(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-20
(45)【発行日】2022-05-30
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス棒状鋼材
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220523BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20220523BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220523BHJP
C21D 8/06 20060101ALN20220523BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
C21D8/06 B
(21)【出願番号】P 2021509487
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013242
(87)【国際公開番号】W WO2020196595
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2019060200
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】山先 祥太
(72)【発明者】
【氏名】高野 光司
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 明展
(72)【発明者】
【氏名】森田 博樹
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/190422(WO,A1)
【文献】特開2018-119174(JP,A)
【文献】特開2014-080684(JP,A)
【文献】特開2007-107073(JP,A)
【文献】特開2005-068490(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132403(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる棒状鋼材であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.09%、
Si:0.01~3.0%、
Mn:0.01~2.0%、
Ni:0.01~5.0%、
Cr:7.0~35.0%、
Mo:0.01~5.0%、
Cu:0.01~3.0%、
N:0.001~0.10%、
Nb:0.2~2.0%、
Ti:0~2.0%、
V:0~2.0%、
B:0~0.1%、
Al:0~5.0%、
W:0~2.5%、
Ga:0~0.05%、
Co:0~2.5%、
Sn:0~2.5%、
Ta:0~2.5%、
Ca:0~0.05%、
Mg:0~0.012%、
Zr:0~0.012%、
REM:0~0.05%、
残部:Feおよび不可避的不純物であり、
圧延方向の結晶方位RD//<100>分率が0.5以下である
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
ただし、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率とは、<100>方位と圧延方向との角度差が20°以下である結晶の面積比率を意味する。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%でさらに、
Ti:0.001~2.0%、
V:0.001~2.0%
B:0.0001~0.1%
Al:0.001~5.0%、
W:0.05~2.5%、
Ga:0.0004~0.05%、
Co:0.05~2.5%、
Sn:0.01~2.5%、および
Ta:0.01~2.5%、
から選択される一種以上を含有する、
請求項1に記載の
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%でさらに、
Ca:0.0002~0.05%、
Mg:0.0002~0.012%、
Zr:0.0002~0.012%、および
REM:0.0002~0.05%、
から選択される一種以上を含有する、
請求項1又は請求項2に記載の
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
【請求項4】
一方向に延びる棒状鋼材であって、
化学組成が、質量%で、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の化学組成であり、
遷移温度が200℃以下である
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
【請求項5】
遷移温度が200℃以下である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
【請求項6】
前記棒状鋼材の断面の形状が円であり、
前記円の直径が15.0~200mmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の
フェライト系ステンレス棒状鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒状鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高純フェライト系ステンレス鋼では、細径線材において冷間鍛造用部品に使用されることがある。しかしながら、太径線材や棒鋼などでは、制約を受ける場合がある。この理由について、高純フェライト系ステンレス鋼の太径線材や棒鋼では、鋼組織中に粗大な未再結晶粒などが存在し、靭性が低下し、冷間鍛造時の脆性破壊を促進させるためである。
【0003】
特許文献1~6には、化学組成、製造条件等を適切に制御して、特性を向上させた鋼線材等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-224358号公報
【文献】特開2013-147705号号公報
【文献】国際公開第2014/157231号
【文献】特開2002-254103号公報
【文献】特開2005-226147号公報
【文献】特開2005-313207号公報
【文献】特開平05-329510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、棒状鋼材の化学組成、金属組織等を制御して、靭性の向上を検討した技術はこれまでにない。
以上を踏まえ、本発明は、上記課題を解決し、靭性に優れる棒状鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の棒状鋼材を要旨とする。
(1)一方向に延びる棒状鋼材であって、
化学組成が、質量%で、
C:0.001~0.09%、
Si:0.01~3.0%、
Mn:0.01~2.0%、
Ni:0.01~5.0%、
Cr:7.0~35.0%、
Mo:0.01~5.0%、
Cu:0.01~3.0%、
N:0.001~0.10%、
Nb:0.2~2.0%、
Ti:0~2.0%、
V:0~2.0%、
B:0~0.1%、
Al:0~5.0%、
W:0~2.5%、
Ga:0~0.05%、
Co:0~2.5%、
Sn:0~2.5%、
Ta:0~2.5%、
Ca:0~0.05%、
Mg:0~0.012%、
Zr:0~0.012%、
REM:0~0.05%、
残部:Feおよび不可避的不純物であり、
圧延方向の結晶方位RD//<100>分率が0.5以下であるフェライト系ステンレス棒状鋼材。
ただし、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率とは、<100>方位と圧延方向との角度差が20°以下である結晶の面積比率を意味する。
【0007】
(2)前記化学組成が、質量%でさらに、
Ti:0.001~2.0%、
V:0.001~2.0%
B:0.0001~0.1%
Al:0.001~5.0%、
W:0.05~2.5%、
Ga:0.0004~0.05%、
Co:0.05~2.5%、
Sn:0.01~2.5%、および
Ta:0.01~2.5%、
から選択される一種以上を含有する、本発明のフェライト系ステンレス棒状鋼材。
(3)前記化学組成が、質量%でさらに、
Ca:0.0002~0.05%、
Mg:0.0002~0.012%、
Zr:0.0002~0.012%、および
REM:0.0002~0.05%、
から選択される一種以上を含有する、本発明のフェライト系ステンレス棒状鋼材。
【0008】
(4)一方向に延びる棒状鋼材であって、
化学組成が、質量%で、本発明の化学組成であり、
遷移温度が200℃以下であるフェライト系ステンレス棒状鋼材。
(5)遷移温度が200℃以下である、本発明のフェライト系ステンレス棒状鋼材。
(6)前記棒状鋼材の断面の形状が円であり、
前記円の直径が15.0~200mmである、本発明のフェライト系ステンレス棒状鋼材。
【0009】
本発明における棒状鋼材とは、鋼線材、鋼線、棒鋼を含む。
本発明によれば、靭性に優れる棒状鋼材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは靭性に優れる棒状鋼材を得るために、種々の検討を行なった。その結果、以下の(a)~(c)の知見を得た。
【0011】
(a)例えば、高純フェライト系ステンレス鋼線材等の棒状鋼材では、デルタフェライトからオーステナイトへの変態が生じないため、金属組織が粗大になる傾向にある。鋼材の靭性においては、このような粗大な金属組織よって、脆性破壊が生じる。フェライト系ステンレス鋼線材の中でも、太径の棒状鋼材では、金属組織が顕著に粗大になりやすく、靭性が低下する傾向にある。
【0012】
(b)太径棒状鋼材の靭性向上のために、金属組織の中でRD//<100>分率を適切に制御することが有効である。
【0013】
(c)上述のRD//<100>分率を制御するためには、化学組成、製造時の条件、具体的には、圧延時の温度、時間、加工率や粗圧延のロール径などを調整するのが望ましい。
【0014】
本発明は上記の知見に基づいてなされたものである。また、本発明の好ましい一実施形態を詳細に説明する。以降の説明では、本発明の好ましい一実施形態を本発明として記載する。以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
【0015】
1.圧延方向の結晶方位RD//<100>分率
本発明に係る棒状鋼材では、圧延方向(RD)の結晶方位を制御する。具体的には、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率(面積比率)(以下単に「RD//<100>分率」という。)を0.5以下とするのが好ましい。RD//<100>分率が0.5を超えると、脆性破壊を促進し、靭性が低下するためである。RD//<100>分率は0.40以下とするのがより好ましく、0.35以下とするのがさらに好ましい。
【0016】
なお、RD//<100>分率は、以下の手順を用い、算出する。具体的には、RD//<100>分率は、鋼材のL断面(鋼材の圧延方向(長手方向)に平行で、鋼材の中心を含む断面)において、表層部、中心部、および表層部と中心部との間に存在する1/4深さ位置部において、200倍の視野で、1視野以上測定を行う。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析する。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<100>の方位成分をクリアランス20°以内の部分のみ表示させ、RD//<100>分率を測定した。なお、上記表層部とは表面から中心軸方向に1mm深さ位置を指す。即ち、圧延方向の結晶方位RD//<100>分率とは、<100>方位と圧延方向との角度差が20°以下である結晶の面積比率を意味する。
【0017】
2.化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
【0018】
C:0.001~0.09%
Cは、鋼材の強度を高める。このため、C含有量は、0.001%以上とし、0.002%以上とするのが好ましい。しかしながら、Cを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性の低下が生じる。このため、C含有量は0.09%以下とする。C含有量は0.05%以下とするのが好ましく、0.03%以下とするのがより好ましく、0.02%以下とするのがさらに好ましい。
【0019】
Si:0.01~3.0%
Siは、脱酸元素として含有させ、高温酸化特性を向上させる。このため、Si含有量は0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Siを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Si含有量は3.0%以下とする。Si含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがより好ましく、0.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0020】
Mn:0.01~2.0%
Mnは、鋼材の強度を向上させる。このため、Mn含有量は、0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Mnを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、耐食性が低下する場合もある。このため、Mn含有量は2.0%以下とする。Mn含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.8%以下とするのがより好ましく、0.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0021】
Ni:0.01~5.0%
Niは、鋼材の靭性を向上させる。このため、Ni含有量は0.01%以上とし、0.05%以上とするのが好ましい。しかしながら、Niを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Ni含有量は5.0%以下とする。Ni含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがより好ましく、0.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0022】
Cr:7.0~35.0%
Crは、耐食性を向上させる。このため、Cr含有量は、7.0%以上とする。Cr含有量は10.0%以上とするのが好ましく、15.0%以上とするのがより好ましい。しかしながら、Crを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。Cr含有量は35.0%以下にする。Cr含有量は27.0%以下とするのが好ましく、25.0%以下とするのがより好ましく、21.0%以下とするのがさらに好ましい。
【0023】
Mo:0.01~5.0%
Moは、耐食性を向上させる。このため、Mo含有量は0.01%以上とする。しかしながら、Moを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Mo含有量は5.0%以下とする。Mo含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがより好ましく、0.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0024】
Cu:0.01~3.0%
Cuは、耐食性を向上させる。このため、Cu含有量は0.01%以上とし、0.30%以上とするのが好ましい。しかしながら、Cuを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Cu含有量は3.0%以下とする。Cu含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.0%以下とするのがより好ましく、0.5%以下とするのがさらに好ましい。
【0025】
N:0.001~0.10%
Nは、鋼材の強度を向上させる。このため、N含有量は0.001%以上とし、0.004%以上とするのが好ましい。しかしながら、Nを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、N含有量は0.10%以下とする。N含有量は0.05%以下とするのが好ましく、0.03%以下とするのがより好ましく、0.02%以下とするのがさらに好ましい。
【0026】
Nb:0.2~2.0%
Nbは、鋼材の強度を高める効果を有する。また、Nbは炭窒化物を形成するため、Cr炭化物の生成を抑制し、Cr欠乏層の生成を抑制する。この結果、Nbは粒界腐食を防止する効果を有する。すなわち、Nbは、耐食性の向上に有効な元素であるため、0.2%以上添加し、0.3%以上とするのが好ましい。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、Nb含有量は2.0%以下とする。Nb含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.8%以下とするのがより好ましい。
【0027】
本発明に係る棒状鋼材は、上記元素に加え、必要に応じて、Ti、V、B、Al、W、Ga、Co、Sn、およびTaから選択される一種以上の元素を含有させてもよい。
【0028】
Ti:0~2.0%
Tiは、鋼材の強度を高める効果を有する。また、Tiは炭窒化物を形成するので、Cr炭化物の生成を抑制し、Cr欠乏層の生成を抑制する。この結果、粒界腐食を防止する効果を有する。すなわち、Tiは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。
しかしながら、Tiを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、Ti含有量は2.0%以下とする。Ti含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましく、0.05%以下とすることがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ti含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0029】
V:0~2.0%
Vは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、V含有量は2.0%以下とする。V含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.5%以下とするのがより好ましく、0.1%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、V含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0030】
B:0~0.1%
Bは、熱間加工性および耐食性を向上させる効果を有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、B含有量は0.1%以下とする。B含有量は0.02%以下とするのが好ましく、0.01%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、B含有量は0.0001%以上とするのが好ましい。
【0031】
Al:0~5.0%
Alは、脱酸を促進させ、介在物清浄度レベルを向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Alを過剰に含有させると、その効果は飽和し、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大介在物によって靭性が低下する。このため、Al含有量は5.0%以下とする。Al含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.1%以下とするのがより好ましく、0.01%以下とするのがさらに好ましい。一方、前記効果を得るためには、Al含有量は0.001%以上とするのが好ましい。
【0032】
W:0~2.5%
Wは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Wを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大炭窒化物によって靭性が低下する。このため、W含有量は2.5%以下とする。W含有量は2.0%以下とするのが好ましく、1.5%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、W含有量は0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
【0033】
Ga:0~0.05%
Gaは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Gaを過剰に含有させると、熱間加工性が低下する。このため、Ga含有量は0.05%以下とする。一方、上記効果を得るためには、Ga含有量は0.0004%以上とするのが好ましい。
【0034】
Co:0~2.5%
Coは、鋼材の強度を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Coを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Co含有量は2.5%以下とする。Co含有量は1.0%以下とするのが好ましく、0.8%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Co含有量は0.05%以上とするのが好ましく、0.10%以上とするのがより好ましい。
【0035】
Sn:0~2.5%
Snは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Snを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、Snの粒界偏析によって靭性が低下する。このため、Sn含有量は2.5%以下とする。Sn含有量は1.0%以下とするのがより好ましく、0.2%以下とするのがさらに好ましい。一方、上記効果を得るためには、Sn含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.05%以上とするのがより好ましい。
【0036】
Ta:0~2.5%
Taは、耐食性を向上させる効果を有するため、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Taを過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、Ta含有量は2.5%以下とする。Ta含有量は1.5%以下とするのが好ましく、0.9%以下とするのがより好ましい。一方、上記効果を得るためには、Ta含有量は0.01%以上とするのが好ましく、0.04%以上とするのがより好ましく、0.08%以上とするのがさらに好ましい。
【0037】
本発明に係る棒状鋼材は、上記元素に加え、必要に応じて、Ca、Mg、Zr、およびREMから選択される一種以上の元素を含有させてもよい。
Ca:0~0.05%
Mg:0~0.012%
Zr:0~0.012%
REM:0~0.05%
Ca、Mg、Zr、およびREMは、脱酸のため、必要に応じて、含有させてもよい。しかしながら、これら各元素を過剰に含有させると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。また、粗大介在物によって靭性が低下する。このため、Ca:0.05%以下、Mg:0.012%以下、Zr:0.012%以下、REM:0.05%以下とする。Ca含有量は、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Mgは、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。Zrは、0.010%以下とするのが好ましく、0.005%以下とするのがより好ましい。REMは、0.010%以下とするのが好ましい。
一方、上記効果を得るためには、Ca:0.0002%以上、Mg:0.0002%以上、Zr:0.0002%以上、REM:0.0002%以上とするのが好ましい。Ca含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Mg含有量は、0.0004%以上とするのが好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。Zr含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。REM含有量は、0.0004%以上とするのがより好ましく、0.001%以上とするのがさらに好ましい。
なお、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称である。これらの17元素のうちの1種以上を鋼に含有させることができ、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
【0038】
本発明の鋼板の化学組成において、残部はFeおよび不可避的不純物である。ここで「不可避的不純物」とは、鋼板を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0039】
なお、不可避的不純物としては、例えば、S、P、O、Zn、Bi、Pb、Se、Sb、H、Te等が例示される。不可避的不純物は低減されることが好ましいが、含有される場合は、Zn、Bi、Pb、Se、およびHは0.01%以下とするのが望ましい。また、SbおよびTeは、0.05%以下とするのが望ましい。
【0040】
3.形状および大きさ
上述したように、本発明に係る棒状鋼材の長さ方向に対して垂直な面の断面形状は、特に限定されない。例えば、上記断面は、一般的な円形だけに限定されない。断面が矩形である平鋼、角鋼に加え、異形材をも含まれ得る。
【0041】
また、本発明に係る棒状鋼材は、丸鋼である場合、すなわち、上記断面が円である場合は、上記断面の直径を15.0~200mmの範囲とするのが好ましい。上記断面の直径が15.0mm未満であると、足元のニーズの大型部品サイズに対応できないため、上記断面の直径は、15.0mm以上とするのが好ましく、20.0mm以上とするのが好ましく、30.0mm以上とするのがさらに好ましい。
しかしながら、上記断面の直径が200mm超であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、上記断面の直径は200mm以下とするのが好ましい。上記断面の直径は150mm以下とするのがより好ましく、100mm以下とするのがさらに好ましく、70mm以下とするのが、特に好ましい。
【0042】
4.特性の評価
本発明に係る棒状鋼材では、シャルピー衝撃試験による延性-脆性遷移温度を用い、靭性を評価する。遷移温度が200℃以下である場合、靭性が良好であると判断する。靭性は遷移温度が150℃以下であるのが好ましく、100℃以下であるのがより好ましく、80℃以下であるのがさらに好ましく、30℃以下であるのが一層好ましい。また、集合組織制御にかかる成分や製造制約によるコストの観点から好ましい遷移温度の下限値は-150℃とする。
【0043】
5.製造方法
本発明に係る棒状鋼材の好ましい製造方法を説明する。以下の説明においては、断面が円形である鋼線材を例に説明をする。本発明に係る棒状鋼材は、製造方法によらず、上述の構成を有していれば、その効果を得られるが、例えば、以下のような製造方法により、本発明に係る棒状鋼材を安定して得ることができる。
【0044】
本発明に係る棒状鋼材では、上記化学組成を有する鋼を溶製し、所定の径を有する鋳片を鋳造した後、熱間または温間の線材圧延を行うことが好ましい。その後、必要に応じて、適宜、溶体化処理、酸洗を行うことが好ましい。
【0045】
5-1.加熱工程
鋳片の加熱温度は、加工温度に関係し、鋼材の累積ひずみおよび再結晶挙動に寄与する。そして、RD//<100>分率を変化させ、靭性に関係する。このため、溶製し、鋳造した鋳片を450~1300℃の温度で加熱するのが好ましい。鋳片の加熱温度が低すぎると、棒状鋼材が脆化する。このため、鋳片の加熱温度は450℃以上とするのが好ましく、700℃以上とするのがより好ましく、800℃以上とするのがさらに好ましい。
しかしながら、鋳片の加熱温度が高すぎると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、鋳片の加熱温度は1300℃以下とするのが好ましく、1200℃以下とするのがより好ましく、1100℃以下とするのがさらに好ましい。
【0046】
5-2.傾斜圧延工程
加熱された鋳片は、傾斜圧延を用い、熱間加工されるのが好ましい。なお、熱間加工は傾斜圧延に限定されず、同様の熱加工履歴を辿る方法であればよく、例えば分塊圧延(ブレークダウン)であっても、同様の熱加工履歴を取れれば用いることができる。
傾斜圧延は、例えば特許文献7に開示されているとおり、3個のワークロールを被圧延材を中心にして同方向に捩って傾斜したロール軸に配置し、各ワークロールが被圧延材の周囲を自転しながら公転することにより、被圧延材は前進しながらスパイラル状に圧延される。
傾斜圧延の断面減少率は、RD//<100>分率を変化させる。このため、断面減少率は靭性に影響を与える。断面減少率を20.0%未満とすると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、断面減少率は20.0%以上とするのが好ましく、40.0%以上とするのがより好ましく、50.0%以上とするのがさらに好ましく、80.0%以上とするのが一層好ましい。
【0047】
傾斜圧延における加工温度(傾斜圧延後の鋼材温度)は、RD//<100>分率を変化させる。このように、傾斜圧延における加工温度は靭性に影響を与えるため、加工温度は450~1200℃の範囲とするのが好ましい。圧延の加工温度が450℃未満であると、鋼材が脆化する。このため、傾斜圧延における加工温度は450℃以上とするのが好ましく、700℃以上とするのがより好ましい。しかしながら、傾斜圧延における加工温度が1200℃を超えると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、傾斜圧延における加工温度は1200℃以下とするのが好ましく、1100℃以下とするのがより好ましく、1000℃以下とするのがさらに好ましい。
【0048】
なお、傾斜圧延が完了した後に、続いて、鋼材は中間焼鈍に供されるのが好ましい。傾斜圧延完了後から中間焼鈍開始までの時間は、RD//<100>分率を変化させる。このため、傾斜圧延完了後から中間焼鈍開始までの時間は、靭性に影響を与える。傾斜圧延完了後から中間焼鈍開始までの時間は、0.01~100sの範囲とするのが好ましい。
傾斜圧延完了後から、中間焼鈍開始までの時間が0.01s未満であると、後述する製造工程において、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、傾斜圧延完了後から中間焼鈍時間までの時間を0.01s以上とするのが好ましく、0.1s以上とするのがより好ましく、1s以上とするのがさらに好ましい。
しかしながら、傾斜圧延完了後から中間焼鈍開始までの時間が100s超であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、傾斜圧延完了後から中間焼鈍開始までの時間は100s以下とするのが好ましく、50s以下とするのがより好ましく、10s以下とするのがさらに好ましい。
【0049】
5-3.中間焼鈍工程
続く中間焼鈍工程は、鋳造で形成された粗大な凝固組織を再結晶させるために行う。中間焼鈍工程においては、700~1300℃の温度域で焼鈍を行うのが好ましい。中間焼鈍工程で鋼材が再結晶すると、RD//<100>分率が減少する。この結果、靭性が向上する。中間焼鈍工程における温度(以下、「中間焼鈍温度」と記載する。)が700℃未満であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、中間焼鈍温度は700℃以上とするのが好ましく、800℃以上とするのがより好ましい。
しかしながら、中間焼鈍温度が1300℃超であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、中間焼鈍温度は1300℃以下とするのが好ましく、1200℃以下とするのがより好ましく、1100℃以下とするのがさらに好ましい。
【0050】
また、中間焼鈍における焼鈍時間(以下、「中間焼鈍時間」と記載する。)は、1~480minの範囲とするのが好ましい。中間焼鈍時間が1min未満であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、中間焼鈍時間は1min以上とするのが好ましく、30min以上とするのがより好ましい。
しかしながら、中間焼鈍時間が480min超であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、中間焼鈍時間は480min以下とするのが好ましく、180min以下とするのがより好ましい。
【0051】
5-4.総断面減少率
圧延は、傾斜圧延機、粗圧延機、中間圧延機、仕上圧延機等を用い、加工される。そして、上記の傾斜圧延を含む、圧延等による総断面減少率は、全ての加工が完了するまでの断面減少率である。総断面減少率は、RD//<100>分率を変化させる。この結果、総断面減少率は、靭性に影響を及ぼす。総断面減少率が30.0%未満であると、RD//<100>分率が増加する。この結果、靭性が低下する。このため、総断面減少率を30.0%以上とするのが好ましく、50.0%以上とするのがより好ましく、80.0%以上とするのがさらに好ましく、90.0%以上とするのが一層好ましい。
【0052】
5-5.粗圧延機のロール径
粗圧延機のロール径は熱間加工組織に影響を与え、特にRD//<100>分率に関係するため、粗圧延機のロール径は200~2500mmにすることが好ましい。粗圧延機のロール径が200mm未満になると、鋼材にせん断変形が促進され、BCC結晶構造の変形集合組織の優先方位であるRD//<110>以外の方位が形成され、RD//<100>分率が増加する。<100>方位に垂直な面はへき開面であるため、RD//<100>分率の増加によって靭性が低下する。そのため、粗圧延機のロール径は200mm以上とする。好ましくは400mm以上とする。一方で粗圧延機のロール径が2500mm超になると、圧延設備が大きくなり、不経済である。このため、粗圧延機のロール径は2500mm以下とする。好ましくは2000mm以下であり、さらに好ましくは1500mm以下である。
【0053】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0054】
表1、表2に記載の化学組成を有する鋼を溶製した。鋼の溶製の際には、ステンレス鋼の安価な溶製プロセスであるAOD溶製を想定し、100kgの真空溶解炉にて溶解し、直径180mmの鋳片に鋳造した。その後、下記の製造条件により直径47.0mmの棒状鋼材とした。以下の各表において、本発明範囲から外れる数値に下線を付している。
【0055】
以下に条件を記載する。具体的には、鋳造した鋳片に、加熱温度1030℃で加熱を行い、断面減少率80.0%、加工温度805℃で傾斜圧延を施し、続いて、焼鈍温度960℃、焼鈍時間3.5minで中間焼鈍を施した。なお、この際、傾斜圧延から、中間焼鈍までの時間を5.4sとした。その後、圧延を施した。この際、粗圧延のロール径は940mmとし、圧延温度は750℃、圧延仕上げ温度は730℃とし、圧延パス間時間は0.5sとした。また、総断面減少率は、93.2%とし、圧延後の冷却速度を11℃/sとして冷却を行い、最終焼鈍温度750℃、最終焼鈍時間0.8minで最終焼鈍を施し、冷却速度14℃/sで冷却した。
【0056】
【0057】
【0058】
得られた鋼線材について、RD//<100>分率、および遷移温度を測定した。以下、表3、表4にまとめて結果を示す。なお、これらの測定は以下の手順に従い、測定を行った。
【0059】
RD//<100>分率は、鋼材のL断面において、表層部、中心部、および表層部と中心部との間に存在する1/4深さ位置部において、200倍の視野で、1視野以上測定を行った。そして、観察視野における各結晶粒の結晶方位を、FE-SEM/EBSDを用いて解析する。圧延方向をRDとし、RD方向における結晶面の解析を行い、<100>の方位成分をクリアランス20°以内の部分のみ表示させ、RD//<100>分率を測定した。
【0060】
遷移温度は、JIS Z 2242のシャルピー衝撃試験での延性-脆性遷移温度とした。なお、シャルピー衝撃試験の試験片は標準試験片とし、試験片の長さ方向を棒状鋼材の圧延方向とし、試験片のノッチをUノッチとしている。また、延性-脆性遷移温度はエネルギー遷移温度を用いる。遷移温度が200℃以下である場合、靭性が良好であると判断した。
【0061】
【0062】
【0063】
No.1~37は、本発明の規定を満足し、靭性が良好であった。一方、本発明の規定を満足しないNo.38~52は靭性が不良または耐食性が不良であった。
【実施例2】
【0064】
続いて、表1の鋼種OおよびVを上記同様の方法で溶製し、種々の径を有する鋼片を鋳造した。その後、鋳造した鋳片に、加熱温度1053℃で加熱を行い、断面減少率63.2%で、傾斜圧延での加工温度を948℃として傾斜圧延を施し、続いて、焼鈍温度1032℃、焼鈍時間1.6minで焼鈍を施した。なお、この際、傾斜圧延から、焼鈍までの時間を3sとした。その後、圧延を施した。この際、粗圧延のロール径は880mmとし、圧延温度は940℃、圧延仕上げ温度は835℃とし、圧延パス間時間は6sとした。圧延による総断面減少率は83.0%とした。また、圧延後の冷却速度を12℃/sで冷却を行い、最終焼鈍温度1040℃、最終焼鈍時間1.4minで焼鈍を施し、冷却速度12℃/sで冷却した。得られた棒状鋼材について、上述の方法で、RD//<100>分率、および遷移温度を測定した。以下、結果をまとめて、表5に示す。なお、上記、実施例1と同様に、遷移温度が200℃以下である場合、靭性が良好であると判断した。
【0065】
【0066】
No.53~75は、本発明の規定を満足し、靭性が良好であった。
【実施例3】
【0067】
表1に示す鋼種Qを用いて、種々の径を有する鋳片から、表6および表7に記載の条件により、直径15mmの棒状鋼材を作製した。作製した棒状鋼材について、RD//<100>分率、および遷移温度を、上述の方法で測定した。以下、結果をまとめて、表6および表7に示す。なお、上記、実施例1と同様に、遷移温度が200℃以下である場合、靭性が良好であると判断した。
【0068】
【0069】
【0070】
No.76~95については、本発明の規定を満足するため、良好な靭性を示した。一方、No.96~108は、本発明の好ましい製造条件を満足せず、靭性が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、靭性に優れる棒状鋼材を得ることができ、産業上極めて有用である。