IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーケム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-複合部材 図1
  • 特許-複合部材 図2
  • 特許-複合部材 図3
  • 特許-複合部材 図4
  • 特許-複合部材 図5
  • 特許-複合部材 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20220524BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
H05K7/20 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017027833
(22)【出願日】2017-02-17
(65)【公開番号】P2018101768
(43)【公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2016244696
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野 隆寛
(72)【発明者】
【氏名】澤口 壽一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 香織
(72)【発明者】
【氏名】早坂 努
【審査官】井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-031995(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076015(WO,A1)
【文献】特開2000-058589(JP,A)
【文献】特開2010-006890(JP,A)
【文献】特開昭63-142640(JP,A)
【文献】国際公開第2011/001698(WO,A1)
【文献】特開2013-149952(JP,A)
【文献】国際公開第00/059036(WO,A1)
【文献】特開2001-057406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放熱ベース基板と、熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有する複合部材であって、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、前記放熱ベース基板の一方の面に設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、少なくともバインダー樹脂と熱伝導性フィラーを含み、
前記バインダー樹脂は、ポリアミド樹脂を含み、
前記熱伝導性絶縁接着部材の放熱ベース基板側とは反対側の面に前記の熱を発生し得る部材を含む発熱体が設けられており、
前記発熱体の表面粗さ(Ra)が、0.1~2μmであり、
-40℃以上25℃未満の範囲における前記熱伝導性絶縁接着部材の弾性率が10GPa以下、かつ、25℃以上200℃以下の範囲における前記熱伝導性絶縁接着部材の弾性率が1GPa以下であることを特徴とする、複合部材。
【請求項2】
熱伝導性絶縁接着部材の厚みをd(μm)とした際、下記式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1記載の複合部材。
【数2】
【請求項3】
熱伝導性絶縁接着部材の25℃における伸度が2%以上であることを特徴とする、請求項1または2記載の複合部材。
【請求項4】
熱を発生し得る部材がパワー半導体素子であることを特徴とする、請求項1~3いずれか1項に記載の複合部材。
【請求項5】
パワー半導体素子と熱伝導性絶縁接着部材との間に導電性部材を有する請求項4記載の複合部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関し、詳しくはパワー半導体装置に好適な複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
家電、産業ロボット、輸送機器等の電力駆動機器はパワー半導体モジュールが搭載されている。パワー半導体素子は高電流・電圧下においても駆動が可能であるが、一方で、電力損失により発熱が生じモジュールが高温環境下に曝されるため、パワー半導体モジュールには効率的な放熱構造の存在が不可欠である。この理由から、一般に、パワー半導体モジュールには、ヒートシンクに代表される放熱用部材が樹脂等の絶縁体を介して接続されている。
【0003】
放熱効率を高めるためには、前記樹脂等の接続部材の熱伝導率を高めることが必須であり、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び窒化ケイ素等の熱伝導性セラミック粒子を分散させた放熱樹脂シートを用いる方法が知られている。
例えば、特許文献1には、金属板、はんだ層、及び半導体チップがこの順に積層された半導体モジュールと、放熱部材とを含むパワー半導体装置であって、前記金属板と前記放熱部材との間に、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂硬化剤、α-アルミナ、および窒化ホウ素等とを含有するエポキシ樹脂組成物の硬化体が配置されたパワー半導体装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-155985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されるように、半硬化状態であるエポキシ樹脂組成物を半導体モジュールと放熱部材との間に挟むことによって密着性を向上させつつ、挟んだ後に加圧・加熱工程を経て硬化させることで、強固な接着力を発現させている。
しかし、硬化後の硬化体は非常に硬いので、温度変化に伴う半導体モジュールや放熱部材の膨張や伸縮から生じる応力の緩和性が低い。そのため、冷熱サイクル試験中の応力ひずみにより硬化体の内部にクラックが発生しやすく、絶縁性や熱伝導性が著しく悪化してしまう。
【0006】
本発明は、柔軟な熱伝導性絶縁部材の利用により、パワー半導体装置に好適な、熱疲労に対する耐久性に優れる複合部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、放熱ベース基板と、熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有する複合部材であって、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、前記放熱ベース基板の一方の面に設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材の放熱ベース基板側とは反対側の面に前記の熱を発生し得る部材を含む発熱体が設けられており、
-40℃以上25℃未満の範囲における前記熱伝導性絶縁接着部材の弾性率が10GPa以下、かつ、25℃以上200℃以下の範囲における前記熱伝導性絶縁接着部材の弾性率が1GPa以下であることを特徴とする、
複合部材に関する。
【0008】
本発明は、放熱ベース基板と、熱伝導性絶縁接着部材と、熱を発生し得る部材を含む発熱体とを有する複合部材であって、
前記熱伝導性絶縁接着部材は、前記放熱ベース基板の一方の面に設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材の放熱ベース基板側とは反対側の面に前記の熱を発生し得る部材を含む発熱体が設けられており、
前記熱伝導性絶縁接着部材の線膨張係数が10~120ppm/℃であることを特徴とする、
複合部材に関する。
【0009】
また、本発明は、熱伝導性絶縁接着部材の25℃における伸度が2%以上であることを特徴とする、前記の複合部材に関する。
【0010】
さらに本発明は、熱を発生し得る部材がパワー半導体素子であることを特徴とする、前記の複合部材に関する。
【0011】
また、本発明は、パワー半導体素子と熱伝導性絶縁接着部材との間に導電性部材を有する前記の複合部材に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱疲労に対する耐久性に優れる複合部材を提供でき、パワー半導体装置の熱疲労に対する信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の複合部材の一例を示す断面図である。
図2】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図3】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図4】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図5】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
図6】本発明の複合部材の別の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<熱伝導性絶縁接着部材>
本発明における熱伝導性絶縁接着部材は、放熱ベース基板と熱を発生し得る部材を含む発熱体との間に配置される。熱を発生し得る部材から出た熱は、熱伝導性絶縁接着部材を介して放熱ベース基材へ伝播されることで、モジュールが効率良く冷却される。本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、-40℃以上25℃未満の範囲における弾性率が10GPa以下、かつ、25度以上200℃以下の範囲における弾性率が1GPa以下である。前記熱伝導性絶縁部材の弾性率が上記範囲であることにより、冷熱サイクル試験の際、放熱ベース基板や熱を発生し得る部材を含む発熱体の膨張・伸縮から発生する応力を緩和することが可能であり、パワー半導体装置としての熱疲労に対する信頼性(絶縁性、熱伝導性)が向上する。
弾性率は、後述するバインダー樹脂の分子量や、硬化剤割合、添加フィラー種や量により適宜調整することが可能である。さらに、-40~200℃の範囲における前記熱伝導性絶縁部材の弾性率は0.1MPa以上であることが好ましい。
【0015】
弾性率の測定は、引張試験機(島津製作所製、 Autograph AGS-X )を
使用して行った。恒温室内を測定温度にまで加熱または冷却を行い温度が安定したところで、引張速度2mm/分で引張試験を行い算出した。
【0016】
熱伝導性絶縁接着部材の線膨張係数は10~120ppm/℃であり、10~100ppm/℃であることが好ましく、15~80ppm/℃であることがより好ましい。
線膨張係数は10~120ppm/℃であることで、冷熱サイクル試験の際、放熱ベース基板や熱を発生し得る部材の膨張・伸縮に追随するように熱伝導部材も伸縮するため、応力の発生が少なく信頼性が向上する。後述する放熱ベース基板や熱を発生し得る部材として、銅やアルミニウムなどの金属部材を用いる場合には、熱伝導性絶縁接着部材の線膨張係数は15~80ppm/℃であることが好ましい。
【0017】
線膨張係数の測定は、TMA(ティーエイ インスツルメント ジャパン社製、TMA Q400)を使用して行った。測定は引張り荷重法(0.01N荷重)にて行い、測定温度-40~150℃、昇温速度5℃/分で算出した。
【0018】
また、熱伝導性絶縁接着部材の25℃における伸度が2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましい。熱伝導性絶縁接着部材の伸度が2%以上あることで柔軟性が確保され、打ち抜きなどの加工性に優れる。
【0019】
伸度の測定は、引張試験機(島津製作所製、 Autograph AGS-X )を使
用して行った。測定温度を25℃にし、引張速度2mm/分で引張、試料が破断した伸び率を伸度とした。なお、ここでいう伸度は、例えば伸度100%の場合、試料の長さが2倍になったことを意味する。
【0020】
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、少なくともバインダー樹脂と熱伝導性フィラーからなる。本発明で使用されるバインダー樹脂は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン-無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、および塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種または2種以上を用いることができる。
【0021】
上記の中でも、柔軟性の観点からはウレタン系樹脂もしくはポリアミド樹脂が好適に用いられ、電子部品として用いる際の絶縁性および耐熱性等の観点からはエポキシ系樹脂が好適に用いられる。
【0022】
バインダー樹脂としては、バインダー樹脂自体硬化するか、もしくは適当な硬化剤との反応により硬化するものを用いることができる。
【0023】
バインダー樹脂に反応基としてカルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基等を有する場合、これと反応し得る硬化剤として2官能以上の、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレート等を含んでもよい。
【0024】
熱伝導性フィラーは、例えば、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸金属塩、ケイ酸カルシウム等のケイ酸金属塩、水和金属化合物、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素またはこれらの複合物等が挙げられる。これらは、1種類でもよいし複数の種類を併用することもできる。球形度、熱伝導性、絶縁性の観点からアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素の少なくとも一種を含むことが望ましい。
【0025】
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、難燃剤、充填剤、その他の各種添加剤を含むことができる。難燃剤としては例えば、水酸化アルミニウム、および水酸化マグネシウム、リン酸化合物等が挙げられる。添加剤として例えば、基材密着性を高めるためのカップリング剤、吸湿時・高温時の信頼性を高めるためのイオン捕捉剤・酸化防止剤、およびレベリング剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は単層でも2層以上の積層構成でもよい。積層構成として、例えば、熱伝導性フィラーを高充填した熱伝導層(B)と柔軟性や接着性が高くなるよう設計した柔軟熱伝導層(A)を、A/B/Aのような3層に積層し、両側のA層で放熱ベース基板と熱を発生し得る部材との密着性や接着性、また、B層で高い熱伝導性を確保する、ということも可能である。
【0027】
本発明の熱伝導性絶縁接着部材は、例えば以下のような方法で得ることができる。
熱伝導性フィラーとバインダー樹脂と、液状分散媒、および必要に応じて他の任意成分を含有する塗液(A‘’)を調製し、これを剥離性シートに塗工後、液状分散媒を揮発乾燥させて得ることができる。
前記塗液(A‘’)は、熱伝導性フィラー、窒化ホウ素、バインダー樹脂、溶剤、および必要に応じて他の任意成分を撹拌混合することで製造することができる。撹拌混合には一般的な撹拌方法を用いることができる。撹拌混合機としては特に限定されないが、例えば、ディスパー、ミキサー、混練機、スキャンデックス、ペイントコンディショナー、サンドミル、らいかい機、メディアレス分散機、三本ロール、およびビーズミル等が挙げられる。
【0028】
撹拌混合後は、塗液(A‘’)から気泡を除去するために、脱泡工程を経ることが好ましい。脱泡方法としては、特に制限されないが、例えば、真空脱泡、および超音波脱泡等が挙げられる。
【0029】
剥離性シートとしては、例えば、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、およびポリイミドフィルム等のプラスチックフィルムに離型処理したものが挙げられる。
【0030】
剥離性シートへの塗液(A‘’)の塗布方法としては、特に限定されないが、例えば、ナイフコート、ブレードコオート、コンマコート、ダイコート、リップコート、ロールコート、カーテンコート、バーコート、グラビアコート、フレキソコート、ディップコート、スプレーコート、スクリーンコート、ディスペンサー、インクジェットおよびスピンコート等が挙げられる。
【0031】
上記方法で塗工して得た熱伝導性絶縁接着部材を、加圧や加熱することができる。加圧することで部材中の空洞を減らすことでき、熱伝導・絶縁性が向上する。また、バインダー樹脂と硬化反応を起こす硬化剤が含有されている場合には、加熱することで硬化反応が起こり、熱伝導性絶縁接着部材の凝集力が向上し、接着力や耐久性が向上する。また、熱伝導性絶縁接着部材を複数層同時に加圧、加熱、ラミネート等することで積層された熱伝
導性絶縁接着部材を作製することも可能である。
【0032】
熱伝導性絶縁接着部材の厚みは、特に制限されず、適宜、必要な絶縁性や熱伝導性を勘案し決定することができるが、絶縁性、熱伝導性、ハンドリング、熱応力緩和の観点から、例えば、40~1100μm、好ましくは50~1000μmの範囲で好適に用いられる。厚みを40μm以上にすることで耐久性および絶縁性が向上する。厚みを1100μm以下にすることで熱伝導性を良好に保つことができる。
【0033】
熱伝導性絶縁接着部材の熱伝導率は、特に限定されず、前述のバインダー樹脂や熱伝導性フィラーを適宜選択し、用途に応じて設計することができる。一般的にはデバイスの出力が大きくなるほど、またデバイスの小型化が進むほど単位体積あたりの発熱量が大きくなり、より放熱性が求められるため、1W/m・K以上、より好ましくは3W/m・K以上の熱伝導率を有すると良い。
ここで、熱伝導率(W/m・K)は、熱抵抗から逆算することもできるが、例えば、試料中を熱が伝導する速度を表す熱拡散率(mm/s)に、測定試料の比熱容量(J/(g・K))と密度(g/cm)を乗じた下記式で求められる。
熱伝導率(W/m・K)=熱拡散率(mm/s)×比熱容量(J/(g・K))×密度(g/cm
熱拡散率の測定は、測定サンプルの形状等に応じて、例えば、周期加熱法、ホットディ
スク法、温度波分析法、またはフラッシュ法等を選択することができ、例えば、フラッシュ法であればキセノンフラッシュアナライザーLFA447 NanoFlash(NETZSCH社製)を用いて熱拡散率を測定することができる。
【0034】
熱伝導性絶縁接着部材の絶縁性は、デバイスが正常に動作するためには絶縁性が強く求められることから、0.5kV以上、好ましくは2kV以上の絶縁破壊電圧を有する必要がある
絶縁破壊電圧は、例えば、鶴賀電機株式会社製のTM650耐電圧試験器等を用いて測定することができる。
【0035】
熱伝導性絶縁接着部材の接着力は、特に限定されず、被着体となる基材、用途や発生する熱応力に応じて設計することができる。一般に、接着力が不足すると、時間の経過や熱による膨張収縮の繰り返しにより基材と熱伝導性絶縁接着部材との間にボイドと呼ばれる空気層が生じ、絶縁性や諸物性を低下させる要因の一つとなる。必要な接着力は、基材および熱伝導性絶縁接着部材の線膨張係数、熱伝導性絶縁接着部材の弾性率などから見積もることが可能であるが、先の熱応力緩和の観点から、例えば、せん断接着力として1MPa以上あることが好ましい。
せん断接着力は、例えば、JIS K 6850に準ずる方法で測定することができる。
【0036】
<放熱ベース基板>
本発明の放熱ベース基板について説明する。
放熱ベース基板とは、熱を発生し得る部材を含む発熱体から発生した熱を最終的に逃がすための部材であり、本発明の放熱ベース基板としては、公知のものを使用することができる。放熱ベース基板は金属やセラミックスが好適に使用され、特に限定はないが、例えば、アルミニウム、銅、鉄、タングステン、モリブデン、マグネシウム、銅―タングステン合金、銅―モリブデン合金、銅―タングステンーモリブデン合金、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられ、単独または2種類以上併用して用いることができる。
【0037】
放熱ベース基板は、熱伝導性絶縁接着部材と接触する面の表面粗さ(Ra)が0.1~2μmであることが好ましく、0.2~1.7μmがさらに好ましい。放熱ベース基板のRaを0.1以上とすることで、アンカー効果によって熱伝導性絶縁接着部材との密着性が上がるため耐久性が向上する。放熱ベース基板のRaを2以下とすることで、放熱ベース基板の凸部の高さが抑制されるため絶縁性が向上する。
Raは、算術平均粗さRaを指し、規定された中心線平均粗さであり、その基準粗さを1mmとした場合の中心線平均粗さである。測定は、JIS B0601‘2001に準じて行うことができる。
【0038】
放熱ベース基板のRaと熱伝導性絶縁接着部材の厚み(d)μmは、下記式(1)を満たすことが好ましい。これにより絶縁性と耐久性を向上することができる。
【数1】
【0039】
放熱ベース基板は、放熱効率を高めるためにフィンを取り付けてもよい。フィンとしては、公知のものを使用することができる。フィンの形状としては、特に限定はないが、例えば、ストレートフィン型、ウェイビーフィン型、オフセットフィン型、ピンフィン型、コルゲートフィン型などが挙げられ、使用目的により適宜選択して用いることができる。
【0040】
<発熱体>
本発明における発熱体は、熱を発生し得る部材を含み、熱を発生し得る部材単独、または、金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して熱を発生し得る部材が積層された形態が挙げられる。
【0041】
本発明の熱を発生し得る部材とは、集積回路、ICチップ、ハイブリッドパッケージ、マルチモジュール、パワートランジスタ、パワー半導体素子、面抵抗器、及びLED(発光ダイオード)用基板等の種々の電子部品などが挙げられる。また、他に、建材、車両、航空機、および船舶等に用いられ、熱を帯びやすく、性能劣化を防ぐためにその熱を外部に逃がす必要がある物品等が挙げられる。特に、前述の熱伝導性絶縁接着部材は、パワー半導体モジュールに好適に用いることができる。
【0042】
パワー半導体モジュールの形態には特に制限はないが、一般的に、パワー半導体素子が金属板等の導電性部材上にはんだ等の接合剤を介して積層された積層体であり、さらに前記積層体が樹脂で封止されている構造をとる。この導電性部材と前記放熱ベース基板とが、前述の熱伝導性絶縁接着部材を介して接続されている。この構造により、パワー半導体モジュールが駆動した際に生じる熱が放熱ベース基板へと効率よく伝播し、放熱がされる。
【0043】
パワー半導体モジュールに使用される導電性部材としては、例えば、銀、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、スズ、鉄、鉛などの金属や、それらの合金、カーボンなどが挙げられ、回路パターンが形成されていてもよい。これらは、樹脂やセラミック上に積層されていてもよい。
【0044】
前記導電性部材は、パワー半導体素子と熱伝導性絶縁接着部材との間に積層されており、パワー半導体で生じた熱を熱伝導性絶縁接着部材への伝える役割も果たす。そのため、結果的に前記放熱ベース基板への伝熱が効果的に行われ、パワー半導体素子の放熱が促進される。
【0045】
本発明における発熱体は、熱伝導性絶縁接着部材と接する、熱を発生し得る部材または導電性部材の表面の粗さが、0.1~2μmであることが好ましい。
このように、熱を発生し得る部材、または導電性部材において熱伝導性絶縁接着部材と接触する面は、放熱ベース基板で説明した同様の理由に加え、電荷は細く尖った部分に密集しやすいという性質があるため絶縁性の観点からも、表面粗さ(Ra)は、0.1~2μmであることが好ましい。
更に、熱を発生し得る部材または導電性部材のRaと熱伝導性絶縁接着部材の厚み(d)μmは、下記式(1)を満たすことが好ましい。これにより絶縁性と耐久性を向上することができる。
【数2】
【0046】
このように本発明の複合部材は、熱伝導性と絶縁性を両立し、密着性や耐久性も良好なことから、家電、産業ロボット、輸送機器などの電子機器やパワー半導体モジュールのほか、建材、車両、航空機、および船舶にも広く使用することができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例において、「部」および「%」は特に明記しない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。Mwは質量平均分子量を表す。
【0048】
[放熱ベース基板、発熱体の表面粗さ(Ra)]
Raは、
TAYLOR HOBSON社製の接触式表面粗さ計「FORM TALYSURF i60」を使用し、2μm針、測定速度0.5mm/s、フィルタをロバストガウシアンフィルタ、測定長さ5mm、カットオフ値0.8mmの条件で放熱ベース基板および、導電性部材の熱伝導性絶縁接着剤が接触する面の表面粗さRaを測定した。測定場所を変えて得られた5か所のRaの平均値を放熱ベース基板、発熱体(導電性部材)のRaとした。
【0049】
[D50平均粒子径]
平均粒子径は、レーザー回折・散乱法粒度分布測定装置LS13320(ベックマン・コールター社製)を使用し、トルネードドライパウダーサンプルモジュールにて、熱伝導性フィラーを測定して得たD50平均粒子径の数値であり、粒子径累積分布における累積値が50%の粒子径である。屈折率の設定は1.6とした。
【0050】
実施例、および比較例で使用した材料を以下に示す。
[熱導電性フィラー]
熱伝導性フィラー:窒化ホウ素(扁平状粒子の造粒体 D50平均粒子径=60μm)
[バインダー樹脂]
ウレタン樹脂:(熱硬化性樹脂 酸価=10mgKOH/g、ガラス転移温度=-5℃) トーヨーケム社製
ポリアミド樹脂:(熱硬化性樹脂 酸価=12mgKOH/g、ガラス転移温度=5℃) トーヨーケム社製
熱硬化性エポキシ樹脂:(酸価=12mgKOH/g、ガラス転移温度= ℃) ム社製
[硬化剤]
硬化剤1:「jER1031s」(テトラフェノールエタン型エポキシ樹脂、4官能、エポキシ当量=200g/eq)三菱化学社製
硬化剤2:「jER828」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、2官能、エポキシ当量=189g/eq)三菱化学社製
硬化剤3:1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7
[放熱ベース基板]
放熱ベース基板:Ra0.1μm、厚さ2mmのアルミニウムブロック
[導電性部材]
導電性部材1:Ra0.2μm、2mmの銅ブロック
導電性部材2:Ra1.7μm、2mmの銅ブロック
導電性部材3:Ra2.0μm、2mmの銅ブロック
【0051】
<実施例1>
[熱伝導性絶縁接着部材の前駆体の作製]
ウレタン樹脂100部に対し窒化ホウ素150部を添加しよく撹拌をしてから膜厚100μmになるように剥離性シート上に塗工し、乾燥して、熱伝導性絶縁接着部材の前駆体を得た。
また、得られた熱伝導性絶縁接着部材の前駆体を150℃で60分間加熱し、熱伝導性絶縁接着部材を得、前記熱伝導性絶縁接着部材の弾性率、線膨張係数、伸度を前述の方法にて測定した。結果を表1に示す。
なお、弾性率は、-40℃から5℃間隔で測定温度を変え、各温度における弾性率を求め、求められた弾性率の最大値を表に示した。
また、熱伝導性絶縁接着部材の厚みは、ミツトヨ社製の接触式膜厚計「デジマチックシックネスゲージ」を用いて測定した。
【0052】
[熱伝導性試験片の作製]
剥離性シートを剥がし単離した熱伝導性絶縁接着部材の前駆体を導電性部材1と放熱ベース基板との間に挟み、150℃、1MPaで60分間プレスをし、熱伝導性試験片を得た。
【0053】
<実施例2~19>
実施例1の導電性部材と、熱伝導性絶縁接着部材の組成、配合量(固形分質量)と、熱伝導性絶縁接着部材の厚みとを表1、および表2に記載したとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~19の熱伝導性絶縁接着部材および熱伝導性試験片を得た。
得られた熱伝導性試験片を用いて、実施例1と同様に熱伝導性絶縁接着部材の弾性率、線膨張係数、伸度を測定した。表3に結果を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
得られた熱伝導性試験片を用いて、複合部材を形成し、熱伝導性、耐久性、および絶縁性を、下記の方法で評価した。表3に評価結果を示す。
【0057】
[熱伝導性の評価]
得られた熱伝導性試験片を、導電性部材側が熱源に接するように100℃のホットプレートに乗せ、1分間放置した後、熱伝導性試験片の放熱ベース基板表面の温度を熱電対により測定し、以下の基準で評価した。

◎:放熱ベース基板表面の温度が95℃以上
〇:放熱ベース基板板表面の温度が90℃以上、95℃未満
×:放熱ベース基板表面の温度が90℃未満
【0058】
[耐久性の評価]
熱伝導性試験片を、-40℃~120℃の冷熱サイクルを3000サイクルさせた後、前述の熱伝導性の評価を行ない、以下の基準で評価した。

◎:放熱ベース基板表面の温度が95℃以上
〇:放熱ベース基板表面の温度が90℃以上、95℃未満
×:放熱ベース基板表面の温度が90℃未満
【0059】
[絶縁性(絶縁破壊電圧の測定)]
導電性部材1~3(40mm×40mm、厚さ2mmの銅ブロック(C1020P(1/2H)))(A)、中央部に25mmφの穴を打ち抜いた、50mm×50mm、厚さ25μmのポリイミドフィルム(B)、熱伝導性絶縁接着部材(40mm×40mm)(C)、放熱ベース基板(40mm×40mm、厚さ2mmのアルミブロック(A3003P(H24)))(D)を準備し、(A)/(B)/(C)/(B)/(D) の構成となるように積層し、加熱150℃、加圧2~3MPaの条件で60分間熱プレスし圧着した。
上記で得られたサンプルを、25℃50%RH環境で1晩静置した後、鶴賀電機株式会社製「TM650 耐電圧試験機」を用い、25℃50%RH環境で、サンプルをフッ素系不活性液体(スリーエムジャパン株式会社製 フロリナートFC-3283)中に浸漬した状態で、0kVから10kVを100秒間で変化させるプログラムを用い、閾値電流2mAとし、絶縁破壊した時の電圧を読み取り絶縁破壊電圧とした。
以下の基準で評価した。

◎:絶縁破壊電圧が2kV以上
〇:絶縁破壊電圧が0.5kV以上、2.0kV未満
×:絶縁破壊電圧が0.5kV未満
【表3】
【0060】
<実施例20>
[パワー半導体装置の作製]
両面に回路が形成されたセラミックス回路基板上の、一方の面に半田を介してパワー半導体素子を接合し、他方の面に銅製のヒートスプレッダを接触させ、パワー半導体素子を接合している側全体をエポキシ樹脂で封止し、パワー半導体モジュールを得た。
前記ヒートスプレッダに、実施例3で得た熱伝導絶縁接着部材前駆体が接するよう、熱伝導性絶縁接着部材前駆体、アルミニウム板の順に積層し、1MPaで150℃、60分間プレスをし、パワー半導体装置を得た。熱伝導絶縁接着部材が接する前記導電性部材であるヒートスプレッダのRaは0.2μm、放熱ベース基板であるアルミニウム板のRaは0.1であった。
【0061】
[パワー半導体装置の耐久性試験]
得られたパワー半導体装置を、-40℃~120℃の冷熱サイクルを3000サイクルさせた。その後、パワー半導体装置を断面方向に切断し、熱伝導性絶縁接着部材の剥離、ボイドの状態を冷熱サイクル未実施物とともにSEM(走査型電子顕微鏡)で確認し比較した。その結果、パワー半導体装置は冷熱サイクル前後で状態の変化がなく、セラミックス回路基板とアルミニウム板との間の熱伝導性絶縁接着部材には、剥離やボイドの発生は認められなかった。
【0062】
このように、本発明の複合部材は熱伝導性、絶縁性が良く、耐久性にも優れる。
【符号の説明】
【0063】
100、200、201、202、203、204:複合部材
1:熱を発生し得る部材
1a:パワー半導体素子
2:熱伝導性絶縁接着部材
3:放熱ベース基板
4:導電性部材
5:半田
6:封止剤
7:発熱体

図1
図2
図3
図4
図5
図6