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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】NIR蛍光プローブの改良合成
(51)【国際特許分類】
   A61K 49/00 20060101AFI20220523BHJP
   C07D 471/18 20060101ALI20220523BHJP
   C09B 23/08 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
A61K49/00
C07D471/18
C09B23/08
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019555792
(86)(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2018059083
(87)【国際公開番号】W WO2018189136
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】17166432.9
(32)【優先日】2017-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ルチアーノ・ラットゥアーダ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリカ・ブオンサンティ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・クリヴェッリン
(72)【発明者】
【氏名】フルヴィオ・フェッレッティ
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・マイザノ
(72)【発明者】
【氏名】ラウラ・オーリオ
(72)【発明者】
【氏名】ロレーナ・ピッツート
【審査官】伊藤 基章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/097317(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/288300(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1801086(EP,A1)
【文献】中国特許出願公開第102010614(CN,A)
【文献】STEFANIA, L. et al.,Contrast Media and Molecular Imaging,2011年,Vol. 6, No. 6,pp. 449 - 458
【文献】BAI, M. et al.,Current Medicinal Chemistry,2012年,Vol. 19, No. 28,pp. 4742 - 4758
【文献】CHEVALIER, A. et al.,Organic Letters,2014年,Vol. 16, No. 15,pp. 3946 - 3949
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00
C07D 471/00
C09B 23/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
のcRGD-Cy5.5複合体の製造方法であって、以下の工程:
a)式(II):
【化2】
[式中、Mtrは、2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼン-スルホニル基である。]
の化合物を水素化して、式(III):
【化3】
[式中、Mtrは、上記で定義したとおりである。]
のアミノ誘導体を生成させること;
b)塩基およびカップリング試薬の存在下で、式(III)の化合物を式(IV):
【化4】
の化合物と反応させ、式(V):
【化5】
[式中、Mtrは、上記で定義したとおりである。]
の化合物を生成させること;
c)式(V)の化合物を脱保護して、式(I)の化合物を得ること、
を含む、製造方法。
【請求項2】
式(II)の化合物が溶媒に溶解され、該溶媒がアルコールまたはアルコールの混合物である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
式(II)の化合物が、3~7mMの濃度である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程a)が、溶媒に溶解した式(II)の化合物を水素雰囲気下で金属触媒に流すことにより行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程a)が、18℃~40℃の温度で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程b)が、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、およびアセトニトリルから選択される溶媒の存在下で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
カップリング試薬が、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(ΗATU)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(ΗBTU)、およびプロピルホスホン酸無水物(T3P)からなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
塩基が、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリエチルアミン(TEA)、トリブチルアミン、N-メチルピペリジン、およびN-メチルモルホリンからなる群から選択される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
式(IV)の化合物が、5~10mMの濃度である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
式(IV)の化合物と塩基との比が、1:3~1:6(mol/mol)である、請求項1、8および9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
工程b)が、20℃~25℃の温度で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
式(V)の化合物が、トリフルオロ酢酸/フェノール/チオアニソール/1,2-エタンジチオール/水、トリフルオロ酢酸/チオアニソール/1,2-エタンジチオール/アニソール、および、トリフルオロ酢酸/フェノール/水/トリイソプロピルシランからなる群から選択される酸スカベンジャーカクテルで処理される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
トリフルオロ酢酸、チオアニソール、1,2-エタンジチオール、およびアニソールの比が、70:15:10:5~90:5:3:2である、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
さらなる工程d)精製、を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
式(I)の化合物が、アガロースマトリックス樹脂を用いて行われる陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製される、請求項1および14のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学イメージングの分野に関する。より詳しくは、本発明は、Cy5.5色素部分で標識され、腫瘍および病理学的部位のガイド手術に使用される、アザビシクロアルカンベースの環状ペプチドを含む、近赤外(NIR)蛍光プローブ(「DA364」として知られている)の改良された合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DA364(下記の式I参照)は、手術中のイメージングで効果的に使用されるNIR蛍光剤であり、NIR蛍光イメージングによってガイドされる腫瘍の治療手術中に、腫瘍縁部のリアルタイム検出と境界を提供する。
【化1】
【0003】
DA364の合成(Lanzardo et al、Contrast Media Mol.Imaging 2011、6、449-458参照)は、以下の反応スキーム1:
【化2】
に従い、スクシンイミジルエステル(VI)(Cy5.5-NHS)と、対応するアジド化合物(II)の触媒還元により得られるペプチド模倣体(VII)(アミノ環状cRGD)との反応を含む。
【0004】
しかしながら、この方法は、スケールアップ、時間、コストの面でいくつかの欠点がある。特に、Cy5.5-NHS(VI)の合成は冗長であり、最終的なシアニンNHSエステルの精製が難しく、結果、全体の収率が低下する。さらに、活性化したエステルであるため、不安定であり、乾燥固体として良好に保存できないため、使用直前に合成することを要する。加えて、化合物(IIa)からのアミノ環状cRGD(VII)の合成は、水素化だけでなく、脱保護、および、脱保護化合物(VII)の分取HPLCによる副生成物からの精製という、複数の工程を要する。粗製のDA364もまた、副生成物の存在を避けるために、分取HPLCで精製する必要がある。
【0005】
出願人は、現在、Cy5.5-NHSの代わりにCy5.5-COOH誘導体から出発し、カップリング反応までcRGDアミノ酸の保護基を保持するDA364の改良合成を開発しており、現在の公知の製造方法のいくつかの欠点を克服している。
【0006】
一般に、カップリング試薬の存在下での非活性化カルボン酸とアミンとの直接アミドカップリングは、イメージングプローブの製造のための代替方法として、先行技術で既に開示されており、例えば、Bai M.らのCurr.Med.Chem.2012、19(28)、4742-4758で、引用されている。
【0007】
このアプローチで得られる複合体の例のいくつかは、また、US2014/288300A1で、韓国科学技術研究所の名称において、および、ChevalierらのOrg.Lett.2014、16、3946-3949において、開示されており、HATUまたはPyBOPなどのカップリング剤の存在下での、フルオロフォア-COOHとアミンとの複合体の製造について報告している。
【0008】
しかしながら、上記の欠点を解決し、製造の収率とともに時間とコストを改良することを目的として、このアプローチをDA364の全合成に適用することへの成功の期待を与える手掛かりは、背景技術において見当たらなかった。
【0009】
定義
本明細書において、特に断りのない限り、「カップリング試薬」との用語は、カルボキシル部分とアミノ部分の間のアミド結合の形成に使用される試薬を意味する。この反応は、カルボキシル部分の活性化とアミノ基のアシル化という2つの連続した工程で構成される。カップリング試薬は、通常、それぞれカルボキシル基と反応し、アミノ部分によって攻撃される中間体を与えることが可能な、ホスホニウム、アミニウム、イモニウム、イミド官能基を少なくとも含む。カップリング剤の例は後述する。
【0010】
「無水極性非プロトン性溶媒」との表現には、極性結合による双極性を有するが、H結合に供与できるH原子を有さない比較的大きな誘電率(例えば、>20)を有する乾燥溶媒が含まれる。無水極性非プロトン性溶媒の例としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、アセトニトリルが挙げられる。
【0011】
「酸スカベンジャーカクテル」との表現には、その意味の中に、いくつかの保護基、特に、Mtr(2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼン-スルホニル)、Pmc(2,2,5,7,8-ペンタメチル-6-クロマン-スルホニル)、OtBu(tert-ブチルエステル)、Trt(トリフェニルメチル)、Pbf(2,2,4,6,7-ペンタメチル-2,3-ジヒドロ-1-ベンゾフラン-5-スルホニル)、を取り除くのに適した開裂酸試薬混合物が含まれる。酸スカベンジャーカクテルの例は後述する。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、式(I):
【化3】
のcRGD-Cy5.5複合体の製造方法であって、以下の工程:
a)式(II):
【化4】
[式中、Mtrは、2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼン-スルホニル基である。]
の化合物を水素化して、式(III):
【化5】
[式中、Mtrは、上記で定義したとおりである。]
のアミノ誘導体を生成させること;
b)塩基およびカップリング試薬の存在下で、式(III)の化合物を式(IV):
【化6】
の化合物と反応させ、式(V):
【化7】
[式中、Mtrは、上記で定義したとおりである。]
の化合物を生成させること;
c)式(V)の化合物を脱保護して、式(I)の化合物を得ること、
を含む、製造方法に関する。
【0013】
本発明の目的である新規な合成アプローチは、最終収率が少なくとも12%増加する最も効果的なDA364の製造方法を提供し、工業的規模の生産において特に有利ないくつかの改良をもたらす。
【0014】
実際、Cy5.5-NHSの代わりに、反応性は低いもののより安定なCy5.5-COOH誘導体を選択することにより、分解の問題なく出発物質を保存することができる。
【0015】
さらに、シアニンとcRGDペプチドのカップリングの後のみにアミノ酸保護基を取り除く戦略は、意外にも、いくつかの理由で有益であることが判明した。たとえば、望ましくない副生成物の形成を避ける;精製せずにそのまま使用することで、アジド化合物(II)の精製工程を省く;未反応のシアニンから複合体をクロマトグラフィーにより分離および精製することを容易にし、回収および再利用が容易になり得る。最後に、カップリングは、ホウ酸緩衝液の代わりに無水極性非プロトン性溶媒中で行うことができ、中間体を分解することなく保存する機会をもたらす。
【0016】
上記の複数の成果は、驚くべきことに、従来の教示なしに得られたものである。特に、従来技術には、酸スカベンジャーカクテルの存在下で実施される最終の脱保護工程で適用される強酸条件に対するcRGD-Cy5.5複合体の安定性に関する証拠は見られない。
【0017】
それにもかかわらず、本発明は、強酸性条件の存在下でさえ、DA364を分解することなく良好な収率で得る方法を提供する。
【0018】
さらに、本方法の精製工程は、例えば、カップリングの前の煩わしいHPLC分取工程の除去、またはフラッシュクロマトグラフィーによるより簡単で迅速な精製の追加により、劇的に簡略化される。実際、驚くべきことに、例えば、アガロースマトリックス樹脂を用いて行われる陰イオン交換クロマトグラフィーを使用すると、カップリングしていないシアニンから最終の複合体化合物を分離することが可能であり、それにより、それに続くHPLC精製工程を改良することが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、以下のスキーム2に示すように、当該技術分野においてDA364として知られる、式(I)のcRGD-Cy5.5複合体の製造方法を開示する。
【0020】
【化8】
【0021】
本方法の第1工程は、中間体化合物(II)を水素化し、保護されたcRGD化合物(III)を得ることを含む。Lanzardoらによって開示された方法とは異なり、副生成物の形成を避けるために、化合物(III)のアスパラギン酸およびアルギニンの保護基は除去されず、精製は不要である。アジド化合物(II)は、例えば、ManzoniらのChem.Med.Chem、2009、4、615-632に開示された方法により、合成することができる。
【0022】
このように、工程a)によれば、化合物(II)は、適切な溶媒、好ましくはアルコール、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、t-ブタノール、より好ましくはメタノール、またはそれらの混合物に、溶解される。通常、アジドは、3mM~7mM、好ましくは、5~5.5mM、より好ましくは、5mMの濃度で、溶解することができる。
【0023】
化合物(II)のアジド基から化合物(III)のアミノ基への還元は、水素雰囲気下、室温で、金属触媒(例えば、カートリッジの形態で)に、溶液を流すこと(例えば、0.2~0.8ml/分、好ましくは0.5ml/分)により行うことができる。金属触媒は、パラジウムまたは白金が好ましく、パラジウムがより好ましい。好ましい実施形態では、金属触媒は、適切な支持材、例えば、炭素粉末と、好ましくは金属触媒が5~10重量%となる量で、混合される。
【0024】
反応は、18℃~40℃の温度、好ましくは20℃~30℃、さらには室温(すなわち約22℃)で行うことができる。
【0025】
反応は、フローリアクターシステム(連続モード)、またはバッチ条件で行うことができる。
【0026】
本方法の第2工程は、Cy5.5(中間体化合物(IV))のカルボン酸を化合物(III)のアミノ基にカップリングして、粗製のDA364化合物を得ることを含む。
【0027】
工程b)によれば、カップリングは無水極性非プロトン性溶媒の存在下で行われる。溶媒は、好ましくは、乾燥した、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリジノン、アセトニトリルなどからなる群から選択され、好ましくは、乾燥N,N-ジメチルホルムアミドである。
【0028】
Cy5.5-COOH化合物(IV)は、5~10mM、好ましくは7~9mM、より好ましくは8.6mMの濃度で溶媒に溶解することができる。Cy5.5-COOH化合物(IV)は、商業的に入手可能な化合物である(Lumiprobe、カタログ番号17390)。あるいは、6-アミノ-1,3-ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム塩から出発して、MujumdarらのBioconjugate Chem.1996、7、356-362、および、CN102010614Aに記載された方法に従って、合成することができる。フラッシュクロマトグラフィーにより粗精製でき、分取HPLC精製を必要とする従来技術の方法と比較して、多くの時間を節約することができる。上記のように、Cy5.5-COOH化合物(IV)は対応するエステル(VI)(公知の製造方法で使用)よりも反応性が低く、保存が可能である。
【0029】
中間体化合物(IV)は反応性が比較的低いため、化合物(IV)と化合物(III)の反応を行うために、カップリング試薬の使用を要する。カップリング試薬は、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(BOP)、(ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(ΗATU)、N,N,N’,N’-テトラメチル-O-(1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(ΗBTU)、プロピルホスホン酸無水物(T3P(登録商標))、好ましくはTBTU、からなる群から選択することができる。中間体化合物(IV)とカップリング試薬との比は、1:1~1:5(mol/mol)、好ましくは1:1.5~1:3、より好ましくは約1:2にすることができる。
【0030】
活性化は、反応混合物に塩基を添加することによっても促進される。塩基は、Cy5.5-COOH化合物(IV)のカルボン酸を脱プロトン化するのに加え、残った酸性を中和するpH緩衝剤として有利に作用する。塩基は、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、トリエチルアミン(TEA)、トリブチルアミン、N-メチルピペリジン、またはN-メチルモルホリン、好ましくはN-メチルモルホリン、から選択することができる。中間体化合物(IV)と塩基との比は、1:3~1:6(mol/mol)、好ましくは1:3.5~1:5、より好ましくは約1:4にすることができる。
【0031】
カップリングは、好ましくは、撹拌下、暗所、およびN雰囲気下において、1~8時間、好ましくは3時間で行われる。好ましくは、20℃~25℃の温度、より好ましくは室温で行われる。
【0032】
cRGD化合物(III)の保護基が、cRGD化合物(III)のアルギニンとCy5.5化合物(IV)のカルボキシル基との反応による副生成物の形成を避けるため、提案されたDA364の合成は、非常に特異的である。
【0033】
第3工程は、ペプチド模倣体部分に残るt-ブチルエステルおよび2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼンスルホニル(Mtr)基の脱保護を含み、粗製のDA364を得る。
【0034】
工程c)によれば、官能基脱保護反応は、トリフルオロ酢酸/フェノール/チオアニソール/1,2-エタンジチオール/水、トリフルオロ酢酸/チオアニソール/1,2-エタンジチオール/アニソール、または、トリフルオロ酢酸/フェノール/水/トリイソプロピルシラン、などの有効な酸スカベンジャーカクテルを用いて、好ましくは、トリフルオロ酢酸/チオアニソール/1,2-エタンジチオール/アニソールを、トリフルオロ酢酸、チオアニソール、1,2-エタンジチオール、およびアニソールの比率70:15:10:5~90:5:3:2、好ましくは、90:5:3:2で用いて、公知の技術に従って行うことができる。
【0035】
脱保護は、撹拌下、室温、暗所で1~8時間、好ましくは2時間で行うことができる。
【0036】
工程d)によれば、粗製のDA364の精製は、従来技術の組み合わせにより行われる。好ましくは、陰イオン交換クロマトグラフィー工程とそれに続く分取HPLCとを含む2工程の精製プロセスの後に、純粋なDA364生成物を得ることができる。
【0037】
陰イオン交換クロマトグラフィーの工程は、20mM Tris-HClの緩衝液中で、pH7~8、好ましくは7.5で、0~100%の1M NaClのグラジエントまたはイソクラティック溶出によって、または、好ましくはそれぞれ、10~30%の1M NaCl、70~100%の1M NaCl、および1MのNaClの、30%イソプロパノールによる3段階のイソクラティック溶出によって、行うことができる。陰イオン交換クロマトグラフィー樹脂は、強い陰イオン交換体でも、弱い陰イオン交換体でもよいが、固体マトリックス、好ましくはアガロースビーズに結合した、第四級アンミン基が好ましい。
【0038】
分取HPLCは、0.1%酢酸アンモニウム緩衝液中、0~100%、好ましくは2~95%のアセトニトリルのグラジエントで行うことができる。あるいは、20~30%、好ましくは20%のアセトニトリル、および、70~80%、好ましくは80%の8g/lの酢酸アンモニウムによるイソクラティック溶出により行うことができる。HPLCカラムは、シリカRPカラムであり、フェニル結合相が好ましい。
【0039】
この戦略により、精製工程が軽減され、多くの時間とコストが節約される。
【0040】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。
【実施例
【0041】
実施例1:DA364の合成
材料および装置
DA364の合成に用いた市販の試薬は、すべて、さらに精製することなく使用した。中間体化合物(II)は、アルギニンが、2,2,5,7,8-ペンタメチルクロマン-6-スルホニル(Pmc)保護基の代わりに、2,3,6-トリメチル-4-メトキシベンゼンスルホニル(Mtr)保護基で保護されたこと以外は、ManzoniらのChem.Med.Chem.2009、4、615-632に記載された方法に従って合成した。化合物(IV)は、MujumdarらのBioconjugate Chem.1996、7、356-362、およびCN102010614Aに記載された方法に従って合成し、0.1%ギ酸水溶液中10%~100%のアセトニトリルのグラジエントを用いたCombiflash自動精製システムを使用して、C18カートリッジで粗精製した。
【0042】
水素化工程は、10%Pd/Cカートリッジを有するフローリアクターで行った。
【0043】
反応は、波長220nm、254nm、677nmの吸収の検出器を有するMS-HPLCを使用して、追跡した。
【0044】
最終化合物の精製は、FPLCシステムの後、分取RP-HPLCにより行った。
【0045】
UV-Vis/NIR吸収スペクトルは、Analytic Jena、Specord 200 Plus分光光度計で測定した。
【0046】
DA364の合成
DA364の合成は、スキーム2に従って行う。
水素化
アジド化合物(II)(0.39mmol)をメタノール(80ml)に溶解し、この溶液を水素雰囲気下で10%パラジウムカートリッジに通過させた。2サイクルの後、得られた生成物を収集し、溶液を真空で濃縮した。化合物(III)を、さらに精製することなく使用した。
【0047】
カップリング
粗製の中間体化合物(III)を、化合物(IV)(0.43mmol)、N-メチルモルホリン(1.73mmol)、およびTBTU(0.86mmol)の乾燥ジメチルホルムアミド(50ml)溶液に加えて、濃い青色の溶液を得た。反応物を暗所で、N雰囲気下で3時間撹拌した。反応の完了後、溶媒をエバポレートし、粗生成物を以下に記載するように処理して、さらに精製することなく保護基を除去した。
【0048】
脱保護
要時調製したTFA/スカベンジャーカクテル(トリフルオロ酢酸、チオアニソール、エタンジチオール、アニソール、90:5:3:2、合計20ml)を、上記の工程で得られた粗生成物に加え、混合物を室温、暗所で2時間撹拌した。次いで、反応混合物をエバポレートし、青色の油状物を水(100ml)に溶解し、ジエチルエーテルまたはイソプロピルエーテル(2×30ml)で洗浄した。純粋なDA364生成物は、2段階の精製プロセスの後に得られた。
【0049】
精製
このプロセスは、pH約7の20mM Tris-HCl含有緩衝液中のNaCl線形グラジエントを用いた市販のアガロースマトリックス樹脂(70ml)で行われる陰イオン交換クロマトグラフィーのステップと、酢酸アンモニウム緩衝液中の0~95%アセトニトリルの線形グラジエントを用いたYMC-Triart Phenyl分取カラム(250×50mm)で行われる逆相高速液体クロマトグラフィーのステップと、を含む。
【0050】
精製後、純粋なDA364化合物が、アジド化合物(II)に対して36%の収率(0.14mmol)で、青色の凍結乾燥粉末として得られた。
【0051】
比較例2:DA364の比較合成
DA364を、スキーム1に記載された合成方法に従う、LanzardoらのContrast Media Mol.Imaging、2011、6、449-458に記載された方法に従って得た。
【0052】
材料および装置
合成に用いた市販の試薬は、すべて、さらに精製することなく使用した。中間体化合物(II)は、ManzoniらのChem.Med.Chem.2009、4、615-632に記載された方法に従って合成した。中間体(VII)は、RP-HPLCで精製し、凍結乾燥粉末として次の工程で使用した。
【0053】
水素化工程は、10%Pd/Cカートリッジを有するH-Cube Pro(商標)フローリアクターで行った。
【0054】
カップリング反応は、波長220nm、254nm、677nmの吸収の検出器を有するMS-HPLCを使用して、追跡した。
【0055】
最終化合物の精製は、分取RP-HPLCにより行った。
【0056】
DA364の合成
アジド化合物(II)(1.43mmol)をMeOH(150ml)に溶解し、この溶液を水素雰囲気下で10%パラジウムカートリッジに通過させた。2サイクルの後、得られた生成物を収集した。収集した溶液を真空で濃縮し、要時調製したTFA/スカベンジャーカクテル(トリフルオロ酢酸、チオアニソール、エタンジチオール、アニソール、90:5:3:2、合計20ml)を加えた。混合物を室温、暗所で2時間撹拌した。次に、溶液をエバポレートし、得られた油状物を水(100ml)に溶解し、イソプロピルエーテル(2×30ml)で洗浄した。酢酸アンモニウム緩衝液中の0~95%アセトニトリルの線形グラジエントを用いたYMC-Triart Phenyl分取カラム(250×50mm)によるRP-HPLC精製工程の後、純粋な化合物(VII)(0.65mmol)を得た。
【0057】
凍結乾燥粉末である化合物3(0.65mmol)を100mlのホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9)に溶解し、純粋な化合物(VI)(0.65mmol、スキーム1参照)を溶液に加えた。混合物を室温、暗所で一晩撹拌した。5%酢酸溶液をpH7になるまで加えることにより、反応をクエンチした。酢酸アンモニウム緩衝液中の0~95%アセトニトリルの線形グラジエントで溶出することによるRP-HPLC YMC-Triart Phenyl分取カラム(250×50mm)によって、粗製の濃い青色の反応混合物を精製した。
【0058】
精製後、純粋なDA364化合物が、アジド化合物(II)に対して24%の収率(0.33mmol)で、青色の凍結乾燥粉末として得られた。