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特許7077309優れた伸びフランジ成形性及びエッジ疲労性能を有する熱間圧延高強度鋼の製造方法
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  • 特許-優れた伸びフランジ成形性及びエッジ疲労性能を有する熱間圧延高強度鋼の製造方法 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】優れた伸びフランジ成形性及びエッジ疲労性能を有する熱間圧延高強度鋼の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/46 20060101AFI20220523BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220523BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
C21D9/46 T
C22C38/00 301W
C22C38/38
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019515628
(86)(22)【出願日】2017-09-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017074072
(87)【国際公開番号】W WO2018055098
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】16190061.8
(32)【優先日】2016-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ロルフ、アルヤン、レイケンベルフ
(72)【発明者】
【氏名】マキシム、ペーテル、アールンツ
(72)【発明者】
【氏名】パウル、ヨゼフ、ベリーナ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー、パウル、バス
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-285741(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128206(WO,A1)
【文献】特開2004-162107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0199892(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0035835(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張伸び、SFF及びPEF強度の優れた組み合わせとともに、570MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼ストリップを製造する方法であって、以下の工程:
・スラブを鋳造し、次いで、凝固スラブを1050~1260℃の温度に再加熱する工程;
・980~1100℃の最終圧延スタンドの入口温度で鋼スラブを熱間圧延する工程;
・950~1080℃の仕上げ圧延温度で熱間圧延を仕上げる工程;
・熱間圧延鋼ストリップを50~150℃/秒の一次冷却速度で600~720℃のROT上の中間温度に冷却する工程;
・その後に行われる以下の工程:
・オーステナイトからフェライトへの相変態から生じる潜熱によって0~+10℃/sの間で鋼を穏やかに加熱する工程;又は
・鋼を等温に保持する工程;又は
・鋼を穏やかに冷却し、-20~0℃/秒のROTの二次段階における温度変化率を全体に生じさせる工程;
・580~660℃の間の巻取り温度を実現する工程
を含み、
鋼が、重量%で、
・0.015~0.15%のC;
・0.5%以下のSi;
・1.0~2.0%のMn;
・0.06%以下のP;
・0.008%以下のS;
・0.1%以下の可溶性Al
・0.02%以下のN;
0.12~0.45%のV;
・任意選択で、
・0.05%以上かつ0.7%以下のMo;
・0.15%以上かつ1.2%以下のCr;
・0.01%以上かつ0.1%以下のNb;
のうちの1つ以上;
・任意選択で、5~100ppmのCa;
・Fe及び不可避的不純物である残部
からなり
鋼が、ポリゴナルフェライト(PF)と、針状フェライト/ベイニティックフェライト(AF/BF)との混合物を含む、単相のフェライトミクロ組織を有し、
フェライト成分の合計の総体積分率が、95%以上であり、
フェライト成分が、Vと、任意選択でMo及び/又はNbとからなる微細な複合炭化物及び/又は炭窒化物析出物で強化されている、方法。
【請求項2】
カルシウム処理が行われず、
鋼中に存在するCaが、製鋼プロセスからの不可避的不純物であり、
鋼が、0.003%以下のSを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最終圧延スタンドの入口温度が、1050℃以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
仕上げ圧延温度が、1030℃以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
中間温度までの一次冷却速度が60℃/秒以上及び/又は100℃/秒以下であり、中間温度が630℃以上及び/又は690℃以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
中間温度への冷却の後に、以下の工程:
・オーステナイトからフェライトへの相転移から生じる潜熱によって0~+5℃/秒の間で効果的に穏やかに加熱する工程;又は
・等温に保持する工程;又は
・効果的に穏やかに冷却し、-15~0℃/秒のROTの二次段階における温度変化率を全体に生じさせる工程
を実施し、これにより、巻き取り温度を実現する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
熱間圧延鋼ストリップのコイルを放置して徐々に周囲温度まで冷却するか、又は、コイルを水槽に浸すことによって、又は、コイルを水のスプレーで積極的に冷却することによって、熱間圧延鋼ストリップのコイルを周囲温度まで冷却する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
表面スケール除去処理後の熱間圧延ストリップを、鋼が亜鉛又は亜鉛合金コーティングで確実に防食されるようにコーティング工程に付す、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
熱間圧延鋼ストリップが、マトリックスの体積パーセントで、
・60%以下のポリゴナルフェライト(PF)と40%以上の針状フェライト/ベイニティックフェライト(AF/BF)との混合物;又は
・50%以下のポリゴナルフェライトと50%以上の針状/ベイニットフェライトとの混合
含む、単相のフェライトミクロ組織を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いて測定された熱間圧延鋼ストリップのミクロ組織のMOD指数が、0.45以上である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
熱間圧延鋼ストリップが、570MPa以上の引張強度及び90%以上のHECを有し、
鋼が、重量%で:
・0.02~0.05%のC;
・0.25%以下のSi;
・1.0~1.8%のMn;
・0.065%以下の可溶性Al;
・0.013%以下のN;
・0.12~0.18%のV;
・0.02~0.08%のNb;及び
・任意選択で0.20~0.60%のCr
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
熱間圧延鋼ストリップが、780MPa以上の引張強度及び65%以上のHECを有し、
鋼が、重量%で:
・0.04~0.06%のC;
・0.30%以下のSi;
・1.0~1.8%のMn;
・0.065%以下の可溶性Al;
・0.013%以下のN;
・0.18~0.24%のV;
・0.10~0.25%のMo;
・0.03~0.08%のNb;及び
・任意選択で0.20~0.80%のCr
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
が、重量%で、
・0.08~0.12%のC;
・0.45%以下のSi;
・1.0~2.0%のMn;
・0.065%以下の可溶性Al
・0.013%以下のN;
・0.24~0.32%のV;
・0.15~0.40%のMo;
・0.03~0.08%のNb;及び
・任意選択で0.20~1.0%Cr
を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
熱間圧延鋼ストリップが、
・570MPa以上の引張強度及び90%以上のHEC;又は
・780MPa以上の引張強度及び65%以上のHE
有し、
(Rm×A50)/t0.2>10000
[式中、Rmは、熱間圧延鋼ストリップの最大引張強度を表し、A50は、熱間圧延鋼ストリップのA50引張伸びを表し、tは、熱間圧延鋼ストリップの厚さを表す。]
である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
熱間圧延鋼ストリップが、
・570MPa以上の引張強度及び90%以上のHECを有し、応力比0.1及び打ち抜きクリアランス8~15%の条件下、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労応力が、280MPa以上であるか;又は
・780MPa以上の引張強度及び65%以上のHECを有し、応力比0.1及び打ち抜きクリアランス8~15%の条件下、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労応力が、300MPa以上でり、
(Rm×A50)/t0.2>10000
[式中、Rmは、熱間圧延鋼ストリップの最大引張強度を表し、A50は、熱間圧延鋼ストリップのA50引張伸びを表し、tは、熱間圧延鋼ストリップの厚さを表す。]
である、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
熱間圧延高強度鋼ストリップが、780MPa以上の引張強度を有する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシャーシ部品等に適する熱間圧延高強度鋼シート又はストリップの製造方法、より詳細には、引張伸び及び伸びフランジ成形性(SFF:stretch-flange formability)の優れた組み合わせ、並びに、良好な打ち抜きエッジ疲労(PEF:punched-edge fatigue)強度とともに、570MPa以上、好ましくは780MPa以上、より好ましくは980MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼ストリップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厳しい環境規制や自動車安全規制からの圧力が高まっているため、自動車業界では、乗客の安全性や走行性能を犠牲にすることなく、燃料消費量及び温室効果ガス排出量を削減するための費用対効果の高い選択肢が常に探求されている。より薄いゲージで新しい革新的な高強度鋼を利用することによる車両重量の削減は、自動車産業にとっての選択肢の一つである。
【0003】
成形性の点では、これらの鋼は十分な強度フランジ成形性と合わせて十分な伸縮性を提供すべきであり、その理由としてはこれによって、幾何学的な変更により薄いゲージを使用することによる剛性の本質的な損失が補償され、新しい軽量シャーシの設計を策定する自由度が増すからである。穴広げ性能(HEC:hole-expansion capacity)はSFF度合の良好な尺度と見なされるので、このことはこれらの鋼が引張伸びとHECとの間の健全なバランスを提供するはずであることを意味する。最終部品に存在するせん断されたエッジ又は打ち抜かれたエッジの疲労性能も重要である。
【0004】
従来のHSLAグレードに代わるものとして開発されたデュアルフェーズ(DP:Dual-Phase)、フェライト-ベイナイト(FB:Ferrite-Bainite)又はコンプレックスフェーズ(CP:Complex Phase)スチール等の先進高強度鋼(AHSS:Advanced High Strength Steel)グレードのその強度は、主にフェライト又はベイナイトマトリックスが島状マルテンサイト又は潜在的に残留する島状オーステナイトで強化されている多相微細構造に依存している。
【0005】
多相微細構造を有するAHSSグレードは、同等の引張強度を有するナノ-析出(NP)強化単相フェライト系高強度鋼グレードと比較すると制限されている。その理由は、AHSS微細構造中のフェライト又はベイナイトマトリックスと低温変態成分との間の硬度の差が、切断端部付近の鋼の内部のせん断又は打ち抜きを行うことで微小空隙を助長するためである。言い換えると、これらの微小空隙は、成形することが空隙の成長及び合体をもたらし、早期の肉眼的な破損、すなわち1つ又は複数の厚さ方向の亀裂をもたし得るので、HECを損ない得る。さらに、前述のAHSSグレードだけでなく、フェライトが(粗)セメンタイト及び/又はパーライトと組み合わされているHSLAにも存在するような、異なる硬度を有する2つ以上の相成分の存在もまた、打ち抜かれた又はせん断されたエッジの破砕域の粗さの増大をもたらし得る。この破砕域の粗さが増すと、打ち抜かれた又はせん断されたエッジの疲労強度が著しく低下することにつながり得る。
【0006】
前述のAHSSグレードとは対照的に、NP鋼は、高い延性のために本質的に排他的にフェライトからなる均質な微細構造を有し、強度は高密度のナノメートルサイズの複合析出物による析出硬化に大きく左右され、それらはせん断又は打ち抜き時の微小空隙の形成による影響を受けにくくなっている。これらのNP鋼は、同等の引張強度を有する多相AHSS又はHSLAグレードと比較して、改善された引張伸びとHECのバランスをもたらす。
【0007】
欧州特許第1338665号、欧州特許第12167140号、及び欧州特許第13154825号は、熱間圧延ナノ析出強化単相フェライト高強度鋼に関し、所望の特性を達成するためにTi、Mo、Nb及びVの異なる組み合わせを使用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼のHECを決定する上で、いくつかの要因が重要な役割を果たす。鋼の引張強度と、せん断又は打ち抜き時の損傷耐性に関する第二硬質相成分に関する微細構造特性との固有の関係とは別に、微量元素、特に製鋼プロセスからの硫化物及び/又は酸化物系の介在物は、応力を上昇させる作用物質として作用し、かつせん断又は打ち抜き等の変形操作時に微小空隙を形成する潜在的な核形成部位として作用し得るため、HEC及び疲労強度に大きな影響を及ぼし得る。同じことが(中心線)偏析((centre line)segregation)にも当てはまり、中心線偏析が打ち抜き時の割れ(splitting)を促進する可能性があるので、PEFに有害な影響を及ぼす可能性がある。本発明の目的は、引張伸び及びSFFの優れた組み合わせ、並びに、良好なPEF強度とともに、570MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼シート又はストリップを製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、引張伸び及びSFFの優れた組み合わせ、並びに、良好なPEF強度とともに、780MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼シート又はストリップを製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらに別の目的は、引張伸び及びSFFの優れた組み合わせ、並びに、良好なPEF強度とともに、980MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼シート又はストリップを製造する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、以上の目的に従った熱間圧延高強度鋼シート又はストリップを製造する方法であって、前記鋼が自動車のシャーシ部品等の製造に好適である方法を提供することである。
【0012】
これらの目的のうちの1つ又は複数は、独立項に記載の方法、又は従属項のいずれかに記載の方法で達成することができる。別段規定される場合を除き、全ての組成は重量パーセント(wt%)で表示されることに留意しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば自動車のシャーシ部品等に適する熱間圧延高強度鋼ストリップの製造方法、より詳細には、引張伸び及びSFFの優れた組み合わせ、並びに、良好なPEF強度とともに、570MPa以上、好ましくは780MPa以上の引張強度を有する熱間圧延高強度鋼シート又はストリップの製造方法に関する。ストリップからは、切断及び/又は打ち抜き等の従来の手段によってシート材又はブランク(blank)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1a図1aは、オーステナイト状態の影響を概略的に説明するための図である。
図1b図1bは、オーステナイト状態の影響を概略的に説明するための図である。
図2図2は、測定されたMOD(実線)及びランダムに再結晶されたポリゴナルフェライト(PF)構造の理論上の誤配向角曲線(破線)を示す図である。
図3図3は、体積率AF/BF(体積%)をMOD指数に対してプロットしたグラフである。
図4図4は、同じ引張強度を有し、同様のクリアランスで打ち抜かれたフェライト鋼及び多相鋼(但し、両方の鋼は著しく異なる降伏強さを有している)について、基板SN疲労に対する及びPEFに対する降伏強度(Rp0.2)の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法は、特に、熱間圧延中の熱機械的経路(thermo-mechanical pathway)、冷却温度に関するランアウトテーブル(ROT:run-out-table)の冷却軌跡(cooling trajectory)及びそれに続く鋼シート又はストリップの周囲温度への冷却に関する。上記鋼の製造方法における任意選択の要素は、鋳造性能の向上のために目詰まりを防止するための、並びに、硫化物系及び/又は酸化物系介在物を改質するための、製鋼中のカルシウム処理の使用である。さらなる任意選択の要素は、セメンタイト及び/又は合金化元素の富化(enrichment)の観点から、又は、スラブ中の不可避的不純物に関して、偏析度、特に中心線偏析度が大きくなるように、製鋼、鋳造及び凝固中のプロセス条件を制御することである。スラブ及び最終鋼ストリップは、鋳造中の過熱を制限し、冷却を強化し、そしてS含有量を制限することによって最小に保たれる。打ち抜き又は剪断時の鋼の割れを最小限に抑える、好ましくは防止するために、鋼中の直径1μm以上の硫化物系及び/又は酸化物系介在物の割合を最小限に抑え、偏析、特に、セメンタイト及び/又は合金元素又は不可避的不純物の富化(enrichment)の観点から、中心線偏析の度合を最小限に抑えることが好ましい。最終鋼中の複合Al介在物の量を抑制するために、カルシウム処理を使用しないこと、製鋼の間に十分な時間を与えて介在物を析出(rise out)させること、並びに、S含有量を最小に、好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下、最も好ましくは0.001%以下に保持することが好ましい。
【0016】
熱間圧延高強度の成形可能な鋼シート又はストリップを製造するために提案された方法は、自動車のシャーシ部品等の製造に必要とされる伸びフランジ加工(stretch-flanging operations)中の早期のエッジ亀裂(premature edge cracking)の問題を解決する。さらに、本発明で提案された製造方法は、自動車のシャーシ部品等を形成するために使用されたときに、及び、稼働状態(in-service conditions)の間に繰り返し負荷に供されたときに、熱間圧延高強度の成形可能な鋼シート又はストリップの打ち抜かれた又は剪断されたエッジの早期疲労破損(premature fatigue failure)の問題を解決する。
【0017】
このように、本発明は、引張伸び及びHECの優れた組み合わせとは別に、打ち抜き又は剪断の結果としてのエッジの割れ(edge splitting)に対する良好な耐性、及び、打ち抜かれた又は剪断されたエッジの良好な疲労耐性を有する、熱間圧延高強度鋼を提供する。強度、伸び及びHECの優れた組み合わせは、Vと、場合によりMo及び/又はNbとを含有する高密度の微細複合炭化物及び/又は炭窒化物析出物で強化された、延性で実質的に単相のフェライトミクロ組織から生じる。ミクロ組織の実質的に単相のフェライト性、及び、ミクロ組織内の硬度の局所的な差が最小限に保たれるという事実は、変形中の応力の局在化、したがって、ボイドの核形成及び早期の巨視的な破損を確実に抑制する。
【0018】
本発明において、全てのフェライト相構成成分の体積分率が95体積%以上、好ましくは97体積%以上であり、かつ、セメンタイト及びパーライトの合計分率が5体積%以下、好ましくは3体積%以下である場合に、ミクロ組織は実質的に単相フェライトと見なされる。セメンタイト及びパーライトのこのわずかな割合は、鋼の関連特性(HEC、PEF、Rp0.2、Rm、及びA50)に実質的に悪影響を及ぼさないため、本発明において許容され得る。
【0019】
以下、本発明の鋼シート又はストリップの具体的な製造工程の役割について説明する。
【0020】
スラブ再加熱温度(SRT):
ホットストリップミルの炉内でスラブを再加熱するか、又は、統合された鋳造及び圧延設備で凝固スラブを再加熱することにより、V及び/又は任意選択でNbを含有する実質的に全ての複合炭化物及び炭窒化物析出物が確実に溶解する。これは、熱間圧延後に、ROT及び/又はコイラー上の鋼シート又はストリップを冷却する際、十分な析出硬化のために十分なV及び/又は任意選択でNbがオーステナイトマトリックス中の固溶体中に存在することを確実にする。本発明者らは、使用されるマイクロアロイングの量に応じて、1050~1260℃のSRTで十分であることを見出した。1050℃未満のSRTは不十分な溶解をもたらし、ひいては、低すぎる強度をもたらす一方、1260℃を超えるSRTは再加熱中の異常な粒子成長の危険性を増大させ、ひいては、成形性に悪影響を及ぼし得る不均質粒子構造を促進する。
【0021】
最終仕上げ圧延スタンドの入口温度(Tin,FT7):
鋼シート又はストリップがROT上で巻取り温度まで積極的に冷却される場合、変態前に最適なオーステナイト調整を保証するために十分に高いTin,FT7が必要である。オーステナイト状態の影響を概略的に説明するために、図1は、0.055C-1.4Mn-0.2Si-0.02Al-0.06Nb-0.22V-0.15Mo-0.01N合金に関して計算された連続冷却変態(CCT:Continuous Cooling Transformation)のダイアグラムを示す。図1aにおいて、890℃でのオーステナイト化及び10μmのオーステナイト粒度が、図1bのCCTダイアグラムでは、1000℃のオーステナイト化温度及び50μmのオーステナイト粒度がインプットとして使用された。両方のCCTダイアグラムに示されているのは、図1aの場合には比較例と考えられ、図1bの場合には発明的と考えられる、例示的なROT冷却軌道である。
【0022】
in,FT7が低すぎると、フェライト変態を促進させ、ポリゴナルフェライトの形成を促進させるオーステナイト状態をもたらす。かなりの割合(substantial fraction)のポリゴナルフェライトが引張伸びに有益であるが、本発明者らは、小さすぎるTin,FT7がHEC及びPEFに悪影響を及ぼし得ることを見出した。一方、高すぎるTin,FT7は、フェライト変態領域をあまりにも遠くにシフトさせるオーステナイト状態をもたらし、過度に高い焼入性及び多すぎる割合の針状/ベイニットフェライト又は潜在的には最終的に、より低い変態温度で生成した他の硬質変態生成物を促進する。これは、引張伸びを犠牲にするか、あるいは、HECを損なうことさえあり得る。本発明者らは、本発明に関し、多角形と針状/ベイニットフェライトとの混合物を含む適切なミクロ組織に基づいて、HECと引張伸びとの間の最適バランスを有することが、本発明で規定するSRT、FRT、ROT冷却軌跡及びCTと組み合わせる場合、好適であることを見出した。
【0023】
仕上げ圧延温度(FRT):
本発明者らは、950~1080℃の間のFRTが、本発明で規定するSRT、Tin,FT7、ROT冷却軌跡及びCTと組み合わせる場合、好適であることを見出した。
【0024】
一次ランアウトテーブル冷却速度(CR):
in,FT7及びFRTが本発明の範囲内である場合、鋼シート又はストリップの一次冷却速度は、ROTの開始時には、オーステナイトからフェライトへの変態が比較的低いフェライト変態温度で開始し、針状/ベイニティックフェライトが促進されるように、十分に強くする必要がある。これも、図1に概略的に示されている。図1aは、低いFRTの状況を反映している一方、図1bは、高いFRTを反映している。両方のCCTダイアグラムに示されているのは、ROT冷却軌道である。図1aの場合、一次冷却速度は約25℃/秒(比較例)であり、図1bの場合、一次冷却速度は約85℃/秒(本発明例)である。図1a及び1bにおいて計算されたCCTダイアグラムから、前述の仕上げ圧延条件と組み合わせたROT上の強い一次冷却が、CCTダイアグラムのフェライト変態ノーズに衝突して針状/ベイナイトフェライトの形成を促進することが明らかである。
【0025】
複雑な結晶学的形態を有する針状/ベイニティックフェライト相成分の核形成は、本発明にとって必須である。従来のオーステナイト粒界で最初に核形成するポリゴナルフェライトとは対照的に、針状/ベイニットフェライトは、鋼マトリックス中に存在する不可避的な介在物上で部分的に核形成する。特に、針状フェライトは、これに関連して有効な作用物質であると考えられており、局部的に微粒子化した環境(locally fine-grained environment)内に介在物をカプセル化することができ、それにより、打ち抜き、伸びフランジ及び繰り返し疲労負荷を含む変形操作に対するそれらの有害な影響を減らす。
【0026】
本発明者らは、強力な一次ROT冷却速度(CRi)の適切な範囲が、本発明で特定されるSRT、Tin,FT7、ROT冷却軌跡及びCTと組み合わせられる場合、50~150℃/秒であることを見出した。
【0027】
一次冷却速度CR後の中間ランアウトテーブル温度(Tint,ROT):強力な一次冷却は、鋼ストリップをFRTから600~720℃の中間ROT温度まで急速に冷却する。このROTセッティングを高FRTと組み合わせることで、ポリゴナルフェライトから針状/ベイニティックフェライトへのフェライト形態のシフトが促進され、HEC及びPEFに関する性能の向上が促進され、ランダム析出及び界面析出の両方に必要な高速動力学に対応可能となり、炭素を消費し、セメンタイト及び/又はパーライトの生成を抑制し、さらに効率的なオーステナイトからフェライトへの変態を促進する。
【0028】
2次ランアウトテーブル冷却速度(CR):
ROT冷却軌跡の第2段階は、CTを実現するための3つのバリエーション:
・CTを実現するために、鋼シート又はストリップを等温的に保持すること;
・CTを実現するために、鋼シート又はストリップを-20~0℃/秒で穏やかに冷却すること;又は
・特定されたCTを実現するために、鋼シート又はストリップを0~+10℃/秒で穏やかに加熱すること
のうちの1つである。
【0029】
鋼シート又はストリップのこの加熱は、ROT上で起こるオーステナイトからフェライトへの相転移からの潜熱によって自然に生じる。
【0030】
CTを実現するためのほとんど能動的でない又は全く能動的でないこの第2段階の冷却は、鋼シート又はストリップの幅に沿った製品の一貫性を改善するのに有益であり、オーステナイトからフェライトへのさらなる変態を促進し、そして、ランダム析出又は相界面析出のいずれに対しても十分な析出速度論を与えるのに有益である。
【0031】
巻き取り温度(CT:coiling temperature):
CTは、オーステナイトからフェライトへの変態の最終段階を部分的に決定するが、大部分は析出の最終段階も決定する。低すぎるCTは、巻き取り及び/又はその後のコイルの冷却中のさらなる析出を抑制又は防止し、したがって、不完全な析出強化をもたらし得る。さらに、低すぎるCTは、低ベイナイト、マルテンサイト及び/又は残留オーステナイトのような低温相変態生成物の存在をもたらし得る。これらの相構成成分の存在は、引張伸びを犠牲にしたり、穴広げ性能(hole-expansion capacity)を損なう可能性がある。高すぎるCTは、高すぎる割合の粗粒ポリゴナルフェライトをもたらし、そして、析出物の過度の粗大化を促進し、それにより、巻き取り中及び/又はコイルの冷却中に、劣った程度の析出強化をもたらし得る。前者は、低すぎるHEC及び/又はPEFをもたらし得るととともに、鋼シート又はストリップの切断、剪断又は打ち抜きの際に割れる危険性の増大をもたらし得る。巻き取り温度の適切な範囲は、580~660℃である。
【0032】
以下、鋼シート又はストリップ中の個々の合金元素の役割について説明する。特記しない限り、全ての組成は重量%(%)で示される。
【0033】
炭素(C)は、Vと場合によりNb及び/又はMoを有する炭化物及び炭窒化物の析出物を形成し、フェライト相成分、すなわち、ポリゴナルフェライト及び針状/ベイニティックフェライトの十分な析出強化を得るために、添加される。一方、570MPa以上、好ましくは780MPa以上の引張強度を保証するために、鋼中のC含有量は、フェライトミクロ組織の十分な析出強化を実現するために使用されるVの量及び任意選択で使用されるNb及び/又はMoの量と比較して十分に大きくすべきである。他方、C含有量は、最終ミクロ組織中の(粗)セメンタイト及び/又はパーライトの形成を促進する可能性があり、それが、ひいては、孔拡張能力を悪化させる可能性があるため、高すぎてはならない。C含有量は、0.015~0.15%の間であるべきである。好適な最小値は、0.02%である。好適な最大値は、0.12%である。
【0034】
ケイ素(Si)は、フェライトマトリックスの固溶体強化を得るのに有効な合金元素である。さらに、Siは、セメンタイト及び/又はパーライトの形成を遅らせるか、又は、完全に抑制することさえあり得、それは、ひいては、穴広げ性能にとって有益である。しかしながら、Siは、ディメンションウインドウ(dimensional window)を犠牲にしてミル内の圧延荷重を実質的に増大させ、さらに、鋼シート又はストリップ上の酸化物スケールに関して表面問題を引き起こす可能性があり、それが、ひいては、基板疲労特性を悪化させ得るため、低いSi含有量が望ましい。そのため、Si含有量は0.5%を超えてはならない。好適な最小値は、0.01%である。好適な最大値は、0.45%又は0.32%である。
【0035】
マンガン(Mn)は、固溶強化をもたらし、フェライト変態温度を抑制し、さらに、フェライト変態速度を低下させる。後者の態様は、Mnを、適切な仕上げ圧延条件及び鋼シート又はストリップの十分に高い冷却速度との組み合わせにおいて、針状/ベイニットフェライト中のフェライト変態領域を遅らせ、促進するのに有効な作用物質にする。これに関連して、Mnは、十分な固溶強化を得るために重要であるだけでなく、さらに重要なことには、ポリゴナル及び針状/ベイニットフェライトの混合物からなる所望のフェライトミクロ組織を実現するために重要である。これらのフェライト相成分の混合物からなるこのミクロ組織は、HECと引張強度及び伸びとの間に必要なバランスを提供することができることが見出されているので、これもまた重要である。さらに、Mnはフェライト変態を抑制するので、変態中の析出強化度に寄与すると考えられる。しかしながら、高すぎるMnは、(中心線)偏析をもたらす可能性があり、それは、ひいては、鋼シート又はストリップが切断又は打ち抜かれるときに割れを引き起こす可能性があるとともに、HEC及び/又はPEFを悪化させる可能性があるので、避けるべきである。したがって、Mn含有量は、1.0~2.0%の範囲内とすべきである。好適な最小値は、1.2%である。好適な最大値は、1.8%である。
【0036】
リン(P)は固溶強化をする。しかしながら、高レベルでは、Pの偏析が穴広げ性能を悪化させる可能性がある。したがって、P含有量は0.06%以下、好ましくは0.02%以下であるべきである。
【0037】
硫黄(S)含有量が多すぎると、望ましくない硫化物系介在物を助長し、ひいては、HEC及びPEFを悪化させる可能性があるため、S含有量は0.008%以下であるべきである。したがって、製鋼中に低いS含有量を実現するための努力が、高いHEC及び良好なPEFを得るために本発明にとって推奨される。カルシウム(Ca)処理は、一般に成形性を改善するために又は鋳造性を改善するために、及び、Al系介在物を改善することによって鋳造中の目詰まりの問題を防ぐために、特に、MnSストリンガーを改善する上で有利であり得る。しかしながら、鋼ストリップ中のAl系介在物の量が増加する危険性があり、それは、HEC及び/又はPEFを犠牲にする可能性がある。したがって、カルシウム処理は任意である。本発明にとって、S含有量は最小限に、好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下、最も好ましくは0.001%以下に保たれることが好ましい。0.003%以下、より好ましくは0.002%以下、最も好ましくは0.001%以下のS含有量に加えて、カルシウム処理を使用しないことが好ましい。
【0038】
アルミニウム(Al)は、脱酸剤として鋼に添加され、再加熱及び熱間圧延中の粒度制御に寄与し得る。鋼中のAl含有量(Al_tot)は、
・鋼のキリング(killing)の結果として酸化物に結合し、製鋼及び鋳造中に溶湯から除去されていないAl(Al_ox)、及び
・鋼マトリックス中の固溶体中、又は、AlN析出物として存在するAl(Al_sol)
からなる。鋼マトリックス中の固溶体中のAl及び窒化物析出物として存在するAlを酸に溶解してその含有量を測定することができ、これを、ここでは、可溶性Al(Al_sol)と定義する。固溶体(Al_sol)中に存在するAl、又は、酸化物系介在物(Alを含有する介在物)として鋼中に存在するAlのいずれかが高すぎると、穴広げ性能を悪化させる可能性がある。したがって、Al含有量の合計は0.12%以下とすべきであり、Al_solは0.1%以下とすべきである。本発明の大部分は、複合炭化物及び/又は炭窒化物析出物を形成するための高濃度のバナジウム(V)の使用による析出強化に依存する。炭窒化物析出物は炭化物析出物よりも粗大化しにくいことが知られている。使用されるVの量によって最適化された程度の析出強化を確実にするために、高レベルの窒素(N)を使用することができる。この合金アプローチがとられる場合、AlによってNが捕捉(scavenged)及び結合されて、AlNの析出物が形成されることを防止するために、Alの量を低く保つことが好ましい。これに関連して、低いAl含有量は、(炭化物析出物とは別に)炭窒化物析出物を形成するために、析出プロセスにおいてV(並びに場合によりNb)をNと自由に結合できるように保つために好ましい。したがって、本発明におけるAl_solは、0.065%以下が好ましく、0.045%以下がより好ましく、0.035%以下が最も好ましい。Al_solの好適な最小含有量は0.005%である。
【0039】
ニオブ(Nb)は、熱間圧延中のオーステナイトコンディショニング、したがってオーステナイトからフェライトへの相変態、並びに、フェライトの形態及び粒径に関して重要である。Nbは、熱間圧延の最終段階の間に再結晶化を遅らせるので、オーステナイト状態、すなわちフェライトへの変態前のオーステナイト粒径及びその形状(等軸対パンケーキ(equi-axed versus pancaked))及び非再結晶温度(Tnr)未満で圧延するときの内部転位の程度を制御することが重要な役割を果たすことができる。言い換えると、オーステナイト状態は、特に熱間圧延直後のROT上の適切な冷却軌跡によって、オーステナイトからフェライトへの変態にかなりの影響を及ぼす可能性がある。旧オーステナイト粒界及び三重点に優先的に核形成する(等軸)ポリゴナルフェライト核形成は、オーステナイト粒界の密度が抑制されると遅れる。熱間圧延後の適切なROT冷却軌跡を考えると、その後の等軸ポリゴナルフェライトの減少は、より不規則な形状の形態を有するフェライト相成分、すなわち針状及び/又はベイニティックフェライトの増加を伴うであろう。これらの相成分は、オーステナイト粒界に優先的に核形成し、内側に成長し、そして針状フェライトの場合には鋼中に存在する介在物上にも成長する。特に、この後者の特徴は本発明にとって極めて重要である。なぜなら、微粒マトリックス中のこれらの封入された介在物は打ち抜き性能への影響が全くないか、又は減少しており、及び/又はHEC及び/又はPEFに対するそれらの悪影響を減らすからである。Nbの使用は任意選択である。しかしながら、Nb含有量が多すぎると偏析を招き、成形性と疲労性能の両方を損なうため、使用する場合、Nb含有量は0.1%以下とすべきである。さらに、0.1%を超えるNbは、オーステナイトコンディショニングに対するその効率を失うであろう。使用されるときのNbの適切な最小含有量は0.01%である。オーステナイトコンディショニング及び間接的に相変態並びにフェライト形態及び結晶粒度に対するNbの効果とは別に、NbはC及びNと結合して炭化物及び/又は炭窒化物析出物をもたらす可能性がある。これらの析出物は、オーステナイトからフェライトへの変態中又は変態後にフェライト中に形成されると、析出硬化によって強度をもたらし、析出プロセスにおいてCが除去されて成形性に寄与するとともに、強度を促進する。適切なNb最小値は0.02%である。適切な最大値は0.08%である。
【0040】
バナジウム(V)は析出強化をもたらす。微細なV基複合炭化物及び/又は炭窒化物析出物による析出強化は、高い引張伸び及び高いHEC並びに良好なPEFと組み合わせた単相フェライトミクロ組織に基づく所望の強度レベルを達成するために極めて重要である。前述の特性を有するこのミクロ組織を達成するために、Nb及び/又はMoのような他の析出元素に加えて、Vが実質的に全てのCを消費して、その中の(粗)セメンタイト及び/又はパーライトの形成を抑制又は完全に防止することさえ重要である。最終ミクロ組織のV含有量は0.02~0.45%の範囲内でなければならない。適切な最小値は0.12%である。適切な最大値は0.35%、さらには0.32%である。
【0041】
モリブデン(Mo)は多くの点で本発明に関連する。第一に、Moは、変態中のオーステナイト-フェライト界面の移動度を遅らせ、続いてフェライトの形成及び成長を遅らせる。適切な仕上げ圧延条件及びROT冷却軌跡と組み合わせて、Moの存在は、ポリゴナルフェライトを犠牲にして針状/ベイニットフェライトを促進し、それによってHECを促進するのに有益である。第二に、Moはパーライトの形成を抑制するか又は完全に防止する。後者は、(粗い)セメンタイト及び/又はパーライトが引張伸びとHECとの間の良好なバランスのために抑制されている本質的に単相のフェライトミクロ組織を実現するために本発明にとって極めて重要である。Moは、V及びNbと同様に炭化物形成剤として作用することができるので、セメンタイト及び/又はパーライトの形成を防止するためにCを拘束し、析出強化に寄与するので、その存在は有益である。Moはまた、V及び/又はNbベースの複合析出物の粗大化を抑制し、それによって徐冷コイル冷却中の析出物の粗大化によって引き起こされる析出強化の低下を抑制すると考えられる。Moの使用は鋼シート又はストリップの要求される強度レベルに依存し、したがって本発明では任意選択と見なされる。Moが合金元素として使用される場合、その含有量は0.05以上及び/又は0.7%以下であるべきである。適切な最小値は0.10%、さらには0.15%である。適切な最大値は、0.40%、0.30%、さらには0.25%である。
【0042】
クロム(Cr)は焼入れ性を提供し、オーステナイトからフェライトへの形成を遅らせる。このように、それは、適切な仕上げ圧延条件及びROT冷却軌跡と組み合わせて、ポリゴナルフェライトを犠牲にして、針状/ベイニットフェライトを促進するための有効な元素として、Mn及びMoのように作用することができる。Crの使用は本発明にとって必須ではない。適切なレベルのMn及びMoを適切な熱間圧延設定、ROT冷却条件、及び巻取温度と組み合わせて使用することによって、所望のミクロ組織を必要な引張特性、HEC、及び/又はPEF性能とともに達成することができる。しかしながら、Crの使用は、Mn及び/又はMoの量を減らすために有益であり得る。部分的にMnをCrで置換することは、Mn(中心線)偏析を抑制するのに役立ち得る。それは、ひいては、切断、せん断又は打ち抜き時に、鋼の割れのリスクを減少し得る。部分的にMoをCrで置き換えることは、Mo含有量を減らすのに役立ち得る。Moは非常に高価な合金元素になり得るので、これは有益である。Crは、使用される時は、0.15~1.2%の範囲であるべきである。使用時のCrの適切な最小含有量は0.20%であり、使用時のCrの適切な最大含有量は1%である。
【0043】
窒素(N)は、Cと同様に、析出プロセスにおいて重要な元素である。特にVによる析出強化と組み合わせて、Nが炭窒化物析出物を促進するのに有益であることが知られている。これらの炭窒化物析出物は、炭化物析出物よりも粗大化しにくい。したがって、Vと組み合わせた高レベルのNは、追加の析出強化を促進し、V及びNbを含む高価なミクロ合金元素をより効率的に使用することができる。AlはNに関してVと競合しているので、Vの析出強化を最大にするためにNの上昇が使用される場合、比較的低いAl含有量を使用することが推奨される。その場合、Al_sol含有量及びN含有量の適切な範囲は、それぞれ0.005~0.04%及び0.006~0.02%である。すべてのNがAl又は優先的にはVと結び付くように注意するべきである。遊離Nの存在は成形性及び疲労を損なうので避けるべきである。本発明に適したN最大含有量は0.02%である。本発明における析出強化が主に炭化物析出によって促進される場合、上昇したAl_sol含有量は0.030~0.1%であり、N含有量は0.002~0.01%であることが好ましい。本発明のための適切なN最小含有量は0.002%である。適切なN最大含有量は0.013%である。
【0044】
カルシウム(Ca)は鋼中に存在する可能性があり、カルシウム含有量が鋳造物の性能を改善するための介在物制御及び/又は目詰まり防止のために使用される場合、その含有量は増加するであろう。カルシウム処理の使用は本発明においては任意である。カルシウム処理を使用しない場合、Caは製鋼及び鋳造工程から不可避の不純物として存在し、その含有量は典型的には0.015%以下である。カルシウム処理が使用される場合、鋼ストリップ又はシートのカルシウム含有量は一般に100ppmを超えず、そして、通常5~70ppmである。最終鋼中の複合Al介在物の量を抑制するためには、カルシウム処理を使用せず、介在物を析出させ、S含有量を最小限に、好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.002%以下、最も好ましくは0.001%以下に保つのに十分な時間を与えることが好ましい。
【0045】
一実施形態において、本発明に従って製造される熱間圧延鋼シート又はストリップの厚さは、1.4mm以上12mm以下である。好ましくは、厚さは、1.5mm以上及び/又は5.0mm以下である。より好ましくは、厚さは、1.8mm以上及び/又は4.0mm以下である。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造される熱間圧延鋼シート又はストリップは、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0047】
【数1】
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造される熱間圧延鋼シート又はストリップは、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0049】
【数2】
【0050】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造された熱間圧延鋼シート又はストリップは、570MPa以上の引張強度を有するとともに、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0051】
【数3】
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造された熱間圧延鋼シート又はストリップは、780MPa以上の引張強度を有するとともに、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0053】
【数4】
【0054】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造された熱間圧延鋼シート又はストリップは、980MPa以上の引張強度を有するとともに、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0055】
【数5】
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、本発明に従って製造された熱間圧延鋼シート又はストリップは、980MPa以上の引張強度を有するとともに、C、N、Al_sol、V並びに任意選択でNb及びMoを含み、これらの元素の含有量(重量%で表される)は、以下の式を満たす。
【0057】
【数6】
【0058】
別の態様によれば、本発明は、本発明に従って製造された熱間圧延高強度鋼シート又はストリップの製造であって、
熱間圧延高強度鋼シート又はストリップが、
・570MPa以上の引張強度及び90%以上のHEC;又は
・780MPa以上の引張強度及び65%以上のHEC;又は
・980MPa以上の引張強度及び40%以上のHEC
を有し、
(Rm×A50)/t0.2>10000、好ましくは(Rm×A50)/t0.2 12000である、製造においても具体化されている。
【0059】
別の態様によれば、本発明は、本発明に従って製造された熱間圧延高強度鋼シート又はストリップの製造であって、
熱間圧延高強度鋼シート又はストリップが、
・570MPa以上の引張強度及び90%以上のHECを有し、応力比0.1及び打ち抜きクリアランス8~15%の条件下、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労応力(the maximum fatigue stress at 1×10 cycles to failure with a stress ratio of 0.1 and a punching clearance of 8 to 15%)が、280MPa以上、好ましくは300MPa以上であるか、又は
・780MPa以上の引張強度及び65%以上のHECを有し、応力比0.1及び打ち抜きクリアランス8~15%の条件下、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労応力が、300MPa以上、好ましくは320MPa以上であるか、又は
・980MPa以上の引張強度及び40%以上のHECを有し、応力比0.1及び打ち抜きクリアランス8~15%の条件下、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労応力が、320MPa以上、好ましくは340MPa以上であり、
(Rm×A50)/t0.2>10000、好ましくは(Rm×A50)/t0.2 12000である、製造においても具体化されている。
【実施例
【0060】
以下の非限定的な実施例によって本発明をさらに説明する。
【0061】
実施例1
表1に示す化学組成を有する鋼A~Fを、表2に示す条件下で熱間圧延し、厚さ(t)が2.8~4.1mmの範囲の鋼1A~38Fを製造した。化学組成とは別に、表1はまた、Ar3、すなわち、鋼の冷却時にオーステナイトからフェライトへの変態が始まり、フェライトが形成し始める温度を示す。Arの指標として次の式が使用される。
【0062】
【数7】
【0063】
表2は、プロセス条件(Tint,ROT=中間ランアウトテーブル温度;Δt=仕上げミルの出口とTint,ROTまでのROT上の一次冷却開始との間の時間;CR=一次冷却速度)に関する詳細を提供する。ROT上の二次冷却(Δt=巻き取り温度(CT)までのROT上の二次冷却の時間;CR=二次冷却速度)。CRavは、FRTからCTまでの平均冷却速度である。熱間圧延鋼はすべて引張試験及びHEC試験の前に酸洗いされた。表3の鋼1A~38Fの報告された引張特性は、EN-ISO 6892-1(2009)に従った圧延方向に平行な引張試験を伴うA50引張形状に基づいている(Rp0.2=0.2%耐力又は降伏強度;Rm=最大引張強度;YR=降伏比(Rp0.2/Rm);Ag=一様伸び;A50=A50引張伸び;ReH=上限耐力又は降伏強度;ReL=下限耐力又は降伏強度;Ae=降伏点伸び)。
【0064】
Rmと引張伸び(この場合はA50)との積、Rm×A50は、鋼が変形したときに鋼がエネルギーを吸収できる程度の尺度と見なされる。このパラメータは、鋼シートが冷間成形されて特定の自動車シャーシ部品等を製造し、冷間成形中の破損及びそれに続く破損に対するその耐性を評価するときの製造に関連する。引張伸びは、鋼シート又はストリップの厚さ(t)に部分的に依存し、オリバーの式によれば、t0.2に比例するので、鋼シート又はストリップによってエネルギーを吸収するための尺度は、異なる厚さを有する鋼シート又はストリップ間の直接比較を可能にするために、(Rm×A50)/t0.2と表すこともできる。
【0065】
SFFの程度の基準であると考えられるHEC(λ)を決定するために、各鋼シートから3つの正方形のサンプル(90×90mm)を切り出し、続いて、鋼サンプルの中心の直径(d)において10mmの穴をあけた。サンプルのHEC試験は、上向きにばりを付けて行った。60°の円錐パンチを下から押し上げ、厚さ方向の亀裂が形成されたときに孔径dを測定した。HEC(λ)は、d=10mmで以下の式を用いて計算した。
【0066】
【数8】
【0067】
シート1A~38FのHECを表3に報告する。
【0068】
鋼シート1A~38Fのミクロ組織は、ミクロ組織の一般的な特徴を識別し、その相成分及び分数を決定するために、電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いて特徴付けられた。この目的のために、サンプル調製、EBSDデータ収集、及びEBSDデータ評価に関して以下の手順に従った。
【0069】
EBSD測定は、導電性樹脂に取り付けられ、1μmに機械的に研磨された圧延方向(RD-ND平面)に平行な断面で行われた。完全に変形のない表面を得るために、最終研磨工程はコロイダルシリカ(OPS)を用いて行われた。
【0070】
EBSD測定に使用した走査電子顕微鏡(SEM)は、電界放出銃(FEG-SEM)及びEDAX PEGASUS XM 4 HIKARI EBSDシステムを備えたZeiss Ultra 55装置であった。EBSDスキャンを鋼シートのRD-ND平面上で収集した。サンプルをSEM内で70°の角度で配置した。高電流オプションをオンにしたときの加速電圧は15kVであった。120μmの開口部が使用され、走査中の作動距離は17mmであった。サンプルの高いチルト角を補償するために、動的焦点補正が走査中に使用された。
【0071】
EBSDスキャンは、TexSEM Laboratories(TSL)ソフトウェアOIM(Orientation Imaging Microscopy)データ収集バージョン7.0.1を使用して捕捉された。典型的には、以下のデータ収集設定が使用された:6×6ビニングでの光カメラと標準的なバックグラウンド減算との組み合わせ。走査領域は全ての場合においてサンプルの厚さの1/4の位置にあった。
【0072】
EBSDスキャンサイズは、すべての場合において100×100μmであり、ステップサイズは0.1μmであり、スキャン速度は毎秒80フレームであった。鋼サンプル1A~38Fの全てについて、ミクロ組織中にRAは確認されず、したがって、スキャン中にFe(α)のみが含まれた。データ収集中に使用されたHough設定は、次のとおりであった。ビニングパターンサイズは約96;シータセットサイズは1;rhoの割合は約90;最大ピーク数は13。最小ピーク数は5;Houghタイプはクラシックにセット;Hough解像度の設定は低;バタフライ畳み込みマスク(butterfly convolution mask)は9×9;ピーク対称性は0.5;最小ピーク振幅は5;最大ピーク距離は15。
【0073】
EBSDスキャンは、TSL OIM分析ソフトウェアバージョン7.1.0.x64で評価された。通常、データセットは、測定方向に対して適切な方向にスキャンを取得するために、RD軸上で90°回転させた。標準的な粒子拡張のクリーンアップを実施した(5°の粒子許容角度(GTA)、5ピクセルの最小粒子サイズ、単一の拡張反復のクリーンアップのために粒子は複数の行を含まなければならないという基準)。
【0074】
以下の方法を使用して、Fe(α)分配の誤配向角分布(MOD)指数を計算した:1°のビニングで5°から65°の誤配向角(misorientation angle)からの範囲にわたる、すべての境界を含む正規化誤配向角分布(MOD:misorientation angle distribution)が、TSL OIM分析ソフトウェアを使用して、区分EBSDデータセット(partitioned EBSD data set)から計算された。同様に、ランダムに再結晶したポリゴナルフェライト(PF)の正規化された理論上のMODが、測定された曲線と同じ誤配向角度範囲及びビニングを用いて計算された。実際には、これは、TSL OIM Analysisソフトウェアに含まれている、いわゆる「MacKenzie」ベースのMODである。MODの正規化は、MOD下領域が1として定義されていることを意味する。MOD指数は、図2a(上図)と図2b(下図)の理論曲線(破線)と測定曲線(実線)の間の面積として定義され、次のように定義することができる。
【0075】
【数9】
【0076】
MOD,iは、測定されたMODの角度i(5°から65°の範囲)での強度であり、RMOD,iは、ランダムに再結晶されたPFの理論的又は「MacKenzie」ベースのMODの角度iでの強度である。
【0077】
図2aと図2bの実線は、測定されたMODを表し、破線は、ランダムに再結晶されたポリゴナルフェライト(PF)構造の理論上の誤配向角曲線を表す。図2aは、主にポリゴナルフェライト(PF)特性を有するミクロ組織を有する例示的なサンプルのMOD曲線を示す。図2bは、主に針状/ベイナイト(AF/BF)特性を有するミクロ組織を有する例示的なサンプルのMOD曲線を示す。MODインデックスは、定義上、0から約2の範囲である。測定曲線が理論曲線と等しい場合、2つの曲線間の面積は0(MOD指数は0になる)であるが、2つの分布曲線間に(ほぼ)強度の重なりがない場合、MOD指数は(ほぼ)2である。そのため、図2に示すように、MODにはミクロ組織の性質に関する情報が含まれており、MODインデックスを使用することにより、光学顕微鏡等の従来の方法に基づくよりも定量的で明確なアプローチに基づいて、ミクロ組織の特性を評価することができる。完全PFミクロ組織は、大部分の強度が20°~50°の範囲であり、約45°のピーク強度を有する単峰性のMODを有する。対照的に、完全AF/BFミクロ組織は、5°~10°及び50°~60°のピーク強度及び20°~50°の範囲内の小さい強度を有する強い二峰性MODを有する。したがって、本実施例における低いMOD指数及び高い20°~50°MOD強度は、主にPFミクロ組織の明確なサインであるのに対して、高いMOD指数及び低い20°~50°MOD強度は、主にAF/BFミクロ組織の明白なサインである。
【0078】
針状/ベイニティックフェライト(AF/BF)対ポリゴナルフェライト(PF)に関するマトリックスの性質の定性的評価とは別に、MOD指数を用いてPF及びAF/BFの体積分率を定量的に決定した。図3は、体積率AF/BF(体積%)をMOD指数に対してプロットしたグラフを示し、ここでは、体積率AF/BFとMOD指数との間の線形関係が仮定されている。0及び100%のAF/BFにおける白丸を有する黒い実線は、MOD指数の関数としてのAF/BFの量の理論的関係を示す。しかしながら、本発明者らは、1.1~1.2の範囲のMOD指数を有するミクロ組織は、光学顕微鏡に基づいて、専ら100%のAF/BFとして既に分類することができることを見出した。したがって、本実施例では、100%PFタイプのミクロ組織が0のMODインデックスを有し、100%AF/BFタイプのミクロ組織が1.15のMODインデックスを有する場合、体積分率AF/BFとMODインデックスとの間のより経験的関係(empirical relation ship)が見出された。この関係は、0及び100%のAF/BFにおける黒三角記号を用いて図3の破線で示されており、以下によって与えられる。
【数10】
【0079】
この場合、PFの量は、以下のように仮定される。
【0080】
【数11】
【0081】
AF/BFとPFは全体のミクロ組織の体積パーセントで表す。本明細書に記載のEBSD手順を使用して、鋼シート1A~38Fのミクロ組織のAF/BF及びPFの体積分率を定量化した。鋼シート1A~38Fの引張特性及びHEC、並びに、EBSD分析に基づく平均粒径とともに、MOD指数並びにPF及びAF/BFの体積分率を表3に示す。光学顕微鏡及びEBSD観察に基づいて、本発明者らは、全ての場合において、鋼シート1A~38Fの全体のミクロ組織は、ポリゴナルフェライト(PF)及び/又は針状/ベイニティックフェライト(AF)からなる実質的に単相フェライトであることを見出した。ここで、上記フェライト相成分の合計の総体積分率は95%以上であった。従来の光学顕微鏡は、全ての場合において、セメンタイト及び/又はパーライトの体積分率が5%未満であることを明らかにした。
【0082】
鋼シート1A~6A及び7B~14Bは、それぞれNbVMo及びNbVベースの化学的性質に対応し、すべての場合においてカルシウム処理を用いて製造された。
【0083】
鋼シート1A~14Bについての予測Ar3は約775℃である。これらの鋼シートのFRTが890~910℃の場合、すべての鋼シートは、それぞれNbVMo又はNbVベースの合金についてEP 12167140及びEP 13154825に提示されているプロセス条件に従って製造された。鋼シート1A~14Bを製造するために使用されるROT上の平均冷却速度及び巻取り温度についても同じことが当てはまる。鋼シート1A~14Bの平均冷却速度及び巻取り温度は、それぞれ13~17℃/秒及び615~670℃の範囲内であった。
【0084】
しかしながら、鋼シート1A~6Aの引張特性及び穴広げ性能を最初に見ると、鋼AのようなNbVMo基合金が実質的に単相のフェライトミクロ組織と組み合わされても、580MPaの最小引張強度と90%のHECとの所望の組み合わせ、又は、750MPaの最小引張強度と60%のHECとの所望の組み合わせ、又は、980MPaの最小引張強度と30%のHECとの所望の組み合わせをもたらさないことは明らかである。
【0085】
鋼シート1A~14Bのミクロ組織は全て実質的に単相フェライトであり、すなわち鋼シート1A~14Bに対するセメンタイト及び/又はパーライトの量は多くとも3体積%以下である。しかしながら、鋼シート1A~14BのHECは、付随する引張強度レベルと比較して不足している。
【0086】
鋼シート15C~22Cを製造するために、他のアプローチがとられた。鋼中のAl系介在物の量を抑制するために、カルシウム処理は用いなかった。さらに、熱間圧延及びROT冷却条件を修正した。鋼シート1A~14Bについて、それぞれ930~940℃及び890~910℃の範囲のTin,FT7及びFRTの代わりに、かなり高い温度を用いて鋼シート15C~22Cを製造した。これらの鋼シートでは、Tin,FT7及びFRTはそれぞれ990~1010℃及び960~990℃の範囲とした。最終圧延条件の変更とは別に、ROTの冷却軌跡が変更された。鋼シート15C~22Cでは、ROT開始時の冷却速度は鋼シート1A~14Bに使用されたものよりもかなり高かった。鋼シート1A~14Bの場合のように20~35℃/秒の範囲で約8~10秒間の比較的穏やかな冷却の代わりに、鋼シート15C~22Cは、60~80℃/秒の範囲内の冷却速度で約4~5秒間といった、はるかに激しい冷却に供された。すべての鋼、すなわち1A~22Cについて、640~700℃の範囲のROT上の中間温度までの最初の冷却の後に、610~670℃の間の最終巻取り温度までさらに比較的穏やかな冷却が続いた。
【0087】
鋼シート1A~14Bと同様に、鋼シート15C~22Cのミクロ組織は、せいぜい3体積%以下のセメンタイト及び/又はパーライトを有する実質的に単相のフェライト系であった。しかしながら、EBSD分析は、ミクロ組織鋼シート15C~22Cに関連するMOD指数が鋼シート1A~14Bのそれよりも著しく高いことを明らかにした。鋼シート1A~14BのMOD指数が0.2~0.44の範囲にあるのに対して、鋼シート15C~22Cは0.5~0.8の間のMOD指数値を有する。鋼シート15C~22Cのかなり高いMOD指数は、MODが著しく異なるシグネチャを有し、鋼シート15C~22Cのフェライト形態の一部が鋼シート1A~14Bのそれと本質的に異なることを明らかにする。既に述べたように、MOD指数の増加は、ポリゴナルフェライトを犠牲にして、フェライトミクロ組織全体中の針状/ベイニットフェライトの割合の増加を反映している。MOD指数に基づいて、鋼シート15C~22Cのポリゴナルフェライト(PF)の体積分率は約35~56%の範囲にあると推定されるのに対して、鋼シート1A~14BのPF分率は62~80%の範囲の値で有意に高いと推定される。鋼シート15C~22Cの分率AF/BFを鋼シート1A~14Bのそれと比較すると、前者が約44~65%のAF/BFを含有するのに対し、後者についてはこれは20~38%の範囲にある。
【0088】
上記の分析は、仕上げ圧延の最終部分のための温度の上昇及びROTの開始時の冷却速度の上昇が、PFとAF/BFとの混合物の変化をもたらし、そして、PFを犠牲にして、AF/BFの形成を促進することを示している。これは、ひいては、降伏及び引張強度又は引張伸びに大きな影響を与えることなく、HECに非常に有益な影響を与える。鋼シート15C~22Cについて測定されたHEC値は、同様の引張強度を有する鋼シート1A~14Bのそれらよりも大きい。1A~14Bの集合体からの780MPa以上の引張強度を有する鋼シートのHECは35~60%の範囲内であるのに対し、15C~22Cの集合体からの780MPa以上の引張強度を有する鋼シートのHECは75~100%の範囲内である。
【0089】
一方では鋼シート23D~28D、他方では29DのHEC性能及びミクロ組織の比較は、それが役割を果たすことができるのはカルシウム処理だけではなく、とりわけ熱間圧延及びROT冷却条件であることを示している。全ての鋼シート23D~29Dについてカルシウム処理は使用されず、一方で鋼シート23D~28Dと他方で29Dとの間の唯一の違いは使用される熱間圧延及びROT冷却条件である。鋼シート23D~28Dの場合、Tin,FT7及びFRTはそれぞれ920~970℃及び900及び940℃の範囲内であり、一方、鋼シート29Dの場合、これはそれぞれ1000及び963℃の値でかなり高かった。また、ROTの開始時の冷却速度は、鋼シート29Dについてかなり高く、鋼シート23D~28Dについては27~44℃/秒であるのに対して29Dについては約71℃/秒であった。全ての鋼シート23D~29Dのミクロ組織は実質的に単相フェライトであるが、鋼シート29Dに使用されるROTの開始時における鋼ストリップ片の冷却の増加と組み合わせた仕上げ圧延のための温度の増加は、鋼シートの厚さの増加をもたらす。高価なポリゴナルフェライトで針状/ベイニティックフェライトの割合が大きくなり、引張特性を著しく損なうことなくHECが大幅に増加する。これは測定されたMOD指数値に反映され、すなわち鋼シート23d~28Dは0.30~0.45の範囲のMOD指数値を有するが、鋼シート29Dのそれは0.65の値でかなり高い。穴広げ性能に関しては、鋼シート23D~28Dの値は35~53%の範囲内であるのに対し、鋼シート29DのHECは81%である。
【0090】
鋼E(鋼シート30E~36E)についても、引張特性、穴広げ性能及びミクロ組織に対する熱間圧延及びROT冷却条件の影響を調べた。鋼Eについて見られる影響は、鋼シート29Dに対する鋼シート23D~28DについてのHEC及びミクロ組織に関して観察されたものと同様である:ROTの開始時の仕上げ圧延温度及び初期冷却速度の増加は、実質的に単相のフェライトミクロ組織全体におけるHECの実質的な増加及びPF及びAF/BFの体積分率の変化をもたらす。後者はまたMOD指数の増加に反映され、すなわち鋼シート30E~35Eは0.25~0.42の範囲のMOD指数値を有するが、鋼シート36Eではこれは約0.50である。鋼シート30E~35Eの対応するHECは35~56%の範囲内であるが、鋼シート36Eのそれは65%の測定値でかなり高い。
【0091】
SFFに対する尺度としてのHECは特定の鋼シートからの自動車シャーシ構成要素の製造可能性に関係があるが、PEFは一度使用されたときの自動車シャーシ構成要素の限界エッジ疲労に対する尺度として考えられる。PEFを決定するために、圧延方向に平行な縦軸を有する長方形のサンプル(185×45mm)を多数の鋼シートから切り出し、続いて、スチールサンプルの中心に直径15mmの穴を打ち抜いた(単一打ち抜き)。これらのPEFサンプルの幾何学的形状は、穴の周囲の応力集中が、疲労亀裂が常に穴の隣で始まることを確実にするのに十分大きいように設計された。これは、通常の基板応力寿命又はSN疲労試験(破損までの繰り返し数(Nf)の関数としての応力(MPa))の場合に通常そうであるように、さらなるサンディング/研磨を必要とせずに矩形サンプルをギロチン剪断機で簡単に切り取ることができることを意味する。調査した鋼シートは全て15mmのパンチで打ち抜いた。それぞれ約3.05mm及び3.04mmの厚さを有する鋼シート6A及び15Cを15.8mmのダイと組み合わせて打ち抜き、これらの鋼シートに対してそれぞれ13.1~13.2%のクリアランスをもたらした。厚さ2.89mmの鋼シート29Dについては、15.5mmのダイを使用し、これは8.7%のクリアランスをもたらす。クリアランス(Cl,単位:パーセント)は、ダイの直径(ddie,単位:mm)及びパンチの直径(dpunch、この場合は15mm)及び鋼シートの厚さ(t,単位:mm)に基づいて、以下の式によって計算される。
【0092】
【数12】
【0093】
全てのPEF試験は、油圧一軸試験機及び試験R値(最小荷重/最大荷重)0.1を用いて実施した。試験荷重を打ち抜き孔疲労試験サンプルの中央の断面積(すなわち、サンプル幅-孔の測定寸法)で割ることによって材料の厚さの影響を除去するために、荷重を応力に変換した。PEF試験に使用された破損基準は、変位の0.1mmの増加であった。
【0094】
PEF試験の結果をプロセス条件(Ca=カルシウム処理、「Yes」又は「No」;HSM=本発明と一致する仕上げ圧延温度、ROT冷却条件及び巻取り温度、「Yes」又は「No」)、引張特性(Rp0.2=0.2%耐力又は降伏強度(offset proof or yield strength);Rm=最大引張強度;A50=A50引張伸び)、HEC(λ)及びミクロ組織特性(PF=体積分率ポリゴナルフェライト;AF/BF=体積分率針状/ベイニットフェライト;MOD指数)の表示とともに、表4に示す。表4のPEF強度を説明するための関連する特徴は、鋼シートの打ち抜きに使用される特定のクリアランス(Cl)についての最大疲労応力(σmax)及び繰り返し数1×10でのRmに対する最大疲労応力(σmax)の比(パーセント)である。表4にはまた、鋼基板を打ち抜いたときの割れの量の光学的評価も示されている。割れの程度はパンチ穴の円周のパーセントで表される。
【0095】
一般に、鋼のPEF性能は、打ち抜かれたエッジの破断帯の表面粗さ及び打ち抜かれたエッジに近い鋼シートの内部に蓄積された歪み及び損傷の量によって大きく左右される。これらの特徴は、鋼基板のミクロ組織及び機械的応答、並びに、パンチとダイとの間のクリアランスを含むパンチ条件の影響によって部分的に決定される。クリアランスの増大は、破砕帯の粗さの増大を伴う可能性があり、それが今度はPEFの悪化をもたらし得ることが知られている。さらに、クリアランスが増大するにつれて、歪みの量、特に(中心線)偏析及び/又は介在物の存在による内部損傷が増大する可能性がある。この内部損傷は、鋼基板内部の割れ目、内部空隙、及び潜在的に内部微小亀裂をもたらす可能性があり、これらはすべて、周期的疲労負荷中に局所応力上昇剤として作用する可能性があり、したがってPEF性能を損なう可能性がある。
【0096】
図4は、同じ引張強度を有し、同様のクリアランスで打ち抜かれたフェライト鋼及び多相鋼(但し、両方の鋼は著しく異なる降伏強さを有している)について、基板SN疲労に対する及びPEFに対する降伏強度(Rp0.2)の影響を示す概略グラフである。知られているように、従来のHSLA鋼のようなフェライト鋼だけでなく本発明で定義されるような単相析出強化鋼は、比較的高い降伏強度を有し、典型的な降伏比は0.85~ほぼ1の範囲である。対照的に、二相(DP)鋼又は複合相(CP)鋼のような多相鋼は、典型的にはかなり低い降伏強度及び典型的に0.5~0.85の範囲の降伏比を有する。一般的な規則は、高い降伏強度を有する鋼は、低い降伏強度を有する鋼よりも実質的に高い基板S-N疲労強度を有するということである。基板S-N疲労の場合、疲労強度は周期的負荷中の核形成及び疲労破損の成長によって支配され、それはそれぞれ鋼シートの表面粗さ及びミクロ組織によって主に制御される。
【0097】
しかしながら、一度鋼シートが打ち抜かれると、穴の周囲における応力集中が鋼シート内の他のどこよりも大きくなる可能性があるので、S-N疲労性能はパンチ穴によって大部分制御される。その結果、鋼シートの穴の隣に疲労亀裂の核生成と成長が起こる。
【0098】
図4に示すように、鋼シートを打ち抜くと、応力寿命(S-N)疲労性能が大幅に低下する。降伏強さが高い鋼は、鋼シートが打ち抜かれると、比較的低い降伏強さを有する鋼よりも疲労性能の大幅な低下を典型的に経験する。その結果が図4に示されている。これは、フェライト鋼及び多相鋼種の応力-寿命疲労曲線がほぼ衝突しているように見え、従来の応力-寿命基板疲労とは対照的に降伏応力曲線の順序が長くなる。その代わりに、打ち抜かれたエッジの状態、すなわち破砕帯の表面粗さ、及び打ち抜かれたエッジ壁に近い鋼シートの内部の歪み及び損傷のような他の要因が、応力寿命PEF曲線の位置を決定する。したがって、ターゲットとなる高強度鋼のPEFが、性能を低下させることなく、あらゆるダウンゲージの可能性を保証するのに十分高いことを確認することが重要である。
【0099】
本発明のナノ析出強化単相フェライト鋼は、高い引張伸び及び高い穴広げ性能と組み合わせて高い強度に適応することができることが表2及び3に既に示されている。対応するミクロ組織は、ポリゴナルフェライトと針状/ベイニティックフェライトの混合物からなる。特に後者のフェライト成分は優れた穴広げ性能を促進するのに必須であると考えられる。先の比較例は、針状/ベイナイト系フェライトを犠牲にして多すぎる割合のポリゴナルフェライトが低すぎるHECをもたらし、したがってパンチ穴が広げられると時期尚早の破壊及び破損をもたらすことを示している。その文脈において、本発明に必要とされる針状/ベイナイト相成分は、鋼シートが打ち抜かれ、切断され又は剪断される場合のように激しい局部的変形を受けた時に鋼シートの損傷抵抗を増加させると考えられる。特に、針状フェライトは鋼中の介在物を核とすることができ、粒状マトリックス中に介在物を局部的に埋め込むことができ、鋼が打ち抜き加工等の間にひどく変形したときにそれらの存在を害することを少なくする。さらに、針状及びベイニットフェライト相成分の微細かつ複雑なフェライト形態は、破壊伝播を抑制すると考えられている。これらの態様は、打ち抜き時の割れにつながる可能性のある(中心線)偏析の防止又は少なくとも抑制、並びに硫化物系及び/又は酸化物系介在物(すなわち介在物)の存在の防止又は少なくとも抑制を伴う。本発明のナノ析出強化単相フェライト鋼の疲労性能の低下を最小限に抑えるためには、最終ミクロ組織の直径が1μm以上であることが重要である。これに関連して、低S含有量は、場合によっては製鋼中のカルシウム処理を回避すること、及びAl系介在物が溶鋼から出て行くのに十分な時間を与えられることを促進することを試みることと組み合わせて、硫化物及び/又は酸化物系介在物の量を減らすのに有益である。また、偏析、特に中心線偏析が抑制されるか又は完全に防止さえされるように製鋼及び鋳造を配置することが本発明にとって有益である。
【0100】
表4は、本発明の比較例及び2つの本発明の実施例に使用したPEF性能及びパンチダイクリアランス(punch-die clearance)を、関連するプロセス条件の表示及び対応する引張特性、穴広げ性能、クリアランス、並びに、EBSD分析から得られたミクロ組織の特徴及び打ち抜きの際の割れの程度の評価に関する情報とともに示す。PEF性能は、ここでは、破損までの繰り返し数1×10における、MPaで表される最大疲労強度σmaxとして、及び、鋼シートの打ち抜きに使用される特定のクリアランス(Cl)での繰り返し数1×10におけるRmに対する最大疲労応力(σmax)の比(パーセント)として測定される。表4に示す鋼シートに使用されたクリアランスは、鋼シート6A及び15Cについては約13%であり、本発明例の鋼シート29Dについては8.7%である。
【0101】
データは、比較例の鋼シート6Aについての、破損までの繰り返し数1×10における最大疲労強度σmaxで表されるPEFが296MPaであるのに対して、実質的に同一の厚さ及び打ち抜きに使用されるクリアランスを有する本発明例の鋼シート15Cについてのそれは314MPaという実質的に高い値であることを示す。比較例の鋼シート6A及び本発明例の鋼シート15Cの、破損までの繰り返し数1×10におけるσmax/Rmの比、すなわち、それぞれ35.2%対37.8%に同じ傾向が当てはまる。6Aを超える鋼シート15Cの改善されたPEF性能は、HECに関して先に論じたのと同様に、S含有量を低く保ち、カルシウム処理を用いなかったという事実、並びに、仕上げ圧延、ROT及びROTを行ったという事実に起因する。巻取り条件は本発明と一致しており、鋼シート15Cの場合、60%以下のPF及び40%以上のAF/BFを有するポリゴナルフェライトと針状/ベイニットフェライトとの混合物からなる所望のミクロ組織をもたらした。別の顕著な観察は、比較例の鋼シート6Aについて広範囲の裂け目が観察されたことであり、パンチ穴の周囲の80~100%を覆っていた。本発明例の鋼シート15Cでは、打抜き後の割れ度は5%以下であった。割れの大幅な減少は、比較例の鋼シート6Aと比較して、本発明例の鋼シート15Cの中心線偏析量の大幅な減少及び比較的大きなAl系介在物の量の減少と関連している。
【0102】
表4は、本発明の実施例29Dに関する詳細も示す。この鋼シートのPEF性能を評価するために、8.7%のクリアランスを使用した。また、この鋼シートは打ち抜き時に割れの痕跡をほとんど又は全く示さず、ポリゴナルフェライトと針状/ベイニットフェライトとの混合物の所望のミクロ組織に基づいて、331MPaという、破損までの繰り返し数1×10における良好なPEF強度を示した。なお、この特定の本発明例は、50%以下のPF及び50%以上のAF/BFを有する。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2-1】
【0105】
【表2-2】
【0106】
【表3-1】
【0107】
【表3-2】
【0108】
【表4】
図1a
図1b
図2
図3
図4