(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】水中の微量有害物質を除去する水質改善部材
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
C02F1/28 D
(21)【出願番号】P 2019194746
(22)【出願日】2019-10-07
【審査請求日】2020-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519384220
【氏名又は名称】株式会社フジテクノ
(72)【発明者】
【氏名】藤井 博一
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-152829(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154103(WO,A1)
【文献】特開2016-150319(JP,A)
【文献】特開2007-120322(JP,A)
【文献】特開2019-118870(JP,A)
【文献】特開平08-299420(JP,A)
【文献】国際公開第2006/019240(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/191269(WO,A1)
【文献】特開2001-212569(JP,A)
【文献】特開2001-062486(JP,A)
【文献】特開2003-306389(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107999062(CN,A)
【文献】特開平01-304095(JP,A)
【文献】特開2018-028151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00,1/28,1/40,1/58-1/64
C02F 3/10,3/34
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
D04H 1/4242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項3】
前記メッシュ状の袋体は、複数個に分割されている請求項1または請求項2に記載の水中の微量有害物質を除去する水質改善部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の微量有害物質を除去する水質改善部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国の先導的材料分野として、炭素繊維が挙げられる。高性能炭素繊維は、国内三社の世界シェアは7割に達する。ボーイング787やエアバスA350では機体重量の半分近くも使われている。しかし、炭素繊維を使った複合材料の歩留まりは悪く、50%程度と言われている。残りは廃材となる。また、炭素繊維製造各社でも、繊維端材、布耳、使用期限切れプリプレグなど、非常に多くのエネルギーを使った炭素繊維が廃棄されている。
その量は、我が国で2000t/年、世界では6000t/年とも言われる。また、自動車の軽量化のため、炭素繊維複合材料の大量利用が始まろうとする。その結果、廃棄される炭素繊維複合材料および炭素繊維廃材の量は益々増える。これらから炭素繊維を得て、活用する技術の確立は喫緊の課題である。
廃炭素繊維複合材料から繊維を取り出す方法として、焼却法や化学処理法などがあり、概ね技術的課題は解決されたと考えられる。しかし、これらによって取り出される繊維は精々1m程度と短い。炭素繊維メーカ等での端材、布耳などはバージン廃材炭素繊維で、リサイクル繊維と違い、強度的には元来の性能が保障されている。しかし、やはり短い。ボビン端材でも精々10数mである。これらの繊維をどのように有効活用するというのであろうか。現時点で実用例はない。炭素繊維を用いた水質改善部材として、特許文献1~7に係わる水質改善部材が公知である。
本発明はこの炭素繊維の廃材(再生炭素繊維)を水中の微量有害物質を除去する水質改善に再利用するものである。微量有害物質とは、PHAs(多環芳香族炭化水素)で法規制されている19物質、T-N(全窒素)、T-P(全リン)、TOC(全有機炭素)、微量重金属(鉛・銅・亜鉛・クロム・カドミウム・ニッケル)の5種類である。重金属は液相として存在している物質のみを対象とした。
高価な炭素繊維を用いるのではなく、再生炭素繊維と言う非常に廉価な炭素繊維を利用する。
また、従来の炭素繊維は河川等の流れによりバラけて、一本ずつほぐれて流れていき環境上良くないことが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許3331372号公報
【文献】特許3328700号公報
【文献】特許3080567号公報
【文献】特許2954509号公報
【文献】特開2009-195850号公報
【文献】特開2009-195849号公報
【文献】特開2009-195848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
炭素繊維の水質改善は、従来から多くの商品が出回っているが、炭素繊維が排水溝への流失が問題となり、現在は中断している。本発明は、廉価な再生炭素繊維を用いて、更に再生炭素繊維の排水溝への流失を防ぐことが課題である。
【0005】
排水溝の流れに沿って再生炭素繊維が一箇所に固まらないように、水質改善部材を入れる袋体を考案することが課題である。
【0006】
また、再生炭素繊維の再々利用を考慮し、一旦使用した水質改善部材を焼却等により、燃焼させて、再生炭素繊維のみを取り出して、水質改善部材に再利用することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の水中の微量有害物質の除去する水質改善部材は、解繊された再生炭素繊維を用いて不織布が成形され、この不織布をメッシュ状の袋体に入れられたことを特徴とする。
また、本発明の水中の微量有害物質の除去する水質改善部材は、前記解繊された再生炭素繊維は長さ30mm~100mm、幅0.5mm~3mmであり、前記不織布は目付量100g/m2~1000g/m2であり、前記不織布が穴径5μm~50μmのメッシュ状の袋体に入れられていることが望ましい。
また、本発明の水中の微量有害物質の除去する水質改善部材は、前記メッシュ状の袋体は、複数個に分割されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中の微量有害物質を除去する水質改善部材により、再生炭素繊維で微量有害物質を除去できる。
【0009】
また、本発明の水中の微量有害物質を除去する水質改善部材により、排水溝への再生炭素繊維の流失が防げる。
【0010】
さらに、使用後の水質改善部材を焼却後、再生炭素繊維のみを取り出して、再び水質改善部材として利用可能な部材に再生できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図4】排水溝に本発明の水質改善部材を施工した例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水質改善部材は、
図1及び
図3の通り、再生炭素繊維の不織布を穴径5μm~50μmのメッシュ状の袋体に挿入し、複数個に分割した形態である。
【実施例】
【0013】
図5の様に、再生炭素繊維を長さ30mm~100mm、幅0.5mm~3mmに解繊する。その後に、解繊した再生炭素繊維を目付量500g/m
2~1000g/m
2の不織布1に成形する。
図2は、再生炭素繊維の不織布1の表面状態を示している。この不織布1を穴径5μm~50μmのメッシュ状の袋体2に入れて、水中の微量有害物質を除去する水質改善部材3を構成する。
再生炭素繊維の長さと幅は解繊装置の能力的及び経済的によるものであり、不織布1の目付量は製造装置の最も経済的な製造方法である。
また、袋体2の穴径は再生炭素繊維の最小径が6μmであるのに対して、流失しない穴径に設定すると共に、排水溝の流れを妨げにくい穴径でもある。
図1及び
図3の様に、この水質改善部材3のメッシュ状の袋体2は、5分割されている。
排水溝の流れで袋体2の下流側の一箇所に再生炭素繊維が固まるのを防ぐために、袋体2を複数個に分割し、排水溝の流れに沿う方向に設置する。
図4は排水溝8に水質改善部材3を設置した例であり、流れの上流6と下流7の微量有害物質の除去程度を72時間後に計測した。
その結果、水質改善部材3に挿入した再生炭素繊維の使用前の重量は312.00gに対して使用後の重量は311.90gであった。このように、使用前後で水質改善部材3に挿入した再生炭素繊維はほとんど流出していない。
また、再生炭素繊維での微量有害物質の除去効果が確認出来た。
分析手法は、下記の通りである。
T-N 紫外線吸光光度法
高圧蒸気減菌器を用いてアルカリ性でベルオキソ二硫酸カリウムによる分解を行い、生成した硝酸の紫外部吸光度を測定し、試料中の全窒素(N)を定量とした。
T-P ベルオキソ二硫酸カリウムによる分解法を用いたモリブデン青(アスコルビン酸)吸光光度法
ベルオキソ二硫酸カリウムによる分解法とモリブデン青(アスコルビン酸)吸光光度法を用いて分析を行った。高圧蒸気減菌器を用いて加圧下でベルオキソ二硫酸カリウムによる分解を行い、生成したリン酸イオン態リンを測定し、試料中の全りん(P)を定量とした。
TOC 燃焼触媒酸化/非分散型赤外線ガス分析法
白金触媒を使い精製空気下にて高温で有機物を燃焼、分解し、二酸化炭素となる。その二酸化炭素を冷却、除湿し、試料中のTC(全炭素)濃度を求める。さらに酸性化した試料に通気処理を行い、試料中のIC(無機炭素)に変換し赤外線ガス分析部により検出することでIC濃度を求め、前述のTCからICを差し引き、TOC濃度を求めた。
PAHs 固相抽出法を用いたガスクロマトグラフ質量分析法
PAHsの標準品をヘキサンに溶かしPAHs19物質混合標準液を作成する。これをヘキサン、メタノール、蒸留水の順に通水させ、更に遠心分離で脱水させてベンゼン、ヘキサンを抽出する。重量測定後装置に注入して分析する。
重金属類 吸着バッチ試験法
高温アルゴンプラズマ中に試料液を噴霧励起し、得られる原子スペクトル線の発光強度を測定して分析対象元素の定量を求めた。
排水溝に水質改善部材を設置する前のT-N(全窒素)、T-P(全リン)、TOC(全有機炭素)の値は次の通りである。
T-N 2.267mg/L、T-P 1.826 mg/L、
TOC 4.971mg/L
排水溝に水質改善部材を設置して72時間後の値は次の通りであった。
再生炭素繊維1g当たりの微生物活着量 0.175g/1g
T-N 1.322mg/L、T-P 1.725mg/L、
TOC 2.746mg/L
このように数値が低下した理由は、上記有害物質が炭素繊維に付着した微生物によって除去されているためである。
また、PHAsに関して水質汚濁防止法に定められている19物質についての除去率は、99.552%~99.995%であった。
重金属に対しては、再生炭素繊維の微生物活着量により除去率は、比例して多くなることが分かった。重金属6種類の吸着量は下記の通りであった。
鉛 0.148mg/g/L 銅 0.236mg/g/L
亜鉛 0.351mg/g/L クロム 0.326mg/g/L
カドミウム0.267mg/g/L ニッケル0.005mg/g/L
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の水質改善部材は、河川の排水溝、貯水池、下水処理施設など、微量有害物質の除去が必要な場所で有用である。
【符号の説明】
【0015】
1 再生炭素繊維の不織布
2 袋体
3 水質改善部材
4 不織布の表面
6 排水溝の上流
7 排水溝の下流
8 排水溝
9 河川の流れ