(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】記録方法、光学フィルム、および位相変調構造体
(51)【国際特許分類】
G03H 1/08 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
G03H1/08
(21)【出願番号】P 2018556763
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2017045178
(87)【国際公開番号】W WO2018110704
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2016243433
(32)【優先日】2016-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】籠谷 彰人
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0107336(US,A1)
【文献】特開平10-170865(JP,A)
【文献】国際公開第2017/209113(WO,A1)
【文献】特開2015-184288(JP,A)
【文献】特開2002-72837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/00- 5/00
B42D25/328
G02B 5/18
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の位相が計算される複数の単位ブロックからなり、再生像の各再生点に1対1で対応する計算要素区画の位相を計算するために、
前記再生点から、前記計算要素区画が配置されたxy平面からなる記録面への垂直な直線と、前記計算要素区画との交点のxy座標が、前記計算要素区画の中心の単位ブロックの中心のxy座標と一致する場合、前記交点を回転中心とし、一致しない場合、前記交点のxy座標が、前記計算要素区画の中心の単位ブロックの中心のxy座標と一致するように、前記再生点のxy座標をシフトさせた後に、前記計算要素区画の中心の単位ブロックの中心を、前記回転中心とし、
前記回転中心を中心として前記計算要素区画を放射状に分割し、分割された計算要素区画のうちの1つを前記計算要素区画の代表エリアとし、
前記代表エリアに一部または全部が含まれる単位ブロックについて位相を計算し、
前記代表エリアに一部または全部が含まれる各単位ブロックについて計算された位相を、前記代表エリアを反転させながら、前記回転中心を中心として回転させることによって、前記計算要素区画の代表エリア以外の位相としてコピーし、前記反転させながら前記回転および前記コピーを繰り返すことによって、前記計算要素区画内のすべての単位ブロックの位相を計算し、
前記計算された位相を用いて、光学フィルムからなる前記記録面へ
【数1】
で得
た位相角をリタデーションとして記録する、
ここで、W(x,y)は、座標(x,y,0)において記録される位相、arg(W(x,y))は、位相W(x,y)の偏角、φ(x,y)は、再生点の位相角である、記録方法。
【請求項2】
前記再生点を量子化グリットに整列させた、請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記計算要素区画の形状が、正方形であり、前記再生点から、前記計算要素区画の4辺の各中心点までの各線と、前記再生点から前記計算要素区画の中心までの線とのなす角度は、何れも同一角度θsであり、別の再生点においても、当該角度は、何れも同一角度θsである、請求項1または2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記計算要素区画の形状が、正方形であり、前記代表エリアを、前記計算要素区画の中心と、前記計算要素区画の1つの頂点とを結ぶ線を斜辺とする垂直二等辺三角形とした、請求項1乃至3のうち何れか1項に記載の記録方法。
【請求項5】
位相の計算は、
【数2】
に従ってなされ、ここで、W
n(kx,ky)はn番目の再生点の計算要素区画での座標(kx,ky,0)における再生点nの位相、nはn番目の再生点(n=0~Nmax)、amp
nはn番目の再生点の光の振幅、iは虚数、λは前記再生点を再生する際の光の波長、O
n(x)は前記再生点のx座標の値、O
n(y)は前記再生点のy座標の値、O
n(z)は前記再生点のz座標の値、(x,y,0)は前記単位ブロックの座標、φ
n(kx,ky)はn番目の再生点の位相角である、請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計算機によって計算された空間情報の位相を記録するための、例えばホログラムに適用される記録方法、光学フィルム、および位相変調構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、計算機によって計算された光の干渉に基づいて制御される光学フィルムとして、計算機合成ホログラムに関する以下の先行技術文献があげられる。
【0003】
先行技術文献の例は、証券、カード媒体および個人認証媒体において使用されるものである。
【0004】
干渉縞の情報は光の振幅強度の情報であり、光の振幅強度を光学フィルム上で記録する場合には、記録の方法にもよるが、再生時に光の強度を落としてしまう可能性がある。また、特許文献1および特許文献2には、参照光と物体光の、光の干渉波の強度を計算し、干渉縞を作製する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4256372号明細書
【文献】特許第3810934号明細書
【文献】特開平9-319290号公報
【文献】特開平10-123919号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2による方法は、参照光が前提となった計算方法であり、物体光を再生する場合には、計算時に定義した参照光の情報が必要となる。つまり、記録時の参照光の情報と同じ条件で光学フィルムを照明した場合にのみ、記録時と同じ条件で再生像が再生される。したがって、再生像は、記録時の参照光の条件に制限された条件でしか得られない。
【0007】
また、計算機合成ホログラムは、計算時間が長くかかってしまうという事情もある。そのため、計算時間を低減するための技術もこれまで数多く開示されている。
【0008】
たとえば、特許文献3および特許文献4には、原画像および記録面を、それぞれ分割して線状の単位領域を多数定義する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、計算領域を小さくする事で、計算時間を短縮することができるものの、原画像が再生される角度が限定されてしまい、実際の観察時に、上下方向と、左右方向で原画像の再生される範囲が異なるという欠点がある。
【0009】
本開示はこのような事情を鑑みてなされたものであり、記録時の参照光の条件を用いずに再生像を再生するための空間情報の位相を、短時間で計算し、記録することが可能な記録方法、光学フィルム、および位相変調構造体を提供することを目的とする。
【0010】
上記の目的を達成するために、本開示では、以下のような手段を講じる。
【0011】
すなわち、第1の様態によれば、光の位相が計算される複数の単位ブロックからなり、再生像の各再生点に1対1で対応する計算要素区画の位相を計算するために、再生点から、計算要素区画が配置された記録面への垂直な直線と、計算要素区画との交点を計算要素区画の中心とし、計算要素区画の中心を中心として計算要素区画を放射状に分割し、分割された計算要素区画のうちの1つを計算要素区画の代表エリアとし、代表エリアに一部または全部が含まれる単位ブロックについて位相を計算し、代表エリアに一部または全部が含まれる各単位ブロックについて計算された位相を、代表エリアを反転させながら、計算要素区画の中心を中心として回転させることによって、計算要素区画の代表エリア以外の位相としてコピーし、反転させながら回転およびコピーを繰り返すことによって、計算要素区画内のすべての単位ブロックの位相を計算する、計算方法である。
【0012】
第2の様態によれば、第1の態様の計算方法において、再生点を量子化グリットに整列させる。
【0013】
第3の様態によれば、第1または第2の態様の計算方法において、計算要素区画の形状が、正方形であり、再生点から、計算要素区画の4辺の各中心点までの各線と、再生点から計算要素区画の中心までの線とのなす角度は、何れも同一角度θsであり、別の再生点においても、当該角度は、何れも同一角度θsである。
【0014】
第4の様態によれば、第1乃至3のうち何れかの態様の計算方法において、計算要素区画の形状が、正方形であり、代表エリアを、計算要素区画の中心と、計算要素区画の1つの頂点とを結ぶ線を斜辺とする垂直二等辺三角形とする。
【0015】
第5の様態によれば、第1乃至4のうち何れかの態様の計算方法であって、位相の計算は、
【0016】
【0017】
に従ってなされ、ここで、Wn(kx,ky)はn番目の再生点の計算要素区画での座標(kx,ky,0)における再生点nの位相、W(x,y)は座標(x,y,0)において記録される位相、nはn番目の再生点(n=0~Nmax)、ampnはn番目の再生点の光の振幅、iは虚数、λは再生点を再生する際の光の波長、On(x)は再生点のx座標の値、On(y)は再生点のy座標の値、On(z)は再生点のz座標の値、(x,y,0)は単位ブロックの座標、φn(kx,ky)はn番目の再生点の位相角である。
【0018】
第6の様態によれば、光の位相が計算される複数の単位ブロックからなり、再生像の各再生点に1対1で対応する複数の計算要素区画の位相を計算するために、計算要素区画が配置された記録面から同じ距離にある再生点を、同じ再生点レイヤに属するようにグループ化し、各再生点レイヤでは、1つの再生点に対応する計算要素区画の位相のみを計算し、各再生点レイヤ内の他の再生点に対応する計算要素区画の位相を、同じ再生点レイヤに属する1つの再生点に対応する計算要素区画について計算された位相のコピーとする、計算方法である。
【0019】
第7の様態によれば、光の位相が計算される複数の単位ブロックからなり、再生像の各再生点に1対1で対応する複数の計算要素区画の位相を計算するために、再生点を再生点クラスタとしてクラスタ化し、再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画の位相を計算し、計算要素区画が配置された記録面からの距離が同じで、配置も同じ再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画の位相を、計算済の再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画の位相のコピーとする、計算方法である。
【0020】
第8の様態によれば、第1乃至7のうち何れかの態様の計算方法で得られた位相を用いて、光学フィルムからなる記録面へ
【0021】
【0022】
で得た位相角をリタデーションとして記録する、記録方法である。
【0023】
第9の様態によれば、位相変調構造体であって、再生像の各再生点に1対1で対応する複数の計算要素区画における、各再生点からの光の複数の位相を足し合わせた位相に基づいて計算される位相角が記録される複数の単位ブロックからなる位相角記録領域を含む記録面を有し、再生点から記録面に垂直な直線と、計算要素区画との交点を中心として計算要素区画が放射状に分割されてなる代表エリアを有し、代表エリアは、計算要素区画の中心を中心として、反転されながら回転されることによって、計算要素区画を実現し、代表エリアが、計算要素区画の中心を中心として、反転されながら回転されることによって、代表エリアに一部または全部が含まれる単位ブロックの位相が、代表エリアの対応する各単位ブロックの位相と同じになるように決定される。
【0024】
第10の様態によれば、第9の態様の位相変調構造体において、再生点を量子化グリットに整列させる。
【0025】
第11の様態によれば、第9または第10の態様の位相変調構造体において、計算要素区画の形状が、正方形であり、再生点から、計算要素区画の4辺の各中心点までの各線と、再生点から計算要素区画の中心までの線とのなす角度は、何れも同一角度θsであり、別の再生点においても、当該角度は、何れも同一角度θsである。
【0026】
第12の様態によれば、第9乃至11のうち何れかの態様の位相変調構造体において、計算要素区画の形状が、正方形であり、代表エリアを、計算要素区画における複数の単位ブロックのうち、計算要素区画の中心と、計算要素区画の1つの頂点とを結ぶ線を斜辺とする垂直二等辺三角形とする。
【0027】
第13の様態によれば、第9乃至12のうち何れかの態様の位相変調構造体であって、位相の計算は、
【0028】
【0029】
に従ってなされ、ここで、Wn(kx,ky)はn番目の再生点の計算要素区画での座標(kx,ky,0)における再生点nの位相、W(x,y)は座標(x,y,0)において記録される位相、nはn番目の再生点(n=0~Nmax)、ampnはn番目の再生点の光の振幅、iは虚数、λは再生点を再生する際の光の波長、On(x)は再生点のx座標の値、On(y)は再生点のy座標の値、On(z)は再生点のz座標の値、(x,y,0)は単位ブロックの座標、φn(kx,ky)はn番目の位相角である。
【0030】
第14の様態によれば、位相変調構造体であって、再生像の各再生点に1対1で対応する複数の計算要素区画における各再生点からの光の複数の位相を足し合わせた位相に基づいて計算される位相角が記録される複数の単位ブロックからなる位相角記録領域を含む記録面を有し、記録面から同じ距離にある再生点に対応する計算要素区画について計算された位相は同じである。
【0031】
第15の様態によれば、位相変調構造体であって、再生像の各再生点に1対1で対応する複数の計算要素区画における各再生点からの光の複数の位相を足し合わせた位相に基づいて計算される位相角が記録される複数の単位ブロックからなる位相角記録領域を含む記録面を有し、記録面からの距離が同じで配置も同じ再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画について計算された位相は同じである。
【0032】
第16の様態によれば、第9乃至15のうち何れかの態様の位相変調構造体が、記録面に配置された光学フィルムである。
【0033】
第17の様態によれば、個人認証情報が記録された、第16の態様の光学フィルムである。
【0034】
第1の態様の計算方法、および第9の態様の位相変調構造体によれば、計算要素区画内の各単位ブロックに記録するための情報を、すべての単位ブロックを対象に計算する必要はなく、代表エリアに含まれる単位ブロックのみを対象に計算すればよいので、計算時間を短縮することが可能となる。
【0035】
第2の態様の計算方法、および第10の態様の位相変調構造体によれば、再生点を量子化グリッドに整列させることによって、計算時間を短縮することが可能となる。
【0036】
第3の態様の計算方法、および第11の態様の位相変調構造体によれば、再生点から計算要素区画の中心までの線とのなす角度を、何れも同一の角度とすることによって、計算時間を短縮することが可能となる。
【0037】
第4の態様の計算方法、および第12の態様の位相変調構造体によれば、代表エリアを、垂直二等辺三角形とすることによって、計算時間を短縮することが可能となる。
【0038】
第5の態様の計算方法、および第13の態様の位相変調構造体によれば、具体的な式を使って位相を計算することが可能となる。
【0039】
第6の態様の計算方法、および第14の態様の位相変調構造体によれば、各再生点レイヤ内の他の再生点に対応する計算要素区画の位相を、同じ再生点レイヤに属する1つの再生点に対応する計算要素区画について計算された位相のコピーとすることによって、位相のための計算時間を短縮することが可能となる。
【0040】
第7の態様の計算方法、および第15の態様の位相変調構造体によれば、再生点を再生点クラスタとしてクラスタ化し、記録面からの距離も、配置も同じ再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画の位相を、計算済の再生点クラスタにおける再生点に対応する計算要素区画の位相のコピーとすることによって、位相のための計算時間を短縮することが可能となる。
【0041】
第8の態様の記録方法によれば、光学フィルムに位相を記録することができる。
【0042】
第16の態様の光学フィルムによれば、位相変調構造体を配置することができる。
【0043】
第17の態様の光学フィルムによれば、個人認証情報を記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る光学フィルムを示す図である。
【
図2A】
図2Aは、第1の実施形態における計算方法を示す図である(1/5)。
【
図2B】
図2Bは、第1の実施形態における計算方法を示す図である(2/5)。
【
図2C】
図2Cは、第1の実施形態における計算方法を示す図である(3/5)。
【
図2D】
図2Dは、第1の実施形態における計算方法を示す図である(4/5)。
【
図2E】
図2Eは、第1の実施形態における計算方法を示す図である(5/5)。
【
図3A】
図3Aは、再生点の位置のシフトを示す図である(1/3)。
【
図3B】
図3Bは、再生点の位置のシフトを示す図である(2/3)。
【
図3C】
図3Cは、再生点の位置のシフトを示す図である(3/3)。
【
図5】
図5は、再生点からの視野角度を示す図である。
【
図6】
図6は、複数の計算要素区画が重なり合う場合における計算要素区画を示す図である。
【
図7】
図7は、位相角が記録された単位ブロックの一例を示すSEM画像である。
【
図8】
図8は、ホログラムが表示された個人認証媒体の例を示す概念図である。
【
図9A】
図9Aは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックの例を示す断面図である(反射層なし)。
【
図9B】
図9Bは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックの例を示す断面図である(反射層あり)。
【
図10A】
図10Aは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックに粘着層がコーティングされた例を示す断面図である(反射層なし)。
【
図10B】
図10Bは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックに粘着層がコーティングされた例を示す断面図である(反射層あり)。
【
図11A】
図11Aは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックを含む表示体の例を示す断面図(対象物に転写された場合)である(反射層なし)。
【
図11B】
図11Bは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックを含む表示体の例を示す断面図(対象物に転写された場合)である(反射層あり)。
【
図12A】
図12Aは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックを含む表示体の例を示す断面図(基板とともに対象物に転写された場合)である(反射層なし)。
【
図12B】
図12Bは、位相角に対応する凹凸が形成された単位ブロックを含む表示体の例を示す断面図(基板とともに対象物に転写された場合)である(反射層あり)。
【
図13】
図13は、位相角の変化に対応するボイドが埋め込まれた単位ブロックの例を示す断面図である。
【
図14A】
図14Aは、再生点において再現される再生像を示す画像の一例である(本実施例)。
【
図14B】
図14Bは、再生点において再現される再生像を示す画像の一例である(従来技術)。
【
図15B】
図15Bは、同一レイヤ内の他の再生点に対するデータの使用を示すである。
【
図17】
図17は、実施例によって奏された計算時間短縮効果を示す図である。
【実施形態】
【0045】
以下、本開示の各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0046】
(第1の実施形態)
図1は、本開示の第1の実施形態に係る光学フィルムを説明するための図である。
【0047】
本実施形態に係る光学フィルム100は、xy平面上に格子状に配置された複数の単位ブロック120からなる記録面140を備えている。記録面140は、位相変調構造体240の表面に相当する。また、記録面140上には、再生像が再生される各再生点220からの視野角θに応じて、計算要素区画160がそれぞれ規定される。
【0048】
計算要素区画160には、複数の単位ブロック120が配置されている。そして、計算要素区画160内の単位ブロック120の位置に対応して、各再生点220からの光の位相が計算され、その位相に基づいて計算される位相角が、対応する単位ブロックに記録される。したがって、計算要素区画160は、位相を記録するための記録要素区画でもある。
【0049】
単位ブロック120は、光の波長の半分以下で配置できる。単位ブロック120の配置間隔は、10nm以上、400nmとすることができる。また単位ブロック120の一辺の長さは、光の波長の半分以下とできる。単位ブロック120の一辺の長さは、10nm以上、400nmとすることができる。また、単位ブロック120の高さ(深さ)は、反射で利用される位相変調構造体240では、媒体中の光波長の1/2程度とできる。透過で利用される場合は、リタデーションが光波長の程度とできる。単位ブロック120の高さ(深さ)は、反射で利用される場合、100nm以上300nm以下とでき、透過で利用される場合は、1μm以上、10μm以下とできる。いずれにしても、単位ブロック120の高さ(深さ)は、100nm以上10μm以下とできる。
【0050】
計算要素区画160の一辺の長さは、50μm以上、15mm以下とすることができる。尚、再生点220の記録面140からの距離は、0.3mm以上、30mm以下とできる。
【0051】
本実施形態では、計算時間を短縮するために、記録面140の記録要素区画の一部の単位ブロック120に記録する位相の値を他の単位ブロック120の位相の値として使用する。これを、
図2A~
図2Eを用いて説明する。すなわち、本実施形態では、計算要素区画160内のすべての単位ブロック120を対象として計算を行うのではなく、計算時間の短縮のために、
図2Aの斜線部に示すように、代表的な計算エリア(以下、「代表エリア」と称する)162に一部または全部が含まれる単位ブロックのみについて位相の計算を行う。
【0052】
代表エリア162とは、反転されながら計算要素区画160の中心Aを中心として、時計回りまたは反時計回りに回転されることによって計算要素区画160を実現するエリアである。
図2Aのように、計算要素区画160が正方形である場合、代表エリア162は、ハッチングで示されるように、計算要素区画160の中心Aと、計算要素区画160の1つの頂点Bとを結ぶ線A-Bを斜辺とする垂直二等辺三角形となる。
【0053】
図2Bは、代表エリア162に一部または全部が含まれる各単位ブロック120を対象に、計算機によって、位相の計算がなされ、その結果得られた情報1~15が記録された状態を示す図である。情報1~15は、位相の情報である。
【0054】
位相をコピーエリア163にコピーするために、代表エリア162を、対称線X1で折り返すようにして反転させながら計算要素区画160の中心Aを中心として回転させる。これによって、
図2Cに示されているように、代表エリア162に一部または全部が含まれる各単位ブロックに記録された位相の情報1~15を、この反転により決定される、コピーエリア163内の、代表エリア162の各単位ブロックに対応する各単位ブロックの位相の情報とする。これによって、対称線X1を中心として、線対称の関係にある単位ブロックには、同じ位相の情報が使用されるようになる。なお、対称線X1上にある単位ブロックにはすでに情報1、6、10、11、15があるため、新たに情報をコピーしなくてもよい。
【0055】
次に、コピーエリア163を、計算要素区画160の対称線X2を基準線として反転させながら計算要素区画160の中心Aを中心として回転させる。これによって、
図2Dに示されているように、コピーエリア163に一部または全部が含まれる各単位ブロックに記録された位相の情報1~15を、この反転により決定される、コピーエリア164内の、コピーエリア163の各単位ブロック120に対応する各単位ブロック120に、それぞれコピーする。これによって、対称線X2を中心として、線対称の関係にある単位ブロックには、同じ位相の情報がコピーされるようになる。なお、対称線X2上にある単位ブロックにはすでに情報1、2、3、4、5があるので、新たに位相の情報はコピーされない。
【0056】
同様に、コピーエリア164を、計算要素区画160の対称線X3を基準線として反転させながら計算要素区画160の中心Aを中心として回転させることによって、対称線X3を中心として、線対称の関係にある単位ブロックに、同じ位相の情報をコピーする。
【0057】
このような処理を繰り返すことによって、最終的には
図2Eに示されているように、コピーエリア166、167、168、169においても、各単位ブロックに位相の情報がコピーされ、計算要素区画160のすべての単位ブロックの位相の情報が得られる。言い換えれば、隣接するエリア(代表エリア162、コピーエリア163~169)間では、対称線X1~X4を中心として、線対称の関係にある単位ブロックに同じ情報がコピーされる。
図2Eにおいて各単位ブロックに記録された位相の情報1~15のうち、同じ符号を付された情報が書き込まれている単位ブロック同士は、再生点220からの距離が同じとなる。
【0058】
このように、本実施形態では、計算要素区画160に含まれるすべての単位ブロック120について計算するのではなく、再生点220から異なる距離にある単位ブロックのみについて計算がなされ、再生点220から同じ距離にある単位ブロックについては、計算は省かれ、すでに計算された結果がコピーされる。これによって計算時間を短縮できる。
図2A~
図2Eでは、計算要素区画160に81個の単位ブロック120が含まれているが、実際に計算をするのは、81個の単位ブロックのすべてではなく、15個だけである。したがって、計算時間が大幅に短縮される。
【0059】
ただし、このような手法を適用するためには、再生点220のxy座標と、計算要素区画160の中心Aのxy座標とを一致させ、計算要素区画160の位相が中心Aを対称点とした対称性を有することが要求される。再生点220のxy座標が、計算要素区画160の中心の単位ブロック120の中心Aのxy座標と一致しない場合、本実施形態では、
図2A~
図2Eで説明したような計算に先立って、再生点220のxy座標の位置を、xy平面上でシフトさせ、計算要素区画160の中心の単位ブロック120の中心のxy座標と一致させる。
【0060】
絵柄(3Dオブジェクト)の再生点220のxy座標は予め分かっており、計算要素区画160のxy座標も予め分かっているので、再生点220のxy座標の位置を、x方向およびy方向にそれぞれどれだけシフトさせるべきかが一義的に決定される。再生点220のxy座標と、計算要素区画160の中心Aのxy座標とが一致している場合には、シフト量はゼロである。
【0061】
このような再生点220のxy座標のシフトを、
図3A~
図3Cを用いて説明する。
【0062】
図3Aは、
図2Bと同様であり、代表エリア162に一部または全部が含まれる単位ブロック120に、情報1~15が記録された状態を示している。
【0063】
しかしながら、この場合、再生点220の位置Cのxy座標が、
図3Bに示すように、中心の単位ブロック120aの中心Aと一致していないものとする。この場合、各コピーエリア163~169における各単位ブロックの中心Aからの距離は、代表エリア162における各単位ブロックの中心Aからの距離と異なることになり、対称性がなくなるので、
図2A~
図2Eを用いて説明したような、代表エリア162の情報をコピーエリアにコピーをすることはできない。
【0064】
したがって、
図3Cに示すように、再生点220の位置Cのxy座標を、計算要素区画160の中心の単位ブロック120aの中心Aのxy座標に一致するように、xy平面上でシフトさせる。すなわち、位置Cのxy座標を、x方向にSxシフトさせ、y方向にSyシフトさせる。このように再生点220の位置Cが、計算要素区画160の中心の単位ブロック120aの中心Aのxy座標に一致するようにシフトさせ、代表エリア162における対称性を確保した上で、
図2A~
図2Eで説明したように、コピーエリア163~169へのコピー処理を行う。
【0065】
なお、このように、再生点220の位置Cのxy座標を、計算要素区画160の中心の単位ブロック120aの中心Aのxy座標に一致させるようにシフトさせれば、実際には、現実の状態から乖離することになる。しかしながら、現実的には、再生点220の位置Cのxy座標と、計算要素区画160の中心の単位ブロック120aの中心Aのxy座標とのズレは、最大でも1単位ブロックの半分程度であり、1単位ブロックのサイズは、数10nmから数μm程度であり、目視ではもはや識別不能な大きさである。したがって、再生点220の位置Cのxy座標が、計算要素区画160の中心の単位ブロック120aの中心Aのxy座標に一致するように、xy平面上でシフトさせることによる実際の状態からの乖離による影響は、無視できるほど小さい。
【0066】
図4Aおよび
図4Bは、再生点220から計算要素区画160を決定する際の角度θsが同一である事を示している。これにより、θs内であれば上下方向と、左右方向で、再生点220の再生される範囲は同一となる。
【0067】
また、
図5は各再生点220(#1)~220(#3)から計算要素区画160(#1)~160(#3)を決定する際の角度θsが同一である事を示している。これにより、θs内であれば上下方向と、左右方向で、各再生点220(#1)~220(#3)の再生される範囲は同一となる。
【0068】
また、
図2A~
図2Eのように計算要素区画160の形状が正方形であれば、再生点220から、計算要素区画160の4辺の各中心点までの各線と、再生点220から計算要素区画160の中心までの線とのなす角度は、何れも同一角度θsとなり、別の再生点220においても、当該角度は、何れも同一角度θsとなる。再生点220から計算要素区画160の中心までの線とのなす角度は、5度以上、30度以下とできる。
【0069】
なお、
図5では、2つの計算要素区画160(#1)、160(#2)が重なり合っている。このように、複数の計算要素区画160が重なり合う場合は、計算機は、位相W(x,y)の和に基づいて、位相角φ(x,y)を計算し、計算された位相角φの数値情報を、対応する座標(x,y)の単位ブロックに記録する。
【0070】
先ず、計算機は、
図6に示すように、1つの再生点220(#a)によって規定される計算要素区画160(#A)と、位相角記録領域180(#1)とが重なる領域である重複領域190(#1)、および、計算要素区画160(#A)と、位相角記録領域180(#2)の一部とが重なる領域である重複領域190(#2-1)に含まれる単位ブロック120を対象として、再生点220(#a)からの光の位相W(x,y)を計算する。
【0071】
再生点220は1つ、または、再生点220は複数存在する。1つの再生点220には、1つの対応する計算要素区画160が存在する。再生点220は複数存在する場合、各計算要素区画160は、複数の再生点220の各々に1対1で対応して、複数の再生点220と同数存在する。
【0072】
再生点220が、複数存在する場合、計算機はさらに、
図6に示されるように別の再生点220(#b)によって決定される計算要素区画160(#B)と、位相角記録領域180(#2)とが重なる領域である重複領域190(#2)に含まれる単位ブロック120を対象として、再生点220(#b)からの光の位相W(x,y)を計算する。
【0073】
図6に示すように、2つの計算要素区画160(#A)、160(#B)が重なり合う場合は、位相W(x,y)の和を計算する。
【0074】
計算機はさらに、計算された位相W(x,y)に基づいて、位相角φ(x,y)を計算し、計算された位相角φ(x,y)の数値の情報を、対応する重複領域190にリタデーションとして記録する。位相から位相角φ(x,y)を計算する式は、以下に示す通りであり、
【0075】
【0076】
ここで、Wn(kx,ky)はn番目の再生点の計算要素区画160での座標(kx,ky)における再生点nの位相、W(x,y)は座標(x,y,0)における位相変調構造体に記録する位相、nはn番目の再生点(n=0~Nmax)、ampnはn番目の再生点の光の振幅、iは虚数、λは再生点220の集合で再生される再生像を再生する際の光の波長、On(x)は再生点のx座標の値、On(y)は再生点のy座標の値、On(z)は再生点のz座標の値、(kx,ky,0)は単位ブロックの座標、φn(kx,ky)はn番目の再生点の位相角である。位相Wn(kx,ky)は、計算要素区画160のすべての点で求められ、再生点nの位相は、再生点220からの距離が同じ点では、同じとなるため計算済みの位相の情報をコピーできる。また、下記で述べるように、On(z)は再生点のz座標の値、すなわち記録面からの距離が同じ再生点の位相Wn(kx,ky)は、同じ位相の分布となるため計算済みの位相の情報をコピーできる。なお、計算要素区画160での座標(kx,ky)は、その中心座標を、(0,0)とした場合、対応する再生点Onのx座標は、On(x)となりy座標は、On(x)となるため、記録面140での座標(x,y)とは、x=kx+On(x)、y=ky+On(y)の関係となる。
【0077】
ところで、単位ブロック120に数値情報を記録する再生点220の位相が増加すると、それに伴って情報量も増加し、計算時間も増大する。記録する再生点220の位相が多すぎると、再生点220において再生される再生像のコントラストが落ちる要因ともなる。よって、たとえば、重複領域190(#2-1)のように、複数の再生点220(#a、#b)の位相角記録領域180が重なる部分について、より明瞭な再生像を得るためには、計算要素区画160の重なりが少ない、すなわち位相角記録領域180に存在する計算要素区画の数が少ない方が好ましい。
【0078】
位相角記録領域180には、計算要素区画160が重ならないように、すなわち計算要素区画160を1つとすることができる。また、位相角記録領域180に、計算要素区画160が複数存在する場合には、位相角記録領域180内の計算要素区画160の数を256以下とすることができる。この場合、計算をより効率的にすることができる。さらに、位相角記録領域180内の計算要素区画160の数を16以下とすることができる。この場合、明瞭な再生像を得やすい。
【0079】
そして、視野角θによって規定される計算要素区画160と、位相角記録領域180とが重複する領域である重複領域190における単位ブロック12に対して、位相W(x、y)が計算され、位相W(x、y)から位相角φ(x、y)が計算される。前述したように、視野角θの上限が規定され、位相角φが計算される領域も重複領域190に限定されるので、計算時間は短縮される。そして、計算された位相角φは、重複領域190における対応する単位ブロック120にリタデーションとして記録される。
図7は、位相角φが記録された単位ブロック120を示すSEM画像である。
図7に示される単位ブロック120は、一辺の長さがdである正方形をしており、X方向とY方向との両方において配列間隔dで2次元配列されている。
【0080】
また、位相角記録領域180の他に、記録面140に位相角非記録領域200を有してもよい。位相角非記録領域200は、たとえ計算要素区画160と重複した場合であっても、計算機によって、計算はされず、位相角非記録領域200には、位相角は記録されない。代わりに、位相角非記録領域200には、例えば光の散乱、反射、および回折特性に関する情報のように、位相角以外の情報が記録されてもよい。または、位相角非記録領域200を透光性とし、位相角非記録領域200に印刷を設けても良い。これにより記録面を有する位相変調構造体240の意匠性を高めることができる。
【0081】
位相差、再生点220の集合として再生像を表示することができる。再生像によって、形状自体に意味のある図形を形成すれば、再生点220において再生される像に意味を持たせ、3次元的な動的効果を与えることができる。意味のある画像としての再生像は、個人認証情報として利用することが可能となる。
【0082】
図8は、個人認証媒体300上に、形状自体に意味のある図形170を再生像によって表示した図である。
【0083】
このような個人認証媒体300の作成方法は以下の通りである。
【0084】
まず、計算要素区画160において意味のある形状の図形170を形成する。次に、それに応じて、身分証明書等の個人認証媒体300における再生点220において、その図形170に応じた再生像を再生する。この再生像は、視認可能なものとする。この再生像によって、絵柄のみならず、文字を再生することも可能である。
【0085】
次に、以上のように構成した本実施形態に係る光学フィルム100の作用について説明する。
【0086】
すなわち、本実施形態に係る光学フィルム100では、再生像が再生される再生点220からの光の位相を計算する際に、計算要素区画160に含まれるすべての単位ブロック120について計算されるのではなく、代表エリア162に一部または全部が含まれる単位ブロックのみについて計算がなされる。そして、他のエリア(コピーエリア163~169)に含まれる単位ブロックについては、代表エリア162に含まれる単位ブロックのうち、再生点220から同じ距離にある単位ブロックに記録された情報がコピーされて記録される。
【0087】
たとえば、計算要素区画160の形状が正方形である場合、
図2A~
図2Eに示すように、代表エリア162は、計算要素区画160の1/8の面積を持つ直角二等辺三角形となり、81個の単位ブロック120からなる計算要素区画160のうち、実際に計算をするのは15個だけとなる。したがって、空間情報の位相を、短時間で計算し、記録することが可能となる。
【0088】
また、計算では、光の振幅情報はそのままで、位相角のみを計算する。従って、光の位相のみが変調され、光の振幅については理論上変調されない。このため、明るさを変化させることなく、高輝度を保ったまま光を制御することが可能となる。
【0089】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る光学フィルムについて説明する。以下の説明では、第1の実施形態と同様または類似した機能を発揮する構成要素には、全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0090】
第1の実施形態では、単位ブロック120に、位相角φの数値情報のような情報1~15を記録することについて説明した。本実施形態に係る光学フィルム100では、単位ブロック120に、位相角φの数値情報を記録する代わりに、位相角φに対応する凹凸の高さを、対応する単位ブロック120に形成する。
【0091】
図9A~
図9Bは、位相角φに対応する凹凸が形成された単位ブロック120を示す断面図である。
【0092】
位相角φを、凹凸の高さに変換する際には、計算機が、位相角φを0~2πの範囲で計算し、さらに計算結果を画像に出力するために、8ビットのグレースケール値に変換する。この場合、2πが8ビットのグレースケール値の255に相当する。その後、計算結果を元に、電子線描画機によって、レジスト基材へ描画を施す。
【0093】
電子線描画機がマルチレベルの描画に対応できない場合には、同一箇所にパワーの異なる描画を多段階行うことによって、マルチレベルに近い描画を行うようにしても良い。3回描画することによって、8段階のマルチレベルを表現することが可能となる。その後、レジストの現像処理、電鋳処理を行う。
【0094】
その原版を用いて、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV樹脂等にて、
図9Aに示すような基材110上に設けられた位相変調構造体240に対して、凹凸を形成する。このようにして、位相角φに対応する凹凸が形成された単位ブロック120を得る。位相変調構造体240は、1μm以上、25μm以下の厚みとすることができる。
【0095】
また、反射光を観察する場合には、
図9Bのように、位相変調構造体240の表面に、反射層260でコーティングしても良い。なお、反射光を観察せず、透過光のみを観察する場合には、
図9Aのように、位相変調構造体240の表面に反射層260をコーティングしなくても良い。
【0096】
以上は、原版を用いた、位相角φに対応する凹凸が形成された単位ブロック120の形成について説明したが、他の手法として、ハロゲン化銀露光材料を露光現像し、漂白後現像銀をハロゲン化銀などの銀塩に変えて透明にするようにしても良い。あるいは光によって屈折率や表面の形状が変化するサーモプラスチック等も利用するようにしても良い。
【0097】
図10A~
図10Bは、
図9A~
図9Bの応用であり、必要に応じて、基材110に剥離層270を積層し、さらに剥離層270に位相変調構造体240を積層し、さらに位相変調構造体240に粘着層280を積層し、この粘着層280によって、対象物(図示せず)に貼り付け可能な構成とした光学フィルム100を示す断面図である。
【0098】
なお、
図10Aおよび
図10Bは、
図9Aおよび
図9Bにそれぞれ対応しており、
図10Aは、位相変調構造体240に、反射層260がコーティングされていない光学フィルムの構成を、
図10Bは、位相変調構造体240に、反射層260がコーティングされている光学フィルム100の構成をそれぞれ示している断面図である。
【0099】
図11Aおよび
図11Bは、
図10Aおよび
図10Bにそれぞれ対応しており、粘着層280を介して、対象物290に転写された後に、剥離層270から基材110が剥離された光学フィルム100を含む表示体400の構成を示す断面図である。
【0100】
なお、基材110に用いる材料は、ガラス基材のようなリジッドなものでも良いし、フィルム基材でも良い。基材110に用いる材料は、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PP(ポリプロピレン)等のプラスチックフィルムを用いることができる。基材110に用いる材料は、位相変調構造体240を設けた際にかかる熱や圧力等によって変形や変質の少ない材料を用いることが望ましい。なお、用途や目的によっては紙や合成紙、プラスチック複層紙や樹脂含浸紙等を基材110として用いても良い。基材110は、12μm以上、50μm以下の厚みとすることができる。
【0101】
剥離層270には、樹脂および滑剤を用いることができる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等が好適である。樹脂としては、アクリル樹脂やポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂である。また、滑剤としては、ポリエチレンパウダー、パラフィンワックス、シリコーン、カルナバロウ等のワックスが好適である。これらは剥離層270として、基材110にグラビア印刷法やマイクログラビア法等のような公知の塗布方式によって形成される。剥離層270の厚みは、0.1μm及至2μmの範囲とすることができる。
【0102】
位相変調構造体240には、樹脂を用いることができる。樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、ラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料、電子線硬化性樹脂等が好適である。樹脂として、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、トリアジン(メタ)アクリレートが用いられる。位相変調構造体240の厚みは、0.5μm及至5μmとすることができる。
【0103】
反射層260は、インキを用いて形成できる。このインキは、印刷方式に応じて、オフセットインキ、活版インキ、およびグラビアインキ等を用いることができる。また、組成の違いに応じて、樹脂インキ、油性インキ、および水性インキが挙げられる。また、乾燥方式の違いに応じて、酸化重合型インキ、浸透乾燥型インキ、蒸発乾燥型インキおよび紫外線硬化型インキが挙げられる。
【0104】
また、反射層260の材料として、照明角度または観察角度に応じて色が変化する機能性インキを使用しても良い。このような機能性インキとしては、光学的変化インキ(Optical Variable Ink)、カラーシフトインキおよびパールインキが挙げられる。
【0105】
反射層260の材料として無機化合物も用いられる。無機化合物としては、金属化合物が好適であり、TiO2、Si2O3、SiO、Fe2O3、ZnSが用いられる。無機化合物は、屈折率が高く反射率を高めやすい。また、反射層260の材料として金属が用いられる。金属は、Al、Ag、Sn、Cr、Ni、Cu、Auを用いることができる。
【0106】
気相堆積法により無機化合物、金属を用いた反射層260を形成することができる。気相堆積法としては蒸着、CVD、スパッタを用いることができる。
【0107】
反射層260の厚みは、10nm以上、500nm以下とすることができる。反射層260の反射率は、30%以上70%以下が好ましい、30%以上であれば、下地の印刷層があっても、十分な反射が得られる。70%より反射率が高いと下地の印刷層を観察しづらくなる。反射層は、単層または多層とすることができる。
【0108】
図11Aおよび
図11Bに示す表示体400は、光学フィルム100が対象物290に貼り付けられてなる。対象物290としては、紙幣、クーポン、スタンプ、カード、サイネージ、ポスター、タグ、シール等である。粘着層280は、対象物290と密着できれば良く、材質は問わず、接着剤等で良い。
【0109】
対象物290は、紙、ポリマー等、粘着層280を介して貼り付け可能なものであれば、特に限定されない。
【0110】
また、擦れ等により、容易に傷がつくと再生像にボケが発生するため、表示体400の表面に保護層(図示せず)を設けてもよい。保護層は、ハードコート性も付与することができる。ハードコート性は、鉛筆硬度試験(JIS K5600-5-4)において、H以上5H以下の硬度であるとすることができる。
【0111】
表示体400の表面の20°グロス(Gs(20°))は15以上70以下が好ましい。20°グロス(Gs(20°))が15に満たない場合、防眩性が強くなり、再生点220がうまく結像しなくなる。一方、20°グロス(Gs(20°))が70を超えるような場合、防眩性が不十分なため再生像に反射光が映りこみ、再生像の撮像、観察が困難となる。なお、より好ましい20°グロス(Gs(20°))は、20以上60以下の範囲内である。
【0112】
また、位相変調構造体240の透過像鮮明度(C(0.125)+C(0.5)+C(1.0)+C(2.0))の値は、200%以上であることが好ましい。また、位相変調構造体240のヘイズ(Hz)は1.0%以上25%以下とすることができる。20°グロスの測定は、光沢度計(BYK-Gardner製micro-TRI-gloss)を用い、JIS-K7105-1981に基づきを測定した。透過鮮明度の測定は、写像測定器(スガ試験機社製、商品名;ICM-1DP)を用い、JIS-K7105-1981に基づき測定した。
【0113】
防眩性フィルムを透過する光は、移動する光学くしを通して測定した際の最高波長Mおよび最低波長mから、C=(M-m)/(M+m)×100の式に基づく計算により求められる。透過画像鮮明度C(%)は、値が大きいほど、画像が鮮明で、良好であることを表す。測定には4種類の幅の光学くし(0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mm)を使用したので、100%×4=400%が最大値となる。
【0114】
へイズ(Hz)は、ヘイズメータ(日本電色工業製NDH2000)を用いJIS-K7105-1981に準じてヘイズ(Hz)を測定した。
【0115】
全光線反射率は、JIS-K7105に準じ、日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計であるU-4100と、積分球とを用いて行うことができる。
【0116】
なお、剥離層270がなく、基材110に位相変調構造体240を直接積層した構成の光学フィルム100も可能である。
図12Aおよび
図12Bは、そのような光学フィルム100が対象物290へ貼り付けられた表示体400の構成を示す断面図である。この場合、
図12Aおよび
図12Bに示すように、剥離層270がないことから、対象物290への貼り付け後も、基材110が残っている。
【0117】
上述したように、本実施形態に係る光学フィルム100によれば、位相角φを、単位ブロック120の凹凸の高さに変換し、位相角φに対応する高さを有する凹凸を、単位ブロック120に形成することによって、再生点220において再生像を再生することが可能となる。さらには、この再生像で、個人認証情報を表示することも可能である。
【0118】
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る光学フィルムについて説明する。以下の説明では、第1の実施形態と同様または類似した機能を発揮する構成要素には、全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0119】
第1の実施形態では、単位ブロック120に、対応する位相角φの数値情報を記録することについて説明した。それに対して、本実施形態に係る光学フィルム100では、位相角φの数値情報を記録する代わりに、計算機が、位相角φの変化を、記録面140の屈折率からの変化量に変換する。さらに、計算機が、その屈折率の変化量を実現するボイドに変換する。そして、このボイド230を、
図13に示すように、基材110内の、対応する単位ブロック120の場所に埋め込むことによって、位相角φを単位ブロック120に記録する。
【0120】
上述したように、本実施形態に係る光学フィルム100によれば、位相角φの変化を、記録面140の屈折率からの変化量に変換し、その変化量を実現するボイド230を、基材110内の、対応する単位ブロック120の場所に埋め込むことによって、再生点220において再生像を再生することが可能となる。
(第4の実施形態)
図14Aおよび
図14Bは、いずれも、再生点220において再生される再生像を示す画像である。
【0121】
図14Aは、第1の実施形態において、
図2A~
図2Eを用いて説明したように、代表エリアに含まれる単位ブロックのみを対象として計算を行い、他のエリアについては、代表エリアに対してなされた計算の結果をコピーすることによって得られる再生像である。
【0122】
【0123】
図15Aは、複数の各再生点220との位置関係を示す記録面140の側面図である。
【0124】
記録面140から同じ高さにある再生点220では、同じ回折構造となることを利用し、計算済みのデータを他の同じ高さにある再生点220の構造に使用できる。
図15Aに示すように、記録面140から同じ距離にある再生点220を再生点レイヤ310(#1~#4)毎にグループ化し、各再生点レイヤ310(#1~#4)の再生点220は、一点だけ計算する。そして、再生点レイヤ310(#1~#4)内の他の再生点220では、
図15Bに示すように、計算した位相をコピーする。
【0125】
これにより、再生点レイヤ310(#1~#4)の数だけ位相を計算すれば良いため、計算量を削減できる。再生点レイヤ310(#1~#4)は、量子化グリット500に整列(アライメント)することができる。また、再生点220も量子化グリット500に整列するができる。量子化グリット500は、再生点等を配列する基準となるものであり、記録面140をxy軸とし、記録面140に垂直な方向をzとしたxyz座標に平行なグリットが、等間隔で並んだものである。量子化グリット500の間隔は、記録面140の単位ブロック120の配置間隔の整数倍とすることができる。このような量子化グリット500を用いることで、計算で用いる再生点220のx座標の値、再生点220のy座標の値、再生点220のz座標の値として、整数値を用いることができ、計算量を削減することができる。また、再生点220を指定するデータとしてビットマップデータや、ボクセルデータを使用することができる。
【0126】
複数の再生点レイヤ310間の間隔は、0.002mm以上、120mm以下とすることができる。再生点レイヤ310の数は、1つか、2以上256以下とすることができる。複数の再生点レイヤ310間の間隔は、等間隔または、変調された間隔とすることができる。再生点レイヤ310間の間隔は、再生点220の密度や、再生点220と記録面140との距離に応じて変調することができる。
【0127】
また、
図15Cに示すように、再生点220を再生点クラスタ510としてクラスタ化し、記録面140からの距離が同じで配置も同じ再生点クラスタ510では、
図15Bと同様に、計算済の再生点クラスタ510の計算結果をコピーしてもよい。
【0128】
さらに、
図15Dに示すように、再生像220に合わせてレイヤ320の粗密を変調することで、レイヤ320の数を削減できる。すなわち、記録面140から同じ距離にある再生点220をレイヤ320(#1~#4)毎にグループ化し、各レイヤ320(#1~#4)の再生点220は、一点だけ計算し、レイヤ320(#1~#4)内の他の再生点220では、
図15Bと同様に、計算したデータを使用する。これにより、レイヤ320(#1~#4)の数だけ計算をすれば良いため、計算量を削減できる。複数のレイヤ320の間隔は、2μm以上、120mm以下、レイヤ320の数は、1つか、2以上256以下とすることができる。また、レイヤ320の間隔は、記録面140の単位ブロック120の配置間隔の整数倍とすることができる。レイヤ320の間隔は、等間隔または、変調された間隔とすることができる。レイヤ320の間隔は、再生点220の密度や、再生点220と記録面140との距離に応じて変調することができる。
【0129】
それに対して、
図14Bは、計算要素区画160内のすべての単位ブロックに対してなされた計算結果に基づく再生像である。
【0130】
なお、ここでは、単位ブロックのサイズ=250nm、光の波長λ=500nm、記録面140のX方向におけるピクセル数XPIXEL=2500、Y方向におけるピクセル数YPIXEL=2500とした。さらに、再生点220として、
図16に示すような星形形状を想定した。
【0131】
図14Aと、
図14Bとを比較すると、結果にほとんど差がないことが分かる。したがって、第1の実施形態で説明したように、代表エリア162に含まれる単位ブロックを対象として計算を行い、コピーエリア163~169における単位ブロックに対しては、コピーするという計算手法の妥当性を確認することができた。
【0132】
また、
図2A~
図2Eのような計算要素区画160を対象に、第1の実施形態で説明した手法を採用した場合の計算時間短縮効果を、
図17に示す。
【0133】
図17に示されるように、本実施形態によれば、計算要素区画160内のすべての単位ブロック120に対して情報を記録するための所要時間を、従来の計算方式に対して1/4=25%に短縮できることを確認することができた。前述したように、
図2A~
図2Eでは、81個の単位ブロックのうち、計算がなされる単位ブロックは15個である。したがって、計算だけの時間であれば、15/81=18.5%に短縮されるが、7つのコピーエリア163~169へのコピー作業を要するので、その分の時間がかかることから、18.5%よりも大きくなり、結果として25%となっている。しかしながら、コピー作業に要する時間を考慮しても、第1の実施形態で説明した手法を採用することにより、処理時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0134】
以上、本開示を実施するための形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本開示はかかる構成に限定されない。特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更および修正に想到し得るものであり、それら変更および修正についても本開示の技術的範囲に属するものと了解される。