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特許7077761電析性試験用センサ及び該センサを用いた電析性試験方法並びに試験装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】電析性試験用センサ及び該センサを用いた電析性試験方法並びに試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/04 20060101AFI20220524BHJP
   C25D 21/12 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
G01N17/04
C25D21/12 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018094734
(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公開番号】P2019200133
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】中本 克典
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-074096(JP,A)
【文献】特開2009-242876(JP,A)
【文献】特開2013-057098(JP,A)
【文献】国際公開第2015/198185(WO,A1)
【文献】特開平11-246997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/04
C25D 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性を試験するためのセンサであって、
金属シートが絶縁材を挟んで積層され、且つ各々電気的に結合した状態になるように接続されてなるセンサ本体と、
上記金属シートに接続され、上記センサ本体が電解液に浸漬された状態で、該金属シートと対極との間に電圧を印加するためのリード線とを備え、
上記センサ本体は、上記金属シートの層が上記絶縁材の層を挟んで露出した露頭を有していて、
上記露頭が、その表面に露出した上記金属シートの端縁における上記リード線の接続部に対応する位置から該金属シートの端縁上に付着した電析物の析出距離をみるためのセンサ面を構成していることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項2】
請求項1において、
上記センサ本体は、上記金属シートが上記絶縁材を挟んで渦巻き状に巻回され、又は該絶縁材を挟んでつづら折り状に折り畳まれてなることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記金属シートの厚さが1μm以上100μm以下であることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項4】
請求項3において、
上記絶縁材の厚さが1μm以上100μm以下であることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一において、
上記センサ本体の周面に包埋樹脂層が設けられていることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
上記センサ面に露出した上記金属シートの端縁に化成皮膜が設けられていることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一において、
上記金属シートは、自動車部材用鋼板と同じ金属材料からなることを特徴とする電析性試験用センサ。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載された電析性試験用センサを用いる電析性試験方法であって、
上記電析性試験用センサの上記センサ面を電解槽に設けられた対極と共に該電解槽内の電解液に浸漬させ、
上記電解槽において、上記電析性試験用センサの上記リード線を介して該電析性試験用センサの上記金属シートと、上記対極との間に電圧を印加し、
上記センサ面に露出した上記金属シートの端縁における上記リード線の接続部に対応する位置から該金属シートの端縁上に付着した電析物の析出距離を計測することを特徴とする電析性試験方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一に記載された電析性試験用センサと、
電解液を収容する電解槽と、
上記電解槽に設けられた対極と、
上記電解槽において、上記電析性試験用センサの上記センサ面が上記対極と共に電解液に浸漬された状態で、該電析性試験用センサの上記リード線を介して該電析性試験用センサの上記金属シートと、該対極との間に電圧を印加する電源部と
を備えたことを特徴とする電析性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電析性試験用センサ及び該センサを用いた電析性試験方法並びに試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、自動車ボディ等の金属製品の防食目的に広く採用されている。この電着塗装では、耐食性向上のために、均一な膜厚の電着塗膜が求められる。そこで、電着塗膜の膜厚を測定する方法や、測定した膜厚からつきまわり性等を評価する方法等が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電解槽内の塗料の流速と被塗物に形成される塗料の膜厚との相関データを求める工程と、前記相関データから、流速が無い場合に形成された膜厚に対する所定の流速のときに形成された膜厚の減少率を補正係数として求める工程と、前記被塗物における測定部位について、流速が無い場合の第1の膜厚を求める工程と、前記第1の膜厚に前記補正係数を乗じ、第2の膜厚を求める工程とを含む電解槽内の被塗物に塗料を析出する電着塗装の膜厚予測方法が開示されている。
【0004】
また、電着塗膜のつきまわり性を評価する方法として、4枚ボックス法が知られている。この4枚ボックス法では、例えば、4枚の被塗物(ワーク)を各々電気的に結合した状態で所定間隔をあけて電着液に浸漬させ、一方のワーク(電極)と対極との間に電圧を印加し、特定の物質が析出してワーク各々の被塗面に付着した電着塗膜の膜厚を測定する。対極から離れていて電流密度が低くなるほど電着塗膜が薄くなる傾向にあるから、4枚のワークの膜厚を比較することにより、電着塗膜のつきまわり性を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-89953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、4枚ボックス法は、ワークの大きさや電解槽内に配置するワーク間の距離によっては、大きな電解槽が必要となるため、試験設備が大掛かりとなる場合がある。
【0007】
また、4枚ボックス法では、通常、実際のワークの被塗面への電着液の流動性を模擬するために、例えば、車体閉断面フレーム内への電着塗膜のつきまわり性を評価する場合、フレームに開口される孔の開口面積等を模擬して各隔壁を構成する。しかし、この場合、上記隔壁への電着液の流動性と実際のワークへのそれとの相関性を取ることが困難であるため、電着塗膜のつきまわり性の評価精度を高める上で課題があった。
【0008】
そこで、本発明は、電気分解によって電解質中から特定の物質(以下、「電析物」という。)が析出してワークに付着する性質(以下、「電析性」という。)を精度よく簡便に試験することができるセンサを提供すること、そして、このセンサを用いて電析物の電析性を簡便に評価できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、金属シートが絶縁材を挟んで積層された積層体の露頭をセンサ面とし、このセンサ面に露出した金属シートの端縁における電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性をみるようにした。
【0010】
ここに開示する電析性試験用センサは、電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性を試験するためのセンサであって、金属シートが絶縁材を挟んで積層され、且つ各々電気的に結合した状態になるように接続されてなるセンサ本体と、上記金属シートに接続され、上記センサ本体が電解液に浸漬された状態で、該金属シートと対極との間に電圧を印加するためのリード線とを備え、上記センサ本体は、上記金属シートの層が上記絶縁材の層を挟んで露出した露頭を有していて、上記露頭が、その表面に露出した上記金属シートの端縁における上記リード線の接続部に対応する位置から該金属シートの端縁上に付着した電析物の析出距離をみるためのセンサ面を構成していることを特徴とする。
【0011】
この電析性試験用センサによれば、センサ本体は、金属シートが絶縁材を挟んで積層され、且つ各々電気的に結合した状態になるように接続された積層体である。これにより、実際のワークの長手方向における長さと略同一の金属シートを用いる場合であっても、センサ本体が実際のワークよりも小型化になり、試験設備が簡易なものとなる。
【0012】
また、積層体の露頭がセンサ面となっており、このセンサ面が対極と共に電解液に浸漬された状態で、リード線を介して金属シートと対極との間に電圧が印加されると、センサ面に露出した金属シートの端縁におけるリード線の接続部に対応する位置から金属シートの端縁上に電析物が析出して付着する。この付着した電析物の析出距離をみることにより、電析物の電析性を試験することができる。即ち、電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性をみることができるため、膜厚等を測定しなくても、電析物の電析性を視覚的に評価することができる。この場合、この電析性試験用センサでの電析性は、実際のワークにおけるそれと相関性を有する。従って、電析物の電析性を精度よく簡便に試験することができる。
【0013】
さらに、電析性試験の終了後、試験後の塗膜が除去されるまでセンサ面を研磨し、このセンサ面に金属シートの新たな端縁を露出させることにより、電析性試験用センサを再利用することができる。
【0014】
金属シートとしては、例えば、Fe、Al、Ni又はこれらの合金等からなるシート状、フィルム状の金属材、金属箔等が挙げられる。実際のワークを用いなくてもワークに対する電析物の電析性を精度よく簡便に試験する観点から、金属シートは、試験対象のワークと同じ金属材料からなることが好ましい。
【0015】
絶縁材としては、例えば、ポリエステル、ポリイミド、ポリエチレン、エポキシ等の樹脂が挙げられる。絶縁材の形態としては、例えば、樹脂フィルム、樹脂シート等の他、金属シートの少なくとも一方の表面に樹脂溶液を塗布して絶縁材の層を設けてもよい。
【0016】
上記電析性試験用センサの一実施形態では、上記センサ本体は、上記金属シートが上記絶縁材を挟んで渦巻き状に巻回され、又は該絶縁材を挟んでつづら折り状に折り畳まれてなる。これにより、金属シートの巻回又は折り畳みによって、金属シートが絶縁材を挟んで積層された、巻回型又は折り畳み型の積層体が得られる。
【0017】
ここに、上記センサ本体は、上記巻回型又は折り畳み型に限らず、複数枚のフィルム状金属シートが絶縁材を挟んで積層された単純積層型であってもよい。
【0018】
上記巻回型及び折り畳み型の場合、上記単純積層型とは違って、金属シートが連続しているから、金属シートを各々電気的に結合した状態になるように接続する必要がなく、センサ本体の構造が簡単になる。また、巻回型の場合、金属シートに強度上弱点となる折り返し部を設ける必要がないから、金属シートを薄くすることができ、センサ本体がより一層小型化になって試験設備がより一層簡易なものとなる。
【0019】
上記センサの一実施形態では、上記金属シートの厚さが1μm以上100μm以下である。当該厚さが100μm以下であるから、高い検出感度が得られ、センサ本体を上記巻回型又は折り畳み型とするケースにおける巻き易さ又は折り畳み易さの観点からも有利になる。また、当該厚さが1μm以上であるから、上記巻回型、折り畳み型又は単純積層型のセンサ本体とすることが容易になるとともに、耐久性が向上する。金属シートの厚さは、10μm以上80μm以下であることがより好ましく、20μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
上記センサの一実施形態では、上記絶縁材の厚さが1μm以上100μm以下である。当該厚さが100μm以下であるから、高い検出感度が得られ、センサ本体を上記巻回型又は折り畳み型とするケースにおける巻き易さ又は折り畳み易さの観点からも有利になる。また、当該厚さが1μm以上であるから、電気絶縁性を損なうことなく、上記巻回型、折り畳み型又は単純積層型のセンサ本体とすることが容易になる。絶縁材の厚さは、10μm以上80μm以下であることがより好ましく、20μm以上50μm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
上記センサの一実施形態では、上記センサ本体の周面に包埋樹脂層が設けられている。これにより、金属シート及び絶縁材の積層状態を確実に保持することができ、品質安定性の確保に有利になる。包埋樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、メタクリル酸樹脂、ポリエステル樹脂等を採用することができる。
【0022】
上記センサの一実施形態では、上記センサ面に露出した上記金属シートの端縁に化成皮膜(図示省略)が設けられている。これにより、化成処理により表面に化成皮膜が形成された金属シート(ワーク)に対する電析物の電析性、換言すると、化成皮膜と電析物との相性(関係)に起因する電析性を精度よく簡便に試験することができる。
【0023】
化成皮膜は、腐食因子がワークに触れるのを防ぐ役割を有する。また、電析物とワークとの密着性を向上させる役割も有する。化成皮膜としては、例えば、ジルコン化成皮膜やリン酸亜鉛皮膜等が挙げられる。
【0024】
上記センサの一実施形態では、上記金属シートは、自動車部材用鋼板と同じ金属材料からなる。これにより、実際のワークを用いなくてもワークに用いられる自動車部材用鋼板に対する電析物の電析性を精度よく簡便に試験することができる。なお、金属シートは、自動車ボディ等に用いられる自動車部材用鋼板の他、例えば、家電製品、建材等を製造するための鋼板と同じ金属材料であってもよい。
【0025】
ここに開示する電析性試験方法は、上記電析性試験用センサを用いる電析性試験方法であって、上記電析性試験用センサの上記センサ面を電解槽に設けられた対極と共に該電解槽内の電解液に浸漬させ、上記電解槽において、上記電析性試験用センサの上記リード線を介して該電析性試験用センサの上記金属シートと、上記対極との間に電圧を印加し、上記センサ面に露出した上記金属シートの端縁における上記リード線の接続部に対応する位置から該金属シートの端縁上に付着した電析物の析出距離を計測することを特徴とする。これによれば、上記電析性試験用センサが用いられているため、電析物の電析性試験が簡便なものとなる。
【0026】
ここに開示する電析性試験装置は、上記電析性試験用センサと、電解液を収容する電解槽と、上記電解槽に設けられた対極と、上記電解槽において、上記電析性試験用センサの上記センサ面が上記対極と共に電解液に浸漬された状態で、該電析性試験用センサの上記リード線を介して該電析性試験用センサの上記金属シートと、該対極との間に電圧を印加する電源部とを備えたことを特徴とする。これによれば、上記電析性試験方法を実施することにより、電析物の電析性試験が簡便なものとなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る電析性試験用センサによれば、試験設備が簡易なものになり、電析物の電析性を精度よく簡便に試験することができる。
【0028】
また、電析性試験の終了後、センサ面の研磨によって電析性試験用センサを再利用することができる。
【0029】
本発明に係る電析性試験方法及び試験装置によれば、本発明に係る電析性試験用センサが用いられているため、電析物の電析性試験が簡便なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態1に係る電析性試験用センサを示す斜視図。
図2】同電析性試験用センサのセンサ面を示す要部拡大図。
図3】同電析性試験用センサのセンサ本体の製造方法を示す説明図。
図4】実施形態1に係る電析性試験装置の概略構成を示す図。
図5】電析性試験後における同電析性試験用センサのセンサ面を示す平面図。
図6】通電時間に対する電析物がワークに付着した距離を示すグラフ図。
図7】実施形態2に係る電析性試験用センサを示す図1相当図。
図8】同電析性試験用センサのセンサ面を示す図5相当図。
図9】実施形態3に係る電析性試験用センサを示す図1相当図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0032】
<実施形態1>
(電析性試験用センサ)
図1乃至図5に本実施形態の電析性試験用センサ1を示す。この電析性試験用センサ1は、膜厚等を測定しなくても、このセンサ面4に露出した金属シート6の端縁における電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性を視覚的に評価することができるものである。
【0033】
なお、本明細書において、電析性とは、上述のごとく、電気分解によって電解質中から電析物が析出してワークに付着する性質を意味する。より具体的には、電解質や電解液自体の性質に起因する電析性の他、化成処理により表面に化成皮膜(図示省略)が形成されたワークに対する電析物の電析性(換言すると、化成皮膜と電析物との相性(関係)に起因する電析性)も含む。
【0034】
また、本明細書において、電析性に優れるとは、電気分解によって電解質中から電析物が析出しやすく、かつワーク(電極)に付着しやすいことを意味する。より具体的には、対極から離れていて電流密度が低いところにも電析物が析出し、ワークに付着することを意味する。さらに換言すると、図6に示すように、電析物がワークに付着した距離が長い(即ち、つきまわり性に優れる)ことを意味する(図6のA)。一方、図6のBは、図6のAよりも、電析物がワークに付着した距離が短いため、電析性に劣る。
【0035】
図1に示す本実施形態の電析性試験用センサ1において、2はセンサ本体であり、センサ本体2からリード線3が延びている。このセンサ本体2は、円筒状であって、その一方の端面がセンサ面4になっている。センサ本体2の周面、より具体的には、センサ面4に直交する周面及び他方の端面は包埋樹脂層5(エポキシ樹脂)で覆われている。
【0036】
図2にセンサ面4を示すように、センサ本体2は、金属シート6(Fe)が絶縁材としての樹脂フィルム7(ポリエステル)を挟んで渦巻き状に巻回された巻回型である。この巻回型の場合、金属シート6が連続しているから、金属シート6が樹脂フィルム7を挟んで積層され、且つ各々電気的に結合した状態になるように接続されたセンサ本体2が得られる。このセンサ本体2は、金属シート6の層が樹脂フィルム7の層を挟んで露出した露頭がセンサ面4を構成している。
【0037】
なお、図2において、金属シート6にハッチングを付けているが、このハッチングは、樹脂フィルム7と区別するために付けたものであって、断面を表しているのではない。
【0038】
図3に示すように、リード線3は、金属シート6の長手方向における巻き終わり側に接続されている。リード線3は、電析性試験をするときに、センサ本体2、より具体的には、少なくともセンサ本体2のセンサ面4が電解液に浸漬された状態で、金属シート6と対極との間に電圧を印加するためのものである。リード線3の種類は、特に限定されず、印加する電圧に応じて決定すればよい。リード線3を金属シート6に接続する方法としては、例えば、圧着工具による圧着、はんだ付け、導電性接着剤による接着等が挙げられる。
【0039】
金属シート6の大きさは、特に限定されず、試験対象となるワークの長手方向における長さに応じて決定すればよい。例えば、縦:1~5cm、横:数10cm~10m程度である。また、金属シート6の厚さは、例えば、20μmである。
【0040】
樹脂フィルム7の大きさは、特に限定されず、金属シート6の大きさと略同一となるように決定すればよい。また、樹脂フィルム7の厚さは、例えば、20μmである。
【0041】
(電析性試験用センサの製造方法)
電析性試験用センサ1は、例えば、以下のようにして製造することができる。図3に示すように、最初に、リード線3を金属シート6の長手方向における巻き終わり側に圧着固定する。次いで、この金属シート6の上に、樹脂フィルム7を重ね、その状態でこれを渦巻き状に巻回していくことにより、センサ本体2を形成する。得られたセンサ本体2を包埋樹脂層5の原料となる樹脂溶液に浸漬させ、この樹脂溶液を硬化させる。最後に、センサ面4が露出するように樹脂を研磨することにより、センサ本体2の周面に包埋樹脂層5を形成することができる。
【0042】
以上のようにして得られる電析性試験用センサ1は、センサ本体2が巻回型の積層体で構成されているから、センサ本体2が小型化になり、試験設備が簡易なものとなる。より具体的には、例えば、厚みが20μm、長手方向における長さが6mの金属シート6及び樹脂フィルム7を用いる場合、得られる電析性試験用センサ1のセンサ面4における直径は3cm程度である。
【0043】
図4に示すように、電析性試験用センサ1のセンサ面4が対極12と共に電解液14に浸漬され、リード線3を介して金属シート6と対極12との間に直流電圧が印加される。これにより、センサ面4に露出した金属シート6の端縁における電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性を視覚的に評価することができる。即ち、この析出距離が長いほど、電析性に優れることがわかる。
【0044】
(電析性試験装置)
図4に示すように、本実施形態の電析性試験装置10は、電析性試験用センサ1と、電解槽11と、対極12と、電源部13とを備える。この電析性試験装置10は、センサとして本実施形態の電析性試験用センサ1が用いられているため、膜厚等を測定しなくても、電析物の電析性を容易に試験することができるものである。より具体的には、例えば、電析性試験用センサ1のリード線3を介して接続された電析性試験用センサ1の金属シート6を陰極とし、電解槽11に設けられた対極12を陽極とするカチオン電着塗装における電析物の電析性を試験するものである。
【0045】
電解槽11は、電解液を収容する容器であり、電析性試験用センサ1のセンサ面4と、対極12とを離間して配置可能な容器であればよい。
【0046】
電解液14は、電析させる成分を含む溶液であり、例えば、電着塗料やメッキ液等が挙げられる。
【0047】
対極12は、電解槽11に設けられており、リード線3を介して金属シート6と、対極12との間に電圧を印加するためのものであり、例えば、炭素電極、白金電極等が挙げられる。対極12は、電析性試験用センサ1のセンサ面4とは離間して配置され、両者の間には両者を各々接触させる電解質材料としての電解液14が満たされている。
【0048】
電源部13は、電解槽11において、電析性試験用センサ1のセンサ面4が対極12と共に電解液14に浸漬された状態で、リード線3を介して金属シート6と対極12との間に電圧を所定時間印加するものである。例えば、電圧/電流の印加法として制御可能なポテンショ/ガルバノスタット等を使用することができる。印加する電圧は、金属シート6、電解液14等の種類によって決定すればよく、例えば、数V~数百V程度の直流電圧である。電圧を印加する時間は、金属シート6、電解液14等の種類によって決定すればよく、例えば、1分~1時間程度である。
【0049】
(電析性試験方法)
本実施形態の電析性試験方法では、本実施形態の電析性試験用センサ1を用いる。図4に示す電析性試験装置10を用いて、電析性試験を行う方法を以下に説明する。
【0050】
最初に、電析性試験用センサ1のセンサ面4を対極12と共に電解槽11内の電解液14に浸漬させる。このとき、上述のごとく、センサ面4と対極12とは離間して配置させる。
【0051】
次いで、電解槽11において、電析性試験用センサ1のリード線3を介して該センサ1の金属シート6と、対極12との間に電圧を所定時間印加する。これにより、電解質中から該センサ1のセンサ面4に露出した金属シート6の端縁上に電析物を析出させる。
【0052】
最後に、電析性試験用センサ1を電解槽11から取り出して水洗いし、センサ面4に付着した水分を除去した後、このセンサ面4に露出した金属シート6の端縁上に付着した電析物の析出距離を以下のようにして計測する。
【0053】
図5に示すように、センサ面4に露出した金属シート6の端縁において、電解質中から析出した電析物の付着(図5に示す点線)は、リード線3の接続部に対応する位置6a(巻き終わり側)から該端縁に沿って、該端縁上を巻き始め側の位置6bに向かって進行する。換言すると、センサ面4に露出した金属シート6の端縁上への電析物の付着は、該端縁における対極12に近く電流密度が高くなる位置(6a)から対極12から遠く電流密度が低くなる位置(6b)に向かって進行する。
【0054】
この場合、本実施形態の電析性試験用センサ1は、上述のごとく、金属シート6が樹脂フィルム7を挟んで渦巻き状に巻回されているため、センサ面4に露出した金属シート6の端縁における渦巻きの外縁から渦巻きの軸中心に向かって進行した電析物の析出距離(図5に示す矢印)を視覚的に評価することができる。従って、膜厚等を測定しなくても、センサ面4に露出した金属シート6の端縁における電析物の析出距離に基づいて電析物の電析性を精度よく簡便に試験することができる。
【0055】
電析物の析出距離を計測する方法は、特に限定されず、目視の他、定規等を用いる方法等が挙げられる。
【0056】
なお、本実施形態では、リード線3は、金属シート6の長手方向における巻き終わり側に接続されているが、巻き始め側に接続されていてもよい。この場合、センサ面4に露出した金属シート6の端縁上への電析物の付着は、該端縁におけるリード線3の接続部に対応する位置6bから巻き終わり側の位置6aに向かって進行する。
【0057】
<実施形態2>
(電析性試験用センサ)
図7乃至図8に本実施形態に係る電析性試験用センサ1を示す。本実施形態は、金属シート6及び樹脂フィルム7の構成が実施形態1と異なっているが、その他の点については、実施形態1と同様の構成である。そこで、以下の説明では、実施形態1の構成要素と同様の構成要素については、重複説明を省略する場合がある。また、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0058】
図7及び図8に示すように、センサ本体2は、金属シート6が樹脂フィルム7を挟んでつづら折り状に折り畳まれた折り畳み型である。より具体的には、つづら折り状に折り畳まれた金属シート6の両側から複数枚の樹脂フィルム7が1枚ずつ挟み込まれてセンサ本体2が形成されている。
【0059】
この折り畳み型の場合、実施形態1の巻回型と同様に、金属シート6が連続しているから、金属シート6が樹脂フィルム7を挟んで積層され、且つ各々電気的に結合した状態になるように接続されたセンサ本体2が得られる。
【0060】
リード線3は、金属シート6の長手方向における一端に接続されている。その他の構成は、実施形態1と同様である。従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果が奏される。
【0061】
(電析性試験方法)
本実施形態の電析性試験用センサ1を用いた電析性試験を行なう方法では、電析物の析出距離を計測する方法が実施形態1と異なる。
【0062】
即ち、図8に示すように、センサ面4に露出した金属シート6の端縁において、電解質中から析出した電析物の付着(図8に示す点線)は、リード線3の接続部(一端)に対応する位置6c(図8では下側)から該端縁に沿って、該端縁上を他端6d(図8では上側)に向かって進行する。換言すると、センサ面4に露出した金属シート6の端縁上への電析物の付着は、該端縁における対極12に近く電流密度が高くなる位置(6c)から対極12から遠く電流密度が低くなる位置(6d)に向かって進行する。
【0063】
この場合、本実施形態の電析性試験用センサ1は、上述のごとく、金属シート6が樹脂フィルム7を挟んでつづら折り状に折り畳まれているので、センサ面4に露出した金属シート6の端縁におけるリード線3の接続部(一端)に対応する位置6cから他端6dに向かって進行した電析物の析出距離(図8に示す矢印)を視覚的に評価することができる。従って、本実施形態によれば、実施形態1と同様の効果が得られる。
【0064】
<実施形態3>
(電析性試験用センサ)
図9に本実施形態に係る電析性試験用センサ1を示す。本実施形態は、金属シート6の構成が実施形態2と異なっているが、その他の点については、実施形態2と同様の構成である。そこで、以下の説明では、実施形態2の構成要素と同様の構成要素については、重複説明を省略する場合がある。また、実施形態2と同様の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0065】
図9に示すように、センサ本体2は、複数枚の金属シート6が樹脂フィルム7を挟んで積層された単純積層型である。積層された金属シート6は、1本のリード線3により直列に接続されており、且つ各々電気的に結合した状態になっている。その他の構成は、実施形態2と同様である。従って、本実施形態によれば、実施形態2と同様の効果が得られる。
【0066】
<実施形態4>
(電析性試験用センサ)
本実施形態は、金属シート6の構成が実施形態1と異なっているが、その他の点については、実施形態1と同様の構成である。そこで、以下の説明では、実施形態1の構成要素と同様の構成要素については、重複説明を省略する場合がある。
【0067】
本実施形態では、電析性試験用センサ1のセンサ面4に露出した金属シート6の端縁に化成皮膜(図示省略)が形成されている。その他の構成は、実施形態1と同様である。
【0068】
本実施形態によれば、実施形態1で得られる効果に加えて、化成処理により表面に化成皮膜が形成された金属シート(ワーク)に対する電析物の電析性、換言すると化成皮膜と電析物との相性(関係)に起因する電析性を精度よく簡便に試験することができる。
【0069】
(電析性試験用センサの製造方法)
本実施形態の電析性試験用センサ1は、このセンサ面4に露出した金属シート6の端縁に一般に使用される化成処理を施すことにより、化成皮膜を形成させること以外は、実施形態1と同様にして、製造することができる。
【0070】
<その他の実施形態>
上記各実施形態では、金属シート6にリード線3が接続されているが、金属シート6に金属端子等が接続され、この金属端子にリード線3が接続されていてもよい。
【0071】
上記各実施形態では、センサ本体2の周面が包埋樹脂層5で覆われているが、金属シート6及び樹脂フィルム7の積層状態を保持することができればよく、例えば、接着剤や粘着テープ等で上記積層状態を保持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 電析性試験用センサ
2 センサ本体
3 リード線
4 センサ面
5 包埋樹脂層
6 金属シート
7 樹脂フィルム(絶縁材)
10 電析性試験装置
11 電解槽
12 対極
13 電源部
14 電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9