(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20220524BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20220524BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20220524BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20220524BHJP
【FI】
H02P25/22
H02P27/06
H02M7/48 E
B62D5/04
(21)【出願番号】P 2019544277
(86)(22)【出願日】2018-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2018024560
(87)【国際公開番号】W WO2019064766
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017189595
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232302
【氏名又は名称】日本電産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鍋師 香織
(72)【発明者】
【氏名】北村 高志
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-77061(JP,A)
【文献】特開2017-118603(JP,A)
【文献】特開2011-87429(JP,A)
【文献】特開2016-111788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/22
H02P 27/06
H02M 7/48
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータへ供給する電力に変換する電力変換装置であって、
前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータと、
前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータと、
前記第1および第2インバータの動作を制御する制御回路と、
を備え、
前記n相の巻線は、第1相の巻線および第2相の巻線を含み、
前記制御回路は、前記第1相の巻線への通電により前記第2相の巻線に誘導される誘導電流を低減する補正波を、前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する、電力変換装置。
【請求項2】
前記補正波は、前記第2相の巻線に誘導される前記誘導電流と逆位相の電流成分を含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記補正波は、前記第2相の巻線に誘導される前記誘導電流と逆位相の電圧成分を含む、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記第1相の巻線へ供給する電流と、前記第1相への通電により前記第2相の巻線に誘導される誘導電流との関係を示すテーブルを記憶するメモリをさらに備え、
前記制御回路は、前記テーブルを用いて取得した誘導電流と逆位相の補正波を演算し、前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する、請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記第1相の巻線へ供給する電流と、前記第1相への通電により前記第2相の巻線に誘導される誘導電流を低減する補正波との関係を示すテーブルを記憶するメモリをさらに備え、
前記制御回路は、前記テーブルを用いて取得した補正波を、前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する、請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記第1相への通電により前記第2相の巻線に誘導される誘導電流と、前記誘導電流を低減する補正波との関係を示すテーブルを記憶するメモリと、
前記第2相の巻線を流れる電流を検出する電流センサと、
をさらに備え、
前記制御回路は、
前記検出した電流から誘導電流の成分を抽出し、
前記テーブルを用いて、前記抽出した誘導電流を低減する補正波を取得し、
前記取得した補正波を、前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する、請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記第2相の巻線を流れる電流を検出する電流センサをさらに備え、
前記制御回路は、
前記検出した電流から誘導電流の成分を抽出し、
前記抽出した誘導電流と逆位相の補正波を演算し、
前記演算した補正波を前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する、請求項1から3のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記n相の巻線は、第3相の巻線をさらに含み、
前記制御回路は、前記第1相の巻線への通電により前記第3相の巻線に誘導される誘導電流を低減する補正波を、前記第3相の巻線の通電のための基本波に重畳する、請求項1から7のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記第1および第2インバータのそれぞれは、複数のローサイドスイッチング素子および複数のハイサイドスイッチング素子を備え、
前記第1インバータの第1ローサイドスイッチング素子および第1ハイサイドスイッチング素子は、前記第1相の巻線の一端に接続され、
前記第1インバータの第2ローサイドスイッチング素子および第2ハイサイドスイッチング素子は、前記第2相の巻線の一端に接続され、
前記第1インバータの第3ローサイドスイッチング素子および第3ハイサイドスイッチング素子は、前記第3相の巻線の一端に接続され、
前記第2インバータの第4ローサイドスイッチング素子および第4ハイサイドスイッチング素子は、前記第1相の巻線の他端に接続され、
前記第2インバータの第5ローサイドスイッチング素子および第5ハイサイドスイッチング素子は、前記第2相の巻線の他端に接続され、
前記第2インバータの第6ローサイドスイッチング素子および第6ハイサイドスイッチング素子は、前記第3相の巻線の他端に接続される、請求項1から8のいずれかに記載の電力変換装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載の電力変換装置と、
モータと、
を備えるモータ駆動ユニット。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ駆動ユニットを備える電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電源からの電力を、電動モータに供給する電力に変換する電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスDCモータおよび交流同期モータなどの電動モータ(以下、単に「モータ」と表記する。)は、一般的に三相電流によって駆動される。三相電流の波形を正確に制御するため、ベクトル制御などの複雑な制御技術が用いられる。このような制御技術では、高度な数学的演算が必要であり、マイクロコントローラ(マイコン)などのデジタル演算回路が用いられる。ベクトル制御技術は、モータの負荷変動が大きな用途、例えば、洗濯機、電動アシスト自転車、電動スクータ、電動パワーステアリング装置、電気自動車、産業機器などの分野で活用されている。
【0003】
一般に、モータは、ロータおよびステータを有する。例えば、ロータには、その円周方向に沿って複数の永久磁石が配列される。ステータは複数の巻線を有する。永久磁石を有するモータでは、永久磁石と巻線との間にトルクリップルが発生する。特許文献1は、トルクリップルの6次高調波成分に対して逆位相の正弦波であるリップル補正波を生成し、そのリップル補正波を基本波に重畳する技術を開示している。特許文献1によれば、リップル補正波を基本波に重畳することにより、トルクリップルを低減することができる。
【0004】
車載分野においては、自動車用電子制御ユニット(ECU:Electrical Contorl Unit)が車両に用いられる。ECUは、マイクロコントローラ、電源、入出力回路、ADコンバータ、負荷駆動回路およびROM(Read Only Memory)などを備える。ECUを核として電子制御システムが構築される。例えば、ECUはセンサからの信号を処理してモータなどのアクチュエータを制御する。具体的に説明すると、ECUはモータの回転速度やトルクを監視しながら、電力変換装置におけるインバータを制御する。ECUの制御の下で、電力変換装置はモータに供給する駆動電力を変換する。
【0005】
近年、モータ、電力変換装置およびECUが一体化された機電一体型モータが開発されている。特に車載分野においては、安全性の観点から高い品質保証が要求される。そのため、部品の一部が故障した場合でも安全動作を継続できる冗長設計が取り入れられている。冗長設計の一例として、1つのモータに対して2つの電力変換装置を設けることが検討されている。他の一例として、メインのマイクロコントローラにバックアップ用マイクロコントローラを設けることが検討されている。
【0006】
例えば特許文献2は、制御部と、2つのインバータとを備え、三相モータに供給する電力を変換する電力変換装置を開示している。2つのインバータの各々は電源およびグランド(以下、「GND」と表記する。)に接続される。一方のインバータは、モータの三相の巻線の一端に接続され、他方のインバータは、三相の巻線の他端に接続される。各インバータは、各々がハイサイドスイッチング素子およびローサイドスイッチング素子を含む3つのレグから構成されるブリッジ回路を備える。制御部は、2つのインバータにおけるスイッチング素子の故障を検出した場合、モータ制御を正常時の制御から異常時の制御に切替える。異常時の制御では、例えば、故障したスイッチング素子を含むインバータのスイッチング素子を所定の規則でオンおよびオフすることにより巻線の中性点を構成する。そして、正常な方のインバータを用いてモータ駆動を継続させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-239681号公報
【文献】特開2014-192950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したような2つのインバータを備える装置におけるモータの駆動制御のさらなる向上が求められている。
【0009】
本開示の実施形態では、2つのインバータを備える電力変換装置において、ある相の巻線に通電したときに別の相の巻線に誘導される誘導電流を低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の例示的な電力変換装置は、電源からの電力を、n相(nは3以上の整数)の巻線を有するモータへ供給する電力に変換する電力変換装置であって、前記モータの各相の巻線の一端に接続される第1インバータと、前記各相の巻線の他端に接続される第2インバータと、前記第1および第2インバータの動作を制御する制御回路と、を備え、前記n相の巻線は、第1相の巻線および第2相の巻線を含み、前記制御回路は、前記第1相の巻線への通電により前記第2相の巻線に誘導される誘導電流を低減する補正波を、前記第2相の巻線の通電のための基本波に重畳する。
【発明の効果】
【0011】
本開示の実施形態によれば、2つのインバータを備える電力変換装置において、ある相の巻線に通電したときに別の相の巻線に誘導される誘導電流を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電力変換装置の回路構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電力変換装置が有するHブリッジを示す図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る電力変換装置が有するHブリッジを示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る電力変換装置が有するHブリッジを示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る電力変換装置を備えるモータ駆動ユニットを示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る三相通電制御に従って電力変換装置を制御したときに、モータのU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理の一例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理の別の例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のさらに別の例を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のさらに別の例を示すブロック図である。
【
図11】
図11は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のさらに別の例を示すブロック図である。
【
図12】
図12は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のさらに別の例を示すブロック図である。
【
図13】
図13は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】
図14は、実施形態に係る誘導電流を低減する処理のシミュレーション結果を示す図である。
【
図15】
図15は、実施形態に係るモータに通電したときの誘導電流を示す図である。
【
図16】
図16は、実施形態に係る電動パワーステアリング装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった本願発明者の知見を説明する。
【0014】
本願発明者は、2つのインバータを備える独立結線方式の電力変換装置を研究する過程において、ある相の巻線に通電したときに、永久磁石の高調波成分が無くても、通電していない別の相の巻線に不要な誘導電流が発生することを見出した。本願発明者は、実験により、独立結線方式においてある相の巻線に通電したとき、通電していない別の相の巻線には同相成分のリップルが発生することを突き止めた。
【0015】
不要な誘導電流である高調波は、零相電流(同相電流)となり、零相電流損(銅損)、ノイズとなってしまう。そのため、通電する相以外への影響を抑えるために、不要な高調波は低減することが求められる。
【0016】
以下、添付の図面を参照しながら、本開示の電力変換装置、モータ駆動ユニットおよび電動パワーステアリング装置の実施形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0017】
本明細書においては、三相(U相、V相、W相)の巻線を有する三相モータに供給する電力を変換する電力変換装置を例にして、本開示の実施形態を説明する。但し、例えば四相および五相などのn相(nは3以上の整数)の巻線を有するn相モータに供給する電力を変換する電力変換装置も本開示の範疇である。
【0018】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る電力変換装置100の回路構成を模式的に示している。
【0019】
電力変換装置100は、第1インバータ110と、第2インバータ140とを備える。また、電力変換装置100は、
図5に示す制御回路300を備える。電力変換装置100は種々のモータに供給する電力を変換することができる。モータ200は、例えば三相交流モータである。
【0020】
モータ200は、U相の巻線M1、V相の巻線M2およびW相の巻線M3を備え、第1インバータ110と第2インバータ140とに接続される。具体的に説明すると、第1インバータ110はモータ200の各相の巻線の一端に接続され、第2インバータ140は各相の巻線の他端に接続される。本願明細書において、部品(構成要素)同士の間の「接続」とは、主に電気的な接続を意味する。
【0021】
第1インバータ110は、各相に対応した端子U_L、V_LおよびW_Lを有し、第2インバータ140は、各相に対応した端子U_R、V_RおよびW_Rを有する。第1インバータ110の端子U_Lは、U相の巻線M1の一端に接続され、端子V_Lは、V相の巻線M2の一端に接続され、端子W_Lは、W相の巻線M3の一端に接続される。第1インバータ110と同様に、第2インバータ140の端子U_Rは、U相の巻線M1の他端に接続され、端子V_Rは、V相の巻線M2の他端に接続され、端子W_Rは、W相の巻線M3の他端に接続される。このような結線は、いわゆるスター結線およびデルタ結線とは異なる。
【0022】
本明細書中において、第1インバータ110を「ブリッジ回路L」と表記する場合がある。また、第2インバータ140を「ブリッジ回路R」と表記する場合がある。第1インバータ110および第2インバータ140のそれぞれは、ローサイドスイッチング素子およびハイサイドスイッチング素子を含むレグを3個備える。それらレグを構成する複数のスイッチング素子は、電動モータ200の巻線を介して第1インバータ110と第2インバータ140との間で複数のHブリッジを構成する。
【0023】
第1インバータ110は、3個のレグから構成されるブリッジ回路を含む。
図1に示されるスイッチング素子111L、112Lおよび113Lがローサイドスイッチング素子であり、スイッチング素子111H、112Hおよび113Hはハイサイドスイッチング素子である。スイッチング素子として、例えば電界効果トランジスタ(典型的にはMOSFET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を用いることができる。本願明細書において、インバータのスイッチング素子としてFETを用いる例を説明し、以下の説明ではスイッチング素子をFETと表記する場合がある。例えば、スイッチング素子111LはFET111Lと表記される。
【0024】
第1インバータ110は、U相、V相およびW相の各相の巻線に流れる電流を検出するための電流センサ(
図5を参照)として、3個のシャント抵抗111R、112Rおよび113Rを備える。電流センサ170は、各シャント抵抗に流れる電流を検出する電流検出回路(不図示)を含む。例えば、シャント抵抗111R、112Rおよび113Rは、第1インバータ110の3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチング素子とGNDとの間にそれぞれ接続される。具体的には、シャント抵抗111RはFET111LとGNDとの間に接続され、シャント抵抗112RはFET112LとGND
との間に接続され、シャント抵抗113RはFET113LとGNDとの間に接続される。シャント抵抗の抵抗値は、例えば0.5mΩから1.0mΩ程度である。
【0025】
第1インバータ110と同様に、第2インバータ140は、3個のレグから構成されるブリッジ回路を含む。
図1に示されるFET141L、142Lおよび143Lがローサイドスイッチング素子であり、FET141H、142Hおよび143Hはハイサイドスイッチング素子である。また、第2インバータ140は、3個のシャント抵抗141R、142Rおよび143Rを備える。それらのシャント抵抗は、3個のレグに含まれる3個のローサイドスイッチング素子とGNDとの間に接続される。第1および第2インバータ110、140の各FETは、例えばマイクロコントローラまたは専用ドライバによって制御され得る。
【0026】
図2、
図3および
図4は、電力変換装置100が有する3個のHブリッジ131、132および133を示す図である。
【0027】
第1インバータ110は、レグ121、123および125を有する。レグ121は、FET111HとFET111Lを有する。レグ123は、FET112HとFET112Lを有する。レグ125は、FET113HとFET113Lを有する。
【0028】
第2インバータ140は、レグ122、124および126を有する。レグ122は、FET141HとFET141Lを有する。レグ124は、FET142HとFET142Lを有する。レグ126は、FET143HとFET143Lを有する。
【0029】
図2に示すHブリッジ131は、レグ121と巻線M1とレグ122とを有する。
図3に示すHブリッジ132は、レグ123と巻線M2とレグ124とを有する。
図4に示すHブリッジ133は、レグ125と巻線M3とレグ126とを有する。
【0030】
電源101(
図1)は、所定の電源電圧を生成する。電源101から第1および第2インバータ110、140に電力が供給される。電源101として、例えば直流電源が用いられる。ただし、電源101は、AC-DCコンバータまたはDC―DCコンバータであってもよいし、バッテリー(蓄電池)であってもよい。電源101は、第1および第2インバータ110、140に共通の単一電源であってもよいし、第1インバータ110用の第1電源および第2インバータ140用の第2電源を備えていてもよい。
【0031】
電源101と電力変換装置100との間にコイル102が設けられている。コイル102は、ノイズフィルタとして機能し、各インバータに供給する電圧波形に含まれる高周波ノイズ、または各インバータで発生する高周波ノイズを電源101側に流出させないように平滑化する。また、電源101と電力変換装置100との間には、コンデンサ103の一端が接続されている。コンデンサ103の他端はGNDに接続されている。コンデンサ103は、いわゆるバイパスコンデンサであり、電圧リプルを抑制する。コンデンサ103は、例えば電解コンデンサであり、容量および使用する個数は設計仕様などによって適宜決定される。
【0032】
図1には、インバータ毎の各レグに1個のシャント抵抗を配置する構成を例示している。第1および第2インバータ110、140は、6個以下のシャント抵抗を備え得る。6個以下のシャント抵抗は、第1および第2インバータ110、140が備える6個のレグのうちの6個以下のローサイドスイッチング素子とGNDとの間に接続され得る。さらにこれをn相モータに拡張すると、第1および第2インバータ110、140は、2n個以下のシャント抵抗を備え得る。2n個以下のシャント抵抗は、第1および第2インバータ110、140が備える2n個のレグのうちの2n個以下のローサイドスイッチング素子とGNDとの間に接続され得る。
【0033】
図5は、電力変換装置100を備えるモータ駆動ユニット400のブロック構成を模式的に示している。電力変換装置100は制御回路300を備える。モータ駆動ユニット400は、電力変換装置100とモータ200を備える。
【0034】
制御回路300は、例えば、電源回路310と、角度センサ320と、入力回路330と、マイクロコントローラ340と、駆動回路350と、ROM360とを備える。制御回路300は、電力変換装置100の全体の動作を制御することによりモータ200を駆動する。具体的には、制御回路300は、目的とするロータの位置、回転速度、および電流などを制御してクローズドループ制御を実現することができる。なお、制御回路300は、角度センサに代えてトルクセンサを備えてもよい。この場合、制御回路300は、目的とするモータトルクを制御することができる。
【0035】
電源回路310は、回路内の各ブロックに必要なDC電圧(例えば3V、5V)を生成する。角度センサ320は、例えばレゾルバまたはホールICである。角度センサ320として、磁気抵抗効果素子とマグネットが用いられてもよい。角度センサ320は、モータ200のロータの回転角(以下、「回転信号」と表記する。)を検出し、回転信号をマイクロコントローラ340に出力する。入力回路330は、電流センサ170によって検出されたモータ電流値(以下、「実電流値」と表記する。)を受け取り、必要に応じて、実電流値のレベルをマイクロコントローラ340の入力レベルに変換し、実電流値をマイクロコントローラ340に出力する。
【0036】
マイクロコントローラ340は、第1インバータ110と第2インバータ140の各FETのスイッチング動作(ターンオンまたはターンオフ)を制御する。マイクロコントローラ340は、実電流値およびロータの回転信号などに従って目標電流値を設定してPWM信号を生成し、それを駆動回路350に出力する。
【0037】
駆動回路350は、典型的にはゲートドライバである。駆動回路350は、第1および第2インバータ110、140における各FETのスイッチング動作を制御する制御信号(ゲート制御信号)をPWM信号に従って生成し、各FETのゲートに制御信号を与える。なお、マイクロコントローラ340が駆動回路350の機能を備えていてもよい。その場合、制御回路300は駆動回路350を備えていなくてもよい。
【0038】
ROM360は、例えば書き込み可能なメモリ、書き換え可能なメモリまたは読み出し専用のメモリである。ROM360は、マイクロコントローラ340に電力変換装置100を制御させるための命令群を含む制御プログラムを格納している。例えば、制御プログラムはブート時にRAM(不図示)に一旦展開される。
【0039】
次に、電力変換装置100の制御方法の具体例を説明する。正制御回路300は、第1および第2インバータ110、140の両方を用いて三相通電制御することによってモータ200を駆動する。具体的に、制御回路300は、第1インバータ110のFETと第2インバータ140のFETとを互いに逆位相(位相差=180°)でスイッチング制御することにより三相通電制御を行う。例えば、FET111L、111H、141Lおよび141Hを含むHブリッジに着目すると、FET111Lがオンすると、FET141Lはオフし、FET111Lがオフすると、FET141Lはオンする。これと同様に、FET111Hがオンすると、FET141Hはオフし、FET111Hがオフすると、FET141Hはオンする。電源101から出力された電流は、ハイサイドスイッチング素子、巻線、ローサイドスイッチング素子を通ってGNDに流れる。
【0040】
ここで、U相の巻線M1を流れる電流の経路を説明する。FET111HおよびFET141Lがオンであり、FET141HおよびFET111Lがオフのとき、電流は、電源101、FET111H、巻線M1、FET141L、GNDの順に流れる。FET141HおよびFET111Lがオンであり、FET111HおよびFET141Lがオフのとき、電流は、電源101、FET141H、巻線M1、FET111L、GNDの順に流れる。
【0041】
次に、V相の巻線M2を流れる電流の経路を説明する。FET112HおよびFET142Lがオンであり、FET142HおよびFET112Lがオフのとき、電流は、電源101、FET112H、巻線M2、FET142L、GNDの順に流れる。FET142HおよびFET112Lがオンであり、FET112HおよびFET142Lがオフのとき、電流は、電源101、FET142H、巻線M2、FET112L、GNDの順に流れる。
【0042】
次に、W相の巻線M3を流れる電流の経路を説明する。FET113HおよびFET143Lがオンであり、FET143HおよびFET113Lがオフのとき、電流は、電源101、FET113H、巻線M3、FET143L、GNDの順に流れる。FET143HおよびFET113Lがオンであり、FET113HおよびFET143Lがオフのとき、電流は、電源101、FET143H、巻線M3、FET113L、GNDの順に流れる。
【0043】
図6は、三相通電制御に従って電力変換装置100を制御したときにモータ200のU相、V相およびW相の各巻線に流れる電流値をプロットして得られる電流波形(正弦波)を例示している。横軸は、モータ電気角(deg)を示し、縦軸は電流値(A)を示している。
図6の電流波形において、電気角30°毎に電流値をプロットしている。I
pkは各相の最大電流値(ピーク電流値)を表している。
【0044】
表1は、
図6の正弦波において電気角毎に、各インバータの端子に流れる電流値を示している。表1は、具体的に、第1インバータ110(ブリッジ回路L)の端子U_L、V_LおよびW_Lに流れる、電気角30°毎の電流値、および、第2インバータ140(ブリッジ回路R)の端子U_R、V_RおよびW_Rに流れる、電気角30°毎の電流値を示している。ここで、ブリッジ回路Lに対しては、ブリッジ回路Lの端子からブリッジ回路Rの端子に流れる電流方向を正の方向と定義する。
図6に示される電流の向きはこの定義に従う。また、ブリッジ回路Rに対しては、ブリッジ回路Rの端子からブリッジ回路Lの端子に流れる電流方向を正の方向と定義する。従って、ブリッジ回路Lの電流とブリッジ回路Rの電流との位相差は180°となる。表1において、電流値I
1の大きさは〔(3)
1/2/2〕*I
pkであり、電流値I
2の大きさはI
pk/2である。
【0045】
【0046】
電気角0°において、U相の巻線M1には電流は流れない。V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れる。
【0047】
電気角30°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れる。
【0048】
電気角60°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れる。W相の巻線M3には電流は流れない。
【0049】
電気角90°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2
の電流が流れる。
【0050】
電気角120°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れる。V相の巻線M2には電流は流れない。
【0051】
電気角150°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れる。
【0052】
電気角180°において、U相の巻線M1には電流は流れない。V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れる。
【0053】
電気角210°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2の電流が流れる。
【0054】
電気角240°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れる。W相の巻線M3には電流は流れない。
【0055】
電気角270°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさIpkの電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI2の電流が流れる。
【0056】
電気角300°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI1の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさI1の電流が流れる。V相の巻線M2には電流は流れない。
【0057】
電気角330°において、U相の巻線M1にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2の電流が流れ、V相の巻線M2にはブリッジ回路Rからブリッジ回路Lに大きさI2の電流が流れ、W相の巻線M3にはブリッジ回路Lからブリッジ回路Rに大きさIpkの電流が流れる。
【0058】
例えば、制御回路300は、
図6に示される電流波形が得られるようなPWM制御によってブリッジ回路LおよびRの各FETのスイッチング動作を制御する。
【0059】
上述したように、2つのインバータ110、140を備える独立結線方式の電力変換装置100においては、ある相の巻線への通電に起因して、通電していない別の相の巻線に誘導電流が発生する。本実施形態では、通電する相とは異なる他の相において発生する誘導電流を減少させる制御方法として、発生する誘導電流とは逆位相となる波形を基本波に重畳させる。これにより、発生したノイズとなる誘導電流を低減することができる。その結果、当該誘導電流によって生じるトルクリップル等を抑制することができる。
【0060】
例えば、マイクロコントローラ340は、U相の巻線M1への通電によりV相の巻線M2に誘導される誘導電流を低減する補正波を、V相の巻線M2の通電のための基本波に重畳する指令を出す。また、U相の巻線M1への通電によりW相の巻線M3に誘導される誘導電流を低減する補正波を、W相の巻線M3の通電のための基本波に重畳する指令を出す。これにより、U相の巻線M1への通電に起因して、V相の巻線M2およびW相の巻線M3に誘導される誘導電流を低減することができる。
【0061】
図7は、誘導電流を低減する処理を行うマイクロコントローラ340の機能ブロックを例示している。本明細書において、機能ブロック図における各ブロックは、ハードウェア単位ではなく機能ブロック単位で示される。誘導電流の低減処理に用いるソフトウェアは、例えば、各機能ブロックに対応した特定の処理を実行させるためのコンピュータプログラムを構成するモジュールであり得る。そのようなコンピュータプログラムは、例えばROM360に格納される。コントローラ340は、ROM360から命令を読み出して各処理を逐次実行することができる。誘導電流の低減処理は、ハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアによって実現されてもよい。また、誘導電流の低減処理は、ハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより実現されてもよい。
【0062】
図7に示す例では、マイクロコントローラ340は、電流センサ170が検出した電流から、各相の巻線に発生する誘導電流の成分を抽出する。マイクロコントローラ340は、抽出した誘導電流と逆位相の補正波を演算する。そして、演算した補正波を基本波に重畳する指令を出すことで、誘導電流を低減させる。
【0063】
例えば、U相の巻線M1への通電時に、マイクロコントローラ340は、電流センサ170から、V相の巻線M2およびW相の巻線M3に流れる電流値を取得する。
【0064】
このフィードバックされる電流は、通常のモータ駆動のためにローパスフィルタ(LPF)302を通された後に、電流指令値I*との差分を取り、PI制御(Proportional Integral Differential Control)301等が行われる。
【0065】
上記の電流指令値に対するフィードバック処理とは別に、さらに、フィードバックされる電流は、ハイパスフィルタ(HPF)303を通過する。ハイパスフィルタ303は、例えば、基本波の周波数の3倍の周波数を有する3次高調波成分を通過させる。ハイパスフィルタ303を通過した電流成分は、逆位相演算ブロック304において逆位相の波形へと変換される。この逆位相の波が補正波となる。逆位相の補正波の電流を、電流指令値I*に重畳し、モータ200側への指令値とする。駆動回路350は、指令値に従ってインバータ110および140を制御し、V相の巻線M2およびW相の巻線M3に通電する。U相とは異なる他のV相およびW相において発生する誘導電流を、逆位相の電流により低減することができる。なお、ハイパスフィルタの代わりにバンドパスフィルタが用いられてもよい。
【0066】
図7に示す例では、電流指令値I
*に、誘導電流とは逆位相の電流成分を重畳させているが、電圧指令値に逆位相の電圧成分を重畳させてもよい。例えば、
図8に示すように、PI制御ブロック301の出力、すなわち、インバータ110、140への電圧指令値に対して、電圧成分を重畳させてもよい。
【0067】
また、
図9および
図10に示すように、ハイパスフィルタ303の代わりに、FFT(Fast Fourier Transform)305において、逆位相にしたい周波数帯を抽出してもよい。バンドパスフィルタおよびハイパスフィルタを用いる場合には、フィードバックのために抽出する電流の周波数帯が少しずれると、所定の周波数帯の電流を抽出できなくなる場合がある。一方、FFTを用いれば、抽出する電流の周波数帯が少しずれても、所定の周波数帯の電流を抽出することができる。
【0068】
次に、誘導電流を低減する処理の別の例を説明する。
図11および
図12は、誘導電流を低減する処理を行うマイクロコントローラ340の機能ブロックを例示している。この例では、巻線への通電と、それにより誘導される誘導電流との関係を示すルックアップテーブルを用いて、誘導電流を低減する処理を行う。このようなルックアップテーブルは、例えば、ROM360に予め記憶されている。
【0069】
ルックアップテーブルは、例えば、U相の巻線M1へ供給する電流と、U相の巻線M1への通電によりV相の巻線M2およびW相の巻線M3に誘導される誘導電流との関係を示している。また、V相の巻線M2へ供給する電流と、V相の巻線M2への通電によりW相の巻線M3およびU相の巻線M1に誘導される誘導電流との関係を示している。また、W相の巻線M3へ供給する電流と、W相の巻線M3への通電によりU相の巻線M1およびV相の巻線M2に誘導される誘導電流との関係を示している。マイクロコントローラ340は、テーブルを用いて取得した誘導電流と逆位相の補正波を演算する。マイクロコントローラ340は、演算した補正波を巻線への通電のための基本波に重畳する指令を出す。
【0070】
また、ルックアップテーブルは、巻線への通電と、それにより誘導される誘導電流を低減する補正波との関係を示していてもよい。この場合、例えば、マイクロコントローラ340は、U相の巻線M1の通電によりV相の巻線M2およびW相の巻線M3に誘導される誘導電流を低減する補正波を、ルックアップテーブルから取得する。そして、テーブルを用いて取得した補正波を、V相の巻線M2およびW相の巻線M3の通電のための基本波に重畳する指令を出す。
【0071】
図7から
図10に示す例では、フィードバックする値に対してノイズとなる誘導電流の逆位相の波形を演算して、その波形を有する電流または電圧を基本波に重畳している。それに対して、
図11および
図12に示す例では、フィードフォワード制御により、誘導電流を低減させる。ルックアップテーブルは、発生する誘導電流の波形またはその逆位相の波形を予め記憶している。マイクロコントローラ340は、ルックアップテーブルを用いて取得した逆波形の電流または電圧を指令値に重畳させる。
【0072】
逆位相の電流または電圧を基本波に重畳することにより、通電相とは異なる他の相において発生する誘導電流を低減させることができる。これにより、当該誘導電流によって生じるトルクリップル等を抑制することができる。
【0073】
なお、
図7から
図10を用いて例示した処理において、上記のようなルックアップテーブルを用いてもよい。例えば、U相の巻線M1への通電時に、マイクロコントローラ340は、電流センサ170から、V相の巻線M2およびW相の巻線M3に流れる電流値を取得する。このフィードバックされる電流から、誘導電流成分を抽出する。
【0074】
ルックアップテーブルは、U相の巻線M1の通電によりV相の巻線M2およびW相の巻線M3に誘導される誘導電流と、その誘導電流を低減する補正波との関係を示している。マイクロコントローラ340は、ルックアップテーブルを用いて、抽出した誘導電流を低減する補正波を取得する。マイクロコントローラ340は、取得した補正波を、V相の巻線M2およびW相の巻線M3の通電のための基本波に重畳する。これにより、誘導電流を低減させることができる。
【0075】
上記の例では、Z軸における電流指令値または電圧指令値に対して、高調波を重畳している。本開示の技術は、Z軸を追加しないdq軸の制御系に適用することもできる。この場合、dq逆変換後に全相に任意の同相正弦波を注入することで、誘導電流を低減することができる。dq軸上にて演算を行うベクトル制御が一般的に行われており、それに合わせた回路構成および制御アルゴリズムを有するモータも多い。一方、Z軸を考慮する場合には、通常の回路構成等とは異なる回路が必要になる場合があり、大幅な変更を加える回路設計が必要になる場合がある。それに対して、dq軸において高調波を重畳する構成であれば、大幅な回路変更等は行わなくてもよい。
【0076】
なお、重畳する電流および電圧の波形は、正弦波、三角波、のこぎり波、矩形波など種類は問わず、位相を適切に合わせることができる波形であればよい。
【0077】
図13および
図14は、本開示の技術を用いたシミュレーション結果を示す。
図13および
図14の縦軸は電流、横軸は時間を示している。
図13の左側は、基本波に重畳させる補正波を示している。
図14の左側は、基本波に補正波を重畳させたときの誘導電流を示している。
図14の右側は、基本波に補正波を
重畳させないときの誘導電流を示している。
図14の結果から、基本波に補正波を重畳させることにより、誘導電流を低減できていることが分かる。
【0078】
図15は、モータの実機に通電したときの誘導電流を示している。
図15の縦軸は電流、横軸は時間を示している。
図15の左側は、基本波に補正波を重畳させないときの誘導電流を示している。
図15の右側は、基本波に補正波を重畳させたときの誘導電流を示している。
図15の結果から、基本波に補正波を重畳させることにより、誘導電流を低減できていることが分かる。
【0079】
(実施形態2) 自動車等の車両は一般的に、電動パワーステアリング装置を備えている。電動パワーステアリング装置は、運転者がステアリングハンドルを操作することによって発生するステアリング系の操舵トルクを補助するための補助トルクを生成する。補助トルクは、補助トルク機構によって生成され、運転者の操作の負担を軽減することができる。例えば、補助トルク機構は、操舵トルクセンサ、ECU、モータおよび減速機構などを備える。操舵トルクセンサは、ステアリング系における操舵トルクを検出する。ECUは、操舵トルクセンサの検出信号に基づいて駆動信号を生成する。モータは、駆動信号に基づいて操舵トルクに応じた補助トルクを生成し、減速機構を介してステアリング系に補助トルクを伝達する。
【0080】
本開示のモータ駆動ユニット400は、電動パワーステアリング装置に好適に利用される。
図22は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置500を模式的に示している。電動パワーステアリング装置500は、ステアリング系520および補助トルク機構540を備える。
【0081】
ステアリング系520は、例えば、ステアリングハンドル521、ステアリングシャフト522(「ステアリングコラム」とも称される。)、自在軸継手523A、523B、回転軸524(「ピニオン軸」または「入力軸」とも称される。)、ラックアンドピニオン機構525、ラック軸526、左右のボールジョイント552A、552B、タイロッド527A、527B、ナックル528A、528B、および左右の操舵車輪(例えば左右の前輪)529A、529Bを備える。ステアリングハンドル521は、ステアリングシャフト522と自在軸継手523A、523Bとを介して回転軸524に連結される。回転軸524にはラックアンドピニオン機構525を介してラック軸526が連結される。ラックアンドピニオン機構525は、回転軸524に設けられたピニオン531と、ラック軸526に設けられたラック532とを有する。ラック軸526の右端には、ボールジョイント552A、タイロッド527Aおよびナックル528Aをこの順番で介して右の操舵車輪529Aが連結される。右側と同様に、ラック軸526の左端には、ボールジョイント552B、タイロッド527Bおよびナックル528Bをこの順番で介して左の操舵車輪529Bが連結される。ここで、右側および左側は、座席に座った運転者から見た右側および左側にそれぞれ一致する。
【0082】
ステアリング系520によれば、運転者がステアリングハンドル521を操作することによって操舵トルクが発生し、ラックアンドピニオン機構525を介して左右の操舵車輪529A、529Bに伝わる。これにより、運転者は左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。
【0083】
補助トルク機構540は、例えば、操舵トルクセンサ541、ECU542、モータ543、減速機構544および電力変換装置545を備える。補助トルク機構540は、ステアリングハンドル521から左右の操舵車輪529A、529Bに至るステアリング系520に補助トルクを与える。なお、補助トルクは「付加トルク」と称されることがある。
【0084】
ECU542として、実施形態に係る制御回路300を用いることができ、電力変換装置545として、実施形態に係る電力変換装置100を用いることができる。また、モータ543は、実施形態におけるモータ200に相当する。ECU542、モータ543および電力変換装置545を備える機電一体型ユニットとして、実施形態に係るモータ駆動ユニット400を好適に用いることができる。
【0085】
操舵トルクセンサ541は、ステアリングハンドル521によって付与されたステアリング系520の操舵トルクを検出する。ECU542は、操舵トルクセンサ541からの検出信号(以下、「トルク信号」と表記する。)に基づいてモータ543を駆動するための駆動信号を生成する。モータ543は、操舵トルクに応じた補助トルクを駆動信号に基づいて発生する。補助トルクは、減速機構544を介してステアリング系520の回転軸524に伝達される。減速機構544は、例えばウォームギヤ機構である。補助トルクはさらに、回転軸524からラックアンドピニオン機構525に伝達される。
【0086】
電動パワーステアリング装置500は、補助トルクがステアリング系520に付与される箇所によって、ピニオンアシスト型、ラックアシスト型、およびコラムアシスト型等に分類することができる。
図22には、ピニオンアシスト型の電動パワーステアリング装置500を例示している。ただし、電動パワーステアリング装置500は、ラックアシスト型、コラムアシスト型等であってもよい。
【0087】
ECU542には、トルク信号だけでなく、例えば車速信号も入力され得る。外部機器560は例えば車速センサである。または、外部機器560は、例えばCAN(Controller Area Network)等の車内ネットワークで通信可能な他のECUであってもよい。ECU542のマイクロコントローラは、トルク信号や車速信号などに基づいてモータ543をベクトル制御等により制御することができる。
【0088】
ECU542は、少なくともトルク信号に基づいて目標電流値を設定する。ECU542は、車速センサによって検出された車速信号を考慮し、さらに角度センサ320によって検出されたロータの回転信号を考慮して、目標電流値を設定することが好ましい。ECU542は、電流センサ170によって検出された実電流値が目標電流値に一致するように、モータ543の駆動信号、つまり、駆動電流を制御することができる。
【0089】
電動パワーステアリング装置500によれば、運転者の操舵トルクにモータ543の補助トルクを加えた複合トルクを利用してラック軸526によって左右の操舵車輪529A、529Bを操作することができる。特に、上述した機電一体型ユニットに、本開示のモータ駆動ユニット400を利用することにより、部品の品質が向上し、かつ、正常時および異常時のいずれにおいても適切な電流制御が可能となる、モータ駆動ユニットを備える電動パワーステアリング装置が提供される。
【0090】
以上、本開示にかかる実施形態を説明した。上述の実施形態の説明は例示であり、本開示の技術を限定するものではない。また、上述の実施形態で説明した各構成要素を適宜組み合わせた実施形態も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本開示の実施形態は、掃除機、ドライヤ、シーリングファン、洗濯機、冷蔵庫および電動パワーステアリング装置などの、各種モータを備える多様な機器に幅広く利用され得る。
【符号の説明】
【0092】
100 電力変換装置 101 電源 102 コイル 103 コンデンサ 110 第1インバータ 111H、112H、113H、141H、142H、143H ハイサイドスイッチング素子(FET) 111L、112L、113L、141L、142L、143L ローサイドスイッチング素子(FET) 111R、112R、113R、141R、142R、143R シャント抵抗 121、122、123、124、125、126 レグ 131、132、133 Hブリッジ 140 第2インバータ 200 電動モータ 300 制御回路 310 電源回路 320 角度センサ 330 入力回路 340 マイクロコントローラ 350 駆動回路 351 検出回路 360 ROM 400 モータ駆動ユニット 500 電動パワーステアリング装置