(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】圧縮着火式エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 13/02 20060101AFI20220524BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20220524BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20220524BHJP
F02B 11/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
F02D13/02 D
F02D13/02 H
F02D13/02 J
F02D13/02 Z
F02D23/00 H
F02D23/00 K
F02D43/00 301B
F02D43/00 301R
F02D43/00 301Z
F02D43/00 301E
F02B11/00 B
(21)【出願番号】P 2018097821
(22)【出願日】2018-05-22
【審査請求日】2021-04-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】井上 淳
(72)【発明者】
【氏名】末岡 賢也
(72)【発明者】
【氏名】丸山 慶士
(72)【発明者】
【氏名】大浦 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西田 智博
(72)【発明者】
【氏名】河合 佑介
(72)【発明者】
【氏名】近田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】徳永 達広
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6249667(JP,B2)
【文献】特開2014-152619(JP,A)
【文献】特開2011-047378(JP,A)
【文献】特開2003-090239(JP,A)
【文献】特開2012-246783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
F02D 23/00
F02D 43/00
F02B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気筒と、吸気通路および排気通路と、前記吸気通路と前記気筒とを連通する吸気ポートと、前記吸気ポートを開閉する吸気弁と、前記排気通路と前記気筒とを連通する排気ポートと、前記排気ポートを開閉する排気弁と、前記気筒に燃料を噴射するインジェクタと、前記インジェクタから噴射された燃料と空気とが混合された混合気に点火する点火プラグとを備え、前記混合気の一部を前記点火プラグを用いた火花点火によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が可能な圧縮着火式エンジンを制御する装置であって、
前記吸気弁の開弁時期および閉弁時期を同時に変更する位相式の吸気可変機構と、
前記吸気可変機構、前記点火プラグを含むエンジンの各部を制御する燃焼制御部とを備え、
前記燃焼制御部は、
エンジンの高負荷域および高速域を除く特定領域において、前記気筒内に既燃ガスが残留し且つ当該気筒内の空気と燃料との割合である空燃比が理論空燃比近傍となるG/Fリーン環境が形成されるように前記吸気可変機構を制御しつつ、混合気が前記部分圧縮着火燃焼により燃焼するように所定のタイミングで前記点火プラグに火花点火を行わせ
、
前記特定領域の中でもエンジン負荷が低い領域を第1運転領域、前記特定領域に含まれ且つ前記第1運転領域よりもエンジン負荷が高い領域を第2運転領域、前記特定領域に含まれ且つ前記第2運転領域よりもエンジン負荷が高い領域を第3運転領域としたとき、前記燃焼制御部は、
前記第2運転領域での運転時、エンジン負荷が同じ条件下で、エンジン回転速度が
所定の第2閾値より高い
領域では低い
領域に比べて前記吸気弁の閉弁時期が吸気下死点よりも遅角側の範囲で遅角されつつ前記吸気弁の開弁時期が排気上死点よりも進角側の範囲で遅角されるように、且つ、エンジン回転速度が
前記第2閾値より高い領域における前記吸気弁の開弁時期のエンジン回転速度に対する変化率の方がエンジン回転速度が
前記第2閾値より低い領域における当該変化率よりも大きくなるように、前記吸気可変機構を制御
し、
前記第1運転領域での運転時、エンジン回転速度が所定の第1閾値より高い高速領域において、エンジン負荷が同じ条件下で、エンジン回転速度が高いほど前記吸気弁の閉弁時期が遅角されるように前記吸気可変機構を制御するとともに、
前記第1運転領域での運転時、エンジン回転速度が前記第1閾値より低い低速領域において、当該低速領域の中間に設定された特定のエンジン回転速度における前記吸気弁の閉弁時期が当該低速領域の他のエンジン回転速度における前記吸気弁の閉弁時期よりも遅角側の特定時期となるように前記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、
前記第2運転領域のうちエンジン回転速度が
前記第2閾値より低い領域において前記吸気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず一定の時期とされるように、前記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記
第1運転領域での運転時、前記低速領域において、エンジン回転速度が前記特定のエンジン回転速度以下のときは、前記吸気弁の閉弁時期が前記特定時期に向けてエンジン回転速度の増大に伴って遅角され、且つ、エンジン回転速度が前記特定のエンジン回転速度以上のときは、前記吸気弁の閉弁時期が前記特定時期に向けてエンジン回転速度の減少に伴って遅角されるように、前記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記排気弁の閉弁時期を変更する排気可変機構をさらに備え、
前記燃焼制御部は、前記
第1運転領域での運転時、前記低速領域において前記排気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず略一定の時期とされるように、前記排気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記燃焼制御部は、前記
第1運転領域での運転時、少なくとも前記低速領域よりもエンジン回転速度が高い領域において、エンジン回転速度が高い
ほど前記排気弁の閉弁時期が排気上死点よりも遅角側の範囲で進角されるように、前記排気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
前記気筒に導入される吸気を過給する過給機と、
前記過給機の状態を、当該過給機が吸気を過給する過給状態と吸気を過給しない非過給状態とに切り替える過給切替機構とをさらに備え、
前記燃焼制御部は、
前記
第1運転領域での運転時、前記過給機の状態が前記非過給状態となるように前記過給切替機構を制御し、
前記第3運転領域での運転時、前記過給機の状態が前記過給状態となるように前記過給切替機構を制御するとともに、前記吸気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず一定の時期とされるように前記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合気の一部を火花点火によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が可能な圧縮着火式エンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空気と混合されたガソリン燃料を十分に圧縮された燃焼室内で自着火により燃焼させるHCCI燃焼が注目されている。HCCI燃焼は、火炎伝播を介さず混合気が同時多発的に燃焼する形態であるため、通常のガソリンエンジンにおいて採用されるSI燃焼(火花点火燃焼)に比べて、混合気の燃焼速度が速く、熱効率の面で非常に有利だと言われている。しかしながら、熱効率向上が求められる自動車のエンジンにおいては、様々な課題を解決する必要があり、適切なHCCI燃焼により稼働されるエンジンは未だ実用化されていない。すなわち、自動車に搭載されるエンジンは、その運転状態及び環境条件が大きく変化するのに対して、HCCI燃焼は、気温などの外部因子により混合気の燃焼開始時期(混合気が自着火する時期)が大きく変動するなどの問題があり、また、負荷が急変するような過渡運転時の制御が難しいという問題がある。
【0003】
そこで、混合気の全てを自着火により燃焼させるのではなく、混合気の一部については点火プラグを用いた火花点火により燃焼させることが提案されている。すなわち、火花点火をきっかけに混合気の一部を火炎伝播により強制的に燃焼(SI燃焼)させ、その他の混合気を自着火により燃焼(CI燃焼)させるのである。以下では、このような燃焼のことをSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼という。
【0004】
上記SPCCI燃焼に類似したコンセプトを採用したエンジンの一例として、下記特許文献1のものが知られている。この特許文献1のエンジンは、補助燃料噴射によって点火プラグ(点火栓)周りに形成された成層混合気を火花点火により火炎伝播燃焼させるとともに、当該燃焼(火炎)の作用により高温化された燃焼室に主燃料噴射を行い、この主燃料噴射により噴射された燃料を自着火により燃焼させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなSPCCI燃焼におけるCI燃焼は、筒内温度(気筒内の温度)が混合気の組成により定まる混合気の着火温度に到達したときにおこる。圧縮上死点付近で筒内温度が着火温度に到達してCI燃焼が起これば燃費効率を最大化出来る。筒内温度は、筒内圧力の上昇に応じて高くなる。SPCCI燃焼が実施される場合の圧縮行程での筒内圧力(気筒内の圧力)は、ピストンの圧縮仕事と、SI燃焼の燃焼エネルギーによって高められる。そのため、SI燃焼の火炎伝播が安定しないと、SI燃焼に起因する筒内圧力および筒内温度の上昇量が小さくなり、筒内温度を着火温度まで高めるのが困難になる。筒内温度が十分に着火温度まで上昇しないと、CI燃焼する混合気量が少なくなって多くの混合気が燃焼期間の長い火炎伝播で燃焼する、あるいはピストンが相当下がった時点でCI燃焼が起こる結果、燃費効率は低下してしまう。このように、安定してCI燃焼を生じさせて燃費効率を最大化するためには、SI燃焼の火炎伝播を安定させることが重要となる。
【0007】
これに対して、高温の既燃ガスを気筒内に残留させることで、SI燃焼の火炎伝播を安定させることが考えられる。しかし、気筒内に既燃ガスが過度に残留していると、既燃ガスによって火炎伝播が遅くなり、膨張行程においてピストンが相当下がった時点でCI燃焼が起こることで燃費効率の低下を招くおそれもある。
【0008】
このように、SPCCI燃焼は、新しい燃焼方式であるため、適切なSPCCI燃焼を確実に実現できる構成はこれまで見出されていなかった。
【0009】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、適切な部分圧縮着火燃焼をより確実に実現可能な圧縮着火式エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、前記課題を解決するために、様々なエンジン回転速度においてSPCCI燃焼を生じさせながら吸気弁の開弁時期と閉弁時期とを同時に変更して、位相式の吸気可変機構のより適切な制御について鋭意検討した。その結果、エンジン回転速度が高い側では吸気弁の開閉時期を遅角させるとともに、吸気弁の開閉時期のエンジン回転数に対する変化率をエンジン回転速度が高い領域の方が低い領域よりも大きくなるようにすることにより、広いエンジン回転速度範囲で、適切なSPCCI燃焼を実現できることを見出した。
【0011】
本発明は、この知見に基づいたものであり、気筒と、吸気通路および排気通路と、前記吸気通路と前記気筒とを連通する吸気ポートと、前記吸気ポートを開閉する吸気弁と、前記排気通路と前記気筒とを連通する排気ポートと、前記排気ポートを開閉する排気弁と、前記気筒に燃料を噴射するインジェクタと、前記インジェクタから噴射された燃料と空気とが混合された混合気に点火する点火プラグとを備え、前記混合気の一部を前記点火プラグを用いた火花点火によりSI燃焼させるとともにその他の混合気を自着火によりCI燃焼させる部分圧縮着火燃焼が可能な圧縮着火式エンジンを制御する装置であって、前記吸気弁の開弁時期および閉弁時期を同時に変更する位相式の吸気可変機構と、前記吸気可変機構、前記点火プラグを含むエンジンの各部を制御する燃焼制御部とを備え、前記燃焼制御部は、エンジンの高負荷域および高速域を除く特定領域において、前記気筒内に既燃ガスが残留し且つ当該気筒内の空気と燃料との割合である空燃比が理論空燃比近傍となるG/Fリーン環境が形成されるように前記吸気可変機構を制御しつつ、混合気が前記部分圧縮着火燃焼により燃焼するように所定のタイミングで前記点火プラグに火花点火を行わせ、前記特定領域の中でもエンジン負荷が低い領域を第1運転領域、前記特定領域に含まれ且つ前記第1運転領域よりもエンジン負荷が高い領域を第2運転領域、前記特定領域に含まれ且つ前記第2運転領域よりもエンジン負荷が高い領域を第3運転領域としたとき、前記燃焼制御部は、前記第2運転領域での運転時、エンジン負荷が同じ条件下で、エンジン回転速度が所定の第2閾値より高い領域では低い領域に比べて前記吸気弁の閉弁時期が吸気下死点よりも遅角側の範囲で遅角されつつ前記吸気弁の開弁時期が排気上死点よりも進角側の範囲で遅角されるように、且つ、エンジン回転速度が前記第2閾値より高い領域における前記吸気弁の開弁時期のエンジン回転速度に対する変化率の方がエンジン回転速度が前記第2閾値より低い領域における当該変化率よりも大きくなるように、前記吸気可変機構を制御し、前記第1運転領域での運転時、エンジン回転速度が所定の第1閾値より高い高速領域において、エンジン負荷が同じ条件下で、エンジン回転速度が高いほど前記吸気弁の閉弁時期が遅角されるように前記吸気可変機構を制御するとともに、前記第1運転領域での運転時、エンジン回転速度が前記第1閾値より低い低速領域において、当該低速領域の中間に設定された特定のエンジン回転速度における前記吸気弁の閉弁時期が当該低速領域の他のエンジン回転速度における前記吸気弁の閉弁時期よりも遅角側の特定時期となるように前記吸気可変機構を制御する、ことを特徴とする(請求項1)。
【0012】
本発明によれば、第2運転領域での運転時に、G/Fリーン環境下での部分圧縮着火燃焼を実施しつつ、エンジン回転速度が高いときは低いときに比べて吸気弁の閉弁時期が吸気下死点よりも遅角側の範囲で遅角される。そのため、エンジン回転速度が高いときに、吸気の慣性を利用して、気筒内に導入される空気の量を多く確保してSI燃焼の安定性を高めことができる。従って、気筒内に既燃ガスを残留させ且つ気筒内の混合気の空燃比を理論空燃比近傍としつつ、適切なSPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)を実現して燃費性能を高めることができる。
【0013】
一方、エンジン回転速度が低いときであって単位時間あたりの燃焼回数が少ないことに伴って気筒内の温度が低くなりやすいときは、吸気弁の開弁時期が排気上死点に対してより進角側の時期とされることで、気筒内に残留する既燃ガスの量を多く確保することができ、気筒内の温度を適切に高めてSI燃焼の安定性を良好にすることができる。具体的には、吸気弁の開弁時期を排気上死点よりも進角側の時期とすれば、気筒内から吸気ポートに既燃ガスをいったん導出させた後気筒に再流入させることができる。そして、吸気弁の開弁時期の排気上死点からの進角量が多い方がこの再流入する既燃ガスの量は多くなる。従って、前記のように構成することで、エンジン回転速度が低いときに気筒に導入される高温の既燃ガスの量を多くすることができる。
【0014】
ただし、エンジン回転速度が低いときに吸気弁の開弁時期を過度に進角させると、気筒内の既燃ガスの量が過大となってSI燃焼の安定性がかえって悪化するおそれがある。これに対して、エンジン回転速度が低いときは、吸気弁の開弁時期の変化率が小さく抑えられて吸気弁の開弁時期が過度に進角側になるのが防止されるため、SI燃焼の安定性を確実に良好にでき、これにより確実に適切なCI燃焼およびSPCCI燃焼を実現できる。
ここで、エンジン負荷が比較的低く且つエンジン回転速度が低い領域では、当該領域の中間のエンジン回転速度で吸気弁の閉弁時期を遅角側の時期とした方が、空気量を適切に気筒内に導入できることが分かった。これは、吸気の脈動等の影響によると考えられる。これに対し、本発明では、第2運転領域よりもエンジン負荷の低い第1運転領域における低速領域において、特定のエンジン回転速度における吸気弁の閉弁時期が当該低速領域の他のエンジン回転速度における吸気弁の閉弁時期よりも遅角側に設定される。このため、当該第1運転領域においても、燃焼安定性を高めることができるとともに気筒内に適切な量の空気を導入できる。
【0015】
前記構成において、前記燃焼制御部は、前記第2運転領域のうちエンジン回転速度が前記第2閾値より低い領域において前記吸気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず一定の時期とされるように、前記吸気可変機構を制御するのが好ましい(請求項2)。
【0016】
このようにすれば、エンジン回転速度が低いときに気筒内の既燃ガスの量が過大となるのをより確実に防止して、燃焼安定性を確実に良好にすることができる。
【0019】
前記構成において、前記燃焼制御部は、前記第1運転領域での運転時、前記低速領域において、エンジン回転速度が前記特定のエンジン回転速度以下のときは、前記吸気弁の閉弁時期が前記特定時期に向けてエンジン回転速度の増大に伴って遅角され、且つ、エンジン回転速度が前記特定のエンジン回転速度以上のときは、前記吸気弁の閉弁時期が前記特定時期に向けてエンジン回転速度の減少に伴って遅角されるように、前記吸気可変機構を制御する、のが好ましい(請求項3)。
【0020】
このようにすれば、特定のエンジン回転速度近傍においてのみ局所的に吸気弁の閉弁時期を遅角させた場合と比較して、エンジン回転速度に対して吸気弁の閉弁時期が急変するのを防止でき、吸気弁の閉弁時期の制御性を良好にできる。
【0021】
前記構成において、前記排気弁の閉弁時期を変更する排気可変機構をさらに備え、前記燃焼制御部は、前記第1運転領域での運転時、前記低速領域において前記排気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず略一定の時期とされるように、前記排気可変機構を制御する、のが好ましい(請求項4)。
【0022】
このようにすれば、排気弁の制御性を良好にできる。
【0023】
前記構成において、前記燃焼制御部は、前記第1運転領域での運転時、少なくとも前記低速領域よりもエンジン回転速度が高い領域において、エンジン回転速度が高いほど前記排気弁の閉弁時期が排気上死点よりも遅角側の範囲で進角されるように、前記排気可変機構を制御する、のが好ましい(請求項5)。
【0024】
このようにすれば、第1運転領域において、エンジン回転速度が特に高いときに排気ポートに流出した後気筒に再流入する既燃ガスの量を少なく抑えることができ、既燃ガスの量が過度に多くなって空気の導入が阻害されるのを防止できる。また、第1運転領域において、エンジン回転速度が比較的低いときに、既燃ガスの量を多くして気筒内の温度を適切に高めて燃焼安定性をより確実に高めることができる。
【0025】
前記構成において、前記気筒に導入される吸気を過給する過給機と、前記過給機の状態を、当該過給機が吸気を過給する過給状態と吸気を過給しない非過給状態とに切り替える過給切替機構とをさらに備え、前記燃焼制御部は、前記第1運転領域での運転時、前記過給機の状態が前記非過給状態となるように前記過給切替機構を制御し、前記第3運転領域での運転時、前記過給機の状態が前記過給状態となるように前記過給切替機構を制御するとともに、前記吸気弁の閉弁時期がエンジン回転速度によらず一定の時期とされるように前記吸気可変機構を制御する、のが好ましい(請求項6)。
【0026】
この構成によれば、第3運転領域において、吸気弁の制御性を良好にしつつ、過給によって気筒内に高いエンジン負荷に対応した多量の空気を導入することができる。ここで、過給が行われると、吸気弁を排気上死点よりも進角側の時期で開弁させても既燃ガスが気筒から吸気ポートへ流出するのが抑制されて気筒に残留する既燃ガスの量が低減しやすい。これに対して、エンジン負荷が低い第1運転領域では過給が停止され、且つ、前記のように吸気弁が排気上死点よりも進角側の時期とされるので、気筒内に残留する既燃ガスの量を確保することができ、これにより気筒内の温度を高めて燃焼安定性を高めることができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明の圧縮着火式エンジンの制御装置によれば、適切な部分圧縮着火燃焼を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧縮着火式エンジンの全体構成を概略的に示すシステム図である。
【
図2】エンジン本体の断面図とピストンの平面図とを併せて示した図である。
【
図3】気筒およびその近傍の吸排気系の構造を示す概略平面図である。
【
図4】エンジンの制御系統を示すブロック図である。
【
図5】エンジンの暖機の進行度合いとエンジンの回転速度/負荷とに応じた制御の相違を説明するための運転マップであり、(a)が温間時に使用される第1運転マップ、(b)が半暖機時に使用される第2運転マップ、(c)が冷間時に使用される第3運転マップをそれぞれ示している。
【
図6】上記第1~第3運転マップから適切なマップを選択するための手順を示すフローチャートである。
【
図7】SPCCI燃焼(部分圧縮着火燃焼)時の熱発生率の波形を示すグラフである。
【
図8】各領域で実行される燃焼制御を概略的に説明するためのタイムチャートである。
【
図9】半暖機第1領域において設定される吸気弁の開弁時期の具体例を三次元マップで示した図である。
【
図10】半暖機第1領域において設定される排気弁の閉弁時期の具体例を三次元マップで示した図である。
【
図11】温間第1領域において設定される吸気弁の開弁時期の具体例を三次元マップで示した図である。
【
図12】温間第1領域において設定される排気弁の閉弁時期の具体例を三次元マップで示した図である。
【
図13】
図5(a)の一部であって半暖機第1領域の部分を拡大して示した図である。
【
図14】半暖機第1領域の各エンジン負荷において設定されるエンジン回転速度と吸気弁の開弁時期との関係を示したグラフである。
【
図15】半暖機第1領域の各エンジン負荷において設定されるエンジン回転速度と吸気弁の閉弁時期との関係を示したグラフである。
【
図16】半暖機第1領域の各エンジン負荷において設定されるエンジン回転速度と排気弁の閉弁時期との関係を示したグラフである。
【
図17】半暖機第1領域での吸気弁と排気弁のバルブリフトの関係を示した図である。
【
図18】SI率の種々の定義方法を説明するための
図7相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(1)エンジンの全体構成
図1および
図2は、本発明の制御装置が適用された圧縮着火式エンジン(以下、単にエンジンという)の好ましい実施形態を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載された4サイクルのガソリン直噴エンジンであり、エンジン本体1と、エンジン本体1に導入される吸気が流通する吸気通路30と、エンジン本体1から排出される排気ガスが流通する排気通路40と、排気通路40を流通する排気ガスの一部を吸気通路30に還流する外部EGR装置50を備えている。
【0032】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、気筒2を上から閉塞するようにシリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン5とを有している。エンジン本体1は、典型的には複数の(例えば4つの)気筒を有する多気筒型のものであるが、ここでは簡略化のため、1つの気筒2のみに着目して説明を進める。
【0033】
ピストン5の上方には燃焼室6が画成されており、この燃焼室6には、ガソリンを主成分とする燃料が、後述するインジェクタ15からの噴射によって供給される。そして、供給された燃料が燃焼室6で空気と混合されつつ燃焼し、その燃焼による膨張力で押し下げられたピストン5が上下方向に往復運動する。なお、燃焼室6に噴射される燃料は、主成分としてガソリンを含有していればよく、例えばガソリンに加えてバイオエタノール等の副成分を含んでいてもよい。
【0034】
ピストン5の下方には、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7が設けられている。クランク軸7は、ピストン5とコネクティングロッド8を介して連結され、ピストン5の往復運動(上下運動)に応じて中心軸回りに回転駆動される。
【0035】
気筒2の幾何学的圧縮比、つまりピストン5が上死点にあるときの燃焼室6の容積とピストン5が下死点にあるときの燃焼室の容積との比は、後述するSPCCI燃焼に好適な値として、13以上30以下、好ましくは14以上18以下に設定される。より詳しくは、気筒2の幾何学的圧縮比は、オクタン価が91程度のガソリン燃料を使用するレギュラー仕様の場合に14以上17以下に設定し、オクタン価が96程度のガソリン燃料を使用するハイオク仕様の場合に15以上18以下に設定するのが好ましい。
【0036】
シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角)およびクランク軸7の回転速度(エンジン回転速度)を検出するクランク角センサSN1と、シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部を流通する冷却水の温度(エンジン水温)を検出する水温センサSN2とが設けられている。
【0037】
シリンダヘッド4には、燃焼室6に開口して吸気通路30と連通する吸気ポート9と、燃焼室6に開口して排気通路40と連通する排気ポート10と、吸気ポート9を開閉する吸気弁11と、排気ポート10を開閉する排気弁12とが設けられている。なお、当実施形態のエンジンのバルブ形式は、
図2に示すように、吸気2バルブ×排気2バルブの4バルブ形式である。すなわち、吸気ポート9は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bを有しており、排気ポート10は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bを有している(
図3参照)。吸気弁11は、第1吸気ポート9Aおよび第2吸気ポート9Bに対しそれぞれ1つずつ設けられ、排気弁12は、第1排気ポート10Aおよび第2排気ポート10Bに対しそれぞれ1つずつ設けられている。
【0038】
図3に示すように、第2吸気ポート9Bには開閉可能なスワール弁18が設けられている。スワール弁18は、第2吸気ポート9Bにのみ設けられており、第1吸気ポート9Aには設けられていない。このようなスワール弁18が閉方向に駆動されると、スワール弁18が設けられていない第1吸気ポート9Aから燃焼室6に流入する吸気の割合が増大するため、気筒軸線Z(燃焼室6の中心軸)の回りを旋回する旋回流、つまりスワール流を強化することができる。逆に、スワール弁18を開方向に駆動すればスワール流を弱めることができる。なお、当実施形態の吸気ポート9はタンブル流(縦渦)を形成可能なタンブルポートである。このため、スワール弁18の閉時に形成されるスワール流は、タンブル流とミックスされた斜めスワール流となる。
【0039】
吸気弁11および排気弁12は、シリンダヘッド4に配設された一対のカム軸等を含む動弁機構13,14により、クランク軸7の回転に連動して開閉駆動される。
【0040】
吸気弁11用の動弁機構13には、吸気弁11の開閉時期を変更可能な吸気VVT13aが内蔵されている。同様に、排気弁12用の動弁機構14には、排気弁12の開閉時期を変更可能な排気VVT14aが内蔵されている。吸気VVT13a(排気VVT14a)は、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期を同時にかつ同量だけ変更する。つまり、吸気弁11(排気弁12)の開弁時期および閉弁時期は、その開弁期間が一定に維持された状態で変更される。上記のような吸気VVT13aは請求項にいう「吸気可変機構」に相当し、排気VVT14aは請求項にいう「排気可変機構」に相当する。
【0041】
吸気弁11の開弁時期は、排気上死点(TDC)よりも進角側の所定時期と、排気上死点(TDC)よりも遅角側の所定時期との間で変更可能となっている。吸気弁11の開弁期間は、吸気弁11の開弁時期IVOを最進角時期(とり得る時期のうち最も進角側の時期)としたときに、吸気弁11の閉弁時期IVCが吸気下死点(BDC)よりも遅角側の時期となるように設定されている。これに伴い、吸気弁11の閉弁時期IVCは、吸気下死点(BDC)よりも遅角側の範囲で変更される。排気弁12の開弁時期EVOは、排気上死点(TDC)よりも進角側の所定時期と、排気上死点(TDC)よりも遅角側の所定時期との間で変更可能となっている。
【0042】
なお、本明細書および請求項における吸気弁11(排気弁12)の開弁時期とは、そのリフト量が0より大きくなる時期ではなく、吸気弁11(排気弁12)を介した吸気ポート9(排気ポート)と燃焼室6との間でのガスの流れが実質的に可能になり始める時期をいう。具体的には、吸気弁11(排気弁12)のリフト量は、着座している状態から概ね一定の速度で上昇した後(いわゆるランプ部を過ぎた後)、急激に立ち上がるようになっており、本明細書および請求項における吸気弁11(排気弁12)の開弁時期は、このリフト量が急激に立ち上がる時期をいう。この時期は、例えば、吸気弁11(排気弁12)のリフト量が0.14mm程度となる時期である。同様に、本明細書および請求項における吸気弁11(排気弁12)の閉弁時期とは、吸気弁11(排気弁12)のリフト量が0となる時期ではなく、吸気弁11(排気弁12)を介した吸気ポート9(排気弁ポート)と燃焼室6との間でのガスの流れが実質的に停止する時期をいう。具体的には、吸気弁11(排気弁12)のリフト量は、比較的急速に低下した後、0に向けて概ね一定の速度で緩やかに低下するようになっており(いわゆるランプ部が設定されており)、本明細書および請求項における吸気弁11(排気弁12)の開弁時期は、このリフト量が0に向けて一定の速度で低下し始める時期をいう。この時期は、例えば、吸気弁11(排気弁12)のリフト量が0.14mm程度となる時期である。
【0043】
シリンダヘッド4には、燃焼室6に燃料(主にガソリン)を噴射するインジェクタ15と、インジェクタ15から燃焼室6に噴射された燃料と燃焼室6に導入された空気とが混合された混合気に点火する点火プラグ16とが設けられている。シリンダヘッド4には、さらに、燃焼室6の圧力(以下、筒内圧力ともいう)を検出する筒内圧センサSN3が設けられている。
【0044】
図2に示すように、ピストン5の冠面には、その中央部を含む比較的広い領域をシリンダヘッド4とは反対側(下方)に凹陥させたキャビティ20が形成されている。また、ピストン5の冠面におけるキャビティ20よりも径方向外側には、円環状の平坦面からなるスキッシュ部21が形成されている。
【0045】
インジェクタ15は、その先端部に複数の噴孔を有した多噴孔型のインジェクタであり、当該複数の噴孔から放射状に燃料を噴射することが可能である。
図2中のFは各噴孔から噴射された燃料の噴霧を表しており、
図2の例では、インジェクタ15は、周方向に等間隔に配置された合計10個の噴口を有している。インジェクタ15は、その先端部がピストン5の冠面の中心部(キャビティ20の底部中央)と対向するように、燃焼室6の天井面の中心部に配置されている。
【0046】
点火プラグ16は、インジェクタ15に対し吸気側に幾分ずれた位置に配置されている。点火プラグ16の先端部(電極部)の位置は、キャビティ20と平面視で重複するように設定されている。
【0047】
図1に示すように、吸気通路30は、吸気ポート9と連通するようにシリンダヘッド4の一側面に接続されている。吸気通路30の上流端から取り込まれた空気(新気)は、吸気通路30および吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される。
【0048】
吸気通路30には、その上流側から順に、吸気中の異物を除去するエアクリーナ31と、吸気の流量を調整する開閉可能なスロットル弁32と、吸気を圧縮しつつ送り出す過給機33と、過給機33により圧縮された吸気を冷却するインタークーラ35と、サージタンク36とが設けられている。
【0049】
吸気通路30の各部には、吸気の流量を検出するエアフローセンサSN4と、吸気の温度を検出する第1・第2吸気温センサSN5,SN7と、吸気の圧力を検出する第1・第2吸気圧センサSN6,SN8とが設けられている。エアフローセンサSN4および第1吸気温センサSN5は、吸気通路30におけるエアクリーナ31とスロットル弁32との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の流量および温度を検出する。第1吸気圧センサSN6は、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間(後述するEGR通路51の接続口よりも下流側)の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の圧力を検出する。第2吸気温センサSN7は、吸気通路30における過給機33とインタークーラ35との間の部位に設けられ、当該部位を通過する吸気の温度を検出する。第2吸気圧センサSN8は、サージタンク36に設けられ、当該サージタンク36内の吸気の圧力を検出する。
【0050】
過給機33は、エンジン本体1と機械的に連係された機械式の過給機(スーパーチャージャ)である。過給機33の具体的な形式は特に問わないが、例えばリショルム式、ルーツ式、または遠心式といった公知の過給機のいずれかを過給機33として用いることができる。
【0051】
過給機33とエンジン本体1との間には、締結と解放を電気的に切り替えることが可能な電磁クラッチ34が介設されている。電磁クラッチ34が締結されると、エンジン本体1から過給機33に駆動力が伝達されて、過給機33による過給が行われる過給状態となる。一方、電磁クラッチ34が解放されると、上記駆動力の伝達が遮断されて、過給機33による過給が停止される非過給状態となる。上記のような電磁クラッチ34およびこれを駆動する装置が、請求項にいう「過給切替機構」に相当する。
【0052】
吸気通路30には、過給機33をバイパスするためのバイパス通路38が設けられている。バイパス通路38は、サージタンク36と後述するEGR通路51とを互いに接続している。バイパス通路38には開閉可能なバイパス弁39が設けられている。
【0053】
排気通路40は、排気ポート10と連通するようにシリンダヘッド4の他側面に接続されている。燃焼室6で生成された既燃ガスは、排気ポート10および排気通路40を通じて外部に排出される。
【0054】
排気通路40には触媒コンバータ41が設けられている。触媒コンバータ41には、排気通路40を流通する排気ガス中に含まれる有害成分(HC、CO、NOx)を浄化するための三元触媒41aと、排気ガス中に含まれる粒子状物質(PM)を捕集するためのGPF(ガソリン・パティキュレート・フィルタ)41bとが内蔵されている。なお、触媒コンバータ41の下流側に、三元触媒やNOx触媒等の適宜の触媒を内蔵した別の触媒コンバータを追加してもよい。
【0055】
排気通路40における触媒コンバータ41よりも上流側の部位には、排気ガス中に含まれる酸素の濃度を検出するリニアO2センサSN10が設けられている。リニアO2センサSN10は、酸素濃度の濃淡に応じて出力値がリニアに変化するタイプのセンサであり、このリニアO2センサSN10の出力値に基づいて混合気の空燃比を推定することが可能である。
【0056】
外部EGR装置50は、排気通路40と吸気通路30とを接続するEGR通路51と、EGR通路51に設けられたEGRクーラ52およびEGR弁53とを有している。EGR通路51は、排気通路40における触媒コンバータ41よりも下流側の部位と、吸気通路30におけるスロットル弁32と過給機33との間の部位とを互いに接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通じて排気通路40から吸気通路30に還流される排気ガスを熱交換により冷却する。EGR弁53は、EGRクーラ52よりも下流側(吸気通路30に近い側)のEGR通路51に開閉可能に設けられ、EGR通路51を流通する排気ガスの流量を調整する。以下では、適宜、EGR通路51を通じて排気通路40から燃焼室6(気筒2)内に還流される排気ガスを外部EGRガスという。
【0057】
EGR通路51には、EGR弁53の上流側の圧力と下流側の圧力との差を検出するための差圧センサSN9が設けられている。
【0058】
(2)制御系統
図4は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるECU100は、エンジンを統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0059】
ECU100には各種センサによる検出信号が入力される。例えば、ECU100は、上述したクランク角センサSN1、水温センサSN2、筒内圧センサSN3、エアフローセンサSN4、第1・第2吸気温センサSN5,SN7、第1・第2吸気圧センサSN6,SN8、差圧センサSN9、およびリニアO2センサSN10と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報(つまりクランク角、エンジン回転速度、エンジン水温、筒内圧力、吸気流量、吸気温、吸気圧、EGR弁53の前後差圧、排気ガスの酸素濃度等)がECU100に逐次入力されるようになっている。
【0060】
また、車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセルセンサSN11が設けられており、このアクセルセンサSN11による検出信号もECU100に入力される。
【0061】
ECU100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁18、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0062】
ECU100は、上記各センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンの各部を制御する。すなわち、ECU100は、吸気VVT13a、排気VVT14a、インジェクタ15、点火プラグ16、スワール弁18、スロットル弁32、電磁クラッチ34、バイパス弁39、およびEGR弁53等と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。上記のようなECU100は、請求項にいう「燃焼制御部」に相当する。
【0063】
(3)運転状態に応じた制御
図5(a)~(c)は、エンジンの暖機の進行度合いとエンジンの回転速度/負荷とに応じた制御の相違を説明するための運転マップである。当実施形態では、エンジンの暖機が完了した温間時と、エンジンの暖機が途中まで進行した半暖機時と、エンジンが未暖機である冷間時との3つの段階に対応して、それぞれ異なる運転マップQ1~Q3が用意されている。以下、温間時に用いられる運転マップQ1を第1運転マップ、半暖機時に用いられる運転マップQ2を第2運転マップ、冷間時に用いられる運転マップQ3を第3運転マップと称する。
【0064】
なお、以下の説明において、エンジンの負荷が高い(低い)とは、エンジンの要求トルクが高い(低い)ことと等価である。また、以下の説明では、燃料噴射や火花点火の時期を特定する用語として、~行程の「前期」「中期」「後期」といった用語や、~行程の「前半」「後半」といった用語を用いることがあるが、これは、次のことを前提としている。すなわち、本明細書では、吸気行程や圧縮行程等の任意の行程を3等分した場合の各期間を前から順に「前期」「中期」「後期」と定義する。このため、例えば圧縮行程の(i)前期、(ii)中期、(iii)後期とは、それぞれ、(i)圧縮上死点前(BTDC)180~120°CA、(ii)BTDC120~60°CA、(iii)BTDC60~0°CAの各範囲のことを指す。同様に、本明細書では、吸気行程や圧縮行程等の任意の行程を2等分した場合の各期間を前から順に「前半」「後半」と定義する。このため、例えば吸気行程の(iv)前半、(v)後半とは、それぞれ、(iv)BTDC360~270°CA、(v)BTDC270~180°CAの各範囲のことを指す。
【0065】
図6は、第1~第3運転マップQ1~Q3から適切なマップを選択するための手順を説明するフローチャートである。このフローチャートに示す制御がスタートすると、ECU100は、ステップS1において、水温センサSN2により検出されるエンジン水温と、第2吸気温センサSN7により検出される吸気温とに基づいて、(i)エンジン水温が30℃未満であること、および(ii)吸気温が25℃未満であること、の双方の要件が成立するか否かを判定する。
【0066】
上記ステップS1でYESと判定されて上記(i)(ii)が成立したことが確認された場合、つまり、「エンジン水温<30℃」および「吸気温<25℃」の双方の要件が成立し、エンジンが冷間状態にあることが確認された場合、ECU100は、ステップS2に移行して、
図5(c)に示した第3運転マップQ3を使用すべき運転マップとして決定する。
【0067】
一方、上記ステップS1でNOと判定されて上記(i)(ii)のいずれかが非成立であることが確認された場合、ECU100は、ステップS3に移行して、水温センサSN2により検出されるエンジン水温と、第2吸気温センサSN7により検出される吸気温とに基づいて、(iii)エンジン水温が80℃未満であること、および(iv)吸気温が50℃未満であること、の双方の要件が成立するか否かを判定する。
【0068】
上記ステップS3でYESと判定されて上記(iii)(iv)が成立したことが確認された場合、つまり、「エンジン水温≧30℃」および「吸気温≧25℃」の少なくとも一方の要件と、「エンジン水温<80℃」および「吸気温<50℃」の双方の要件とが成立し、エンジンが半暖機状態にあることが確認された場合、ECU100は、ステップS4に移行して、
図5(b)に示した第2運転マップQ2を使用すべき運転マップとして決定する。
【0069】
一方、上記ステップS3でNOと判定されて上記(iii)(iv)のいずれかが非成立であることが確認された場合、つまり、「エンジン水温≧80℃」および「吸気温≧50℃」の少なくとも一方の要件が成立し、エンジンが温間状態(暖機完了状態)にあることが確認された場合、ECU100は、ステップS5に移行して、
図5(a)に示した第1運転マップQ1を使用すべき運転マップとして決定する。
【0070】
次に、以上のような冷間時、半暖機時、温間時の各運転マップQ1~Q3により規定される具体的な制御の内容(回転速度/負荷に応じた燃焼制御の相違)について説明する。
【0071】
(3-1)冷間時の制御
第3運転マップQ3(
図5(c))に基づいて、エンジンの冷間時の燃焼制御について説明する。エンジンの冷間時は、全運転領域C1において、燃料を空気と混合しつつ混合気を後述するSI燃焼させる制御が実行される。この冷間時の制御は、一般的なガソリンエンジンの燃焼制御と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0072】
(3-2)半暖機時の制御
第2運転マップQ2(
図5(b))に基づいて、エンジンの半暖機時の燃焼制御について説明する。
図5(b)に示すように、エンジンが半暖機状態にあるとき、エンジンの運転領域は、3つの運転領域B1~B3に大別される。それぞれ半暖機第1領域B1、半暖機第2領域B2、半暖機第3領域B3すると、半暖機第3領域B3は、回転速度が高い高速領域であり、半暖機第1領域B1は、半暖機第3領域B3よりも低速側の領域から高負荷側の一部を除いた低・中速/低負荷の領域であり、半暖機第2領域B2は、半暖機第1、第2領域B1,B2以外の残余の領域(言い換えると低・中速/高負荷の領域)である。
【0073】
(a)半暖機第1領域
半暖機第1領域B1では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼が実行される。SI燃焼とは、点火プラグ16から発生する火花により混合気に点火し、その点火点から周囲へと燃焼領域を拡げていく火炎伝播により混合気を強制的に燃焼させる燃焼形態のことであり、CI燃焼とは、ピストン5の圧縮により高温・高圧化された環境下で混合気を自着火により燃焼させる燃焼形態のことである。そして、これらSI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼とは、混合気が自着火する寸前の環境下で行われる火花点火により燃焼室6内の混合気の一部をSI燃焼させ、当該SI燃焼の後に(SI燃焼に伴うさらなる高温・高圧化により)燃焼室6内の他の混合気を自着火によりCI燃焼させる、という燃焼形態のことである。なお、「SPCCI」は「SPark Controlled Compression Ignition」の略であり、SPCCI燃焼は、請求項にいう「部分圧縮着火燃焼」に相当する。
【0074】
SPCCI燃焼は、SI燃焼時の熱発生よりもCI燃焼時の熱発生の方が急峻になるという性質がある。例えば、SPCCI燃焼による熱発生率の波形は、後述する
図7に示すように、SI燃焼に対応する燃焼初期の立ち上がりの傾きが、その後のCI燃焼に対応して生じる立ち上がりの傾きよりも小さくなる。言い換えると、SPCCI燃焼時の熱発生率の波形は、SI燃焼に基づく相対的に立ち上がりの傾きが小さい第1熱発生率部と、CI燃焼に基づく相対的に立ち上がりの傾きが大きい第2熱発生部とが、この順に連続するように形成される。また、このような熱発生率の傾向に対応して、SPCCI燃焼では、SI燃焼時に生じる燃焼室6内の圧力上昇率(dp/dθ)がCI燃焼時のそれよりも小さくなる。
【0075】
SI燃焼によって、燃焼室6内の温度および圧力が高まると、これに伴い未燃混合気が自着火し、CI燃焼が開始される。
図7に例示するように、この自着火のタイミング(つまりCI燃焼が開始するタイミング)で、熱発生率の波形の傾きが小から大へと変化する。すなわち、SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングで現れる変曲点(
図7のX2)を有している。
【0076】
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも混合気の燃焼速度が速いため、熱発生率は相対的に大きくなる。ただし、CI燃焼は、圧縮上死点の後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが過大になることはない。すなわち、圧縮上死点を過ぎるとピストン5の下降によりモータリング圧力が低下するので、このことが熱発生率の上昇を抑制する結果、CI燃焼時のdp/dθが過大になることが回避される。このように、SPCCI燃焼では、SI燃焼の後にCI燃焼が行われるという性質上、燃焼騒音の指標となるdp/dθが過大になり難く、単純なCI燃焼(全ての燃料をCI燃焼させた場合)に比べて燃焼騒音を抑制することができる。
【0077】
CI燃焼の終了に伴いSPCCI燃焼も終了する。CI燃焼はSI燃焼に比べて燃焼速度が速いので、単純なSI燃焼(全ての燃料をSI燃焼させた場合)に比べて燃焼終了時期を早めることができる。言い換えると、SPCCI燃焼では、燃焼終了時期を膨張行程内において圧縮上死点に近づけることができる。これにより、SPCCI燃焼では、単純なSI燃焼に比べて燃費性能を向上させることができる。
【0078】
半暖機第1領域B1では、点火プラグ16による点火が行われるとき(混合気が燃焼を開始するとき)に、燃焼室6内に既燃ガス(燃焼した後のガス)が存在して燃焼室6(気筒2)内の全ガス(G)と燃料(F)との重量比であるガス空燃比(G/F)が理論空燃比(14.7)よりも大きくされ、かつ、燃焼室6(気筒2)内の空気(A)と燃料(F)との割合である空燃比(A/F)が理論空燃比に略一致する環境(以下、これをG/Fリーン環境という)が形成されるとともに、混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。より詳細には、前記のガス空燃比(G/F)は、18≦G/F≦50とされる。この範囲に設定することで、SI燃焼の安定性が確保されてCI燃焼の開始時期の制御性を確保でき、燃焼騒音も抑制できる。
【0079】
このようなG/Fリーン環境下でのSPCCI燃焼を実現するため、半暖機第1領域B1では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0080】
インジェクタ15は、吸気行程中に少なくとも1回の燃料噴射を実行する。例えば、半暖機第1領域B1に含まれる運転ポイントP2において、インジェクタ15は、
図8のチャート(b)に示すように、1サイクル中に噴射すべき燃料の全量を供給する1回の燃料噴射を吸気行程中に実行する。
【0081】
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP2において、点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に他の混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
【0082】
スロットル弁32の開度は、理論空燃比相当の空気量が吸気通路30を通じて燃焼室6に導入されるような開度、つまり、燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)が理論空燃比(14.7)に略一致するような開度に設定される。一方、半暖機第1領域B1では、既燃ガスである外部EGRガスおよび/または内部EGRガスが燃焼室6に流入(残留)するように、吸気弁11の開弁時期IVOと排気弁12の閉弁時期EVCとEGR弁53の開度とが調整される。これにより、半暖機第1領域B1では、燃焼室6内の全ガスと燃料との重量比であるガス空燃比(G/F)が理論空燃比(14.7)よりも大きくされる。上記の内部EGRガスは、燃焼室6で生成された既燃ガスのうち外部EGRガスではないガス、つまり、EGR通路51を介して燃焼室6に還流された既燃ガスではなくEGR通路51まで排出されずに燃焼室6内に残留したガス(いったん、吸気ポート9および/または排気ポート10に排出された後燃焼室6に戻されたガスも含む)である。
【0083】
EGR弁53は、概ね0~40%の範囲で可変的に設定された目標外部EGR率が実現されるように、その開度が制御される。なお、ここでいう外部EGR率とは、EGR通路51を通じて燃焼室6に還流される排気ガス(外部EGRガス)が燃焼室6内の全ガス中に占める重量割合のことであり、目標外部EGR率は外部EGR率の目標値である。
【0084】
吸気VVT13aは、吸気弁11の開弁時期IVO(吸気開弁時期IVO)をエンジン回転速度とエンジン負荷とに応じて
図9に示すように変更する。排気VVT13aは、排気弁12の閉弁時期EVC(排気閉弁時期EVC)をエンジン回転速度とエンジン負荷とに応じて
図10に示すように変更する。これら
図9、
図10は、エンジン回転速度とエンジン負荷に対する吸気弁11の開弁時期IVO(排気弁12の閉弁時期EVC)の具体例を3次元マップで示した図である。半暖機第1領域B1における吸気弁11の開閉時期および排気弁12の閉弁時期の詳細は後述する。
【0085】
過給機33は、エンジン負荷が予め設定された過給負荷T_t以下のときにOFF状態とされる。一方、半暖機第1領域B1において、エンジン負荷が過給負荷T_tより高いときは過給機33はON状態とされる。過給機33がOFF状態とされるとき、上記のように電磁クラッチ34が解放されて過給機33とエンジン本体1との連結が解除されるとともに、バイパス弁39が全開とされることにより、過給機33による過給が停止される(非過給状態とされる)。一方、過給機33がON状態とされるとき、上記のように電磁クラッチ34が締結されて過給機33とエンジン本体1とが連結されることにより、過給機33による過給が行われる(過給状態とされる)。このとき、第2吸気圧センサSN7により検出されるサージタンク36内の圧力(過給圧)が、エンジンの運転条件(エンジン回転速度やエンジン負荷等の条件)ごとに予め定められた目標圧力に一致するように、バイパス弁39の開度が制御される。例えば、バイパス弁39の開度が大きくなるほど、バイパス通路38を通じて過給機33の上流側に逆流する吸気の流量が多くなる結果、サージタンク36に導入される吸気の圧力つまり過給圧が低くなる。バイパス弁39は、このように吸気の逆流量を調整することにより、過給圧を目標圧力に制御する。
【0086】
半暖機第1領域B1では、スワール弁18の開度は、比較的弱いスワール流が形成されるように調整される。例えば、スワール弁18の開度は、半開(50%)程度あるいはこれよりも大きい開度とされる。
【0087】
(b)半暖機第2領域
半暖機第2領域B2では、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比よりもややリッチになる環境下(空気過剰率λがλ≦1になる環境下)で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。このようなリッチ環境下でのSPCCI燃焼を実現するため、半暖機第2領域B2では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0088】
インジェクタ15は、1サイクル中に噴射すべき燃料の全部または大半を吸気行程中に噴射する。例えば、半暖機第2領域B2に含まれる運転ポイントP3において、インジェクタ15は、
図8のチャート(c)に示すように、吸気行程の後半と重複する一連の期間、より詳しくは、吸気行程の後半から圧縮行程の前半にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
【0089】
点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP3において、点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)よりもやや遅角側のタイミングで混合気に点火する。
【0090】
過給機33はON状態とされ、過給機33による過給が行われる。このときの過給圧は、バイパス弁39によって調整される。
【0091】
吸気VVT13aおよび排気VVT14aは、吸気弁11および排気弁12のタイミングを、内部EGRガスが燃焼室6内に残留しない(内部EGRが実質的に停止される)ようなタイミングに設定する。スロットル弁32は全開とされる。EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比よりもややリッチ(λ≦1)となるように、その開度が制御される。例えば、EGR弁53は、空燃比が12以上14以下となるように、EGR通路51を通じて還流される排気ガス(外部EGRガス)の量を調整する。ただし、エンジンの最高負荷の近傍ではEGR弁53を閉じて実質的に外部EGRを停止してもよい。スワール弁18の開度は、半暖機第1領域B1での開度よりも大きくかつ全開相当の開度よりも小さい中間開度に設定される。
【0092】
(c)半暖機第3領域
半暖機第3領域B3では、比較的オーソドックスなSI燃焼が実行される。このSI燃焼の実現のために、半暖機第3領域B3では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0093】
インジェクタ15は、少なくとも吸気行程と重複する所定の期間にわたって噴射を噴射する。例えば、半暖機第3領域B3に含まれる運転ポイントP4において、インジェクタ15は、
図8のチャート(d)に示すように、吸気行程から圧縮行程にかけた一連の期間にわたって燃料を噴射する。
【0094】
点火プラグ16は、圧縮上死点の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP4において、点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSI燃焼が開始され、燃焼室6内の混合気の全てが火炎伝播により燃焼する。
【0095】
過給機33はON状態とされ、過給機33による過給が行われる。このときの過給圧は、バイパス弁39によって調整される。スロットル弁32は全開とされる。EGR弁53は、燃焼室6内の空燃比(A/F)が理論空燃比もしくはこれよりもややリッチな値(λ≦1)となるように、その開度が制御される。スワール弁18は全開とされる。これにより、第1吸気ポート9Aだけでなく第2吸気ポート9Bが完全に開放されて、エンジンの充填効率が高められる。
【0096】
(3-3)温間時の制御
図5(a)に示すように、エンジンが温間状態にあるとき、エンジンの運転領域は、4つの運転領域A1~A4に大別される。それぞれ温間第1領域A1、温間第2領域A2、温間第3領域A3、温間第4領域A4とすると、温間第2領域A2は、半暖機第1領域B1のうちの高負荷側の領域に対応し、温間第1領域A1は、半暖機第1領域B1から温間第2領域A2を除いた領域に対応し、温間第3領域A3は、半暖機第2領域B2に対応し、温間第4領域A4は、半暖機第3領域A3に対応する。
【0097】
(a)温間第1領域
温間第1領域A1では、燃焼によって生成されるNOxの量を少なく抑えるため且つ燃費性能を良好にするために燃焼室6内の空気(新気)と燃料との重量比である空燃比(A/F)を理論空燃比(14.7)よりも大きくしつつ、混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。つまり、燃焼室6内の空気過剰率λがλ>1とされつつSPCCI燃焼が実行される。温間第1領域A1における空燃比(A/F)は、燃焼によって生成されるNOxの量が十分に小さく抑えられるように、例えば、20超35未満の範囲内で可変的に設定される。温間第1領域A1での目標空燃比は、概ね、負荷(要求トルク)が高くなるほど大きくなるように設定される。
【0098】
このような空燃比を理論空燃比よりも大きくする環境(以下、適宜、A/Fリーン環境という)でのSPCCI燃焼を実現するため、温間第1領域A1では、ECU100によってエンジンの各部が次のように制御される。
【0099】
インジェクタ15は、吸気行程から圧縮行程にかけた複数回に分けて燃料を噴射する。例えば、温間第1領域A1における比較的低速かつ低負荷の運転ポイントP1において、インジェクタ15は、
図8のチャート(a)に示すように、1サイクル中に噴射すべき燃料の大半を吸気行程の前期から中期にかけた2回に分けて噴射するとともに、残りの燃料を圧縮行程の後期に噴射する(合計3回の噴射)。
【0100】
点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)の近傍で混合気に点火する。例えば、上記運転ポイントP1において、点火プラグ16は、圧縮上死点(TDC)よりもやや進角側のタイミングで混合気に点火する。そして、この点火をきっかけにSPCCI燃焼が開始され、燃焼室6内の一部の混合気が火炎伝播により燃焼(SI燃焼)し、その後に他の混合気が自着火により燃焼(CI燃焼)する。
【0101】
過給機33は、温間第1領域A1では概ねその全域でOFF状態とされる。スロットル弁32は、その全域で全開あるいはこれに近い開度とされる。これにより、燃焼室6内に多量の空気が導入されて燃焼室6内の空燃比が大きくされる。
【0102】
吸気VVT13aは、吸気弁11の開弁時期IVOをエンジン回転速度とエンジン負荷とに応じて
図11に示すように変更する。
【0103】
具体的には、吸気弁11の開弁時期IVOは、概ね、エンジン負荷が低い低負荷領域ではエンジン負荷の増大に伴って進角される。例えば、吸気弁11の開弁時期IVOは、エンジン負荷が最も低いときに排気上死点(TDC)よりも遅角側の時期とされ、エンジン負荷の増大に伴って最進角時期まで進角される。そして、エンジン負荷が比較的高い中負荷領域では吸気弁11の開弁時期IVOはエンジン負荷によらず最進角時期一定とされる。また、エンジン負荷がさらに高い高負荷領域では、吸気弁11の開弁時期IVOは排気上死点(TDC)よりも進角側の範囲でエンジン負荷の増大に伴って遅角される。なお、吸気弁11の閉弁時期IVCは、吸気下死点(BDC)よりも遅角側の範囲でエンジン負荷に対して吸気弁11の開弁時期IVOと同様に変化するように変更される。
【0104】
排気VVT13aは、排気弁12の閉弁時期EVCをエンジン回転速度とエンジン負荷とに応じて
図12に示すように変更する。
【0105】
具体的には、排気弁12の閉弁時期EVCは、排気上死点(TDC)よりも遅角側とされる。また、エンジン負荷が低い低負荷領域では、排気弁12の閉弁時期EVCは、エンジン負荷の増大に伴って遅角される。例えば、排気弁12の閉弁時期EVCは、エンジン負荷が最も低いときに排気上死点(TDC)とされ、エンジン負荷の増大に伴って排気上死点(TDC)からの遅角量が増大される。そして、エンジン負荷が比較的高い中負荷領域では排気弁12の閉弁時期EVCはエンジン負荷によらず一定とされる。また、エンジン負荷がさらに高い高負荷領域では、排気弁12の閉弁時期EVCはエンジン負荷の増大に伴って進角される。なお、排気弁12の開弁時期EVOは、エンジン負荷に対して排気弁12の閉弁時期EVCと同様に変化するように変更される。
【0106】
EGR弁53は、概ね0~20%の範囲で可変的に設定された目標外部EGR率が実現されるように、その開度が制御される。目標外部EGR率は、エンジン回転速度が高い側またはエンジン負荷が高い側ほど高くされる。
【0107】
温間第1領域A1では、スワール弁18の開度は、半開(50%)よりも低い低開度に設定される。このようにスワール弁18の開度が低減されることにより、燃焼室6に導入される吸気は、その大部分が第1吸気ポート9A(スワール弁18が設けられていない側の吸気ポート)からの吸気となり、燃焼室6内に強いスワール流が形成される。このスワール流は、吸気行程中に成長して圧縮行程の途中まで残存し、燃料の成層化を促進する。つまり、燃焼室6の中央部の燃料濃度がその外側の領域(外周部)に比べて濃くなるという濃度差が形成される。例えば、温間第1領域A1では、このスワール流の作用によって燃焼室6の中央部の空燃比が20以上30以下とされ、燃焼室6の外周部の空燃比が35以上とされる。温間第1領域A1では、目標スワール開度が概ね20~40%の範囲で可変的に設定され、その値はエンジン回転速度が高い側またはエンジン負荷が高い側ほど高くされる。
【0108】
なお、当実施形態のエンジンにおけるスワール弁18は、その開度が40%であるときにスワール比は1.5を少し超えた値となり、スワール弁18が全閉(0%)まで閉じられると、スワール比は約6まで増大するように構成されている。スワール比は、吸気流の横方向角速度をバルブリフト毎に測定して積分した値を、クランク軸の角速度で除した値として定義される。上述したとおり、温間第1領域A1での運転時に、スワール弁18の開度が概ね20~40%の範囲内で制御される。このことから、当実施形態では、温間第1領域A1でのスワール弁18の開度が、燃焼室6内のスワール比が1.5以上となるような値に設定されているといえる。
【0109】
(b)温間第2領域
温間第2領域A2では、半暖機第1領域B1と同様に、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比(λ=1)に略一致する環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。温間第2領域A2での制御は、基本的に上記(3-2(a))で説明した制御(半暖機第1領域B1での制御)と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0110】
(c)温間第3領域
温間第3領域A3では、半暖機第2領域B2と同様に、燃焼室6内の空燃比が理論空燃比よりもややリッチ(λ≦1)になる環境下で混合気をSPCCI燃焼させる制御が実行される。温間第3運転領域A3での制御は、基本的に上記(3-2(b))で説明した制御(半暖機第2領域B2での制御)と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0111】
(d)温間第4領域
温間第4領域A4では、半暖機第3領域B3と同様に、比較的オーソドックスなSI燃焼が実行される。温間第4運転領域A4での制御は、基本的に上記(3-2(c))で説明した制御(半暖機第3領域B3での制御)と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0112】
(4)半暖機第1領域における吸気弁および排気弁の開閉時期の設定
半暖機第1領域B1(G/Fリーン環境下でのSPCCI燃焼の実行領域)において行われる吸気弁11および排気弁12の開閉時期の詳細について説明する。
【0113】
(a)吸気弁の開閉時期
図13は、
図5(a)の一部であって半暖機第1領域B1の部分を拡大して示した図である。
【0114】
図14は、半暖機第1領域B1での吸気弁11の開弁時期IVOの具体例を示すグラフである。
図15は、半暖機第1領域B1での吸気弁11の閉弁時期IVCの具体例を示すグラフである。上述のように、吸気弁11は、その開弁期間が一定に維持された状態でその開閉時期が変更される。従って、吸気弁11の閉弁時期IVCは、エンジン負荷およびエンジン回転速度に対して吸気弁11の開弁時期IVOと同様に変化する。
【0115】
図14(
図15)は、横軸をエンジン回転速度とし、縦軸を吸気弁11の開弁時期IVO(吸気弁11の閉弁時期IVC)としたグラフである。
図14(
図15)の横軸のエンジン回転速度N1、N2、N3、N4は、
図13の横軸のエンジン回転速度N1、N2、N3、N4に対応している。また、
図14(
図15)の各ラインL1,L2,L3は、エンジン負荷が同じ運転ポイントにおける吸気弁11の開弁時期IVO(閉弁時期IVC)の値をつないだラインであり、これらラインL1~L3は、それぞれエンジン負荷が
図13に示す第1負荷T1,第2負荷T2,第3負荷T3のときの吸気弁の開弁時期IVO(閉弁時期IVC)を示している。
【0116】
第1負荷T1,第2負荷T2,第3負荷T3はこの順に大きくなるように設定されたエンジン負荷であり、ラインL1は、エンジン負荷が第1負荷T1近傍となる領域つまり低負荷領域C1(以下、適宜、低負荷G/Fリーン領域C1という)におけるエンジン回転速度と吸気弁11の開弁時期IVO(閉弁時期IVC)を代表して示したものであり、ラインL2は、エンジン負荷が第2負荷T2近傍となる領域つまり中負荷領域C2(以下、適宜、中負荷G/Fリーン領域C2という)におけるエンジン回転速度と吸気弁11の開弁時期IVO(閉弁時期IVC)を代表して示したものであり、ラインL3は、エンジン負荷が第3負荷T2近傍となる領域つまり高負荷領域C3(以下、適宜、高負荷G/Fリーン領域C3という)におけるエンジン回転速度と吸気弁11の開弁時期IVO(閉弁時期IVC)を代表して示したものである。
【0117】
上記のような、半暖機第1領域B1のうちエンジン負荷が第1負荷T1近傍となる低負荷G/Fリーン領域C1は、請求項にいう「第1運転領域」に相当し、半暖機第1領域B1のうちエンジン負荷が第2負荷T2近傍となる中負荷G/Fリーン領域C2は、請求項にいう「第2運転領域」に相当し、半暖機第1領域B1のうちエンジン負荷が第3負荷T3近傍となる高負荷G/Fリーン領域C3は、請求項にいう「第3運転領域」に相当する。
【0118】
図14に示すように、半暖機第1領域B1では、その全域で、吸気弁11の開弁時期IVOは排気上死点(TDC)よりも進角側の時期とされる。
図15に示すように、半暖機第1領域B1では、その全域で、吸気弁11の閉弁時期IVCは吸気下死点(BDC)よりも遅角側の時期とされる。
【0119】
図14、
図15のラインL1に示すように、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が第1基準速度N11よりも高い高速領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、エンジン回転速度が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように設定されている。
図14、
図15の例では、低負荷G/Fリーン領域C1のうち予め設定された第1基準速度N11よりもエンジン回転速度が高い高速領域において、エンジン回転速度が高くなるほど吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは遅角される。また、当実施形態では、第1基準速度N11のときに吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは最進角時期(変化可能な範囲のうち最も進角側の時期)とされ、エンジン回転速度が高くなるに伴って、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCはこの最進角時期から遅角されていく。
上記のような第1基準速度N11は、請求項にいう「第1閾値」に相当する。
【0120】
一方、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が第1基準速度N11よりも低い領域(以下、適宜、低負荷低速領域という)では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、低負荷低速領域の中間のエンジン回転速度において最も遅角側となるように設定されている。
【0121】
具体的には、エンジン回転速度が予め設定された第2基準速度N12よりも低い領域では、エンジン回転速度によらず吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは一定の時期に維持される。当実施形態では、このとき、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは最進角時期に維持される。
【0122】
一方、エンジン回転速度が第2基準速度N12から第2速度N2までの領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCはエンジン回転速度が高いほど遅角される。当実施形態では、エンジン回転速度が第2基準速度N12から増大するに伴って、最進角時期から徐々に遅角される。
【0123】
また、エンジン回転速度が第2速度N2から第1基準速度N11までの領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCはエンジン回転速度が高いほど進角される。当実施形態では、エンジン回転速度が第1基準速度N11のときに吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが最進角時期となるように、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、第1基準速度N11からエンジン回転速度が増大するのに伴って徐々に遅角される。
【0124】
このように、低速低負荷領域において、エンジン回転速度が第2速度N2のときに、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは最も遅角側の時期(低速低負荷領域内で設定される時期のうち最も遅角側の時期)とされる。上記のような第2速度N2は、請求項にいう「特定のエンジン回転速度」に相当する。また、低速低負荷領域においてエンジン回転速度が第2速度N2のときの吸気弁11の閉弁時期IVO10が、請求項にいう「特定時期」に相当する。
【0125】
吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、エンジン回転速度に対して第1基準速度N11を跨いで連続するように設定されている。
【0126】
図14、
図15のラインL2に示すように、第2負荷T3を含む中負荷G/Fリーン領域C2のう
ちエンジン回転速度が第2速度N2よりも高い領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、低負荷G/Fリーン領域C1の高速側の領域と同様に、エンジン回転速度が高いときの方が低いときよりも遅角側の時期となるように設定されている。
図14、
図15の例では、中負荷G/Fリーン領域C2のうち第2速度N2よりもエンジン回転速度が高い領域において、エンジン回転速度が高くなるほど吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは遅角される。当実施形態では、第2速度N2のときに吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは最進角時期とされ、第2速度N2からエンジン回転速度が高くなるに伴って、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCはこの最進角時期から遅角されていく。
上記のような第2速度N2は、請求項にいう「第2閾値」に相当する。
【0127】
ただし、
図14、
図15の例では、第1基準速度N11と第2速度N2とは異なっており、第1基準速度N11の方が第2速度N2よりも高い値となっている。
【0128】
一方、中負荷G/Fリーン領域C2のうちエンジン回転速度が第2速度N2よりも低い領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、エンジン回転速度によらず一定の時期に維持される。当実施形態では、このとき、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、最進角時期に維持される。
【0129】
図14、
図15のラインL3に示すように、第3負荷T3を含む高負荷G/Fリーン領域では、吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCは、エンジン回転速度によらず一定の時期に維持される。当実施形態では、これら時期IVO,IVCは、最進角時期に維持される。
【0130】
(b)排気弁の開閉時期
図16は、
図14および
図15に対応するグラフであり、半暖機第1領域B1での排気弁12の閉弁時期EVCの具体例を示すグラフである。上述のように、排気弁12は、その開弁期間が一定に維持された状態でその開閉時期が変更される。従って、排気弁12の開弁時期EVOは、図示を省略するが、エンジン負荷およびエンジン回転速度に対して排気弁12の閉弁時期EVCと同様に変化する。
【0131】
図16は、横軸をエンジン回転速度とし、縦軸を排気弁12の閉弁時期EVCとしたグラフである。
図16の横軸のエンジン回転速度N1、N2、N3、N4も、
図13の横軸のエンジン回転速度N1、N2、N3、N4に対応している。また、
図16の各ラインL1,L2,L3も、それぞれエンジン負荷が第1負荷T1,第2負荷T2,第3負荷T3のときのラインである。
【0132】
図16に示すように、半暖機第1領域B1では、概ねその全域で、排気弁12の閉弁時期EVCは、排気上死点(TDC)よりも遅角側の時期とされる。
【0133】
これに伴い、半暖機第1領域B1では、概ねその全域で、
図17に示すように、吸気弁11と排気弁12とは排気上死点(TDC)を跨いで所定期間ともに開弁する(いわゆる、バルブオーバーラップする)。
【0134】
図16のラインL1に示すように、第1負荷T1を含む低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が第3速度N3よりも低い領域では、排気弁12の閉弁時期EVCは、エンジン回転速度によらず概ね一定の所定時期(以下、適宜、第1排気閉弁時期という)に維持される。第3速度N3は、前記の第1、第2基準速度N11、N12よりも高い速度に設定されている。
【0135】
一方、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が第3速度N3よりも高い領域では、排気弁12の閉弁時期EVCは、エンジン回転速度が高いときの方が低いときよりも進角される。当実施形態では、エンジン回転速度が第3速度N3から高くなるに伴って、排気弁12の閉弁時期EVCは第1排気閉弁時期から徐々に進角される。
【0136】
図16のラインL2に示すように、第2負荷T2を含む中負荷G/Fリーン領域C2にのうち第3速度N3よりもエンジン回転速度が低い領域では、排気弁12の閉弁時期EVCは、エンジン回転速度が高いときの方が低いときよりも進角されるように設定されている。ただし、第1基準速度N11よりもエンジン回転速度が低い領域の方が、第1基準速度N11よりもエンジン回転速度が高い領域に比べて、エンジン回転速度に対する排気弁12の閉弁時期EVCの変化率は小さくなっている。一方、第3速度N3よりもエンジン回転速度が高い領域では、エンジン回転速度が高くなるほど排気弁12の閉弁時期EVCは遅角される。
【0137】
図16のラインL3に示すように、第3負荷T3を含む高負荷G/Fリーン領域C3において、排気弁12の閉弁時期EVCは、第1基準速度N11よりもエンジン回転速度が低い領域ではエンジン回転速度によらず一定に維持され、第1転速度N11から第3速度N3までの領域ではエンジン回転速度が高いほど進角される。一方、エンジン回転速度が第3速度N3から、第3速度N3と第4速度N4の中間の速度までは、排気弁12の閉弁時期EVCはエンジン回転速度が高いほど遅角される。そして、この中間の速度から第4速度N4までの領域では、排気弁12の開弁時期EVOは、エンジン回転速度によらず一定に維持される。
【0138】
(5)SI率について
上述したように、当実施形態では、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼が半暖機第1領域B1等において実行されるが、このSPCCI燃焼では、SI燃焼とCI燃焼との比率を運転条件に応じてコントロールすることが重要になる。
【0139】
ここで、当実施形態では、上記比率として、SPCCI燃焼(SI燃焼およびCI燃焼)による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率を用いる。
図7は、このSI率を説明するための図であり、SPCCI燃焼が起きたときの熱発生率(J/deg)のクランク角による変化を示している。
図7の波形における点X1は、SI燃焼の開始に伴って熱発生率が立ち上がる熱発生点であり、この熱発生点X1に対応するクランク角θsiを、SI燃焼の開始時期として定義する。また、同波形における点X2は、燃焼形態がSI燃焼からCI燃焼に切り替わるときに現れる変曲点であり、この変曲点X2に対応するクランク角θciを、CI燃焼の開始時期と定義する。そして、このCI燃焼の開始時期であるθciよりも進角側(θsiからθciまでの間)に位置する熱発生率の波形の面積R1をSI燃焼による熱発生量とし、θciよりも遅角側に位置する熱発生率の波形の面積R2をCI燃焼による熱発生率とする。これにより、(SI燃焼による熱発生量)/(SPCCI燃焼による熱発生量)で定義される上述したSI率は、上記各面積R1,R2を用いて、R1/(R1+R2)で表すことができる。つまり、当実施形態では、SI率=R1/(R1+R2)である。
【0140】
CI燃焼では、混合気が自着火により同時多発的に燃焼するため、火炎伝播によるSI燃焼と比べて圧力上昇率が高くなり易い。このため、特に、負荷が高く燃料噴射量が多い条件下で不用意にSI率を小さくする(つまりCI燃焼の割合を増やす)と、大きな騒音が発生してしまう。一方、CI燃焼は、燃焼室6が十分に高温・高圧化しないと発生しないので、負荷が低く燃料噴射量が少ない条件下では、SI燃焼がある程度進行してからでないとCI燃焼が開始されず、必然的にSI率は大きくなる(つまりCI燃焼の割合が多くなる)。このような事情を考慮して、当実施形態では、SPCCI燃焼が行われる運転領域において、SI率の目標値である目標SI率がエンジンの運転条件ごとに予め定められている。具体的に、目標SI率は、半暖機第1領域B1において、概ね負荷が高いほど小さくなるように(つまり負荷が高いほどCI燃焼の割合が増えるように)設定されている。さらに、これに対応して、当実施形態では、目標SI率に適合する燃焼が行われた場合のCI燃焼の開始時期である目標θciが、やはりエンジンの運転条件ごとに予め定められている。
【0141】
上述した目標SI率および目標θciを実現するには、点火プラグ16による主点火の時期、インジェクタ15からの燃料の噴射量/噴射時期、EGR率(外部EGR率および内部EGR率)といった制御量を運転条件ごとに調整する必要がある。例えば、主点火の時期が進角されるほど、多くの燃料がSI燃焼により燃焼することになり、SI率が高くなる。また、燃料の噴射時期が進角されるほど、多くの燃料がCI燃焼により燃焼することになり、SI率が低くなる。さらに、SI率の変化はθciの変化を伴うので、これらの各制御量(主点火時期、噴射時期等)の変化は、θciを調整する要素となる。
【0142】
上記のような傾向に基づいて、当実施形態では、SPCCI燃焼の実行時に、主点火時期、および燃料の噴射量/噴射時期等が、上述した目標SI率および目標θciを実現可能な組合せになるように制御される。
【0143】
(6)作用効果
以上のように、当実施形態では、半暖機第1領域B1において、吸気弁11の開閉時期、排気弁12の開閉時期が上記のように設定されることで、半暖機第1領域B1の各運転ポイントにおいて、燃焼室6内に内部EGRガスおよび空気を適切に存在させることができ、燃焼室6内に既燃ガスが残留し且つ燃焼室6内の空気と燃料との割合である空燃比が理論空燃比近傍となるG/Fリーン環境を形成しつつ、適切なSPCCI燃焼を実現することができる。また、空燃比が理論空燃比近傍とされることで三元触媒にて排気ガスを適切に浄化することができる。そして、このように混合気の空燃比が理論空燃比近傍とされることで、空燃比を理論空燃比よりも大きく(リーン)にする場合に比べて燃焼室6内により多くの既燃ガスを導入することができ、多量の既燃ガスによって燃焼時の圧力上昇を抑制して燃焼騒音の増大を抑制することが可能となる。この燃焼騒音の抑制は、SPCCI燃焼の高負荷側(最高負荷)での実施を可能とする。
【0144】
具体的には、当実施形態では、中負荷G/Fリーン領域C2において、エンジン負荷が同じ条件下で(例えば、エンジン負荷が第2エンジン負荷T2となる条件下で)、エンジン回転速度が高いときは低いときに比べて、吸気弁11の閉弁時期IVCが吸気下死点(BDC)よりも遅角側の範囲で、遅角される。ここで、吸気の慣性の作用により、燃焼室6内に導入される(閉じ込められる)空気の量が最大となる吸気弁11の閉弁時期IVCは、エンジン回転速度が高い方がより遅角側の時期となる。従って、吸気弁11の閉弁時期IVCが上記のように変更されることで、中負荷G/Fリーン領域C2の各エンジン回転速度において燃焼室6内に導入される空気の量を適切に確保することができ、燃焼安定性を高めることができる。従って、燃焼室6内に既燃ガスが存在することで燃焼が不安定になりやすいG/Fリーン環境下においても、適切なSI燃焼ひいてはSPCCI燃焼を実現することができ、燃費性能を高めることができる。
【0145】
また、エンジン回転速度が低いときは単位時間あたりの燃焼回数が少ないことに伴って燃焼室6内の温度が低くなり、これによりSI燃焼が不安定になりやすい。これに対して、当実施形態では、中負荷G/Fリーン領域C2においてエンジン回転速度が低い側では、吸気弁11の開弁時期IVOが排気上死点(TDC)よりも進角側とされ且つその進角量が比較的大きくされる。吸気弁11の開弁時期IVOが排気上死点(TDC)よりも進角側とされた状態では、排気行程中のピストン5の上昇に伴って燃焼室6から吸気ポート9に既燃ガスを導出させた後これを再び燃焼室6に導入することができる。そして、吸気弁11の開弁時期IVOの排気上死点(TDC)からの進角量が多いほど、この燃焼室6から導出されて再び燃焼室6に導入される高温の既燃ガス(内部EGRガス)の量は多くなる。従って、前記のように燃焼が不安定になりやすいときに、燃焼室6内に多量の高温の既燃ガス(内部EGRガス)を導入することができ、燃焼室6内の温度を高めてSI燃焼の安定性を高め、これにより、圧縮上死点付近での適切なCI燃焼すなわち適切なSPCCI燃焼を実現することができる。
【0146】
また、当実施形態では、中負荷G/Fリーン領域C2のうちエンジン回転速度が低い領域では吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが、エンジン回転速度によらず一定の時期とされる。従って、この領域において前記のように燃焼室6に導入される既燃ガスの量を多く確保しながら、吸気弁11の制御性を良好にできる。つまり、エンジン回転速度の変化に伴って吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCを大幅に変更せねばならない場合では、吸気VVT13aの応答遅れ等によって吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが適切な時期からずれるおそれがあるが、これを防止することができる。また、当実施形態では、中負荷G/Fリーン領域C2のうちエンジン回転速度が低い領域において、吸気弁11の開弁時期IVOが最進角時期に維持されることで、燃焼室6に導入される既燃ガスの量を確実に多くすることができる。
【0147】
ここで、吸気の脈動等の影響により、エンジン負荷が比較的低い低負荷G/Fリーン領域C1ではエンジン回転速度が低い低速領域において、当該低速領域の中間のエンジン回転速度において吸気弁11の閉弁時期IVCを遅角させた方が、空気量を適切に気筒内に導入できることが分かった。これに対して、当実施形態では、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が低い低速領域では、その中間のエンジン回転速度である第2速度N2において吸気弁11の閉弁時期IVCを他のエンジン回転速度での吸気弁11の閉弁時期IVCよりも遅角させている。そのため、この領域において、より確実に燃焼室6内に適切な量の空気を導入することができる。また、低負荷G/Fリーン領域C1のエンジン回転速度が高い高速領域では、中負荷G/Fリーン領域C2と同様にエンジン回転速度が高いときの方が低いときよりも吸気弁11の閉弁時期IVCを遅角させていることで、吸気の慣性の作用によって燃焼室6内に適切な量の空気を導入することができる。
【0148】
また、当実施形態では、低負荷G/Fリーン領域C1において、第2基準速度N12から第2速度N2に向けてエンジン回転速度が高いほど吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが遅角され、第2速度N2から第1基準速度N11に向けてエンジン回転速度が高くなるほど吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが進角されようになっている。そのため、第2速度N2付近において、エンジン回転速度の変化時に吸気弁11の開弁時期IVOおよび閉弁時期IVCが急変するのを抑制して、吸気弁11の制御性を良好にできる。
【0149】
また、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が低い低速領域において、前記のように吸気弁11の閉弁時期IVCはその中間のエンジン回転速度である第2速度N2で遅角させる一方、排気弁12の閉弁時期EVCはエンジン回転速度によらず一定に維持しており、排気弁12の閉弁時期EVCの制御性を良好にできる。
【0150】
また、低負荷G/Fリーン領域C1のうちエンジン回転速度が高い高速領域では、排気弁12の閉弁時期IVCを、エンジン回転速度が高いときの方が低いときに比べて、排気上死点(TDC)よりも遅角側の範囲で進角している。そのため、エンジン回転速度が高いことで燃焼室6内に空気が導入されにくいこの高速領域において、排気ポート10に流出した後燃焼室6に再流入する既燃ガスの量を少なく抑えることができ、燃焼室6内において、既燃ガスの量が過度に多くなって空気の導入が阻害されるのを防止できる。また、エンジン回転速度が比較的低いときには燃焼室6内に残留する既燃ガスの量を多くすることができ、燃焼室6内の温度を適切に高めて燃焼安定性を確保できる。
【0151】
また、エンジン負荷が高い領域に設定された高負荷G/Fリーン領域C3においては、過給機33による過給を行っていることで、高いエンジン負荷に対応した多量の空気を燃焼室6に導入することができる。そして、これにより、高負荷G/Fリーン領域C3においては空気量を増大させるために吸気弁11の閉弁時期IVCを調整する必要性が小さい。これに対して、当実施形態では、高負荷G/Fリーン領域C3においては、吸気弁11の閉弁時期IVCを一定に維持しており、燃焼室6に導入される空気の量を確保しつつ吸気弁11の制御性を良好にできる。
【0152】
また、上記実施形態では、SPCCI燃焼の実行時(半暖機第1領域B1での運転時)に、1サイクル中の全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率が、エンジンの運転条件に応じて予め定められた目標SI率に一致するように、点火プラグ16による主点火の時期が調整されるので、例えば燃焼騒音が過大にならない範囲でできるだけCI燃焼の割合を増やす(つまりSI率を低くする)ことができる。このことは、SPCCI燃焼による熱効率を可及的に高めることにつながる。
【0153】
(7)変形例
上記実施形態では、中負荷G/Fリーン領域C2のエンジン回転速度が低い領域において、吸気弁11の開弁時期IVOをエンジン回転速度によらず一定にした場合について説明したが、この領域の吸気弁11の開弁時期IVOは、そのエンジン回転速度に対する変化率が、これよりもエンジン回転速度が高い領域(中負荷G/Fリーン領域C2において)のエンジン回転速度に対する吸気弁11の開弁時期IVOの変化率よりも小さく設定されていればよい。従って、中負荷G/Fリーン領域C2のエンジン回転速度が低い領域において、エンジン回転速度が低くなるに従って吸気弁11の開弁時期IVOがわずかに進角されるように構成されてもよい。
【0154】
また、上記実施形態では、SPCCI燃焼による全熱発生量に対するSI燃焼による熱発生量の割合であるSI率を、
図7の燃焼波形における面積R1,R2を用いて、R1/(R1+R2)と定義し、このSI率が予め定められた目標SI率に一致するように主点火の時期を調整するようにしたが、SI率を定義する方法は他にも種々考えられる。
【0155】
例えば、SI率=R1/R2としてもよい。さらに、
図18に示すΔθ1、Δθ2を用いてSI率を定義してもよい。すなわち、SI燃焼のクランク角期間(変曲点点X2よりも進角側の燃焼期間)をΔθ1、CI燃焼のクランク角期間(変曲点X2よりも遅角側の燃焼期間)をΔθ2としたときに、SI率=Δθ1/(Δθ1+Δθ2)、もしくはSI率=Δθ1/Δθ2としてもよい。もしくは、SI燃焼の熱発生率のピークをΔH1、CI燃焼の熱発生率のピークをΔH2としたときに、SI率=ΔH1/(ΔH1+ΔH2)、もしくはSI率=ΔH1/ΔH2としてもよい。
【符号の説明】
【0156】
2 気筒
11 吸気弁
12 排気弁
13a 吸気VVT(吸気可変機構)
14a 排気VVT(排気可変機構)
15 インジェクタ
16 点火プラグ
30 吸気通路
40 排気通路
100 ECU(燃焼制御部)