(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】炭素触媒、電池電極及び電池
(51)【国際特許分類】
B01J 21/18 20060101AFI20220523BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20220523BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20220523BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20220523BHJP
C25D 11/06 20060101ALI20220523BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220523BHJP
H01M 4/90 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
B01J21/18 M
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M12/08 C
B01J27/24 M
C25D11/06 Z
H01M8/10 101
H01M4/90 X
(21)【出願番号】P 2019125982
(22)【出願日】2019-07-05
(62)【分割の表示】P 2019517451の分割
【原出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-05-07
(31)【優先権主張番号】P 2017137458
(32)【優先日】2017-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】特許業務法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 鉄太郎
(72)【発明者】
【氏名】窪田 裕次
(72)【発明者】
【氏名】岸本 武亮
(72)【発明者】
【氏名】成塚 久美
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】小林 義和
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/088716(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/133132(WO,A1)
【文献】特開2015-164889(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182138(WO,A1)
【文献】特開2016-105396(JP,A)
【文献】特開2011-115760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
H01M 12/06
H01M 12/08
C25D 11/06
H01M 8/10
H01M 4/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークf
broadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの二酸化炭素脱離量97μmol/g以下を示す炭素構造を含
み、
白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、金及びオスミウムからなる群より選択される1種以上が担持された、炭素触媒。
【請求項2】
CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークf
broadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量及び二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量と二酸化炭素脱離量との合計647μmol/g以下を示す炭素構造を含む
み、
白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、金及びオスミウムからなる群より選択される1種以上が担持された、炭素触媒。
【請求項3】
25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量及び二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量と二酸化炭素脱離量との合計647μmol/g以下を示す炭素構造を含む、請求項1に記載の炭素触媒。
【請求項4】
CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークf
broadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量549μmol/g以下を示す炭素構造を含
み、
白金、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、金及びオスミウムからなる群より選択される1種以上が担持された、炭素触媒。
【請求項5】
25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量549μmol/g以下を示す炭素構造を含む、請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項6】
ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm
-1付近のGバンドの強度に対する、前記Gバンドと1360cm
-1付近のDバンドとの間の最小強度の比0.30以上、0.49以下を示す炭素構造を含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項7】
ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1360cm
-1付近のDバンドの半値幅179cm
-1以下を示す炭素構造を含む、請求項1乃至6のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項8】
ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm
-1付近のGバンドの半値幅80cm
-1以下を示す炭素構造を含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項9】
金属を含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項10】
BET法で測定される比表面積が800m
2/g以上である炭素構造を含む、請求項1乃至9のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項11】
X線光電子分光法で測定される炭素原子濃度に対する窒素原子濃度の割合2.0%以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至10のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項12】
燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含む、請求項1乃至11のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項13】
前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、-10μA/cm
2の還元電流が流れる時の電圧0.810V(vs.NHE)以上を示す、請求項1乃至12のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項14】
前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度-1.0mA/cm
2以下を示す、請求項1乃至13のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項15】
前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、前記回転ディスク電極装置を用いて0.0Vから1.0V(vs.NHE)までの範囲で電位を5サイクル掃引印加して得られる5サイクル目のボルタモグラムにおいて、1.0Vから0.0Vへの電位掃引印加時の曲線と、0.0Vから1.0Vへの電位掃引印加時の曲線とで囲まれた領域の面積について、前記耐久性試験開始時の前記面積から、前記耐久試験終了時の前記面積を減じて得られる面積増加量5.70×10
-5A・sec以下を示す、請求項1乃至14のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項16】
前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、前記回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおける0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度(mA/cm
2)について、前記耐久試験終了時の前記電流密度を、前記耐久性試験開始時の前記電流密度で除した値に100を乗ずることにより得られる電流密度維持率88.0%以上を示す、請求項1乃至15のいずれかに記載の炭素触媒。
【請求項17】
請求項1乃至16に記載の炭素触媒を含む、電池電極。
【請求項18】
請求項17に記載の電池電極を含む、電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素触媒、電池電極及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、燃料電池の電極用触媒としては、白金触媒が使用されている。しかしながら、白金の埋蔵量は限られていること、固体高分子形燃料電池(PEFC)においては白金の使用によってコストが高くなること等、解決すべき問題が多い。このため、白金を使用しない代替技術の開発が進められている。
【0003】
具体的に、例えば、特許文献1には、遷移金属含有イオン交換樹脂を炭素化して得られた炭素化材料からなり、多数の平均粒径10~20nmのシェル状構造の炭素粒子が非凝集状態で集合して形成された燃料電池用電極触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒を得ることは難しかった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒、電池電極及び電池を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の一側面に係る炭素触媒は、CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの二酸化炭素脱離量97μmol/g以下を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒が提供される。
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態の他の側面に係る炭素触媒は、CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量及び二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量と二酸化炭素脱離量との合計647μmol/g以下を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒が提供される。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態のさらに他の側面に係る炭素触媒は、CuKα線による粉末X線回折のX線回折図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量549μmol/g以下を示す炭素構造を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒が提供される。
【0010】
また、前記炭素触媒は、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量及び二酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量と二酸化炭素脱離量との合計647μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、25℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までの一酸化炭素脱離量549μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0011】
また、前記炭素触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のGバンドの強度に対する、前記Gバンドと1360cm-1付近のDバンドとの間の最小強度の比0.30以上、0.49以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近のDバンドの半値幅179cm-1以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のGバンドの半値幅80cm-1以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0012】
また、前記炭素触媒は、金属を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、BET法で測定される比表面積が800m2/g以上である炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、X線光電子分光法で測定される炭素原子濃度に対する窒素原子濃度の割合2.0%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0013】
また、前記炭素触媒は、前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、-10μA/cm2の還元電流が流れる時の電圧0.810V(vs.NHE)以上を示すこととしてもよい。また、前記炭素触媒は、前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度-1.0mA/cm2以下を示すこととしてもよい。
【0014】
また、前記炭素触媒は、前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、前記回転ディスク電極装置を用いて0.0Vから1.0V(vs.NHE)までの範囲で電位を5サイクル掃引印加して得られる5サイクル目のボルタモグラムにおいて、1.0Vから0.0Vへの電位掃引印加時の曲線と、0.0Vから1.0Vへの電位掃引印加時の曲線とで囲まれた領域の面積について、前記耐久性試験開始時の前記面積から、前記耐久試験終了時の前記面積を減じて得られる面積増加量5.70×10-5A・sec以下を示すこととしてもよい。
【0015】
また、前記炭素触媒は、前記炭素触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、前記回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおける0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度(mA/cm2)について、前記耐久試験終了時の前記電流密度を、前記耐久性試験開始時の前記電流密度で除した値に100を乗ずることにより得られる電流密度維持率88.0%以上を示すこととしてもよい。
【0016】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池電極は、前記いずれかの炭素触媒を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒を含む電池電極が提供される。
【0017】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る電池は、前記電池電極を含む。本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒を含む電池が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒、電池電極及び電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1A】本発明の一実施形態に係る実施例1で得られた炭素触媒の粉末X線回折により得られたX線回折図形において回折ピークの分離を行った結果を示す説明図である。
【
図1B】本発明の一実施形態に係る実施例2で得られた炭素触媒の粉末X線回折により得られたX線回折図形において回折ピークの分離を行った結果を示す説明図である。
【
図1C】炭素触媒の粉末X線回折により得られたX線回折図形において回折ピークの分離を行った結果の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る実施例1で得られた炭素触媒のラマン分光法により得られたラマンスペクトルを解析した結果を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る実施例1で得られた炭素触媒を含む作用電極を有する回転リングディスク電極装置を用いて得られたボルタモグラムを解析した結果を示す説明図である。
【
図4A】本発明の一実施形態に係る実施例1で得られた炭素触媒を含む作用電極を有する回転リングディスク電極装置を用いて得られた酸素還元ボルタモグラムを示す説明図である。
【
図4B】
図4Aの点線で囲まれた部分Xを拡大して示す説明図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る実施例1~17及び比較例1~4で得られた炭素触媒を評価した結果を示す説明図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る実施例において空気電池の最大出力密度を評価した結果を示す説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る実施例において空気電池の出力維持率を評価した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施形態に係る炭素触媒(以下、「本触媒」という。)、電池電極(以下、「本電極」という。)及び電池(以下、「本電池」という。)について説明する。なお、本発明は本実施形態で示す例に限られない。
【0021】
本発明の発明者らは、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する炭素触媒を得る技術的手段について鋭意検討を重ねた結果、粉末X線回折より得られる結晶子サイズLcが特定の範囲内であり、且つ昇温脱離法において特定の温度範囲で特定の閾値以下の一酸化炭素脱離量及び/又は二酸化炭素脱離量を示す炭素触媒が、優れた触媒活性と耐久性とを兼ね備えることを独自に見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、本実施形態の一側面に係る本触媒は、CuKα線による粉末X線回折(以下、「XRD」という。)のXRD図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの二酸化炭素(CO2)脱離量を測定する昇温脱離法(以下、「TPD」という。)において、650℃から1200℃までのCO2脱離量97μmol/g以下を示す炭素構造を含む。
【0023】
炭素触媒の炭素構造が、その触媒活性に寄与する湾曲した炭素網面から構成される積層構造を含む場合、CuKα線によるXRD図形においては、回折角2θが26°付近(例えば、23.0°以上、27.0°以下の範囲内)に炭素の(002)回折線が現れる。この炭素(002)回折線には、高結晶成分である黒鉛構造に由来する(002)回折線と、低結晶成分に由来する1つ又は2つの(002)回折線と、が含まれ得る。
【0024】
すなわち、回折角2θが26°の付近の炭素(002)回折ピークは、ピーク分離により、3つの回折ピーク、すなわち低結晶成分の2つの回折ピークfbroad及びfmiddleと、高結晶成分の回折ピークfnarrowとに分離され得る。
【0025】
具体的に、ブロードピークfbroadは、その回折角2θが24.0°±4.0°であり、半値全幅が10.0°±7.0°である回折ピークとして定義される。ミドルピークfmiddleは、その回折角2θが26.2°±0.3°であり、半値全幅が2.0°±0.99°である回折ピークとして定義される。ナローピークfnarrowは、その回折角2θが26.5°±0.5°であり、半値全幅が0.3°±0.2°である回折ピークとして定義される。
【0026】
ただし、上記ピーク分離によって上記3つの回折ピークの全てが得られるとは限らず、上記3つの回折ピークのうち2つの回折ピークのみ(例えば、低結晶成分の2つの回折ピークfbroad及びfmiddleのみ)が得られることもあるし、上記3つの回折ピークのうち1つの回折ピークのみ(例えば、低結晶成分の1つの回折ピークfbroadのみ)が得られることもある。
【0027】
そして、上述のピーク分離により得られる上記ブロードピークfbroadを解析することにより、結晶格子サイズLcが算出される。具体的に、結晶子サイズLcは、上述のピーク分離で得られたブロードピークfbroadのブラッグ角を、次のシェラーの式に代入して算出される:Lc=Kλ/βcosθ。このシェラーの式において、Kはシェラー定数(0.94)であり、λはCuKα線の波長(0.15418nm)であり、βは半値全幅(radian)であり、θはブラッグ角(radian)である。
【0028】
本触媒の炭素構造の上記結晶子サイズLcは、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内であることが好ましい。本触媒の炭素構造の上記結晶子サイズLcが上記特定の範囲内であることは、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。すなわち、炭素触媒の炭素構造に含まれる活性点が多くなると、当該炭素構造の網面間の相互作用が弱くなるため、当該網面の積層数が少なくなり、その結果、当該炭素構造の結晶子サイズLcは小さくなる。したがって、本触媒の炭素構造の上記結晶子サイズLcが上記特定の範囲内であること、特に上記特定の上限値以下であることは、当該炭素構造に含まれる活性点が多いこと、すなわち本触媒の触媒活性が高いことを示す。
【0029】
また、本触媒の炭素構造は、上記TPDにおける650℃から1200℃までのCO2脱離量として、90μmol/g以下を示すことが好ましく、86μmol/g以下を示すことがより好ましく、80μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、70μmol/g以下を示すことが特に好ましい。本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO2脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0030】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記CO2脱離量90μmol/g以下を示すことが好ましく、86μmol/g以下を示すことがより好ましく、80μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、70μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0031】
本触媒は、その炭素構造が、上記特定範囲の結晶子サイズLcを有し、且つ上記TPDにおける650℃から1200℃までのCO2脱離量として上記特定の閾値以下の値を示すことにより、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する。本触媒の上記CO2脱離量の下限値は特に限られないが、本触媒の炭素構造が上記TPDにおいて示す650℃から1200℃までのCO2脱離量は、5μmol/g以上であることとしてもよい。
【0032】
本実施形態の他の側面に係る本触媒は、CuKα線による粉末XRDのXRD図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までの一酸化炭素(CO)脱離量及びCO2脱離量を測定するTPDにおいて、650℃から1200℃までのCO脱離量とCO2脱離量との合計(以下、「(CO+CO2)脱離量」という。)647μmol/g以下を示す炭素構造を含む。
【0033】
この場合も、本触媒の炭素構造の結晶子サイズLcは、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内であることが好ましい。また、本触媒の炭素構造は、上記TPDにおける650℃から1200℃までの(CO+CO2)脱離量として、635μmol/g以下を示すことが好ましく、620μmol/g以下を示すことがより好ましく、600μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、580μmol/g以下を示すことが特に好ましい。本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述した(CO+CO2)脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0034】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記(CO+CO2)脱離量635μmol/g以下を示すことが好ましく、620μmol/g以下を示すことがより好ましく、600μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、580μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0035】
本触媒は、その炭素構造が、上記特定範囲の結晶子サイズLcを有し、且つ上記TPDにおける650℃から1200℃までの(CO+CO2)脱離量として、上記特定の閾値以下の値を示すことにより、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する。本触媒の上記(CO+CO2)脱離量の下限値は特に限られないが、本触媒の炭素構造が上記TPDにおいて示す650℃から1200℃までの(CO+CO2)脱離量は、45μmol/g以上であることとしてもよい。
【0036】
また、本触媒は、上記結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までのCO脱離量及びCO2脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までのCO2脱離量97μmol/g以下、及び(CO+CO2)脱離量647μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO2脱離量の閾値の各々と、上述した(CO+CO2)脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0037】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記CO2脱離量90μmol/g以下及び上記CO脱離量とCO2脱離量との合計635μmol/g以下を示すことが好ましく、上記CO2脱離量86μmol/g以下及び上記CO脱離量とCO2脱離量との合計620μmol/g以下を示すことがより好ましく、上記CO2脱離量80μmol/g以下及び上記CO脱離量とCO2脱離量との合計600μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、上記CO2脱離量70μmol/g以下及び上記CO脱離量とCO2脱離量との合計580μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0038】
本実施形態のさらに他の側面に係る本触媒は、CuKα線による粉末XRDのXRD図形において回折角2θが26°付近の回折ピークを分離することで得られる回折角2θが24.0°±4.0°の回折ピークfbroadのブラッグ角を用いて算出される結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までのCO脱離量を測定するTPDにおいて、650℃から1200℃までのCO脱離量549μmol/g以下を示す炭素構造を含む。
【0039】
この場合も、本触媒の炭素構造の結晶子サイズLcは、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内であることが好ましい。また、本触媒の炭素構造は、上記TPDにおける650℃から1200℃までのCO脱離量として、547μmol/g以下を示すことが好ましく、545μmol/g以下を示すことが特に好ましい。本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0040】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、上記結晶子サイズLcが0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、且つ上記CO脱離量547μmol/g以下を示すことが好ましく、545μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0041】
本触媒は、その炭素構造が、上記特定範囲の結晶子サイズLcを有し、且つ上記TPDおける650℃から1200℃までのCO脱離量として、上記特定の閾値以下の値を示すことにより、優れた触媒活性と優れた耐久性とを有する。本触媒の上記CO脱離量の下限値は特に限られないが、本触媒の炭素構造が上記TPDにおいて示す650℃から1200℃までのCO脱離量は、40μmol/g以上であることとしてもよい。
【0042】
また、本触媒は、上記結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までのCO脱離量及びCO2脱離量を測定するTPDにおいて、650℃から1200℃までのCO脱離量549μmol/g以下及びCO2脱離量97μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO脱離量の閾値の各々と、上述したCO2脱離量の閾値の各々と、を任意に組み合わせて、規定することができる。
【0043】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記CO脱離量547μmol/g以下及び上記CO2脱離量90μmol/g以下を示すことが好ましく、上記CO脱離量547μmol/g以下及び上記CO2脱離量86μmol/g以下を示すことがより好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下及び上記CO2脱離量80μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下及び上記CO2脱離量70μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0044】
また、本触媒は、上記結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までのCO脱離量及びCO2脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までのCO脱離量549μmol/g以下、及び(CO+CO2)脱離量647μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO脱離量の閾値の各々と、上述した(CO+CO2)脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0045】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記CO脱離量547μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量635μmol/g以下を示すことが好ましく、上記CO脱離量547μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量620μmol/g以下を示すことがより好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量600μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量580μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0046】
また、本触媒は、上記結晶子サイズLcが0.80nm以上、1.20nm以下の範囲内であり、25℃から1200℃までのCO脱離量及びCO2脱離量を測定する昇温脱離法において、650℃から1200℃までのCO脱離量549μmol/g以下、CO2脱離量97μmol/g以下、及び(CO+CO2)脱離量647μmol/g以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造は、上述した結晶サイズLc範囲の各々と、上述したCO脱離量の閾値の各々と、上述したCO2脱離量の閾値の各々と、上述した(CO+CO2)脱離量の閾値の各々とを任意に組み合わせて、規定することができる。
【0047】
具体的に、本触媒の炭素構造は、例えば、0.90nm以上、1.20nm以下の範囲内の上記結晶子サイズLcを有し、且つ上記CO脱離量547μmol/g以下、上記CO2脱離量90μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量635μmol/g以下を示すことが好ましく、上記CO脱離量547μmol/g以下、上記CO2脱離量86μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量620μmol/g以下を示すことがより好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下、上記CO2脱離量80μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量600μmol/g以下を示すことがより一層好ましく、上記CO脱離量545μmol/g以下、上記CO2脱離量70μmol/g以下及び上記(CO+CO2)脱離量580μmol/g以下を示すことが特に好ましい。
【0048】
なお、上記TPDにおいては、官能基を脱離させるための熱処理と、続く酸素吸着とを行う前処理を実施することなく、炭素触媒を加熱して、25℃から1200℃までの温度範囲で、当該炭素触媒からの一酸化炭素(CO)及び/又は二酸化炭素(CO2)の脱離量を測定する。
【0049】
本触媒の特性の一つとして規定される、TPDにおけるCO脱離量及び/又はCO2脱離量は、本触媒の炭素構造に含まれる含酸素官能基の質及び量を反映している。すなわち、本触媒は、上記TPDにおいて、上記特定の温度範囲におけるCO脱離量及び/又はCO2脱離量が上記特定の閾値以下を示すような、含酸素官能基の含有量が小さい炭素構造を有する。そして、本触媒の炭素構造における含酸素官能基の含有量が小さいことは、本触媒の優れた耐久性に寄与する。
【0050】
すなわち、炭素構造の電気化学的な酸化劣化は、含酸素官能基を起点とした逐次的な酸化反応で進行すると考えられる。したがって、酸化劣化の開始点になり得る含酸素官能基の炭素構造における含有量を低減することは、当該炭素構造の劣化開始点を減少させることになり、当該炭素構造の耐久性の向上に寄与すると考えられる。この点、本発明の発明者らは、酸素官能基の中でも特に、TPDにおいて650℃から1200℃までの特定の温度範囲でCOの脱離及び/又はCO2の脱離を生じさせる特定の含酸素官能基が炭素触媒の耐久性に大きく影響することを見出した。
【0051】
本触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のGバンドの強度に対する、当該Gバンドと1360cm-1付近のDバンドとの間の最小強度の比(以下、「Iv/Ig比」という。)0.30以上、0.49以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。
【0052】
この場合、本触媒のラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近(例えば、1550cm-1以上、1650cm-1以下)にGバンドが検出され、1360cm-1付近(例えば、1250cm-1以上、1400cm-1以下)にDバンドが検出されるが、当該Gバンドの強度Igに対する、当該Gバンドと当該Dバンドとの間の最小強度Ivの比として算出されるIv/Ig比が、0.30以上、0.49以下となる。
【0053】
ここで、ラマンスペクトルにおいて、Gバンドは、理想的な黒鉛構造由来の成分であり、Dバンドは、欠陥やエッジを含む湾曲構造由来の成分である。そして、GバンドとDバンドとの間の最小強度Ivは、アモルファス由来の成分に依存する。したがって、Iv/Ig比は、理想的な黒鉛構造の量に対する、アモルファスの量の比である。炭素構造においては、アモルファス中に活性点が存在するが、アモルファスの量が多すぎると、炭素触媒が劣化しやすくなるため、Iv/Ig比には最適な範囲が存在すると考えられる。この点、本触媒の炭素構造のIv/Ig比が上記特定の範囲内であることは、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。
【0054】
本触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近のDバンドの半値幅179cm-1以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒のラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1360cm-1付近(例えば、1250cm-1以上、1400cm-1以下)には、179cm-1以下の半値幅を有するDバンドが検出される。
【0055】
Dバンドの半値幅は、次の式から算出される:Dバンドの半値幅(cm-1)=(Ad-Bd)×2(この式において、AdはDバンドの強度Id(Dバンドのピークトップ)に対応する波数(cm-1)であり、Bdは、当該Adより低波数側で当該Dバンド強度Idの半分の強度を示すラマンスペクトルに対応する波数(cm-1)である。)。
【0056】
ここで、ラマンスペクトルにおいて、Dバンドの半値幅は、炭素構造に含まれる湾曲構造の結晶性を示す。すなわち、Dバンドの半値幅が小さいことは、湾曲構造の結晶性が高いことを意味する。このため、本触媒の炭素構造のDバンド半値幅が上記特定の閾値以下であることは、当該炭素構造が結晶性の高い湾曲構造を含むことを意味する。そして、本触媒が結晶性の高い湾曲構造を含む炭素構造を有することは、本触媒の優れた耐久性に寄与する。本触媒の上記Dバンド半値幅の下限値は特に限られないが、当該Dバンド半値幅は、80cm-1以上であることとしてもよい。
【0057】
本触媒は、ラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のGバンドの半値幅80cm-1以下を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒のラマン分光法により得られるラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近(例えば、1550cm-1以上、1650cm-1以下)には、80cm-1以下の半値幅を有するGバンドが検出される。
【0058】
Gバンドの半値幅は、次の式から算出される:Gバンドの半値幅(cm-1)={(Ag-Bg)の絶対値}×2(この式において、AgはGバンドの強度Ig(Gバンドのピークトップ)に対応する波数(cm-1)であり、Bgは、当該Agより高波数側で当該Gバンド強度Igの半分の強度を示すラマンスペクトルに対応する波数(cm-1)である。)。
【0059】
ここで、ラマンスペクトルにおいて、Gバンドの半値幅は、炭素構造に含まれる黒鉛構造の結晶性を示す。すなわち、Gバンドの半値幅が小さいことは、黒鉛構造の結晶性が高いことを意味する。このため、本触媒の炭素構造のGバンド半値幅が上記特定の閾値以下であることは、当該炭素構造が結晶性の高い黒鉛構造を含むことを意味する。そして、本触媒が結晶性の高い黒鉛構造を含む炭素構造を有することは、本触媒の優れた耐久性に寄与する。本触媒の上記Gバンドの半値幅の下限値は特に限られないが、当該Gバンド半値幅は、40cm-1以上であることとしてもよい。
【0060】
本触媒は、金属を含むこととしてもよい。この場合、本触媒に含まれる金属は、上述した本触媒の特性が得られるものであれば特に限られないが、遷移金属であることが好ましい。また、本触媒は、2種以上の金属を含むことが好ましく、2種以上の遷移金属を含むことが好ましい。
【0061】
本実施形態において、遷移金属は、周期表の3族から12族に属する金属であり、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属であることが好ましい。具体的に、本触媒に含まれる遷移金属は、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタノイド(例えば、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びガドリニウム(Gd)からなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であることとしてもよく、当該群より選択される2種以上であることとしてもよい。
【0062】
また、本触媒は、Ti、Cr、Fe、Zn、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、当該群より選択される2種以上を含むことがより好ましい。この場合、本触媒は、例えば、Fe及びZnからなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよく、Fe及びZnを含むこととしてもよい。
【0063】
本触媒が上記特定の遷移金属を含む場合、本触媒は、さらに他の遷移金属を含むこととしてもよい。すなわち、例えば、本触媒がTi、Cr、Fe、Zn、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上又は2種以上の第一の遷移金属を含む場合、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であって当該第一の遷移金属とは異なる第二の遷移金属をさらに含むこととしてもよい。
【0064】
また本触媒は、白金(Pt)を含まないこととしてもよい。この場合、本触媒は、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、金(Au)及びオスミウム(Os)からなる群より選択される1種以上を含まないこととしてもよい。
【0065】
本触媒が、後述する炭素化の原料に由来する金属を含む場合、本触媒は、炭素化の原料に当該金属が含まれていたことに起因して、その内部に当該金属を含む。すなわち、本触媒が、後述の金属除去処理を経て製造された場合においても、本触媒の内部には、微量の原料由来金属が残存する。
【0066】
具体的に、例えば、金属を含む本触媒が粒子状である場合、本触媒を構成する粒子を切断すると、切断により露出した当該粒子の断面に当該金属が検出される。この本触媒に含まれる金属は、例えば、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光光度法によって検出することができる。
【0067】
本触媒は、BET法で測定される比表面積が800m2/g以上であることとしてもよい。この場合、本触媒の上記比表面積は、1000m2/g以上であることが好ましく、1200m2/g以上であることが特に好ましい。
【0068】
本触媒の比表面積が上記特定の閾値以上であることは、本触媒による化学反応の効率化に寄与し、優れた触媒活性に寄与する。本触媒の比表面積の上限値は特に限られないが、当該比表面積は、3000m2/g以下であることとしてもよい。
【0069】
本触媒は、X線光電子分光法(以下、「XPS」という。)で測定される炭素原子濃度(atm%)に対する窒素原子濃度(atm%)の割合(以下、「N/C割合」という。)1.5%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造が示すN/C割合は、1.8%以上であることが好ましく、2.0%以上であることが特に好ましい。
【0070】
本触媒の炭素構造のN/C割合が上記特定の閾値以上であることは、当該炭素構造が、その表面に多くの量の含窒素官能基を含むことを意味し、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。本触媒の上記N/C割合の上限値は特に限られないが、当該N/C割合は、15.0%以下であることとしてもよい。
【0071】
本触媒は、燃焼法による元素分析で測定される窒素原子含有量1.5重量%以上を示す炭素構造を含むこととしてもよい。この場合、本触媒の炭素構造が示す上記窒素原子含有量は、1.8重量%以上であることが好ましく、2.0重量%以上であることが特に好ましい。
【0072】
本触媒の炭素構造の上記窒素原子含有量が上記特定の閾値以上であることは、当該炭素構造が多くの量の含窒素官能基を含むことを意味し、本触媒の優れた触媒活性に寄与する。本触媒の上記窒素原子含有量の上限値は特に限られないが、当該窒素原子含有量は、15重量%以下であることとしてもよい。
【0073】
本触媒は、平均粒子径が1.0μm以下であることとしてもよい。本触媒の平均粒子径が上記特定の閾値以下であることは、本触媒による化学反応の効率化に寄与し、本触媒の優れた触媒活性に寄与し、また、本触媒を含む電池電極の作製における効率化にも寄与する。本触媒の上記平均粒子径の下限値は特に限られないが、当該平均粒子径は、0.050μm以上であることとしてもよい。
【0074】
本触媒は、最大粒子径が1000.0μm以下であることとしてもよい。この場合、本触媒の最大粒子径は、例えば、50.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることが特に好ましい。具体的に、例えば、本触媒が燃料電池用炭素触媒(例えば、燃料電池のカソード用又はアノード用の炭素触媒、好ましくは燃料電池のカソード用炭素触媒)である場合には、本触媒の最大粒子径は、50.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以下であることが特に好ましい。また、これらの場合、本触媒の最小粒子径は特に限られないが、例えば、0.001μm以上であることとしてもよい。
【0075】
本触媒は、当該本触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、-10μA/cm2の還元電流が流れる時の電圧(以下、「酸素還元開始電位(EO2)」という。)0.810V(vs.NHE)以上を示すこととしてもよい。
【0076】
本触媒の上記酸素還元開始電位EO2が上記特定の閾値以上であることは、本触媒の優れた触媒活性を裏付ける。本触媒の上記酸素還元開始電圧EO2の上限値は特に限られないが、当該電圧EO2は、1.0V(vs.NHE)以下であることとしてもよい。
【0077】
本触媒は、当該本触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおいて、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度(i0.7)-1.0mA/cm2以下を示すこととしてもよい。
【0078】
本触媒の上記電流密度i0.7(mA/cm2)が上記特定の閾値以下であることは、本触媒の優れた触媒活性を裏付ける。本触媒の上記電流密度i0.7(mA/cm2)の下限値は特に限られないが、当該電流密度i0.7は、-5.0mA/cm2以上であることとしてもよい。
【0079】
本触媒は、当該本触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、当該回転ディスク電極装置を用いて0.0Vから1.0V(vs.NHE)までの範囲で電位を5サイクル掃引印加して得られる、5サイクル目のボルタモグラムにおいて、1.0Vから0.0Vへの電位掃引印加時の曲線と、0.0Vから1.0Vへの電位掃引印加時の曲線とで囲まれた領域の面積(以下、「CV面積」という。)について、当該耐久性試験開始時の当該CV面積から、当該耐久試験終了時の当該CV面積を減じて得られる面積増加量(以下、「CV面積増加量」という。)5.70×10-5A・sec以下を示すこととしてもよい。
【0080】
この場合、本触媒は、上記CV面積増加量として、5.50×10-5A・sec以下を示すことが好ましく、5.30×10-5A・sec以下を示すことがより好ましく、5.10×10-5A・sec以下を示すことが特に好ましい。
【0081】
ここで、上記CV面積は、炭素触媒を含む作用電極における電気二重層の容量を示し、当該炭素触媒に含まれる細孔の状態や表面官能基の情報を反映する。上記CV面積増加量が大きいことは、炭素触媒の劣化が進行して、当該炭素触媒に含まれる細孔や表面官能基が変化し、当該炭素触媒を含む作用電極における電気二重層の容量が増加していることを示す。したがって、本触媒の上記CV面積増加量が上記特定の閾値以下であることは、本触媒の優れた耐久性を裏付ける。本触媒の上記CV面積増加量の下限値は特に限られないが、当該CV面積増加量は、4.50×10-5A・sec以上であることとしてもよい。
【0082】
本触媒は、当該本触媒を含む作用電極を有する回転ディスク電極装置を用いて1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持する耐久性試験の開始時点及び終了時点のそれぞれで、当該回転ディスク電極装置を用いて電位を掃引印加して得られる酸素還元ボルタモグラムにおける0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度i0.7(mA/cm2)について、当該耐久試験終了時の当該電流密度を、当該耐久性試験開始時の当該電流密度で除した値に100を乗ずることにより得られる電流密度i0.7維持率88.0%以上を示すこととしてもよい。
【0083】
この場合、本触媒は、上記電流密度i0.7維持率として、89.0%以上を示すことが好ましく、90.0%以上を示すことがより好ましく、91.0%以上を示すことが特に好ましい。
【0084】
本触媒の上記電流密度i0.7維持率が上記特定の閾値以上であることは、本触媒の優れた耐久性を裏付ける。本触媒の上記電流密度i0.7維持率の上限値は特に限られないが、当該電流密度i0.7維持率は、95%以下であることとしてもよい。
【0085】
本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有する炭素材料である。本触媒を構成する炭素材料は、例えば、後述のとおり有機物を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である。また、本触媒が、有機物と金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、本触媒の炭素構造には当該金属が含まれるが、本触媒の触媒活性は、当該金属よりも、主に当該炭素構造自身に含まれる活性点によるものと考えられる。このことは、炭素化の原料に由来する金属を含む本触媒に、当該金属の含有量を低減する金属除去処理を施した場合においても、当該金属除去処理後の本触媒の触媒活性は、当該金属除去処理前のそれに比べて大きく低下しないことや、有機物を含み金属を含まない原料の炭素化により得られた炭素化材料の表面に、当該炭素化後に金属を担持して得られる炭素材料は、本触媒のように優れた触媒活性を有しないことによって裏付けられる。なお、本触媒が有する触媒活性は、例えば、酸化活性、及び/又は還元活性であり、より具体的には、酸素還元活性、及び/又は水素酸化活性である。
【0086】
本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有するため、Ptを含まない、又はPt等の希少金属を含まないこととしてもよいが、これに限られず、本触媒は、例えば、当該希少金属を担持する担体として用いられてもよい。この場合、本触媒に担持される希少金属は、例えば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au及びOsからなる群より選択される1種以上である。
【0087】
なお、本触媒が、希少金属の担体として用いられる場合であっても、未だ当該希少金属を担持していない担体としての本触媒(当該希少金属を担持する前の本触媒)は、それ自身が触媒活性を有する炭素材料、すなわち炭素触媒である。
【0088】
本触媒の製造方法は、上述した特性を有する本触媒が得られる方法であれば特に限られないが、本実施形態においては、有機物を含む原料を加圧下で炭素化することを含む方法について説明する。
【0089】
原料に含まれる有機物は、炭素化できるものであれば特に限られない。すなわち、有機物としては、例えば、高分子量の有機化合物(例えば、熱硬化性樹脂及び/又は熱可塑性樹脂等の樹脂)及び/又は低分子量の有機化合物が使用される。また、有機物としてバイオマスを使用してもよい。
【0090】
有機物としては、窒素含有有機物が好ましく使用される。窒素含有有機物は、その分子内に窒素原子を含む有機化合物を含む有機物であれば特に限られない。本触媒が、窒素含有有機物を含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、本触媒の炭素構造は、窒素原子を含む。
【0091】
具体的に、有機物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリアクリル酸メチル共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸-ポリメタリルスルホン酸共重合体、ポリアクリロニトリル-ポリメタクリル酸メチル共重合体、フェノール樹脂、ポリフルフリルアルコール、フラン、フラン樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、メラミン、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、窒素含有キレート樹脂(例えば、ポリアミン型、イミノジ酢酸型、アミノリン酸型及びアミノメチルホスホン酸型からなる群より選択される1種以上)、ポリアミドイミド樹脂、ピロール、ポリピロール、ポリビニルピロール、3-メチルポリピロール、アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、チオフェン、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、ビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピペラジン、ピラン、モルホリン、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、キノキサリン、アニリン、ポリアニリン、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ポリスルフォン、ポリアミノビスマレイミド、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ベンゾイミダゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、リグニン、キチン、キトサン、ピッチ、褐炭、絹、毛、ポリアミノ酸、核酸、DNA、RNA、ヒドラジン、ヒドラジド、尿素、サレン、ポリカルバゾール、ポリビスマレイミド、トリアジン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸、ポリウレタン、ポリアミドアミン及びポリカルボジイミドからなる群より選択される1種以上が使用される。
【0092】
原料における有機物の含有量は、本触媒が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、5質量%以上、90質量%以下であることとしてもよく、好ましくは10質量%以上、80質量%以下である。
【0093】
炭素化の原料は、金属をさらに含むこととしてもよい。すなわち、この場合、有機物と金属とを含む原料が加圧下で炭素化される。本触媒が、有機物と金属とを含む原料の炭素化により得られる炭素化材料である場合、本触媒は、当該金属を含む。
【0094】
原料に含まれる金属(すなわち、本触媒に含まれる金属)は、遷移金属であることが好ましい。また、原料は、2種以上の金属を含むことが好ましく、2種以上の遷移金属を含むことが好ましい。
【0095】
本実施形態において、遷移金属は、周期表の3族から12族に属する金属であり、周期表の3族から12族の第4周期に属する遷移金属であることが好ましい。具体的に、原料に含まれる遷移金属は、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であることとしてもよく、当該群より選択される2種以上であることとしてもよい。
【0096】
また、原料は、Ti、Cr、Fe、Zn、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、当該群より選択される2種以上を含むことがより好ましい。この場合、原料は、例えば、Fe及びZnからなる群より選択される1種以上を含むこととしてもよく、Fe及びZnを含むこととしてもよい。
【0097】
原料が上記特定の遷移金属を含む場合、当該原料は、さらに他の遷移金属を含むこととしてもよい。すなわち、例えば、原料がTi、Cr、Fe、Zn、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上又は2種以上の第一の遷移金属を含む場合、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群、又はSc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Ag、ランタノイド(例えば、Nd、Sm及びGdからなる群より選択される1種以上)及びアクチノイドからなる群より選択される1種以上であって当該第一の遷移金属とは異なる第二の遷移金属をさらに含むこととしてもよい。
【0098】
また原料は、Ptを含まないこととしてもよい。この場合、原料は、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au及びOsからなる群より選択される1種以上を含まないこととしてもよい。
【0099】
原料に含まれる金属としては、当該金属の単体及び/又は当該金属の化合物が使用される。金属化合物としては、例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、金属窒化物、金属硫化物、金属炭化物及び金属錯体からなる群より選択される1種以上を使用することとしてもよい。
【0100】
原料における金属の含有量(2種以上の金属を使用する場合には、当該2種以上の金属の含有量の合計)は、本触媒が得られる範囲であれば特に限られないが、例えば、1質量%以上、90質量%以下であることとしてもよく、2質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。
【0101】
炭素化は、加圧下で、原料を加熱して、当該原料が炭素化される温度(以下、「炭素化温度」という。)で保持することにより行う。炭素化温度は、原料が炭素化される温度であれば特に限られず、例えば、300℃以上である。すなわち、この場合、有機物を含む原料は、加圧下、300℃以上の温度で炭素化される。
【0102】
また、炭素化温度は、例えば、700℃以上であることとしてもよく、900℃以上であることが好ましく、1000℃以上であることがより好ましく、1100℃以上であることが特に好ましい。炭素化温度の上限値は、特に限られないが、当該炭素化温度は、例えば、3000℃以下である。
【0103】
炭素化温度までの昇温速度は、例えば、0.5℃/分以上、300℃/分以下である。炭素化温度で原料を保持する時間は、例えば、1秒以上、24時間以下であり、好ましくは、5分以上、24時間以下である。炭素化は、窒素雰囲気等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。すなわち、炭素化は、例えば、窒素ガス等の不活性ガスの流通下で行うことが好ましい。
【0104】
炭素化を行う雰囲気の圧力は、大気圧より大きい圧力であれば特に限られないが、例えば、ゲージ圧で0.05MPa以上の圧力である。さらに、炭素化を行う雰囲気の圧力は、ゲージ圧で、0.15MPa以上であることとしてもよく、0.20MPa以上であることが好ましく、0.40MPa以上であることがより好ましく、0.50MPa以上であることが特に好ましい。すなわち、これらの場合、有機物を含む原料は、ゲージ圧が上記閾値(MPa)以上の圧力下で炭素化される。
【0105】
本触媒の製造方法は、上記炭素化により得られた炭素化材料にさらなる処理を施すことをさらに含むこととしてもよい。すなわち、例えば、炭素化材料に、アンモニア処理、水素処理、及びO-アルキル化処理からなる群より選択される1種以上の処理を施すこととしてもよい。この場合、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、次いで、当該炭素化により得られた炭素化材料は、アンモニア処理、水素処理、及びO-アルキル化処理からなる群より選択される1種以上の処理を施される。
【0106】
アンモニア処理は、炭素化材料をアンモニアと接触させる処理であれば特に限られない。すなわち、アンモニア処理は、例えば、アンモニア含有ガス雰囲気中で、炭素化材料を加熱する処理である。
【0107】
アンモニア含有ガスのアンモニア含有量は、アンモニア処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、0.1体積%以上であることとしてもよく、1.0体積%以上であることとしてもよく、3.0体積%以上であることとしてもよい。
【0108】
アンモニア処理中に炭素化材料を加熱する温度は、アンモニア処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、300℃以上であることとしてもよく、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることが特に好ましい。加熱温度の上限値は特に限られないが、当該加熱温度は、例えば、1300℃以下であることとしてもよく、1000℃以下であることが好ましい。アンモニア処理中の加熱温度の範囲は、上述の下限値の各々と、上述の上限値の各々とを任意に組み合わせて規定される。
【0109】
水素処理は、炭素化材料を水素と接触させる処理であれば特に限られない。すなわち、水素処理は、例えば、水素含有ガス雰囲気中で、炭素化材料を加熱する処理である。水素含有ガスの水素含有量は、水素処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、0.1体積%以上であることとしてもよく、1.0体積%以上であることとしてもよく、3.0体積%以上であることとしてもよい。
【0110】
水素処理中に炭素化材料を加熱する温度は、水素処理の効果が得られる範囲内であれば特に限られないが、例えば、300℃以上であることとしてもよく、500℃以上であることが好ましく、700℃以上であることが特に好ましい。加熱温度の上限値は特に限られないが、当該加熱温度は、例えば、1300℃以上であることとしてもよく、1000℃以上であることが好ましい。水素処理中の加熱温度の範囲は、上述の下限値の各々と、上述の上限値の各々とを任意に組み合わせて規定される。
【0111】
O-アルキル化処理は、炭素化材料の炭素構造にO-アルキル化を起こさせる処理であれば特に限られない。O-アルキル化処理は、例えば、O-メチル化処理、又はO-エチル化処理である。O-メチル化処理は、例えば、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中、遮光下で、炭素化材料をトリメチルシリルジアゾメタンと接触させる処理である。
【0112】
また、炭素化材料に金属除去処理を施すこととしてもよい。この場合、例えば、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、次いで、当該炭素化により得られた炭素化材料は金属除去処理を施される。また、例えば、有機物を含む原料は加圧下で炭素化され、次いで、当該炭素化により得られた炭素化材料は金属除去処理を施され、その後、当該金属除去処理後の炭素化材料は、アンモニア処理、水素処理、及びO-アルキル化処理からなる群より選択される1種以上の処理を施される。金属除去処理は、炭素化材料に含まれる原料由来の金属の量を低減する処理である。金属除去処理は、例えば、酸による洗浄処理及び/又は電解処理である。
【0113】
本電極は、上述した本触媒を含む。すなわち、本電極は、例えば、本触媒が担持された電池電極である。具体的に、本電極は、例えば、電極基材と、当該電極基材に担持された本触媒と、を含む電池電極である。
【0114】
ここで、上述のとおり、本触媒は、それ自身が単独で触媒活性を有するため、本電極は、Ptを含まない、又はPt等の上記希少金属を含まないこととしてもよいが、これに限られず、本電極は、例えば、当該希少金属を担持する担体としての本触媒と、当該本触媒に担持された当該希少金属とを含むこととしてもよい。
【0115】
本電極は、例えば、燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、水電解槽(例えば、固体高分子形水電解槽)、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池の電極である。また、本電極は、例えば、カソード又はアノードであり、好ましくはカソードである。すなわち、本電極は、燃料電池、空気電池、水電解槽、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池のカソード又はアノードであり、好ましくは燃料電池カソード、空気電池カソード、水電解槽カソード、レドックスフロー電池カソード、又はハロゲン電池カソードである。
【0116】
本電池は、上述した電池電極を含む。すなわち、本電池は、例えば、本電極を含む燃料電池(例えば、固体高分子形燃料電池)、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池である。本電池は、本電極を含む膜/電極接合体を有することとしてもよい。本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する電池である。すなわち、本電池は、カソード又はアノードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池であり、好ましくはカソードとして本電極を有する燃料電池、空気電池、レドックスフロー電池、又はハロゲン電池である。
【0117】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0118】
[実施例1]
1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl2)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0119】
不融化後の混合物25gと、0.03gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、105gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。
【0120】
乾燥した混合物を、窒素雰囲気中、0.9MPaのゲージ圧力下、1100℃で加熱保持することにより、炭素化を行った。
【0121】
炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
【0122】
微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を、その平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕した。こうして、粉砕後の炭素化材料を、実施例1の炭素触媒として得た。
【0123】
[実施例2]
上述の実施例1で得られた炭素触媒を、100%アンモニアガスを0.3L/分で流通させた雰囲気中、900℃で1時間加熱保持した。その後、アンモニアガスを窒素に置換し、窒素雰囲気中、炭素触媒を500℃で10分保持した。そして、窒素雰囲気中で自然放冷により冷却した炭素触媒を、実施例2の炭素触媒として得た。
【0124】
[実施例3]
窒素ガス流通下、炭酸水素アンモニウムを150℃で加熱することにより、アンモニアと、二酸化炭素と、水蒸気とを含む混合ガスを発生させた。
【0125】
上述の実施例1で得られた炭素触媒を、窒素雰囲気中、上述のようにして発生させた混合ガスを流通させながら、900℃で1時間加熱保持した。その後、混合ガスを窒素に置換し、窒素雰囲気中で自然放冷により冷却した炭素触媒を、実施例3の炭素触媒として得た。
【0126】
[実施例4]
上述の実施例1で得られた炭素触媒を、100%水素雰囲気中、900℃で1時間加熱保持した。その後、水素雰囲気中で自然放冷により冷却した炭素触媒を、実施例4の炭素触媒として得た。
【0127】
[実施例5]
上述の実施例1で得られた炭素触媒1.0gと、市販の超脱水メタノール100mLとを混合し、得られた混合液を撹拌しながら超音波で2分間処理した。超音波処理後の混合液を、窒素雰囲気中、遮光下で、1.0Mトリメチルシリルジアゾメタン/ヘキサン溶液と混合し、15時間撹拌した。その後、混合液から乾燥により溶媒を除去した。こうして乾燥後の炭素触媒を、実施例5の炭素触媒として得た。
【0128】
[実施例6]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例6の炭素触媒を得た。
【0129】
[実施例7]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例3と同様にして、実施例7の炭素触媒を得た。
【0130】
[実施例8]
不融化前に、0.06gのホウ酸(B(HO)3)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例8の炭素触媒を得た。
【0131】
[実施例9]
1.0gに代えて2.0gの2-メチルイミダゾールを使用したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例9の炭素触媒を得た。
【0132】
[実施例10]
不融化前に、0.69gの塩化ゲルマニウム(IV)(GeCl4)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例10の炭素触媒を得た。
【0133】
[実施例11]
不融化前に、0.06gの塩化サマリウム六水和物(SmCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例11の炭素触媒を得た。
【0134】
[実施例12]
不融化前に、0.06gの塩化ネオジム六水和物(NdCl2・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例12の炭素触媒を得た。
【0135】
[実施例13]
不融化前に、0.06gの硝酸鉛ム六水和物(Pb(NO3)2・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例13の炭素触媒を得た。
【0136】
[実施例14]
不融化前に、0.075gの硝酸ガドリニウム六水和物(Gd(NO3)3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例14の炭素触媒を得た。
【0137】
[実施例15]
不融化前に、1.06gの塩化ビスマス(III)(BiCl3)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例15の炭素触媒を得た。
【0138】
[実施例16]
不融化前に、0.03gの窒化チタン(TiN)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例16の炭素触媒を得た。
【0139】
[実施例17]
不融化前に、0.48gの塩化銀(AgCl)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の実施例2と同様にして、実施例17の炭素触媒を得た。
【0140】
[比較例1]
1.0gのポリアクリロニトリル(PAN)と、1.0gの2-メチルイミダゾールと、6.0gの塩化亜鉛(ZnCl2)と、30gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。乾燥した混合物を大気中で加熱して、250℃で不融化を行った。
【0141】
不融化後の混合物25gと、0.03gの塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)と、105gのジメチルホルムアミドとを混合した。得られた混合物から乾燥により溶媒を除去した。
【0142】
乾燥した混合物を、窒素雰囲気中、常圧下、1100℃で1時間加熱保持することにより、炭素化を行った。炭素化により得られた炭素化材料に希塩酸を加え、撹拌した。その後、炭素化材料を含有する懸濁液を、ろ過膜を使用してろ過し、ろ液が中性になるまで蒸留水で炭素化材料を洗浄した。こうして酸洗浄による金属除去処理を行った。
【0143】
微粉砕機によって、金属除去処理後の炭素化材料を平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕した。こうして粉砕後の炭素化材料を、比較例1の炭素触媒として得た。
【0144】
[比較例2]
1100℃に代えて1200℃で炭素化を行ったこと以外は上述の比較例1と同様にして、比較例2の炭素触媒を得た。
【0145】
[比較例3]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の比較例1と同様にして、比較例3の炭素触媒を得た。
【0146】
[比較例4]
不融化前に、0.018gの塩化クロム六水和物(CrCl3・6H2O)をさらに含む混合物を調製し、当該混合物を不融化したこと以外は上述の比較例2と同様にして、比較例4の炭素触媒を得た。
【0147】
次に、上述のようにして得られた炭素触媒について、後述するような分析を行った。なお、以降の各分析に関する説明において記載される、用いた炭素触媒の重量は、真空下、80℃で3時間加熱処理した場合の当該炭素触媒の重量である。
【0148】
[粉末X線回折]
炭素触媒の粉末XRD測定を行った。粉末XRDで得られた回折パターンから、炭素の(002)回折線の分析を行う際は「日本学術振興会 第117委員会」による「炭素材料の格子定数および結晶子の大きさ測定法」に基づいて補正を行った。この補正の詳細については、文献(炭素,No.221,pp.52-60(2006))に記載されている。
【0149】
この「炭素材料の格子定数および結晶子の大きさ測定法」においては、事前に計算しておいた各測定角度における補正因子FCT=L・P・A・Fc2により、各測定角度における測定強度を除することで補正を行う。ここで、L=1/(sin2θ・cosθ)であり、P=(1+cos22θ・cos22θ´)/(1+cos22θ´)であり、A=[1-sin2θ/2μ´br][1-exp(-2μ´t/sinθ)]+(2t・cosθ/br)exp(-2μ´t/sinθ)である。
【0150】
なお、上記式において、θはゴニオメータの角度であり、θ´はカウンターモノクロメータを使用した時のモノクロメータ結晶の回折角(0°)である。μ´は試料の見かけの線吸収係数(0.4219mm-1)であり、brは試料面におけるX線の照射幅であり、Br=Rsinβで与えられる。ここで、βは発散スリット幅(2/3°)であり、Rはゴニオメータ半径(285mm)である。
【0151】
また、Fcは原子散乱因子であり、Fc=(2.26069・exp(-0.226907・s2)+1.56165・exp(-0.00656665・s2)+1.05075・exp(-0.0975618・s2)+0.839259・exp(-0.555949・s2)+0.286977)で得られる。ここでs=(sinθ)/λである。
【0152】
そして、得られたXRD図形において回折角2θが26°付近の回折ピークのピーク分離を行った。ピークの分離は、重なり合った回折ピークをガウス型の基本波形の重ね合わせにより近似することにより行った。バックグラウンド補正を行った回折図形に対して、各成分となるガウス関数のピーク強度、ピーク半値全幅及びピーク位置をパラメータとして最適化することにより、フィッティングを行った。バックグラウンド補正は、回折角(2θ)が10~20°付近と30~40°付近とを結んだ直線をバックグラウンドとして、当該バックグラウンドを各回折強度から差し引くことで行った。
【0153】
そして、ピーク分離は、回折角2θ=26°付近の回折ピーク(当該回折角2θ=26°付近にピークトップを有する回折ピーク)を、3つの回折ピークfbroad、fmiddle及びfnarrowのうち少なくとも1つの回折ピークに分離することにより行った。
【0154】
より具体的に、このピーク分離は、以下の手順で行った。上記のバックグラウンド補正を行ったCuKα線によるX線回折図形において、回折角2θ=26°付近にピークトップを有する回折ピークをガウス型の基本波形の重ね合わせにより近似し、ピーク強度、ピーク半値全幅及びピーク位置を最適化し、当該回折ピークに含まれる、上記3つの回折ピークのうち少なくとも一つのピーク(例えば、2つ以上の回折ピークが含まれる場合には、重なり合った当該2つ以上の回折ピークの各々)をカーブフィッティングすることによりピーク分離を行った。
【0155】
なお、カーブフィッティングは残差平方和が最も小さくなるように行った。ここで、残差平方とは、測定した各回折角における残差の平方のことをいい、残差平方和とはこれらの残差平方の和である。また、残差とは、補正されたCuKα線によるX線回折図形における回折角2θ=26°付近にピークトップを有する回折ピークの強度と、分離して得られた3つの回折ピーク(fbroad、fmiddle及びfnarrow)のうち少なくとも一つの回折ピークの強度和との差のことをいう。このようなピーク分離により、上述した3つの回折ピークfbroad、fmiddle及びfnarrowのうち、少なくとも1つの回折ピークが得られた。
【0156】
上記ピーク分離の例として、
図1Aには、実施例1で得られた炭素触媒のXRD図形を示し、
図1Bには、実施例2で得られた炭素触媒のXRD図形を示す。
図1A及び
図1Bにおいて、横軸は回折角2θ(°)を示し、縦軸は強度を示す。
【0157】
図1Aに示すように、実施例1で得られた炭素触媒については、回折角2θが26°付近の回折ピークのピーク分離により、低結晶成分である2つの回折ピークf
broad及びf
middleが得られた。また、
図1Bに示すように、実施例2で得られた炭素触媒については、回折角2θが26°付近の回折ピークのピーク分離により、低結晶成分である1つの回折ピークf
broadが得られた。
【0158】
なお、上記ピーク分離においては、
図1Cに示すように、回折角2θが26°付近の回折ピークのピーク分離により、低結晶成分である2つの回折ピークf
broad及びf
middleと、高結晶成分である1つの回折ピークf
narrowとが得られることもある。
【0159】
そして、上述のピーク分離により得られたブロードピークfbroadを解析することにより、結晶格子サイズLcを算出した。すなわち。結晶子サイズLcは、上記ピク分離で得られたブロードピークfbroadのブラッグ角を、次のシェラーの式に代入して算出した:Lc=Kλ/βcosθ。このシェラーの式において、Kは、シェラー定数(0.94)であり、λは、CuKα線の波長(0.15418nm)であり、βは、ブロードピークfbroadの半値全幅(radian)であり、θは、ブロードピークfbroadのブラッグ角(radian)である。
【0160】
[昇温脱離法]
TPDにより炭素触媒からのCO脱離量及びCO2脱離量を測定した。すなわち、昇温脱離装置(マイクロトラック・ベル株式会社製)に炭素触媒を設置し、高真空下で熱処理することで当該炭素触媒の表面官能基の脱離を行った後、当該炭素触媒の表面に酸素を吸着させ、キャリアガス(He)を20mL/分で流通させて当該炭素触媒を加熱し、脱離したガスを四重極質量分析計(Quadrupole Mass Spectrometer:QMS)で測定した。
【0161】
具体的に、まず、炭素触媒0.05gを石英製の反応管中央部に充填し、昇温脱離装置にセットした。装置内にヘリウム(He)ガスを流通させ、装置内を25℃で、120分保持することにより、装置を安定させた。その後、炭素触媒を加熱し、10℃/分の昇温速度で25℃から1200℃に昇温した。この昇温の間、ヘリウム(He)ガスを20mL/分で流通させ、脱離してくるガスを検出し、温度(横軸)と検出強度(縦軸)との相関関係を記録した。
【0162】
そして、650℃から1200℃までの温度範囲で脱離したガスの量を求めた。すなわち、650℃から1200℃までの温度範囲におけるガスの検出強度の積分値(検出強度面積)を計算した。
【0163】
一方、一酸化炭素とヘリウムとの混合ガス(一酸化炭素10体積%)、二酸化炭素とヘリウムとの混合ガス(二酸化炭素10体積%)及び窒素ガス(窒素100体積%)を標準ガスとして用いて、一酸化炭素(質量数28)、二酸化炭素(質量数44)及び窒素(質量数14)の放出量と、検出強度面積と、の相関関係を示す検量線を作成した。
【0164】
そして、測定により得た検出強度面積と、検量線と、に基づいて、炭素触媒からの一酸化炭素及び二酸化炭素の脱離量(放出量)を求めた。すなわち、得られた一酸化炭素及び二酸化炭素の放出量を、測定に用いた炭素触媒の重量で除することにより、炭素触媒からの一酸化炭素及び二酸化炭素の脱離量(炭素触媒重量あたりの放出量)を算出した。なお、一酸化炭素については、質量数28の放出量から、質量数14(窒素)の放出量を差し引いて、一酸化炭素単独の放出量を求めた。
【0165】
[ラマン分光法]
炭素触媒をラマン分光法により解析した。ラマンスペクトルは、HORIBA顕微レーザーラマン分光測定装置(LabRAM、HORIBA Jobin Yvon)を用いて、測定した。測定に用いたレーザーは、532nmの励起波長で、出力が50mWであった。減光フィルターD3を介し、露光90秒×積算1回の条件で測定することにより、ラマンスペクトルを得た。
【0166】
得られたラマンスペクトルにおいて、1580cm-1付近のGバンド、及び1360cm-1付近のDバンドを特定した。さらに、Gバンドの強度Ig(Gバンドのピークトップの強度)、Dバンドの強度Id(Dバンドのピークトップの強度)、及び当該Gバンドと当該Dバンドとの間の最小強度Ivに基づき、当該Gバンドの半値幅(cm-1)、当該Dバンドの半値幅(cm-1)、及びIv/Ig比を得た。
【0167】
図2には、上記ラマンスペクトルの一例として、実施例1で得られた炭素触媒のラマン分光法により得られたラマンスペクトルを解析した結果を示す。
図2において、横軸は波数(cm
-1)を示し、縦軸は強度を示し、破線はバックグラウンドを示し、A
dはDバンドのピークトップに対応する波数(cm
-1)を示し、B
dは当該A
dより低波数側で当該Dバンド強度I
dの半分の強度を示すラマンスペクトルに対応する波数(cm
-1)を示し、A
gはGバンドのピークトップに対応する波数(cm
-1)を示し、B
gは当該A
gより高波数側で当該Gバンド強度I
gの半分の強度を示すラマンスペクトルに対応する波数(cm
-1)を示す。
【0168】
[比表面積]
炭素触媒の比表面積を、比表面積・細孔分布測定装置(Tristar 3000、株式会社島津製作所製)を用いて、窒素ガスを用いたBET法により測定した。すなわち、まず、0.1gの炭素材料を、100℃、6.7×10-2Paで、3時間保持することにより、当該炭素材料に吸着している水分を取り除いた。次いで、BET法により、77Kにおける窒素吸着等温線から、炭素触媒の比表面積(m2/g)を得た。なお、77Kにおける窒素吸着等温線は、77Kの温度で、窒素ガスの圧力の変化に伴う、炭素触媒への窒素吸着量の変化を測定して得た。
【0169】
[X線光電子分光法]
炭素触媒をXPSにより解析した。すなわち、X線光電子分光装置(AXIS NOVA、KRATOS社製)を用いて、炭素触媒の表面における炭素原子及び窒素原子の内殻準位からの光電子スペクトルを測定した。X線源にはAlKα線(10mA、15kV、Pass energy 40eV)を用いた。得られた光電子スペクトルにおいては、炭素原子の1s軌道に由来するC1sピークのピークトップが284.5eVに位置するよう結合エネルギーの補正を行った。
【0170】
各スペクトルのピーク面積と検出感度係数とから、炭素触媒の表面における窒素原子及び炭素原子の元素濃度(atm%)を得た。そして、窒素原子濃度(atm%)を炭素原子濃度(atm%)で除した値に100を乗じてN/C割合(%)を算出した。
【0171】
[元素分析]
炭素触媒の元素分析を行った。すなわち、有機微量元素分析装置(2400II、パーキンエルマー株式会社)を用いて、炭素触媒の窒素含有量を燃焼法により測定した。ヘリウムをキャリアガスとして用い、2mgの炭素触媒を、燃焼管温度980℃、還元管温度640℃の条件で分析した。そして、窒素の重量を炭素触媒の全重量で除した値に100を乗じて窒素原子含有量(重量%)を算出した。
【0172】
[平均粒子径]
炭素触媒の平均粒子径を測定した。すなわち、ナノ粒子径分布測定装置(SALD‐7100H、株式会社島津製作所製)を用いて、炭素触媒の粒子径をレーザー回折法により測定した。具体的に、まず炭素触媒10mgに対して界面活性剤を1滴添加し、次いで、蒸留水40gを加え、懸濁液を調製した。その後、ホモジナイザー処理を20分行い、分散液を調製した。蒸留水が循環しているフローセルに、回折/散乱光強度の最大値が50±5になるまで、調製した分散液を滴下し、粒子径を測定した。得られた粒子径分布(体積分布)から求められるメディアン径(d50)を、平均粒子径として得た。得られた粒子径分布(体積分布)における頻度(%)が0.001以上の粒子径のうち、最大の値を最大粒子径と定義し、最小となる値を最小粒子径と定義した。
【0173】
[触媒活性及び耐久性]
炭素触媒の触媒活性及び耐久性(耐酸化性)を、回転リングディスク電極装置(RRDE-3A回転リングディスク電極装置ver.1.2、ビー・エー・エス株式会社製)と、デュアル電気化学アナライザー(CHI700C、株式会社ALS社製)とを用いて評価した。すなわち、まず炭素触媒を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を作製した。具体的に、炭素触媒5mgと、5%ナフィオン(登録商標)(シグマアルドリッチ社製、ナフィオン 過フッ素化イオン交換樹脂、5%溶液(整理番号:510211))50μLと、水400μLと、イソプロピルアルコール100μLとを混合してスラリーを調製した。次いで、このスラリーに超音波処理を10分行い、その後、ホモジナイザー処理を2分行った。そして、得られたスラリーを、炭素触媒の塗布量が0.1mg/cm2となるように、作用電極(RRDE-3A用リングディスク電極 白金リング-金ディスク電極 ディスク直径4mm、ビー・エー・エス株式会社製)に塗布し、乾燥することにより、当該炭素触媒を含む作用電極を作成した。
【0174】
また対極としては白金電極(Ptカウンター電極23cm、ビー・エー・エス株式会社製)を使用し、参照極としては可逆式水素電極(RHE)(溜め込み式可逆水素電極、株式会社イーシーフロンティア製)を使用した。こうして、炭素触媒を含む作用電極、対極としての白金電極、及び参照極としての可逆式水素電極(RHE)を有する回転リングディスク電極装置を得た。また、電解液としては、0.1M過塩素酸水溶液を使用した。
【0175】
そして、上記回転リングディスク電極装置を用いた耐久性試験(電位保持試験)の開始時(BOL:Beginning Of Life)における炭素触媒の触媒活性(初期の触媒活性)を測定した。
【0176】
すなわち、炭素触媒を含む作用電極を有する、三極式の回転リングディスク電極装置を用いたサイクリックボルタンメトリ(CV)を実施した。CVにおいては、まず窒素バブリングを10分行い、電解液内の酸素を除去した。
【0177】
次いで、下記プロトコルにて、CV測定を行った。すなわち、電位範囲0.0V~1.0V(vs.NHE(標準水素電極))にて、掃引速度50mV/secで電位掃引を5サイクル行い(1サイクル:1.0V→0.0V→1.0V)、電流を電位の関数として記録した。ここで、得られた5サイクル目のボルタモグラムから、耐久性試験開始時のCV面積(BOL-CV面積)(A・sec)を積分により得た。なお、得られたボルタモグラムにおいて、還元電流が負の値、酸化電流が正の値となるように数値に符号を付した。
【0178】
図3には、上記ボルタモグラムの一例として、実施例1で得られた炭素触媒を含む作用電極を有する回転リングディスク電極装置を用いて得られた5サイクル目のボルタモグラムを示す。
図3において、横軸は電位(V vs.NHE)を示し、縦軸は電流(A)を示す。
図3に示すボルタモグラムにおいて、積分により、1.0Vから0.0Vへの電位掃引印加時の曲線と、0.0Vから1.0Vへの電位掃引印加時の曲線とで囲まれた、ハッチングが付された領域の面積が、CV面積(A・sec)として得られた。
【0179】
また、CV測定後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流を電位の関数として記録した(BOL-N2-LSV)。さらにその後、酸素バブリングを10分行い、電解液内を飽和酸素で満たした。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流を電位の関数として記録した(BOL-O2-LSV)。そして、BOL-O2-LSVからBOL-N2-LSVを差し引いた後、縦軸である電流(mA)を作用電極ディスク面積(cm2)で除することにより、縦軸が電流密度(mA/cm2)の酸素還元ボルタモグラムを得た。
【0180】
図4A及び
図4Bには、上記酸素還元ボルタモグラムの一例として、実施例1で得られた炭素触媒を含む作用電極を有する回転リングディスク電極装置を用いて得られた酸素還元ボルタモグラムを示す。
図4Bには、
図4Aの点線で囲まれた部分Xを拡大して示す。
図4A及び
図4Bにおいて、横軸は電位(V vs.NHE)を示し、縦軸は電流密度(mA/cm
2)を示す。
【0181】
図4A及び
図4Bに示すような酸素還元ボルタモグラムから、炭素触媒の耐久性試験開始時の触媒活性を示す指標として、-10μA/cm
2の還元電流が流れた時の電圧(酸素還元開始電位BOL-E
O2)(V vs.NHE)と、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度BOL-i
0.7(mA/cm
2)とを記録した。
【0182】
次いで、耐久性試験(電位保持試験)を行った。すなわち、電解液を新しい0.1M過塩素酸水溶液に交換し、酸素バブリングを10分行い、電解液内を飽和酸素で満たした。そして、電極を回転速度1600rpmで回転させ、1.2V(vs.RHE)の電圧を印加した状態を10分保持し、その間の電流を電位の関数として記録した。
【0183】
その後、耐久性試験の終了時(EOL:End Of Life)における炭素触媒の触媒活性を測定した。すなわち、電解液を交換することなく窒素バブリングを10分行い、電解液内の酸素を除去した。
【0184】
そして、上述した耐久性試験開始時の測定と同様、下記プロトコルにて、CV測定を行った。すなわち、電位範囲0.0V~1.0V(vs. 標準水素電極(NHE))にて、掃引速度50mV/secで電位掃引を5サイクル行い(1サイクル:1.0V→0.0V→1.0V)、電流を電位の関数として記録した。
【0185】
ここで、得られた5サイクル目のボルタモグラムから、耐久性試験終了時のCV面積(EOL-CV面積)(A・sec)を積分により得た。さらに、EOL-CV面積からBOL-CV面積を減じることにより、CV面積増加量(A・sec)を算出し、耐酸化性の指標として記録した。
【0186】
また、CV測定後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した(EOL-N2-LSV)。さらにその後、酸素バブリングを10分行い、電解液内を飽和酸素で満たした。その後、電極を回転速度1600rpmで回転させ、掃引速度20mV/secで電位掃引した時の電流密度を電位の関数として記録した(EOL-O2-LSV)。そして、BOL-O2-LSVからBOL-N2-LSVを差し引いた後、縦軸である電流(mA)を作用電極面積(cm2)で除することにより、縦軸が電流密度(mA/cm2)の酸素還元ボルタモグラムを得た。
【0187】
こうして得られた耐久性試験終了時の酸素還元ボルタモグラムから、-10μA/cm2の還元電流が流れた時の電圧)(酸素還元開始電位EOL-EO2)(V vs.NHEと、0.7V(vs.NHE)の電圧を印加した時の電流密度EOL-i0.7(mA/cm2)とを記録した。そして、耐久性試験終了時の電流密度EOL-i0.7(mA/cm2)を、耐久性試験開始時のBOL-i0.7(mA/cm2)で除した値に100を乗ずることにより、電流密度i0.7維持率(%)を算出した。
【0188】
[結果]
図5には、実施例1~17及び比較例1~4で得られた炭素触媒について、初期の触媒活性を示す耐久性試験開始時の酸素還元開始電位E
O2(V)及び電流密度i
0.7(mA/cm
2)と、耐久性を示す電流密度i
0.7維持率(%)及びCV面積増加量(A・sec)と、XRDによる結晶子サイズLc(nm)と、TPDによるCO脱離量、CO
2脱離量及び(CO+CO
2)脱離量と、ラマン分光法によるI
v/I
g比、Dバンド半値幅(cm
-1)及びGバンド半値幅(cm
-1)と、BET比表面積(m
2/g)と、を評価した結果を示す。
【0189】
図5に示すように、比較例1及び比較例3の炭素触媒は、耐久性試験開始時において、酸素還元開始電位E
O2は0.827V~0.828Vであり、電流密度i
0.7は-1.71~-1.72であったが、耐久性試験において、その電流密度i
0.7維持率は87.1%~87.8%であり、CV面積増加量は6.37×10
-5A・sec~6.42×10
-5A・secであった。すなわち、比較例1及び比較例3の炭素触媒は、耐久性試験開始時の触媒活性は比較的高いが、耐久性が低かった。
【0190】
一方、比較例2及び比較例4の炭素触媒は、耐久性試験において、電流密度i0.7維持率は92.9%~93.8%であり、CV面積増加量は5.81×10-5A・sec~5.87×10-5A・secであったが、耐久性試験開始時においては、酸素還元開始電位EO2が0.803V~0.804Vであり、電流密度i0.7は-0.95~-0.97であった。すなわち、比較例2及び比較例4の炭素触媒は、耐久性は比較的高かったが、耐久性試験開始時の触媒活性が低かった。
【0191】
これに対し、実施例1~17の炭素触媒は、耐久性試験開始時において、酸素還元開始電位EO2は0.826V~0.837V、及び電流密度i0.7は-1.57~-1.80であった。さらに、実施例1~17の炭素触媒は、耐久性試験において、その電流密度i0.7維持率は90.6%~93.7%であり、CV面積増加量は4.74×10-5A・sec~5.25×10-5A・secであった。特に、実施例2~17の炭素触媒は、耐久性試験において、その電流密度i0.7維持率は91.8%~93.7%であり、CV面積増加量は4.74×10-5A・sec~4.96×10-5A・secであった。
【0192】
すなわち、実施例1~17の炭素触媒は、優れた触媒活性及び優れた耐久性の両方の特性を有していた。特に、実施例2~実施例17の炭素触媒は、耐久性において顕著に優れていた。
【0193】
また、比較例1及び比較例3の炭素触媒のXRDによる結晶子サイズLcは1.01nm以下であり、比較例2及び比較例4の炭素触媒のそれは1.24nm以上であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のXRDによる結晶子サイズLcは、0.98nm~1.13nmであった。
【0194】
また、比較例1及び比較例3の炭素触媒のTPDによるCO脱離量は2150.0μmоl/g以上であり、比較例2及び比較例4の炭素触媒のそれは552.0μmоl/g以下であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のTPDによるCO脱離量は、542.5μmоl/g以下であった。
【0195】
また、比較例1及び比較例3の炭素触媒のTPDによるCO2脱離量は200.0μmоl/g以上であり、比較例2及び比較例4の炭素触媒のそれは101.4μmоl/g以下であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のTPDによるCO2脱離量は、85.2μmоl/g以下であり、実施例2~17の炭素触媒のそれは、54.0μmоl/g以下であった。
【0196】
また、比較例1及び比較例3の炭素触媒のTPDによる(CO+CO2)脱離量は2350.0μmоl/g以上であり、比較例2及び比較例4の炭素触媒のそれは653.4μmоl/g以下であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のTPDによる(CO+CO2)脱離量は、618.2μmоl/g以下であり、実施例2~17の炭素触媒のそれは、551.7μmоl/g以下であった。
【0197】
また、比較例1~4の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるIv/Ig比は0.50以上であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるIv/Ig比は、0.31~0.48であった。
【0198】
また、比較例1~4の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるDバンド半値幅は180cm-1以上であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるDバンド半値幅は、179以下であった。
【0199】
また、比較例1~4の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるGバンド半値幅は81cm-1以上であった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のラマンスペクトルにおけるGバンド半値幅は、80以下であった。
【0200】
また、比較例1~4の炭素触媒のBET比表面積は、1332m2/g~1371m2/gであった。これに対し、実施例1~17の炭素触媒のBET比表面積は、1232m2/g~1680m2/gであった。
【0201】
また、図示はしていないが、炭素触媒1~17の炭素触媒は、XPSによるN/C割合が2.0%以上であり、元素分析による窒素含有量が2.3重量%以上であり、最大粒子径が10.0μm以下であり、平均粒子径が0.60μm以下であった。
【0202】
[亜鉛空気電池の製造]
炭素触媒を含む触媒層が形成された電池電極を製造した。すなわち、まず上述の実施例2の炭素触媒0.25gと、電解質溶液とをサンプル瓶に投入し、超音波バスで10分間処理した。その後、ホモジナイザーで25000rpm、10分間撹拌し、さらに超音波ホモジナイザーで出力30W、周波数20kHz、10分間処理することで、均一に分散された炭素触媒を含むスラリー状の触媒層用組成物を得た。
【0203】
得られたスラリー状の触媒層用組成物を、ガス拡散層(“29BC”、SGLカーボン社製)(3.0cm×3.0cm)の面積9cm2の領域上に、電池電極の単位面積あたりの炭素触媒の含有量が1.5mg/cm2になるように塗布して乾燥させることにより、当該ガス拡散層上に触媒層を形成した。こうして、炭素触媒を含む触媒層が形成された電池電極を得た。また、比較として、炭素触媒に代えて、高導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック、ライオン株式会社製)を使用したこと以外は同様にして、電池電極を得た。
【0204】
次いで、上述のようにして得られた電池電極を含む亜鉛空気電池を製造した。すなわち、8cm×6cmのサイズに切り出した2枚のアルミラミネート(大日本印刷株式会社製)を用意した。一方のアルミラミネートの一部を切り抜いて、正方形の窓部(2cm×2cm)を形成した。
【0205】
また、3cm×9cmのサイズに切り出したニッケル板(株式会社ニラコ製、厚み0.1mm)を用意した。このニッケル板から2cm×6cmのサイズの部分を切り落として、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状のニッケル板を得た。
【0206】
そして、このニッケル板の基部が上記一方のアルミラミネートの窓部から露出するよう、当該アルミラミネートに当該ニッケル板を重ねた。さらに、このニッケル板の基部のうち、アルミラミネートの窓部から露出した部分(2cm×2cm)に、空気取り込み穴として、規則的に配置された9つの穴(直径3mm)を形成した(3穴×3穴)。
【0207】
その後、ニッケル板の基部のアルミラミネートと反対側の表面と、上述のようにして得られた電池電極(3cm×3cm)のガス拡散層とが接するように、当該ニッケル板の基部に当該電池電極を重ねた。さらに、電池電極のニッケル板と反対側の表面(すなわち触媒層の表面)のうち、幅0.5cmの枠状の外周部分から、その周囲のアルミラミネートに跨るように熱溶着テープ(大日本印刷株式会社製)を配置した。そして、この熱溶着テープの熱溶着によって、電池電極、ニッケル板、及びアルミラミネートを一体化し、正極(空気極)を得た。
【0208】
一方、3cm×9cmのサイズに切り出した銅箔(宝泉株式会社製、厚み20μm)から、上述のニッケル板と同様に、2cm×6cmのサイズの部分を切り落として、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状の銅箔を得た。そして、この銅箔の基部と、3cm×3cmのサイズに切り出した亜鉛板(株式会社ニラコ製、厚み0.5mm)とを超音波溶接機で溶接し、亜鉛負極を得た。
【0209】
その後、正極の触媒層の表面に、3cm×3cmのサイズに切り出したセルロースセパレータ(ニッポン高度紙工業株式会社製、TF40-50)を重ねた。次いで、セルロースセパレータの正極と反対側の表面と、亜鉛負極の亜鉛板の表面とが接するように、当該セルロースセパレータに当該亜鉛負極を重ねた。このとき、ニッケル板の端子部と、銅箔の端子部とが重ならないよう、当該ニッケル板及び当該銅箔を配置した。
【0210】
さらに、亜鉛負極のセルロースセパレータと反対側の表面(すなわち、銅箔の表面)に、他方のアルミラミネート(8cm×6cm)を重ねた。次いで、重ねられた一対のアルミラミネートの4つの辺のうち3つを熱融着することで、1つの辺が開口した当該アルミラミネートの袋を形成した。
【0211】
すなわち、このアルミラミネートの袋の中には、窓部が形成された上記一方のアルミラミネートから、他方のアルミラミネートに向けて、L字状のニッケル板、電池電極のガス拡散層、当該電池電極の触媒層、セルロースセパレータ、亜鉛電極の亜鉛板、及び当該亜鉛電極のL字状の銅箔が、この順序で配置された。
【0212】
さらに、アルミラミネート袋の開口から、電解液として4mol/Lの水酸化カリウム(林純薬工業株式会社製)水溶液を注入した。最後に、アルミラミネート袋の開口を熱融着で閉じて、亜鉛空気電池セルを得た。なお、セルの外部に延びるニッケル板の端子部を正極端子、銅箔の端子部を負極端子として利用した。
【0213】
[マグネシウム空気電池の製造]
上述した亜鉛空気電極と同様にして、上述のようにして得られた電池電極を含むマグネシウム空気電池を製造した。すなわち、上述した亜鉛負極に代えて、正方形状の基部(3cm×3cm)と、当該基部から延びる長方形状の端子部(1cm×6cm)とから構成されるL字状のマグネシウム合金板を、マグネシウム負極として使用して、窓部が形成された一方のアルミラミネートから、他方のアルミラミネートに向けて、L字状のニッケル板、電池電極のガス拡散層、当該電池電極の触媒層、セルロースセパレータ、及び当該マグネシウム負極が、この順序でされ、1つの辺が開口したアルミラミネートの袋を形成した。
【0214】
そして、アルミラミネート袋の開口から、電解液として4mol/Lの塩化ナトリウム(関東化学工業株式会社製)水溶液を注入した。最後に、アルミラミネート袋の開口を熱融着で閉じて、マグネシウム空気電池セルを得た。なお、セルの外部に延びるニッケル板の端子部を正極端子、マグネシウム合金板の端子部を負極端子として利用した。
【0215】
[空気電池の特性評価]
上述のようにして製造した亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池の最大出力密度を、充放電装置(北斗電工株式会社製、HJ0505 SM8A)を用いて、セル電圧0.5Vをカットオフ電圧として測定した。
【0216】
図6には、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のそれぞれについて、その正極及び負極の構成と、最大出力密度(mW/cm
2)を測定した結果とを示す。
図6に示すように、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のいずれについても、炭素触媒を含む正極を有する空気電池において、カーボンブラックを含む正極を有する空気電池に比べて顕著に高い最大出力密度が得られた。すなわち、炭素触媒は、空気電池において優れた触媒活性を示すことが確認された。
【0217】
また、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池の耐久性を評価した。すなわち、まず上述のようにして製造した空気電池の出力特性試験を行った。次いで、10mA/cm2の電流値で、理論値の30%まで定電流放電を行った。その後、再び出力特性試験を行った。そして、定電流放電後の出力値を、当該定電流放電前の出力値で除して得られた値に100を乗じることにより、出力維持率(%)を算出した。
【0218】
図7には、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のそれぞれについて、その正極及び負極の構成と、出力維持率(%)を測定した結果とを示す。
図7に示すように、亜鉛空気電池及びマグネシウム空気電池のいずれについても、炭素触媒を含む正極を有する空気電池において、カーボンブラックを含む正極を有する空気電池に比べて顕著に高い出力維持率が得られた。すなわち、炭素触媒は、空気電池において優れた耐久性を示すことが確認された。