(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】超音波診断装置、超音波診断システム及び超音波診断装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/08 20060101AFI20220523BHJP
【FI】
A61B8/08
(21)【出願番号】P 2021019622
(22)【出願日】2021-02-10
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】319011672
【氏名又は名称】ジーイー・プレシジョン・ヘルスケア・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100151286
【氏名又は名称】澤木 亮一
(72)【発明者】
【氏名】谷川 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】神山 直久
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-512104(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0261950(US,A1)
【文献】特表2014-503065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0245442(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0063950(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0249408(US,A1)
【文献】特表2008-511415(JP,A)
【文献】特表2005-534455(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して超音波パルスを送信してエコー信号を受信する超音波プローブと、
プロセッサとを備え、
該プロセッサは、
少なくとも1つの周波数成分を含む機械的振動が付与されて前記少なくとも1つの周波数成分に応じた周波数の剪断波が発生している被検体に対し、少なくとも1つの第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、
前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成し、
前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を算出する、よう構成される超音波診断装置。
【請求項2】
前記画像に基づいて決定される前記パルス繰り返し周波数は、前記第1のパルス繰り返し周波数である、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記画像に基づいて決定される前記パルス繰り返し周波数は、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて設定される第2のパルス繰り返し周波数であり、
前記プロセッサは、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて前記第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記第2のパルス繰り返し周波数は、前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定される場合に、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて設定されるパルス繰り返し周波数である、請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記画像に基づいて前記判定を行ない、前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定した場合、前記第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御する、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
ディスプレイと、
オペレーターの入力を受け付けるユーザインタフェースと、を備え、
前記プロセッサは、前記画像のデータに基づく画像を前記ディスプレイに表示し、前記ユーザインタフェースが、前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定した前記オペレーターの入力を受け付けると、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて前記第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御する、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記プロセッサは、
前記画像に基づいて、前記機械的振動における前記少なくとも1つの周波数成分をさらに算出し、
前記周波数成分に応じた前記第2のパルス繰り返し周波数を算出する、請求項3~6のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定される場合、該第1のパルス繰り返し周波数を第3のパルス繰り返し周波数に変更し、
該第3のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、
該第3のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて前記画像を更新するよう構成され、
前記第2のパルス繰り返し周波数は、更新後の前記画像に基づいて適切であると判定された前記第3のパルス繰り返し周波数である、請求項3に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
前記プロセッサは、前記第1及び第3のパルス繰り返し周波数が適切か否かを判定する請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項10】
ディスプレイと、
オペレーターの入力を受け付けるユーザインタフェースと、を備え、
前記プロセッサは、
前記画像を前記ディスプレイに表示し、前記ユーザインタフェースが、前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定した前記オペレーターの入力を受け付けると、前記第1のパルス繰り返し周波数から前記第3のパルス繰り返し周波数への変更を行ない、
前記更新後の前記画像に基づいて前記ディスプレイに表示された画像を更新し、
ユーザインタフェースは、前記更新後の前記画像に基づいて、第3のパルス繰り返し周波数が適切であると判定したオペレーターの該判定結果の入力を受け付ける、請求項8に記載の超音波診断装置。
【請求項11】
前記第1のパルス繰り返し周波数は、前記被検体に付与されている前記機械的振動に含まれる前記少なくとも1つの周波数成分が変化する前の周波数成分に応じた周波数であり、
前記プロセッサは、
前記画像に基づいて、前記機械的振動における前記少なくとも1つの周波数成分を算出し、
算出した前記機械的振動における前記少なくとも1つの周波数成分と前記変化前の周波数成分とを比較して、前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定した場合、該第1のパルス繰り返し周波数に代えて前記第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御する、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項12】
前記プロセッサは、
前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に対して組織ドプラ処理を行なってドプラデータを作成し、該ドプラデータに基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する、請求項1~11のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項13】
前記第2のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に対して組織ドプラ処理を行なってドプラデータを作成し、該ドプラデータに基づいて、前記剪断波の伝搬速度を算出する、請求項3~11のいずれか一項に記載の超音波診断装置。
【請求項14】
前記機械的振動は、少なくとも第1の周波数成分と第2の周波数成分を含んでおり、
前記剪断波は、前記第1の周波数成分に応じた周波数の第1の剪断波と、前記第2の周波数成分に応じた周波数の第2の剪断波を含んでおり、
前記第1のパルス繰り返し周波数は、該第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスの送受信が開始されて所要時間が経過した後に変更され、
前記剪断波の伝搬を示す画像のデータは、前記第1のパルス繰り返し周波数の変更前の第1の画像のデータと変更後の第2の画像のデータを含み、
前記少なくとも1つの伝搬速度は、前記第1の画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて算出される前記第1の剪断波の第1の伝搬速度と、前記第2の画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて算出される前記第2の剪断波の第2の伝搬速度を含んでおり、
前記プロセッサは、さらに前記第1の伝搬速度及び前記第2の伝搬速度を用いて、前記被検体の組織性状に関するパラメータを算出する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項15】
前記第1の画像に基づいて前記変更前の第1のパルス繰り返し周波数が適切であると判定される場合及び前記第2の画像に基づいて前記変更後の第1のパルス繰り返し周波数が適切であると判定される場合、前記第1の画像に基づいて決定される前記パルス繰り返し周波数は、前記変更前の第1のパルス繰り返し周波数であり、前記第2の画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数は、前記変更後の第1のパルス繰り返し周波数である、請求項14に記載の超音波診断装置。
【請求項16】
前記第1の画像のデータに基づいて、前記機械的振動における前記第1の周波数成分が算出され、
前記第2の画像のデータに基づいて、前記機械的振動における前記第2の周波数成分が算出され、
前記第1の画像に基づいて前記変更前の第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定される場合及び前記第2の画像に基づいて前記変更後の第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定される場合、前記画像に基づいて決定される前記パルス繰り返し周波数は、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて設定される第2のパルス繰り返し周波数であり、
前記プロセッサは、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて、前記第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、なおかつ該第2のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスの送受信を開始して所定時間が経過した後に、前記第1の周波数成分に応じたパルス繰り返し周波数から、前記第2の周波数成分に応じたパルス繰り返し周波数へ変更し、
前記第1の伝搬速度は、前記第1の周波数成分に応じた前記第2のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて算出され、
前記第2の伝搬速度は、前記第2の周波数成分に応じた前記第2のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて算出される、請求項14に記載の超音波診断装置。
【請求項17】
前記機械的振動は、少なくとも第1の周波数成分と第2の周波数成分を含んでおり、
前記剪断波は、前記第1の周波数成分に応じた周波数の第1の剪断波と、前記第2の周波数成分に応じた周波数の第2の剪断波を含んでおり、
前記少なくとも1つの伝搬速度は、前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて算出される前記第1の剪断波の第1の伝搬速度と前記第2の剪断波の第2の伝搬速度を含んでおり、
前記プロセッサは、さらに前記第1の伝搬速度及び前記第2の伝搬速度を用いて、前記被検体の組織性状に関するパラメータを算出する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項18】
前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切であると判定される場合、前記画像に基づいて決定される前記パルス繰り返し周波数は、前記第1のパルス繰り返し周波数である、請求項17に記載の超音波診断装置。
【請求項19】
前記画像のデータに基づいて、前記機械的振動における前記第1の周波数成分が算出され、なおかつ前記画像のデータに基づいて、前記機械的振動における前記第2の周波数成分が算出され、
前記画像に基づいて前記第1のパルス繰り返し周波数が適切ではないと判定される場合、前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数は、前記第1のパルス繰り返し周波数に代えて設定される第2のパルス繰り返し周波数であり、
前記第2のパルス繰り返し周波数は、前記第1の周波数成分及び前記第2の周波数成分に応じた周波数である、請求項17に記載の超音波診断装置。
【請求項20】
被検体に対して超音波パルスを送信してエコー信号を受信する超音波プローブと、
プロセッサと、
前記被検体に対して少なくとも1つの周波数成分を含む機械的振動を付与する加振機と、
を備え、
前記プロセッサは、
前記機械的振動によって前記少なくとも1つの周波数成分に応じた周波数の剪断波が発生している被検体に対し、少なくとも1つの第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、
前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成し、
前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を算出する、よう構成される超音波診断システム。
【請求項21】
前記加振器は1つである、請求項20に記載の超音波診断システム。
【請求項22】
前記加振器は、少なくとも第1の加振器と第2の加振器を含んで構成され、
前記第1の加振器は、前記第1の周波数成分の機械的振動を付与し、
前記第2の加振器は、前記第2の周波数成分の機械的振動を付与する、
請求項20に記載の超音波診断システム。
【請求項23】
被検体に対して超音波パルスを送信してエコー信号を受信する超音波プローブと、
プロセッサとを備える超音波診断装置の制御プログラムであって、
該プロセッサに、
少なくとも1つの周波数成分を含む機械的振動が付与されて前記少なくとも1つの周波数成分に応じた周波数の剪断波が発生している被検体に対し、少なくとも1つの第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、
前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成し、
前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を算出する、ことを実行させる超音波診断装置の制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剪断波の伝搬速度を算出する超音波診断装置、超音波診断システム及び超音波診断装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の組織性状を定量化する手法の一つに、被検体内に発生させた剪断波を検出して組織性状に関するパラメータを算出する手法がある。例えば、特許文献1には、超音波のプッシュパルスによって被検体内に剪断波を発生させ、この剪断波の周波数と伝搬速度に基づいて粘性の定量値を算出する超音波装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波のプッシュパルスで、例えば被検体の肝臓内に剪断波を発生させた場合、この剪断波は非常に微弱であり、伝搬距離も短く、SNも悪い。このような悪条件下で、剪断波を検出して組織性状に関するパラメータを算出することは困難である。組織性状に関するパラメータをより確実に算出することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様の超音波診断装置又は超音波診断システムは、プッシュパルスの代わりに、機械的振動を被検体に付与して剪断波を発生させることで、上記の課題を解決した。剪断波を検出する超音波パルスは、機械的振動の周波数成分に応じたパルス繰り返し周波数で送信される必要がある。そこで、一態様の超音波診断装置又は超音波診断システムは、第1のパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。そして、画像に基づいて、パルス繰り返し周波数が決定される。より詳細には、一態様の超音波診断装置又は超音波診断システムは、被検体に対して超音波パルスを送信してエコー信号を受信する超音波プローブと、プロセッサとを備える。プロセッサは、少なくとも1つの周波数成分を含む機械的振動が付与されて前記少なくとも1つの周波数成分に応じた周波数の剪断波が発生している被検体に対し、少なくとも1つの第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを制御し、前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。また、プロセッサは、前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を算出する。
【発明の効果】
【0006】
上記態様における超音波診断装置によれば、機械的振動によって発生した剪断波の伝搬を示す画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で超音波パルスが送信されて得られたエコー信号に基づいて、剪断波の伝搬速度が算出される。プッシュパルスの代わりに機械的振動を用いることで、より確実に剪断波の伝搬速度を得ることができる。また、前記画像に基づいて、剪断波を検出するためのより適切なパルス繰り返し周波数を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態による超音波診断システム及び超音波診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態における処理を示すフローチャートの一例である。
【
図3】実施形態における処理を示すフローチャートの他例である。
【
図4】
図3のフローチャートにおいて、第1のパルス繰り返し周波数が適切でないと判定された場合の処理を示すフローチャートの一例である。
【
図5】実施形態における第4変形例の処理を示すフローチャートの一例である。
【
図6】他の実施形態による超音波診断システム及び超音波診断装置の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図3のフローチャートにおいて、第1のパルス繰り返し周波数が適切でないと判定された場合の処理を示すフローチャートの他例である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1に示す超音波診断システム100は、超音波診断装置1及び加振器50を備える。超音波診断装置1は、超音波プローブ2、送信ビームフォーマ3及び送信機4を含む。超音波プローブ2は、被検体に対して超音波スキャンを実行して超音波のエコーを受信する。
【0009】
より具体的には、超音波プローブ2は、パルス超音波を被検体(図示せず)に放射する複数の振動素子2aを有する。複数の振動素子2aは、送信ビームフォーマ3および送信機4によってドライブされパルス超音波を放射する。振動素子2aは、圧電素子である。
【0010】
超音波診断装置1は、さらに受信機5及び受信ビームフォーマ6を含む。振動素子2aから放射されたパルス超音波は、被検体内において反射して振動素子2aに戻るエコーを生成する。エコーは、振動素子2aによって電気信号に変換されてエコー信号となり、受信機5に入力される。エコー信号は、受信機5において所要のゲインによる増幅等が行なわれた後に受信ビームフォーマ6に入力され、この受信ビームフォーマ6において受信ビームフォーミングが行われる。受信ビームフォーマ6は、受信ビームフォーミング後の超音波データを出力する。
【0011】
受信ビームフォーマ6は、ハードウェアビームフォーマであってもソフトウェアビームフォーマであってもよい。受信ビームフォーマ6がソフトウェアビームフォーマである場合、受信ビームフォーマ6は、グラフィックス処理ユニット(GPU)、マイクロプロセッサ、中央処理装置(CPU)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、または論理演算を実行することができる他の種類のプロセッサのうちの任意の1つまたは複数を含む1つまたは複数のプロセッサを備えることができる。受信ビームフォーマ6を構成するプロセッサは、後述のプロセッサ7とは別のプロセッサで構成されていてもよいし、プロセッサ7で構成されていてもよい。
【0012】
超音波プローブ2は、送信ビームフォーミングおよび/または受信ビームフォーミングの全部または一部を行うための電気回路を含むことができる。例えば、送信ビームフォーマ3、送信機4、受信機5、および受信ビームフォーマ6の全部または一部は、超音波プローブ2内に設けられていてもよい。
【0013】
超音波診断装置1は、送信ビームフォーマ3、送信機4、受信機5、および受信ビームフォーマ6を制御するためのプロセッサ7も含む。さらに、超音波診断装置1は、ディスプレイ8、メモリ9及びユーザインタフェース10を含む。
【0014】
プロセッサ7は、1つ又は複数のプロセッサを含んでいる。プロセッサ7は、超音波プローブ2と電子通信している。プロセッサ7は、超音波プローブ2を制御して超音波データを取得することができる。プロセッサ7は、振動素子2aのどれがアクティブであるか、および超音波プローブ2から送信される超音波ビームの形状を制御する。プロセッサ7はまた、ディスプレイ8とも電子通信しており、プロセッサ7は、超音波データを処理してディスプレイ8上に表示するための超音波画像にすることができる。「電子通信」という用語は、有線通信と無線通信の両方を含むように定義することができる。プロセッサ7は、一実施形態によれば中央処理装置(CPU)を含むことができる。他の実施形態によれば、プロセッサ7は、デジタル信号プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、グラフィックスプロセッシングユニット(GPU)、または他のタイプのプロセッサなど、処理機能を実行することができる他の電子構成要素を含むことができる。他の実施形態によれば、プロセッサ7は、処理機能を実行することができる複数の電子構成要素を含むことができる。例えばプロセッサ7は、中央処理装置、デジタル信号プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ、およびグラフィックスプロセッシングユニットを含む電子構成要素のリストから選択された2つ以上の電子構成要素を含むことができる。
【0015】
プロセッサ7は、RFデータを復調する複合復調器(図示せず)を含むこともできる。別の実施形態では、処理チェーンの早いうちに復調を実行することができる。
【0016】
プロセッサ7は、複数の選択可能な超音波モダリティに従った1つまたは複数の処理動作をデータに行うように構成されている。エコー信号が受信されるとき、データは走査セッション中にリアルタイムで処理することができる。この開示のために、「リアルタイム」という用語は、いかなる意図的な遅延もなく行われる手順を含むように定義される。
【0017】
また、データは、超音波の走査中に一時的にバッファ(図示せず)に格納し、ライブ操作またはオフライン操作でリアルタイムではなく処理することができる。この開示において、「データ」という用語は、本開示においては、超音波診断装置1を用いて取得される1つまたは複数のデータセットを指すように使用することができる。
【0018】
超音波データは、プロセッサ7によって他のまたは異なるモード関連モジュール(例えば、Bモード、カラードプラ、Mモード、カラーMモード、スペクトルドプラ、造影モード、エラストグラフィ、TVI、歪み、歪み速度、など)で処理して超音波画像のデータを作ることができる。例えば、1つまたは複数のモジュールが、Bモード、カラードプラ、Mモード、カラーMモード、スペクトルドプラ、造影モード、エラストグラフィ、TVI、歪み、歪み速度、およびそれらの組合せ、などの超音波画像を生成することができる。
【0019】
画像ビームおよび/または画像フレームは保存され、データがメモリに取得された時を示すタイミング情報を記録することができる。前記モジュールは、例えば、画像フレームを座標ビーム空間から表示空間座標に変換するために走査変換演算を実行する走査変換モジュールを含むことができる。被検体に処置が実施されている間にメモリから画像フレームを読み取り、その画像フレームをリアルタイムで表示する映像プロセッサモジュールが設けられてもよい。映像プロセッサモジュールは画像フレームを画像メモリに保存することができ、超音波画像は画像メモリから読み取られディスプレイ8に表示される。
【0020】
なお、本明細書で使用する場合、「画像」という用語は、可視画像と可視画像を表すデータの両方を広く指す。また、「データ」という用語は、走査変換演算前の超音波データであるローデータ(raw data)と、走査変換演算後のデータである画像データを含みうる。
【0021】
プロセッサ7が複数のプロセッサを含む場合、プロセッサ7が担当する上述の処理タスクを、複数のプロセッサが担当してもよい。例えば、第1のプロセッサを使用して、RF信号を復調および間引きすることができ、第2のプロセッサを使用して、データをさらに処理した後、画像を表示することができる。
【0022】
また、例えば受信ビームフォーマ6がソフトウェアビームフォーマである場合、その処理機能は、単一のプロセッサで実行されてもよいし、複数のプロセッサで実行されてもよい。
【0023】
ディスプレイ8は、LED(Light Emitting Diode)ディスプレイ、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどである。
【0024】
メモリ9は、任意の既知のデータ記憶媒体である。一例では、超音波画像表示システム1は、メモリ9として非一過性の記憶媒体及び一過性の記憶媒体を含み、複数のメモリ9を含んでいる。非一過性の記憶媒体は、例えば、HDD(Hard Disk:ハードディスク)、ROM(Read Only Memory)などの不揮発性の記憶媒体である。非一過性の記憶媒体は、CD(Compact Disk)やDVD(Digital Versatile Disk)などの可搬性の記憶媒体を含んでいてもよい。非一過性の記憶媒体には、プロセッサ7によって実行されるプログラムが記憶される。
【0025】
一過性の記憶媒体は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記憶媒体である。
【0026】
ユーザインタフェース10は、オペレーターの入力を受け付けることができる。例えば、ユーザインタフェース10は、オペレーターからの指示や情報の入力を受け付ける。ユーザインタフェース10は、キーボード(keyboard)、ハードキー(hard key)、トラックボール(trackball)、ロータリーコントロール(rotary control)及びソフトキー等を含んで構成されている。ユーザインタフェース10は、ソフトキー等を表示するタッチスクリーンを含んでいてもよい。
【0027】
加振器50は、機械的振動を発生する。一例では、加振器50は、圧電素子を備え、この圧電素子に駆動電圧が印可され機械的振動を発生する。機械的振動は、少なくとも第1の周波数成分f1と第2の周波数成分f2を含んでいる。
【0028】
加振器50は、超音波診断装置1とは独立して動作し、また独自の電源を有している。
【0029】
次に、本例における処理について説明する。
図2は、本例の処理を示すフローチャートである。先ず、ステップS1では、加振器50が被検体に対する機械的振動の付与を開始する。加振器50は、被検体の表面に置かれた状態で機械的振動を付与する。一例では、オペレーターが、加振器50を被検体の表面に置き、なおかつ加振器50を動作させる。機械的振動により、被検体内の生体組織には剪断波が発生する。
【0030】
次に、ステップS2では、機械的振動によって剪断波が発生している被検体に対し、プロセッサ7は第1のパルス繰り返し周波数PRF1で超音波パルスを所要時間送受信するよう超音波プローブ2を制御する。第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、剪断波を検出でき、この剪断波の伝搬速度を算出できる周波数であるものの、後述の第2のパルス繰り返し周波数PRF2の方が、剪断波の伝搬速度をより確実かつ正確に算出できる周波数である。
【0031】
次に、ステップS3では、プロセッサ7は、ステップS2において送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。より詳細には、プロセッサ7は、ステップS2において送信された超音波パルスのエコー信号に対して、組織ドプラ処理を行なってドプラデータを作成する。そして、プロセッサ7は、このドプラデータに基づいて、剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。一例では、剪断波の伝搬を示す画像のデータは、特許第6498183号に記載された手法により作成される。剪断波の伝搬を示す画像は、剪断波が縞模様となって表れた画像である。画像は、動画であってもよい。
【0032】
次に、ステップS4では、プロセッサ7は、ステップS3で作成された画像のデータに基づいて、機械的振動における少なくとも1つの周波数成分を算出する。ステップS3で作成された画像のデータは、組織ドプラ処理で得られるIQ信号の周期的な変動を示すので、例えばプロセッサ7は、IQ信号と、第1のパルス繰り返し周波数PRF1と、ステップS2における超音波パルスの送受信におけるフレームレートに基づいて、機械的振動における少なくとも1つの周波数成分を算出する。
【0033】
次に、ステップS5では、プロセッサ7は、ステップS4において算出された機械的振動における周波数成分に応じた超音波パルスの第2のパルス繰り返し周波数PRF2を算出する。この第2のパルス繰り返し周波数PRF2について詳しく説明する。剪断波は、上述のように、組織の動きを検出する組織ドプラの手法を用いて検出される。組織ドプラの手法においては、組織の動きの周波数、すなわち振動周波数に対して、動きをより確実かつ正確に検出しうる超音波パルスのパルス繰り返し周波数がある。従って、第2のパルス繰り返し周波数PRF2は、組織ドプラ処理において剪断波をより確実に検出しやすいよう、ステップS4において算出された機械的振動における周波数成分に応じて設定された周波数である。
【0034】
一例では、第2のパルス繰り返し周波数PRF2と、ステップS4において算出された機械的振動における周波数成分との関係は、特許第6498183号の段落0016に記載された式(1)で示される関係であってもよい。すなわち、具体的には、
f={(2m+1)/4}×PRF2
であってもよい。上記式において、「f」はステップS4において算出された機械的振動における周波数成分であり、「m」は0以上の整数、「PRF2」は第2のパルス繰り返し周波数PRF2である。上記式を用いて、機械的振動における周波数成分に応じた超音波パルスの第2のパルス繰り返し周波数PRF2を算出することができる。すなわち、
PRF2=4×f/(2m+1)
である。
【0035】
次に、ステップS6では、プロセッサ7は、機械的振動によって剪断波が発生している被検体に対して、ステップS5で算出された第2のパルス繰り返し周波数PRF2で所要時間超音波パルスを送受信するよう超音波プローブ2を制御する。
【0036】
次に、ステップS7では、プロセッサ7は、ステップS6において送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、剪断波の伝搬速度を算出する。プロセッサ7は、超音波パルスのエコー信号に対して、組織ドプラ処理を行なってドプラデータを作成し、このドプラデータに基づいて伝搬速度を算出する。プロセッサ7は、ドプラデータに基づいて、剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成してもよい。また、プロセッサ7は、この画像のデータに基づく画像をディスプレイ8に表示してもよい。
【0037】
本例のように、被検体に対して継続的な機械的振動が付与されることで、超音波のプッシュパルスを用いる場合と比べて、より大きな振幅の剪断波を発生させることができる。従って、被検体の組織性状に関するパラメータとして、より信頼性のある剪断波の伝搬速度を算出することができる。剪断波の伝搬を示す画像のデータに基づいて、機械的振動における周波数成分が算出されるので、剪断波の周波数に応じたより適切な第2のパルス繰り返し周波数を得ることができる。
【0038】
次に、実施形態の変形例について説明する。まず、第1変形例について説明する。
図3及び
図4は、第1変形例の処理を示すフローチャートである。ステップS10からS12までの処理は、ステップS1からS3までの処理と同一であり説明を省略する。ただし、本例では、ステップS11における第1のパルス繰り返し周波数PRF1の値は、ステップS2における第1のパルス繰り返し周波数PRF1の値とは異なっていてもよい。ステップS13では、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切か否かが判定される。一例では、プロセッサ7が、ステップS12において得られた画像のデータに基づいて第1のパルス繰り返し周波数が適切か否かを判定する。
【0039】
プロセッサ7による判定についてもう少し説明する。剪断波を検出する超音波パルスのパルス繰り返し周波数が、剪断波の周波数に応じた適切な周波数である場合、剪断波の伝搬を示す画像に表示される剪断波の進行方向は、特定の方向であることが想定される。そこで、一例では、ステップS12において得られた画像が、剪断波の進行方向が本来の進行方向とは逆であることを示している動画である場合、プロセッサ7は第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと判定する。また、他の例では、ステップS12において得られた画像において、剪断波の波面を検出することができなかったり、生体組織の分布と異なる方向に剪断波が伝搬していたりする場合に、プロセッサ7は第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと判定してもよい。ただし、ここに挙げた判定手法は例にすぎない。
【0040】
ステップS13における判定は、オペレーターによって行われてもよい。この場合、プロセッサ7は、ステップS12において得られた画像のデータに基づく画像をディスプレイ8に表示する。オペレーターは、表示された画像に基づいて、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であるか否かを判定する。オペレーターは、上述のプロセッサ7による判定手法と同様に、剪断波の進行方向や波面の検出の有無に基づいて判定を行ってもよい。オペレーターは、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であるか否かをユーザインタフェース10において入力する。
【0041】
ステップS13において、プロセッサ7が、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であると判定した場合(ステップS13において「YES」)、ステップS14の処理へ移行する。また、ステップS13において、ユーザインタフェース10が、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であることのオペレーターによる入力を受け付けた場合も(ステップS13において「YES」)、ステップS14の処理へ移行する。
【0042】
この第1変形例では、適切であると判定された第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、
図2におけるステップS5で算出される第2のパルス繰り返し周波数PRF2と同様に、機械的振動における周波数成分に応じた周波数、すなわち剪断波の伝搬速度を確実かつ正確に算出できる周波数であるということができる。
【0043】
ステップS14では、プロセッサ7は、ステップS12で作成されたドプラデータに基づいて剪断波の伝搬速度を算出する。ステップS14において伝搬速度が算出されると処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS13において、プロセッサ7が、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切でないと判定した場合(ステップS13において「NO」)、ステップS15の処理へ移行する。また、ステップS13において、ユーザインタフェース10が、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないことのオペレーターによる入力を受け付けた場合も(ステップS13において「NO」)、ステップS15の処理へ移行する。
【0045】
ステップS15からの処理は、
図4のフローチャートに示されている。この
図5に示されたステップS15~S18の処理は、ステップS4~S7の処理と同様である。
【0046】
次に、第2変形例について説明する。上述のステップS1及びS10で付与される機械的振動は、少なくとも第1の周波数成分f1及び第2の周波数成分f2を含んでいてもよい。機械的振動により、被検体内の生体組織に発生する剪断波は、第1の周波数成分f1に応じた周波数の第1の剪断波と、第2の周波数成分f2に応じた周波数の第2の剪断波を含んでいる。第1の剪断波の周波数及び第2の剪断波の周波数は、互いに異なっている。
【0047】
ステップS2及びS11における第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、2つの第1のパルス繰り返し周波数PRF11及びPRF12を含んでいてもよい。より詳細には、プロセッサ7は、ステップS2及びS11において、第1のパルス繰り返し周波数PRF1を途中で変更する。プロセッサ7は、ステップS2及びS11において、超音波パルスの送受信が開始されて所要時間が経過した後に、第1のパルス繰り返し周波数PRF1を変更する。変更前の第1のパルス繰り返し周波数PRF1を、第1のパルス繰り返し周波数PRF11とし、変更前の第1のパルス繰り返し周波数PRF1を、第1のパルス繰り返し周波数PRF12とする。従って、ステップS2及びS11において、第1のパルス繰り返し周波数PRF11で超音波の送受信が所要時間行われた後、第1のパルス繰り返し周波数PRF12で超音波の送受信が所要時間行われる。
【0048】
ステップS3及びS12では、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数PRF11で送受信された超音波パルスのエコー信号に基づいてドプラデータを作成し、このドプラデータに基づいて第1の剪断波の伝搬を示す第1の画像のデータを作成する。また、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数PRF12で送受信された超音波パルスのエコー信号に基づいてドプラデータを作成し、このドプラデータに基づいて第2の剪断波の伝搬を示す第2の画像のデータを作成する。
【0049】
ステップS13では、第1のパルス繰り返し周波数PRF11が第1の剪断波に応じた適切な周波数であるか否かが、第1の画像のデータに基づいて判定される。また、ステップS13では、第1のパルス繰り返し周波数PRF12が第2の剪断波に応じた適切な周波数であるか否かが、第2の画像のデータに基づいて判定される。
【0050】
ステップS4及びS15では、プロセッサ7は、第1の画像のデータに基づいて、機械的振動における第1の周波数成分f1を算出する。算出手法は、上述のステップS4において説明した手法と基本的に同一である。ただし、プロセッサ7は、上述の第1のパルス繰り返し周波数PRF1の代わりに、第1のパルス繰り返し周波数PRF11を用いて第1の周波数成分f1を算出する。
【0051】
また、ステップS4及びS15では、プロセッサ7は、第2の画像のデータに基づいて、機械的振動における第2の周波数成分f2を算出する。算出手法は、上述のステップS4において説明した手法と基本的に同一である。ただし、プロセッサ7は、上述の第1のパルス繰り返し周波数PRF1の代わりに、第1のパルス繰り返し周波数PRF12を用いて第2の周波数成分f2を算出する。
【0052】
ステップS5及びS16では、プロセッサ7は、第2のパルス繰り返し周波数PRF2として、2つの第2のパルス繰り返し周波数PRF21及びPRF22を算出する。第2のパルス繰り返し周波数PRF21は、第1の周波数成分f1に応じたパルス繰り返し周波数である。第2のパルス繰り返し周波数PRF22は、第2の周波数成分f2に応じたパルス繰り返し周波数である。
【0053】
ステップS6及びS17では、第2のパルス繰り返し周波数PRF21で超音波パルスの送受信が所要時間行われた後、第2のパルス繰り返し周波数PRF22で超音波パルスの送受信が所要時間行われる。
【0054】
ステップS7及び18では、プロセッサ7は、第2のパルス繰り返し周波数PRF21で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいてドプラデータを作成し、第1の剪断波の伝搬速度V1を算出する。また、プロセッサ7は、第2のパルス繰り返し周波数PRF22で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいてドプラデータを作成し、第2の剪断波の伝搬速度V2を算出する。
【0055】
ステップS14では、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数PRF11で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて作成されたドプラデータに基づいて、第1の剪断波の伝搬速度V1を算出する。また、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数PRF12で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて作成されたドプラデータに基づいて、第2の剪断波の伝搬速度V2を算出する。
【0056】
この第2変形例では、プロセッサ7は、第1及び第2の伝搬速度V1、V2を用いて、被検体の組織性状に関するパラメータを算出してもよい。このパラメータの算出の一例について以下に説明する。
【0057】
剪断波の伝搬速度は、剪断波の周波数に応じて変化する。具体的には、剪断波の周波数が高くなるほど、剪断波の伝搬速度が速くなる。また、剪断波が伝搬する媒質の粘性に応じて、周波数に対する伝搬速度の変化の度合い、すなわち周波数と伝搬速度の分布の傾きが変わる。そこで、プロセッサ7は、パラメータとして、第1及び第2の伝搬速度V1、V2と第1及び第2の周波数成分f1、f2を用いて粘性に関する値を算出する。剪断波の周波数は、機械的振動の周波数に応じたものになるので、ここでは粘性に関する値の算出において第1及び第2の周波数成分f1、f2が用いられる。一例では、粘性に関する値は、周波数成分f1、f2と伝搬速度V1、V2の分布における傾き、すなわち(V2-V1)/(f2-f1)である。また、プロセッサ7は、この傾きに基づいて粘性率を算出してもよい。
【0058】
次に、第3変形例について説明する。この第3変形例では、第2変形例と同様に、上述のステップS1及びS10で付与される機械的振動は、少なくとも第1の周波数成分f1及び第2の周波数成分f2を含んでおり、第1の剪断波と第2の剪断波が発生する。
【0059】
ただし、ステップS2及びS11における第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、第2変形例とは異なり、1つである。従って、ステップS3及びS12では、剪断波の伝搬を示す画像のデータが作成される。
【0060】
ステップS13では、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が第1の剪断波及び第2の剪断波に応じた適切な周波数であるか否かが、ステップS12で作成された画像のデータに基づいて判定される。
【0061】
ステップS4及びS15では、プロセッサ7は、画像のデータに基づいて、機械的振動における第1の周波数成分f1を算出する。また、ステップS4及びS15では、プロセッサ7は、画像のデータに基づいて、機械的振動における第2の周波数成分f2を算出する。
【0062】
ステップS5及びS16では、プロセッサ7は、第2のパルス繰り返し周波数PRF2を算出する。ただし、プロセッサ7は、第1の周波数成分f1と、第2の周波数成分f2の両方に応じた第2のパルス繰り返し周波数PRF2を算出する。一例では、第2のパルス繰り返し周波数PRF2は、第1及び第2の周波数成分f1、f2の公倍数である。公倍数は、最小公倍数であってもよい。
【0063】
また、パルス繰り返し周波数PRF2は、上述の特許第6498183号の段落0016に記載された式(1)から導きだされる下記の2つの式を満たすものであってもよい。
PRF2=4×f1(2m+1)
PRF2=4×f2(2n+1)
ただし、「m」及び「n」は0以上の整数であり、「PRF2」はパルス繰り返し周波数PRF2である。
【0064】
ステップS7及びS18では、プロセッサ7は、ステップS6及びS17において第2のパルス繰り返し周波数PRF2で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいてドプラデータを作成し、第1及び第2の剪断波の伝搬速度V1、V2を算出する。
【0065】
ステップS14では、ステップS12で作成されたドプラデータに基づいて、第1及び第2の剪断波の伝搬速度V1、V2を算出する。
【0066】
この第3変形例においても、第2変形例と同様に、第1及び第2の伝搬速度V1、V2を用いて、粘性に関する値が算出されてもよい。
【0067】
次に、第4変形例について説明する。
図5は、第4変形例の処理を示すフローチャートである。ステップS30の処理は、ステップS1及びS10の処理と同一である。次に、ステップS31では、プロセッサ7は、所要のパルス繰り返し周波数で超音波パルスを所要時間送受信するよう超音波プローブ2を制御する。プロセッサ7は、所要のパルス繰り返し周波数として、ステップS11と同様に、まず第1のパルス繰り返し周波数PRF1を設定する。
【0068】
ステップS32では、プロセッサ7は、ステップS3及びS12と同様にして剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。
【0069】
ステップS33では、ステップS32において作成された画像のデータ又は画像に基づいて、ステップS31で設定された所要のパルス繰り返し周波数が適切か否かが、ステップS13と同様にして判定される。ステップS31で第1のパルス繰り返し周波数PRF1が設定されている場合、ステップS33では、この第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切か否かが判定される。
【0070】
ステップS33において、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと判定された場合(ステップS33において「NO」)、ステップS34の処理へ移行する。一方、ステップS33において、第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であると判定された場合(ステップS13において「YES」)、ステップS35の処理へ移行する。ステップS35では、プロセッサ7は、ステップS32で作成されたドプラデータに基づいて剪断波の伝搬速度を算出する。
【0071】
ステップS34では、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数PRF1を第3のパルス繰り返し周波数PRF3へ変更する。一例では、第3のパルス繰り返し周波数PRF3は、第1のパルス繰り返し周波数PRF1の値に対して予め定められた周波数Δαを加算又は減算した値である。最初に設定された第1のパルス繰り返し周波数PRF1から変更されたパルス繰り返し周波数を、第3のパルス繰り返し周波数PRF3というものとする。
【0072】
ステップS34において第3のパルス繰り返し周波数PRF3が設定されると、ステップS31では、プロセッサ7は、第3のパルス繰り返し周波数PRF3で超音波パルスを所要時間送受信するよう超音波プローブ2を制御する。そして、ステップS32において第3のパルス繰り返し周波数PRF3で送受信された超音波パルスのエコー信号に基づいて画像のデータが作成されると、ステップS33では第3のパルス繰り返し周波数PRF3が適切か否かが判定される。第3のパルス繰り返し周波数PRF3が適切ではないと判定された場合、再びステップS34において予め定められた周波数Δαが加算又は減算され新たな第3のパルス繰り返し周波数PRF3が設定され、ステップS31以降の処理が行われる。
【0073】
一方、ステップS33において、第3のパルス繰り返し周波数PRF3が適切であると判定された場合(ステップS33において「YES」)、ステップS35の処理へ移行し、直前のステップS32で作成されたドプラデータに基づいて剪断波の伝搬速度を算出する。ステップS33において適切であると判定された第3のパルス繰り返し周波数PRF3を、第2のパルス繰り返し周波数PRF2といってもよい。
【0074】
本発明についてある特定の実施形態を参照して説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を施してもよく、均等物に置換してもよい。加えて、本発明の範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、多くの修正を行うことができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されず、本発明が添付の特許請求の範囲内に属するすべての実施形態を含むことになることを意図している。
【0075】
例えば、加振器50は超音波診断装置1と接続されていてもよい。この場合、加振器50は、超音波診断装置1から電力が供給されるようになっていてもよい。
【0076】
また、超音波診断システム100は、
図6に示すように、加振器50の代わりに第1の加振器51及び第2の加振器52を備えていてもよい。第1の加振器51及び第2の加振器52の基本的な構成は加振器50と同一であるが、第1の加振器51は第1の周波数成分f1の機械的振動を発生し、第2の加振器52は第2の周波数成分f2の機械的振動を発生する。
【0077】
また、第1変形例において、第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、機械的振動の周波数成分に応じて設定されていてもよい。この場合、第1のパルス繰り返し周波数PRF1は、剪断波の伝搬速度を確実かつ正確に算出できる周波数である。ただし、機械的振動の周波数成分は、加振器の経年劣化などによって変化することがある。この場合、変化前の機械的振動の周波数成分に応じて設定された第1のパルス繰り返し周波数を、周波数成分の変化に合わせて再設定する必要がある。そこで、
図3のステップS13における判定は、第1のパルス繰り返し周波数PRF1の再設定が必要であるか否かに基づいて行われてもよい。より詳細には、ステップS13において、プロセッサ7は、ステップS12において作成された画像のデータに基づいて、ステップS4と同様にして機械的振動における周波数成分を算出する。次に、プロセッサ7は、算出された機械的振動における周波数成分を、第1のパルス繰り返し周波数PRF1に対応する変化前の機械的振動の周波数成分と比較する。変化前の機械的振動の周波数成分は既知である。次に、比較対象である両周波数成分の差が所要の範囲を超えていた場合、プロセッサ7は第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと判定する。一方、比較対象である両周波数成分の差が所要の範囲内である場合、プロセッサ7は第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切であると判定する。
【0078】
第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと場合、プロセッサ7は、警告を出力してもよい。警告は、ディスプレイ8に表示されてもよいし、超音波診断装置1のスピーカー(図示省略)から出力されてもよい。
【0079】
第1のパルス繰り返し周波数PRF1が適切ではないと判定された場合は、
図5のステップS17の処理を行なうことなくステップS18以降の処理へ移行する。これにより、第1のパルス繰り返し周波数PRF1に代わって第2のパルス繰り返し周波数PRF2で超音波の送受信が行われる。第2のパルス繰り返し周波数PRF2は、変化後の機械的振動の周波数成分に応じた周波数である。
【0080】
同様に、第2変形例におけるステップS13における判定についても、第1のパルス繰り返し周波数PRF11及びPRF12の再設定が必要であるか否かに基づいて行われてもよい。
【0081】
また、第1変形例において、ステップS16で算出された第2のパルス繰り返し周波数PRF2が適切か否かが判定されてもよい。この場合の処理について
図7のフローチャートに基づいて説明する。ステップS16で第2のパルス繰り返し周波数PRF2が算出されると、ステップS40の処理へ移行する。このステップS40では、プロセッサ7は、ステップS6及びS17と同様に、第2のパルス繰り返し周波数PRF2で所要時間超音波パルスを送受信するよう超音波プローブ2を制御する。
【0082】
次に、ステップS41では、プロセッサ7は、ステップS40において送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、ステップS3、S12及びS32と同様にして剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。次に、ステップS42では、ステップS41において作成された画像のデータ又は画像に基づいて、ステップS13と同様にして第2のパルス繰り返し周波数PRF2が適切か否かが判定される。
【0083】
ステップS42において、第2のパルス繰り返し周波数PRF2が適切でないと判定された場合(ステップS42において「NO」)、ステップS43の処理へ移行する。一方、ステップS42において、第2のパルス繰り返し周波数PRF2が適切であると判定された場合(ステップS42において「YES」)、ステップS44の処理へ移行する。ステップS44では、プロセッサ7は、ステップS41で作成されたドプラデータに基づいて剪断波の伝搬速度を算出する。
【0084】
ステップS43では、プロセッサ7は、第2のパルス繰り返し周波数PRF2を変更する。一例では、変更後の第2のパルス繰り返し周波数PRF2は、変更前の第2のパルス繰り返し周波数PRF2の値に対して予め定められた周波数Δαを加算又は減算した値である。
【0085】
ステップS43において第2のパルス繰り返し周波数PRF2が変更されると、ステップS40の処理へ戻る。このステップS40では、変更後の第2のパルス繰り返し周波数PRF2で超音波パルスが送受信され、以降の処理が行われる。
【0086】
また、上記実施形態は、
被検体に対して超音波パルスを送信してエコー信号を受信する超音波プローブと、プロセッサとを備える超音波診断装置の制御方法であって、
前記方法は、
少なくとも1つの周波数成分を含む機械的振動が付与されて前記少なくとも1つの周波数成分に応じた周波数の剪断波が発生している被検体に対し、少なくとも1つの第1のパルス繰り返し周波数で前記超音波パルスを送信するよう前記超音波プローブを前記プロセッサによって制御し、
前記第1のパルス繰り返し周波数で送信された前記超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波の伝搬を示す画像のデータを前記プロセッサによって作成し、
前記画像に基づいて決定されるパルス繰り返し周波数で送信された超音波パルスのエコー信号に基づいて、前記剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を前記プロセッサによって算出する、ことを含む超音波診断装置の制御方法としてもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 超音波診断装置
2 超音波プローブ
7 プロセッサ
50 加振器
51 第1の加振器
52 第2の加振器
100 超音波診断システム
【要約】
【課題】組織性状に関するパラメータをより確実に算出する。
【解決手段】超音波診断装置1のプロセッサ7は、加振器50により機械的振動が付与されて剪断波が発生している被検体に対し、第1のパルス繰り返し周波数で超音波パルスを送信するよう超音波プローブ2を制御し、得られたエコー信号に基づいて、剪断波の伝搬を示す画像のデータを作成する。また、プロセッサ7は、画像のデータに基づいて、機械的振動における周波数成分を算出し、前記周波数成分に応じた超音波パルスの少なくとも1つの第2のパルス繰り返し周波数を算出する。さらに、プロセッサ7は、第1のパルス繰り返し周波数に代えて、第2のパルス繰り返し周波数で超音波パルスを送信するよう超音波プローブを制御し、得られたエコー信号に基づいて、剪断波について少なくとも1つの伝搬速度を算出する。
【選択図】
図1