μg/mLの範囲のnr-IGFBP-3濃度で水性緩衝媒体中に、含有するヒトIGF結合タンパク質ストック溶液。
【請求項2】
前記nr-IGFBP-3濃度が20μg/mL~30μg/mLの範囲内である、請求項1に記載のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液。
【請求項3】
組み換えIGF結合タンパク質を含まない、請求項1
又は2に記載のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液。
【請求項4】
前記nr-IGFBP-3の水性緩衝媒体が組み換えIGFBP-3を含まない、請求項1
~3のいずれか1項に記載のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液を含む較正標準のセットであって、該セットの各々の較正標準が異なるnr-IGFBP-3濃度を有し、該セットにおける該較正標準の異なるnr-IGFBP-3濃度が0.5μg/mL~16μg/mLの範囲である、較正標準のセット。
【請求項6】
IGFBP-3被検体の免疫測定用の較正物質のセットであって、該セットの各々の較正物質がヒト血清希釈剤で希釈された請求項1
~4のいずれか1項に記載のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液を含み、該セットの該較正物質のnr-IGFBP-3濃度が異なり、該異なるnr-IGFBP-3濃度が患者試料中のIGFBP-3被検体レベルの推測される範囲に亘るように構成される、較正物質のセット。
【請求項7】
前記ヒト血清希釈剤が、IGF結合タンパク質を実質的に含まない、酸処理
され活性炭吸着
されたヒト血清である、請求項6に記載の較正物質のセット。
【請求項8】
ヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質用の較正物質のセットを含むキットであって、該セットの各々の較正物質が
、請求項1~4のいずれか1項に記載の非組み換えヒトIGF結合タンパク質
-3(nr-IGFBP-3)を含有する水溶液を含み、該セットの各々の較正物質の
前記nr-IGFBP-3濃度が異なり、該セットにおける該異なる
前記nr-IGFBP-3濃度が0.5μg/mL~16μg/mLの範囲内である、キット。
【請求項9】
前記較正物質のセットにおいて前
記nr-IGFBP-3
の異なる濃度の
前記範囲が、患者試料中のIGFBP-3被検体及びIGF-1被検体の一方又は両方の推測される濃度範囲に亘るように構成され、前記セットの前記較正物質が、16μg/mL~40μg/mLの範囲のnr-IGFBP-3濃度を有するヒトIGF結合タンパク質ストック溶液の異なる希釈物である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
前記セットの各々の較正物質が、更に、ヒト血清希釈剤を含み、該ヒト血清希釈剤が、IGF結合タンパク質を実質的に含まない、酸処理
され活性炭吸着
されたヒト血清を含有し、該ヒト血清希釈剤が、前記nr-IGFBP-3を種々のnr-IGFBP-3濃度の範囲に希釈するように構成される量である、請求項8
又は9に記載のキット。
【請求項11】
前記較正物質のセットが組み換えヒトIGF結合タンパク質を含まない、請求項8
~10のいずれか1項に記載のキット。
【請求項12】
非組み換えヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質
-3(nr-IGFBP-3)の濃縮物を水溶液中で形成する方法であって、
ヒト血清及び該ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の一方の水溶液を多孔質マトリックスと接触させること;及び
水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3を前記多孔質マトリックスから回収すること、を含み、
前記水溶液中の回収されたnr-IGFBP-3が
1ミリリットル当たり16μg/mL~40μg/mLの範囲内の濃度を有するものである、方法。
【請求項13】
前記多孔質マトリックスが限外濾過ディスク、濾過膜及びセファロース系樹脂の1つ以上である、請求項12に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項14】
更に、前記ヒト血清の水溶液を準備することを含み、
ここで、該ヒト血清の水溶液が、ヒト血清を第1の緩衝溶液と混合することによって準備され、
前記ヒト血清の水溶液と前記多孔質マトリックスとを接触させることが、
前記第1の緩衝溶液中の前記ヒト血清を、第2の緩衝溶液で平衡化したセファロース系樹脂を含むクロマトグラフィーカラムに適用して、nr-IGFBP-3を前記ヒト血清中の他の血清タンパク質から分離すること;
前記セファロース系樹脂から前記nr-IGFBP-3を第3の緩衝溶液で溶出させること;及び
前記第3の緩衝溶液中の溶出された前記nr-IGFBP-3を、交換緩衝液を用いて濾過膜に適用し、水溶液中の前記nr-IGFBP-3を緩衝液交換
し及び濃縮すること;を含む、請求項12に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項15】
更に、前記IGF結合タンパク質の水溶液を準備することを含む請求項12に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法であって、
ここで、前記IGF結合タンパク質の水溶液が
前記ヒト血清と飽和抗カオトロピック塩溶液とを混合して、混合物を形成すること;
前記IGF結合タンパク質を前記混合物から単離すること;及び
前記単離したIGF結合タンパク質を緩衝溶液中で再構成すること;
によって、準備され、
前記IGF結合タンパク質の水溶液と前記多孔質マトリックスとを接触させることが、緩衝溶液中の再構成されたIGF結合タンパク質を、濾過膜及び限外濾過ディスクの一方又は両方に交換緩衝液を用いて適用し、水溶液中のnr-IGFBP-3を緩衝液交換し及び濃縮することを含む、nr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項16】
前記飽和抗カオトロピック塩溶液が水中の抗カオトロピック硫酸塩を含有する請求項15に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項17】
前記飽和抗カオトロピック塩溶液がリン酸ナトリウム溶液中の硫酸アンモニウム塩を含有する請求項15に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項18】
ヒト血清及び該ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の一方の水溶液と多孔質マトリックスとを接触させることが、緩衝液交換溶液を用いたタンジェンシャルフロー濾過を含む、請求項12に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項19】
更に、前
記nr-IGFBP-3
の濃縮物を用いて較正物質のセットを調製することを含み、該セットの各々の較正物質における前記nr-IGFBP-3の濃度が異なり、該セットにおける種々のnr-IGFBP-3濃度が0.5μg/mL~16μg/mLの範囲内であり、該較正物質のセットが患者試料中のIGFBP-3及びIGF-1の一方又は両方の測定を較正するように構成される、請求項12に記載のnr-IGFBP-3
の濃縮物を形成する方法。
【請求項20】
前記較正物質のセットを調製することが、前
記nr-IGFBP-3
の濃縮物を、IGF結合タンパク質を実質的に含まな
い酸処理
され活性炭吸着
されたヒト血清希釈剤の種々の量で
、希釈することを含む、請求項19に記載のnr-IGFBP-3濃縮物を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年12月31日付で出願された米国仮出願第62/274,116号(引用により、その全体が本明細書の一部をなす。)の優先権を主張する。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究又は開発に関する陳述]
該当なし。
【背景技術】
【0003】
インスリン様成長因子(IGF)、例えばIGF-1及びIGF-2、は、細胞成長の調節に関与するタンパク質ホルモンのファミリーに属する。例えば成長ホルモン(GH)刺激の結果として、肝臓からIGF-1が分泌される。IGFの作用は、インスリン様成長ホルモン結合タンパク質(IGFBP)への結合によって仲介される。IGF-1及びIGF-2に対して高い親和性を有する6つのIGF結合タンパク質(例えば、IGFBP-1~IGFBP-6)が存在し、IGFBP-3が最も優勢である。IGFBPは、或る状況においてIGF作用の阻害及び他の状況においてIGF作用の促進の一方又は両方のために、IGFの作用の調整を促す。特に、IGF-1は1:1のモル比でIGFBP-3に結合する。IGFBP-3及びIGF-1の産生は、成長ホルモンGHに左右され、対照的に、IGFBP-1産生がペプチドホルモンインスリンによって調節されるようである。
【0004】
IGFBP-3は、IGF、例えばIGF-1又はIGF-2のいずれか、及び酸不安定サブユニット(ALS)タンパク質(GH依存性でもある)を、IGFBP-3との安定な複合体として、血流中で身体の組織へと輸送する。IGFBP-3は、循環機能、細胞外機能及び細胞内機能を有する。例えば、IGFBP-3は、様々な細胞型由来のIGFを結合し、IGF受容体へのIGFのアクセスを遮断し、細胞表面のタンパク質と相互作用し、細胞核内のホルモン受容体に結合することができる。
【0005】
ヒト身体内のIGFレベルが健康及び疾患の特性化を目的としてモニタリングされる。例えば、構造がインスリンと類似するIGF-1は、小児期の成長において重要な役割を果たす。小児期の発達時のIGFレベルのモニタリングは、発達が正常であるかどうかの特性化に役立つ。他の例では、IGFは、糖尿病、並びにおそらくは老化及び癌のモニタリングにおいても、重要な役割を果たす。従って、血清免疫測定によるヒトのIGFレベル、特にIGFBP-3レベル、のモニタリングは、小児及び成人の両方のモニタリングにとって重要な診断ツールを提供する。
【0006】
IGFBP-3レベルについてのヒト血清の患者試料の免疫測定による結果は、IGFBP-3濃度既知の較正物質、即ち標準、のセットと比較される。例えば、IGFBP-3較正標準は、患者試料中に予測されるIGFBP-3被検体の、対象とすべき推測される濃度範囲に亘る、様々な濃度で調製される。較正物質を使用して、例えば、いずれもシーメンス・ヘルスケア・ダイアグノスティックス・インコーポレーテッド社の、これらに限定されるわけではないが、IMMULITE(商標)システム及びCENTAUR(商標)システムを始めとする免疫測定装置を較正し、ヒト患者におけるIGFBP-3被検体レベルを正確に測定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
IGFBP-3は、ヒト血清中で比較的豊富であるが、免疫測定用の較正標準のセットを調製するのに十分な濃度でのヒト血液からのIGFBP-3の単離は、問題が多く、困難であることが見出されている。代わりに、組み換え形態のヒトIGFBP-3が患者試料の免疫測定用の較正標準の調製に使用されている。
【0008】
残念なことに、市販の組み換え形態のヒトIGFBP-3は、高価であり、純粋なヒト形態のIGFBP-3が有するような構造的完全性を有しない場合がある。従って、免疫測定の較正標準に組み換え形態のヒトIGFBP-3を使用することの負の影響は、単なるコストの懸念よりも重大である可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に記載の原理に従う幾つかの実施の形態では、ヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質ストック溶液が提供される。ヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質ストック溶液は、非組み換えヒトIGF結合タンパク質-3(nr-IGFBP-3)を、1ミリリットル当たり約16マイクログラム(μg/mL)~約40μg/mLの範囲のnr-IGFBP-3濃度を有する水性緩衝媒体中に含有する。
【0010】
本明細書に記載の原理に従う幾つかの実施の形態では、ヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質用の較正標準のセットを含むキットが提供される。セットの各較正標準は、非組み換えヒトIGF結合タンパク質3(nr-IGFBP-3)を含有する水溶液を含む。セットの各較正標準中のnr-IGFBP-3の濃度は様々であり、セットにおける種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.5μg/mL~約16μg/mLの範囲内である。
【0011】
本明細書に記載の原理に従う幾つかの実施形態では、水溶液中における非組み換えヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質3(nr-IGFBP-3)の濃縮物を形成する方法が提供される。この方法は、ヒト血清及びヒト血清由来のIGF結合タンパク質のいずれか一方の水溶液と多孔質マトリックスとを接触させることと、多孔質マトリックスとの接触後に、水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3を回収することとを含み、水溶液中の回収されたnr-IGFBP-3は、約16μg/mL~約40μg/mLの範囲内の濃度を有する。
【0012】
本明細書に記載の原理に従う実施形態及び実施例の様々な特徴は、添付の図面と併せて以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。図面中の同様の参照符号は、同様の構造要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、水溶液中における非組み換えヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質3(nr-IGFBP-3)の濃縮物を形成する方法のフローチャートである。
【
図1B】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、
図1Aの方法での、ヒト血清の水溶液を多孔質マトリックスと接触させるプロセスのフローチャートである。
【
図2】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の溶液の準備のフローチャートである。
【
図3】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、インスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤を作製する方法のフローチャートである。
【
図4】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、プロトタイプCENTAUR(商標) XPアッセイ対IMMULITE(商標)数値割り当て標準による、相対発光量(RLU)における硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3の用量応答のグラフである。
【
図5】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、プロトタイプCENTAUR(商標) XPアッセイ及び1030数値割り当て標準による、硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3較正標準の用量値を比較するグラフ(完全曲線)である。
【
図6】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、プロトタイプCENTAUR(商標) XPアッセイ及びIMMULITE(商標)数値割り当て標準による、硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3較正標準の用量値を比較するグラフ(2点計算)である。
【
図7】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、酸処理し、活性炭吸着したヒト血清からの血清タンパク質(「OD280」)及びnr-IGFBP-3の溶出プロファイルの棒グラフである。
【
図8】本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、酸処理し、活性炭吸着したヒト血清で希釈した試料についてのプロトタイプCENTAUR(商標) XPでの測定結果と算出結果との直線関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
或る特定の実施例及び実施形態が、上記で参照した図面において説明された特徴に加えて及び/又はその代わりに他の特徴を有する。これら及び他の特徴を、上記で、参照された図面を参照して下記に詳述する。
【0015】
本明細書に記載の原理と一致する実施形態及び実施例は、水性媒体中に非組み換え形態のヒトIGF結合タンパク質-3(nr-IGFBP-3)の濃縮物を含有するヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質のストック溶液を提供する。ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃縮物は、IGFBP-3被検体の患者試料の免疫測定用の較正標準のセットを調製するのに十分な濃度である。「較正標準のセットを調製するのに十分な濃度」という表現は、ストック溶液中のnr-IGFBP-3の濃度が、特定のアッセイについてのnr-IGFBP-3較正標準(「較正物質」)の最高濃度と少なくとも同じ高さであることを意味する。
【0016】
本明細書に記載の原理と一致する実施形態及び実施例は、更に、患者試料中に予測されるIGFBP-3被検体の対象とすべき推測される濃度範囲に亘るように構成される種々の濃度のnr-IGFBP-3を含む較正標準のセットを提供する。一部の例では、ヒト患者試料中のIGFBP-3被検体レベルは、僅か約0.5μg/mL(ここで、アッセイにおける定量限界(LOQ)は、約0.1μg/mL未満である。)から約16μg/mLほどという範囲であり得る。しかしながら、ヒト血清は、通例、nr-IGFBP-3が約4.0μg/mL~約5.5μg/mLの範囲を有するが、これは、較正標準をヒト患者における推測される範囲に亘るようにするには不十分な濃度である。本明細書に記載の原理に従うと、IGF結合タンパク質ストック溶液は、約16μg/mL~約40μg/mLの範囲のnr-IGFBP-3濃度を有する。
【0017】
更に、患者試料のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘る較正標準のセットは、IGF結合タンパク質ストック溶液から調製される。セットの較正標準は、約0.5μg/mL~約16μg/mLの範囲に亘る種々のnr-IGFBP-3濃度を有する。IGF結合タンパク質ストック溶液は、水溶液中のnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法によって、作製される。この方法は、ヒト血清又はヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液を多孔質マトリックスと接触させることと、水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3を多孔質マトリックスから回収すること、とを含み、濃縮された水溶液中のnr-IGFBP-3は、約16μg/mL~約40μg/mLの範囲内の濃度を有する。ヒト血清又はヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液と多孔質マトリックスとの接触は、nr-IGFBP-3溶液の緩衝液交換及び濃縮の両方を行なうように構成される。方法の一部の例では、水溶液の接触は、更に、溶液中の他の血清タンパク質からのnr-IGFBP-3又はIGF結合タンパク質の分離、nr-IGFBP-3又はIGF結合タンパク質溶液の脱塩、nr-IGFBP-3溶液の精製及び富化の1つ以上をもたらす。
【0018】
ストック溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3は、ヒト患者において見られるものと同じ天然不均質形態(native heterogeneous form)を有している。「天然不均質形態」とは、ヒト血清由来のnr-IGFBP-3がグリコシル化されており、幾つかの形態を有し得ることを意味する。例えば、nr-IGFBP-3は、IGF-1、IGF-2又はALSとの二元複合体、IGF-1又はIGF-2及びALSとの三元複合体の1つ以上を形成していても、これらのいずれとも複合体を形成しなくてもよい。本明細書に記載の原理によれば、nr-IGFBP-3の天然不均質形態を示すこれらの形態は、全て、内因性ヒト血清中にも見られる。天然不均質形態のnr-IGFBP-3の公称分子量は、例えば、約25キロダルトン(kDa)~約155kDaの範囲であり得る。
【0019】
組み換え形態のIGFBP-3は、ヒト血液由来のnr-IGFBP-3とは、重要な点で構造的に異なる。組み換えIGFBP-3形態の構造の相異のために、一般的な実験室について常温及び様々な温度範囲下の両方で、IGFBP-3の組み換え供給源を使用した場合に、内因性ヒト供給源と比較して、用量回収(dose recovery)における顕著なバイアスが観察され得る。本明細書の定義によると、「組み換えIGFBP-3」は、インスリン様成長因子(例えば、IGF-1又はIGF-2)にも酸不安定サブユニット(ALS)にも結合しない。更に、組み換え形態のIGFBP-3は、ヒト血液中のnr-IGFBP-3に見られるグリコシル化を欠いている。組み換えIGFBP-3は、実質的に「裸の」形態である。ヒト血液由来のnr-IGFBP-3は、上記のように、ヒト患者のIGFBP-3に類似する天然不均質形態である。何故ならば、nr-IGFBP-3は、約150kDaの三元複合体において結合したIGF、ALS及びグリコシル化単位の各々を含むか、又は結合したIGF若しくはALSと二元複合体を形成するか、又はIGF若しくはALSのいずれとも複合体を形成しない可能性があるからである。
【0020】
本発明者らは、下記の実施例セクションに更に提示するように、組み換えIGFBP-3形態が、免疫測定の温度条件と典型的に関連する常温の範囲(即ち、約18セルシウス度(℃)~約30℃)で、温度バイアスを有し、免疫測定の精度に悪影響をもたらし得ることを発見した。「常温バイアス」という表現は、試料中の組み換えIGFBP-3の測定濃度が、測定を行なう実験室の温度に応じて異なり得ることを意味する。
【0021】
例えば、組み換えIGFBP-3の試料は、24℃(即ち、常温)で3μg/mLと測定され得る。しかしながら、組み換えIGFBP-3が使用され又は測定される環境の温度が約24℃未満又は24℃超(例えば、約18℃又は約30℃)へと変化すると、同じ組み換えIGFBP-3試料の濃度が変化して、24℃で測定された常温測定の3μg/mLを超え又は下回る。ヒト血液由来のnr-IGFBP-3及びヒト患者試料中のIGFBP-3被検体は、この温度バイアスを有しない。そのため、組み換えIGFBP-3の観察される温度バイアスは、免疫測定及び較正標準を考慮する際に重要である。ヒト患者試料中のIGFBP-3被検体レベルの免疫測定の測定値の精度は、免疫測定を行なう温度範囲での免疫測定に使用される較正標準及び対照の精度に左右される。
【0022】
更に、本明細書で使用される場合、「医療判断プール(Medical Decision Pool)」(即ち、「MDP」)は、患者試料中で測定されると考えられる被検体の低い(又は最低の)濃度範囲を有する較正標準のセットとして、広く規定される。「定量限界(Limitation of Quantification)」(「LOQ」)は、信頼性をもって測定され得る、患者試料中で検出されると考えられる被検体の最低濃度として広く規定される。例えば、患者試料中のIGFBP-3被検体濃度のLOQは、約0.1μg/mL以下である。
【0023】
更に、本明細書で使用される場合、数量を特定しない冠詞“a”は、特許分野におけるその通常の意味、即ち「1つ以上」、を有することを意図したものである。例えば、本明細書で「タンパク質(a protein)」は1つ以上のタンパク質を意味し、そのため、「そのタンパク質(the protein)」は「そのタンパク質(複数の場合もある)」を意味する。また、本明細書で「最高部」、「最低部」、「上部」、「下部」、「上方」、「下方」、「前部」、「後部」、「第1」、「第2」、「左」又は「右」への言及は、本明細書における限定を意図するものではない。本明細書では、「約」という用語は、値に適用される場合、概して、値を得るために使用される装置の許容差範囲内であることを意味するか、又は、そうでないと明白に指定しない限り、±10%、若しくは±5%、若しくは±1%、若しくはこれらの任意のパーセント値の間の範囲を意味し得る。更に、本明細書で「実質的に」という用語は、本明細書で使用される場合、大部分、又は殆ど全て、又は全て、又は約51%から約100%の範囲内の量を意味する。更に、本明細書の実施例は、単に例示を意図し、論考を目的として提示されるものであって、限定のためではない。
【0024】
[ヒトIGF結合タンパク質ストック溶液]
本明細書に記載の原理の幾つかの実施形態に従うと、ヒト血液由来のnr-IGFBP-3を水性緩衝媒体中に含有するヒトIGF結合タンパク質ストック溶液が提供される。IGF結合タンパク質ストック溶液は、患者試料中のIGFBP-3被検体の免疫測定用の較正標準のセットを調製するのに十分なnr-IGFBP-3の濃度を有する。特に、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3の濃度は、ヒト患者試料中のIGFBP-3被検体レベルの推測される範囲に亘る較正標準のセットを調製するのに十分である。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液は、約16μg/mL~約40μg/mLの範囲内のnr-IGFBP-3濃度を有する。nr-IGFBP-3が上記のように天然不均質形態であり、従って、全nr-IGFBP-3の或る特定の割合が、ストック溶液中において、例えば1:1複合体で、IGF-1又はIGF-2のいずれかに結合し得ることを理解されたい。
【0025】
一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃度は、約16μg/mL~約38μg/mL、又は約16μg/mL~約36μg/mL、又は約16μg/mL~約34μg/mL、又は約16μg/mL~約32μg/mL、又は約16μg/mL~約30μg/mLの範囲内である。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃度は、約18μg/mL~約40μg/mL、又は約20μg/mL~約40μg/mL、又は約22μg/mL~約40μg/mL、又は約24μg/mL~約40μg/mL、又は約26μg/mL~約40μg/mL、又は約28μg/mL~約40μg/mL、又は約30μg/mL~約40μg/mLの範囲内である。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃度は、約20μg/mL~約36μg/mL若しくは約20μg/mL~約30μg/mLの範囲内であるか、又は20μg/mL超、且つ40μg/mL未満である。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃度は、約25μg/mL又は約35μg/mLに等しい。一例では、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3濃度は、約30μg/mLに等しい。
【0026】
上述のように、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFPB-3濃度は、種々のnr-IGFPB-3濃度の較正標準を含む較正標準のセットを調製するのに十分であり、セットの較正標準は、患者試料中のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘るnr-IGFBP-3濃度の範囲を含む。特に、較正標準のセットは、これらに限定されるものではないが、例えば、水性緩衝媒体、ヒト血清、又はそれらの組合せ若しくは混合物等の水性媒体で希釈されたIGF結合タンパク質ストック溶液を含む。IGF結合タンパク質ストック溶液の希釈物は、セットの各々の較正標準において種々のnr-IGFBP-3濃度を提供するように構成される。一部の例では、セットにおける較正標準の種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.5μg/mLから約16μg/mLの範囲である。較正標準のセットについて下記に更に説明する。
【0027】
本明細書の様々な実施形態によると、IGF結合タンパク質ストック溶液は、ヒト血清から作製され、IGF結合タンパク質ストック溶液中のnr-IGFBP-3の水性緩衝媒体は、ヒト血清に由来する。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液及びnr-IGFBP-3の水性緩衝媒体の一方又は両方が、組み換えIGF結合タンパク質を含まない。「組み換えIGF結合タンパク質を含まない」という表現は、ストック溶液又は水性緩衝媒体が組み換えIGF結合タンパク質を含まないか、又は、例えば約0%の組み換えIGF結合タンパク質を含むことを意味する。一部の例では、例えば組み換えIGFBP-3参照対照が較正標準のセットを含有するキットに含まれ得る。組み換えIGFBP-3参照対照は、世界保健機関(WHO)の材料でなくてもよく、英国の国立生物学的標準管理研究所(NIBSC)から入手することができる。
【0028】
[nr-IGFBP-3較正標準のセット及びそれを含有するキット]
本明細書に記載の原理の幾つかの実施形態に従うと、ヒト患者のIGFBP-3被検体レベルの免疫測定用の較正物質(例えば、較正標準又は対照)のセットを含有するキットが提供される。セットの較正物質は、セット内の他の較正物質中のnr-IGFBP-3の濃度とは異なる濃度でnr-IGFBP-3を含有する水溶液である。セットにおける種々の較正物質の濃度は、患者試料中のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘るように構成される。
【0029】
一部の例では、セットにおける較正物質の種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.25μg/mL~約18.50μg/mLの範囲に亘り、患者試料中のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘る。一部の例では、セットにおける較正物質の種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.35μg/mL~約18.50μg/mL、又は約0.45μg/mL~約18.50μg/mL、又は約0.55μg/mL~約18.50μg/mL、又は約0.65μg/mL~約18.50μg/mL、又は約0.75μg/mL~約18.50μg/mLの範囲であり、患者試料中のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘る。一部の例では、セットにおける較正物質の種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.50μg/mL~約17.50μg/mL、又は約0.50μg/mL~約16.50μg/mL、又は約0.50μg/mL~約16.00μg/mL、又は約0.50μg/mL~約15.50μg/mL、又は約0.50μg/mL~約15.00μg/mL、又は約0.50μg/mL~約14.50μg/mL、又は約0.50μg/mL~約13.50μg/mLの範囲であり、ヒト患者試料中のIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘る。更に、セットの個々の較正物質の幾つかがMDP標準であってもよく、例えば約0.5μg/mL、約3.0μg/mL又は約6.0μg/mLのnr-IGFBP-3濃度を有する較正物質をMDP標準に指定することができる。
【0030】
一部の例では、較正物質のセットは、約16μg/mL~約40μg/mLの範囲のnr-IGFBP-3濃度を有するヒトIGF結合タンパク質ストック溶液の種々の希釈物を含む。一部の例では、ヒトIGF結合タンパク質ストック溶液は、上記のようなヒトIGF結合タンパク質ストック溶液と、実質的に類似している。ヒトIGF結合タンパク質ストック溶液は、ヒト血清希釈剤で希釈され、患者試料の免疫測定におけるIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘るように構成される較正物質のセットの種々のnr-IGFBP-3濃度の範囲を達成する。例えば、較正物質のセットは、約0.50μg/mL~約16.00μg/mL又は約0.50μg/mL~約14.50μg/mLに亘る種々の濃度範囲を有し得るが、約0.10μg/mLがLOQに近い可能性がある。「ヒト血清希釈剤」という表現は、ヒト血清に見られるものに可能な限り近い又は実質的に同一のタンパク質含有量及び濃度を有する溶液を指す。例えば、MDP標準は、ヒト血清に可能な限り近いヒト血清希釈剤溶液を用いて作製される。
【0031】
「水性緩衝媒体」という表現は、水のみであっても、又は0.1容量パーセント~約40容量パーセントの共溶媒、例えば水混和性の有機溶媒、例えばアルコール、エーテル又はアミド等、を含んでいてもよい水性媒体を指す。媒体のpHは、通常は、例えば約4~約11の範囲内、又は約5~約10の範囲内、又は約6.5~約9.5の範囲内、又は約7.0~約9.0の範囲内である。様々な緩衝液を、所望のpHを達成し、処理中のpHを維持するために使用することができる。例示的な緩衝液としては、これらに限定されないが、例えばホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、トリス(即ち、トリス(ヒドロキシメチル)アミノ-メタン)、バルビタール、PIPES(即ち、ピペラジン-N,N-ビス(2-エタンスルホン酸))、HEPES(即ち、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)、MES(即ち、2-(N-モルホリノ)-エタンスルホン酸)、ACES(即ち、N-(2-アセトアミド)-2-アミノエタンスルホン酸)、MOPS(即ち、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)、BICINE(即ち、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-グリシン)、又はこれらの2つ以上の組合せ若しくは混合物が挙げられる。
【0032】
一部の例では、セットの較正物質は、その較正物質のnr-IGFBP-3の水溶液を希釈するために、IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤を更に含む。他の例では、セットの較正物質の各々が、nr-IGFBP-3の水溶液をそのセットの異なるnr-IGFBP-3較正物質濃度まで希釈するために、IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤を更に含む。「IGF結合タンパク質を実質的に含まない」という表現は、ヒト血清希釈剤が、出発ヒト血清に対して約2(容量)%未満のIGF結合タンパク質、又は出発ヒト血清に対して約1.5容量%未満、若しくは約1容量%未満、若しくは約0容量%の、IGF結合タンパク質、を含有するように改質されていることを意味する。例えば、二重活性炭ストリッピング(double charcoal stripped)及び脱脂されたヒト血清、又は例えばGolden West Biologicals,Inc.(リフォルニア州、テメクラ)社のDDC MASS SPEC GOLD(商標)血清を、実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清希釈剤として使用することができる。
【0033】
IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤を作製する方法を、本明細書に記載の原理の実施形態に従って、下記に更に説明する。他の例では、ヒト血清希釈剤は、IGF結合タンパク質を含有し、ヒト血清は、例えば未処理血漿若しくは未処理血清、又は処理血漿若しくは処理血清であってよい。IGF結合タンパク質を含むヒト血清希釈剤として使用されるヒト血漿又は血清は、例えばBioresource Technologies (BRT)(フロリダ州、ウエストン)から入手することができる。
【0034】
更に、一部の例では、免疫測定キットは、組み換えIGFBP-3参照対照を含んでいてもよいが、較正標準のセット内の較正物質は、組み換えIGF結合タンパク質を含まない。言い換えると、患者試料の免疫測定におけるnr-IGFBP-3レベルの決定のための較正標準のセットは、ヒト血清のみに由来するnr-IGFBP-3を含有する。
【0035】
[水溶液中のnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法]
本明細書に記載の原理の幾つかの実施形態に従うと、水溶液中においてnr-IGFBP-3の濃縮物を含有するヒトIGF結合タンパク質ストック溶液を形成する方法が提供される。
図1Aに、本明細書に記載の原理の実施形態に従う一例における、水溶液中においてnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法100のフローチャートを示す。方法100は、ヒト血清又はヒト血清由来のIGF結合タンパク質のいずれかの水溶液を含む多孔質マトリックスと接触させること(120)と、水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3を多孔質マトリックスから回収すること(140)とを、含む。水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3は、1ミリリットル当たり約16マイクログラム(μg/mL)~約40μg/mLの範囲内の濃度を有する。ヒト血清としては、これに限定されないが、Bioresource Technology,Inc.(フロリダ州、ウエストン)社の処理血清が挙げられる。例えば、ヒト血清は、複数のヒト個体由来のヒト血清の混合物であってもよい。nr-IGFBP-3濃縮物を形成する方法100において、ヒト血清又はヒト血清由来のIGF結合タンパク質のいずれかの水溶液を多孔質マトリックスと接触させること(120)は、下記に更に説明するようにnr-IGFBP-3溶液の緩衝液交換及び濃縮の両方を行なうように構成される。ヒト血清又はヒト血清由来のIGF結合タンパク質のいずれかの水溶液を多孔質マトリックスと接触させること(120)は、更に、濃縮nr-IGFBP-3水溶液の脱塩、富化及び精製の1つ以上を促進するように、構成される。一部の例では、水溶液中のnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法100は、nr-IGFBP-3濃縮物の大規模バッチ処理を促進するよう、構成される。
【0036】
本明細書に記載の原理に従う一部の例では、多孔質マトリックスは、固体又は半固体材料であってよく、有機又は無機の不水溶性材料を含有していてもよい。多孔質マトリックスは、例えば管状(例えば円柱、中空繊維、渦巻き形及び中空微細繊維)、トラックエッチド(track-etched)、又は平な若しくは平坦な表面(例えば細片、円板、フィルム、膜及び平板)等の多数の形状のいずれかを有し得る。多孔質マトリックスは、天然品であっても合成品であっても、ポリマーであっても非ポリマーであっても、繊維質であっても非繊維質であってもよい広範な材料から製造することができる。多孔質マトリックスの孔のサイズは、一部の例では、タンパク質の公称分画分子量(NMWL)又は公称分子量カットオフ(NMWC)に基づくものであり得る。
【0037】
例えば、約25kDa~約175kDaの範囲内のNMWL又はNMWCを用いることができる。一部の例では、多孔質マトリックスのNMWL又はNMWCは、約26kDa~約175kDa、又は約27kDa~約175kDa、又は約28kDa~約175kDa、又は約29kDa~約175kDa、又は約30kDa~約175kDa、又は約40kDa~約175kDaの範囲であり得る。一部の例では、多孔質マトリックスのNMWL又はNMWCは、約25kDa~約170kDa、又は約25kDa~約165kDa、又は約25kDa~約160kDa、又は約25kDa~約155kDa、又は約25kDa~約150kDaの範囲であり得る。一例では、多孔質マトリックスのNMWL又はNMWCは、約30kDa~約150kDaの範囲であり得る。
【0038】
一部の例では、多孔質マトリックスは、濾過デバイスの一部であり、試料を濾過デバイスの多孔質マトリックスと接触させ、試料中の成分のサイズ又は分子量に基づいて、試料の標的成分(例えば、タンパク質)を他の成分から分離するが、標的成分は、優先的に、多孔質マトリックス上に保持されるか又は多孔質マトリックスを通過し、次いで回収される。濾過法としては、これらに限定されないが、例えば精密濾過、限外濾過、又はクロスフロー若しくはタンジェンシャルフロー濾過(TFF)が挙げられる。限外濾過の一例としては、EMD Millipore Corporation(マサチュセッツ州、ビレリカ)社の30kDa NMWLの限外濾過ディスク(ULTRACEL(商標)セルロース膜)及びリザーバを備えるAMICON(商標)攪拌式セルが挙げられる。クロスフロー又はタンジェンシャルフロー濾過(TFF)の一例としては、Pall Corporation(ニューヨーク州、ポート ワシントン)社のOMEGA(商標)ポリエーテルスルホン(PES)膜(30kDa NMWC)を有するTFF CENTRAMATE(商標)カセットを備えた、Scilog,Inc.(ウィスコンシン州、ミドルトン)社のTFFシステム(例えば、PureTec TFFシステム)が挙げられる。他の例では、多孔質マトリックスは、クロマトグラフィーカラム及び/又は本明細書に記載の濾過デバイスの1つにおけるセファロース系樹脂を含む。セファロース系樹脂多孔質マトリックスは、以下に更に説明するように、疎水性相互作用、イオン交換及びアフィニティークロマトグラフィーの1つ以上を容易にして試料中の成分を分離する。
【0039】
[ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液と多孔質マトリックスとの接触]
濃縮物を形成する方法100の一部の例では、方法100は、更に、ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液を準備すること(110)を、即ち、水溶液と多孔質マトリックスとを接触させること(120)の前に、含む。
図2に、本明細書に記載の原理の実施形態に従う一例における、ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液を準備すること(110)のフローチャートを示す。
図2に説明されるように、ヒト血清由来のIGF結合タンパク質の水溶液を準備すること(110)は、ヒト血清と抗カオトロピック塩の飽和塩溶液とを、水性溶媒、例えば水、の中で混合して、ヒト血清溶液由来の沈殿IGF結合タンパク質(IGFBP)を含む混合物を形成すること(112)を含む。本明細書に記載の原理に従う方法において使用される抗カオトロピック塩は、抗カオトロピック塩のイオン強度に基づいてタンパク質を溶液から沈殿させる機能を促進するものである。
【0040】
例えば、イオンのホフマイスター系列は、溶液中の疎水性効果を増大することによって沈殿を容易にする溶液中のイオンの相対強度を与えるものである。概して、例えば、硫酸アンモニウム等の抗カオトロピック塩は、溶液中で通常は疎水性領域を覆う高度に構造化された水層を除去することによって、タンパク質の疎水性領域を露出させる。その結果、タンパク質分子上の疎水性部分が利用可能となり、隣接タンパク質分子上に見出される疎水性部分と、より容易に相互作用できるようになる。一部の例では、疎水性部分は、多孔質マトリックス中又は多孔質マトリックス上に見られる疎水性配位子と相互作用し得る。加えて、抗カオトロピック塩は、タンパク質上の荷電基を遮蔽し得るが、荷電基は溶液中でタンパク質同士を離れ易くし、タンパク質の溶解性を低減する。まとめると、これらの効果は、タンパク質の修復不能な変性を引き起こすことなく、タンパク質凝集体を形成し最終的にはタンパク質の沈殿(即ち、「塩析」)をもたらす。
【0041】
異なるタンパク質の溶解性は、ホフマイスター系列による塩の抗カオトロピック強度及びその濃度に応じて、種々の程度まで低減する。ホフマイスター系列には、タンパク質を塩析する能力の強度の高いものから順に、陰イオン:F-≒SO4
2->HPO4
2->酢酸イオン>Cl->NO3
->Br->ClO3
->I->ClO4
->SCN-が含まれ、陽イオン:NH4
+>K+>Na+>Li+>Mg2+>Ca2+>グアニジウムイオンが含まれる。そのため、硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)は、強い抗カオトロピック剤と考えられ、塩化ナトリウム(NaCl)は、例えば血清タンパク質、特にIGFBP、を溶液から沈殿させる大規模な処理について、硫酸アンモニウムよりも低い抗カオトロピック強度及び効果を有する。一部の例では、混合(112)中にタンパク質を沈殿させるために飽和塩溶液中で使用される抗カオトロピック塩は、これらに限定されないが、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、又はこれらの2つ以上の組合せ若しくは混合物とすることができる。
【0042】
一部の例では、混合物中において飽和塩溶液の量に対するヒト血清の量は、ほぼ等容量、即ち、約1対約1の比率(即ち、「1:1比」)である。他の例では、混合物中のヒト血清及び飽和塩溶液の容量は異なっていてもよく、例えば、限定されるものではないが、塩の抗カオトロピック強度、抗カオトロピック塩濃度、バッチ処理のサイズ又は規模、及び試料又はバッチの温度の1つ以上によって決まり得る。
【0043】
一部の例では、抗カオトロピック塩の飽和塩溶液は、これらに限定されないが、水中の硫酸ナトリウム、若しくは水中の硫酸アンモニウム、又は一部の例では、リン酸ナトリウム水溶液中の硫酸ナトリウム、若しくはリン酸ナトリウム水溶液中の硫酸アンモニウムを含み得る。飽和塩溶液の濃度は、ヒト血清溶液からIGF結合タンパク質を沈殿させるのに十分な濃度である。一部の例では、飽和塩溶液の濃度は、約0.25グラム/ミリリットル(g/mL)~約1.0g/mL、又は約0.25g/mL~約0.9g/mL、又は約0.25g/mL~約0.8g/mLの範囲であり得る。一部の例では、飽和塩溶液の濃度は、約0.3g/mL~約1.0g/mL、又は約0.35g/mL~約1.0g/mL、又は約0.4g/mL~約1.0g/mL、又は約0.45g/mL~約1.0g/mL、又は約0.5g/mL~約1.0g/mL、又は約0.55g/mL~約1.0g/mLの範囲であり得る。一部の例では、飽和塩溶液の濃度は、約0.3g/mL~約0.8g/mLの範囲であり得る。
【0044】
リン酸ナトリウム水溶液中の抗カオトロピック塩を含有する飽和塩溶液の例では、抗カオトロピック塩の飽和塩溶液に使用されるリン酸ナトリウム溶液の濃度は、約30ミリモル(mM)~約60mM、又は約35mM~約60mM、又は約40mM~約60mM、又は約45mM~約60mM、又は約50mM~約60mMの範囲内であり得る。一部の例では、飽和塩溶液に使用されるリン酸ナトリウム溶液の濃度は、約30mM~約58mMの範囲、又は約30mM~約56mMの範囲、又は約30mM~約54mMの範囲、又は約30mM~約52mMの範囲、又は約30mM~約50mMの範囲、又は約30mM~約45mMの範囲、又は約40mM~約50mMの範囲、又は約45mM~約55mMの範囲内であり得る。
【0045】
一部の例では、リン酸ナトリウム溶液のpHは、約7.0~約8.4の範囲、又は約7.2~約8.4の範囲、又は約7.4~約8.4の範囲、又は約7.6~約8.4の範囲内であり得る。一部の例では、リン酸ナトリウム溶液のpHは、約7.0~約8.2の範囲、又は約7.0~約8.0の範囲、又は約7.0~約7.8の範囲、又は約7.0~約7.6の範囲内であり得る。一例では、リン酸ナトリウム溶液の濃度は約50mMであり、そのpHは約7.4である。
【0046】
更に、リン酸ナトリウム溶液中の抗カオトロピック塩の濃度は、溶液の容量に対する塩の重量(即ち、「重量/容量」)で、例えば、約25%~約75%、又は約30重量/容量%~約75重量/容量%、若しくは約35重量/容量%~約75重量/容量%、若しくは約40重量/容量%~約75重量/容量%、若しくは約45重量/容量%~約55重量/容量%の範囲であり得る。一部の例では、リン酸ナトリウム溶液中の抗カオトロピック塩の濃度は、約25重量/容量%~約70重量/容量%、又は約25重量/容量%~約65重量/容量%、又は約25重量/容量%~約60重量/容量%、又は約25重量/容量%~約55重量/容量%、又は約25重量/容量%~約50重量/容量%の範囲であり得る。一例では、飽和塩溶液は、硫酸アンモニウムを、約50mMリン酸ナトリウム溶液中に硫酸アンモニウムの容量に対して約50重量%の濃度で、抗カオトロピック塩として含有する。
【0047】
図2に更に説明されるように、IGF結合タンパク質の水溶液を準備すること(110)は、沈殿IGF結合タンパク質を混合物から単離すること(114)を更に含む。沈殿IGF結合タンパク質を単離すること(114)は、例えば飽和塩溶液中のヒト血清の混合物を遠心分離することと、飽和抗カオトロピック塩溶液を含有する上清を、溶液から分離されたペレットの形態であってもよい沈殿IGF結合タンパク質から除去することとを含み得る。これらに限定されないが、Thermo Fisher Scientific,Inc.(マサチュセッツ州、ウォルサム)社のSORVALL(商標)遠心分離機、又はBeckman Coulter,Inc.(インディアナ州、インディアナポリス)社のADVANTI(商標)遠心分離機を始めとする、様々な遠心分離装置を、混合物からの沈殿IGF結合タンパク質の単離(114)に使用することができる。
【0048】
更に、
図2に説明されるように、IGF結合タンパク質の水溶液を準備すること(110)は、更に、単離されたIGF結合タンパク質ペレットを水性緩衝溶液に溶解することによって、該ペレットを再構成すること(116)を含む。116で再構成されるIGF結合タンパク質(IGFBP)沈殿物又はペレットは、
図1Aの濃縮物を形成する方法100において120で多孔質マトリックスと接触させる、110で準備されたIGFBP溶液である。これらに限定されないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はアジ化ナトリウムを含むPBS溶液を始めとする様々な緩衝溶液を、単離されたIGF結合タンパク質ペレット又は沈殿物の再構成(116)に使用することができる。一部の例では、水性緩衝溶液は、溶液の容量に対して約0.05重量%~約15重量%(「重量/容量」)の範囲のアジ化ナトリウムを含むPBS、又は重量/容量で約0.06%~約15%の範囲のアジ化ナトリウム、若しくは約0.08%~約15%のアジ化ナトリウム、若しくは約0.10%~約15%のアジ化ナトリウム、若しくは約0.05%~約13%のアジ化ナトリウム、若しくは約0.05%~約12%のアジ化ナトリウム、若しくは約0.05%~約10%のアジ化ナトリウムを含むPBSを含む。一例では、水性緩衝溶液は、ペレットを溶解してIGF結合タンパク質の水溶液を準備する(110)ために使用される約0.09重量/容量%のアジ化ナトリウムを含むPBSを含有する。
【0049】
110で準備されたヒト血清由来のIGF結合タンパク質(IGFBP)の溶液を含む実施形態では、
図2に関して上記したように、接触(120)に使用される多孔質マトリックスは、これらに限定されないが、例えば、限外濾過ディスク、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)膜、又はそれらの組合せを始めとする濾過膜である。限外濾過ディスクは、例えば、本明細書に記載のEMD Millipore Corp.社のAMICON(商標)攪拌式セル等の濾過デバイス内のものであってもよい。TFF膜は、例えば、単一パス濾過システム又はクロスフロー濾過システムの膜であっても、例えば本明細書に記載のScilog,Inc.又はMembrane Specialists(オハイオ州、ハミルトン)、又はEMD Millipore Corp.社のTFFシステムであってもよい。一部の例では、110で準備された溶液中の116で再構成されるIGFBP沈殿物は、更に、混合(112)時に同様に沈殿する他の血清タンパク質を含み得る。接触(120)時に、多孔質マトリックスにより、nr-IGFBPについての多孔質マトリックスのNMWC又はNMWLを超える及び/又はそれ未満の分子量を有する、110で準備されたIGFBP溶液中の血清タンパク質が濾別される。更に、多孔質マトリックスから140で回収される水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3は、接触(120)時に多孔質マトリックスによって濾過されなかった幾らかの血清タンパク質(例えば、他のIGF結合タンパク質を含むnr-IGFBP-3と実質的に同様の分子量を有するタンパク質)も含み得る。nr-IGFBP-3がヒト血清中に見られる最も豊富なIGF結合タンパク質であるため、本明細書では単に論考を単純化するために、濃縮nr-IGFBP-3溶液が他のタンパク質も含み得ることを理解した上で、これらの実施形態において140で回収されるタンパク質濃縮物を「nr-IGFBP-3」と称する。更に、140で回収されるnr-IGFBP-3濃縮物は、上記のように天然不均質形態を有する。
【0050】
更に、これらの実施形態では、110で準備されたIGFBP溶液と多孔質マトリックスとの接触(120)は、IGFBP溶液を多孔質マトリックスに適用することと、濾過のため、並びにIGFBP溶液を緩衝液交換するため及びIGFBP溶液をnr-IGFBP-3濃縮物へ濃縮するために、多孔質マトリックスを水性緩衝溶液で洗い流すこととを含む。一部の例では、多孔質マトリックスを洗い流し、緩衝液交換を行なうために使用される水性緩衝溶液としては、これらに限定されないが、PBS又はアジ化ナトリウムを含むPBSが挙げられる。例えば、130で回収されたnr-IGFBP-3は、アジ化ナトリウムを含むPBS(例えば、約0.09重量/容量%のアジ化ナトリウムを含むPBS)を用いて、緩衝液交換される。一部の例では、多孔質マトリックスを洗い流し、緩衝液交換を行なうために使用される水性緩衝溶液は、上記のようなIGF結合タンパク質ペレットの再構成(116)に使用される水性緩衝溶液及び濃度範囲と、実質的に同様である。
【0051】
[ヒト血清の水溶液と多孔質マトリックスとの接触]
図1Aを再び参照すると、本明細書の原理による他の実施形態では、水溶液中のnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法100は、ヒト血清の水溶液とセファロース系樹脂からなる多孔質マトリックスとを接触させること(120)を含む。
図1Bに、本明細書に記載の原理に従う一例における、
図1Aの方法においてヒト血清の水溶液と多孔質マトリックスとを接触させるプロセス120のフローチャートを示す。これらの実施形態では、ヒト血清を第1の緩衝溶液と混合する。第1の緩衝溶液は、実質的に中性pHの、特に7~9のpH範囲の、緩衝能を有する上述の任意の緩衝液を含有し得るが、これに限定されない。第1の緩衝溶液中のヒト血清を接触させること(120)は、第1の緩衝溶液中のヒト血清を、同様に中性の、特に7~9のpH範囲の、緩衝能を有する第2の緩衝溶液で平衡化したクロマトグラフィーカラム内のセファロース系多孔質マトリックスに、適用すること(122)を含む。
【0052】
セファロース系樹脂としては、これらに限定されないが、ブチルセファロース、フェニルセファロース若しくはオクチルセファロース等の疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)樹脂、SP-セファロース又はQ-セファロース等のイオン交換樹脂、又はヘパリンセファロース等のアフィニティークロマトグラフィー樹脂を挙げることができる。これらのいずれか1つ、又は2つ以上の組合せ若しくは混合物を、例えば本明細書に記載の原理に従って使用することができる。一部の例では、セファロース系樹脂は、HICカラム内のブチルセファロース及びフェニルセファロースからなる群から選択される。セファロース系樹脂を、上述の第2の緩衝溶液を用いてクロマトグラフィーカラムに充填し、平衡化する。
【0053】
第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液は、異なる濃度で同じ成分を有していてもよく、又は異なる緩衝溶液であってもよい。一部の例では、第1の緩衝溶液及び第2の緩衝液は、これらに限定されるものではないが、個別に、例えばリン酸塩含有緩衝液、硫酸アンモニウム含有緩衝液、トリス、又はトリスと硫酸アンモニウム及びリン酸アンモニウムのいずれかとの混合物を含む。一部の例では、第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液は、トリスと例えば硫酸アンモニウム等の抗カオトロピック塩との水溶液である。第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液は、各々、血清タンパク質を溶液中に、特にIGF結合タンパク質をヒト血清中に、維持する(即ち、タンパク質を塩析しない)ように構成される濃度を有する。更に、第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液の濃度は、各々、様々な血清タンパク質の溶解性を、IGF結合タンパク質、特にnr-IGFBP-3、の溶解性よりも増大させる(例えば、それらを、よりイオン性にする)ように構成される。これは、本実施形態が除去の標的とする主要不純物がnr-IGFBP-3由来のヒト血清アルブミン及び多くの他の血清タンパク質であるためである。これにより、分離及び除去の標的となるヒト血清アルブミン及び多くの他の血清タンパク質の大部分がセファロース系カラムを通過し、セファロース樹脂が対象の血清タンパク質、即ちnr-IGFBP-3に結合する能力が実質的に可能となる。
【0054】
緩衝溶液及びその濃度の選択は、これらに限定されないが、例えば、使用するセファロース系樹脂の選択、使用するクロマトグラフィーのタイプ、ヒト血清から分離すべきタンパク質、クロマトグラフィーカラムにおいて溶出するバッチサイズ及び抗カオトロピック塩強度の1つ以上を始めとする要因に左右され得る。一部の例では、ヒト血清溶液は、約1:1容量比のヒト血清と第1の緩衝溶液との混合物である。これらの例では、第1の緩衝溶液の濃度は、セファロース系カラムを平衡化するのに使用される第2の緩衝溶液の濃度の約2倍である。第2の緩衝溶液がより低い抗カオトロピック強度を有するため、120で接触させた溶液からの除去の標的となるヒト血清の画分が非結合のままであり(「非結合画分」)、クロマトグラフィーカラムから洗浄され、120で接触させた溶液の残りの画分が、その後の除去までセファロース系樹脂に結合する(「結合画分」)。そのため、結合画分は、他の血清タンパク質から分離されたIGF結合タンパク質のみ、特にnr-IGFBP-3、を実質的に含む。
【0055】
一部の例では、ヒト血清溶液と混合される第1の緩衝溶液は、トリス及び硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)塩の水溶液を含有する。室温における第1の緩衝溶液中のトリス及び硫酸アンモニウムの濃度は、約30mM~約70mMのトリス及び約0.5M~約2.0Mの硫酸アンモニウムの範囲内であり得る。一部の例では、室温での第1の緩衝溶液中のトリス及び硫酸アンモニウムの濃度は、約35mM~約70mMのトリス及び約0.6M~約2.0Mの硫酸アンモニウム、又は約40mM~約70mMのトリス及び約0.7M~約2.0Mの硫酸アンモニウム、又は約45mM~約70mMのトリス及び約0.8M~約2.0Mの硫酸アンモニウム、又は約50mM~約70mMのトリス及び約1.0M~約2.0Mの硫酸アンモニウムの範囲内であり得る。一部の例では、室温での第1の緩衝溶液中のトリス及び硫酸アンモニウムの濃度は、約30mM~約65mMのトリス及び約0.5M~約1.8Mの硫酸アンモニウム、又は約30mM~約60mMのトリス及び約0.5M~約1.5Mの硫酸アンモニウム、又は約30mM~約55mMのトリス及び約0.5M~約1.0Mの硫酸アンモニウム、又は約30mM~約50mMのトリス及び約0.5M~約0.75Mの硫酸アンモニウムの範囲内であり得る。
【0056】
同様にトリス及び硫酸アンモニウム塩の水溶液を含む第2の緩衝溶液は、室温での第2の緩衝溶液中のそれぞれの濃度が約18mM~約35mMのトリス及び約0.3M~約1.0Mの硫酸アンモニウム、又は約20mM~約35mMのトリス及び約0.35M~約1.0Mの硫酸アンモニウム、又は約22mM~約35mMのトリス及び約0.4M~約1.0Mの硫酸アンモニウム、又は約25mM~約35mMのトリス及び約0.5M~約1.0Mの硫酸アンモニウムの範囲内であり得る。一部の例では、室温での第2の緩衝溶液中のトリス及び硫酸アンモニウムの濃度は、約15mM~約32mMのトリス及び約0.25M~約0.9Mの硫酸アンモニウム、又は約15mM~約30mMのトリス及び約0.25M~約0.75Mの硫酸アンモニウム、又は約15mM~約27mMのトリス及び約0.25M~約0.5Mの硫酸アンモニウム、又は約15mM~約25mMのトリス及び約0.25M~約0.37Mの硫酸アンモニウムの範囲内であり得る。
【0057】
一部の例では、第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液のpHは、約pH7.0~約9.0、又は約pH7.5~約9.0、又は約7.8~約9.0、又は約pH8.0~約9.0、又は約pH7.5~約8.7、又は約pH7.5~約8.5、又は約pH7.5~約pH8.3の範囲内である。一例では、使用されるセファロース系樹脂は、タンパク質分離用のHICカラム内のフェニルセファロースであり、第1の緩衝液及び第2の緩衝液が各々、トリスと硫酸アンモニウムとの混合物を含有する。第1の緩衝溶液は、約50mMのトリス及び約0.7Mの硫酸アンモニウムの濃度を有し、pHが約8.1であり、第2の緩衝溶液は、約25mMのトリス及び約0.35Mの硫酸アンモニウムの濃度を有し、pHが約8.1である。一部の例では、第1の緩衝溶液の濃度は、第2の緩衝溶液の濃度の2倍である。
【0058】
クロマトグラフィーカラムは、一部の例では、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いて、ヒト血清から(例えば、血清アルブミン等のヒト血清中の他のタンパク質からを含む)、nr-IGFBP-3を分離するように、構成される。そのため、クロマトグラフィーカラムは、nr-IGFBP-3を精製し及び/又はnr-IGFBP-3を富化するように構成されていてもよい。HIC及びセファロース系樹脂多孔質マトリックスの使用に関する更なる情報は、米国特許第7,307,148号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)に見られる。
【0059】
一部の例では、第1の緩衝溶液中のヒト血清をクロマトグラフィーカラムに適用すること(122)は、第2の緩衝液により平衡化したセファロース系樹脂多孔質マトリックスに、溶液を約1.0ミリリットル毎分(mL/分)~約5.0mL/分の範囲内の速度で適用することを含む。一部の例では、第1の緩衝液中のヒト血清の溶液は、約1.4mL/分~約5.0mL/分、又は約1.8mL/分~約5.0mL/分、又は約2.0mL/分~約5.0mL/分の範囲内の速度にて122で適用することができる。一部の例では、第1の緩衝溶液中のヒト血清を122で適用する速度は、約1.0mL/分~約4.6mL/分、又は約1.0mL/分~約4.2mL/分、又は約1.0mL/分~約3.8mL/分、又は約1.0mL/分~約3.6mL/分の範囲内である。一例では、第1の緩衝液中のヒト血清の溶液は、約3.0mL/分の速度でクロマトグラフィーカラムの多孔質マトリックスに122で適用される。ヒト血清溶液を接触させること(120)は、122で適用されたヒト血清溶液の非結合画分を、第2の緩衝溶液を用いてクロマトグラフィーカラムを通して洗浄し、非結合画分をカラムから除去することを更に含む。
【0060】
更に、
図1Bに説明されるように、これらの実施形態では、第1の緩衝液中のヒト血清の溶液と多孔質マトリックスとを接触させること(120)は、第1の緩衝溶液中の122で適用されたヒト血清の結合画分を第3の緩衝溶液で溶出させること(124)を更に含む。上述のように、これらの実施形態では、結合画分はIGF結合タンパク質のみ、特に第1の緩衝溶液中の122で適用されたヒト血清の非結合画分中の他の血清タンパク質を含むヒト血清の残りの部分から分離された、nr-IGFBP-3のみを実質的に含む。更に、結合画分中のnr-IGFBP-3は、上記のように天然不均質形態を有する。
【0061】
第3の緩衝溶液は、抗カオトロピック塩を殆ど又は全く含有しない(例えば、実質的に0%の抗カオトロピック塩含有量)という点で、第1の緩衝溶液及び第2の緩衝溶液の一方又は両方と異なる。例えば、第3の緩衝溶液は、これらに限定されないが、上述の緩衝液のいずれか、又は約pH7~約pH9の緩衝能を有する別の緩衝液を始めとする緩衝液を含有し得る。一部の例では、第3の緩衝液は、nr-IGFBP-3の結合画分をセファロース系カラムから124で溶出させるために、硫酸アンモニウム塩を含まずトリスを含む。
【0062】
一部の例では、第3の緩衝溶液は、約15mM~約35mM、又は約15mM~約30mM、又は約15mM~約27mM、又は約15mM~約25mM、又は約20mM~約30mMの範囲内の濃度で、トリスを含む(そして、抗カオトロピック塩を含まない。)。第3の緩衝溶液のpHは、例えば、約pH7.5~約8.6の範囲内である。一部の例では、第3の緩衝溶液のpHは、約pH7.6~約8.6、又は約pH7.7~約8.6、又は約pH7.5~約8.4、又は約pH7.5~約8.3、又は約pH7.5~約8.2の範囲内である。一例では、第3の緩衝溶液は約25mMのトリス濃度を有し、pHが約8.1である。一部の例では、第1の緩衝溶液、第2の緩衝溶液及び第3の緩衝溶液の各々のpHはpH7.0以上、又はpH7.4以上、又はpH7.6以上、又はpH7.8以上、又はpH8.0以上である。
【0063】
図1Bを再び参照すると、一部の例では、ヒト血清の水溶液と多孔質マトリックスとを接触させること(120)は、第3の緩衝溶液中の溶出したnr-IGFBP-3を濾過システム又はデバイスの多孔質マトリックスに、126で適用されるnr-IGFBP-3溶液の濾過、緩衝液交換及び濃縮のために、緩衝液交換溶液を用いて、適用すること(126)を更に含み得る。緩衝液交換溶液としては、これらに限定されないが、例えばPBS又はアジ化ナトリウムと混合したPBSが挙げられる。緩衝液交換溶液は、上記の緩衝液交換溶液及び濃度範囲と実質的に同様であってもよい。
【0064】
第3の緩衝溶液中の124で溶出させたnr-IGFBP-3の適用(126)に使用される濾過システムとしては、上記のいずれかの濾過システムが挙げられるが、これに限定されない。一部の例では、AMICON(商標)攪拌式セル限外濾過システム、TFFシステム、及び別の精密濾過、限外濾過又はクロスフロー濾過システムの1つ以上を使用することができる。更に、濾過膜は、溶液中のnr-IGFBP-3の濾過、緩衝液交換及び濃縮のために、約10kDa~約20kDaというNMWL又はNMWCの膜の使用をしてもよい。一部の例では、使用する濾過システムに応じて、水溶液中のnr-IGFBP-3の濃縮を容易にするために、nr-IGFBP-3溶液を、一連の工程で又は連続的に、緩衝液交換溶液を用いて濾過膜を通過させることができる。例えば、nr-IGFBP-3溶液の緩衝液交換及び濃縮のために、TFFシステムにより溶出nr-IGFBP-3溶液を126で連続的に適用する。
【0065】
図1Aを再び参照すると、上述のように、nr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法100は、更に、水溶液中の濃縮されたnr-IGFBP-3を、使用される濾過システムの多孔質マトリックスから、回収すること(140)を含む。本明細書に記載の実施形態による濃縮物を形成する方法100によって作製される濃縮nr-IGFBP-3水溶液は、1ミリリットルあたり約16マイクログラム(μg/mL)~約40μg/mLの濃度範囲を有する。本明細書に記載のnr-IGFBP-3の濃縮物を形成する方法100は、nr-IGFBP-3濃縮物の大規模バッチ作製を容易にするように構成される。一部の例では、濃縮nr-IGFBP-3溶液は、上記のヒトIGF結合タンパク質ストック溶液と実質的に同様であり得る。そのため、本明細書の濃縮物を形成する方法100によって作製される濃縮nr-IGFBP-3溶液は、ヒトIGF結合タンパク質ストック溶液についての上述のいずれかの濃度範囲内であり得る。特に、濃縮nr-IGFBP-3水溶液は、典型的には約3.5μg/mL~5.5μg/mLの範囲であるヒト血清中で見出され又はヒト血清から単離されるnr-IGFBP-3の量よりも顕著に濃縮されている。
【0066】
本明細書の方法100によって作製される濃縮nr-IGFBP-3溶液の濃度範囲は、ヒト患者試料のIGFBP-3被検体の免疫測定におけるIGFBP-3被検体の推測される濃度範囲に亘るように構成される異なる濃度を有するnr-IGFBP-3較正物質のセットを作製するのに十分である。一部の例では、セットの各々の較正物質中のnr-IGFBP-3の濃度は異なり、較正物質セット中の種々のnr-IGFBP-3濃度は、約0.5μg/mL~約16μg/mLの範囲内である。一部の例では、nr-IGFBP-3較正物質のセットは、上記の較正標準のセットと実質的に同様である。そのため、種々の較正物質中のnr-IGFBP-3の濃度範囲は、較正標準のセットについて上述したいずれかの濃度範囲内であり得る。
【0067】
一部の例では、セットにおける種々のnr-IGFBP-3較正物質は、0.50μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、1.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、1.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、2.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、2.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、3.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、3.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、4.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、4.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、5.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、5.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、6.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、7.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、8.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、9.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、10.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、12.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質、14.5μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質及び16.0μg/mLのnr-IGFBP-3較正物質の1つ以上を含有し得る。較正物質のセットにおけるnr-IGFBP-3濃度は、ヒト患者試料中のIGFBP-3被検体レベルの推測される濃度範囲に亘るように構成される。一部の例では、セットにおける種々のnr-IGFBP-3較正物質は、上記リストアップした濃度値のnr-IGFBP-3濃度の較正物質を含んでいても又は更に含んでいてもよい。更に、一部の例では、様々なより低いnr-IGFBP-3濃度の較正物質により、較正物質のセットのためのMDP標準が提供され得る。
【0068】
nr-IGFBP-3三元複合体は、結合したIGF-1又はIGF-2及びALS及びグリコシル化単位を含むので、ヒト患者試料の免疫測定においてIGF-1又はIGF-2被検体レベルの測定を容易にするために調製されるべき種々のnr-IGFBP-3較正標準について本明細書に記載される原理の幾つかの実施形態の更なる範囲内である。一部の例では、IGF結合タンパク質ストック溶液から調製されるnr-IGFBP-3較正物質のセットは、上記のように、1ミリリットル当たり約20ナノグラム(ng/mL)~約375ng/mLのIGF-1又はIGF-2の範囲であり得る、IGF-1又はIGF-2被検体レベルの測定を更に容易にする。例えば、nr-IGFBP-3と複合体を形成するIGF-1又はIGF-2の量は、実質的に正比例する。そのため、IGF-1又はIGF-2較正標準のセットは、本明細書に記載のnr-IGF結合タンパク質ストック溶液を用いて、調製することができる。例えば、患者試料中の約100ng/mL~約750ng/mLのIGF-1又はIGF-2レベルの推測される範囲に亘る、種々のIGF-1又はIGF-2の濃度を有するIGF-1又はIGF-2較正標準のセットは、約5μg/mL~40μg/mLの範囲の種々のnr-IGFBP-3濃度を有する対応するnr-IGFBP-3較正物質のセットを用いて、約16μg/mL~約40μg/mLの濃度範囲のIGF結合タンパク質ストック溶液から調製することができる。
【0069】
更に、上述のように、nr-IGFBP-3較正物質をヒト血清で希釈する。一部の例では、較正標準及び対照中のnr-IGFBP-3の標的レベルの達成を容易にするために、実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清を希釈剤として有することが望ましい場合がある。一部の実施形態では、「実質的にIGF結合タンパク質を含まない」という表現は、ヒト血清中のIGF結合タンパク質の量が、実質的にLOQ未満であることを意味する。LOQは、約100ng/mL又は約200ng/mLに設定することができる。幾つかの実施形態では、実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清は、本明細書で規定されるように約5(容量)%以下、又は約2%以下、又は約0.20μg/mL以下、又は約0%のIGF結合タンパク質を含有する。
【0070】
[実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清を作製する方法]
本明細書に記載の原理に従う一例における、IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤を作製する方法200を
図3に示す。実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清希釈剤を作製する方法200は、ヒト血清を、酢酸若しくはクエン酸等の有機酸、又はアミノ酸(例えば、グリシン)、又は塩酸等の無機酸と、混合すること(210)と、得られた混合物を酸で処理して、pHを、例えば約pH3.5未満であるが、pH2.0以上となるように調整すること(220)とを含む。例えば、混合物を処理(220)中に約pH3.0のpHに調整することができる。pHをpH2.0未満まで下げる過剰な酸処理は、例えば、重度のタンパク質凝集を引き起こす可能性がある。
【0071】
実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清希釈剤を作製する方法200は、更に、ヒト血清の酸処理混合物を活性炭フィルターに適用すること(230)を含む。活性炭フィルターは、例えばEMD Millipore社のMILLISTAK+(商標)活性炭カートリッジフィルターであってよい。一部の例では、酸処理混合物を約1.5mL/分、又は約2.0mL/分、又は約2.5mL/分、又は約3.0mL/分の速度で活性炭フィルターにかけることができる。実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清希釈剤を作製する方法200は、更に、溶出液を活性炭フィルターから回収すること(240)を含む。240で回収される溶出液は、酸処理した混合物の非結合画分であって、実質的にIGF結合タンパク質を含まないヒト血清である。
【0072】
一部の例では、方法200は、更に、240で回収される溶出液のpHを、例えば約pH7.25~約pH7.50の範囲内となるように、調整することと、240で回収されpHが調整された溶出液に対する緩衝液交換を行なうこととを含む。一部の例では、緩衝液交換は、上記のように、PBS緩衝溶液中、例えばPBSとアジ化ナトリウムとの溶液中、でAMICON(商標)攪拌式セル又はTFFシステム等の多孔質マトリックスを用いて、行なう。緩衝液交換された溶出液により、例えば本明細書に記載のnr-IGFBP-3較正標準の調製に使用するための、IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清希釈剤が得られる。
【0073】
[較正物質を利用することができるアッセイの概要]
以下の論考は例示を目的とするものであって、限定的なものではない。本発明の組成物は、較正物質が用いられるIGF及びIGFBP-3の決定のための任意のアッセイに用いることができる。アッセイは、アッセイの構成要素又は生成物のいずれかの分離を伴わずに(均質アッセイ)又は分離を伴って(不均質アッセイ)行なうことができる。不均質アッセイは、通常、1つ以上の分離工程を含み、競合的であっても又は非競合的であってもよい。免疫測定は、標識された又は標識されていない試薬を用いてもよい。標識されていない試薬を要する免疫測定は、通常、本明細書に記載の原理に従う免疫原性複合体から調製される1つ以上の抗体を含む比較的大きな複合体の形成を含む。かかるアッセイとしては、例えば抗体複合体の検出のための、免疫沈降法及び凝集法、並びに、例えば比濁分析法及び比濁法等の、対応する光散乱法が挙げられる。標識免疫測定としては、これらに限定されないが、例えば化学発光免疫測定、酵素免疫測定、蛍光偏光免疫測定、放射免疫測定、阻害アッセイ、誘起発光アッセイ及び蛍光酸素チャネリングアッセイが挙げられる。アッセイにおいて、結果を較正物質のセットと比較し、試料中の被検体の濃度の決定を行なう。
【0074】
試験対象の試料は、これに限定されないが、例えばヒトを含む哺乳動物、鳥類、爬虫類及び他の脊椎動物の身体から得られる、体液及び体組織等の、生体物質を始めとする、IGF及びIGFBP-3の一方又は両方を含有し得る任意の試料である。例えば、体液としては、例えば全血、血漿、血清、リンパ液又は臍帯血が挙げられる。
【0075】
アッセイは、アッセイ媒体中で試料とアッセイを行なうための試薬とを合わせることによって行なわれる。これらのアッセイ試薬の性質及び量は、行なわれるアッセイの性質によって決まる。例えば、サンドイッチ免疫測定用のアッセイ試薬は、少なくとも1つが標識された少なくとも2つの抗体を含む。競合免疫測定については、アッセイ試薬は、少なくとも1つの抗体と、通常は、標識を含むことにより被検体と異なる被検体類似体とを含む。アッセイ媒体は中程度のpHの水性緩衝媒体であり、概して最適なアッセイ感度をもたらすものである。水性媒体は水のみであっても、又は0.1容量パーセント~約40容量パーセントの共溶媒、例えば水混和性の有機溶媒、例えばアルコール、エーテル又はアミド、を含んでいてもよい。媒体のpHは、通常は、例えば約4~約11の範囲内、又は約5~約10の範囲内、又は約6.5~約9.5の範囲内である。
【実施例】
【0076】
他に指定のない限り、下記の実験における材料は、Sigma-Aldrich Chemical Corporation(ミズーリ州、セントルイス)から購入することができる。本明細書に開示する部及びパーセンテージは、他に指定のない限り容量に対する重量によるものである。
【0077】
(実施例1:硫酸ナトリウム沈殿によるnr-IGFBP-3富化)
飽和硫酸ナトリウム溶液を、60グラム(g)の硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich、カタログ番号(cat no.)238597、142.04に等しい分子量(mw)、100mLの水に対して19.5gに等しい20℃での水溶解度)と200mLの水とを室温で2時間混合することによって調製した。溶解していない硫酸ナトリウム塩を、0.2ミクロン又はマイクロメートル(μm)フィルターを用いた濾過によって除去した。Bioresource Technology社の高度に正規化されたヒト血清(「BRT」又は「BRT1」)(200mL、cat no.H1090、ロット番号1407033)を、0.2μmフィルターで濾過し、室温まで温めた。
【0078】
飽和硫酸ナトリウム溶液(200mL)を等容量のBRT1と、発泡を回避するために低速混合機で、室温で1時間混合した。25mLアリコートをFalconeチューブに注入し、3000×g(即ち、g=9.8メートル毎秒毎秒(m/s2)は、地球の重力による加速度である。)で、Thermo FisherのSORVALL(商標)遠心分離機(モデルST40R)を用いて、4℃で1時間遠心分離した。次いで、各チューブから上清を陰圧吸引器により慎重に除去し、残りのペレットをPBS/0.09%アジ化ナトリウムに溶解した。再溶解又は再構成したペレット(およそ200mL)を、30キロダルトン(KDa)NMWLの限外濾過ディスク(Millipore cat no. PLTK06210)及びRC800ミニリザーバー(Millipore cat no.5123)を備える200mL容のAMICON(商標)攪拌式セル(モデル8200、Millipore、cat no.6028)に入れ、PBS/0.09%アジ化ナトリウムに緩衝液交換した。緩衝液交換は、ペレットを溶解した溶液の5倍の1000mL以上のPBS/0.09%アジ化ナトリウム溶出廃液が回収された後に完了した。
【0079】
AMICON(商標)攪拌式セル内の溶液を、AMICON(商標)攪拌式セルを用いて10mL~15mLまで更に濃縮し、nr-IGFBP-3濃度を、IMMULITE(商標) 2000免疫測定システム(Siemens Healthcare GmbH)によって数値を割り当てた標準を用いて、CENTAUR(商標) XPプロトタイプIGFBP-3アッセイシステム(Siemens Healthcare GmbH)によって測定した。nr-IGFBP-3濃縮物を、BRT1と1:1又は異なる割合で混合し、2.5%ウシ血清アルブミン(BSA)ベースのベースプール(Base Pool)中で7つの標準の第1のセット(以下、「BL5U」標準と称される)を構成した。
【0080】
表1に、硫酸ナトリウム沈殿させたBL5U標準「S01~S07」(ここで、S01はnr-IGFBP-3を添加しない「ブランク標準」である)を血清中での各BL5U標準の数値割り当て用量値と共に挙げ、各BL5U標準について測定された相対発光量(RLU)、及び各BL5U標準についてのシグナル対ノイズ比(S/N)を更に挙げる。RLUは、7つのBL5U標準についてプロトタイプCENTAUR(商標)システムによって測定されるnr-IGFBP-3からの特異的化学発光を指す。ブランク標準S01についてのS/Nを1.0に等しいと指定し、BL5U標準S02~S07の各々のS/Nは、それらの測定RLUをブランク標準RLUで除算したものに等しい。BL5U低用量較正物質「BL5U Low Cal」及びBL5U高用量較正物質「BL5U High Cal」を使用し、「未知の」患者試料中のnr-IGFBP-3の用量値を、2点データフィッティング較正プログラムを用いて、算出した。
【0081】
表1から、抗カオトロピック剤としての硫酸ナトリウム塩が、実施例2に関して下記表3に示されるように硫酸アンモニウム塩を抗カオトロピック剤として使用した場合よりも低い沈殿収率ではあるが、nr-IGFBP-3をヒト血清由来の溶液から(他の血清タンパク質と共に)沈殿させることが可能であったことが示される。また、プロトタイプCENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイ(ADVIA)により、出発BRTヒト血清中(即ち、約4.0μg/mL~4.5μg/mL)よりもはるかに高いnr-IGFBP-3用量を有するBL5US06(8.6μg/mL)及びBL5US07(15.3μg/mL)を用いて、nr-IGFBP-3を用量依存的に、検出することが可能であったことが表1に示される。従って、硫酸ナトリウム等の抗カオトロピック塩の使用により、(他の血清タンパク質と共に)溶液からの被検体の沈殿、続いて沈殿した被検体の再溶解、その後の限外濾過、又は更にはTFFを用いた濃縮及び緩衝液交換によってヒト血清からnr-IGFBP-3を濃縮することが可能である。しかしながら、硫酸ナトリウム塩を抗カオトロピック剤として用いて沈殿/再溶解したnr-IGFBP-3の最終収率は、沈殿反応の規模(バッチサイズ、即ち、BRTヒト血清+濃縮抗カオトロピック塩溶液の出発容量)の増大と共に減少した。
【0082】
【0083】
(実施例2:硫酸アンモニウム沈殿によるnr-IGFBP-3富化)
(実施例2A)
飽和硫酸アンモニウム溶液を、160gの硫酸アンモニウム(Sigma-Aldrich、cat no.2939、132.14に等しいmw、100mLの水に対して75.4gに等しい20℃での水溶解度)と200mLの水とを混合することによって調製し、室温で2時間混合した。硫酸アンモニウム溶液を0.2μmフィルターで濾過し、200mLの溶液を、同様に室温まで予め温めた等容量のBRTと混合した。残りの手順は、実施例1に記載したものと同じにした。
【0084】
(実施例2B)
400mLのBRTを等容量の実施例2Aの飽和硫酸アンモニウム溶液と共に使用し、実施例1に記載したものと同じ手順に従った。富化したnr-IGFBP-3濃縮物を合一し、S01~S07と番号付けされる7つの標準の第2のセット(以下、「BL7」と称される)、並びに同様にIMMULITE(商標) 2000 IGFBP-3アッセイシステムによって数値が割り当てられた低値及び高値較正物質とした。BL7S07に、初めにIMMULITE(商標) IGFBP-3アッセイ(即ち、好適な合法的に市販された(predicate)デバイス)を用いて、数値を割り当てた。次いで、nr-IGFBP-3を含まない緩衝液を用いて、BL7S07を段階希釈した。「BL7 Low Cal」及び「BL7 High Cal」の値を使用して、「未知の」患者試料に見られるnr-IGFBP-3濃度の用量値を、Low Cal及びHigh Cal 2点データフィッティング較正プログラムを用いて算出した。
【0085】
表2に、BL7標準「S01~S07」(ここで、S01はnr-IGFBP-3を添加しない「ブランク標準」である。)を、血清中での各BL7標準の数値割り当て用量値と共に示し、更に、各BL7標準について測定されたRLU及び各BL7標準についてのS/Nを示す。また、BL7 Low Cal及びBL7 High Calについての低用量値及び高用量値も挙げる。
図4に、本明細書に記載の原理と一致する実施形態による一例における、プロトタイプCENTAUR(商標) XPアッセイ対IMMULITE(商標)数値割り当て標準による硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3の用量応答を相対発光量(RLU)で表わしたグラフを示す。グラフは、合法的に市販されたIMMULITE(商標) 2000システムを用いて数値を割り当てた、硫酸アンモニウム沈殿させたBL7標準のマスター曲線である。
【0086】
【0087】
表2及び
図4のデータから、硫酸ナトリウムよりも強い抗カオトロピック剤である硫酸アンモニウム塩が、より大規模の出発BRTヒト血清で沈殿nr-IGFBP-3の収率の改善をもたらすことが示される。
図4に、プロトタイプADVIA CENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイを用いて作成した用量曲線に対する表2からのRLU値を示す。大規模なBRTヒト血清量(1リットル以上)で抗カオトロピック剤として硫酸アンモニウム塩を用いることで、硫酸アンモニウム沈殿及び濾過方法(即ち、限外濾過又はTFFプロセスのいずれか)に先立って、BRTヒト血清の出発試料中のnr-IGFBP-3(即ち、約4.0μg/mL~4.5μg/mL)よりもはるかに高濃度のnr-IGFBP-3(即ち、それぞれ11.45μg/mL、17.72μg/mL及び11.0μg/mL)を含む標準及び較正物質(例えば、S06、S07及び高較正物質BL7 Cal H)の調製が可能となる。
【0088】
本明細書でプロトタイプADVIA CENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイが、手動希釈なしにCENTAUR(商標)システムで未知濃度のnr-IGFBP-3を含有するヒト血清試料の希釈をもたらすことにも留意されたい。そのため、BL7S06及びBL7S07等の標準、High Cal較正物質、並びに更には高MDP試料等をこのように生成する能力により、実験室の操作者がnr-IGFBP-3標準、較正物質、MDP等を、実験室の操作者が未知の患者試料を取り扱うことができる方法と実質的に同じ方法で取り扱い、例えば予備ADVIA CENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイの全作業範囲を実質的にカバーすることが可能となる。
【0089】
図5及び
図6に、CENTAUR(商標)完全曲線法及び2点データフィッティング較正法を、それぞれ、用いた、CENTAUR(商標) XPとIMMULITE(商標) 2000との用量値の方法比較データを示す。特に、未知濃度のnr-IGFBP-3を含有する同じヒト血清試料に対して試験した場合の、合法的に市販されたデバイスであるIMMULITE(商標) 2000 IGFBP-3アッセイと比較した、プロトタイプADVIA CENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイの方法比較データを
図5及び
図6に示す(ここで、試料サイズはn=32個のヒト血清試料である)。プロトタイプADVIA CENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイについては、nr-IGFBP-3の濃度値を、完全曲線計算(
図5)を用いて、又は
図6については低較正物質(BL7 Cal L=0.48μg/mL)及び高較正物質(BL7 Cal H=11.00μg/mL)を使用する2点較正を用いて算出した。
図5及び
図6の標準であるBL7S01~BL7S07は、硫酸アンモニウムを抗カオトロピック沈殿剤として使用し、BRTヒト血清に対する限外濾過又はTFFプロセスを用いて生成した。
【0090】
(実施例3A及び実施例3B:リン酸ナトリウム溶液中の硫酸アンモニウムを用いたnr-IGFBP-3富化のスケールアップ)
飽和硫酸アンモニウム溶液を、沈殿のために等容量のBRT1血清と混合した。プロセスを、100mLから1,000mLのヒト血清にまでスケールアップした。リン酸ナトリウム水溶液(約50mM~52mM)を、飽和硫酸アンモニウム溶液に使用した。表3に、プロトタイプCENTAUR(商標) IGFBP-3結合アッセイに基づく収率をまとめる。各1リットルのBRT1ヒト血清を、実施例3A及び実施例3Bについて下述するような異なる装置を用いて処理した。
【0091】
(実施例3A)
ヒト血清は、上記実施例1に記載の装置を用いて取り扱った。
【0092】
(実施例3B)
ヒト血清をリン酸ナトリウム溶液中の50%飽和硫酸アンモニウムによって沈殿させ、Beckman Coulter社のADVANTI(商標)遠心分離機(モデルJ-20XPI)を用いて遠心分離し、PBS/アジ化ナトリウムへの緩衝液交換を、Pall Corporation(ニューヨーク州、ポート ワシントン)社のTFFカセット(cat no.OS030T12)を備える、Scilogによるタンジェンシャルフローフィルター(TFF)によって行なった。約800mLから200mLまでの最終的な減少を、AMICON(商標)攪拌式セルで行なった。実施例1、実施例2並びに実施例3A及び実施例3Bによる収率の詳細な概要を表3にまとめる。
【0093】
表3から、プロトタイプCENTAUR(商標) IGFBP-3結合アッセイが、一貫した又は増大するより高いnr-IGFBP-3のパーセント収率で、より大規模のバッチサイズの処理を支持するように構成されることが示される(1,000mLのBRT容量での実施例3A及び実施例3B)。更に、nr-IGFBP-3の沈殿に使用される、より強力な抗カオトロピック剤、即ち硫酸アンモニウム、が硫酸ナトリウムよりも高い収率をもたらし、より大規模での処理に適合し、水中で混合するか水中のリン酸ナトリウム溶液中で混合して限外濾過システム又はTFFシステムを用いて濾過/緩衝液交換するかに拘わらず、(nr-IGFBP-3を沈殿させるために)良好に機能したことが表3に示される。nr-IGFBP-3の収率は、沈殿にリン酸ナトリウム溶液中の硫酸アンモニウムを1リットルのヒト血清と共に(1:1比)を使用し、nr-IGFBP-3の分離、緩衝液交換及び濃縮にTFFシステムを使用した実施例3Bで最高であった。
【0094】
【0095】
(実施例4:疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いたnr-IGFBP-3の精製及び富化)
実施例4を、フェニルセファロース6FFを用いたHICクロマトグラフィーカラム内のセファロース系樹脂の多孔質マトリックスを用いて行なった。20%エタノール中の25mLのフェニルセファロース6FF(マサチュセッツ州、マールボロ、GE Life Sciences、cat no.17-0973-10)をガラス漏斗内で水に交換し、XK16/20カラム(GE Life Sciences、cat no.28-988937)に充填し、ゲルを100mLの緩衝液A:0.35Mの硫酸アンモニウム緩衝液(pH8.1)を含む25mMのトリス(pH8.1)(即ち、上記の「第2の緩衝溶液」)で平衡化した。25mLの高度に正規化されたヒト血清(BRT1、Bioresource Technology、cat no.H1090、lot no.1407033)を0.2ミクロンフィルターで濾過し、25mLの緩衝液B:50mMのトリス(pH8.1)、0.7Mの硫酸アンモニウム緩衝液(即ち、上記の「第1の緩衝溶液」)と室温で10分間混合した。50mLの血清混合物をカラムに約3mL/分で適用し、非結合画分を100mLの緩衝液Aで洗浄した。次いで、100mLの緩衝液C:25mMのトリス(pH8.1)(即ち、上記の「第3の緩衝溶液」)を適用し、結合nr-IGBBP3を溶出させた。
【0096】
緩衝液Cで100倍希釈した280mL量の投入BRT1、並びに緩衝液C中の非結合画分及び溶出画分の10倍希釈物を、UV-VIS分光光度計によって測定し、nr-IGFBP-3の用量(μg/mL単位)をCENTAUR(商標) IGFBP-3プロトタイプアッセイによって測定した。溶出画分を、連続フローミニリザーバーを備えるAMICON(商標)攪拌式セルによってPBS/0.09%アジ化ナトリウムに更に緩衝液交換した。最後に、緩衝液交換したnr-IGFBP-3の容量を10mLまで減少させた。
【0097】
合計116.75μgの投入nr-IGFBP-3のうち合計103.6μgのnr-IGFBP-3が、フェニルセファロース6FFから、溶出した。緩衝液交換後のフェニルセファロース6FFを用いたHICクロマトグラフィーによるパーセント(%)収率は89%であった。GE Healthcare Life Sciencesによるベンダー指示71-5002-39 ACに従い、フェニルセファロースを再生した。
【0098】
(実施例5:組み換えヒトIGFBP-3を用いた環境/温度影響)
(組み換えヒトIGFBP-3を較正標準として用いた研究)
免疫測定法は、24℃±6℃の通常の実験室条件下で信頼性の高い結果をもたらすことが予測される。バイアスは、高用量値と低用量値との差を18℃、24℃及び30℃での用量値で除算することによって算出した。典型的な規格を設定した。例えば、バイアスは個々の試料について10%、又は幾つかの試料の平均について15%を超えないものとする。表4、表5及び表6に、それぞれ18℃、24℃及び30℃での保管曲線の完全曲線分析を用いた、本明細書の実施例1に従って調製したnr-IGFPB-3試料(「BL5U」)、BRT1(cat.no.H1090、lot no.1407033、Bioresources Technology,Inc.社の高度に正規化されたヒト血清)、並びにR and D Systems,Inc.(ミネソタ州ミネアポリス、cat.no.675-B3-025)及びPeprotech(ニュージャージー州ロッキーヒル、cat.no.100-08)社の市販の組み換えIGFBP-3(r-IGFBP-3)を用いた試料のIGFBP-3アッセイについてのバイアス表をまとめる。
【0099】
表5~表7から、多くの場合、R and D Systems及びPeprotech社のr-IGFBP-3試料が、少なくとも約4μg/mL以上の標的範囲でBRT1及びBL5U試料中のnr-IGFBP-3と比較して過剰回収されることが示される。
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
(硫酸ナトリウム又は硫酸アンモニウムで沈殿させた較正標準を用いた研究:)
比較として、(実施例1の手順を用いて調製した)BL5U標準及びBL6標準(硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3)の感温性研究、並びにCENTAUR(商標)XPシステムEDを用いた18℃、24℃及び30℃での標準を使用する試料回収を、患者試料(「GAL0」)及びIMMULITE(商標)アッセイ対照試料(「Imm0028K」)と共に表8、表9及び表10にまとめる。
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
(実施例6:硫酸アンモニウム沈殿させたnr-IGFBP-3較正標準を用いたIGF-1標準の構成)
nr-IGFBP-3複合体の分子量(約150,000)は、IGF-1及び/又はIGF-2と結合したIGF結合タンパク質3+酸不安定セグメント(ALS)を含む。nr-IGFBP-3被検体レベルの測定は、本明細書に記載のIGF結合タンパク質ストック溶液及びnr-IGFBP-3較正標準を用いたIGF-1被検体レベルの測定に適用可能である。IMMULITE(商標) 2000での実施例2からのBL7標準のnr-IGFBP-3及びIGF-1レベルを表11にまとめる。
【0108】
【0109】
(IGF結合タンパク質を実質的に含まないヒト血清を調製する方法)
(実施例7:酸処理し、活性炭吸着した(ATCA)ヒト血清)
Bioresource Technology社の高度に正規化された血清(BRT1)(cat no.H1090、lot no.1407033)を0.2μmフィルターで濾過し、これに0.375gのグリシン(Sigma G7407、75.07に等しい分子量)を添加した。溶液をマグネチックスターラーで混合し、25mMのグリシンを含有する溶液のpHを、5N HClでpH3.0±pH0.1までゆっくりと調整し、低速で混合し、そのpH範囲に室温で2時間維持した。一方、270平方センチメートル(cm2)の表面積を有するMilliporeのMILLISTAK+(商標) Pod活性炭カートリッジ(cat no.MCR40027H1)を、2リットルの脱イオン水で洗い流した。次いで、カートリッジに閉じ込められた水を濾過室内空気によってブロー乾燥した。
【0110】
次いで、酸処理した血清を、活性炭カートリッジに2mL/分~3mL/分の速度で、例えばCole-Palmer社(イリノイ州)のMASTERFLEX(商標) C/Lポンプ(モデル77122-24)を使用して充填した。溶出液(非結合画分)を画分1として回収した。次いで、200mLの水を圧送し、画分2として回収し、このプロセスを200mLの水を圧送することによって繰り返し、溶離液を画分3として回収した。投入BRT1、並びに酸処理し活性炭吸着した(ATCA)BRT1の画分1、2及び3を、Agilent Technologies社(カリフォルニア州)のVarian CARY(商標) 50 Conc UV分光光度計で読み取り、CENTAUR(商標) XPでアッセイした。
【0111】
図7及び表12に、280ナノメートル(nm)での光学密度(「OD280」)及びATCA BRT1の溶出画分からのIGFBP-3の量(μg/mL)を示す。OD280値により、希釈後の非タンパク質構成要素からの干渉を有しない希釈係数が説明された。「A280」と表示された行は、溶液中のタンパク質を定量化する方法をもたらす280nmでのタンパク質吸収である。画分1及び2を合一し、200mLまで濃縮した後、AMICON(商標)攪拌式セル(EMD Millipore Corp.)によって、1,000mLのPBS/0.9%アジ化ナトリウム緩衝液を用いてPBS/0.9%アジ化ナトリウムに緩衝液交換した。酸処理し活性炭吸着したヒト血清試料(「ATCA-3」)の画分1と画分2とを合わせて緩衝液交換したものを用いて幾つかのアッセイを行い、アッセイの結果を表13にまとめる。
【0112】
【0113】
【0114】
表13に、(IMMULITE(商標)又はCENTAUR(商標)システムのいずれかでの)Siemensのアッセイを用いる分析によって決定し、処理後に決定したレベルと比較した、処理前のBRT1中のIGFBP-3、IGF-1及びhGH(ヒト成長ホルモン)の内因性レベルを提示する。
【0115】
(実施例8:酸処理し活性炭吸着した(ATCA)ヒト血清のスケールアップ調製)
400mLのBRT1ヒト血清を実施例7に述べたのと同じ方法で処理し、活性炭カートリッジへの非結合画分(約380mL)を回収し、ストリッピングした血清のpHを即座に5N HClでpH7.4±pH0.05に調整したが、実施例7とは異なり、水で洗浄した画分は捨てた。次いで、本実施例におけるATCA血清の非結合画分(「ATCA-4」)を、5倍容量の緩衝液を用いるAMICON(商標)攪拌式セル、又は10KDa分子量の膜を備えるPall Corporation社のMINIMATE(商標) TFFシステムによって、PBS/0.9%アジ化ナトリウムに緩衝液交換した。
【0116】
(活性炭カートリッジの再生)
Milliporeの活性炭カートリッジのキャパシティを試験するために、400mLのBRT1ヒト血清を用いて、プロセスをもう一度繰り返してヒト血清のATCA試料(「ATCA-5」)を作製した。その結果、活性炭カートリッジを飽和させることが見出され、IGFBP-3は、1.44μg/mLであった。調製の軽減を、米国特許出願公開第20080286193号(引用することにより本明細書の一部をなす。)に記載の手順と同様に20%エタノール中の0.5N NaOHを用いた活性炭カートリッジの再生によって行なった後、水で十分に洗浄した。ATCA-5血清に、25mMのグリシンを添加し、pHをpH3.0プラスマイナス(±)0.1に調整し、室温で2時間混合した。次いで、酸処理した血清を再生活性炭カートリッジに充填し、非結合画分(約360mL)を回収した(「ATCA-5A」)。PBS/0.09%アジ化ナトリウムへ緩衝液交換した後に、ATCA-5AのIGFBP-3用量をプロトタイプCENTAUR(商標)アッセイによって決定した。表14に、実施例7及び実施例8による3つの調製物並びに試料ATCA-5Aの結果をまとめる。
【0117】
【0118】
(実施例9:IGFBP-3患者試料希釈物の回収)
IMMULITE(商標) 2000で7.76μg/mLのIGFBP-3用量及び7.39μg/mLのCENTAUR(商標)用量を有する小児(14歳~16歳)血清試料であるProMedDx(マサチュセッツ州、ノートン)の試料ID 10476627を、ATCA-5Aヒト血清での希釈に供し、希釈試料調製について表15に従ってCENTAUR(商標) XPでのプロトタイプIGFBP-3試験を行なった。測定及び算出した用量も提示する。
【0119】
表15に、ATCA-5Aを希釈剤として用いた希釈系列及び小児試料を提示する。希釈系列は以下のようにして達成された:P1(ATCA-5)及びP7(非希釈小児試料)についてのIGFPB-3値を、プロトタイプCENTAUR(商標) IGFBP-3アッセイにおいて、測定した。試料P1及びP7を等量(1:1)で混合して試料P4を作製し、試料P1及びP4を1:1で混合して試料P3を作製し、試料P1及びP3を1:1で混合して試料P2を作製し、試料P3及びP7を1:1で混合して試料P5を作製し、試料P5及びP7を1:1で混合して試料P6を作製した。算出用量は、混合から予測される数学的用量とした(例えば、試料P4については、算出用量はP1+P7(即ち、0.15+7.39=7.54)を2で除算したもの=3.77に等しい)。測定用量は、プロトタイプIGFBP-3 CENTAUR(商標)アッセイにおいて試験することによって決定したものである。
【0120】
図8に、表15からのプロトタイプCENTAUR(商標) XPでの測定用量対算出用量の直線性プロットを示す。
【0121】
【0122】
上述のごとく、いずれも非組み換えヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質3(nr-IGFBP-3)を含有するヒトインスリン様成長因子(IGF)結合タンパク質ストック溶液及び濃縮IGF結合タンパク質溶液を形成する方法並びにヒト患者の免疫測定におけるIGFBP-3被検体の濃度範囲を包含するようにnr-IGFBP-3を異なる濃度で含有する較正標準のセットを含むキットの実施例及び実施形態を記載した。更に、IGF結合タンパク質を実質的に含まない較正標準のセットのためのヒト血清希釈剤を作製する方法の実施例及び実施形態を記載した。上記の実施例及び実施形態が、本明細書に記載の原理を表す多くの具体的な実施形態及び実施例の幾つかの単なる例示に過ぎないことを理解されたい。明らかに、当業者であれば、添付の特許請求の範囲に規定される範囲を逸脱することなく多数の他の構成を容易に考案することができる。