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特許7077929圧延ラインの数学モデル算出装置および制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】圧延ラインの数学モデル算出装置および制御装置
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/22 20060101AFI20220524BHJP
   B21B 37/50 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B21B37/22 Z
B21B37/50
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018232951
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2020093281
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 英樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-150371(JP,A)
【文献】特開2017-224091(JP,A)
【文献】特開昭63-013608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/22
B21B 37/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスタンドを備えた仕上圧延機において隣接したスタンドの間に設けられたスタンド間ルーパにより圧延材の張力を制御することにより前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅を制御する圧延ラインに対し、前記圧延ラインの応答値の履歴に基づいて、隣接したスタンドの間における圧延材の張力の応答値を入力とし、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の応答値を出力として数学モデルを算出する数学モデル算出部、
を備え
前記数学モデル算出部は、前記入力と前記出力とを1次直線で近似し、前記入力と前記出力とから対応した1次直線を差し引いた値を用いて、ARMAX(Auto-Regressive Moving Average eXogonous)モデルに基づく前記数学モデルを算出する圧延ラインの数学モデル算出装置。
【請求項2】
前記圧延ラインの稼働中において、請求項に記載の数学モデル算出装置が算出した数学モデルに対し、隣接したスタンドの間における圧延材の張力の応答値をオンラインで入力し、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の予測値を算出する制御部、
を備えた圧延ラインの制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の予測値に基づいて、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅が目標板幅となるように、前記スタンド間ルーパによる圧延材の張力を修正する請求項に記載の圧延ラインの制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の予測値と仕上出側板幅計による前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の応答値と隣接したスタンドから前記仕上出側板幅計までの移送むだ時間をオンラインで請求項に記載の数学モデル算出装置が算出した数学モデルに入力し、前記数学モデルの出力に基づいて前記スタンド間ルーパによる圧延材の張力を修正する請求項または請求項に記載の圧延ラインの制御装置。
【請求項5】
粗圧延機の出側かつ前記仕上圧延機の入側に設けられた粗出側板幅計による前記仕上圧延機の入側における圧延材の板幅の応答値と前記仕上圧延機の出側までの圧延材の板幅の変化の予測式とに基づいて、前記仕上圧延機の出側における目標板幅の偏差の予測値を算出し、請求項に記載の数学モデル算出装置が算出した数学モデルに基づいて、前記仕上圧延機の出側における目標板幅の偏差の予測値を取り除くように、隣接したスタンドの間における圧延材の張力の初期設定値を修正する請求項から請求項のいずれか一項に記載の圧延ラインの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延ラインの数学モデル算出装置および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、圧延ラインの制御装置を開示する。当該制御装置は、線形回帰計算から得られた数学モデルに基づいて仕上圧延機の出側における圧延材の板幅を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-211211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の制御装置において、数学モデルは、定常状態から得られる。このため、各スタンド間張力をダイナミックに変化させた場合、数学モデルの予測精度が低くなる。
【0005】
この発明は、上述の課題を解決するためになされた。この発明の目的は、圧延材の板幅制御に対する精度の高い数学モデルを算出することができる圧延ラインの数学モデル算出装置および制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る圧延ラインの数学モデル算出装置は、複数のスタンドを備えた仕上圧延機において隣接したスタンドの間に設けられたスタンド間ルーパにより圧延材の張力を制御することにより前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅を制御する圧延ラインに対し、前記圧延ラインの応答値の履歴に基づいて、隣接したスタンドの間における圧延材の張力の応答値を入力とし、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の応答値を出力として数学モデルを算出する数学モデル算出部、を備えた。
【0007】
この発明に係る圧延ラインの制御装置は、前記圧延ラインの稼働中において、前記数学モデル算出装置が算出した数学モデルに対し、隣接したスタンドの間における圧延材の張力の応答値をオンラインで入力し、前記仕上圧延機の出側における圧延材の板幅の予測値を算出する制御部、を備えた。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、圧延ラインの応答値の履歴に基づいて、数学モデルが算出される。このため、圧延材の板幅制御に対する精度の高い数学モデルを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される熱間圧延ラインの構成図である。
図2】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される圧延ラインの制御を説明するためのブロック図である。
図3】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の概要を説明するためのブロック図である。
図4】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の概要を説明するためのブロック図である。
図5】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の概要を説明するためのブロック図である。
図6】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の例を説明するための図である。
図7】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の例を説明するための図である。
図8】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の例を説明するための図である。
図9】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される圧延ラインの制御のシミュレーション結果を示す図である。
図10】実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置を備えた制御装置のハードウェア構成図である。
図11】実施の形態2における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される圧延ラインの制御を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一または相当する部分には同一の符号が付される。当該部分の重複説明は適宜に簡略化ないし省略される。
【0011】
実施の形態1.
図1は実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される熱間圧延ラインの構成図である。
【0012】
図1に示されるように、熱間圧延ラインは、粗圧延機1と仕上圧延機2と粗出側板幅計3と仕上出側板幅計4とルーパ装置5と制御装置6とを備える。
【0013】
粗圧延機1は、図示されない加熱炉の出側に設けられる。仕上圧延機2は、粗圧延機1の出側に設けられる。仕上圧延機2は、複数のスタンドを備える。複数のスタンドは、水平方向に並んで設けられる。例えば、複数のスタンドは、スタンド2aとスタンド2bとスタンド2cとスタンド2dとスタンド2eとスタンド2fとスタンド2gとからなる。粗出側板幅計3は、粗圧延機1の出側かつ仕上圧延機2の入側に設けられる。仕上出側板幅計4は、仕上圧延機2の出側に設けられる。ルーパ装置5は、複数のスタンド間ルーパを備える。複数のスタンド間ルーパの各々は、隣接したスタンドの間に設けられる。例えば、複数のスタンド間ルーパは、スタンド間ルーパ5aとスタンド間ルーパ5bとスタンド間ルーパ5cとスタンド間ルーパ5dとスタンド間ルーパ5eとスタンド間ルーパ5fとからなる。制御装置6は、熱間圧延ラインを全体的に制御し得るように設けられる。
【0014】
圧延材7は、矢印で示される圧延方向に移動する。圧延材7は、粗圧延機1と仕上圧延機2とに圧延される。その結果、圧延材7の板厚は、変化する。
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
次に、図2を用いて、圧延ラインの制御を説明する。
図2は実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される圧延ラインの制御を説明するためのブロック図である。
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
次に、図3から図5を用いて、数学モデルの算出方法の概要を説明する。
図3から図5は実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の概要を説明するためのブロック図である。
【0026】
【0027】
例えば、図4に示されるように、数学モデル算出部9は、線形差分方程式であるARMAX(Auto-Regressive Moving Average eXogonous)モデルを算出する。ARMAXモデルは、次の(1)式で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
(1)式のA(z)は、次の(2)式で表される。
【0030】
【数2】
【0031】
(1)式のB(z)は、次の(3)式で表される。
【0032】
【数3】
【0033】
(1)式のC(z)は、次の(4)式で表される。
【0034】
【数4】
【0035】
ARMAXモデルにおいては、多項式有理関数G(z)が定義される。G(z)は、入力u(k)から出力y(k)までの伝達関数である。具体的には、G(z)は、次の(5)式で表される。
【0036】
【数5】
【0037】
ARMAXモデルにおいては、多項式有理関数H(z)が定義される。H(z)は、雑音w(k)から外乱項v(k)までの伝達関数である。具体的には、H(z)は、次の(6)式で表される。
【0038】
【数6】
【0039】
その結果、図4のブロック図は、図5のブロック図に変換される。この際、出力y(k)は、次の(7)式で表される。
【0040】
【数7】
【0041】
現時刻kにおける出力y(k)の予測値は、時刻(k-1)までの過去のデータを用いて次の(8)式で表される。
【0042】
【数8】
【0043】
なお、(8)式の右辺の第2項は、次の(9)式で定義される。
【0044】
【数9】
【0045】
(8)式が(7)式に代入されると、次の(10)式が得られる。
【0046】
【数10】
【0047】
(7)式と(10)式とにより雑音w(k)が消去されると、次の(11)式が得られる。
【0048】
【数11】
【0049】
(11)式に示されるように、現在の出力は、過去の入力と出力との線形結合として算出される。この際、1段階予測値を用いた予測誤差εは、次の(12)式で定義される。
【0050】
【数12】
【0051】
A(z)とB(z)とC(z)とは、(12)式を用いた予測誤差法で決定される。具体的には、A(z)とB(z)とC(z)とは、予測誤差εから構成される評価関数を最小にするように決定される。
【0052】
離散時間系において、入力u(k)から出力y(k)までの伝達関数G(z)は、次の(13)式で表される。
【0053】
【数13】
【0054】
連続時間系において、入力u(k)から出力y(k)までの伝達関数G´(s)は、(13)式を変換することにより得られる。伝達関数G´(s)は、次の(14)式で表される。
【0055】
【数14】
【0056】
次に、図6から図8を用いて、数学モデルの算出方法の例を説明する。
図6から図8は実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置による数学モデルの算出方法の例を説明するための図である。
【0057】
図6は、スタンド2eとスタンド2fとの間におけるスタンド間張力と仕上出側板幅とを示す。
【0058】
【0059】
【0060】
図8の上段は、数学モデルに入力する前のデータの前処理として、図7の上段のデータから低周波外乱である平均値と傾きとを取り除いたデータである。
【0061】
図8の下段は、数学モデルに入力する前のデータの前処理として、図7の下段のデータから低周波外乱である平均値と傾きとを取り除いたデータである。
【0062】
図8の上段と下段とにおいて、データの平均値と傾きとは0である。数学モデル算出部9は、データの収集後にオフラインで図8の上段と下段とに対応した処理を行う。数学モデル算出部9は、図8の上段と下段とのデータを用いて伝達関数を算出する。例えば、伝達関数G(s)は、以下の(15)式で表される。
【0063】
【数15】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
以上で説明した実施の形態1によれば、熱間圧延ラインの応答値の履歴に基づいて、数学モデルが算出される。このため、圧延材7の板幅制御に対する精度の高い数学モデルを算出することができる。
【0068】
また、数学モデルは、入力と出力とを1次直線で近似し、当該入力と当該出力とから対応した1次直線を差し引いた値を用いて算出される。このため、より精度の高い数学モデルを算出することができる。
【0069】
【0070】
【0071】
次に、図10を用いて、制御装置6の例を説明する。
図10は実施の形態1における圧延ラインの数学モデル算出装置を備えた制御装置のハードウェア構成図である。
【0072】
制御装置6の各機能は、処理回路により実現し得る。例えば、処理回路は、少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える。例えば、処理回路は、少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える。
【0073】
処理回路が少なくとも1つのプロセッサ100aと少なくとも1つのメモリ100bとを備える場合、制御装置6の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせで実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、少なくとも1つのメモリ100bに格納される。少なくとも1つのプロセッサ100aは、少なくとも1つのメモリ100bに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、制御装置6の各機能を実現する。少なくとも1つのプロセッサ100aは、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、DSPともいう。例えば、少なくとも1つのメモリ100bは、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等である。
【0074】
処理回路が少なくとも1つの専用のハードウェア200を備える場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、またはこれらの組み合わせで実現される。例えば、制御装置6の各機能は、それぞれ処理回路で実現される。例えば、制御装置6の各機能は、まとめて処理回路で実現される。
【0075】
制御装置6の各機能について、一部を専用のハードウェア200で実現し、他部をソフトウェアまたはファームウェアで実現してもよい。例えば、数学モデル算出部9の機能については専用のハードウェア200としての処理回路で実現し、数学モデル算出部9の機能以外の機能については少なくとも1つのプロセッサ100aが少なくとも1つのメモリ100bに格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現してもよい。
【0076】
このように、処理回路は、ハードウェア200、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせで制御装置6の各機能を実現する。
【0077】
実施の形態2.
図11は実施の形態2における圧延ラインの数学モデル算出装置が適用される圧延ラインの制御を説明するためのブロック図である。なお、実施の形態1の部分と同一又は相当部分には同一符号が付される。当該部分の説明は省略される。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【数16】
【0082】
【数17】
【0083】
【0084】
【0085】
【数18】
【0086】
【0087】
【数19】
【0088】
(19)式において、定常状態におけるつりあいは、s=0の状態である。この場合、次の(20)式が成立する。
【0089】
【数20】
【0090】
【0091】
【数21】
【0092】
【符号の説明】
【0093】
1 粗圧延機、 2 仕上圧延機、 2a スタンド、 2b スタンド、 2c スタンド、 2d スタンド、 2e スタンド、 2f スタンド、 2g スタンド、 3 粗出側板幅計、 4 仕上出側板幅計、 5 ルーパ装置、 5a スタンド間ルーパ、 5b スタンド間ルーパ、 5c スタンド間ルーパ、 5d スタンド間ルーパ、 5e スタンド間ルーパ、 5f スタンド間ルーパ、 6 制御装置、 7 圧延材、 8 数学モデル算出装置、 9 数学モデル算出部、 10 制御部、 11 スミス補償器、 100a プロセッサ、 100b メモリ、 200 ハードウェア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11