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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20220524BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/145 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019054067
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020156003
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永友 翔
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/086639(WO,A1)
【文献】特開2012-169760(JP,A)
【文献】国際公開第2013/047433(WO,A1)
【文献】特開2014-175885(JP,A)
【文献】特開2006-013576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高音速部材と、
前記高音速部材上に積層されており、タンタル酸リチウムからなる圧電層と、
前記圧電層上に設けられたIDT電極とを備え、
前記高音速部材を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも高く、
前記高音速部材を伝搬する速い横波バルク音速Vsubが、下記の式(1)から求められるSH0モードの音速Vsh0と、SH0モード以上の音速を有するスプリアスとなるモードの音速Vspに対し、Vsh0≦Vsub≦Vspである、弾性波装置。
【数1】

式(1)において、VmodeはVsh0またはVspであり、Vsh0及びVspの場合の係数は下記の表1に示す通りであり、λは、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長であり、piezoは圧電層の膜厚(λ)であり、TはIDT電極の膜厚(λ)であり、θは圧電層の第2オイラー角(°)であり、YはIDT電極のヤング率(GPa)であり、ρはIDT電極の密度(g/cm)である。
【表1】
【請求項2】
高音速部材と、
前記高音速部材上に積層されており、シリコン酸化物からなる中間層と、
前記中間層上に積層されており、タンタル酸リチウムからなる圧電層と、
前記圧電層上に設けられたIDT電極とを備え、
前記高音速部材を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも高く、
前記高音速部材を伝搬する速い横波バルク音速Vsubが、下記の式(2)から求められるSH0モードの音速Vsh0と、SH0モード以上の音速を有するスプリアスとなるモードの音速Vspに対し、Vsh0≦Vsub≦Vspである、弾性波装置。
【数2】

式(2)において、VmodeはVsh0またはVspであり、Vsh0及びVspの場合の係数は下記の表2に示す通りであり、λは、前記IDT電極の電極指ピッチで定まる波長であり、piezoは圧電層の膜厚(λ)であり、Tintは中間層の膜厚(λ)であり、TはIDT電極の膜厚(λ)であり、θは圧電層の第2オイラー角(°)であり、YはIDT電極のヤング率(GPa)であり、ρはIDT電極の密度(g/cm)である。
【表2】
【請求項3】
前記タンタル酸リチウムのカット角が、YカットX伝搬で、-10°~+65°の範囲内にある、請求項1または2に記載の弾性波装置。
【請求項4】
前記IDT電極と、前記圧電層との間に、Al、MgO、BeO、HfO、AlN、SiN、TiN、ZrN、SiC、TiC、DLC、BC、TiB、ZrB及びNbBからなる群から選択された少なくとも1種の誘電体が配置されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高音速部材上にタンタル酸リチウムからなる圧電層が直接または間接に積層されている弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンタル酸リチウムからなる、薄い圧電層を有する弾性波装置が提案されている。下記の特許文献1に記載の弾性波装置では、高音速部材、低音速膜、圧電膜及びIDT電極がこの順序で積層されている。高音速部材及び低音速膜を用いることにより、圧電膜に弾性波を閉じ込めることが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2012/086639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性波装置では、上記積層構造を有するため、Q特性を改善することが可能とされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の弾性波装置では、IDT電極に用いる金属の密度、ヤング率、膜厚によっては帯域外にスプリアスが生じることがあった。
【0006】
本発明の目的は、帯域外スプリアスが小さい弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の発明は、高音速部材と、前記高音速部材上に積層されており、タンタル酸リチウムからなる圧電層と、前記圧電層上に設けられたIDT電極とを備え、前記高音速部材を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも高く、前記高音速部材を伝搬する速い横波バルク音速Vsubが、下記の式(1)から求められるSH0モードの音速Vsh0と、SH0モード以上の音速を有するスプリアスとなるモードの音速Vspに対し、Vsh0≦Vsub≦Vspである、弾性波装置である。
【0008】
【数1】
【0009】
式(1)において、Vsh0及びVspの場合の係数は下記の表1に示す通りである。
【0010】
【表1】
【0011】
本願の第2の発明は、高音速部材と、前記高音速部材上に積層されており、シリコン酸化物からなる中間層と、前記中間層上に積層されており、タンタル酸リチウムからなる圧電層と、前記圧電層上に設けられたIDT電極とを備え、前記高音速部材を伝搬するバルク波の音速が、前記圧電層を伝搬する弾性波の音速よりも高く、前記高音速部材を伝搬する速い横波バルク音速Vsubが、下記の式(2)から求められるSH0モードの音速Vsh0と、SH0モード以上の音速を有するスプリアスとなるモードの音速Vspに対し、Vsh0≦Vsub≦Vspである、弾性波装置である。
【0012】
【数2】
【0013】
式(2)において、Vsh0及びVspの場合の係数は下記の表2に示す通りである。
【0014】
【表2】
【発明の効果】
【0015】
本願の第1及び第2の発明によれば、帯域外スプリアスを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図であり、(b)は、第1の実施形態に係る弾性波装置の平面図である。
図2】第1の実施形態についての実施例1の弾性波装置と、比較例1の弾性波装置のインピーダンス特性を示す図である。
図3】本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。
図4】第2の実施形態についての実施例2の弾性波装置と、比較例2の弾性波装置のインピーダンス特性を示す図である。
図5】本発明の第3の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。
図6】第3の実施形態についての実施例3の弾性波装置と、実施例2の弾性波装置のインピーダンス特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0018】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0019】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図であり、(b)は、その平面図である。
【0020】
弾性波装置1は、高音速部材2としてSi支持基板を有する。高音速部材2上に、LiTaO層である圧電層3が積層されている。圧電層3上に、IDT電極4および反射器5,6が設けられている。それによって、弾性波共振子が構成されている。
【0021】
IDT電極4の電極指ピッチで定まる波長をλとしたときに、圧電層3の厚みは1λ以下とされている。このような、非常に薄い圧電層3であっても、高音速部材2上に積層されているため、弾性波を圧電層3に閉じ込めることが可能とされている。すなわち、高音速部材2は、Siのような高音速材料からなる。高音速材料を伝搬するバルク波の音速は、圧電層3を伝搬する弾性波の音速よりも高い。したがって、弾性波を圧電層3に閉じ込めることが可能とされている。
【0022】
IDT電極4及び反射器5,6は、様々な金属もしくは合金からなる。このような金属としては、Ni、Cr、Nb、Mo、Ru、W、Ir及びこれらの金属を主体とする合金からなる群から選択された少なくとも1種の金属が好適に用いられる。その場合には、電気機械結合係数及びQ値の双方を高くすることができる。
【0023】
また、IDT電極4及び反射器5,6は、複数の金属膜を積層してなる積層金属膜であってもよい。このような積層金属膜に用いられる金属についても特に限定されず、前述した金属の他、Ti、Al、Cuなどを用いることができる。
【0024】
本実施形態では、IDT電極4及び反射器5,6は、圧電層3と反対側、すなわち上面側から、Ti/Mo/Tiがこの順序で積層されている。
【0025】
弾性波装置1の特徴は、高音速部材2を伝搬する速い横波バルク音速Vsubが、下記の式(1)から求められるSH0モードの音速Vsh0と、SH0モード以上の音速を有するスプリアスとなるモードの音速Vspに対し、Vsh0≦Vsub≦Vspであることにある。Vsh0≦Vsubであるため、またVsub≦Vspであるため、SH0モードの弾性波を圧電層3に効果的に閉じ込めることができ、他方、上記スプリアスとなる波を高音速部材2側に漏洩させることができる。それによって、スプリアスを小さくすることができる。
【0026】
【数3】
【0027】
本願発明者は、上記音速関係を満たす上で、上述の式(1)において、Vsh0及びVspの場合の係数を下記表3に示す通りとすればよいことを見出した。
【0028】
【表3】
【0029】
SH0モードの音速Vsh0(km/秒)は、圧電層3の膜厚Tpiezo(λ)及び第2オイラー角θ(°)と、IDT電極4における、膜厚T(λ)、密度ρ(g/cm)及びヤング率Y(GPa)とから算出することができる。SH0モードよりも速い音速を有するスプリアスモードの音速についても、同様にして求めることができる。
【0030】
したがって、上記のようにして求められるVsh0及びVspが、Vsh0≦Vsub≦Vspとなるように、表3に示す係数を用いることにより、スプリアスを低減することができる。
【0031】
弾性波装置1のように、薄い圧電層3を用いた構造では、弾性波の音響エネルギーは、圧電層3及びIDT電極4に極度に集中する。そのため、圧電層3において様々なプレートモードが生じ得る。通常、これらのうちの1つのプレートモードをメインの共振モードとして利用する。本実施形態では、SH0モードを利用している。この場合、残りのプレートモードは全てスプリアスとなる。したがって、残りのモードは特性劣化の原因となるため、抑制されることが望ましい。
【0032】
他方、上記様々なプレートモードの音速依存性は、IDT電極4の構造、圧電層3におけるカット角及び圧電層3の膜厚で決定され、モードごとに異なる。
【0033】
本願発明者は、LiTaOを圧電層3として用い、かつSH0モードをメインのモードとして利用する場合に、SH0モードよりも高速のスプリアスとなるモードを、高音速部材2としての支持基板側に漏洩させる条件を以下の通りとするFEM(有限要素法)シミュレーションにより求めた。
【0034】
電極指ピッチで定まる波長=1μm
電極指本数=無限周期
デューティ比=0.5
【0035】
次に、具体的な実験例につき説明する。
【0036】
上記第1の実施形態の弾性波装置1の実施例1を以下のパラメータで用意した。
【0037】
高音速部材2;Siからなる支持基板、オイラー角は(-45°,-54.7°,60°)。
圧電層3;42°YカットX伝搬のLiTaO、厚み0.2λ。
IDT電極4及び反射器5,6の積層構造;上からTi膜/Mo膜/Ti膜の積層金属膜、厚みは、Ti膜=λの0.2%/Mo膜=λの5.2%/Ti膜=λの0.6%。
【0038】
上記実施例1において、前述した式(1)に基づき、SH0モードの音速Vsh0と、Vspとを求めた。Vsh0=4319m/秒であり、Vsp=5884m/秒である。なお、Vsub=5844m/秒である。
【0039】
他方、IDT電極の構成を上方から順に、Ti膜/Al膜/Pt膜を積層してなる積層金属膜とし、上記実施例1と共振周波数が揃うように、各層の厚みをTi膜=λの0.2%/Al膜=λの5%/Pt膜=λの2%とする比較例1を計算した。比較例1の弾性波装置におけるSH0モードの音速Vsh0を求めたところ、Vsh0=4010m/秒であった。また、Vsp=5727m/秒であった。
【0040】
上記実施例1及び比較例1の弾性波装置のインピーダンス特性を図2に示す。図2から明らかなように、いずれも3700MHz付近にSH0モードの応答が表れており、さらに5700MHz-6000MHz付近に、スプリアスが表れている。このスプリアスは、SH0モードの次に速い音速を有するモードであり、S0ラム波と呼ばれているモードである。
【0041】
図2の実線が実施例1の結果を示し、破線が比較例1の結果を示す。実線と破線とを比較すれば明らかなように、実施例1では、5700MHz-6000MHz付近におけるスプリアスが比較例1の場合に比べ小さくなっていることがわかる。
【0042】
これは、実施例1ではVsh0≦Vsub≦Vspであることによる。
【0043】
前述したように、SH0モードや、S0ラム波等のプレートモードの音速は、圧電層3における膜厚、カット角、IDT電極の膜厚、密度及び弾性率(ヤング率)により決定される。なお、積層金属膜の場合には、各金属層のIDT電極に占める体積比から、材料毎のパラメータの体積平均を用いればよい。実用的には、IDT電極のテーパー角は多くの場合直角に近く、電極指線幅は一定とみなされ得る。即ち体積比は膜厚比で代用されてもよい。ここで、本発明で計算された音速と、実際のスプリアスの位置から推定される音速が必ずしも一致するとは限らないことに留意しなければならない。前者は理想的プレートモードの音速であって支持基板の影響を受けないものであるのに対し、後者はプレートモードと支持基板の混合的な作用の結果生じたものであるからである。
【0044】
上記実施形態では、SH0モードを利用し、S0ラム波のスプリアスが小さくなっていることを示したが、影響を小さくし得るスプリアスはS0ラム波に限定されない。
【0045】
また、上記式(1)におけるθは第2オイラー角であるが、好ましくは、第2オイラー角θは、120°≦θ≦160°であることが望ましい。カット角で表現すると、YカットX伝搬において、カット角は、-10°以上、+65°以下の範囲であることが望ましい。なお、第2オイラー角θは、θ=42°とθ=132°は等価であり、本発明においては、このような等価な第2オイラー角であってもよい。
【0046】
図3は本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。弾性波装置11では、高音速部材2としてのSi支持基板とLiTaOからなる圧電層3との間に、酸化ケイ素からなる中間層12が設けられている。その他の構造は、弾性波装置11は弾性波装置1と同様である。
【0047】
酸化ケイ素からなる中間層12を伝搬するバルク波の音速は、圧電層3を伝搬するバルク波の音速よりも低い。なお、中間層12の材料は酸化ケイ素に限られず、例えば、酸化ケイ素に少量のフッ素、炭素、ホウ素、窒素、水素を加えた化合物や、酸化ケイ素を主成分とし、シラノール基を含む材料を挙げることができる。また、中間層12は低音速材料からなる複数の層を有する多層構造であってもよい。複数の層の間にチタンやニッケルなどからなる接合層を含んでいてもよい。この場合の中間層12の厚みは多層構造全体の厚みを示すものとする。
【0048】
第2の実施形態の弾性波装置11においても、Vsh0≦Vsub≦Vspとされているため、スプリアスとなるモードを小さくすることができる。もっとも、積層構造が異なるため、Vsh0及びVspを求める下記式(2)における係数は下記の表4に示す通りとなる。
【0049】
【数4】
【0050】
【表4】
【0051】
図4は、第2の実施形態についての実施例2の弾性波装置と、比較例2の弾性波装置のインピーダンス特性を示す図である。
【0052】
実施例2の構成は以下の通りである。
【0053】
電極指ピッチで定まる波長=2μm
電極指本数=無限周期
デューティ比=0.5
【0054】
高音速部材2;Siからなる支持基板、オイラー角は(0°,-45°,30°)。
中間層12;SiO膜、厚み0.2λ
圧電層3;50°YカットX伝搬のLiTaO、厚み0.2λ。
IDT電極4及び反射器5,6の積層構造;Al膜/Ru膜、膜厚Al膜=λの4%、Ru膜=λの4%。すなわち、IDT電極4における絶対膜厚は波長のλの8%であることした。
【0055】
上記実施形態2の弾性波装置におけるVsh0及びVspは、上述した式(2)及び表4から以下の通りとなる。
【0056】
Vsh0=3458m/秒
Vsp=5640m/秒
なお、Vsubは5575m/秒である。
【0057】
比較のために、比較例2の弾性波装置を用意した。比較例2では、IDT電極及び反射器の積層構造を、Al膜/Ru膜とし、膜厚をAl膜=λの4%/Ru膜=λの6%とした。その他の構成は実施例2と同様とした。
【0058】
比較例2では、Vsh0=3259m/秒となり、Vsp=5498m/秒となる。
【0059】
図4の実線が実施例2の結果を示し、破線が比較例2の結果を示す。図4から明らかなように、実施例2及び比較例2において1800-2100MHz付近にSH0モードの応答が表れている。そして、2700-3000MHz付近にS0モードのスプリアスが表れている。そして、比較例2に比べて、実施例2によれば、このスプリアスを著しく小さくし得ることがわかる。
【0060】
比較例2では、Vsp≦Vsubとなっている。そのため、スプリアスが閉じこもってしまい、大きな応答となって表れている。
【0061】
上記のように、Ruのようなヤング率の高い電極材料を用いて高音速部材と圧電層との間の望ましい音速関係を満たした場合においても、各電極層の膜厚比を調整することにより、スプリアスを効果的に小さくし得ることがわかる。
【0062】
図5は、本発明の第3の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図である。弾性波装置21では、IDT電極4及び反射器5,6と圧電層3との間に、誘電体層22が設けられている。この誘電体層22が設けられていることを除いては、弾性波装置21は弾性波装置11と同様の構造を有する。このように、本発明においては、IDT電極4と圧電層3との間に誘電体層22が設けられてもよい。このような、誘電体層22の材料としては、様々な誘電体を用いることができ、特に限定されない。もっとも、好ましくは、Al、MgO、BeO、HfO、AlN、SiN、TiN、ZrN、SiC、TiC、DLC、BC、TiB、ZrB及びNbBからなる群から選択された少なくとも1種の誘電体が用いられる。この場合には、Q値をより一層高めることができ、かつ帯域外スプリアスをより一層小さくすることができる。
【0063】
これを具体的な実験例に基づき説明する。
【0064】
図6は第3の実施形態についての実施例3の弾性波装置と、実施例2の弾性波装置のインピーダンス特性を示す図である。
【0065】
実施例3では、誘電体層22として、厚み0.015λのAl膜を設けた。その他の構成は、実施例3の弾性波装置は、実施例2の弾性波装置と同様とした。
【0066】
図6から明らかなように、実施例3によれば、実施例2よりもさらに2700-3000MHz付近に表れるスプリアスを小さくし得ることがわかる。
【0067】
上記第1~第3の実施形態では、高音速部材2としてSi支持基板を用いたが、Siに限らず、他の高音速材料を用いてもよい。すなわち、LiTaOを伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波の音速が高い様々な高音速材料を用いることができる。
【0068】
高音速部材2は、Si支持基板であったが、ゲルマニウム、ガリウム、ナイトライド及びシリコンカーバイド等の他の半導体を主体とするものであってもよい。半導体の場合、生産性を高めることができる。
【0069】
また、高音速部材2は、水晶、スピネル、アルミナまたはダイヤモンド等の誘電体を主体とするものであってもよい。その場合には、抵抗損を小さくすることができる。
【0070】
上記高音速材料からなる高音速部材2を支持する支持基板がさらに備えられていてもよい。すなわち、高音速部材2は支持基板を兼用しておらずともよい。
【0071】
さらに、第3の実施形態における誘電体層22は、IDT電極4の電極指の下方だけでなく、電極指間のギャップに至るように設けられていてもよい。また、圧電層3の上面の全面を覆うように誘電体層22が設けられていてもよい。
【0072】
本発明の弾性波装置では、IDT電極を覆うように保護膜が設けられていてもよい。このような保護膜を設けることにより、外部環境からの保護を図ることができる。また、保護膜による質量付加により、周波数特性を調整することもできる。このような保護膜としては、様々な誘電体を用いることができる。
【0073】
第2の実施形態の弾性波装置11では、低音速膜である中間層12よりも横波音響インピーダンスが高い高音響インピーダンス層が、Si支持基板からなる高音速部材2と、中間層12との間に設けられてもよい。その場合には、Q値をより一層高めることができる。このような高音響インピーダンス層を構成する材料は特に限定されないが、好ましくは、窒化アルミニウム(AlN)、シリコン窒化物(SiN)、ハフニウム窒化物(HfN)、五酸化タンタル(Ta)、ハフニウム酸化物(HfO)及びダイヤモンドライクカーボン(DLC)等が好適に用いられる。その場合、Q値をより一層高めることができる。
【0074】
なお、中間層12は、酸化ケイ素からなるが、フッ素、ボロン及び窒素等の原子が含有されていてもよい。それによって温度特性を改善することができる。
【符号の説明】
【0075】
1,11,21…弾性波装置
2…高音速部材
3…圧電層
4…IDT電極
5,6…反射器
12…中間層
22…誘電体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6