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  • 特許-印刷装置及び印刷方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】印刷装置及び印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/06 20060101AFI20220524BHJP
   B05D 5/06 20060101ALI20220524BHJP
   B05D 1/04 20060101ALI20220524BHJP
   B41J 2/11 20060101ALI20220524BHJP
   B41M 1/42 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
B41J2/06
B05D5/06 101D
B05D1/04 Z
B41J2/11
B41M1/42
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018004757
(22)【出願日】2018-01-16
(65)【公開番号】P2019123136
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅博
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/105557(WO,A1)
【文献】特開2001-191534(JP,A)
【文献】特開平10-086360(JP,A)
【文献】特開2010-017703(JP,A)
【文献】特開平11-024413(JP,A)
【文献】特開平10-157164(JP,A)
【文献】特開2000-185392(JP,A)
【文献】特開2003-226015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B05D 5/06
B05D 1/04
B05B 5/00-5/16
B41M 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電潜像が形成された基材と、原料液をエレクトロスプレーノズルから荷電ミストとして噴射するエレクトロスプレー機構と、
前記基材と前記エレクトロスプレー機構との間に位置する中間電極と、
前記エレクトロスプレーノズル及び前記中間電極に電場を印加する電場印加機構とを少なくとも備え、
前記中間電極は前記荷電ミストが通過可能な複数の開口部を有し、
前記中間電極を通過した荷電ミストの速度がゼロとなる位置に前記静電潜像が配置される
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
原料液をエレクトロスプレーノズルにより帯電させて噴射し荷電ミストを生成する工程と、
前記エレクトロスプレーノズルと複数の開口部を有する中間電極に印加した電場により生じた電界に沿って前記荷電ミストを搬送する工程と、
前記荷電ミストが前記中間電極を通過し、基材上に付着して、前記荷電ミストによる印刷パターンを形成する工程と、
を少なくとも備えることを特徴とする請求項1に記載の装置を用いた印刷方法。
【請求項3】
前記基材を中間転写体として、前記基材上に形成された印刷パターンを他の基材に転写する転写工程をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク材料をミスト化して、ミストコーティングによりパターンを印刷する印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷は、印刷版にインクを盛り、紙などの媒体へ転写することで、大量の画像や文字の複製をしてきた。従来の印刷では、印刷版に形成したインクパターンを、媒体へ精度良く転写することに注力されており、数多くの印刷手法が提案されてきた。
【0003】
一方、印刷版を要しない無版印刷には、インクジェットや電子写真の手法があり、印刷版を用いることなく任意のパターンデータをオンデマンドで印刷できる。
【0004】
さらに、材料を微細液滴化してコーティングするミストコート技術がある。ミストコート技術とは、材料液を物理的に小さい液滴のミスト状態にして、基材にコートする手法である。材料に混ぜ物をする必要がなく、より純度の高い材料をコーティングすることが可能であり、機能材料のパターンを形成する場合には有利である。前記ミストコート技術でパターン化された膜を得るには、貫通孔のパターンがあるマスク版を通じてミストコートすることでパターン膜を形成する手法が用いられている。
【0005】
また、特許文献1のミスト手法では、基材に予め親水と撥水からなるパターンを形成しておき、ミスト材料を搬送してミストを基材に噴霧し、ミスト液滴の基材への付着度合いにより、すなわち親水部にミストが付着し、撥水部にはミストが付着しないようにすることで、マスク版を用いずにパターンを形成する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2015/064438号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら機能性の材料をパターン形成しようとする場合、従来の有版印刷や無版のインクジェット技術では、印刷工程に適したインク特性を得るため機能を有する主材料以外にも混ぜ物をする必要があり、印刷後のパターンは目的材料の純度が低くなり機能特性が低下する問題がある。電子写真方式では、材料をトナー化する必要があり、主剤を帯電制御する材料で覆う必要があり機能性のパターン形成には向かない。
【0008】
ミストコーティング技術からのパターニングでは、マスク版を使う必要があり、貫通孔によるパターン制約やマスク作製のコストが付加される問題がある。また、特許文献1の手法では、マスク版が不要になるが、予め基材側に親水部及び撥水部のパターンを形成する必要があった。
【0009】
ミストコーティング手法に、エレクトロスプレー方式がある。この方式でパターンを形成するひとつの手法として、ミスト液滴が荷電体であることを利用して、基材に静電潜像を予め形成しておき、電子写真の要領でパターンを現像する手法が挙げられる。この手法では、ミスト手法により無版でのパターン形成を可能とする。
【0010】
しかしながら、従来技術の装置構成で荷電ミストを静電潜像で現像しようとすると、ミ
スト吐出ノズルから基材裏面に設置された対向電極の間に印加された搬送電場により、基材表面の静電潜像の電荷電位が相対的に小さくなり、現像できないという問題があった。
また荷電ミスト液滴は、電場で加速され運動量をもって基材に衝突することから、クーロン力の引力、斥力による静電場による力が弱く、静電潜像の非パターン部にも荷電ミスト液滴が付着してしまい、高精細なパターンを形成することが出来なくなるという問題があった。
【0011】
本発明では、このような問題に鑑みて、本発明の課題とするところは、エレクトロスプレー法を生成手段とした荷電ミスト液滴を静電潜像を用いて現像でき、高精細な無版印刷パターニングを可能とする、印刷装置及び印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の第一の発明は、静電潜像が形成された基材と、原料液をエレクトロスプレーノズルから荷電ミストとして噴射するエレクトロスプレー機構と、前記基材と前記エレクトロスプレー機構との間に位置する中間電極と、前記エレクトロスプレーノズル及び前記中間電極に電場を印加する電場印加機構とを少なくとも備え、
前記中間電極は前記荷電ミストが通過可能な複数の開口部を有し、
前記中間電極を通過した荷電ミストの速度がゼロとなる位置に前記静電潜像が配置されることを特徴とする印刷装置である。
【0013】
また、第二の発明は、原料液をエレクトロスプレーノズルにより帯電させて噴射し荷電ミストを生成する工程と、前記エレクトロスプレーノズルと複数の開口部を有する中間電極に印加した電場により生じた電界に沿って前記荷電ミストを搬送する工程と、前記荷電ミストが前記中間電極を通過し、基材上に付着して、前記荷電ミストによる印刷パターンを形成する工程と、を少なくとも備えることを特徴とする請求項1に記載の装置を用いた印刷方法である。
【0014】
第三の発明は、前記基材を中間転写体として、前記基材上に形成された印刷パターンを他の基材に転写する転写工程をさらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の印刷方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の印刷装置及び印刷方法によれば、ミストコート技術を基にした材料純度の高いパターン形成を可能とし、機能性材料の高精細なパターンの無版印刷を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の印刷装置の概略構成図である。
図2】従来のエレクトロスプレー方式の概略構成図である。
図3】(a)~(d)は本発明の印刷手法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の印刷装置の構成を図1に示し、従来のエレクトロスプレー法を用いた印刷装置の構成を図2に示す。
【0020】
まず図2により、従来のミストコーティング手法を用いたエレクトロスプレー法の装置構成およびパターニング方法を説明する。
溶媒に材料が溶解または分散された原料液が原料液供給器10に充填されており、ここからミスト液滴12をノズル1から吐出し、ノズル1とターゲットとなる基材4背後にある対向電極2との間に、電場印加機構11により概ね数キロから数万Vの電場を印加する。
【0021】
吐出されたミスト液滴12はこの電場電圧によって帯電し電荷チャージされ、ミスト液滴12内の同極のクーロン力斥力により、レーリー分裂を引き起こす。
これにより、ノズル1と対向電極2間の空間を移動する際に、逐次微細化していく荷電ミスト液滴を形成する。そしてノズル1と対向電極2間の電場により荷電ミストが搬送されて、基材4に着弾する。
【0022】
このとき材料選択と印加電界、ノズルと基材間距離等の条件を最適化することで、ナノオーダーの成膜を可能とする。基材4上にパターニングする場合には、基材4とノズル1との間に遮蔽物となるマスク版3を設置して、荷電ミスト流を遮蔽して所望のパターンを得る方法がとられている。
【0023】
次に、図1を用いて本発明を説明する。図1は、本発明の印刷装置の装置構成を示す図である。
この装置は、前述の図2に示した従来方式と同様に、原料液供給器10とノズル1と対向する電極からなる。ノズル1は、前述のエレクトロスプレー方式に基づくエレクトロスプレーノズルであって、原料液供給器10から供給される原料液をミスト液滴をとして噴射するものであり、ノズル1と原料液供給器10を併せてエレクトロスプレー機構と称する。
【0024】
図1図2の構成の違いとして、対向電極は基材の裏側ではなく、基材4とノズル1の間の中間電極5として配している。すなわちこれによって、基材表面に電極による電場が影響を及ぼすことがなく、前述のように対向電極の間に印加された搬送電場により基材表面の静電潜像の電荷電位が相対的に小さくなり現像できないという問題は解決される。
【0025】
まず、ノズル1から吐出された原料液を帯電して、ミスト液滴12は荷電ミスト化する。荷電ミストを駆動する電場は、電場印加機構11によりノズル1と中間電極5に印加され、駆動電場により運動量を得た荷電ミストは、中間電極5を透過して基材表面に到達する。
【0026】
この間、荷電ミストは電界中で電気的な力を受け、空気抵抗と重力とバランスするまで加速する。また、中間電極5を透過した荷電ミストは、ノズル1と中間電極5の間の電場の外側に配され電気的駆動力は受けなくなり、空気抵抗と重力により運動量を失い、移動速度が低下する。荷電ミストが運動量を失って、速度がゼロになる位置に基材4に形成された静電潜像6が配されていれば、荷電ミストが静電潜像6から受けるクーロン力の引力と斥力により選択的に基材表面に吸着されてパターンを形成する。
【0027】
中間電極5は、電圧印加に耐える導電性を有する材料からなり、かつミスト液滴が通過できる構造をしており、具体的には網目形状のような複数の開口部を有する構造を成している。網目のサイズは、例えばミスト液滴が通過できる大きさであるが、中間電極5の電極構造体にミストが当たればトラップされてしまうので、網目の縁にあたる電極構造体の面積は少ないほど良い。また、その網目パターンは、電場が偏在しないよう一定の繰り返しパターンが好ましい。
【0028】
中間電極5の材料は、導電性の高い材料であれば何でも良いが、導電性、加工性を考慮すると、例えばAg、Au、Cu、Al、Niなどの金属やそれらの合金によるワイヤーを用いればよい。中間電極5は、網目やスリット構造を持ち、荷電ミスト液滴が通過でき、導電性をもつなら何でも良く、その材料や構成を限定されるものではない。
【0029】
ノズル1と中間電極5と、中間電極5と基材4の間の距離はそれぞれ可変で、距離を調整する機構を設けてあることが好ましい。このようにすれば、ミスト液滴の原料が異なる場合でも原料の特性に合わせて、駆動電圧や距離を調整して、ミスト液滴サイズ、着弾速度を最適に合わせることができる。
【0030】
静電潜像6を形成する手法については、特に限定されるものではないが、公知の電子写真技術でも用いられるように、光電材料を基材上に形成しておいてもよいし、別の装置で静電潜像を形成して、基材4に静電転写して装置に設置してもよい。
【0031】
基材4としては、静電潜像保持の為、誘電性の材料に限定される。
ただし、基材4に形成された印刷パターンを、基材4を中間転写体とし、別の基材に転写する手法もとることができる。この場合には、被転写基材は、それ自体に静電潜像を保持する必要がなくなり、自由な素材の基材を選択することができる。
【0032】
次に、図3を用いて本発明の印刷工程を説明する。
図3(a)~(d)は、荷電ミストが搬送される際に加速・減速する工程を示す概略図である。
まず図3(a)において、原料液供給器10に充填された原料液は、ノズル1から吐出される際に印加された電圧により、荷電ミスト液滴として帯電分離する。帯電した荷電ミスト7の液滴は、ノズル1と中間電極5の間に電場印加機構11から印加された電場により基材4方向に駆動される。この際、荷電ミスト7は、内部応力と電荷同士のクーロン力斥力のバランスによりレーリー分裂を起こし、ミスト液滴は細分化する。中間電極5に到達するまで加速されたミスト液滴7は、中間電極5を通過した後は減速しながら基材4に達する。
【0033】
基材4の位置は、中間電極までに得た運動量が、空気抵抗、重力により失う、つまり、速度がゼロとなる位置に配することで、荷電ミストに対する駆動力は基材4上に形成された静電潜像6の表面電位8が支配的な状態になっている。図3(b)にその様子を示す。ここでは、静電潜像6のクーロン力による引力、斥力により、静電潜像6のパターンにしたがって荷電ミストが吸着して現像される。
【0034】
また、移動中にも溶媒は蒸発するが、吸着したあとの残りの溶媒を、例えば焼成などの加熱手段を用いて蒸発させることで、ミスト中の純度高い材料からなるパターン9が基材4に印刷されることになる。図3(c)は基材4を焼成する様子を示し、図3(d)は焼成後に印刷パターンが基材上に形成された様子を示している。
【0035】
本発明の印刷方法では、静電潜像6の解像度と基材4に着弾したときのミスト液滴サイズが印刷解像度の限界を決める。すなわち、静電潜像の限界は、原理的には原子、分子レベルでの荷電状態に起因することから、分子サイズでの帯電が可能である。
従って、本発明の印刷装置及び印刷方法により、数ナノオーダーといわれるエレクトロスプレー法のミスト液滴を最小単位とする高精細な印刷パターンが形成できる。
【0036】
このように本発明の印刷装置及び印刷方法によれば、原料が溶解または分散した原料液を荷電ミスト化し、駆動電場の外側に置いた静電潜像を用いて現像することで、目的材料によるパターン形成を可能とする。また、本発明によると、ミスト液滴サイズを画素単位
とする高精細な印刷パターンを可能とするものである。
【符号の説明】
【0037】
1 ノズル
2 対向電極
3 マスク版
4 基材
5 中間電極
6 静電潜像
7 荷電ミスト
8 静電潜像の表面電位
9 印刷パターン
10 原料液供給器
11 電場印加機構
12 ミスト液滴
図1
図2
図3