(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】電波透過カバー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20220524BHJP
B60R 19/52 20060101ALI20220524BHJP
B60R 13/00 20060101ALI20220524BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
G01S7/03 246
B60R19/52 K
B60R13/00
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018065643
(22)【出願日】2018-03-29
【審査請求日】2020-04-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 里彩
(72)【発明者】
【氏名】前田 英登
(72)【発明者】
【氏名】真地 優希
(72)【発明者】
【氏名】飯村 公浩
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-018790(JP,A)
【文献】特開2016-141355(JP,A)
【文献】特開2018-020587(JP,A)
【文献】特開2016-124113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0233367(US,A1)
【文献】特開2014-069634(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061250(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
G01S 13/00 - 13/95
B29C 45/00 - 45/24
B29C 45/46 - 45/63
B29C 45/70 - 45/72
B29C 45/74 - 45/84
B60R 13/00
B60R 13/07
B60R 13/10 - 15/04
B60R 19/00 - 19/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波レーダ装置の電波の経路内に配置され、前記電波が透過する電波透過カバーにおいて、
樹脂材料からなる透明層と、
前記透明層の後側に設けられた加飾層と、
樹脂材料からなり、前記加飾層の前側に設けられることなく前記加飾層の後側に設けられた基材層と、を備え、
前記透明層の後面の外周部には、後側に突出するとともに前記透明層の外周縁をなす突出部が設けられており、
前記突出部における内周側の部分には、後側に向かって突出する係合凸部が設けられており、
前記加飾層は、前記透明層の後面のうち前記係合凸部の内周側に連なる部分に設けられており、
前記係合凸部は、その後端が前記加飾層よりも後側に位置しているとともに前記基材層に設けられた係合凹部に係合してい
て、
前記係合凸部の幅は、前記突出部の幅から前記係合凸部の幅を引いた幅よりも小さく、
前記突出部の幅は、1.5~2.5mmであり、
前記係合凸部の幅は、0.4~1.0mmである、
電波透過カバー。
【請求項2】
前記加飾層は、前記係合凸部の内周面から、前記透明層の後面のうち前記係合凸部の内周側に連なる部分にわたって設けられている、
請求項1に記載の電波透過カバー。
【請求項3】
前記係合凸部の先端部は、外周側または内周側に向かって屈曲されている、
請求項1または請求項2に記載の電波透過カバー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車に搭載される電波レーダ装置の電波の経路内に配置される電波透過カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電波透過カバーとして、例えば特許文献1に示すような電波透過カバーが知られている。こうした電波透過カバーは、樹脂材料からなる透明層と、透明層の後側に設けられた加飾層と、樹脂材料からなり、加飾層の後側に設けられた基材層とを備えている。透明層は、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂などからなり、射出成形にて形成されている。加飾層は、金属蒸着やスクリーン印刷などによって形成されている。基材層は、AES(アクリロニトリル・エチレン・スチレン共重合体)樹脂などを射出成形することによって形成されている。
【0003】
電波透過カバーを製造するに際しては、まず、透明層を射出成形し、その後、透明層の後側に加飾層を形成する。そして、加飾層が形成された透明層を成形型にインサートし、キャビティに溶融樹脂を射出することにより基材層を成形する。
【0004】
このとき、基材層が冷却される際に、基材層が熱収縮し、これに伴って加飾層が引っ張られることにより加飾層に皺が生じるおそれがある。
これに対して、特許文献1に記載の電波透過カバーにおける透明層の後面の外周部には、後側に突出するとともに外周側に向かって屈曲し、基材層に係合する係合凸部が設けられている。このため、透明層の後面に設けられた係合凸部に基材層が係合されることによって、基材層の熱収縮が抑制され、上述した加飾層の皺の発生が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の電波透過カバーにおいては、透明層の後面のうち係合凸部から外周縁までの幅4mm程度の部分に加飾層が設けられていない。そのため、上記部分における透明層の後側に存在する基材層が透けて見えることで黒縁となる。
【0007】
ところが、電波透過カバーにおいては、近年、外周縁のより近傍まで加飾層を設けることが望まれており、意匠性の向上において、尚、改善の余地を残すものとなっている。
本発明の目的は、意匠性を向上させることのできる電波透過カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための電波透過カバーは、電波レーダ装置の電波の経路内に配置され、前記電波が透過するものであり、樹脂材料からなる透明層と、前記透明層の後側に設けられた加飾層と、樹脂材料からなり、前記加飾層の後側に設けられた基材層と、を備え、前記透明層の後面の外周部には、後側に突出するとともに前記透明層の外周縁をなす突出部が設けられており、前記突出部における内周側の部分には、後側に向かって突出する係合凸部が設けられており、前記加飾層は、前記透明層の後面のうち前記係合凸部の内周側に連なる部分に設けられている。
【0009】
同構成によれば、透明層の後面の外周部には、透明層の外周縁をなす突出部が設けられており、突出部の後側には基材層が位置している。ここで、突出部は後側に突出していることから、透明層の前面のうち外周縁に向かう曲面形状を全反射面とすることが可能となる。このため、透明層の突出部を通じて後側の基材層が視認されにくくなる。
【0010】
また、後側に加飾層が設けられた透明層を成形型にインサートし、キャビティに溶融樹脂を射出して基材層を成形する際に、基材層が冷却されて熱収縮することが、透明層の後面に設けられた係合凸部によって抑制される。これにより、基材層の熱収縮に伴って加飾層に皺が生じることを抑制できる。
【0011】
したがって、カバーの意匠性を向上させることができる。
上記電波透過カバーにおいて、前記加飾層は、前記係合凸部の内周面から、前記透明層の後面のうち前記係合凸部の内周側に連なる部分にわたって設けられていることが好ましい。
【0012】
同構成によれば、透明層の外周縁のより近傍まで加飾層が設けられることとなり、カバーの意匠性を向上させることができる。こうした効果は、特に、係合凸部が先端側ほど外周側に位置するように傾斜している構成において顕著となる。
【0013】
上記電波透過カバーにおいて、前記係合凸部の先端部は、外周側または内周側に向かって屈曲されていることが好ましい。
同構成によれば、透明層と基材層とが一層強固に係合することとなるため、透明層と基材層との密着性を高めることができる。これにより、基材層の熱収縮に伴って加飾層に皺が生じることを一層抑制できる。
【0014】
上記電波透過カバーにおいて、前記突出部の幅は、1.5~2.5mmであることが好ましい。
同構成によれば、上記幅が1.5mm以上とされることにより、基材層を射出成形する際に、係合凸部の外周側へ向かう溶融樹脂の流動性を確保することができる。また、上記幅が2.5mm以下とされることにより、透明層の外周縁のより近傍まで加飾層が設けられることとなり、カバーの意匠性を向上させることができる。
【0015】
上記電波透過カバーにおいて、前記係合凸部の幅は、0.4~1.0mmであることが好ましい。
同構成によれば、上記幅が1.0mm以下とされることにより、基材層を射出成形する際に、係合凸部の外周側へ向かう溶融樹脂の流動性を確保することができる。また、上記幅が0.4mm以上とされることにより、係合凸部の剛性を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、意匠性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】電波透過カバーの一実施形態について、(a)は、電波透過カバーの正面図、(b)は、(a)の1b-1b線に沿った断面図。
【
図3】変形例の電波透過カバーについて、
図2に対応する断面図。
【
図4】他の変形例の電波透過カバーについて、
図2に対応する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、
図1及び
図2を参照して、一実施形態について説明する。
図1(a)及び
図1(b)に示すように、本実施形態の電波透過カバー(以下、カバー10)は、車両のフロントグリルの開口部に取り付けられる横長円形状のエンブレムである。なお、以降において、車両の前後方向の前側及び後側を単に前側及び後側と称する。
【0019】
カバー10は、車両に搭載される電波レーダ装置の前側であって、電波レーダ装置の電波(ミリ波)の経路内に配置される。
図1(b)及び
図2に示すように、カバー10は、ミリ波が透過する電波透過性を有するものであり、透明層20と、透明層20の後側に設けられた加飾層30と、加飾層30の後側に設けられた保護層40と、保護層40の後側に設けられた基材層50とを備えている。
【0020】
透明層20は、例えばポリカーボネート樹脂によって形成されている。透明層20の前面は、外周縁20cに向かうに連れて後側に位置するように湾曲されている。
図1(b)に示すように、透明層20の後面には、一般部20aと、一般部20aよりも前側に位置する凹部20bとが設けられている。凹部20bの深さは、例えば3.0mm程度である。
【0021】
一般部20aには、プリントにより形成された例えば黒色などの有色層(図示略)が設けられている。
図2に示すように、凹部20bの内面全体には、インジウムなどの電波透過性を有する金属からなる加飾層30が設けられている。
【0022】
この場合、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、一般部20a(有色層)がカバー10の背景領域10aに対応し、凹部20b(加飾層30)がカバー10の光輝領域10bに対応している。
【0023】
図2に示すように、透明層20の後面の外周部21には、後側に突出するとともに透明層20の外周縁20cをなす突出部24が設けられている。
また、突出部24における内周側の部分には、後側に向かって突出する係合凸部23が設けられている。係合凸部23は、カバー10の周方向に沿って全周にわたって設けられており、先端側ほど外周側に位置するように延びている。
【0024】
また、係合凸部23の内周側には、内周側ほど前側に位置するように傾斜し、上記凹部20bの一部を構成する傾斜面部22が設けられている。
加飾層30は、係合凸部23の内周面から、傾斜面部22にわたって設けられている。
【0025】
ここで、係合凸部23の幅W2は、0.4~1.0mmであることが好ましく、0.5~0.8mmであることが更に好ましい。本実施形態では、係合凸部23の幅W2が0.6mmである。
【0026】
ここで、突出部24の幅W1は、1.5~2.5mmであることが好ましく、1.8~2.2mmであることが更に好ましい。本実施形態では、突出部24の幅W1が2.0mmである。
【0027】
保護層40は、例えば黒色の耐熱性塗膜からなり、加飾層30の後面全体に設けられている。保護層40の厚さは、数十μmである。保護層40は、後述する基材層50をインサート成形する際の熱から加飾層30を保護する。
【0028】
基材層50は、黒色のAES樹脂によって形成されている。基材層50は、保護層40及び透明層20のうち保護層40が設けられていない部分を覆うように設けられている。基材層50は、透明層20の係合凸部23に係合する係合凹部53を有している。
【0029】
本実施形態の作用効果について説明する。
(1)カバー10は、透明層20と、透明層20の後側に設けられた加飾層30と、加飾層30の後側に設けられた基材層50とを備える。透明層20の後面の外周部21には、後側に突出するとともに透明層20の外周縁20cをなす突出部24が設けられており、突出部24における内周側の部分には、後側に向かって突出する係合凸部23が設けられている。加飾層30は、透明層20の後面のうち係合凸部23の内周側に連なる部分に設けられている。
【0030】
こうした構成によれば、透明層20の後面の外周部21には、透明層20の外周縁20cをなす突出部24が設けられており、突出部24の後側には基材層50が位置している。ここで、突出部24は後側に突出していることから、透明層20の前面のうち外周縁20cに向かう曲面形状を全反射面とすることが可能となる。このため、透明層20の突出部24を通じて後側の基材層50が視認されにくくなる。
【0031】
また、後側に加飾層30が設けられた透明層20を成形型にインサートし、キャビティに溶融樹脂を射出して基材層50を成形する際に、基材層50が冷却されて熱収縮することが、透明層20の後面に設けられた係合凸部23によって抑制される。これにより、基材層50の熱収縮に伴って加飾層30に皺が生じることを抑制できる。
【0032】
したがって、カバー10の意匠性を向上させることができる。
(2)係合凸部23が先端側ほど外周側に位置するように延びている。加飾層30は、係合凸部23の内周面から、傾斜面部22にわたって設けられている。
【0033】
こうした構成によれば、透明層20の外周縁20cのより近傍まで加飾層30が設けられることとなり、カバー10の意匠性を向上させることができる。
(3)突出部24の幅W1は、1.5~2.5mmである。
【0034】
こうした構成によれば、上記幅W1が1.5mm以上とされることにより、基材層50を射出成形する際に、係合凸部23の外周側へ向かう溶融樹脂の流動性を確保することができる。また、上記幅W1が2.5mm以下とされることにより、透明層20の外周縁20cのより近傍まで加飾層30が設けられることとなり、カバー10の意匠性を向上させることができる。
【0035】
(4)係合凸部23の幅W2は、0.4~1.0mmである。
こうした構成によれば、上記幅W2が1.0mm以下とされることにより、基材層50を射出成形する際に、係合凸部23の外周側へ向かう溶融樹脂の流動性を確保することができる。また、上記幅W2が0.4mm以上とされることにより、係合凸部23の剛性を確保することができる。
【0036】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・例えばアクリル樹脂によって透明層20を形成することもできる。この場合、アクリル樹脂の中でも特に耐摩耗性に優れたPMMA樹脂(ポリメタクリル酸メチル樹脂)を採用することが好ましい。
【0037】
・係合凸部23の幅W2は、0.4mmよりも小さくてもよいし、1.0mmよりも大きくてもよい。
・突出部24の幅W1は、1.5mmよりも小さくてもよいし、2.5mmよりも大きくてもよい。
【0038】
・
図3に示すように、係合凸部23の先端部に、外周側に向かって屈曲された屈曲部23aを設けることもできる。また、
図4に示すように、係合凸部23の先端部に、内周側に向かって屈曲された屈曲部23bを設けることもできる。これらの構成によれば、透明層20と基材層50とが一層強固に係合することとなるため、透明層20と基材層50との密着性を高めることができる。これにより、基材層50の熱収縮に伴って加飾層30に皺が生じることを一層抑制できる。
【0039】
・加飾層30は、係合凸部23の内周面に設けられていなくてもよい。
・本発明に係る電波透過カバーは車両のフロントグリルの開口部に取り付けられるエンブレムに限定されず、例えば車両の側部や後部などに取り付けられるカバーとして具体化することもできる。この場合、車外側がカバーの前側に相当し、車内側がカバーの後側に相当する。
【符号の説明】
【0040】
10…カバー、10a…有色領域、10b…光輝領域、20…透明層、20a…一般部、20b…凹部、20c…外周縁、21…外周部、22…傾斜面部、23…係合凸部、23a,23b…屈曲部、24…突出部、30…加飾層、40…保護層50…基材層、53…係合凹部。