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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】作業車両用の遠隔操作システム
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/40 20060101AFI20220524BHJP
   B66C 15/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
B66C13/40 D
B66C15/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018556746
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2017044961
(87)【国際公開番号】W WO2018110662
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2016242633
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 洋幸
【審査官】加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-026140(JP,U)
【文献】特開2001-107775(JP,A)
【文献】特開2010-202014(JP,A)
【文献】特開2004-250118(JP,A)
【文献】特開2006-335312(JP,A)
【文献】国際公開第2010/028938(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/40
B66C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業車両の走行体を遠隔的に操作する作業車両用の遠隔操作システムであって、
前記作業車両に設けられ前記走行体の駆動部を制御する駆動制御部と、
前記作業車両に設けられ前記走行体のブレーキを制御する制動制御部と、
前記走行体を遠隔的に操作する操作端末機と、
前記操作端末機による制御を無効とする車両側操作モードと、前記操作端末機による制御を許容する端末機操作モードとを切り替える切替装置と、を備え、
前記操作端末機は、前記走行体のアクセル用の操作を受け付けるアクセル操作用入力部を有し、
前記制動制御部は、前記端末機操作モードにおいて前記アクセル操作用入力部が操作されていないとき、及び前記走行体と前記操作端末機との間で通信障害が生じているときは、前記走行体のブレーキを作動させて前記走行体を制動状態とする作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項2】
前記切替装置は、前記端末機操作モードにおいて、前記通信障害の発生回数が予め設定された回数を超えた場合、又は前記通信障害が予め設定された連続時間を超えた場合に、前記端末機操作モードから前記車両側操作モードに切り換える、請求項1に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項3】
前記操作端末機には、固有の識別情報が設定されており、
前記切替装置は、前記識別情報に基づいて前記操作端末機が当該切替装置に対応付けられているか否かを判定し、対応付けられている場合にのみ、前記端末機操作モードが有効になるように構成される、請求項1又は2に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項4】
前記操作端末機は、前記アクセル操作用入力部における操作に対応するアクセル操作信号を前記作業車両に対して送信し、
前記駆動制御部及び前記制動制御部は、前記アクセル操作信号に基づいて前記駆動部及び前記ブレーキの動作を制御し、
前記制動制御部は、前記アクセル操作信号が前記アクセル操作用入力部に操作が入力されていないときに対応した信号であるときは前記ブレーキを作動させ、前記アクセル操作信号が前記アクセル操作用入力部に操作が入力されているときに対応した信号であるときは前記ブレーキを解除するように制御する請求項1から3のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項5】
前記アクセル操作用入力部は、操作が入力されているときだけオン状態となり、操作の入力が解放されると自動的にオフ状態に復帰するモーメンタリスイッチである請求項1から4のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項6】
前記アクセル操作用入力部は、操作が入力されていないときの位置に戻るように付勢されている請求項5に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項7】
前記駆動制御部は、前記操作端末機により前記走行体を遠隔的に操作することによる前記走行体の走行速度を、一定の速度以下に制限する請求項1から6のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項8】
前記駆動制御部は、前記操作端末機により前記走行体を遠隔的に操作することによる前記走行体の連続した走行時間又は走行距離を、一定の値以下に制限する請求項1から7のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項9】
前記切替装置は、前記端末機操作モードにおいて前記作業車両側での操作が行われた場合に、前記作業車両側での操作に基づく制御を優先する請求項1から8のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項10】
前記切替装置は、オペレーターの選択操作の入力に応じて前記車両側操作モード又は前記端末機操作モードに切り替える請求項1から9のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項11】
前記切替装置は、前記操作端末機が前記作業車両に設置されている状態であるか又は前記作業車両から分離されている状態であるかの別を検出するとともに、前記作業車両に設置されている状態であることを検出したときは前記車両側操作モードに切り替え、前記作業車両から分離されている状態であることを検出したときは、前記端末機操作モードに切り替える請求項1から9のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【請求項12】
前記作業車両に設けられて、音及び光のうち少なくとも一方を発する報知装置を備え、
前記報知装置は、前記切替装置により前記端末操作モードに切り替えられているときは、前記音又は前記光を発する請求項1から11のいずれか一項に記載の作業車両用の遠隔操作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両用の遠隔操作システムに関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン等の作業車両は、乗用車や荷物運搬用の車両とは異なり、車体が大きく、しかもブーム等の作業機材を備えているため、運転席からの死角が大きい。このように、死角の大きい作業車両を、作業を行う場所に移動させる際は、作業車両に乗車して運転する運転者の他に、作業車両の車外に居て、作業車両の周囲を監視しながら作業車両を作業場所まで誘導する誘導員を必要とする場合がある。
【0003】
そこで、作業車両を車外から遠隔操作により動かす遠隔操作システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この遠隔操作システムは、運転者に代わって、運転者の操作に対応する動作を行わせるアクチュエータ類が備えられた作業車両と、そのアクチュエータ類を遠隔操作する操作端末機とで構成されている。この遠隔操作システムによると、運転者が、車外から作業車両の周囲を監視しながら操作端末機を操作して、作業車両を移動させることができ、運転者の他に監視員を配置する必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-338817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたものは、操作端末機からの操作信号に応じて、アクセルサーボ弁を開閉動作させ、またブレーキサーボ弁を開閉動作させて、作業車両の走行、停止を制御しているが、操作端末機によるアクセルへの操作を止めた場合の具体的な動作については提案されていない。
【0006】
本発明の目的は、操作端末機により、煩雑な操作を行うことなく、作業車両の走行制御を遠隔的に、かつ安全に行う作業車両用の遠隔操作システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車両の遠隔操作システムは、
作業車両の走行体を遠隔的に操作する作業車両用の遠隔操作システムであって、
前記作業車両に設けられ前記走行体の駆動部を制御する駆動制御部と、
前記作業車両に設けられ前記走行体のブレーキを制御する制動制御部と、
前記走行体を遠隔的に操作する操作端末機と、
前記操作端末機による制御を無効とする車両側操作モードと、前記操作端末機による制御を許容する端末機操作モードとを切り替える切替装置と、を備え、
前記操作端末機は、前記走行体のアクセル用の操作を受け付けるアクセル操作用入力部を有し、
前記制動制御部は、前記端末機操作モードにおいて前記アクセル操作用入力部が操作されていないとき、又は前記走行体と前記操作端末機との間で通信障害が生じているときは、前記走行体のブレーキを作動させて前記走行体を制動状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る作業車両用の遠隔操作システムによれば、操作端末機により、煩雑な操作を行うことなく、作業車両の走行制御を遠隔的に、かつ安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態である作業車両の遠隔操作システムが適用される作業車両の一例であるラフテレーンクレーンを右側方から見た側面図である。
図2図2は、本実施形態のクレーンの遠隔操作システムを含む、クレーンの走行系の構成を示すブロック図である。
図3図3は、操作端末機を示す模式図である。
図4図4は、遠隔操作システムを利用したクレーンの駆動制御処理及び制動制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る作業車両の遠隔操作システムの実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
<クレーンの概略構成>
図1は、本発明の一実施形態である作業車両の遠隔操作システム1(図2参照)が適用される作業車両の一例であるラフテレーンクレーン100(以下、単にクレーン100という。)を右側方から見た側面図である。なお、本発明が適用される作業車両はラフテレーンクレーンに限定されるものではなく、クレーン車に限定されるものでもない。したがって、他の形式のクレーン車や、クレーン車以外の高所作業車やショベルカー、ブルドーザ等の他の作業車両にも本発明は適用される。
【0012】
図示のクレーン100は、走行機能を有する車両の本体部分となる走行体10と、伸縮ブーム80とを備えている。走行体10は、車体11と、車体11の四隅に設けられたアウトリガー12と、車体11に対して水平旋回できるように取り付けられた旋回台13と、旋回台13に設置されたブラケット14及びキャビン15と、を備えている。伸縮ブーム80は、ブラケット14に取り付けられている。
【0013】
なお、本実施形態においては、走行体10の前側(ヘッドライトが付いている側)の先に向いた側を前方、その反対側(後側)の先を向いた側を後方といい、前側の車輪を前輪、後側の車輪を後輪という。ただし、ラフテレーンクレーン100は、走行体10に対して旋回台13が回転して、キャビン15や伸縮ブーム80が走行体10の後方を向いた状態でも運転することが可能である。したがって、キャビン15が走行体の後方を向いた状態で、その向いた方向に進行した場合は、走行体10としては後退(後進)となるが、キャビン15内で運転操作するオペレーターにとっては、オペレーター自身が向いている方向に進むため前進している感覚となる。
【0014】
本実施形態においては、上述したように、走行体10の前後を基準として説明するが、オペレーターの感覚に合うようにキャビン15の向きを基準として、前方、後方、前輪、後輪の設定を切り替える前後切替器を設けてもよい。すなわち、キャビン15が走行体10の後方を向いた状態のときは、前後切替器が、走行体10の前方を各操作モードでの後方、走行体10の後方を各操作モードでの前方、走行体10の前輪を各操作モードでの後輪、走行体10の後輪を各操作モードでの前輪とするように切り替える。一方、キャビン15が走行体10の前方を向いた状態のときは、前後切替器が、走行体10の前方を各操作モードでの前方、走行体10の後方を各操作モードでの後方、走行体10の前輪を各操作モードでの前輪、走行体10の後輪を各操作モードでの後輪とするように切り替えればよい。
【0015】
<遠隔操作システム>
図2は、本実施形態のクレーン100用の遠隔操作システム1を含む、クレーン100の走行系の構成を示すブロック図である。走行体10は、走行に必要な駆動力を出力するエンジン21、変速機22、ブレーキ23、ステアリング24、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29、ステアリング切替スイッチ30、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34を備えている。
【0016】
アクセルペダル25は、エンジン21による走行体10の駆動力を変化させる操作を受け付け、操作信号を駆動制御装置31に出力する。駆動制御装置31は、アクセルペダル25の操作量に対応して走行体10の駆動力(エンジン21の出力)を制御する。
【0017】
シフトレバー26は、変速機22の状態を切り替える操作を受け付け、操作信号を変速制御装置32に出力する。変速制御装置32は、シフトレバー26の操作に対応して変速機22の状態を切り替える。なお、周知のとおり、変速機22は、走行体10の前進と後進の切り替えも行う。また、エンジン21及び変速機22は、走行体10の駆動部を構成し、駆動制御装置31及び変速制御装置32は、走行体10の駆動制御部を構成する。
【0018】
ブレーキペダル27は、制動力を変化させる操作を受け付け、操作信号を制動制御装置33に出力する。制動制御装置33は、ブレーキペダル27の操作量に対応してブレーキ23による走行体10の制動力を制御する。
【0019】
補助ブレーキスイッチ28は、作業用補助ブレーキ(例えば、AUXブレーキ)のON/OFFを切り替える操作を受け付け、操作信号を制動制御装置33に出力する。補助ブレーキスイッチ28がONに切り替えられると、作業用補助ブレーキを掛けた状態となり、OFFに切り替えられると作業用補助ブレーキを解除した状態となる。AUXブレーキは、アウトリガー12を張り出す操作及び格納する操作のようにオンタイヤで作業が行われる際に、走行体10の全車輪のブレーキ23を作動させて制動するものである。
【0020】
AUXブレーキの油圧回路は、ブレーキペダル27により操作されるブレーキ23の油圧回路を共用していて、AUXブレーキの油圧回路とブレーキペダル27による油圧回路とはシャトル弁により接続されている。AUXブレーキの油圧回路には電磁弁23aが設けられていて、電磁弁23aが開いているときは、シャトル弁にAUXブレーキの油圧回路の油圧が作用する。このとき、AUXブレーキの油圧回路には、走行体10が発生し得る高い油圧が発生している。一方、電磁弁23aが閉じているときは、AUXブレーキの油圧回路の油圧はシャトル弁に対して遮断され、シャトル弁にはAUXブレーキの油圧回路の油圧が作用しない。
【0021】
制動制御装置33は、補助ブレーキスイッチ28のON/OFFの切り替えに応じて走行体10の制動も制御する。具体的には、制動制御装置33は、補助ブレーキスイッチ28がONとなっているとき電磁弁23aを開いて、シャトル弁の一次側の一方に、AUXブレーキの油圧回路の油圧を作用させる。このとき、シャトル弁の一次側の他方には、ブレーキペダル27の開度に応じた油圧(ブレーキペダル27による油圧回路の油圧)が作用する。この一次側の他方に作用する油圧は、AUXブレーキの油圧回路の油圧以下であるため、シャトル弁の二次側には、AUXブレーキの油圧回路の高い油圧が作用する。したがって、走行体10は、高い制動力で制動された状態となる。
【0022】
一方、制動制御装置33は、補助ブレーキスイッチ28がOFFとなっているとき電磁弁23aを閉じて、AUXブレーキの油圧回路の油圧をシャトル弁に作用させない。これにより、シャトル弁の一次側の他方には、ブレーキペダル27の開度に応じた油圧が作用する。つまり、シャトル弁の二次側には、ブレーキペダル27の開度に応じた油圧が作用する。したがって、走行体10は、ブレーキペダル27の開度に応じた制動力で制動された状態となる。
【0023】
ステアリングホイール29は、ステアリング24による走行体10の操舵角度を変化させる操作を受け付け、操作信号を操舵制御装置34に出力する。操舵制御装置34は、ステアリングホイール29の操作量に対応して走行体10の操舵角度を制御する。
【0024】
ステアリング切替スイッチ30は、操舵パターンを切り替える操作を受け付け、操作信号を操舵制御装置34に出力する。操舵パターンは、例えば、走行体10の前輪だけを操舵する第1の操舵パターン、後輪だけを操舵する第2の操舵パターン、前輪と後輪とを同位相に操舵する第3の操舵パターン、及び前輪と後輪とを逆位相に操舵する第4の操舵パターンを含む。操舵制御装置34は、ステアリング切替スイッチ30の切替状態にしたがって、ステアリング24の作動を切り替える制御を行う。
【0025】
キャビン15は、オペレーターの操作室であり、前述したアクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30が備えられている。また、キャビン15には、伸縮ブーム80で作業をするための作業操作部、切替装置40、操作端末機50及び車両側通信部38が備えられている。
【0026】
操作端末機50は、走行体10の運転を遠隔操作する端末機である。操作端末機50は、キャビン15の特定の位置に設けられた設置部に対して着脱可能に取り付けられている。操作端末機50は、設置部から取り外されて分離された取外状態では、オペレーター等により携帯可能(走行体10から分離可能)になっている。
【0027】
切替装置40は、操作端末機50がキャビン15の設置部に設置されている取付状態であるか又は取外状態であるかの別を検出する。切替装置40による検出は、機械的な検出子の動きによる検出であってもよいし、電気的な検出であってもよいし、光学的な検出であってもよいし、又は磁気的な検出であってもよい。
【0028】
また、切替装置40は、取付状態であることを検出したときは車両側操作モードに切り替え、取外状態であることを検出したときは端末機操作モードに切り替える。なお、切替装置40は、キャビン15に設置された、操作端末機50の取付状態に拘わらずオペレーターの選択操作を受けて、車両側操作モード又は端末機操作モードに任意に切り替えるものであってもよい。
【0029】
ここで、車両側操作モードは、走行体10の側での運転操作による制御を有効とする操作モードである。車両側操作モードでは、操作端末機50を用いた遠隔での運転操作による制御は無効とされる。
【0030】
一方、端末機操作モードは、操作端末機50を用いた遠隔での運転操作による制御を許容する操作モードである。ただし、端末機操作モードでは、走行体10の側での運転操作による制御は無効とされるわけではない。端末機操作モードでは、走行体10の側での運転操作があったときは、走行体10の側での運転操作を優先するように制御される。つまり、端末機操作モードでは、走行体10の側での運転操作が無いときは、操作端末機50を用いた運転操作による制御が行われる。また、端末機操作モードでは、操作端末機50による運転操作中であっても、走行体10の側での運転操作があったときは、操作端末機50を用いた運転操作による制御が無効となり、走行体10の側での運転操作によって制御される。
【0031】
車両側操作モードとなっている場合、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34は、上述したアクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30からの操作信号に基づいて、エンジン21、変速機22、ブレーキ23及びステアリング24の動作を制御する。
【0032】
一方、端末機操作モードとなっている場合、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34は、後述する操作端末機50からの操作信号に基づいて、エンジン21、変速機22、ブレーキ23及びステアリング24の動作を制御する。ただし、前述したように、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30の操作の割り込みがあったときは、その割り込みの操作を優先して制御する。車両側操作モードと端末機操作モードとは同時に適用されることはなく(排他的)、いずれか一方の操作モードが必ず適用される(択一的)。
【0033】
なお、切替装置40は、端末機操作モードのとき、走行体10の側での運転操作の割り込みを許容せずに無効とし、操作端末機50を用いた遠隔での運転操作による制御を有効とするように、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34を切り替えてもよい。
【0034】
ただし、この場合、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30等がそれぞれ機械的な伝達機構でエンジン21、ブレーキ23、変速機22、ステアリング24に連結されている場合は、これらアクセルペダル25等への操作の入力により、エンジン21等が動作してしまい、事実上、走行体10の側での運転操作の割り込みを許容してしまうことになる。
【0035】
そこで、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30に対して操作が入力できないように、これらの動きを阻止する機械的なロック機構を設け、切替装置40により端末機操作モードに切り替えられたときは、これらのロック機構を動作させて、アクセルペダル25等の動きを阻止すればよい。
【0036】
車両側通信部38は、操作端末機50の端末機側通信部55(図3参照)との間で、無線による信号を送受信し、受信した信号を、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34に出力する。無線の方式や周波数は特に限定されない。したがって、無線LANで使用されるwifiの周波数帯を利用してもよいし、その他の周波数帯を利用するものであってもよい。また、赤外線やレーザを用いた無線通信方式を適用することもできる。また、車両側通信部38と操作端末機50の端末機側通信部55とを通信ケーブルで接続し、有線通信により信号の送受信が行われるようにしてもよい。
【0037】
本実施形態の遠隔操作システム1は、上述した構成のうち、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34からなる制御系と、操作端末機50と、切替装置40と、車両側通信部38とで構成される。
【0038】
<操作端末機>
図3は、操作端末機50を示す模式図である。操作端末機50は、図3に示すように、アクセル操作用スイッチ51(アクセル操作用入力部の一例)、操舵用スイッチ53(操舵用入力部の一例)、操舵パターン切替スイッチ54(操舵用入力部の一例)、端末機側通信部55及び二次電池56を備えている。
【0039】
アクセル操作用スイッチ51は、図示の上下方向に動くレバー52aと、プッシュボタン52bとを有している。レバー52aは上側には自由に動かすことができ、下側にはプッシュボタン52bを押した状態でのみ動く。レバー52aは上下の中間の位置に付勢されている(いわゆるモーメンタリスイッチ)。すなわち、アクセル操作用スイッチ51に操作の入力がない状態で、レバー52aは上下の中間の位置に復帰するように設定(付勢)されている。したがって、アクセル操作用スイッチ51は、レバー52a及びプッシュボタン52bの操作により上側又は下側に倒されるが、その操作がなくなると、上下の中間の位置に戻る。
【0040】
なお、プッシュボタン52bに代えて、前進と後進とを切り替えるスイッチを設けてもよい。このような切替えのスイッチとしては、例えばトグルスイッチを適用することができる。この場合のトグルスイッチも、レバー52aと同様に、前方に倒すと前進、後方に倒すと後進、というように、走行体10の前方をトグルスイッチの前方、走行体10の後方をトグルスイッチの後方、にそれぞれ対応づけておくことで、オペレーターが、アクセル操作用スイッチ51で走行体10を走行させる際に、前後方向を直感的に認識させることができる。
【0041】
アクセル操作用スイッチ51は、アクセル用の操作を受け付けて、その受け付けた操作に対応したアクセル操作信号を出力する。アクセル操作信号は、走行体10の進行方向(前進/後進)及び走行速度を指示する情報を含む。すなわち、アクセル操作用スイッチ51のレバー52aを図示の上側に倒す操作が行われると、走行体10を前進させるアクセル操作信号が出力される。このとき、レバー52aの操作量が大きくなるにしたがって、前進させる駆動力は大きくなる(前進走行速度が速くなる)。一方、プッシュボタン52bを押した状態でアクセル操作用スイッチ51のレバー52aを図示の下側に倒す操作が行われると、走行体10を後進させるアクセル操作信号が出力される。このとき、レバー52aの操作量が大きくなるにしたがって、後進させる駆動力は大きくなる(後進走行速度が速くなる)アクセル操作用スイッチ51は、上下の中間位置では、走行速度がゼロで、前進も後進もしていない状態に対応し、アクセル操作信号を出力しない。
【0042】
なお、プッシュボタン52bを押さずにレバー52aを図示の下側に倒す操作が行われても、アクセル操作信号は出力されない。プッシュボタン52bを押さないときは、レバー52aを図示の下側に倒す操作ができないようにしてもよい。
【0043】
操舵用スイッチ53は、例えば、回転するロータリスイッチであり、操舵用の操作を受け付けて、回転量に応じたパルス状の信号により、その受け付けた操作に対応した操舵操作信号を出力する。操舵操作信号は、ステアリング24の操作方向(右方/左方)、操舵角、及び操舵パターンを示す情報を含む。すなわち、操舵用スイッチ53を、時計回り方向に回転させる操作が行われると、走行体10のステアリング24を右方に向ける操舵操作信号が出力される。このとき、操舵用スイッチ53の回転量が大きくなるにしたがって、ステアリング24の舵角は大きくなる。一方、操舵用スイッチ53を、反時計回り方向に回転させる操作が行われると、走行体10のステアリング24を左方に向ける操舵操作信号が出力される。このとき、操舵用スイッチ53の回転量が大きくなるにしたがって、ステアリング24の舵角は大きくなる。
【0044】
なお、操舵用スイッチ53は、ジョイスティックなどの回転させる操作を入力できるものや、単に左右に動かす操作を入力できるものであってもよい。
【0045】
操舵パターン切替スイッチ54は、ステアリング切替スイッチ30により選択される操舵パターン(第1~第4の操舵パターン)ごとに対応したスイッチである。具体的には、操舵パターン切替スイッチ54は、走行体10の前輪だけを操舵する第1の操舵パターンに対応したスイッチ54a、後輪だけを操舵する第2の操舵パターンに対応したスイッチ54b、前輪と後輪とを同位相に操舵する第3の操舵パターンに対応したスイッチ54c及び前輪と後輪とを逆位相に操舵する第4の操舵パターンに対応したスイッチ54dとによって構成されている。これら4つのスイッチ54a,54b,54c,54dのうち択一的に選ばれた1つのスイッチに対応した操舵パターンを表す信号が、前述した操舵操作信号の一部として出力される。
【0046】
なお、操舵用スイッチ53は、走行体10の前輪の操舵方向を基準とするが、操舵パターン切替スイッチ54により後輪だけを操舵するパターンに対応したスイッチ54bが選択されているときは、走行体10の後輪の操舵方向の基準とする。
【0047】
つまり、スイッチ54aが選択されている状態で、操舵用スイッチ53を時計回りに回転させる操作が入力されたときは、走行体10の前輪が右方に向くように操舵される一方、後輪は直進状態のままで操舵されない。また、スイッチ54bが選択されている状態で、操舵用スイッチ53を時計回りに回転させる操作が入力されたときは、走行体10の後輪が右方に向くように操舵される一方、前輪は直進状態のままで操舵されない。また、スイッチ54cが選択されている状態で、操舵用スイッチ53を時計回りに回転させる操作が入力されたときは、走行体10の前輪及び後輪がともに右方に向くように操舵される。また、スイッチ54dが選択されている状態で、操舵用スイッチ53を時計回りに回転させる操作が入力されたときは、走行体10の前輪が右方に向くように操舵され、後輪が左方に向くように操舵される。
【0048】
端末機側通信部55は、アクセル操作信号と操舵操作信号とを無線通信/有線通信により車両側通信部38に送信する。なお、車両側通信部38から送信された信号を端末機側通信部55が受信し、操作端末機50において、端末機側通信部55により受信された信号に対応した処理が行われるようにしてもよい。
【0049】
具体的には、操作端末機50が液晶パネル等の表示部(図示略)を有する場合は、車両側通信部38が端末機側通信部55に対してクレーン100の作業状態を示す信号を送信することにより、操作端末機50の表示部に、これらの信号に含まれる情報を表示することができる。クレーン100の作業状態を示す信号は、伸縮ブーム80の状態(起伏状態、伸縮状態、旋回状態等)や走行体10の運転状態を示す信号、吊り荷を撮影するために伸縮ブーム80の先端に設けられたカメラの映像を表す信号、走行体10に設けられた周囲を監視するカメラの映像を表す信号等を含む。
【0050】
なお、走行体10の周囲を監視するカメラの映像を表示部に表示する場合は、クレーン100から降りて操作端末機50で遠隔操作するオペレーターからは死角になる範囲を、表示部に表示された映像により、オペレーターに確認させることができる。
【0051】
二次電池56は、アクセル操作用スイッチ51、プッシュボタン52b、操舵用スイッチ53、操舵パターン切替スイッチ54及び端末機側通信部55の電源として機能する。二次電池56は、操作端末機50がキャビン15の設置部に取り付けられた取付状態において、走行体10により充電される。なお、二次電池56に代えて、一次電池を設けてもよい。一次電池を設けたものでは、一次電池を交換可能に構成し、取付状態か取外状態かの別に拘わらず充電されないように構成すればよい。
【0052】
<遠隔操作システム1の動作>
端末機側通信部55からアクセル操作信号及び操舵操作信号が送信されると、車両側通信部38においてこれらの操作信号が受信される。車両側通信部38は、アクセル操作信号を駆動制御装置31、変速制御装置32及び制動制御装置33に出力し、操舵操作信号を操舵制御装置34に出力する。
【0053】
端末機操作モードとなっているとき、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34は、操作端末機50を用いた操作に対応して、エンジン21、変速機22、ブレーキ23及びステアリング24の動作を制御する。
【0054】
例えば、変速制御装置32は、入力されたアクセル操作信号が前進を表すものであるときは、変速機22のギヤを、前進段のうち最も減速比が大きいローギヤに切り替える。また、駆動制御装置31に入力されたアクセル操作信号は、アクセル操作用スイッチ51を倒す量(レバー52aの操作量)に応じた信号であるため、駆動制御装置31は、入力されたアクセル操作信号に応じた駆動力を発生するようにエンジン21の出力を制御する。つまり、アクセル操作用スイッチ51を倒す量が大きくなるにしたがって、前進する走行体10の走行速度は速くなる。
【0055】
また例えば、変速制御装置32は、入力されたアクセル操作信号が後進を表すものであるときは、変速機22のギヤを、後進段であるリバースギヤに切り替える。また、駆動制御装置31は、入力されたアクセル操作信号に応じた駆動力を発生するようにエンジン21を制御する。アクセル操作用スイッチ51を倒す量が大きくなるにしたがって,後進する走行体10の走行速度は速くなる。
【0056】
また、アクセル操作用スイッチ51が操作されず、アクセル操作信号が出力されていないときは、制動制御装置33は、AUXブレーキの油圧回路に設けられた電磁弁23aを開いて、走行体10にAUXブレーキを掛けた状態とする。アクセル操作用スイッチ51が操作されて、ゼロではないアクセル操作信号が出力されているとき(アクセル操作用スイッチ51が上側又は下側に倒されているとき)は、制動制御装置33は、アクセル操作信号の入力を受けて、AUXブレーキの油圧回路に設けられた電磁弁23aを閉じる。これにより、走行体10に掛けていたAUXブレーキは解除され、前進又は後進の走行が可能な状態となる。
【0057】
また、操舵制御装置34は、入力された操舵操作信号にしたがって、走行体10のステアリング24を制御する。具体的には、操舵パターン切替スイッチ54の選択されたスイッチに対応して、走行体10の前輪及び後輪のうち少なくとも一方のステアリング24を、操舵用スイッチ53の回転方向に応じた向きに、回転量に応じた量で操舵させる。
【0058】
以上のように構成された実施形態のクレーンの遠隔操作システム1によれば、キャビン15の設置部に操作端末機50が取り付けられているときは、切替装置40が車両側操作モードに切り替える。車両側操作モードでは、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34の、操作端末機50を用いた遠隔的な操作による制御は無効とされる。
【0059】
すなわち、車両側操作モードでは、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30の操作に応じて、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34が、エンジン21、変速機22、ブレーキ23及びステアリング24を制御する。したがって、オペレーターは、キャビン15に乗って走行体10を運転することができる。
【0060】
一方、キャビン15の設置部から操作端末機50が取り外されているときは、切替装置40が、走行体10の側での操作を優先しつつ操作端末機50での遠隔操作を許容する端末機操作モードに切り替える。端末機操作モードでは、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34の、操作端末機50を用いた遠隔的な操作による制御が有効とされる。なお、アクセルペダル25、シフトレバー26、ブレーキペダル27、補助ブレーキスイッチ28、ステアリングホイール29及びステアリング切替スイッチ30の操作による制御は無効とされず、走行体10の側での操作による制御が優先される。
【0061】
すなわち、端末機操作モードでは、操作端末機50の操作に応じて、駆動制御装置31、変速制御装置32、制動制御装置33及び操舵制御装置34が、エンジン21、変速機22、ブレーキ23及びステアリング24を制御する。したがって、オペレーターは、キャビン15から降りて、クレーン100の外部からクレーン100とその周囲の状況を監視しながら、携帯した操作端末機50のアクセル操作用スイッチ51(レバー52a及びプッシュボタン52b)、操舵用スイッチ53及び操舵パターン切替スイッチ54を操作することにより、走行体10を遠隔的に運転することができる。
【0062】
図4は、遠隔操作システム1を利用したクレーン100の駆動制御処理及び制動制御処理を示すフローチャートである。前提として、操作端末機50においてアクセル操作用スイッチ51は操作されておらず、クレーン100においてブレーキ23(AUXブレーキ)が作動しているものとする。また、切替装置40により、端末機操作モードに切り替えられているものとする。
【0063】
図4のステップS101では、操作端末機50において、アクセル操作用スイッチ51が操作されたか否かの判定が行われる。アクセル操作用スイッチ51の操作が行われると(ステップS101で“YES”)、ステップS102の処理に移行する。
【0064】
ステップS102では、操作端末機50において、端末機側通信部55により、アクセル操作用スイッチ51が操作されていることを示すアクセル操作信号が送信される。送信されたアクセル操作信号は、クレーン100の車両側通信部38によって受信され、駆動制御装置31、変速制御装置32及び制動制御装置33に出力される。
【0065】
ステップS103では、クレーン100において、ブレーキ23が解除される(制動制御装置33による処理)。
ステップS104では、クレーン100において、走行体10を走行させるための駆動が開始される。具体的には、変速機22のギヤが走行用のギヤに切り替えられるとともに、エンジン21の出力が開始される(変速制御装置32及び駆動制御装置31による処理)。
クレーン100は、アクセル操作信号に含まれる指示内容(進行方向及び走行速度)に従って、走行する。
【0066】
ステップS105では、操作端末機50において、アクセル操作用スイッチ51の操作が解放されたか否かの判定が行われる。アクセル操作用スイッチ51の操作が解放されると(ステップS105で“YES”)、ステップS106の処理に移行する。なお、アクセル操作用スイッチ51の操作が継続されている場合(ステップS105で“NO”)は、端末機側通信部55により、その時点におけるアクセル操作信号が送信される。このとき、アクセル操作用スイッチ51の操作に変更があった場合だけ、改めてアクセル操作信号が送信されるようにしてもよい。
【0067】
ステップS106では、操作端末機50において、端末機側通信部55によるアクセル操作信号の送信が終了とされる。
【0068】
ステップS107では、クレーン100において、走行体10を走行させるための駆動が停止される。具体的には、エンジン21の出力が停止されるとともに、変速機22のギヤが走行停止用のギヤに切り替えられる(駆動制御装置31及び変速制御装置32による処理)。
ステップS108では、クレーン100において、ブレーキ23が作動される(制動制御装置33による処理)。これにより、クレーン100は、速やかに停止する。
【0069】
本実施形態の遠隔操作システム1によれば、クレーン100から分離した操作端末機50を用いてオペレーターが走行体10を遠隔的に運転することができる。これにより、キャビン15から降りたオペレーターがクレーン100の周囲を目視で確認しながら、安全にクレーン100を移動させることができる。したがって、クレーン100の運転操作において、オペレーターとは別に、クレーン100の周囲を監視して誘導する誘導員を配置する必要がない。また、クレーン100の周囲を確認しながら微調整ができるので、作業効率が向上する。
【0070】
また、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、端末機操作モードのとき、操作端末機50のアクセル操作用スイッチ51から手を離してアクセル操作用スイッチ51に操作を入力しない状態にするだけで、走行体10のAUXブレーキを作動させることができる。これにより、操作端末機50にブレーキ用のスイッチを設ける必要がないだけでなく、仮にブレーキ用のスイッチを設けたとしても、アクセル操作用スイッチ51を操作している最中に急ブレーキが必要となったときに、とっさにブレーキ用のスイッチを探して操作する手間を掛けることがない。したがって、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、操作端末機50によるクレーン100の走行の制御の操作を簡単化することができる(煩雑な操作を行う必要がない)とともに、安全性が向上する。
【0071】
また、本実施形態におけるアクセル操作用スイッチ51は、操作を止めるために手を離すと、上下の中間位置に復帰する(オン状態から自動的にオフ状態になる)ため、オペレーターが自らの手でその中間位置に戻す操作を行う必要がない。したがって、例えば、オペレーターが手を滑らせる等して、操作端末機50が手から離れた場合にも、クレーン100の走行体10の走行を直ちに停止させることができる。
【0072】
また、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、操作端末機50のアクセル操作用スイッチ51、操舵用スイッチ53及び操舵パターン切替スイッチ54を操作することにより、走行体10を前進、後進、右旋回、左旋回、右前後への平行移動及び左前後への平行移動を遠隔的に行うことができる。
【0073】
また、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、切替装置40が、車両側操作モードと端末機操作モードとを排他的に切り替えるため、キャビン15でのブレーキペダル27への操作と、操作端末機50のアクセル操作用スイッチ51への操作とが同時に行われた場合などのように、相反する動作が競合するのを防止することができる。なお、端末機操作モードに切り替えられているときも、走行体10の側での操作が優先されるため、操作端末機50による操作に習熟していないなどの場合に、キャビン15に載った別のオペレーターが走行体10の側での操作を行うことで、操作端末機50に入力された操作を無効にすることができる。
【0074】
また、本実施形態の遠隔操作システム1によれば、切替装置40が、操作端末機50がキャビン15の設置部に設置されている取付状態であるか又は取外状態であるかの別を検出し、取付状態であると検出したときは車両側操作モードに自動的に切り替え、取外状態であると検出したときは端末機操作モードに自動的に切り替えるため、オペレーターが、車両側操作モード又は端末機操作モードに切り替える手間が掛らない。
【0075】
なお、切替装置40として、オペレーターの選択操作の入力を受けて車両側操作モード又は端末機操作モードに任意に切り替えるものを適用したときは、操作端末機50の故障や紛失などによって、キャビン15の設置部から、操作端末機50が取り外されている状態であっても、オペレーターが切替装置40に対して車両側操作モードを選択する操作を入力することで、任意に走行体10の側での操作モードを選択することができる。
【0076】
<変形例>
本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードでは、アクセル操作用スイッチ51に操作が入力されたときだけアクセル操作信号を出力し、アクセル操作用スイッチ51に操作が入力されていないときはアクセル操作信号を出力しない構成である。そして、端末機操作モードでは、制動制御装置33がデフォルトでAUXブレーキを作動させて走行体10を制動させておき、操作端末機50からアクセル操作信号が出力されたときに限り、制動制御装置33がAUXブレーキを解除するようにブレーキ23を制御する。
【0077】
しかし、本発明の遠隔操作システム1は、この実施形態の構成に限定されるものではなく、例えば、端末機操作モードのとき、操作端末機50は一定周期で信号を出力し続ける構成としてもよい。すなわち、操作端末機50は、アクセル操作用スイッチ51に操作が入力されているときは、その操作量に対応したアクセル操作信号(ゼロではない)を出力し、アクセル操作用スイッチ51に操作が入力されていないときは、ゼロのアクセル操作信号を出力する。そして、制動制御装置33は、デフォルトでAUXブレーキを解除しているが、ゼロのアクセル操作信号が入力されたとき、AUXブレーキを作動させるようにブレーキ23を制御してもよい。操作端末機50及び制動制御装置33は、このように動作させることで、上述した実施形態の遠隔操作システムと同じ効果を得ることができる。
【0078】
なお、本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードにおいて、アクセル操作用スイッチ51に操作が入力されていないときに走行体10に作動させるブレーキ23としてAUXブレーキを適用したが、AUXブレーキ以外の補助ブレーキであってもよいし、補助ブレーキではないブレーキを適用することもできる。
【0079】
本実施形態の遠隔操作システム1は、切替装置40が、操作端末機50が設置部に対して取外状態であることを検出したときは、操作モードを端末機操作モードに無条件に切り替えているが、本実施形態の遠隔操作システム1が複数存在している場合は、走行体10ごとに対応づけられた操作端末機50によってのみ、その走行体10を遠隔操作できるものとすることが好ましい。
【0080】
この場合、操作端末機50にそれぞれ固有の識別番号(ID)を設定し、切替装置40は、この切替装置40に対応づけられた識別番号が設定された操作端末機50でのみ、端末機操作モードが有効になるように構成すればよい。具体的には、操作端末機50は、その操作端末機50に設定された識別番号を信号として、アクセル操作信号及び操舵操作信号とともに車両側通信部38に送信する。車両側通信部38は、受信した識別番号を切替装置40に入力し、切替装置40は入力された識別番号が、この切替装置40に対応づけられたものであるか否かを判定する。
【0081】
そして、入力された識別番号が、その切替装置40に対応づけられたものであると判定(認証)したときは、車両側操作モードから端末機操作モードに切り替える。一方、入力された識別番号が、その切替装置40に対応づけられたものでないと判定したときは、車両側操作モードから端末機操作モードへの切り替えを行わずに、その操作端末機50からの操作を無効とする。
【0082】
このように、切替装置40と操作端末機50とを1対1に対応づけて、対応づけられた操作端末機50でのみ遠隔操作を許可することにより、無線の信号が到達し得る範囲に、本実施形態の遠隔操作システム1を備えたクレーンが複数存在する場合に生じうる問題を解消できる。すなわち、操作端末機での遠隔操作の際に、対応づけられていない別のクレーンを、予期せずに動かしてしまうのを有効に防止することができる。
【0083】
本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードにおいて、走行体10の走行速度を一定速度(例えば、10[km/h])以下に制限するのが好ましい(駆動制御装置31の機能)。
【0084】
すなわち、端末機操作モードにおいて、操作端末機50からのアクセル操作信号に基づいてエンジン21を制御するに際して、駆動制御装置31は、アクセル操作信号に含まれる指示内容に拘わらず、走行体10の走行速度が一定の速度以下となるように、エンジンの出力を制御する。なお、操作端末機50から出力されるアクセル操作信号の上限値を、走行体10の走行速度の上限値に設定しておいてもよい。
【0085】
このように、端末機操作モードのとき走行体10の走行速度の上限を制限しておくことにより、遠隔操作時の走行体10の走行速度が速くなり過ぎるのを防止することができる。これにより、クレーン100が、操作端末機50を携帯しているオペレーターから大きく離れてしまったり、急加速や高速走行してしまうのを防止することもできる。
【0086】
本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードにおいて、走行体10の連続した走行時間を一定の値(例えば、1[分間])以下に制限し、又は連続した走行距離を一定の値(例えば、10[m])以下に制限するのが好ましい(駆動制御装置31としての機能)。
【0087】
すなわち、端末機操作モードにおいて、操作端末機50からのアクセル操作信号に基づいてエンジン21を制御するに際して、駆動制御装置31は、ゼロでないアクセル操作信号の連続した出力時間を計測して、その計測された連続した出力時間が一定の値に達したときは、エンジン21の出力を一時的に停止させる。
【0088】
また、端末機操作モードにおいて、操作端末機50からのアクセル操作信号に基づいてエンジン21を制御するに際して、駆動制御装置31は、ゼロでないアクセル操作信号の連続した出力時間に対応して走行した距離を計測又は算出して、得られた距離が一定の値に達したときは、エンジン21の出力を一時的に停止させる。
【0089】
このように、端末機操作モードにおける走行体10の連続走行時間又は連続走行距離の上限を制限しておくことにより、遠隔操作時の走行体10の連続走行時間又は連続走行距離が長くなり過ぎるのを防止することができる。これにより、クレーン100の遠隔的な走行操作を、近距離での移動操作などの目的に沿ったものとし、無制限に遠隔操作が行われることを防止することができる。
【0090】
本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードにおいて、車両側通信部38と操作端末機50との間での無線通信に障害(電波環境の問題や操作端末機50の故障や二次電池56の蓄電量不足等)が生じたときは、車両側通信部38が、駆動制御装置31及び制動制御装置33にゼロのアクセル操作信号を送信して、走行体10をAUXブレーキで制動するようにしてもよい。また、車両側通信部38が制動制御装置33に対して通信の障害が発生していることを示す情報を送出し、その情報を受けた制動制御装置33がAUXブレーキを作動させてもよい。
【0091】
また、本実施形態の遠隔操作システム1は、端末機操作モードにおいて、通信障害が発生した回数が予め設定された回数を超えた場合や、通信障害が予め設定された頻度(特定の期間中に発生した回数)を超えた場合、又は通信の障害が予め設定された連続時間を超えた場合等、端末機操作モードでの操作が適切でない状況のときは、切替装置40が、操作モードを車両側操作モードに切り替えて、操作端末機50での遠隔操作を無効としてもよい。
【0092】
また、上述した通信障害が発生した場合、本実施形態の遠隔操作システム1は、操作端末機50や動力源であるエンジン21を強制的に停止(オフ)してもよい。また、エンジン21を強制的に停止させる非常停止スイッチなどを、走行体10や操作端末機50に設けてもよい。
【0093】
なお、本実施形態におけるクレーン100は、走行体10の周囲を監視するカメラを備え、そのカメラで撮影された映像において人や車両等の動くもの(動体)が存在し、カメラの映像を処理する信号処理装置がその動体を検知した場合には、端末機操作モードであっても、制動制御装置33が電磁弁23aを開放してAUXブレーキを作動させ、走行体10を制動してもよい。
【0094】
本実施形態の遠隔操作システム1においては、クレーン100の一部に、報知装置37(図1参照)を備えていてもよい。報知装置37は、音及び光のうち少なくとも一方を発して、クレーン100の外部に注意を促すものである。そして、報知装置37は、切替装置40により端末機操作モードに切り替えられているときは、音又は光を発する。これにより、クレーン100が、操作端末機50によって、クレーン100の外部からの遠隔的な操作で運転(走行)していることを、クレーン100の周囲の作業者等に報知することができる。なお、音としては走行体10に設けられている既存のホーンを用いてもよいし、光としては走行体10に設けられている既存のハザードランプを用いてもよい。
【0095】
本実施形態の遠隔操作システム1においては、上述した走行の運転操作に付随する動作を、操作端末機50により遠隔的に操作するようにしてもよい。例えば、操舵パターン切替スイッチ54によって走行体10の後輪を操舵する場合、後輪のステアリングのロックを解除したり、ロックし直したりする動作を要することもある。そして、この後輪のステアリングのロック/解除の切替えは、ロックピンの挿抜によって行われる。そこで、ロックピンの挿抜を、操作端末機50により遠隔的に操作するようにしてもよい。
【0096】
なお、操作端末機50に設けられている操舵用スイッチ53として、前輪用の操舵用スイッチと後輪用の操舵用スイッチとを別々に設けて、前輪と後輪とを独立して操舵させるようにしてもよい。この場合、走行体10のステアリング24が、前輪と後輪とを独立して操舵させる機構を有している必要がある。
【0097】
また、本実施形態における操作端末機50は、図3に示した形状のものに限定されない。したがって、例えば、アクセル操作用スイッチ51を、銃のトリガーのように、指で一方向に引かれるように操作される形態のものとしてもよい。
【0098】
また、本実施形態の操作端末機50は、走行体10の走行(運転)を操作するものであるが、クレーン100の伸縮ブーム80の動き(起伏、伸縮、旋回)を遠隔的に操作するラジオコントローラーと一体的に形成してもよい。
【0099】
2016年12月14日出願の特願2016-242633の日本出願に含まれる明細書、図面および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【符号の説明】
【0100】
1 遠隔操作システム
10 走行体
21 エンジン(駆動部)
22 変速機(駆動部)
23 ブレーキ
24 ステアリング
31 駆動制御装置(駆動制御部)
32 変速制御装置(駆動制御部)
33 制動制御装置(制動制御部)
34 操舵制御装置
38 車両側通信部
40 切替装置
50 操作端末機
51 アクセル操作用スイッチ
55 端末機側通信部
100 ラフテレーンクレーン(作業車両)
図1
図2
図3
図4