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特許7077287圧電デバイス、及び圧電デバイスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】圧電デバイス、及び圧電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 41/187 20060101AFI20220523BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20220523BHJP
   H01L 41/319 20130101ALI20220523BHJP
   H01L 41/316 20130101ALI20220523BHJP
   H01L 41/09 20060101ALI20220523BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
H01L41/187
H01L41/047
H01L41/319
H01L41/316
H01L41/09
H01L41/113
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019176135
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2020057785
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018185549
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】永岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 愛美
(72)【発明者】
【氏名】待永 広宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 岳人
(72)【発明者】
【氏名】柳谷 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴博
【審査官】宮本 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-134787(JP,A)
【文献】特開平08-310813(JP,A)
【文献】特開2006-019935(JP,A)
【文献】特開2005-252069(JP,A)
【文献】特開2008-211095(JP,A)
【文献】特開2014-229690(JP,A)
【文献】特開2005-303573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/187
H01L 41/047
H01L 41/319
H01L 41/316
H01L 41/09
H01L 41/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、
前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加されており、厚み振動モードでの電気機械結合係数の二乗値が6.8%以上であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項2】
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加されており、ZnとMgの総量に対するMgの含有量は、4 atom%~30 atom%であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項3】
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加されており、ZnとMgの総量に対するMgの添加量は、5 atom%~30 atom%であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項4】
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にCaが添加されており、ZnとCaの総量に対するCaの含有量は、0.9 atom%以上1.8 atom%以下であり、前記圧電体層の電気機械結合係数の二乗値は6.5%以上であることを特徴とする圧電デバイス。
【請求項5】
前記圧電体層のX線ロッキングカーブの半値全幅は5°以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項6】
前記第1の電極層は、石英またはガラスの基材の上に形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項7】
前記圧電デバイスは、プラスチック基材上に形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項8】
前記圧電デバイスは、前記圧電体層と前記プラスチック基材の間に、
酸化ケイ素(SiOx)、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al23)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga23)、アルミニウム・ケイ素添加酸化亜鉛(SAZO)を含むグループから選択される無機物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーを含むグループから選択される有機物、または前記無機物と前記有機物の混合物で形成される非晶質配向制御層が配置されていることを特徴とする請求項7に記載の圧電デバイス。
【請求項9】
前記圧電体層と前記第2の電極層の間に粘着層が配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の圧電デバイス。
【請求項10】
前記第2の電極層の上に、第2の基材が配置されていることを特徴とする請求項9に記載の圧電デバイス。
【請求項11】
第1の電極の上に、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料の圧電体層をスパッタリングで形成し、
積層方向で前記圧電体層の上に第2の電極を配置し、
前記スパッタリングにおいて、前記圧電体層の厚み振動モードでの電気機械結合係数の二乗値が6.8%以上となるように、前記圧電体層にMgを添加することを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項12】
第1の電極の上に、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加された圧電体層をスパッタリングで形成し、
積層方向で前記圧電体層の上に第2の電極を配置し、
前記スパッタリングで形成された前記圧電体層中のZnとMgの総量に対するMgの含有量が4 atom%~30 atom%となることを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項13】
第1の電極の上に、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加された圧電体層をスパッタリングで形成し、
積層方向で前記圧電体層の上に第2の電極を配置し、
前記スパッタリングで形成された前記圧電体層中のZnとMgの総量に対するMgの添加量を5 atom%~30 atom%とすることを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項14】
第1の電極の上に、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にCaが添加された圧電体層をスパッタリングで形成し、
積層方向で前記圧電体層の上に第2の電極を配置し、
前記スパッタリングで形成された前記圧電体層中のZnとCaの総量に対するCaの含有量が0.9 atom%以上1.8 atom%以下、前記圧電体層の電気機械結合係数の二乗値が6.5%以上となることを特徴とする圧電デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記圧電体層と前記第2の電極を粘着層で貼り合わせる工程、
をさらに含むことを特徴とする請求項11~14のいずれか1項に記載の圧電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電デバイスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物質の圧電効果を利用した圧電素子が用いられている。圧電効果は、物質に圧力が加えられることにより、圧力に比例した分極が得られる現象をいう。圧電効果を利用して、圧力センサ、加速度センサ、弾性波を検出するAE(アコースティック・エミッション)センサ等の様々なセンサが作製されている。
【0003】
近年では、スマートフォン等の電子機器の入力インターフェースとしてタッチパネルが用いられ、圧電素子のタッチパネルへの適用が多い。タッチパネルは電子機器の表示装置と一体に構成され、指等による操作を正確に検出するために、圧電体層は高い圧力応答性を持つことが望まれる。脈拍や呼吸等の生体信号を検出する生体センサへの応用も期待されており、こちらも高い感度が求められる。
【0004】
マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属が添加されたウルツ鉱型結晶構造の化合物を含む化学溶液をゾルゲル法で塗布して焼成した圧電体の焼結膜が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
また、気相輸送法で形成された配向性ZnO膜の上に、MgOとワニスを混練したペーストを塗布し、熱拡散によりMgを配向性のZnO膜に拡散させる方法が知られている(たとえば、特許文献2参照)。この方法では、配向性ZnOに対するMgOの割合が、重量比率で0.05~2.0 wt%となるようにペーストが塗布されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6273691号
【文献】特開平8-310813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧電デバイスは、一般的に圧電体層を一対の電極間に挟み込んだ構成を有する。この場合、圧電体層の厚さ方向の振動を効率的に電気的エネルギーに変換すること、あるいは逆に、与えられた電気的エネルギーを効率的に機械的変位に変換することが望まれる。本発明は、変換能力に優れた圧電デバイスとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、圧電体層に所定の範囲の金属添加物を添加することで、電気的エネルギーと機械的エネルギーの間の変換能力の高い圧電デバイスを実現する。
【0009】
具体的には、本発明の第1の態様では、圧電デバイスは、
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料に導電性を発現しない金属が添加されており、厚み振動モードでの電気機械結合係数の二乗値が6.5%以上である。
【0010】
本発明の第2の態様では、圧電デバイスは、
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にMgが添加されており、ZnとMgの総量に対するMgの含有量は、4 atom%~30 atom%である。
【0011】
本発明の第3の態様では、圧電デバイスは、
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に配置される圧電体層と、
を有し、前記圧電体層は、ウルツ鉱型の結晶構造を有するZnO系材料にCaが添加されており、ZnとCaの総量に対するCaの含有量は、0.5 atom%~5 atom%である。
【発明の効果】
【0012】
上記のいずれの構成によっても、機械的エネルギーと電気的エネルギーの間の変換能力の高い圧電デバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の圧電デバイスの概略構成図である。
図2】圧電特性の向上試験のためのサンプルの構成図である。
図3】共振周波数を得るための変換損失の周波数依存性を示す図である。
図4A】Mgを添加した圧電材料の電気機械結合係数(の二乗値)を、金属添加物を加えない圧電材料と比較して示す図である。
図4B】Mgを添加した圧電材料のX線ロッキングカーブの半値幅および、電気機械結合係数(の二乗値)を、金属添加物を加えない圧電材料と比較して示す図である。
図5】Caを添加した圧電材料のX線ロッキングカーブの半値幅および、電気機械結合係数(の二乗値)を、金属添加物を加えない圧電材料と比較して示す図である。
図6】圧電デバイスの変形例を示す図である。
図7】圧電デバイスの別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、実施形態の圧電デバイス10Aの概略構成図である。圧電デバイス10Aは、たとえば外部から加えられる圧力に比例した電気信号を取り出す圧電センサとして用いられる。
【0015】
圧電デバイス10Aは、基材11上に、第1の電極12と、圧電体層13と、第2の電極14がこの順で積層された構成を有する。実施形態では、圧電体層13は、所定範囲の金属添加物を含むウルツ鉱型の結晶構造を有する。
【0016】
基材11の種類は問わず、ガラス基材、プラスチック基材、セラミック基材など、適切な材料を用いることができる。プラスチック基材を用いる場合は、圧電デバイス10Aに屈曲性を与えることのできる可撓性の基板であってもよい。プラスチック基板として、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、ポリイミド(PI)等を用いることができる。
【0017】
これらの材料の中で、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマーは無色透明な材料であり、圧電デバイス10Aに光透過性が求められる場合に、適している。圧電デバイス10Aに光透過性を要求されない場合、すなわち脈拍計、心拍計などのヘルスケア用品や、車載圧力検知シートなどに適用される場合は、半透明または不透明のプラスチック材料を用いてもよい。
【0018】
第1の電極12は、導電性を有する任意の材料を用いることができる。光透過性が求められる適用例では、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、IZTO(Indium Zinc Tin Oxide)、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)などの透明な酸化物導電膜を用いてもよい。透明性が必須でない場合は、Au、Pt、Ag、Ti、Al、Mo、Ru、Cu等の金属等の良導体を用いてもよい。
【0019】
第1の電極12と圧電体層13の間の界面の凹凸や結晶粒界を抑制する観点からは、酸化物導電体の膜を、非晶質の膜としてもよい。非晶質の膜とすることで、第1の電極12の表面の凹凸や、リークパスの要因となる結晶粒界を防止することができる。また、上層の圧電体層13が第1の電極12の結晶配向の影響を受けずに、良好な結晶配向性で成長することができる。
【0020】
圧電体層13は、無機圧電材料で形成されており、たとえば、ウルツ鉱型の結晶構造を有する。圧電体層13の厚さに特に限定はないが、50nm以上であることが望ましい。圧電体層13の厚さが50nm未満になると、十分な圧電特性(または圧力に比例した分極)を実現することが困難になるからである。
【0021】
ウルツ鉱型の結晶は六方晶の単位格子を持ち、c軸と平行な方向に分極ベクトルを有する。ウルツ鉱型の圧電材料として、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、炭化ケイ素(SiC)を用いることができ、これらの成分またはこれらの中の2以上の組み合わせのみを用いてもよい。2成分以上の組み合わせの場合は、それぞれの成分を積層させることができる。あるいは、これらの成分またはこれらの中の2以上の組み合わせを主成分として用い、その他の成分を任意に含めることもできる。
【0022】
ウルツ鉱型結晶としてZnO、ZnS、ZnSe、ZnTeを用いる場合は、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、または、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、リチウム(Li)等の金属を所定の範囲の割合で添加する。これらの元素は、Znサイトに入っても導電性を発現せず、むしろ電気機械結合係数の値を向上する。
【0023】
ウルツ鉱型結晶材料がZnOの場合、金属添加物としてMgを添加するときは、ZnとMgの総量に対するMgのドープ量は、5 atom%~30 atom%であることが好ましく、10~25 atom%であることがより好ましい。アルカリ土類金属としてCaを添加するときは、ZnとCaの総量に対するCaのドープ量は、0.5~5 atom%が好ましく、0.8~2.0atom%がより好ましく、さらに好ましくは0.9~1.8 atom%である。
【0024】
第2の電極14は、導電性を有する任意の材料で形成することができる。圧電デバイス10Aが光透過性を要する場合は、ITO、IZO、IZTO、IGZOなどの透明な酸化物導電膜としてもよい。光透過性が必須でない場合は、Au、Pt、Ag、Ti、Al、Mo、Ru、Cu等の良導体の金属電極としてもよい。
【0025】
図2は、実施形態の圧電デバイスの特性評価のサンプル20の構成図である。サンプル20は、石英ガラス基板21の上に、厚さ200nmのTi膜22をDCスパッタリングで形成し、Ti膜22の上に、厚さ6μmのZnOの圧電体層23を、ドーパントの種類と添加量を変えながら、RFマグネトロンスパッタリングで形成する。圧電体層23の上に、上部電極膜として厚さ200nmのAu膜24を蒸着する。
【0026】
ZnOの圧電体層23に添加するドーパントの種類と割合が異なる複数のサンプル20を、同じサイズ、同じ条件(ドーパントの種類と添加量を除く)で作製する。比較例として、ドーパントを添加しないZnO層(pure-ZnO)のサンプルも作製する。
【0027】
ドーパントとしてMgを用いる場合、圧電体層中に含まれるMgの含有量を後述するように変化させる。ドーパントとしてCaを用いる場合も、圧電体層中のCa含有量を所定の範囲内で変化させる。
【0028】
Mgを添加する場合は、あらかじめ所定の割合でMgOを添加したZnO焼結体のターゲットを用いてスパッタリングしてもよいし、多元スパッタ装置を用いてZnOターゲットとMgOターゲットを同時、かつ独立にスパッタして所望のドープ割合で成膜してもよい。Caを添加する場合は、あらかじめ所定の割合でCaOを添加したZnO焼結体のターゲットを用いてスパッタリングしてもよいし、多元スパッタ装置を用いてZnOターゲットとCaOターゲットを同時、かつ互いに独立してスパッタして所望のドープ割合で成膜してもよい。
【0029】
作製した膜の組成比は、アルバック・ファイ株式会社製のESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis:化学分析用電子顕微鏡)であるQuantum 2000を用いて評価する。具体的には、圧電体層23にモノクロAl Ka線源のX線を15kV、30Wで照射して分析する。また、加速電圧2kVのArイオンでエッチングしながら深さ200nmの組成分析を行い、その平均値を出来上がりの膜組成比(含有量)とする。
【0030】
評価試験では、ネットワークアナライザ(Agilent Technologies)を用いて、各サンプル20に交流電圧を印加し、圧電体層23の変換損失を測定する。具体的には、ネットワークアナライザの端子に接続されたプローブの先端を、サンプル20の上面のAu膜24に押し付けて交流電圧を印加し、圧電体層23の内部に生じた縦波音波(超音波)に基づいて、変換損失をネットワークアナライザで測定する。測定された変換損失を、Masonの等価回路モデルによる理論曲線と比較することで、圧電体層23の厚さ方向の振動の電気機械結合係数kt(またはその二乗値kt 2)を推定する。
【0031】
また、各組成比の圧電体層23のX線ロッキングカーブ(XRC:X-ray Rocking Curve)の半値全幅(FWHM:Full Width at Half Maximum)を測定する。XRCのFWHM値(以下、「XRC半値幅」と称する)は、圧電体層23のc軸配向性の指標となる。XRC半値幅が小さいほどc軸方向の結晶の配向性が良い。
【0032】
図3は、ドーパントを添加していないZnO(pure ZnO)の圧電体層23を有するサンプルの変換損失の周波数依存特性を示す。マル印が実測値、実線がMasonの等価回路モデルの理論曲線である。横軸近傍の傾きが非常に緩やかな破線は、伝搬損失である。
【0033】
変換損失は、入力周波数パワーに対する出力周波数のパワーの比(dB)で表される。電気機械結合係数は、供給された電気エネルギーに対する機械エネルギーの平方根で表されるので、電気機械結合係数と変換損失は相関する。
【0034】
図3で、マル印の実測値は、Masonの等価回路モデルを用いた計算値と傾向が一致している。303MHzに一次モードの弾性共振が生じており、このときの変換損失は4.4dBである。610MHzの近傍に、変換損失がピークとなる半共振が生じている。
【0035】
変換損失が小さいほど、また、共振周波数と半共振周波数が離れているほど、厚さ方向の電気機械結合係数ktは大きい。共振周波数をfr、半共振周波数をfaとすると、電気機械結合係数の二乗値kt 2は、たとえば、
t 2=(π/2)(fr/fa)cot[(π/2)(fr/fa)]
で表される。
【0036】
ZnOに添加するドーパントの種類と量を変えた他のサンプルについても、同様にしてネットワークアナライザで変換損失が最小となる共振周波数と、変換損失のピークを示す半共振周波数を求めて、圧電体層23の厚さ方向の電気機械結合係数の二乗値kt 2を推定する。
【0037】
図4Aは、ドーパントとしてMgを添加したときのkt 2値を、ドープなしのZnOのkt 2値と比較して示す図である。ノンドープのZnOの圧電体層23のkt 2値は5.9%であるのに対し、ZnとMgの総量に対するMgのドープ量を10 atom%とすることで、kt 2値を7.3%に向上することができる。ZnとMgの総量に対するMgのドープ量が15 atom%のときは、kt 2値は7.8%に、ZnとMgの総量に対するMgのドープ量が25 atom%のときは、kt 2値は7.3%である。
【0038】
t 2値は、金属ドーパントが無添加のZnOと比較して、約24~32%も向上している。ここから、Mgの添加量を5~30 atom%とすることで、圧電体層23の厚さ方向の電気機械結合係数の二乗値kt 2を改善でき、特にMgの添加量を10~25 atom%とする場合は、無添加のZnOと比較してkt 2値を120%以上に向上できることがわかる。
【0039】
図4Bは、図4Aよりも広い範囲にわたって圧電体層中のMgの含有量を変えたときのXRC半値幅とkt 2値を示す。作製された圧電体層中のMgの含有量(ZnとMgの総量に対するMgの含有量)が、4.4 atom%~20.0 atom%のときは、kt 2値は7.3%以上で、十分な共振が得られる。また、XRC半値幅も3.1°以下と良好である。
【0040】
Mg含有量が2.5%のときは、XRC半値幅は良好であるが、kt 2値は6.0%に下がる。仕込み時のMgのドープ量を70 atom%にしたときは、共振が得られず、kt 2値を推定することができなかった。
【0041】
適切な範囲でMgを添加することで、kt 2値は、金属ドーパントが無添加のZnOと比較して、40%近くまで向上し、かつXRC半値幅も小さい。図4Bから圧電体層中に含まれるMgの適切な範囲は、4 atom%~30 atom%、より好ましくは4 atom%~20 atom%である。
【0042】
図5は、ドーパントとしてCaを添加したときのkt 2値およびXRC半値幅を、ドープなしのZnOのkt 2値およびXRC半値幅と比較して示す図である。図4と同じく、ノンドープのZnOの圧電体層23のkt 2値は5.9%であるのに対し、作製された圧電体層中のZnとCaの総量に対するCaの含有量を0.9atom%とすることで、kt 2値を6.8%に向上することができる。ZnとCaの総量に対するCaの含有量が1.1 atom%のときと、1.7 atom%のときのkt 2値は6.9%になる。ZnとCaの総量に対するCaの含有量を1.8 atom%、3.5 atom%と変えると、kt 2値はそれぞれ6.5 atom%、及び6.3 atom%になる。このCa含有量の範囲では、XRC半値幅は3.0°以下と良好である。
【0043】
一方、Ca含有量を0.4 atom%まで減らすと、kt 2値は低下する。Ca含有量を5.1 atom%に増やすと、XRC半値幅は良好であるが、十分な共振を得られなくなる。
【0044】
圧電体層中のCaの含有量を0.5~5 atom%とすることで、金属ドーパントが無添加のZnOと比較して、kt 2の値を向上することができ、かつXRC半値幅を低減することができる。より好ましくは、0.8~3.5 atom%とすることで、無添加のZnOと比較してkt 2値を約110%~118%に向上することができ、かつXRC半値幅を小さくすることができる。所定範囲のCaを添加することで、c軸配向性と厚み振動モードでの電気機械結合係数の双方が改善される。
【0045】
図4A図4B、及び図5で厚み振動モードでの電気機械結合係数が大きくなっているということは、実施形態の圧電デバイス10の圧電特性が向上していることを示す。ウルツ鉱型結晶構造を有する酸化亜鉛系のスパッタ膜に、その膜中で導電性を発現しない金属材料を添加することで、厚み振動モードでの電気機械結合係数の二乗値(kt 2)を、6.3%以上、より好ましくは6.5%以上にすることができる。ノンドープのときの電気機械結合係数の二乗値(kt 2)と比較して、1~25%の増大である。また、c軸配向性を改善することができる。
【0046】
<変形例>
図6は、変形例としての圧電デバイス10Bの模式図である。圧電デバイス10Bは、圧電体層13の下地に配向制御層17を有する。配向制御層17は、圧電体層13のc軸配向性を向上するための非晶質の層であり、その厚さは3nm~100nmである。
【0047】
配向制御層17は、無機物、有機物、あるいは無機物と有機物の混合物により形成される。無機物としては、酸化ケイ素(SiOx)、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al23)、窒化ガリウム(GaN)、酸化ガリウム(Ga23)等を用いることができる。あるいは、Al23とSiOxが添加されたZnO(アルミニウム・ケイ素添加酸化亜鉛;以下、「SAZO」と称する)、もしくは、Al23、Ga23、SiOx、SiNの少なくとも1種が添加されたGaN、AlN、ZnO等を用いてもよい。
【0048】
有機物としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマーなどの有機物が挙げられる。特に、有機物として、メラミン樹脂とアルキド樹脂と有機シラン縮合物の混合物からなる熱硬化型樹脂を使用することが好ましい。上記材料を用いて、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、塗工法などにより非晶質の膜を形成することができる。配向制御層は1層でもよいし、2層あるいはそれ以上の積層としてもよい。積層にする場合は、無機物の薄膜と有機物の薄膜の積層にしてもよい。
【0049】
これらの材料を用いた非晶質の配向制御層13は、表面平滑性に優れ、上層のウルツ鉱型結晶層のc軸を垂直方向(積層方向)に配向させることができる。また、ガスバリア性が高く、基材11としてプラスチック基板を用いた場合は、成膜中のプラスチック層由来のガスの影響を低減することができる。特に、配向制御層13を熱硬化型樹脂で形成する場合は、非晶質で平滑性が高い。配向制御層13にメラミン樹脂を用いる場合は、3次元架橋構造により密度が高く、バリア性が高い。
【0050】
配向制御層17は、必ずしも100%非晶質である必要はなく、圧電体層13のc軸配向性を高めることのできる範囲で、非晶質でない領域を有してもよい。配向制御層17の領域のうち、非晶質成分で形成されている領域の割合が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上あれば、十分なc軸配向性の制御効果が得られる。
【0051】
配向制御層17の上に形成される圧電体層13は、金属添加物が添加されたウルツ鉱型の結晶材料で形成されている。金属添加物は、添加されたときに導電性を発現しない金属である。ウルツ鉱型結晶としてZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe等を用いる場合は、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、または、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、リチウム(Li)等の金属を所定の範囲の割合で添加する。
【0052】
酸化亜鉛にドーパントとしてMgを加える場合は、膜中のZnとMgの総量に対するMgの含有量は、4~30 atom%、より好ましくは4~20 atom%である。酸化亜鉛にドーパントとしてCaを用いる場合は、膜中のZnとCaの総量に対するCaの含有量は、0.5~5 atom%、より好ましくは0.8~3.5 atom%である。
【0053】
この範囲の割合でMgまたはCaをドープすることで、ウルツ鉱型結晶構造を有するアンドープの酸化亜鉛と比較して、厚み振動モードでの電気機械結合係数を改善することができる。
【0054】
なお、上述した金属でMgとCa以外の金属、たとえば、V,Ti,Zr,Sr,Li等を添加することによっても、ウルツ鉱型結晶構造の酸化亜鉛系材料の膜厚方向の圧電特性を向上することができる。また、これらの金属の混合物を添加してもよい。
【0055】
また、下地に非晶質の配向制御層17を挿入することで、圧電体層13のc軸配向性が向上し、圧電デバイス10Bの圧電特性がさらに向上する。
【0056】
基材11については、材料の種類を問わず、ガラス基材、プラスチック基材、セラミック基材等を用いることができる。第1の電極12は、導電性を有する膜であれば、どのような材料を用いてもよい。デバイスの適用態様に応じて光透過性が求められる場合は透明導電膜を用いてもよいし、光透過性が必須でない場合は金属電極であってもよい。透明電極とする場合に、第1の電極12を非晶質の酸化物導電体で形成してもよい。
【0057】
図7は、さらに別の変形例としての圧電デバイス10Cの模式図である。圧電デバイス10Cでは、圧電体層13と第2の電極14の界面に、粘着層16が配置されている。
【0058】
圧電体層13は、金属添加物が添加されたウルツ鉱型の結晶材料で形成されている。金属添加物は、添加されたときに導電性を発現しない金属である。ウルツ鉱型結晶としてZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe等を用いる場合は、Mg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、または、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、リチウム(Li)等の金属を所定の範囲の割合で添加する。
【0059】
酸化亜鉛にドーパントとしてMgを添加する場合は、膜中のZnとMgの総量に対するMgの含有量は、4~30 atom%、より好ましくは4~20 atom%である。酸化亜鉛にドーパントとしてCaを添加する場合は、ZnとCaの総量に対するCaの添加割合は、0.5~5 atom%、より好ましくは0.8~3.0atom%である。この範囲の割合でMgまたはCaをドープすることで、ウルツ鉱型結晶構造のアンドープの酸化亜鉛と比較して、厚み振動モードでの電気機械結合係数を改善することができる。
【0060】
粘着層16は、圧電体層13に生じるクラックやピンホールに起因するリークパスを抑制する。圧電体層13と第1の電極12の界面、あるいは圧電体層13と第2の電極14の界面に、金属粒界や突起物が存在すると、クラック等に起因して、電極間にリークパスが形成され、分極が消失してしまう。粘着層16を挿入することで、リークパスの形成を抑制して、圧電体層13の圧電特性を良好に維持する。
【0061】
圧電デバイス10Cの作製方法は、以下の通りである。第1の部分として、基材11上に第1の電極12を形成し、第1の電極12の上に、所定のドーパントが所定の割合で添加された圧電体層13を形成する。一方、第2の部分として、基材18の上に第2の電極14を形成する。基材18の種類は問わず、一例として、プラスチック基材を用いてもよい。圧電体層13と第の電極14を対向させ、第1の部分と第2の部分を粘着層16で貼り合わせて圧電デバイス10Cの積層構造を完成する。
【0062】
この圧電デバイス10Cは、厚み振動モードでの電気機械結合係数が大きく、かつ電極間のリークパスが抑制されて、良好な圧電特性を有する。
【0063】
本発明の圧電デバイス10は、タッチパネル用フォースセンサ、圧力センサ、加速度センサ、アコースティック・エミッションセンサ等の圧電効果を利用したデバイスだけではなく、逆圧電効果を利用してスピーカ、トランスデューサ、高周波フィルタデバイス等にも利用することもできる。この場合も、電気的エネルギーから機械的エネルギーへの変換効率が高く、厚さ方向に大きな変位を得ることができる。
【0064】
圧電デバイス10の構成は、上述した実施例に限定されない。図6図7の構成で、第2の電極14を透明導電膜で形成してもよい。図6図7の構成を組み合わせて、圧電体層13と第1の電極12の間に配向制御層17を挿入し、かつ圧電体層13と第2の電極14を粘着層16で貼り合わせてもよい。この場合は、第1の部分として、基材11上に第1の電極12を形成し、第1の電極12の上に配向制御層17を形成し、配向制御層17の上に、所定のドーパントが所定の割合で添加された圧電体層13を形成する。第2の部分として、基材18の上に第2の電極14を形成し、圧電体層13と第2の電極14を対向させて、粘着層16で貼り合わせる。
【0065】
いずれの場合も、圧電体層13は厚さ方向に良好な圧電特性を有し、大きな変換効率を実現することができる。
【0066】
また、圧電体層13の主成分としてZnOを用いる場合に、MgとCaの混合物を添加してもよい。
【符号の説明】
【0067】
10、10A~10C 圧電デバイス
11 基材
12 第1の電極(第1の電極層)
13 圧電体層
14 第2の電極(第2の電極層)
16 粘着層
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7