(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-23
(45)【発行日】2022-05-31
(54)【発明の名称】ロータリ圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/356 20060101AFI20220524BHJP
【FI】
F04C18/356 M
F04C18/356 H
(21)【出願番号】P 2020061245
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-03-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】内海 秀斗
(72)【発明者】
【氏名】古川 基信
(72)【発明者】
【氏名】片山 大輝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇洋
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-160793(JP,A)
【文献】特開2014-088836(JP,A)
【文献】実開昭62-156181(JP,U)
【文献】実開昭52-060912(JP,U)
【文献】中国実用新案第207033735(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入孔及びベーン溝が設けられた環状のシリンダと、
前記シリンダの端部を閉塞する端板と、
前記端板に設けられ、一部が前記シリンダのシリンダ内壁の外側に位置する吐出孔と、
モータにより回転駆動される回転軸の偏芯部に嵌合され前記シリンダ内壁に沿って該シリンダ内を公転し前記シリンダ内壁との間に作動室を形成する環状ピストンと、
前記シリンダに設けられた前記ベーン溝から前記作動室内に突出して前記環状ピストンに当接し、該作動室を前記吸入孔が連通している吸入室と前記吐出孔が連通している圧縮室とに区画するベーンと、
前記圧縮室側の前記シリンダ内壁に形成されて、前記圧縮室と前記吐出孔とに連通する吐出溝と、を備え、
前記圧縮室が前記環状ピストンの公転に伴って縮小して冷媒を圧縮するロータリ圧縮機において、
前記吐出孔は、前記ベーン溝の内壁と前記圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される角部を臨み、
前記吐出溝の内周壁と前記シリンダ内壁とで形成される前記吐出溝の両側縁部は、前記ベーン溝の内壁と前記圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される前記角部と離間して、前記吐出溝の一部が、前記吐出孔よりも前記シリンダの周方向であって前記環状ピストンの公転方向とは反対側の方向にはみ出ていることを特徴とするロータリ圧縮機。
【請求項2】
前記ベーンの端面の幅における、前記吐出孔と重ならない部分の幅Bが、下記関係式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のロータリ圧縮機。
2.2(mm)≦B。
【請求項3】
前記吐出孔の入口面積Cと、前記シリンダの排除容積Vと、が下記関係式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のロータリ圧縮機。
C=D+E
D=吐出孔が端板に露出する部分の面積
E=吐出孔と吐出溝が重なる部分の面積
3.0(mm
-1)≦C/V≦4.5(mm
-1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機装置の冷凍サイクルに使用されるロータリ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は、従来のロータリ圧縮機の第1、第2の圧縮部を示す拡大断面図である。
図7に示すように、従来のロータリ圧縮機は、側部に放射状に吸入孔(図示せず)及びベーン溝128S、128Tが設けられた環状のシリンダ121S、121Tと、このシリンダ121S、121Tの端部を閉塞する端板(図示せず)と、モータにより回転駆動される回転軸の偏芯部152S、152T(図示せず)に嵌合されシリンダ121S、121Tのシリンダ内壁123S、123Tに沿ってシリンダ121S、121T内を公転しシリンダ内壁123S、123Tとの間に作動室130S、130Tを形成する環状ピストン125S、125Tと、シリンダ121S、121Tに設けられたベーン溝128S、128T内から作動室130S、130T内に突出して環状ピストン125S、125Tに当接し作動室130S、130Tを吸入室131S、131Tと圧縮室133S、133Tとに区画するベーン127S、127Tと、を備える圧縮部12を有し、端板(図示せず)のベーン溝128S、128T近傍に、圧縮室133S、133T内の圧縮冷媒を圧縮室133S、133T外に吐出する吐出孔190S、190Tが設けられ、シリンダ121S、121Tのベーン溝128S、128T近傍には、圧縮室133S、133T内の圧縮冷媒を吐出孔190S、190Tに導く切欠き部(吐出溝)137S、137Tが設けられている。
【0003】
切欠き部137S、137Tの内周面と圧縮室側のシリンダ内壁面とで形成される切欠き部の縁部の一方は、ベーン溝128S、128Tの内周面と圧縮室側のシリンダ内壁面とで形成される角部に位置するように配置されている。すなわち、切欠き部137S、137Tの内周面とシリンダ内壁123S、123Tの面とで形成される切欠き部縁部の一方と、ベーン溝128S、128Tの内周面とシリンダ内壁123S、123Tの面とで形成される角部とが、重なるように配置されている。そのため、第1、第2環状ピストン125S、125Tが反時計回りに公転し、第1、第2環状ピストン125S、125Tと第1、第2シリンダ内壁123S、123Tとの接点が第1、第2ベーン溝128S、128Tに近づき、第1、第2環状ピストン125S、125Tが第1、第2吐出孔190S、190Tを完全に塞いだ後も、切欠き部137S、137Tが、第1、第2圧縮室133S、133Tの第1、第2小空間138S、138Tと、第1、第2吐出孔190S、190Tとを連通させ、第1、第2小空間138S、138T内の圧縮冷媒ガスを第1、第2吐出孔190S、190Tに逃がして、冷媒の過圧縮を防ぎ、過圧縮損失を低減させて、圧縮効率を向上せることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示された従来技術では、切欠き部137S、137Tの内周面とシリンダ内壁123S、123Tの面とで形成される切欠き部の縁部の一方と、ベーン溝128S、128Tの内周面とシリンダ内壁123S、123Tの面とで形成される角部とは、設計上は重なるように配置されているが、製作する上において、切欠き部縁部の一方と同角部がずれてしまう場合は、第1、第2環状ピストン125S、125Tの上死点の直前において、第1、第2小空間138S、138Tが残ってしまい、その結果、冷媒の過圧縮を防ぎきれないという問題があった。
また、切欠き部137S、137Tの切欠き部の縁部の一方が、ベーン溝128S、128Tの内周面と圧縮室側のシリンダ内壁面とで形成される角部の位置と重なると、ベーン溝128S、128Tの内周面と切欠き部137S、137Tの内周面とで形成される壁部が鋭角状に形成されるので、同鋭角状に形成される壁部が欠けやすくなるという信頼性面での問題もあった。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の第1の目的は、冷媒の過圧縮を防ぎ過圧縮損失を低減させて、圧縮効率を向上させることであり、本発明の第2の目的は、ベーン溝128S、128Tの内壁面と切欠き部137S、137Tの内周壁面とで形成される壁部が鋭角状に形成されないようにし信頼性に優れたロータリ圧縮機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、吸入孔及びベーン溝が設けられた環状のシリンダと、シリンダの端部を閉塞する端板と、端板に設けられ、一部がシリンダのシリンダ内壁の外側に位置する吐出孔と、モータにより回転駆動される回転軸の偏芯部に嵌合されシリンダ内壁に沿って該シリンダ内を公転しシリンダ内壁との間に作動室を形成する環状ピストンと、シリンダに設けられたベーン溝から作動室内に突出して環状ピストンに当接し、作動室を吸入孔が連通している吸入室と吐出孔が連通している圧縮室とに区画するベーンと、圧縮室側のシリンダ内壁に形成されて、圧縮室と吐出孔とに連通する吐出溝と、を備え、圧縮室が環状ピストンの公転に伴って縮小して冷媒を圧縮するロータリ圧縮機において、吐出孔は、ベーン溝の内壁と圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される角部を臨み、吐出溝の内周壁とシリンダ内壁とで形成される吐出溝の両側縁部は、ベーン溝の内壁と圧縮室側のシリンダ内壁とで形成され角部と離間して、吐出溝の一部が、吐出孔よりもシリンダの周方向であって環状ピストンの公転方向とは反対側の方向にはみ出ているロータリ圧縮機である。
【0008】
本発明の他の態様は、一態様のロータリ圧縮機において、前記圧縮室側の前記シリンダ内壁には、前記圧縮室と前記吐出孔とに連通する吐出溝が形成され、前記吐出溝の内周壁と前記シリンダ内壁とで形成される前記吐出溝の両側縁部は、前記ベーン溝の内壁と前記圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される前記角部と離間しているロータリ圧縮機である。
【発明の効果】
【0009】
一態様のロータリ圧縮機によれば、前記吐出孔は、前記ベーン溝の内壁と前記圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される角部を臨むため、シリンダ内壁と環状ピストンとの間で形成される圧縮室は、環状ピストンが上死点に至るまで吐出孔と連通するので、圧縮室で圧縮された圧縮冷媒が残ることがなく、冷媒の過圧縮を抑制することができる。
他の態様のロータリ圧縮機によれば、前記吐出溝の内周壁と前記シリンダ内壁とで形成される前記吐出溝の両側縁部は、前記ベーン溝の内壁と前記圧縮室側のシリンダ内壁とで形成される前記角部と離間しているため、ベーン溝の内壁面と切欠き部の内周壁面とで形成される壁部が欠けやすくなるということを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るロータリ圧縮機の縦断面図である。
【
図2】本発明に係るロータリ圧縮機の圧縮部を示す平面図である。
【
図5】上死点直前の圧縮部を示す拡大平面図である。
【
図7】従来のロータリ圧縮機の圧縮部を示す平面図である。
【
図8】実施例1の吐出孔の入口面積Cの圧縮部のシリンダ室の排除容積Vに対する比C/Vと効率との関係を示す図である。
【
図9】実施例1のベーンのシール幅Bと効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るロータリ圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明に係るロータリ圧縮機の実施例を示す縦断面図であり、
図2は、実施例1の第1、第2の圧縮部を示す平面図である。
図1に示すように、実施例のロータリ圧縮機1は、密閉された縦置き円筒状の圧縮機筐体10の下部に配置された圧縮部12と、圧縮機筐体10の上部に配置され、回転軸15を介して圧縮部12を駆動するモータ11と、を備えている。
モータ11のステータ111は、円筒状に形成され、圧縮機筐体10の内周面に焼きばめされて固定されている。モータ11のロータ112は、円筒状のステータ111の内部に配置され、モータ11と圧縮部12とを機械的に接続する回転軸15に焼きばめされて固定されている。
【0013】
圧縮部12は、第1の圧縮部12Sと、第1の圧縮部12Sと並列に配置され第1の圧縮部12Sの上側に積層された第2の圧縮部12Tと、を備えている。
図2に示すように、第1の圧縮部12S、第2の圧縮部12Tは、第1側方張出し部122S、第2側方張出し部122Tに、放射状に第1吸入孔135S、第2吸入孔135T、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tが設けられた環状の第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tを備えている。
【0014】
図2に示すように、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、モータ11の回転軸15と同心に、円形の第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tが形成されている。第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123T内には、シリンダ内径よりも小さい外径の第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tが夫々配置され、第1シリンダ内壁(内周面)123S、第2シリンダ内壁(内周面)123Tと、第1環状ピストン125Sの外周面125Sa、第2環状ピストン125Tの外周面125Taとの間に、冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する第1作動室130S、第2作動室130Tが形成される。
【0015】
第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tから径方向に、シリンダ高さ全域に亘る第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tが形成され、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128T内に、夫々平板状の第1ベーン127S、第2ベーン127Tが、摺動自在に嵌合されている。尚、回転軸に直角な面で切断した第1ベーン127S、第2ベーン127Tの断面は、すなわち、ベーンの端面は、短辺と長辺で構成された細長状の矩形であり、ベーンの端面の短辺側の幅を、以下において、第1ベーン127Sの端面の幅、第2ベーン127Tの端面の幅と言う。
【0016】
図2に示すように、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tの奥部には、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの外周部から第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tに連通するように第1スプリング穴124S、第2スプリング穴124Tが形成されている。第1スプリング穴124S、第2スプリング穴124Tには、第1ベーン127S、第2ベーン127Tの背面を押圧するベーンスプリング(図示せず)が挿入されている。ロータリ圧縮機1の起動時は、このベーンスプリングの反発力により、第1ベーン127S、第2ベーン127Tが、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128T内から第1作動室130S、第2作動室130T内に突出し、その先端が、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tの外周面に当接し、第1ベーン127S、第2ベーン127Tにより、第1作動室130S、第2作動室130Tが、第1吸入室131S、第2吸入室131Tと、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tとに区画される。
【0017】
また、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tの奥部と圧縮機筐体10内とを、
図1に示す開口部Rで連通して圧縮機筐体10内の圧縮された冷媒ガスを導入し、第1ベーン127S、第2ベーン127Tに、冷媒ガスの圧力により背圧をかける第1圧力導入路129S、第2圧力導入路129Tが形成されている。
第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、第1吸入室131S、第2吸入室131Tに外部から冷媒を吸入するために、第1吸入室131S、第2吸入室131Tと外部とを連通させる第1吸入孔135S、第2吸入孔135Tが設けられている。
【0018】
また、
図1に示すように、第1シリンダ121Sと第2シリンダ121Tの間には、中間仕切板140が配置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130Sと第2シリンダ121Tの第2作動室130Tとを区画、閉塞している。第1シリンダ121Sの下端部には、下端板160Sが配置され、第1シリンダ121Sの第1作動室130Sを閉塞している。また、第2シリンダ121Tの上端部には、上端板160Tが配置され、第2シリンダ121Tの第2作動室130Tを閉塞している。
【0019】
下端板160Sには、副軸受部161Sが形成され、副軸受部161Sに、回転軸15の副軸部151が回転自在に支持されている。上端板160Tには、主軸受部161Tが形成され、主軸受部161Tに、回転軸15の主軸部153が回転自在に支持されている。
回転軸15は、互いに180°位相をずらして偏心させた第1偏心部152Sと第2偏心部152Tとを備え、第1偏心部152Sは、第1の圧縮部12Sの第1環状ピストン125Sに回転自在に嵌合し、第2偏心部152Tは、第2の圧縮部12Tの第2環状ピ
ストン125Tに回転自在に嵌合している。
【0020】
回転軸15が回転すると、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tが、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tに沿って第1シリンダ121S、第2シリンダ121T内を
図2の反時計回りに公転し、これに追随して第1ベーン127S、第2ベーン127Tが往復運動する。この第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125T及び第1ベーン127S、第2ベーン127Tの運動により、第1吸入室131S、第2吸入室131T及び第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tの容積が連続的に変化し、圧縮部12は、連続的に冷媒ガスを吸入し圧縮して吐出する。圧縮部12の特徴的な構成については後述する。
【0021】
図1に示すように、下端板160Sの下側には、下マフラーカバー170Sが配置され、下端板160Sとの間に下マフラー室180Sを形成している。そして、第1の圧縮部12Sは、下マフラー室180Sに開口している。すなわち、下端板160Sの第1ベーン127S近傍には、第1シリンダ121Sの第1圧縮室133Sと下マフラー室180Sとを連通する第1吐出孔190S(
図2参照)が設けられ、第1吐出孔190Sには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止するリード弁型の第1吐出弁200Sが配置されている。
【0022】
下マフラー室180Sは、環状に形成された1つの室であり、第1の圧縮部12Sの吐出側を、下端板160S、第1シリンダ121S、中間仕切板140、第2シリンダ121T及び上端板160Tを貫通する冷媒通路136(
図2参照)を通して上マフラー室180T内に連通させる連通路の一部である。下マフラー室180Sは、吐出冷媒ガスの圧力脈動を低減させる。また、第1吐出弁200Sに重ねて、第1吐出弁200Sの撓み開弁量を制限するための第1吐出弁押さえ201Sが、第1吐出弁200Sとともにリベットにより固定されている。第1吐出孔190S、第1吐出弁200S及び第1吐出弁押さえ201Sは、下端板160Sの第1吐出弁部を構成している。
【0023】
図1に示すように、上端板160Tの上側には、上マフラーカバー170Tが配置され、上端板160Tとの間に上マフラー室180Tを形成している。上端板160Tの第2ベーン127T近傍には、第2シリンダ121Tの第2圧縮室133Tと上マフラー室180Tとを連通する第2吐出孔190T(
図2参照)が設けられ、第2吐出孔190Tには、圧縮された冷媒ガスの逆流を防止するリード弁型の第2吐出弁200Tが配置されている。また、第2吐出弁200Tに重ねて、第2吐出弁200Tの撓み開弁量を制限するための第2吐出弁押さえ201Tが、第2吐出弁200Tとともにリベットにより固定されている。上マフラー室180Tは、吐出冷媒の圧力脈動を低減させる。第2吐出孔190T、第2吐出弁200T及び第2吐出弁押さえ201Tは、上端板160Tの第2吐出弁部を構成している。
【0024】
第1シリンダ121S、下端板160S、下マフラーカバー170S、第2シリンダ121T、上端板160T、上マフラーカバー170T及び中間仕切板140は、複数の通しボルト175等により一体に締結されている。通しボルト175等により一体に締結された圧縮部12のうち、上端板160Tの外周部が、圧縮機筐体10にスポット溶接により固着され、圧縮部12を圧縮機筐体10に固定している。
円筒状の圧縮機筐体10の外周壁には、軸方向に離間して下部から順に、第1貫通孔101、第2貫通孔102が、第1吸入管104、第2吸入管105を通すために設けられている。また、圧縮機筐体10の外側部には、独立した円筒状の密閉容器からなるアキュムレータ25が、アキュムホルダー252及びアキュムバンド253により保持されている。
【0025】
アキュムレータ25の天部中心には、冷凍サイクルの蒸発器に接続するシステム接続管
255が接続され、アキュムレータ25の底部に設けられた底部貫通孔257には、一端がアキュムレータ25の内部上方まで延設され、他端が、第1吸入管104、第2吸入管105の他端に接続される第1低圧連絡管31S、第2低圧連絡管31Tが接続されている。
冷凍サイクルの低圧冷媒をアキュムレータ25を介して第1の圧縮部12S、第2の圧縮部12Tに導く第1低圧連絡管31S、第2低圧連絡管31Tは、吸入部としての第1吸入管104、第2吸入管105を介して第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの第1吸入孔135S、第2吸入孔135T(
図2参照)に接続されている。すなわち、第1吸入孔135S、第2吸入孔135Tは、冷凍サイクルの蒸発器に並列に接続されている。
【0026】
圧縮機筐体10の天部には、冷凍サイクルと接続し高圧冷媒ガスを冷凍サイクルの凝縮器側に吐出する吐出部としての吐出管107が接続されている。すなわち、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tは、冷凍サイクルの凝縮器に接続されている。
圧縮機筐体10内には、およそ第2シリンダ121Tの高さまで潤滑油が封入されている。また、潤滑油は、回転軸15の下部に挿入された羽根ポンプ(図示せず)により、回転軸15の下端部に取付けられた給油パイプ16から吸上げられ、圧縮部12を循環し、摺動部品の潤滑を行なうと共に、圧縮部12の微小隙間のシールをしている。
【0027】
次に、
図3~
図5を参照して、実施例1のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。
図3は、
図2で示した圧縮部の拡大平面図であり、
図4は、
図3のA-A線に沿う断面図であり、
図5は、環状ピストンが上死点の直前に位置する場合の圧縮部の拡大平面図である。尚、今後の説明おいて、第1環状ピストン125Sと第2環状ピストン125Tのように共通する構成の内容については、名称の「第1」、「第2」や符号の添え字「S」、「T」の記載を省略し、重複する説明を省略する場合がある。
【0028】
下端板160S及び上端板160Tの、第1圧縮室133S、第2圧縮室133T側には、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tに連通する第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tが設けられている。第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tは、一部が第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tの外側に位置すると共に、第1ベーン溝128Sの第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝128Tの第2ベーン溝内壁128Tbと圧縮室側の第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tとで形成される第1角部128Sa、第2角部128Ta(以下、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第1角部128Sa、第2角部128Taという。)を臨む位置に配置されている。つまり、回転軸15の軸方向から見て、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tは、その内側に、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第1角部128Sa、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第2角128Taが入るように配置されている。
【0029】
第1圧縮室133S側、第2圧縮室133T側の第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123T、及び、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に開口する第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tが形成されており、第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tは、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tと第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tとを連通させる。第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの内周壁と第1圧縮室側のシリンダ内壁123S、第2圧縮室側のシリンダ内壁123Tとで形成される第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの両側の第1縁部128Sc、第2縁部128Tcは、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第1角部128Sa、第2角部128Taと離間する位置に配置されている。
【0030】
第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に形成された開口は円弧状であって、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tの半径R1と等しいか近似する曲率半径R2(例えば、0.9R1≦R2≦1.1R1)であり、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に形成された開口から内部側に向かうにしたがって、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tからの深さが浅くなるように、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面から第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tに向かって傾斜した半円状(又は、半円錐状)に形成されている。
図4に示すように、第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tは、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tの下端板160S、上端板160Tに近い部分にのみ形成されている。第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tを、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tの上下方向全域に亘って形成すると、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの機械的強度が低下すると共に、第1吐出溝137S、第2吐出溝137T内に留まった圧縮冷媒ガスが、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tに逆流して冷媒圧縮の体積効率が低下するからである。
【0031】
図5に示すように、実施例1のロータリ圧縮機1は、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tは、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第1角部128Sa、第2角部128Taを臨む位置に配置されているため、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tが反時計回りに公転して上死点に至るまでに、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tと第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tの第1外周面125Sa、第2外周面125Taと第1ベーン127S、第2ベーン127Tにより囲まれて形成される第1小空間138S、第2小空間138T(
図5におけるハッチング部)が、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tに連通する。そのため、第1小空間138S、第2小空間138T内の圧縮冷媒ガスを第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tに逃がし、冷媒の過圧縮を防ぎ、過圧縮損失を低減させて、圧縮効率を向上させる。
【0032】
また、実施例1のロータリ圧縮機1は、第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの内周壁と圧縮室側のシリンダ内壁123S、123Tとで形成される第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの両側の第1縁部128Sc、第2縁部128Tcは、ベーン溝の圧縮室側シリンダ内壁の第1角部128Sa、第2角部128Taと離間する位置に配置されているので、第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝内壁128Tbと第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tの内周面とで形成される壁部が鋭角状に形成されなくなるため、その端部が欠けやすくなるということを抑制することができる。
【0033】
次に、第1、第2吐出孔190の入口面積C(mm
2)の、121の排除容積V(mm
3)に対する比C/Vとロータリ圧縮機1の効率Eとの関係を
図3と
図8に基づいて説明する。
吐出孔190の入口面積Cは、
図3のハッチングで示した範囲であり、入口面積Cは、吐出孔190がベーン127とシリンダ121の端面とに重ならずに端板160に露出する部分の面積Dと、吐出孔190と吐出溝137が重なる部分の面積Eの和である。入口面積Cは、圧縮された冷媒が流れる吐出孔190の実質的な面積である。
図8から明らかなように、実験によって、3.0≦C/Vは≦4.5とすることにより、効率Eが向上する結果が得られた。
【0034】
次に、吐出孔190とベーン127のシール幅B(ベーン127の端面の幅)とロータリ圧縮機1の効率Eとの関係を
図3と
図9に基づいて説明する。
吐出孔190とベーン127のシール幅Bは、
図3に示された、ベーン127の幅方向において、ベーン127の幅から吐出孔190とベーン127とが重なった部分を除いた部分の幅である。
図9から明らかなように、2.2(mm)≦Bとすることにより、効率Eが向上する結果が、実験によって得られた。
【0035】
尚、実施例1では、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tに、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tと第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tとを連通させる第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tを設けているが、必ずしも設ける必要はない。しかし、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tの入口面積を十分に確保するためには有効であるので、第1吐出溝137S、第2吐出溝137Tを設けることが望ましい。
【実施例2】
【0036】
次に、
図6を参照して、実施例2のロータリ圧縮機1の特徴的な構成について説明する。尚、実施例に1と共通する構成は同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
図6は、実施例2の第1、第2の圧縮部を示す拡大断面図である。
図6に示すように、下端板160S及び上端板160Tの、第1圧縮室133S、第2圧縮室133T側の、第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128T近傍には、一部は、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tの外側に位置すると共に、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tに連通する第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tが、第1ベーン127S、第2ベーン127Tとは重ならないように設けられている。
【0037】
また、第1圧縮室133S側、第2圧縮室133T側の第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tには、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123T及び第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に開口する第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tが形成されており、第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tは、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tと第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tとを連通させる。また、第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tは、第1圧縮室133S側、第2圧縮室133T側の第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝内壁128Tbにも開口している。
【0038】
第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tの第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に形成された開口は円弧状であって、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tの半径R1より大きい曲率半径であり、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面に形成された開口から内部側に向かうにしたがって、第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tからの深さが浅くなるように、第1シリンダ121S、第2シリンダ121Tの端面から第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tに向かって傾斜した半円状(又は、半円錐状)に形成されている。また、第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tの内周壁と第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tの第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝内壁128Tbとが交わって形成される縁部の角度は略直角か直角よりも大きい角度となっている。
【0039】
実施例2のロータリ圧縮機1は、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tが反時計回りに公転し、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tと第1シリンダ内壁123S、第2シリンダ内壁123Tの接点が第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tに近づき、第1環状ピストン125S、第2環状ピストン125Tが第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tを完全に塞いだ後も、第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tが、第1圧縮室133S、第2圧縮室133Tの第1小空間138S、第2小空間138T(
図7参照)を、第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tに連通させ、第1小空間138S、第2小空間138T内の圧縮冷媒ガスを第1吐出孔190S、第2吐出孔190Tに逃がし、冷媒の過圧縮を防ぎ、過圧縮損失を低減させて、圧縮効率を向上させる。
【0040】
また、実施例2のロータリ圧縮機1は、第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tの内周壁と第1ベーン溝128S、第2ベーン溝128Tの第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝内壁128Tbとが交わって形成される縁部の角度は略直角か直角よりも大きい角度となっているので、第1ベーン溝内壁128Sb、第2ベーン溝内壁128Tbと第1吐出溝237S、第2吐出溝237Tの内周面とで形成される壁部が鋭角状に形成されなくなるため、その端部が欠けやすくなるということを抑制することができる。
なお、実施例1及び2では、2シリンダ型ロータリ圧縮機の実施例を説明したが、本発明のロータリ圧縮機は、単シリンダ型ロータリ圧縮機及び2段圧縮型ロータリ圧縮機にも適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…ロータリ圧縮機、10…圧縮機筐体(密閉容器)、11…モータ、12S、T…圧縮部、15…回転軸、121S、T…シリンダ、123S、T…シリンダ内壁、125S、T…環状ピストン、125Sa、Ta…環状ピストンの外周面、127S、T…ベーン、127Sw、Tw…ベーン端面、128S、T…ベーン溝、128Sa、Ta…ベーン溝の圧縮室側壁部の端部、128Sb、Tb…ベーン溝内壁、128Sc、Tc…ベーン溝縁部、130S、T…作動室、131S、T…吸入室、133S、T…圧縮室、135S、T…吸入孔、137S、T…吐出溝、138S、T…小空間、152S、T…偏心部、160S、T…端板、167S、T…隙間、190S、T…吐出孔、237S、T…吐出溝