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特許7077372光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネル
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  • 特許-光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネル
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20220523BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20220523BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220523BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/02
H05B33/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020141581
(22)【出願日】2020-08-25
(62)【分割の表示】P 2016048809の分割
【原出願日】2016-03-11
(65)【公開番号】P2020201507
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-08-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】飯田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-165185(JP,A)
【文献】特開2003-035820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
H05B 33/02
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に備え、
該第1の光学補償層が、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が230nm~310nmであり、
該第2の光学補償層が、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が100nm~180nmであり、Nz係数が0.3~0.7であり、かつ、Re(450)<Re(550)の関係を満たし、
該第1の光学補償層のNz係数が0.1~0.4であり、該偏光子の吸収軸と該第1の光学補償層の遅相軸とのなす角度が90°±10°であり、および、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度が35°~55°であり、あるいは、
該第1の光学補償層のNz係数が0.6~0.9であり、該偏光子の吸収軸と該第1の光学補償層の遅相軸とのなす角度が0°±10°であり、および、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度が35°~55°であり、
該第1の光学補償層が、ポリアミド、ポリイミド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリビニルアルコール、ポリフマル酸エステル、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ポリウレタンおよびこれらの組み合わせから選択される樹脂で構成された位相差フィルムであり、
有機ELパネルに用いられる、
光学補償層付偏光板:
ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表す。
【請求項2】
請求項1に記載の光学補償層付偏光板を備える、有機ELパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償層付偏光板およびそれを用いた有機ELパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄型ディスプレイの普及と共に、有機ELパネルを搭載したディスプレイ(有機EL表示装置)が提案されている。有機ELパネルは反射性の高い金属層を有するため、外光反射や背景の映り込み等の問題を生じやすい。そこで、円偏光板を視認側に設けることにより、これらの問題を防ぐことが知られている。一般的な円偏光板として、位相差フィルム(代表的には、λ/4板)を、その遅相軸が偏光子の吸収軸に対して約45°の角度をなすように積層したものが知られている。加えて、反射防止特性をさらに改善するために、種々の光学特性を有する位相差フィルム(光学補償層)を積層する試みがなされている。しかし、従来の円偏光板はいずれも、斜め方向の反射率が大きい(すなわち、斜め方向の反射防止特性が不十分である)という問題がある。さらに、従来の円偏光板はいずれも、斜め方向の色相に所望でない色付きがあるという問題も抱えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3325560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、正面方向の優れた反射防止特性を維持しつつ、斜め方向の反射防止特性にも優れ、かつ、斜め方向の色相がニュートラルである光学補償層付偏光板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光学補償層付偏光板は有機ELパネルに用いられる。この光学補償層付偏光板は、偏光子と第1の光学補償層と第2の光学補償層とをこの順に備える。該第1の光学補償層は、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、Re(550)が230nm~310nmであり;該第2の光学補償層は、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、Re(450)<Re(550)の関係を満たす。該第1の光学補償層のNz係数は0.1~0.4であり、該偏光子の吸収軸方向と該第1の光学補償層の遅相軸方向とは実質的に直交しており、および、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度は35°~55°である。あるいは、該第1の光学補償層のNz係数は0.6~0.9であり、該偏光子の吸収軸方向と該第1の光学補償層の遅相軸方向とは実質的に平行であり、および、該偏光子の吸収軸と該第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度は35°~55°である。該第1の光学補償層は、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリビニルアルコール、ポリフマル酸エステル、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、セルロース樹脂、ポリウレタンおよびこれらの組み合わせから選択される樹脂で構成された位相差フィルムである。ここで、Re(450)およびRe(550)は、それぞれ、23℃における波長450nmおよび550nmの光で測定した面内位相差を表す。
1つの実施形態においては、上記第2の光学補償層のRe(550)は100nm~180nmであり、および、Nz係数は0.3~0.7である。
本発明の別の局面によれば、有機ELパネルが提供される。この有機ELパネルは、上記の光学補償層付偏光板を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光学補償層付偏光板において、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、所定の面内位相差を有する第1の光学補償層と、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、逆分散の波長依存性を示す第2の光学補償層とを偏光子側からこの順に配置することにより、正面方向の優れた反射防止特性を維持しつつ、斜め方向の反射防止特性にも優れ、かつ、斜め方向の色相がニュートラルである光学補償層付偏光板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による光学補償層付偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re=(nx-ny)×dによって求められる。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。
(3)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth=(nx-nz)×dによって求められる。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。
(4)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(5)実質的に直交または平行
「実質的に直交」および「略直交」という表現は、2つの方向のなす角度が90°±10°である場合を包含し、好ましくは90°±7°であり、さらに好ましくは90°±5°である。「実質的に平行」および「略平行」という表現は、2つの方向のなす角度が0°±10°である場合を包含し、好ましくは0°±7°であり、さらに好ましくは0°±5°である。さらに、本明細書において単に「直交」または「平行」というときは、実質的に直交または実質的に平行な状態を含み得るものとする。
【0010】
A.光学補償層付偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による光学補償層付偏光板の概略断面図である。本実施形態の光学補償層付偏光板100は、偏光子10と第1の光学補償層30と第2の光学補償層40とをこの順に備える。実用的には、図示例のように、偏光子10の第1の光学補償層30と反対側に保護層20が設けられ得る。また、光学補償層付偏光板は、偏光子10と第1の光学補償層30との間に別の保護層(内側保護層とも称する)を備えてもよい。図示例においては、内側保護層は省略されている。この場合、第1の光学補償層30が内側保護層としても機能し得る。このような構成であれば、光学補償層付偏光板のさらなる薄型化が実現され得る。さらに、必要に応じて、第2の光学補償層40の第1の光学補償層30と反対側(すなわち、第2の光学補償層40の外側)に導電層および基材をこの順に設けてもよい(いずれも図示せず)。基材は、導電層に密着積層されている。本明細書において「密着積層」とは、2つの層が接着層(例えば、接着剤層、粘着剤層)を介在することなく直接かつ固着して積層されていることをいう。導電層および基材は、代表的には、基材と導電層との積層体として光学補償層付偏光板100に導入され得る。導電層および基材をさらに設けることにより、光学補償層付偏光板100は、インナータッチパネル型入力表示装置に好適に用いられ得る。
【0011】
第1の光学補償層30は、屈折率特性がnx>nz>nyの関係を示し、遅相軸を有する。第1の光学補償層30の面内位相差Re(550)は230nm~310nmである。1つの実施形態においては、第1の光学補償層のNz係数は好ましくは0.1~0.4である。この場合、第1の光学補償層30の遅相軸と偏光子10の吸収軸とは、実質的に直交している。別の実施形態においては、第1の光学補償層のNz係数は好ましくは0.6~0.9である。この場合、第1の光学補償層30の遅相軸と偏光子10の吸収軸とは、実質的に平行である。第2の光学補償層40は、屈折率特性がnx>nz>nyの関係を示し、遅相軸を有する。第2の光学補償層40の遅相軸と偏光子10の吸収軸とのなす角度は好ましくは35°~55°であり、より好ましくは38°~52°であり、さらに好ましくは42°~48°であり、特に好ましくは約45°である。上記角度がこのような範囲であれば、優れた反射防止機能を実現することができる。第2の光学補償層40はRe(450)<Re(550)の関係を満たし、その面内位相差Re(550)は好ましくは100nm~180nmである。上記のとおり、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、所定の面内位相差を有する第1の光学補償層と、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、逆分散の波長依存性を示す第2の光学補償層とを偏光子側からこの順に配置することにより、優れた円偏光機能による正面方向の優れた反射防止特性を維持しつつ、斜め方向から見た場合の偏光子の吸収軸の見かけ上の軸ズレによる光漏れ等を防止することにより、斜め方向において優れた反射防止特性を実現し、さらに、斜め方向においてニュートラルな(すなわち、所望でない色付きのない)色相を実現することができる。
【0012】
以下、光学補償層付偏光板を構成する各層および光学フィルムについて詳細に説明する。
【0013】
A-1.偏光子
偏光子10としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0014】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0015】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3~7倍である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0016】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本実施形態においては、延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報に記載されている。当該公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0017】
偏光子の厚みは、好ましくは25μm以下であり、より好ましくは1μm~12μmであり、さらに好ましくは3μm~12μmであり、特に好ましくは3μm~8μmである。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0018】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、好ましくは42.0%~46.0%であり、より好ましくは44.5%~46.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0019】
A-2.第1の光学補償層
第1の光学補償層30は、上述のとおり、屈折率特性がnx>nz>nyの関係を示す。第1の光学補償層の面内位相差Re(550)は、230nm~310nmであり、好ましくは240nm~300nmであり、より好ましくは260nm~280nmである。第1の光学補償層の面内位相差がこのような範囲であれば、第1の光学補償層の遅相軸方向を偏光子の吸収軸方向に対して上記のようにNz係数に応じて実質的に直交または平行とすることにより、偏光子の吸収軸の見かけ上の軸ズレに起因する斜め方向の反射防止機能の低下を防止することができる。
【0020】
第1の光学補償層のNz係数は、1つの実施形態においては、好ましくは0.1~0.4であり、より好ましくは0.2~0.3であり、さらに好ましくは0.23~0.27である。Nz係数は、別の実施形態においては、好ましくは0.6~0.9であり、より好ましくは0.7~0.8であり、さらに好ましくは0.73~0.77である。Nz係数がこのような範囲であれば、第1の光学補償層の遅相軸と偏光子の吸収軸の角度を所定の角度に調整することにより、より優れた斜め方向の反射防止特性を達成し得る。
【0021】
第1の光学補償層は、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長に応じて小さくなる正の波長分散特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。
【0022】
第1の光学補償層は、代表的には、上記特性を実現し得る任意の適切な樹脂で形成された位相差フィルムである。この位相差フィルムを形成する樹脂としては、例えば、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリビニルアルコール、ポリフマル酸エステル、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂およびポリウレタンが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。好ましくは、ポリアリレートまたはポリカーボネート樹脂であり、より好ましくは、ポリカーボネート樹脂または下記式(I)で表されるポリアリレートである。
【化1】
【0023】
式(I)において、AおよびBは、それぞれ、置換基を表し、ハロゲン原子、炭素原子数1~6のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基であり、AおよびBは同一でも異なっていてもよい。aおよびbは、対応するAおよびBの置換数を表し、それぞれ、1~4の整数である。Dは、共有結合、CH基、C(CH基、C(CZ基(ここで、Zはハロゲン原子である)、CO基、O原子、S原子、SO基、Si(CHCH基、N(CH)基である。R1は、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基である。R2は、炭素原子数2~10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、置換若しくは無置換のアリール基である。R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、R3、R4、R5およびR6は同一でも異なっていてもよい。p1は、0~3の整数であり、p2は、1~3の整数であり、nは、2以上の整数である。
【0024】
第1の光学補償層は、例えば、上記樹脂を任意の適切な溶媒に溶解または分散した塗布液を収縮性フィルムに塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を収縮させることにより形成され得る。代表的には、塗膜の収縮は、収縮性フィルムと塗膜との積層体を加熱して収縮性フィルムを収縮させ、このような収縮性フィルムの収縮により塗膜を収縮させる。塗膜の収縮率は、好ましくは0.50~0.99であり、より好ましくは0.60~0.98であり、さらに好ましくは、0.70~0.95である。加熱温度は、好ましくは130℃~170℃であり、より好ましくは150℃~160℃である。1つの実施形態においては、塗膜を収縮させる際に、当該収縮方向と直交する方向に積層体を延伸してもよい。この場合、積層体の延伸倍率は、好ましくは1.01倍~3.0倍であり、より好ましくは1.05倍~2.0倍であり、さらに好ましくは1.10倍~1.50倍である。収縮性フィルムを構成する材料の具体例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアクリル、アセテート樹脂、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、液晶ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。収縮性フィルムは、好ましくは、これらの材料から形成される延伸フィルムである。
【0025】
第1の光学補償層の厚みは、好ましくは10μm~150μmであり、より好ましくは10μm~50μmであり、さらに好ましくは10μm~30μmである。このような厚みであれば、上記所望の面内位相差およびNz係数が得られ得る。
【0026】
A-3.第2の光学補償層
第2の光学補償層40は、上述のとおり、屈折率特性がnx>nz>nyの関係を示す。第2の光学補償層の面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm~180nmであり、より好ましくは110nm~170nmであり、さらに好ましくは120nm~160nmであり、特に好ましくは130nm~150nmである。第2の光学補償層の面内位相差がこのような範囲であれば、第2の光学補償層の遅相軸方向を偏光子の吸収軸方向に対して上記のように35°~55°(特に、約45°)の角度をなすよう設定することにより、優れた反射防止特性を実現することができる。
【0027】
第2の光学補償層は、上記のとおり逆分散波長特性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)の関係を満たす。さらに、第2の光学補償層の面内位相差は、好ましくはRe(550)<Re(650)の関係を満たす。上記のとおり、屈折率特性がnx>nz>nyの関係を示し、かつ、逆分散波長特性を示す第2の光学補償層を有機ELパネル用の円偏光板に採用することにより、斜め方向においてニュートラルな色相を実現することができる。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1未満であり、より好ましくは0.8以上0.95以下である。このような関係を満たすことにより、より優れた反射色相を達成することができる。
【0028】
第2の光学補償層のNz係数は、好ましくは0.3~0.7であり、より好ましくは0.4~0.6であり、さらに好ましくは0.45~0.55であり、特に好ましくは約0.5である。より優れた反射色相を達成し得る。
【0029】
第2の光学補償層は、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10-12(m/N)以上であり、より好ましくは10×10-12(m/N)~100×10-12(m/N)であり、さらに好ましくは20×10-12(m/N)~40×10-12(m/N)である。光弾性係数の絶対値がこのような範囲であれば、小さい厚みでも十分な位相差を確保しつつ有機ELパネルの屈曲性を維持することができ、さらに、屈曲時の応力による位相差変化(結果として、有機ELパネルの色変化)をより抑制することができる。
【0030】
第2の光学補償層は、その吸水率が好ましくは3%以下であり、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2%以下である。このような吸水率を満足することにより、表示特性の経時変化を抑制することができる。なお、吸水率は、JIS K 7209に準拠して求めることができる。
【0031】
第2の光学補償層は、好ましくは、水分およびガス(例えば酸素)に対するバリア性を有する。光学補償層の40℃、90%RH条件下での水蒸気透過率(透湿度)は、好ましくは1.0×10-1g/m/24hr未満である。バリア性の観点からは、透湿度の下限は低いほど好ましい。光学補償層の60℃、90%RH条件下でのガスバリア性は、好ましくは1.0×10-7g/m/24hr~0.5g/m/24hrであり、より好ましくは1.0×10-7g/m/24hr~0.1g/m/24hrである。透湿度およびガスバリア性がこのような範囲であれば、光学補償層付偏光板を有機ELパネルに貼り合わせた場合に、当該有機ELパネルを空気中の水分および酸素から良好に保護し得る。なお、透湿度およびガスバリア性はいずれも、JIS K 7126-1に準じて測定され得る。
【0032】
第2の光学補償層は、そのガラス転移温度(Tg)が好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度の下限は、より好ましくは125℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上であり、特に好ましくは135℃以上である。一方、ガラス転移温度の上限は、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは165℃以下である。耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性があり、又、得られる有機ELパネルの画像品質を下げる場合がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、又フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0033】
第2の光学補償層は、代表的には、上記特性を実現し得る任意の適切な樹脂で形成された位相差フィルムである。この位相差フィルムを形成する樹脂としては、例えば、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリフマル酸エステル、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂およびポリウレタンが挙げられる。これらの樹脂は、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。好ましくは、ポリカーボネート樹脂またはセルロース樹脂である。
【0034】
第2の光学補償層は、例えば、上記樹脂を任意の適切な溶媒に溶解または分散した塗布液を収縮性フィルムに塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を収縮させることにより形成され得る。代表的には、塗膜の収縮は、収縮性フィルムと塗膜との積層体を加熱して収縮性フィルムを収縮させ、このような収縮性フィルムの収縮により塗膜を収縮させる。塗膜の収縮率は、好ましくは0.50~0.99であり、より好ましくは0.60~0.98であり、さらに好ましくは、0.70~0.95である。加熱温度は、好ましくは130℃~170℃であり、より好ましくは150℃~160℃である。1つの実施形態においては、塗膜を収縮させる際に、当該収縮方向と直交する方向に積層体を延伸してもよい。この場合、積層体の延伸倍率は、好ましくは1.01倍~3.0倍であり、より好ましくは1.05倍~2.0倍であり、さらに好ましくは1.10倍~1.50倍である。収縮性フィルムを構成する材料の具体例としては、ポリオレフィン、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース樹脂、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリイミド、ポリアクリル、アセテート樹脂、ポリアリレート、ポリビニルアルコール、液晶ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく組み合わせて用いてもよい。収縮性フィルムは、好ましくは、これらの材料から形成される延伸フィルムである。あるいは、光学補償層は、上記樹脂で形成されたフィルムの片面または両面に例えばアクリル系粘着剤を用いて収縮性フィルムを貼り合せた後、積層体を加熱して当該積層体を収縮させることにより形成され得る。
【0035】
第2の光学補償層の厚みは、好ましくは10μm~150μmであり、より好ましくは10μm~50μmであり、さらに好ましくは10μm~30μmである。このような厚みであれば、上記所望の面内位相差およびNz係数が得られ得る。
【0036】
A-4.保護層
保護層20は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂等が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。このフィルムの材料としては、例えば、側鎖に置換または非置換のイミド基を有する熱可塑性樹脂と、側鎖に置換または非置換のフェニル基ならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物が使用でき、例えば、イソブテンとN-メチルマレイミドからなる交互共重合体と、アクリロニトリル・スチレン共重合体とを有する樹脂組成物が挙げられる。当該ポリマーフィルムは、例えば、上記樹脂組成物の押出成形物であり得る。
【0037】
保護層20には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。さらに/あるいは、保護層20には、必要に応じて、偏光サングラスを介して視認する場合の視認性を改善する処理(代表的には、(楕)円偏光機能を付与すること、超高位相差を付与すること)が施されていてもよい。このような処理を施すことにより、偏光サングラス等の偏光レンズを介して表示画面を視認した場合でも、優れた視認性を実現することができる。したがって、光学補償層付偏光板は、屋外で用いられ得る画像表示装置にも好適に適用され得る。
【0038】
保護層20の厚みは、代表的には5mm以下であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは1μm~500μm、さらに好ましくは5μm~150μmである。なお、表面処理が施されている場合、保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0039】
偏光子10と第1の光学補償層30との間に内側保護層が設けられる場合、当該内側保護層は、光学的に等方性であることが好ましい。本明細書において「光学的に等方性である」とは、面内位相差Re(550)が0nm~10nmであり、厚み方向の位相差Rth(550)が-10nm~+10nmであることをいう。内側保護層は、光学的に等方性である限り、任意の適切な材料で構成され得る。当該材料は、例えば、保護層20に関して上記した材料から適切に選択され得る。
【0040】
内側保護層の厚みは、好ましくは5μm~200μm、より好ましくは10μm~100μm、さらに好ましくは15μm~95μmである。
【0041】
A-5.導電層または基材付導電層
導電層は、任意の適切な成膜方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、イオンプレーティング法、スプレー法等)により、任意の適切な基材上に、金属酸化物膜を成膜して形成され得る。成膜後、必要に応じて加熱処理(例えば、100℃~200℃)を行ってもよい。加熱処理を行うことにより、非晶質膜が結晶化し得る。金属酸化物としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、インジウム-スズ複合酸化物、スズ-アンチモン複合酸化物、亜鉛-アルミニウム複合酸化物、インジウム-亜鉛複合酸化物が挙げられる。インジウム酸化物には2価金属イオンまたは4価金属イオンがドープされていてもよい。好ましくはインジウム系複合酸化物であり、より好ましくはインジウム-スズ複合酸化物(ITO)である。インジウム系複合酸化物は、可視光領域(380nm~780nm)で高い透過率(例えば、80%以上)を有し、かつ、単位面積当たりの表面抵抗値が低いという特徴を有している。
【0042】
導電層が金属酸化物を含む場合、該導電層の厚みは、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは35nm以下である。導電層の厚みの下限は、好ましくは10nmである。
【0043】
導電層の表面抵抗値は、好ましくは300Ω/□以下であり、より好ましくは150Ω/□以下であり、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
【0044】
導電層は、上記基材から第2の光学補償層に転写されて導電層単独で光学補償層付偏光板の構成層とされてもよく、基材との積層体(基材付導電層)として第2の光学補償層に積層されてもよい。代表的には、上記のとおり、導電層および基材は、基材付導電層として光学補償層付偏光板に導入され得る。
【0045】
基材を構成する材料としては、任意の適切な樹脂が挙げられる。好ましくは、透明性に優れた樹脂である。具体例としては、環状オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂が挙げられる。
【0046】
好ましくは、上記基材は光学的に等方性であり、したがって、導電層は等方性基材付導電層として光学補償層付偏光板に用いられ得る。光学的に等方性の基材(等方性基材)を構成する材料としては、例えば、ノルボルネン系樹脂やオレフィン系樹脂などの共役系を有さない樹脂を主骨格としている材料、ラクトン環やグルタルイミド環などの環状構造をアクリル系樹脂の主鎖中に有する材料などが挙げられる。このような材料を用いると、等方性基材を形成した際に、分子鎖の配向に伴う位相差の発現を小さく抑えることができる。
【0047】
基材の厚みは、好ましくは10μm~200μmであり、より好ましくは20μm~60μmである。
【0048】
A-6.その他
本発明の光学補償層付偏光板を構成する各層の積層には、任意の適切な粘着剤層または接着剤層が用いられる。粘着剤層は、代表的にはアクリル系粘着剤で形成される。接着剤層は、代表的にはポリビニルアルコール系接着剤で形成される。
【0049】
図示しないが、光学補償層付偏光板100の第2の光学補償層40側には、粘着剤層が設けられていてもよい。粘着剤層が予め設けられていることにより、他の光学部材(例えば、有機ELセル)へ容易に貼り合わせることができる。なお、この粘着剤層の表面には、使用に供されるまで、剥離フィルムが貼り合わされていることが好ましい。
【0050】
B.有機ELパネル
本発明の有機ELパネルは、有機ELセルと、該有機ELセルの視認側に上記A項に記載の光学補償層付偏光板と、を備える。光学補償層付偏光板は、第2の光学補償層が有機ELセル側となるように(偏光子が視認側となるように)積層されている。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0052】
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205」、ダイヤルゲージスタンド(製品名「pds-2」))を用いて測定した。
(2)位相差
各光学補償層から50mm×50mmのサンプルを切り出して測定サンプルとし、Axometrics社製のAxoscanを用いて測定した。測定波長は450nm、550nm、測定温度は23℃であった。
また、アタゴ社製のアッベ屈折率計を用いて平均屈折率を測定し、得られた位相差値から屈折率nx、ny、nzを算出した。
(3)斜め方向の反射特性
実施例および比較例で得られた光学補償層付偏光板の特性を用いて、シミュレーションした。正面方向(極角0°)および斜め方向(極角60°)について評価した。シミュレーションには、シンテック社製、「LCD MASTER Ver.6.084」を用いた。LCD Masterの拡張機能を使用して、反射特性のシミュレーションを行った。より詳細には、正面反射強度、正面反射色相、斜め反射強度および斜め色相の評価を行った。斜め反射強度は極角60°、方位角45°、135°、225°および315°の4点の平均値を評価した。正面反射色相はニュートラルポイントからのΔu‘v’(ニュートラル)、斜め色相は極角60°、方位角0°~360°におけるカラーシフトΔu‘v’を評価した。
【0053】
[実施例1]
(i)第1の光学補償層の作製
(i-1)ポリアリレートの合成
撹拌装置を備えた反応容器中で、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン27.0kgおよびテトラブチルアンモニウムクロライド0.8kgを、水酸化ナトリウム溶液250Lに溶解させた。この溶液に、テレフタル酸クロライド13.5kgとイソフタル酸クロライド6.30kgを300Lのトルエンに溶解させた溶液を撹拌しながら一度に加え、室温で90分間撹拌して、重縮合溶液とした。その後、前記重縮合溶液を静置分離してポリアリレートを含んだトルエン溶液を分離した。ついで、前記分離液を、酢酸水で洗浄し、さらにイオン交換水で洗浄した後、メタノールに投入してポリアリレートを析出させた。析出したポリアリレートを濾過し、減圧下で乾燥させることで、白色のポリアリレート34.1kg(収率92%)を得た。前記ポリアリレートの前記複屈折率(Δnxz)は、0.012であった。
【0054】
(i-2)位相差層の作製
上記で得られたポリアリレート10kgをトルエン73kgに溶解させ、塗工液を調製した。その後、当該塗工液を、収縮性フィルム(縦一軸延伸ポリプロピレンフィルム、東京インキ(株)製、商品名「ノーブレン」)の上に直接塗工し、その塗膜を乾燥温度60℃で5分間、80℃で5分間乾燥させ、収縮性フィルム/複屈折層の積層体を形成した。得られた積層体を、同時2軸延伸機を用いて、延伸温度155℃でMD方向に収縮倍率0.70、TD方向に1.15倍延伸することで収縮性フィルム上に位相差フィルムを形成した。ついで、当該位相差フィルムを収縮性フィルムから剥離した。位相差フィルムの厚みは15.0μm、Re(550)=272nm、Nz=0.25であった。この位相差フィルムを第1の光学補償層とした。
【0055】
(ii)第2の光学補償層の作製
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。9,9-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)、イソソルビド(ISB)、ジエチレングリコール(DEG)、ジフェニルカーボネート(DPC)、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.348/0.490/0.162/1.005/1.00×10-5になるように仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005~0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0056】
第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、反応液をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット化を行い、BHEPF/ISB/DEG=34.8/49.0/16.2[mol%]の共重合組成のポリカーボネート樹脂を得た。このポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.430dL/g、ガラス転移温度は128℃であった。
【0057】
得られたポリカーボネート樹脂(10kg)を塩化メチレン(73kg)に溶解させ塗工液を調製した。ついで、収縮性フィルム(縦一軸延伸ポリプロピレンフィルム、東京インキ(株)製、商品名「ノーブレン」)の上に当該塗工液を直接塗工し、その塗膜を乾燥温度30℃で5分間、80℃で5分間乾燥させ、収縮性フィルム/複屈折層の積層体を形成した。得られた積層体を、同時2軸延伸機を用いて、延伸温度155℃でMD方向に収縮倍率0.80、TD方向に1.3倍延伸することで収縮性フィルム上に位相差フィルムを形成した。ついで、当該位相差フィルムを収縮性フィルムから剥離した。位相差フィルムの厚みは60.0μm、Re(550)=140nm、Nz=0.5、Re(450)/Re(550)=0.89であった。この位相差フィルムを第2の光学補償層とした。
【0058】
(iii)偏光子の作製
厚み30μmのポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルム(クラレ製、製品名「PE3000」)の長尺ロールを、ロール延伸機により長手方向に5.9倍になるように長手方向に一軸延伸しながら同時に膨潤、染色、架橋、洗浄処理を施し、最後に乾燥処理を施すことにより厚み12μmの偏光子を作製した。
具体的には、膨潤処理は20℃の純水で処理しながら2.2倍に延伸した。次いで、染色処理は得られる偏光子の単体透過率が45.0%になるようにヨウ素濃度が調整されたヨウ素とヨウ化カリウムの重量比が1:7である30℃の水溶液中において処理しながら1.4倍に延伸した。更に、架橋処理は、2段階の架橋処理を採用し、1段階目の架橋処理は40℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.2倍に延伸した。1段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は5.0重量%で、ヨウ化カリウム含有量は3.0重量%とした。2段階目の架橋処理は65℃のホウ酸とヨウ化カリウムを溶解した水溶液において処理しながら1.6倍に延伸した。2段階目の架橋処理の水溶液のホウ酸含有量は4.3重量%で、ヨウ化カリウム含有量は5.0重量%とした。また、洗浄処理は、20℃のヨウ化カリウム水溶液で処理した。洗浄処理の水溶液のヨウ化カリウム含有量は2.6重量%とした。最後に、乾燥処理は70℃で5分間乾燥させて偏光子を得た。
【0059】
(iv)偏光板の作製
上記偏光子の片側に、ポリビニルアルコール系接着剤を介して、TACフィルムの片面にハードコート処理により形成されたハードコート(HC)層を有するHC-TACフィルム(厚み:32μm、保護層に対応する)をロールツーロールにより貼り合わせ、保護層/偏光子の構成を有する長尺状の偏光板を得た。
【0060】
(v)光学補償層付偏光板の作製
上記で得られた偏光板、第1の光学補償層および第2の光学補償層を所定のサイズに裁断し、偏光板の偏光子面と第1の光学補償層とをアクリル系粘着剤を介して貼り合わせ、さらに、第1の光学補償層と第2の光学補償層とをアクリル系粘着剤を介して貼り合わせた。このようにして、保護層/偏光子/第1の光学補償層/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。なお、第1の光学補償層の裁断は、光学補償層付偏光板において偏光子の吸収軸と第1の光学補償層の遅相軸とが実質的に直交するように行った。また、第2の光学補償層の裁断は、光学補償層付偏光板において偏光子の吸収軸と第2の光学補償層の遅相軸とのなす角度が45°となるように行った。
【0061】
(vi)有機ELパネルの作製
得られた光学補償層付偏光板の第2の光学補償層側にアクリル系粘着剤で粘着剤層を形成した。
三星無線社製のスマートフォン(Galaxy-S5)を分解して有機ELパネルを取り出した。この有機ELパネルに貼り付けられている偏光フィルムを剥がし取り、かわりに、上記で切り出した光学補償層付偏光板を貼り合わせて有機ELパネルを得た。
【0062】
得られた光学補償層付偏光板の特性を用いて、上記(3)の反射特性のシミュレーションを行った。結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2]
第1の光学補償層として下記のようにして得られたポリカーボネート系樹脂の位相差フィルムを用いたこと、および、偏光子の吸収軸と第1の光学補償層の遅相軸が実質的に平行となるように貼り合わせたこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第1の光学補償層/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0064】
カーボネート前駆物質としてホスゲン、芳香族2価フェノール成分として(A)2,2-ビス(4- ヒドロキシフェニル) プロパンおよび(B)1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサンを用いて、常法に従い(A):(B)の重量比が4:6であって、重量平均分子量(Mw)60,000である下記式(3)および(4)の繰り返し単位を含むポリカーボネート系樹脂[数平均分子量(Mn)=33,000、Mw/Mn=1.78]を得た。上記ポリカーボネート系樹脂70重量部と、重量平均分子量(Mw)1,300のスチレン系樹脂[数平均分子量(Mn)=716、Mw/Mn=1.78](三洋化成製ハイマーSB75)30重量部とをジクロロメタン300重量部に加え、室温下で4時間攪拌混合して透明な溶液を得た。この溶液をガラス板上にキャストし、室温で15分間放置した後、ガラス板から剥離して、80℃のオーブンで10分、120℃で20分乾燥して、厚み36μm、ガラス転移温度(Tg)が140℃の高分子フィルムを得た。得られた高分子フィルムの波長590nmにおける光透過率は93%であった。また、上記高分子フィルムの面内位相差値:Re(590)は5.0nm、厚み方向の位相差値:Rth(590)は12.0nmであった。平均屈折率は、1.576であった。
【0065】
【化2】
【0066】
上記高分子フィルム(厚み36μm)の両側に、二軸延伸ポリプロピレンフィルム[東レ製、商品名「トレファン」(厚み60μm)]を、アクリル系粘着剤層(厚み15μm)を介して貼り合せた。その後、ロール延伸機でフィルムの長手方向を保持して、147℃の空気循環式恒温オーブン内で1.49倍に延伸した。得られた位相差フィルムは、厚みは40μm、Re(550)=270nm、Nz=0.75であった。
【0067】
[実施例3]
第2の光学補償層として下記のようにして得られた酢酸セルロース樹脂の位相差フィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第1の光学補償層/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0068】
酢酸セルロース樹脂フィルム(220×120mm、厚み50μm)の両面に、同じ大きさの収縮性フィルム(PPの二軸延伸フィルム、厚み60μm)をアクリル系粘着剤を用いて貼り合わせ、積層体を得た。その後、バッチ式同時二軸延伸機を用いて、120℃で、前記積層体を0.7倍に収縮させることによって前記酢酸セルロース樹脂フィルムを収縮させると同時に、前記積層体を前記酢酸セルロース樹脂フィルムの収縮方向と直交する方向に2.0倍に延伸することにより複屈折層を形成した。ついで、前記複屈折層を、前記収縮性フィルムから剥離した。前記複屈折層の厚みは50μm、Re(550)=140nm、Nz=0.5、Re(450)/Re(550)=0.93であった。この位相差フィルムを第2の光学補償層とした。
【0069】
[比較例1]
第2の光学補償層を積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第1の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2]
第1の光学補償層を積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0071】
[比較例3]
市販のシクロオレフィン系フィルム(JSR社製、製品名「アートン」)に収縮処理を施し、nx>nz>nyの屈折率特性を示し、かつ、Re(450)/Re(550)=1.00およびRe(550)=140nmである位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを第2の光学補償層として用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第1の光学補償層/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0072】
[比較例4]
実施例2で使用したポリカーボネートフィルムを自由端延伸して、Re=270nm、Nz=1.0(nx>ny=nz)の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを第1の光学補償層として用いたこと以外は実施例1と同様にして、保護層/偏光子/第1の光学補償層/第2の光学補償層の構成を有する光学補償層付偏光板を得た。さらに、この光学補償層付偏光板を用いたこと以外は実施例1と同様にして有機ELパネルを作製した。得られた光学補償層付偏光板および有機ELパネルを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の実施例の光学補償層付偏光板は、正面方向の優れた反射防止特性を維持しつつ、斜め方向の反射防止特性も優れたものとすることができ、かつ、斜め方向の色相をニュートラルにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の光学補償層付偏光板は、有機ELパネルに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0076】
10 偏光子
20 保護層
30 第1の光学補償層
40 第2の光学補償層
100 光学補償層付偏光板
図1