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特許7077559被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造
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  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/04 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B60S1/04 730
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017185019
(22)【出願日】2017-09-26
(65)【公開番号】P2019059330
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】生田 實
(72)【発明者】
【氏名】稲村 俊樹
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-290300(JP,A)
【文献】特開2011-121566(JP,A)
【文献】特開2009-190587(JP,A)
【文献】特開2013-193570(JP,A)
【文献】特表2018-501146(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0173846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/04 - 1/44
B60S 1/56 - 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに貫設されたピボット孔から流下する水を受ける容器形状に形成され、前記ピボット孔の下方において前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように前記車両に取り付けられ、前記車両に取り付けられた状態における前記車両の前後方向及び左右方向を基準として形状が規定される被水防止キャップであって、
前記ピボット軸の周囲に設けられ、前記ピボット孔の直下で前記ピボット軸を中心とした略円環状に形成された第一領域と、当該第一領域から車両前方に向かって延在る第二領域とを含んで設けられた底部と、
前記底部の外周縁部の前記第二領域の前縁部を除いて前記外周縁部に沿って立設され、車両前方が開放した状態で前記底部の周囲を囲む側壁と、
前記底部の前記第二領域の前記前端部における前記側壁間に設けられ、車両前方に開放されて前記底部で受けた水を排水する排水部と、
前記底部の前記第二領域に立設され、前記第二領域の前記前縁部から前記前後方向に延在て前記排水部を前記左右方向で二つに区分する第一リブと、を備え、
前記側壁は、前記第一領域の前記左右方向の両側縁部に沿って一対で立設され、その前縁部が互いに接近するように弧状に延設された二つの弧状壁部と、前記第二領域の前記左右方向の両側縁部に沿って一対で立設され、前記弧状壁部の前記前縁部から車両前方へ延びる二つの離隔壁部と、を有し、
前記第一リブは、前記ピボット軸の軸方向視で、前記弧状壁部の各前縁部とそれぞれ壁面が対向するよう一対で立設され、前記底部で受けた水を前記排水部から排水する際に前記弧状壁部に沿って流れる水を受けて当該水の勢いを減衰する二つの減衰壁を有する
ことを特徴とする、被水防止キャップ。
【請求項2】
前記減衰壁は、前記壁面が前記弧状壁部の前記前縁部から離れる方向に凹んだ凹状に形成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の被水防止キャップ。
【請求項3】
前記減衰壁は、前記第二領域の前記前縁部に沿って前記左右方向に延在する横壁部と、前記前後方向に延在する縦壁部と、前記横壁部及び前記縦壁部を繋いで延在する傾斜壁部とで凹状に形成されている
ことを特徴とする、請求項2記載の被水防止キャップ。
【請求項4】
前記側壁の前記二つの離隔壁部は、前記弧状壁部の前記各前縁部から車両前方に行くほど互いに離隔するように延設される
ことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の被水防止キャップ。
【請求項5】
前記弧状壁部と前記離隔壁部との境界部に前記被水防止キャップの前記左右方向内側に向かって凸形状に形成された二つの絞り部が対向配置され、
前記排水部は、その外側が前記離隔壁部の前縁部で区画されるとともに、その内側が前記第一リブの前側における前記左右方向の両縁部で区画され、
前記第一リブの前記両縁部は、前記絞り部よりも外側寄りに配置される
ことを特徴とする、請求項4記載の被水防止キャップ。
【請求項6】
前記底部の前記第二領域の前記前縁部の下面から車両下方へ突設されるとともに前記第二領域の前記前縁部に沿って前記左右方向に延びた第二リブを備えた
ことを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の被水防止キャップ。
【請求項7】
前記軸方向視で、前記ピボット軸の軸心を通って前記前後方向に延びる直線に対し左右対称形状である
ことを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の被水防止キャップ。
【請求項8】
車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに向かって流れる水を受けて車外へ排水する排水構造であって、
前記デッキガーニッシュに貫設されたピボット孔と、
前記ピボット孔の下方において、前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように設けられた請求項1~7のいずれか1項に記載の被水防止キャップと、を備えた
ことを特徴とする、排水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のデッキ部内(デッキ空間)に内蔵されたワイパリンク機構への被水を防止するための被水防止キャップと、この被水防止キャップを用いた排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントワイパ装置のワイパリンク機構は、車室内空間とエンジンルームとを隔壁する空間(いわゆるデッキ空間)に内蔵される。ワイパリンク機構の上方には、フロントガラスの前端部に取り付けられたデッキガーニッシュが配置され、このデッキガーニッシュによってデッキ空間が閉鎖される。デッキガーニッシュには、ワイパリンク機構のピボット軸が挿通されるピボット孔が穿設されており、このピボット孔から上方へ突出したピボット軸の先端に、ワイパアームが固定される。
【0003】
ワイパアームの先端にはガラス面を拭くワイパブレードが固定されているが、ガラス面の拭きエリアを拡大するためには、ピボット軸の位置はできるだけ前側であることが好ましい。一方で、所定の広さのエンジンルームを確保しつつ車室内空間を広くするためには、デッキ空間の省スペース化が重要である。つまり、デッキ空間の省スペース化を図りつつ、ピボット軸をできるだけ前側に配置するという、拭きエリアの拡大と広い車室内空間の確保との両立が求められる。
【0004】
ところで、ルーフ面やガラス面に降った雨水や洗浄水等の水の一部は、デッキガーニッシュに向かって流れ、ピボット孔からデッキ空間内を通って車外へと排水される。このとき、ピボット孔を流下する水がワイパリンク機構に付着しないように、ピボット軸に対してワイパリンク機構の被水を防止するためのキャップが固定される(例えば特許文献1)。このキャップは、ピボット孔から流下する水を受けたのち、デッキ空間へと排水するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5804276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キャップからデッキ空間へと排水される水の勢いが強い場合には、排水された水がデッキ空間内のパネルに衝突して跳ね返り、その跳ね水がワイパリンク機構にかかるおそれがある。特にワイパの拭きエリアを広く取るためにピボット軸の位置を車両前方側へ配置すると、デッキ空間を形成するパネル(デッキ部のパネル)との隙間が小さくなるため、跳ね返りによる被水がより起こりやすくなる。なお、デッキ空間を広くしてパネルとの距離をとることで跳ね水によるワイパリンク機構の被水を回避することもできるが、車室内空間やエンジンルームが狭くなるという別の課題が生じる。つまり、ワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化(省スペース化)との両立が難しく、改善の余地があった。
【0007】
さらに、キャップからデッキ空間へと排水される水の勢いが弱い場合には、キャップで受けた水は、デッキ空間内のパネルに衝突せずに下方へと滴下する可能性が高い。そのため、跳ね水による被水のおそれは少ないが、キャップの排水口の位置がピボット軸に近いと、車両の振動や傾斜等によって、滴下した水がワイパリンク機構に直接的にかかるおそれがある。
【0008】
本件の被水防止キャップ及び排水構造は、このような課題に鑑み案出されたもので、排水される水の勢いにかかわらずワイパリンク機構の被水をより確実に防止することでワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化との両立を図ることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する被水防止キャップは、車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに貫設されたピボット孔から流下する水を受ける容器形状に形成され、前記ピボット孔の下方において前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように前記車両に取り付けられ、前記車両に取り付けられた状態における前記車両の前後方向及び左右方向を基準として形状が規定される被水防止キャップであって、前記ピボット軸の周囲に設けられ、前記ピボット孔の直下で前記ピボット軸を中心とした略円環状に形成された第一領域と、当該第一領域から車両前方に向かって延在る第二領域とを含んで設けられた底部と、前記底部の外周縁部の前記第二領域の前縁部を除いて前記外周縁部に沿って立設され、車両前方が開放した状態で前記底部の周囲を囲む側壁と、前記底部の前記第二領域の前記前端部における前記側壁間に設けられ、車両前方に開放されて前記底部で受けた水を排水する排水部と、前記底部の前記第二領域に立設され、前記第二領域の前記前縁部から前記前後方向に延在て前記排水部を前記左右方向で二つに区分する第一リブと、を備え、前記側壁は、前記第一領域の前記左右方向の両側縁部に沿って一対で立設され、その前縁部が互いに接近するように弧状に延設され二つの弧状壁部と、前記第二領域の前記左右方向の両側縁部に沿って一対で立設され、前記弧状壁部の前記前縁部から車両前方へ延びる二つの離隔壁部と、を有し、前記第一リブは、前記ピボット軸の軸方向視で、前記弧状壁部の各前縁部とそれぞれ壁面が対向するよう一対で立設され、前記底部で受けた水を前記排水部から排水する際に前記弧状壁部に沿って流れる水を受けて当該水の勢いを減衰する二つの減衰壁を有する。
【0010】
(2)前減衰壁は、前記壁面が前記弧状壁部の前記前縁部から離れる方向に凹んだ凹状に形成されていることが好ましい。
(3)この場合、前記減衰壁は、前記第二領域の前記前縁部に沿って前記左右方向に延在する横壁部と、前記前後方向に延在する縦壁部と、前記横壁部及び前記縦壁部を繋いで延在する傾斜壁部とで凹状に形成されていることが好ましい。
【0011】
(4)前記側壁の前記二つの離隔壁部は、前記弧状壁部の前記各前縁部から車両前方に行くほど互いに離隔するように延設されることが好ましい。
【0012】
(5)前記弧状壁部と前記離隔壁部との境界部に前記被水防止キャップの前記左右方向内側に向かって凸形状に形成された二つの絞り部が対向配置され、前記排水部は、その外側が前記離隔壁部の前縁部で区画されるとともに、その内側が前記第一リブの前側における前記左右方向の両縁部で区画され、前記第一リブの前記両縁部は、前記絞り部よりも外側寄りに配置されることが好ましい。
(6)前記被水防止キャップは、前記底部の前記第二領域の前記前縁部の下面から車両下方へ突設されるとともに前記第二領域の前記前縁部に沿って前記左右方向に延びた第二リブを備えていることが好ましい。
(7)前記被水防止キャップは、前記軸方向視で、前記ピボット軸の軸心を通って前記前後方向に延びる直線に対し左右対称形状であることが好ましい。
【0013】
)ここで開示する排水構造は、車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに向かって流れる水を受けて車外へ排水する排水構造であって、前記デッキガーニッシュに貫設されたピボット孔と、前記ピボット孔の下方において、前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように設けられた上記(1)~()のいずれか一つに記載の被水防止キャップと、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
開示の被水防止キャップ及び排水構造によれば、被水防止キャップから排水される水の勢いを確実に減衰してワイパリンク機構の被水をより確実に防止することができ、ワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化(省スペース化)とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る排水構造を備えた車両のフロントガラス及びワイパリンク機構の周辺構造を示す模式的な斜視図である。
図2図1のA部拡大図(デッキガーニッシュを透視した図)である。
図3】実施形態に係る被水防止キャップが固定されるピボット軸の軸心を通る前後方向断面で切断した縦断面図である。
図4】実施形態に係る被水防止キャップの周辺構造を前側上方から見た模式的な斜視図である。
図5】実施形態に係る被水防止キャップの模式的な平面図である。
図6】実施形態に係る被水防止キャップの模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、実施形態としての被水防止キャップ及び排水構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。以下の説明では、車両の進行方向を前方(車両前方)、逆側を後方(車両後方)とし、前方を基準に左右を定める。また、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。
【0017】
[1.構成]
図1に示すように、車両のフロントガラス2の前方にはデッキガーニッシュ3が設けられており、デッキガーニッシュ3の上部からフロントワイパ装置の二つのワイパアーム5Aが伸びている。デッキガーニッシュ3は、図2及び図3に示すように、フロントガラス2の前端部に取り付けられるとともに、フロントガラス2を支持するデッキ部7(図1参照)の上方を覆うように設けられている。デッキ部7の内部のデッキ空間8には、ワイパアーム5Aを駆動する駆動用モータ(図示略)と動力を伝達するワイパリンク機構4とが配置されており、デッキガーニッシュ3には、ワイパリンク機構4のピボット軸4aが挿通可能に貫設されたピボット孔3hが形成されている。そして、このピボット孔3hの下方において、ピボット軸4aの周りを囲むように被水防止キャップ1が設けられている。
【0018】
被水防止キャップ1は、ピボット軸4aを含むワイパリンク機構4の被水を防止するための部品である。本実施形態の被水防止キャップ1は、デッキガーニッシュ3に貫設されたピボット孔3hから流下する水を受けるとともに、その水をデッキ空間8の前方へと排水する容器状の部品である。また、本実施形態の排水構造は、ピボット孔3h及び被水防止キャップ1を備える。
【0019】
ルーフやフロントガラス2に降った雨水や洗車による洗浄液等の水は、図3中に破線の矢印で示すように、フロントガラス2の上面(ガラス面)からデッキガーニッシュ3の後端部3rの上面を伝って流れ、ピボット孔3hからデッキガーニッシュ3の下方へ流れる。そのため、ピボット孔3hの下方には、ワイパリンク機構4の被水を防止するために、ピボット孔3hと上下方向で重なるように被水防止キャップ1がピボット軸4aの周囲を囲むように設けられている。
【0020】
本実施形態では、右ハンドル車に設けられるフロントワイパ装置を例示する。すなわち、図1及び図2に示すように、フロントガラス2の前方における右端側(運転席側)及び中間部(助手席側)にワイパリンク機構4のピボット軸4a(図3参照)が設けられ、二つのワイパアーム5Aが各ピボット軸4aを中心としてピボット軸4aと共に回動することで、各ワイパブレード5Bがフロントガラス2の上面を拭く。
【0021】
なお、図2は、図1のA部拡大図であり、デッキガーニッシュ3を透視して示す。本実施形態の車両では、形状の異なる二つの被水防止キャップ1,9がそれぞれピボット孔3hの下方でピボット軸4aの軸受4b(図3参照)に固定されている。なお、ピボット軸4aは軸受4bに対して回動可能である。いずれの被水防止キャップ1,9も、ピボット孔3hから流下する水を受けるとともにその水を排水する機能と、ワイパリンク機構4の被水を防止する機能とを併せ持つ。以下、中間部(助手席側)のピボット軸4aに対して固定される被水防止キャップ1について詳述する。なお、本実施形態では右ハンドル車を例示しているが、左ハンドル車の中間部(助手席側)のピボット軸に対して、被水防止キャップ1を適用してもよい。
【0022】
本実施形態の被水防止キャップ1(以下「キャップ1」という)は、図3及び図4に示すように、ピボット軸4aの周囲に延在するとともにピボット孔3hから流下する水を受ける底部10と、底部10の周囲を囲む側壁11とを有する容器形状に形成される。また、キャップ1は、底部10の前端部における側壁11間に設けられ、前方に開放した排水部12と、底部10の上面から立設され、排水部12に互いに離隔した二つの排水口12a(図4中の模様部分)を区分形成する第一リブ13とを有する。さらに、本実施形態のキャップ1は、底部10の前縁部の下面から下方へ突設された第二リブ14と、底部10の上面の略中央部に立設され、ピボット軸4aの軸受4bが内嵌される円筒部15とを有する。
【0023】
図3に示すように、キャップ1は、底部10が前方へ下降傾斜する姿勢でピボット軸4aの周囲を囲むように取り付けられる。底部10には、円筒部15が形成された第一領域10aと、第一領域10aよりも前方に延在する第二領域10bとが設けられる。第一領域10aは、ピボット孔3hの直下に位置し、流下する水を直接的に受ける領域である。一方、第二領域10bは、第一領域10aで受けた水を底部10(第二領域10b)の前縁部にある排水口12aへと案内する領域である。なお、第一領域10aは、ピボット孔3hの外形よりも大きな外形とされ、ピボット孔3hから流れ込む水を受け止めるのに十分な大きさを有している。また、第二領域10bの前側部分(底部10の前端部)が排水部12に相当する。
【0024】
本実施形態の底部10は、図4及び図5に示すように、第一領域10aがピボット軸4aの軸心C(円筒部15の中心軸)を中心とした略円環状に形成され、第二領域10bが前方に向かって横幅(左右方向寸法)が次第に拡がる略台形状に形成される。そして、第一領域10aと第二領域10bとの境界部において底部10の横幅(左右方向寸法)が最も狭くなっている。
【0025】
また、図4図6に示すように、側壁11は、底部10の外周縁部の前縁部(第二領域10bの前縁部)を除いて当該外周縁部に沿って設けられており、前方のみが開放した形状をなしている。側壁11は、第一領域10aの幅方向(左右方向)の両側縁部に沿って立設され、いずれも幅方向外側(左右方向外側)に膨らむ湾曲形状の二つの弧状壁部11aを含む。さらに本実施形態の側壁11は、弧状壁部11aの各前縁部から連続して第二領域10bの幅方向(左右方向)の両側縁部に沿って立設され、前方に行くほど互いに離隔する二つの離隔壁部11bを含む。なお、側壁11は、底部10の外周縁部からピボット軸4aの上端側に行くほど拡径するように湾曲して立設されている。
【0026】
弧状壁部11aは、例えばピボット軸4aの軸心C(円筒部15の中心軸)を中心とした円弧形状に形成される。本実施形態の弧状壁部11aは、図5に示すように、軸心Cを中心とした仮想円20(図中一点鎖線)に沿う略円弧形状に形成され、二つの弧状壁部11aの前縁部が底部10の第一領域10aと第二領域10bとの境界部分で互いに接近するように弧状に延設されている。このため、弧状壁部11aの二つの前縁部間の間隔(左右方向寸法)は、軸心Cを通る二つの弧状壁部11a間の間隔(左右方向寸法)、すなわち軸心Cを中心とした仮想円20の直径よりも小さい。
【0027】
離隔壁部11bは、その前縁部がその後縁部(すなわち弧状壁部11aとの境界部)よりも外側寄りに配置される。なお、ここでいう「外側」とは、左右方向において、ピボット軸4aから離れた側を意味する。同様に、左右方向において、ピボット軸4a側(中心側)を「内側」という。そして、本実施形態の側壁11には、弧状壁部11aと離隔壁部11bとの境界部にキャップ1の幅方向(左右方向)内側に向かって凸形状に形成された二つの絞り部11cが対向配置される。
【0028】
なお、本実施形態のキャップ1の底部10は、第一領域10aから後方へ拡張された第三領域10cを有する。第三領域10cは、図5中に二点鎖線で示す樋部材6と上下方向に重なるように設けられ、フロントガラス2の前端部の下面とデッキガーニッシュ3との間の僅かな隙間から水が流下した場合に、その水を受ける機能を持った領域である。
【0029】
本実施形態の側壁11には、弧状壁部11aの後方において第三領域10cの周囲に立設されたコ字状壁部11dが含まれる。コ字状壁部11dは、ピボット軸4aの軸方向から見て(軸方向視で)、前方へ開放したコの字型をなし、弧状壁部11aの後縁と連続して形成される。つまり、本実施形態の弧状壁部11aは、円筒部15の後方において分離されており、この分離された部分にコ字状壁部11dが形成される。
【0030】
なお、本実施形態のキャップ1は、底部10の第一領域10aと第三領域10cとを部分的に区画するように立設された仕切壁16を有する。仕切壁16の両縁部と側壁11との間には、第一領域10aと第三領域10cとを連通する隙間が設けられる。本実施形態の仕切壁16は、仮想円20に沿った円弧状に形成され、弧状壁部11aと略同一の半径を持つ。すなわち、仕切壁16は、弧状壁部11aの分離された部分を補うように配置される。
【0031】
排水部12は、底部10で受けた水を前方へと排水する部分であり、各排水口12aは水が流れ出る開口である。本実施形態の排水口12aは、図4中に二点鎖線で囲んで模様をつけて示すように、その外側が離隔壁部11bの前縁部で区画され、その内側がこれと対向する第一リブ13の前側の縁部13eとで区画される。二つの排水口12aは第一リブ13によって区分形成されるため、各排水口12aは左右方向においてピボット軸4aから外側にずれて配置される。さらに、本実施形態のキャップ1は、排水部12が前方に向かってラッパ状に広がっているため、二つの排水口12aが互いに左右方向外側により離れた位置とされ、キャップ1を前方から見たときに、排水口12aとピボット軸4aとが重ならない。これにより、排水位置がピボット軸4aからより離れた位置となるので、排水口12aから排水される水がワイパリンク機構4(ピボット軸4a,軸受4b,レバー4c等)にかかりにくくなる。
【0032】
図5に示すように、第一リブ13は軸方向視で略三角形状をなし、底部10で受けた水を二つの排水口12aに分離させる機能と、ピボット孔3hからキャップ1へ勢いよく流下した水の流れを減衰させる機能とを併せ持つ。なお、第一リブ13は、ピボット孔3hから侵入した枯葉がデッキ空間8へと落下しないよう堰き止める機能も有する。第一リブ13は、軸方向視で、左右両側の弧状壁部11aの各前縁部の接線21(図5中の二点鎖線)の方向に対して交差する方向に立設された二つの減衰壁13Aを有する。二つの減衰壁13Aは、軸心Cを通って前後方向に延びる直線L(図5中の一点鎖線)を中心線にして左右対称に形成される。減衰壁13Aは、第一リブ13の上記した機能を発揮する部位である。なお、第一リブ13が、減衰壁13Aを補強する補強壁(図示略)を有していてもよい。
【0033】
本実施形態の第一リブ13は、軸方向視で屈曲又は湾曲した二つの減衰壁13Aを有する。減衰壁13Aは、弧状壁部11aに沿って斜め前方へ流れてきた水の勢いを減衰するように、流れの下流側に向かって凹んだ形状とされている。具体的には、接線21の方向で弧状壁部11aの各前縁部と反対側、すなわち弧状壁部11aの各前縁部から離れる方向へ凹んだ凹状とされている。
【0034】
本実施形態の減衰壁13Aは、底部10(第二領域10b)の前縁部に沿って左右方向に延在する横壁部13fと、仮想円20と重なるように前後方向に延在する縦壁部13rと、横壁部13fの内縁と縦壁部13rの前縁とを繋ぎ、接線21に略直交して延在する傾斜壁部13cとによって凹状に構成される。つまり、減衰壁13Aは、軸方向視で、傾斜壁部13cの両側から横壁部13fと縦壁部13rとをそれぞれ左右方向と前後方向とに延設させることで、流れの下流側に向かって凹状に屈曲した形状(凹部)とされている。なお、本実施形態では、減衰壁13Aが屈曲した凹状とされているが、流れの下流側に向かって湾曲した凹状に形成されていてもよい。
【0035】
また、第一リブ13は、前方の縁部13e(横壁部13fの外縁)が、弧状壁部11aの各前縁部よりも外側寄りに配置される。すなわち、第一リブ13の前側の縁部13eの方が、絞り部11cよりも左右方向において軸心Cから離隔して配置される。本実施形態のキャップ1は、絞り部11cと第一リブ13の横壁部13fとが前後方向において左右方向長さXだけオーバーラップしている。
【0036】
第二リブ14は、底部10の下面を伝う水を切る機能を持ち、図3図4及び図6に示すように、底部10(第二領域10b)の前縁部に沿って左右方向に延設される。なお、本実施形態のキャップ1は、図5に示すように、ピボット軸4aの軸心Cを通って前後方向に延びる直線Lに対し左右対称形状である。つまり、上述した排水口12a及び減衰壁13Aはそれぞれ左右対称に一対で設けられる。
【0037】
[2.作用,効果]
ルーフやフロントガラス2に降った雨水や洗車による洗浄液等の水は、図3中に破線の矢印で示すように、デッキガーニッシュ3のピボット孔3hから下方へ流下し、キャップ1に受け止められる。水の勢いが強い場合(水の量が多い場合や流れが速い場合)には、その水は、図5中に二点鎖線で示すピボット孔3hから、ピボット孔3hの形状に沿って渦を巻きながらキャップ1へ勢いよく流れ込み、図5中に太破線で示すように、弧状壁部11aに沿って流れる。この水は、接線21の方向に対し交差方向に立設された減衰壁13Aに衝突し、その勢いが減衰されたのち、各排水口12aから排水される。
【0038】
一方、水の勢いが比較的弱い場合(水の量が少ない場合や流れが遅い場合)には、その水は、ピボット孔3hからキャップ1へ静かに流下し、図5中に細破線で示すように、ほぼ直線状に前方へ向かって流れる。二つの排水口12aの間には第一リブ13が立設されているため、この水は、第一リブ13によってさらに勢いが減衰されたのち、両側の排水口12aへと分けられ、各排水口12aから排水される。
【0039】
(1)つまり、上述したキャップ1によれば、水の勢いが強い場合には第一リブ13によってその勢いを確実に減衰したのち、ピボット軸4aから離れた位置に形成された二つの排水口12aから水を排水することができるため、図3中に破線の矢印で示すように、排水された水がその先のデッキ部7のパネル等に勢いよく衝突して跳ねること(すなわち跳ね水の発生)を抑制できる。また、水の勢いが比較的弱い場合には、ピボット軸4aから離れた位置に形成された二つの排水口12aから水を排水することができる。
【0040】
したがって、上述したキャップ1及びこれを用いた排水構造によれば、水の勢いにかかわらず、ワイパリンク機構4の被水をより確実に防止することができる。また、キャップ1の形状を工夫することでワイパリンク機構4の被水を防止することができるため、ピボット軸4aの位置を後方に移動させたり、デッキ空間8を広くとったりする必要がない。このため、ワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間8のコンパクト化(省スペース化)との両立を図ることができる。
【0041】
(2)上述したキャップ1の第一リブ13は、接線21の方向で弧状壁部11aの前縁部から離れる方向に凹んだ減衰壁13Aを有するため、減衰壁13Aに衝突したときの水の跳ね返りを抑制しつつ水の勢いをより確実に減衰することができる。これにより、跳ね水の発生をより抑制できるため、ワイパリンク機構4の被水をより防止することができる。
(3)また、減衰壁13Aが、横壁部13f及び縦壁部13rと、これらを繋ぎ接線21の方向に対して直交して延在する傾斜壁部13cとから凹状に形成されているため、弧状壁部11aに沿って流れる水の勢いを確実に減衰でき、跳ね水の発生をより効果的に抑制できる。
【0042】
(4)また、第一リブ13は、その後端部13rが弧状壁部11aの半径で描かれる仮想円20と重なるように設けられるため、弧状壁部11aに沿って流れる水が減衰壁13Aに衝突しやすくなる。これにより、水の勢いが強い場合に、その水の勢いをより確実に減衰させることができるため、跳ね水の発生をより抑制でき、ワイパリンク機構4の被水をより確実に防止することができる。
【0043】
(5)上述したキャップ1の側壁11には離隔壁部11bが設けられているため、排水口12aの位置をピボット軸4aからより離すことができる。このため、ワイパリンク機構4の被水をより確実に防止することができる。
(6)また、上述したキャップ1では、第一リブ13の前側の縁部13eが、弧状壁部11aの各前縁部よりも外側寄りに配置されている。これにより、水の勢いが弱い場合でも、流れてきた水が必ず第一リブ13に当たり減衰されたのち、第一リブ13に沿わせてピボット軸4aから離れた位置に静かに排水できる。このため、ワイパリンク機構4の被水をより確実に防止することができる。
【0044】
(7)上述したキャップ1には水切り用の第二リブ14が設けられており、排水口12aから排水される水が第二リブ14によって確実に下方へ落とされるため、水の勢いが弱い場合に、排水された水が排水口12aの下縁である底部10の前縁部から底部10の下面側へ伝わることを確実に遮断できる。このため、伝い水がワイパリンク機構4側へ流れることを防止でき、ワイパリンク機構4の被水を防止することができる。
(8)また、上述したキャップ1は左右対称形状であることから、ピボット孔3hからキャップ1内に流れ込む水の流れ方向が右回りであっても左回りであっても、同じように水の勢いを減衰することができる。また、左右対称形状のキャップ1であれば、右ハンドル車だけでなく、左ハンドル車にも適用することができる。
【0045】
[3.その他]
上述したキャップ1の構造は一例であって、上述したものに限られない。例えば、上記のキャップ1から第三領域10cを省略し、仕切壁16の位置に、二つの弧状壁部11aの後縁部同士を繋ぐ側壁11の一部が形成されていてもよい。少なくとも側壁11には、底部10の外周縁部における幅方向の両側縁部に立設されるとともにその前縁部が互いに接近するように延設された二つの弧状壁部11aが設けられていればよく、弧状壁部11aがピボット軸4aを中心とした円弧形状でなくてもよいし、離隔壁部11bやコ字状壁部11dを省略してもよい。また、水切り用の第二リブ14を省略してもよいし、キャップ1が左右対称形状でなくてもよい。
【0046】
第一リブ13には、軸方向視で、弧状壁部11aの各前縁部の接線21の方向に対して交差する方向に立設された二つの減衰壁13Aが設けられていればよく、その形状や配置は上述したものに限られない。例えば、第一リブ13がキャップ1の左右方向中央(直線L上)に配置されていなくてもよいし、絞り部11cと第一リブ13の横壁部13fとが前後方向においてオーバーラップしていなくてもよい。また、上記の減衰壁13Aは軸方向視で屈曲した形状となっているが、軸方向視で湾曲した形状であってもよい。なお、減衰壁13Aが軸方向視で直線状であってもよい。また、減衰壁13Aの縦壁部13rが仮想円20と重ならない位置(例えば仮想円20に接する位置)に配置されていてもよい。
【0047】
上述した実施形態では、キャップ1が右ハンドル車の中間部のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられる場合を例示したが、キャップ1は、右ハンドル車の右端側(運転席側)のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられてもよい。また、左ハンドル車の左端側(運転性側)及び中間部(助手席側)のピボット軸の周囲を囲むように設けられてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 キャップ(被水防止キャップ)
2 フロントガラス
3 デッキガーニッシュ
3h ピボット孔
4 ワイパリンク機構
4a ピボット軸
9 被水防止キャップ
10 底部
11 側壁
11a 弧状壁部
11b 離隔壁部
12 排水部
12a 排水口
13 第一リブ
13A 減衰壁
13c 傾斜壁部
13f 横壁部
13e 前側の縁部
13r 縦壁部
14 第二リブ
16 仕切壁
20 仮想円
21 接線
C ピボット軸の軸心
図1
図2
図3
図4
図5
図6