(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】バルブ
(51)【国際特許分類】
F16K 17/04 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
F16K17/04 Z
(21)【出願番号】P 2018100954
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】谷崎 一紀
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-019805(JP,A)
【文献】実開平04-058676(JP,U)
【文献】特開2019-167897(JP,A)
【文献】特開2011-127431(JP,A)
【文献】特開2018-136001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バルブ孔が形成された弁座と、
弁体と、
前記弁体を前記バルブ孔に向けて押圧する押圧部材と、
を備え、前記押圧部材に押圧された前記弁体により前記バルブ孔が閉塞されるように構成されたバルブであって、
前記押圧部材は、前記押圧部材の押圧力に逆らう力が前記弁体に所定値以上作用した場合に、前記弁体を所定の一方向に相対移動させつつ前記弁座から離間させる
とともに、前記弁体に作用する前記力が前記所定値未満となった場合に、前記押圧部材に押圧された前記弁体により前記バルブ孔が閉塞されるように前記弁体を相対移動させる案内部を備え
、
前記案内部には、前記弁体と少なくとも2点で当接して前記弁体を相対移動させる案内面が設けられているバルブ。
【請求項2】
前記
案内面は、前記相対移動に係る前記弁体の軌跡が前記バルブ孔の中心軸を通るように構成さ
れている請求項1に記載のバルブ。
【請求項3】
前記案内面における前記弁体と当接する前記少なくとも2点に含まれる2つの当接点は、前記軌跡を含む平面に対して面対称に位置している請求項2に記載のバルブ。
【請求項4】
前記弁座は、前記弁体が当接する弁座面を有し、
前記案内部と前記弁座面とは、前記弁体に対して、前記弁座面に沿って前記バルブ孔を閉塞する方向に移動させる力を作用するよう構成されている請求項1から3のいずれかに記載のバルブ。
【請求項5】
前記弁座は、前記バルブ孔が延びる方向である軸方向に対して直線状に傾斜するテーパ状の弁座面を有し、
前記案内部には、前記弁体と当接し、前記軸方向に対して直線状に傾斜する
前記案内面が設けられている請求項1から4のいずれかに記載のバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
バルブの一例としては、プランジャと、弁体と、弁座と、スプリングと、を備えたリリーフバルブが挙げられる。リリーフバルブは、スプリングがプランジャ及び弁体を弁座に向けて押圧し、弁体が弁座に設けられたバルブ孔を閉塞するように構成されている。バルブ孔を介して弁体に所定圧以上の圧力が加わると、弁体がプランジャを付勢力に反して押圧し、弁体が移動してバルブ孔が開口する。バルブの開閉において、弁体と弁座との隙間を流体が通ることにより生じる負圧の影響により、弁体が振動し、異音の原因となっていた。ここで、特開2012-82762号公報には、ボール(弁体)がシート面の径方向一方側の幅広部に押圧されるように構成されたリリーフバルブが記載されている。これにより、ボールの振動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記リリーフバルブでも、ボールは、幅広部から離れた際に、径方向他方側の領域で移動することができる。ボールは、例えば、特開2012-82762号公報の
図3の紙面奥方向または手前方向に移動することができる。これにより、バルブの開閉時に振動が生じるおそれがあり、振動抑制の面で改善の余地がある。また、上記リリーフバルブでは、ボール保持部が、ボールを掴むような円錐形状となっているため、構成上、ボールと一体に移動する。このため、ボールの振動に応じてボール保持部も一緒に振動してしまい、異音が大きくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されており、弁体の振動を抑制することができるバルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のバルブは、バルブ孔が形成された弁座と、弁体と、前記弁体を前記バルブ孔に向けて押圧する押圧部材と、を備え、前記押圧部材に押圧された前記弁体により前記バルブ孔が閉塞されるように構成されたバルブであって、前記押圧部材は、前記押圧部材の押圧力に逆らう力が前記弁体に所定値以上作用した場合に、前記弁体を所定の一方向に相対移動させつつ前記弁座から離間させるとともに、前記弁体に作用する前記力が前記所定値未満となった場合に、前記押圧部材に押圧された前記弁体により前記バルブ孔が閉塞されるように前記弁体を相対移動させる案内部を備え、前記案内部には、前記弁体と少なくとも2点で当接して前記弁体を相対移動させる案内面が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、バルブの開弁時に、弁体が案内部に所定の一方向に案内され、弁体がその他の方向に移動することは抑制される。弁体の移動が一方向に規制されることで、弁体と弁座との間に形成される流路の位置は一定の位置となる。これにより、弁体が様々な方向に揺れることが抑制され、弁体の振動が抑制される。また、弁体が移動する際、弁体は案内部に対して相対移動するため、弁体と押圧部材とが一体で移動することは抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図1のII-II線断面図(左右視断面)である。
【
図5】本実施形態の押圧部材4の概略底面図である。
【
図6】
図1のVI-VI線概略断面図(当接左右視断面)である。
【
図7】本実施形態のバルブのアクチュエータへの適用例を示す
図1のII-II線断面図(左右視断面)である。
【
図8】本実施形態の変形例を示す
図5に対応する図である。
【
図9】本実施形態の変形例を示す
図6に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図面は模式図であり、特に
図1、5、6、8、9は形状を簡略化して表した概念図である。本実施形態のバルブ1は、リリーフバルブの機能を有するバルブ(すなわちリリーフバルブ)である。バルブ1は、
図1~
図3に示すように、バルブ孔21が形成された弁座2と、球状の弁体3と、押圧部材4と、付勢部材5と、リテーナ6と、を備えている。以下、特に説明がなければ、「軸方向」はバルブ孔21が延びる方向であり、「径方向」はバルブ孔21の径方向である。換言すると、本実施形態において、軸方向は弁座2の軸方向であり、径方向は弁座2の径方向である。以下、説明上、
図1及び
図5の右側、左側、上側、下側を夫々バルブ1の前方、後方、左方、右方とし、
図2及び
図7の右側、左側、上側、下側を夫々バルブ1の前方、後方、上方、下方とする。説明において、上下方向は軸方向に相当し、例えば下方は軸方向一方といえ、上方は軸方向他方といえる。
【0010】
弁座2は、円筒状の金属部材であって、一部がリテーナ6の下側の開口61に圧入固定されている。弁座2の中央には、上下方向に延びるバルブ孔21が形成されている。バルブ孔21は、軸方向直交断面(流路断面)が円形状となるように形成され、バルブ1の流路10の一部を構成している。弁座2の上端部には、バルブ孔21の周囲に、弁体3が当接する弁座面22が形成されている。弁座面22は、バルブ孔21に近づくほど径が小さくなるテーパ状(円錐面状)に形成されている。なお、弁座2は、比較的大径に形成された下側の部位2aと、比較的小径に形成され且つリテーナ6内に配置される上側の部位2bと、を備えている。
【0011】
弁体3は、金属製のボール弁であり、弁座2の下側に配置されている。弁体3の径はバルブ孔21の径よりも大きい。弁体3は、弁座2と押圧部材4との間に位置している。弁体3が弁座面22の全周にわたって当接している状態において、弁体3はバルブ孔21を閉塞し、バルブ1は閉弁した状態となる。以下、弁体3が弁座面22の全周に当接している状態を閉塞状態ともいう。
【0012】
押圧部材4は、いわゆるプランジャであって、弁体3と付勢部材5との間に位置し、付勢部材5の付勢力で弁体3をバルブ孔21に向けて押圧する樹脂部材である。バルブ1は、押圧部材4に押圧された弁体3によりバルブ孔21が閉塞されるように構成されている。押圧部材4の詳細は後述する。
【0013】
付勢部材5は、下端部が押圧部材4に当接し、上端部がリテーナ6に当接したコイルスプリングである。付勢部材5は、圧縮された状態で押圧部材4とリテーナ6との間に配置されている。付勢部材5は、押圧部材4を介して弁体3を弁座2に向けて押圧している。
【0014】
リテーナ6は、下側に比較的大径の開口61を有し、上側に比較的小径の開口62を有する円筒状の金属部材である。リテーナ6は、弁座2と同軸的に配置されている。リテーナ6の側面には、複数の開口63が周方向に等間隔で形成されている。開口63は、軸方向において、閉塞状態における弁座2と押圧部材4との間に位置している。なお、リテーナ6の上側の部位は、下側の部位より小径の円筒状に形成されている。また、付勢部材5の上端部は、リテーナ6のうち開口62の周囲に当接している。
【0015】
ここで、押圧部材4について詳細に説明する。押圧部材4は、下側に底面をもち上側が開口した有底円筒状の部材である。具体的に、押圧部材4は、円柱状の円柱部41と、円柱部41の上面の外周縁から上側に向けて突出した円筒状の円筒部42と、円柱部41の下端部に形成された案内部43と、を備えている。付勢部材5は、円筒部42の内側に配置され、円柱部41の上面に当接している。
【0016】
案内部43は、押圧部材4のうち弁体3と当接する部分である。つまり、案内部43は、弁体3を弁座面22側に押し付ける部分である。案内部43は、付勢部材5の付勢力に逆らう力が弁体3に所定値以上作用した場合に、弁体3を所定の一方向に案内して相対移動させつつ弁座2から離間させるように構成されている。案内部43は、自身(案内部43)に対して弁体3を相対移動させる。
【0017】
ここで、閉塞状態において弁体3に区画されるバルブ1の流路10のうち、弁体3よりも下側の領域を第1領域11とし、弁体3よりも上側の領域を第2領域12とする。付勢部材5の付勢力に逆らう力は、第1領域11の圧力と第2領域12の圧力との差(以下、単に「差圧」と称する)に応じて生じる、弁体3を上側に押圧する力を意味する。また、
図2に示すように、左右方向に延びる直線に直交する平面(以下「左右直交平面」という)でバルブ1を切断した断面を、左右視断面とする。
図2、
図7は、弁座2の中心軸20を含む平面でバルブ1を切断した左右視断面である。
【0018】
案内部43は、各々が弁体3と接する2つの当接点を有し且つ弁体3をバルブ孔21に向けて押圧する案内面431を備えている。本実施形態の案内面431は、前方ほど上側に位置するように傾斜した傾斜面である。案内面431は、左右視断面において、前方且つ上側(
図2の矢印参照)に延びる直線として表れる。案内面431は、後述するが、V字状に配置された2つの傾斜面で構成されているといえる。
【0019】
図3に示すように、前後方向に延びる直線に直交し且つ中心軸20を含む平面でバルブ1を切断した断面において、案内面431は、下側ほど開口幅が拡がる凹形状(ここではV字状)に形成されている。案内面431と弁体3とは、弁体3の中心の左右両側で当接している。これにより、弁体3に対して弁体3の左右両側から弁体の中心側に向かう力が生じ、弁体3の左右への移動が規制される。
【0020】
案内部43は、
図4及び
図5に示すように、案内面431の下端が、左右直交平面の位置が弁座2の中心軸20から遠ざかるほど前方に位置するように構成されている。案内面431の下端の位置は、弁座2の中心軸20を含む左右直交平面(以下「仮想第1平面」という)Z1による左右視断面において、最も後方となる。本実施形態では、案内面431の下端及び上端は、弁座2から案内部43を見た場合において(
図5参照)、前方ほど左右幅が拡大するV字状になっている。弁体3は、案内部43が形成するV字状の溝内で2つの傾斜面に挟まれるように配置されている。
【0021】
さらに説明すると、
図4に示すように、案内部43は、第一面432と、第一面432よりも下側に位置する第二面433と、第一面432と第二面433とをつなぐ案内面431と、を備えている。第一面432と第二面433とが軸方向において異なる位置にあることで、案内部43は段差を有する形状に形成されている。
図5に示すように、下側から上側を見た視点において、扇形状の第一面432と第二面433とは、前後方向に離間している。軸方向に対して傾斜している案内面431が第一面432と第二面433とを接続している。第一面432は、案内部43が形成する凹部(溝)の底面を構成し、案内面431は、当該凹部の側面を構成しているといえる。
【0022】
図5に示すように、案内部43と弁体3とは、案内面431上において、2点で当接している。一方の当接点は、仮想第1平面Z1で分割される弁体3の一方側部位31に位置し、他方の当接点は、仮想第1平面Z1で分割される弁体3の他方側部位32に位置する。つまり、一方の当接点は中央より左側の案内面431(一方の傾斜面)にあり、他方の当接点は中央より右側の案内面431(他方の傾斜面)にある。両当接点は、仮想第1平面を基準として対称(左右対称)の位置となる。2つの当接点は、弁体3の押圧部材4側(上側)の部位を挟むように位置している。2つの当接点により、弁体3の左右への移動が規制されるとともに、弁体3に下側への力が加えられる。弁体3の移動による当接点の軌跡は、仮想第1平面Z1に平行な直線となる。弁体3は、案内部43に案内されて、案内部43及び弁座2に対して摺動又は転動する。弁体3が案内部43によって案内される軌跡は仮想第1平面Z1上に位置する。なお以下、弁体3が案内部43によって案内される場合の軌跡を「弁体移動軌跡」という。
弁体移動軌跡は、弁体3の中心の軌跡である。仮想第1平面Z1は中心軸20を通る。従って押圧部材4は弁体移動軌跡が中心軸20を通るよう構成されている。弁体移動軌跡は、中心軸20を通過するまたは中心軸20と交わるともいえる。弁体移動軌跡が中心軸20を通るとは、弁体3の中心が中心軸20上に位置する状態があることを意味する。より詳細には、弁体移動軌跡は、閉塞状態で中心軸20上に位置し、当該位置から所定の一方向に延びている。つまり、弁体移動軌跡は、中心軸20上の点から所定の一方向に延びているといえる。
また、2つの当接点は弁体移動軌跡を挟むように位置するともいえる。本実施例では2つの当接点は弁体移動軌跡を含む平面(仮想第1平面Z1)に対して面対称に位置している。2つの当接点は、上方(または下方)から見た際、弁体移動軌跡に対して線対称に位置している。このように、案内部43には、弁体と少なくとも2点で当接し、相対移動に係る弁体3の軌跡(弁体移動軌跡)がバルブ孔21の中心軸20を通るように構成された案内面431が設けられている。また、案内面431における弁体3と当接する少なくとも2点に含まれる2つの当接点は、弁体移動軌跡を含む平面(Z1)に対して面対称に位置している。
【0023】
この案内部43によれば、弁体3が差圧により上側に力を受けて移動する際、案内面431により所定の一方向(ここでは前方且つ上側)に案内される。換言すると、閉塞状態からの弁体3の移動は、案内部43(案内面431)によって1つの方向に規制される。
図5に示すように、閉塞状態の当接点が最も後方に位置し、弁体3が弁座面22から離れるほど、当接点は前方に移動する。弁体3が上側に押圧されるほど、弁体3は、案内面431に案内され、弁座面22に沿って前方且つ上側(
図2の矢印参照)に移動する。この際、押圧部材4は、弁体3との当接状態を保ちつつ上側に若干移動する。反対に、差圧が小さくなり弁体3が弁座面22に戻る際には、弁体3は、案内面431に案内され、弁座面22に沿って、後方且つ下側に移動し、押圧部材4も下側に移動して初期位置(閉塞状態の位置)に戻る。
【0024】
ここで、
図5及び
図6に示すように、2点の当接点のうちいずれか一方の当接点を含む左右直交平面(「仮想第2平面」に相当する)Z2でバルブ1を切断した左右視断面(以下「当接左右視断面」という)において、弁体3と案内面431との当接点における弁体3の接線を案内直線L1とし、弁体3と弁座面22との当接点における弁体3の接線を弁座直線L2とする。なお
図2に示すように、弁体3は弁座面22の全周に当接している。弁座直線L2は弁体3の前方よりの下側部分と弁座面22との当接点における接線である。即ち、案内直線L1と弁座直線L2とは夫々、中心軸20を挟むように位置する当接点、すなわち弁体3と案内面431との当接点と、弁体3と弁座面22との当接点とにおける接線である。本実施形態では、案内面431及び弁座面22の当接左右視断面での形状が直線状であるため、弁体3の位置によらず、案内直線L1及び弁座直線L2は一定方向に延びる。つまり、当接左右視断面において、案内直線L1は、案内面431として表れる直線に平行な直線であり、弁座直線L2は、弁座面22として表れる直線に平行な直線である。案内面431と弁座面22とは軸方向に対して互いに異なる角度で傾斜している。案内面431と弁座面22とは、直線状の断面を有するため、成形がしやすくなる。
【0025】
案内面431及び弁座面22は、当接左右視断面において、弁座2の中心軸20に平行な直線Cと案内直線L1とが為す鋭角の角度R1が、中心軸20に平行な直線Cと弁座直線L2とが為す鋭角の角度R2以上となるように形成されている。換言すると、当接左右視断面において、直線CをY軸(縦軸)とし、直線Cに直交する直線をX軸(横軸)とした場合、弁座直線L2の傾き(絶対値)は、案内直線L1の傾き(絶対値)以上になっている。
【0026】
本実施形態では、角度R1は角度R2よりも大きくなっている(R1>R2)。つまり、案内直線L1と弁座直線L2との離間距離(例えば、一方の直線の垂線が他方の直線と交わるまでの延伸距離)は、下側に向かうほど大きくなる。これにより、他の構成を用いることなく、押圧部材4によってバルブ孔21を塞ぐ方向の押圧力が弁体3に対して加わり、開弁状態から閉弁状態に移行する際、弁体3が弁座面22の全周により確実に当接する。本実施形態では、切断する左右直交平面の位置によらず、案内面431及び弁座面22を含む左右視断面において、弁体3が移動する範囲内で、上記同様の関係、すなわち案内面431を表す直線と直線Cとが為す鋭角の角度が弁座面22を表す直線と直線Cとが為す鋭角の角度以上となる関係が成り立つ(
図7の一点鎖線参照)。なお本実施例では、弁座面22はテーパ状であるため、弁体3と弁座面22との接点における接線の傾きは弁体3の位置にかかわらず一定である。即ち、弁体3の位置にかかわらず角度R2は一定である。上述のように、押圧部材4は弁体3の移動に伴い上側に若干移動するが、角度R1は一定である。従って本実施例のバルブ1は、押圧部材4の位置にかかわらず角度R1>角度R2となるよう構成されている。この場合、案内面431と弁体3との当接点と、弁座面22と弁体3との当接点とを結ぶ直線は、弁体3の重心よりも上側を通る。従って、押圧部材4が弁体3を押圧することに伴い、弁体3に対しては弁座面22に沿ってバルブ孔21を塞ぐ方向に力が作用する。これにより例えば、バルブ孔21から離間している弁体3に対して作用していた上方向の力が解除された場合、より確実に弁体3でバルブ孔21を閉塞することができる。
このように、弁座2は、弁体3が当接する弁座面22を有し、案内部43と弁座面22とは、弁体3に対して、弁座面22に沿ってバルブ孔を閉塞する方向に移動させる力を作用するよう構成されている。また、弁座2は、バルブ孔21が延びる方向である軸方向に対して直線状に傾斜するテーパ状の弁座面22を有し、案内部43には、弁体3と当接し、軸方向に対して直線状に傾斜する案内面431が設けられている。
【0027】
また、
図2に示すように、閉塞状態において、押圧部材4は案内面431と弁体3との当接により前後方向に傾き、押圧部材4の前方の上端部及び後方の下端部はリテーナ6に当接している。これにより、押圧部材4は安定して配置される。押圧部材4は、閉塞状態、すなわち傾いている状態において、上記関係(R1≧R2)が成立するように形成されている。押圧部材4は、案内面431(2つの当接点)を介して、弁体3を中心軸20からオフセットした方向(前方且つ下側)に押圧している。このように、弁体3は、押圧部材4により、下側に押圧されるとともに、弁座面22のうち前方部分に向けても押圧されている。換言すると、当接点から弁体3が受ける力の向きは、前方且つ下側となり、閉塞状態において弁体3の後方への移動は規制される。また、押圧部材4の左右の端部には、それぞれ、軸方向全体にわたって切り欠きが設けられている。これにより、バルブ孔21と開口62とをつなぐ流路の流路幅を大きくすることができる。
【0028】
本実施形態によれば、差圧(第1領域11の圧力>第2領域12の圧力)が所定圧以上になると、弁体3を上側に押圧する所定値以上の力が発生する。この場合、弁体3は、後方への移動及び左右への移動が案内部43の案内面431により規制されているため、案内面431の案内により、弁座面22に沿って所定の一方向(前方且つ上側)に移動する。つまり、弁体3は、閉塞状態から差圧により移動する際、案内面431と2点接触した状態で案内面431上をスライドする。これにより、弁座面22の後方部分と弁体3とが離間し、弁体3の後方に第1領域11と第2領域12とを連通させる流路が形成され、バルブ1が開弁する。差圧が所定圧未満になると、押圧部材4の下側への押圧力と、案内面431及び弁座面22の傾斜により、弁体3は弁座面22上を後方且つ下側(
図2の矢印参照)に移動する。
【0029】
このように、本実施形態によれば、バルブ1の開弁時に、弁体3が案内部43に所定の一方向に案内され、弁体3がその他の方向に移動することは抑制される。弁体3の移動が一方向に規制されることで、弁体3と弁座面22との間に形成される流路の位置は一定の位置となる。これにより、弁体3が様々な方向(例えば弁座2の周方向など)に揺れることが抑制され、弁体3の振動が抑制される。バルブ1は、差圧が所定圧以上となると開弁し所定圧未満となると閉弁するリリーフバルブとして機能し、且つ弁体3の振動は抑制される。
【0030】
また、弁体3が移動する際、弁体3は案内面431に対してスライド(相対移動)するため、弁体3と押圧部材4とは一体で移動しない。つまり、本実施形態によれば、弁体3と押圧部材4とが一体に振動することは抑制される。また、弁座面22の軸心を弁体3の中心からオフセットさせた形状に弁座2を形成する必要がなく、加工性の面でも有利となる。押圧部材4については、弁座2ほどの強度は不要であり、本実施形態のように樹脂成形により比較的容易に形成することができる。
【0031】
また、バルブ1は、例えば車両用制動装置のアクチュエータ内に配置されても良い。ここで、例えば
図7に示すように、弁座2のリテーナ6より径方向外側の部位(大径の部位2a)には、バルブ孔21よりも小径のオリフィス孔23が形成されても良い。この構成によれば、差圧の大きさによって、流体が流通する流路が変わる2段オリフィスを形成することができる。アクチュエータには、例えばピストンポンプが設置されており、ピストンポンプの駆動により比較的大きな液圧変動が発生する。そこで、上記バルブ1(2段オリフィス)を配置することで、弁体3の振動を抑制しつつ、液圧の脈動の伝達を抑制することができる。このように、本実施形態によれば、異音の発生を抑制することができる。
【0032】
本実施形態の構成をまとめて記載すると、バルブ1は、バルブ孔21が形成された弁座2と、球状の弁体3と、弁体3をバルブ孔21に向けて押圧する押圧部材4と、を備え、押圧部材4に押圧された弁体3によりバルブ孔21が閉塞されるように構成されたバルブであって、押圧部材4は、付勢力に逆らう力が弁体3に所定値以上作用した場合に、弁体3を所定の一方向に案内して相対移動させつつ弁座2から離間させる案内部43を備えている。
また、案内部43は、弁体3との当接点を少なくとも2点持ち且つ弁体3をバルブ孔21に向けて押圧する案内面431を備え、弁座2の中心軸20を含み且つ所定の一方向に平行な平面を仮想第1平面Z1とすると、2点の当接点の一方は、仮想第1平面Z1で分割される弁体3の一方側部位31に位置し、2点の当接点の他方は、仮想第1平面Z1で分割される弁体3の他方側部位32に位置する。また、上記2点の当接点は、仮想第1平面Z1を基準にして対称に位置している。また、弁座2は、弁体3が着座する弁座面22を有し、2点の当接点のうち何れか一方を含み且つ所定の一方向に平行な平面を仮想第2平面Z2とし、案内面431及び弁座面22を仮想第2平面Z2で切断した断面(当接左右視断面)において、案内面431と弁体3との当接点における弁体3の接線を案内直線L1とし、弁座面22と弁体3とが当接している点における弁体3の接線を弁座直線L2とすると、案内面431及び弁座面22は、当接左右視断面において、弁座2の中心軸20と平行な直線Cと案内直線L1とが為す鋭角の角度R1が、弁座2の中心軸20と平行な直線Cと弁座直線L2との為す鋭角の角度R2以上となるように形成されている。また、案内面431及び弁座面22は、当接左右視断面において、直線状に形成されている。
【0033】
<その他>
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、押圧部材4は、金属製であってもよい。また、例えば
図8に示すように、閉塞状態の弁体3の左端を含む左右直交平面と、閉塞状態の弁体3の右端を含む左右直交平面との間の領域を弁体配置領域Dとすると、バルブ1は、弁体配置領域Dのみで、上記関係(R1≧R2)が成立するように形成されてもよい。配置容易性の観点から、バルブ1は、少なくとも弁体配置領域Dを含む領域で、上記関係(R1≧R2)が成立するように形成されることが好ましい。
【0034】
また、押圧部材4の円筒部42は、円柱部41の上端面の中央から上側に突出した円柱状の部位に変更されても良い。この場合、付勢部材5は当該円柱状の部位の外側に配置される。また、バルブ1は、例えば電磁弁であってもよく、この場合、押圧部材4は、弁体3と押圧部材4とが当接し、且つ弁体3と弁座面22の少なくとも一部とが当接した状態を保ちつつ、例えばECU等により差圧に応じて軸方向の位置を制御される。
【0035】
また、
図9に示すように、案内面431は、左右視断面において、直線状に限らず、弧状に形成されてもよい。弁座面22についても同様に、左右視断面において弧状に形成されても良い。即ち、弁座面22は下側に向けて径が小さくなるテーパ状でなくてもよい。この場合でも、当接左右視断面において、想定される弁体3の移動範囲で、上記関係R1≧R2が成立することが好ましい。R1とR2の大きさにより、押圧部材4が弁体3に作用する力の大きさを調整することができる。なお、弁体3に作用する力の大きさは、例えば案内部43の摺動抵抗を当接場所(当接部位)によって変更することでも調整できる。また、弁体3が閉塞状態から移動し始めるのに必要な力・差圧(所定値・所定圧)は、例えば付勢部材5のばね定数や圧縮距離または角度R1、R2などで調整することができる。
【0036】
案内面431はV字状に配置された2つの傾斜面で構成されていなくてもよい。例えば2つの傾斜面の接続部分が弧状でもよい。また各々が案内面431と弁体3と接する点である2つの当接点は、仮想第1平面Z1に対して面対称に位置しなくてもよい。この場合、例えば、2つの当接点から弁体移動軌跡までの最短距離が互いに異なる距離に位置されてもよい。また案内面431は各々が弁体3と接する2つの当接点を備えなくてもよい。例えば案内面431は、閉塞状態において弁体3の曲面に沿って接する1つの当接部を含んでもよい。即ち、案内面431は前後方向に延びる直線に直交する断面においてV字状ではなく円弧状に形成されてもよい。
【0037】
角度R1は押圧部材4の位置に応じて変化してもよい。角度R1が変化する量は、例えば押圧部材4とリテーナ6とが接触する位置や付勢部材5の特徴によって調節されればよい。また弁体3は球体でなくてもよい。これらの場合であっても、バルブ1は、弁体3に対して弁座面22に沿ってバルブ孔21を塞ぐ方向に力が作用するよう構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1…バルブ、2…弁座、20…中心軸、21…バルブ孔、22…弁座面、3…弁体、31…一方側部位、32…他方側部位、4…押圧部材、43…案内部、431…案内面、5…付勢部材、6…リテーナ、C…直線、L1…案内直線、L2…弁座直線、Z1…仮想第1平面、Z2…仮想第2平面。