(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】多結晶SiC成形体
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20220523BHJP
C30B 33/06 20060101ALI20220523BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20220523BHJP
C01B 32/977 20170101ALI20220523BHJP
C30B 28/14 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B33/06
C23C16/42
C01B32/977
C30B28/14
(21)【出願番号】P 2019177463
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 裕次
(72)【発明者】
【氏名】杉原 孝臣
(72)【発明者】
【氏名】奥山 聖一
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-136373(JP,A)
【文献】特開2005-325434(JP,A)
【文献】特開2001-107239(JP,A)
【文献】特開2002-302768(JP,A)
【文献】特開2019-112288(JP,A)
【文献】内丸知紀,顕微ラマン分光法による多結晶3C-SiC膜の応力評価,Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan,2011,2011年,p.86
【文献】NAKASHIMA,S.,APPLIED PHYSICS LETTERS,VOLUME 77, NUMBER 22,pp.3612-3614
【文献】ROHMFELD,S.,Materials Science Forum,1998年,Vols.264-268,pp.657-660
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 33/06
C23C 16/42
C01B 32/977
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗率が0.050Ωcm以下であり、
ラマンスペクトルにおける波数760~780cm
-1の範囲におけるピーク強度を「A」とし、ラマンスペクトルにおける波数790~800cm
-1の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、ピーク比(A/B)が0.100以下である、
多結晶SiC成形体。
【請求項2】
窒素含有量が、200ppm(質量百万分率)以上である、請求項1に記載の多結晶SiC成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶SiC成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC成形体は、耐熱性、耐蝕性及び強度等の種々の特性に優れており、様々な用途に使用されている。例えば、特許文献1(特開2001-316821)および特許文献2(特開2001-220237)には、半導体製造時に使用されるエッジリング、電極板、ヒーターなどのプラズマエッチング装置用部材として、SiCを用いる点が記載されている。また、特許文献3(特許第6387375号)には、単結晶SiC基板と、多結晶SiC基板とを備える半導体基板であって、単結晶SiC基板と多結晶SiC基板とが所定の界面層を介して接合している半導体基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-316821
【文献】特開2001-220237
【文献】特許第6387375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多結晶SiC成形体には、用途に応じて、様々な特性が要求される。
例えば、特許文献1および2に記載されるように、多結晶SiC成形体をプラズマエッチング用部材として使用する場合、静電気を逃がすためや、プラズマガスを均一に発生させるために、多結晶SiC成形体は低抵抗でなければならない。また、多結晶SiC成形体は、Siウェハーがプラズマにより均一に処理されるようにするため、Siウェハーとの間隔が均一である必要があり、プラズマエッチング装置用部材として使用される多結晶SiC成形体は、平坦な面を有していることが求められている。
更に、特許文献3に記載されるように、多結晶SiC成形体と単結晶SiC基板とを接合するためには、多結晶SiC成形体が、平坦な接合面を有していなければならない。また、多結晶SiC成形体と単結晶SiC基板との接合面を横切るように電流経路が形成されるような用途に使用される場合、多結晶SiC成形体には、低抵抗であることが求められる場合がある。
【0005】
そこで、本発明の課題は、低抵抗であり、平坦性に優れた、多結晶SiC成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の事項を含んでいる。
[1]抵抗率が0.050Ωcm以下であり、ラマンスペクトルにおける波数760~780cm-1の範囲におけるピーク強度を「A」とし、ラマンスペクトルにおける波数790~800cm-1の範囲におけるピーク強度を「B」とした場合に、ピーク比(A/B)が0.100以下である、多結晶SiC成形体。
[2]窒素含有量が、200ppm(質量百万分率)以上である、[1]に記載の多結晶SiC成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、平坦性に優れ、低抵抗である多結晶SiC成形体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る積層SiC基板を示す概略断面図である。
【
図2A】
図2Aは、積層SiC基板の作成方法を示す概略断面図である。
【
図2B】
図2Bは、積層SiC基板の作成方法を示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、多結晶SiC基板の製造方法に使用される製造システムの一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は、成膜時における時間と原料ガス濃度との関係を概念的に示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2の径方向断面を示す概略断面図である。
【
図5B】
図5Bは、円板外周の多結晶SiC膜4を取り除いた後に黒鉛基板2の厚みを等分切断した、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2の径方向断面を示す概略断面図である。
【
図6】
図6は、実施例1及び比較例1において得られた多結晶SiC成形体のラマンスペクトルから算出したそれぞれのピーク比(A/B)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本発明の詳細な説明は実施形態の例示のひとつであり、本発明は本実施形態に何ら限定して解釈されるものではない。
図1は、本実施形態に係る積層SiC基板30を示す概略断面図である。
図1に示されるように、積層SiC基板30は、多結晶SiC成形体10及び単結晶SiC層21を有している。
【0010】
多結晶SiC成形体10は、単結晶SiC層21を支持するために設けられている。多結晶SiC成形体10は、板状であり、容易に取り扱える程度の厚みを有しており、例えば300~500μm程度の厚みを有している。
【0011】
上記の積層SiC基板30は、例えば、以下の手順によって作成することができる。
まず、
図2Aに示されるように、それぞれがある程度の厚さを有する多結晶SiC成形体10及び単結晶SiC基板20を準備する。多結晶SiC成形体10と単結晶SiC基板20とを接合させる面をそれぞれ、多結晶SiC成形体10の接合面、単結晶SiC基板20の接合面という。単結晶SiC基板20の接合面に対向する方向から、単結晶SiC基板20の接合面から一定の深さの領域に水素イオンを注入し、単結晶SiC基板20の接合面から一定の深さの領域に脆弱層tを形成させる。ここで、脆弱層tは、
図2Aおよび
図2Bにおいて点線で示され、単結晶SiC基板20の接合面から一定の深さの領域に埋設された層である。次いで、単結晶SiC基板20の接合面および多結晶SiC成形体10の接合面に、アルゴンビームを照射し、それらの表面を共に活性化させる。そして、活性化された単結晶SiC基板20の接合面と多結晶SiC成形体10の接合面とが対向するように単結晶SiC基板20の接合面と多結晶SiC成形体10の接合面とを配置して、それらの接合面同士を接合する。その後、互いの接合面で接合している単結晶SiC基板20及び多結晶SiC成形体10を、
図2Bに示されるように、脆弱層tを境界として単結晶SiC基板20と多結晶SiC成形体10とを分離する。このとき、多結晶SiC成形体10の接合面上に脆弱層tを境界として分離された単結晶SiC基板20の一部(以下、単結晶SiC層21)が固設されている。これにより、
図1に示したような積層SiC基板30が得られる。
【0012】
単結晶SiC層21は、半導体回路を形成するための部分である。単結晶SiC層21上には、半導体回路を形成する単結晶層がエピタキシャル成長によって形成され、所定の加工工程を経て半導体回路が形成される。単結晶SiC層21の厚みは、その上にエピタキシャル成長によって単結晶層を成長させることができる程度の厚みであればよく、多結晶SiC成形体10のそれに比べて十分に小さい。例えば、単結晶SiC層21の厚みは、0.5μm程度である。
【0013】
上記のような積層SiC基板30によれば、多結晶SiC成形体10が支持基板として機能するため、単結晶SiC層21の厚みを単結晶SiC基板20よりも小さくすることができる。単結晶SiC材料は、一般に、多結晶SiC材料に比べて高価である。単結晶SiC層21の厚みを小さくすることにより、材料費を減らすことができ、安価に半導体装置製造用の積層SiC基板30を作製できる。
【0014】
一方で、上記のような積層SiC基板30に使用される多結晶SiC成形体10には、単結晶SiC基板20との接合のため、平坦な面を有していることが求められる。多結晶SiC成形体10の接合面が平坦ではない場合、多結晶SiC成形体10と単結晶SiC基板20とを適切に接合することが難しくなる。
また、積層SiC基板30の用途によっては、運用時に、多結晶SiC成形体10と脆弱層tとの接合面を横切るように電流が流れる場合もある。そのような場合、多結晶SiC成形体10と単結晶SiC層21との接合面における接触抵抗を小さくすることが求められる。接触抵抗を小さくするため、多結晶SiC成形体10は、低抵抗であることが求められる。
以上のような要求を満たすため、本実施形態においては、多結晶SiC成形体10が平坦な接合面を有し、且つ、低抵抗になるように、工夫が施されている。以下に、多結晶SiC成形体10について詳述する。
【0015】
多結晶SiC成形体10は、0.050Ωcm以下の抵抗率を有している。このような抵抗率を有していることにより、多結晶SiC成形体10と単結晶SiC層21の接合面における電位障壁が抑制され、デバイスの応答性を向上させることができる。また、多結晶SiC成形体10の抵抗率は、安定したデバイスの応答性を確保する観点から、好ましくは0.030Ωcm以下、更に好ましくは0.020Ωcm以下である。
抵抗率は、例えば、多結晶SiC成形体10に所定の量で窒素を含有させることにより、調整することができる。窒素含有量を増やすことにより、抵抗率を下げることができる。
多結晶SiC成形体10の窒素含有量は、例えば200ppm(質量百万分率)以上であり、好ましくは200~1000ppm(質量百万分率)である。窒素含有量がこのような範囲にある場合、窒素含有量の変化に対する抵抗率の変化の度合いが小さくなる。従って、窒素含有量を制御することによって、所望する抵抗率を得やすくなる。また、窒素含有量が1000ppm(質量百万分率)以下であれば、窒素の導入により生じる結晶欠陥が基板の平坦性に影響を及ぼすこともほとんどない。
尚、窒素の導入方法は特に限定されるものでは無い。例えば、後述するように、CVD法によって多結晶SiC膜を成膜する際に、窒素含有ガスを用いることにより、成膜される多結晶SiC膜に窒素を導入することができる。
【0016】
多結晶SiC成形体10は、所定の結晶構造を有する表面構造を有している。
具体的には、ラマンスペクトルにおける波数760~780cm-1の範囲におけるピーク(以下ピークAという)の強度(最大値)を「A」とし、ラマンスペクトルにおける波数790~800cm-1の範囲におけるピーク(以下、ピークBという)の強度(最大値)を「B」とした場合に、ラマンピーク比(A/B)が0.100以下である表面構造を有している。
ここで、ピークAは、多結晶SiC材料の積層欠陥を示すピークである。
一方、ピークBは、β-SiCを示すピークである。
ラマンピーク比(A/B)が0.100以下であることは、多結晶SiC成形体10が有する表面構造において、積層欠陥の濃度が十分に小さいことを意味している。積層欠陥は、基板の反りの一因である。ラマンピーク比(A/B)が0.100以下であることにより、多結晶SiC成形体10の反りを低減でき、平坦な表面構造(接合面)を有する多結晶SiC成形体10が提供される。
【0017】
続いて、多結晶SiC成形体10の製造方法について説明する。上記のような特性を有する多結晶SiC成形体10は、以下に説明するようなCVD法を用いた特定の製造方法を採用することによって、製造することができる。
【0018】
図3は、本実施形態に係る多結晶SiC成形体10の製造方法に使用される製造システムの一例を示す概略図である。この製造システムには、CVD炉1と、混合器3とが設けられている。混合器3では、キャリアガスと、SiCの供給源となる原料ガスと、窒素含有ガスとが混合され、混合ガスが生成される。混合ガスは、混合器3からCVD炉1に供給される。CVD炉1内には、黒鉛基板2が複数配置されている。この黒鉛基板2は、それぞれ、円板形状である。CVD炉1に混合ガスが供給されると、CVD法によって各黒鉛基板2上に多結晶SiC膜が成膜される。また、窒素含有ガス由来の窒素が、多結晶SiC膜にドープされる。この多結晶SiC膜を黒鉛基板2から分離し、平面研削する事でこの多結晶SiC膜を多結晶SiC成形体10とする。
なお、SiCの供給源となる原料ガスは、1成分系(Si及びCを含むガス)でも、2成分系(Siを含むガスとCを含むガス)を使用してもよい。
【0019】
ここで、本実施形態では、平坦な面を有する多結晶SiC成形体10を得るために、CVD法による成膜時における原料ガス濃度が工夫されている。尚、本発明において、原料ガス濃度とは、原料ガスとキャリアガスの合計量に対する、原料ガスの容積比(vol%)を意味する。
図4は、成膜時における時間と原料ガス濃度との関係を概念的に示すグラフである。
図4に示されるように、本実施形態に係る製造方法は、初期工程と、中期工程と、終期工程とを備えている。初期工程、中期工程、及び終期工程は、連続的に実施される。
【0020】
まず、初期工程において、第1濃度C1の原料ガス濃度で、黒鉛基板2上に第1の多結晶SiC膜が成膜される。
次いで、中期工程において、原料ガス濃度を第1濃度C1から第2濃度C2まで低下させつつ、第1の多結晶SiC膜上に第2の多結晶SiC膜が成膜される。原料ガス濃度は、好ましくは、一定速度で低下させられる。
更に、終期工程において、第2濃度C2の原料ガス濃度で、第3の多結晶SiC膜が成膜される。
【0021】
本発明者らの知見によれば、原料ガス濃度を一定として、CVD法により多結晶SiC膜の成膜を行った場合は、成膜の初期段階では結晶粒径が小さく、成膜の後期段階になるにつれ結晶粒径が大きくなりやすい。これに対して、本実施形態のように、初期工程において原料ガス濃度を高くし、後期工程において原料ガス濃度を下げることにより、全成膜期間を通じて、第1、第2及び第3の多結晶SiC膜を含む多結晶SiC膜全体の結晶粒径の大きさを揃えやすくなる。結晶粒径の大きさを揃えることにより、積層欠陥の濃度が減り、反りが少ない多結晶SiC膜を得ることができる。
【0022】
初期工程の期間(期間t1)は、特に限定されるものでは無いが、例えば、多結晶SiC膜の成膜期間全体の期間(T)の10~50%である。
中期工程の期間(期間t2)も、特に限定されるものでは無いが、例えば、多結晶SiC膜の成膜期間全体の期間(T)の10~50%である。
終期工程の期間(期間t3)も、特に限定されるものでは無いが、例えば、多結晶SiC膜の成膜期間全体の期間(T)の30~70%である。
多結晶SiC膜の成膜期間全体の期間(T)は、特に限定されるものでは無いが、例えば1~20時間、好ましくは5~15時間である。
成膜される多結晶SiC膜の膜厚は、例えば500~6000μm、好ましくは450~5500μmである。
【0023】
成膜時に使用されるキャリアガスとしては、特に限定されるものでは無いが、例えば、水素ガス等を用いることができる。
原料ガスとしては、Si及びCの供給源を含むガスであれば特に限定されるものでは無い。例えば、分子内にSi及びCを含有するガスや、分子内にSiを含有するガスと炭化水素ガスとの混合ガス、等を用いることができる。
原料ガスとしては、例えば、1成分系の場合は、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、及びクロロトリメチルシラン等を挙げることができる。また2成分系の場合は、トリクロロシラン、及びモノシラン等のシラン含有ガスと、炭化水素ガスとの混合物等を挙げる事ができる。
【0024】
CVDによる具体的な成膜条件は、特に限定されるものでは無いが、例えば、次のような条件を採用することができる。
初期工程における原料ガスの濃度(第1濃度C1)は、終期工程におけるそれ(第2濃度C2)よりも大きければよい。多結晶SiC成形体の反りを抑制する観点から、成膜期間全体を通じて、SiC結晶粒径を揃えるためには、第1濃度は第2濃度の1.2~2.0倍であることが好ましく、SiC結晶粒径の揃ったものを安定して得るためには、第1濃度は第2濃度の1.3~1.8倍であることがより好ましく、SiC結晶粒径の揃ったものを安定して効率良く得るためには、第1濃度は第2濃度の1.4~1.6倍であることがさらに好ましい。
第2濃度C2は、例えば、3~40vol%、好ましくは5~20vol%である。
CVD炉におけるガス滞留時間は、例えば、10~200秒、好ましくは20~100秒である。
反応温度は、温度は、例えば1100~1900℃、好ましくは1400~1600℃である。
窒素含有ガスの流量は、例えば、原料ガス流量とキャリアガス流量の合計流量に対して5~100vol%、好ましくは10~70vol%である。
例えば、原料ガスが気体原料である場合は、原料ガス濃度は、原料ガス流量とキャリアガス流量とを制御することによって、調整することができる。また、原料ガスが液体原料由来のガスである場合には、原料ガス濃度は、原料タンク内の液体原料の温度を制御し、液体原料の蒸気圧を制御することによって、調整することができる。
【0025】
CVD法による多結晶SiC膜の成膜工程が終了すると、多結晶SiC膜4が成膜された各黒鉛基板2がCVD炉1から取り出され、その後、必要に応じて、多結晶SiC成形体10のみを取り出すように加工される。
図5Aは、多結晶SiC膜4が成膜された、中心線O‐O’を持つ黒鉛基板2の径方向断面を示す概略図である。ここで、黒鉛基板2は、その全面を覆うように多結晶SiC膜4が成膜されている。例えば、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2は、まず、外周加工される。詳細には、
図5Aに示される破断線A‐A’に沿って、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2の外周部のみが切断され、取り除かれる。次いで、
図5Aに示される、黒鉛基板2の厚さを等分する線、すなわち破断線B‐B’に沿って、多結晶SiC膜4が成膜された黒鉛基板2が、厚み方向において2分割されるように切断される。その結果、
図5Bに示されるように、黒鉛基板2と多結晶SiC膜4との積層体が得られる。更に次いで、その積層体から黒鉛基板2のみを、酸化又はショットブラスト法などによって除去する。その後、黒鉛基板2の除去によって露出した多結晶SiC膜4の露出面を、研削加工等によって研削する。上記に例示する加工方法によって、多結晶SiC成形体10を得ることができる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態によれば、ラマンピーク比(A/B)が0.100以下である表面構造を有する多結晶SiC膜が得られるので、平坦な面を有する多結晶SiC基板10を実現できる。
また、窒素含有量が所定の値に制御されているので、低抵抗な多結晶SiC成形体10を得ることができる。
【0027】
尚、本実施形態においては、多結晶SiC成形体10が、単結晶SiC層21と接合されて積層SiC基板30として使用される場合について説明した。本実施形態によれば、低抵抗を有し、且つ、平坦な面を有する多結晶SiC成形体10が得られるので、このような用途に好適である。但し、本実施形態に係る多結晶SiC成形体10は、単結晶SiC基板20に接合させて用いられるものに限定されるものでは無く、高い平坦性と低抵抗率が求められる用途であれば、他の用途であっても好適に適用できる。
さらに、上記実施形態に示したように、本発明に係る多結晶SiC成形体は、それと単結晶SiC層とを接合する場合に好適に使用することが可能であり、上記実施形態に示す場合の他、SIMOX(サイモックス)法、ELTRAN法その他の公知の接合方法に同様に適用することも可能である。
例えば、本実施形態に係る多結晶SiC成形体は、半導体製造時にプラズマエッチング装置用部材として、エッジリング、電極板及びヒーター等に使用されている。また、半導体製造時に半導体熱処理装置用部材としてダミーウェハに使用されている。
尚、エッジリング及び電極板として使用される場合、多結晶SiC基板は、例えば、2000~5000μm程度の厚みを有している。また、ダミーウェハとして使用される場合、多結晶SiC基板は、例えば300~1000μm程度の厚みを有している。
【実施例】
【0028】
以下、本発明についてより詳しく説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるべきものでは無い。
【0029】
(実施例1)
CVD炉内に、直径160mm、厚さ5mmの黒鉛基板を設置した。CVD炉に、トリメチルクロロシラン(原料ガス)、水素(キャリアガス)、及び窒素ガスを導入し、1500℃にて10時間、黒鉛基板上に多結晶SiC膜を成膜した。
成膜条件を表1に示す。
尚、成膜初期(成膜開始から2.5時間まで)と、成膜中期(成膜開始後2.5時間から5時間まで)と、成膜後期(成膜開始後5時間から10時間まで)との間において、原料ガスの濃度を変化させた。具体的には、成膜初期の原料ガス濃度(第1濃度)を9.0vol%とし、成膜後期の原料ガス濃度(第2濃度)を7.5vol%とした。
すなわち、成膜後期の原料ガス濃度に対する成膜初期の原料ガス濃度の比(原料ガス濃度比という)を、1.2倍とした。また、成膜中期においては、成膜初期の濃度から成膜後期の濃度まで、原料ガス濃度を一定の速度で低下させた。尚、原料ガス流量とキャリアガス流量との合計値が一定(140L/min)になるように、制御した。
また、窒素ガス流量は、成膜期間全体を通じて、一定とした。具体的には、窒素ガス流量については、19.0(L/min)とした。
【0030】
ガス滞留時間は、43.7(秒)であった。尚、ガス滞留時間は、下記式により算出した。
(式1):ガス滞留時間(秒)=(炉内容積/ガス流量)×((20+273)/(反応温度+273))×60
【0031】
成膜後、黒鉛基板をCVD炉から取り出し、外周加工及び分割加工を行った。更に、黒鉛基材を除去し、直径150mm、厚さ0.6mmの多結晶SiC成形体を得た。更に、平面研削加工にて、直径150mm、厚さ0.4mmの多結晶SiC成形体を得た。これを、実施例1に係る多結晶SiC成形体として得た。
【0032】
(実施例2~6、比較例1~2)
実施例1と同様の方法を用いて、実施例2~6及び比較例1~2に係る多結晶SiC成形体を得た。但し、成膜条件を、表1に記載されるように変更した。尚、比較例1では、原料ガス流量を一定(10.50L/min)とした。
【0033】
(抵抗率の測定)
各実施例及び比較例において得られた多結晶SiC成形体の抵抗率を、4端針法により、測定した。抵抗率の測定には、三菱ケミカルアナリテック社製、ロレスターGP MCT-T610を使用した。
【0034】
(ラマンスペクトルの測定)
得られた多結晶SiC成形体のラマンスペクトルを、(株)堀場製作所製 顕微ラマン分光装置 LabRAMHR800を用いて、以下条件にて測定した。
励起波長:532nm
照射径:φ2μm
露光時間:15秒
積算回数:2
グレーティング:1800gr/mm
上記の条件で測定し、得られた多結晶SiC成形体のラマンスペクトルを、次のように処理をして、ピーク比(A/B)を算出した。まず、波数が850~900cm-1の範囲におけるラマン散乱強度の算術平均値をバックグラウンド補正値とした。次に、波数766cm-1におけるラマンスペクトルのピーク強度および波数795cm-1におけるラマンスペクトルのピーク強度を求め、それらの値からそれぞれ上記バックグラウンド補正値を引き、バックグランドを除去したピーク値の値とした。このとき、波数766cm-1におけるピーク強度を「A」とし、波数795cm-1におけるピーク強度を「B」とした。これらの値から、ピーク比(A/B)を算出した。
【0035】
(反り量の測定)
また、光干渉式の反り測定装置(コーニング・トロペル社製 FlatMaster 200XRA-Indurstrial)を用いて、得られた多結晶SiC成形体の反り量を測定した。
【0036】
(窒素含有量の測定)
ATOMIKA社製SIMS―4000を用いて、多結晶SiC成形体中の窒素含有量を測定した。
【0037】
(結果の考察)
抵抗率、ラマンスペクトルのピーク比、反り量、及び窒素含有量の測定結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1において得られた多結晶SiC成形体のラマンスペクトルから算出したそれぞれのピーク比(A/B)を表すグラフを
図6に示す。
実施例1~6は、比較例1及び2よりも反り量が小さかった。実施例1~6のラマンスペクトルのピーク比は、0.100以下であった。一方、比較例1及び2におけるピーク比は、0.100を超えていた。すなわち、ラマンスペクトルのピーク比が0.100以下であることにより、平坦な多結晶SiC基板が得られることが理解される。
【0038】
また、実施例1~6は、いずれも、窒素含有量が200~1000ppm(質量百万分率)であり、抵抗値が0.050Ωcm以下であった。一般的には、窒素含有量が増えると、結晶欠陥が増大し、反りの原因になると考えられる。しかしながら、実施例1~6の結果から、窒素含有量が1000ppm(質量百万分率)以下であれば、反りも十分に抑制されることが判った。
【0039】
【符号の説明】
【0040】
1 CVD炉
2 黒鉛基板
3 混合器
4 多結晶SiC膜
10 多結晶SiC成形体
20 単結晶SiC基板
21 単結晶SiC層
30 積層SiC基板