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特許7077950有機ボラン錯体、有機ボラン含有組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】有機ボラン錯体、有機ボラン含有組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20220524BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220524BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
C07F5/02 A CSP
H05B33/14 B
H05B33/22 B
H05B33/22 D
H01L31/04 154Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018546214
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035089
(87)【国際公開番号】W WO2018074167
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2016204632
(32)【優先日】2016-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】北 弘志
(72)【発明者】
【氏名】北本 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大井 秀一
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-057990(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152418(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143624(WO,A1)
【文献】特開2011-056859(JP,A)
【文献】Angewandte Chemie, International Edition,2015年,54(46),P.13581-13585
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
H01L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される構造を有するトリアリールボランと、アミン化合物又は芳香族複素環化合物とが配位結合した有機ボラン錯体。
【化1】
(式中、X~Xは、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基又はベンゾイルオキシ基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、芳香族炭化水素環基、又は芳香族複素環基を表す。)
【請求項2】
下記化合物B3で表される構造を有するトリアリールボランと、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)又はピリジン(PY)とが配位結合した、下記に表されるB3-DABCO-B3又はB3-PYである請求項1に記載の有機ボラン錯体。
【化2】
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機ボラン錯体を含有する有機ボラン含有組成物。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の有機ボラン錯体を含有する有機機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ボラン錯体、有機ボラン含有組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子に関する。より詳しくは、本発明は、ホウ素原子とアリール基上の炭素原子の結合が強化されたトリアリールボランを構成要素とする有機ボラン錯体等に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素原子は、周期表では原子番号5、13族に属する3価の価数を持つ元素であり、原子状態での電子配置は、(1S)、(2S)、(2P)となるが、2S軌道一つと2P軌道二つを使って、SP混成軌道を形成することができる。
また、ホウ素原子は、この三つのSP軌道に等価の電子がそれぞれ一つずつ(計三つ)配置されることで、炭素や酸素、窒素などの元素と共有結合を形成することが可能となり、あたかも3価の置換基のように取り扱うこともできる元素である。一方で、一つ余った空の2P軌道があることから、当然、ホウ素含有化合物は電子欠乏性を示すこととなる。
したがって、ホウ素原子と三つのアリールがホウ素-炭素結合を介して結合したトリアリールボラン系化合物は、基本的にこのホウ素原子の電子欠乏性的な性質により電子を受け入れやすく、非共有電子対を有する化合物や金属、すなわち、配位結合性の物質と相互作用や化学反応(以下、錯形成とも称する。)を起こしやすい。この時、ホウ素とアリール基との結合はSP軌道となる。
【0003】
トリアリールボランと配位結合性の物質からなる有機ボラン錯体はいくつか知られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、有機ボラン錯体の構成要素(以下、ビルディングブロックともいう。)として用いるトリアリールボラン系化合物の安定性が低く、空気の不存在下、窒素等の不活性ガス中で取り扱うなど、その取り扱いに特殊な装置や技術が必要とされていた。よって、簡便な操作でより高い収率を上げられるよう更なる改良が求められていた。
また、トリアリールボランの安定性を向上させるために、トリアリールボランのホウ素原子の周りを、アルキル基やアリール基で立体的に嵩高くする方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。このような方法は、安定性は向上するが、トリアリールボラン系化合物と錯形成する配位結合性の物質の種類を広げるという観点からは改善の余地があった。
以上のように、従来の技術ではトリアリールボランを構成要素とする有機ボラン錯体の分子設計において、錯形成のしやすさと化合物の安定性がトレードオフの関係にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-057990号公報
【文献】特開2013-56859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、ホウ素原子とアリール基上の炭素原子の結合が強化されたトリアリールボランを構成要素とする有機ボラン錯体、有機ボラン含有組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく上記問題の原因等について検討し、トリアリールボランの安定性を向上させるために、ホウ素原子が三つのアリール基とホウ素-炭素結合を介して結合したトリアリールボランであって、該化合物中の前記三つのアリール基が、ホウ素原子を中心に電子供与性の2価の原子を介してそれぞれ隣り合うアリール基同士の少なくとも二つの組み合わせにおける分子設計に注目した。
その結果、立体障害が小さく、電子供与性の2価の原子で架橋されたトリアリールボランを構成要素とすることで、非共有電子対を有する化合物や金属又は金属化合物等との配位結合を形成し得る物質との有機ボラン錯体の安定性が向上することを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明の上記課題は、下記の手段により解決される。
【0007】
1.下記一般式(A)で表される構造を有するトリアリールボランと、アミン化合物又は芳香族複素環化合物とが配位結合した有機ボラン錯体。
【化1】
(式中、X~Xは、それぞれ独立に、酸素原子又は硫黄原子を表す。R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アセトキシ基又はベンゾイルオキシ基、メタンスルホニル基、トリフルオロメタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、芳香族炭化水素環基、又は芳香族複素環基を表す。)
【0008】
2.下記化合物B3で表される構造を有するトリアリールボランと、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)又はピリジン(PY)とが配位結合した、下記に表されるB3-DABCO-B3又はB3-PYである請求項1に記載の有機ボラン錯体。
【化2】
【0011】
.第項又は第2項に記載の有機ボラン錯体を含有する有機ボラン含有組成物。
【0012】
.第1項又は2項に記載の有機ボラン錯体を含有する有機機能層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記手段により、ホウ素原子とアリール基上の炭素原子の結合が強化されたトリアリールボランを構成要素とする有機ボラン錯体、有機ボラン含有組成物及び有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【0014】
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように考えている。本発明の有機ボラン錯体は、立体障害が小さく、電子供与性の2価の原子によって任意のアリール基が架橋されることで、該化合物と非共有電子対を有する化合物や金属と配位結合の形成しやすさと、生成した有機ボラン錯体の安定性を両立できたものと考えられる。
これらの特性は、トリアリールボランにおいて、アリール基の架橋基として酸素原子又は硫黄原子がホウ素原子周辺に存在することが重要だと考えている。すなわち、該トリアリールボランと非共有電子対を有する化合物や金属との有機ボラン錯体の合成にあたって、非共有電子対を有する化合物や金属が該トリアリールボランと反応する際に、大きな立体障害がなく容易に接近して配位結合を形成できるものと考えている。更には、ホウ素原子と三つのアリール基のホウ素-炭素結合が強化され、該有機ボラン錯体が熱、水分、又は酸素による分解を受けにくくなったためであると推察している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】有機EL素子の構成の一例を示す模式図
図2】有機EL素子中での電荷の流れと発光のメカニズムを示す模式図
図3】バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなる太陽電池の構成の一例を示す断面図
図4】本発明の有機ボラン錯体及び比較化合物のNMRチャート
図5A】本発明の有機ボラン錯体の結晶構造を示す側面図
図5B】本発明の有機ボラン錯体の結晶構造を示す上面図
図6A】本発明に係るトリアリールボランの結晶構造を示す上面図
図6B】本発明に係るトリアリールボランの結晶構造を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の有機ボラン錯体は、前記一般式()で表される構造を有するトリアリールボランと、アミン化合物又は芳香族複素環化合物とが配位結合したことを特徴とする。
この特徴は、下記実施態様に係る発明に共通する又は対応する技術的特徴である。
また、前記化合物B3で表される構造を有するトリアリールボランと、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)又はピリジン(PY)とが配位結合した、下記に表されるB3-DABCO-B3又はB3-PYであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の有機ボラン含有組成物は、本発明の有機ボラン錯体を含有することが、当該組成物の安定性向上の観点から好ましい。
【0021】
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、本発明の有機ボラン錯体を含有する有機機能層を有することが、当該素子性能の向上の観点から好ましい。
【0022】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、以下の説明において示す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0023】
《有機ボラン錯体の分子設計》
本発明の有機ボラン錯体は、三つのアリール基とホウ素原子がホウ素-炭素結合を介して結合したトリアリールボランを構成要素(ビルディングブロック)としている。
このトリアリールボラン中の前記三つのアリール基のそれぞれ隣り合うアリール基同士の少なくとも二つの組み合わせは、立体障害が小さく、かつ電子供与性の2価の原子で架橋されている。さらに、このトリアリールボランが有機ボラン錯体を形成するにあたり、ホウ素原子の空の2P軌道に対して、非共有電子対を有する化合物や金属から電子が供給されることで、配位結合を形成する。なお、ここでいう配位結合とは、結合を形成する二つの原子の一方からのみ結合電子が分子軌道に提供される化学結合であることを意味する。
そこで、本発明に係る一般式(1)で表される構造を有するトリアリールボランの、ホウ素原子の空の2P軌道に対して電子を供給できる物質を原料として用いた有機ボラン錯体は、本質的に本発明と同じ技術思想に則った化合物であるため、本発明の化合物と一義的に決めることができる。
【0024】
《トリアリールボラン》
以下に、本発明に係る下記一般式(1)で表される構造を有するトリアリールボランについて説明する。
【0025】
【化3】
【0026】
式中、X及びXは、それぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。X及びXは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表すが、XとXが1個の原子となって連結していてもよい。R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。p、q及びrは、それぞれ独立に1~3の整数を表す。
及びXが表す置換基としては、例えば、鎖状アルキル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、エステル基、スルホン酸エステル基、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、芳香族炭化水素環基、又は芳香族複素環基を挙げることができる。
鎖状アルキル基としては、直鎖でも分岐していても良い。例えば直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基又はヘキシル基等が挙げられる。
分枝状アルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピルメチル基、シクロプロピルエチル基、シクロブチルメチル基、シクロブチルエチル基、シクロペンチルメチル基、シクロペンチルエチル基、シクロヘキシルメチル基、又はシクロヘキシルエチル基などを挙げることができる。
環状アルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はシクロヘプチル基等を挙げることができる。
芳香族炭化水素環基としては、フェニル基、p-クロロフェニル基、メシチル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントリル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナントリル基、インデニル基、ピレニル基、ビフェニリル基等を挙げることができる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基等を挙げることができる。
アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等を挙げることができる。
エステル基としては、アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等を挙げることができる。
スルホン酸エステル基としては、メタンスルホン酸エステル基、トリフルオロメタンスルホン酸エステル基、ベンゼンスルホン酸エステル基等を挙げることができる。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等を挙げることができる。
芳香族複素環基としては、ピリジル基、ピリミジニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、トリアゾリル基(例えば、1,2,4-トリアゾール-1-イル基、1,2,3-トリアゾール-1-イル基等)、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、イソオキサゾリル基、イソチアゾリル基、フラザニル基、チエニル基、キノリル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、カルボリニル基、ジアザカルバゾリル基(前記カルボリニル基のカルボリン環を構成する炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったものを示す。)、キノキサリニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、キナゾリニル基、フタラジニル基等を挙げることができる。
これらの置換基は、任意の位置にさらに置換基を有していても良く、例えば、フェニル基、ピリジル基、ピロール基、チエニル基、フリル基、イミダゾリル基、ピリミジル基、ピラジル基、ピリダジル基、トリアジニル基などの芳香族基、及びそれらがさらに縮合した縮合芳香族基(例えば、ナフチル基、キノリル基、イミダゾリル基、インドロイミダゾリル基、イミダゾイミダゾリル基、ジベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、アザジベンゾフリル基、ベンズイミダゾリル基、キナゾリル基、ベンゾピラジニル基、など)、アルキル、分岐アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル等の脂肪族基、シアノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アミノ基、カルボニル基、アシル基、エステル基、ウレイド基、ウレタン基、などの置換基、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子等が挙げられる。
【0027】
前記一般式(1)において、X及びXが1個の原子となって連結していてもよく、XとXが1個の原子となって連結する場合、該原子は酸素原子、又は硫黄原子であることが好ましい。
前記一般式(1)において、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表し、該置換基としては、前記X及びXで説明した置換基と同様の基を挙げることができる。
前記一般式(1)において、p、q及びrは、それぞれ独立に1~3の整数を表す。p、q及びrが2又は3の場合、複数のR~Rは、各々同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
本発明の実施態様としては、前記一般式(1)で表される構造を有するトリアリールボランが、下記一般式(2)で表される構造を有するトリアリールボランであることが好ましい。
【0029】
【化4】
【0030】
式中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。p、q及びrは、それぞれ独立に1~3の整数を表す。
~Rが表す置換基としては、例えば、前記一般式(1)におけるR~Rが表す置換基と同様の基を挙げることができる。これらの置換基は、任意の位置にさらに置換基を有していても良い。
p、q及びrが2又は3の場合、複数のR~Rは各々同じであっても異なっていてもよい。
【0031】
〈トリアリールボランの具体例〉
以下に、本発明に係る前記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有するトリアリールボランの一例を示す。
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
【化8】
【0036】
《有機ボラン錯体》
前記一般式(1)又は一般式(2)で表される構造を有するトリアリールボランをビルディングブロックとする有機ボラン錯体について説明する。
ビルディングブロックとは、本発明の有機ボラン錯体の構成要素であることを意味する。
トリアリールボランをビルディングブロックとした有機ボラン錯体とは、一般式(1)で表される構造を有するトリアリールボランと、配位結合を形成し得る物質との反応により形成された錯体を意味する。
配位結合を形成し得る物質(X)とは、非共有電子対を有する化合物や金属又は金属化合物であることが好ましい。具体的には、アミン類(例えば、トリメチルアミン等のトリアルキルアミン類、ジエチルアミン等のジアルキルアミン類、ジメチルフェニルアミン等のアリールジアルキルアミン等、トリフェニルアミン等のトリアリールアミン類、ピペリジン、ピペラジン等の環状アミン類等)、芳香族複素環化合物(例えば、ピリジン、ピリミジン、アザカルバゾール、アザジベンゾフラン、イミダゾール、ピラゾール、ピロール、トリアゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、チアジアゾール等)、オキシド類(例えば、ホスフィンオキシド、ピリジンやトリアルキルアミンのN-オキシド、スルホキシド等)、典型金属原子、遷移金属原子、及びそのイオン、ハロゲンイオン(フッ素イオン、塩素イオン等)、4配位平面錯体(例えば、プラチナオルトメタル錯体、ニッケル錯体、亜鉛錯体等)等を挙げることができる。
すなわち、本発明の有機ボラン錯体は、前記一般式(1)で表される構造を有するトリアリールボランと、非共有電子対を有する化合物、金属又は金属化合物とを、構成成分として含むことが好ましい。
【0037】
トリアリールボランの分子内にホウ素原子が複数ある場合、又は/及び配位結合を形成し得る物質の分子内に配位性の原子が複数ある場合、それらが反応して超分子様に連なった化合物であってもよい。
さらに、本発明の有機ボラン錯体が第三の成分と相互作用した化合物も本発明に含めることができる。例えば、本発明の有機ボラン錯体から成るアート錯体と金属陽イオン(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン)との塩、本発明の有機ボラン錯体がフラーレン(例えば、C60、C70等)を包摂した化合物、及び該包摂体が超分子様に連なった化合物を挙げることができる。
【0038】
〈有機ボラン錯体の代表例〉
本発明に係るトリアリールボランとして前記例示化合物B3を用いて、有機ボラン錯体を説明する。
本発明に係るトリアリールボランは、ホウ素原子はSP軌道を介する結合で3個のアリール基と結合すると当時に、ホウ素原子上に空の2P軌道を有する。したがって、下記のように、例示化合物B3は円盤状の構造となる。
【0039】
【化9】
【0040】
次に、このようなトリアリールボランが配位結合を形成し得る物質(X)と反応すると、ホウ素原子からの結合はSP軌道を介するものとなり、例示化合物B3をビルディングブロックとする有機ボラン錯体は、下記のように、撓んだ、お椀型の構造となる。
【0041】
【化10】
【0042】
以下、本発明の有機ボラン錯体の代表例を模式的に示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0043】
【化11】
【0044】
《有機ボラン錯体の合成》
本発明の有機ボラン錯体の合成において用いられる溶媒としては、アルコール系、エステル系、エーテル系、ケトン系、ハロゲン系、ニトリル系、アミド系、芳香族炭化水素系等の各種溶媒、及びそれらを組み合わせた溶媒を併せて用いることができる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジクロロメタン、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド及びトルエン等を挙げることができる。
用いる溶媒の量は、特に限定されないが、原料に対し重量で200倍までの範囲で用いることが好ましく、5~50倍の範囲で用いることがより好ましい。
本発明においては、反応温度は0~120℃の範囲内であるのが好ましく、室温付近(15~30℃)であることがより好ましい。
本発明の有機ボラン錯体の合成において、トリアリールボランのホウ素原子に換算したモル数に対して、0.9~1.2モル当量の範囲内の配位結合を形成し得る物質を用いることが好ましく、1.0~1.1モル当量の範囲内の配位結合を形成し得る物質を用いることがより好ましい。
【0045】
《有機ボラン錯体の電子デバイスへの応用》
本発明の有機ボラン錯体は、トリアリールボランと配位結合を形成し得る物質を適宜選択することにより、バイポーラー性を有する錯体にすることも可能である。
また、様々なエネルギー準位に対応できることから、発光性(ゲスト)材料、ホスト材料として使用できるのみならず、正孔輸送材料、正孔注入材料、電子輸送材料、電子注入材料としても使用することができる。
すなわち、本発明の有機ボラン錯体は、有機EL素子の発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層及び中間層等の有機機能層に用いることができる。さらには、有機EL素子のみならず様々な電子デバイスに用いることができる。
【0046】
《有機エレクトロルミネッセンス素子》
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう。)は、陽極と陰極の間に少なくとも発光層を含む有機機能層を有する有機EL素子であって、有機機能層の少なくとも1層が、本発明の有機ボラン錯体を含有するものである。
本発明の有機ボラン錯体を含有する有機EL素子は、照明装置及び表示装置に好適に具備され得る。
本発明の有機ボラン錯体を含有する有機EL素子における代表的な素子構成としては、以下の構成を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(1)陽極/発光層/陰極
(2)陽極/発光層/電子輸送層/陰極
(3)陽極/正孔輸送層/発光層/陰極
(4)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(5)陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(6)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(7)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/(電子阻止層/)発光層/(正孔阻止層/)電子輸送層/電子注入層/陰極
上記の中で(7)の構成が好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
発光層は、単層又は複数層で構成されており、発光層が複数の場合は各発光層の間に非発光性の中間層を設けてもよい。
必要に応じて、発光層と陰極との間に正孔阻止層(正孔障壁層ともいう。)や電子注入層(陰極バッファー層ともいう。)を設けてもよく、また、発光層と陽極との間に電子阻止層(電子障壁層ともいう)や正孔注入層(陽極バッファー層ともいう。)を設けてもよい。
【0047】
電子輸送層とは、電子を輸送する機能を有する層であり、広い意味で電子注入層、正孔阻止層も電子輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
正孔輸送層とは、正孔を輸送する機能を有する層であり、広い意味で正孔注入層、電子阻止層も正孔輸送層に含まれる。また、複数層で構成されていてもよい。
有機機能層とは、上記の代表的な素子構成において、陽極と陰極を除いた層をいう。
【0048】
図1は、本発明の有機EL素子1の構成の一例であり、前記素子構成例の中で(7)の構成に対応する模式図である。図1に示すとおり、透明基板2上の陽極3と陰極9の間に、正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、電子輸送層7及び電子注入層8を有する有機機能層Fを備えている。
図2は、有機EL素子中での電荷の流れと発光のメカニズムを示す模式図である。有機EL素子1に電圧を印加すると、陰極9から電子注入層8に電子(e)が、陽極3から正孔注入層4に正孔(h)が注入される。
【0049】
続いて電子及び正孔は、電極とは反対側の面に隣接する、電子輸送層7、正孔輸送層5にそれぞれ輸送される。
最後に発光層6において出会った電子と正孔が再結合Rして励起子が生じ、これらが励起状態から基底状態に戻るときに放出する光(蛍光・リン光)Lを利用した発光素子が、有機EL素子である。図2では正孔注入層から電子注入層までが有機機能層である。
【0050】
〈電子輸送材料〉
有機化合物中に電子を流すには、まず電極から有機機能層に電荷が注入されることがその第一段階となる。その注入機構としてはショットキー熱放射とトンネル注入の二つが知られており、有機機能層中に注入された電荷は、両電極間にかけられた外部電界をドライビングフォースとしてホッピング伝導を起こすことによって電流が流れることになる。この時の電流はオーム則ではなくチャイルド則に則った空間電荷制限電流(SCLC:space charge limited current)であり、これは次式(A)に示したように層厚の3乗に反比例するため有機機能層の層厚は極薄でなければならない。
式(A):空間電荷制限電流量∝(電圧)/(層厚)
実際の電子ディスプレイや照明装置においては、数Vの電圧で数十A/mの大電流を流す必要があるため、通常、1層あたりの層厚はおおよそ50nm以下とする。
【0051】
〈太陽電池〉
図3は、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子からなるシングル構成(バルクヘテロジャンクション層が1層の構成)の太陽電池の一例を示す断面図である。図3において、バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子10は、基板11の一方の面上に、透明電極(陽極)12、正孔輸送層13、バルクヘテロジャンクション層の光電変換部14、電子輸送層(バッファー層ともいう。)15及び対極(陰極)16が順次積層されている。
【0052】
基板11は、順次積層された透明電極12、光電変換部14及び対極16を保持する部材である。基板11側から光電変換される光が入射するので、基板11は、この光電変換される光を透過させることが可能な、すなわち、この光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。基板11は、例えば、ガラス基板や樹脂基板等が用いられる。
【0053】
光電変換部14は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を有して構成される。p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。ここで、電子供与体及び電子受容体は、「光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体」であり、電極のように単に電子を供与又は受容するものではなく、光反応によって、電子を供与又は受容するものである。
【0054】
図3において、基板11を介して透明電極12から入射された光は、光電変換部14のバルクヘテロジャンクション層における電子受容体又は電子供与体で吸収され、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)が形成される。
発生した電荷は、内部電界、例えば、透明電極12と対極16の仕事関数が異なる場合では透明電極12と対極16との電位差によって、電子は電子受容体間を通り、また正孔は電子供与体間を通り、それぞれ異なる電極へ運ばれ光電流が検出される。
例えば、透明電極12の仕事関数が対極16の仕事関数よりも大きい場合では、電子は透明電極12へ、正孔は対極16へ輸送される。なお、仕事関数の大小が逆転すれば、電子と正孔はこれとは逆方向に輸送される。また、透明電極12と対極16との間に電位をかけることにより、電子と正孔の輸送方向を制御することもできる。
本発明の有機ボラン錯体は、様々なエネルギー準位に対応できることから、電子伝導を行いやすい化合物である。そのため、太陽電池、とりわけ有機太陽電池の各種材料としての適用が可能である。
【0055】
〈トランジスタ〉
太陽電池と同様の理由から、トランジスタ材料として好適に使うことができる。
【0056】
〈電極・電荷移動性薄膜〉
本発明の有機ボラン錯体は、電子ホッピング伝導が起こりやすい化合物であり、それ自体で薄膜を形成した場合には、基本的に電子を伝導する薄膜となる。
また、本発明の有機ボラン錯体は、銀や銅、ニッケル、鉄、コバルトなどの金属と積層したり、共存させたり、又は共存させた膜の上に該金属を積層する等の構成により導電性になるものもあり、反射電極や透明電極、半透過性電極などに適用することもできる。
【0057】
《有機ボラン含有組成物》
本発明の有機ボラン含有組成物としては、ボラン錯体を含有していればよく、フィルム状、液状であってもよい。具体的には、有機EL素子中の有機機能層、有機光電変換素子中の有機機能層、トランジスタ中の有機機能層、電極・電荷移動性薄膜の他、インクジェット用インク、電子写真用トナー等を挙げることができる。
本発明の有機ボラン含有組成物を有機EL素子中の有機機能層として用いる場合は、例えば、正孔注入材料、正孔輸送材料、ホスト材料、ドーパント材料、電子輸送材料、電子注入材料をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン含有組成物を有機光電変換素子中の有機機能層として用いる場合は、例えば、p型有機半導体、n型有機半導体、電荷ブロック材料をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン含有組成物をトランジスタ中の有機機能層として用いる場合は、例えば、p型有機半導体、n型有機半導体をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン含有組成物を電極・電荷移動性薄膜として用いる場合は、例えば、金属、合金をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン含有組成物をインクジェット用インクとして用いる場合は、例えば、染料、活性剤、溶剤をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン含有組成物を電子写真用トナーとして用いる場合は、例えば、樹脂、顔料、ワックス、安定化材をさらに含有していてもよい。
本発明の有機ボラン錯体は、前記に例示として挙げた有機ボラン含有組成物中で、トリアリールボランと配位結合を形成し得る物質との反応により系内で生成したものを取り出さずにそのまま用いてもよい。
【0058】
《有機ボラン錯体の優位性と発展性》
本発明の最大の意義は、その耐久性、特に、空気中、高温下、電界印加時等の電子デバイスが晒される環境下において、全く実用化できていなかったトリアリールボランをビルディングブロックとする有機ボラン錯体を創出できたことにある。すなわち、従来の有機ボラン錯体に対して、本発明に係る前記一般式(1)又は(2)で表される構造を有するトリアリールボランを用いることで、従来の有機ボラン錯体よりも格段に安定性を向上させることができる。
また、本発明の要件を満たす有機ボラン錯体であるならば、普遍的に安定性が向上し、各種工業製品への適用も可能である点が、これまでにない大きな技術進歩であり、これまでに類を見ない本質的な発明であるといえる。
【実施例1】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」を表す。
【0060】
≪合成例1:B3-DABCO-B3≫
本発明の例示化合物B3-DABCO-B3は、以下に示す手順で合成した(詳細な合成手順は、Y.Kitamoto,et al,Chem Commun.,2016,52,7098-7101参照。)。
【0061】
[スキーム1]
1-ヨード-3-メトキシベンゼンと1,3-ジヒドロキシベンゼンを原料として、銅触媒を利用したエーテル化反応を行い、トリフェニルエーテル体B3-3-1を収率95%で得た。
【0062】
【化12】
【0063】
[スキーム2]
次に、B3-3-1にn-BuLiを滴下してトリリチオ化反応を行い、反応中間体としてB3-3-2が得られた。
続いて、ボリル化反応を行い、B3-3-2のTHF/ベンゼン混合溶液中に、1当量のBF/OEtを10分間かけて滴下した後、昇温して21時間加熱還流した。その後反応処理、精製を行うことで、B-3-3(B27)を収率15%で得た。
【0064】
【化13】
【0065】
[スキーム3]
次に、BBrを用いて脱保護を行った。-78℃の塩化メチレン溶液中に、BBrを滴下していくことで、ホウ素-炭素結合が解離することなく、定量的に進行し、収率94%でB3-3-4(B26)を得た。
更に、B3-3-4(B26)の一つのカルボキシ基を、トリフルオロメタンスルホン酸無水物(TfO)を用いてスルホニル基に変換する反応を行い、収率94%でB3-3-5(B30)を得た。
【0066】
【化14】
【0067】
[スキーム4]
次に、塩基としてジアザビシクロウンデセン(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene:DBU)を、溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)を、マイクロ波(MW)を用いたマイクロリアクターを使用して240℃、4時間反応させることで、収率87%でB3を得た。
【0068】
【化15】
【0069】
[有機ボラン錯体の合成]
室温にて、クロロホルム100部に、B3を1.00部、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)を0.20部加え3時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で濃縮し、結晶が出てきたところで、濃縮を止め、そのまま室温で一晩静置した。得られた結晶を濾過し、冷クロロホルムで洗浄することで、B3-DABCO-B3を0.85部得た。
【0070】
H-NMRスペクトル解析)
上記で得られたB3-DABCO-B3のH-NMR(重クロロホルム溶媒)を測定し、B3とDABCOの有機ボラン錯体であることを確認した(図4参照。)。
測定装置:Bruker Biospin AVANCE III 400 spect
rometer(400MHz for H-NMR)
測定条件:23℃(296K)、CDCl溶媒使用、テトラメチルシラン基準(0ppm)
スペクトルデータ:B3(CDCl,400MHz)δ:7.74(3H,t),7.22(6H,d)、DABCO(CDCl,400MHz)δ:2.79(12H,s)、B3-DABCO-B3(CDCl,400MHz)δ:7.13(3H,t),6.84(6H,d),3.01(12H,brs).
【0071】
(単結晶X線構造解析)
得られたB3-DABCO-B3の単結晶X線構造解析を行った。結果を図5に示す。B3部分のホウ素原子(B)と結合する炭素原子(C~C)との距離はそれぞれ、B-C=1.562Å、B-C=1.563Å、B-C=1.567Åであった。
(結晶学データ:Monoclinic,C2/c,a=23.783(3)Å,b=9.9498(10)Å,c=18.2611(19)Å,β=113.2150(10)°,Z=8,d=1.538g/cm,V=3971.42Å,R=0.0549,wR=0.1538.)
一方、図6に示した例示化合物B3の単結晶X線構造解析の結果では、B-C=1.459Å、B-C=1.461Å、B-C=1.459Åであった。
上記単結晶X線構造解析の結果から、配位結合を形成し得る物質であるDABCOとの反応により、トリアリールアミンB3におけるホウ素原子とアリール基上の炭素原子の結合が、SP軌道からSP軌道へ変化していることが分かる。
なお、単結晶X線構造解析は、以下の測定装置・測定条件で行った。
測定装置:Bruker Smart APEX II ULTRA
測定条件:測定温度/-173℃、線源/MoKα(λ=0.7103Å)、Data
integration and reduction/SAINT and XPREP software、Absorption correction/semiempirical method with SADABS、Structure /solved by direct method using SHELXL-97 and refined by using least-squares method on F with SHELXL-97.
【0072】
≪合成例2:B3-PY≫
室温にて、クロロホルム100部に、B3を1.00部と、ピリジンを0.28部加えて3時間撹拌した。反応終了後、溶媒を減圧下で濃縮し、結晶が出てきたところで、濃縮を止め、そのまま室温で一晩静置した。得られた結晶を濾過し、冷クロロホルムで洗浄することで、B3-PYを0.73部得た。
【0073】
H-NMRスペクトル解析)
得られたB3-PYのH-NMR(重クロロホルム溶媒)を合成例1と同様にして測定したところ、原料であるB3由来のピークが消失し、新たな位置にピークが発生しており、B3-PYの有機ボラン錯体が生成したことを確認した。
【0074】
≪耐熱性の比較≫
本発明のB3-PYと下記トリフェニルボランピリジン錯体を、それぞれ異なるガラスの封管に詰め、300℃に加熱した。B3-PYは、300℃、1時間の加熱後、ガラス管から取り出し、H-NMRを測定したところ、全く分解していないことを確認した。
【0075】
【化16】
【0076】
一方、トリフェニルボランピリジン錯体は、300℃、1時間の加熱後、H-NMRを測定したところ、上記トリフェニルボランピリジン錯体とは異なる新たなピークが多数出現し、分解が起きていることを確認した。
また、本発明のB3-DABCO-B3を上記と同様の条件で耐熱性試験を行ったところ、全く分解していないことを確認した。
以上の結果から、本発明の化合物B3-PY、B3-DABCO-B3は従来公知のトリフェニルボランピリジン錯体と比べて十分な熱安定性を有することがわかった。
【0077】
≪有機EL素子における電子輸送材料としての使用≫
本発明の化合物B3-PYを電子輸送材料として使用し、有機EL素子を作製した。
陽極としてITO(インジウムスズ酸化物)を100nm成膜したガラス基板を、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥及びUVオゾン洗浄を行い、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の真空度を1×10-4Paまで減圧した後、陽極の上に正孔注入層としてヘキサシアノヘキサアザトリフェニレン(15nm)、正孔輸送層としてα-NPD(4,4′-ビス〔N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ〕ビフェニル)(30nm)をこの順番で形成した。
【0078】
次いで発光層として、ホスト化合物である1,3-ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン1,3-Bis(N-carbazolyl)benzene(mCP)及び発光性材料としてBis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinato-C2,N](picolinato)iridium(III)(FIrpic)を、mC
P:FIrpic=100:6の割合で共蒸着し、厚さ30nmの発光層を設けた。
【0079】
次いで電子輸送層として本発明の化合物B3-PY(15nm)、電子注入層としてフッ化リチウム(1.0nm)、陰極としてアルミニウム(100nm)をこの順番で蒸着し、有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、室温下、2.5mA/cmの定電流を流したところ、青色に発光した。この結果から、本発明のB3-PYが有機EL素子における電子輸送材料として機能することが確認され、B3-PYが電荷伝導性を示すことが分かった。
【0080】
≪有機EL素子における正孔輸送材料としての使用≫
本発明の化合物B3-PYを正孔輸送材料として使用し、有機EL素子を作製した。
陽極としてITOを100nm成膜したガラス基板を、イソプロピルアルコールで超音波洗浄し、乾燥窒素ガスで乾燥及びUVオゾン洗浄を行い、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
真空蒸着装置内の真空度を1×10-4Paまで減圧した後、陽極の上に正孔注入層としてヘキサシアノヘキサアザトリフェニレン(12nm)、正孔輸送層として本発明の化合物B3-DABCO-B3(40nm)をこの順番で形成した。
【0081】
次いで発光層に、ホスト化合物として1,3-Bis(N-carbazolyl)benzene(mCP)及び発光性材料としてBis[2-(4,6-difluorophenyl)pyridinato-C2,N](picolinato)iridium(III)(FIrpic)を、mCP:FIrpic=100:6の割合で共蒸着し
、厚さ30nmの発光層を設けた。
【0082】
次いで電子輸送層として4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BPhen)(30nm)、電子注入層としてフッ化リチウム(1.0nm)、陰極としてアルミニウム(100nm)をこの順番で蒸着し、有機EL素子を作製した。
得られた有機EL素子に、室温下、2.5mA/cmの定電流を流したところ、青色に発光した。この結果から、本発明のB3-PYが有機EL素子における正孔輸送材料として機能することが確認され、B3-PYが電荷伝導性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の有機ボラン錯体は、有機EL素子の発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子阻止層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層及び中間層等の有機機能層に用いることができる。さらには、有機EL素子のみならず、太陽電池、トランジスタ等の様々な電子デバイスに用いることができる。
本発明の有機ボラン含有組成物は、有機EL素子中の有機機能層、有機光電変換素子中の有機機能層、トランジスタ中の有機機能層、電極・電荷移動性薄膜の他、インクジェット用インク、電子写真用トナー等に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 有機EL素子
2 透明基板
3 陽極
4 正孔注入層
5 正孔輸送層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 バルクヘテロジャンクション型の有機光電変換素子
11 基板
12 透明電極(陽極)
13 正孔輸送層
14 光電変換部(バルクヘテロジャンクション層)
15 電子輸送層
16 対極(陰極)
F 有機機能層
R 再結合
L 光
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B