IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧 ▶ 三菱自動車エンジニアリング株式会社の特許一覧

特許7077560被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造
<>
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図1
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図2
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図3
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図4
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図5
  • 特許-被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】被水防止キャップ及びこれを用いた排水構造
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/04 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
B60S1/04 730
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017185020
(22)【出願日】2017-09-26
(65)【公開番号】P2019059331
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】生田 實
(72)【発明者】
【氏名】稲村 俊樹
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-193570(JP,A)
【文献】特開2016-215894(JP,A)
【文献】特開2006-290300(JP,A)
【文献】実開昭55-106154(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0173846(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/04 - 1/44
B60S 1/56 - 1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに貫設されたピボット孔から流下する水を受ける容器形状に形成され、前記ピボット孔の下方において前記ピボット孔に挿通されるピボット軸の周囲を囲むように前記車両に取り付けられ、前記車両に取り付けられた状態における前記車両の前後方向及び左右方向を基準として形状が規定され被水防止キャップであって、
前記ピボット軸の周囲設けられ、前記水を受ける底部と、
前記底部の外周縁部の車両前後方向の前縁部を除いて前記外周縁部に沿って立設され、車両前方が開放した状態で前記底部の周囲を囲む側壁と、
前記底部の前記前縁部と前記側壁とで区画され、前記底部で受けた水を排水する排水部と、
前記底部の前記前縁部から下方へ延設され、前記ピボット軸と並んで配置される第一縦壁部と、
前記底部の下面から下方へ延設されるとともに前記第一縦壁部と前記ピボット軸との間に配置される第二縦壁部と、を備え、
前記第一縦壁部の下端部は、鉛直方向において前記ピボット軸を含むワイパリンク機構の下端部よりも下方に位置し、
前記第二縦壁部の下端部は、鉛直方向において前記第一縦壁部の下端部より下方に位置する
ことを特徴とする、被水防止キャップ。
【請求項2】
前記第一縦壁部には、前記第一縦壁部の延設方向に沿う両側縁部に前方に向かって立設された側縁リブが前記側壁と連続して形成されている
ことを特徴とする、請求項1記載の被水防止キャップ。
【請求項3】
前記第二縦壁部の横幅は、前記第一縦壁部の横幅よりも大きい
ことを特徴とする、請求項2記載の被水防止キャップ。
【請求項4】
前記第二縦壁部は、前記ピボット軸の軸方向と平行に延設されている
ことを特徴とする、請求項3記載の被水防止キャップ。
【請求項5】
前記底部には、前記ピボット孔の直下に位置して流下水を直接的に受ける第一領域と、前記第一領域の前方で前記第一領域で受けた水を前記排水部へと案内する第二領域とが設けられ、
前記第二領域の方が前記第一領域よりも水平方向に対する傾斜角が大き
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の被水防止キャップ。
【請求項6】
前記底部は、前記第二領域の幅方向寸法が前方に行くほど小さくなるように形成されている
ことを特徴とする、請求項5記載の被水防止キャップ。
【請求項7】
前記第二領域に立設される前記側壁は、前方に行くほど高さ寸法が大きくなるように形成されている
ことを特徴とする、請求項5又は6記載の被水防止キャップ。
【請求項8】
前記底部から立設され、前記底部における前記水の流れを減衰する突出リブを備えた
ことを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載の被水防止キャップ。
【請求項9】
車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに向かって流れる水を受けて車外へ排水する排水構造であって、
前記デッキガーニッシュに貫設されたピボット孔と、
前記車両に取り付けられ、前記ピボット孔の下方において、前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように設けられた請求項1~8のいずれか1項に記載の被水防止キャップと、を備えた
ことを特徴とする、排水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のデッキ部内(デッキ空間)に内蔵されたワイパリンク機構への被水を防止するための被水防止キャップと、この被水防止キャップを用いた排水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のフロントワイパ装置のワイパリンク機構は、車室内空間とエンジンルームとを隔壁する空間(いわゆるデッキ空間)に内蔵される。ワイパリンク機構の上方には、フロントガラスの前端部に取り付けられたデッキガーニッシュが配置され、このデッキガーニッシュによってデッキ空間が閉鎖される。デッキガーニッシュには、ワイパリンク機構のピボット軸が挿通されるピボット孔が穿設されており、このピボット孔から上方へ突出したピボット軸の先端に、ワイパアームが固定される。
【0003】
ワイパアームの先端にはガラス面を拭くワイパブレードが固定されているが、ガラス面の拭きエリアを拡大するためには、ピボット軸の位置はできるだけ前側であることが好ましい。一方で、所定の広さのエンジンルームを確保しつつ車室内空間を広くするためには、デッキ空間の省スペース化が重要である。つまり、デッキ空間の省スペース化を図りつつ、ピボット軸をできるだけ前側に配置するという、拭きエリアの拡大と広い車室内空間の確保との両立が求められる。
【0004】
ところで、ルーフ面やガラス面に降った雨水や洗浄水等の水は、デッキガーニッシュに向かって流れ、ピボット孔からデッキ空間内を通って車外へと排水される。このとき、ピボット孔を流下する水がワイパリンク機構に付着しないように、ピボット軸に対してワイパリンク機構の被水を防止するためのキャップが固定される(例えば特許文献1)。このキャップは、ピボット孔から流下する水を受けたのち、デッキ空間へと排水するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5804276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キャップからデッキ空間へと排水される水の勢いが強い場合には、排水された水がその先のボディパネル等に衝突して跳ね、その跳ね水がワイパリンク機構にかかるおそれがある。特にワイパの拭きエリアを広く取るためにピボット軸の位置を車両前方側へ配置すると、デッキ空間を形成するパネル(デッキ部のパネル)との隙間が小さくなるため、跳ね返りによる被水がより起こりやすくなる。なお、デッキ空間を広くしてパネルとの距離をとることで跳ね水によるワイパリンク機構の被水を回避することもできるが、車室内空間やエンジンルームが狭くなるという別の課題が生じる。つまり、ワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化(省スペース化)との両立は難く、改善の余地があった。
【0007】
さらに、キャップからデッキ空間へと排水される水の勢いが弱い場合には、キャップで受けた水は、ボディパネル等に衝突せずに下方へと滴下する可能性が高い。そのため、跳ね水による被水のおそれは少ないが、キャップの排水口の位置がピボット軸に近いと、車両の振動や傾斜等によって、滴下した水がワイパリンク機構に直接的にかかるおそれがある。
【0008】
本件の被水防止キャップ及び排水構造は、このような課題に鑑み案出されたもので、排水される水の勢いにかかわらずワイパリンク機構の被水を確実に防止してワイパ拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化との両立を図ることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)ここで開示する被水防止キャップは、車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに貫設されたピボット孔から流下する水を受ける容器形状に形成され、前記ピボット孔の下方において前記ピボット孔に挿通されるピボット軸の周囲を囲むように前記車両に取り付けられ、前記車両に取り付けられた状態における前記車両の前後方向及び左右方向を基準として形状が規定され被水防止キャップである。この被水防止キャップは、前記ピボット軸の周囲設けられ、前記水を受ける底部と、前記底部の外周縁部の車両前後方向の前縁部を除いて前記外周縁部に沿って立設され、車両前方が開放した状態で前記底部の周囲を囲む側壁と、前記底部の前記前縁部と前記側壁とで区画され、前記底部で受けた水を排水する排水部と、前記底部の前記前縁部から下方へ延設され、前記ピボット軸と並んで配置される第一縦壁部と、前記底部の下面から下方へ延設されるとともに前記第一縦壁部と前記ピボット軸との間に配置される第二縦壁部と、を備える。また、前記第一縦壁部の下端部は、鉛直方向において前記ピボット軸を含むワイパリンク機構の下端部よりも下方に位置する。前記第二縦壁部の下端部は、鉛直方向において前記第一縦壁部の下端部より下方に位置する。
【0010】
(2)前記第一縦壁部には、前記第一縦壁部の延設方向に沿う両側縁部に前方に向かって立設された側縁リブが前記側壁と連続して形成されていることが好ましい。
(3)前記第二縦壁部の横幅は、前記第一縦壁部の横幅よりも大きいことが好ましい。
【0011】
(4)前記第二縦壁部は、前記ピボット軸の軸方向と平行に延設されていることが好ましい。
(5)前記底部は、前記ピボット孔の直下に位置して流下水を直接的に受ける第一領域と、前記第一領域の前方で前記第一領域で受けた水を前記排水部へと案内する第二領域とが設けられ、前記第二領域の方が前記第一領域よりも水平方向に対する傾斜角が大きことが好ましい。
(6)また、前記第二領域の幅方向寸法が前方に行くほど小さくなるように形成されていることが好ましい。
【0012】
)前記第二領域に立設される前記側壁は、前方に行くほど高さ寸法が大きくなるように形成されていることが好ましい。
)前記被水防止キャップは、前記底部から立設され、前記底部における前記水の流れを減衰する突出リブを備えていることが好ましい。
【0013】
)ここで開示する排水構造は、車両のフロントガラスの前端部に取り付けられるデッキガーニッシュに向かって流れる水を受けて車外へ排水する排水構造であって、前記デッキガーニッシュに貫設されたピボット孔と、前記車両に取り付けられ、前記ピボット孔の下方において、前記ピボット孔に挿通されるワイパリンク機構のピボット軸の周囲を囲むように設けられた上記(1)~()のいずれか一つに記載の被水防止キャップと、を備えている。
【発明の効果】
【0014】
開示の被水防止キャップ及び排水構造によれば、排水される水の勢いにかかわらずワイパリンク機構の被水を確実に防止することができ、ワイパ装置の拭きエリアの拡大とデッキ空間のコンパクト化(省スペース化)とを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る排水構造を備えた車両のフロントガラス及びワイパリンク機構の周辺構造を示す模式的な斜視図である。
図2図1のA部拡大図(デッキガーニッシュを透視した図)である。
図3】実施形態に係る被水防止キャップが固定されるピボット軸の中心を通る前後方向断面で切断した縦断面図である。
図4】実施形態に係る被水防止キャップの模式的な平面図である。
図5】実施形態に係る被水防止キャップの模式的な斜視図である。
図6】実施形態に係る被水防止キャップを水平方向に切断した模式的な断面図であり、ワイパリンク機構を透過させて示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照して、実施形態としての被水防止キャップ及び排水構造について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。以下の説明では、車両の進行方向を前方(車両前方)、逆側を後方(車両後方)とし、前方を基準に左右を定める。また、重力の方向を下方とし、その逆を上方として説明する。
【0017】
[1.構成]
図1に示すように、車両のフロントガラス2の前方にはデッキガーニッシュ3が設けられており、デッキガーニッシュ3の上部からフロントワイパ装置の二つのワイパアーム5Aが伸びている。デッキガーニッシュ3は、図2及び図3に示すように、フロントガラス2の前端部に取り付けられるとともに、フロントガラス2を支持するデッキ部7(図1参照)の上方を覆うように設けられている。デッキ部7の内部のデッキ空間8には、ワイパアーム5Aを駆動する駆動用モータ(図示略)とワイパリンク機構4とが配置されており、デッキガーニッシュ3には、ワイパリンク機構4のピボット軸4aが挿通可能に貫設されたピボット孔3hが形成されている。そして、このピボット孔3hの下方においてピボット軸4aの周囲を囲むように被水防止キャップ1が設けられている。
【0018】
被水防止キャップ1は、ピボット軸4aを含むワイパリンク機構4の被水を防止するための部品である。本実施形態の被水防止キャップ1は、デッキガーニッシュ3に貫設されたピボット孔3hから流下する水を受けるとともに、その水をデッキ空間8(排水先の空間)の前方へと排水する容器状の部品である。また、本実施形態の排水構造は、ピボット孔3h及び被水防止キャップ1を備える。
【0019】
ルーフやフロントガラス2に降った雨水や洗車による洗浄液等の水は、図3中に破線の矢印で示すように、フロントガラス2の上面(ガラス面)からデッキガーニッシュ3の後端部3rの上面を伝って流れ、ピボット孔3hからデッキガーニッシュ3の下方へ流れる。そのため、ピボット孔3hの下方には、ワイパリンク機構4の被水を防止するために、ピボット孔3hと上下方向で重なるように被水防止キャップ1がピボット軸4aの周囲を囲むように設けられている。
【0020】
本実施形態では、右ハンドル車に設けられるフロントワイパ装置を例示する。すなわち、図1及び図2に示すように、フロントガラス2の前方における右端側(運転席側)及び中間部(助手席側)にワイパリンク機構4のピボット軸4a(図3参照)が設けられ、二つのワイパアーム5Aが各ピボット軸4aを中心としてピボット軸4aと共に回動することで、各ワイパブレード5Bがフロントガラス2の上面を拭く。
【0021】
なお、図2は、図1のA部拡大図であり、デッキガーニッシュ3を透視して示す。本実施形態の車両では、形状の異なる二つの被水防止キャップ1,9がそれぞれピボット孔3hの下方でピボット軸4aの軸受4b(図3参照)に固定されている。なお、ピボット軸4aは軸受4bに対して回動可能である。いずれの被水防止キャップ1,9も、ピボット孔3hから流下する水を受けるとともにその水を排水する機能と、ワイパリンク機構4の被水を防止する機能とを併せ持つ。以下、右端側(運転席側)のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられる被水防止キャップ1について詳述する。なお、本実施形態では右ハンドル車を例示しているが、左ハンドル車の左端側(運転席側)のピボット軸に対して、被水防止キャップ1を適用してもよい。
【0022】
本実施形態の被水防止キャップ1(以下「キャップ1」という)は、図3及び図4に示すように、ピボット軸4aの周囲に延在してピボット孔3hから流下する水を受ける底部10と、底部10の外周縁部の前縁部を除いて外周縁部に沿って立設されて前方が開放した状態で底部10の周囲を囲む側壁11とを有する容器形状に形成される。また、キャップ1は、底部10の外周縁部の前縁部において側壁11間に設けられて前方に開放した排水口12(図2中の模様部分)と、底部10の前縁部(排水口12の下縁)から下方へ延設された第一縦壁部13とを有する。さらに、本実施形態のキャップ1は、底部10の下面から下方へ延設された第二縦壁部14と、底部10の上面に立設された突出リブ16と、底部10の上面の略中央部に立設されてピボット軸4aの軸受4bが内嵌される円筒部15とを有する。
【0023】
図3に示すように、キャップ1は、底部10が前方へ下降傾斜する姿勢でピボット軸4aの周囲を囲むように取り付けられる。底部10には、円筒部15が形成された第一領域10aと、第一領域10aよりも前方に延在する第二領域10bとが設けられる。第一領域10aは、ピボット孔3hの直下に位置し、流下する水を直接的に受ける領域である。一方、第二領域10bは、第一領域10aで受けた水を底部10(第二領域10b)前縁部にある排水口12へと案内する領域である。なお、第一領域10aは、ピボット孔3hの外形よりも大きな外形とされ、ピボット孔3hから流れ込む水を受け止めるのに十分な大きさを有している。
【0024】
本実施形態の底部10は、図4及び図5に示すように、第一領域10aが中心に円筒部15を有する略環状に形成され、第二領域10bが前方に延びる略台形状に形成される。第一領域10aと第二領域10bとの境界部は左右方向に延びる直線状とされ、第二領域10aの横幅(左右方向の寸法)は前方に行くほど小さくなるように形成される。また、図3に示すように、底部10は前方へ下降傾斜するように設けられるが、第二領域10bの方が第一領域10aよりも水平方向に対する傾斜角が大きくなるように形成される。
【0025】
図4及び図5に示すように、本実施形態の側壁11は、底部10の外周縁部の前縁部を除いて当該外周縁部に沿って設けられており、前方のみが開放した形状をなしている。側壁11は、第一領域10aの外周縁部に沿って立設された部位(以下「第一側壁部11a」という)と、第二領域10bの左右両側縁部に沿って立設された部位(以下「第二側壁部11b」という)とから構成される。本実施形態の第一側壁部11aは、ピボット軸4aの軸方向から見て(軸方向視で)、ピボット軸4aの軸心C(円筒部15の中心軸)を中心とした円弧状に形成されるとともに、その前方側が互いに接近するように内側に向かって傾斜して設けられる。なお、ここでいう「内側」とは、左右方向において、ピボット軸4a側(中心側)を意味する。同様に、左右方向において、ピボット軸4aから離れた側を「外側」という。
【0026】
本実施形態の二つの第二側壁部11bは、第一側壁部11aの前縁と連続して形成されるとともに、第一側壁部11aの前縁部から前方に行くほど互いに接近するように形成される。また、第二側壁部11bは、図5に示すように、第一側壁部11aよりも高さ寸法(軸方向の寸法)が大きく形成される。本実施形態では、第二側壁部11bが、第一側壁部11aの上縁部と同等の高さ位置まで立設されており、底部10(第二領域10b)の傾斜に合わせて前方に行くほど高さ寸法(軸方向の寸法)が大きくなるよう形成されている。
排水口12は、底部10で受けた水を前方へと排水する開口であり、底部10の第二領域10bの前縁部と両側の第二側壁部11bとで区画される。
【0027】
第一縦壁部13は、底部10で受けた水の勢いが強い場合に、デッキ空間8を形成するデッキ部7のパネル等に衝突して跳ねた水がワイパリンク機構4にかからないように遮断する機能と、水の勢いが弱い場合に、その水を排水口12から下方へと案内して静かに排水する機能とを併せ持つ。第一縦壁部13は、板状を成し、底部10の前縁部である第二領域10bの前縁部、すなわち排水口12の下縁から下方へ向かって延設されてピボット軸4aの前方に配置される。第一縦壁部13は、底部10の第二領域10bの前縁と連続して形成され、図3に示すように、ピボット軸4aの軸方向と平行に延設される。すなわち、第一縦壁部13は、キャップ1の固定状態で上方が前側に傾斜した前傾姿勢でピボット軸4aと前後方向に並ぶように配置される。また、第一縦壁部13は、デッキ部7のパネル(下面)との間に水を流すための隙間Sを形成する。
【0028】
第一縦壁部13の下端部は、鉛直方向においてワイパリンク機構4の下端部よりも下方に位置する。なお、図3中に示す一点鎖線Bは、ワイパリンク機構4の下端部を通り水平方向に延びる直線である。第一縦壁部13はこの一点鎖線Bよりも下方まで延設される。本実施形態の第一縦壁部13は、図4及び図5に示すように、上下方向に沿う両側縁部に前方に向かって立設された側縁リブ13aが形成されており、水平方向の断面形状が前方に開放したコの字形とされている。この側縁リブ13aは、側壁11(第二側壁部11b)と連続して形成されている。なお、第一縦壁部13は、下方に行くほど横幅(左右方向の寸法)が僅かに小さくなるように両側縁部が傾斜している。
【0029】
第二縦壁部14は、第一縦壁部13で遮断しきれなかった跳ね水があったとしても、その跳ね水を遮断してワイパリンク機構4の被水を確実に防止する機能を持つ。図3図5及び図6に示すように、第二縦壁部14は、底部10の下面(裏側)からワイパリンク機構4の下端部よりも下方へ延設されて第一縦壁部13とピボット軸4aとの間に配置されている。第二縦壁部14は、ピボット軸4aの軸方向と平行に延設される。すなわち、本実施形態のキャップ1は、第一縦壁部13と第二縦壁部14とが略平行に前後に並んで設けられる。また、第二縦壁部14の横幅(左右方向の寸法)は、第一縦壁部13の横幅(左右方向の寸法)よりも大きく幅広に形成され、第二縦壁部14の長さ(上下方向の寸法)も、第一縦壁部13の長さ(上下方向の寸法)よりも長く形成される。なお、第二縦壁部14の下縁部は、第一縦壁部13の下縁部より下方に位置される。さらに、本実施形態の第二縦壁部14は、図6に示すように、左右方向の中間部で僅かに湾曲形成されており、その剛性が高められている。
【0030】
突出リブ16は、図3図5に示すように、底部10における水の流れを減衰する機能と、ピボット孔3hから侵入した枯葉がデッキ空間8へと落下しないよう堰き止める機能とを持つ。本実施形態のキャップ1は、第一領域10aと第二領域10bとの境界部に左右方向に間隔をあけて並設された二つの突出リブ16を有する。また、本実施形態のキャップ1は、図4に示すように、ピボット軸4aの軸心Cを通って前後方向に延びる直線L(図中一点鎖線)に対し左右対称形状である。
【0031】
[2.作用,効果]
ルーフやフロントガラス2に降った雨水や洗浄液等の水は、図3中に破線の矢印で示すように、デッキガーニッシュ3のピボット孔3hから下方へ流下し、キャップ1に受け止められる。水の勢いが強い場合(水の量が多い場合や流れが速い場合)には、その水は、図4中に二点鎖線で示すピボット孔3hからキャップ1へ勢いよく流れ込み、第一領域10aから第二領域10bへと流れていく。
【0032】
このとき、一部の水は減衰用の突出リブ16に衝突し、その勢いが吸収されて減衰したのち、排水口12から排水される。一方、突出リブ16に衝突しなかった水は、その勢いが減衰されることなく排水口12から排水され、図3及び図6中に破線の矢印で示すように、デッキ部7のパネルに衝突して跳ね水となる。この跳ね水は第一縦壁部13によって概ね遮られ、第一縦壁部13の側方を抜けた跳ね水が存在しても、その跳ね水は第二縦壁部14によって遮られるため、ワイパリンク機構4(ピボット軸4a,軸受4b,レバー4c等)の被水を防止する。
【0033】
また、水の勢いが弱い場合(水の量が少ない場合や流れが遅い場合)には、その水は、ピボット孔3hからキャップ1へ静かに流下し、ほぼ直線状に前方へ向かって流れる。この水は、底部10の第二領域10bの傾斜に沿って前方へ流れ、排水口12から排水されたのち、第一縦壁部13に沿って静かに流下する。なお、第一領域10aから第二領域10bに向かう水の一部は突出リブ16に当たり、さらにその勢いが減衰されたのち前方へと流れて排水される。
【0034】
(1)つまり、第一縦壁部13を有する上述したキャップ1によれば、底部10で受けた水の勢いが強い場合には、デッキ部7のパネルに当たって跳ね返った水を第一縦壁部13により遮断することができるため、ワイパリンク機構4の被水を防止することができる。反対に、水の勢いが弱い場合には、その水を第一縦壁部13に伝わせて静かに排水することができるため、ワイパリンク機構4の被水を防止することができる。
【0035】
したがって、上述したキャップ1及びこれを用いた排水構造によれば、水の勢いにかかわらずワイパリンク機構4の被水を確実に防止することができる。また、キャップ1の形状を工夫することで被水を防止できるため、ピボット軸4aの位置を後方に移動させたりデッキ空間8を拡大したりする必要がない。つまり、ワイパ装置の拭きエリアの拡大とデッキ空間8のコンパクト化(省スペース化)とを両立することができる。
【0036】
(2)上述した第一縦壁部13は、その両側縁部に設けられた側縁リブ13aによりコ字状の断面形状を有することから、排水方向をよりコントロールすることができ、跳ね水の発生をより抑制することができる。また、デッキ部7のパネルで跳ね返った水を側縁リブ13aでも受けることができるため、ワイパリンク機構4の被水を確実に防止することができる。
(3)また、キャップ1には、第一縦壁部13に加えて第二縦壁部14が設けられている。すなわち、跳ね水の遮断壁が二重に配置されているため、跳ね水をより確実に遮ることができ、ワイパリンク機構4の被水をより確実に回避することができる。
【0037】
(4)上述した第二縦壁部14は、その横幅が第一縦壁部13の横幅よりも大きいことから、第一縦壁部13の側方を抜けた跳ね水が存在する場合であっても、その跳ね水を第二縦壁部14によって確実に受けることができる。したがって、ワイパリンク機構4の被水をより確実に回避することができる。
【0038】
(5)また、上述した第二縦壁部14はピボット軸4aの軸方向と平行に延設されていることから、第二縦壁部14の全体をピボット軸4aに対してより近い位置に配置することができ、跳ね水がワイパリンク機構4に当たりにくくなる。なお、キャップ1を型成形する場合には、第二縦壁部14をピボット軸4aと平行にすることで主型の抜き方向が一致するため、スライド型を追加することなく主型で成形することができる。
【0039】
(6)上述したキャップ1によれば、底部10の第一領域10aで受けた水を、第二領域10bを伝って排水口12へとスムーズに流すことができるため、跳ね水の発生を抑制できる。
(7)また、上述したキャップ1では、底部10の第二領域10bの幅寸法が前方に行くほど小さくなるように形成されている。すなわち、水の流れを案内する第二領域10bが下流側に向かって先細形状となっているため、排水方向をコントロールすることができ、跳ね水の発生を抑制することができる。
【0040】
(8)上述したキャップ1は、第二領域10bの方が第一領域10aよりも水平方向に対する傾斜角が大きいが、第二側壁部11bが前方に行くほど高さ寸法が大きくなるように形成されており、第二側壁部11bの方が第一側壁部11aよりも高さ寸法が大きい。このため、キャップ1の側壁11の上縁部の高さ位置は第一領域10aと第二領域10bとでそれほど変わらない。これにより、より多くの水が集まる第二領域10bにおいて、水が側壁11を超えてキャップ1から溢れることがなく、確実に排水口12から排水することができる。
【0041】
(9)上述したキャップ1には水流を減衰するための突出リブ16が設けられているため、水の勢いを弱めることができ、跳ね水の発生を抑制することができる。
(10)なお、運転席側のピボット軸4aは車両の端部に配置されることから、ピボット軸4aの周辺における左右方向のスペースは、助手席側よりも運転席側の方が狭い。これに対し、本実施形態のキャップ1は、第二領域10bの幅方向寸法が前方に行くほど小さくなるように形成されており、さらに、第一縦壁部13の幅方向寸法が下方に行くほど小さくなるように形成されている。つまり、キャップ1の幅方向寸法が排水側に行くほど小さくなっているため、左右方向のスペースが狭い運転席側のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられる被水防止キャップとして、本実施形態のキャップ1は好適である。
【0042】
[3.その他]
上述したキャップ1の構造は一例であって、上述したものに限られない。例えば、第一縦壁部13がピボット軸4aの軸方向と平行ではなく、キャップ1の固定状態で鉛直下方に延設されていてもよい。また、第一縦壁部13の両側縁部に側縁リブ13aが形成されていなくてもよい。少なくとも第一縦壁部13は、底部10の前縁部(排水口12の下縁)から下方へ延設されてピボット軸4aと並んで設けられていればよい。
【0043】
また、例えば、第二縦壁部14がピボット軸4aの軸方向と平行ではなく、キャップ1の固定状態で鉛直下方に延設されていてもよい。また、第二縦壁部14が湾曲形成されていなくてもよい。なお、第二縦壁部14を省略してもよい。この場合に、第一縦壁部13のみで跳ね水を遮断できるよう、例えば第一縦壁部13の横幅(左右方向の寸法)を拡大してもよい。また、突出リブ16の位置や個数は上述したものでなくてもよく、突出リブ16を省略してもよい。
【0044】
また、底部10の二つの領域10a,10bの形状は上述したものに限られず、例えば、第二領域10bの横幅(左右方向の寸法)が前後方向において一定であってもよいし、二つの領域10a,10bの境界部が直線状でなくてもよい。また、側壁11の形状も一例であって、第一側壁部11aが円弧状でなくてもよいし、第二側壁部11bの高さ寸法が第一側壁部11aの高さ寸法と同等であってもよい。また、二つの領域10a,10bの傾斜が一定の傾斜であってもよい。なお、キャップ1が左右対称形状でなくてもよい。
【0045】
上述した実施形態では、キャップ1が右ハンドル車の右端側(運転席側)のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられる場合を例示したが、キャップ1は、右ハンドル車の中間部(助手席側)のピボット軸4aの周囲を囲むように設けられてもよい。また、左ハンドル車の左端側(運転席側)及び中間部(助手席側)のピボット軸の周囲を囲むように設けられてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 キャップ(被水防止キャップ)
2 フロントガラス
3 デッキガーニッシュ
3h ピボット孔
4 ワイパリンク機構
4a ピボット軸
9 被水防止キャップ
10 底部
10a 第一領域
10b 第二領域
11 側壁
12 排水口
13 第一縦壁部
13a 側縁リブ
14 第二縦壁部
16 突出リブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6