(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】光学材料用組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 75/08 20060101AFI20220524BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20220524BHJP
C07D 331/02 20060101ALI20220524BHJP
C08G 59/14 20060101ALN20220524BHJP
【FI】
C08G75/08
G02B1/04
C07D331/02
C08G59/14
(21)【出願番号】P 2018568128
(86)(22)【出願日】2018-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2018004015
(87)【国際公開番号】W WO2018150951
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017027502
(32)【優先日】2017-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】西森 慶彦
(72)【発明者】
【氏名】今川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】竹村 紘平
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 良亮
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/105320(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/073613(WO,A1)
【文献】特開2011-231185(JP,A)
【文献】特開平09-071580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G75/00~ 75/32
C08L 1/00~101/14
C08K 3/00~ 13/08
G02B 1/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物総量に対して、
下記式(1)で表される化合物(A)
30~80質量%;
下記式(2)で表される化合物(B) 0~70質量%;
ポリチオール(a)
0.1~20質量%;及び
硫黄 0~25質量%;
を含有し、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない、光学材料用組成物。
【化7】
(式中、mは0~4の整数を示し、nは0~2の整数を示す。)
【請求項2】
硫黄を含有する、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
化合物(B)を含有する、請求項1
または2に記載の組成物。
【請求項4】
ポリチオール(a)は、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン、メタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、及びチイランメタンチオールから選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載の組成物を硬化した光学材料。
【請求項6】
請求項
5に記載の光学材料を含む光学レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター、及び、接着剤等の光学部品、中でも眼鏡用プラスチックレンズ等の光学レンズに用いられる光学材料用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学材料、中でも眼鏡レンズに要求されるプラスチック材料の主な性能は、耐熱性、低比重、高透明性および低黄色度、ならびに高屈折率および高アッベ数などの光学性能であり、近年、高屈折率と高アッベ数を達成する為にポリエピスルフィド化合物を含有する光学材料用重合性組成物が提案されている(特許文献1~3)。
また、眼鏡レンズ等の光学レンズには意匠性、耐久性、及び光学特性の向上を目的として、染色、ハードコート、及び、反射防止コートが施される。それらを施す工程において光学材料は高温にさらされ、熱変形に起因する問題が起こることがある。そのため光学材料の耐熱性の向上が望まれている。光学材料の高屈折率化や色調安定性を向上する目的で光学材料用組成物に種々のコモノマーの添加が行われている。
しかしながら、コモノマーの添加によって重合後に得られる光学材料の架橋密度が低下して耐熱性が悪化する傾向があり、耐熱性の面からコモノマーの添加量が限られ、光学材料の特性の向上可能な範囲が限定されてしまう課題がある。基準となる耐熱性を向上することでコモノマーの添加許容量を増加させ、広範な物性を持つ光学材料を設計可能となる光学材料用組成物が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-298287号公報
【文献】特開2001-002933号公報
【文献】特開2010-242093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐熱性が向上した、広範な物性を持つ光学材料を設計可能となる光学材料用組成物を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、下記式(1)で表される化合物及びポリチオール(a)を含有する特定の組成物により広範な物性を持つ光学材料を設計可能であることを見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0006】
[1] 下記式(1)で表される化合物(A)及びポリチオール(a)を含有し、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない、光学材料用組成物。
【化3】
[2] 化合物(A)の含有量が、組成物総量に対して、20~80質量%である、[1]に記載の組成物。
[3] さらに硫黄を含有する、[1]または[2]に記載の組成物。
[4] さらに下記式(2)で表される化合物(B)を含有する、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
【化4】
(式中、mは0~4の整数を示し、nは0~2の整数を示す。)
[5] 化合物(B)の含有量が、組成物総量に対して、0~70質量%である、[4]に記載の
組成物。
[6] ポリチオール(a)は、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン、メタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、及びチイランメタンチオールから選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7] 組成物総量に対して、
化合物(A) 20~80質量%;
化合物(B) 0~70質量%;
ポリチオール(a) 0.1~20質量%;及び
硫黄 0~25質量%;
を含有する[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[7a] 組成物総量に対して、
化合物(A) 20~80質量%;
化合物(B) 0~70質量%;
ポリチオール(a) 0.1~20質量%;
硫黄 0~25質量%;
重合触媒 0~10質量%;及び
重合調整剤 0~5質量%
を含有する[1]~[7]のいずれかに記載の組成物。
[8] [1]~[7]、[7a]のいずれかに記載の組成物を硬化した光学材料。
[9] [8]に記載の光学材料を含む光学レンズ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の光学材料用組成物は以下の一以上の効果を有する。
(1)本発明の光学材料用組成物を用いることで耐熱性が向上し、コモノマーの添加許容量を増加させ、広範な物性を持つ光学材料を設計可能となる。
(2)優れた耐熱性および高屈折率を両立する光学材料が得られ得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0009】
本発明の一形態は、下記式(1)で表される化合物(A)及びポリチオール(a)を含有し、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない、光学材料用組成物に関する。
【化3】
本形態の光学材料用組成物は、必要に応じて、化合物(B)、硫黄、および重合触媒などの他の成分を含有する。
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0010】
[化合物(A)]
化合物(A)は、下記式(1)で表される4つのチオエポキシ基を有するチオエーテル化合物であり、光学材料の屈折率と耐熱性を高める効果がある。
【化4】
この化合物の入手方法は特に限定されないが、例えば、テトラメルカプトペンタエリスリトールを原料として特開平09-110979記載の方法にて合成可能であり好適に用いることができる。
【0011】
光学材料用組成物中の化合物(A)の割合は、組成物総量に対して、0.1~99.5質量%であり、好ましくは3~90質量%、より好ましくは5~90質量%、さらに好ましくは10~90質量%、一層好ましくは20~90質量%であり、特に好ましくは20~80質量%であり、最も好ましくは30~80質量%である。この範囲にあることで、十分な耐熱性向上効果を得ることができる。
【0012】
[ポリチオール(a)]
ポリチオール(a)は、1分子あたりメルカプト基を2つ以上有するチオール化合物である。ポリチオール(a)は本発明の光学材料用組成物から得られる樹脂の加熱時の色調を改善させる効果がある。
本発明において使用されるポリチオールは特に限定されないが、色調改善効果が高いことから、好ましい具体例として、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン、メタンジチオール、(スルファニルメチルジスルファニル)メタンチオール、ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、1,2-ビス(2-メルカプトエチルチオ)-3-メルカプトプロパン、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、テトラメルカプトペンタエリスリトール、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、及びチイランメタンチオールが挙げられ、特にビス(2-メルカプトエチル)スルフィド、1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタンが好ましい。これらは市販品や公知の方法により合成した物が使用可能であり、また2種以上を併用することができる。これらは市販品や公知の方法により合成した物が使用可能であり、また2種以上を併用することができる。
【0013】
光学材料用組成物においてポリチオール(a)の割合は、組成物総量に対して、好ましくは0.1~25質量%、より好ましくは0.1~20質量%であり、さらに好ましくは0.5~20質量%であり、特に好ましくは0.5~15質量%であり、最も好ましくは0.5~10質量%である。この範囲にあることで、色調安定効果と耐熱性とのバランスがよくなる。
【0014】
[1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)]
本発明の光学材料用組成物は1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない。1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)は、下記式(b)で表される化合物である。
【化5】
なお、「1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない」とは、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を光学材料用組成物に意図的に添加しないことを意味し、以下の態様を含む:
1)本発明の光学材料用組成物中に1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)が全く存在しない;及び
2)本発明の光学材料用組成物中に1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)が実質的に存在しない。
「1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)が実質的に存在しない」とは、典型的には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析において、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)の含有量が、組成物総量に対して1ppm未満であることをいい、好ましくは、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)の存在が検出されない(検出限界以下である)ことをいう。HPLCによる分析は、例えば下記方法により行うことができる。
[HPLC分析方法]
カラムオーブン温度:40℃
カラム:一般財団法人化学物質評価研究機構製 VP-ODS、カラムサイズ4.6φ×150mm)
溶離液:アセトニトリル/蒸留水(容積比)=50/50
溶液調製:サンプル5mgを0.1%ギ酸溶液(アセトニトリル溶媒)10mlで希釈し分析試料とする。
【0015】
1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有せず、化合物(A)とポリチオール(a)とを含有する構成とすることにより、耐熱性が向上した硬化物が得られる。
【0016】
[化合物(B)]
光学材料用組成物は必要に応じて化合物(B)を含んでもよい。化合物(B)は、下記式(2)で表される、2つのエピスルフィド基を有するエピスルフィド化合物である。化合物(B)は化合物(A)と共重合可能であり、化合物(A)とともに用いることで硬化反応性を高める効果がある。
【化6】
(式中、mは0~4の整数を示し、nは0~2の整数を示す。)
【0017】
中でもビス(β-エピチオプロピル)スルフィドおよびビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィドが好ましく、ビス(β-エピチオプロピル)スルフィドが特に好ましい。ビス(β-エピチオプロピル)スルフィドは上記式(2)においてm=n=0の化合物に相当し、ビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィドは上記式(2)においてm=0かつn=1である化合物に相当する。
【0018】
光学材料用組成物中の化合物(B)の含有量は、組成物総量に対して、0~70質量%であり、好ましくは0~60質量%、より好ましくは0~50質量%である。この範囲にあることで、耐熱性を確保しつつ、硬化反応性を向上し得る。
【0019】
化合物(A)と化合物(B)のと質量比(化合物(A):化合物(B))は、20:80~100:0であることが好ましく、30:70~100:0であることがより好ましく、40:60~100:0であることがさらに好ましい。この範囲にあることで、高い屈折率を維持しつつ耐熱性を向上し得る。
【0020】
[硫黄]
光学材料用組成物は必要に応じて硫黄を含んでもよい。硫黄は本発明の光学材料用組成物から得られる光学材料(樹脂)の屈折率を向上させる効果がある。
本発明で用いる硫黄の形状はいかなる形状でもかまわない。具体的には、硫黄としては、微粉硫黄、コロイド硫黄、沈降硫黄、結晶硫黄、昇華硫黄等が挙げられ、溶解速度の観点から好ましくは、粒子の細かい微粉硫黄である。
本発明に用いる硫黄の粒径(直径)は10メッシュより小さいことが好ましい。硫黄の粒径が10メッシュより大きい場合、硫黄が完全に溶解しにくい。硫黄の粒径は、30メッシュより小さいことがより好ましく、60メッシュより小さいことが最も好ましい。
本発明に用いる硫黄の純度は、好ましくは98%以上であり、より好ましくは99.0%以上であり、さらに好ましくは99.5%以上であり、最も好ましくは99.9%以上である。硫黄の純度が98%以上であると、98%未満である場合に比べて、得られる光学材料の色調がより改善する。
上記条件を満たす硫黄は、市販品を容易に入手可能であり、好適に用いることができる。
【0021】
光学材料用組成物において硫黄の割合は、組成物総量に対して、0~40質量%(例えば1~40質量%)であり、好ましくは0~30質量%(例えば5~30質量%、10~30質量%)、より好ましくは0~25質量%(例えば5~25質量%)であり、特に好ましくは0~20質量%(例えば5~20質量%)である。この範囲にあることで、屈折率向上効果と溶解性のバランスに優れるためである。
【0022】
好ましい光学材料用組成物の組成の一例は、以下の通りである。
組成物総量に対して、
化合物(A) 20~80質量%(より好ましくは30~80質量%);
化合物(B) 0~70質量%(より好ましくは0~60質量%);
ポリチオール(a) 0.1~20質量%(より好ましくは0.5~10質量%);及び
硫黄 0~25質量%(より好ましくは0~20質量%);
を含有し、
1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない(例えば、HPLCによる分析において1ppm未満)、
光学材料用組成物。
好ましい光学材料用組成物の組成の他の一例は、以下の通りである。
組成物総量に対して、
化合物(A) 20~80質量%(より好ましくは30~80質量%);
化合物(B) 0~70質量%(より好ましくは0~60質量%);
ポリチオール(a) 0.1~20質量%(より好ましくは0.5~10質量%);
硫黄 0~25質量%(より好ましくは0~20質量%);
重合触媒 0~10質量%(より好ましくは0~5質量%);及び
重合調整剤 0~5質量%(より好ましくは0.0001~5.0質量%)
を含有し、
1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しない(例えば、HPLCによる分析において1ppm未満)、
光学材料用組成物。
【0023】
[その他の成分]
また、本発明の光学材料用組成物は、化合物(A)と共重合可能な他の重合性化合物を含んでも良い。
他の重合性化合物としては、化合物(A)および化合物(B)以外のエピスルフィド化合物、ビニル化合物、メタクリル化合物、アクリル化合物、及びアリル化合物が挙げられる。
他の重合性化合物の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、組成物総量に対して、0~30質量%である。
【0024】
また、耐酸化性、耐候性、染色性、強度及び屈折率等の各種性能改良を目的として、各種性能改良剤として、本発明の組成成分(組成成分を予備重合反応させて得られる重合物を含む)の一部もしくは全部と反応可能な化合物を添加して、重合硬化する事も可能である。
このような組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物の具体例としては、エポキシ化合物類、イソ(チオ)シアネート類、カルボン酸類、カルボン酸無水物類、フェノール類、アミン類、ビニル化合物類、アリル化合物類、アクリル化合物類、及びメタクリル化合物類が挙げられる。これらの化合物の添加量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、組成物総量に対して、0~10質量%である。
【0025】
また、重合硬化のために光学材料用組成物は公知の重合触媒および/または重合調節剤を含んでもよい。一形態の光学材料用組成物は重合触媒をさらに含む。
一形態の光学材料用組成物は重合触媒をさらに含む。
重合触媒としては、例えば、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類、第3級スルホニウム塩類、第2級ヨードニウム塩類、鉱酸類、ルイス酸類、有機酸類、ケイ酸類、四フッ化ホウ酸類、過酸化物、アゾ化系合物、アルデヒドとアンモニア系化合物の縮合物、グアニジン類、チオ尿素類、チアゾール類、スルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類、酸性リン酸エステル類等を挙げることができる。好ましくは、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類である。重合触媒は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
重合触媒の添加量は、特に制限されず、例えば、組成物総量に対して、0.0001~10質量%である。
一形態の光学材料用組成物は重合調整剤をさらに含む。
重合調整剤は、長期周期律表における第13~16族のハロゲン化物を挙げることができる。これらのうち好ましいものは、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物であり、より好ましいものはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。重合調整剤は単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
重合調整剤の添加量は、特に制限されず、例えば、組成物総量に対して、0.0001~5.0質量%である。
【0026】
また、公知の酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤、密着性改善剤及び離型性改善剤等の添加剤を添加することもできる。これらの添加剤の量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に制限されず、例えば、組成物総量に対して、0~10質量%である。
【0027】
[光学材料用組成物]
本発明の光学材料用組成物は、化合物(A)、ポリチオール(a)、及び、必要に応じて、化合物(B)、硫黄、及びその他の成分を均一な状態に混合することにより調製される。
【0028】
[光学材料用組成物の硬化]
光学材料用組成物はモールド等の型に注型し、重合させることで光学材料とすることができる。光学材料用重合性組成物をモールドに注入する前にあらかじめ脱気処理を行うことは、光学材料の高度な透明性を達成する面から好ましい。
本発明の光学材料用組成物の注型に際し、0.1~5μm程度の孔径のフィルター等で不純物を濾過し除去することは、本発明の光学材料の品質を高める点から好ましい。
【0029】
本発明の光学材料用組成物の重合(硬化)は通常以下の条件で行われる。
硬化時間は通常1~100時間であり、硬化温度は通常-10℃~140℃である。重合(硬化)は所定の重合温度で所定時間保持する工程、0.1℃~100℃/hの昇温を行う工程、0.1℃~100℃/hの降温を行う工程によって、又はこれらの工程を組み合わせて行う。なお、硬化時間とは昇温過程・降温過程等を含めた重合硬化時間をいい、所定の重合(硬化)温度で保持する工程に加えて、所定の重合(硬化)温度へと昇温・冷却する工程を含む。
また、硬化終了後、得られた光学材料を50~150℃の温度で10分~5時間程度アニール処理を行うことは、本発明の光学材料の歪を除くために好ましい。さらに得られた光学材料に対して、必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等の表面処理を行ってもよい。
【0030】
上記のとおり、上記光学材料用組成物を重合硬化することで光学材料を製造することができる。本発明は、上記光学材料用組成物を重合硬化することを含む光学材料の製造方法をも包含するものである。
さらに、上記光学材料用組成物を硬化して得られる光学材料(成形体;硬化物;硬化樹脂)もまた、本発明に包含される。
【0031】
本発明の光学材料用組成物は、化合物(A)およびポリチオール(a)を含有し、かつ、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含有しないことにより、優れた耐熱性を達成でき、その他のコモノマーの添加による耐熱性低下の影響を低減できる。したがって、光学材料用組成物に種々のコモノマーを配合し、かつ、その配合量を増加させることが可能であり、これにより広範な物性を持つ光学材料の設計が可能となる。
特に、本発明の一実施形態の光学材料用組成物は、高い屈折率を維持しつつ、耐熱性に特に優れた光学材料を与えることができる。
【0032】
光学材料用組成物を硬化させた際の光学材料の屈折率は、1.70以上であることが好ましく、1.72以上であることがより好ましく、1.73以上であることが特に好ましい。屈折率は屈折率計により測定することができ、25℃、e線(波長546.1nm)で測定した値である。
光学材料の耐熱性としては、光学材料を昇温した際に軟化点が存在しないか、あるいは軟化点が、50℃以上であることが好ましく、60℃以上がより好ましく、65℃以上が特に好ましい。軟化点はTMA(熱機械分析)により測定できる。TMA曲線の温度微分曲線であるDTMAのピーク値が小さいほど熱による軟化が起こりにくいため好ましく、DTMAのピーク値が、1.5μm/℃以下であることが好ましく、1μm/℃以下であることがより好ましい。
【0033】
本発明の光学材料は、例えば、光学部材、機械部品材料、電気・電子部品材料、自動車部品材料、土木建築材料、成形材料等の他、塗料や接着剤の材料等の各種用途に有用である。中でも、光学材料、例えば、眼鏡レンズ、(デジタル)カメラ用撮像レンズ、光ビーム集光レンズ、光拡散用レンズ等のレンズ、LED用封止材、光学用接着剤、光伝送用接合材料、光ファイバー、プリズム、フィルター、回折格子、ウォッチガラス、表示装置用のカバーガラス等の透明ガラスやカバーガラス等の光学用途;LCDや有機ELやPDP等の表示素子用基板、カラーフィルター用基板、タッチパネル用基板、情報記録基板、ディスプレイバックライト、導光板、ディスプレイ保護膜、反射防止フィルム、防曇フィルム等のコーティング剤(コーティング膜)などの表示デバイス用途等が好適である。上記光学材料としては、特に、光学レンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター等の光学材料、中でも光学レンズが好適である。
本発明の光学材料用組成物を用いて製造される光学レンズは、安定性、色相、透明性などに優れるため、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等、従来、高価な高屈折率ガラスレンズが用いられていた分野に用いることができ、極めて有用である。必要に応じて、非球面レンズの形で用いることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて適宜実施形態を変更することができる。
【0035】
光学材料の分析・評価は以下の方法で行った。
[光学材料の屈折率]
光学材料の屈折率はデジタル精密屈折率計(株式会社島津製作所製、KPR-2000)を用い、25℃におけるe線の屈折率を測定した。
[光学材料の耐熱性評価]
サンプルを厚さ3mmに切り出し、0.5mmφのピンに50gの荷重を与え、10℃/分で昇温してTMA測定(セイコーインスツルメンツ製、TMA/SS6100)を行って、得られたTMA曲線の温度微分曲線であるDTMAのピーク温度、及びDTMAピーク値により評価を行った。
このDTMAピーク値が小さいほど熱による軟化が起こりにくく耐熱性が高いと評価される。特にピーク値が負、またはピークが無い場合は軟化点無しとした。DTMDTMAピーク値が1.0以下のものをA、1.0を超えて1.5以下であるものをB、DTMAピーク値が1.5を超えるものCとして評価した。
【0036】
[合成例1]
テトラメルカプトペンタエリスリトール10.0g(0.050mol)にメタノール50mLを加え、5℃に冷却した。その溶液に48%水酸化ナトリウム水溶液0.42g(0.0049mol)を加えた後、溶液を15℃以下に保ちながらエピクロロヒドリン20.3g(0.22mol)を滴下した。滴下終了後、更に1時間5℃で撹拌を行った。
その後、溶液を5℃に冷却しつつ、48%水酸化ナトリウム水溶液16.3g(0.20mol)をメタノール20mLに溶かした溶液を滴下した。滴下終了後更に2時間撹拌を行い、トルエン100mLおよび水100mLを加えた。トルエン層を3回水洗し、溶媒を留去してテトラキス(β-エポキシプロピルチオメチル)メタン20.1g(0.047mol)を得た。
得られたテトラキス(β-エポキシプロピルチオメチル)メタン20.1g(0.047mol)にトルエン100mL、メタノール100mL、無水酢酸1.24g(0.012mol)、およびチオ尿素30.5g(0.40mol)を加えて、20℃で24時間撹拌を行った。その後、トルエン400mLおよび5%硫酸400mLを加えてトルエン層を3回水洗し、溶媒を留去することで16.8gのテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタンの粗製物を得た。粗製物を更にシリカゲルカラム精製を行うことで11.2g(0.023mol)のテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタン(以下、化合物A1と称する)を得た。
以下の実験で用いた化合物A1はこの方法で合成したものである。
【0037】
[実施例1]
化合物(A)であるテトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタン(化合物A1)80質量部、(a)化合物としてビス(2-メルカプトエチル)スルフィド(化合物a1)20質量部及び重合触媒としてテトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド0.02質量部及び重合調整剤としてジ-n-ブチルスズジクロライド0.05質量部を混合しながら真空脱気を行い、光学材料用組成物を得た。
得られた光学材料用組成物を30℃で10時間加熱し、100℃まで10時間かけて昇温させ、最後に100℃で5時間加熱し、重合硬化させた。放冷後、120℃で30分アニール処理を行った。得られた光学材料の評価を表1にまとめた。
【0038】
[実施例2~11、比較例1~4]
表1に示される組成に従い、実施例1と同様の操作を行うことにより、光学材料を得た。
得られた光学材料の評価を表1にまとめた。
【0039】
【0040】
なお、表中の数値は、組成物中の化合物の含有量(質量部)を示す。また、表中の数値と併記したa1~a3およびB1、B2の表記は使用した化合物を示す。表中の化合物としては、以下のものを使用した。
A1:テトラキス(β-エピチオプロピルチオメチル)メタン
a1:ビス(2-メルカプトエチル)スルフィド
a2:1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン
a3:1,2,6,7-テトラメルカプト-4-チアへプタン
B1:ビス(β-エピチオプロピル)スルフィド
B2:ビス(β-エピチオプロピル)ジスルフィド
なお、化合物a3は、例えば、特開2005-263791号記載の方法で合成可能である。
【0041】
上記表1から、式(1)で表される化合物(A)およびポリチオール(a)、ならびに必要に応じて化合物(B)および/または硫黄を含み、1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含まない光学材料用組成物を用いた場合(実施例1~11)には、高い屈折率を維持しつつ優れた耐熱性を有する光学材料が得られることが確認される。
一方、化合物(A)を含まない比較例1,3,4や1,2,3,5,6-ペンタチエパン(b)を含む比較例2では、耐熱性に劣ることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の光学材料用組成物を重合硬化した硬化物は、プラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、情報記録基盤、フィルター、及び、接着剤などの光学材料として好適に用いることができる。