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特許7077496給餌システム、および給餌方法、ならびに音判定モデル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】給餌システム、および給餌方法、ならびに音判定モデル
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/80 20170101AFI20220524BHJP
【FI】
A01K61/80
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021052828
(22)【出願日】2021-03-26
【審査請求日】2021-03-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514229203
【氏名又は名称】株式会社マイスティア
(73)【特許権者】
【識別番号】500238664
【氏名又は名称】深川水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】小沢 直史
(72)【発明者】
【氏名】下川 弘記
(72)【発明者】
【氏名】吉永 親史
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-313730(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103070126(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111165414(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111248135(CN,A)
【文献】特開2020-167950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水棲生物の養殖環境の音を集音する集音手段と、
前記養殖環境に給餌する給餌手段と、
前記集音手段から取得した音データを、周波数Fと、音の強さdBと、それらの時間Tによる変化の3次元データに加工する音加工手段と、
摂餌活性が高い時の音、前記水棲生物が摂餌していないときの前記給餌手段のみの音、および、摂餌活性が低く前記給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、前記集音手段により取得し、前記音加工手段で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、前記養殖環境の音から、前記養殖環境の状態を判定する音判定モデルを生成する機械学習手段により生成された前記音判定モデルにより、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した前記水棲生物の摂餌活性度に応じて、前記給餌手段による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御手段と、を備える給餌システム。
【請求項2】
前記判定手段は、摂餌活性が高い状態と、摂餌活性が低い状態および/または摂餌活性に関係がない状態とのいずれかの状態に判定する請求項1に記載の給餌システム。
【請求項3】
前記養殖環境を計測する環境計測手段を備え、
計測した環境データにより前記判定による摂餌活性度の判定結果による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択され、少なくとも前記給餌時間または前記給餌時間を含む1以上を補正する環境補正手段を有する、請求項1または2に記載の給餌システム。
【請求項4】
前記養殖環境の水棲生物の生息深度を計測する生息深度計測手段を備え、
計測した前記生息深度のデータにより前記判定手段による摂餌活性度の判定結果による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を補正する深度補正手段を有する、請求項1~3のいずれに記載の給餌システム。
【請求項5】
水棲生物の養殖環境の音を集音する集音工程と、
前記集音工程で取得した音データを、周波数Fと、音の強さdBと、それらの時間Tによる変化の3次元データに加工する音加工工程と、
摂餌活性が高い時の音、前記水棲生物が摂餌していないときの前記養殖環境に給餌する給餌手段のみの音、および、摂餌活性が低く前記給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の前記養殖環境の状態の音を、集音手段により取得し、音加工手段で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、前記養殖環境の音から、前記養殖環境の状態を判定する音判定モデルを生成する機械学習手段により生成された前記音判定モデルにより、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定工程と、
前記判定工程により判定した前記水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御工程と、
前記給餌制御工程による制御により前記給餌手段で前記養殖環境に給餌する給餌工程と、を備える給餌方法。
【請求項6】
摂餌活性が高い時の音、水棲生物が摂餌していないときの給餌手段のみの音、および、摂餌活性が低く前記給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の水棲生物の養殖環境の状態の音を取得し、
取得した前記音のデータを、周波数Fと、音の強さdBと、それらの時間Tによる変化の3次元データに加工した3次元データを教師データとして機械学習して生成された、前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する音判定モデル
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養殖環境における、魚類などの水棲生物への給餌システムに関する。また、水棲生物への給餌方法に関する。また、これらに用いられる音判定アルゴリズム(モデル)に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の人口爆発や可処分所得の増加・健康志向の高まりにより世界的に魚類の需要は増加している。また、世界的な持続可能な漁業への機運と地球温暖化に起因すると見られる漁獲量の変動の問題などから沿岸漁業ではなく養殖による魚介類生産の増加が必須となり、養殖は世界的に成長産業である。
【0003】
一方で、日本は面積で世界6位の排他的経済水域を持つ立地ながら、魚食需要は減少し一方で生産者側も高齢化が進み人手不足は深刻化しており、地方経済において重要な基盤産業が縮小し経済の停滞・悪化を招く一因となっている。
【0004】
今後は人口爆発により地球上ではたんぱく質の不足が懸念される状況にあり、輸入に頼ると買い負けすることが容易に想定され、事実、輸入に頼っている養殖飼料用魚粉の価格は高騰し、養殖業の収益性を圧迫する要因となっており、日本の養殖の生産性向上および付加価値向上は喫急の課題である。
【0005】
このような状況においても、日本の養殖ではロボット化・デジタル化は十分には進んでおらず労働生産性は低く、この生産性向上への投資および養殖魚の付加価値向上に対する投資は、小規模の経営体が多い業態であることも起因して伸びていない。
【0006】
このような状況下において、高騰する餌の無駄をなくし、養殖魚の成長に寄与する給餌制御が可能で、かつ、小規模経営の養殖業者でも導入しやすい安価な給餌システムを提供することで労働生産性を上げることが求められている。
【0007】
養殖魚への給餌は主に自動給餌機により日中・魚の食い気が高い時間帯に行われているが、その給餌量は養殖業者の経験により水温・天候・潮流などの環境や、魚の状態を観察することで人手により調整が行われている。また、例えば鯛養殖の場合は一人で多数の生簀を管理しており、給餌制御は自動給餌機によりタイマによる間欠給餌間隔や給餌量・時間を設定することで自動的に行われている。このため、養殖業者が全生簀の魚の状態を見ながら給餌することは困難で、結果として、養殖魚の食い気が落ちた後でも給餌を継続したり、食い気が旺盛なときに十分な給餌を行えないという問題が生じ、餌の無駄や増肉係数の低下、養殖魚の成長を早めることができないことで生産性の低下を招いている。
【0008】
一方で、過剰に餌を供給することによる餌の無駄は、養殖漁場底質への有機物の堆積、延いては漁場環境の悪化を招き、さらに生産性が悪化するという悪循環も生じる。効率よく給餌する手段として以下のような技術が提案されている。
【0009】
非特許文献1は、魚がセンサーをつつくと自動で給餌魚の食欲に合わせた給餌を実現する自発センサー式給餌システムを開示している。
【0010】
特許文献1は、養殖魚への給餌を行う給餌装置と、カメラと、前記カメラで取得した画像データの示す画像の動きを解析し、前記養殖魚の動きに関する情報を取得する画像処理装置と、を備え、前記給餌装置の給餌の開始後に、前記カメラが画像データの取得を開始する給餌システムを開示している。
【0011】
特許文献2は、飼育水槽または生け簀の水棲生物に餌料を供給する水棲生物用自動給餌装置において、水棲生物の活動状態を集音により計測する集音計測手段と、前記計測値を周波数分析する周波数分析手段と、前記周波数分析によって得た水棲生物の摂餌行動に特徴的な周波数分布に基づいて摂餌行動の強さの度合いを計算し、定量化する摂餌行動定量化手段と、前記定量化した摂餌行動の強さの度合に応じて給餌量および給餌時間を制御する給餌量制御手段を具備することを特徴とする水棲生物用自動給餌装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第6399629号公報
【文献】特開平10-313730号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】“自発センサー式給餌システム”、PRODUCT自社製品紹介 養殖用給餌機、[online]、福伸電機株式会社、[令和3年3月25日検索]、インターネット<URL:https://www.felco.co.jp/original_product/pfx.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
非特許文献1による自発センサーは、鯛などの魚種ではその効果が確認されている。しかし、導入コストなどの観点から大量に採用する生簀に導入することは困難である。また、学習能力があり自発行動を示す魚種以外には効果がない。例えば、ブリなどの魚種の養殖では使用することができないという課題がある。
【0015】
特許文献1による給餌システムは、カメラを用いるためカメラが海中に設置される場合は生物付着など海面上に設置される場合水しぶきなどで汚れが生じ経時的に正確な映像が取得できなくなる。また、その清掃が必要になる。また水質状況によっては画像処理に適した画像取得が困難になる。
【0016】
特許文献2は、判定に時間軸がなく、雑音を除去できない可能性がある。また、環境・変化を学習できないので再現性がなく、雑音が除去できない可能性や、摂餌音を雑音として除去してしまう可能性がある。フーリエ変換ではサンプリング時の音により判定結果が左右されるので、摂餌行動の活性が低い時でも、サンプリングしてフーリエ変換した時点の音にたまたま雑音が含まれていた場合は摂餌行動の活性が高いと誤判定する可能性がある。また、平常時と摂餌時の活動音をフーリエ変換し周波数特性を求め、予め求めていた水中音・摂餌音以外の成分を雑音として除去して、各周波数分布の音の強さを比較するだけであり、環境変化の影響を取り除けないため、例えば雑音が平常時に発生した場合に摂餌活性が高いと誤判定される可能性がある。また、摂餌音の変化に対応できないことは、この環境変化による水棲生物の活性状態は定量化できないので摂餌活性判断を誤判定する可能性がある。
【0017】
このように、水棲生物の摂餌活性の高い時により多くの摂餌が可能な量・時間の給餌を行い、摂餌活性が低下した時には給餌を行わないことが求められている。本願発明は、摂餌活性を把握した給餌量の制御を自動的に行える給餌システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0019】
<1> 水棲生物の養殖環境の音を集音する集音手段と、
前記集音手段から取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する音加工手段と、
摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、集音手段により取得し、音加工手段で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、前記音から、前記状態を判定する音判定アルゴリズム(モデル)を生成する機械学習手段により生成された前記音判定アルゴリズム(モデル)により、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定手段と、
前記判定手段により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御手段と、
前記給餌制御手段による制御により前記養殖環境に給餌する給餌手段と、
を備える給餌システム 。
<2> 前記判定手段は、摂餌活性が高い状態と、摂餌活性が低い状態および/または摂餌活性に関係がない状態とのいずれかの状態に判定する前記<1>に記載の給餌システム。
<3> 前記養殖環境を計測する環境計測手段を備え、
計測した環境データにより前記判定による摂餌活性度の判定結果による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を補正する環境補正手段を有する、前記<1>または<2>に記載の給餌システム。
<4> 前記養殖環境の水棲生物の生息深度を計測する生息深度計測手段を備え、
計測した前記生息深度のデータにより前記判定手段による摂餌活性度の判定結果による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を補正する深度補正手段を有する、前記<1>~<3>のいずれに記載の給餌システム。
<5> 水棲生物の養殖環境の音を集音する集音工程と、
前記集音工程で取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する音加工工程と、
摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、集音手段により取得し、音加工手段で加工した前記3次元データを教師データとして機械学習することで、前記音から、前記状態を判定する音判定アルゴリズム(モデル)を生成する機械学習手段により生成された前記音判定アルゴリズム(モデル)により、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定工程と、
前記判定工程により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御工程と、
前記給餌制御工程による制御により前記養殖環境に給餌する給餌工程と、
を備える給餌方法。
<6> 摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の水棲生物の養殖環境の状態の音を取得し、
取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工した3次元データを教師データとして機械学習して生成された、前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する音判定アルゴリズム(モデル)
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば、養殖環境の水棲生物の摂餌活性を把握した給餌量の制御を自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の給餌システムに係る第一の実施形態の概要図である。
図2】本発明の音判定アルゴリズムの生成方法に係るフロー図と給餌方法に係るフロー図である。
図3】第一の実施形態に係る給餌システムによる養殖のフロー例である。
図4】音判定アルゴリズムの生成の具体的な流れを示す図である。
図5】音を加工した3次元データの例である。
図6】本発明の給餌システムに係る第二の実施形態の概要図である。
図7】第二の実施形態に係る給餌システムによる養殖のフロー例である。
図8】本発明の給餌システムに係る第三の実施形態の概要図である。
図9】第三の実施形態に係る給餌システムによる養殖のフロー例である。
図10】音判定アルゴリズムを用いた判定例である。
図11】実施例(曇天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例である。
図12】実施例(曇天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例の一部拡大図である。
図13】実施例(曇天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例の一部拡大図である。
図14】実施例(雨天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例である。
図15】実施例(雨天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例の一部拡大図である。
図16】実施例(雨天)に係る音判定アルゴリズムによる判定と給餌制御の例の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0023】
[本発明の給餌システム]
本発明の給餌システムは、水棲生物の養殖環境の音を集音する集音手段と、前記集音手段から取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する音加工手段と、摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の前記養殖環境の状態の音を、集音手段により取得し、音加工手段で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、前記音から、前記状態を判定する音判定アルゴリズムを生成する機械学習手段により生成された前記音判定アルゴリズムにより、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定手段と、前記判定手段により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御手段と、前記給餌制御手段による制御により前記養殖環境に給餌する給餌手段と、を備える。
【0024】
[本発明の給餌方法]
本発明の給餌方法は、水棲生物の養殖環境の音を集音する集音工程と、前記集音工程で取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する音加工工程と、摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、集音手段により取得し、音加工手段で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、前記音から、前記状態を判定する音判定アルゴリズムを生成する機械学習手段により生成された前記音判定アルゴリズムにより、前記集音手段が集音した前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定工程と、前記判定工程により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御工程と、前記給餌制御工程による制御により前記養殖環境に給餌する給餌工程と、を備える。
【0025】
[本発明の音判定アルゴリズム]
本発明の音判定アルゴリズは、摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の水棲生物の養殖環境の状態の音を取得し、取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工した3次元データを教師データとして機械学習して生成された、前記養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定するためのものである。
【0026】
本発明の給餌システムや給餌方法によれば、養殖環境の水棲生物の摂餌活性を把握した給餌量の制御を自動的に行うことができる。なお、本願において本発明の給餌システムにより本発明の給餌方法を行うこともでき、本発明の音判定アルゴリズムは本発明の給餌システム等に用いることができる。本願においてそれぞれに対応する構成は相互に利用することができる。
【0027】
[給餌システム100]
図1は、本発明の給餌システムに係る第一の実施形態の概要図である。給餌システム100は、養殖環境の養殖槽1に養殖されている水棲生物に給餌するために用いられる。給餌システム100は、集音手段20と、音加工手段30と、判定手段40と、給餌制御手段50と、給餌手段60を有する。また、給餌システム100は、判定手段40で用いる音判定アルゴリズムの学習のために機械学習手段90を用いることができる。給餌システム100によれば、養殖環境の摂餌活性を把握した給餌量の制御を自動的に行うことができる。また、給餌システム100は、判定手段40で用いる音判定アルゴリズムの学習のために機械学習手段90を用いることができる。
【0028】
[養殖槽1]
養殖槽1は水棲生物を養殖する場である。養殖槽1は、陸上養殖や海面生簀、区画式などの海面の養殖や、ため池や水田、池中式などの淡水の養殖など、給餌養殖を行ういずれを対象としてもよい。
【0029】
[水棲生物]
水棲生物は、養殖される魚類や甲殻類などの水中で生息する生物である。養殖槽1で養殖する水棲生物は、例えば、ブリ、ハマチ、タイ、カンパチ、ヒラマサ、カワハギ、メバル、カサゴ、スズキ、イサキ、サバ、エビなどを対象とすることができる。養殖対象の水棲生物の生育段階としては、特に、稚魚以降の生育状況を対象とすることが好ましい。また、摂餌するとき、音を立てる魚種を対象とする。
【0030】
[集音手段20]
集音手段20は、水棲生物の養殖環境となる養殖槽1の周辺の音を集音してする。集音手段20は、養殖環境の設置しやすさや、給餌手段60の配置、水棲生物が摂餌するときに集まりやすい場所などの音を集音できるように、無指向性(全指向性)マイクや、単一指向性マイク、水中マイクなどの適したものを用いることができる。
【0031】
[音加工手段30]
音加工手段30は、集音手段20から取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する手段である。3次元データを、機械学習の対象とすることができ、このような3次元データを教師データや、解析対象データとして、機械学習や、音判定アルゴリズムによる判定などを行うことができる。
【0032】
[機械学習手段90]
機械学習手段90は、水棲生物の摂餌活性が高い時の音、給餌手段60の音、および、水棲生物の摂餌活性が低く給餌手段60が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、集音手段20により取得し、音加工手段30で加工した3次元データを教師データとして機械学習することで、音から、摂餌活性の状態を判定する音判定アルゴリズムを生成する。
【0033】
なお、機械学習手段90が、教師データのために用いる音は、養殖槽1に設置した集音手段20および音加工手段30に限られない。例えば、(1)集音手段と音加工手段とメモリをもったハンディ機で養殖槽1の音を教師データとして取得したり、(2)集音手段とメモリをもったハンディ機で養殖槽1の音を取得し、音加工手段20と同等な機能を持つコンピュータで教師データを作成したり、(3)前記(1)もしくは(2)の手段により同じ魚種を養殖する養殖槽1とは異なる他の養殖槽の音を教師データとして取得したり、これらのいずれかや、適宜複数種の音を用いて、機械学習手段で音判定アルゴリズムを生成することもできる。
【0034】
[判定手段40]
判定手段40は、機械学習手段90により生成した音判定アルゴリズムにより、集音手段20が集音した養殖環境の音を、音加工手段30で加工したものを用いて、リアルタイムで養殖槽1の養殖環境の水棲生物の摂餌活性を判定する。判定手段40は、予め養殖槽1そのものや、養殖槽1と同等の養殖環境でサンプリングした音を用いて生成された音判定アルゴリズムを用いて判定できる。
【0035】
判定手段40は、摂餌活性が高い状態、摂餌活性が低い状態および/または摂餌活性に関係がない状態とのいずれかの状態に判定するものであることが好ましい。
【0036】
[給餌制御手段50]
給餌制御手段50は、判定手段40により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上の条件を最適に制御する。給餌制御手段50は、予め基本となる給餌条件を標準給餌条として設定して、この標準給餌条件で給餌するものとして、適宜、その給餌条件を補正しながら給餌手段60の給餌を制御する。
【0037】
[給餌手段60]
給餌手段60は、養殖環境に給餌する機器である。給餌手段60は、給餌制御手段50の制御に応じて、給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上が制御される。給餌手段60により、給餌するとき給餌手段60の作動音等が生じる。このような給餌中の作動音などが給餌手段60の音である。
【0038】
図2は、本発明の音判定アルゴリズムの生成方法に係るフロー図(図2(A))と、本発明の給餌方法に係るフロー図(図2(B))である。図2(A)に示すように、音判定アルゴリズムの生成にあたって、まず複数種の音を集音するステップS91を有する。このステップS91は、摂餌活性が高い時の音、給餌手段60の音、および摂餌活性が低く給餌手段60が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の音を集音する。次に、音データを加工するステップS92を有する。次に、加工された音データ(加工データ)を機械学習し、音判定アルゴリズムを生成するステップS93を有する。この音判定アルゴリズムは、摂餌活性が高い状態・低い状態および/または摂餌活性に関係がない状態とのいずれかの状態に判定するアルゴリズムである。この音判定アルゴリズムは、判定手段40に適用される。
【0039】
[給餌方法のフロー例]
図2(B)は、本発明の給餌方法に係るフロー図である。本発明の給餌方法は、集音するステップS11と、音データを加工するステップS21と、加工データを判定するステップS31と、給餌量を制御するステップS41を有する。
【0040】
ステップS11は、水棲生物の養殖環境の音を集音する集音工程とすることができる。ステップS21は、集音工程で取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工する音加工工程とすることができる。ステップS31は、音判定アルゴリズム(図2(A)参照)により、集音手段20が集音した養殖環境の音から、養殖環境の状況を判定する判定工程とすることができる。ステップS41は、判定工程により判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御工程とすることができる。この給餌制御工程により制御された条件で、養殖環境に給餌する給餌工程を行う。
【0041】
図3は、第一の実施形態に係る給餌システムを用いる養殖のフロー例である。養殖を行っているとき、所定時間が経過したら、給餌手段により餌を給餌する。所定時間が経過する前であっても、本発明の給餌システムにより、摂餌活性が高いときの音と判定される状態となったときは、給餌手段により餌を給餌する。
【0042】
養殖されている水棲生物の摂餌活性が高いときは、給餌された餌を積極的に摂餌するため、水面で水棲生物が音をたて、引き続き摂餌活性が高いときの音と判定される状態になり、繰り返し餌を給餌する。
【0043】
給餌された餌を食べて、いわゆる摂餌量が飽和(いわゆる満腹)した水棲生物は表層から水中に移動したりするため、摂餌活性が高いときの音がせず、給餌手段のみが起動している音がする。このような状態と判断されるとき、給餌を停止する。
【0044】
この給餌状態は、日時、給餌量、給餌時間をメモリに保存する。これらの給餌状態を過去の履歴と比較して、必要があれば給餌までの所定時間を再設定する。例えば、給餌量が多く、摂餌活性が高い時期と判断されるときは所定時間を短くして、摂餌活性が低い時期と判断されるときは所定時間を長くする。これにより、餌を過剰に供給することなく、水棲生物の活性に適した給餌を行うことができ、成長に寄与する給餌を的確に行い餌の無駄やそれによる環境悪化を抑制することもできる。
【0045】
養殖が完了するまでは、このような給餌を繰り返す。養殖対象の水棲生物が十分な養殖段階まで達したら、養殖を完了する。
【0046】
例えば、マダイを養殖するときの養殖条件の例を説明する。マダイは、養殖生簀などで養殖されることが一般的である。マダイに給餌する時間帯は、9:00~17:00などが給餌時間として設定される。
【0047】
例えば、「11秒給餌・18秒停止・1秒音検知判定」の30秒を1セットとして、標準の給餌条件は、1時間の内、15セット(15分)給餌し、その後、45分停止するものとする。これに基づいて、原則、9:00~15分間、10:00~15分間のように、1時間ごとに給餌する。本発明の給餌システムを用いれば、この15セットの給餌回数を、摂餌活性に応じて、調整できる。
【0048】
摂餌活性が高い状態が維持されているときは、15セット経過後も、さらに引き続き給餌する。他方、摂餌活性が低い状態となれば、15セット経過前でも、給餌を停止する。また、その後、所定時間となる45分経過後に、次の給餌を開始することを原則とするが、もし、活性が高く、給餌前でも高摂餌活性と判定される状態が確認された場合、給餌を開始する。
【0049】
このような考えに基づく給餌の補正等は、次のようなものとすることができる。高活性時は、インターバルを短く頻繁に給餌する。低活性時は、インターバルを長く給餌量を低減する。これにより餌の無駄が低減され摂餌効率も向上する。また、インターバルより早く高活性化しても音判定により逃さず給餌開始できる。
【0050】
[音判定アルゴリズム]
本発明の給餌システムは、判定手段40が、音判定アルゴリズムに基づいて判定を行う。音判定アルゴリズムは、摂餌活性が高い時の音、給餌手段60の音、および、摂餌活性が低く給餌手段60が停止しているときの音の少なくとも3種類の水棲生物の養殖環境の状態の音を取得したものを用いて生成される。また、取得した音データを、時間Tと、周波数Fと、音の強さdBとの3次元データに加工した3次元データとして機械学習して生成されたもので、養殖環境の音から、養殖環境の状態を判定する。
【0051】
例えば、養殖槽1の水棲生物が、摂餌活性が高い時と判断される状態のとき、集音手段20により集音した音データを用いて教師データの一つとする。また、水棲生物を導入する前か、水棲生物が摂餌していないときに給餌手段の音を集音した音データを用いて教師データの一つとする。また、摂餌活性も低く、かつ、給餌手段も停止しているときの音を、その他の音に相当するものとして集音した音データを用いて教師データの一つとする。その他の音は、例えば、人、船、鳥など、養殖環境の周辺で生じる音である。
【0052】
音判定アルゴリズムは、これらを教師データとして3次元データを学習し、判定することができるものであれば、適宜、様々な学習手段により生成することができる。このような学習手段としては、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)やオートエンコーダを用いて機械学習を行い、音判定アルゴリズムを生成することができる。また、このような機械学習の際、テンサーフロー(TensorFlow)やChainer、Kerasなどの各種ライブラリを用いることができる。
【0053】
図4は、音判定アルゴリズムの生成の具体的な流れを示す図である。図4においては、給餌中の高摂餌活性時、給餌中の低摂餌活性時(給餌機の音)、非給餌中の静かな状態、非給餌中の船の音を、3次元データ化した音データのイメージ図である。ここでは、3次元データの例を把握しやすいように画像化して示している。これらの3次元データ化した音データを教師データとして、機械学習し、音判定アルゴリズムを生成する。音判定アルゴリズムは、例えば、3次元データ化した音データを、「A:摂餌活性が高い状態」、「B:摂餌活性が低い状態」、「C:摂餌活性に関係ない状態」のように分類するアルゴリズムとすることができる。
【0054】
[3次元データ]
図5は、音を加工した3次元データの例である。図4において、教師データの例として画像化した図を用いて説明したが、本発明の機械学習にあたっては、画像化を行う必要はなく、図5に示すように、時間T、周波数F、および音の強さdBの3次元データを、学習用や、判定用のデータとして用いる。
【0055】
[給餌システム101]
図6は、本発明の給餌システムに係る第二の実施形態の概要図である。給餌システム101は、第一の実施形態に係る給餌システム100の変形例である。給餌システム101は、さらに、環境計測手段71と、環境補正手段72とを有する。
【0056】
[環境計測手段71]
環境計測手段71は、養殖環境を計測する手段である。
【0057】
計測する対象とする養殖環境としては、水温、溶存酸素濃度、照度、雨の有無、潮流などを対象とすることができる。これらの1つとしてもよいし、複数を対象としてもよい。
【0058】
[環境補正手段72]
環境補正手段72は、計測した環境データにより、判定手段40による摂餌活性度の判定結果により設定されていた給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を、さらに補正する。
【0059】
図7は、第二の実施形態に係る給餌システムによる養殖のフロー例である。ここでは、図3に示すフローに替えて、給餌停止後に環境計測手段71により取得した「環境データ」もメモリに保存する。魚種にもよるが、至適水温のときや、溶存酸素濃度が高いときなどは、摂餌活性が向上する傾向がみられる。このため、環境計測手段71で計測した環境データに基づいて、給餌する条件を補正することで、より効率的な給餌ができる。また、仮に、補正内容が過剰な場合は、給餌中の音判定により給餌手段の自動停止や、高摂餌活性の音を検出した自動給餌により、適切な給餌もできる。
【0060】
[給餌システム102]
図8は、本発明の給餌システムに係る第三の実施形態の概要図である。給餌システム102は、第一の実施形態に係る給餌システム100の変形例である。給餌システム102は、さらに、生息深度計測手段81と、深度補正手段82とを有する。
【0061】
[生息深度計測手段81]
生息深度計測手段81は、養殖環境の水棲生物の生息深度を計測する手段である。生息深度計測手段81は、いわゆる魚群探知機のようなソナーなどを用いることができる。
【0062】
[深度補正手段82]
深度補正手段82は、計測した生息深度のデータにより判定手段40による摂餌活性度の判定結果による給餌間隔、給餌量、および給餌時間からなる群から選択される1以上を補正する。
【0063】
図9は、第三の実施形態に係る給餌システムによる養殖のフロー例である。ここでは、図3に示すフローに替えて、水棲生物の生息深度から、摂餌活性が高いと判断される表層付近の密度が高いときに、餌を給餌するものとすることができる。また、給餌停止後に生息深度計測手段81により取得した「生息深度データ」もメモリに保存する。魚類は、摂餌活性が高いときは、水面で音をたてるほどの挙動を示す前でも、表層付近に移動している場合がある。一方、十分に摂餌した後は、水中に移動する場合が多い。このため、表層付近での密度が向上したとき、高活性と判断して、所定時間経過前や高摂餌活性の音判定が行われる前でも、給餌を開始する補正を行う。また、表層付近まで移動せず、活性が低いときは、再給餌までの所定時間を長く設定して、過剰給餌を防止する補正ができる。
【0064】
本発明の給餌システムや本発明の給餌方法は、次のような利点を有する。成長に寄与する適切な量・時間の給餌制御が可能な給餌システムで、「餌代抑制」「持続可能な環境の維持」「人手に依存しない生産性向上」が実現できる。
【0065】
餌の無駄を削減できる。摂餌活性の動的変化を時間・環境・活性度・給餌量で学習できるため、摂餌活性が高い時間の予測により給餌動作の制御が可能である。また、魚群探知機のようなソナーなどで魚の位置(深さ)を把握する場合は、摂餌活性が低い(深い場所にいる)場合には給餌動作を行わない制御が可能で、給餌をしないと活性が判定できない従来技術に比べ餌の無駄は低減できる。
【0066】
水棲生物の成長を促進できる。本方式では魚の摂餌活性が高い状態を逃さず適切な量の給餌を行うことが可能で、従来方式に比べ水棲生物の成長を促進できる。
【0067】
本発明に係る給餌システム等は、魚種に依らず広範な魚種で効果がある。自発センサーは魚種によっては機能しないが、本発明は魚種毎に学習した判定アルゴリズムを用いることが可能で魚種によらず判定を行うことができる。
【0068】
本発明に係る給餌システム等は、メンテナンスフリーな設計に適している。カメラを用いる場合に比べ、マイクは「音が伝わる空気穴:ベント」を設けたケース内に設置することが可能であり、特にメンテナンスをしなくてもその性能は経時的に変化することなく、システムとして安定的に動作する。
【0069】
本発明に係る給餌システム等は、養殖システムの省電力化にも寄与できる。カメラを用いる場合に比べ、マイクそのものの消費電力は十分に小さいことと、判定装置も十分に電力の小さいマイクロコントローラで実現できるため、海上でソーラーパネルによる電力供給のみで動作する給餌機にも設置できる。例えば、従来技術の前述した特許文献1の場合、コンピュータを動作させるためには、給餌機の電源とは別に大きな発電・蓄電できる電源が必要になり給餌機毎に設置するのは困難でありコストも大きくなる。このコンピュータは養殖環境ではなく例えばクラウドコンピューティングを用いることで養殖現場での電源を小さくすることが可能ではあるが、この場合だとカメラで取得した画像データをクラウド上のコンピュータに送信したり、クラウド上のコンピュータからの判定結果データを受信するなど、通信する必要があり、通信トラフィックが増加し通信コストが大きくなる。さらに、給餌を開始しているときに通信および判定を行うと、給餌を開始しないと判定できないので、給餌の無駄が生じる。さらに、その通信が電波状態により正常に行われない可能性があり、その場合に適切な判定を行えず適切な給餌ができない可能性があるといった課題がある。
【0070】
本発明に係る給餌システム等は、導入コストが低く、かつ、ランニングコストが低いことを実現し得るシステムとして適している。カメラを用いる場合に比べ、その初期費用を低減可能で、また画像データを通信で送る必要がないことから、通信トラフィックを大幅に低減でき、ランニングコストを低減できる。
【0071】
本発明に係る給餌システム等は、堅牢性、高信頼性を有するシステムとして適している。判定手段は給餌機側に設置できるため、電波状態により通信ができない場合でも活性判定による給餌制御を行うことができ、摂餌率を向上させることができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
海面養殖を行っているマダイの養殖生簀で、養殖試験を行った。マダイは、摂餌時に海面の表層に移動し、摂餌のとき、海面から飛び出して波面を立てることで、音を立てる。このため、海面付近に配置したマイクで、集音ができる。本発明の給餌システムや本発明の給餌方法の有効性を確認するために、本発明の給餌システムにおける集音手段20と音加工手段30により摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、および摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の3次元データを取得し、機械学習手段90により音判定アルゴリズムを生成した(図4参照)。
【0074】
生成された音判定アルゴリズムを、判定手段40に実装し、実際の養殖現場で給餌中および給餌中以外の音を「摂餌活性が高い状態」「摂餌活性が低い状態」「摂餌活性に関係がない状態」の3種類の状態に判定したデータを取得した。また、この判定データを取得した時間における天候状態を外部データから取得し環境状態と摂餌活性状態の相関についても検証を行った。なお、判定手段40による摂餌活性状態の判定が実際の状態を反映しているかを確認するために、いくつかの時点で映像を取得し、判定手段40による判定結果と実際の映像を比較して判定の正しさを検証した。
【0075】
図10に判定手段40における摂餌活性状態判定の出力を示す。「摂餌活性が高い状態」「摂餌活性が低い状態」「摂餌活性に関係がない状態」の3種類の状態をそれぞれパーセントで出力し合計が100パーセントになる。摂餌活性が高い場合は「摂餌活性が高い状態」の出力が増加し、摂餌活性が低い場合は「摂餌活性が低い状態」の出力が増加し、未給餌の場合は「摂餌活性に関係がない状態」の出力が増加する。
【0076】
図11図13に実施例に係る給餌1日目の摂餌活性状態判定結果および天候状態を示す。図11は、9:00~11:30の全体データであり、図12は10:00:20~10:01:20の1分間の拡大図である。図13は、11:00:20~11:01:20の1分間の拡大図である。この時間帯の天候は曇りであった。
【0077】
給餌開始すると「摂餌活性が高い状態」の出力が支配的になり、活発に摂餌している様子が正確に判定できていることがわかる。また給餌が後半になると「摂餌活性が高い状態」の出力が低下して給餌が停止すると「摂餌活性に関係がない状態」の出力が支配的になり、摂餌活性が低下した様子を正確に判定できていることがわかる。なお、給餌が停止したときに取得した映像から、魚の生息深度はやや深いところに移動していることが確認でき、判定手段40による判定結果は妥当と考えられる。
【0078】
図14図16に実施例に係る給餌2日目の摂餌活性状態判定結果および天候状態を示す。図14は、15:00~17:30の全体データであり、図15は15:30:20~15:31:20の1分間の拡大図である。図16は、16:00:20~16:01:20の1分間の拡大図である。この時間帯の天候は雨であった。
【0079】
給餌開始すると「摂餌活性が高い状態」の出力が支配的になり、活発に摂餌している様子が正確に判定できていることがわかる。また、この時間帯では給餌中は終始「摂餌活性が高い状態」が支配的であり、1日目の判定結果に比べて高摂餌活性状態が継続していることがわかる。給餌開始前において、判定手段40の出力は「摂餌活性に関係がない状態」が支配的であるものの、このときの映像からは魚の生息深度は表層に移動していることが確認できた。
【0080】
つまり、このことから、判定手段40による摂餌活性状態の判定に加え、図6に示した第二の実施形態のように天候など環境計測手段71により計測した環境データに基づいて給餌する条件を補正したり、図8に示した第三の実施形態のように生息深度計測手段81により計測した生息深度のデータに基づいて給餌する条件を補正することにより、より正確な摂餌活性状態による適切な給餌が可能となることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の給餌システム等は、水棲動物の養殖等に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 養殖槽
100、101、102 給餌システム
20 集音手段
30 音加工手段
40 判定手段
50 給餌制御手段
60 給餌手段
71 環境計測手段
72 環境補正手段
81 生息深度計測手段
82 深度補正手段
90 機械学習手段
【要約】
【課題】摂餌活性を把握した給餌量の制御を自動的に行える給餌システムを提供する。
【解決手段】水棲生物の養殖環境の音を集音する集音手段20と、取得した音データを、時間T、周波数F、音の強さdBの3次元データに加工する音加工手段30と、摂餌活性が高い時の音、給餌手段の音、摂餌活性が低く給餌手段が停止しているときの音の少なくとも3種類の養殖環境の状態の音を、集音手段20により取得し、音加工手段で加工した3次元データとして機械学習することで生成された音判定アルゴリズムにより、集音手段が集音した養殖環境の音から、前記水棲生物の摂餌活性を判定する判定手段40と、判定した水棲生物の摂餌活性度に応じて給餌間隔、給餌量、給餌時間からなる群から選択される1以上を制御する給餌制御手段50と、養殖環境に給餌する給餌手段60と、を備える給餌システム100。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16