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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】不織布フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20220524BHJP
   D04H 1/485 20120101ALI20220524BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D04H1/485
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019522020
(86)(22)【出願日】2018-04-19
(86)【国際出願番号】 JP2018016211
(87)【国際公開番号】W WO2018221063
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2017108811
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018013977
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】西谷 崇
(72)【発明者】
【氏名】柳岡 直樹
【審査官】谷本 怜美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-000550(JP,A)
【文献】特開2017-080705(JP,A)
【文献】特開2009-190269(JP,A)
【文献】特開2007-245712(JP,A)
【文献】特表2010-509056(JP,A)
【文献】特開2013-022570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
D04H 1/485
D04H 1/498
D04H 1/559
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布基材の厚さ方向に、不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さい繊維径を有する微小繊維を備える不織布フィルターであって、
前記微小繊維は、前記不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、
前記微小繊維により、又は、前記微小繊維と前記不織布基材構成繊維の組み合わせにより、以下の(A)~(C)のいずれかの存在形態を取る網状部が形成されてなる、不織布フィルター。
(A)分岐を有する微小繊維が、不織布基材構成繊維に亘って主として厚さ方向に繋がっている状態
(B)比較的分岐が少ない微小繊維が、不織布基材の厚さ方向に渡って繋がっている状態
(C)分岐を有する微小繊維が、不織布基材内でポケット状に繋がっている状態
【請求項2】
ASHRAE52.1-1992に規定されるASHRAEダストを用いた質量法による濾過性能試験において、風速0.30m/秒のときに、平均質量法効率が80%以上99%以下であり、圧力損失が100Paにまで上昇した時点でのじん埃保持量が、10.0g/m以上である、請求項1に記載の不織布フィルター。
【請求項3】
前記微小繊維が、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はセルロースのいずれかにより形成されてなる、請求項1又は2に記載の不織布フィルター。
【請求項4】
前記不織布基材構成繊維が、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる少なくとも一種の複合繊維により構成されてなる、請求項1から3のいずれかに記載の不織布フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両又は住環境に備えられた空調装置への装着に適した不織布フィルターに関し、特に長期に亘って低い圧力損失を維持することが可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、長期使用を目的とした不織布フィルターとして、相対的に太い構成繊維と相対的に細い構成繊維とから構成された複合繊維を基材とし、斯かる基材をプリーツ形状に加工して濾材面積を大きくし、圧力損失を低くした不織布フィルターが知られている。また、特許文献1では、線条体で構成された平板状ネット部材(A)、及び線条体に対して融着した網目状基底部と、平板状ネット部材(A)の各網目において網目状基底部とは反対方向に膨出した複数の膨出部とで構成された不織布部材(B)を備え、網目状基底部の網目の平均孔径が1mm以上30mm以下であり、線条体の平均径が0.01mm以上10mm以下である複合繊維シート、から構成された不織布フィルターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-263811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の不織布フィルターは、線条体の一方の面から他方の面に向かって設けられた膨出部でじん埃を捕集し、じん埃保持量を確保する構造となっている。しかしながら、このような不織布フィルターは、捕集が進むにつれて上流側表面でじん埃が高密度に捕集されるため、圧力損失が早く高くなり、一定の圧力損失に到達するまでの時間が、実用上、未だ短いという問題があった。さらに、圧力損失が上昇することによって、濾材が風圧によって圧縮され、きわめて短い時間で破過してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、圧力損失の上昇を抑え、かつ、じん埃保持量を大きくすることにより、風圧が加わっても厚さ方向に潰れにくく形状維持性が高い不織布フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を行った。その結果、不織布基材に微小繊維を有する不織布フィルターにおいて、不織布基材に対する微小繊維の態様を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0007】
(1)本発明の第1の態様は、不織布基材の厚さ方向に、不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さい繊維径を有する微小繊維を備える不織布フィルターであって、前記微小繊維は、前記不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、前記微小繊維により、又は、前記微小繊維と前記不織布基材構成繊維の組み合わせにより、網状部を形成していることを特徴とするものである。
【0008】
なお、本発明に言う「見掛けの厚さ」とは、不織布フィルターに外力が加わらない状態で測定した寸法を言う。
【0009】
(2)本発明の第2の態様は、(1)に記載の不織布フィルターであって、ASHRAE52.1-1992に規定されるASHRAEダストを用いた質量法による濾過性能試験において、風速0.30m/秒のときに、平均質量法効率が80%以上99%以下であり、圧力損失が100Paにまで上昇した時点でのじん埃保持量が、10.0g/m以上であることを特徴とするものである。
【0010】
(3)本発明の第3の態様は、(1)又は(2)に記載の不織布フィルターであって、前記微小繊維が、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はセルロースのいずれかにより形成されてなることを特徴とするものである。
【0011】
(4)本発明の第4の態様は、(1)から(3)のいずれかに記載の不織布フィルターであって、前記不織布基材構成繊維が、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる少なくとも一種の複合繊維により構成されてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不織布フィルターは、不織布基材と微小繊維を有し、微小繊維は、不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、微小繊維により、又は、微小繊維と不織布基材構成繊維の組み合わせにより、網状部を形成している。このように、ベースとなる不織布基材の主として厚さ方向に配向した網状部が存在することで、厚さを活かした濾過が可能となり、目詰まりが起こりづらくなる。このため、本発明の不織布フィルターは、圧力損失の上昇が抑制され、じん埃保持量が大きくなり、風圧が加わっても厚さ方向に潰れにくく形状維持性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本発明の実施例1Aに係る不織布フィルターの概要断面を撮影した電子顕微鏡写真である。
図1B】本発明の実施例1Aに係る不織布フィルターの濾過面に相当する表面の電子顕微鏡写真である。
図1C】本発明の実施例1Aに係る不織布フィルターの断面を拡大した電子顕微鏡写真である。
図2】本発明の実施例1Bに係る不織布フィルターの概要断面を図1Aと同様に示す電子顕微鏡写真である。
図3】本発明の実施例1Cに係る不織布フィルターの概要断面を図1Aと同様に示す電子顕微鏡写真である。
図4】本発明の実施例1Dに係る不織布フィルターの概要断面を図1Aと同様に示す電子顕微鏡写真である。
図5図4に示す不織布フィルターのうち、網状部のみに着目し、拡大撮影した電子顕微鏡写真である。
図6図4に示した不織布フィルターの網状部のみを更に拡大し、視野内の微小繊維の寸法を付した電子顕微鏡写真である。
図7】比較例1Aに係る不織布フィルターを図1Aと同様に撮影した電子顕微鏡写真である。
図8】比較例2に係る不織布フィルターを図1Aと同様に撮影した電子顕微鏡写真である。
図9】他の微小繊維形成技術で作製した不織布フィルターの断面を撮影したものであって、不織布基材に実質的に単一の微小繊維が形成されている網状部の領域に着目した電子顕微鏡写真である。
図10A図9に示す微小繊維形成技術とは異なる技術で作製した不織布フィルターの断面で、微小繊維が分岐を持つ網状部として形成された領域に着目した電子顕微鏡写真である。
図10B図10Aについて、微小繊維を拡大した電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の不織布フィルターは、不織布基材の厚さ方向に、不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さい繊維径を有する微小繊維を備える不織布フィルターであって、微小繊維は、不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、微小繊維により、又は、微小繊維と不織布基材構成繊維の組み合わせにより、網状部を形成している。また、その濾過性能は、ASHRAE52.1-1992に規定される試験方法により、ASHRAEダストを用いた質量法で評価した際、試験条件が風速0.30m/秒のときに、平均質量法効率が80%以上99%以下であって、圧力損失が100Paにまで上昇した時点でのじん埃保持量が、10.0g/m以上であることが好ましい。また、上記の平均質量法効率が85%以上99%以下であって、上記のじん埃保持量が、40.0g/m以上であることがより好ましく、上記の平均質量法効率が90%以上99%以下であって、上記のじん埃保持量が、60.0g/m以上であることがより好ましい。各構成の好適な形態を例示すれば、以下のとおりである。
【0015】
[不織布基材]
本発明の不織布フィルターは不織布フィルターの形態を保持し、微小繊維を担持できる不織布基材を有する。この不織布基材構成繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、上記作用に優れるように、7μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることが更に好ましい。特に、平均繊維径を15μm以上にすることで、圧力損失の上昇が抑えられ、じん埃保持量が大きくなり、風圧が加わっても厚さ方向に潰れにくく形状維持性が高い。なお、不織布基材構成繊維の平均繊維径の上限は特に限定するものではないが、濾過効率が優れるように、100μm以下であることが好ましい。本発明における「繊維径」は、基材表面または基材内部に存在する繊維を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope;以下SEMと称する)を用いて撮影観察し、目視で読み取った際の繊維径を意味する。また、「平均繊維径」は無作為に抽出した30本の繊維を同様な方法で読み取った繊維径の数平均値を意味する。
【0016】
不織布基材構成繊維としては、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、炭化水素の一部をシアノ基又はフッ素若しくは塩素といったハロゲンで置換した構造のポリオレフィン等)、スチレン樹脂、ポリエーテル樹脂(ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、フェノール、メラミン、ユリア、エポキシ、変性ポリフェニレンエーテル、芳香族ポリエーテルケトン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル、不飽和ポリエステル等)、変性ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂(例えば、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ナイロン等)、ニトリル基を有する樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル等)、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリスルホン樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等)、セルロース樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、アクリル樹脂(例えば、アクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル等を共重合したポリアクリロニトリル、アクリロニトリルと塩化ビニル又は塩化ビニリデンを共重合したモダアクリル等)等の、公知の有機ポリマーを含む有機繊維や、ガラス繊維、金属繊維等の公知の無機繊維を用いることができる。
【0017】
また、不織布基材構成繊維となる有機ポリマーとしては、直鎖状ポリマー又は分岐状ポリマーのいずれを用いてもよく、さらに、有機ポリマーがブロック共重合体又はランダム共重合体でもよい。また、有機ポリマーの立体構造や結晶性の有無を問わない。
【0018】
不織布基材構成繊維としては、一種類の樹脂成分又は複数の樹脂成分が混合されたものでもよい。また、複数の種類の樹脂成分を異なる区画に区分して不均一に組み合わせた複合繊維を用いることもできる。複合繊維の種類としては、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型のいずれを用いてもよいが、繊維同士の接着可能な部分を実質的に全表面とすることが可能な芯鞘型であれば、不織布基材の製造時並びに不織布フィルターの使用時に接着強度が高いため耐久性を付与することができ、最も好ましい。さらに、一方の繊維が熱可塑性樹脂等の熱接着成分を備えた複合繊維と単一成分からなる汎用のレギュラー繊維との組み合わせや、熱収縮率の異なる複数の樹脂を備えた潜在捲縮性の複合繊維を用いてもよい。
【0019】
なお、不織布基材構成繊維は、熱接着後の基材の剛性が高く、比較的安価であるため、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる少なくとも一種の複合繊維により構成されることが好ましい。
【0020】
また、不織布基材の目付は特に限定するものではないが、圧力損失の上昇を抑制し、じん埃保持量を大きくできるように、50g/m以上450g/m以下であることが好ましく、70g/m以上300g/m以下であることがより好ましく、100g/m以上200g/m以下とすることが更に好ましい。この好適な数値範囲の下限よりも低い目付では網状部の形態が不均一になり、じん埃保持量を向上させることが難しくなる場合がある。また、当該目付を上記範囲よりも高く設定した場合には、圧力損失の早期上昇を招き、不織布フィルターの寿命が著しく短くなる場合がある。
【0021】
[微小繊維]
本発明の不織布フィルターは、不織布基材の厚さ方向に、不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さい繊維径を有する微小繊維を備える不織布フィルターであって、微小繊維は、不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、微小繊維により、又は、微小繊維と不織布基材構成繊維の組み合わせにより、網状部を形成されていることで、厚さ方向での濾過が可能となり、目詰まりが起こりづらくなり、圧力損失の上昇が抑制され、じん埃保持量が大きくなり、風圧が加わっても厚さ方向に潰れにくく形状維持性が高い不織布フィルターである。この形状維持性に関しては後段で詳述するが、前述の濾過性能試験にかけた際の「厚さ維持率」が、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上、更に好ましくは98%以上となるように、網状部の配向及び目付を任意好適に設計するのが好適である。
【0022】
上述の「厚さ方向」とは不織布フィルター主面に対して略直角方向を意味する。なお、微小繊維は不織布基材のどの位置に存在していてもよい。例えば、不織布基材の少なくとも一方の表面から内部にかけて存在していることができるし、不織布基材の内部にのみ存在していることもできる。特に、不織布基材の少なくとも一方の表面から内部にかけて存在する形態を採れば、当該面を濾過下流側として利用すると、濾材に上流側が粗となる密度勾配を実現することができる。さらに、微小繊維の繊維径は不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さければ、不織布基材では捕集できないじん埃を網状部で捕集することができる。微小繊維の繊維径は不織布基材構成繊維の平均繊維径よりも小さければよく、特に限定するものではない。
つまり、不織布基材構成繊維の平均繊維径が7μm以上である場合、微小繊維の繊維径は1nm以上7μm未満であることが好ましく、不織布基材構成繊維の平均繊維径が10μm以上である場合、微小繊維の繊維径は1nm以上10μm未満であることが好ましく、不織布基材構成繊維の平均繊維径が15μm以上である場合、微小繊維の繊維径は1nm以上15μm未満であることが好ましく、1nm以上12μm以下であることがより好ましく、0.1μm以上10μm以下であることが更に好ましい。図6の電子顕微鏡写真には微小繊維の繊維径を示してある。このような微小繊維は、不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向し、微小繊維を含む網状部を形成しているため、多くのじん埃を捕集できる。この深さが深い程、微小繊維を含む網状部の存在範囲が広く、じん埃の捕集性に優れているため、不織布基材の見掛けの厚さに対して30%以上100%以下の深さを以て配向しているのが好ましく、40%以上100%以下の深さを以て配向しているのがより好ましく、50%以上100%以下の深さを以て配向しているのが更に好ましい。ここで、「見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向」するとは、基材の見掛けの厚さに対して、当該厚さの値の10%以上100%以下の深さにまで「網状部」が到達している状態を言う。
【0023】
この微小繊維の深さの計測方法は不織布フィルター断面の電子顕微鏡写真10枚を用いて、各々の写真で不織布フィルターの平面方向に均等な任意の10点を選び出し、厚さ方向に伸びた網状部の長さを写真上において有効数字3桁で計測する。その10点平均を10回算出し、さらに、その平均値を以て「深さ」(有効数字2桁)と定義する。ここで言う「深さ」とは、微小繊維の長さと必ずしも一致する必要はなく、断面写真の観察部位として選択した箇所で、微小繊維存在部により近い表面から、当該繊維の最も深い距離として定義する。例えば、基材内で一方の表面から他方の表面に向かって、異なる微小繊維が連なって観察された場合には、その最深部を「深さ」とした。また、不織布基材の「見掛けの厚さ」に関しても同様の方法で、厚さ方向に伸びる不織布基材の平均厚さとし、さらに、10枚の断面写真で求めた平均値を使って、その不織布基材の見掛けの厚さ(有効数字2桁)とした。
【0024】
本発明における網状部は、微小繊維と不織布基材構成繊維とで網状部を構成する場合であってもよい。より具体的には、「網状部」の存在形態として、
(A)分岐を有する微小繊維が、例えば後述する図10A及び図10Bに示すように、不織布基材構成繊維に亘って主として厚さ方向に繋がっている状態
(B)比較的分岐が少ない微小繊維が、例えば後述する図9に示すように、不織布基材の厚さ方向に渡って繋がっている状態(柱状)
(C)分岐を有する微小繊維が、例えば後述する図5に示すように、不織布基材内でポケット状に繋がっている状態(袋状)
を例示することができ、何れの状態でも不織布フィルターの形状維持性を向上させることが可能である。微小繊維同士は接着して繋がっていることができるし、接着することなく単に接触して繋がっていることもできる。なお、微小繊維は、他の微小繊維または不織布基材構成繊維の何れかに固定されているのが好ましい。これにより、ダスト負荷時の圧力損失上昇により、通気に伴う網状部の動きを抑制し、捕集ダストの再飛散を抑制することができる。また、この網状部の厚さ方向における配設位置は不織布フィルターの表面部より深い位置の何れであってもよい。例えば、網状部の厚さ方向での配設位置を種々に選択することで不織布フィルターに密度勾配を設けることができる。このように微小繊維が比較的少ない低密度面を有する場合には、これを流入面に使用すればフィルターの寿命を向上させることができる。さらに、不織布フィルターの流入面に使用する表面(濾過面)における、SEMによる写真で読み取った平均開孔径が、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることが好ましい。平均開孔径を大きく採ることで、圧力損失が低く、じん埃を保持する空間が大きくなり、目詰まりを生じにくい。ここに言う「平均開孔径」とは、例えば、図1Bに示すように所定の倍率で濾過面を撮影した電子顕微鏡写真において、任意で10箇所の開孔を選択し、各々の開孔を構成する繊維に内接する真円の直径を「開孔径」とみなし、10箇所の平均値を「平均開孔径」とする。但し、この開孔径を読みとる真円は、概ね2次元的な平面(電子顕微鏡写真において手前側)で読みとるものとし、電子顕微鏡写真において奥側に観察される開孔に係る真円は測定対象から除外するものとする。
【0025】
微小繊維の構成樹脂は特に限定するものではないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)樹脂、ポリアクリロニトリル-メタクリレート共重合体樹脂、ポリメタクリル酸樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン-アクリレート共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ナイロン12、ナイロン-4,6等のナイロン系樹脂、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、カーボンナノチューブ、セルロース、酢酸セルロース樹脂、酢酸セルロースブチレート樹脂、ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル樹脂、ポリ(ビス-(2-(2-メトキシ-エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis-(2-(2-methoxy-ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)樹脂、ポリプロピレンオキサイド樹脂、ポリエチレンイミド(PEI)樹脂、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))樹脂、ポリアニリン樹脂、ポリエチレンサルファイド樹脂、ポリオキシメチレン-オリゴ-オキシエチレン(poly(oxymethylene-oligo-oxyethylene))樹脂、SBS共重合体樹脂、ポリヒドロキシ酪酸樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエチレングリコール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂(部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、コラーゲン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリD,L-乳酸-グリコール酸共重合体樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))樹脂、ポリカプロラクトン、キチン、キトサン等の生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質等の水溶性樹脂、又はコールタールピッチ、石油ピッチ等のピッチ系樹脂等を例示することができる。これらの中でも、繊維形成性が良好なポリアクリロニトリル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はセルロースから選ばれた樹脂のいずれかにより構成されているのが好ましい。
【0026】
また、微小繊維の目付は特に限定するものではないが、圧力損失の上昇を抑制し、じん埃保持量を大きくできるように、0.1g/m以上50g/m以下であることが好ましく、0.2g/m以上40g/m以下であることがより好ましく、1.0g/m以上30g/m以下であることが更に好ましく、2.0g/m以上15g/m以下であることが最も好ましい。
【0027】
[不織布基材の製造方法]
本発明の不織布フィルターに用いる不織布基材の製法としては、微小繊維を含む網状部の下地となる不織布を実現できる周知の製法であれば、いずれの手段を採用してもよい。具体的な不織布基材の作製方法としては、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、フラッシュスパン法)、湿式法、又は乾式法(例えば、カード法、エアレイ法)により繊維ウエブを形成した後に、繊維同士を結合する方法(例えば、繊維ウエブ構成繊維を加圧下又は無圧下で融着させる方法、バインダーにより接着する方法、水流やニードルにより絡合する方法など)等の公知の方法を用いることができる。これらの中でも乾式法により繊維ウエブを形成した後に、繊維同士を結合する方法であると、比較的嵩高な不織布基材を形成することができ、不織布基材の内部に微小繊維の網状部を形成しやすいため好適である。これらの製法によって、平均繊維径が7μm以上の繊維からなる不織布基材を調製するのが好ましく、平均繊維径が10μm以上の繊維からなる不織布基材を調製するのがより好ましく、平均繊維径が15μm以上の繊維からなる不織布基材を調製するのが最も好ましい。
【0028】
[不織布フィルターの製造方法]
次いで、不織布基材に対して、微小繊維を含む網状部を不織布基材の見掛けの厚さに対して10%以上100%以下の深さを以て配向させることによって、本発明の不織布フィルターを形成することができる。この微小繊維を含む網状部の形成方法としては、例えば、(a)パルプ状の微小繊維を湿式法により基材内部に配置した後、融着固定する技術
(b)水や有機溶剤等の溶剤に溶解した合成樹脂を高速エアによって基材内部に吐出紡糸し、基材内部に固着させる技術
(c)水などの溶媒にナノオーダーの繊維径を持つセルロースファイバーなどの微小繊維を分散させ、予め調製した不織布基材の、少なくとも一部に染み込ませた状態で凍結乾燥させる技術
(d)微小繊維の原料となる樹脂材料を溶媒に溶解させ、不織布基材の少なくとも一部に付与し、凍結乾燥させる技術
(e)不織布基材に微小繊維の樹脂材料を溶解させた溶液を付与し、当該基材の厚さ方向に気流を作用させて不織布基材の内部に微小繊維を含む網状部を生成する技術
を挙げることができる。これら技術を選択するに当たり、微小繊維が基材の厚さ方向に配向しやすい製法を採用することにより、不織布フィルターの形状維持性を高くして、風圧による濾材の緻密化を軽減することによって性能低下を防止し得る製造技術を採用することができる。一例として、上述した(b)の技術を採用する場合には、不織布基材の一方の面から100mm以下の距離に配置された、溶融紡糸又はフラッシュ紡糸に用いる口金によって、上述した微小繊維の構成樹脂を吹き付けるとともに、この不織布基材の他方の面から吸引を行ってもよい。この際、口金から吐出された微小繊維の構成樹脂は、不織布基材構成繊維に到達するまで固化せずに流動性が残る状態で実施することが必要であり、又、微小繊維の形成深さを深くとる必要があるため、不織布基材の面と口金の距離は、50mm以下であることがより好ましい。
【0029】
以上、本発明を、実施形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態に記載の発明の範囲にのみ限定されないことは言うまでもなく、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【実施例
【0030】
以下、本発明について、実施例を挙げて説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
[不織布基材の調製]
不織布基材となる嵩高な短繊維不織布の調製について説明する。
(実施例1から5、比較例1、比較例3及び4)
ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる市販の芯鞘型複合繊維(繊度17.0デシテックス、繊維長51mm)80質量%と、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる市販の芯鞘型複合繊維(繊度6.6デシテックス、繊維長51mm)20質量%と、を混綿した。これをカード機にかけてウエブ形成し、ニードルパンチ法で絡合した後、150℃の熱風ドライヤーで繊維間接着することによって不織布基材を得る。この基材の断面を電子顕微鏡で観察し、繊維同士の融着点を除く構成繊維部分のみを50本、計測観察したところ、平均繊維径は約37μmであった。当該不織布基材は実施例1から5、比較例1、比較例3及び4に用いた。
(実施例6)
ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる市販の芯鞘型複合繊維(繊度2.2デシテックス、繊維長51mm)90質量%と、ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる市販の芯鞘型複合繊維(繊度6.6デシテックス、繊維長51mm)10質量%と、を用いて上記と同様の方法により得た不織布基材(平均繊維径15μm)を、実施例6に用いた。
(実施例7)
ポリエステル樹脂及び変性ポリエステル樹脂からなる市販の芯鞘型複合繊維(繊度17.0デシテックス、繊維長51mm)50質量%と、市販のポリエステル繊維(繊度33デシテックス、繊維長76mm)50質量%とからなる不織布基材(平均繊維径54μm)を、上記と同様の方法により作製し、実施例7に用いた。
(比較例2)
不織布以外の基材として、前述した特許文献1に開示されている市販のポリエステル樹脂製メッシュ(メッシュで画成される目合いの孔径3mm、線径0.8mm)を準備し、比較例2に用いた。なお、この比較例2ではメッシュの目合いによって微小繊維が基材裏側に抜けてしまうため、微小繊維吐出の初期段階ではサクション条件を抑え、吐出被着を数段階に分けて実施することで層を積み重ね、徐々にサクション条件を上げていくことで図8に示す形態を実現した。
【0032】
[溶液吐出による微小繊維の形成]
上述した種々の基材に対する微小繊維の吐出形成は、特開2012-154009号公報に開示の製造装置を用いた。吐出する紡糸液は、ジメチルフォルムアミド(DMF)を溶媒として市販のポリアクリロニトリル樹脂を種々の所定粘度に調製し、装置に配設されたコンベアと口金との離間距離を各々変更し、評価用の不織布フィルターサンプルを調製した。なお、実施例1A、1B、1C、1D、並びに比較例1A、1B、比較例2に係る不織布フィルターについて、電子顕微鏡を用いて撮影し、厚さ方向に渡る断面状態を観察確認した。図1Aから図5までに示すように、実施例1A、1B、1C、1Dに係る不織布フィルターには、微小繊維を含む網状部、つまり、微小繊維を構成する繊維同士が接着した網状部を確認できる。特に図4に示す実施例1Dあるいは同図の要部を拡大した図5では、不織布フィルターの一方の表面側に、略袋状の網状部がポケット状の構成成分として多数形成されている。一方で、図7に示すように、比較例1Aに係る不織布フィルターには、網状部が殆ど形成されず、吐出形成された微小繊維は不織布基材の表面に積層被着されていることが理解できる。さらに、図8に示すように、比較例2に係る不織布フィルターでは、基材として上記市販のポリエステル樹脂製メッシュを用いており、基材の厚さ方向に微小繊維を含む網状部、つまり、微小繊維同士が接着した網状部は形成されず、微小繊維を吐出被着した基材の裏面側に凸状の突起が立ち上がるように形成されていた。比較例3では微小繊維を形成するためのポリマー溶液粘度(以下、粘度と略記)を各実施例に比べて低くしたため、又は、絶対的な樹脂濃度が低かったため、液滴状で基材に被着し網状部は形成できなかった。なお、微小繊維を有さずに不織布基材のみで構成された不織布フィルターを、ブランクとして比較例4に用いた。
【0033】
これら不織布フィルターサンプルのうち、主要なものについては市販の前田式圧縮弾性測定器により、JIS L 1096に規定された20g/cmの圧縮加重を掛けた場合の厚さと、無荷重での厚さ(見掛けの厚さ)との割合を百分率で求め、厚さ維持率として記録した。上述した不織布基材構成、並びに、これに形成した網状部の吐出形成条件と構成及び厚さ維持率を表1に示す。
【0034】






【表1】
【0035】
表1に示すように、実施例1Aは網状部の目付が5g/m、網状部の深さが2.8mmであり、厚さ維持率は99.3%と高く、殆ど潰れずに良好な状態を維持していた。また、実施例1Aの網状部と同じ目付で構成した実施例1Dは、網状部の深さが比較的浅い0.8mmであっても、厚さ維持率が97.0%であり、実施例1Aと同様に風圧によって潰れず、良好な状態を維持していた。このような圧力損失が小さいことは、図1Bに示すように、濾過表面側から見ても、5μm以上の比較的大きな開孔が形成されており、圧力損失も低いものであった。これに対し、微小繊維を基材の表面にのみ設けた比較例1B(網状部の深さ0.26mm)では、微小繊維の目付を多くしても網状部の深さが小さいために、厚さ維持率は93.5%と低い値を示した。さらに、前述の特許文献1の技術を模して調製した比較例2では、微小繊維全体に厚さを維持するための基材骨格が存在しないため、厚さ維持率は37.5%となり、良好な濾過性能を発揮し得ないと判断した。
【0036】
[ダスト負荷試験]
濾過性能はJIS B9908形式1に規定されるASHRAE52.1-1992の試験方法に則って実施した。まず、風速0.30m/秒で圧力損失が100Paになるまで市販のASHRAEダスト(組成:72%アリゾナ街路じん、23%カーボンブラック、5%コットンリンター;粒径範囲 0.3μm以上0.5μm以下)を供給した後、平均質量法効率及びじん埃保持量を求めた。この試験では、微小繊維を吐出被着した基材表面側が上流となるように試験装置に装着し、網状部のプレフィルターとしての性能を評価した。また、初期の圧力損失(Pa)は上記風速で粉じんを供給せずに測定した値を用いた。以下、表2に平均質量法効率、初期圧力損失、じん埃保持量の測定結果を示す。なお、表2に記載の判定の欄には、以下の基準により、◎、〇、×のいずれかを記載し、比較例4は微小繊維を含まないため、評価欄には「-」と記載している。
◎:平均質量法効率が85%以上であり、じん埃保持量が40g/m以上であった。
〇:平均質量法効率が80%以上であり、じん埃保持量が10g/m以上40g/m未満であった。
×:平均質量法効率が80%未満、若しくは、じん埃保持量が10g/m未満であった。
【0037】




















【表2】
【0038】
表2に示すように、平均質量法効率、初期圧力損失及びじん埃保持量の各数値を上記の基準により判定した結果、各実施例では、いずれも良好な結果であった。とりわけ、実施例1A、1B、1C、1D、1E、1F、1G、4、5及び7は、より良好な結果であった。比較例1A、1Bは、微小繊維の被着位置が非常に浅く、不織布フィルター上流側表面での濾過となるため、じん埃保持量が非常に小さかった。比較例2は、他のサンプルと同様に微小繊維の吐出形成表面、すなわち凸状突起の起立面とは相異なる表面を上流としてダスト負荷を実施したが、極めて緻密な表面構造のため、比較例1A、1Bと同様に、じん埃保持量は著しく小さかった。比較例3では、前述のとおり調製した粘度が低く、又は、絶対的な樹脂濃度が低いため、微小繊維を吐出できず、結果として網状部が存在しないため、平均質量法効率は比較例4と同等の低い値であった。
【0039】
以上に確認したとおり、本発明を適用した各実施例では、不織布基材の厚さ方向の内部空間に網状部が形成されているため、比較的小粒径のじん埃を保持する容積を大きくとることができ、効率的な不織布フィルターを実現できた。これに対して、各比較例は、微細な繊維による繊維集合体が不織布基材の表面に平面的に形成されているか、又は、網状部が形成されていなかった。このため、平均質量法効率とじん埃保持量との双方を満足するものではなく、主としてサイズの小さいじん埃により早期に破過し易かった。
【0040】
微小繊維を形成する他の技術を利用した不織布フィルターについて、図9及び図10A図10Bを参照して説明する。図9は、上述した実施例に用いた芯鞘型複合繊維からなる不織布基材に、水を溶媒としたポリビニルアルコール樹脂の溶液を表面に塗布し、市販のブロアーによって高速の空気を作用させて当該樹脂を繊維化し、微小繊維を形成したサンプル断面を電子顕微鏡で撮影した写真である。同図の一点鎖線で囲んだ領域からも見て採れる様に、不織布基材構成繊維間に、分岐が少ない微小繊維が多数の柱状に形成されている。この柱状の微小繊維を設けた構成によって高い厚さ維持率及び、捕集性能が向上されることが期待でき、前述の測定試験によって、同様の優れた濾過性能を発揮することができた。
【0041】
さらに、図10A及び図10Bとして示す不織布フィルターは、市販のナノセルロースファイバー分散液を同じ不織布基材に染みこませた後、凍結真空乾燥機で分散媒の水を除去して調製したものである。同図に一点鎖線で囲んだ領域に網目状の網状部が確認できた。このことから、本構造により、高い厚さ維持率、及び、捕集性能が向上されることが期待でき、前述の測定試験によって、同様の優れた濾過性能を発揮することができた。以上に述べたとおり、本発明に規定した微小繊維の形態は、樹脂を分散調製した溶液の粘度、繊維化する技術を任意好適に選択することによって、柱状(図9参照)、網目状(図1A図1B図1C図2図3図10A図10B等を参照)、あるいは袋状(図5参照)といった種々の形態で設けることができ、不織布基材に網状部を設けることによって厚さ維持率を向上させ、不織布基材の開孔径を大きく採っても、網状部を備えることで微細な粉じんも捕集することが可能であり、優れた濾過性能を実現することができた。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B