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特許7077959蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末および活物質材料、並びにそれを用いた電極シートおよび蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末および活物質材料、並びにそれを用いた電極シートおよび蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/485 20100101AFI20220524BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220524BHJP
   H01G 11/30 20130101ALI20220524BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H01M4/485
H01M4/36 C
H01G11/30
C01G23/00 B
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2018556766
(86)(22)【出願日】2017-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2017045208
(87)【国際公開番号】W WO2018110708
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2016244347
(32)【優先日】2016-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017133638
(32)【優先日】2017-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017176098
(32)【優先日】2017-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】栗原 良規
(72)【発明者】
【氏名】中川 敦允
(72)【発明者】
【氏名】藤野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】橋本 智仙
(72)【発明者】
【氏名】竹本 博文
(72)【発明者】
【氏名】安部 浩司
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/178457(WO,A1)
【文献】特表2014-533870(JP,A)
【文献】特開2011-165372(JP,A)
【文献】特開2011-060764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/485
H01M 4/36
H01G 11/30
C01G 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
比表面積が4m/g以上であり、
局在化元素として、ホウ素(B)を含有し、
前記局在化元素としてのホウ素(Bが、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在しており、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めたホウ素(B)の含有量をB (質量%)としたときに、前記B が0.05以上1.0以下であることを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項2】
線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルにおいて、B-O結合に帰属するピークを有し、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたホウ素(B)の濃度をB(原子%)とし、比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(I)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
10 ≦ (B×S) ≦ 100 (I)
【請求項3】
Li Ti 12 を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
比表面積が4m /g以上であり、
局在化元素として、Ln(Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を含有し、
前記局在化元素としての前記Lnが、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在しており、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記Lnの含有量をC Ln (質量%)としたときに、前記C Ln が0.1以上5以下であり、
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記Lnの元素濃度をD1(atm%)およびチタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記Lnの元素濃度をD2(atm%)とすると、下記式(IV)および(V)を満たすことを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
D1>D2 (IV)
0.20≦D1/Dti≦2.0 (V)
【請求項4】
Li Ti 12 を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
比表面積が4m /g以上であり、
局在化元素として、M1(M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)を含有し、
前記局在化元素としての前記M1が、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在しており、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をC M1 (モル%)としたときに、前記C M1 が0.01以上0.9以下であり、
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をE1(atm%)およびチタンの原子濃度をEti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をE2(atm%)とすると、下記式(VI)および(VII)を満たすことを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
E1>E2 (VI)
0.05≦E1/Eti≦6 (VII)
【請求項5】
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面100nmの位置において、前記Lnが検出されないことを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項6】
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面100nmの位置において、前記M1が検出されないことを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項7】
M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項8】
前記M2が、B、Mg、Zn、Al、Ga、またはInから選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項9】
前記M2が、Alであることを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項10】
M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)として、Alを含有し、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたホウ素(B)の濃度をB(原子%)とし、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるAl2sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたAlの濃度をA(原子%)としたときに、前記Aと前記Bとの比A/B(原子%/原子%)が0.06以上3以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項11】
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、前記M2の元素濃度をF1(atm%)、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M2の元素濃度をF2(atm%)とすると、下記式(VIII)を満たすことを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末
F1/F2≧5 (VIII)
【請求項12】
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M2の含有量をCM2(質量%)としたときに、CM2が0.01以上1.0以下であることを特徴とする請求項7~11のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項13】
M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有し、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M2の含有量をC M2 (質量%)としたときに、C M2 が0.01以上1.0以下であり、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めたホウ素(B)の含有量をB(質量%)としたときに、
前記CM2と前記Bとの比CM2/B(質量%/質量%)が0.07以上15以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項14】
M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有し、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M2の含有量をC M2 (質量%)としたときに、C M2 が0.01以上1.0以下であり、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記Lnの含有量をCLn(質量%)としたときに、
前記CM2と前記CLnとの比CM2/CLn(質量%/質量%)が0.05以上5.0以下であることを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項15】
M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有し、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M2の含有量をC M2 (質量%)としたときに、C M2 が0.01以上1.0以下であり、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をCM1(モル%)としたときに、
前記CM2と前記CM1との比CM2/CM1(モル%/モル%)が0.3以上30以下であることを特徴とする請求項に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【請求項16】
請求項1~15いずれか一項に記載の、蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末を含む活物質材料。
【請求項17】
請求項16に記載の活物質材料を含むことを特徴とする、蓄電デバイスの電極シート。
【請求項18】
請求項16に記載の活物質材料を用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項19】
請求項16に記載の活物質材料を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項20】
請求項16に記載の活物質材料を用いることを特徴とするハイブリッドキャパシタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極材料等として好適なチタン酸リチウム粉末および、このチタン酸リチウム粉末を用いた活物質材料と、この活物質材料を正極シート又は負極シートに用いた蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイスの電極材料として種々の材料が研究されている。その中でもチタン酸リチウムは、活物質材料として用いた場合に入出力特性に優れる点から、HEV、PHEV、BEVといった電気自動車用の蓄電デバイスの活物質材料として注目されている。
【0003】
夏場において自動車の車内温度は60℃以上になることも珍しくないので、電気自動車用の蓄電デバイスには、高温においても安全性に問題がないことや性能が低下しないことが求められる。しかし、チタン酸リチウムを含む蓄電デバイスが、そのような高温で動作すると、チタン酸リチウムの電気化学的な副反応により、ガスが発生して蓄電デバイスが膨張し、蓄電デバイスの安全性に問題が生じることがある。また、蓄電デバイスを時間的に有効活用するために短時間で充電すると、充電容量が低下し、本来の蓄電デバイスの容量を活用することができない。したがって、蓄電デバイスの高温動作時のガス発生を抑制し、加えて充電レート特性に優れるチタン酸リチウムの開発が望まれている。ここで、蓄電デバイスの高温動作とは、60℃以上で蓄電デバイスが充電する、放電する、あるいは充放電を繰り返すことをいう。
【0004】
特許文献1には、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物を有する負極活物質が開示されている。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含むことで、スピネル構造からなるリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が安定化するために、サイクル特性が向上するとされている。また、ホウ素が含まれることで電解質との反応が抑制され、さらにサイクル特性が向上するとされている。
【0005】
特許文献2には、チタン酸リチウムのリチウム成分の一部が2以上の原子価を有する金属で置換されている金属置換チタン酸リチウムが開示されている。リチウム成分の一部を2以上の原子価を有する金属でイオン交換した金属置換チタン酸リチウムでは、粒子の大きさや形状を制御でき、リチウム電池の電極材料などの種々の用途に利用できるとされている。
【0006】
特許文献3には、負極を構成する負極活物質の主成分が一般式LiTi5/3-y(LはB、Co又はZnを含むTi以外の元素,4/3≦x≦7/3,0<y≦5/3)で表されるスピネル型構造を有する酸化物焼成体であり、正極を構成する正極活物質の主成分が一般式Li〔Ni2-nMnO〕(MはMn,Co,Zn,Fe又はVを含む1種以上の遷移金属で、Ni以外の元素、0.75≦n≦1.80)で表されるスピネル型構造を有する酸化物焼成体である非水電解質リチウム二次電池が開示されている。負極活物質のチタンの一部を他の元素に置換することによって、嵩高なTiの酸化物による空隙の大きい電極が形成されるのを防止することができ、これによって粒子間のイオンや電子の授受をスムーズにすることができるので、保存性能が向上するとされている。
【0007】
特許文献4には、チタン酸リチウムを焼成する際に、チタンよりイオン半径が大きいカチオンを含む物質を加えることで、結晶構造にアニオン及びカチオンを含む三次元骨格構造を有するチタン酸リチウムを有する負極材料を得る技術が開示されている。得られる負極材料が、トンネル構造を有することで、負極における卑な酸化還元電位を維持しつつ、サイクル安定性を向上させるとされている。
【0008】
特許文献5には、1次粒子が造粒された2次粒子を含み、比表面積が2m/g以上5m/g以下であり、化学式がLi4-x-yTi5+x-zM’12(xは、0~1の範囲にあり、yは、0~1の範囲にあり、zは、0~1の範囲にあり、Mは、La、Tb、Gd、Ce、Pr、Nd、Sm、Ba、Sr、Ca、Mg及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素であり、及びM’は、V、Cr、Nb、Fe、Ni、Co、Mn、W、Al、Ga、Cu、Mo、P及びこれらの組み合わせからなる群より選択される元素)である負極活物質が開示されている。特許文献5によれば、優れた寿命特性を有するリチウム2次電池が得られるとされている。
【0009】
特許文献6には、Mg、Al、Ca、Ba、Bi、Ga、V、Nb、W、Mo、Ta、Cr、Fe、Ni、Co、Mnからなる群より選択された少なくとも1種がドーピングされているチタン酸リチウムを含む電極が開示されている。特許文献6によれば、高い充放電サイクル特性を示す非水電解質二次電池が得られるとされている。
【0010】
さらに、特許文献7には、非水電解質二次電池の負極合材層に含有させる負極材料として、Nb、Ta、Mo、Wから選択される少なくとも1種を含有するチタン酸リチウムを用いる技術が開示されている。この特許文献7では、チタン酸リチウム粉末と、Nb、Ta、Mo、Wなどを含有する化合物とを混合することで、負極材料としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-235144号公報
【文献】特開平10-251020号公報
【文献】特許4196234号明細書
【文献】特開2012-28251号公報
【文献】特開2012-43765号公報
【文献】国際公開第2011/121950号
【文献】国際公開第2017/150020号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1のリチウム遷移金属複合酸化物は、リチウム化合物、チタン化合物、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物との原料混合の段階でホウ素化合物も同時に混合して、その原料混合物を焼成して製造されているため、焼成時にホウ素化合物が焼結促進剤として作用して、チタン酸リチウム粒子の成長が促進されて、得られるチタン酸リチウム粉末の比表面積が小さくなる。そのため、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、充放電容量や充放電レート特性が著しく低下する。加えて、蓄電デバイスの高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。また、特許文献2の金属置換チタン酸リチウムでは、リチウム成分の一部が2以上の原子価を有する金属で置換することで粒子の大きさや形状を制御できるが、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。また、特許文献3のチタンの一部を置換したチタン酸リチウム粉末でも、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、高温動作時のガス発生は十分に抑制することはできない。さらに、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7のチタン酸リチウムを負極材料として適用した蓄電デバイスにおいても、サイクル安定性を向上させるが、高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。以上のように、ホウ素を含むチタン酸リチウム粉末や、Laなどのランタノイドや、Mo、Wを含むチタン酸リチウム粉末が特許文献1~7に開示されているものの、これらのチタン酸リチウム粉末では、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、高温動作時のガス発生を十分に抑制することはできない。
【0013】
そこで本発明では、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生を抑制できるチタン酸リチウム粉末、および活物質材料、並びにそれらを含む蓄電デバイスの電極シート、その電極シートが用いられた蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、前記の目的を達成すべく種々検討した結果、特定の比表面積を有し、ホウ素(B)、Ln(Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)、および、M1(M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)から選ばれる少なくとも一種の元素が、チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在するチタン酸リチウム粉末を見出し、そのチタン酸リチウム粉末が電極材料として適用された蓄電デバイスが、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生を抑制できることを見出して本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0015】
(1)LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
比表面積が4m/g以上であり、
ホウ素(B)、Ln(Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)、および、M1(M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)から選ばれる少なくとも一種の局在化元素を含有し、
前記局在化元素としてのホウ素(B)、前記Ln、および前記M1が、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在していることを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0016】
(2)前記局在化元素として、ホウ素(B)を含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めたホウ素(B)の含有量をB(質量%)としたときに、前記Bが0.05以上1.0以下であり、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルにおいて、B-O結合に帰属するピークを有し、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたホウ素(B)の濃度をB(原子%)とし、比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(I)を満たすことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
10 ≦ (B×S) ≦ 100 (I)
【0017】
(3)前記局在化元素として、前記Lnを含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記Lnの含有量をCLn(質量%)としたときに、前記CLnが0.1以上5以下であり、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるLn3d、Ln3d5/2、Ln4d、Ln4d5/2、Ln2p、またはLn2p3/2のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた前記Lnの濃度をCS1(原子%)とし、比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(II)を満たすことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
1 ≦ (CS1×S) ≦ 100 (II)
【0018】
(4)前記局在化元素として、前記M1を含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をCM1(モル%)としたときに、前記CM1が0.01以上0.9以下であり、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるW4d5/2および/またはMo3dのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた前記M1の濃度をCS2(原子%)とし、比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(III)を満たすことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
1 ≦ (CS2×S) ≦ 100 (III)
【0019】
(5)前記局在化元素として、前記Lnを含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記Lnの含有量をCLn(質量%)としたときに、前記CLnが0.1以上5以下であり、
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記Lnの元素濃度をD1(atm%)およびチタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記Lnの元素濃度をD2(atm%)とすると、下記式(IV)および(V)を満たすことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
D1>D2 (IV)
0.20≦D1/Dti≦2.0 (V)
【0020】
(6)前記局在化元素として、前記M1を含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をCM1(モル%)としたときに、前記CM1が0.01以上0.9以下であり、
走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をE1(atm%)およびチタンの原子濃度をEti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の元素濃度をE2(atm%)とすると、下記式(VI)および(VII)を満たすことを特徴とする(1)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
E1>E2 (VI)
0.05≦E1/Eti≦6 (VII)
【0021】
(7)前記CM1が0.02以上0.9以下であることを特徴とする(6)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0022】
(8)走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面100nmの位置において、前記Lnが検出されないことを特徴とする(5)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0023】
(9)走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面100nmの位置において、前記M1が検出されないことを特徴とする(6)または(7)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0024】
(10)M2(ただし、M2は、2族、12族、または13族から選ばれる少なくとも一種の元素である)を含有することを特徴とする(1)~(9)のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0025】
(11)前記M2が、B、Mg、Zn、Al、Ga、またはInから選ばれる少なくとも一種の元素であることを特徴とする(10)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0026】
(12)前記M2が、Alであることを特徴とする(11)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0027】
(13)前記局在化元素として、ホウ素(B)を含み、
X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたホウ素(B)の濃度をB(原子%)とし、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるAl2sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたAlの濃度をA(原子%)としたときに、前記Aと前記Bとの比A/B(原子%/原子%)が0.06以上3以下であることを特徴とする(12)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0028】
(14)走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、前記M2の元素濃度をF1(atm%)、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M2の元素濃度をF2(atm%)とすると、下記式(VIII)を満たすことを特徴とする(10)~(13)のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末
F1/F2≧5 (VIII)
【0029】
(15)誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M2の含有量をCM2(質量%)としたときに、CM2が0.01以上1.0以下であることを特徴とする(10)~(14)のいずれかに記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0030】
(16)前記局在化元素として、ホウ素(B)を含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めたホウ素(B)の含有量をB(質量%)としたときに、
前記CM2と前記Bとの比CM2/B(質量%/質量%)が0.07以上15以下であることを特徴とする(15)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0031】
(17)前記局在化元素として、前記Lnを含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記Lnの含有量をCLn(質量%)としたときに、
前記CM2と前記CLnとの比CM2/CLn(質量%/質量%)が0.05以上5.0以下であることを特徴とする(15)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0032】
(18)前記局在化元素として、前記M1を含み、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をCM1(モル%)としたときに、
前記CM2と前記CM1との比CM2/CM1(モル%/モル%)が0.3以上30以下であることを特徴とする(15)に記載の蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末。
【0033】
(19)(1)~(18)いずれか一項に記載の、蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末を含む活物質材料。
【0034】
(20)(19)に記載の活物質材料を含むことを特徴とする、蓄電デバイスの電極シート。
【0035】
(21)(19)に記載の活物質材料を用いることを特徴とする蓄電デバイス。
【0036】
(22)(19)に記載の活物質材料を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【0037】
(23)(19)に記載の活物質材料を用いることを特徴とするハイブリッドキャパシタ。
【発明の効果】
【0038】
本発明によると、蓄電デバイスの充放電容量を向上させ、高温動作時のガス発生が抑制された蓄電デバイスの電極材料として好適なチタン酸リチウム粉末、および活物質材料、並びにそれらを含む蓄電デバイスの電極シート、その電極シートが用いられた蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
[本発明のチタン酸リチウム粉末]
本発明のチタン酸リチウム粉末は、LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末であって、
比表面積が4m/g以上であり、
ホウ素(B)、Ln(Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)、および、M1(M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)から選ばれる少なくとも一種の局在化元素を含有し、
前記局在化元素としてのホウ素(B)、前記Ln、および前記M1が、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在していることを特徴とする蓄電デバイスの電極用チタン酸リチウム粉末である。
なお、本発明において、局在化元素は、上記特定の元素(すなわち、ホウ素、前記Ln、前記M1)であって、チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在しているものをいう。
【0040】
<LiTi12を主成分とするチタン酸リチウム粉末>
本発明のチタン酸リチウム粉末はLiTi12を主成分とし、本発明の効果が得られる範囲で、LiTi12以外の結晶質成分および/または非晶質成分を含むことができる。本発明のチタン酸リチウム粉末は、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度と、LiTi12以外の結晶質成分に起因するメインピークの強度と、非晶質成分に起因するハローパターンの最高強度との総和に対するLiTi12のメインピークの強度の割合が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末は、その合成時の原料に起因して、アナターゼ型二酸化チタンおよびルチル型二酸化チタン、化学式が異なるチタン酸リチウムであるLiTiOを前記結晶質成分として含むことがある。本発明のチタン酸リチウム粉末は、これらの結晶質成分の割合が少ないほど、蓄電デバイスの充電レート特性および充放電容量がさらに向上するので、X線回折法によって測定される回折ピークのうち、LiTi12のメインピークの強度を100としたときに、アナターゼ型二酸化チタンのメインピークの強度と、ルチル型二酸化チタンのメインピーク強度と、LiTiOの(-133)面相当のピーク強度に100/80を乗じて算出したLiTiOのメインピークに相当する強度との総和が5以下であることが特に好ましい。ここで、LiTi12のメインピークとは、ICDD(PDF2010)のPDFカード00-049-0207におけるLiTi12の(111)面(2θ=18.33)に帰属する回折ピークに相当するピークである。アナターゼ型二酸化チタンのメインピークとはPDFカード01-070-6826における(101)面(2θ=25.42)に帰属する回折ピークに相当するピークである。ルチル型二酸化チタンのメインピークとはPDFカード01-070-7347における(110)面(2θ=27.44)に帰属する回折ピークに相当するピークである。LiTiOの(-133)面に相当するピークとはPDFカード00-033-0831におけるLiTiOの(-133)面(2θ=43.58)に帰属する回折ピークに相当するピークであり、LiTiOのメインピークとは(002)面に相当するピークである。なお、「ICDD」は、International Centre for Diffraction Data(国際回折データセンター)の略であり、「PDF」は、Powder Diffraction File(粉末回折ファイル)の略である。
【0041】
<比表面積>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、BET法によって求める比表面積が4m/g以上である。比表面積が4m/g以上であれば、蓄電デバイスの充放電容量や充電レート特性が急激に低下する恐れが無い。比表面積は好ましくは4.5m/g以上であり、より好ましくは5m/g以上である。比表面積の上限は、特に限定されないが、好ましくは40m/g以下である。比表面積が40m/g以下であれば、電極の活物質として使用したとき、電極塗工時のハンドリング性が良好であるため好ましい。比表面積は25m/g以下であることが更に好ましく、15m/g以下であることが特に好ましい。
【0042】
<局在化元素の含有>
本発明のチタン酸リチウム粉末は、局在化元素として、ホウ素(B)、Ln(Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)、および、M1(M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である)から選ばれる少なくとも一種を含有する。本発明において、これら局在化元素としてのホウ素(B)、前記Ln、および前記M1は、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化して存在しているものである。なお、本発明において、これら局在化元素は、チタン酸リチウム粒子の表面近傍に局在化していればよく、たとえば、チタン酸リチウム粒子の表面近傍(たとえば、チタン酸リチウム粒子表面から、5nm程度の深さまでの領域)における濃度が、チタン酸リチウム粒子全体における局在化元素の濃度より高い状態であるような態様であればよい。
【0043】
<第1の態様(局在化元素として、ホウ素(B)を含む態様)>
まず、第1の態様として、局在化元素として、ホウ素(B)を含む態様について説明する。本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、ホウ素(B)を含む。ここで、ホウ素(B)を含むとは、本発明のチタン酸リチウム粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)において、ホウ素(B)が検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。
【0044】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末のホウ素(B)の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)から求めたホウ素(B)の含有量をB(質量%)としたとき、Bが0.05以上1.0以下である。ホウ素(B)の含有量がこの範囲であれば、蓄電デバイスに適用した際、充放電容量が高く、充電レート特性が優れ、高温動作時のガス発生を抑制した蓄電デバイスが得られる。ホウ素(B)の含有量Bは、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、0.08以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。また、ホウ素(B)の含有量Bは、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、0.8以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0045】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルにおいて、B-O結合に帰属するピークを有することが好ましい。ここで、B-O結合に帰属するピークを有するとは、X線光電子分光の表面分析において、Tiの2p3ピークを458.8eVと補正したとき、ホウ素(B1s)のナロースペクトル(185~200eV)で、B1sピークが191~194eVでピークトップを有していることを言う。ホウ素がこの結合状態にあるとき、蓄電デバイスの高温動作時のガス発生抑制効果をより高めることができる。表面のB-O結合が副反応を抑制すると考える。
【0046】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるB1sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたホウ素(B)の濃度をB(原子%)とし、<比表面積>で前述した比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(1)を満たすことが好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末のB×S(原子%・m/g)は、チタン酸リチウム粉末の質量あたりで表面に存在するホウ素(B)量に関連する指標である。蓄電デバイスの充放電容量や充電レート特性をさらに高くし、かつ高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点からは、下記式(2)を満たすことがさらに好ましく、下記式(3)を満たすことが特に好ましい。なお、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析によるホウ素(B)の濃度の検出量の下限は、通常、0.1原子%である。
10 ≦ (B×S) ≦ 100 (1)
10 ≦ (B×S) ≦ 90 (2)
15 ≦ (B×S) ≦ 80 (3)
【0047】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、異種元素として、M2(ただし、M2は2族、12族、13族から選ばれる少なくとも1種の金属元素である)を含有することが好ましい。本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記M2をホウ素(B)と共に含有することで、充電レート特性の向上効果と高温充放電でのガス発生の抑制効果がさらに高まるからである。前記M2としては、特に、Mg、Zn、Al、Ga、またはInから選ばれる少なくとも1種の金属元素であることがより好ましい。さらには、前記M2がAlであることがより好ましい。Mg、Zn、Al、Ga、およびInは、これらのイオンにおけるポーリングのイオン半径が、Ti4+のポーリングのイオン半径の±20pmの範囲内(すなわち、Ti4+のポーリングのイオン半径は68pmであるため、68pm±20pmの範囲内)にある金属元素であり、Ti4+と価数が異なる金属元素なので、電解液からチタン酸リチウム内へLiイオンの拡散速度を改善させ、Liイオンが移動する際の電荷移動エネルギーを小さくできると推測される。さらに、本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記M2を半金属であるホウ素(B)と共に含有することで、上記の作用に加え、チタン酸リチウム粉末の表面の電子伝導性が調整され、電気抵抗は上昇せずに、高温時に活性になる電子授受による電気化学的な副反応を、ホウ素(B)単独よりさらに抑制できると推測される。
【0048】
前記M2の含有量としては、誘導結合プラズマ発光分析により測定される前記M2の含有量をCM2(質量%)としたときに、CM2が0.01以上1.0以下であることが好ましい。蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、CM2は0.05以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。蓄電デバイスの充放電容量を大きくする観点からは、CM2は0.8以下がより好ましく、0.6以下がさらに好ましい。
【0049】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記CM2と前記Bとの比CM2/B(質量%/質量%)が0.07以上15以下であることが好ましい。蓄電デバイスの高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点からは、CM2/Bは0.1以上10以下がより好ましく、0.1以上5以下がさらに好ましい。
【0050】
本発明の第1の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるAl2sのスペクトルのピーク面積に基づいて求めたAlの濃度をA(原子%)としたときに、Aと前記Bとの比A/Bは高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点から、下限は0.06以上が好ましく、0.08以上がより好ましい。上限は3以下が好ましく、2.7以下がより好ましい。
【0051】
前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の内部領域よりも、表面領域の方に多く含有される。走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、前記M2の原子濃度をF1(atm%)とし、前記直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M2の原子濃度をF2(atm%)とすると、下記式(4)を満たすことが好ましい。
F1/F2≧5 (4)
【0052】
また、前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、チタンの原子濃度をFti(atm%)とすると、下記式(5)を満たすことが好ましい。
0.01≦F1/Fti≦0.4 (5)
【0053】
なお、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M2の原子濃度をF1(atm%)およびチタンの原子濃度をFti(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。同様に、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M2の原子濃度をF2(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。本発明の第1の観点においては、チタン酸リチウム粒子の表面における、前記M2の原子濃度およびチタンの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の状態を適切に測定できるという観点より)、1nmの深さ位置において、F1およびFtiを測定するものであり、また、チタン酸リチウム粒子内部における、前記M2の原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の影響を受けない内部の状態を適切に測定できるという観点より)、100nmの深さ位置において、F2を測定するものである。
【0054】
本発明の第1の観点に係るチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M2が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M2が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.1原子%である。
【0055】
<第2の態様(局在化元素として、Lnを含む態様)>
次に、第2の態様として、局在化元素として、Lnを含む態様について説明する。ここで、Lnは、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Hb、Er、Tm、Yb、Lu、Y、およびScから選ばれる少なくとも一種の金属元素である。Lnを含有するとは、本発明のチタン酸リチウム粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)において、金属元素Lnの一種が検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。前記Lnとしては、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点より、La、Pr、Nd、Gd、Er、およびYから選ばれる少なくとも一種の金属元素であることが好ましく、Laがより好ましい。
【0056】
本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末の前記Lnの含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)から求めたLnの含有量をCLn(質量%)としたとき、CLnが0.1以上5以下であることが好ましい。前記Lnの含有量がこの範囲であれば、蓄電デバイスに適用した際、充放電容量がより高く、高温動作時のガス発生がより抑制された蓄電デバイスが得られる。前記Lnの含有量CLnは、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、0.3以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。また、Lnの含有量CLnは、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、3.5以下が好ましく、1.5以下がより好ましい。
【0057】
本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるLn3d、Ln3d5/2、Ln4d、Ln4d5/2、Ln2p、またはLn2p3/2のスペクトルのピーク面積に基づいて求めた前記Lnの濃度をCS1(原子%)とし、<比表面積>で前述した比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(6)を満たすことが好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末のCS1×S(原子%・m/g)は、チタン酸リチウム粉末の質量あたりで表面に存在する前記Ln量に関連する指標である。蓄電デバイスの充放電容量をさらに高くし、かつ高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点からは、下記式(7)を満たすことがさらに好ましく、下記式(8)を満たすことが特に好ましい。
1 ≦ (CS1×S) ≦ 100 (6)
2 ≦ (CS1×S) ≦ 50 (7)
3 ≦ (CS1×S) ≦ 30 (8)
なお、本発明の第2の態様においては、前記Lnの濃度CS1を求める際には、Ln3d、Ln3d5/2、Ln4d、Ln4d5/2、Ln2p、またはLn2p3/2のスペクトルのピーク面積を使用するものであるが、いずれの値を用いるかは、前記Lnを構成する各元素の種類に応じて選択すればよい。たとえば、LaはLa3d5/2、CeはCe3d、PrはPr3d5/2、NdはNd3d5/2、PmはPm4d、SmはSm4d、EuはEu4d、GdはGd4d、TbはTb4d、DyはDy4d5/2、HbはHb4d5/2、ErはEr4d、TmはTm4d、YbはYb4d、LuはLu4d5/2、YはY3d、ScはSc2pまたはSc2p3/2の値をそれぞれ用いればよい。
【0058】
あるいは、本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記Lnの原子濃度をD1(atm%)およびチタンの原子濃度をDti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記Lnの原子濃度をD2(atm%)とすると、下記式(9)および(10)を満たすことが好ましい。
D1>D2 (9)
0.20≦D1/Dti≦2.0 (10)
本発明においては、D1/Dtiは、0.20≦D1/Dti≦2.0を満たすものであればよいが、好ましくは、0.20≦D1/Dti≦1.5であり、より好ましくは、0.20≦D1/Dti≦0.8であり、さらに好ましくは0.20≦D1/Dti≦0.6である。
【0059】
なお、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記Lnの原子濃度をD1(atm%)およびチタンの原子濃度をDti(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。同様に、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記Lnの原子濃度をD2(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。本発明においては、チタン酸リチウム粒子の表面における、前記Lnの原子濃度およびチタンの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の状態を適切に測定できるという観点より)、1nmの深さ位置において、D1およびDtiを測定するものであり、また、チタン酸リチウム粒子内部における、前記Lnの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の影響を受けない内部の状態を適切に測定できるという観点より)、100nmの深さ位置において、D2を測定するものである。
【0060】
本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記Lnが検出されないことが好ましい。本発明において、「前記Lnが検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。すなわち、本発明の第2の態様においては、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記Lnの元素濃度が、検出量の下限である0.5atm%以下であることが好ましい。
【0061】
本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、異種元素として、M2(ただし、M2は2族、12族、13族から選ばれる少なくとも1種の元素である)を含有することが好ましい。本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記M2を前記Lnと共に含有することで、高温充放電でのガス発生の抑制効果がさらに高まるからである。前記M2としては、特に、B、Mg、Zn、Al、Ga、またはInから選ばれる少なくとも1種の元素であることがより好ましい。さらには、前記M2がAlであることがより好ましい。本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記M2を前記Lnと共に含有することで、チタン酸リチウム粉末の表面の電子伝導性が調整され、電気抵抗は上昇せずに、高温時に活性になる電子授受による電気化学的な副反応を、前記Ln単独含有よりさらに抑制できると推測される。
【0062】
前記M2の含有量としては、誘導結合プラズマ発光分析により測定される前記M2の含有量をCM2(質量%)としたときに、CM2が0.01以上1.0以下であることが好ましい。蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、CM2は0.05以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。蓄電デバイスの充放電容量を大きくする観点からは、Cは0.8以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。
【0063】
本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記CM2と前記CLnとの比CM2/CLn(質量%/質量%)が0.05以上5.0以下であることが好ましく、0.07以上4.0以下であることがより好ましく、0.1以上3.0以下であることがさらに好ましい。
【0064】
また、本発明の第2の態様に係るチタン酸リチウム粉末においては、前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の内部領域よりも、表面領域の方に多く含有される。走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、前記M2の原子濃度をF1(atm%)とし、前記直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M2の原子濃度をF2(atm%)とすると、下記式(11)を満たすことが好ましい。
F1/F2≧5 (11)
【0065】
また、前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、チタンの原子濃度をFti(atm%)とすると、下記式(12)を満たすことが好ましい。
0.01≦F1/Fti≦0.4 (12)
【0066】
本発明の第2の観点に係るチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M2が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M2が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.1原子%である。
【0067】
<第3の態様(局在化元素として、M1を含む態様)>
次に、第3の態様として、局在化元素として、M1を含む態様について説明する。ここで、M1は、WおよびMoから選ばれる少なくとも一種の金属元素である。M1を含有するとは、本発明のチタン酸リチウム粉末の誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)において、金属元素M1の一種が検出されることをいう。なお、誘導結合プラズマ発光分析による検出量の下限は、通常、0.001質量%である。
【0068】
本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末の前記M1の含有量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)から求めた前記M1の含有量をCM1(モル%)としたとき、CM1が0.01以上0.9以下であることが好ましい。前記M1の含有量がこの範囲であれば、蓄電デバイスに適用した際、充放電容量がより高く、高温動作時のガス発生がより抑制された蓄電デバイスが得られる。前記M1の含有量CM1は、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、0.02以上が好ましく、より好ましくは0.04以上であり、さらに好ましくは0.07以上である。また、前記M1の含有量CM1は、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、0.5以下が好ましく、より好ましくは0.3以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。
【0069】
本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、X線光電子分光分析(XPS)の表面分析におけるW4d5/2および/またはMo3dのスペクトルのピーク面積に基づいて求めた前記M1の濃度をCS2(原子%)とし、<比表面積>で前述した比表面積をS(m/g)としたときに、下記式(13)を満たすことが好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末のCS2×S(原子%・m/g)は、チタン酸リチウム粉末の質量あたりで表面に存在する前記M1量に関連する指標である。蓄電デバイスの充放電容量をさらに高くし、かつ高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点からは、下記式(14)を満たすことがさらに好ましく、下記式(15)を満たすことが特に好ましい。
1 ≦ (CS2×S) ≦ 100 (13)
2 ≦ (CS2×S) ≦ 50 (14)
3 ≦ (CS2×S) ≦ 30 (15)
【0070】
あるいは、本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をE1(atm%)およびチタンの原子濃度をEti(atm%)とし、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をE2(atm%)とすると、下記式(16)および(17)を満たす。
E1>E2 (16)
0.05≦E1/Eti≦6 (17)
本発明においては、E1/Etiは、0.05≦E1/Eti≦6を満たすものであればよいが、好ましくは、0.05≦E1/Eti≦4であり、より好ましくは、0.05≦E1/Eti≦3であり、さらに好ましくは0.05≦E1/Eti≦0.5であり、最も好ましくは0.05≦E1/Eti≦0.2である。
【0071】
なお、前記チタン酸リチウム粒子の表面から1nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をE1(atm%)およびチタンの原子濃度をEti(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。同様に、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置における、前記M1の原子濃度をE2(atm%)は、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置について、エネルギー分散型X線分光法による測定を行うことにより求めることができる。本発明においては、チタン酸リチウム粒子の表面における、前記M1の原子濃度およびチタンの原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の状態を適切に測定できるという観点より)、1nmの深さ位置において、E1およびEtiを測定するものであり、また、チタン酸リチウム粒子内部における、前記M1の原子濃度を適切に測定できるという観点より(すなわち、表面の影響を受けない内部の状態を適切に測定できるという観点より)、100nmの深さ位置において、E2を測定するものである。
【0072】
本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M1が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M1が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出限界以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出可能下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.5atm%である。すなわち、本発明においては、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M1の元素濃度が、全元素を金属元素のみに限定した場合、検出可能下限である0.5atm%以下であることが好ましい。
【0073】
本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、異種元素として、M2(ただし、Mは2族、12族、13族から選ばれる少なくとも1種の元素である)を含有することが好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末は、前記M2を前記M1と共に含有することで、高温充放電での充放電容量がさらに高まるからである。前記M2としては、特に、B、Mg、Zn、Al、Ga、またはInから選ばれる少なくとも1種の元素であることがより好ましい。さらには、前記M2がAlであることがより好ましい。本発明のチタン酸リチウム粉末は、前記M2を前記M1と共に含有することで、チタン酸リチウム粉末の表面の電子伝導性が調整され、前記M1単独含有より、電気抵抗を抑制できるためと推測される。
【0074】
前記M2の含有量としては、誘導結合プラズマ発光分析により測定される前記M2の含有量をCM2(モル%)としたときに、CM2が0.01以上1.0以下であることが好ましい。蓄電デバイスの充放電容量を大きくする観点からは、CM2は0.03以上0.8以下が好ましく、0.1以上0.6以下がより好ましい。
【0075】
本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末は、前記CM2と前記CM1との比CM2/CM1(モル%/モル%)が0.3以上30以下であることが好ましく、0.5以上20以下であることがより好ましく、1.0以上15以下であることがさらに好ましい。
【0076】
また、本発明の第3の態様に係るチタン酸リチウム粉末においては、前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の内部領域よりも、表面領域の方に多く含有される。走査透過型電子顕微鏡を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から、前記チタン酸リチウム粒子の表面の接線に対して垂直な向きに引いた直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、前記M2の原子濃度をF1(atm%)とし、前記直線の線上の、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置における、前記M2の原子濃度をF2(atm%)とすると、下記式(18)を満たすことが好ましい。
F1/F2≧5 (18)
【0077】
また、前記M2は、充電特性を向上させる観点やガス発生を更に抑制する観点から、前記チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって1nmの位置における、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により測定される、チタンの原子濃度をFti(atm%)とすると、下記式(19)を満たすことが好ましい。
0.01≦F1/Fti≦0.4 (19)
【0078】
本発明の第3の観点に係るチタン酸リチウム粉末では、走査透過型電子顕微鏡を用いた、前記チタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子の断面分析において、エネルギー分散型X線分光法により測定される、前記チタン酸リチウム粒子の表面から100nmの深さ位置において、前記M2が検出されないことが好ましい。本発明において、「前記M2が検出されない」とは、エネルギー分散型X線分光法により測定した場合に、該測定による検出量以下であるとの意味であり、エネルギー分散型X線分光法による測定における検出量の下限は、測定する元素や状態によって値が前後するが、通常、0.1原子%である。
【0079】
<水分量>
本発明のチタン酸リチウム粉末のカールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~350℃)(以下、25℃~350℃の水分量と記すことがある)は、5000ppm以下であることが好ましい。ここで、本発明の、チタン酸リチウム粉末のカールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~350℃)とは、本発明のチタン酸リチウム粉末を、窒素流通下、25℃から200℃まで加熱し200℃で1時間保持した際に、加熱開始から200℃での保持完了までの間に本発明のチタン酸リチウム粉末から放出される水分をカールフィッシャー法によって測定して得られる水分量と、続けて、本発明のチタン酸リチウム粉末を、窒素流通下、200℃から350℃まで加熱し350℃で1時間保持した際に、200℃における加熱開始から350℃での保持完了までの間に、本発明のチタン酸リチウム粉末から放出される水分をカールフィッシャー法によって測定して得られる水分量と、を合計して得られる水分量のことである。5000ppm以下であれば、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、電極塗工時のハンドリング性が良好であるため好ましい。水分量の測定方法については、後述する<カールフィッシャー法による水分量の測定>にて説明する。カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~350℃)は、本発明のチタン酸リチウム粉末に物理的に吸着している水分、および化学的に吸着している水分の両方を含むものである。通常、チタン酸リチウム粉末においては、350℃を越える領域ではカールフィッシャー法では測定が困難で、他の方法(例えば、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析)では水分はほとんど検出されない。蓄電デバイスの高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点から、カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~350℃)は、1000ppm以下がさらに好ましく、600ppm以下が特に好ましい。
【0080】
また加えて、蓄電デバイスの高温動作時のガス発生をさらに抑制する観点から、カールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)(以下、200℃~350℃の水分量と記すことがある)が1000ppm以下であることが好ましい。ここで、本発明の、チタン酸リチウム粉末のカールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)とは、前記水分量(25℃~350℃)のうち、200℃における加熱開始から350℃での保持完了までの間に、本発明のチタン酸リチウム粉末から放出された水分をカールフィッシャー法によって測定して得られる水分量のことである。チタン酸リチウムが含む水分としては、上記のように物理的に吸着している水分、および化学的に吸着している水分があるが、双方とも表面に存在している水分については200℃までにおそらくそのほとんどが脱離し、カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~200℃)に含まれると推測する。ここで、本発明の、チタン酸リチウム粉末のカールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~200℃)とは、本発明のチタン酸リチウム粉末を、窒素流通下、25℃から200℃まで加熱し200℃で1時間保持した際に、加熱開始から200℃での保持完了までの間に本発明のチタン酸リチウム粉末から放出される水分をカールフィッシャー法によって測定して得られる水分量のことである。また、通常の蓄電デバイスの作製では電極を乾燥する工程があるため、カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~200℃)は、このような乾燥する工程においてほぼ放出されることとなる。そのため、蓄電デバイスに影響を与える水分はチタン酸リチウムの粒子表面でなく、このような乾燥する工程において除去され難い粒子内部に存在する水分が主であると考える。よって、上記の粒子内部に存在し、蓄電デバイスに実質的に影響を与える水分は、大部分がカールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)に含まれると考える。上記の観点から、カールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)は300ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下が特に好ましい。なお、カールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)の下限は、特に限定されず、場合によっては、測定装置の検出限界以下となる場合(実質的に0ppmであると判断できる場合)もある。
【0081】
特許文献4および特許文献5の明細書記載の製造方法で希土類元素を含むチタン酸リチウムを製造した場合には、LiTi12(スピネル構造)とは異なる結晶構造(ペロブスカイト構造等)を持つ希土類元素含有粒子がチタン酸リチウム粒子とは別に生成し、希土類元素がチタン酸リチウムの表面を覆うことはない。一方で、本発明の第2の態様のように、チタン酸リチウム粒子の表面近傍に前記Lnを局在化させた状態、好ましくは。前記LnをTiに対する濃度比が特定の範囲となるように含有し、粒子内部では前記Ln/Ti濃度比が表面より少なく、より好ましくは内部(たとえば、チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置)に前記Lnが存在しない状態、つまりチタン酸リチウム粒子表面が少量のLnを含む層で特異的に被覆されている状態であれば、蓄電デバイスの充放電容量を損なうことなく、高温動作時のガス発生が抑制された蓄電デバイスが得られる。
ガス発生が抑制される理由としては、定かではないが、チタン酸リチウム粒子表面から表面近傍にかけてLn原子が局在したLn拡散層が形成されることにより、水の吸着を阻害し、水素発生を抑えている。更には、前記Ln拡散層が電解液とLiTi12との接触を抑えるため、電解液中の非水溶媒の電気化学的な分解による有機系のガス発生が抑制されていると考えられる。
【0082】
特許文献5および特許文献6の明細書記載の製造方法では、チタン酸リチウム粒子全体に、均一な濃度で特定の元素がドーピングされる。一方で、本発明の第3の態様のように、チタン酸リチウム粒子の表面近傍に前記M1を局在化させた状態、好ましくは、表面の前記M1濃度が高い状態、より好ましくは内部(たとえば、チタン酸リチウム粒子の表面から内部に向かって100nmの位置)に前記M1が存在しない状態であれば、蓄電デバイスの充放電容量を損なうことなく、高温動作時のガス発生が抑制された蓄電デバイスが得られる。
【0083】
ガス発生が抑制される理由としては、定かではないが、チタン酸リチウム粒子表面と電解液との界面近傍に前記M1が存在することで、前記M1が粒子表面近傍で発生した有機系ガスを効率的に他の物質に変換させ、全体のガス量を抑制できると考えられる。加えて、チタン酸リチウム粒子表面近傍に固溶した状態で局在したM1拡散層が形成されることにより、電解液の分解に起因する、LiTi12の活性点を保護するため、電解液の分解による有機系のガス発生をさらに抑制されていると考えられる。
【0084】
[本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法]
以下に、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法の一例を、原料の調製工程、焼成工程、および表面処理工程に分けて説明するが、本発明のチタン酸リチウム粉末の製造方法はこれに限定されない。
【0085】
<原料の調製工程>
本発明のチタン酸リチウム粉末の原料は、チタン原料およびリチウム原料からなる。チタン原料としては、アナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン等のチタン化合物が用いられる。短時間でリチウム原料と反応し易いことが好ましく、その観点で、アナターゼ型二酸化チタンが好ましい。短時間の焼成で原料を十分に反応させるためには、チタン原料の体積中位粒径(平均粒径、D50)は2μm以下が好ましい。
【0086】
リチウム原料としては、水酸化リチウム一水和物、酸化リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物が用いられる。
【0087】
本発明においては、以上の原料からなる混合物を短時間で焼成する場合は、焼成前に混合物を構成する混合粉末を、レーザ回折・散乱型粒度分布測定機にて測定される粒度分布曲線におけるD95が5μm以下になるように調製することが好ましい。ここで、D95とは、体積分率で計算した累積体積頻度が、粒径の小さい方から積算して95%になる粒径のことである。
【0088】
混合物の調製方法としては、次に挙げる方法を採用することができる。第一の方法は、原料を調合後、混合と同時に粉砕を行う方法である。第二の方法は、各原料を混合後のD95が5μm以下になるまで粉砕した後、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。第三の方法は、各原料を晶析などの方法によって微粒子からなる粉末を製造し、必要に応じて分級して、これらを混合、あるいは軽く粉砕しながら混合する方法である。なかでも、第一の方法において、原料の混合と同時に粉砕を行う方法は、工程が少ない方法なので工業的に有利な方法である。また、同時に導電剤を添加しても良い。
【0089】
第一から第三のいずれの方法においても、原料の混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることが出来る。
【0090】
得られた混合物が混合粉末である場合は、そのまま次の焼成工程に供することができる。混合粉末からなる混合スラリーである場合は、混合スラリーをロータリーエバポレーターなどによって乾燥した後に次の焼成工程に供することができる。焼成がロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合スラリーのまま炉内に供することができる。
【0091】
<焼成工程>
次いで、得られた混合物を焼成する。焼成により得られる粉末の比表面積を大きく、かつ結晶子径を大きくする観点からは、高温かつ短時間で焼成することが好ましい。このような観点から、焼成時の最高温度は、好ましくは1000℃以下であり、より好ましくは950℃以下であり、更に好ましくは900℃以下である。特定の不純物相の割合を少なく、かつチタン酸リチウムの結晶性を高くする観点から、焼成時の最高温度は、好ましくは800℃以上であり、より好ましくは810℃以上である。同様に前記観点から、焼成時の最高温度での保持時間は、好ましくは2~60分であり、より好ましくは5~45分であり、更に好ましくは5~30分である。焼成時の最高温度が高い時には、より短い保持時間を選択することが好ましい。同様に、焼成により得られる結晶子径を大きくする観点から、焼成時の昇温過程においては、700~800℃の滞留時間を特に短くすることが好ましく、例えば15分以内が好ましい。
【0092】
このような条件で焼成できる方法であれば、焼成方法は特に限定されるものではない。利用できる焼成方法としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が挙げられる。ただし、短時間で効率的な焼成をする場合は、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、ロータリーキルン式焼成炉が好ましい。匣鉢に混合物を収容して焼成するローラーハース式焼成炉、またはメッシュベルト式焼成炉を用いる場合は、焼成時の混合物の温度分布の均一性を確保して得られるチタン酸リチウムの品質を一定にするためには、匣鉢への混合物の収容量を少量にすることが好ましい。
【0093】
ロータリーキルン式焼成炉は、混合物を収容する容器が不要で、連続的に混合物を投入しながら焼成が出来る点、被焼成物への熱履歴が均一で、均質なチタン酸リチウムを得ることが出来る点から、本発明のチタン酸リチウム粉末を製造するには特に好ましい焼成炉である。
【0094】
焼成時の雰囲気は、脱離した水分や炭酸ガスが排除できる雰囲気であれば、焼成炉に関わらず特に限定されるものではない。通常は、圧縮空気を用いた空気雰囲気とするが、酸素、窒素、または水素雰囲気などでも良い。
【0095】
焼成後のチタン酸リチウム粉末は、軽度の凝集はあるものの、粒子を破壊するような粉砕を行わなくても良く、そのため、焼成後には、必要に応じて凝集を解す程度の解砕や分級を行えば良い。粉砕を行わず、凝集を解す程度の解砕を行うだけであれば、その後でも、焼成後のチタン酸リチウム粉末の高い結晶性が維持される。
【0096】
<表面処理工程>
以上の工程により得られた、表面処理前のチタン酸リチウム粉末(以下、基材のチタン酸リチウム粉末と記すことがある。また、以下、基材のチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子を基材のチタン酸リチウム粒子と記すことがある)を、ホウ素(B)を含有する化合物(以下、処理剤1と記すことがある)、前記Lnを含有する化合物(以下、処理剤2と記すことがある)、前記M1を含有する化合物(以下、処理剤3と記すことがある)と混合して熱処理する。すなわち、本発明のチタン酸リチウム粉末を、上述した第1の態様(局在化元素として、ホウ素(B)を含む態様)とする場合には、ホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)を使用し、本発明のチタン酸リチウム粉末を、上述した第2の態様(局在化元素として、前記Lnを含む態様)とする場合には、前記Lnを含有する化合物(処理剤2)を使用し、本発明のチタン酸リチウム粉末を、上述した第3の態様(局在化元素として、前記M1を含む態様)とする場合には、前記M1を含有する化合物(処理剤3)し、これらと、基材のチタン酸リチウム粒子に混合して熱処理を行う。
【0097】
ホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)としては、特に限定されないが、例えば、ホウ酸(HBO)、酸化ホウ素(B)、四ホウ酸リチウム(Li)、リン酸ホウ素(PBO)、ホウ酸リチウムなどが挙げられる。なかでも、ホウ酸(HBO)、酸化ホウ素(B)、四ホウ酸リチウム(Li)が好ましい。
【0098】
ホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)の添加量は、チタン酸リチウム粉末中のホウ素(B)の量が本発明の第1の態様の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば、ホウ酸(HBO)を用いた場合は、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.4質量%以上の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは0.6質量%以上の割合であり、特に好ましくは0.7質量%以上の割合である。また、基材のチタン酸リチウム粉末に対して10質量%以下の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは8質量%以下の割合であり、特に好ましくは4質量%以下の割合である。
【0099】
前記Lnを含有する化合物(処理剤2)としては、特に限定されないが、例えば、前記Lnの酸化物、前記Lnの水酸化物、前記Lnの硫酸化合物、前記Lnの硝酸化合物、前記Lnのフッ化物、前記Lnの有機化合物、および前記Lnを含有する金属塩化合物が挙げられる。前記Lnをチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記Lnを含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記Lnを含有する酢酸化合物およびその水和物が好ましい。
【0100】
また、前記Lnがランタン(La)の場合は、Laを含有する化合物として、例えば、酸化ランタン、水酸化ランタン、フッ化ランタン、硫酸ランタン、硝酸ランタン、炭酸ランタン、酢酸ランタン、しゅう酸ランタン、塩化ランタン、ホウ化ランタン、りん酸ランタンなどが挙げられる。なかでも、酢酸ランタンおよびその水和物が好ましい。
【0101】
前記Lnを含有する化合物(処理剤2)の添加量は、チタン酸リチウム粉末中の前記Lnの量が本発明の第2の態様の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば、酢酸La・n水和物(n=0.5~4.0)を用いた場合は、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.25質量%以上の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは0.8質量%以上の割合であり、特に好ましくは1.5質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して13質量%以下の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下の割合であり、特に好ましくは5質量%以下の割合である。
【0102】
あるいは、前記M1を含有する化合物(処理剤3)としては、特に限定されないが、例えば、前記M1の酸化物、前記M1の水酸化物、前記M1の硫酸化合物、前記M1の硝酸化合物、前記M1のフッ化物、前記M1の有機化合物、および前記M1を含有する金属塩化合物が挙げられる。前記M1がモリブデン(Mo)の場合、酸化モリブデン、三酸化モリブデン、三酸化モリブデン水和物、ほう化モリブデン、りんモリブデン酸、二けい化モリブデン、塩化モリブデン、硫化モリブデン、けいモリブデン酸水和物、酸化ナトリウムモリブデン、炭化モリブデン、酢酸モリブデン二量体、モリブデン酸リチウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸アンモニウム、などが挙げられ、前記M1がタングステン(W)の場合、酸化タングステン、三酸化タングステン、三酸化タングステン水和物、ほう化タングステン、りんタングステン酸、二けい化タングステン、塩化タングステン、硫化タングステン、けいタングステン酸水和物、酸化ナトリウムタングステン、炭化タングステン、酢酸タングステン二量体、タングステン酸リチウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸カリウム、タングステン酸カルシウム、タングステン酸マグネシウム、タングステン酸マンガン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸などが挙げられる。前記M1をチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記M1を含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記M1を含有するリチウム酸化物が好ましい。
【0103】
前記M1を含有する化合物(処理剤3)の添加量は、チタン酸リチウム粉末中の前記M1の量が本発明の第3の態様の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば処理剤3にモリブデン酸リチウム(LiMoO)を用いた場合、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤3が0.2質量%以上の割合で添加することが好ましく、より好ましくは0.4質量%以上の割合であり、さらに好ましくは1.0質量%以上の割合であり、特に好ましくは2.5質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤3が5.0質量%以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは2.5質量%以下の割合であり、さらに好ましくは1.0質量%以下の割合であり、特に好ましくは0.2質量%以下の割合である。また、例えば処理剤3にタングステン酸リチウム(LiWO)を用いた場合、蓄電デバイスの高温動作時でのガス発生をさらに抑制する観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤3が0.3質量%以上の割合で添加することが好ましく、より好ましくは0.6質量%以上の割合であり、さらに好ましくは1.4質量%以上の割合である。また、蓄電デバイスの充放電容量を高くする観点からは、基材のチタン酸リチウム粉末に対して処理剤3が7.0質量%以下の割合で添加することが好ましく、より好ましくは3.5質量%以下の割合である。
【0104】
本発明のチタン酸リチウム粉末では、さらに前記M2を含有することができる。前記M2を含有する場合には、基材のチタン酸リチウム粉末に、ホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)、前記Lnを含有する化合物(処理剤2)、または前記M1を含有する化合物(処理剤3)とさらに前記M2を含有する化合物(以下、処理剤4と記すことがある)を混合して熱処理する。または、処理剤1、処理剤2または処理剤3と混合して熱処理した後、処理剤4と混合して熱処理しても良い。または処理剤4と混合して熱処理した後、処理剤1、処理剤2または処理剤3と混合して熱処理しても良い。
【0105】
前記M2を含有する化合物(処理剤4)としては、熱処理によって拡散する化合物なら、どのような化合物でも良く、たとえば、前記M2の酸化物、前記M2の水酸化物、前記M2の硫酸化合物、前記M2の硝酸化合物、前記M2のフッ化物、前記M2の有機化合物、および前記M2を含有する金属塩化合物が挙げられる。前記M2をチタン酸リチウム粉末の粒子表面に均一に拡散させるためには、後述の湿式法を用いるのが適しており、その場合は、溶媒に可溶な前記M2を含有する化合物を、その溶媒に溶解させて、基材のチタン酸リチウム粉末と混合することが好ましい。ガス発生を抑制する点で、前記M2を含有する硫酸化合物や前記M2を含有するフッ化物が好ましい。
【0106】
前記M2がアルミニウム(Al)の場合は、Alを含有する化合物として、例えば、酢酸アルミニウム、フッ化アルミニウムあるいは硫酸アルミニウムなどが挙げられる。なかでも、硫酸アルミニウムおよびその水和物、フッ化アルミニウムが好ましい。
【0107】
前記M2を含有する化合物(処理剤4)の添加量としては、チタン酸リチウム粉末中の前記M2の量が本発明の範囲内に収まれば、どのような量でも良いが、例えば、硫酸アルミニウム16水和物(Al(SO・16HO)を用いた場合は、基材のチタン酸リチウム粉末に対して0.3質量%以上の割合で添加することが好ましい。また、基材のチタン酸リチウム粉末に対して12質量%以下の割合で添加することが好ましく、さらに好ましくは10質量%以下の割合であり、特に好ましくは8質量%以下の割合である。また、さらに好適な前記M2を含有する化合物(処理剤4)の添加量の割合は、ホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)、前記Lnを含有する化合物(処理剤2)、および前記M1を含有する化合物(処理剤3)との関係で決定される。
【0108】
基材のチタン酸リチウム粉末とホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)、前記Lnを含有する化合物(処理剤2)、または前記M1を含有する化合物(処理剤3)、さらには前記M2を含有する化合物(処理剤4)との混合方法に特に制限はなく、湿式混合または乾式混合のいずれの方法も採用することができるが、基材のチタン酸リチウム粒子の表面にホウ素(B)を含有する化合物(処理剤1)、前記Lnを含有する化合物(処理剤2)、または前記M1を含有する化合物(処理剤3)、あるいはさらに前記M2を含有する化合物(処理剤4)を均一に分散させることが好ましく、その点においては湿式混合が好ましい。
【0109】
乾式混合としては、例えば、ペイントミキサー、ヘンシェルミキサー、超音波分散装置、ホモミキサー、乳鉢、ボールミル、遠心式ボールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル、アトライター式の高速ボールミル、ビーズミル、ロールミル等を用いることが出来る。
【0110】
湿式混合としては、水またはアルコール溶媒中に処理剤1、処理剤2または処理剤3と、あるいはさらに処理剤4と基材のチタン酸リチウム粉末を投入し、スラリー状態で混合させる。アルコール溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど沸点が100℃以下のものが溶媒除去しやすい点で好ましい。また、回収、廃棄のしやすさから、工業的には水溶媒が好ましい。
【0111】
溶媒量としては、処理剤1、処理剤2または処理剤3と、あるいはさらに処理剤4と基材のチタン酸リチウム粒子が十分に濡れた状態になる量ならば問題はないが、処理剤1、処理剤2または処理剤3と、あるいはさらに処理剤4と基材のチタン酸リチウム粒子は、溶媒中で均一に分散していることが好ましく、そのためには、溶媒中に溶解する、処理剤1、処理剤2または処理剤3、あるいはさらに処理剤4の溶解量が処理剤1、処理剤2または処理剤3、あるいはさらに処理剤4の溶媒への全投入量の50%以上になる溶媒量が好ましい。処理剤1、処理剤2または処理剤3や処理剤4の、溶媒への溶解量は温度が高いほど多くなることから、基材のチタン酸リチウム粉末と処理剤1、処理剤2または処理剤3、あるいはさらに処理剤4との溶媒中での混合は、加温しながら行うことが好ましく、また加温することで溶媒量も減量できるので、加温しながら混合する方法は、工業的に適した方法である。混合時の温度としては、40~100℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。
【0112】
湿式混合の場合は、熱処理方法にもよるが、混合工程の後に行う熱処理の前に溶媒を除去することが好ましい。溶媒の除去は、溶媒を蒸発乾固させることで行うことが好ましく、溶媒を蒸発乾固させる方法としては、スラリーを撹拌羽で撹拌しながら加熱し蒸発させる方法、コニカルドライヤーなど撹拌させながら乾燥が可能な乾燥装置を用いる方法およびスプレードライヤーを用いる方法が挙げられる。熱処理が、ロータリーキルン炉を用いて行われる場合は、混合した原料をスラリーのまま炉内に供することができる。
【0113】
熱処理における加熱方法は特に限定されるものではない。利用できる熱処理炉としては、固定床式焼成炉、ローラーハース式焼成炉、メッシュベルト式焼成炉、流動床式、ロータリーキルン式焼成炉などが挙げられる。熱処理時の雰囲気としては、大気雰囲気でも、窒素雰囲気などの不活性雰囲気のどちらでも良い。前記M2を含有する化合物(処理剤4)として前記M2を含有する金属塩化合物を用いた場合は、粒子表面からアニオン種が除去されやすい大気雰囲気が好ましい。熱処理温度としては、ホウ素(B)、前記Lnまたは前記M1、あるいはさらに前記M2が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度であって、基材のチタン酸リチウムが焼結することによる、比表面積の大幅な減少が発生しない温度が良い。熱処理温度の上限値としては600℃であり、好ましくは550℃、より好ましくは500℃である。熱処理温度の下限値としては、250℃である。熱処理時間としては、0.5~8時間であり、より好ましくは2~5時間である。前記M2が、基材のチタン酸リチウム粒子の、少なくとも表面領域に拡散する温度および時間は、前記M2を含有する化合物によって反応性が異なるため、適宜設定するのが良い。
【0114】
本発明のチタン酸リチウム粉末は、表面処理工程で処理剤と混合した後に造粒して熱処理を行い、一次粒子が集合した二次粒子を含む粉末にしても良い。造粒は二次粒子ができるのであれば、どのような方法でも良いが、スプレードライヤーが大量に処理できるため好ましい。
【0115】
本発明のチタン酸リチウム粉末に含まれる水分量を低減させるために、熱処理工程で露点管理を行っても良い。熱処理後の粉末は、そのまま大気に晒すと粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理炉内での冷却時と熱処理後は、露点管理された環境下で粉末を扱うことが好ましい。熱処理後の粉末は、粒子を所望の最大粒径の範囲にするために必要に応じて分級を行っても良い。熱処理工程で露点管理をする場合は、発明のチタン酸リチウム粉末をアルミラミネート袋などで密閉した後に露点管理外の環境下に出すことが好ましい。露点管理下においても、熱処理後のチタン酸リチウム粉末の粉砕を行うと破砕面から水分を取り込みやすくなり、粉末に含まれる水分量が増加するため、熱処理を行った場合には粉砕を行わないことが好ましい。
【0116】
[活物質材料]
本発明の活物質材料は、本発明のチタン酸リチウム粉末を含むものである。本発明のチタン酸リチウム粉末以外の物質を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の物質としては、例えば、炭素材料〔熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類(人造黒鉛、天然黒鉛等)、有機高分子化合物燃焼体、炭素繊維〕、スズやスズ化合物、ケイ素やケイ素化合物が使用される。
【0117】
[電極シート]
本発明の電極シートは、集電体の片面または両面に、活物質材料、導電剤および結着剤を含む合剤層を有するシートであり、蓄電デバイスの設計形状に合わせて裁断され、正極または負極として使用される。
本発明の電極シートは、活物質材料として本発明のチタン酸リチウム粉末を含む電極シートであり、チタン原料およびリチウム原料からなる混合物を焼成し、得られた焼成物を造粒して、露点が-20℃以下に管理された環境で300~600℃の温度範囲で熱処理し冷却して、得られた本発明のチタン酸リチウム粉末を実質的に大気暴露することなく、露点が-20℃以下に管理された環境で導電剤および結着剤と混合して製造されることが好ましい。ここで、実質的に大気暴露することなくとは、全く大気暴露しないことに加えて、本発明のチタン酸リチウム粉末の、カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~350℃)が増加しない程度に大気暴露することをいう。
【0118】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、本発明の活物質材料を含む電極を備え、このような電極へのリチウムイオンのインターカレーション、脱インターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵、放出するデバイスであって、例えば、ハイブリッドキャパシタやリチウム電池などが挙げられる。
【0119】
[ハイブリッドキャパシタ]
前記ハイブリッドキャパシタとしては、正極に、活性炭など電気二重層キャパシタの電極材料と同様の物理的な吸着によって容量が形成される活物質や、グラファイトなど物理的な吸着とインターカレーション、脱インターカレーションによって容量が形成される活物質や、導電性高分子などレドックスにより容量が形成される活物質を使用し、負極に本発明の活物質材料を使用するデバイスである。本発明の活物質材料は、通常、前記ハイブリッドキャパシタの電極シートの形態にて用いられる。
【0120】
[リチウム電池]
本発明のリチウム電池は、リチウム一次電池およびリチウム二次電池を総称する。また、本明細書において、リチウム二次電池という用語は、いわゆるリチウムイオン二次電池も含む概念として用いる。
【0121】
前記リチウム電池は、正極、負極および非水溶媒に電解質塩が溶解されている非水電解液等により構成されているが、本発明の活物質材料は電極材料として用いることができる。本発明の活物質材料は、通常、前記リチウム電池の電極シートの形態にて用いられる。この活物質材料は、正極活物質および負極活物質のいずれとして用いてもよいが、以下には負極活物質として用いた場合を説明する。
【0122】
<負極>
負極は、負極集電体の片面または両面に、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を含む合剤層を有する。この合剤層は、通常、電極シートの形態とされる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、空孔中に負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤、結着剤を含む合剤層を有する。
【0123】
前記負極用の導電剤としては、化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に制限はない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛等)、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チェンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、単相カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ(グラファイト層が多層同心円筒状)(非魚骨状)、カップ積層型カーボンナノチューブ(魚骨状(フィッシュボーン))、節型カーボンナノファイバー(非魚骨構造)、プレートレット型カーボンナノファイバー(トランプ状)等のカーボンナノチューブ類等が挙げられる。また、グラファイト類とカーボンブラック類とカーボンナノチューブ類を適宜混合して用いてもよい。特に限定されることはないが、カーボンブラック類の比表面積は好ましくは30~3000m/gであり、さらに好ましくは50~2000m/gである。また、グラファイト類の比表面積は、好ましくは30~600m/gであり、さらに好ましくは50~500m/gである。また、カーボンナノチューブ類のアスペクト比は、2~150であり、好ましくは2~100、より好ましくは2~50である。
【0124】
導電剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、合剤層中に、好ましくは0.1~10質量%であり、さらに好ましくは0.5~5質量%である。0.1質量%未満では、合剤層の導電性が確保できなくなり、10質量%超では、活物質比率が減少し、合剤層の単位質量および単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量が不十分になるため高容量化に適さない。
【0125】
前記負極用の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、スチレンとブタジエンの共重合体(SBR)、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体(NBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。特に限定されることはないが、ポリフッ化ビニリデンの分子量は、好ましくは2万~20万である。合剤層の結着性を確保する観点から、2.5万以上であることが好ましく、3万以上であることがより好ましく、5万以上であることがさらに好ましい。活物質と導電剤との接触を妨げずに導電性が確保する観点から、15万以下であることが好ましい。特に活物質の比表面積が10m/g以上の場合には、分子量は10万以上であることが好ましい。
【0126】
前記結着剤の添加量は、活物質の比表面積や導電剤の種類や組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、合剤層中に、好ましくは0.2~15質量%である。結着性を高め合剤層の強度を確保する観点から、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。活物質比率が減少し、合剤層の単位質量および単位体積あたりの蓄電デバイスの放電容量を低減させない観点から、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0127】
前記負極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、焼成炭素、あるいはそれらの表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を被覆させたもの等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により負極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、前記負極集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。前記負極集電体の形態として、多孔質アルミニウムが好ましい。前記多孔質アルミニウムの空孔率は80%以上、95%以下であり、好ましくは85%以上である。
【0128】
前記負極の作製方法としては、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化した後、前記負極集電体上に塗布し、乾燥、圧縮することによって得ることができる。多孔質体などで空孔を有する負極集電体の場合は、負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合した塗料を集電体の空孔に圧入して充填、または前記塗料中に空孔を有する集電体を浸潰し空孔中に拡散した後に、乾燥、圧縮することによって得ることができる。
【0129】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合し塗料化する方法としては、例えば、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置、ビーズミル、高速旋回型ミキサ、粉体吸引連続溶解分散装置などを用いることができる。また、製造工程として、固形分濃度によって工程を分け、これらの装置を使い分けてもよい。
【0130】
負極活物質(本発明の活物質材料)、導電剤および結着剤を溶剤中に均一に混合するには、活物質の比表面積、導電剤の種類、結着剤の種類やこれらの組合せにより異なるため、最適化を行うべきであるが、プラネタリーミキサーなどの混練容器内で攪拌棒が自転しながら公転するタイプの混練機、二軸押し出し型混練機、遊星式撹拌脱泡装置などを用いる場合には、製造工程として固形分濃度によって工程を分け、固形分濃度が高い状態で混練した後、徐々に固形分濃度を下げ塗料の粘度を調製するのが好ましい。固形分濃度が高い状態としては、好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~90質量%である。60質量%未満では、せん断力が得られず、90質量%超では装置の負荷が大きくなるため適さない。
【0131】
混合手順としては、特に限定されることはないが、負極活物質と導電剤と結着剤を同時に溶剤中で混合する方法、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法、負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法などが挙げられる。これらの中でも均一に分散させるには、導電剤と結着剤をあらかじめ溶剤中で混合した後に負極活物質を追加混合する方法および負極活物質スラリーと導電剤スラリーと結着剤溶液をあらかじめ作製し、それぞれを混合する方法が好ましい。
【0132】
溶剤としては、有機溶媒を用いることができる。有機溶剤としては、1-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなど非プロトン性有機溶媒を単独、または2種類以上混合したものが挙げられ、好ましくは1-メチル-2-ピロリドンである。
【0133】
溶剤に有機溶剤を用いる場合には、結着剤をあらかじめ有機溶剤に溶解させて使用するのが好ましい。
【0134】
<正極>
正極は、正極集電体の片面または両面に、正極活物質、導電剤および結着剤を含む合剤層を有する。
【0135】
前記正極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料が使用され、例えば、活物質としては、コバルト、マンガン、ニッケルを含有するリチウムとの複合金属酸化物やリチウム含有オリビン型リン酸塩などが挙げられ、これらの正極活物質は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このような複合金属酸化物としては、例えば、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiCo1-xNi(0.01<x<1)、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn3/2等が挙げられ、これらのリチウム複合酸化物の一部は他元素で置換してもよく、コバルト、マンガン、ニッケルの一部をSn、Mg、Fe、Ti、Al、Zr、Cr、V、Ga、Zn、Cu、Bi、Mo、La等の少なくとも1種以上の元素で置換したり、Oの一部をSやFで置換したり、あるいは、これらの他元素を含有する化合物を被覆することができる。リチウム含有オリビン型リン酸塩としては、例えば、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、LiFe1-xPO(MはCo、Ni、Mn、Cu、Zn、およびCdから選ばれる少なくとも1種であり、xは、0≦x≦0.5である。)等が挙げられる。
【0136】
前記正極用の導電剤および結着剤としては、負極と同様のものが挙げられる。前記正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化してもよく、表面処理により正極集電体表面に凹凸を付けてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、シート、ネット、フォイル、フィルム、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。
【0137】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に電解質塩を溶解させたものである。この非水電解液には特に制限は無く、種々のものを用いることができる。
【0138】
前記電解質塩としては、非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiPF、LiBF、LiPO、LiN(SOF)、LiClO等の無機リチウム塩、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CF、LiPF(iso-C、LiPF(iso-C)等の鎖状のフッ化アルキル基を含有するリチウム塩や、(CF(SONLi、(CF(SONLi等の環状のフッ化アルキレン鎖を含有するリチウム塩、ビス[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウムやジフルオロ[オキサレート-O,O’]ホウ酸リチウム等のオキサレート錯体をアニオンとするリチウム塩が挙げられる。これらの中でも、特に好ましい電解質塩は、LiPF、LiBF、LiPO、およびLiN(SOF)であり、最も好ましい電解質塩はLiPFである。これらの電解質塩は、1種単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの電解質塩の好適な組み合わせとしては、LiPFを含み、更にLiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも1種のリチウム塩が非水電解液中に含まれている場合が好ましい。
【0139】
これら全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して、通常0.3M以上が好ましく、0.5M以上がより好ましく、0.7M以上が更に好ましい。またその上限は、2.5M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましく、1.5M以下が更に好ましい。
【0140】
一方、前記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル、アミド、リン酸エステル、スルホン、ラクトン、ニトリル、S=O結合含有化合物等が挙げられ、環状カーボネートを含むことが好ましい。なお、「鎖状エステル」なる用語は、鎖状カーボネートおよび鎖状カルボン酸エステルを含む概念として用いる。
【0141】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、トランスもしくはシス-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(以下、両者を総称して「DFEC」という)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、および4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種又は二種以上が挙げられ、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オン(EEC)から選ばれる一種以上が、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生を抑制する観点からより好適であり、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネートおよび2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好適である。全環状カーボネート中のアルキレン鎖を有する環状カーボネートの割合が55体積%~100体積%であることが好ましく、60体積%~90体積%であることが更に好ましい。
【0142】
したがって、前記非水電解液としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネート、2,3-ブチレンカーボネート、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンおよび4-エチニル-1,3-ジオキソラン-2-オンから選ばれる一種以上の環状カーボネートを含む非水溶媒に、LiPF、LiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩を含む電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることが好ましく、前記環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート、1,2-ブチレンカーボネートおよび2,3-ブチレンカーボネートから選ばれるアルキレン鎖を有する環状カーボネートの一種以上が更に好ましい。
【0143】
また、特に、全電解質塩の濃度が0.5M以上2.0M以下であり、前記電解質塩として、少なくともLiPFを含み、更に0.001M以上1M以下のLiBF、LiPO、およびLiN(SOF)から選ばれる少なくとも一種のリチウム塩が含まれる非水電解液を用いることが好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合が0.001M以上であると、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が発揮されやすく、1.0M以下であると蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が低下する懸念が少ないので好ましい。LiPF以外のリチウム塩が非水溶媒中に占める割合は、好ましくは0.01M以上、特に好ましくは0.03M以上、最も好ましくは0.04M以上である。その上限は、好ましくは0.8M以下、さらに好ましくは0.6M以下、特に好ましくは0.4M以下である。
【0144】
また、前記非水溶媒は、適切な物性を達成するために、混合して使用されることが好ましい。その組合せは、例えば、環状カーボネートと鎖状カーボネートの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとラクトンとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとエーテルの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートと鎖状エステルとの組合せ、環状カーボネートと鎖状カーボネートとニトリルとの組合せ、環状カーボネート類と鎖状カーボネートとS=O結合含有化合物との組合せ等が挙げられる。
【0145】
鎖状エステルとしては、メチルエチルカーボネート(MEC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、メチルイソプロピルカーボネート(MIPC)、メチルブチルカーボネート、およびエチルプロピルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の非対称鎖状カーボネート、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、およびジブチルカーボネートから選ばれる1種又は2種以上の対称鎖状カーボネート、ピバリン酸メチル、ピバリン酸エチル、ピバリン酸プロピル等のピバリン酸エステル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酢酸メチル、および酢酸エチル(EA)から選ばれる1種又は2種以上の鎖状カルボン酸エステルが好適に挙げられる。
【0146】
前記鎖状エステルの中でも、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、プロピオン酸メチル、酢酸メチルおよび酢酸エチル(EA)から選ばれるメチル基を有する鎖状エステルが好ましく、特にメチル基を有する鎖状カーボネートが好ましい。
【0147】
また、鎖状カーボネートを用いる場合には、2種以上を用いることが好ましい。さらに対称鎖状カーボネートと非対称鎖状カーボネートの両方が含まれるとより好ましく、対称鎖状カーボネートの含有量が非対称鎖状カーボネートより多く含まれると更に好ましい。
【0148】
鎖状エステルの含有量は、特に制限されないが、非水溶媒の総体積に対して、60~90体積%の範囲で用いるのが好ましい。該含有量が60体積%以上であれば非水電解液の粘度が高くなりすぎず、90体積%以下であれば非水電解液の電気伝導度が低下して蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が低下するおそれが少ないので上記範囲であることが好ましい。
【0149】
鎖状カーボネート中に対称鎖状カーボネートが占める体積の割合は、51体積%以上が好ましく、55体積%以上がより好ましい。その上限としては、95体積%以下がより好ましく、85体積%以下であると更に好ましい。対称鎖状カーボネートにジメチルカーボネートが含まれると特に好ましい。また、非対称鎖状カーボネートはメチル基を有するとより好ましく、メチルエチルカーボネートが特に好ましい。上記の場合に蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果が向上するので好ましい。
【0150】
環状カーボネートと鎖状エステルの割合は、蓄電デバイスの充電レート特性の向上や高温動作時のガス発生の抑制効果を高める観点から、環状カーボネート:鎖状エステル(体積比)が10:90~45:55が好ましく、15:85~40:60がより好ましく、20:80~35:65が特に好ましい。
【0151】
<リチウム電池の構造>
本発明のリチウム電池の構造は特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池や角型電池等が一例として挙げられる。
【0152】
前記セパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース紙、ガラス繊維紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド微多孔膜などが挙げられ、2種以上を組み合わせて構成された多層膜としたものも用いることができる。またこれらのセパレータ表面にPVDF、シリコン樹脂、ゴム系樹脂などの樹脂や、酸化アルミニウム、二酸化珪素、酸化マグネシウムなどの金属酸化物の粒子などをコーティングすることもできる。前記セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01~10μmである。前記セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5~300μmである。
【実施例
【0153】
次に、実施例および比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から容易に類推可能な様々な組み合わせを包含する。特に、実施例の溶媒の組み合わせに限定されるものではない。
【0154】
[第1の態様に係る実施例、比較例]
第1の態様(局在化元素として、ホウ素(B)を含む態様)に係る実施例、比較例の製造条件を表1にまとめて記載する。
【表1】
【0155】
[実施例1-1]
<原料調製工程>
Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径:4.6μm)とアナターゼ型TiO(比表面積:10m/g)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が40質量%となるようにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。この原料混合スラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD-20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製のビーズ(外径:0.65mm)をベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/s、スラリーフィード速度55kg/hrで、ベッセル内圧が0.02~0.03MPa以下になるように制御しながら処理して、原料粉末を湿式混合・粉砕した。
【0156】
<焼成工程>
得られた混合スラリーを、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)を用い、焼成炉の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:900℃、中央部:900℃、焼成物回収側:900℃とし、焼成物の900℃での保持時間を30分とした。
【0157】
<解砕工程>
炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、ハンマーミル(ダルトン製、AIIW-5型)を使用して、スクリーン目開き:0.5mm、回転数:8,000rpm、粉体フィード速度:25kg/hrの条件で解砕した。
【0158】
<表面処理工程>
解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、処理剤1のホウ酸(HBO)を解砕した焼成粉末に対して0.5質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、撹拌しながら100℃に加温して乾燥させた。得られた乾燥粉末を、アルミナ製の匣鉢に入れ、メッシュベルト搬送式連続炉で、500℃で1時間熱処理した。熱処理後の粉末を、篩(目の粗さ:53μm)分けし、実施例1-1に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0159】
[実施例1-2~1-5]
表面処理工程において、処理剤1のHBOの添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-1と同様に実施例1-2~1-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0160】
[実施例1-6、1-7]
表面処理工程において、処理剤1をHBOの代わりに酸化ホウ素(B)、あるいは四ホウ酸リチウム(Li)を用いて、表1に示すような添加量にしたこと以外は、実施例1-1と同様に実施例1-6,1-7に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0161】
[実施例1-8、1-9]
焼成工程において、焼成温度と保持時間を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-3と同様に実施例1-8,1-9に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0162】
[実施例1-10]
焼成工程において、焼成温度と保持時間を表1に示すようにしたこと、および表面処理工程において処理剤1のHBOの添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-1と同様に実施例1-10に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0163】
[実施例1-11]
表面処理工程において、解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、処理剤1のホウ酸(HBO)を解砕した焼成粉末に対して1.5%加え、さらに処理剤4の硫酸アルミニウム16水和物(Al(SO・16HO)を解砕した焼成粉末に対して1.5質量%加え混合スラリーを作製したこと以外は、実施例1-1と同様に実施例1-11に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0164】
[実施例1-12]
表面処理工程において、処理剤4を硫酸アルミニウム16水和物の代わりにフッ化アルミニウム(AlF)を用いて、添加量を表1に示すようにした以外は、実施例1-11と同様に実施例1-12に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0165】
[実施例1-13、1-14]
焼成工程において、焼成温度と保持時間を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-11と同様に実施例1-13、1-14に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0166】
[実施例1-15~1-18]
表面処理工程において、処理剤4を硫酸アルミニウム16水和物の代わりに硫酸マグネシウム7水和物(MgSO・7HO)、あるいは硫酸亜鉛7水和物(ZnSO・7HO)、あるいは硫酸ガリウム9水和物(Ga(SO・9HO)、あるいは硫酸インジウム9水和物(In(SO・9HO)を用いて、添加量および熱処理温度を表1に示すようにした以外は、実施例1-11と同様に実施例1-15~1-18に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0167】
[実施例1-19~1-21]
表面処理工程において、処理剤4の硫酸アルミニウム16水和物の添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-11と同様に実施例1-19~1-21に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0168】
[実施例1-22~1-27]
表面処理工程において、処理剤1のHBOの添加量および処理剤4の硫酸アルミニウム16水和物の添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-11と同様に実施例1-22~1-27に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0169】
[実施例1-28]
表面処理工程において、温度25℃で露点が-15℃以下に管理された回収ボックスを出口側に備えたメッシュベルト搬送式連続炉を用いて熱処理し、出口側の回収ボックス内で、熱処理後の粉末を冷却して、篩分けし、篩を通過した粉末をアルミラミネート袋に収集して密閉した後、回収ボックスから取り出したこと以外は、実施例1-11と同様に実施例1-28に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0170】
[実施例1-29]
表面処理工程の回収ボックスの露点を-20℃としたこと以外は、実施例1-28と同様に実施例1-29に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0171】
[実施例1-30]
原料調整工程において、実施例1-1と同様に秤量したLiCOとアナターゼ型TiOに、さらに添加剤としてAlをTiO量から算出したチタン酸リチウム量に対して0.55質量%加えて得た原料粉末を、ヘンシェルミキサー型の混合機(KAWATA製、SUPERMIXER、SMV(G)-200)で30分間乾式混合した。焼成工程において、得られた混合粉末を、高純度アルミナ製の匣鉢に充填し、マッフル型電気炉を用いて、大気雰囲気中900℃で120分焼成した。その後の解砕工程以降は、実施例1-3と同様な方法で実施例1-30に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0172】
[実施例1-31]
表面処理工程において、処理剤4を硫酸アルミニウム16水和物の代わりに硫酸スズ(SnSO)を用いて、添加量を表1に示すようにした以外は、実施例1-11と同様に実施例1-31に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0173】
[実施例1-32]
表面処理工程において、処理剤4を硫酸アルミニウム16水和物の代わりに硫酸コバルト7水和物(CoSO・7HO)を用いて、添加量を表1に示すようにした以外は、実施例1-11と同様に実施例1-32に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0174】
[比較例1-1]
表面処理工程において、何も添加しなかったこと以外は、実施例1-1と同様に比較例1-1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0175】
[比較例1-2]
表面処理工程において、処理剤1のHBOの添加量を表1に示すようにしたこと以外は、実施例1-1と同様に比較例1-2に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0176】
[比較例1-3]
焼成工程において、焼成温度と保持時間を表1に示すようにしたこと、および表面処理工程において、処理剤1のHBOの添加量を表1に示すようにしたこと以外は実施例1-1と同様に比較例1-3に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0177】
[比較例1-4]
原料調製工程において、実施例1-1と同様に秤量して得た原料粉末にイオン交換水を加えずに粉末のまま、ヘンシェルミキサー型の混合機(KAWATA製、SUPERMIXER、SMV(G)-200)で30分間乾式混合した。焼成工程において、得られた混合粉末を、高純度アルミナ製の匣鉢に充填し、マッフル型電気炉を用いて、大気雰囲気中900℃で120分焼成した。その後の解砕工程以降は、実施例1-3と同様な方法で比較例1-4に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0178】
[比較例1-5]
原料調製工程において、実施例1-1と同様に秤量したLiCOとアナターゼ型TiOに、さらにHBOをTiO量から算出したチタン酸リチウム量に対して0.15質量%加えて得た原料粉末を、ヘンシェルミキサー型の混合機(KAWATA製、SUPERMIXER、SMV(G)-200)で30分間乾式混合した。その後の焼成工程以降は、表面処理工程を行わなかったこと以外は比較例1-4と同様な方法で、比較例1-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0179】
[比較例1-6、1-7]
原料調整において、HBOの添加量を表1に示すようにしたこと以外は比較例1-5と同様に比較例1-6,1-7に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0180】
[比較例1-8]
表面処理工程において、HBOを添加しなかったこと以外は実施例1-11と同様に比較例1-2に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0181】
[粉末物性の測定]
実施例1-1~1-32および比較例1-1~1-8のチタン酸リチウム粉末(以下、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末と記すことがある)の各種物性を以下のようにして測定した。実施例1-1~1-10および比較例1-1~1-7の測定結果を表2に、実施例1-11~1-32および比較例1-8の測定結果を表3に示す。
【0182】
【表2】
【0183】
【表3】
【0184】
<比表面積(S)の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の比表面積(S)(m/g)は、全自動BET比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、商品名「Macsorb HM model-1208」)を使用して、測定サンプル粉末を0.5g秤量し、Φ12標準セル(HM1201-031)に入れ、液体窒素を用いてBET一点法で測定した。
【0185】
<X線光電子分光(XPS)>
X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社 PHI1800型)を使用した。X線源はMgKα、400Wを用いた。実施例1-15はMgを測定するため、X線源はAlKα、400Wを用いた。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末をΦ5mmで均一で平らになるように試料台に乗せ、分析領域を2.0×0.8mm、光電子脱出角度を45度として、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の表面に存在する元素を分析した。測定結果はTi2p3のピークが458.8eVとなるよう補正した。スムージングはsavitzky-golay法を用い11ポイントで行い、バックグラウンド補正はshirley法を用いた。ワイドスペクトルで検出された全元素のナロースペクトル((ホウ素(B1s)の場合は185~200eV、アルミニウム(Al2s)の場合は113~128eV)からピーク面積を求めて、アルバック・ファイ社の相対感度係数を用いて、各元素の表面原子濃度(原子%)を算出した。処理剤4を用いていない実施例1-1~1-10および比較例1-1~1-7では、Al、Mg、Zn、GaおよびInは検出されなかった。また、処理剤4にAl、Mg、Zn、GaおよびInが含まれない実施例1-31、1-32でも同様にこれらの元素は検出されなかった。この測定において検出できる原子濃度の下限値は0.1原子%であった。またホウ素のナロースペクトルのB1sのピークトップの位置を求め、ホウ素の化学結合状態(B-O結合に帰属するピークか否か)を調べた。
【0186】
ホウ素(B)の濃度B(原子%)と元素M2の濃度M(原子%)の測定結果から、MとBとの比M/B(原子%/原子%)を算出した。元素M2がAlの場合は、原子濃度A(原子%)、AとBとの比A/B(原子%/原子%)とも表記することがある。
【0187】
<誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)>
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末に含まれる、元素を定量分析した。測定サンプルは、精秤した試料を硝酸とフッ化水素酸を入れて密栓し、マイクロ波を照射して加熱分解後、超純水で定容して検液として用いた。処理剤4を用いていない実施例1-1~1-10および比較例1-1~1-7では、Al、Mg、Zn、GaおよびInは検出されなかった。また、処理剤4にAl、Mg、Zn、GaおよびInが含まれない実施例1-31、1-32でも同様にこれらの元素は検出されなかった。この測定において検出できる含有量の下限値は0.0001質量%であった。
【0188】
ホウ素(B)の含有量B(質量%)と元素M2の含有量CM2(質量%)の測定結果から、CM2とBとの比CM2/B(質量%/質量%)を算出した。
【0189】
<B×Sの算出>
前述の比表面積(S)(m/g)およびホウ素(B)の原子濃度B(原子%)から、B×S(原子%・m/g)を算出した。
【0190】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、M2の原子濃度およびTiの原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
元素M2を含有するチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により、M2の原子濃度およびTiの原子濃度の測定を行った。測定方法は次のとおりである。
【0191】
チタン酸リチウム粒子を、エポキシ樹脂を用いてダミー基板と接着後、切断、補強リングに接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミリングを行い、最後にカーボン蒸着を施し、薄片試料を調製した。
【0192】
得られた、チタン酸リチウム粒子の薄片試料における特定の位置の、前記Mの原子濃度およびTiの原子濃度を、エネルギー分散型X線分光(EDS)法によって、次のようにして、測定した。日本電子製 JEM-2100F型電界放射型透過電子顕微鏡(Cs補正付)を使用し、加速電圧120kVで、薄片試料の断面を観察しながら、同顕微鏡付帯の日本電子製 UTW型Si(Li)半導体検出器を使用して、薄片試料表面の接線に対して、その接点から垂直に引いた直線の線上にあって、試料の表面から内部に向かって1nmの位置と、表面から内部に向かって100nmの位置における前記M2の原子濃度およびTiの原子濃度を測定した。なお、ビーム径、すなわち分析領域を直径0.2nmの円とした。また、この測定において検出できる原子濃度の下限値は0.1原子%であった。
【0193】
<カールフィッシャー法による水分量の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の水分量は、温度25℃、露点-20℃以下に管理された部屋にて、水分気化装置(平沼産業株式会社製EV-2000)を備えたカールフィッシャー水分計(平沼産業株式会社製AQ-2200)によって、キャリアガスとして乾燥窒素を用いて、次のようにして測定した。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末1gを水分気化装置のセルに投入口から投入してセルの蓋を閉め、測定を開始した。装置の開始ボタンを押すと同時に200℃になったヒータがせりあがりセルを覆い、この状態で1時間保持した。測定開始より200℃での保持完了までに発生する水分を、カールフィッシャー法により測定される水分量(25℃~200℃)とした。その後、セル温度を200℃から350℃まで15分で昇温して350℃で1時間保持した。200℃からの昇温開始より350℃での保持完了までに発生する水分を、カールフィッシャー法により測定される水分量(200℃~350℃)として測定した。前記25℃~200℃の水分量(ppm)と前記200℃~350℃の水分量(ppm)の合計量を25℃~350℃の水分量(ppm)(本明細書では、水分量の総量と記すことがある)として算出した。
【0194】
<X線回折測定>
また、上記各測定に加えて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末について、次の方法により、X線回折測定を行った。具体的には、測定装置として、CuKα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、RINT-TTR-III型)を用いた。X線回折測定の測定条件は、測定角度範囲(2θ):10°~90°、ステップ間隔:0.02°、測定時間:0.25秒/ステップ、線源:CuKα線、管球の電圧:40V、電流:300mAとした。
【0195】
測定される回折ピークのうち、ICDD(PDF2010)のPDFカード00-049-0207におけるLiTi12のメインピーク強度(回折角2θ=18.1~18.5°の範囲内の(111)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、PDFカード01-070-6826におけるアナターゼ型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=24.7~25.7°の範囲内の(101)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、PDFカード01-070-7347におけるルチル型二酸化チタンのメインピーク強度(回折角2θ=27.2~27.6°の範囲内の(110)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)、およびPDFカード00-033-0831におけるLiTiOのピーク強度(回折角2θ=43.5~43.8°の範囲内の(-133)面に帰属する回折ピークに相当するピーク強度)を測定した。
【0196】
そして、LiTi12のメインピーク強度を100としたときの、前記のアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、およびLiTiOのピーク強度の相対値を算出した。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末は、前記ピーク強度の相対値の総和は5以下であり、これらの結晶相以外の相は検出されなかった。
【0197】
[電池特性の評価]
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末を用いてコイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。実施例1-1~1-10および比較例1-1~1-7の評価結果を表2に、実施例1-11~1-32および比較例1-8の測定結果を表3に示す。
【0198】
<負極シートの作製>
負極シートは、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末を活物質として90質量%、アセチレンブラックを導電剤として5質量%、ポリフッ化ビニリデンを結着剤として5質量%の割合で、次のように混合して塗料を作製した。あらかじめ1-メチル-2-ピロリドン溶剤に溶解させたポリフッ化ビニリデンとアセチレンブラックと1-メチル-2-ピロリドン溶剤を遊星式撹拌脱泡装置にて混合した後、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末を加え、全固形分濃度が64質量%となるように調製して、遊星式撹拌脱泡装置にて混合した。その後、1-メチル-2-ピロリドン溶剤を加え全固形分濃度が50質量%となるように調製し遊星式撹拌脱泡装置にて混合して塗料を調製した。得られた塗料をアルミニウム箔上に塗布し乾燥させて、後述のコイン電池に用いる負極片面シートを作製した。また、得られた負極片面シートの反対面にも塗料を塗布し乾燥させて、後述のラミネート電池に用いる負極両面シートを作製した。
【0199】
<正極シートの作製>
活物質としてコバルト酸リチウム粉末を用いたこと以外は、活物質、導電剤および結着剤の比率を含めて、前述の<負極シートの作製>にて説明した方法と同じ方法で、後述のラミネート電池に用いる正極両面シートを作製した。
【0200】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴンボックス内で、エチレンカーボネート(EC):プロピレンカーボネート(PC):メチルエチルカーボネート(MEC):ジメチルカーボネート(DMC)=10:20:20:50(体積比)の非水溶媒を調製し、これに電解質塩としてLiPFを1Mの濃度になるように溶解して電解液を調製した。
【0201】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cmの圧力でプレス加工した後、プレス加工した電極の重量を測定して、アルミニウム箔の重量(直径14mmの円形で8.5mg)を差し引いて、電極の活物質重量比90質量%を掛けることで、プレス加工した電極の活物質重量を算出した。その後、プレス加工した電極を120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cの2枚重ね)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0202】
<ラミネート電池の作製>
ラミネート電池は、室温25℃、露点-20℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。前記負極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、打ち抜き、リード線接続部分を有する負極を作製した。前記正極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、打ち抜き、リード線接続部分を有する正極を作製した。作製した負極と正極は、150℃で12時間真空乾燥した。真空乾燥後の正極と負極を、セパレータ(宇部興産製、UP3085)を介して対向させ、積層し、アルミ箔のリード線を正極、負極それぞれに接続し、前記非水電解液を加えてアルミラミネートで真空封止することで、評価用のラミネート電池を作製した。このとき電池の容量は1000mAhで負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量比)は1.1であった。
【0203】
<単極容量、初回充放電効率、5C充電率の測定>
25℃の恒温槽内にて、前述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン電池に、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電として、0.2mA/cmの電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cmの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を3サイクル行った。3サイクル目の放電容量を初期容量とし、活物質量あたりの単極容量(mAh/g)(以下、単極容量と記すことがある)を求めた。チタン酸リチウム粉末の単極容量が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、蓄電デバイスの充放電容量を高くすることができる。また1サイクル目の放電容量を1サイクル目の充電容量で除することで初回充放電効率(%)を求めた。次に初期容量の0.2Cの電流で1Vまで充電した後、0.2Cの電流で2Vまで放電させて、0.2C充電容量を求めた。次に初期容量の5Cの電流で1Vまで充電した後、0.2Cの電流で2Vまで放電させて、5C充電容量を求めて、0.2C充電容量で除することで5C充電率(%)を算出した。チタン酸リチウム粉末の5C充電率が高いと、蓄電デバイスの電極材料として適用した場合に、充電レート特性が向上する。
【0204】
<70℃100cyc発生ガス量の測定>
25℃の恒温槽内にて、前述の<ラミネート電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート電池に、0.2Cの電流で2.75Vまで充電させる定電流充電を行った後、0.2Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を3サイクル繰り返した。その後、ラミネート電池の体積をアルキメデス法によって測定し、ラミネート電池の初期体積(以下、初期体積と記すことがある)とした。
【0205】
次に、70℃の恒温槽内にて、1Cの電流で2.75Vまで充電させる定電流充電を行った後、1Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を、100サイクル繰り返すサイクル試験を行った。
【0206】
100サイクルのサイクル試験後、このラミネート電池について、25℃の恒温槽内にて、0.2Cの電流で2.75Vまで充電させる定電流充電を行った後、0.2Cの電流で1.4Vまで放電させる定電流放電を、3サイクル繰り返した。その後、ラミネート電池の体積をアルキメデス法によって測定し、ラミネート電池のサイクル試験後体積(以下、サイクル試験後体積と記すことがある)とした。サイクル試験後体積から初期体積を差し引いて、100サイクル試験後の発生ガス量(ml)(本明細書では、70℃100cyc発生ガス量と記すことがある)を求めた。
【0207】
[第2の態様に係る実施例、比較例]
次に、第2の態様(第2の態様(局在化元素として、Lnを含む態様)に係る実施例、比較例の製造条件を表4、表5にまとめて記載する。
【0208】
【表4】
【0209】
【表5】
【0210】
[実施例2-1]
<原料調製工程>
Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径:4.6μm)とアナターゼ型TiO(比表面積:10m/g)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が40質量%となるようにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。この原料混合スラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD-20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製のビーズ(外径:0.65mm)をベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/s、スラリーフィード速度55kg/hrで、ベッセル内圧が0.02~0.03MPa以下になるように制御しながら処理して、原料粉末を湿式混合・粉砕した。
【0211】
<焼成工程>
得られた混合スラリーを、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)を用い、焼成炉の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:900℃、中央部:900℃、焼成物回収側:900℃とし、焼成物の900℃での保持時間を30分とした。
【0212】
<解砕工程>
炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、ハンマーミル(ダルトン製、AIIW-5型)を使用して、スクリーン目開き:0.5mm、回転数:8,000rpm、粉体フィード速度:25kg/hrの条件で解砕した。
【0213】
<表面処理工程>
解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、処理剤2としての酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物、n=0.5~4.0(以下同様))を、解砕した焼成粉末に対して1.76質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、撹拌しながら100℃に加温して乾燥させた。得られた乾燥粉末を、アルミナ製の匣鉢に入れ、メッシュベルト搬送式連続炉で、500℃で1時間熱処理した。熱処理後の粉末を、篩(目の粗さ:45μm)分けし、実施例2-1に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0214】
[実施例2-2~2-5]
表面処理工程において、処理剤2としての酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物)の添加量を表4に示すようにしたこと以外は、実施例2-1と同様に実施例2-2~2-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0215】
[実施例2-6、2-7]
表面処理工程において、熱処理温度を表4に示すような温度にしたこと以外は、実施例2-1と同様に実施例2-6、2-7に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0216】
[実施例2-8~2-12]
表面処理工程において、処理剤2として、酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物)の代わりに、表4に示すような処理剤を、表4に示す添加量にて添加したこと以外は、実施例2-1と同様に実施例2-8~2-12に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0217】
[実施例2-13]
実施例2-1と同様にして得られた、解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、解砕した焼成粉末に対して処理剤2としての酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物)を1.76質量%と、処理剤4としての硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)を0.6質量%とを同時に加え、混合スラリーを作製した。以降は実施例2-1と同様に実施例2-13に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0218】
[実施例2-14~2-25]
表面処理工程において、処理剤2としての酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物)の添加量と、処理剤4としての硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)の添加量を表5に示すようにしたこと以外は、実施例2-13と同様に実施例2-14~2-25に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0219】
[実施例2-26]
表面処理工程において、処理剤4として、硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)の代わりに、表5に示すような処理剤を、表5に示す添加量にて添加したこと以外は、実施例2-13と同様に実施例2-26に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0220】
[比較例2-1]
表面処理工程において、何も添加しなかったこと以外は、実施例2-1と同様に比較例2-1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0221】
[比較例2-2、2-3]
表面処理工程において、処理剤2としての酢酸ランタン(酢酸ランタン・n水和物)の添加量を表4に示すようにしたこと以外は、実施例2-1と同様に比較例2-2、2-3に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0222】
[比較例2-4、2-5]
表面処理工程において、熱処理温度を表4に示すような温度にしたこと以外は、実施例2-1と同様に比較例2-4、2-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0223】
[比較例2-6]
原料調製工程で表4に示すような添加剤を、表4に示す添加量にて加えた原料混合スラリーを用い、表面処理工程を行わなかったこと以外は、実施例2-1と同様に比較例2-6に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0224】
[比較例2-7、2-8]
表面処理工程において、表5に示すような処理剤4のみを添加したこと以外は、実施例2-1と同様に比較例2-7,2-8に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0225】
[粉末物性の測定]
実施例2-1~2-26および比較例2-1~2-8のチタン酸リチウム粉末(以下、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末と記すことがある)の各種物性を以下のようにして測定した。実施例2-1~2-12および比較例2-1~2-6の測定結果を表6に、実施例2-13~2-26および比較例2-7、2-8の測定結果を実施例2-1および比較例2-1と併せて表7に示す。
【0226】
<比表面積の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の比表面積(m/g)は、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様に測定した。
【0227】
<誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)>
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いた測定は、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様に行った。処理剤4を用いていない実施例2-1~2-12および比較例2-1~2-6では、元素M2は検出されなかった(検出量の下限は、0.001質量%)。元素M2の含有量CM2(質量%)と元素Lnの含有量CLn(質量%)との測定結果から、CM2とCLnとの比CM2/CLn(質量%/質量%)を算出した。
【0228】
<カールフィッシャー法による水分量の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の水分量は、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様に測定した。実施例2-1の25℃~200℃の水分量は467.1ppmであり、前記200℃~350℃の水分量は173.1ppmであった。
【0229】
<X線回折測定>
また、上記各測定に加えて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末について、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、X線回折測定を行った。そして、LiTi12のメインピーク強度を100としたときの、前記のアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、およびLiTiOのピーク強度の相対値を算出した。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末は、前記ピーク強度の相対値の総和は5以下であり、これらの結晶相以外の相は検出されなかった。
【0230】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、LnおよびTiの原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
前記Lnを含有するチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により前記Lnの原子濃度およびTiの原子濃度の測定を行った。測定方法は次のとおりである。
【0231】
チタン酸リチウム粒子を、エポキシ樹脂を用いてダミー基板と接着後、切断、補強リングに接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミリングを行い、最後にカーボン蒸着を施し、薄片試料を調製した。
【0232】
得られた、チタン酸リチウム粒子の薄片試料における特定の位置の、前記Lnの原子濃度およびTiの原子濃度を、エネルギー分散型X線分光(EDS)法によって、次のようにして、測定した。日本電子製 JEM-2100F型電界放射型透過電子顕微鏡(Cs補正付)を使用し、加速電圧120kVで、薄片試料の断面を観察しながら、同顕微鏡付帯の日本電子製 UTW型Si(Li)半導体検出器を使用して、薄片試料表面の接線に対して、その接点から垂直に引いた直線の線上にあって、試料の表面から内部に向かって1nmの位置と、表面から内部に向かって100nmの位置における前記Lnの原子濃度およびTiの原子濃度を測定した。なお、ビーム径、すなわち分析領域を直径0.2nmの円とした。なお、本測定における、検出量の下限は0.5atm%であった。また、得られた結果より、D1/Dtiを算出した。
【0233】
<X線光電子分光(XPS)>
また、実施例2-1、2-15について、走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社 PHI5000型 Versaprobe III)を使用して、X線光電子分光分析(XPS)を行った。X線源はAlKα、500W、モノクロを用いた。実施例2-15はAlを測定するため、X線源はMgKα、500W、モノクロを用いた。実施例2-1、2-15のチタン酸リチウム粉末をΦ5mmで均一で平らになるように試料台に乗せ、分析領域を0.4×0.4mm、光電子脱出角度を45度として実施例2-1、2-15のチタン酸リチウム粉末の表面に存在する元素を分析した。測定結果はTi2p3のピークが458.8eVとなるよう補正した。スムージングはsavitzky-golay法を用い11ポイントで行い、バックグラウンド補正はshirley法を用いた。ワイドスペクトルで検出された全元素のナロースペクトル(ランタン(La3d5/2)の場合は832~842eV、アルミニウム(Al2s)の場合は113~128eV)からピーク面積を求めて、アルバック・ファイ社の相対感度係数を用いて、各元素の表面原子濃度(原子%)を算出した。処理剤4を用いていない実施例2-1では、Alは検出されなかった。またランタンのナロースペクトルのLa3d5/2のピークトップの位置を求め、ランタンの化学結合状態を調べた。
【0234】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、M2の原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、実施例2-15のチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により、M2の原子濃度の測定を行った。
【0235】
[電池特性の評価]
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末を用いてコイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。実施例2-1~2-12および比較例2-1~2-6の評価結果を表6に、実施例2-13~2-26および比較例2-7、2-8の測定結果を実施例2-1および比較例2-1と併せて表7に示す。
また、表8に、実施例2-1、2-15のX線光電子分光分析(XPS)の結果、およびM2の原子濃度の測定結果を示す。
【0236】
【表6】
【0237】
【表7】
【0238】
【表8】
【0239】
<負極シートの作製>
負極シートは、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて作製した。
【0240】
<正極シートの作製>
正極シートは、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて作製した。
【0241】
<電解液の調製>
特性評価用の電池に用いる電解液は、次のように調製した。温度25℃で露点-70℃以下に管理されたアルゴンボックス内で、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)の非水溶媒を後述する割合で調製し、これに電解質塩としてLiPFを溶解して電解液を調製した。
【0242】
<コイン電池の作製>
前述の方法で作製した負極片面シートを直径14mmの円形に打ち抜き、2t/cmの圧力でプレス加工した後、プレス加工した電極の重量を測定して、アルミニウム箔の重量(直径14mmの円形で8.5mg)を差し引いて、電極の活物質重量比90質量%を掛けることで、プレス加工した電極の活物質重量を算出した。その後、プレス加工した電極を120℃で5時間真空乾燥することによって評価電極を作製した。作製した評価電極と金属リチウム(厚み0.5mm、直径16mmの円形に成形したもの)をグラスフィルター(ADVANTEC製GA-100とワットマン製GF/Cの2枚重ね)を介して対向させ、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した、プロピレンカーボネート(PC):ジメチルカーボネート(DMC)=1:2(体積割合)の非水溶媒に、LiPFを1.0M溶解した非水電解液を加えて封止することによって、2032型コイン電池を作製した。
【0243】
<ラミネート電池の作製>
ラミネート電池は、室温25℃、露点-40℃以下に管理された部屋で次のようにして作製した。前記負極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する負極を作製した。前記正極両面シートを2t/cmの圧力でプレス加工した後、リード線接続部分を有する正極を作製した。作製した負極と正極は、150℃で12時間真空乾燥した。真空乾燥後の正極と負極を、セパレータ(宇部興産製、UP3085)を介して対向させ、積層し、アルミ箔のリード線を正極、負極それぞれに接続し、前述の<電解液の調製>にて説明した方法で調製した、エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:2(体積割合)の非水溶媒に、LiPFを1.3M溶解した非水電解液を加えてアルミラミネートで真空封止することで、評価用のラミネート電池を作製した。このとき電池の容量は1000mAhで負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量比)は1.1であった。
【0244】
<放電容量の測定>
25℃の恒温槽内にて、前述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池を用いて単極容量評価を行なった。なお、評価電極にLiが吸蔵される方向を充電とし、評価電極からLiが放出される方向を放電とした。電極の前処理として、0.2mA/cmの電流密度で1Vまで充電を行い、さらに1Vで充電電流が0.05mA/cmの電流密度になるまで充電させる定電流定電圧充電を行った後、0.2mA/cmの電流密度で2Vまで放電させる定電流放電を2サイクル行った。
【0245】
次に前処理で求めた容量値の1.0Cの電流で1Vまで充電した後、1.0Cの電流で2Vまで放電させて、放電容量を求めた。1.0Cの容量が大きいほど電池性能が良いと言える。
【0246】
<70℃200cyc発生ガス量の測定>
室温において前述の<ラミネート型電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート型電池の体積をアルキメデス法によって測定し、70℃の恒温槽内にて、設計容量の0.2Cの電流で2.2Vまで充電させる定電流充電を行った後、0.2Cの電流で1.5Vまで放電させる定電流放電を3サイクル繰り返した。
【0247】
次に、70℃の恒温槽内にて、1.0Cの電流で2.2Vまで充電させる定電流充電を行った後、1.0Cの電流で1.5Vまで放電させる定電流放電を、200サイクル繰り返すサイクル試験を行った。
【0248】
200サイクルのサイクル試験後、ラミネート型電池の体積をアルキメデス法によって測定し、ラミネート電池のサイクル試験後体積(以下、サイクル試験後体積と記すことがある)とした。サイクル試験後体積から初期体積を差し引いて、200サイクル試験後の発生ガス量(ml)(本明細書では、70℃200cyc発生ガス量と記すことがある)を求めた。以後、アルキメデス法で求めた発生ガス量を全ガス量と定義する。
【0249】
キャピラリガスクロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、商品名「GC-2010Plus」)を用いて、前記発生ガスの組成分析を行なった。なお、検量線は5種のスタンダードガス(ジーエルサイエンス株式会社製、「メタン:1.99%、一酸化炭素:1.98%、二酸化炭素:3.01%、(バランスガス:窒素)」、「メタン:1.07%、エタン:1.02%、プロパン:1.03%、ノルマルブタン:1.05%、イソブタン1.02%、二酸化炭素:1.02%(バランスガス:窒素)」、「エタン:1.01%、プロパン:1.02%、プロピレン:1.05%、ノルマルブタン:1.02%、イソブタン1.02%、エチレン:1.00%(バランスガス:窒素)」、「水素:21.1%、メタン:19.8%、二酸化炭素:10.7%(バランスガス:窒素)」、「純水素:99.99%」)と、空気を用いて作成した。上記のガス種が発生した全てのガス種であると仮定し、組成分析を行なった。求めた組成割合から全ガス量に含まれる水素ガスと、有機系ガス(水素ガス以外)の発生量を算出した。
【0250】
[実施例2-27]
実施例2-3に係るチタン酸リチウム粉末を用いて、[電池特性の評価]で<負極シートの作製>の際、アルミニウム箔に替えて、多孔質アルミニウムを集電体に用いた。上記と同様の条件で調製したスラリー中に多孔質アルミニウム集電体(空孔率91%、孔径300μm)を浸漬して、減圧を行った(-0.1MPa)。浸潰後、多孔質アルミニウム集電体の表裏面に付着した余分なスラリーをシリコンゴムヘラで除去し、乾燥して多孔質アルミニウム集電体負極を作製した。また、<コイン電池の作製>の際、プレス加工を2t/cmの圧力に替えて、0.8t/cmの圧力とした。負極密度の算出は集電体の厚さと質量(直径14mmの円形、20μm、8.5mg)を差し引く代わりに、集電体の質量のみ(直径14mmの円形、37mg)を差し引いた。それ以外は実施例2-1と同様に[電池特性の評価]を行った。
【0251】
[実施例2-28]
実施例2-5に係るチタン酸リチウム粉末を用いたこと以外は、実施例2-27と同様にして、コイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。
【0252】
実施例2-27、2-28の測定結果を実施例2-3、2-5と併せて表9に示す。
【0253】
【表9】
【0254】
<評価>
実施例2-1~2-26のチタン酸リチウム粉末を用いた電極(実施例2-1~2-26、および実施例2-27、2-28)は、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生が抑制されたものであった。一方、前記Lnを含有しないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-1、2-7、2-8)、前記Lnの含有量が少なすぎるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-2)、D1/Dtiの値が2.0を超えるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-4)、および、粒子表面において、前記Lnが検出できないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-6)には、高温動作時のガス発生が大きくなる結果となった。また、前記Lnの含有量が多すぎるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-3)には、充放電容量が小さくなる結果となり、比表面積が4m/g未満であるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例2-5)には、充放電容量が小さくなるとともに、高温動作時のガス発生が大きくなる結果となった。
【0255】
[第3の態様に係る実施例、比較例]
次に、第3の態様(局在化元素として、M1を含む態様)に係る実施例、比較例の製造条件を表10、表11、表12にまとめて記載する。
【0256】
【表10】
【0257】
【表11】
【0258】
【表12】
【0259】
[実施例3-1]
<原料調製工程>
Tiに対するLiの原子比Li/Tiが0.83になるように、LiCO(平均粒径:4.6μm)とアナターゼ型TiO(比表面積:10m/g)を秤量して得た原料粉末に、スラリーの固形分濃度が40質量%となるようにイオン交換水を加えて撹拌し原料混合スラリーを作製した。この原料混合スラリーを、ビーズミル(ウィリー・エ・バッコーフェン社製、形式:ダイノーミル KD-20BC型、アジテーター材質:ポリウレタン、ベッセル内面材質:ジルコニア)を使用して、ジルコニア製のビーズ(外径:0.65mm)をベッセルに80体積%充填し、アジテーター周速13m/s、スラリーフィード速度55kg/hrで、ベッセル内圧が0.02~0.03MPa以下になるように制御しながら処理して、原料粉末を湿式混合・粉砕した。
【0260】
<焼成工程>
得られた混合スラリーを、付着防止機構を備えたロータリーキルン式焼成炉(炉芯管長さ:4m、炉芯管直径:30cm、外部加熱式)を用い、焼成炉の原料供給側から炉心管内に導入し、窒素雰囲気中で乾燥し、焼成した。このときの、炉心管の水平方向からの傾斜角度を2度、炉心管の回転速度を20rpm、焼成物回収側から炉心管内に導入する窒素の流速を20L/分として、炉心管の加熱温度を、原料供給側:900℃、中央部:900℃、焼成物回収側:900℃とし、焼成物の900℃での保持時間を30分とした。
【0261】
<解砕工程>
炉心管の焼成物回収側から回収した焼成物を、ハンマーミル(ダルトン製、AIIW-5型)を使用して、スクリーン目開き:0.5mm、回転数:8,000rpm、粉体フィード速度:25kg/hrの条件で解砕した。
【0262】
<表面処理工程>
解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、処理剤3としてのモリブデン酸リチウム(LiMoO)を、解砕した焼成粉末に対して0.91質量%加え、混合スラリーを作製した。この混合スラリーを、撹拌しながら100℃に加温して乾燥させた。得られた乾燥粉末を、アルミナ製の匣鉢に入れ、メッシュベルト搬送式連続炉で、500℃で1時間熱処理した。熱処理後の粉末を、篩(目の粗さ:45μm)分けし、実施例3-1に係るチタン酸リチウム粉末を得た。
【0263】
[実施例3-2~3-5]
表面処理工程において、処理剤3としてのモリブデン酸リチウム(LiMoO)の添加量を表10に示すようにしたこと以外は、実施例3-1と同様に実施例3-2~3-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0264】
[実施例3-6~3-9]
表面処理工程において、熱処理温度を表10に示すような温度にしたこと以外は、実施例3-1と同様に実施例3-6~3-9に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0265】
[実施例3-10]
表面処理工程において、処理剤3として、モリブデン酸リチウムの代わりに、タングステン酸リチウム(LiWO)を、解砕した焼成粉末に対して1.37質量%加えたこと以外は、実施例3-1と同様に実施例3-10に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0266】
[実施例3-11~3-14]
表面処理工程において、処理剤3としてのタングステン酸リチウム(LiWO)を表10に示す添加量にて添加したこと以外は、実施例3-10と同様に実施例3-11~3-14に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0267】
[実施例3-15~3-18]
表面処理工程において、熱処理温度を表10に示すような温度にしたこと以外は、実施例3-10と同様に実施例3-15~3-18に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0268】
[実施例3-19]
実施例3-1と同様にして得られた、解砕した焼成粉末に、スラリーの固形分濃度が30質量%となるようにイオン交換水を加え撹拌し、解砕した焼成粉末に対して処理剤3としてのモリブデン酸リチウムを0.91質量%と、処理剤4としての硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)を0.6質量%とを同時に加え、混合スラリーを作製した。以降は実施例3-1と同様に実施例3-19に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0269】
[実施例3-20~3-32]
表面処理工程において、処理剤3としてのモリブデン酸リチウムの添加量と、処理剤4としての硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)の添加量を表11に示すようにしたこと以外は、実施例3-19と同様に実施例3-20~3-32に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0270】
[実施例3-33~3-46]
表面処理工程において、処理剤3としてのモリブデン酸リチウムの代わりに、タングステン酸リチウムを、表12に示す添加量にて添加し、処理剤4としての硫酸アルミニウム(硫酸アルミニウム・14~18水和物)の添加量を表12に示すようにしたこと以外は、実施例3-19と同様に実施例3-33~3-46に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0271】
[比較例3-1]
表面処理工程において、何も添加しなかったこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-1に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0272】
[比較例3-2、3-3]
表面処理工程において、処理剤3としてのモリブデン酸リチウムの添加量を表10に示すようにしたこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-2、3-3に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0273】
[比較例3-4]
表面処理工程において、熱処理温度を表10に示すような温度にしたこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-4に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0274】
[比較例3-5]
表面処理工程において、熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-5に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0275】
[比較例3-6~3-8]
表面処理工程において、処理剤3として、モリブデン酸リチウムの代わりに、タングステン酸リチウムを、表10に示す添加量にて添加し、熱処理温度を表10に示すような温度にしたこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-6~3-8に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0276】
[比較例3-9]
表面処理工程において、熱処理を行なわなかったこと以外は、実施例3-10と同様に比較例3-9に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0277】
[比較例3-10]
表面処理工程において、表11に示すような添加剤4のみを添加したこと以外は、実施例3-1と同様に比較例3-10に係るチタン酸リチウム粉末を製造した。
【0278】
[粉末物性の測定]
実施例3-1~3-46および比較例3-1~3-10のチタン酸リチウム粉末(以下、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末と記すことがある)の各種物性を以下のようにして測定した。実施例3-1~3-18および比較例3-1~3-9の測定結果を表13に、実施例3-19~3-32および比較例3-10の測定結果を実施例3-1および比較例3-1と併せて表14に、実施例3-33~3-46の測定結果を実施例3-10および比較例3-1、3-10と併せて表15に示す。
【0279】
<比表面積の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の比表面積(m/g)は、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様に測定した。
【0280】
<誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)>
誘導結合プラズマ発光分光分析装置(エスアイアイ・テクノロジー株式会社製、商品名「SPS5100」)を用いて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末に含まれる、元素を定量分析した。測定サンプルは、精秤した試料を硝酸とフッ化水素酸を入れて密栓し、マイクロ波を照射して加熱分解後、超純水で定容して検液として用いた。処理剤4を用いていない実施例3-1~3-18および比較例3-1~3-9では、元素M2は検出されなかった(検出量の下限は、0.001質量%)。ICP-AESから求めた元素の含有量の質量割合から、M1、M2、Ti元素のモル当たりの含有量CM1、CM2、CTi(モル%)を求め、その結果から、CM1とCTiとの比と、CM1とCM2との比であるCM1/CTi、CM2/CM1(モル%/モル%)を算出した。
【0281】
<カールフィッシャー法による水分量の測定>
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末の水分量は、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様に測定した。実施例3-1の前記25℃~200℃の水分量は471.6ppmであり、前記200℃~350℃の水分量は280.1ppmであり、実施例3-10の前記25℃~200℃の水分量は556.1ppmであり、前記200℃~350℃の水分量は147.5ppmであった。
【0282】
<X線回折測定>
また、上記各測定に加えて、各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末について、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、X線回折測定を行った。そして、LiTi12のメインピーク強度を100としたときの、前記のアナターゼ型二酸化チタン、ルチル型二酸化チタン、およびLiTiOのピーク強度の相対値を算出した。各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末は、前記ピーク強度の相対値の総和は5以下であり、これらの結晶相以外の相は検出されなかった。
【0283】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、M1およびTiの原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
前記M1を含有するチタン酸リチウム粉末を構成するチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により前記M1の原子濃度およびTiの原子濃度の測定を行った。測定方法は次のとおりである。
【0284】
チタン酸リチウム粒子を、エポキシ樹脂を用いてダミー基板と接着後、切断、補強リングに接着、研磨、ディンプリング、Arイオンミリングを行い、最後にカーボン蒸着を施し、薄片試料を調製した。
【0285】
得られた、チタン酸リチウム粒子の薄片試料における特定の位置の、前記Lnの原子濃度およびTiの原子濃度を、エネルギー分散型X線分光(EDS)法によって、次のようにして、測定した。日本電子製 JEM-2100F型電界放射型透過電子顕微鏡(Cs補正付)を使用し、加速電圧120kVで、薄片試料の断面を観察しながら、同顕微鏡付帯の日本電子製 UTW型Si(Li)半導体検出器を使用して、薄片試料表面の接線に対して、その接点から垂直に引いた直線の線上にあって、試料の表面から内部に向かって1nmの位置と、表面から内部に向かって100nmの位置における前記M1の原子濃度およびTiの原子濃度を測定した。なお、ビーム径、すなわち分析領域を直径0.2nmの円とした。なお、本測定における、検出量の下限は0.5atm%であった。また、得られた結果より、E1/Etiを算出した。
【0286】
<X線光電子分光(XPS)>
また、実施例3-1,3-10,3-21,3-35について、走査型X線光電子分光装置(アルバック・ファイ株式会社 PHI5000型 Versaprobe III)を使用して、X線光電子分光分析(XPS)を行った。X線源はAlKα、500W、モノクロを用いた。実施例3-21,3-35はAlを測定するため、X線源はMgKα、500W、モノクロを用いた。実施例3-1,3-10,3-21,3-35のチタン酸リチウム粉末をΦ5mmで均一で平らになるように試料台に乗せ、分析領域を0.4×0.4mm、光電子脱出角度を45度として実施例3-1,3-10,3-21,3-35のチタン酸リチウム粉末の表面に存在する元素を分析した。測定結果はTi2p3のピークが458.8eVとなるよう補正した。スムージングはsavitzky-golay法を用い11ポイントで行い、バックグラウンド補正はshirley法を用いた。ワイドスペクトルで検出された全元素のナロースペクトル(タングステン(W4d5/2)の場合は240~255eV、モリブデン(Mo3d)の場合は230~240eV、アルミニウム(Al2s)の場合は113~128eV)からピーク面積を求めて、アルバック・ファイ社の相対感度係数を用いて、各元素の表面原子濃度(原子%)を算出した。処理剤4を用いていない実施例3-1,3-10では、Alは検出されなかった。またタングステンのナロースペクトルのW4d5/2のピークトップの位置、およびモリブデンのナロースペクトルのMo3dのピークトップの位置を求め、タングステンおよびモリブデンの化学結合状態を調べた。
【0287】
<チタン酸リチウム粒子の断面の、M2の原子濃度(走査透過型電子顕微鏡(STEM))>
上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、実施例3-21,3-35のチタン酸リチウム粒子について、走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用いた前記チタン酸リチウム粒子の断面分析を行い、エネルギー分散型X線分光(EDS)法により、M2の原子濃度の測定を行った。
【0288】
[電池特性の評価]
各実施例、各比較例のチタン酸リチウム粉末を用いてコイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。実施例3-1~3-18および比較例3-1~3-9の評価結果を表13に、実施例3-19~3-32および比較例3-10の測定結果を実施例3-1および比較例3-1と併せて表14に、実施例3-33~3-46の測定結果を実施例3-10および比較例3-1、3-10と併せて表15に示す。
また、表16に、実施例3-1,3-10,3-21,3-35のX線光電子分光分析(XPS)の結果、およびM2の原子濃度の測定結果を示す。
【0289】
【表13】
【0290】
【表14】
【0291】
【表15】
【0292】
【表16】
【0293】
<負極シートの作製>
負極シートは、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて作製した。
【0294】
<正極シートの作製>
正極シートは、上述した第1の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて作製した。
【0295】
<コイン電池の作製>
上述した第2の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、2032型コイン電池を作製した。
【0296】
<ラミネート電池の作製>
上述した第2の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、評価用のラミネート電池を作製した。このとき電池の容量は1000mAhで負極と正極の容量の比(負極容量/正極容量比)は1.1であった。
【0297】
<放電容量の測定>
上述した第2の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、前述の<コイン電池の作製>で説明した方法で作製したコイン型電池を用いて単極容量評価を行なった。
【0298】
<70℃200cyc発生ガス量の測定>
上述した第2の態様に係る実施例、比較例と同様の方法にて、室温において前述の<ラミネート型電池の作製>で説明した方法で作製したラミネート型電池について、サイクル試験を行い、200サイクル試験後の発生ガス量(ml)を求めた。
【0299】
[実施例3-47]
実施例3-5に係るチタン酸リチウム粉末を用いて、[電池特性の評価]で<負極シートの作製>の際、アルミニウム箔に替えて、多孔質アルミニウムを集電体に用いた。上記と同様の条件で調製したスラリー中に多孔質アルミニウム集電体(空孔率91%、孔径300μm)を浸漬して、減圧を行った(-0.1MPa)。浸潰後、多孔質アルミニウム集電体の表裏面に付着した余分なスラリーをシリコンゴムヘラで除去し、乾燥して多孔質アルミニウム集電体負極を作製した。また、<コイン電池の作製>の際、プレス加工を2t/cmの圧力に替えて、0.8t/cmの圧力とした。負極密度の算出は集電体の厚さと質量(直径14mmの円形、20μm、8.5mg)を差し引く代わりに、集電体の質量のみ(直径14mmの円形、37mg)を差し引いた。それ以外は実施例3-1と同様に[電池特性の評価]を行った。
【0300】
[実施例3-48]
実施例3-14に係るチタン酸リチウム粉末を用いたこと以外は、実施例3-47と同様にして、コイン電池およびラミネート電池を作製し、それらの電池特性を評価した。
【0301】
実施例3-47、3-48の測定結果を実施例3-5、3-14と併せて表17に示す。
【0302】
【表17】
【0303】
<評価>
実施例3-1~3-46のチタン酸リチウム粉末を用いた電極(実施例3-1~3-46、および実施例3-47、3-48)は、充放電容量が大きく、高温動作時のガス発生が抑制されたものであった。一方、前記M1を含有しないチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3-1、3-10)、前記M1の含有量が少なすぎるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3-2、3-6)、E1/Etiが大きすぎるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3-5、3-9)には高温動作時のガス発生量は多くなった。また、前記M1の含有量が多すぎるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3-3、3-7)、比表面積が4m/g未満であるチタン酸リチウム粉末を用いた場合(比較例3-4、3-8)には充放電容量が小さくなる結果となった。