(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ドレーン杭および液状化対策工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/10 20060101AFI20220524BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20220524BHJP
E02D 27/42 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
E02D3/10 101
E02D27/34 Z
E02D27/42 Z
(21)【出願番号】P 2017240628
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 広和
(72)【発明者】
【氏名】宮田 孝伸
(72)【発明者】
【氏名】瀧ケ崎 光
(72)【発明者】
【氏名】青野 文康
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-024330(JP,A)
【文献】特開2015-166519(JP,A)
【文献】特開2016-211191(JP,A)
【文献】特開2015-206248(JP,A)
【文献】特開平07-018653(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0802168(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/10
E02D 27/34
E02D 27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に立てられる柱の周囲に均等に地盤に埋め込む管状のドレーン杭であって、
閉塞している先細りの先端部と、
側面に複数形成されていて地中の水が流れ込む吸水口と、
前記吸水口が形成されている地中部分よりも径が細く当該地中部分の上端側に連結されて一部が地上に露出するノーズと、
前記ノーズの上端において地上にて開口している排水口と、
前記排水口が形成されている地上部分を覆い隠すカバーとを備え
、
前記カバーは複数の当該ドレーン杭の前記ノーズにかぶさっていて、前記柱を中心にした分割可能な環状となっていることを特徴とするドレーン杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤に埋め込む管状のドレーン杭およびこのドレーン杭を用いた液状化対策工法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市化の進んでいる地区は、人工的に地形を変えた改変地であることが多い。特に、平野部の川や海に近い地区は、水田跡や埋立地などの水を多く含んだ軟弱地盤も広く利用し開発されている。そのため、一部の都市は、地震によって液状化現象が発生する不安を抱えている。液状化現象が発生すると、地表面が沈下すると共に、地盤の上の支持物もその支持力を失って傾斜することがある。
【0003】
液状化現象の被害を受けやすい構造物として、例えば電柱が挙げられる。縦に細長い電柱は、重心も高いため傾斜しやすい。そこで、従来から、軟弱地盤に建柱される電柱には、所定の液状化対策が施されている。
【0004】
従来における電柱の液状化対策としては、根枷工法やグラベルドレーン工法(以下、グラベル工法)などが知られている。根枷工法は、電柱の地盤からの受圧面積を拡大することを目的として、電柱の地表下部に根枷(根かせ)を設置する工法である。根枷は、電柱に対して交差するように取り付けられるコンクリート製や樹脂製の部材であり、地表面から約0.3mの深さにて電柱に専用のU字ボルトで取り付けられる。グラベル工法は、地震発生時に地盤からの排水を促すことを目的として、電柱の根入れ部分の四方に砕石を縦長に埋め込んだ杭状の領域(砕石パイル)を設ける工法である。砕石パイルは、周囲に囲い網が設置され、周囲からの土砂の流入が防がれる。
【0005】
根枷工法やグラベル工法は、いずれも根枷や砕石パイルといった電柱とは別の部材を用いて行われる。その一方で、電柱自体に対策を施す技術として、例えば特許文献1では、柱体1の根入れ部分に中空部2を設ける技術が提案されている。この技術では、柱体1の中空部2やさらにその外側の排水用部材6などを利用し、液状化地盤11に生じた過剰間隙水圧を逸散させて柱体1の転倒等を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の各対策法には、いずれも実施するには考慮しておくべき点がある。まず、根枷工法とグラベル工法においては、広い施工範囲を確保する必要がある。例えば、民地に電柱を建てる場合、景観を阻害したりその土地への出入りに支障をきたしたりしないよう、隣接する他の民地や公道等の官地との境界付近に建てる場合が多い。ところが、土地同士の境界にはブロック塀などが施設されていることも多い。したがって、土地同士の境界付近では、最大で幅1.2mほどにもなる根枷を取り付けたり、電柱の周囲に砕石パイルを設けたりするにあたって、十分な施工範囲が確保できない場合がある。
【0008】
また、作業員が負う労力にも配慮が必要である。根枷工法では、根枷を地表面から約0.3mの深さに設けるために、0.3m+根枷の厚みの分ほど電柱の周囲の地面を余分に掘削する必要がある。グラベル工法では、電柱の周囲に砕石パイルを設けるために、本来の電柱の根入れ範囲よりも広く掘削する必要がある。加えて、根枷はコンクリート製で約70kg、樹脂製で約30kgにもなり、また砕石パイルにも相応の重量がある。したがって、根枷工法もグラベル工法も、掘削作業や運搬作業などの面で、作業員が負う労力は大きく増加する。
【0009】
特許文献1の技術においても、考慮すべき点は存在する。この技術は、地震発生時に柱体1の中空部2や排水用部材6の中に水を逃がす構成となっている。しかし、液状化地盤は地下水位が地表面から約1.0mと浅い。そのため、地震発生前に各部材に既に水が溜まってしまい、地震発生時において十分な液状化抑制効果が発揮できないおそれがある。また、中空部2と排水用部材6とを連絡させるには柱体1に孔を設ける必要があるが、柱体1の鉄筋を傷つけたり、地際付近に設けた孔が載荷時のウィークポイントになったりするなど、柱体1の設計荷重への影響も懸念される。
【0010】
なにより、根枷工法およびグラベル工法は電柱施設時に行う工法であり、特許文献1の技術は柱体自体に施す技術であるため、いずれも既設の電柱に対して実施することはできない。根枷工法およびグラベル工法は、電柱の建入れ直し時に行うことも可能ではあるが、電線等の装柱を外す必要も生じるため相応の工期が必要であり、実施は簡単ではない。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑み、既設の構造物の周囲にも簡単に設置できる液状化の影響を抑制可能なドレーン杭およびこのドレーン杭を用いた液状化対策工法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかるドレーン杭の代表的な構成は、地盤に埋め込む管状のドレーン杭であって、閉塞している先細りの先端部と、側面に複数形成されていて地中の水が流れ込む吸水口と、地上にて開口している排水口と、を備えることを特徴とする。
【0013】
上記ドレーン杭によれば、地震発生時に内部に地中の水を流れ込ませることで、液状化の原因となる地盤中の間隙水圧を早期に消散することが可能になる。したがって、目的の構造物の周辺に埋め込んでおくことで、地震発生時に構造物の沈下や傾斜などの液状化の影響を抑えることが可能になる。また、上記構成によれば、地盤に埋め込むだけの簡単な作業で設置でき、既設の構造物に対しても施工範囲が狭くても実施可能であり、作業員が負う労力も軽くて済むため好適である。
【0014】
当該ドレーン杭は、長手方向に複数の部品に分割可能になっているとよい。この構成によれば、当該ドレーン杭を地盤のより深くまで効率よく埋め込むことが可能になる。
【0015】
当該ドレーン杭はさらに、吸水口が形成されている地中部分よりも径が細く地中部分の上端側に連結されて一部が地上に露出するノーズをさらに備え、排水口は、ノーズに形成されていてもよい。この構成によって、排水を行いつつも、地上部分を小型にして目立たせなくすることができる。
【0016】
当該ドレーン杭はさらに、排水口が形成されている地上部分を覆い隠すカバーを備えてもよい。カバーを備えることで、排水口への異物の浸入防止、見栄えの向上などを図ることが可能になる。
【0017】
当該ドレーン杭はさらに、内側から吸水口を覆う所定のメッシュを備えてもよい。メッシュを備えることで、吸水口への土砂の浸入を防ぐことが可能になる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明にかかる液状化対策工法の代表な構成は、上記のドレーン杭を屋外に建てられる柱に沿えて埋め込むことを特徴とする。上述したドレーン杭における技術的思想に対応する構成要素やその説明は、当該液状化対策工法にも適用可能である。特に、地盤に埋め込むだけの簡単な作業で、既設の構造物に対しても施工範囲が狭くても実施可能であり、作業員が負う労力も軽くて済む。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既設の構造物の周囲にも簡単に設置できる液状化の影響を抑制可能なドレーン杭およびこのドレーン杭を用いた液状化対策工法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係るドレーン杭の概要を示した図である。
【
図3】ドレーン杭のさらなる構造を示した図である。
【
図4】ドレーン杭の打設作業の過程を示した図である。
【
図5】ドレーン杭を用いた液状化対策工法を示した図である。
【
図6】ドレーン杭を用いた液状化対策工法の模型実験の概要と結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(ドレーン杭)
図1は、本発明の実施形態に係るドレーン杭100の概要を示した図である。図中のGLは地表面(Ground Line)を示している。当該ドレーン杭100は、地盤に液状化現象が発生した際に地中の水を逃がす部材であって、構造物の沈下や傾斜を抑えるために使用する。本実施形態では、電柱102の液状化対策として実施する場面を想定し、電柱の周囲に複数のドレーン杭を埋め込んでいる。
【0023】
ドレーン杭100は、直線状の鋼管で形成されていて、電柱102に沿え、かつ電柱102よりも深くまで到達するように地盤へ鉛直に埋め込まれる。先端部104は、地中に差し込みやすいように、閉塞した先細りの形状になっている。先端部104は、円錐状に尖った構成でもよいが、他にも例えばドリルのようにねじれた溝を有する構成とすることもできる。ドリル状の先端部であれば、ねじこむ操作によって地盤に埋めることが可能になる。
【0024】
側面106には、複数の吸水口108が形成されている。吸水口108は、液状化現象が発生したときに地中の水を流れ込ませる孔である。吸水口108は、側面106の外周方向に複数の列を成し、列ごとに側面106の長手方向に等間隔に形成されている。このとき、吸水口108は、例えば隣の列と千鳥状になるように形成することも可能である。また、当該ドレーン杭100は、電柱102の下端よりも地中深くに到達するまで埋め込まれていて、吸水口108も電柱102の下端より深い位置にまで配置されている。
【0025】
排水口110は、当該ドレーン杭100の上端側に設けられている。ドレーン杭100は、排水口110が地上に露出するようにして地盤に埋め込まれる。排水口110が地上で開口していることで、吸水口108に水が流れ込むときの圧力を抜くことができ、また水を地上に溢れ出させて継続的な排水効果を得ることができる。
【0026】
図2を参照して、液状化現象について簡潔に述べる。
図2は、液状化現象の概要を示した図である。液状化現象は、粘土質よりも粒子の大きい砂質の地盤に起る現象である。特に、液状化現象は、川や海に近い埋立地で起こりやすい。このような埋立地では、地下水が多く含まれていて、地下水面114(地下水の圧力と気圧とがつりあう面)も地表面112から浅い位置に存在している。
【0027】
図2中の左図に示すように、地震発生前は、砂粒116同士にはかみ合う力(有効応力)が発生していて、地盤としては安定した状態となっている。しかし、中央図のように、地震発生時において砂粒116がせん断応力をうけると、砂粒116の間隙に存在する水(間隙水118)を押し出す力(間隙水圧)が高くなり、砂粒116の有効応力を弱め、砂粒116間のかみ合いが無くなる。その結果、砂粒116が水に浮いた状態(液状化)になる。このとき、地上への噴砂120や噴水122も発生する。また、地上の重い構造物は沈降し、地下の水道管等の軽い構造物は浮上する。そして、右図のように、地震発生後は、再び砂粒116同士は接触するものの、抜けた間隙水118の分だけ砂粒116は沈下するため、地表面112も沈下する。
【0028】
上述した当該ドレーン杭100(
図1参照)は、地震発生時に吸水口108から内部に地中の水を流れ込ませることで、周囲の地盤中の間隙水圧を早期に消散し、これによって電柱102等の構造物の沈下や傾斜を防いでいる。したがって、当該ドレーン杭100によれば、目的の構造物の周辺に埋め込んでおくことで、地震発生時に構造物の沈下や傾斜などの液状化の影響を抑えることが可能になる。
【0029】
図3は、ドレーン杭100のさらなる構造を示した図である。
図3(a)は、ドレーン杭100にノーズ124を備えさせた様子を示している。ノーズ124は、キャップ126と一体に形成されていて、キャップ126とともにドレーン杭100のうちの吸水口108が設けられた地中部分128の上端に連結され、一部が地上に露出する。ノーズ124は、地中部分128よりも径が細く、上端に排水口130を備えている。径の細いノーズ124であれば、排水を可能にしつつも、ドレーン杭100の地上部分を小型にして目立たせなくすることができるため、美観の点で有益である。
【0030】
吸水口108や排水口130(
図1の排水口110も含む)には、内側に所定のメッシュを備えさせることができる。例えば、吸水口108の内側をメッシュで覆うことで、吸水口108への土砂の浸入やそれに伴う目詰まりを防ぐことができる。また、排水口130に備えることでも、ドレーン杭100の内部への異物の浸入等を防ぐことができる。このようなメッシュは、透水シートや金網、または目の粗い発砲硬質樹脂などによって実施することが可能である。また、メッシュと同様に、杭内に透水性構造の材料を充填させることによっても、杭内への異物の浸入等を防ぐことが可能である。
【0031】
図3(b)は、ドレーン杭100にカバー132を備えさせた様子を示している。カバー132は、排水口130が形成されているドレーン杭100の地上部分を覆い隠す部品である。カバー132は、排水口130(
図1の排水口110も含む)との間に空間を形成するなど、排水口130を閉塞させない構造になっている。カバー132は、例えば電柱102を中心にした分割可能な環状の形態などとして実施することができる。カバー132を備えることで、排水口130への異物の浸入防止や、地上部分の見栄えの向上、さらにはイタズラ防止などを図ることが可能になる。
【0032】
図4は、ドレーン杭100の打設作業の過程を示した図である。
図4(a)は、打設作業の概要を示している。当該ドレーン杭100は、杭打機134を使用して電柱102に沿って地盤に打設して設置することができる。なお、ドレーン杭100は、打設作業以外にも、前述したドリル状の先端部を有する構成であればねじ込む作業によって、または予め掘削した穴に挿入する作業などによって、地盤に適宜埋め込むことが可能である。
【0033】
当該ドレーン杭100は、長手方向に複数の部品に分割可能になっている。例えば、ドレーン杭100は、先端部104を含むAパーツ100a、中間のBパーツ100b、上端側のCパーツ100c、そしてキャップ126(
図3(a)参照)と一体のノーズ1124に分割されている。この構成によって、杭打機134での打設作業が行いやすくなり、また重量が分散されて運搬や施工も容易になる。
【0034】
図4(b)は、打設作業の途中の様子である。ドレーン杭100は、Aパーツ100aを杭打機134で打ち込み、次にAパーツ100aの上端にBパーツ100bを連結させ、再びBパーツ100bを杭打機134で打ち込む。
図4(c)は、打設作業の完了時の様子である。ドレーン杭100は、Cパーツ100cまで打ち込んだ後、上端にキャップ126を連結させることで、設置が完了する。このように、ドレーン杭100は、長手方向に分割されていることで、一本の長尺な杭を打ち込む場合よりも、杭打機134の操作などにおいて作業がしやすく、電柱102の下端よりも地盤のより深い位置まで効率よく打ち込むことが可能になっている。
【0035】
(液状化対策工法)
図5は、ドレーン杭100を用いた液状化対策工法を示した図である。当該液状化対策工法は、上述したドレーン杭100を屋外に建てられる電柱等の柱に沿えて埋め込むことを特徴としている。
【0036】
図5(a)は、当該液状化対策工法を既設の電柱102aに実施した様子である。
図5(a)では、既設の電柱102aの周囲に均等に計6本のドレーン杭100を埋め込んでいる。ドレーン杭100は、
図4を参照して説明したように、杭打機134で地盤に打ち込む等するだけで設置でき、掘削作業や大がかりな重機なども必要としない。そのため、ドレーン杭100を用いた当該液状化対策工法であれば、従来の根枷工法などと比べても作業が簡単で、既設の電柱102aに対しても容易に実施することができる。
【0037】
図5(b)は、当該液状化対策工法を塀に囲まれた電柱102bに実施した様子である。電柱は土地同士の境界付近に建柱することも多く、電柱102bのように2方を塀136に囲まれていることも少なくない。このような狭い場所では、塀136に手を加えずに根枷工法やグラベル工法を実施することは難しい。しかし、ドレーン杭100は、地盤に鉛直に埋め込むだけで設置できる。そのため、電柱102bの周囲のうち空いている部分に例えば3本打つだけでも、液状化時に水を吸収し、電柱102bの傾斜等を抑えることが可能になる。
【0038】
これらのように、当該液状化対策工法であれば、ドレーン杭100を地盤に埋め込むだけの簡単な作業で実施できるため、作業員が負う労力が軽く、また既設の構造物に対しても施工範囲が狭くても問題なく実施でき、好適である。
【0039】
(模型実験)
図6は、ドレーン杭100を用いた液状化対策工法の模型実験の概要と結果を示す図である。この模型実験では、上述した液状化対策工法の有効性について検討した。
【0040】
図6(a)は、模型実験の概要を示す図である。実験は、振動台140に珪砂142を敷き、そこに各対策を施した電柱(工法A~D、素柱10)の模型を建てて、実際の地震の波を模した振動を加えることで行った。電柱の模型としては、14mの電柱を1/25に縮尺した場合を想定し、長さ560mmで外径14mmのアルミパイプを用意した。また杭の模型としては、45mmの鋼管を用意した。杭の模型は、すべて先端側が閉塞したものとし、吸水口の有るものと無いものを用意した。
【0041】
実験は、電柱の模型に対して工法A~Dを施したものと、何も施していない素柱10の、計5本を対象として行った。工法A~Dは、杭の条件に違いがある。まず、工法Aは、電柱の模型の外周を6等分し、そのうちの連続する3か所それぞれに計3本の吸水口無しの杭を結束および接着によって固定した。工法Bは、工法Aと同様の3か所に、吸水口有りの杭を固定した。工法Cは、電柱の模型の外周を6等分した箇所それぞれに、計6本の吸水口無しの杭を固定した。工法Dは、工法Cと同様の6か所に、吸水口有りの杭を固定した。
【0042】
図6(b)は、振動台140を上方から見た試験結果である。縦軸および横軸の値は距離mmである。この試験結果は、工法A~Dおよび素柱10の上端が、根本に対してどれほど傾いたかを表している。
図6(b)の試験結果からは、素柱10がもっとも傾き、続いて工法A(吸水口無しの杭×3本)および工法C(吸水口無しの杭×6本)が傾いていることが分かる。その一方で、工法B(吸水口有の杭×3本)および工法D(吸水口有りの杭×6本)は、傾きが抑えられていることが分かる。
【0043】
図6(c)は、振動台140を横から見た試験結果である。
図6(c)では、実験前の模型の姿勢を破線で示し、実験後の模型の姿勢を実線で示している。また、横軸は距離mm、縦軸は高さmmである。
図6(c)の試験結果からも、素柱10がもっとも傾いていることが分かる。また、工法A(吸水口無しの杭×3本)よりも工法B(吸水口有の杭×3本)の傾きが抑えられていること、および工法C(吸水口無しの杭×6本)よりも工法D(吸水口有りの杭×6本)の傾きが抑えられていることが分かる。
【0044】
以上のように、模型実験からは、素柱10よりも杭を設けた電柱のほうが傾きを抑えられること、および単なる杭よりも吸水口有りの杭のほうが電柱の傾きをより抑えられることが確認できた。これによって、上述した当該ドレーン杭100、およびドレーン杭100を用いた液状化対策工法が、液状化地盤の電柱102の傾斜および沈下の抑制に効果的であることが証明された。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、地盤に埋め込まれる管状のドレーン杭およびこのドレーン杭を用いた液状化対策工法として利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10…素柱、100…ドレーン杭、100a…Aパーツ、100b…Bパーツ、100c…Cパーツ、102…電柱、102a…既設の電柱、102b…塀に囲まれた電柱、104…先端部、106…側面、108…吸水口、110…排水口、112…地表面、114…地下水面、116…砂粒、118…間隙水、120…噴砂、122…噴水、124…ノーズ、126…キャップ、128…地中部分、130…ノーズの排水口、132…カバー、134…杭打機、136…塀、140…振動台、142…珪砂