(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】エレベーター安全装置
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
B66B5/00 D
(21)【出願番号】P 2019155217
(22)【出願日】2019-08-28
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】川崎 勝
(72)【発明者】
【氏名】高橋 才明
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-107767(JP,A)
【文献】特開2010-202394(JP,A)
【文献】特開2003-341950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00-7/12
B66B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣合い重りガイドレールの前面側を左右方向に延びるカバーと、
前記カバーを前記釣合い重りガイドレールに支持する支持部と、
を備えたエレベーター安全装置において、
前記カバーは、左側の前記釣合い重りガイドレールに支持される第1カバーと、右側の前記釣合い重りガイドレールに支持される第2カバーと、を有し、
前記第1カバーと前記第2カバーとの対向部が、上方から下方にかけて左右方向に傾斜していることを特徴とするエレベーター安全装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエレベーター安全装置において、
前記第1カバーと前記第2カバーとは、異なる高さ位置で、前記釣合い重りガイドレールに支持されることを特徴とするエレベーター安全装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエレベーター安全装置において、
前記第1カバーと前記第2カバーとの対向部は、互いに嵌合することを特徴とするエレベーター安全装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のエレベーター安全装置において、
前記第1カバーと前記第2カバーとの対向部に、互いのカバーを接続する接続部材が設けられていることを特徴とするエレベーター安全装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のエレベーター安全装置において、
前記第1カバー又は前記第2カバーの前面角部のうち、前記対向部の傾斜とのなす角が鋭角となる前記前面角部は、切欠かれていることを特徴とするエレベーター安全装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物に設置されるエレベーターは、一般につるべ式が広く用いられ、乗りかごが上昇した場合には、釣合い重りが下降し、乗りかごが下降した場合には、釣合い重りが上昇する。従って、昇降路の底部であるピット内で保守点検作業をする際に、乗りかごを上昇させた場合、釣合い重りが下降し、釣合い重りはピットに接近する。このとき、作業者が釣合い重りの鉛直投影内に入っていると、作業者が釣合い重りとピット床面とに挟まれる危険がある。このため、従来、釣合い重りの真下に作業者が侵入するのを防止する手段として、釣合い重りの左右ガイドレール間に、侵入抑制体を設置する方法がとられている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-341950号公報
【文献】特開2010-202394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、左右の釣合い重りガイドレール間の幅は、エレベーターの仕様により異なっている。このため、従来の侵入抑制体は、異なるガイドレール幅ごとに、別々のサイズのものを用意する必要があり、コストを高めてしまっていた。
【0005】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、その目的は、異なるガイドレール幅のエレベーターであっても共通に用いることができ、コストを抑制しながら作業者の安全性を担保できるエレベーター安全装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、釣合い重りガイドレールの前面側を左右方向に延びるカバーと、前記カバーを前記釣合い重りガイドレールに支持する支持部と、を備えたエレベーター安全装置において、前記カバーは、左側の前記釣合い重りガイドレールに支持される第1カバーと、右側の前記釣合い重りガイドレールに支持される第2カバーと、を有し、前記第1カバーと前記第2カバーとの対向部を、上方から下方にかけて左右方向に傾斜させた。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異なるガイドレール幅であっても共通に用いることができ、コストを抑制しながら作業者の安全性を担保できるエレベーター安全装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施例1におけるエレベーター安全装置の設置場所を示す平面図。
【
図3】実施例1のエレベーター安全装置の構成を示す斜視図。
【
図4】(a)は、釣合い重りの幅が標準の場合における、エレベーター安全装置の設置状態を示す斜視図、(b)は、釣合い重りの幅が広い場合において、単純に、第1カバー及び第2カバーを同じ高さに取付けた状態を示す斜視図、(c)は、釣合い重りの幅が広い場合において、第1カバーの取付位置を上方に変更し、第2カバーの取付位置を下方に変更した状態を示す斜視図。
【
図5】(a)は、釣合い重りの幅が標準の場合における、エレベーター安全装置の設置状態を示す斜視図、(b)は、釣合い重りの幅が狭い場合において、単純に、第1カバー及び第2カバーを同じ高さに取付けた状態を示す斜視図、(c)は、釣合い重りの幅が狭い場合において、第1カバーの取付位置を下方に変更し、第2カバーの取付位置を上方に変更した状態を示す斜視図。
【
図6】実施例2のエレベーター安全装置の構成を示す斜視図。
【
図7】実施例3の第1カバー及び第2カバーの対向部を、上方から見た平面図。
【
図8】実施例4の第1カバー及び第2カバーの対向部を、側方から見た平面図。
【
図9】実施例5のエレベーター安全装置を、上方から見た平面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るエレベーター安全装置の実施形態について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のエレベーター安全装置が搭載される、エレベーターの概略構成を示す側面図である。
図1に示すように、エレベーターは、昇降路5内に、移動体である乗りかご1及び釣合い重り2が配置されて構成される。乗りかご1と釣合い重り2とは主ロープ4で連結され、この主ロープ4は巻上機3に巻き掛けられ、この巻上機3によって駆動される。そして、昇降路5の下方位置にはピット6が形成されており、このピット6において作業者7が昇降路5内の機器の点検を行う場合がある。
【0010】
図2は、本実施形態のエレベーター安全装置の設置場所を示す平面図である。
図2に示す通り、本実施形態のエレベーター安全装置は、釣合い重りガイドレール8の前面側を左右方向に延びるカバー10と、このカバー10を釣合い重りガイドレール8に支持する支持部9と、を備えている。カバー10の前面部は、釣合い重り2の鉛直投影よりも前側に位置しているため、作業者7が釣合い重り2の真下の領域に侵入するのを抑止する効果がある。なお、支持部9は、後述するように、ブラケット9a、レールクリップ9b、ボルト9cなどで構成されている。
【0011】
カバー10は、ピット6内にあっても、低過ぎたり高過ぎたりすると、作業者7が誤って侵入してしまう可能性があるので、このエレベーター安全装置の高さ方向の中央部が、床面から1400mm~1600mm程度であることが望ましい。また、このカバー10(特に、その前面部)は、乗りかご1の鉛直投影と釣合い重り2の鉛直投影との間に配置されている。このため、乗りかご1や釣合い重り2との干渉によるエレベーター安全装置の破損を防止できる。
【実施例1】
【0012】
図3は、実施例1のエレベーター安全装置の構成を示す斜視図である。
図3に示す通り、カバー10は、左側の釣合い重りガイドレール8に支持される第1カバー(左側カバー)10aと、右側の釣合い重りガイドレール8に支持される第2カバー(右側カバー)10bと、で構成されている。そして、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部が、上方から下方にかけて左右方向に傾斜している。
【0013】
また、第1カバー10aは、左右方向に広く伸びる前面部10a1と、前後方向に延びる側面部10a2と、を有するL字状の形状となっている。そして、側面部10a2の上下2か所が、ボルト9cを用いて上下にある各ブラケット9aの前端部に固定される。このブラケット9aは、前後方向に延びる部材であり、その後端部が釣合い重りガイドレール8の側面にレールクリップ9bを介して固定される。このように、ブラケット9aをL字形状とせず第1カバー10aをL字形状とし、第1カバー10aの側面部10a2でブラケット9aと固定し、第1カバー10aの前面部10a1をフラット状にすることで、前後方向の余計な出張りをなくし、釣合い重り2等との干渉を防いでいる。
【0014】
なお、第2カバー10bも、第1カバー10aと同様の構成となっており、同様の方法で釣合い重りガイドレール8に支持される。エレベーター安全装置を構成するカバー10は、前面において分割された形となっているが、この左右の第1カバー10a及び第2カバー10bは、同一形状のものを上下反転させることで使い分けることができるため、部品の共用化が可能となり、製造上のコストが大幅に低下する。
【0015】
次に、左右の釣合い重りガイドレール8の間の間隔が異なる場合、すなわち、釣合い重り2の幅が異なる場合に、エレベーター安全装置の幅を調整する方法について説明する。
【0016】
図4の(a)は、釣合い重り2の幅が標準の場合における、エレベーター安全装置の設置状態を示す斜視図である。このとき、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部は、ほぼ隙間なく位置しており、第1カバー10aと第2カバー10bは各釣合い重りガイドレール8の同じ高さに取付れば良い。
【0017】
図4の(b)は、釣合い重り2の幅が広い場合において、単純に、第1カバー10a及び第2カバー10bを同じ高さに取付けた状態を示す斜視図である。このとき、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部に、隙間J1が生じてしまう。
【0018】
図4の(c)は、釣合い重り2の幅が広い場合において、第1カバー10aの取付位置を上方に変更し、第2カバー10bの取付位置を下方に変更した状態を示す斜視図である。このとき、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部は、ほぼ隙間なく位置している。
【0019】
このように、本実施例によれば、釣合い重り2の幅が標準より広い場合でも、標準の場合と同じエレベーター安全装置を用いることができる。なお、本実施例では、上方から下方にかけて右側へ傾斜する構成の例を示したが、上方から下方にかけて左側へ傾斜する構成であっても良い。いずれの構成であっても、上方が下方より幅狭の形状を有するカバーの取付高さを上げ、上方が下方より幅広の形状を有するカバーの取付高さを下げることで、幅の広い釣合い重り2に対応できる。
【0020】
図5の(a)は、
図4の(a)と同様に、釣合い重り2の幅が標準の場合における、エレベーター安全装置の設置状態を示す斜視図である。このとき、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部は、ほぼ隙間なく位置しており、第1カバー10aと第2カバー10bは各釣合い重りガイドレール8の同じ高さに取付れば良い。
【0021】
図5の(b)は、釣合い重り2の幅が狭い場合において、単純に、第1カバー10a及び第2カバー10bを同じ高さに取付けた状態を示す斜視図である。このとき、第1カバー10aの右側端部と第2カバー10bの左側端部とが重なり、前後方向に出張りを生じてしまう。ここで、乗りかご1の鉛直投影と釣合い重り2の鉛直投影との隙間は、省スペース性の観点から狭く設計されているため、出張りが生じると、エレベーター安全装置が乗りかご1や釣合い重り2と干渉し、エレベーター安全装置を破損させてしまう可能性がある。このため、第1カバー10aと第2カバー10bとが重なるのは避けるのが望ましい。
【0022】
図5の(c)は、釣合い重り2の幅が狭い場合において、上方が下方より幅狭の形状を有する第1カバー10aの取付位置を下方に変更し、上方が下方より幅広の形状を有する第2カバー10bの取付位置を上方に変更した状態を示す斜視図である。
【0023】
このように、本実施例によれば、第1カバー10aと第2カバー10bの取付高さ位置を変更することで、第1カバー10aと第2カバー10bとの重なりをなくすことができる。すなわち、釣合い重り2の幅が標準より狭い場合でも、標準の場合と同じエレベーター安全装置を用いることができる。
【実施例2】
【0024】
図6は、実施例2のエレベーター安全装置の構成を示す斜視図である。
図6に示す通り、本実施例では、各カバーの前面角部のうち、対向部の傾斜とのなす角が鋭角となる前面角部、具体的には、第1カバー11aの前面部の下方の角部と、第2カバー11bの前面部の上方の角部と、が切欠かれている。このように、鋭角となっている角部が切欠き11a3,11b3によって鈍角とされることで、作業者7がエレベーター安全装置を着脱する際に角部に当たった場合の安全性を高めることができる。
【実施例3】
【0025】
図7は、実施例3の第1カバー12a及び第2カバー12bの対向部を、上方から見た平面図である。
図7に示す通り、本実施例では、第1カバー12a及び第2カバー12bの対向部に、複数の切込みを入れることで、鉛直方向へ延びる波型の凹凸形状を設け、互い違いに嵌合させる構成となっている。このため、比較的簡単な手段であっても、各カバーの対向部における隙間が抑制されるとともに、作業者7が接触しても各カバーが外れたり破損したりするのを防ぐ強度補強の効果を得ることができる。なお、同じ形状のカバーの一方を反転することで第1カバー12a及び第2カバー12bとしているため、本実施例の構成の場合、カバーの前後方向の端部が僅かに飛び出すことになる。しかし、カバー前面部どうしの厚み全体の重なりや、ボルト等によるカバーどうしの固定と比べると、その飛び出しの程度は小さいので、釣合い重り2等と干渉することはない。
【実施例4】
【0026】
図8は、実施例4の第1カバー13a及び第2カバー13bの対向部を、側方(右側又は左側)から見た平面図である。
図8に示す通り、本実施例では、第1カバー13a及び第2カバー13bの対向部に、鉛直方向だけでなく前後方向にも凹凸形状を設け、互い違いに嵌合させる構成となっている。したがって、本実施例によっても、実施例3と同様の効果を得ることができる。また、凹凸のピッチを増やすことで、カバー対向部の出張りは更に小さくすることが可能である。
【実施例5】
【0027】
図9は、実施例5のエレベーター安全装置を、上方から見た平面図である。
図9に示す通り、本実施例では、第1カバー10aと第2カバー10bとの対向部に、各カバーを接続する接続部材14としてH型のクリップが設けられている。これにより、各カバー前面部に凹凸形状を設けなくても、各カバーの強度補強の効果を得ることができる。なお、この接続部材14は、カバー前面部の上端から下端まで連続的に設けても良いが、部分的に設けるだけでも十分に補強の効果が得られる。
【0028】
なお、本発明は、上述の実施例1~5に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1:乗りかご
2:釣合い重り
3:巻上機
4:主ロープ
5:昇降路
6:ピット
7:作業者
8:釣合い重りガイドレール
9:支持部
9a:ブラケット
9b:レールクリップ
9c:ボルト
10:カバー
10a:第1カバー
10a1:前面部
10a2:側面部
10b:第2カバー
10b1:前面部
10b2:側面部
11a:第1カバー
11a3:切欠き
11b:第2カバー
11b3:切欠き
12a:第1カバー
12b:第2カバー
13a:第1カバー
13b:第2カバー
14:接続部材