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特許7077377免疫チェックポイントモジュレーターの発現用腫瘍溶解性ウイルス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】免疫チェックポイントモジュレーターの発現用腫瘍溶解性ウイルス
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/768 20150101AFI20220523BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220523BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220523BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
A61K35/768
A61K39/395 N
A61P11/00
A61P13/08
A61P13/12
A61P35/00
A61P17/00
A61P15/00
C12N15/13
【請求項の数】 26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020163305
(22)【出願日】2020-09-29
(62)【分割の表示】P 2017502212の分割
【原出願日】2015-07-16
(65)【公開番号】P2021006048
(43)【公開日】2021-01-21
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】14306153.9
(32)【優先日】2014-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599082883
【氏名又は名称】トランジェーヌ
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ナタリー、シルベストル
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル、ジェイスト
(72)【発明者】
【氏名】カローラ、リットナー
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-バティスト、マルシャン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーヌ、チウデレ
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/047350(WO,A1)
【文献】特表2011-504104(JP,A)
【文献】Bauzon M et al.,Armed therapeutic viruses - a disruptive therapy on the horizon of cancer immunotherapy,Frontiers in Immunology,2014年02月,5,74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N、A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容可能な賦形剤とゲノム内に挿入された、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子を含んでなる腫瘍溶解性ウイルスの有効量とを含む、癌を治療するための医薬組成物であって、前記腫瘍溶解性ウイルスがJ2Rウイルス性遺伝子中の不活性化突然変異に起因するチミジンキナーゼ(TK)の欠損を有するワクシニアウイルスであり、前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、BTLAおよびCTLA4のいずれかに特異的に結合するモノクローナル抗体から選択される、前記医薬組成物
【請求項2】
前記ワクシニアウイルスが、ウイルス性I4L遺伝子および/またはF4L遺伝子中の不活性化突然変異に起因するリボヌクレオチドレダクターゼ(RR)の欠損をさらに有する、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、ウイルス性ゲノム内に挿入された少なくとも1つの治療遺伝子をさらに含んでなる、請求項1または2に記載の医薬組成物
【請求項4】
前記治療遺伝子が、自殺遺伝子産物をコードする遺伝子および免疫刺激性タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項3に記載の医薬組成物
【請求項5】
前記自殺遺伝子が、シトシンデアミナーゼ(CDase)活性、チミジンキナーゼ活性、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)活性、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性、チミジレートキナーゼ活性、ならびにCDase活性およびUPRTase活性の両方を有するタンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記自殺遺伝子産物がcodA::upp、FCY1::FUR1およびFCY1::FUR1[デルタ]105(FCU1)およびFCU1~8ポリペプチドからなる群から選択される、請求項5に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスが、TK活性およびRR活性の両方を欠損しており、かつそのゲノム内に挿入された治療用FCU1自殺遺伝子を含んでなる、請求項4または5に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記免疫刺激性タンパク質が、インターロイキンまたはコロニー刺激性因子である、請求項4に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記腫瘍溶解性ワクシニアウイルスが、TK活性を欠損しており、かつそのゲノム内に挿入された治療用ヒトGM-CSFを含んでなる、請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、PD-1、PD-L1およびCTLA4のいずれかに特異的に結合するものクローナル抗体から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記ヒトPD-1に特異的に結合する抗体が、ニボルマブ(Nivolumab)、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab)およびピディリズマブ(Pidilizumab)からなる群から選択される、請求項11に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記ヒトPD-L1に特異的に結合する抗体が、MPDL3280AおよびBMS-936559からなる群から選択される、請求項13に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、ヒトCTLA-4に特異的に結合する抗体を含んでなる、請求項10に記載の医薬組成物
【請求項16】
前記ヒトCTLA-4に特異的に結合する抗体が、イピリムマブ(Ipilimumab)、トレメリムマブ(Tremelimumab)および一本鎖抗CTLA4抗体からなる群から選択される、請求項15に記載の医薬組成物
【請求項17】
前記抗体の重鎖またはその断片の発現が、前記抗体の軽鎖またはその断片の発現に用いられるものより強いプロモーターの制御下に置かれる、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記重鎖の発現に用いられるプロモーターが、前記軽鎖の発現と比べて少なくとも10%多くの生成物を提供する、請求項17に記載の医薬組成物
【請求項19】
・前記重鎖の発現に用いられるプロモーターが、CMV、RSVならびにワクシニアウイルスpH5Rおよびp11K7.5プロモーターから選択され、かつ/または
・前記軽鎖の発現に用いられるプロモーターが、PGK、β-アクチンならびにワクシニアウイルスp7.5KおよびpA35Rプロモーターから選択される、
請求項17または18に記載の医薬組成物
【請求項20】
10pfu~5×10pfuの前記腫瘍溶解性ウイルスを含んでなる、請求項1~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
非経口投与用に製剤化された、請求項1~19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記癌が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、大腸癌、肺癌および肝臓癌からなる群から選択される、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項23】
前記腫瘍溶解性ウイルスが、静脈内または腫瘍内の経路によって投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項24】
1または2週間間隔で、10または10pfuの腫瘍溶解性ウイルスを2~5回静脈内投与または腫瘍内投与することを含んでなる、請求項23に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項25】
前記治療が、プロドラッグおよび/または抗癌治療において効果的な物質の投与をさらに含んでなる、請求項1~24のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項26】
増殖性疾患の治療のための医薬組成物の製造のための、ゲノム内に挿入された、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子を含んでなる腫瘍溶解性ウイルスであって、J2Rウイルス性遺伝子中の不活性化突然変異に起因するチミジンキナーゼ(TK)の欠損を有するワクシニアウイルスであり、前記1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターが、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、BTLAおよびCTLA4のいずれかに特異的に結合するモノクローナル抗体から選択される腫瘍溶解性ウイルスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、腫瘍溶解性ウイルス療法の分野、より具体的には、増殖性疾患、特に癌の治療、予防、または阻害のための組成物および方法に関する。態様としては、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードするヌクレオチド配列を含んでなる腫瘍溶解性ウイルスを含む。態様としては、このような腫瘍溶解性ウイルスおよび、最終的には薬学的に許容可能な賦形剤を含んでなる医薬組成物、ならびに癌等の増殖性疾患の治療のためのその使用も含む。
【0002】
癌は、外的要因(例えば、タバコ、感染性微生物、食生活、化学薬品および放射線)および内的要因(例えば、遺伝的突然変異、ホルモン、免疫状態および代謝により生じる突然変異)の両方によって引き起こされる。癌は、毎年、世界中で1200万を超える対象において診断されている。先進国においては、およそ5人に1人が癌で死亡している。膨大な数の化学療法が存在しているにもかかわらず、これらは、特に、疾患の非常に早い段階で構築される悪性および転移性腫瘍に対してしばしば効果を示さない。さらに、抗腫瘍免疫は、腫瘍細胞が宿主防衛を回避するメカニズムを進化させたため、しばしば効果を示さない。免疫抑制の主要なメカニズムの一つは、抗原への慢性露出に起因し、抑制受容体の上方調節によって特徴付けられる「T細胞疲弊」として知られている方法である。これら抑制受容体は、制御されていない免疫反応を防止するために免疫チェックポイントとしての役割を果たす。プログラム化された細胞死タンパク質(PD-1)ならびにそのリガンドであるPD-L1およびPD-L2、CTLA-4(細胞傷害性T-リンパ球関連タンパク質-4)、LAG3、BおよびTリンパ球アテニュエーター、T細胞免疫グロブリン、ムチンドメイン含有タンパク質3(TIM-3)およびT細胞活性化のV-ドメイン免疫グロブリンサプレッサーを含む、T細胞免疫の異なるレベルで活動する多様な免疫チェックポイントが文献において記載されてきた。
【0003】
活性のメカニズムが何であれ、これら免疫チェックポイントは、効果的な抗腫瘍免疫反応の進行を阻害することができる。腫瘍に対する免疫システム耐性を阻害し、疲弊した抗腫瘍T細胞を救済する手段として、このような免疫チェックポイントを遮断する潜在的な治療の利点に関心が高まっている(Leach et al., 1996, Science 271: 1734-6)。この10年間で、膨大な数のアンタゴニスト抗体が開発され(例えば、抗Tim3、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗PD1等)、何よりも最も重要なことは、幾つかは、癌患者において目的の臨床反応に関係してきたことである。CTLA-4を標的とする抗体は、転移性黒色腫用に既に市場で販売されている(例えば、イピリムマブ(Ipilimumab)、Yervoy、Bristol-Myers Squibb)。BMSは、イピリムマブで治療された1800人の黒色腫患者のうち、22%は3年後に依然として生存率していると報告した。抗PD-L1(例えば、MPDL3280A、Roche)、抗PD-1(例えば、ニボルマブ(Nivolumab)、BMS)による抗体治療も進行中である。
【0004】
癌の分野で現れた別の治療的アプローチは、腫瘍溶解性ウイルスである(Hermiston, 2006, Curr. Opin. Mol. Ther. 8: 322-30)。腫瘍溶解性ウイルスは、非分裂細胞(例えば、正常細胞)を損傷しないまま、分裂細胞(例えば、癌細胞)中で選択的に複製することができる。感染した分裂細胞が溶解によって破壊されることにより、それらは、新しい感染性ウイルス粒子を放出し、周囲の分裂細胞を感染させる。癌細胞は、不活性化された抗ウイルス性インターフェロン経路を有するか、または、妨害されずにウイルス性複製の進行を可能とする、突然変異した腫瘍抑制遺伝子を有するため、多くのウイルスにとって理想的な宿主である(Chernajovsky et al., 2006, British Med. J. 332: 170-2)。アデノウイルス、レオウイルス、麻疹、単純ヘルペス、ニューカッスル病ウイルスおよびワクシニアを含む多数のウイルスが、現在、腫瘍溶解性薬剤として臨床的に試験されてきた。
【0005】
自然に腫瘍溶解性であるウイルス(レオウイルスおよびセネカバレー(Seneca valley)ピコルナウイルス等)もあれば、ウイルスゲノムを改変することによって腫瘍選択性用に操作されたものもある。このような改変は、必須のウイルス遺伝子中の機能的欠失、ウイルス遺伝子の発現を制御するための腫瘍特異的または組織特異的プロモーターの使用、およびウイルスを癌細胞表面へ向け直すための向性の改変を含む。
【0006】
規制機関によって認可された最初の腫瘍溶解性ウイルスは、H101と名付けられた遺伝子改変アデノウイルス(Shanghai Sunway Biotech)であり、頭部癌および頸部癌の治療用として、中国国家食品薬品監督管理局(SFDA)から2005年に認可を得た。ONYX-015と名付けられた別の腫瘍溶解性アデノウイルスは、様々な固体腫瘍の治療用として、進行中の臨床試験を受けている(再発性の頭部癌および頸部癌の治療のための第III段階)(Cohen et al., 2001, Curr. Opin. Investig. Drugs 2: 1770-5)。別の例として、腫瘍溶解性単純ヘルペス1型(T-VEC)が遺伝子操作され、ウイルスの病原性を弱力化され、癌細胞への選択性を増大され、かつ(GM-CSF発現を介した)抗腫瘍免疫反応を強化された。切除不能な黒色腫における臨床効果が、第II段階および第III段階臨床試験において実証された(Senzer et al, 2009, J.Clin. Oncol. 27: 5763-71)。
【0007】
ワクシニアウイルス(VV)は、腫瘍に対する自然向性、強い溶解能、細胞から細胞への迅速な拡散を伴う短い寿命、高効率の遺伝子発現および高いクローン作製能力等の、腫瘍溶解性ウイルス療法における使用で必要な鍵となる特質を多く保有する。また、ワクシニアウイルスは、大きな安全上の懸念なしに、天然痘撲滅キャンペーンの間、何百万もの個人に送達されてきた。この点に関して、GM-CSFを発現する、TKおよびVGFの二つを欠失したVV(Wyeth株)(JX-963と名付けられている)は、腫瘍を有するマウスにおいて顕著な癌選択性を示した(Thorne et al., 2007, J Clin Invest. 117: 3350-8)。同じように、GM-CSFを有するTK-欠失VV(Wyeth株)である、JX-594は、有望な臨床データを示し、肝細胞癌中でのランダム化した第III段階試験が、近いうちに開始されると期待されている。
【0008】
文献において、腫瘍溶解性ウイルスおよび免疫チェックポイント阻害剤を含む併用治療が記載されてきた。WO2014/022138には、膀胱癌または前立腺癌の治療に用いるための、放射線を照射した腫瘍細胞、腫瘍溶解性アデノウイルスおよび抗CTLA4抗体の組合せが記載されている。WO2014/047350においては、ウイルスゲノムに挿入された抗PD-1抗体をコードする遺伝子を有する組み換え腫瘍溶解性ウイルスが想定されているが、そのような腫瘍溶解性ウイルスの有用性を裏付ける実施例が一切提供されていない。
【0009】
[技術的課題]
癌の進展を開始または促進させるために共にまたは別々に作用するかもしれない決定的な因子が多いため、癌は、何年も深刻で世界的な健康への脅威であり続けると予想される。さらに、悪性および特に転移性腫瘍は、しばしば、従来の療法に対して耐性であり、幾つかの癌の顕著な死亡率を裏付けている。
【0010】
従って、そのような増殖性疾患、特に転移性癌の予防および治療を改善するための、より効果的なアプローチを開発する重要な必要性がある。本発明は、分裂細胞を破壊するための腫瘍溶解性物と癌関連免疫耐性を破るための免疫チェックポイントを組合せた独自の生成物を提供する。
【0011】
この技術的課題は、請求項で定義された態様を提供することによって解決される。
【0012】
本発明の他の、およびさらなる側面、特徴および有利性は、本発明の現在の好ましい態様についての以下の記載から明白となるだろう。これらの態様は、開示を目的として提供される。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、そのゲノム内に挿入された、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする1つ以上の核酸分子を含んでなる腫瘍溶解性ウイルスに関する。
【0014】
腫瘍溶解性ウイルスは、好ましくは、レオウイルス、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、水胞性口炎ウイルス(VSV)、麻疹ウイルス、インフルエンザウイルス、シンビス(Sinbis)ウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルスおよびヘルペスウイルス(HSV)等からなる群から選択される。一つの態様において、腫瘍溶解性ウイルスは、ワクシニアウイルスである。好ましい態様において、ワクシニアウイルスは、チミジンキナーゼ活性を失うように操作される(例えば、当該VVのゲノムは、J2R遺伝子中に不活性化突然変異を有し、欠損TK表現型を生成する)。代替的にもしくは組合せて、ワクシニアウイルスは、RR活性を失うように操作される(例えば、当該VVのゲノムは、I4Lおよび/またはF4L遺伝子中に不活性化突然変異を有し、欠損RR表現型を生成する)。
【0015】
一つの態様において、ワクシニアウイルスは、少なくとも1つの治療遺伝子、具体的には、自殺遺伝子産物および/または免疫刺激タンパク質をコードする遺伝子をさらに発現する。
【0016】
一つの態様において、コードされる1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、PD-1、PD-L1またはCTLA4の活性と拮抗するアンタゴニスト分子、特に好ましくは抗PD-1抗体および/または抗CTLA4抗体である。
【0017】
本発明は、さらに、最終的には薬学的に許容可能な賦形剤を伴う、当該腫瘍溶解性ウイルスを含んでなる組成物を提供する。一つの態様において、組成物は、静脈内または腫瘍内投与用に製剤化される。
【0018】
本発明は、増殖性疾患を治療するための前記腫瘍溶解性ウイルスまたはそれらの組成物の使用、および、前記腫瘍溶解性ウイルスまたはそれらの組成物の有効量を投与することによる治療方法にも関する。一つの態様において、本発明の方法によって治療される増殖性疾患は癌であり、特に黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、乳癌、大腸癌、肺癌および肝臓癌である。一つの態様において、使用または方法は、プロドラッグの薬学的に許容可能な量が哺乳類に投与される追加ステップを含んでなる。前記プロドラッグの投与は、好ましくは、前記腫瘍溶解性ウイルスまたはウイルス組成物の投与から少なくとも3日後に行われる。
【発明の詳細な説明】
【0019】
本発明は、そのゲノム内に挿入された、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする1つ以上の核酸分子を含んでなる腫瘍溶解性ウイルスに関する。
【0020】
定義
本願全体で使用される用語「1つ(a)」および「1つ(an)」は、本文が明確に他を指示していない限り、言及された構成要素またはステップの「少なくとも1つ」、「少なくとも第一」、「1つ以上」または「複数」を意味するという意義で使用される。例えば、用語「1つの細胞(a cell)」は、それらの混合物を含む、複数の細胞が包含される。
【0021】
用語「1つ以上」とは、1または1より大きい数(例えば、2、3、4、5等)を意味する。
【0022】
用語「および/または」は、本明細書のどこで使用されても、「および」、「または」および「当該用語によって接続された要素の全てまたは任意の他の組合せ」の意味を含む。
【0023】
本明細書で使用される用語「約」または「およそ」は、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0024】
本明細書で使用される場合、用語「含んでなる(comprising)」(および、「含んでなる(compriseおよびcomprises)」等の、「含んでなる(comprising)」の任意の形態)、「有する(having)」(および「有する(haveおよびhas)」等の、「有する(having)」の任意の形態)、「含む(including)」(および、「含む(includesおよびinclude)」等の、「含む(including)」の任意の形態)または「含有する(containing)」(および、「含有する(contains およびcontain)等の「含有する(containing)」の任意の形態)は、生成物、組成物および方法を定義する際に用いる場合、オープンエンドであり、追加的な要素、未記載の要素または方法ステップを除外しない。従って、アミノ酸配列がポリペプチドの最終アミノ酸配列の一部であるかもしれない場合、ポリペプチドはアミノ酸配列を「含んでなる」。そのようなポリペプチドは、最大数百個の追加的アミノ酸残基を有し得る。「~から本質的になる(consisting essentially of)」とは、任意の本質的な意義の他の成分またはステップを除外することを意味する。従って、記載された成分から本質的になる組成物は、微量混入物質および薬学的に許容可能な担体を除外するものではない。アミノ酸配列が、最終的にわずかな追加的アミノ酸残基で存在する場合、ポリペプチドは、アミノ酸配列から「本質的になる」。「~からなる(consisting of)」とは、他の成分またはステップの微量要素をも除外することを意味する。例えば、ポリペプチドが、記載されたアミノ酸配列以外の任意のアミノ酸を含まない場合、ポリペプチドは、アミノ酸配列「からなる」。
【0025】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」とは、ペプチド結合を介して結合した少なくとも9個以上のアミノ酸を含んでなる、アミノ酸残基のポリマーを意味する。ポリマーは、直鎖状、分岐状または環式であってもよく、天然由来のおよび/またはアミノ酸の類似体を含んでなってもよく、非アミノ酸によって中断されていてもよい。一般的指示として、アミノ酸ポリマーが、50個を超えるアミノ酸残基である場合、好ましくは、ポリペプチドまたはタンパク質として言及され、一方で50個以下のアミノ酸の長さである場合、「ペプチド」として言及される。
【0026】
本発明の文脈の範囲において、用語「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」および「ヌクレオチド配列」は、互換的に用いられ、ポリデオキシリボヌクレオチド(DNA)(例えば、cDNA、ゲノムDNA、プラスミド、ベクター、ウイルスゲノム、単離DNA、プローブ、プライマーおよびそれらの任意の混合物)またはポリリボヌクレオチド(RNA)(例えば、mRNA、アンチセンスRNA、SiRNA)または混合ポリリボポリデオキシリボヌクレオチドのいずれかの任意の長さのポリマーを定義する。それらは、一本鎖または二本鎖、直鎖状または環状、天然または合成、修飾または非修飾のポリヌクレオチドを含む。さらに、ポリヌクレオチドは、非天然由来のヌクレオチドを含んでなってもよく、非ヌクレオチド成分によって中断されてもよい。
【0027】
本明細書で使用される用語「類似体」または「変異体」とは、天然の対応物に対して、1つ以上の改変を発現している分子(ポリペプチドまたは核酸)を意味する。1つ以上のヌクレオチド/アミノ酸残基の置換、挿入および/または欠失を含む、任意の組換えが想定され得る。好ましくは、天然の対応物の配列と、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも98%の同一性の配列同一性の程度を有する類似体である。
【0028】
一般的な様式において、用語「同一性」とは、2つのポリペプチドまたは核酸配列間の、アミノ酸対アミノ酸またはヌクレオチド対ヌクレオチドの対応を意味する。2つの配列間の同一性のパーセンテージは、最適なアラインメントのために導入する必要があるギャップの数とそれぞれのギャップの長さとを考慮した、両配列で共有される同一位置の数の関数である。当技術分野において、例えば、NCBIで入手可能なBlastプログラムまたはAtlas of Protein Sequence and StructureのALIGN(Dayhoffed, 1981, Suppl., 3: 482-9)等の、アミノ酸配列間の同一性のパーセンテージを決定するための、多様なコンピュータープログラムおよび数学的アルゴリズムが入手可能である。ヌクレオチド配列間の同一性を決定するためのプログラムも、専門的データベース(例えば、Genbank, the Wisconsin Sequence Analysis Package, BESFIT, FASTAおよびGAPプログラム)において入手可能である。例証目的として、「少なくとも80%同一性」とは、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%を意味する。
【0029】
本明細書で使用される用語「単離された」とは、その自然環境から除去された(即ち、自然的に結びついているかまたは自然界で一緒に見つけられる、少なくとも1つの他の成分から分離された)、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター等を意味する。例えば、ヌクレオチド配列は、自然界で通常結びついている配列から分けられた(例えば、ゲノムから分離した)場合、単離されるが、異種の配列と結びついてもよい。
【0030】
用語「~から得られる(obtained from)」、「~に由来している(originating)」または「~に由来する(originate)」とは、要素の起源(例えば、ポリペプチド、核酸分子)を特定するために用いられ、例えば、化学合成または組換え方法等であり得る、要素が作製される方法を限定することを意図するものではない。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「宿主細胞」とは、組織、器官または単離細胞内の特定の組織に関係していると制限されることなく広く理解されるべきである。そのような細胞は、培養された細胞株、初代細胞および分裂細胞等の、単一のタイプの細胞または異なるタイプの細胞のグループであってもよい。本発明の文脈において、用語「宿主細胞」とは、原核細胞、酵母等の下等真核細胞および昆虫細胞等の他の真核細胞、植物および哺乳類(ヒトまたは非ヒト)細胞、同様に、本発明において用いられる腫瘍溶解性ウイルスおよび/または免疫チェックポイントモジュレーターを生成できる細胞を含む。この用語は、本明細書で記載されたベクターの受容体となり得るかまたはベクターの受容体であった細胞と同様にそのような細胞の子孫も含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「腫瘍溶解性ウイルス」とは、非分裂細胞中で複製を全く示さずに、または最小限に示すが、in vitroまたはin vivoのいずれかで、分裂細胞の成長および/または溶解を遅延させる目的を有する、分裂細胞(例えば、癌細胞等の増殖性細胞)中で選択的に複製することができるウイルスを意味する。典型的には、腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルス粒子(またはビリオン)にパッケージされたウイルスゲノムを含み、感染性である(即ち、宿主細胞または対象を感染させるかまたはその内部に侵入することができる)。本明細書で使用される場合、この用語は、DNAまたはRNAベクター(対象のウイルスに応じて)、同様に、それらから発生したウイルス粒子を含む。
【0033】
本明細書で使用される用語「治療(treatment)」(および、「治療すること(treating)」または「治療する(treat)」等の、治療(treatment)の任意の形態)は、最終的に従来の治療様式と併合して、予防(例えば、治療されるべき病態を有する危険性がある対象における予防的手段)および/または療法(例えば、病態を有していると診断された対象において)を含む。治療の結果は、標的の病態の進行を遅延させ、治癒し、改善しまたは制御することである。例えば、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスの投与後に、対象が臨床状態の目に見える改善を示した場合、対象の癌治療は成功したことになる。
【0034】
本明細書で使用される用語「投与する(administering)」(および、「投与された(administered)等の投与(administration)の任意の形態」とは、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルス等の治療薬を対象へ送達することを意味する。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「増殖性疾患」は、癌を含む、制御されていない細胞の増殖および伝播に起因する任意の疾患または状態、同様に、破骨細胞活性の増大に関連した疾患(例えば、関節リウマチ、骨粗しょう症等)および循環器疾患(血管壁の平滑筋細胞の増殖に起因する再狭窄等)を含む。用語「癌」は、「腫瘍」、「悪性腫瘍」、「新生物」等の任意のいずれかの用語と互換的に用いられ得る。これら用語は、組織、器官または細胞の任意のタイプ、悪性腫瘍の任意のステージ(例えば、病変前からステージIVまで)を含むと意図されている。
【0036】
用語「対象」とは、概して、本発明の任意の生成物および方法を必要とするかまたは有益とし得る生体を意味する。典型的には、生体は、哺乳類、具体的には家庭内動物、家畜、競技用動物、霊長類からなる群から選択される哺乳類である。好ましくは、対象は、癌等の増殖性疾患を有するかまたは有する危険性があると診断されたヒトである。用語「対象」および「患者」は、ヒト生体を指す場合、互換的に用いられてもよく、男性および女性を含む。治療される対象は、新生児、幼児、若年成人または成人であり得る。
【0037】
本明細書で使用される用語「組合せ」または「関連」とは、多様な成分の任意の可能性のある取り合わせである(例えば、腫瘍溶解性ウイルスおよび抗癌治療において効果的な1つ以上の物質)。そのような取り合わせは、当該成分の混合物、同様に、同時または連続的投与用に個別の組合せを含む。本発明は、各成分の等モル濃度を含んでなる組合せ、同様に、大きく異なる濃度での組合せを含む。組合せの各成分の最適な濃度は、当業者によって決定することができると理解される。
【0038】
用語「免疫チェックポイントモジュレーター」とは、積極的または消極的様式で免疫チェックポイントタンパク質の機能を調節できる分子を意味する(具体的には、抗原提示細胞(APC)または癌細胞とTエフェクター細胞との間の相互作用)。用語「免疫チェックポイント」とは、正常生理学的状態下で、制御されていない免疫反応を予防し、自己寛容および/または組織保護の維持のために極めて重要な免疫経路に直接的または間接的に関与するタンパク質を意味する。本発明で使用される1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、抗原特異的細胞のクローン選択、T細胞活性化、増殖、抗原および炎症部位への輸送、直接エフェクター機能の実行およびサイトカインおよび膜リガンドを介したシグナリングを含むT細胞媒介免疫の任意のステップで独立して作用し得る。これらの各ステップは、正常状態(in fine)で反応を調整する、促進的および阻害的シグナルを拮抗させることによって調節される。本発明の文脈において、この用語は、阻害性免疫チェックポイント(アンタゴニスト)の機能を少なくとも部分的に下方調節できる免疫チェックポイントモジュレーターおよび/または刺激性免疫チェックポイント(アゴニスト)の機能を少なくとも部分的に上方調節できる免疫チェックポイントモジュレーターを含む。
【0039】
腫瘍溶解性ウイルス
本発明において使用される腫瘍溶解性ウイルスは、現在同定されている任意のウイルスメンバーから得ることができるが、ただし、それらは、非分裂細胞と比べて分裂細胞を選択的に複製および破壊するその傾向によって腫瘍溶解性である。それは、生来的に腫瘍溶解性である天然ウイルスでもよく、または、腫瘍選択性および/または分裂細胞中での選択的複製を増大させるために、DNA複製、核酸代謝、宿主向性、表面付着、病原性、溶解、および伝播に関与するもの等の1つ以上のウイルス遺伝子を改変することによって操作されたものでもよい(例えば、Kirn et al., 2001, Nat. Med. 7: 781; Wong et al., 2010, Viruses 2: 78-106を参照)。1つ以上のウイルス遺伝子を、イベントの制御または組織特異的調節因子(例えば、プロモーター)下で配置することを想定してもよい。
【0040】
腫瘍溶解性ウイルスの例としては、限定されることなく、レオウイルス、セネカバレーウイルス(SVV)、水胞性口炎ウイルス(VSV)、ニューカッスル病ウイルス(NDV)、単純ヘルペスウイルス(HSV)、麻疹ウイルス、レトロウイルス、インフルエンザウイルス、シンビスウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス等を含む。
【0041】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、レオウイルスから得られる。代表例として、Reolysin(Oncolytics Biotechによって開発中; NCT01166542)が挙げられる。
【0042】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、セネカバレーウイルスから得られる。代表例として、NTX-010(Rudin et al., 2011, Clin. Cancer. Res. 17(4): 888-95)が挙げられる。
【0043】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、水胞性口炎ウイルス(VSV)から得られる。代表例は、文献(例えば、Stojdl et al., 2000, Nat. Med. 6(7): 821-5; Stojdl et al., 2003, Cancer Cell 4(4): 263-75)において記載されている。
【0044】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ニューカッスル病ウイルスから得られる。代表例としては、限定されることなく、73-T PV701株およびHDV-HUJ株、同様に、文献(例えば、Phuangsab et al., 2001, Cancer Lett. 172(1): 27-36; Lorence et al., 2007, Curr. Cancer Drug Targets 7(2): 157-67; Freeman et al., 2006, Mol. Ther. 13(1): 221-8)において記載されているものが挙げられる。
【0045】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ヘルペスウイルスから得られる。ヘルペスウイルス科は、DNAウイルスの大きなファミリーであり、全て共通の構造を共有し、脂質二重層膜内に包まれた20面体カプシド内でカプシドに包まれた(encapsided)100~200個の遺伝子をコードする、比較的大きな二本鎖、直鎖状DNAゲノムからなる。腫瘍溶解性ヘルペスウイルスは、異なるタイプのHSVに由来し得るが、特に好ましいのはHSV1およびHSV2である。ヘルペスウイルスは、腫瘍内でのウイルス複製を制限するかまたは非分裂細胞においてその細胞毒性が低減するように遺伝子操作され得る。例えば、チミジンキナーゼ(Martuza et al., 1991, Science 252: 854-6)、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)(Boviatsis et al., 1994, Gene Ther. 1: 323-31; Mineta et al., 1994, Cancer Res. 54: 3363-66)、またはウラシル-N-グリコシラーゼ(Pyles et al., 1994, J. Virol. 68: 4963-72)等の核酸代謝に関与する任意のウイルス遺伝子が不活性化されてもよい。別の側面は、ICP34.5遺伝子等の病原性因子をコードする遺伝子の機能に欠損を有するウイルス突然変異体に関する(Chambers et al., 1995, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 1411-5)。腫瘍溶解性ヘルペスウイルスの代表例としては、NV1020(例えば、Geevarghese et al., 2010, Hum. Gene Ther. 21(9): 1119-28)およびT-VEC(Andtbacka et al., 2013, J. Clin. Oncol. 31, abstract number LBA9008)が挙げられる。
【0046】
一つの態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスは、パラミクソウイルス科から得ることができるモルビリウイルス、特に好ましくは麻疹ウイルスから得られる。腫瘍溶解性麻疹ウイルスの代表例としては、限定されることなく、MV-Edm(McDonald et al., 2006; Breast Cancer Treat. 99(2): 177-84)およびHMWMAA(Kaufmann et al., 2013, J. Invest. Dermatol. 133(4): 1034-42)が挙げられる。
【0047】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、アデノウイルスから得られる。腫瘍溶解性アデノウイルスを操作するための方法は、当技術分野において入手可能である。有益な戦略は、ウイルスプロモーターの腫瘍選択性プロモーターによる置換、または腫瘍細胞に変化するp53または網膜芽細胞腫(Rb)タンパク質とのそれらの結合機能を不活性化するためのE1アデノウイルス遺伝子産物の組換えを含む。自然な文脈において、アデノウイルスE1B55kDa遺伝子は、別のアデノウイルス生成物と共働して、p53(p53は、癌細胞中で頻繁に異常調節される)を不活性化し、その結果アポトーシスが防止される。腫瘍溶解性アデノウイルスの代表例としては、ONYX-015(例えば、Khuri et al., 2000, Nat. Med 6(8): 879-85)およびオンコリン(Oncorine)としても名付けられたH101(Xia et al., 2004, Ai Zheng 23(12): 1666-70)が挙げられる。
【0048】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ポックスウイルスである。本明細書で使用される場合、用語「ポックスウイルス」とは、ポックスウイルス科に属するウイルス、特に好ましくはコルドポックスウイルス(Chordopoxviridae)亜科およびより好ましくはオルトポックスウイルス属に属するポックスウイルスを意味する。様々なポックスウイルスのゲノム、例えば、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、カナリア痘ウイルス、欠肢症ウイルス、粘液腫ウイルスのゲノムの配列は、当技術分野およびGenbank(それぞれに対する受託番号:NC_006998、NC_003663、NC_005309、NC_004105、NC_001132)等の専門的データベースにおいて入手可能である。
【0049】
好ましくは、腫瘍溶解性ポックスウイルスは、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスである。ワクシニアウイルスは、ウイルスを宿主細胞機構から独立して複製させることができる多数のウイルス酵素および因子をコードする、200kbの二本鎖DNAゲノムによって特徴付けられるポックスウイルス科のメンバーである。ワクシニアウイルス粒子の大半は、単一脂質エンベロープを有し、細胞内に存在し(細胞内成熟ビリオン、IMV)、溶解まで感染した細胞のサイトゾルに留まる。他の感染性形態は、感染した細胞から、それを溶解することなく出芽する、二重に包まれた粒子(細胞外エンベロープビリオン、EEV)である。
【0050】
腫瘍溶解性ウイルスは、任意のワクシニアウイルス株に由来してもよいが、エルストリー(Elstree)株、ワイエス(Wyeth)株、コペンハーゲン(Copenhagen)株およびウエスタンリザーブ(Western Reserve)株が特に好ましい。本明細書において用いられる遺伝子命名法は、コペンハーゲンワクシニア株のものである。これは、本明細書において、他の指示がない限り、他のポックスウイルス科の相同遺伝子に対しても用いられる。しかしながら、遺伝子命名法は、ポックス株によって異なるかもしれないが、コペンハーゲン株と他のワクシニア株の間の対応は、文献において一般的に入手可能である。
【0051】
好ましくは、本明細書の腫瘍溶解性ワクシニアウイルスは、1つ以上のウイルス遺伝子を変化させることによって改変される。当該改変は、好ましくは、改変されていない遺伝子(または合成の欠損)によって、正常状態下で生成されたタンパク質の活性を確保することができない欠損タンパク質の合成につながる。改変は、ウイルス遺伝子またはその調節因子内での(連続しているか否かにかかわらない)1つ以上のヌクレオチドの欠失、変異および/または置換を含む。改変は、一般的な組換え技術を用いて、当業者において公知である多くの方法によって行うことができる。例となる改変は文献に開示されており、特に好ましいのは、DNA代謝、宿主病原性およびIFN経路(例えば、Guse et al., 2011, Expert Opinion Biol. Ther.ll(5):595-608を参照)等に関与するウイルス遺伝子を変化させるものである。
【0052】
より好ましくは、本発明の腫瘍溶解性ポックスウイルスは、チミジンキナーゼをコードする遺伝子(遺伝子座J2R)を変化させることによって改変される。TK酵素は、デオキシリボヌクレオチドの合成に関与している。TKは、正常細胞内でのウイルス複製に必要であり、その理由として、これら細胞が、概して低い濃度のヌクレオチドを有するためであり、その一方で、高いヌクレオチド濃度を含有する分裂細胞においては不必要である。
【0053】
代替的にまたは組合せて、本発明の腫瘍溶解性は、リボヌクレオチドレダクターゼ(RR)をコードする少なくとも1つの遺伝子または両方の遺伝子を変化させることによって改変される。自然な文脈において、この酵素は、DNA生合成において重要なステップである、リボヌクレオチドからデオキシリボヌクレオチドへの還元を触媒する。ウイルス酵素は、哺乳動物酵素とサブユニット構造において類似であり、それぞれI4LおよびF4L遺伝子座によってコードされるR1およびR2と称される2つの非相同性サブユニットから構成される。I4LおよびF4L遺伝子の配列ならびに様々なポックスウイルスのゲノム内でのそれらの位置は、例えば、受託番号DQ437594、DQ437593、DQ377804、AH015635、AY313847、AY313848、NC_003391、NC_003389、NC_003310、M-35027、AY243312、DQ011157、DQ011156、DQ011155、DQ011154、DQ011153、Y16780、X71982、AF438165、U60315、AF410153、AF380138、U86916、L22579、NC_006998、DQ121394およびNC_008291を介して、公共のデータベースにおいて入手可能である。本発明の文脈において、I4L遺伝子(R1大型サブユニットをコードする)またはF4L遺伝子(R2小型遺伝子をコードする)のいずれかまたは両方を不活性化してもよい。
【0054】
代替的にまたは組合せて、ウイルス腫瘍特異性をさらに増大させるために、他の戦略を追求してもよい。好適な改変の代表例としては、ウイルスゲノムからのVGFをコードする遺伝子の阻害が挙げられる。VGF(VV成長因子)は、細胞感染の直後に発現される分泌タンパク質であり、その機能は、正常細胞内でのウイルス伝播に重要と思われる。別の例は、最終的にTK欠損と組合わさる、血球凝集素をコードするA56遺伝子の阻害である(Zhang et al., 2007, Cancer Res. 67: 10038-46)。インターフェロン調節遺伝子(例えば、B8RまたはB18R遺伝子)またはカスパーゼ-1阻害B13R遺伝子の阻害も、有益となり得る。別の好適な改変は、DNA複製の忠実性の維持およびチミジレートシンターゼによるTMP生成のための前駆体の提供の両方に関与するウイルスdUTPaseをコードするF2L遺伝子の阻害を含んでなる(Broyles et al., 1993, Virol. 195: 863-5)。ワクシニアウイルスF2L遺伝子の配列は、受託番号M25392を介してgenbankにおいて入手可能である。
【0055】
好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、J2R遺伝子内の不活性化突然変異に起因してTKを欠損するワクシニアウイルスである。別の好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、J2R遺伝子ならびにウイルスゲノムによって運ばれるI4Lおよび/またはF4L遺伝子の両方における不活性化突然変異に起因して、TKおよびRR活性の両方を欠損するワクシニアウイルスである(例えば、WO2009/065546およびFoloppe et al., 2008, Gene Ther., 15: 1361-71に記載されている)。別の好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、最終的に、TKおよびRR活性の少なくとも一つまたは両方の阻害と組合さる(F2L;F2LおよびJ2R遺伝子;F2LおよびI4L;またはF2L、J2RおよびI4L内に不活性化突然変異を有するウイルスをもたらす)、F2L遺伝子内の不活性化突然変異に起因してdUTPaseを欠損するワクシニアウイルスである。
【0056】
治療遺伝子
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ウイルスゲノム内に挿入された、少なくとも1つの治療遺伝子をさらに発現する。「治療遺伝子」は、対象へ適切に投与された際に、抗腫瘍効果を強化するかまたはウイルスの腫瘍溶解性特性を強化することのいずれかによって、治療される病態の過程または症状に対して有益な効果を引き起こすと期待される、生物学的活性を提供できる生成物をコードする。本発明の文脈において、治療遺伝子は、哺乳類(例えば、ヒト、マウス、ウサギ等)由来であっても、そうでなくても(例えば、細菌性、酵母またはウイルス由来)よい。
【0057】
対象における欠損または欠陥タンパク質を補完できるポリペプチドをコードするもの、または体から有害細胞を抑制または除去するための毒性効果を通して作用するポリペプチドをコードするもの、または免疫付与ポリペプチドをコードするもの等、本発明の文脈において様々な治療遺伝子を想定することができる。それらは、天然遺伝子または1つ以上のヌクレオチドの突然変異、欠失、置換および/または付加によって後から得られた遺伝子であってもよい。
【0058】
有利には、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、自殺遺伝子産物および免疫刺激性タンパク質をコードする遺伝子からなる群から選択される治療遺伝子を有する。
【0059】
自殺遺伝子
用語「自殺遺伝子」とは、薬剤の前駆体を細胞傷害性化合物に転換できるタンパク質をコードする遺伝子を意味する。自殺遺伝子は、限定されることなく、シトシンデアミナーゼ活性、チミジンキナーゼ活性、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ活性、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ活性およびチミジレートキナーゼ活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を含んでなる。自殺遺伝子の例および1つの核酸塩基部分を含んでなる薬剤の対応する前駆体は、下記の表において開示されている。
【0060】
【表1】
【0061】
好ましくは、自殺遺伝子は、少なくともCDase活性を有するタンパク質をコードする。原核生物および下等真核生物において(哺乳類に存在していない)、CDaseは、外因性サイトカインが加水分解脱アミノ化によってウラシルへ変換されるピリミジン代謝経路に関与している。CDaseは、シトシンの類似体、即ち、5-フルオロシトシン(5-FC)をも脱アミノ化し、それによって、5-フルオロ-UMP(5-FUMP)に転換されると非常に細胞傷害性である化合物、5-フルオロウラシル(5-FU)を形成する。核酸分子をコードするCDaseは、サッカロッミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(FCY1遺伝子)、カンジダ・アルビカンス(Candida Albicans)(FCA1遺伝子)および大腸菌(codA遺伝子)等の任意の原核生物および下等真核生物から得ることができる。遺伝子配列およびコードされるCDaseタンパク質は公開されており、専門的データバンク(SWISSPROT、EMBL、Genbank、Medline等)において入手可能である。これら遺伝子の機能的類似体も用いることができる。そのような類似体は、好ましくは、天然遺伝子の核酸配列と、少なくとも70%、有利には少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは95%の同一性の程度を有する核酸配列を有する。
【0062】
代替的または組合せて、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、そのウイルスゲノム内に、ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(UPRTase)活性を有するポリペプチドをコードする自殺遺伝子を有する。原核生物および下等真核生物において、ウラシルは、UPRTaseの活性によってUMPへ変換される。この酵素は、5-FUを5-FUMPへ転換する。例証目的で、本発明の文脈において、大腸菌(Andersen et al., 1992, European J. Biochem. 204: 51-56)からの、ラクトコッカス・ラクチス(Lactococcus lactis)(Martinussen et al., 1994, J. Bacteriol. 176: 6457- 63)からの、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)(Kim et al., 1997, Biochem. Mol. Biol. Internat. 41: 1117-24)からの、およびバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)(Martinussen et al., 1995, J. Bacteriol. 177: 271-4)からのUPRTaseをコードする核酸配列を使用してもよい。しかしながら、酵母UPRTase、具体的には、その配列がKern et al. (1990, Gene 88: 149-57)において開示されている、S.セレビシエ(S. cerevisiae)(FUR1遺伝子)によってコードされるものを使用することが最も好ましい。EP998568に記載される、天然酵素より高いUPRTase活性を発現する、N-末端切断FUR1変異体(N-terminally truncated FUR1 mutant)(天然タンパク質の36位に存在する第二Met残基までの最初の35個の残基の欠失を有する)EP998568に記載された等の機能的UPRTase類似体も使用することができる。
【0063】
好ましくは、本発明の腫瘍溶解性ウイルスのウイルスゲノム内に挿入された自殺遺伝子は、CDase活性およびUPRTase活性を有するポリペプチドをコードする。そのようなポリペプチドは、1つ目がCDase活性を有し、2つ目がUPRTase活性を有する2つの酵素ドメインの融合によって作製することができる。ポリペプチドの例としては、限定されることなく、融合ポリペプチドcodA::upp、FCY1::FUR1およびFCY1::FUR1[デルタ]105(FCU1)ならびにW096/16183、EP998568およびWO2005/07857に記載されたFCU1-8が挙げられる。特に興味深いのは、WO2009/065546の配列番号1で示されるアミノ酸配列を含んでなるポリペプチドをコードするFCU1自殺遺伝子(またはFCY1::FUR1[デルタ]105融合)である。本発明は、そのようなポリペプチドの類似体を含むが、それらがCDase活性および/またはUPRTase活性を保持することが条件である。公開されたデータから、核酸分子をコードするCDaseおよび/またはUPRTaseを単離し、最終的にそれらの類似体を作製し、従来技術に従って無細胞または細胞系内で酵素活性を試験することは、当業者の技術の範囲内である(例えば、EP998568を参照)。
【0064】
免疫刺激性治療遺伝子
本明細書で使用される場合、用語「免疫刺激性タンパク質」とは、特異的または非特異的様式で、免疫系を刺激する能力を有するタンパク質を意味する。当技術分野において、多数のタンパク質が、その免疫刺激効果を発揮する能力で公知である。本発明の文脈において好適な免疫刺激性タンパク質の例としては、限定されることなく、サイトカインが挙げられ、特に好ましくはインターロイキン(例えば、IL-2、IL-6、IL-12、IL-15、IL-24)、ケモカイン(例えば、CXCL10、CXCL9、CXCL11)、インターフェロン(例えば、IFNg、IFNα)、腫瘍壊死因子(TNF)、コロニー刺激因子(例えば、GM-CSF、C-CSF、M-CSF等)、APC(抗原提示細胞)暴露タンパク質(例えば、B7.1、B7.2等)、増殖因子(形質転換増殖因子TGF、線維芽細胞増殖因子FGF、血管内皮増殖因子VEGF等)、クラスIまたはIIのMHC抗原、アポトーシス誘発因子または阻害因子(例えば、Bax、Bcl2、BclX等)、細胞増殖抑制剤(p21、p16、Rb等)、抗毒素、抗原性ポリペプチド(抗原性ポリペプチド、エピトープ等)およびマーカー(β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ等)である。好ましくは、免疫刺激性タンパク質は、インターロイキンまたはコロニー刺激因子、特に好ましくはGM-CSFである。
【0065】
免疫チェックポイントモジュレーター
免疫チェックポイントおよびそれらのモジュレーター、同様にそのような化合物を用いた方法は、文献に記載されている。本発明によれば、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、アンタゴニスト機能(即ち、免疫チェックポイント媒介阻害シグナルと拮抗することができること)またはアゴニスト機能(即ち、免疫チェックポイント媒介刺激性シグナルを高めることができること)を発揮するために、独立して、標的免疫チェックポイントを結合でき、かつ/またはリガンドの当該標的免疫チェックポイントへの結合を阻害することができるドメインを含んでなるポリペプチドであってもよい。そのような1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、ペプチド(例えば、ペプチドリガンド)、天然受容体の可溶性ドメイン、RNAi、アンチセンス分子、抗体およびタンパク質の骨組からなる群から独立して選択され得る。
【0066】
好ましい態様において、免疫チェックポイントモジュレーターは抗体である。本発明の文脈において、「抗体」(「Ab」)は、最も広い意味で用いられ、天然由来のもの、および人間によって作製されたもの、同様に全長抗体または機能的断片または標的免疫チェックポイントまたはエピトープを結合できる(従って標的結合部分を保持する)それらの類似体を含む。本発明の腫瘍溶解性ウイルスによってコードされる抗体は、任意の由来、例えば、ヒト、ヒト化、動物(例えば、齧歯類またはラクダ科の抗体)またはキメラであり得る。抗体は、任意の同位体(例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはlgG4、IgM同位体等)であってもよい。また、抗体は、糖化されていても、部分的に糖化されていても、糖化されていなくてもよい(例えば、糖化部位内の1つ以上の残基を突然変異させることによって)。抗体という用語は、本明細書に記載されている結合特異性を発現する限り、二重特異性抗体または多重特異性抗体も含む。
【0067】
例証目的で、全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互結合した、少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含んでなる糖タンパク質である。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(VH)、ならびに3つのCH1、CH2およびCH3ドメイン(最終的にCH1とCH2の間にヒンジを伴う)からなる重鎖定常領域を含んでなる。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)、ならびに1つのCLドメインを含んでなる軽鎖定常領域を含んでなる。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と名付けられた、より保存された領域が組み入れられている、相補性決定領域(CDR)と名付けられた、超可変領域を含んでなる。各VHおよびVLは、次の順序:FR1-CDR1-FR2-CDR2-FR3-CDR3-FR4で、3つのCDRおよび4つのFRから成る。重鎖および軽鎖のCDR領域は、結合特異性の決定要因である。
【0068】
本明細書で使用される場合、「ヒト化抗体」とは、タンパク質配列が、ヒト抗体(即ち、ヒトの体内で天然に産生された)との類似性を増大させるために改変された、非ヒト(例えば、マウス、ラクダ、ラット等)抗体を意味する。ヒト化の方法は、当技術分野において公知である(例えば、Presta et al., 1997, Cancer Res. 57(20): 4593-9; US5,225,539; US5,530,101; US6,180,370; WO2012/110360を参照)。例えば、本明細書で使用される免疫チェックポイント抗体は、可変領域(特にCDR)の残基の大部分は改変せず、非ヒト免疫グロブリンに対応するが、FR領域の1つ以上の残基を、ヒト免疫グロブリン配列に見えるように置換することによってヒト型化できる。一般的助言として、これらFR領域内のアミノ酸置換基の数は、典型的には、各可変領域VHまたはVLにおいて20個以下である。
【0069】
本明細書で使用される場合、「キメラ抗体」とは、1つの種の1つ以上の要素および別の種の1つ以上の要素を含んでなる抗体を意味し、例えば、ヒト免疫グロブリンの少なくとも部分的な定常領域(Fc)を含んでなる非ヒト抗体が挙げられる。
【0070】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスによって、多くの形態の抗体を発現することができる。代表例としては、限定されることなく、Fab、Fab’、F(ab’)2、dAb、Fd、Fv、scFv、di-scFvおよびダイアボディ(diabody)等が挙げられる。より詳細には、
i)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片で表されるFab断片;
ii)ヒンジ領域で少なくとも1つのジスルフィド架橋によって結合された2つのFab断片を含んでなる二価断片で表されるF(ab’)2断片;
iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;
iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、
v)単一ドメイン可変断片(VHまたはVLドメイン)からなるdAb断片;
vi)Fv断片の2つのドメインと、融合され、最終的に一本鎖タンパク質を形成するためにリンカーを有するVLおよびVHとを含んでなる一本鎖Fv(scFv)(例えば、Bird et al., 1988, Science 242: 423-6; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; US4,946,778; US5,258,498を参照);および
vii)任意の他の人工抗体
が挙げられる。
【0071】
必要であれば、そのような断片および類似体は、完全抗体と同一のやり方で機能性についてスクリーニングされてもよい(例えば、標準ELISAアッセイによって)。
【0072】
好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスによってコードされる少なくとも1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、モノクローナル抗体、特に好ましくはヒト抗体(フレームワーク領域の両方がヒト生殖細胞免疫グロブリン(immunoglobin)配列に由来する)または公知のヒト化方法によるヒト化抗体である。
【0073】
好ましくは、本発明の腫瘍溶解性ウイルスによってコードされる1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、阻害性免疫チェックポイント、具体的には、次の:PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、Tim3、BTLAおよびCTLA4によって媒介されるもの、特に好ましくは、任意のそのような標的タンパク質に特異的に結合するモノクローナル抗体の活性と、少なくとも部分的に(例えば、50%超)拮抗する。用語「に特異的に結合する」とは、他のタンパク質および生物製剤の不均一集団が存在する場合であっても、特定の標的またはエピトープに結合す特異性および親和性の能力を意味する。従って、指定されたアッセイ条件下では、本発明で使用される抗体は、その標的に選択的に結合し、試験試料または対象中に存在する他の成分には大量に結合しない。好ましくは、そのような抗体は、一定に同等かまたは1×10-6M未満(例えば、少なくとも0.5×10-6、1×10-7、1×10-8、1×10-9、1×10-10等)の平衡分離を伴って、その標的に高い親和性を持って結合する。あるいは、コードされる1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターは、刺激性シグナル、具体的にはCD28によって媒介されたもの、特に好ましくはICOS、CD137(または4-1BB)、OX40、CD27、CD40およびGITR免疫チェックポイントを刺激または強化できるという意味でのアゴニスト機能を発揮する。抗体の、免疫チェックポイントへの結合能力を評価する標準アッセイとしては、当技術分野において公知であり、例えば、ELISA、ウェスタンブロット、RIAおよびフローサイトメトリーが挙げられる。抗体の結合動力学(例えば、結合親和性)も、当技術分野において公知の標準アッセイによって(例えば、Biacore分析によって)評価することができる。
【0074】
好ましい態様において、少なくとも1つ以上のコードされるチェックポイントモジュレーターは、T細胞媒介反応に関与する免疫チェックポイントと拮抗できるヒトまたはヒト化抗体である。免疫チェックポイントモジュレーターの好ましい例として、タンパク質Programmed Death 1(PD-1)と少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、特に、ヒトPD-1に特異的に結合する抗体が挙げられる。PD-1は、免疫グロブリン(Ig)遺伝子スーパーファミリーの一部であり、CD28ファミリーのメンバーである。PD-1は、抗原を経験した細胞(例えば、活性化したB細胞、T細胞、および骨髄性細胞)に発現する55kDaの1型膜貫通タンパク質である(Agata et al., 1996, Int. Immunol. 8: 765-72; Okazaki et al., 2002, Curr. Opin. Immunol. 14: 391779-82; Bennett et al., 2003, J. Immunol 170: 711-8)。通常の文脈において、PD-1は、炎症性反応時に、T細胞の活性を制限することによって作用し、それによって、正常組織を破壊から保護する(Topalian, 2012, Curr. Opin. Immunol. 24: 207-12)。PD-1について、2つのリガンドが確認され、各々PD-L1(programmed deathリガンド1)およびPD-L2(programmed deathリガンド2)である(Freeman et al., 2000, J. Exp. Med. 192: 1027-34; Carter et al., 2002, Eur. J. Immunol. 32: 634-43)。PD-L1は、20~50%のヒトの癌において確認された(Dong et al., 2002, Nat. Med. 8: 787-9)。PD-1およびPD-L1の相互作用は、腫瘍浸潤性リンパ球の減少、T細胞受容体媒介増殖の減少、および癌性細胞による免疫回避をもたらす(Dong et al., 2003, J. Mol. Med. 81: 281-7; Blank et al., 2005, Cancer Immunol. Immunother. 54: 307-314)。PD-1の完全なヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、GenBank受託番号U64863およびNP_005009.2において見出すことができる。多くの抗PD1抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、WO2004/004771、WO2004/056875、WO2006/121168、WO2008/156712、WO2009/014708、WO2009/114335、WO2013/043569およびWO2014/047350に記載のものを参照)。好ましくは、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、ニボルマブ(Bristol Myer Squibbによって開発中でBMS-936558とも呼ばれる)、ペンブロリズマブ(Pembrolizumab)(Merckによって開発中でMK-3475とも呼ばれる)、およびピディリズマブ(Pidilizumab)(CureTechによって開発中でCT-011とも呼ばれる)の名前で市販されているか開発されたもの等の、アメリカ食品医薬品局(FDA)認可済であるか、または臨床開発が進行中である抗PD-1抗体を発現する。対応するヌクレオチド配列は、入手可能な文献に開示された情報に基づく標準技術に従い、クローン化または単離することができる。
【0075】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスによる発現に好適な免疫チェックポイントモジュレーターの別の好ましい例としては、PD-L1と表されるPD-1リガンドと少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、特にヒトPD-L1を認識する抗体が挙げられる。多くの抗PD-L1抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、EP1907000に記載のものを参照)。好ましい抗PD-L1抗体は、アメリカ食品医薬品局認可済であるか、または臨床開発が進行中である(Genentech/Rocheによって開発中のMPDL3280AおよびBristol Myer Squibb によって開発中のBMS-936559、同様に抗PD-L1Fc融合体(例えば、MedimmuneおよびAstraZenecaによって開発中のAMP-224))である。
【0076】
消極的にT細胞反応を調節することが示された、最近同定されたVISTAタンパク質のアンタゴニストを用いてもよい(Wang et al., 2011, J. Exp. Med. 208(3): 577-592)。VISTA、同様に指定されたPD-1HおよびPD-L3は、PD-L1ファミリーのメンバーに類似している。例えば、抗VISTAアンタゴニストは、US2013-0177557において記載されている。
【0077】
好適な免疫チェックポイントモジュレーターのさらなる別の好ましい例としては、CTLA-4タンパク質と少なくとも部分的に拮抗できるモジュレーター、特にヒトCTLA-4を認識する抗体が挙げられる。CD152としても知られるCTLA-4(細胞傷害性T-リンパ球関連抗原4)は、1987年に同定され(Brunet et al., 1987, Nature 328: 267-70)、CTLA4遺伝子によってコードされている(Dariavach et al., Eur. J. Immunol. 18: 1901-5)。CTLA4は、受容体の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである。それは、ヘルパーT細胞の表面に発現され、そこでT細胞活性化の早期段階の振幅を調節する。最近の研究で、CTLA-4は、B7-1およびB7-2を、抗原提示細胞の膜から捕捉し除去し、これらをCD28の誘発に利用できないようにすることによってin vivoで機能することが示唆された(Qureshi et al., Science, 2011, 332: 600-3)。完全なCTLA-4の核酸配列は、GenBankの受託番号LI 5006において見出すことができる。多くの抗CTLA-4抗体は、当技術分野において入手可能である(例えば、US8,491,895に記載されたものを参照)。本発明の文脈において、好ましい抗CTLA-4抗体は、アメリカ食品医薬品局認可済であるか、または臨床開発が進行中である。より具体的には、Bristol Myer SquibbによってYervoy として市場で売られているイピリムマブ(ipilimumab)(例えば、US6,984,720; US8,017,114を参照)、Pfizerによって開発中のトレメリムマブ(tremelimumab)(例えば、US7,109,003およびUS8,143,379を参照)および一本鎖抗CTLA-4抗体(例えば、WO97/20574およびWO2007/123737を参照)を引用してもよい。
【0078】
本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、LAG3受容体と拮抗するための免疫チェックポイントモジュレーターを発現し得る(例えば、US5,773,578を参照)。
【0079】
好適な免疫チェックポイントモジュレーターの別の例として、OX40のアゴニストリガンド(ONX40L)等のOX40アゴニスト(例えば、US5,457,035、US7,622,444、WO03/082919を参照)またはOX40受容体に対する抗体(例えば、US7,291,331およびWO03/106498を参照)が挙げられる。
【0080】
免疫チェックポイントモジュレーターの別の例として、CD8+T細胞およびNK細胞内に含まれている阻害性受容体を標的とする抗KIR抗体または抗CD96抗体が挙げられる。
【0081】
本発明は、1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする腫瘍溶解性ウイルスを含む。好ましい例として、限定されることなく、抗CTLA-4抗体および抗PD-1抗体の発現が挙げられる。
【0082】
免疫チェックポイントモジュレーターをコードする1つ以上の核酸分子、および、もしあれば、ウイルスゲノムに挿入された治療遺伝子の発現
免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子および治療遺伝子は、当技術分野において入手可能な配列データおよび本明細書で提供された情報を用いて、標準的な分子生物学技法(例えば、PCR増幅、cDNAクローニング、化学合成)によって容易に得ることができる。抗体、それらの断片および類似体をクローニングする方法は、当技術分野において公知である(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies - A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor NYを参照)。例えば、抗体の軽鎖および重鎖、またはそれらのCDRをコードする核酸分子(例えば、cDNA)は、産生ハイブリドーマ(例えば、Kohler and Milstein, 1975, Nature 256: 495-7; Cote et al., 1983, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80: 2026-30; Cole et al. in Monoclonal antibodies and Cancer Therapy; Alan Liss pp77- 20 96を参照)、免疫グロブリン遺伝子ライブラリー、または任意の入手可能な材料(source)から分離してもよく、またはヌクレオチド配列は、化学合成によって生成させてもよい。類似体および断片は、分子生物学の標準的な技法を用いて発生させてもよい。
【0083】
免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸および最終的には治療遺伝子は、ウイルスゲノムの任意の位置、特に好ましくは非必須的遺伝子座に独立して挿入することができる。腫瘍溶解性ウイルスへの挿入は、例えば、Sambrook et al.(2001, Molecular Cloning-A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory)に記載されているような、通常の分子生物学によって行うことができる。アデノウイルスベクターまたはポックスウイルスベクターへの挿入は、それぞれChartier et al.(1996, J. Virol. 70: 4805-10)およびPaul et al.(2002, Cancer gene Ther. 9: 470-7)に記載されているような、相同組換えによって行うことができる。例えば、TK、RRおよびF2L遺伝子、同様に遺伝子間領域は、腫瘍溶解性ワクシニアウイルスへの挿入に特に適切であり、かつE3およびE4領域は、腫瘍溶解性アデノウイルス属ウイルスへの挿入に特に適切である。
【0084】
また、コードするヌクレオチド配列は、特定の宿主細胞または対象内で高い発現レベルを提供するために最適化することができる。実際に、生体のコドン使用パターンは高度に非ランダムであり、コドンの使用は異なる宿主間で著しく異なり得ることが観察されてきた。例えば、治療遺伝子は、細菌または下等真核生物由来(例えば、自殺遺伝子)であり得るため、高等真核細胞(例えば、ヒト)における効果的な発現に不適切なコドン使用パターンを有し得る。典型的には、コドンの最適化は、目的の宿主生体内で頻繁に使用されないコドンに対応する1つ以上の「天然」(例えば、細菌または酵母)コドンを、より頻繁に使用される同一のアミノ酸をコードする1つ以上のコドンに置換することによって行われる。発現の増大は部分的な置換でも達成され得るため、頻繁に使用されていないコドンに対応する全ての天然コドンを置換する必要はない。
【0085】
コドン使用の最適化に加えて、宿主細胞または対象における発現は、ヌクレオチド配列のさらなる組換えによってさらに改善することができる。例えば、密集領域に存在する、希少な非最適コドンの密集を防止し、かつ/または発現レベルに悪影響を与えると予測される「消極的」配列因子を抑制または改変するために、多様な組換えを想定することができる。そのような消極的配列因子は、限定されることなく、非常に高い(>80%)または非常に低い(<30%)GC含有量;ATが多いまたはGCが多い配列の領域(streches);不安定でまっすぐなまたは逆転した繰り返し配列;R A二次構造;および/または内部TATA-ボックス、カイ部位、リボゾーム進入部位および/またはスプライシング供与体/受容体部位等の内部潜在的調節因子を有する領域を含む。
【0086】
本発明によれば、当該免疫チェックポイントモジュレーターをコードする1つ以上の核酸分子、同様に、本発明の腫瘍溶解性ウイルスのゲノム内に挿入された治療遺伝子は、宿主細胞または対象内におけるその発現のため、好適な調節因子に作動的に連結される。本明細書で使用される場合、用語「調節因子」または「調節配列」とは、複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、核酸またはその誘導体(即ち、mRNA)の安定性および/または輸送を含む、コードする核酸分子の所与の宿主細胞または対象内での発現を可能とし、助長しまたは調節する任意の因子を意味する。本明細書で使用される場合、「作動的に連結されている」とは、連結されている因子が、それらの意図する目的のために一斉に機能するように配置されていることを意味する。例えば、プロモーターが、許容状態の宿主細胞内で転写開始から核酸分子の終止まで転写に影響を与える場合、プロモーターは、核酸分子に作動的に連結されている。
【0087】
当業者であれば、調節配列の選択は、核酸分子自体、挿入されるウイルス、宿主細胞または対象、所望される発現レベル等の因子に依存し得ることが理解されよう。プロモーターは、特に重要である。本発明の文脈において、多くのタイプの宿主細胞内にあるかまたは特定の宿主細胞に特異的な核酸分子(例えば、肝臓特異的調節配列)の発現を指示することが本質的となり得るか、または特定のイベントまたは外的要因(例えば、気温、栄養素添加物、ホルモン等)に応答してかまたはウイルスサイクル(例えば、後期または初期)の段階に従い調節され得る。ウイルス産生を最適化し、発現したポリペプチドの潜在的毒性を回避するために、特定のイベントまたは外的要因に応答して、産生ステップの間に抑制されたプロモーターを使用してもよい。
【0088】
哺乳類細胞における構成的発現に好適なプロモーターとしては、限定されることなく、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター(US5,168,062)、RSVプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、ホスホグリセロキナーゼ(PGK)プロモーター(Adra et al., 1987, Gene 60: 65-74)、単純ヘルペスウイルス(HSV)-1のチミジンキナーゼ(TK)プロモーターおよびT7ポリメラーゼプロモーター(WO98/10088)が挙げられる。ワクシニアウイルスプロモーターは、腫瘍溶解性ポックスウイルス内での発現に特に適している。代表例としては、限定されることなく、ワクシニア7.5K、H5R、11K7.5(Erbs et al., 2008, Cancer Gene Ther. 15(1): 18-28)、TK、p28、p11、pB2R、pA35RおよびK1Lプロモーター、同様に、Chakrabarti et al.(1997, Biotechniques 23: 1094-7、Hammond et al, 1997, J. Virol Methods 66: 135-8およびKumar and Boyle, 1990, Virology 179: 151-8)において記載されたもの等の合成プロモーター、同様に、初期/後期キメラプロモーターが挙げられる。腫瘍溶解性麻疹ウイルスに好適なプロモーターとしては、限定されることなく、麻疹転写ユニットの発現を指示する任意のプロモーターを含む(Brandler and Tangy, 2008, CIMID 31: 271)。
【0089】
具体的には、コードされる免疫チェックポイントモジュレーターが、抗体、特に1つのmAb、特に好ましくは抗PD1抗体を含んでなる場合、重鎖またはその断片の発現は、軽鎖またはその断片の発現に用いられるものより強いプロモーターの制御下に置かれる。具体的には、重質成分(heavy component)の発現に用いられるプロモーターは、当該軽質成分(light component)の発現と比べて、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、または少なくとも30%多く生成物を提供する。発現に適切なプロモーターは、in vitro(例えば、好適な培養された細胞株において)またはin vivo(例えば、好適な動物モデルまたは対象において)で試験することができる。前記免疫チェックポイントモジュレーターの重質成分の発現に好適なプロモーターの例には、CMV、RSVおよびワクシニアウイルスpH5Rおよびp11K7.5プロモーターが含まれる。前記免疫チェックポイントモジュレーターの軽質成分の発現に好適なプロモーターの例には、PGK、β-アクチンおよびワクシニアウイルスp7.5KおよびpA35Rプロモーターが含まれる。
【0090】
当業者であれば、ウイルスゲノム内に挿入された核酸分子の発現を制御する調節因子は、さらに、転写の適切な開始、調節および/または終了(例えば、ポリA転写終結配列)、mRNA輸送(例えば、核局在化シグナル配列)、プロセシング(例えば、スプライシングシグナル)、および安定性(例えば、イントロンおよび非コード5’および3’配列)、翻訳(例えば、イニシエーターMet、三者間(tripartite)リーダー配列、IRESリボソーム結合部位、シグナルペプチド等)のために追加的因子を含んでなっていてもよいことが理解されよう。
【0091】
適切な場合、本発明の腫瘍溶解性ウイルスのウイルスゲノム内に挿入された少なくとも1つの遺伝子(即ち、治療遺伝子および/または1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーター)の発現、輸送および生物学的作用を促進するための、さらなる調節因子を含めることが有利であり得る。例えば、感染細胞からの分泌を促進するために、シグナルペプチドが含まれてもよい。シグナルペプチドは、典型的には、Metイニシエーターの直後のタンパク質のN末端に挿入される。シグナルペプチドの選択肢は幅広く、当業者であれば入手可能である。コードされたタンパク質の、感染細胞の好適な膜(例えば、原形質膜)への固定を容易にするために、膜貫通ドメインを追加することを想定してもよい。膜貫通ドメインは、典型的には、停止コドンの直前または近位でタンパク質のC末端に挿入される。多種多様な膜貫通ドメインは、当技術分野において入手可能である(例えば、WO99/03885を参照)。
【0092】
さらなる例として、コードされた遺伝子産物の続く発現、輸送、または精製のために、ペプチドタグ(典型的には、利用可能な抗血清または化合物によって認識され得る短いペプチド配列)を添加してもよい。本発明の文脈において、多種多様なタグペプチドを用いることができ、限定されることなく、PKタグ、FLAGオクタペプチド、MYCタグ、HISタグ(通常は、4~10のヒスチジン残基の長さ)およびe-タグ(US6,686,152)が含まれる。タグペプチドは、タンパク質のN-末端あるいはそのC-末端あるいは内部、または幾つかのタグが採用された場合、任意のこれらの位置に、独立して位置してもよい。タグペプチドは、抗タグ抗体を用いた免疫検出アッセイによって検出することができる。
【0093】
別の例として、コードされた遺伝子産物(が、例えば増大するように)の生物学的活性が増大するように、糖化を変更してもよい。このような改変は、例えば、糖化部位内で1つ以上の残基を突然変異させることによって達成することができる。変更された糖化パターンは、抗体のADCC能および/またはそれらの標的への親和性を増大し得る。
【0094】
本発明の文脈において追求してもよい別のアプローチは、本発明の腫瘍溶解性ウイルスによってコードされた遺伝子産物と、細胞毒性薬および/または標識剤等の外部薬剤との連結である。本明細書で使用される場合、用語「細胞毒性薬(cytoxic agent)」とは、細胞に直接的に毒性であり、毒素(例えば、細菌性、真菌性、植物性または動物性由来の酵素的活性な毒素、またはそれらの断片)等の、それらの複製または増殖を予防する化合物を意味する。本明細書で使用される場合、「標識剤」とは、検出可能な化合物を意味する。標識剤は、それ自体によって検出可能であってもよく(例えば、放射性同位体標識または蛍光標識)、または酵素標識の場合、検出可能な基質化合物の化学的変化を触媒し得る。連結は、遺伝子産物(治療遺伝子および/または免疫チェックポイントモジュレーター)と外部薬剤との間の遺伝子融合によって行うことができる。
【0095】
好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、抗PD1抗体をコードする核酸分子が挿入されたゲノム内で(例えば、ウイルス性J2RおよびI4L遺伝子の両方における不活性化突然変異に起因する)TKおよびRR活性の両方を欠損する(好ましくはコペンハーゲン株からの)ワクシニアウイルスである。好ましくは、重鎖および軽鎖の要素(例えば、mAb発現のための重鎖および軽鎖、またはFabおよびscFv発現のためのそれらの可変的断片)は、pH5Rおよびp7.5Kワクシニアプロモーターの転写制御下にそれぞれ置かれる。好ましくは、抗PD1をコードする核酸分子は、ウイルスゲノムのTK遺伝子座内に挿入される。より好ましくは、当該ワクシニアウイルスは、自殺遺伝子、特に好ましくは本明細書に記載されているFCU1自殺遺伝子を持つ。さらにより好ましくは、自殺遺伝子(例えば、FCU1)は、p11K7.5ワクシニアプロモーターの転写制御下にある。さらにより好ましくは、ワクシニアウイルスプロモーターの制御下に置かれたFCU1は、ウイルスゲノムのTK遺伝子座内に挿入される。
【0096】
代替的で同様に好ましい態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、抗PD1抗体をコードする核酸分子が挿入されたゲノム内で(ウイルスJ2R遺伝子内の不活性化突然変異に起因する)TK活性を欠損している(好ましくはワイス株からの)ワクシニアウイルスである。より好ましくは、当該ワクシニアウイルスは、免疫刺激性治療遺伝子、特に好ましくは本明細書に記載されているヒトGM-CSF遺伝子を持つ。さらにより好ましくは、治療遺伝子(例えば、GM-CSF)は、合成初期-後期プロモーターワクシニアプロモーターの転写制御下にあり、好ましくはTK遺伝子座内に挿入されている。
【0097】
典型的には、本発明の腫瘍溶解性ウイルスは、感染性ウイルス粒子を生成し、かつ生成された感染性ウイルス粒子を培養細胞から回収し、かつ場合により当該回収された感染性ウイルス粒子を精製することが可能となるように、好適な条件下で導入されたかまたは感染した宿主細胞を培養することを含む一般的技術を用いて、好適な宿主細胞株内に生成される。腫瘍溶解性ウイルスの生成に好適な宿主細胞は、限定されることなく、HeLa(ATCC)、293細胞(Graham et al., 1997, J. Gen. Virol. 36: 59-72)、HER96、PER-C6(Fallaux et al., 1998, Human Gene Ther. 9: 1909-17)等のヒト細胞株、WO2005/042728、WO2006/108846、WO2008/129058、WO2010/130756、WO2012/001075等に記載されているもの等の鳥類細胞、BHK-21(ATCC CCL-10)等のハムスター細胞株、同様に、受精卵から得られたニワトリ胚芽から調製されたニワトリ一次胚線維芽細胞(CEF)を含む。腫瘍溶解性ウイルスは、本発明に従い使用される前に、少なくとも部分的に分離され得る。洗浄、酵素処理(例えば、ベンゾナーゼ、プロテアーゼ)、クロマトグラフィーおよび濾過のステップを含む、多様な精製ステップを想定することができる。適切な方法は、当技術分野において記載されている(例えば、WO2007/147528、WO2008/138533、WO2009/100521、WO2010/130753、WO2013/022764)。
【0098】
免疫チェックポイントモジュレーターの生成
一つの態様において、本発明の文脈において、腫瘍溶解性ウイルスを、組換え手段によってそれがコードする1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを生成するために利用してもよい。宿主細胞内の免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子の維持、増殖または発現を可能にする1つ以上の追加的因子を含むことが有利であり得る。そのような追加的因子は、(例えば、細胞の栄養要求性の相補性または抗生物質抵抗性によって)生成宿主細胞の同定および分離を容易にするためのマーカー遺伝子を含んでなる。好適なマーカー遺伝子は、限定されることなく、メトトレキサートへの耐性を付与するジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)(Wigler et al., 1980, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77: 3567、 O'Hare et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527)、ミコフェノール酸への耐性を付与するgpt(Mulligan and Berg, 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072)、アミノグリコシドG-418への耐性を付与するneo(Colberre-Garapin et al., 1981, J. Mol. Biol. 150: 1)、ゼオマイシン(zeomycin)への耐性を付与するzeo、カナマイシンへの耐性を付与するkana、ハイグロマイシンへの耐性を付与するhygro(Santerre et al., 1984, Gene 30: 147)を含む。機能的TKを欠失している組換えウイルス(例えば、免疫チェックポイントモジュレーターをコードする核酸分子のTK遺伝子座への挿入に起因する)を、ブロモデオキシウリジン(BrdU)を含有する培地と選択してもよい。実際に、TKウイルスは、BrdU剤に対して感度が低い一方で、該薬剤は、TK+ウイルス内でのDNA合成を妨げる。例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、ルシフェラーゼおよびベータガラクトシダーゼに基づく、レポーター発光システムまたは比色システムに依存してもよい。
【0099】
免疫チェックポイントモジュレーターを組換えにより生成する方法は、当技術分野において確立されている。典型的には、そのような方法は、(a)本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスを、好適な生成細胞へ導入し、導入されたかまたは感染した生成細胞を生成すること、(b)当該導入されたかまたは感染した生成細胞を、その増殖に好適な条件下でin vitroで培養すること、(c)培養細胞から1つ以上の免疫チェックポイントモジュレーターを回収すること、および(d)場合により、回収された免疫チェックポイントモジュレーターを精製すること、を含んでなる。本明細書の文脈において、生成細胞は、好ましくは、ヒトまたは非ヒトの真核細胞である。好ましい生成細胞は、限定されることなく、BHK-21(ベビーハムスター腎臓)、CV-1(アフリカザル腎臓細胞株)、COS(例えば、COS-7)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、マウスNIH/3T3細胞、マウスNSO骨髄腫細胞、HeLa細胞、Vero細胞、HEK293細胞およびPERC.6細胞、ならびに鳥の細胞(例えば、本明細書に記載されているニワトリ、アヒル細胞)を含む。
【0100】
生成細胞は、一般的な発酵生物反応器、フラスコ、ペトリ皿で培養することができる。培養は、所与の宿主細胞に適切な温度、pHおよび酸素含有量で行うことができる。ここでは、真核細胞におけるタンパク質生成についての多様な既知の方法を、詳細には記載しない。免疫チェックポイントモジュレーターの生成は、細胞内でもよく、好ましくは生成細胞の外に分泌されてもよい(例えば、培養培地中)。
【0101】
次いで、免疫チェックポイントモジュレーターは、公知の精製方法によって精製することができる。特定のタンパク質を精製するために用いられる条件および技術は、発現条件、正味荷電、分子量、疎水性、親水性等の因子に依存し、当業者にとって明白であろう。さらに、精製のレベルは、使用の目的に依存する。特に免疫チェックポイントモジュレーターが、生成細胞の外に分泌されない場合、または完全に分泌されない場合、必要に応じて、それを、凍結融解、超音波処理、機械的破砕、溶解剤の使用等を含む標準的溶解方法によって回収することができる。分泌された場合は、免疫チェックポイントモジュレーターを培養培地から直接回収することができる。好適な生成技術は、限定されることなく、硫安沈殿、酸抽出、ゲル電気泳動、濾過およびクロマトグラフィー法(例えば、逆相、サイズ排除、イオン交換、親和性、ホスホセルロース、疎水性相互作用またはヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等)を含む。好ましくは、本明細書の腫瘍溶解性ウイルスのために組換えにより生成された免疫チェックポイントモジュレーターは、それが、異なる抗原性特異性を有する他の抗体および/または他の細胞物質を実質的に含まないという意味で少なくとも部分的に精製される。さらに、免疫チェックポイントモジュレーターは、当技術分野において一般的に使用される条件に従い製剤化し得る(例えば、WO2009/073569)。
【0102】
治療的使用
本発明は、場合により薬学的に許容可能な賦形剤を含む、本発明の腫瘍溶解性ウイルスの治療的有効量を含んでなる組成物も提供する。そのような組成物は、1回または数回、および同一または異なる経路を介して投与されてもよい。
【0103】
「治療的有効量」とは、1つ以上の有益な結果をもたらすために十分な腫瘍溶解性ウイルスの量に相当する。そのような治療的有効量は、具体的には、投与の形態、疾患状態、対象の年齢および体重、対象の治療に対する反応能力、併用療法の種類、治療の頻度、および/または予防または治療の必要性の多様なパラメーターに応じて変動し得る。予防的使用に関する場合、本発明の腫瘍溶解性ウイルスまたは組成物は、特に、危険にさらされた対象において、病態(例えば、癌等の増殖性疾患)を、予防するため、または発病および/もしくは進展および/または再発を遅延させるために十分な用量で投与される。「治療的」使用のために、本発明の腫瘍溶解性ウイルスまたは組成物は、疾患を治療するという目標を伴って、最終的に1つ以上の従来の治療法と合併して、病態(例えば、癌等の増殖性疾患)を有すると診断された対象に投与される。具体的には、治療的有効量とは、ベースライン状態または治療されていない場合の予想状態よりも臨床状態の目に見える改善、例えば、腫瘍数の減少、腫瘍サイズの減少、転移の数もしくは広がりの減少、寛解の長さの増加、疾患状態の安定化(即ち、悪化ではない)、疾患進行もしくは重篤性の遅延もしくは停滞、疾患状態の改善もしくは苦痛緩和、生存率期間の延長、標準的治療への反応の改善、生活の質の改善、死亡率の低下等を引き起こすのに必要な量であり得る。治療的有効量とは、効果的非特異的(先天性)な、および/または特異的な抗腫瘍反応の進行を引き起こすのに必要な量でもあり得る。典型的には、免疫反応、具体的にはT細胞反応の進行は、in vitroで、好適な動物モデルまたは対象から採取した生体試料を用いて評価することができる。例えば、実験室で通常用いられる技術(例えば、フローサイトメトリー、組織学)を、腫瘍観察を行うために使用してもよい。細胞傷害性T細胞、活性化された細胞傷害性T細胞、ナチュラルキラー細胞および活性化されたナチュラルキラー細胞等の、治療対象に存在する、抗腫瘍反応に関与する異なる免疫細胞集団を同定するために、多様な入手可能な抗体を用いてもよい。臨床状態の改善は、医師または技量を有する他の医療スタッフによって典型的に用いられる任意の関連する臨床方法によって容易に評価できる。
【0104】
用語「薬学的に許容可能な賦形剤」とは、哺乳類、具体的にはヒト被験者への投与に適合する、任意かつ全ての担体、溶剤、希釈剤、賦形剤、補助剤、分散媒、コーティング剤、抗細菌性および抗真菌性薬、吸収剤等を含むことを意図している。
【0105】
腫瘍溶解性ウイルスおよびそれらの組成物は、ヒトまたは動物用に適切な溶剤または希釈剤に入れることができる。溶剤または希釈剤は、好ましくは、等張性、低張性または弱高張性であり、比較的低いイオン強度を有する。代表例としては、滅菌水、生理食塩水(例えば、塩化ナトリウム)、リンガー液、グルコース、トレハロースまたはサッカロース溶液、ハンク(Hank's)溶液、および他の水性生理学的にバランスのとれた食塩水(例えば、Remington : The Science and Practice of Pharmacy, A. Gennaro, Lippincott, Williams&Wilkinsの最新版を参照)が挙げられる。
【0106】
一つの態様において、腫瘍溶解性ウイルス組成物は、ヒト用に好適に緩衝される。好適な緩衝液は、限定されることなく、生理学的またはやや塩基性のpH(例えば、およそpH7~およそpH9)を維持できる、リン酸緩衝液(例えば、PBS)、重炭酸塩緩衝液および/またはトリス緩衝液を含む。
【0107】
腫瘍溶解性ウイルス組成物は、例えば、浸透圧性、粘性、透明度、色、滅菌性(sterility)、安定性、製剤の溶解率等の、所望の薬学的または薬力学的特性を提供するため、ヒトまたは動物の対象への放出または吸収を修正または維持するため、血液関門を横切る輸送または特定の臓器への侵入を促進するための他の薬学的に許容可能な賦形剤を含んでもよい。
【0108】
腫瘍溶解性ウイルス組成物は、免疫性(特に、T細胞媒介免疫性)を刺激し、または、TLR-7、TLR-8およびTLR-9等のトール様受容体(TLR)を通して、投与後に腫瘍細胞の感染を容易にすることができる1つ以上の補助剤を含んでなってもよく、限定されることなく、ミョウバン、フロイント完全および不完全アジュバント(IFA)等の鉱油エマルジョン、リポ多糖類またはそれらの誘導体(Ribi et al., 1986, Immunology and Immunopharmacology of Bacterial Endotoxins, Plenum Publ. Corp., NY, p407-419)、QS21等のサポニン(Sumino et al., 1998, J. Virol. 72: 4931、W098/56415)、Imiquimod(Suader, 2000, J. Am Acad Dermatol. 43:S6)等のイミダゾキノリン化合物、S-27609(Smorlesi, 2005, Gene Ther. 12: 1324)、およびWO2007/147529に記載されたもの等の関連化合物、CpG等のシトシンリン酸グアノシンオリゴデオキシヌクレオチド(Chu et al., 1997, J. Exp. Med. 186: 1623、Tritel et al., 2003, J. Immunol. 171: 2358)およびIC-31等のカチオン性ペプチド(Kritsch et al., 2005, J. Chromatogr Anal. Technol. Biomed. Life Sci. 822: 263-70)を含む。
【0109】
一つの態様において、本発明の腫瘍溶解性ウイルス組成物は、具体的には製造、および凍結温度(例えば、-70℃、-20℃)、冷蔵温度(例えば、4℃)または大気温での長期保存(即ち、少なくとも6ヶ月、好ましくは少なくとも2年)の条件下で、安定性を改善することを目的として製剤化してもよい。多様なウイルス製剤は、冷凍、液体形態または凍結乾燥形態のいずれかで、当技術分野において入手可能である(例えば、WO98/02522、WO01/66137、WO03/053463、WO2007/056847およびWO2008/114021等)。固体(例えば、乾燥粉末または凍結乾燥された)組成物は、真空乾燥および凍結乾燥を含む方法によって得ることができる(例えば、WO2014/053571を参照)。例示を目的として、NaClおよび糖を含む緩衝製剤がウイルスの保存に特に適している(例えば、サッカロース5%(W/V)を含むTris 10mM pH8、グルタミン酸ナトリウム10mM、およびNaCl 50mM、またはグリセロール(10%)およびNaClを含むリン酸緩衝食塩水)。
【0110】
特定の態様において、腫瘍溶解性ウイルス組成物は、in vivoでの適切な分散または遅延された放出を確保するように製剤化することができる。例えば、腫瘍溶解性ウイルス組成物は、リポゾームに製剤化できる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸等の生体分解性、生体適合性ポリマーを用いることができる。そのような製剤の多くの調製方法は、例えば、J.R. Robinson in “Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems”, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1978によって記載されている。
【0111】
腫瘍溶解性ウイルスの適切な投与量は、多様なパラメーターに応じて変化させることができ、関連する状況を考慮して、熟練者によって慣習的に決定され得る。腫瘍溶解性ウイルスの好適な投与量は、ウイルスおよび使用される定量的技術に応じて、約10~約1013vp(ウイルス粒子)、iu(感染単位)またはpfu(プラーク形成単位)で変動する。一般的指針として、ワクシニアウイルスでは、約10pfu~約1013pfuの用量が好適であり、好ましくは約10pfu~約1011pfu、より好ましくは約10pfu~約5×10pfuであり、ヒトに用いる場合、約10pfu~約10pfuの用量が特に好ましい。試料中に存在するウイルスの量は、慣習的な滴定技術、例えば、許容細胞(例えば、BHK-21またはCEF)を用いて許容細胞の感染の後にプラーク数を数えること、免疫染色(例えば、抗ウイルス抗体を用いて;Caroll et al., 1997, Virology 238: 198-211)、A260吸収(vp力価)の測定、さらには定量的免疫蛍光(iu力価)によって決定することができる。
【0112】
好ましい態様において、当該腫瘍溶解性ウイルス組成物の投与は、対象から得られた生体試料(body sample)中に少なくとも50ng/mlを送達することを可能にする。一つの態様において、免疫チェックポイントの当該レベルは、約10pfu~約5×10pfuの本明細書の腫瘍溶解性ウイルスの単回投与後に得られ、続く投与によってさらに増加させることができる。別の態様において、生体試料は、血液、血清、血漿、腫瘍生検標本、腫瘍ホモジネート、腫瘍液等であり、投与から少なくとも1時間~1ヶ月後に採取される。より好ましくは、コードされた免疫チェックポイントモジュレーターのin situでの生成は、腫瘍溶解性ウイルスの投与から2~8日(例えば、3~7日またはより好ましくは約5日)後に対象から採取された生体試料(biological sample)1mlあたり、少なくとも100ng(例えば、少なくとも200ng/ml、少なくとも400ng/ml、少なくとも500ng/ml、少なくとも700ng/ml、少なくとも800ng/ml、少なくとも900ng/ml、少なくとも1000ng/ml、少なくとも1200ng/ml、少なくとも1500ng/ml、少なくとも1800ng/ml、少なくとも2000ng/ml、少なくとも2500ng/ml、および少なくとも3000ng/ml)に到達した。in situで分泌された免疫チェックポイント阻害剤のレベルは、実施例に記載されるように評価できる。
【0113】
投与
本発明の腫瘍溶解性ウイルスまたは組成物は、単回投与(例えば、ボーラス注射)または複数回投与で投与してもよい。複数回投与の場合、投与は同一または異なる経路によって行ってもよく、同一の部位または異なる部位に行ってもよい。投与は、休息期間後に、繰り返し、連続的サイクルで投与することによって進めることも可能である。各投与の間隔は、数時間から1年であり得る(例えば、24時間、48時間、72時間、毎週、隔週、毎月または毎年)。間隔は、不規則であってもよい(例えば、腫瘍進行の後)。用量は、上記の範囲内で、それぞれの投与について変化させてもよい。
【0114】
本発明の文脈において、非経口、局所、粘膜経路を含む、任意の一般的な投与経路が適用可能である。非経口経路は、注射または注入としての投与を意図している。一般的な非経口注射タイプは、静脈内(静脈中へ)、動脈内(動脈中へ)、皮内(真皮中へ)、皮下(皮膚の下へ)、筋肉内(筋肉中へ)および腫瘍内(腫瘍中へまたは近接したところへ)である。注入は、典型的には静脈内経路で行われる。粘膜投与は、限定されることなく、経口/消化管、鼻腔内、気管内、肺内、膣内または直腸内経路を含む。局所投与は、経皮的手段(例えば、パッチ等)を用いて行うこともできる。投与は、一般的な注射器および針(例えば、Quadrafuse注射針)、または対象において活性薬剤の送達を容易にできるかまたは改善できる、当技術分野において入手可能な任意の化合物または装置を用いてもよい。腫瘍溶解性ウイルスにとって好ましい投与の経路は、静脈内経路または腫瘍内経路を含む。
【0115】
本発明の文脈において、腫瘍溶解性ウイルスは、10~5×10pfuの範囲内の用量で、1回または数回(例えば、2、3、4、5、6、7または8回等)投与してもよい。それぞれの投与間の時間間隔は、約1日~約8週間、有利には約2日間~約6週間、好ましくは約3日間~約4週間、さらにより好ましくは約1週間~約3週間で変化してもよい(例えば、隔週)。好ましい好適な治療計画は、約1~2週間の間隔で、10または10pfuの腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの2~5回(例えば、3回)の静脈内または腫瘍内投与を含む。
【0116】
本発明は、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスを、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、癌等の増殖性疾患の治療方法にも関する。
【0117】
本発明は、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスを、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、in vivoにおける腫瘍細胞増殖を阻害する方法にも関する。
【0118】
本発明は、本明細書に記載された腫瘍溶解性ウイルスを、それを必要とする対象に投与することを含んでなる、腫瘍細胞に対する免疫反応を向上させる方法にも関する。
【0119】
一つの態様において、本発明で使用される腫瘍溶解性ウイルスの投与は、免疫反応を誘導し、促進し、かつ/または再び適応させる。具体的には、投与は、治療される宿主内で、腫瘍溶解性ウイルスに対する、または最終的には、もしあればウイルスゲノム内に挿入されている治療遺伝子によってコードされた産物に対する防御的TまたはB細胞反応を誘発する。防御的T反応は、CD4+またはCD8+、あるいは、CD4+およびCD8+の両方の細胞媒介性であり得る。B細胞反応は、ELISAにより測定することができ、T細胞反応は、免疫化された動物または対象から採取した任意のサンプル(例えば、血液、器官、腫瘍等)の一般的なElispot、ICSアッセイによって評価することができる。
【0120】
一つの態様において、腫瘍溶解性ウイルスの投与は、腫瘍中のエフェクター細胞、特にエフェクターTリンパ球の活性を向上させ、かつ/または少なくとも部分的なTreg減少を促進させることを目的として、腫瘍微環境を変化させることを可能にする。腫瘍浸潤細胞は、例えば一般的な免疫染色アッセイによって容易に同定することができる。
【0121】
一つの態様において、本発明の方法は、同一の条件下で、類似の腫瘍溶解性ウイルス(免疫チェックポイントモジュレーターなしの)または免疫チェックポイントモジュレーターの単独または同時投与のいずれかにより得られる治療効果より高い治療効果を提供する。本発明の文脈において、本発明の方法は、ウイルスまたは免疫チェックポイントモジュレーターの単独または同時投与のいずれかより、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%または少なくとも25%を超える治療効果を提供する。より高い治療効果は、用語「治療的有効量」に関して、特に好ましくはより長い生存率に対して、上記に記載されたとおりに証明することができる。
【0122】
本発明の腫瘍溶解性ウイルス、組成物および方法を用いて治療され得る増殖性疾患の例として、骨肉腫、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、食道癌、口腔咽頭癌、肺癌、頭部癌および頸部癌、皮膚癌、黒色腫、子宮癌、頸癌、卵巣癌、乳癌、直腸癌、肛門部の癌、前立腺癌、リンパ腫、内分泌系癌、甲状腺癌、軟部組織の肉腫、慢性白血病または急性白血病、膀胱癌、腎臓癌、中枢神経系(CNS)の腫瘍、神経膠腫等が挙げられる。本発明は、転移性癌、特にPD-L1を発現する転移性癌(Iwai et al., 2005, Int. Immunol. 17: 133-44)の治療にも有用である。本発明による腫瘍溶解性ウイルスを用いて治療され得る好ましい癌は、典型的に、免疫療法に反応の良い癌を含む。治療に好ましい癌の非限定的な例として、黒色腫(例えば、転移性悪性黒色腫)、腎臓癌(例えば、明細胞癌)、前立腺癌(例えば、耐ホルモン性前立腺腺癌)、乳癌、結腸直腸癌、肺癌(例えば、非小細胞肺癌)および肝臓癌(例えば、肝細胞癌)が挙げられる。
【0123】
有利な態様によれば、特に腫瘍溶解性ウイルスが自殺遺伝子を持つと、本発明による腫瘍溶解性ウイルス療法または方法は、プロドラッグ、有利にはシトシンの類似体、具体的には5-FCの薬学的に許容可能な量が対象に投与される追加的ステップを含んでなってもよい。例証の目的で、1日あたり50~500mg/kgの用量を用いることが可能であり、1日あたり200mg/kgまたは1日あたり100mg/kgの用量が好ましい。本発明の文脈の範囲内において、プロドラッグは、標準的な技法(例えば、経口、全身的等)によって投与される。好ましくは、投与は、腫瘍溶解性ウイルスの投与の後、ウイルスの投与から好ましくは少なくとも3日後、より好ましくは少なくとも4日後、さらにより好ましくは7日後に行われる。経口投与が好ましい。プロドラッグを単回用量で、または有毒代謝物が宿主生体または細胞内で生成できるほど十分に長い期間繰り返される複数用量で投与することが可能である。
【0124】
本発明の腫瘍溶解性ウイルス、組成物または方法は、抗癌治療において治療効果的な1つ以上の物質と関連づけることができ、本発明は、対象に追加的癌治療を送達するステップを含んでなる方法にも関する。本発明の文脈において、追加的癌治療は、手術、放射線、化学療法、免疫療法、ホルモン療法またはそれらの組合せを含んでなる。好ましい態様において、本発明の方法は、抗癌治療において効果的な1つ以上の物質の投与を含んでなる。本発明の腫瘍溶解性ウイルス、組成物または方法と結びつけてまたは組み合わせて使用してもよい、抗癌治療において効果的な医薬物質の中でも、特定的に言及されるのは:
・例えば、マイトマイシンC、シクロホスファミド、ブスルファン、イホスファミド、イソファミド、メルファラン、ヘキサメチルメラミン、チオテパ、クロラムブシルまたはダカルバジン等のアルキル化剤;
・例えば、ゲムシタビン、カペシタビン、5-フルオロウラシル、シタラビン、2-フルオロデオキシシチジン、メトトレキサート、イダトレキサート、トムデックスまたはトリメトレキサート等の代謝拮抗物質;
・例えば、ドキソルビシン、エピルビシン、エトポシド、テニポシドまたはミトキサントロン等のトポイソメラーゼII阻害剤;
・例えば、イリノテカン(CPT-11)、7-エチル-10-ヒドロキシ-カンプトセシン(SN-38)またはトポテカン等のトポイソメラーゼI阻害剤;
・例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、ビンブラスチン、ビンクリスチンまたはビノレルビン等の細胞分裂抑制薬;
・例えば、シスプラチン、オキサリプラチン、スピロプラチナム(spiroplatinum)またはカルボプラチナム(carboplatinum)等の白金誘導体;
・スニチニブ(Pfizer)およびソラフェニブ(Bayer)等のチロシンキナーゼ受容体の阻害剤;
・抗腫瘍抗体、具体的には、トラスツズマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、ベバシズマブおよびラニビズマブ等の細胞表面受容体の調節に影響する抗体;
・ゲフィチニブ、エルロチニブおよびラパチニブ等のEGFR(上皮成長因子受容体)阻害剤;ならびに
・例えば、α、βまたはγインターフェロン、インターロイキン(具体的には、IL-2、IL-6、IL-10またはIL-12)または腫瘍壊死因子等の免疫調節剤
である。
【0125】
本発明の腫瘍溶解性ウイルス、組成物または方法は、放射線治療と併せて用いることもできる。
【0126】
本発明は、投与されるそれぞれのウイルス用量に対する異なる容器(例えば、滅菌ガラスまたはプラスチックバイアル)を含むキットも提供する。場合により、キットには、活性薬剤の投与を実行する装置が含まれてもよい。キットには、キット内の組成物または個別成分および投与形態に関する情報を含む添付文書が含まれもよい。
【図面の簡単な説明】
【0127】
図1図1は、感染したCEFから生成された、精製された抗PD-1mAb、FabおよびscFvの量を示す。
図2図2は、精製された組換えmAb(Vacc.mAb)およびscFv(Vacc.scFv)、同様に、還元(R)および非還元(NR)状態の市販のJ43(BioXCell)の電気泳動による分析を示す。
図3図3は、表示されたウイルスを0.0001、0.001および0.01のMOIで感染させたLoVo中における、ウイルスのin vitroでの複製能を。値は、3つの独立測定の平均±SDで表される。
図4図4は、本明細書に記載された腫瘍溶解性ワクシニアウイルスによって発現された抗PD-1抗体の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列を示す。
図5図5は、WRTG18618、WRTG18619、WRTG18620およびWRTG18621に感染したCEFから得られた細胞培養上清中に分泌された組換えmAbおよびFabの免疫ブロット分析を示す。市販のJ43を参照として使用している。Mは、分子量マーカーおよびCはネガティブコントロールを示す。
図6図6は、(B16F10腫瘍の皮下移植に起因する)腫瘍内もしくは皮下(腫瘍のないマウス)に注射したWRTG18618(10pfu)の単回投与、または1μgもしくは10μgの市販のJ43(Bioxcell)の腫瘍内投与により治療したマウスの血清中(図6A)および腫瘍ホモジネート中(図6B)に生成された組換えJ43の濃度を示す。注射から5日および11日後に、定量的ELISA1によって、組換えJ43の濃度を測定した。
【実施例
【0128】
これら実施例は、抗免疫チェックポイント阻害剤の多様な形態を発現するために操作された腫瘍溶解性ワクシニアウイルスを例示する。ウイルス性ベクターから免疫チェックポイント阻害剤を発現する有益な効果についての前臨床証明は、マウス腫瘍モデルにおいて証明される。これは、i)マウス特異的抗免疫チェックポイント抗体およびii)より高い効果をもってマウス細胞を感染させることができる腫瘍溶解性ポックスウイルスの使用を示唆している。
【0129】
免疫チェックポイント阻害マウスPD-1(mPD-1)を標的にするために、マウス特異的ハムスター抗体J43を選択した。この抗体は、mPD1とPD-L1の相互作用を阻害することが示されている(米国特許第7,858,746号)。抗体J43およびそのアイソタイプコントロール(ハムスターIgG)は、BioXCellより入手可能である。抗mPD-1抗体およびそのアイソタイプコントロールを、in vitroでの機能的試験および定量的ELISAを構築するために用いた。さらに、J43および多様なその形態を、腫瘍溶解性ウイルスにクローン化し、腫瘍動物モデルにおいてin vivoで試験した。
【0130】
これら研究のために選択された腫瘍溶解性ウイルスは、正常(非分裂)細胞においてウイルスを非複製性にする、チミジンキナーゼ(TK)(遺伝子座J2R)およびRR(遺伝子座I4L)を欠損するワクシニアウイルス(VV)ウエスタンリザーブ(Western Reserve)(WR)株である。一方、VV TKRRは、腫瘍細胞中で選択的かつ効果的に複製すると考えられる。
【0131】
腫瘍溶解性TK RR ワクシニアウイルスにおける抗mPD-1分子のベクター化
J43の重鎖は、抗CD79b IgGの重鎖と高い相同性を示した。従って、重鎖のクローン化用に保持されていた配列は、J43の可変鎖および抗CD79Bの定常鎖であった。J43の軽鎖を、抗CD79b抗体の軽鎖のシグナル配列とクローン化した。重鎖および軽鎖を、若干異なる強度を持つ、ウイルスプロモーターpH5Rまたはp7.5Kの制御下に置いた。「全」抗体コンストラクトに加えて、誘導体、それぞれHisタグ抗原結合断片(Fab)コンストラクト、同様に、Hisタグ一本鎖抗体(scFv)コンストラクトを生成した。それぞれのプロモーター下に置かれた軽鎖または重鎖の部位に依存して、Fabに対して、2つのコンストラクトフォーマットも生成した。全ての5つのコンストラクトを、TK、RR欠失WR VVの骨格に挿入した。コンストラクトは、下記のとおりまとめられる:
pH5R-HC-p7.5K-LCに対応するWRTG18618(または、mAb1)
pH5R-LC-p7.5K-HCに対応するWRTG18619(または、mAb2)
pH5R-(VH-CH1-6His)-p7.5K-LCに対応するWRTG18621(または、Fab1)
pH5R-LC-p7.5K-(VH-CH1-6His)に対応するWRTG18620(または、Fab2)
pH5R-VH-gs-VL-6His)に対応するWRTG18616(scFv)。
【0132】
HCおよびLCは重鎖および軽鎖、VHおよびVLは重可変および軽可変ドメイン、6Hisは、HISタグ(6ヒスチジン)、ならびにgsはポリグリシン-セリンリンカーの略称を示す。
【0133】
コンストラクト1は、予測される鎖集合プロファイルと共に、最も高い発現レベルの組換えmAbまたはFabを示した。
【0134】
ウイルス株WRTG18616(scFv)、WRTG18618(mAb1)およびWRTG18621(Fab1)は、BHK-21細胞内で産生され、接線流濾過(TFF)によって精製した。
【0135】
WRTG18618(pH5R-HC-p7.5K-LC):mAb1の構築
合成的方法(Geneart:レーゲンスブルク、ドイツ)により、p7.5Kプロモーターに続くHCを含有する断片を産生し、PstIおよびEcoRIによって制限されたワクシニア導入プラスミドpTG18496中にクローン化し、pTG18614を得た。合成的方法により、LCを含有する断片を産生し、NsiIおよびSalIによって制限されたpTG18614中にクローン化し、pTG18618を得た。
【0136】
ワクシニア導入プラスミドpTG18496を、VVゲノムのTK遺伝子の相同的組換えによって導入されるヌクレオチド配列の挿入を可能にするために設計した。それは、J2R遺伝子を取り囲むフランキング配列(BRGTKおよびBRDTK)および複数のクローン化部位に続くpH5Rプロモーターを含有する。
【0137】
抗PD-1 HCおよび抗PD-1 LCのアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1および配列番号2とし、図4に示した。
【0138】
WRTG18618の産生は、RR欠失WRに感染し、かつ、ヌクレオフェクション(nucleofection)によってpTG18618を導入した(Amaxa Nucleofector 技術に従って)ニワトリ一次胚線維芽細胞(CEF)中で相同的組換えによって行われた。ウイルス選択を、ブロモデオキシウリジンの存在下で培養したチミジンキナーゼ欠損(TK)143B細胞中での増殖後にプラーク精製によって行った。この選択は、TK rWRのみを生存させたままにすることを可能とする。親WRによる汚染がないことをPCRによって確認した。
【0139】
WRTG18619(pH5R-LC-p7.5K-HC):mAb2の構築
合成的方法により、p7.5Kプロモーターに続くLCを含有する断片を産生し、PstIおよびEcoRIによって制限されたワクシニア導入プラスミドpTG18496中にクローン化し、pTG18615を得た。合成的方法により、HCを含有する断片を産生し、NsiIおよびMluIによって制限されたpTG18615中にクローン化し、pTG18619を得た。
【0140】
WRTG18619ウイルスの産生を、上述の相同的組換えによってCEF中で行った。
【0141】
WRTG18621(pH5R-(VH-CH1-6His)-p7.5K-LC):Fab1の構築
合成的方法により、p7.5Kプロモーターに続くVH-CH1-6Hisを含有する断片を産生し、PstIおよびEcoRIによって制限されたワクシニア導入プラスミドpTG18496中にクローン化し、pTG18617を得た。合成的方法により、LCを含有する断片を産生し、NsiIおよびSalIによって制限されたpTG18617中にクローン化し、pTG18621を得た。
【0142】
WRTG18621ウイルスの産生を、上述の相同的組換えによってCEF中で行った。
【0143】
WRTG18620(pH5R-LC-p7.5K-(VH-CH1-6His):Fab2の構築
合成的方法により、p7.5Kプロモーターに続くLCを含有する断片を産生し、PstIおよびEcoRIによって制限されたワクシニア導入プラスミドpTG18496中にクローン化し、pTG18615を得た。合成的方法により、VH-CH1-6Hisを含有する断片を産生し、NsiIおよびMluIによって制限されたpTG18615中にクローン化し、pTG18620を得た。
【0144】
WRTG18620ウイルスの産生を、上述の相同的組換えによってCEF中で行った。
【0145】
WRTG18616(pH5R-VH-gs-VL-6His):scFvの構築
合成的方法により、VH-gs-VL-6Hisを含有する断片を産生し、PstIおよびEcoRIによって制限されたワクシニア導入プラスミドpTG18496中にクローン化し、pTG18616を得た。
【0146】
WRTG18616ウイルスの産生を、上述の相同的組換えによってCEF中で行った。
【0147】
コードされた抗PD-1抗体のin vitroでの特性解析
上述の組換え腫瘍溶解性ベクターを、コードされた抗mPD-1分子の産生を評価するために試験した。これに、初代許容細胞または細胞株を感染させ、上清を集菌した。抗mPD-1分子の存在は、SDS-PAGE、ウエスタンブロット分析、質量分析、ELISAおよび機能的アッセイによって決定できる。市販の抗mPD-1抗体をコントロールとして用いた。
【0148】
感染したCEF(moi 0.2)の上清を、検出用のポリクローナル抗ハムスターIgG抗体を用いて、非還元条件下で、ウエスタンブロットによって分析した(感染から48時間および72時間後)。ELISAによってWRTG18618(mAb1)およびWRTG18621(Fab1)を検出することができた。WRTG18618感染細胞によって分泌された産物の発現プロファイルは、市販のJ43抗体と類似のパターンを有し、WRTG18621感染細胞によって分泌された産物の予測される集合が観測された。ScFv発現も、予測されるサイズで、ウエスタンブロットによって、培養上清中で検出された。
【0149】
mAb1精製および抗PD-1抗体の体外評価
CEFを、F175フラスコ内で培養し、2.7×10pfuの抗PD-1発現ウイルスを感染させた。48~72時間後、培養上清を採取し、0.2μmのろ過器で濾過した。mAb1を、Hitrap protein A(GE Healthcare)によって精製し、次いでSuperdex 200 ゲル濾過(GE Healthcare)する一方で、Fab1およびscFvを、HIS-Trap(GE Healthcare)によって精製し、次いでSuperdex 75ゲル濾過(GE Healthcare)した。scFvは、ゲル濾過により2つのピークとして溶出され、一つ目のピークは二量体、2つ目のピークは単量体に対応していた。図1において示されているように、相当量のmAb、FabおよびscFVが産生された。収量は、抗体型によって、上清1mlあたり0.5~2μgであった。
【0150】
組換え精製されたmAbは、非還元条件下で、2つの軽鎖および2つの重鎖の正確な集合とともに、市販のmAbと類似の電気泳動プロファイルを有し、図2において示されるような還元条件下での独立した軽鎖および重鎖の検出を有していた。さらに、精製されたscFvは、予想されるサイズで、SDS-PAGEで移動した(図2を参照)。
【0151】
組換え産物は、ELISAによって検出でき、競合ELISAにおいて機能的であり(即ち、0.2μg/mLのマウスPD-L1ビオの、1μg/mLでコートされたマウスPD-1への結合を遮断する)、この競合実験においてFabよりmAbが効率的であった。さらに、組換えmAb1は、その市販のJ43対応物より効果的であり、同様に、VV生成scFv二量体断片はその単量体のものより効率的であり、その差異は、およそEC50においておよそ1ログであった。
【0152】
VVにコードされたmAb1、Fab1およびscFvの、細胞表面PD-1と相互作用する能力は、PD-1陽性Tリンパ球細胞株EL4およびRMAを用いて、フローサイトメトリーに基づく結合アッセイにより検討した。10EL4またはRMA細胞を、100μlのmAb1(5μg/ml)、市販の抗mPD-1抗体J43(5μg/ml、BioXCell)またはネガティブコントロールのハムスターIgG(5μg/ml、BioXCell)のいずれかとともに氷上で45分間培養し、洗浄した。PD-1への結合を、100μlの10μg/mlFITC接合モノクローナルマウス抗アルメニア+シリア抗体カクテル(BD Pharmingen)とともに、細胞を氷上で45分間培養することによって検出した。洗浄後、蛍光強度をNaviosTMフローサイトメーター(Beckman Coulter)で測定した。データを、Kaluza 1.2 software(Beckman Coulter)を用いて分析した。WRTG18618にコードされたmAb1は、EL4細胞およびRMA細胞に効率的に結合した。
【0153】
Fab1およびscFvの結合を測定するために、EL4細胞またはRMA細胞5×10を、5μg/mlのFab1または2.5μg/mlの単量体scFvのいずれか(両方ともHisタグ付き)、次いでPEに接合したモノクローナルマウス抗Hisタグ抗体(1/10に希釈されたもの、Miltenyi Biotec)で間接的に染色し、上記のように分析した。WRTG18621およびWRTG18616から産生されたFab1および単量体scFvは、EL4細胞およびRMA細胞の表面に効率的に結合することが示された。特異的結合は、EL4細胞を、Fab1または単量体scFvおよび完全長J43またはBioXCellからのネガティブコントロールであるハムスターIgGと共培養し、次いでPEに接合した抗Hisタグ抗体で染色することによって示された。EL4染色は、完全長J43の存在下で減少したが、ネガティブコントロールのハムスターIgGでは減少しなかった。すなわち、この結果から、VVにコードされたmAb1、Fab1およびscFvは、2つのマウスTリンパ球細胞株において内因的に発現するPD-1を認識できることが示された。
【0154】
抗mPD-1分子の阻害活性を比較するために、フローサイトメトリーに基づく競合アッセイを構築した。このアッセイは、高いPD-1陽性であるマウスTリンパ球細胞株EL4に基づいている。mPD-L1-hFc(ヒトIgG fc断片を含んでなるマウスPDリガンド1)の、細胞表面PD1への結合は、PE標識抗hFcモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーによって検出することができる。mPD-L1-hFcの結合は、抗PD-1抗体によって競合され、細胞結合PEシグナルの低減が導かれる。
【0155】
EL4細胞に結合しているPD-L1に対する組換えmAb1、Fab1およびscFvの阻害性活性を評価し、市販のJ43抗PD-1抗体(BioXCell)と比較した。より詳細には、EL4細胞10を、2μg/mlのmPD-L1 hFc(R&D Systems)および濃度を増加させながらの100μlの多様な抗PD-1抗体とともに、氷上で、45分間共培養した。洗浄後、細胞を、100μlの5μg/mlのPE接合マウス抗ヒトIgG Fc(BioLegend)と、氷上で、45分間培養した。細胞を洗浄し、平均蛍光強度を上記のように測定した。これらの条件において、コントロール抗mPD-1クローンJ43は1.6μg/mlのIC50を示した。
【0156】
予測されたとおり、コントロールのハムスターIgGは、EL4細胞に結合しているPD-L1に対する阻害活性を一切示さなかった。WRTG18618、WRTG18621およびWRTG18616から産生された組換えmAb1、Fab、単量体および二量体scFvは、それぞれBioXcellからのJ43のような細胞表面受容体に結合しているリガンドを阻害することができた。重要なことに、WRTG18618にコードされたmAb1は、BioXcellからのJ43ならびにこのアッセイにおけるFab1およびscFvバージョンと比べて、向上した阻害活性を発揮した。
【0157】
マウス血清中で産生されたか、または、代わりにヤギ由来抗ハムスター抗体により検出され得る、J43を捕捉するためのコートされたウサギ由来抗ハムスター抗体を用いた組換えWRに感染した細胞によって産生された抗体濃縮物を定量化するために、定量的ELISAを構築した。アッセイは、マウス血清に感受性であり、標準曲線は、50%のマウス血清の存在下で作成されなければならない。
【0158】
体外細胞障害性アッセイ(腫瘍溶解性活性)
ヒトLoVo癌細胞株を、トランス遺伝子のないTK-RR欠失WRワクシニアウイルス(WRTG18011)によって、および異なる抗mPD-1分子を発現するTK-RR欠失WRワクシニアウイルス(WRTG18616、WRTG18618およびWRTG8621)によって、0.001および0.0001のMOIの懸濁液に形質導入した。合計3×10細胞/ウェルを、6ウェル培養皿に、10%のFCSを補充した2mlの培地中に置いた。次いで、細胞を37℃で培養し、細胞生存を、5日後にトリパンブルー除去によって決定した。図3に示されているように、異なるウイルスの腫瘍溶解性活性は、それぞれ0.0001および0.001のMOIで、生存細胞数の75~95%および99%の減少をもたらした。トランス遺伝子のないTK-RR欠失WRウイルスおよび異なる抗mPD-1分子を発現するTK-RR欠失WRウイルスは、細胞傷害活性において差異を示さなかった。従って、異なる抗mPD-1分子の発現は、ワクシニアウイルスの腫瘍溶解性活性に影響しなかった。
【0159】
抗体発現に最適な設計
組換え腫瘍溶解性ベクターを、発現レベルおよび分泌された抗体の集合を評価するための免疫ブロットによって試験した。免疫ブロット分析を、CEFと上記のmAbおよびFabコンストラクトとを感染させてから24時間後に回収した細胞培養上清において行った。上清を、16000gで5分間遠心分離機にかけ、25μlを、還元剤を含まないLaemmli緩衝液中に調製し、PrecastGel4~15%ポリアクリルアミドゲル(Biorad)にロードした。市販のモノクローナルJ43(BioXcell)を、参照分子として用いた。各分子を1μgゲル上にロードした。ゲル電気泳動を、非還元条件下で行い、軽鎖および重鎖の集合を保存して、最適な検出を可能にした(即ち、検出に用いられたポリクローナル抗体は、還元されたIgG鎖およびFab鎖を認識しなかった)。次いで、タンパク質を、予備プログラム化されたプロトコル(高分子量:10分、2.5A一定、最大25V)によるTransblot Turboシステム(Transblot Turbo Transfer pack Biorad)を用いて、PVDF膜に移した。膜を、ブロッキング液(0.05% Tween20、無脂肪粉ミルクBiorad5%を添加した、8mM NaPO、2mM KPO、154mM NaCl pH7.2(PBS))中で、4℃で一晩飽和させた。希釈緩衝液(PBS、0.05% Tween20、無脂肪粉ミルク5%)中の西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)接合ヤギ抗アルメニアハムスターIgG(Jackson Immunoresearch)80ng/mLを、抗体免疫検出のために用いた。Amersham ECL Prime ウェスタンブロッティング検出試薬を用いて現像し、化学発光を捕らえるためにMolecular Imager ChemiDOCTMXRSを用いた。
【0160】
図5に示すように、WRTG18618およびWRTG18619の両方とも、市販のJ43mAbに匹敵する、互いに連結した2つの重鎖および2つの軽鎖に明らかに対応しているサイズの、およそ同量の抗体産物を分泌した。しかしながら、WRTG18619は、43~55kDaマーカーの間に移動する予測されない産物も産生した(4レーン「18619」中の矢印で示された余分なバンドを参照)。同様に、余分なバンドは、WRTG18620に感染した培養上清にも存在し(5レーン「18620」中の同じ位置および同じ強度)、一方で、WRTG18621は、検出し得る誤って集合した産物が一切なく、大量の正確に集合したFabを産生した(6レーン「18621」の矢印の頭を参照)。
【0161】
哺乳類細胞株BHK21およびA549の感染後に行われた細胞培養上清の分析は、同一のプロファイルを生成した(データは示されていない)。
【0162】
コンストラクトの設計を見ると、WRTG18619およびWRTG18620の両方のコンストラクトにおいて、抗体軽鎖は、pH5Rプロモーター(強プロモーター)の転写制御下に置かれたと思われる。一つの仮説は、この配置において、抗体軽鎖は、重鎖に対して過剰に発現でき、よってホモ二量体を形成できるということである。従って、43~55kDaの間を移動しているこの余分なバンドは、47kDaの理論的質量のホモ二量体内を形成した、過剰産生された軽鎖に対応し得る。
【0163】
従って、異常な集合(例えば、軽鎖のホモ二量体)の危険性を低減するために、軽鎖を発現するために用いたプロモーターより強いプロモーターの制御下で重鎖を発現することが好ましい。
【0164】
すなわち、これら結果から、本明細書に記載されている組換え腫瘍溶解性ウイルスが、検出可能なレベルでのmAbおよびFabを分泌する能力を有することが確認された。抗体産物を産生する能力がWRTG18619およびWRTG18620の能力より期待に近いため、WRTG18618およびWRTG18621を残りの実験に選択した。
【0165】
ベクター化抗PD-1抗体の体内発現
ベクター化抗PD-1J43mAbの発現を、皮下移植したB16F10腫瘍を持つマウスおよび持たないマウスにおいてin vivoで評価した。WRTG18618(mAb1コンストラクト)を、腫瘍内または皮下のいずれかで注射し、市販のJ43(腫瘍内注射)と比較した。
【0166】
in vivo実験および試料採取
より詳細には、3×10のB16F10細胞(マウス黒色腫)を6週齢雌C57BL/6マウスの右横腹に皮下(S.C.)注射した。0日目(D0)、腫瘍体積が、100~200mmに到達した際に、100μLの、WRTG18618(10pfu)または市販のJ43(1μgまたは10μg、BioXcell)のいずれかを腫瘍内(I.T.)に注射した。
【0167】
WRTG18618を、腫瘍を持たないマウスにもS.C注射した。
【0168】
D1、D5およびD11に血液および腫瘍を採取した。それぞれの時点について、3匹のマウスを200μLのペントバルビタールで麻酔し、心臓内穿刺によって血液を採取した。8時間、4℃で血液を保存し、血清を、遠心分離を2回行った後に回収し、分析まで-20℃で保管した。血液採取後、頸部延長によって屠殺し、腫瘍を採取した。腫瘍を計量し、小さく切り刻み、PBS3mlを含むGentleMACS C-typeチューブ(Miltenyi)に移した。腫瘍を、プログラム「m-inptumor01」(GentleMacs、Miltenyi)を適用することによって機械的に分離した。7分間、300gで遠心分離を行った後、上清を回収し、分析まで-20℃で保管した。
【0169】
ウイルスまたは市販のJ43mAbの注射後、異なる時点で、血清および腫瘍ホモジネート内両方のJ43濃度を、定量的ELISAによって測定した。
【0170】
定量的ELISA
J43濃度を、血清および腫瘍ホモジネートの両方において評価した。より具体的には、96ウェルプレート(Nunc immune plate Maxisorp)を、1ウェルあたり100μLの、コート溶液(0.05M炭酸ナトリウム pH9.6、Sigma)中の0.8μg/mLのヤギ抗ハムスターIgG(Southern Biotech)とともに、4℃で一晩培養した。プレートを、洗浄緩衝液(PBS、Tween20 0.05%、1ウェルあたり300μL)で3回洗浄し、1ウェルあたり200μLのブロッキング溶液(PBS、Tween20 0.05%、無脂肪粉ミルク5%)で、室温で1時間培養した。プレートを、洗浄緩衝液で3回洗浄した。2倍連続希釈法によって、1000~0.488ng/mLのJ43(BioXcell)の標準範囲を、100%マウス血清(Sigma)中に調製した。次いで、各標準液を、ブロッキング溶液でさらに2倍希釈し(最終J43濃度は500~0.244ng/mL)、血清の最終濃度を50%とした。1ウェルあたり100μLの各標準液を、プレートに二重に添加した。血清試料を、ブロッキング緩衝液で少なくとも2倍に希釈し、必要に応じて、ブロッキング緩衝液/血清の1体積/1体積混合物でさらに希釈し、プレートに100μLを添加した。プレートを、37℃で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液で3回洗浄した後、1ウェルあたり100μLで、80ng/mLのHRP接合ヤギ抗アルメニアハムスターIgG(Jackson Immunoresearch)を添加し、プレートを、37℃で1時間インキュベートした。3回洗浄後、1ウェルあたり100μLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB、Sigma)を添加し、プレートを、室温で30分間インキュベートした。反応を、1ウェルあたり100μLの2M HSOで停止し、プレートリーダー(TECAN Infinite M200 PRO)により450nmの吸光を測定した。得られたOD値を、GraphPadPrismソフトウェアに転送し、試料濃度を、5つのパラメーターに適合した標準カーブを用いて逆算出した。
【0171】
図6Aに示すように、ナイーブマウス(腫瘍が移植されていない)に皮下注射した場合、WRTG18618からの組換えJ43の産生は、非常に弱かった(1日目に9ng/mlおよび5日目に4.5ng/ml)。対照的に、B16F10腫瘍を有するマウスの血清中に、腫瘍内WRTG18618注射後、大量の組換えJ43が分泌され、D1およびD5(83ng/mlおよび9500ng/ml)において、皮下ウイルス注射後に測定した組換えJ43濃度より、それぞれ9倍および1900倍高かった。この結果は、腫瘍溶解性ウイルスが、皮下の正常組織においてより、腫瘍内で好ましく増殖することを示唆している。対照的に、10μgの市販のJ43を腫瘍内に注射した後に見つかった血清(seric)濃度は、およそ1000ng/mlに到達したが(D1に1306ng/ml、D5に1049ng/ml)、一方で、1μgの市販のJ43では、血清濃度は非常に低かった(D1に73ng/ml、D5に35ng/ml)。
【0172】
腫瘍ホモジネートにおいて、組換えJ43の産生は、血清と同じ傾向をたどり、濃度のピークはD5であった(図6Bを参照)。市販のmAbまたはWRTG18618の単回IT注射後のJ43の薬物動態は非常に異なっている。10μgの市販のJ43のIT注射後に、予想していたとおり、D1において、血清内および腫瘍内で最大の抗体濃度(それぞれ、1306ng/mlおよび173ng/ml)を測定した一方で、WRTG18618のIT注射は、D5において最大の血清および腫瘍濃度(それぞれ、9500ng/mlおよび3800ng/ml)をもたらした。全ての時点で、ウイルスIT注射後に産生される組換えJ43の腫瘍濃度は、10μgの市販のJ43をIT注射した後に測定された組換えJ43の腫瘍濃度より大幅に高かったことが強調されるべきである(D1に410ng/ml対173ng/ml、D5に3800ng/ml対51ng/mlおよびD11に700ng/ml対検出限度未満)。重要なことに、抗体産生は、ウイルス処理後D11において、腫瘍内に依然として検出され、市販のJ43注射後にはこのようにならなかった。
【0173】
これらデータは、腫瘍溶解性ウイルスのJ43のベクター化は、市販の抗体のIT注射と比べて、高く、かつ長い腫瘍内の抗体の蓄積を可能にすることを示唆している。
【0174】
皮下腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性
上記の多様な抗PD-1発現ワクシニアウイルスの抗腫瘍活性は、従来の前臨床的モデルにおいて、腫瘍の移植に続くコンストラクトの注射後に試験されてもよい。例えば、マウス癌細胞を、免疫競合性マウスの横腹中に皮下注射する。腫瘍が、50~70mmの体積に達したら、盲検下でランダム化し、1×10PFUの用量で指示されたワクシニアウイルスで処理した。ベクターまたはコントロール賦形剤(ウイルスを再懸濁するために使用される緩衝液)を、腫瘍移植後、10日目、12日目および14日目に腫瘍内へ直接注射した。キャリパーを用いて、1週間に2回、腫瘍サイズを計測した。具体的には、ベクター化したscFvおよびmAB1抗体は、腫瘍増殖を遅延させ、かつ生存率を増大させるために、少なくともWRベクターと市販のJ43の共投与と同じくらい効率的であった。
【0175】
当業者は、代替、変化、追加、欠失、修飾および置換を含む、本明細書に記載された特定の方法および薬剤の多数の同等物を認識するかまたはルーチン程度の実験を用いて確認できるだろう。そのような同等物は、本発明の範囲内であると見なされ、以下の請求項に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6